図3(a)及び図3(b)は、従来、振動素子11として用いられているd33(圧電縦効果)駆動の積層型圧電素子を例示する断面図である。図3(a)に示される積層型圧電素子30、及び、図3(b)に示される積層型圧電素子31は、ともに、電極層18,19で挟んで積層した圧電層14を、その積層方向に分極してなるものである。分極方向と同じ方向に電圧を印加すると、圧電縦効果に基づいて、積層方向と同じ方向、即ち、積層型圧電素子が伸びる方向へ変位する。より大きな伸縮変位を得るためには、圧電層14の積層数を多くすることが必要となる。
積層型圧電素子30,31は、電極層18,19を1層おきに極性を変えて配線する必要があるため、非変位部分あるいは変位を拘束する部分が生じ易く、それによって本来得られるべき変位量が減殺されるという改善すべき問題を抱えている。
積層型圧電素子31では、電極層18,19の一端を、互い違いに圧電層14内に埋設することにより、電極層18,19の極性を1層おきに変え得るようにしている。こうすると、外部電極28,29を外周に直付け可能となり、製造し易くなるが、電極層18,19が対向しない圧電層14の端部は非変位部分になる。又、外周に直付けされた外部電極28,29が、伸縮変位を拘束する。
積層型圧電素子30では、電極層18,19を圧電層14の全面に設け、外周に露出した部分を互い違いに絶縁部15で覆うことにより、電極層18,19の極性を1層おきに変え得るようにしている。こうすると、非変位部分はなくなり、応力集中も軽減されるが、絶縁信頼性を高めるためには絶縁部15を一定以上大きくせざるを得ず、この絶縁部15が、外周に直付けされた外部電極28,29とともに、伸縮変位を拘束する。又、製造工程が煩雑になり、低コスト化を図るには限界がある(積層型圧電素子30と同種のものについて非特許文献2を参照)。
又、積層型圧電素子30,31において、変位量は圧電層14の積層数で決まるため、大きな変位量を得るためには積層数を多くせざるを得ず、コストの上昇を招来する。更に、圧電層14及び電極層18,19の積層方向と伸縮変位方向とが一致している構造上、共振周波数近傍での大振幅の駆動時には、特に積層面から破壊し易いという問題を抱えている。
加えて、積層型圧電素子30,31の如く圧電縦効果を利用した積層型圧電素子は、本来、精密位置決め用途に開発されたものであり、通常は圧縮荷重(プリロード)をかけた状態で使用することが望ましい。従って、その構造及び特性に起因して、超音波モータ用の振動素子として好ましい態様で利用するには、次のような問題がある。
先ず、上記したように伸縮方向に圧電層と電極層が交互に積層されているため、引っ張り力に弱いが、特に、片端をフリーにして振動させるような使用形態において、破壊され易い。そして、特に、共振周波数近傍で使用する振動素子として適用し、高い駆動電圧をかけて大振幅の振動で駆動しようとしても、素子が破壊してしまうおそれがあるため、駆動電圧を上げられない。又、高い駆動電圧をかけないまでも、超音波領域の周波数で長時間振動させて使用するような場合の耐久性に問題がある。
次いで、振動素子への振動エネルギーの伝達方向(伸縮方向)に対して垂直に、多くの電極層が存在するとともに、外部電極が伸縮変位を拘束するため、振動にかかるエネルギー損失が大きい。特に、共振周波数近傍で使用する振動素子の性能を示す機械的品質係数が、駆動電圧を上げると急激に低下し、駆動電圧を大きくしても振動エネルギーが増加しない。
圧電縦効果を利用した積層型圧電素子は、このような問題を抱えているので、他のタイプの圧電素子を検討することが必要になる。例えば、非特許文献3の記載によれば、圧電横効果(d31)に基づく変位を発現する積層型圧電アクチュエータ(素子)が示されている。しかしながら、開示された積層型圧電アクチュエータは、外部電極が、アクチュエータ側面の変位を拘束する位置(変位方向の両端面)に設けられており、圧電横効果を利用するものであっても、上記した圧電縦効果に基づく変位を発現する積層型圧電素子と同様に、振動にかかるエネルギー損失が大きい。又、超音波領域の周波数で長時間駆動するような場合には、外部電極が部分的に疲労破壊して断線等が起こり易い。更には、記載されたアクチュエータは、静的な位置決め機構に用いられるものであり、超音波用の振動素子とは異なる。
以下、先行特許文献について説明する。例えば、特許文献1の記載によれば、積層型圧電素子からなる振動素子に、振動検出用の圧電素子が、接着あるいは一体形成した構造が記載されている。しかしながら、振動素子の両端が保持されており片端がフリーではなく、超音波を発生させる振動素子として振動の発生にかかる効率を向上させるには限界がある。又、圧電縦効果に基づく変位を発現する積層型圧電素子であるため、積層型圧電素子30,31と同様の問題を抱えている。
又、特許文献2の記載によれば、駆動源の振動素子(圧電素子)として積層型圧電素子を使用し、片端がフリーで振動する形態の超音波リニアモータが記載されている。しかしながら、圧電素子の詳細な構造や駆動原理に関し、記載がされていない。
更に、特許文献3の記載によれば、圧電横効果(d31)に基づく変位を発現する積層型圧電アクチュエータ(素子)が記載されている。しかしながら、記載されたアクチュエータは、超音波用の振動素子としては、重大な問題を抱えている。即ち、開示されているアクチュエータは、絶縁処理を簡素化するために、積層する前の圧電セラミック層(圧電体)の全面に電極が形成されておらず、外周部分に電極未形成部分が残り(特許文献3の図2参照)、そのように電極を形成した圧電セラミック層を積層してなる積層体の外周面部分が変位しない構造となっているのである。このような構造の積層型圧電アクチュエータに対し、共振周波数近傍で大きな振幅の振動を発生させると、変位しない圧電セラミック層が振動を拘束するため、大きなエネルギー損失が生じるか、あるいは、アクチュエータ自体が破損する可能性が高いと考えられる。
次に、本出願人の研究の過程において得られた、超音波振動素子として適さない積層型圧電素子を、図8(a)、図8(b)、図8(c)に例示して説明する。図8(a)に示される積層型圧電素子81は、構造上は図3に示す積層型圧電素子31と概ね同じであるが、電極層を最上面及び最下面に形成するとともに、圧電横効果に基づく変位によって振動を励振する圧電素子である。積層型圧電素子81は、側面(図8(a)中において電極層48,49が露出している面)において拘束されず、且つ、振動発生部76において全面に電極層48,49が存在する点において優れている。しかしながら、外部電極78,79が変位(振動)にかかるS方向の両端面に設けられているため、実用上は、変位(振動)が妨げられるおそれがある。外部電極78,79は何れかに固定されて使用されることが多いからである。
又、図8(b)に示される積層型圧電素子82は、変位(振動)にかかるS方向に平行な面に無動作部85が設けられ、振動発生部76において、電極層48,49が圧電層44の全面に積層をされていないので、振動が妨げられる。
更に、図8(c)に示される積層型圧電素子83は、上記積層型圧電素子81と概ね同様の構造を有するが、外部電極78,79が変位(振動)にかかるS方向に平行な面に設けられているので、これにより振動が妨げられる。
本発明は、上記した事情乃至従来技術の抱える問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、片端をフリーにして、共振周波数近傍で大振幅で駆動させた場合であっても、破壊され難く耐久性があり、エネルギー損失が小さく高効率であり、より低廉に作製することが出来る超音波振動素子と、それを用いた超音波アクチュエータを提供することにある。圧電横効果に基づく変位を発現する積層型圧電素子について研究が重ねられた結果、以下に示す手段により、上記目的を達成出来ることが見出された。
[1]交互に積層をされた、圧電材料からなる複数の圧電層と、導電材料からなる複数の電極層と、を有するとともに、直方体状を呈する駆動体で構成され、その直方体状を呈する駆動体の長手方向の圧電横効果に基づく変位によって共振周波数近傍の振動を励振する圧電素子であって、上記駆動体は、振動発生部と端子電極部とを有し、端子電極部は、直方体状を呈する駆動体の一の端面の側に設けられ、振動発生部において、電極層が圧電層の全面に積層をされ、端子電極部において、一対の外部電極が一の端面に備わり、複数の電極層が、概ね1層おきに、一対の外部電極の何れかと導通をしている超音波振動素子。
[1]に記載の超音波振動素子における、振動発生部において電極層が圧電層の全面に積層をされ、とは、振動発生部は全面電極型の圧電素子になっていることを示す。端子電極部は直方体状を呈する駆動体の一の端面の側に設けられ、とは、端子電極部が駆動体の一の端面の側のみに設けられていることを示し、端子電極部は通常は平面で構成されないので一の端面を含んで設けられることを表している。
即ち、[1]に記載の超音波振動素子は、端子電極部が設けられる一の端面及びその近傍を除けば、全面に電極が積層された圧電層が連続して形成されている圧電素子になっている。従って、端子電極部以外の部分、即ち振動発生部では、圧電横効果に基づく変位が妨げられることがない。換言すれば、振動発生部の振動を妨げない位置である直方体状の駆動体の一の端面の側のみにおいて、端子電極部が設けられ、そこにおいて、一対の外部電極のそれぞれが、短絡しないように、1層おきの電極層と導通をしている態様をなしている。
[1]に記載の超音波振動素子は、複数の電極層と一対の外部電極との導通にかかり、概ね1層おきに(交互に)、と表現されているが、これは、厳密に1層おきではない場合でも振動発生部は駆動し得るからである。好ましい態様は、電極層が全て1層おきに(交互に)極性が変わって積層されるものである。
[1]に記載の超音波振動素子は、その直方体状を呈する駆動体の長手方向の圧電横効果に基づく変位によって共振周波数近傍の振動を励振する圧電素子であり、共振は、圧電素子単独の共振である場合の他に、超音波振動素子が、後述する超音波アクチュエータの振動源として用いられ、超音波振動素子に接続された弾性体が超音波振動素子の振動によって励振されることによる弾性体の共振の場合や、あるいは超音波振動素子と弾性体とが一体となって振動する共振等の場合があり、共振の態様は1つに限定されない。
[2]端子電極部において、電極層が圧電層の片面に積層をされている[1]に記載の超音波振動素子。
[2]に記載の超音波振動素子は、端子電極部において電極層が圧電層の片面のみに積層をされている態様をなすものであり、換言すれば、外部電極が備えられる一の端面及びその近傍では、積層される電極層の極性が、一対の外部電極の極性の何れか一方の極性のみであり、一対の電極層が、圧電層を挟んでいない、即ちオーバーラップしていないものである。
[3]複数の電極層のうち一の電極層が、一の端面の一の部分において、端部を圧電層から露出させ一対の外部電極の一方と導通するとともに、一の端面の一の部分以外において、端部を圧電層に埋設させ一対の外部電極の他方と絶縁し、複数の電極層のうち一の電極層から概ね1層おいた他の電極層が、一の端面の一の部分と離れた他の部分において、端部を圧電層から露出させ一対の外部電極の他方と導通するとともに、一の端面の他の部分以外において、端部を圧電層に埋設させ一対の外部電極の一方と絶縁している[1]又は[2]に記載の超音波振動素子。
[3]に記載の超音波振動素子は、複数の電極層のうち、隣接して積層される不特定の二の電極層の関係を示したものであり、端子電極部において複数の電極層が概ね1層おきに一対の外部電極の何れかと導通をしていることを具体的に表したものである。
[4]直方体状を呈する駆動体の長手方向に直交する2つの短手方向のうち、その一の短手方向にあたる圧電層の積層方向にかかる圧電縦効果に基づく共振周波数と、他の短手方向にあたる圧電層の幅方向にかかる圧電横効果に基づく共振周波数とが、等しくなるように調整されている[1]〜[3]の何れかに記載の超音波振動素子。
[4]に記載の超音波振動素子において、圧電層の幅方向とは、圧電層における変位にかかる方向(長さ方向)とは垂直な方向を指す。
[5]端子電極部が設けられる側にある駆動体の一の端面が、駆動体の変位の方向にかかる両端面のうち何れか一方の端面である[1]〜[4]の何れかに記載の超音波振動素子。
[5]に記載の超音波振動素子を含み、本明細書において、駆動体の変位(振動)の方向にかかる両端面とは、駆動体の変位(振動)の方向に概ね垂直な両端面を指す。
[6]直方体状を呈する駆動体が2つ備わり、当該2つの駆動体が、一の端面を接合させ、端子電極部を共有し、焼成一体化されている[1]〜[5]の何れかに記載の超音波振動素子。
[6]に記載の超音波振動素子は、その一の端面を対称面として、2つの駆動体(振動発生部)に分かれて振動をする超音波振動素子である。
[7]圧電層とその圧電層を挟んで設けられる少なくとも一対の電極層とを有し機械的振動に起因して圧電層に発生する電気信号を一対の電極層で検出する振動検出部を備える[1]〜[6]の何れかに記載の超音波振動素子。
[7]に記載の超音波振動素子は、使用環境や使用条件が変化する場合に好適な手段となる。一般に、超音波振動素子を用いる超音波アクチュエータは、温度変動や負荷変動によって共振周波数が変化するため、最適な駆動条件を維持するためには、振動状態を監視しながら、超音波振動素子にかかる駆動周波数を制御する必要がある。それを実現する手段として、駆動電流の変化をモニターして間接的に振動状態を検出し制御回路にフィードバックする方法等も考えられるが、[7]に記載の超音波振動素子は、直接、振動周波数を監視し得る手段である。
[7]に記載の超音波振動素子において、振動検出部の具体的態様は限定されない。作製し易いため駆動体の振動発生部と同じ構成要素で形成してもよく、異なった構成であってもよい。但し、センサの役割をなすものであって、端子電極部を共有することは出来ず、外部電極を設けて電極層と導通するための端子電極部を専用に設ける必要がある。[7]に記載の超音波振動素子においては、振動検出部を含めて、全体が焼成一体化されていることが好ましい。振動発生にかかる効率が高まるからである。
[8]交互に積層をされた、圧電材料からなる複数の圧電層と、導電材料からなる複数の電極層と、を有するとともに、直方体状を呈する駆動体で構成され、その直方体状を呈する駆動体の長手方向の圧電横効果に基づく変位によって共振周波数近傍の振動を励振する圧電素子であって、上記駆動体は、一の端子電極部と二の振動発生部とを有し、一の端子電極部は、直方体状を呈する駆動体の概ね中央に設けられ、二の振動発生部は、変位の方向にかかる端子電極部の両側に設けられ、振動発生部において、電極層が圧電層の全面に積層をされ、端子電極部において、電極層が圧電層の片面に積層をされるとともに、変位の方向に平行な端面に一対の外部電極が備わり、複数の電極層が、概ね1層おきに、一対の外部電極の何れかと導通をしている超音波振動素子。
[8]に記載の超音波振動素子は、2つの[1]に記載の超音波振動素子が端子電極部を共有して一体化されたものと概ね同等な態様のものであり、[6]に記載の超音波振動素子に概ね等しいものを、最初から一体的に作製したものである。
[1]〜[7]の何れかに記載の超音波振動素子について、以下に好ましい態様を説明する。全ての圧電層を圧電横効果に基づく変位によって振動をさせるには、駆動体の最外層はともに電極層になる。このとき、電極層と外界あるいは電極層間の絶縁を高めるために、必要に応じて、変位(振動)に影響を及ぼさない程度に、伸縮性に優れた絶縁物を最外層の電極層にコーティングすることも好ましい。絶縁物としてゴム、樹脂等が例示される。
[1]〜[7]の何れかに記載の超音波振動素子は、圧電層の積層数が、10以上1000以下である多層構造を有することが望ましい。更に望ましくは積層数は30以上300以下である。10層未満では発生力が充分得られないおそれがあり、1000層を越えると、徐々に作製が困難になってくる。又、電極層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であることが望ましい。0.1μmよりも薄くなると、圧電体の表面に均一な電極層を形成することが困難になるおそれがあり、10μmよりも厚くなると、電極の変形が困難となって、変位(振動)が妨げられエネルギー損失が増大するおそれがある。更に、直方体状を呈する駆動体の断面は略正方形であることが望ましい。振動による発生力の伝達面積を最小にするともに、変形による応力が均一に分散されて耐久性が高められるからである。
[1]〜[7]の何れかに記載の超音波振動素子は、圧電層の長さと厚さの比が10:1〜1000:1であることが望ましい。長さとは変位(振動)にかかる方向の圧電層の寸法を示し、厚さとは積層にかかる方向の圧電層の寸法を示す(変位(振動)にかかる方向と垂直な方向の寸法を幅という)。圧電層(駆動体)の長さは1mm以上50mm以下が望ましく、3mm以上20mm以下が、更に望ましい。長さが1mm未満であると、発生出来る変位量及び発生力が小さくなりすぎるおそれがある。長さが50mmより長くなると、強度が低下するため、超音波アクチュエータの駆動源として適用することが、実質的に困難になるおそれがあり、又、超音波アクチュエータに組み込むことが困難となるおそれがある。
[9]弾性体と、上記[1]〜[7]の何れかに記載の超音波振動素子と、を有し、超音波振動素子が、駆動体の変位の方向にかかる両端面のうち何れか一方の端面の側において弾性体に接合されるとともに、残面がフリーである超音波アクチュエータ。
[10]超音波振動素子の端子電極部に備わる一対の外部電極とその一対の外部電極に駆動電圧を印加するための外部電源との導通をするための接続手段が、弾性体に一体的に形成されている[9]に記載の超音波アクチュエータ。
[11]弾性体と、上記[7]に記載の超音波振動素子と、を有し、超音波振動素子が、駆動体の変位の方向にかかる両端面のうち何れか一方の端面の側において弾性体に接合されるとともに、残面がフリーであり、超音波振動素子の端子電極部に備わる一対の外部電極とその一対の外部電極に駆動電圧を印加するための外部電源との導通をするための接続手段と、超音波振動素子の振動検出部に備わる電極層とその電極層に駆動電圧を印加するための外部電源との導通をするための接続手段とが、弾性体に一体的に形成されている超音波アクチュエータ。
[9]〜[11]の何れかに記載の超音波アクチュエータにおいて、フリーである残面とは、駆動体の変位(振動)の方向にかかる両端面のうち弾性体が接合されない端面のみならず、駆動体の変位(振動)の方向にかかる両端面のうちの弾性体が接合される端面を除く全ての端面を指す。即ち、残面がフリーであり、とは、弾性体が接合される面だけが拘束されていて、その残りの面は全て拘束されていない態様を示している。
[10]又は[11]に記載の超音波アクチュエータにおいて、接続手段が弾性体に一体的に形成され、とは、接続手段が、リード線等の弾性体と分かれた手段ではなく、例えば、弾性体自体に設けられた配線パターン等であって、弾性体と不可分な手段であることを指す。
上記[1]に記載の超音波振動素子は、端子電極部を除く振動発生部全体が、拘束を受けずに振動し得るので、振動のエネルギー損失が極めて小さい。又、電極層と概ね1層おきに接続される一対の外部電極が圧電層(振動発生部)の圧電横効果に基づく変位による振動を妨げない位置である端子電極部(駆動体の一の端面)に設けられ、一方、振動発生部において、振動に対する耐久性に優れた導電材料からなる電極層によって圧電層が挟まれた構造を有する。従って、共振周波数近傍で大振幅の振動を駆動しても、自らの機械強度の劣化が極めて小さく、且つ、特性劣化も生じ難い。更に、振動エネルギーを発生し伝達する圧電層が変位(振動)方向に連続して形成されているため、エネルギー変換効率に優れ、高出力化が容易に図れる。
上記[1]に記載の超音波振動素子は、圧電横効果に基づく変位によって振動を励振する超音波振動素子であり、振動発生部では圧電層を電極層で挟んで積層をされ圧電層の厚さ方向に分極をして使用する。圧電層の変位量は、素子の長さによって決まり、変位量を大きくするために圧電層の積層数を多くする必要がない。従って、製造工程が、より簡素になり、より低廉に作製出来る。
上記[2]に記載の超音波振動素子は、外部電極が備わる端子電極部(一の端面及びその近傍)において電極層が圧電層を挟んでオーバーラップしていない。従って、この一の端面及びその近傍では、圧電層が変位を発現せず、無用な変位拘束及びエネルギー損失を回避出来る。
上記[3]に記載の超音波振動素子によれば、[1]又は[2]に記載の超音波振動素子における一対の外部電極のそれぞれが短絡しないように1層おきの電極層と導通をする態様を実現するために、別途、絶縁部を設ける必要がなく、製造工程が簡略化され、低コスト化を図り易い。
上記[4]に記載の超音波振動素子は、圧電層の積層方向にかかる圧電縦効果に基づく共振周波数と、圧電層の幅方向にかかる圧電横効果に基づく共振周波数とが、等しくなるように調整されているので、超音波アクチュエータ等の振動源として使用した場合の動作が、より安定するとともに、振動エネルギーロスが、極めて小さくなる。
尚、上記2つの共振周波数を等しくなるように調整するためには、例えば、インピーダンス測定器等による各々の共振周波数の測定と、2つの短手方向の外形寸法の研削を繰り返し行い、2つの共振周波数を一致させる等の手段を採用することが出来る。単に、2つの短手方向の外形寸法を合わせるだけでは実現出来ない。これは次の理由による。
本発明に属さない圧電縦効果に基づく変位を利用する従来の積層型圧電素子においては、積層方向(直方体状とした場合の主軸方向、本発明における長手方向に相当)の伸縮動作に対応して、積層方向とは垂直な2軸方向(本発明における2つの短手方向に相当)においては、圧電横効果に基づく伸縮を生じる。例えば、外形の形状が直方体状であって、幅と厚さが同じ寸法であり長さが大きく(例えば幅5mm×厚さ5mm×長さ10mm)、長さ方向に積層された積層型圧電素子の場合は、長さ方向が積層方向(本発明における長手方向に相当)になり、積層方向(主軸方向)に垂直な短手方向(2軸方向)は同じ圧電横効果に基づいて変位する構造であるため、この例のように積層型圧電素子としての幅と厚さを等しくすることによって、2軸方向(短手方向)の振動の共振周波数を一致させることが可能である。
しかし、同じように外形の形状が直方体状であって、幅と厚さが同じ寸法であり長さが大きい場合(例えば幅5mm×厚さ5mm×長さ10mm)でも、本発明に係る超音波振動素子では、長さ方向に積層されるのではなく厚さ方向に積層され、長さ方向(長手方向)が変位(振動)の方向であり、長手方向(主軸方向であるが積層方向ではない)に垂直な短手方向(2軸方向)のうち、超音波振動素子としての厚さ方向(積層方向)は圧電縦効果に基づく変位を発現し、幅方向は圧電横効果に基づく変位を発現し、変位が異なる。加えて、幅方向が圧電層のみで構成されるのに対して厚さ方向は圧電層と電極層との積層構造をなすものであるため、超音波振動素子としての幅と厚さを同じとしても、それぞれの共振周波数は一致しない。従って、従来の積層型圧電素子の如く外形寸法を合わせただけでは、複雑な振動モードを誘発し易く安定動作が困難になるおそれがあった。上記[4]に記載の超音波振動素子は、この問題を解決したところに特徴を有するものである。
上記[7]に記載の超音波振動素子は、構成要素として、上記[1]〜[6]に記載の超音波振動素子に振動検出部を加えたものであり、振動検出部により駆動体(振動発生部)の振動状態を、正確に、且つ、直接的に検出し、所定の制御回路にフィードバックすることが出来る。負荷変動や温度変動によって共振周波数がシフトしても、最適な駆動条件を維持することが可能である。
上記[9]に記載の超音波アクチュエータは、弾性体に上記[1]〜[7]に記載の超音波振動素子が接合されたアクチュエータであり、超音波振動素子の振動の方向にかかる両端面のうち何れか一方の端面がフリーに振動するように接合されているところに特徴を有するものである。従って、弾性体に振動を伝播する方向に対して圧電材料からなる圧電層の連続一体構造とみなせるため、共振エネルギーを効率よく伝達出来る。又、圧電層の両面を電極層により補強された構造となっているため、共振による大振幅の振動時に、超音波振動素子に作用する引っ張り応力及び圧縮応力に対しても、優れた機械的強度を発揮する。又、駆動電圧を高くしても機械的品質係数の低下が起こらず、共振周波数近傍で振動させることにより、大振幅の振動を効率よく励振することが可能となる。
上記[10]に記載の超音波アクチュエータは、超音波振動素子に駆動信号を印加するための配線手段として、リード線等の弾性体と分かれた手段を用いないので、リード線等の付加物が加わることによる超音波振動素子の共振条件の変動やエネルギー損失が生じ得ない。上記[10]に記載の超音波アクチュエータでは、弾性体と超音波振動素子との接合面においてハンダ付け等の最小限の接続手段を用いればよく、超音波振動素子の共振条件のばらつきが極めて小さく抑えられ、結果として効率よく超音波振動素子を駆動することが可能となる。
上記[11]に記載の超音波アクチュエータは、上記[10]に記載の超音波アクチュエータの態様に加えて、振動検出部を備える超音波振動素子を用いた場合に、その振動検出部に備わる電極層とその電極層に駆動電圧を印加するための外部電源との導通をするための接続手段が、弾性体に一体的に形成されているものであり、上記[10]に記載の超音波アクチュエータの効果に準じ、振動検出部を備えていても、超音波振動素子の共振条件のばらつきが極めて小さく抑えられ、結果として効率よく超音波振動素子を駆動することが可能となる。
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は、図面に表される態様や図面に示される情報により、制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
先ず、本発明に係る超音波振動素子について説明する。一般的には、積層型圧電素子と呼ぶ場合、積層数を多くすることによって変位を大きく出来る、圧電縦効果に基づく変位を発現する圧電素子のことを指すが、本発明に係る超音波振動素子は、積層型であり且つ圧電横効果に基づく変位によって振動を励振する積層型圧電素子であり、積層数によらず圧電層の厚さに対し長さを大きくすることによって変位を大きく出来る圧電素子である。本発明に係る超音波振動素子は、直方体状を呈する駆動体で構成され、その駆動体の長手方向の圧電横効果に基づく変位によって、共振周波数近傍の振動を励振する圧電素子である。駆動体は、振動発生部と端子電極部とを有し、端子電極部が、直方体状を呈する駆動体の一の端面の側に設けられ、振動発生部において、電極層が圧電層の全面に積層をされ、端子電極部において、一対の外部電極が一の端面に備わり、複数の電極層が、概ね1層おきに、一対の外部電極の何れかと導通をしているところに特徴を有する。
本発明に係る超音波振動素子の実施形態の一例を図4に示す。図4に示される超音波振動素子40は、圧電横効果に基づく変位によって共振周波数近傍の振動を励振する圧電素子である。超音波振動素子40は、交互に積層をされた、圧電材料からなる複数の圧電層44と、導電材料からなる複数の電極層48,49と、を有する。又、超音波振動素子40は、直方体状を呈する駆動体41で構成され、その駆動体41は、振動発生部46と端子電極部47とを有し、端子電極部47が、駆動体41の一の端面の側に設けられている。その一の端面とは、駆動体41の変位(振動)の方向にかかる両端面のうち何れか一方の端面である。即ち、駆動体41(超音波振動素子40)は、S方向(図4中の矢印)に振動する。その一の端面には、一対の外部電極58,59が備わり、その外部電極58,59を介して図示しない外部電源に接続され、電極層48,49間に電圧がかけられる。
電極層48,49は、端子電極部47において、概ね1層おきに、一対の外部電極58,59と、それぞれ導通をしている。超音波振動素子40は、駆動体41の振動発生部46では、電極層48,49は圧電層44の全面に積層をされているが、端子電極部47においては、電極層48,49が圧電層44の片面のみに積層をされ、電極層48,49がオーバーラップしていない。端子電極部47において、電極層48,49のうち一方の電極層48は、外部電極58近傍部分において、端部を圧電層44から露出させ、その外部電極58と導通するが、外部電極58近傍部分以外では、端部を圧電層44に埋設させ、外部電極59とは導通していない(絶縁している)。反対に、電極層48から1層おいた電極層49は、外部電極59近傍部分において、端部を圧電層44から露出させ、その外部電極59と導通するが、外部電極59近傍部分以外では、端部を圧電層44に埋設させ、外部電極58とは導通していない(絶縁している)。
超音波振動素子40は、駆動体41が振動発生部46と端子電極部47とを有する他に、圧電層44のみからなり電極層48,49が積層されていない無動作部45を有する。この無動作部45は、端子電極部47が設けられる端面とは反対側に設けられる。即ち、端子電極部47と同様に、駆動体41の変位(振動)の方向にかかる両端面のうち何れか一方の端面に設けられているので、駆動体41(超音波振動素子40)の振動を妨げない。無動作部45は、超音波振動素子40を保護する役割を担う。
尚、図4に示される超音波振動素子40において、圧電層44の積層数は13になっているが、これは図示における構造の視覚的理解容易性向上を優先させ便宜を図ったものであり、より多い積層数が望ましいことは既に記したとおりである。又、電極層48,49の厚さは図4においてD1で示され、圧電層44の厚さはD2で示され、圧電層44の長さはL1及びL2で示される。L2は電極層48,49の積層の有無によらず圧電層44全体の長さを示し、L1は電極層48,49が圧電層44の全面に積層をされた振動発生部46にかかる圧電層44の長さを示している。圧電層の長さと厚さの比を設計する場合において、長さとは変位(振動)にかかる方向の圧電層の寸法を指すのであるから、長さとはL2のことを示す。通常は、好ましい態様として圧電層44の厚さD2に対して長さL2を大きくして、端子電極部47と無動作部45の長さを抑えるから、L1/D2とL2/D2とでは、殆ど差が生じない。
本発明に係る超音波振動素子の実施形態の他例を図7(a)、図7(b)に示す。図7(a)に示される超音波振動素子71は、上記超音波振動素子40から無動作部45を除いたものである。保護の必要がない場合には超音波振動素子71の方が、より小型化出来る。
図7(b)に示される超音波振動素子72は、駆動体41が2つ備わり、それらが、一の端面55を接合させ、振動発生部46は分かれているが端子電極部47を共有して、焼成一体化されたものである。即ち、上記超音波振動素子71を2つ一体化したものである。超音波振動素子72においても、中心に位置する端子電極部47を除く2つの振動発生部46は拘束を全く受けず、振動のエネルギー損失を生じない。
勿論、超音波振動素子72は、最初から一体的に作製することが可能であり、一の端子電極部47と二の振動発生部46とを有する1つの駆動体としてとらえることが可能である。換言すれば、超音波振動素子72は、一の端子電極部47が、直方体状を呈する1つの駆動体の概ね中央に設けられ、二の振動発生部46が、変位(振動)のS方向にかかる端子電極部47の両側に設けられたものであり、振動発生部46において、電極層48,49が圧電層44の全面に積層をされ、端子電極部47において、電極層48,49が圧電層44の片面に積層をされている。そして、端子電極部47において、変位(振動)のS方向に平行な端面に一対の外部電極58,59が備わり、複数の電極層48,49が、概ね1層おきに、一対の外部電極58,59の何れかと導通をしたものである。
次に、直方体状を呈する本発明に係る超音波振動素子において、2つの短手方向の共振周波数を調整する手段について説明する。本発明に係る超音波振動素子では、インピーダンス測定器による各々の共振周波数の測定と、2つの短手方向の外形寸法の研削とを、繰り返し行って、2つの共振周波数を一致させることが出来る。
先ず、外形寸法が直方体状の本発明に係る超音波振動素子であって、幅と厚さが同じ寸法であり長さが大きいものを作製する。例えば、図4に示される超音波振動素子40と同態様の超音波振動素子であって、超音波振動素子40とは外形の寸法が異なり、図4中の矢印で示されるS方向(変位(振動)方向)が最も寸法の大きい長手方向(長さ方向)になり、直方体状の超音波振動素子としての厚さ方向(一の短手方向であり圧電層44の積層方向にあたる、図4中において上下方向)と、幅方向(他の短手方向、図4中において左奥行き方向)とが、等しい寸法の超音波振動素子が、それに該当する。
このような幅と厚さが同じ寸法の本発明に係る超音波振動素子では、2つの短手方向(厚さ方向及び幅方向)の共振周波数が一致しない。図10は、その共振周波数が一致しない例を示すグラフであり、外形寸法が幅5mm×厚さ5mm×長さ10mmである直方体状の本発明に係る超音波振動素子について、インピーダンス測定器を用いて、インピーダンスの周波数特性を測定した結果を表したグラフである。図10において、ピーク1は、長手方向(長さ方向)の共振振動に相当し、ピーク2及びピーク3が、それぞれ2つの短手方向(幅方向、厚さ方向)の共振振動に相当する。ピーク2は圧電横効果に基づく幅方向の共振、ピーク3は圧電縦効果に基づく厚さ方向(積層方向)の共振であり、幅と厚さを同じとしても、それぞれの共振周波数は一致しないことが示されている。
幅と厚さが同じ寸法の超音波振動素子に対し、研削によって幅方向の寸法を短くしていきながら、インピーダンス測定器による共振周波数の測定を行い、これを繰り返すことにより、主としてピーク2が高周波側にシフトしていくのを確認し、ピーク2及びピーク3が重なるように調整を行う。研削によって幅方向の寸法を短くするとは、例えば、図4に示される超音波振動素子40における圧電層44が露出した面、即ち図4中における右奥行き側の面、を削ることを意味する。換言すれば、元々は幅と厚さが同じ寸法であった超音波振動素子から、超音波振動素子40の如く、幅の寸法が厚さの寸法より小さい(短い)超音波振動素子に加工していくことを意味する。
図11は、調整をされた結果、共振周波数が一致した例を示すグラフである。図10におけるピーク2及びピーク3の周波数が等しくなって、図11におけるピーク5になったことを示しており、図11においては、図10におけるピーク2及びピーク3の周辺にみられるようなピークの乱れがなくなり、グラフがシンプルな形状になっていることがわかる。このことは、図10におけるピーク2及びピーク3の周波数近傍での複雑な振動モードがなくなり、本発明に係る超音波振動素子を超音波アクチュエータ等の振動源として使用した場合に、動作の安定性が向上し、振動エネルギーロスが大きく抑制されることを間接的に表している。
次に、本発明に係る超音波アクチュエータについて説明する。本発明に係る超音波アクチュエータの実施形態の一例を図5に示す。図5に示される超音波アクチュエータ50は、弾性体61と2つの超音波振動素子62とを有し、それらが全体でY字状になるように結合してなるものである。Y字状という非直線的結合をなす超音波アクチュエータ50は、超音波振動素子62を駆動源とし、全体として縦振動と曲げ振動の結合振動を励起し、楕円軌跡を描く運動を生じ、超音波モータの動力源となる(原理については例えば非特許文献1を参照)。超音波アクチュエータ50は、2つの超音波振動素子62のそれぞれが、駆動体41の変位(振動)のS方向にかかる両端面のうち何れか一方の端面の側において弾性体61に接合され、且つ、残面がフリーである。
超音波アクチュエータ50を構成する超音波振動素子62は、駆動部41(振動発生部及び端子電極部)の他に、無動作部65を介して振動検出部63を備えている。振動検出部63は、圧電層とその圧電層を挟んで設けられる少なくとも一対の電極層とを有し、圧電素子を構成するものであり、機械的振動に起因して圧電層に発生する電気信号を一対の電極層で検出する。即ち、駆動部41で電気/機械変換を行い振動を発生させ、振動検出部63が圧電効果に基づいて機械/電気変換を行い振動を電気定数として検出する。振動検出部63は、作製容易であるから駆動部41と同じ構造を有していてもよい。又、その他の態様の圧電素子で構成されていてもよく、例えば、図3(a)、図3(b)に示される圧電縦効果に基づく変位によって駆動する積層型圧電素子30,31を採用してもよい。
超音波アクチュエータ50は、2つの超音波振動素子62のそれぞれが、振動検出部63の側で弾性体61に接合されているが、本発明に係る超音波アクチュエータは、駆動部の側で弾性体に接合されていてもよく、振動検出部を備えていない超音波振動素子を用いることも出来る。超音波アクチュエータ50では、外部電源との接続手段としてリード線66が用いられているが、超音波アクチュエータ50のように超音波振動素子62が振動検出部63の側で弾性体61に接合されている場合には、振動検出部63に備わる電極層とその電極層に駆動電圧を印加するための外部電源との導通をするための配線パターンを弾性体61に(弾性体61内部あるいは外表面に)設けることが出来る。又、駆動部41の側で弾性体61に接合されている場合には、駆動部41の端子電極部に備わる一対の外部電極とその一対の外部電極に駆動電圧を印加するための外部電源との導通をするための配線パターンを弾性体61に設けることが可能である。
次に、本発明に係る超音波振動素子を製造する方法について説明する。本発明に係る超音波振動素子を製造する方法の概略工程の一例を、図6(a)〜図6(c)に示す。
先ず、圧電材料を主成分とする所望の厚さのグリーンシート(以下、単にシートともいう)を、所定枚数用意する。グリーンシートは、従来知られた製造方法により作製出来る。例えば、セラミックスからなる圧電材料の粉末を用意し、これにバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を望む組成に調合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、ドクターブレード法、リバースロールコーター法等のシート成形法によってシートを形成することが可能である。
そして、シート上に印刷法により導電材料の電極ペーストを所望の厚さで塗布して、方向の異なる旗形の電極パターン148,149がそれぞれ形成されたシート16及びシート17を、概ね同数作製する(図6(a)参照)。シート16の電極パターン148(旗竿部141が図中左下に位置する右向きの旗形)で塗られた電極ペーストが、のちに電極層48になり、シート17の電極パターン149(旗竿部142が図中右下に位置する左向きの旗形)で塗られた電極ペーストが、のちに電極層49になる。
尚、本発明に係る超音波振動素子の製造にかかり、電極パターンは、上記電極パターン148,149の如く、電極パターンを形成したシートを積層したときに旗竿部が重ならないようにすることが好ましい。図9に旗竿部が重なってしまう例を示す。電極パターン248,249がそれぞれ形成された図9に示されるシート216及びシート217では、積層したときに、それぞれの旗竿部241,242が、各々の重畳部243で重なってしまう。この重畳部243は、のちに超音波振動素子として圧電層の両面を挟んだ電極層になるので、変位が発生し得る部分を構成する。一方、重畳部243を除く旗竿部241,242は重なっていないため、変位を生じない部分を構成するから、この部分で大きな内部応力を生じ超音波振動素子が破壊する可能性があるととともに、エネルギー損失が生じてしまう。シートを積層したときに旗竿部が重ならないような電極パターンを形成すれば、これらの問題が避けられる。
次に、シート16,17の表面にシートと同じ圧電材料からなる接着剤ペーストを所定の厚さで塗布し、所望の枚数を積層し、熱圧着により一体化し、焼成し、積層体70を得る(図6(b)参照)。
そして、切断線75に沿ってスライシング加工法その他の各種機械加工により切断した後、一対の外部電極58,59を、積層体70における、電極パターン148、149の旗竿部141,142側の端面に形成し、リード線66を取り付ける(図6(c)参照)。外部電極58は、旗竿部141を介して電極層48のみと導通し、一方、電極層49とは導通していない(絶縁されている)。外部電極59は、旗竿部142を介して電極層49のみと導通し、一方、電極層48とは導通していない(絶縁されている)。その後、必要に応じて分極処理を行えば、超音波振動素子60が得られる。
続いて、本発明に係る超音波アクチュエータを製造する方法について説明する。超音波アクチュエータは別途用意した弾性体に上記方法で作製した超音波振動素子を接合して得ることが出来る。超音波振動素子と弾性体を接合する手段は、特に限定されないが、エポキシ樹脂等の接着剤を用いて接着する方法が好適である。超音波振動素子から弾性体に伝達される振動エネルギーのロスを小さくするためには、接合面には必要最小限の接着剤を用いて接合することが望ましく、又、長時間の超音波振動に耐えるように接合条件を選定することが望ましい。
次に、本発明に係る超音波振動素子及び超音波アクチュエータに用いられる材料について説明する。圧電層を構成する圧電材料は限定されない。好ましい圧電材料として広義の圧電体セラミックスが挙げられる。広義の圧電体セラミックスには、狭義の圧電セラミックス材料の他に、電歪セラミックス材料、分極反転を発現する強誘電体セラミックス材料、反強誘電相−強誘電相間の相転移がみられる反強誘電体セラミックス材料、等が含まれる。
圧電体セラミックスとしては、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、マンガンタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、チタン酸バリウム、チタン酸ナトリウムビスマス、チタン酸ビスマスネオジウム(BNT)、ニオブ酸カリウムナトリウム、タンタル酸ストロンチウムビスマス等を、単独で、混合物として、あるいは固溶体として、含有するセラミックス材料が挙げられる。更に、上記材料に、ランタン、カルシウム、ストロンチウム、モリブデン、タングステン、バリウム、ニオブ、亜鉛、ニッケル、マンガン、セリウム、カドミウム、クロム、コバルト、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、リチウム、ビスマス、スズ等の酸化物等を、単独で若しくは混合して、添加することも好ましい。圧電特性を調整可能となる等の利点が得られる場合があるからである。
電極層を構成する導電材料は限定されない。例えば、ニッケル、銅、パラジウム、銀、チタン、クロム、タンタル、ハフニウム、コバルト、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、イリジウム、マグネシウム、ルテニウム等の金属を単独で用いてもよく、あるいは、銀−パラジウム、銀−白金、銀−金、ニッケル−金、ニッケル−銀等の合金を用いてもよい。
超音波振動素子とともに超音波アクチュエータを構成する弾性体の材料は、超音波モータとして必要な出力トルクや速度等によって選定されるが、例えば、アルミニウム等の金属材料、アルミナやジルコニア等のセラミックス材料等を採用出来る。
10…Y型超音波リニアアクチュエータ、11…振動素子、12,22,61…弾性体、13,23…被駆動体、14,44…圧電層、16,17…グリーンシート、18,19,48,49…電極層、20…π型超音波リニアアクチュエータ、28,29,58,59,78,79…外部電極、30,31,81,82,83…積層型圧電素子、40,60,62,71,72…超音波振動素子、41…駆動部、45,65,85…無動作部、46,76…振動発生部、47…端子電極部、50…超音波アクチュエータ、63…振動検出部、66…リード線、70…積層体、75…切断線、141,142,241,242…旗竿部、148,149,248,249…電極パターン、243…重畳部。