以下本発明の実施の形態を説明する。
<アントラセン誘導体>
下記一般式(1)で示される本発明のアントラセン誘導体のさらに具体的な例を説明する。
この一般式(1)で示されるアントラセン誘導体は、有機電界発光素子の有機層に好適に用いられるアントラセン誘導体であり、アントラセン骨格の1位および5位にそれぞれ独立に置換基X、Yを介在させてアミノ基と結合されている。
そして、一般式(1)中において、アントラセン骨格の1位および5位以外の部位における置換基A1〜A8は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数30以下の置換あるいは無置換のシリル基を表している。
尚、上記のカルボニル基は、アルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基を含む。また、上記のアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基を含む。
また、一般式(1)中における上記のX,Yは、それぞれ独立に、置換基を有する炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリーレン基、または炭素数30以下の置換あるいは無置換の2価複素環基を表している。
このようなX,Yは、一般式(1)のアントラセン誘導体を合成する場合の簡便さを考慮した場合、XとYとが同一であることが好ましい。
そしてさらに、一般式(1)中におけるX,Yに結合した窒素(N)に結合されている置換基Ar1〜Ar4は、それぞれ独立に、置換基を有する炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、もしくは炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基を表している。またこれらのうち、Ar1とAr2、Ar3とAr4とは、互いに連結して環を形成していても良い。
このようなAr1〜Ar4は、一般式(1)のアントラセン誘導体を合成する場合の簡便さを考慮した場合、Ar1とAr3とが同一であり、Ar2とAr4とが同一であることが好ましい。
ここで、上記Ar1〜Ar4を構成するアリール基は、炭素数30以下から構成されるものが好ましく、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フルオレニル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基、9−ナフタセニル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基、1−クリセニル基,6−クリセニル基,2−フルオランテニル基,3−フルオランテニル基,2−ビフェニルイル基、3−ビフェニルイル基、4−ビフェニルイル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−t−ブチルフェニル基等が挙げられる。
また、一般式(1)中における上記X,Yを構成するアリーレン基は、以上に例示のアリール基から導出されたアリーレン基を例示できる。中でも、X,Yとして用いられるアリーレン基は、フェニル核、ビフェニル核、またはナフチル核を有するものが好ましい。
また上記Ar1〜Ar4を構成する複素環基は、炭素数30以下から構成されるものが好ましく、例えば、1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、ピラジニル基、2−ピリジニル基、3−ピリジニル基、4−ピリジニル基、1−インドリル基、2−インドリル基、3−インドリル基、4−インドリル基、5−インドリル基、6−インドリル基、7−インドリル基、1−イソインドリル基、2−イソインドリル基、3−イソインドリル基、4−イソインドリル基、5−イソインドリル基、6−イソインドリル基、7−イソインドリル基、2−フリル基、3−フリル基、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、4−ベンゾフラニル基、5−ベンゾフラニル基、6−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基、1−イソベンゾフラニル基、3−イソベンゾフラニル基、4−イソベンゾフラニル基、5−イソベンゾフラニル基、6−イソベンゾフラニル基、7−イソベンゾフラニル基、キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、5−イソキノリル基、6−イソキノリル基、7−イソキノリル基、8−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、6−キノキサリニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基、1−フェナンスリジニル基、2−フェナンスリジニル基、3−フェナンスリジニル基、4−フェナンスリジニル基、6−フェナンスリジニル基、7−フェナンスリジニル基、8−フェナンスリジニル基、9−フェナンスリジニル基、10−フェナンスリジニル基、1−アクリジニル基、2−アクリジニル基、3−アクリジニル基、4−アクリジニル基、9−アクリジニル基、などが挙げられる。
また、一般式(1)中における上記X,Yを構成する2価複素環基は、以上に例示の複素環基から導出された2価のものを例示できる。
そして、上述したA1〜A8、および、X,Y、Ar1、Ar2、Ar3およびAr4として示された基のうち、さらに置換基を有しても良い基に対する置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、環状アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基を挙げることができる。
ここで、上記のさらに置換基を有しても良い基とは、すなわち、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、シリル基、アリーレン基、2価複素環基、アリール基、および複素環基である。
また、上記のカルボニル基は、アルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基を含む。そして、上記のアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基を含む。
以下の表1-a〜表1-dに、一般式(1)の例示構造を示すが、本発明のアントラセン誘導体は、上述した範囲に含まれれば、ここに例示した構造に限定されるものではない。
以上で一例を示した本発明のアントラセン誘導体は、種々の方法によって合成が可能であり、例えば次のa)〜c)の方法が例示される。
a)ハロゲン化されたアントラセンを、マグネシウムを用いたグリニヤー反応によってカップリングさせる合成方法。
b)ハロゲン化されたアントラセンを、銅触媒存在下でウルマン反応によってカップリングさせる方法。
c)ボロン酸、もしくはボロン酸エステル化されたアントラセンとハロゲン化されたアントラセンとを、パラジウムに代表される遷移金属触媒によってカップリングさせる(いわゆる鈴木カップリング反応)によって合成させる方法。
尚、本発明のアントラセン誘導体は、有機電界発光素子の有機層を構成する材料として用いられるものであり、有機電界発光素子の製造プロセスに供する前に純度を高めておくことが好ましく、該純度が95%以上、より好ましくは99%以上とするのがよい。かかる高純度のアントラセン誘導体を得る方法としてはアントラセン誘導体の合成後の精製である再結晶法、再沈殿法、もしくはシリカやアルミナを用いたカラム精製のほかに、昇華精製やゾーンメルト法による公知の高純度化方法を用いることができる。
また、これらの精製方法を繰り返し行うことや異なる精製法を組み合わせて行うことで、本発明におけるアントラセン誘導体の未反応物、反応副生成物、触媒残渣、もしくは残存溶媒などの混合物を低減させ、よりデバイス特性の優れた有機電界発光素子を得ることが可能となる。
さらに本化合物は、光や酸素といった外因から以下に掲げるa)〜c)の保管方法をとることによって、その酸化、分解からの劣化反応を抑制し、特にこの有機発光材料を用いて構成される有機電界発光素子において、より優れた発光特性をもたらすことだけでなく、製造装置の負荷の軽減などに効果を発揮する。
a)有機発光材料を合成した後、速やかに冷所に静置させる。その保管温度は−100℃から100℃の範囲が好ましく、より好ましくは−50℃から50℃の温度範囲で保管させる。
b)有機発光材料を合成した後、速やかに遮光性を有する容器に保管する。
c)有機発光材料を合成した後、合成した有機発光材料を窒素、二酸化炭素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で保管する。
以上説明したような構成の一般式(1)および構造式で例示され本発明のアントラセン誘導体は、アントラセン骨格の9,10位を、アリール基やアリールアミノ基等で置換することなく他の置換基もしくは無置換とし、またアントラセン骨格の1,5位に上述した基を設けた構成としている。
これにより、このアントラセン誘導体を発光材料として用いた有機電界発光素子において、アントラセン特有の色純度の高い青色発光が得られる。しかも、分子量としても耐熱性を十分に保持できる量が確保されるため、熱的な物性が良好であり、外部からの力や熱的な耐久性に優れており、電圧による変動力にも安定性を有している。
また、上構成のアントラセン誘導体は、アントラセン骨格に、アリーレン基や2価複素環基を介してアミノ基を結合させたアミン化合物でもあるため、電荷輸送性に優れており良好な発光効率を得が得られる。
したがって、このようなアントラセン誘導体を用いて有機層を構成した本発明の有機電界発光素子は、長時間駆動において有機層の耐久性が優れたものになる。また、特に青色に優れた発光特性を示すものともなる。
さらに、本発明に基づくアントラセン誘導体は、電子輸送性能と正孔輸送性能の両方を持つ。このため、以下に詳しく説明するように、有機電界発光素子の有機層のうち、電子輸送層を兼ねた発光層としても、或いは正孔輸送層と兼ねた発光層としても用いることが可能である。また、本発明に基づくアントラセン誘導体を発光層として、電子輸送層と正孔輸送層とで挟み込んだ構成とすることも可能である。
<有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置>
次に、上述した有機発光材料を用いた有機電界発光素子(有機EL素子)の構成を、図1に基づいて詳細に説明する。
図1に示す有機電界発光素子11は、基板12上に陽極13、有機層14、および陰極15をこの順に積層してなり、基板12と反対側から光を取り出す上面発光型の素子として構成されている。
ここで、基板12は、その一主面側に有機電界発光素子11が配列形成される支持体であって、公知のものであって良く、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられるこの中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。
この基板12上に設けられる陽極13には、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばクロム(Cr)、モリブテン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、ITO(インジウムチンオキシド)、InZnO(インジウ亜鉛オキシド)、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等が、単独または混在させた状態で用いられる。この陽極13は例えばスパッタリング法等により作製することができる。
そして、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極13は画素毎にパターニングされ、基板12に設けられた駆動用の薄膜トランジスタに接続された状態で設けられている。また、この陽極13の上には、ここでの図示を省略したが絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13の表面が露出されるように構成されていることとする。
そして、この陽極13上に設けられた有機層14が、本発明に特有の有機発光材料を用いて構成された層となる。この有機層14は、例えば陽極13側から順に、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dの4層を積層してなるものである。これらの各層14a〜14dは、電場が印加されることによって蛍光やリン光が発光する化合物を用いることのほかに、電子、若しくは正孔(ホール)の輸送能を有する化合物が適宜用いられることとする。
そして、本発明の有機電界発光素子11においては、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dの少なくとも一層が、上記一般式(1)を用いて示したアントラセン誘導体を用いて構成されているのである。特に、発光層14cが、上述したアントラセン誘導体を用いて構成されることが好ましい。このため、以下においては、発光層14cに、上述したアントラセン誘導体が用いられる場合を例示する。
ここで、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bは、それぞれ発光層14cへの正孔注入効率を高めるためのものである。このような正孔注入層14a、もしくは正孔輸送層14bの材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、あるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマーあるいはポリマーを用いることができる。
また、上記正孔注入層14a、もしくは正孔輸送層14bのさらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、4、4、4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N、N、N’、N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2、2’−チエニルピロール)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
そして、発光層14cは、陽極13と陰極15による電圧印加時に、陽極13と陰極15のそれぞれから正孔および電子が注入され、さらにこれらが再結合する領域であり、発光効率が高い材料、例えば、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の有機発光材料を用いて構成されている。そして、本実施形態においては、この発光層14cに、上記一般式(1)および構造式(1)-1〜(1)-34に示したアントラセン誘導体が含有されていることとする。
そして、より好ましくは、本発明のアントラセン誘導体は、発光層14c内にゲスト材料として添加されることとする。この際の発光層14cにおけるアントラセン誘導体の添加量は、1体積%〜99体積%、好ましくは1体積%〜50体積%,より好ましくは20体積%以下であることとする。
また、アントラセン誘導体をゲスト材料として用いた場合のホスト材料としては、フェニレン核、ナフタレン核、アントラセン核、ピレン核、ナフタセン核、クリセン核もしくはペリレン核から構成される芳香族炭化水素化合物であり、具体的には9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、1,6−ジフェニルピレン、1,6−ジ(1−ナフチル)ピレン、1,6−ジ(2−ナフチル)、1,8−ジフェニルピレン、1,8−ジ(1−ナフチル)ピレン、1,8−ジ(2−ナフチル)ピレン、ルブレン、6,12−ジフェニルクリセン、6,12−ジ(1−ナフチル)クリセン、6,12−ジ(2−ナフチル)クリセン等を好適に用いることができる。
また、この発光層14cには、発光層14cでの発光スペクトルの制御を目的として、他のゲスト材料を微量添加しても良い。このような他のゲスト材料としては、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ナフタセン誘導体、ベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素等の有機物質が用いられ、なかでもこれらの芳香族第三級アミン化合物が好適に用いられる。
尚、以上においては、本発明のアントラセン誘導体をゲスト材料に用いて発光層14cを構成する場合を説明した。しかしながら、本発明のアントラセン誘導体を用いて発光層14cを構成する場合、本発明のアントラセン誘導体の単体からなる発光層14cを構成しても良い。また本発明のアントラセン誘導体をホスト材料として用いても良い。この場合、ゲスト材料としては、発光効率が高い材料、例えば、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の有機発光材料を用いて構成されている。このような発光層14cに用いる具体的な材料としては、例えばアントラセン、ナフタレン、インデン、フェナントレン、ピレン、ナフタセン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、ピセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、ペンタフェン、ペンタセン、コロネン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、あるいはこれらの誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体ジトルイルビニルビフェニルを用いることができる。
そして、以上のように構成された発光層14c上に設けられる電子輸送層14dは、陰極15から注入される電子を発光層14cに輸送するためのものである。電子輸送層14dの材料としては、例えば、キノリン、ペリレン、ビススチリル、ピラジン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノン、またはこれらの誘導体が挙げられる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(略称Alq3 )、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、アントラセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、またはこれらの誘導体が挙げられる。
以上、有機層14を構成する上記の各層14a〜14dは、例えば真空蒸着法や、スピンコート法などの方法によって形成することができる。ただし、特に、発光層14cに対して、発光層14cでの発光スペクトルの制御を目的として、本発明のアントラセン誘導体の他に微量のゲスト材料を添加する場合には、発光層14cの形成において他のゲスト材料の共蒸着を行う。
尚、有機層14は、このような層構造に限定されることはなく、少なくとも発光層14cと共に、陽極13と発光層14cとの間に、正孔輸送層14aまたは正孔注入層14bを有する構成であれば、必要に応じた積層構造を選択することができる。
また、発光層14cは、正孔輸送性の発光層、電子輸送性の発光層、あるいは両電荷輸送性の発光層として有機電界発光素子11に設けられていても良い。さらに、以上の有機層14を構成する各層、例えば正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dは、それぞれが複数層からなる積層構造であっても良い。
次に、このような構成の有機層14上に設けられる陰極15は、例えば、有機層14側から順に第1層15a、第2層15bを積層させた2層構造で構成されている。
第1層15aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料としては、例えばリチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(Li2O)や、セシウム(Cs)の酸化物である酸化セシウム(Cs2O)、さらにはこれらの酸化物の混合物を用いることができる。また、第1層15aは、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。
第2層15bは、例えば、MgAgなどの光透過性を有する層を用いた薄膜により構成されている。この第2層15bは、さらに、アルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層であっても良い。この場合には、さらに第3層としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。
以上の陰極15を構成する各層は、真空蒸着法、スパッタリング法、更にはプラズマCVD法などの手法によって形成することができる。また、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、有機層14とここでの図示を省略した上述の絶縁膜とによって、陽極13と絶縁された状態で基板12上にベタ膜状に形成され、各画素の共通電極として用いられる。
尚、陰極15は上記のような積層構造に限定されることはなく、作製されるデバイスの構造に応じて最適な組み合わせ、積層構造を取れば良いことは言うまでもない。例えば、上記実施形態の陰極15の構成は、電極各層の機能分離、すなわち有機層14への電子注入を促進させる無機層(第1層15a)と、電極を司る無機層(第2層15b)とを分離した積層構造である。しかしながら、有機層14への電子注入を促進させる無機層が、電極を司る無機層を兼ねても良く、これらの層を単層構造として構成しても良い。また、この単層構造上にITOなどの透明電極を形成した積層構造としても良い。
そして上記した構成の有機電界発光素子11に印加する電流は、通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子が破壊されない範囲内であれば特に制限はないが、有機電界発光素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
また、図1に示した有機電解発光素子11においては、陽極13にITO等よりなる透明電極を用いることにより上下の両サイドから光を取り出す構成であっても良い。
また、この有機電界発光素子11が、キャビティ構造となっている場合、有機層14とと、透明材料あるいは半透明材料からなる電極層(本実施形態では陰極15)との合計膜厚は、発光波長によって規定され、多重干渉の計算から導かれた値に設定されることになる。そして、TFTが形成された基板上に上面発光型の有機電界発光素子を設けた、いわゆるTAC(Top Emitting Adoptive Current drive )構造では、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能である。
さらに、ここでの図示は省略したが、このような構成の有機電界発光素子11を備えた表示装置1においては、大気中の水分や酸素等による有機電界発光素子11の劣化を防止するための封止膜を形成するなどの処置を施すことが好ましい。
また、ここでの図示は省略したが、このような構成の有機電界発光素子11を備えた表示装置においては、この有機電界発光素子11を青色発光素子とし、これと共に赤色発光素子および緑色発光素子を各画素に設け、これら画素をサブピクセルとして1画素を構成し、基板2上にこれらの画素を1組とした各画素を複数配列することで、フルカラー表示を行うものとしても良い。
以上説明した構成の有機電界発光素子11によれば、一般式(1)を用いて説明したアントラセン誘導体を用いて有機層14の発光層14cを構成した。これにより、有機層14の耐久性および安定性の向上を図ることが可能になると共に、アントラセン特有の高い蛍光性に基づく電界発光が得られる。この結果、有機電界発光素子11における発光寿命の向上を図ることが可能になると共に、特に青色の発光において色純度の向上を図ることが可能になる。
そして、このような本発明の有機電界発光素子と共に、赤色発光素子および緑色発光素子を1組にして画素を構成することにより、色再現性の高いフルカラー表示が可能になる。
尚、以上の実施形態においては、本発明のアントラセン誘導体を発光層14c(電子輸送性の発光層、正孔輸送性の発光層、および両電荷輸送性の発光層を含む)の構成材料として用いることのみを説明した。しかしながら、本発明のアントラセン誘導体は、アントラセン誘導体の実施形態において述べたように耐久性に優れており、また、アミン化合物であるため電子輸送性および正孔輸送性を有していることからすれば、本発明のアントラセン誘導体を、発光層14c以外の層、例えば電子輸送層14dや正孔輸送層14bさらには正孔注入層14a等を構成する材料として用いることもでき、これによってこれらの層における耐久性の向上を図ることが可能になる。
また、本発明の有機電界発光素子は、上面発光型、これを用いたTAC構造への適用に限定されるものではなく、陽極と陰極との間に少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなる構成に広く適用可能である。したがって、基板側から順に、陰極、有機層、陽極を順次積層した構成のものや、基板側に位置する電極(陰極または陽極としての下部電極)を透明材料で構成し、基板と反対側に位置する電極(陰極または陽極としての上部電極)を反射材料で構成することによって、下部電極側からのみ光を取り出すようにした、いわゆる透過型の有機電界発光素子にも適用可能である。このような構成であっても、一般式(1)を用いて説明した有機発光材料を有機層に用いることにより、同様の効果を得ることが可能である。
さらに、本発明の有機電界発光素子とは、一対の電極(陽極と陰極)、およびその電極間に有機層が挟持されることによって形成される素子であれば良い。このため、一対の電極および有機層のみで構成されたものに限定されることはなく、本発明の効果を損なわない範囲で他の構成要素(例えば、無機化合物層や無機成分)が共存することを排除するものではない。
本発明のアントラセン誘導体の合成例、およびこのアントラセン誘導体を用いた本発明の有機電界発光素子の実施例について具体的に説明する。尚ここでは先ず、本発明の有機発光材料の合成例1〜3を説明し、次いでこれらの有機発光材料を用いた有機電界発光素子の作製手順の実施例1〜3,および比較例の有機電界発光素子の作製手順、さらにはこれらの評価結果を説明する。
<アントラセン誘導体の合成例1>
下記反応式1〜2に示される鈴木カップリング反応を繰り返して、表1-aの構造式(1)−1で示したアントラセン誘導体を得た。
先ず、上記反応式1を参照し、メカニカルスターラーを装着させた1000mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、溶媒として500mlのDMSOを加え、続いて4−ブロモトリフェニルアミン(32g、100mmol)、ビスピナコレートジボロン(30g、120mmol)、酢酸カリウム(CH3COOK)(20g、200mmol)、およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3)4](1.16g、1mmol)を順次溶媒に加えた。攪拌しながら温度を90℃まで昇温させ、定常状態になってから6時間反応させた。
反応終了後、溶媒のDMSOを真空条件下で蒸留にて除去、その後にトルエンで再溶解させ、水で洗浄した。続いてトルエン層側を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濃縮し、ヘキサン:トルエンの混合溶媒にてシリカカラムを通し、化合物(C1)を収率83%で得た。
続いて、上記反応式2を参照し、メカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、1,5―ジブロモアントラセン(6.7g、20mmol)、上記で合成した化合物(C1)(15.5g、42mmol)を順次加え、50mlのトルエンを注ぎいれた。攪拌しながら、2.0mol/リットルのNa2CO3水溶液を50ml添加し、その混合溶液を窒素にて10分間バブリングを行い溶液中の溶存酸素を十分に排気させた。続いて、パラジウム触媒成分としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh3)4](232mg、200μmol)を加えてから昇温を開始し還流温度(90°)で10時間反応させた。
反応終了後に室温まで冷却し、析出した固体をアセトンおよびエタノールで十分に洗浄し黄色固体9.9g(収率75%)を得た。得られた固体を1H−NMR、13C−NMR、およびFD−MSにて測定した結果、目的物であるアントラセン誘導体[表1-aの構造式(1)−1]であることを確認した。
<アントラセン誘導体の合成例2>
下記反応式3に示される鈴木カップリング反応を経て表1-bの構造式(1)−17で示したアントラセン化合物を得た。
先ず、上記反応式3を参照し、出発原料として4,4’−ジブロモトリフェニルアミンとフェニルボロン酸を用い、上記反応式2に準じた鈴木カップリングを行うことにより、構造式(1)−17の側部に相当する化合物(C2)[N−(4ブロモフェニル)ーN−フェニルビフェニル−4−アミン]を得た。
続いて、合成例1の反応式1において4−ブロモトリフェニルアミンの代わりに反応式3で得られた化合物(C2)を用いて合成例1の反応式1と同様の手順を行い、化合物(C2)をボロン酸エステル化し、さらに反応式2に準じたカップリング反応を行うことにより、表1-bの構造式(1)−17のアントラセン誘導体を得た。
<アントラセン誘導体の合成例3>
下記反応式4に示されるカップリング反応を経て表1-bの構造式(1)−19で示したアントラセン化合物を得た。
先ず、反応式4を参照し、メカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、4−ヨードブロモベンゼン(5.6g、20mmol)、N−(1−ナフチル)フェニルアミン(4.4g,20mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド(1.9g、20mmol)を100mlのトルエンに溶解させた。
その混合溶液を窒素にて10分間バブリングを行い溶液中の溶存酸素を十分に排気させた。続いてパラジウム触媒成分として酢酸パラジウム(100mg、480μmol)を一括で加え、攪拌しながらトルエン20mlに溶解させたトリ(t-ブチルフォスフィン)(380mg、1.8mmol)を滴下し、全量の投入が終了した後に昇温を開始して還流温度で3時間反応させた。
反応終了後に室温まで冷却し、有機層を水で5回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。この溶液を濃縮させた後にヘキサン/トルエンの混合溶媒にてシリカカラムを通し、中間体である化合物(C3)[N−(4ブロモフェニル)−N−フェニルナフタレン−1−アミン]を収率72%で得た。このこの化合物(C3)は、構造式(1)−19の側部に相当する。
続いて,合成例1で示した反応式1において用いた4−ブロモトリフェニルアミンの代わりに、反応式4で得られた化合物(C3)を用いた他は、合成例1の反応式1と同様に行うことで化合物(C3)をボロン酸エステル化した。その後、合成例1で示した反応式2に準じたカップリング反応を行うことにより、表1-bの構造式(1)−19に示すアントラセン誘導体を得た。
<実施例1>
合成例1によって得られたアントラセン[表1-aの構造式(1)−1]を用い、以下のようにして上面発光型の有機電界発光素子(図1参照)を作製した。
先ず、30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13としてクロム(Cr)よりなる膜(膜厚約100nm)を形成し、さらにここでの図示を省略した二酸化ケイ素(SiO2)を蒸着させることにより2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
次に、真空蒸着法により、有機層14の正孔注入層14aとして、下記m−MTDATAよりなる膜を30nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。ただし、m−MTDATAは、4、4'、4”−トリス(フェニル−m−トリルアミノ)トリフェニルアミンである。
次いで、正孔輸送層14bとして、下記α−NPDよりなる膜を30nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。ただし、α−NPDは、N、N’−ビス(1−ナフチル)−N、N’−ジフェニル[1、1’-ビフェニル]−4、4’―ジアミンである。
このようにして形成された正孔注入層14aおよび正孔輸送層14b上に、有機発光層14cとして、下記ADNと、合成例1で合成したアントラセン誘導体[構造式(1)−1]とを膜厚50nmで蒸着成膜した。ただし、ADNは、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(ADN)であり、ホスト材料として用いた。そして、このADNに、アントラセン誘導体[構造式(1)−1]をゲスト材料として相対膜厚比で4体積%ドーピングして発光層14cとした。
次いで、電子輸送層14dとして下記Alq3を20nmの膜厚で蒸着成膜した。Alq3は、8−ヒドロキシキノリンアルミニウムである。
以上のようにして、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dを順次積層してなる有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、Li2Oよりなる膜を真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度0.01nm/sec.)の膜厚で形成した。最後に、真空蒸着法により、第1層15a上に陰極15の第2層15bとして膜厚10nmのMgAg膜を形成した。
こうして作製した有機電界発光素子を直流電圧駆動したところ、青色の発色を確認し、発光輝度は電圧4.5Vで680cd/m2を示した。また、この発光輝度における外部量子収率は4.5%で,色純度は(0.13,0.11)となった.
<実施例2>
図1の発光層14cのゲスト材料として、アントラセン誘導体[構造式(1)−1]の代わりに、合成例2で合成したアントラセン誘導体[構造式(1)−17]を用いた以外は、実施例1と全く同様に有機電界発光素子を作製し、同様の評価を行った。
下記表2には、発光層14cのゲスト材料と、その評価結果を合わせて示した。尚、ゲスト材料の構造式番号は、表1-a、表1-bに準じる。
<比較例1、2>
図1の発光層14cのゲスト材料として、比較例1では非特許文献2に示されたアントラセン誘導体(D−1)を用い、また比較例2では特許文献2に示されたアントラセン誘導体(D−2)を用いたほかは、実施例1と全く同様に有機電界発光素子を作製し、同様の評価を行った。尚、上記表2には、評価結果も合わせて示した。
<実施例3>
次のようにして、基板側から発光光を取り出す透過型の有機電界発光素子を作製した。
真空蒸着装置中に、100nmの厚さのITOからなる陽極13が一表面に形成された30mm×30mmのガラスからなる基板12をセッティングした。
蒸着マスクとして、複数の2.0mm×2.0mmの単位開口を有する金属マスクを基板12の陽極13側に近接して配置し、真空蒸着法により、有機層14の正孔注入層14aとして、上記m−MTDATAよりなる膜を30nmの膜厚で形成した。次いで、正孔輸送層14bとして、上記α−NPDよりなる膜を35nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。
このようにして形成された正孔注入層14aおよび正孔輸送層14b上に、有機発光層14cとして、下記DTBADNと、合成例3で合成したアントラセン誘導体[構造式(1)−19]とを膜厚40nmで蒸着成膜した。ただし、DTBADNは、2,6−ジーtertブチルー9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセンであり、ホスト材料として用いた。そして、このDTBADNに、アントラセン誘導体[構造式(1)−19]をゲスト材料として相対膜厚比で2.5体積%ドーピングして発光層14cとした。
次いで、電子輸送層14dとして、上記Alq3を20nmの膜厚で蒸着した。
以上のようにして、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dを順次積層してなる有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、LiFよりなる膜を真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度0.01nm/sec.)の膜厚で形成した。最後に、真空蒸着法により、第2層15a上に陰極15の第2層15bとして膜厚70nmのMgAg膜を形成した。
こうして作製した有機電界発光素子を直流電圧駆動したところ、青色の発色を確認し、発光輝度は電圧6.8Vで1470cd/m2で、電流効率は6.1cd/Aであった。また、この発光輝度における外部量子効率は3.8%であり、色座標は(0.14、0.22)であった。
尚、この結果を、合わせて表2に示した。
以上の表2に示した結果から、本発明のアントラセン誘導体を、発光層14cのゲスト材料として用いた実施例1,2では、従来の公知材料であるアントラセン誘導体(D−1),(D−2)を発光層14cのゲスト材料に用いた比較例1,2と比べると、色座標(特にY値)に優れ、色純度が改善されている。
比較例1,2で用いた公知材料は緑色の発光となるため、青色発光よりも発光輝度は高くなることは自明ながら、発光色に依存しない電子注入に対する光子の生成率を規定する外部量子収率の指標を用いて比較すると、実施例1,2の外部量子効率が高く維持されることが確認できた。
そして、実施例3について測定した結果からは、有機電界発光素子として陽極としてITOを用いた透過型を構成した場合においても、本発明のアントラセン誘導体を発光層14cのゲスト材料として用いることで、同様の効果が得られることが確認された。
また以上の結果、本発明のアントラセン誘導体を用いた青色有機電界発光素子と共に、緑色有機電界発光素子と赤色有機電界発光素子を1組にして画素を構成することにより、色再現性の高いフルカラー表示が可能になることが確認された。