本発明は、研磨布に関し、特に磁気記録ディスクに用いられるアルミニウム合金基板を超高精度の仕上げでテクスチャー加工を施す際に好適に用いられ得る研磨布に関するものである。
磁気ディスク等の磁気記録媒体は、近年めざましい技術革新により高容量化と高記憶密度化の要求が高まり、このため各種基板表面加工の高精度化が要求されている。
近年、高容量化と高記憶密度化に伴い、記録ディスクと磁気ヘッドとの間隔、すなわち、磁気ヘッドの浮上高さは小さくなってきており、最近では5nm以下の浮上高さのものが要求されている。磁気ヘッドの浮上高さが著しく小さくなることにより、磁気ディスクの表面に突起があるとその突起と磁気ヘッドとが接触してヘッドクラッシュを起こし、ディスク表面に傷が発生する。また、ヘッドクラッシュには至らない程度の微小な突起でも、磁気ヘッドとの接触により情報の読み書きの際に発生するエラーの原因となる。記録ディスクについては、高容量化および高密度化と平行して小型化も進んできており、これに併せてスピンドル回転用のモーター等も小型化されてきている。このため、モーターのトルクが不足し、磁気ヘッドが記録ディスク表面とが密着し、浮上しなくなるというトラブルを引き起こす。
この記録ディスクと磁気ヘッドとの密着を防止する手段として、記録ディスクの基板表面にほぼ同心円状の微細な条痕を形成するテクスチャー加工という表面処理が行われている。また、このテクスチャー加工を行うことにより、ディスク基板上に金属磁性層を形成する際の結晶成長の方向性を制御することで記録方向の抗磁力を向上させることが可能となり、円周方向に磁気的配向を与えて磁気特性を向上している。
従来、テクスチャー加工の方法としては、遊離砥粒のスラリーを研磨布表面に付着させて研削を行うスラリー研削等が用いられている。しかしながら、テクスチャー加工によって、磁気ヘッドの低浮上を満足するための表面処理を行う場合、最近の急激な高記録容量化のための高記録密度化に対応するためには、研磨後のうねりを低くし、基板表面粗さを極めて小さくすることが要求され、その要求に対応しうる研磨布が求められている。テクスチャー加工において基板表面粗さを小さくするためには、クッション性や基材表面の平滑性に優れることから不織布を用いる方法が多く提案されてきた(特許文献1および特許文献2参照)。
中でも基材表面の平滑性向上やディスク基板表面への当たりの調節などを目的として、不織布を構成する繊維を極細化し、不織布に高分子弾性体を含浸させるという提案が種々なされている。例えば、0.3dtex以下の極細繊維からなる不織布に、高分子エラストマーを含浸させた研磨布が提案されており、この研磨布を用いた加工(特許文献3および特許文献4参照)では、0.5nm程度の表面粗さを実現している。
また、極細繊維が絡合してなる不織布中に、特定の湿潤弾性率を有するポリウレタンが含有されており、表面に、0.03dtex以下の繊度を有する極細繊維からなる立毛が存在するテクスチャー加工用研磨シート(特許文献5参照)が提案されている。このテクスチャー加工用研磨シートを用いた加工では、0.4nmの表面粗さを実現している。
また、繊維束内に繊維径の内外周差を有する極細繊維束からなる不織布と、その不織布の空隙に高分子弾性体を充填してなる基材(特許文献6参照)を用いて、0.31nmの表面粗さを実現している。
更に、平均繊度0.001〜0.1dtexのポリアミド極細短繊維の不織布からなる研磨布(特許文献7参照)が提案されており、この研磨布では0.28nmの表面粗さを実現している。
今後、更に表面粗さの極小化を実現できる技術が期待され、この技術の核となる超高精度な研磨布が要求されてきている。
一方、表面粗さの極小化が進むにつれて、基板表面に深い谷を有する局所的な傷、すなわちスクラッチ欠点及び、異常突起、すなわちリッジ欠点に対する許容範囲は狭くなってきている。すなわち、ハードディスクに要求される面記録密度を向上させるために、単位記録面積の極小化と磁気ヘッドの低浮上化が益々必要となってきており、従来のテクスチャー加工においてスクラッチ欠点、リッジ欠点と判定されなかった傷や突起がエラーの発生につながり、この傷や突起が欠点とみなされるため、更なる基板表面の平滑性、均一性の向上が必要となってきている。従来の研磨布では、繊維の極細化にて、研磨布表面繊維本数を多くすることにより、砥粒の分散性を高め、スクラッチ欠点、リッジ欠点を若干の減少につながるものの、研磨布表面繊維の粗密ムラが大きく、砥粒が局所的に凝集したり、局所的に砥粒が存在しない状態が発生し、研磨精度を低下させ、スクラッチ欠点及びリッジ欠点を生じやすく、生産歩留まりの観点から問題が内在していた。
遊離砥粒を含有するスラリーと不織布を主体とする研磨布を用いたアルミニウム合金基板のテクスチャー加工方法は、まず、研磨布をテープ状として用いる。次いで、アルミニウム合金基板を連続回転させた状態で、その研磨テープを基板に押し付けながら、基板の径方向に往復運動させ、連続的に研磨テープを走行させる。その際に、スラリーを研磨テープと基板との間に供給し、スラリー中に含まれる遊離砥粒が研磨テープを構成する繊維に微分散した状態で把持され、基板に接触し研磨を行う方法である。
特許文献1〜7に記載の従来の研磨布では、繊維の極細化により、研磨布表面に存在する表面繊維本数こそ多いものの、表面単繊維の繊維剛性の低下を伴い、前述のテクスチャー加工において、砥粒の把持力及び押しつけ力すなわち実質的な加工圧力が低下するため、基板表面のテクスチャー痕の凹凸形状が不明瞭な状態で形成され、最終的に形成されるテクスチャー加工面の表面粗さこそ小さいものであるが、テクスチャー痕の線密度が低く、凹凸の鋭角性に欠けることが影響して、分解能やS/N比などの電磁変換特性を著しく低下させる要因となり、ハードディスクドライブにおけるエラーの原因となっていた。
特許文献8には、アルミニウム合金基板に比べ表面硬度の高いガラス基板のテクスチャー加工用研磨布として、ポリエステル極細繊維不織布と高分子弾性体とからなる研磨布が提案されているが、この研磨布をアルミニウム合金基板のテクスチャー加工に適用した場合、高い研削力を有するものの、立毛繊維の緻密性、分散性が不十分であり、砥粒が微分散されないため、テクスチャー痕の線密度が低く満足できるものではなかった。また、極細繊維の繊度を下げるに伴い、繊維剛性が低下し、砥粒の押しつけ力が下がるため、凹凸の鋭角性に欠けるとともに、凹凸形状が不明瞭となり、テクスチャー痕の線密度が低く、十分な電磁変換特性が得られなかった。よって、極細立毛繊維の繊維剛性と緻密性、分散性の全てを満足しうる技術が必要となってきた。
ハードディスクの電磁変換特性を向上させるためには、表面粗さ、スクラッチ欠点、リッジ欠点を極小化しつつ、鋭角な凹凸形状を有するテクスチャー痕を線密度が高い状態で形成させる必要があり、本要求に対応しうる研磨布が求められている。
特開平9−262775号公報
特開平9−277175号公報
特開2000−242921号公報
特開2001−1252号公報
特開2002−79472号公報
特開2002−172555号公報
特開2002−273650号公報
特開2004−130395号公報
そこで本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、凹凸の鋭角性に優れ且つ線密度の高いテクスチャー痕を形成することができるとともに、スクラッチ欠点、リッジ欠点が少なく歩留まりが良く、更に基板表面上に表面粗さ0.3nm以下という高精度なテクスチャー加工を施すことができる研磨布を提供することにある。
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
すなわち、本発明の研磨布は、少なくとも、平均繊度が0.0001〜0.01dtexのポリエステル極細繊維束が絡合してなる不織布と、その不織布内部空間に存在するポリウレタンを主成分とした高分子弾性体とで構成されるシート状物からなる研磨布であって、該シート状物の少なくとも片面が該極細繊維からなる立毛面を有し、該極細繊維の固有粘度が0.80〜1.50であることを特徴とする研磨布である。
本発明によれば、研磨布表面上の立毛繊維の剛性が高く、また緻密且つ均一に分散した状態で分布しているので、アルミニウム合金基板のテクスチャー加工において、砥粒が局所的に集中することなく、微分散した状態で研磨布表面に分布し、且つ繊維表面における砥粒の把持性が高く、砥粒の単位粒子あたりの加工圧力が高いことにより、凹凸の鋭角性に優れ且つ線密度の高いテクスチャー痕を形成することができるとともに、スクラッチ欠点、リッジ欠点が少なく歩留まりが良く、更に基板表面上に表面粗さ0.3nm以下という高精度なテクスチャー加工を施すことができ、電磁変換特性に優れた記録ディスクの高記録密度化に対応可能な加工面として仕上げることができる研磨布を得ることができる。
本発明の研磨布を構成するシート状物について説明する。具体的には、極細繊維成分が固有粘度0.70〜1.50、好ましくは0.80〜1.50、より好ましくは0.90〜1.35のポリエステルからなる、極細繊維の平均繊度が0.0001〜0.01dtexの極細繊維発生型繊維を複合紡糸し、延伸、捲縮、カットを経て得られる複合繊維原綿を用いて、ニードルパンチング等の絡合処理を施して、複合繊維からなる不織布を作成する。次いで、該複合繊維から海成分を溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離・分割し、極細繊維化する前および/または後に、ポリウレタンを主成分とした高分子弾性体を、シート状物総重量に対し好ましくは5重量%以上60重量%以下付与し、該高分子弾性体を実質的に凝固し、固化させる。次いで、得られたシート状物にバフィング処理を施すことにより、シート状物表面に立毛面を形成する。以上の過程により本発明の研磨布を達成しうるものである。
さらに、本発明の研磨布の製造方法について詳細に記述する。
本発明において、耐摩耗性、砥粒の把持性、分散性及び押しつけ力(加工圧力)、表面平滑性の観点から、極細繊維を構成するポリマーはポリエステルであることが特に重要である。またその中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらを主体とした共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーから構成されていることが好ましい。これは、テクスチャー加工にて水系スラリー滴下後の湿潤状態での繊維剛性が高く、立毛面における繊維の均一分散性に優れるため、記録ディスクに用いられるアルミニウム合金基板を高効率かつ高精度にテクスチャー加工を行うことができるからである。一方で、水系スラリーとの親和性に優れるポリアミドを用いることも考えられるが、ポリエステルに比べ湿潤状態での繊維剛性が低く、砥粒の把持性及び押しつけ力が弱すぎるために、凹凸の鋭角性に劣るとともに、テクスチャー痕の線密度も低くなるため不適当である。
本発明において、砥粒の把持性、分散性及び押しつけ力の観点から、ポリエステル極細繊維の固有粘度は0.70〜1.50であることが特に重要である。またその中でも、0.80〜1.50であることは好ましく、0.90〜1.35であることがより好ましい。固有粘度が0.70未満である場合には、湿潤状態での繊維剛性が低くなるため、砥粒の把持力、押しつけ力共に低く、テクスチャー痕の凹凸形状の鋭角性に欠け、ラインが不明瞭となるとともに、線密度の低下につながるため好ましくない。一方、固有粘度が1.50を越える場合には、紡糸性の低下を招くと共に、繊維剛性が高くなりすぎるため、砥粒の押しつけ力が過剰に強くなり、スクラッチ欠点及びリッジ欠点の発生につながるため好ましくない。なお、固有粘度は次の測定方法により測定した値をいう。すなわち、オルソクロロフェノール25mlに対し、ポリエステルポリマーまたはポリエステル繊維2gを溶解したポリエステル溶液を作製し、そのポリエステル溶液の相対粘度ηrをオストワルド粘度計を用いて、25℃で測定し、次の近似式により固有粘度(IV)を算出する。
IV=0.0242×ηr+0.2634
但し、ηr=(t×d)/(t0×d0)
t :ポリエステル溶液の落下時間(秒)
t0 :オルソクロロフェノールの落下時間(秒)
d :ポリエステル溶液の密度(g/cc)
d0 :オルソクロロフェノールの密度(g/cc)、である。
本発明の研磨布に用いられる極細繊維の平均繊度は、研磨布表面の立毛繊維の緻密性、繊維強度及び砥粒の把持性の点から、0.0001〜0.01dtexであることが特に重要である。0.0001dtex未満である場合には、繊維強度及び剛性が低く、研削不足となるばかりでなく、砥粒の把持性に劣り、砥粒の局所的な凝集を招き、スクラッチ欠点が発生しやすいため好ましくない。一方、0.01dtexを越える場合には、立毛繊維の緻密性に劣り、砥粒が微分散されず、研磨布表面における砥粒分布の偏りが大きくなるため、テクスチャー痕の線密度が低くなると共に、スクラッチ欠点とリッジ欠点を抑制しきれないため好ましくない。なお、平均繊度は後述する測定方法により測定した値をいう。
所望の繊度を有する極細繊維を得るには、極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面放射状あるいは層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維や多層型複合繊維などを採用することができる。中でも、海島型複合繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち繊維束の内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、極細繊維からなるシート状物をバフィング処理し、立毛面を形成させた際の立毛の開繊性に優れているので好ましい。
海島型複合繊維の製造方法としては、例えば(1)2成分以上のポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸する方法、(2)あらかじめ2成分以上のポリマーを混練してチップ化した後紡糸する方法、(3)溶融状態の2成分以上のポリマーを紡糸機のパック内で静止混練器等で混合し紡糸する方法、および(4)特公昭44−18369号公報等の海島型複合用口金を用いて、海島の2成分を相互配列して紡糸する高分子相互配列体方式、等が挙げられる。
本発明において、極細繊維束内の単繊維の繊度CVが10%以下であることが好ましい。また下限は特に限定されないが、通常0.1%以上となる。ここでいう繊度CVとは、繊維束を構成する繊維の繊度標準偏差を束内平均繊度で割った値を百分率(%)表示したものであり、値が小さいほど繊維束内の繊度が均一であることを示すものである。繊度CVが10%を越える場合には、研磨布表面における低繊度繊維と高繊度繊維との剛性差に起因する立毛繊維の分布の偏りが生じると共に、砥粒分散及び押しつけ力の均一性に欠け、スクラッチ欠点及びリッジ欠点を十分に抑制しきれないため好ましくない。所望の繊度CVを得るには、極細繊維発生型繊維の中でも、均一な繊度の極細繊維が得られる点で上記(4)の高分子相互配列体方式による海島型複合繊維が好ましい。
海島型複合繊維および海成分を除去して得られる島繊維の断面形状は特に限定されず、例えば、丸、楕円、扁平および三角などの多角形や、扇、十字、Y、H、X、W、Cおよびπ型などが挙げられる。また、用いられるポリマー種の数も特に限定されるものではないが、紡糸安定性を考慮すると2ないし3成分であることが好ましく、特に海1成分、島1成分の2成分で構成されることが好ましい。また、このときの成分比は、島繊維の海島型複合繊維に対する重量比で0.2〜0.9であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.8である。この成分比が0.2以上であると、海成分の除去率が多すぎず、生産性が著しく低下することなく、コスト的にも好ましい。また、成分比が0.9以下であると、島成分繊維の開繊性に優れ、均一な立毛面を得ることができるため好ましい。
海島型複合繊維の海成分を構成する樹脂としては、島成分を構成するポリマーであるポリエステル樹脂よりも溶解性や分解性の高い化学的性質を有するという点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、共重合ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合成分とした共重合ポリエステルおよびポリ乳酸などを用いることが好ましい。
海成分を溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよび共重合ポリスチレンの場合は、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤が用いられ、また海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができ、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、窄液を行うことによって、海成分を除去することができる。特に、ニードルパンチしたときの繊維の高絡合化による表面繊維の高密度化の観点から、ポリスチレン、共重合ポリスチレン、ポリエステル、共重合ポリエステルおよびポリ乳酸が好ましく使用される。
本発明において、耐摩耗性及び高研削力の観点から、ポリエステル極細繊維の引張強度は3.5cN/dtex以上であることが好ましく、4cN/dtex以上であることがより好ましく、5cN/dtex以上であることが更に好ましい。3.5cN/dtex以上とすれば、繊維の切断や繊維凝集によって、研磨布の表面粗さが大きくなって、加工ムラが発生し、基板の平滑性が低下することがなく、また、繊維凝集部分で砥粒が局所的に集中して分布することにより、スクラッチが発生しやすくなることもない。
このようにして得られた海島型複合繊維を、絡合させて不織布とする。本発明の研磨布を構成するための不織布を得るには、海島型複合繊維を短繊維化し、カード・クロスラッパーを用いてシート幅方向に配列させた積層ウエブを形成せしめた後、ニードルパンチ処理を行うことが好ましい。ウエブを形成するという点においては、ランダムウエブなどを用いることも可能である。また、メルトブローやスパンボンドなど、紡糸から直接形成する長繊維不織布でもよいように考えられる。しかしながら、とりわけ本発明の研磨布においては、長繊維不織布は、極細繊維相互の絡合織編物および表面繊維の緻密性が、短繊維不織布より劣り、かつ表面繊維本数密度の粗密ムラが大きくなり、研磨砥粒の分布の偏りが大きく、且つ局所的な砥粒の凝集を招き、スクラッチの発生につながる。そのため、極細長繊維不織布は研磨布として短繊維不織布より劣る。
ニードルパンチ処理のパンチング本数は、繊維の高絡合化による緻密な立毛面形成の観点から、1000〜4000本/cm2であることが好ましい。パンチング本数が1000本/cm2であれば、表面繊維の緻密性に優れ、所望の高精度の仕上げを得ることができ、また、パンチング本数が4000本/cm2以下であると、加工性の悪化を招くとがなく繊維損傷や強度低下につながることもない。ニードルパンチング後の複合繊維不織布シートの繊維密度は、表面繊維本数の緻密化の観点から、0.15〜0.4g/cm3であることが好ましく、0.2〜0.3g/cm3であることがより好ましい。
このようにして得られた複合繊維不織布は、表面繊維本数の緻密化の観点から、乾熱または湿熱、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。
また、極細繊維化処理をした後に、極細繊維および/または極細繊維束の相互絡合をより高め、緻密化させることよび極細繊維束の開繊性を高め、平滑性を向上させるという点から、ウオータージェットパンチング処理などの高速流体流処理や、液流染色機、ウィンス染色機、ジッガー染色機、タンブラーおよびリラクサー等を用いた揉み処理を適宜組み合わせて実施しても良い。高速流体流処理と揉み処理を組み合わせて行う場合には、揉み加工時の寸法変動を抑える点から、高速流体流処理を行った後に揉み処理を行うことが好ましい。高速流体流処理として、作業環境の点で水流を使用するウオータージェットパンチング処理が好ましく、ウオータージェットパンチング処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流を得るには、通常、直径0.06〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで噴出させる方法が好適に用いられる。
本発明の研磨布に用いられるポリエステル極細繊維不織布において、被研磨物へのフィット性及びスクラッチ抑制の点から、主体をなすポリエステル極細繊維以外にも、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン12及び共重合ナイロンなどのポリアミド類からなる極細繊維を混合して使用してもよい。また、テクスチャー痕の高線密度と凹凸の鋭角性の点からすると、混合量としては、繊維総重量に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下の量的に少ない方が好ましく採用される。更に、スクラッチ欠点とリッジ欠点の抑制の点から、ポリアミド類からなる極細繊維の平均繊度は、好ましくは0.0001〜0.05dtex、より好ましくは0.0001〜0.01dtexである。
本発明の研磨布は、前記不織布シートを極細繊維化処理する前および/または後に、ポリウレタンを主成分とする高分子弾性体を付与させることにより得ることができる。かかる高分子弾性体は、表面凹凸や振動吸収のためのクッション、繊維形態保持などの役割を有し、極細短繊維不織布の内部空間に高分子弾性体を充填し一体化させることにより、被研磨物へのフィット性および被研磨物表面の傷の抑制効果に優れるものである。
かかる高分子弾性体の主成分として用いるポリウレタンのポリマージオール成分の分子量としては、好ましくは500〜5000、より好ましくは1000〜3000であるのがよく、その原料であるジオール成分としては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリラクトンジオールもしくはこれらの共重合物が好ましく用いられる。また、ジイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、脂環式イソシアネート、脂肪族系イソシアネートなどを使用することができる。
かかるポリウレタンの複合繊維不織布への付与方法としては、ポリウレタンを塗布あるいは含浸後凝固させる方法などを採用することができる。中でも、加工性の点から、複合繊維不織布中にポリウレタン溶液を含浸した後に、湿式凝固させる方法が好ましく使用される。
ポリウレタンの重量平均分子量は、100,000〜300,000が好ましく、より好ましくは150,000〜250,000である。重量平均分子量を100,000以上とすることにより、得られるシート状物の強度を保持し、また立毛面上の極細繊維の脱落を防ぐことができる。また、重量平均分子量を300,000以下とすることで、ポリウレタン溶液の粘度の増大を抑えて複合繊維不織布への含浸を行いやすくすることができる。
また、バッフィング処理を施した際に、立毛面上の極細繊維の緻密性と均一性を満足する観点から、ポリウレタンのゲル化点は2.5〜6.0mlであることが好ましい。ゲル化点は、より好ましくは3〜5mlの範囲である。ポリウレタンのゲル化点とは、ポリウレタン1重量%のN,N’−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)溶液100gを攪拌しながら、この溶液中に蒸留水を滴下し、25±1℃の温度条件でポリウレタンの凝固が開始して微白濁したときの水滴下量の値である。このため、測定に用いられるDMFは、水分0.03%以下のものを使用する必要がある。前述の測定方法は、ポリウレタンDMF溶液が透明であることを前提にして記載しているが、ポリウレタンDMF溶液が予め微白濁している場合には、ポリウレタンの凝固が開始し始めて白濁程度が変化したときの水滴下量をゲル化点とみなすことができる。ゲル化点が2.5ml未満の場合には、ポリウレタンを湿式凝固させる際に、凝固速度が速すぎるため、複合繊維不織布内部空間に存在するポリウレタンの発泡が大きな粗雑なものとなり、また一部発泡不良を生じる結果、バッフィング処理によりシート表面を研削した場合に、立毛面上の極細繊維の立毛長さに斑が生じたり、立毛繊維の分布に偏りが生じたものとなり、研磨砥粒が立毛面に均一に分散した状態が得られず、超高精度の仕上げを実現できないことがある。一方、ゲル化点が6.0mlを超えると、ポリウレタンを湿式凝固させる際に、凝固速度が遅すぎるため、複合繊維不織布内部空間に存在するポリウレタンにはほとんど発泡が認められず、非常に膜厚の厚い硬いポリウレタンとして存在し、バッフィング処理によるシート表面を研削した場合に、ポリウレタンの研削を行いにくく、立毛面上の極細繊維の立毛長さが非常に短く、かつ繊維束の開繊性に劣り、表面繊維本数密度の粗密ムラが大きくなるため、研磨砥粒の局所的な凝集を招き、スクラッチの発生につながる。
また、高分子弾性体は、主成分としてポリウレタンを用いるが、バインダーとして性能や立毛繊維の均一分散状態を損なわない範囲で、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂およびエチレン−酢酸ビニル樹脂などが含まれていても良く、各種の添加剤、例えば、リン系、ハロゲン系、無機系などの難燃剤、フェノール系、硫黄系、リン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系およびベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤および凝固調整剤などを微量含有していても良い。
本発明の研磨布において、表面繊維分布の緻密性および均一性、すなわち立毛繊維を構成する繊維束の開繊性に優れた状態を両立させるためには、ポリウレタンを主成分とした高分子弾性体は、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布について、極細繊維の繊維束内部には実質的に存在しないことが好ましい。繊維束内部にまで高分子弾性体が存在すると、各極細繊維と接着して存在することになるため、バフィング処理の際に表面繊維の引きちぎり、つまり切断が著しく、かつ、繊維が束状で分散されない状態となる。
ポリウレタンを主成分とした高分子弾性体が、極細繊維の繊維束内部には実質的に存在しない形態を得る方法としては、ポリウレタンをジメチルホルムアミドなどの溶剤により溶液とし、(1)極細繊維発生型の海島型複合繊維が絡合した不織布に、前記ポリウレタン溶液を含浸し、水もしくは有機溶媒水溶液中で凝固させた後、海島型複合繊維の海成分を、ポリウレタンは溶解しない溶剤で溶解除去する方法、(2)極細繊維発生型の海島型複合繊維が絡合した不織布に、鹸化度が好ましくは80%以上のポリビニルアルコールを付与し、繊維の周囲の大部分を保護した後、海島型複合繊維の海成分を、ポリビニルアルコールは溶解しない溶剤で溶解除去し、次いでポリウレタンの溶液を含浸し、水もしくは有機溶剤水溶液中で凝固させた後、ポリビニルアルコールを除去する方法などを好ましく用いることができる。
また、高分子弾性体の不織布内部における形態は、繊維の脱落が少なく、立毛繊維の方向性を均一に揃える点から、極細繊維の繊維束の最外周に位置する単繊維の少なくとも一部が接合している状態であることが好ましい。この形態は、前記(2)の方法によって得ることができる。すなわち、ポリビニルアルコールが極細繊維束の外周の大半を保護しているため、極細繊維の繊維束の内部へのポリウレタンの侵入を防ぎ、部分的にポリビニルアルコールの保護がない繊維束の外周部にはポリウレタンが接着することになる。
本発明の研磨布において、クッション性およびフィット性は、研磨精度の上で重要であり、極細繊維と高分子弾性体の割合や空隙率(見掛け密度でわかる)によって制御し、調節される。高分子弾性体の含有率は、シート状物の総重量に対し、5重量%以上60%重量%以下であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上35重量%以下である。含有量によって研磨布の表面状態、空隙率、クッション性、硬度および強度などを適宜調節することができる。高分子弾性体の含有率が5%未満である場合には、繊維脱落が多くなり、また60%を超えると、加工性および生産性に劣るともに、シート状物表面上において極細繊維が均一分散した立毛面を得られにくい。
本発明の研磨布において、極細繊維と高分子弾性体とからなるシート状物の少なくとも片面に、極細繊維からなる立毛面を有することが特に重要である。該立毛面はバッフィング処理により得られる。ここでいうバッフィング処理としては、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いてシート表面を研削する方法などが一般的である。とりわけ、シート表面をサンドペーパーを使用して起毛処理することにより、均一で緻密な立毛を形成することができる。更に、超高精度の仕上げで基板表面にテクスチャー加工を施し、かつスクラッチを抑制する目的で、シート表面上の表面繊維分布の均一性及び緻密性を向上させ、立毛繊維の方向性を極めて少なくするためには、研削負荷をより小さくすることが好ましい。研削負荷が高い状態では、巻き毛状となる立毛繊維が多く、また立毛繊維が束状に膠着した状態となりやすい。研削負荷を小さくするためには、バフ段数やサンドペーパー番手などを適宜調整することが好ましい。中でも、バフ段数は3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手をJIS規定の150番〜600番の範囲とすることが好ましい。
本発明では、研磨布の立毛面における表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅以上であることが好ましい。上限は特に限定されず、数値が大きいほど好ましいが、通常1000本/100μm幅以下となる。ここでいう表面繊維本数の線密度は、以下により定義されるものである。該研磨布の立毛面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、シート連続長手方向において、任意に1mm間隔で100μm幅の30カ所を抽出する。各抽出箇所における最表層に存在する極細繊維の繊維本数を測定し、表面繊維本数の線密度とする。また、これを母集団とした平均値を算出する。表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅未満である場合には、緻密性に劣り、砥粒を微細に分散させるに至らず、高精度の仕上げを達成できないとともに、研磨布表面上の繊維が存在しない部分に砥粒が凝集し、スクラッチの発生につながりやすい。
また、本発明の研磨布において、JIS B−0601(2001年版)の規定に基づいて測定される表面粗さは、30μm以下であることが好ましい。表面粗さは、より好ましくは20μm以下である。下限は特に限定されず、小さいほど好ましいが、通常0.1μm以上となる。表面粗さが30μmを超えると、テクスチャー加工表面のうねりを抑制することができず、また所望の表面粗さを達成し得ないことがある。
表面繊維本数の線密度と表面粗さについて、本発明の要件を満足させるためには、前述した極細短繊維不織布および高分子弾性体の構成をとり、前記シート状物の製造方法を採用し、且つ研磨布の繊維見掛け密度としては、表面繊維の緻密性及び均一性を高くすることと砥粒の保持性、押しつけ力とを考慮すると、0.2〜0.5g/cm3の範囲にあることが好ましい。
また、本発明の研磨布の水滴吸収時間は1〜60秒であることが好ましい。より好ましくは2〜30秒、さらに好ましくは2〜10秒である。60秒を超えると、連続的に砥粒を研磨表面上に供給した場合、研磨表面が湿潤状態になるのが遅く、砥粒が十分に分散できずスクラッチが増加しやすくなり、研磨精度が低下する。また、吸水時間が1秒未満であると、研磨布内層部へのスラリー抜けが多く、研磨布表面での砥粒の保持量の低下につながるため、テクスチャー痕の線密度が低くなると共に、研削量不足になりやすいため好ましくない。本発明でいう水滴吸収時間は、協和界面科学(株)製FACE/CA−A型の接触角想定装置を利用し、装置付属の注射器に蒸留水を入れ、注射針(外径0.60mm、内径0.45mm)から水滴1滴を研磨布上に滴下し、その水滴を該装置の接眼レンズから観察して、下式により算出する。
tq(水滴吸収時間)=t2−t1 (秒)
ここで、水滴が研磨布上に落ちた時刻をt1とし、水滴は時間経過とともに研磨布中に吸い込まれ、表面上に水滴がなくなる時刻をt2とする。
このt1、t2の状態は、通常の場合(およそtqが10秒以上)では目視で測定可能であるが、非常に速い場合や観察し難い場合は、前述の装置で水滴が注射針から滴下開始する時間から水滴が研磨布中に十分吸収されるまでの状態を該装置の接眼レンズを通して水滴の状態の全画像をビデオに撮影する。そのビデオ画像を再生し、t1、t2の状態とその録画時間から水滴の吸収時間を測定することができる。
なお、吸水時間tqは、製品から任意に取出した試料で20個の測定を行い、該20個の測定値(tq)の中で、最も大きい方の5個のデータの平均値をとり、該平均値を吸水時間の値とする。
水滴吸収時間を本発明の範囲とする手段は特に限定されず、吸水性に優れた繊維を用いるほか、不織布の密度や繊維繊度等によって総合的に調整されるものであるが、さらに基材が同一であっても、親水性成分溶液にて親水化加工処理をすることによっても可能、かつ有効であり、好ましい方法である。この処理は、上述した製造方法のうち、いずれのタイミングで行っても良いが、水滴吸収時間の調整が容易な点で、好ましくは、高分子弾性体を付与後、立毛面を形成する前もしくは後が良い。この場合、基材の密度や繊度、使用する繊維種等によって、その処理薬剤や付与量は目的に応じ、適宜調整する必要がある。
ここで、親水性成分としては特に限定されないが、アクリル酸系、メタアクリル酸系、ポリエチレングリコール系、スルホン化ポリエステル系、メラミン系樹脂、アクリル酸誘導体4級アンモニウム塩ポリマー、水溶性ポリアルキレングリコール、テレフタル酸及びエチレングリコールをブロック共重合したもの、その他界面活性剤などが好ましく用いられる。そして、その溶液又はエマルジョン水溶液を用いて浸漬処理、噴霧処理、コーティング処理、等で処理した後、80〜190℃で乾燥し固着する。該界面活性剤には、イオン系と非イオン系界面活性剤があるが、金属成分を回避する点から非イオン系の界面活性剤が好ましい。また、研磨布全体の吸水性を大きくしすぎると、砥粒スラリーが基布内部に浸透し効率が低下するので、全体をやや撥水処理後、表面を親水性成分処理剤で加工し、吸水性を抑制する方法も好ましい。
本発明では、スクラッチ欠点及びリッジ欠点の抑制の点から、研磨布中に含まれる金属あるいは金属化合物の含有量は、研磨布の総重量に対する金属元素の重量として100ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、全く含有していないことが更に好ましい。100ppm以下であれば、金属あるいは金属化合物が基板表面に接触することによる、スクラッチ欠点及びリッジ欠点の発生を抑制できるため、好ましい。
研磨布中に含まれる金属あるいは金属化合物の例としては、鉄、酸化鉄、繊維ポリマーの添加剤として用いられる二酸化チタンなどが挙げられる。
また、本発明では、研磨布中の珪素化合物の含有量は、研磨布の総重量に対する珪素元素の重量として100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。100ppm以下である場合、テクスチャー加工後に磁性膜をスパッタリングした後の、磁性膜の剥離の発生やハードディスクドライブにおけるエラーの発生を抑制できるため好ましい。
本発明の研磨布をテープ状として、テクスチャー加工を施す際に、寸法変化が生じると、基板表面を均一に研磨することができないため、研磨布の形態安定性の点から、本発明に用いられるシート状物の目付は100〜400g/m2であることが好ましく、150〜300g/m2であることがより好ましい。更に、テクスチャー加工時のテープ伸びによる加工ムラ、スクラッチ欠点の発生を抑える点から、研磨布の片面に補強層を接着しても良い。研磨布に補強層を設ける際には、補強層を接着したシート状物の反対面が立毛面となっていることが必須条件である。
また、研磨布に補強層を接着する方法として、熱圧着法、フレームラミ法、補強層とシート状物との間に接着層を設ける方法のいずれを採用してもよい。また、接着層としては、ポリウレタン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエン(NBR)、ポリアミノ酸およびアクリル系接着剤などゴム弾性を有するものであれば使用可能である。コストや実用性を考えると、NBRやSBRのような接着剤が好ましい。接着剤の付与方法としては、エマルジョンや、ラテックス状態でシート状物に塗布する。
補強層としては、織編物や熱接着繊維を用いた不織布なども考えられるが、高精度のテクスチャー加工を行うには、厚みや物理特性において均一なフィルム状物を使用することが好ましい。補強層に織編物や熱接着繊維を用いた場合には、補強層の表面の凹凸が大きすぎるために、研磨布全体に補強層の凹凸が反映し、基板表面のうねりを抑制することができず、かつ所望の表面粗さを達成し得ないことがある。
フィルム状物は、表面の平滑性に優れることから、研磨布表面の平滑性を損なうことなく、高精度のテクスチャー加工を行うことができる。ここでいうフィルムとなる素材としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系およびポリフェニルサルファイド系などのフィルム形状を有するものであれば使用可能であるが、汎用性を考えるとポリエステルフィルムを使用することが好ましい。フィルムからなる補強層を設ける場合には、テクスチャー加工時のシートの形態安定性、クッション性および基板表面へのフィット性を全て満足させる点から、不織布からなるシート状物との厚みバランスをとることが必要である。不織布からなるシート状物は、仕上がり厚みとして0.4mm以上であることが好ましく、生産性の点からより好ましくは0.4〜2mmの範囲である。そのため、フィルムの厚みは20〜100μmとすることが好ましい。不織布からなるシート状物の厚みが0.4mm未満であると、テクスチャー加工時の寸法変化が大きく、超高精度の仕上げが行えないため補強層が必要であるが、補強層の効果が強くクッション性を失ってしまうことがある。フィルム層の厚みが20μm未満であると、テクスチャー加工時の寸法変化を抑えることが困難であり、100μmを超えると、研磨布全体の剛性が高くなりすぎるために、スクラッチの発生を抑えることができないため好ましくない。
本発明の研磨布を用いて、テクスチャー加工を行う方法としては、かかる研磨布を加工効率と安定性の観点から、30〜50mm幅のテープ状にカットして、テクスチャー加工用テープとして用いる。該研磨テープと遊離砥粒を含むスラリーとを用いて、アルミニウム合金磁気記録ディスクのテクスチャー加工を行う方法が好適な方法である。研磨条件として、スラリーは、ダイヤモンド微粒子などの高硬度砥粒を水系分散媒に分散したものが好ましく用いられる。砥粒の保持性と分散性の観点から、本発明の研磨布を構成する極細繊維に適合した砥粒の1次粒子径は、1〜100nmであることが好ましく、1〜20nmであることがより好ましい。
本発明で得られた研磨布は、表面上の立毛繊維の剛性が高く、また緻密且つ均一に分散した状態で分布しているので、アルミニウム合金基板のテクスチャー加工において、砥粒が局所的に集中することなく、微分散した状態で研磨布表面に分布し、且つ繊維表面における砥粒の把持性が高く、砥粒の単位粒子あたりの加工圧力が高いことにより、凹凸の鋭角性に優れ且つ線密度の高いテクスチャー痕を形成することができるとともに、スクラッチ欠点、リッジ欠点が少なく歩留まりが良く、更に基板表面上に表面粗さ0.3nm以下という高精度なテクスチャー加工を施すことができ、電磁変換特性に優れた記録ディスクの高記録密度化に対応可能な加工面として仕上げることができる。
以下、実施例により、本発明の研磨布についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実施例で用いた評価法とその測定条件について、以下に説明する。
(1)固有粘度
オルソクロロフェノール25mlに対し、ポリエステルポリマーまたはポリエステル繊維2gを溶解したポリエステル溶液を作製し、そのポリエステル溶液の相対粘度ηrをオストワルド粘度計を用いて、25℃で測定し、次の近似式により固有粘度(IV)を算出する。
IV=0.0242×ηr+0.2634
但し、ηr=(t×d)/(t0×d0)
t :ポリエステル溶液の落下時間(秒)
t0 :オルソクロロフェノールの落下時間(秒)
d :ポリエステル溶液の密度(g/cc)
d0 :オルソクロロフェノールの密度(g/cc)
(2)平均繊度及び繊度CV
研磨布を厚み方向にカットした断面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、束状繊維の1つの束内を構成する極細繊維の繊維径を測定し、各極細繊維について繊維成分の比重と繊維径から繊度を算出する。同様の測定を合計5つの束状繊維について行い、これを母集団とした標準偏差値および平均値を算出する。該平均値を平均繊度とし、該標準偏差値を該平均値で割った値を百分率(%)で表したものを繊度CVとした。
(3)表面繊維本数の線密度
研磨布の立毛面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、シート連続長手方向において、任意に1mm間隔で100μm幅の30カ所を抽出する。各抽出箇所における最表層に存在する極細繊維の繊維本数を測定し、その平均値を表面繊維本数の線密度とした。
(4)水滴吸収時間
FACE/CA−A型の接触角測定装置(協和界面科学(株)製)を用い、注射器に蒸留水を入れ、注射針(外径0.60mm、内径0.45mm)から水滴1滴を研磨布上に滴下し、その水滴を該装置の接眼レンズから観察し、吸収時間(tq)を次式にて求めた。
tq=t2−t1 (秒)
t1:水滴が研磨布上に落ちた時間
t2:研磨布中に水滴が吸い込まれ、表面上に水滴がなくなる時間
このt1、t2の状態は、通常の場合(およそtqが10秒以上)では目視で測定可能であるが、非常に速い場合や観察し難い場合は、前述の装置で水滴が注射針から滴下開始する時間から水滴が研磨布中に十分吸収されるまでの状態を該装置の接眼レンズを通して水滴の状態の全画像をビデオに撮影してから測定することができる。
このようにして、製品から任意に取出した試料で20個の測定を行い、該20個の測定値(tq)の中で、最も大きい方の5個のデータの平均値をとり、該平均値を吸水時間の値とした。
(5)研磨布の表面粗さ
JIS B−0601(2001年版)に準拠して、大きさ3cm×3cmの試験片を10枚準備する。次いで、その中の1枚を表面粗さ計SURFCOM1400Dに取り付ける。室温20℃、湿度60%下で、測定検知部の曲率半径1.25μm、検知部速度0.6mm/秒、測定倍率タテ500倍、測定倍率ヨコ20倍、カットオフ長2.5mmの条件下にて、試料1枚あたりにつき、測定長5mmの試料表面粗さを測定する。同様の方法で計10枚測定を行い、得られた試料10枚の表面粗さの平均値で評価する。
(6)珪素含有量
試料5gに硫酸を添加し、一昼夜放置して炭化させた後、ホットプレートにて硫酸を揮散させた。得られた炭化物を電気炉にて550℃、2時間加熱し、灰化処理を行った。得られた灰化物を炭酸ナトリウム融解し、希塩酸に溶解させたものを試料溶液とした。試料溶液をICP発光分光分析装置に導入し、珪素の定量を行った。
(7)金属含有量
試料5gを白金るつぼに秤り取り、硫酸を加えガスバーナー、電気炉を用いて灰化処理を行った。得られた残留物を重硫酸カリウム融解処理し、蒸留水に溶解させたものを試料溶液として、ICP発光分析装置に導入し、チタンの定量を行った。前記と同様の操作にて試料溶液を作製し、原子吸光分析装置に導入し、鉄の定量を行った。このチタンと鉄の含有量の合計を金属含有量とした。
(8)基板表面粗さ
JIS B 0601(2001年版)に準拠して、Schmitt Measurement Systems,Inc製TMS−2000表面粗さ測定器を用いて、テクスチャー加工後のディスク基板サンプル5枚の両面、すなわち計10表面の全領域平均粗さを測定し、10表面の測定値を平均することにより基板表面粗さを算出した。数値が低いほど高性能であることを示す。
(9)スクラッチ点数
テクスチャー加工後の基板5枚の両面、すなわち計10表面の全領域を測定対象として、Candela5100光学表面分析計を用いて、深さ3nm以上の溝をスクラッチとし、スクラッチ点数を測定し、10表面の測定値の平均値で評価した。数値が低いほど高性能であることを示す。
(10)リッジ点数
原子間力顕微鏡AFMを用いて、テクスチャー加工後の基板サンプル表面の任意の10カ所(1カ所あたりの観察領域はディスク表面上の5μm×5μmの領域である)について、高さ5nm以上の突起をリッジとして、その個数を測定し、その合計点数をリッジ点数とした。
(11)ラインデンシティ
原子間力顕微鏡AFMを用いて、テクスチャー加工後の基板サンプル表面の任意の10カ所について、半径方向長さ1μmあたりに形成されているテクスチャー痕の本数を測定し、その平均値をラインデンシティ(テクスチャー痕の線密度)とした。数値が大きいほど高性能であることを示す。
(実施例1)
(シート状物の製造)
島成分として固有粘度が1.28のポリブチレンテレフタレートを、また海成分として共重合ポリスチレンを用いて、島本数200島/ホールの高分子相互配列体方式の海島型複合用口金を通して、島/海重量比率50/50で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、カットを経て、単繊維繊度4dtexの海島型複合繊維の原綿を作製した。
次いで、この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、2500本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付700g/m2、密度0.22g/cm3の複合繊維不織布を作製した。この複合繊維不織布を熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール12%水溶液に含浸し乾燥した。その後、トリクロロエチレン中で海成分である共重合ポリスチレンを溶解除去し、乾燥を行って、極細繊維束が絡合してなる極細繊維不織布を得た。
次いで、該極細繊維不織布に、ポリウレタン(ポリマージオールがポリエーテル系とポリエステル系との比率が75対25の割合からなり、ゲル化点が3mlのもの)をシート総重量に対し、20重量%含浸させ、水中で該ポリウレタンを凝固した後、ポリビニルアルコールを熱水にて溶解除去し、乾燥した。得られたシート状物を、厚み方向に半裁した後、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いて、非スライス面に対し、3段バッフィングを施して立毛面を形成させて立毛シート状物を作製し、厚さ0.55mm、目付210g/m2 、繊維見掛け密度0.30g/cm3 の研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.01dtex、繊度CVは8%、固有粘度は1.25であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は50本/100μm幅、水滴吸収時間は10秒、表面粗さは20μmであり、珪素含有量は30ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
(テクスチャー加工)
該研磨布を40mm幅のテープとし、以下の条件でテクスチャー加工を行った。
アルミニウム基板にNi−Pメッキ処理した後、ポリッシング加工し平均表面粗さ0.2nmに制御したディスクを用い、研磨布表面に1次粒子径1〜10nmのダイヤモンド結晶からなる遊離砥粒スラリーを滴下し、テープ走行速度を5cm/分の条件で10秒間研磨を実施した。
テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.15nm、スクラッチ点数は15、リッジ点数は0であり、ラインデンシティは20本/μm幅であり、緻密でかつ均一なテクスチャー痕が形成された加工面であり、加工性も良好であった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板は、電磁変換特性に極めて優れるものであった。
(実施例2)
島成分として固有粘度が0.88のポリブチレンテレフタレートを、また海成分として共重合ポリスチレンを用いて、島本数200島/ホールの高分子相互配列体方式の海島型複合用口金を通して、島/海重量比率60/40で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、カットを経て、単繊維繊度3.5dtexの海島型複合繊維の原綿を作製した。
次いで、この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、2500本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付600g/m2、密度0.2g/cm3の複合繊維不織布を作製した。この複合繊維不織布を熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール12%水溶液に含浸し乾燥した。その後、トリクロロエチレン中で海成分である共重合ポリスチレンを溶解除去し、乾燥を行って、極細繊維束が絡合してなる極細繊維不織布を得た。
次いで、該極細繊維不織布に、実施例1と同一のポリウレタンをシート総重量に対し、20重量%含浸させ、水中該ポリウレタンを凝固した後、ポリビニルアルコールを熱水にて溶解除去し、乾燥した。得られたシート状物を、厚み方向に半裁した後、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いて、非スライス面に対し、3段バッフィングを施して立毛面を形成させ、厚さ0.55mm、目付200g/m2 、繊維見掛け密度0.29g/cm3 の研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.01dtex、繊度CVは8%、固有粘度は0.85であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は47本/100μm幅、水滴吸収時間は8秒、表面粗さは25μmであり、珪素含有量は30ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.16nm、スクラッチ点数は20、リッジ点数は1であり、ラインデンシティは17本/μm幅であり、加工性は良好であった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板は、電磁変換特性に優れるものであった。
(実施例3)
島成分として固有粘度が0.88のポリブチレンテレフタレートを、また海成分として共重合ポリスチレンを用いて、島本数200島/ホールの高分子相互配列体方式の海島型複合用口金を通して、島/海重量比率40/60で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、カットを経て、単繊維繊度3.5dtexの海島型複合繊維の原綿を作製した。
次いで、この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、2500本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付600g/m2、密度0.2g/cm3の複合繊維不織布を作製した。この複合繊維不織布を熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール12%水溶液に含浸し乾燥した。その後、トリクロロエチレン中で海成分である共重合ポリスチレンを溶解除去し、乾燥を行って、極細繊維束が絡合してなる極細繊維不織布を得た。
次いで、該極細繊維不織布に、実施例1と同一のポリウレタンをシート総重量に対し、30重量%含浸させ、水中該ポリウレタンを凝固した後、ポリビニルアルコールを熱水にて溶解除去し、乾燥した。得られたシート状物を、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いて、片面に対し、3段バッフィングを施して立毛面を形成させ、厚さ0.8mm、目付260g/m2 、繊維見掛け密度0.23g/cm3 の研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.007dtex、繊度CVは9%、固有粘度は0.83であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は60本/100μm幅、水滴吸収時間は8秒、表面粗さは20μmであり、珪素含有量は35ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.14nm、スクラッチ点数は20、リッジ点数は0であり、ラインデンシティは18本/μm幅であり、加工性は良好であった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板は、電磁変換特性に優れるものであった。
(実施例4)
島成分として固有粘度が1.20のポリエチレンテレフタレートを、また海成分としてポリスチレンを用いて、島本数200島/ホールの高分子相互配列体方式の海島型複合用口金を通して、島/海重量比率50/50で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、カットを経て、単繊維繊度4dtexの海島型複合繊維の原綿を作製した。
次いで、この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、3000本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付650g/m2、密度0.22g/cm3の複合繊維不織布を作製した。この複合繊維不織布を熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール12%水溶液に含浸し乾燥した。その後、トリクロロエチレン中で海成分であるポリスチレンを溶解除去し、乾燥を行って、極細繊維束が絡合してなる極細繊維不織布を得た。
次いで、該極細繊維不織布に、実施例1と同一のポリウレタンをシート総重量に対し、20重量%含浸させ、水中該ポリウレタンを凝固した後、ポリビニルアルコールを熱水にて溶解除去し、乾燥した。得られたシート状物を、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いて、片面に対し、3段バッフィングを施して立毛面を形成させ、厚さ0.55mm、目付190g/m2 、繊維見掛け密度0.28g/cm3 の研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.01dtex、繊度CVは8%、固有粘度は1.17であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は52本/100μm幅、水滴吸収時間は10秒、表面粗さは22μmであり、珪素含有量は35ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.17nm、スクラッチ点数は25、リッジ点数は1であり、ラインデンシティは19本/μm幅であり、加工性は良好であった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板は、電磁変換特性に優れるものであった。
(実施例5)
島成分として固有粘度が1.50のポリエチレンテレフタレートを、また海成分としてポリスチレンを用いて、島本数200島/ホールの高分子相互配列体方式の海島型複合用口金を通して、島/海重量比率50/50で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、カットを経て、単繊維繊度4dtexの海島型複合繊維の原綿を作製した。
次いで、この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、3000本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付650g/m2、密度0.2g/cm3の複合繊維不織布を作製した。この複合繊維不織布を熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール12%水溶液に含浸し乾燥した。その後、トリクロロエチレン中で海成分であるポリスチレンを溶解除去し、乾燥を行って、極細繊維束が絡合してなる極細繊維不織布を得た。
次いで、該極細繊維不織布に、実施例1と同一のポリウレタンをシート総重量に対し、20重量%含浸させ、水中該ポリウレタンを凝固した後、ポリビニルアルコールを熱水にて溶解除去し、乾燥した。得られたシート状物を、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いて、片面に対し、3段バッフィングを施して立毛面を形成させ、厚さ0.55mm、目付180g/m2 、繊維見掛け密度0.26g/cm3 の研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.01dtex、繊度CVは8%、固有粘度は1.47であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は50本/100μm幅、水滴吸収時間は10秒、表面粗さは20μmであり、珪素含有量は33ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.19nm、スクラッチ点数は30、リッジ点数は2であり、ラインデンシティは20本/μm幅であり、加工性は良好であった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板は、電磁変換特性に優れるものであった。
(実施例6)
実施例1で得られた立毛シート状物に、スルホポリエステル系樹脂を固形分0.5重量%が付与されるように浸漬処理した後、乾燥し130℃で乾熱熱処理し、研磨布とした。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.01dtex、繊度CVは8%、固有粘度は1.25であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は47本/100μm幅、水滴吸収時間は2秒、表面粗さは23μmであり、珪素含有量は30ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.15nm、スクラッチ点数は10、リッジ点数は0であり、ラインデンシティは19本/μm幅であり、加工性は良好であった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板は、電磁変換特性に優れるものであった。
(実施例7)
実施例1の海島型複合繊維の原綿に、平均繊度0.01dtexのナイロン6極細繊維発生型繊維(海成分ポリスチレン)を、極細繊維の総重量に対して、ナイロン6極細繊維の混合量が30重量%となるように混合し、その後は実施例1と同様の製造方法にてシート化を行い、研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.01dtex、繊度CVは8%、ポリエステルの固有粘度は1.25であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は50本/100μm幅、水滴吸収時間は6秒、表面粗さは25μmであり、珪素含有量は33ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.14nm、スクラッチ点数は15、リッジ点数は0であり、ラインデンシティは16本/μm幅であり、加工性は良好であった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板は、電磁変換特性に優れるものであった。
(比較例1)
島成分として固有粘度が1.28のポリブチレンテレフタレートを、また海成分として共重合ポリスチレンを用いて、島本数100島/ホールの高分子相互配列体方式の海島型複合用口金を通して、島/海重量比率50/50で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、カットを経て、単繊維繊度3.5dtexの海島型複合繊維の原綿を作製した。
次いで、この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、2500本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付700g/m2、密度0.23g/cm3の複合繊維不織布を作製した。この複合繊維不織布を熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール12%水溶液に含浸し乾燥した。その後、トリクロロエチレン中で海成分である共重合ポリスチレンを溶解除去し、乾燥を行って、極細繊維束が絡合してなる極細繊維不織布を得た。
次いで、該極細繊維不織布に、実施例1と同一のポリウレタンをシート総重量に対し、20重量%含浸させ、水中該ポリウレタンを凝固した後、ポリビニルアルコールを熱水にて溶解除去し、乾燥した。得られたシート状物を、厚み方向に半裁した後、サンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いて、非スライス面に対し、3段バッフィングを施して立毛面を形成させ、厚さ0.55mm、目付210g/m2 、繊維見掛け密度0.30g/cm3 の研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.02dtex、繊度CVは8%、固有粘度は1.24であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は35本/100μm幅、水滴吸収時間は10秒、表面粗さは20μmであり、珪素含有量は30ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.18nm、スクラッチ点数は70、リッジ点数は15であり、ラインデンシティは10本/μm幅であった。また、テクスチャー加工面全体を観察すると、表面のうねりが大きく、テクスチャー痕の均一性に欠けるものであった。更に、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板はハードディスクドライブテストにおいて、エラーの発生が多発し、電磁変換特性が低いものであった。
(比較例2)
島成分として固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを用いる以外は、実施例4と同一の製造方法で立毛シート状物の作製を行い、厚さ0.55mm、目付180g/m2 、繊維見掛け密度0.26g/cm3 の研磨布を得た。
得られた研磨布を構成する極細繊維の平均繊度は0.01dtex、繊度CVは9%、固有粘度は0.62であった。
また、研磨布の表面繊維本数の線密度は45本/100μm幅、水滴吸収時間は10秒、表面粗さは25μmであり、珪素含有量は35ppm、金属含有量は100ppm未満であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクは、表面粗さが0.15nm、スクラッチ点数は20、リッジ点数は0であり、ラインデンシティは11本/μm幅であった。但し、テクスチャー加工面全体を観察すると、凹凸形状が不明瞭な箇所や未加工部分が散見されるものであった。また、テクスチャー加工後に磁性層を成膜した基板はハードディスクドライブテストにおいて、エラーの発生が多発し、電磁変換特性が低いものであった。
本発明の研磨布は、研磨布表面上の立毛繊維の剛性が高く、また緻密且つ均一に分散した状態で分布しているので、アルミニウム合金基板のテクスチャー加工において、砥粒が局所的に集中することなく、微分散した状態で研磨布表面に分布し、且つ繊維表面における砥粒の把持性が高く、砥粒の単位粒子あたりの加工圧力が高いことにより、凹凸の鋭角性に優れ且つ線密度の高いテクスチャー痕を形成することができるとともに、スクラッチ欠点、リッジ欠点が少なく歩留まりが良く、更に基板表面上に表面粗さ0.3nm以下という高精度なテクスチャー加工を施すことができ、電磁変換特性に優れた記録ディスクの高記録密度化に対応可能な加工面として仕上げることができる。