以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
(1)基本構成
まず、本発明に係るデュアル噴射型内燃機関の概略構成が示されている図1を参照するに、エンジン1は複数(本実施形態では4つ)の気筒1aを備え、各気筒1aはそれぞれ対応する吸気枝管2を介して共通のサージタンク3に接続されている。サージタンク3は吸気ダクト4を介してエアクリーナ5に接続され、吸気ダクト4内にはエアフローメータ4aが配置されると共に、電動モータ6によって駆動されるスロットル弁7が配置されている。このスロットル弁7はアクセルペダル10とは独立して電子制御ユニット30の出力信号に基づいてその開度が制御される。一方、各気筒1aは共通の排気マニホルド8に連結され、この排気マニホルド8は三元触媒コンバータ9に連結されている。
各気筒1aに対して、不図示の吸気ポート、排気ポート、吸気弁及び排気弁がそれぞれ設けられ、エンジンと同期駆動されるカムシャフトにより、又はアクチュエータにより、吸気弁及び排気弁がそれぞれ開閉駆動される。また、各気筒1aに対しては、不図示の点火栓と筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ11と吸気ポートまたは吸気通路内に向けて燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタ12とがそれぞれ設けられている。これらインジェクタ11、12は電子制御ユニット30の出力信号に基づいてそれぞれ制御される。また、各筒内噴射用インジェクタ11は共通の燃料分配管13に接続されており、この燃料分配管13は燃料分配管13に向けて流通可能な逆止弁14を介して、機関駆動式の高圧燃料ポンプ15に接続されている。
図1に示すように、高圧燃料ポンプ15の吐出側はスピル電磁弁15aを介して高圧燃料ポンプ15の吸入側に連結されており、このスピル電磁弁15aの開度が小さいとき程、高圧燃料ポンプ15から燃料分配管13内に供給される燃料量が増大され、スピル電磁弁15aが全開にされると、高圧燃料ポンプ15から燃料分配管13への燃料供給が停止されるように構成されている。なお、スピル電磁弁15aは電子制御ユニット30の出力信号に基づいて制御される。
一方、各吸気通路噴射用インジェクタ12は共通の燃料分配管16に接続されており、燃料分配管16および高圧燃料ポンプ15は共通の燃料圧レギュレータ17を介して、電動モータ駆動式の低圧燃料ポンプ18に接続されている。さらに、低圧燃料ポンプ18は燃料フィルタ19を介して燃料タンク20に接続されている。燃料圧レギュレータ17は低圧燃料ポンプ18から吐出された燃料の燃料圧が予め定められた設定燃料圧よりも高くなると、低圧燃料ポンプ18から吐出された燃料の一部を燃料タンク20に戻すように構成されており、したがって吸気通路噴射用インジェクタ12に供給されている燃料圧および高圧燃料ポンプ15に供給されている燃料圧が上記設定燃料圧よりも高くなるのを阻止している。さらに、図1に示すように、高圧燃料ポンプ15と燃料圧レギュレータ17との間には流通弁21が設けられている。この流通弁21は通常開弁されており、この流通弁21が閉弁されると低圧燃料ポンプ18から高圧燃料ポンプ15への燃料供給が停止される。なお、この流通弁21の開閉は電子制御ユニット30の出力信号に基づいて制御される。
また、電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31を介して相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備している。エアフローメータ4aは吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、このエアフローメータ4aの出力電圧はAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。エンジン1には機関冷却水温に比例した出力電圧を発生する水温センサ38が取付けられ、この水温センサ38の出力電圧はAD変換器39を介して入力ポート35に入力される。
燃料分配管13には燃料分配管13内の燃料圧に比例した出力電圧を発生する燃料圧センサ40が取付けられ、この燃料圧センサ40の出力電圧はAD変換器41を介して入力ポート35に入力される。触媒9上流の排気マニホルド8には排気ガス中の酸素濃度に比例した出力電圧を発生する空燃比センサ42が取付けられ、この空燃比センサ42の出力電圧はAD変換器43を介して入力ポート35に入力される。本実施形態の空燃比センサ42は、エンジン1で燃焼された混合気の空燃比に比例した出力電圧を発生する全域空燃比センサ(リニア空燃比センサ)である。なお、空燃比センサ42としては、エンジン1で燃焼された混合気の空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかをオン−オフ的に検出するO2センサを用いてもよい。
アクセルペダル10はアクセルペダル10の踏込み量に比例した出力電圧を発生するアクセル開度センサ44に接続され、アクセル開度センサ44の出力電圧はAD変換器45を介して入力ポート35に入力される。また、入力ポート35には、機関の所定のクランク位相毎に出力パルスを発生するクランクセンサ46が接続されている。このパルス信号はCPU34に送られ、CPU34はそのパルス信号に基づいて機関回転数を演算する。電子制御ユニット30のROM32には、アクセル開度センサ44により得られる機関負荷およびクランクセンサ46により得られる機関回転数に対応させて設定されている基本の燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期の値等が予めマップ化されて記憶されている。
また、エンジンのシリンダブロックには振動検出センサであるノックセンサ23が配設されている。ノックセンサ23は4つの気筒1aに対し共用であり、直列された4つの気筒1aのうちの中央の2つの気筒1aの間に位置されている。ノックセンサ23は、エンジンの振動レベルに比例した出力電圧を発生し、このノックセンサ23の出力電圧はAD変換器25を介して入力ポート35に入力される。なお直列された4つの気筒1aは端から順に第1気筒#1、第2気筒#2、第3気筒#3、第4気筒#4と称される。
(2)基本制御
次に、電子制御ユニット30によって実行される基本の燃料噴射制御について説明する。電子制御ユニット30のROM32には、図2に示されるような、エンジン1の回転数及び負荷と基本燃料噴射量との関係を予め定めた三次元マップが記憶される。このマップ内の全領域、すなわちエンジンの全運転領域は、第1領域R1、第2領域R2及び第3領域R3の3つの領域に区分される。
第1領域R1は、回転数が全回転数域でかつ負荷が低負荷の領域であり、筒内噴射用インジェクタ11による筒内噴射のみが行われる領域である。この筒内噴射はエンジンの圧縮行程に行われ、これにより成層燃焼が実施される。すなわち、点火栓の周りには比較的リッチな混合気層が形成されると共にその周りには空気層が形成され、これにより良好な混合気の着火を確保しつつ、燃焼室内全体の平均空燃比を理論空燃比よりリーン側の値として燃費を向上することができる。
第3領域R3は、回転数が低速〜中速でかつ負荷が高負荷の領域であり、吸気通路噴射用インジェクタ12によるポート噴射と、筒内噴射用インジェクタ11による筒内噴射との両方が行われる領域である。ここでの筒内噴射は、エンジンの吸気行程と圧縮行程とにそれぞれ行われる。これにより特に高負荷向けの均質燃焼が実施される。すなわち、ポート噴射が吸気弁の開弁前に行われ、次いで筒内噴射が吸気行程に行われる。これにより全燃料噴射量のうちの多くの割合の燃料が燃焼室内で吸入空気とともに十分均質な混合気を形成する。そしてこの混合気が、圧縮行程の筒内噴射による噴射燃料と混合して着火する。筒内噴射を行うと、燃料の気化潜熱により吸気や混合気の温度を低下させることができる。このため吸気の充填効率が増大され、機関出力の向上が図られるとともに、特に着火直前の圧縮行程の筒内噴射により耐ノック性も向上される。
第2領域R2は、第1領域R1及び第3領域R3以外の残りの領域であり、吸気通路噴射用インジェクタ12によるポート噴射と、筒内噴射用インジェクタ11による筒内噴射との両方が行われる領域である。この場合の筒内噴射は、エンジンの吸気行程にのみ行われる。これによっても均質燃焼が実施される。すなわち、ポート噴射が吸気弁の開弁前に行われ、次いで筒内噴射が吸気行程に行われる。これにより全燃料噴射量の燃料が燃焼室内で吸入空気とともに十分均質な混合気を形成し、この混合気が圧縮後点火により着火するようになる。
第2領域R2及び第3領域R3では、筒内噴射用インジェクタ11と吸気通路噴射用インジェクタ12との噴射量割合、すなわち、全燃料噴射量に対する筒内噴射用インジェクタ11と吸気通路噴射用インジェクタ12とのそれぞれの燃料噴射量の割合が予め回転数及び負荷毎に定められている。この割合は噴射分担率αで表され、この噴射分担率αは、全燃料噴射量のうち筒内噴射用インジェクタ11から噴射される燃料噴射量の割合のことをいう。例えば噴射分担率α=0.3(=30%)の場合、筒内噴射用インジェクタ11から噴射される燃料噴射量の割合は全燃料噴射量のうちの30%、吸気通路噴射用インジェクタ12から噴射される燃料噴射量の割合は全燃料噴射量のうちの70%(=(1−α))である。
また、第3領域R3ではさらに、吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ筒内噴射用インジェクタ11から噴射される燃料噴射量の割合が予め回転数及び負荷毎に定められている。この割合は筒内噴射分担率βで表され、この筒内噴射分担率βは、筒内噴射用インジェクタ11から噴射される全燃料噴射量のうち圧縮行程で噴射される燃料噴射量の割合のことをいう。例えば筒内噴射分担率β=0.3(=30%)の場合、吸気行程で筒内噴射用インジェクタ11から噴射される燃料噴射量の割合は70%(=(1−β))、圧縮行程で筒内噴射用インジェクタ11から噴射される燃料噴射量の割合は30%である。
これら噴射分担率αおよび筒内噴射分担率βの値は予め回転数及び負荷毎に定められており、マップとしてROM32に記憶されている。
また、図示しないが、筒内噴射用インジェクタ11と吸気通路噴射用インジェクタ12との噴射時期(これは噴射開始時期を意味する)も、エンジンの全運転領域において、回転数及び負荷の関数として予め定められており、マップとしてROM32に記憶されている。
また、特に筒内噴射用インジェクタ11による筒内噴射についてはその噴射圧も制御される。すなわち、噴射圧に相当する燃料分配管13内の燃料圧が、エンジンの全運転領域において、回転数及び負荷の関数として予め定められており、マップとしてROM32に記憶されている。そして燃料圧センサ40により検出される実際の燃料圧が、マップから算出される目標燃料圧に一致するようにフィードバック制御が実行される。このときはスピル電磁弁15aを制御して実際の燃料圧を増減させることになる。
以上の構成によれば、電子制御ユニット30は、検出された回転数及び負荷の値と前記複数のマップとに基づき各インジェクタ11,12の燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定するとともに、燃料分配管13内の目標燃料圧を決定する。そしてその燃料噴射量に相当するインジェクタ11,12への通電時間を計算し、この計算された通電時間を燃料噴射時期に加算してインジェクタ11,12の閉弁時期つまり噴射終了時期を決定する。
そして、インジェクタ11,12の噴射時期が到来する前に、実際の燃料圧を、前記の如く決定された目標燃料圧に予めセットし、インジェクタ11,12の噴射時期が到来すると同時に、インジェクタ11,12に駆動信号を出力して(つまりインジェクタ11,12をオンして)、インジェクタ11,12を開弁駆動する。このようなインジェクタ11,12の通電状態すなわち開弁状態を噴射終了時期まで維持し、噴射終了時期が到来したらインジェクタ11,12への駆動信号の出力を停止して(つまりインジェクタ11,12をオフして)、インジェクタ11,12を閉弁させる。
インジェクタ11,12がオンされると、それぞれのインジェクタ11,12の電磁ソレノイドヘの通電が開始され、それにより発生する電磁吸引力によりノズルニードルがバルブシートから離間される。これにより、インジェクタ11,12の噴口が開かれて燃料噴射が開始される。一方、インジェクタ11,12がオフされると、電磁ソレノイドヘの通電が停止され、ノズルニードルがバルブシートに着座される。これにより噴口が閉ざされ、燃料噴射が終了される。なお、後にも述べるが、筒内噴射用インジェクタ11のオンオフに伴うノズルニードルのニードルストッパ及びバルブシートへの当接ないし衝突が、ノックセンサ23により検出されて、ノックセンサ23の出力信号レベルを瞬時的に高めることがある。
(3)ノック判定及びノック制御
本実施形態に係るデュアル噴射型内燃機関では、ノックセンサ23の出力信号に基づき、ノック判定が行われ、その判定結果に応じて点火時期等を調整するノック制御が行われる。以下これについて説明する。
ノック判定においてノッキングの発生有りとの判定がなされると、ノック制御手段としての電子制御ユニット30が目標点火時期を所定量遅角させる。逆に、ノッキングの発生無しとの判定がなされると、電子制御ユニット30は目標点火時期を徐々に進角させる。目標点火時期は、各気筒で点火を実施させる時期を、各気筒の圧縮上死点を基準としたクランク角で表したものである。電子制御ユニット30は、目標点火時期により示される時期にオンとなる点火信号を各気筒のイグナイタ(図示せず)に出力し、点火を実施させる。これにより、ノッキングの発生限界近傍に点火時期を調整させるようにしている。
次にノック判定について説明する。図2に示すように、エンジンの全運転領域は、ノック判定閾値が比較的低い値に設定される低ノイズ領域(以下A領域という)と、ノック判定閾値が比較的高い値に設定される高ノイズ領域(以下B領域という)とに予め区分されている。B領域は、ハッチングで示されるような、機関回転数が高回転側でかつ機関負荷が高負荷の領域である。A領域はそれ以外の領域である。B領域は、第2領域及び第3領域の各一部ずつと重複している。以下、ノック判定の概略を、エンジン運転状態がA領域にあると仮定して説明する。
図3の左側に示すように、電子制御ユニット30にはノックセンサ23の出力信号Kが送られており、電子制御ユニット30は、この出力信号Kの大きさすなわち出力値と、予めROM32に記憶されているノック判定閾値THAとを比較する。そしてノックセンサ23の出力値がその閾値THAを超えたとき(図中円YAで示す)、電子制御ユニット30はノッキングの発生有りと判定する。この結果前述の点火時期遅角制御が実行される。なお、かかるノック判定は、エンジンの所定のクランク位相範囲であるゲート期間内に存在する信号Kに対してのみ行われる。
閾値THAは、A領域において標準的なバックグラウンドノイズレベルBGNLAに、所定値MAを加えることにより設定されている。ここでバックグラウンドノイズとは、ノッキング以外の要因でノックセンサ23から出力される信号のことをいい、この要因としては機関筒内の燃焼、動弁系の振動、クランク振動などがある。そしてこのバックグラウンドノイズの大きさをバックグラウンドノイズレベルという。
さて、前述したように、バックグラウンドノイズレベルは機関運転状態に応じて変化する。一般に、機関回転速度が高くなるほど、また機関負荷が高くなるほど、バックグラウンドノイズレベルは高くなる傾向にある。
図3の右側に示すように、B領域はこのようなバックグラウンドノイズレベルが高くなる領域として予め設定される領域である。B領域においては、バックグラウンドノイズレベルBGNLBがA領域のレベルBGNLAよりも高い。かかるB領域において、仮にA領域と同一の閾値THAを採用したとすると、ノッキングが発生していないにもかかわらず、バックグラウンドノイズ自体によりノックセンサ出力値が閾値THAを越え、ノッキングの発生有りと誤判定するおそれがある。逆に言えば、このような誤判定が生じるおそれのある領域がB領域であるともいえる。
そこで、このような誤判定を防止するため、本実施形態においては、バックグラウンドノイズレベルが高くなるB領域でバックグラウンドノイズレベルを学習し、この結果に基づいてノック判定閾値を引き上げるようにしている。具体的には、エンジン運転状態がA領域からB領域に移行したとき、所定期間、バックグラウンドノイズレベルBGNLBを決定するためのバックグラウンド学習を実行する。そしてこれにより得られたバックグラウンドノイズレベルBGNLBに、所定値MBを加えることにより、B領域におけるノック判定閾値THBを設定、記憶し、以降B領域ではこの新たに設定されたノック判定閾値THBに基づきノック判定を行う。ノックセンサ23の出力値がその閾値THBを超えたとき(図中円YBで示す)、電子制御ユニット30はノッキングの発生有りと判定する。この判定後は前記同様に点火時期遅角制御が実行される。なおB領域における加算値MBはA領域における加算値MAと同一の値でも異なった値でも良い。
こうして得られたB領域におけるノック判定閾値THBは、A領域におけるノック判定閾値THAより大きな値であり、したがって、バックグラウンドノイズ自体によりノッキング発生有りとする誤判定が防止される。
しかしながら、バックグラウンド学習が実行されている間は、ノックセンサ23の出力信号が専らバックグラウンドノイズとして扱われ、ノック判定用閾値も未だ決定されていないことから、ノック判定を行うことができない。したがってノック判定の結果に応じて点火時期を調整するノック制御も実施することができず、結果的にノッキングが発生するおそれがある。
そこで、この問題を解決するために、本実施形態においては、バックグラウンド学習中に、筒内噴射用インジェクタ11又は吸気通路噴射用インジェクタ12における燃料噴射を制御することにより、ノッキング抑制制御を実行するノッキング抑制制御手段が備えられている。以下これについて説明する。
(4)ノッキング抑制制御
かかるノッキング抑制制御の第一の形態は、吸気通路噴射用インジェクタ12に対する筒内噴射用インジェクタ11の燃料噴射量割合を、エンジン運転状態により定まる基本噴射量割合より増大させることからなる。すなわち、筒内噴射用インジェクタ11による筒内噴射には、燃料の気化潜熱により筒内の吸入空気温度を低下させる作用、噴射燃料の貫徹力により筒内混合気の乱れを促進し、圧縮時の筒内の混合気温度を低下させる作用、及び燃焼速度を増大させる作用がある。これらの作用は、ノッキング発生の抑制に効果があるので、筒内噴射量割合を基本噴射量割合よりも増大する当該第一の形態はノッキング抑制に好適である。
この第一の形態の一例を図4に基づき具体的に説明する。図示例にあっては、時刻t1でエンジン運転状態がA領域からB領域に移行され、時刻t1から時刻t2までの期間にバックグラウンド学習が実施される。そして移行前の全燃料噴射量Qt、ポート噴射量Qp及び筒内噴射量Qdがそれぞれ20,10,10という値を持つ量である。移行後の全燃料噴射量Qt、ポート噴射量Qp及び筒内噴射量Qdは、本来ならば前述した基本の燃料噴射制御に従い、それぞれ50,20,30という値の量である。しかしながら、第一の形態に係るノッキング抑制制御により、学習期間中は筒内噴射量割合が基本の筒内噴射量割合より増大させられ、全燃料噴射量Qt、ポート噴射量Qp及び筒内噴射量Qdはそれぞれ50,15,35という値の量とされる。なお前述の噴射分担率α(全燃料噴射量のうち筒内噴射される燃料噴射量の割合)で考えれば、移行後の本来の値は30/50=60%であるが、学習期間中は35/50=70%に増加される。
好ましくは、バックグラウンド学習中は筒内噴射の噴射量割合を100%とし、筒内噴射のみを実行する。これにより前記ノッキング抑制効果を最大限に活用でき、ノッキング発生の抑制を最大限に行うことができる。
このバックグラウンド学習が行われるB領域には、ポート噴射と吸気行程の筒内噴射とが行われる第2領域R2と、ポート噴射と吸気及び圧縮行程の筒内噴射とが行われる第3領域R3とがあるが、実際のエンジン運転状態がこれら第2領域R2及び第3領域R3のいずれに移行しても、第一の形態に係るノッキング抑制制御は実行され得る。
次に、ノッキング抑制制御の第二の形態は、吸気通路噴射用インジェクタ12による燃料噴射の噴射期間の少なくとも一部を吸気弁の開弁期間と重複させる同期噴射を実行することからなる。すなわち、このような同期噴射を行うことで、吸気弁の開弁により発生する吸気通路あるいは吸気ポート内の吸気の流れに乗せて、ポート噴射燃料を、ポート壁面等への付着を防止しつつ、積極的に筒内燃焼室に取り込むことができ、前述の筒内噴射と同様の作用効果を得ることができる。
前述のように、本実施形態では、基本制御に従ってポート噴射が実行されるとき、その噴射が吸気弁の開弁前に終了するように基本の噴射期間が定められている(即ち、非同期噴射)。これに対しこの第二の形態では、吸気弁が開いた状態でもポート噴射が終了しておらず、吸気弁の開弁中にポート噴射が実行される。ポート噴射は吸気弁の開弁開始後に終了する。よって、バックグラウンド学習中にこのような同期噴射を実施することにより、噴射期間が遅角され、前記作用により基本のポート噴射の場合よりもノッキングを抑制することができる。
次に、ノッキング抑制制御の第三の形態は、筒内噴射用インジェクタ11による筒内噴射おいて、その吸気行程噴射に対する圧縮行程噴射の燃料噴射量割合を、エンジン運転状態により定まる基本噴射量割合より増大させることからなる。すなわち、このように圧縮行程噴射の燃料噴射量割合を増加させると、燃焼時期により近いタイミングで筒内噴射を行うことができ、これにより筒内混合気の乱れを促進し、燃焼速度を増大させ、ノッキングを抑制することができる。この第三の形態は、筒内噴射を吸気行程と圧縮行程とで行うことを前提としており、したがって、B領域のうち第3領域R3が重なる部分で実行されることになる。
この第三の形態の一例を図5に基づき具体的に説明する。図示例にあっては、時刻t1でエンジン運転状態がA領域からB領域に移行され、時刻t1から時刻t2までの期間にバックグラウンド学習が実施される。そして移行前の全燃料噴射量Qt、ポート噴射量Qp、吸気行程の筒内噴射量Qdi、及び圧縮行程の筒内噴射量Qdcがそれぞれ50,25,25,0という値を持つ量である。移行後の全燃料噴射量Qt、ポート噴射量Qp、吸気行程の筒内噴射量Qdi、及び圧縮行程の筒内噴射量Qdcは、前述した基本の燃料噴射制御によれば、それぞれ100,30,50,20という値の量である。しかしながら、第三の形態に係るノッキング抑制制御により、学習期間中は、圧縮行程の筒内噴射量割合が基本の圧縮行程の筒内噴射量割合より増大させられ、全燃料噴射量Qt、ポート噴射量Qp、吸気行程の筒内噴射量Qdi、及び圧縮行程の筒内噴射量Qdcはそれぞれ100,30,40,30という値の量とされる。なお前述の筒内噴射分担率β(全筒内噴射量のうち圧縮行程で噴射される燃料噴射量の割合)で考えれば、移行後の本来の値は20/70=29%であるが、学習期間中は30/70=43%に増加される。
これら第一乃至第三の形態は、必要に応じて適宜、一つを選択して或いは二以上を組み合わせて実施することができる。
(5)筒内噴射の開始時期又は終了時期の固定
さて、以上のノッキング抑制制御によりバックグラウンド学習中のノッキングは抑制されるが、かかるノッキング抑制制御を実行すると筒内噴射の燃料噴射量が基本値から変更され、これに伴って以下のような問題が生じることがある。
すなわち、前述したように、燃料噴射を行うインジェクタは、電磁ソレノイドへの通電によりノズルニードルをバルブシートから離間させるように駆動し、バルブを開いて燃料噴射を開始する一方、電磁ソレノイドへの通電停止によりノズルニードルをバルブシートに着座させ、燃料噴射を停止する構造となっている。
こうしたインジェクタは、その開弁時には、ノズルニードルがバルブストッパに突き当たってその時の衝撃で振動を発生させ、その閉弁時には、ノズルニードルがバルブシートに着座してその時の衝撃で振動を発生させる。そしてそのインジェクタの開弁時期および閉弁時期に発生される振動が、ノイズとしてノックセンサの出力信号に乗ってしまうことがある。前述のようなデュアル噴射型内燃機関の場合、特に筒内噴射用インジェクタ11がノックセンサ23に近い位置に配設され、また筒内噴射用インジェクタ11で発生した振動がシリンダブロックを通じてノックセンサ23に直接的に伝達され易いため、筒内噴射用インジェクタ11の動作により発生するノイズ(以下、インジェクタノイズという)の影響が、ポート噴射式内燃機関に比してより大きくなる傾向にある。
一方、バックグラウンド学習は、あくまで通常或いは基本状態でのバックグラウンドノイズのレベルを学習することを目的とするから、たとえ基本状態においてバックグラウンドノイズにインジェクタノイズが乗ってしまっていたとしても、その状態を含めて学習を行うのが望ましい。
しかしながら、バックグラウンド学習中に前述のノッキング抑制制御を行うと、筒内噴射用インジェクタ11による燃料噴射の噴射量が基本値から変更され、その結果、基本制御に従ってその燃料噴射開始時期又は燃料噴射終了時期が変更され、バックグラウンド学習が行われる後述のゲート期間から燃料噴射開始時期又は終了時期が外れ、ゲート期間におけるバックグラウンドノイズレベルが基本値から変わってしまうことが起こり得る。こうしたことは正確なバックグラウンド学習を行うという意味において好ましいことではない。
そこで、本実施形態に係るデュアル噴射型内燃機関では、バックグラウンド学習中に筒内噴射用インジェクタ11による燃料噴射の開始時期又は終了時期を固定する固定手段が備えられている。以下これについて説明する。
図6は、本実施形態に係る内燃機関の動作を示したものであり、これにおいて横軸にはクランク角がとってあり、第1気筒#1の吸気上死点を基準の0°として720°までの全気筒1サイクルが示される。そして図中上から点火順に第1気筒#1、第3気筒#3、第4気筒#4、第2気筒#1の各動作ないし行程が示される。「吸気」は吸気行程を意味し、星印は点火時期を意味する。
図の最上段には、電子制御ユニット30から発生されるゲート信号のオンオフ状態が示される。ゲート信号は、本来、ノック判定を実施する期間を決定するための信号で、ノック判定は、ゲート信号がオンとなっている期間のノックセンサ34の出力信号を参照して行われる。この期間は、ノックセンサ34の出力値の取得を行うためのゲートが開いているという意味においてゲート期間とも称される。本実施形態では、このゲート期間内に、バックグラウンド学習にかかるノックセンサ34の出力値の取得が実施される。
ゲート信号のオン時期およびオフ時期の設定は、本実施形態では、電子制御ユニット30のROM32に予め記憶されたマップを参照して行われる。このマップは、機関回転数と機関負荷との関係で三次元マップとして設定されている。ただしゲート信号のオン時期およびオフ時期は一定の時期として設定されてもよい。図示例によれば、ゲート信号のオン時期およびオフ時期は、各気筒の点火時期の前後の時期に設定される。これは各気筒の点火時期付近でノッキングが発生しやすいからである。
図中、第1気筒#1の欄には、筒内噴射用インジェクタ11によって実行される様々なパターンの筒内噴射の態様が示されている。なお、燃料噴射制御が各気筒ごとに実行されるので、本来ならば同様なパターンが他の気筒にも存在するが、図では簡単化のため第1気筒#1についてのみ示す。これら各パターンはいずれもエンジン運転状態がB領域に移行した直後の学習期間内のものである。ここで、バックグラウンド学習は所定の点火回数に相当する期間実行される。その点火回数は、例えば、最小で10回であり、したがってこの場合180°×10回=1800°のクランク角範囲が学習期間である。よって学習期間は図示の期間よりも長い。
図中、「T」が噴射期間、「S」が噴射開始時期、「E」が噴射終了時期をそれぞれ意味する。図示例では第1気筒#1における筒内噴射が吸気行程に行われており、その噴射開始時期S又は噴射終了時期Eが、第4気筒#4の点火のために開かれたゲート期間Tg4、又は第2気筒#2の点火のために開かれたゲート期間Tg2に入っているか否かが問題となる。
まず、G1で示される第1の態様について説明する。この第1の態様は噴射開始時期Sとゲート期間Tg4との関係を問題としている。T11で示されるのが、エンジン運転状態に基づき基本の燃料噴射制御に従って決定された噴射期間であり、その噴射開始時期S11のみがゲート期間Tg4に入っている。一方、前述の第一又は第三の形態のノッキング抑制制御によると、1回当たりの筒内噴射量が増大されることがあり、この場合噴射期間も長期化する必要がある。
この噴射期間の長期化を行うとき、本実施形態では、噴射期間T12で示されるように、その噴射開始時期S12は基本の噴射開始時期S11と等しく固定し、その代わりに、ゲート期間Tg4に元々入っていない噴射終了時期E12を基本の噴射終了時期E11より遅らせる。このようにバックグラウンド学習中に筒内噴射開始時期が固定される。
逆に、噴射期間T13で示されるように、その噴射開始時期S13を基本の噴射開始時期S11よりも早期化して噴射期間を長期化することはしない。図示されるように噴射開始時期S13がゲート期間Tg4から外れ、バックグラウンドノイズレベルが基本状態と異なるおそれがあるからである。
このように、ノッキング抑制制御の要請に従って噴射期間を長期化する際、基本の噴射開始時期がゲート期間に入っていれば、長期化後もその状態を維持する。そしてその噴射開始時期を固定して長期化後も同時期とする。これによって噴射開始時期に生じるインジェクタノイズを含めた基本状態と同じバックグラウンドノイズレベルを取得することができ、バックグラウンド学習を正確に行うことができる。
次に、G2で示される第2の態様について説明する。この第2の態様は噴射終了時期Eとゲート期間Tg2との関係を問題としている。T21で示されるのが、エンジン運転状態に基づき基本の燃料噴射制御に従って決定された噴射期間であり、その噴射終了時期E21のみがゲート期間Tg2に入っている。一方、前述の第一又は第三の形態のノッキング抑制制御によると、1回当たりの筒内噴射量が増大されることがあり、このとき噴射期間も長期化する必要がある。
この噴射期間の長期化を行うとき、本実施形態では、噴射期間T22で示されるように、その噴射終了時期E22は基本の噴射終了時期E21と等しく固定し、その代わりに、ゲート期間Tg2に元々入っていない噴射開始時期S22を基本の噴射開始時期S21より早める。このようにバックグラウンド学習中に筒内噴射終了時期が固定される。
逆に、噴射期間T23で示されるように、その噴射終了時期E23を基本の噴射終了時期E21よりも遅らせて噴射期間を長期化することはしない。図示されるように噴射終了時期E23がゲート期間Tg2から外れ、バックグラウンドノイズレベルが基本状態と異なるおそれがあるからである。
このように、ノッキング抑制制御の要請に従って噴射期間を長期化する際、基本の噴射終了時期がゲート期間に入っていれば、長期化後もその状態を維持する。そしてその噴射終了時期を固定して長期化後も同時期とする。これによって噴射終了時期に生じるインジェクタノイズを含めた基本状態と同じバックグラウンドノイズレベルを取得することができ、バックグラウンド学習を正確に行うことができる。
次に、G3で示される第3の態様について説明する。この第3の態様は、噴射開始時期Sとゲート期間Tg4との関係、及び噴射終了時期Eとゲート期間Tg2との関係を問題としている。T31で示されるのが、エンジン運転状態に基づき基本の燃料噴射制御に従って決定された噴射期間であり、その噴射開始時期S31はゲート期間Tg4に入っており、噴射終了時期E31はゲート期間Tg2に入っている。
このとき、前記第1及び第2の態様と同様の考え方に基づくと、噴射開始時期S31及び噴射終了時期S31は、ゲート期間Tg4、Tg2にそれぞれ入った状態を維持すべきである。そこでこの第3の態様では、ノッキング抑制制御の要請に従って筒内噴射量を増大しようとする場合、噴射開始時期及び噴射終了時期を基本時期に維持しつつ、つまり噴射開始時期及び噴射終了時期がゲート期間内に入った状態を維持しつつ、筒内噴射用インジェクタ11から噴射されるべき燃料の燃料圧を上昇させ、これにより噴射期間を変更することなく筒内噴射量の増大を図る。
前述したように、筒内噴射用インジェクタ11の燃料圧(すなわち、燃料分配管13内の圧力)は、エンジン運転状態に基づいてマップの目標値に一致するようフィードバック制御されている。そこでこのように決定された基本の目標燃料圧をより高い値、すなわち、同一噴射期間で同等の燃料噴射量を得られるような値に変更すれば、噴射開始時期S31及び噴射終了時期S31を変えることなく、筒内噴射量を増大させるノッキング抑制制御を実行することができる。
なお、前述の第1及び第2の態様G1,G2において、固定されない方の噴射終了時期E又は噴射開始時期Sが、予め設定されたガードに当たってそれ以上遅角又は進角できなくなることがあるが、この場合も燃料圧を増大することにより、制限された噴射期間でも所望の筒内噴射量を確保することができる。
(6)バックグラウンド学習
次に、本実施形態に係るバックグラウンド学習処理を図7〜図11に基づいて説明する。まず最初に図7のメイン処理について説明する。この処理は、電子制御ユニット30によって、エンジンの点火時期と同期して(すなわち180°クランク角毎に)実行される。
本処理が開始されると、まずステップS101において、エンジン運転状態がB領域にあるか否かが判断される。この判断は、クランクセンサ46により得られる機関回転数及びアクセル開度センサ44により得られる機関負荷が、図2に示された領域マップのB領域にあるか否かにより行われる。
B領域にない、すなわちA領域にあると判断された場合(ステップS101:NO)、ステップS102において学習カウンタCKCSGの値が0とされ、ステップS103、S104、S105においてそれぞれ筒内噴射の噴射開始時期、噴射終了時期、及び燃料分配管13内の目標燃料圧力が、基本制御に従う基本値とされ、ステップS106においてノッキング抑制制御が不実行とされ、処理が終了される。
他方、B領域にあると判断された場合(ステップS101:YES)、ステップS107において、前回のバックグラウンド学習領域AREAと今回のバックグラウンド学習領域AREAとが異なるか否かが判断される。
バックグラウンド学習領域AREAとは、前述のゲート期間内に筒内噴射の噴射開始時期のみが入っているか、又は噴射終了時期のみが入っているか、又は両方入っているか、又はいずれも入っていないかによって区分される、B領域のうちのさらに小さな領域であり、例えば噴射開始時期のみが入っている場合、バックグラウンド学習領域AREAはB1とされる。このように前回処理時のバックグラウンド学習領域AREAと今回処理時のバックグラウンド学習領域AREAとの比較を行っているのは、領域変化の有無を判断するためであり、さらに、このバックグラウンド学習領域AREAごとにバックグラウンドノイズレベルが設定されるからである(図11参照)。ゲート期間内に、バックグラウンドノイズの発生要因(筒内噴射の開始又は終了)がいくつ入っているかによって、バックグラウンドノイズレベルは変化することが多く、それら各領域ごとにバックグラウンドレベルを設定することで、各領域ごとに正確なレベルを設定できるとともに、各領域ごとに正確なノック判定を行える。
ステップS107において、前回のバックグラウンド学習領域AREAと今回のバックグラウンド学習領域AREAとが異なる(すなわち領域変化あり)と判断された場合(ステップS107:YES)、ステップS108において学習カウンタCKCSGが初期値nにセットされた後、ステップS109に移行される。他方、同ステップS107において、前回のバックグラウンド学習領域AREAと今回のバックグラウンド学習領域AREAとが異ならない(すなわち領域変化なし)と判断された場合(ステップS107:NO)、直接ステップS109に移行される。
学習カウンタCKCSGの初期値nは、ゲート期間におけるノックセンサ23の出力値の取得を行う回数を規定するもので、好ましくは前述したように最小で10の値が設定される。後に理解されるが、バックグラウンド学習領域AREAごとにその初期値nに等しい回数のデータ取得がなされ、これらデータを基にバックグラウンドノイズレベルが設定される。
ステップS109においては、学習カウンタCKCSGの値が0か否か、すなわちバックグラウンド学習が終了したか否かが判断され、終了のとき(ステップS109:YES)はステップS103に進み、未了のとき(ステップS109:NO)はステップS110に進む。
ステップS110においては、エンジンの運転状態(回転数および負荷)によって定まる筒内噴射の基本噴射開始時期が、ゲート期間内に入っているか否かが判断される。入っていると判断されたとき(ステップS110:YES)は、ステップS111に進み、今度はその基本噴射終了時期が、ゲート期間内に入っているか否かが判断される。入っていないと判断されたとき(ステップS111:NO)、これは筒内噴射の基本噴射開始時期のみがゲート期間内に入っている場合であるから、ステップS112に進み、筒内噴射の噴射開始時期が固定され、ステップS113においてバックグラウンド学習領域AREA=B1と設定される。
また、ステップS110において、基本噴射開始時期がゲート期間内に入っていないと判断され(ステップS110:NO)、かつ、ステップS116において基本噴射終了時期がゲート期間内に入っていると判断されたとき(ステップS116:YES)、これは筒内噴射の基本噴射終了時期のみがゲート期間内に入っている場合であるから、ステップS117において筒内噴射の噴射終了時期が固定され、ステップS118においてバックグラウンド学習領域AREA=B2と設定される。
また、ステップS110において、基本噴射開始時期がゲート期間内に入っていると判断され(ステップS110:YES)、かつ、ステップS111において基本噴射終了時期がゲート期間内に入っていると判断されたとき(ステップS111:YES)、これは筒内噴射の基本噴射開始時期及び基本噴射終了時期の両方がゲート期間内に入っている場合であるから、ステップS114において目標燃料圧力がより高い値に変更され、ステップS115においてバックグラウンド学習領域AREA=B3と設定される。
また、ステップS110において、基本噴射開始時期がゲート期間内に入っていないと判断され(ステップS110:NO)、かつ、ステップS116において基本噴射終了時期がゲート期間内に入っていないと判断されたとき(ステップS116:NO)、これは筒内噴射の基本噴射開始時期及び基本噴射終了時期のいずれもゲート期間内に入っていない場合であるから、ステップS119においてバックグラウンド学習領域AREA=B0と設定される。
こうしてステップS113,S118,S115,S119でバックグラウンド学習領域AREAの設定を終えたら、ステップS120において学習カウンタCKCSGの値が1だけ減少される。そして、ステップS121において前述のノッキング抑制制御が実行され、ステップS122において、バックグラウンド学習に係るノックセンサ23の出力値の取得が実行される。
以上で説明した処理を実際の状況に当てはめて説明する。なおここでは簡単のため学習期間中のバックグラウンド学習領域AREAの変化はないものとする。
まず、エンジンのA領域での運転中は、ステップS101でNOであるから、S102〜S106が実行されて基本の燃料噴射制御が実行される。この状態からエンジンの運転状態がB領域に移行すると、ステップS101でYESとなり、ステップS107でバックグラウンド学習領域AREAの変化の有無が判断される。ステップS107の初回実行時はYESとされ、ステップS108で学習カウンタCKCSGが初期値n(ex.10)にセットされ、この後ステップS109を経てステップS110に進む。
仮に、B領域移行後のエンジン運転状態が、基本の筒内噴射開始時期のみがゲート期間に入るようなものであるとすると、ステップS110,S111,S112,S113を順に経て、噴射開始時期が固定され、さらにステップS120で学習カウンタCKCSGが1減じられ、ステップS121でノッキング抑制制御を伴う燃料噴射が実行されつつ、ステップS122でノックセンサ出力値が取得される。
こうして1回目の処理を終え、1周期(180°クランク角)を経過して2回目の処理に入ると、領域変化はないのでステップS107:NOとなり、学習カウンタCKCSGの値は(n−1)が維持される。そして先と同一ルートを辿ってステップS120に至ると、学習カウンタCKCSGの値はさらに1減じられて(n−2)となる。この後ステップS122まで進んで2回目の処理を終了する。
結局、学習カウンタCKCSGの初期値nと同じ回数だけ処理が繰り返され、カウンタ値=0となるとステップS109でYESとなり、通常の燃料噴射制御に復帰される。このように、あるバックグラウンド学習領域AREAに対し、学習カウンタCKCSGが初期値nから0になるまでの期間が学習期間である。
なお、このような特定のバックグラウンド学習領域AREAに対する学習期間中に、バックグラウンド学習領域AREAの変更があった場合、ステップS107:YESとなり、学習カウンタCKCSGは初期値nに戻され、変更後の領域AREAに対する処理が改めて実行される。もっとも学習期間は、実際には1秒未満程度の極短時間であり、学習期間中にバックグラウンド学習領域AREAが変更される可能性は低い。
次に、ステップS122で取得されたノックセンサ出力値の処理について説明する。
図8はこのような処理を行うためのフローチャートである。この処理も電子制御ユニット30によって、図7に示された前記処理と同期して(すなわち180°クランク角周期で)実行される。
まずステップS201において、ゲート信号のオン時期およびオフ時期が設定される。前述したように、この設定は、機関回転数と機関負荷とに基づき、予め記憶されたマップを参照して行われる。
こうしてゲート期間の設定がなされ、ゲート信号のオン時期が到来すると、ステップS202においてゲート信号がオンとされ、ゲートがオープンされる。次にステップS203に進み、ノックセンサ34の出力信号についてそのピークホールドが実行される。このピークホールドは、ゲート信号のオフ時期が到来してステップS204においてゲート信号がオフとされるまで、つまりゲートがクローズされるまで、実行される。
図9に示すように、ピークホールドは、ゲート信号がオンとされてからノックセンサ34の出力値が最大値を取るたびにその値が更新されるという方法で行われる。こうしてゲート信号がオフされると、今回のゲート期間において一つのピークホールド値VKPEAKが求められる。この求められたピークホールド値VKPEAKはステップS205において電子制御ユニット30のRAM33に記憶される。以上で処理が終了する。
次に、このピークホールド値VKPEAKを用いたバックグラウンドレベル学習値の設定の処理を図10のフローチャートに基づいて説明する。この処理も電子制御ユニット30によって、図7及び図8に示された前記処理と同期して(すなわち180°クランク角周期で)実行される。
図7及び図8の処理により、あるバックグラウンド学習領域AREAに対し、n個のピークホールド値VKPEAKが記憶される。そこでこの図10の処理では、これらn個のピークホールド値VKPEAKに対し分布を求め、その中央値をもってバックグラウンドレベル学習値とする方法を採用している。
まずステップS301で、学習カウンタCKCSGの値が0か否かが判断される。これは、図8の処理によってn個のピークホールド値VKPEAKが蓄積されたか否かを判断するためである。学習カウンタCKCSGの値が0でないと判断されたときは、本処理が終了され、学習カウンタCKCSGの値が0であると判断されたときは、ステップS302において、RAM33に記憶されたn個のピークホールド値VKPEAKが読み出される。
そしてステップS303において、これら読み出されたn個のピークホールド値VKPEAKがそれぞれ対数変換されてn個の対数変換値LVpkが求められ、これら対数変換値LVpkに対して、例えば図11(a)に示すような分布DSが求められる。そしてステップS304において、この分布DSの中央値Vmがバックグラウンドレベル学習値とされ、この値がRAM33に記憶される。以上により本処理が終了され、同時にバックグラウンド学習が終了される。
このようにしてバックグラウンド学習を実行すると、結局、図11(a)〜(d)に示されるように、各バックグラウンド学習領域AREA=B0,B1,B2,B3毎に、バックグラウンドレベル学習値Vmが設定されることになる。これにより、ゲート期間内に入っているバックグラウンドノイズの発生要因(筒内噴射の開始又は終了)の数に応じて、個々に最適なバックグラウンドノイズレベルを設定できる。
これらバックグラウンドレベル学習値Vmは、図3に示したバックグラウンドノイズレベルBGNLBに相当し、これらバックグラウンドレベル学習値Vmに所定値MBを加えることにより、B領域の各領域(AREA=B0,B1,B2,B3)におけるノック判定閾値THBを設定し、以降これらノック判定閾値THBに基づきノック判定を行うことができる。図11(a)〜(d)においては、横軸が対数なので、実際のノック判定に際しては対数変換されたノック判定閾値THBを設定し、このノック判定閾値THBと対数変換されたノックセンサ出力値との比較によりノック判定を行うことになる。
通常のエンジン運転中にその運転状態がA領域からB領域に移行するような場合、B領域のうちのどの領域(AREA=B0,B1,B2,B3)に移行してくるかが予測不可能である。本実施形態では学習を終えた後に実際のエンジン運転状態がB領域に移行したとき、前述の学習時と同様の方法を用いて、移行後のエンジン運転状態が入っている領域(AREA=B0,B1,B2,B3)を特定し、その領域に対応するバックグラウンドレベル学習値Vmに基づいて設定されたノック判定閾値THBを選択使用してノック判定を行う。このためどの領域に移行しても、それぞれにおいて正確なノック判定を実施することができる。
なお、前記実施形態においては、エンジンの全運転領域のうち、バックグラウンドノイズが比較的高くしたがってノック判定閾値も比較的高い値とすべき領域を、バックグラウンド学習が実行されるB領域とした。しかしながら、筒内噴射の基本の開始時期又は終了時期がゲート期間に必ず入るような領域をB領域としてもよい。これらの噴射開始時期又は終了時期とゲート期間との一致がバックグラウンドノイズを高くする一つの要因だからである。この場合、B領域はB1,B2,B3の3領域に区分され、したがってバックグラウンドレベル学習値も3つの値が設定されることになる。
本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば、前記実施形態では図10及び図11に示したように、複数(n個)のセンサ出力値のピークホールド値VKPEAKについてそれぞれ対数変換値LVpkを求め、これら対数変換値LVpkの分布の中央値Vmをバックグラウンドノイズレベル学習値とした。しかしながら、より簡単に、複数のセンサ出力値の平均値をバックグラウンドノイズレベル学習値としてもよい。