JP4638353B2 - 香りの多次元的機能評価方法および神経活動促進香料 - Google Patents
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Description
すでに、ジャスミンアブソリュート、ローズオイル、クローブオイル、イランイランオイルなどが人の活動状態を高める作用を有することが知られており、それらは市販されているので容易に入手可能である。
なお、アニスアルデヒドにも生理的、心理的高揚効果があると報告されているが(特許文献3参照)、ここでも上記と同様な問題点を有する。
一方、現在までに数多くの香料が報告され、いろいろと研究されているところであり、たとえばストレス緩和用の香料組成物が報告されている(特許文献4を参照)。ところが、この報告ではストレス緩和といっても、睡眠不足によるストレスを緩和することでしかなく、人への安らぎ感や満足感などを与えることによりストレスを緩和することではない。
また、ストレス性物質の分泌を抑制する香料組成物が報告されている(特許文献5を参照)。この報告ではメチルジヒドロジャスモネイトなどを含有する香料組成物が、角層中のプロテアーゼ活性を促進させ、角層の剥離・代謝を正常化することを開示しているにすぎない。
さらに、副作用が少ないあるいは全くない副交感神経作用剤としてミカン科精油、ユーカリ油、タイム油などが報告されている(特許文献6を参照)。そこでは経皮吸収剤に精油を含ませて皮膚に直接接触させることにより、心拍数の変化から算出したLF/HF値が低下することからこれらの精油による副交感神経の活性化を示している。
また、上記香料は、そのほとんどがいわゆる精油といわれるものであり、原料としては天然物に由来し、気候などの予測不可能な事態に原料素材の品質や収穫量などが影響され、原料の確保に問題点があると指摘されている。
本発明の課題は、香料の香りの機能評価をより適性な方法で評価する方法を開発することである。また。上記方法を多くの香料に適用し、精神活動を促進する機能を有する香料、例えば気分状態改善効果のある香料を見出し、提供することでもある。
そして、上記香りの多次元的機能評価方法を数多くの香料に適用した結果、遂に下記のような発明を完成した。
さらに、自律神経系については、香りの効果というものを考えた場合、交感神経系・副交感神経系の反応をそれぞれ独立で評価できるように配慮し、他方の影響を受けにくい指標を選択した。
また、上記4つの指標の同時計測に加え、CNVによる香りの意識水準、すなわち香りの覚醒・鎮静効果というものも含めて多次元的な香りの機能の評価法を完成した。
請求項1の発明は、成分(A):2,2,6−トリアルキルシクロヘキサンカルボン酸エステル類および2,2,6−トリアルキルシクロヘキセンカルボン酸エステル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなることを特徴とする中枢神経系指標に属する指標が正の値を取り、自律神経系指標に属する指標の中で交感神経系指標に属する指標が活性化を示す交感神経活動促進剤である。
シクロヘキセンカルボン酸メチル、α−シクロゲラン酸メチル、β−シクロゲラン酸メチル、γ−シクロゲラン酸メチル、α−シクロゲラン酸エチル、β−シクロゲラン酸エチル、γ−シクロゲラン酸エチル、および2,2−ジメチル−6−エチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチルである請求項1記載の交感神経活動促進剤である。
種以上の化合物からなり、気分状態改善のために用いることを特徴とする中枢神経系指標に属する指標が正の値を取り、自律神経系指標に属する指標の中で副交感神経系指標に属する指標が活性化を示し、心理系指標に属する指標が不快な心理状態の抑制化を示す副交感神経活動促進剤であるが、この発明は前記化合物からなることを特徴とする気分状態改善剤であるということもできる。
請求項4の発明は、成分(B)に属する化合物が3−メチルシクロペンタデカノン−1,3−メチル−4−シクロペンタデセン−1−オン、9−シクロペンタデカン−1−オン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン、シクロヘキサデカノン、シクロペンタデカノリド、シクロペンタデセン−11又は12−オリド、シクロペンタデセン−7−オリド、シクロヘキサデカノリド、エチレンブラシレート、エチレンドデカジオエート、12−オキサヘキサデカノリド、11−オキサヘキサデカノリド、10−オキサヘキサデカノリドであり、気分状態改善のために用いる請求項3記載の副交感神経活動促進剤であるが、この発明は前記化合物からなる請求項3記載の気分状態改善剤であるということもできる。
香りを多次元的に機能評価する方法は、中枢神経系と自律神経系とを組み合わせることを特徴とする。すなわち、中枢神経系指標に属する指標、自律神経系指標に属する指標、心理系指標に属する指標および行動系指標に属する指標から選ばれる少なくとも2種あるいは3種以上の指標を組み合わせることを特徴とする香りを多次元的に機能評価する方法である。ここで、自律神経系指標に属する指標として、交感神経系指標に属する指標あるいは副交感神経系指標に属する指標がある。なお、これらの指標に加えて、内分泌系や免疫系などの生化学的計測による指標を加えてもよい。好適な生化学的指標としては、コルチゾール量、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)量、カテコールアミン量、免疫グロブリン量などが挙げられる。
中枢神経系指標に属する代表的な指標として、CNVによる香りの意識水準(覚醒効果、鎮静効果)、および脳波のα波の周波数ゆらぎを例示できる。
α波周波数ゆらぎが、ストレス負荷により生じる感情状態に対応して、0から−1の範囲で、そのゆらぎ係数(傾斜度:傾き)を変えていくのであり、α波周波数ゆらぎ係数が−1に近ければその人のその時の感情状態がポジティブであり、α波周波数ゆらぎ係数が0に近ければその人のその時の感情状態がネガティブであると評価できる。
なお、脳波は頭皮上に電極を装着するだけで測定可能である。
自律神経は交感神経と副交感神経に大別されており、内臓器官などの調節を担っている。その際、神経末端から放出されるアドレナリン、アセチルコリンなどが作用を及ぼし、心臓、血管、瞳孔、胃腸活動、汗腺等の働きをほぼ拮抗的に調節している。従って、自律神経活動の測定方法としては、アドレナリンやアセチルコリン量などを直接的に測定する方法や、心拍、血流、血圧、発汗、瞳孔反応等を測定する方法が報告されている。香料の自律神経系に対する作用を測定するにあたっては、適切な方法であれば、特に測定方法は限定されない。
本発明では交感神経系に属する指標の代表例として皮膚温度を採用したが、それに限定されないのであり、他の指標を採用してもよい。ヒトの表面皮膚温度は、外気温が一定の場合、皮膚組織内を循環する血流量に依存して変化し、この皮膚組織内を循環する血流量は血管平滑筋の収縮・拡張により調整されている。血管平滑筋が拡張すると局所血流量が増加し、皮膚温度が上昇すること、この血管平滑筋は主に交感神経性血管収縮繊維の支配を受けていることが知られている。このことから、交感神経活動が亢進すると血管平滑筋が縮小し、末梢循環が抑制されるため血流量の減少と皮膚温の低下が生じることになる。
ヒトの指尖部や鼻部などのヒトの皮膚温度を連続的に測定することにより交感神経活動を知ることができる。
本発明では自律神経支配を受けている心臓血管系の反応として、心電図の波形を選び、副交感神経系に属する指標の代表例としているが、それに限定されないのであり、他の副交感神経系に属する指標を採用してもよい。
心電図の波形を観察すると、R波と呼ばれるピークが観察できる。このR波のピークと次のR波とのインターバル(R−R間隔)は交感神経系の影響を受けない成分が含まれることが知られているので、その(R−R間隔)を解析することによって、副交感神経活動を知ることができる。
ヒトの心理状態や感情状態を、多面的な尺度を用いて測定するために、心理指標を用いることは広く知られている。本発明では、それら公知の心理系指標に属する指標を適宜使用すればよいのであり、とくに制限されない。代表的な指標としては、一過性ストレス主観質問紙を挙げることができる。さらに詳しく説明すると、一過性ストレス主観質問紙によって得られる、心地よさ、怒り、不安・動揺、倦怠の4因子にストレス感という項目を指標として挙げられる。さらに、香りの強さと香りの快・不快の程度を指標として加えた。
ヒトの心理状態や感情状態への香りの効用を被験者の行動から測定する方法はすでに知られている。それらの方法としては、フリッカーテスト、クレペリンテスト、模擬的VTR作業、文字消去法などを例示することができる。
本発明では、それらの方法を適宜利用することができるのであって、とくに制限されない。本発明での具体的な負荷内容は、表示画面上でランダムに移動するターゲット(Target)がフレーム(Frame)内に収まるよう被験者がフレームを動かすことにある。フレーム内にターゲットが収まらない限り、大きな音が鳴るように設定されている。
上記評価方法を香料に適用した結果、中枢神経系指標に属する指標が正の値を取り、自律神経系指標に属する指標の中で交感神経系指標に属する指標が活性化を示す交感神経活動促進香料を見出した。また、中枢神経系指標に属する指標が正の値を取り、自律神経系指標に属する指標の中で副交感神経系指標に属する指標が活性化を示し、心理系指標に属する指標が不快な心理状態の抑制化を示す副交感神経活動促進香料を見出した。なお、この副交感神経活動促進香料は、中枢神経系指標に属する指標が正の値を取り、自律神経系指標に属する指標の中で副交感神経系指標に属する指標が活性化を示すか、交感神経系指標に属する指標が抑制化を示すか、副交感神経系指標に属する指標が活性化を示すと共に交感神経系指標に属する指標が抑制化を示し、心理系指標に属する指標が不快な心理状態の抑制化を示すことを特徴とする副交感神経活動促進香料、および/または交感神経活動抑制香料であるということもできる。ここで、前記中枢神経系指標に属する指標が正の値を取るとは、中枢神経系指標に属する指標が正の感情状態を示す値を取るか、または活性化を示す値を取ることを意味する。
さらに、これらの香料に通常使用する香料あるいは慣用の配合剤を加えて香料組成物として賦香する対象物に添加・配合してもよい。
上記評価方法を香料に適用した結果、下記香料が交感神経活動促進香料あるいはストレス低減***感神経活動促進香料として有効であることが判明した。
すなわち、2,2,6−トリアルキルシクロヘキサンカルボン酸エステル類および2,2,6−トリアルキルシクロヘキセンカルボン酸エステル類である。
上記化合物において、シクロヘキサン環あるいはシクロヘキセン環に結合するアルキル基がメチル基、エチル基であり、アルコール成分に由来するアルキルがメチル基、エチル基である化合物が代表的な化合物である。それら代表的な化合物を例示すると、2,2,6−トリメチルシクロヘキサンカルボン酸エチル(テサロン:高砂香料工業株式会社)、2,2,6−トリメチル−4,6−シクロヘキサジエンカルボン酸エチル(エチルサフラネート:クエスト社)、2,2,6−トリメチル−4−シクロヘキセンカルボン酸メチル(メチルサフラネート:クエスト社)、α−シクロゲラン酸メチルβ−シクロゲラン酸メチル、γ−シクロゲラン酸メチル、α−シクロゲラン酸エチル、β−シクロゲラン酸エチル、γ−シクロゲラン酸エチル、および2,2−ジメチル−6−エチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチル(ジベスコン:ジボーダン社)である。なお、2,2−ジメチル−6−エチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチルの異性体として2,2,5,6−テトラメチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチルを挙げることができる。本発明では、2,2−ジメチル−6−エチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチルと2,2,5,6−テトラメチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチルとの混合物も本発明の上記香料に属する。それら化合物は公知の製法により調製することができるが、市販品を購入してもよい。
上記、香料はすでに知られているが、それら香料が交感神経活動促進能を有することは全く知られておらず、ましてやそれら香料がストレス低減性をも有することは全く知られていなかった。
それらの配合量は使用する交感神経活動促進香料や他の配合成分との関係等により適宜変更されるのであり、本発明の所期の効果を損なわない限り配合することができるが、たとえば、調合香料中における交感神経活動促進香料の好ましい配合量は統合香料を基準として約10〜80%(重量)である。また、交感神経活動促進香料を含む香料組成物において、交感神経活動促進香料の好ましい配合量は香料組成物を基準として約10〜50重量%である。
本発明でいう気分状態改善香料として、大環状ムスク化合物、カンフォレニル型サンダル類をあげることができる。
大環状ムスク化合物は、15〜16個の炭素原子からなる環状の化合物であり、さらに酸素原子が存在していてもよい化合物である。好ましい大環状ムスク化合物として、3−メチルシクロペンタデカノン−1(ムスコン)、3−メチル−4−シクロペンタデセン−1−オン(デヒドロムスコン)、9−シクロペンタデカン−1−オン(ジベトン)、シクロペンタデカノン(エギザルトン:フィルメニッヒ社)、シクロヘキサデセノン(アンブレトン:高砂香料工業株式会社)、シクロヘキサデカノン、シクロペンタデカノリド、シクロペンタデセン−11or12−オリド、シクロペンタデセン−7−オリド、シクロヘキサデカノリド(ヘキサデカノライド:IFF社)、エチレンブラシレート(ムスクT:高砂香料工業株式会社)、エチレンドデカジオエート(ムスクC−14:高砂香料工業株式会社)、12−オキサヘキサデカノリド(ムスク781:IFF社)、11−オキサヘキサデカノリド(ムスクR−1:クエスト社)、10−オキサヘキサデカノリド(オキサライド:高砂香料工業株式会社)を例示することができる。
それら化合物は公知の製法により調製することができるが、市販品を購入してもよい。
上記、香料はすでに知られているが、上記香料が気分状態改善香料として有効であるとは全く知られておらず、ましてやそれら香料が副交感神経系活動促進香料、ストレス低減香料として有効であるとは全く知られていなかった。
それら化合物は公知の製法により調製することができるが、市販品を購入してもよい。
上記、香料はすでに知られているが、上記香料が気分状態改善香料として有効であるとは全く知られておらず、ましてやそれら香料が副交感神経系活動促進香料、ストレス低減香料、鎮静香料として有効であるとは全く知られていなかった。
それらの配合量は使用する副交感神経活動促進香料、共存させる他の香料や他の配合成分との関係等により適宜変更されるのであり、本発明の所期の効果を損なわない限り配合することができるのであるが、たとえば、調合香料中における気分状態改善香料の好ましい配合量は統合香料を基準として約10〜80%(重量)である。また、気分状態改善香料を含む香料組成物において、気分状態改善香料の好ましい配合量は香料組成物を基準として約10〜50重量%である。
これらに交感神経活動促進香料組成物を配合させる量はとくに制限されないが、通常約0.005〜2%(重量)である。また、気分状態改善香料組成物を配合させる量もとくに制限されないが、通常約0.005〜2%(重量)である。
以下、図を参照しながら、本発明の香りの多次元的機能評価方法についてより具体的に説明する。
実際の実験パラダイムは次のとおりである。香りを呈示しないコントロール条件と呈示するニオイ呈示条件は、ニオイ呈示の有無以外のパラダイムは同じである。最初に、被験者に脳波用電極、心電図用電極、皮膚温センサを装着した後に、最初に6分間、安静閉眼状態で脳波・心電図・皮膚温を記録し、その後に12分間、ストレス負荷であるトラッキング課題を行う。課題終了後、引き続いて20分間、安静閉眼状態で脳波・心電図・皮膚温を記録し、実験終了となる。つまり、脳波・心電図・皮膚温は、実験が始まってから終了するまで、連続的に記録されている。ニオイ呈示条件の場合には、このストレス負荷期にニオイを呈示する。
心理指標を記載した質問紙を、このグレーの三角形で示した各フェイズの境目、つまり安静期の初め、安静期とストレス負荷期の境目、ストレス負荷期と回復期の境目、回復期の終わりのそれぞれの時期に被験者に渡し、質問紙の質問に被験者が書き込むという形で心理評価を行う。なお、ニオイ呈示条件の場合には、ニオイ呈示終了時に、心理評価用の質問紙への書き込みと同時に、ニオイの主観的な強度と快−不快感を評定する。
それらの生理指標・心理指標に加えて、行動指標としての作業成績がニオイの有無でどのように変化したか、それから別の実験で得られたCNVのデータから、そのニオイが覚醒水準にどのような効果を持っているのか知る。これらの変化を総合的に判断して、香りの機能を評価する。
ストレス課題としては、トラッキング課題を用いた。このトラッキング課題は、コンピュータのディスプレイ上を、かなり小さなターゲットがランダムな軌跡を描いて移動する。画面上には、比較的大きなフレームも表示されており、このフレームは被験者が手元のマウスを操作することにより、自由に動かすことが出来る。被験者の課題は、手元のマウスを操作して、ランダムに逃げ回るターゲットが常にフレームの中にとどまるよう、フレームを移動させ追跡することである。ターゲットがフレーム外にある状態、つまり条件が達成されていない状態では、フレームがフラッシュし、コンピュータからフルボリュームで警告音であるビープ音が鳴り響くように設定されている。ブーブー・ブーブーと警告音にさらされながら、ちょこまかと逃げ回るターゲットを被験者は12分間連続で追跡し続ける。この課題の成績をエラー数、すなわち12分間で、何回ターゲットを逃がしたかという回数と、平均再捕捉時間、つまり、一旦とり逃がしたターゲットを再び捕まえるまでにかかった平均時間で評価する。
CNVを含む事象関連電位を計測する場合には、何らかの課題や刺激を与えることを繰り返し、数十回分の試行を加算平均することによって、課題や情報処理、または情動や覚醒水準などの大脳の状態に関連した電位変動が得られる。CNVの場合は、予告刺激(S1)と反応刺激(S2)、およびこの反応刺激に対して、例えばボタン押しなどの何らかの運動反応を求めるという、予告刺激−反応刺激−運動反応という一連のパラダイムにより大脳の状態に関連した電位変動が誘発され(図A)、図3Bに示されるような波形として示される。
CNVとは、このS1−S2間の陰性の変動成分のことを意味する。このCNVについては、S1呈示後0.4秒から1秒の早期成分と、S2に近い、S1呈示後1秒からS2呈示直前までの後期成分と2つの成分から成っている。早期成分は、課題に対する注意や覚醒水準に対応して変化することが知られている。つまり、課題に対する注意を操作しない条件下では、早期成分の変動で覚醒水準の変化を評価出来る。覚醒水準が下がると(鎮静的な香りの場合)、この部分の面積が小さくなる。反対に覚醒水準が上昇すると(覚醒的な香りの場合)、この部分の面積が大きくなる。
測定した脳波(Orinigal EEG)(図A)にフィルタをかけ、8から12Hzの周波数帯の波を抽出する(Filtered EEG)(図B)。このα波の周波数は微妙にゆらいでいる。例えば、8ヘルツ・11ヘルツ・9ヘルツ・10ヘルツ・8ヘルツ・12ヘルツ・・・のようである。このようにひとつひとつのα波の周波数の時系列ゆらぎをFFTスペクトル解析し、縦軸がエネルギー量で横軸がゆらぎ周波数である図5のような右下がりのスペクトルが得られる。すなわち、スペクトルの傾きが周波数、f分の1になるということで、f分の1スペクトルなどとも言われている。
さて、ヒトへのストレス負荷が非常に軽い場合、スペクトルの傾きが大きく、すなわちf分の1に近く、負荷が重くなるに従ってこのスペクトルの傾きが小さくなり0に近づいていく。このように、α波周波数ゆらぎを解析することによって、その人のその時の感情状態がポジティブなのかネガティブなのかということが評価できる。
自律神経系の指標としての心電図の波形でのそれぞれのピークの中のR波と呼ばれるピークのインターバル(R−R間隔)を解析することによって、副交感神経活動を測ることが出来る。このR−R間隔をFFTスペクトル解析を使って変動解析すると、右側のようなスペクトルが得られる。このように低周波側と高周波側にそれぞれピークを持つ二峰性のスペクトルを示すが、この2つのピークのうち、0.15Hzから0.5Hzの間のHF成分と呼ばれる高周波側のピークの面積は副交感神経の活動状態に対応して変化することが知られている。
そして、副交感神経活動が抑制されると、心拍数の増加や拍動ゆらぎの減少が起こり、その結果、R−R間隔が短縮し、HF成分が減少する。したがって、HF成分は、副交感神経神経活動が亢進すると増大し、副交感神経活動が抑制されると減少するという変化をする。
心理指標についての解析方法について説明する。15項目の様々な感情状態を表す言葉から構成されている一過性ストレス主観評価質問紙を用い、これらの項目について、全く感じない(0点)から非常に感じた(10点)までの10点満点で被験者が回答する。これらの回答した素点を処理して、主観的なストレス状態を4つの因子で評価する。その4因子は、心地よさ、怒り、不安・動揺、倦怠である。また、独自にストレス感という項目を付け加え、総合的な主観的なストレス感を全く感じない(0点)から非常に感じた(10点)までの10点満点で評価する。ニオイ呈示直後の質問紙には、図7のように、ニオイの主観的な強度を10点満点で、快−不快を−5点から+5点の間で評価する。
なお、上記4因子と15項目との関係は次のとおりである。
心地よさは、気持ちよい、安心した、心地よい、さわやかな、の各項目に対応し、怒りは、腹立たしい、むしゃくしゃした、怒りを感じた、むっとした、の各項目に対応し、不安・動揺は、くよくよした、ふさいだ、うろたえた、びくびくした、の各項目に対応し、倦怠は、ぐったりした、気が滅入った、むなしい、の各項目に対応する。
上記4因子は対応するそれぞれの項目の評価点の平均値により、評価されることになる。
図8は、そのレーダーチャートを示す。なお、図8はニオイを呈示していないときのレーダーチャートである。
レーダーチャートは全体的なストレス反応パターンとして表示できるので、レーダーチャートを観察・検討することによって、香料特性の理解を容易にすることができる。
上記測定し検討した指標は、それぞれ単位も違えば、変化する幅も異なる。それらを揃えて、全体の反応パターンとしての理解を容易にするために、データの標準化を行い、すべてのパラメータを平均が0、分散が1になるように変換してある。このデータの標準化は一般的に行われている方法を用いて行うことができる。
具体的には、α波周波数ゆらぎ係数の値が小さくなると、相対的にゆらぎ係数が0に近づくこと、すなわち感情状態が悪化したことを表す。また、反対にこの値が大きくなることは、相対的にゆらぎ係数が1/fすなわち、−1に近づき、感情状態が良くなったことを表す。したがって、このレーダーチャートでは上記変換処理を施した結果を示してあるので、感情状態がポジティブに変化すると外側に大きくなり、ネガティブに変化すると内側に小さくなる。ストレス負荷がかかると、感情状態が悪化するため、ゆらぎ係数が小さくなるため、内側に変化する。
行動指標については、CNVと同様に、ニオイのないコントロールの状態を基準とした相対変化で評価しているので、コントロール単独での評価は出来ないことになる。そこで、CNV同様、仮に0とした。
ストレス負荷期に、被験者に2,2,6−トリメチルシクロヘキサンカルボン酸エチル(テサロン)を含む組成物を嗅いでもらい、上記香りの多次元的機能評価方法を適用した。
図9に、その測定結果を示す。
その結果は次のとおりであった。
α波ゆらぎにはほとんど変化がない。しかしながら、覚醒効果を持ち、交感神経系反応を促進させる効果を持つ。副交感神経反応には目立った変化がないので、選択的に交感神経系を促進させている可能性がある。また、行動指標では、エラー数の減少が見られた。これは、テサロンには作業を効率良く進める作用、あるいは作業成績を円滑にする作用を有することを示す。さらに、α波ゆらぎについては、ストレス直後には顕著な差は見られなかったが、ストレス負荷開始後7〜12分に、1/fに近いポジティブな変化を示した。これは、テサロンにはストレスに対するポジティブな効果、あるいはストレスの低減作用があることを示す。
本発明が規定する交感神経活動促進香料を含む交感神経活動促進香料組成物の処方例を下記に示した。
処方例
この香料組成物はフルーティー様の香質を有する香料組成物である。この香料組成物は各種香粧品に配合でき、交感神経活動促進作用を有する香粧品あるいはストレスの低減作用を有する香粧品を提供することができるのであるが、とくに、溶媒に希釈させることにより交感神経活動促進作用を有する香水などとすることが有利である。
本発明の多次元機能評価法をアンブレトンの香質の判別に適用した。
図10に、その測定結果を示す。
アンブレトンを被験者に呈示することにより、α波周波数ゆらぎは大きく、すなわち1/fに近い、ポジティブな方向に変化した。また、このアンブレトンは鎮静効果を持つことがCNVの測定でわかった。自律神経反応については、交感神経活動が抑制され、副交感神経活動が促進されていることがわかった。これらの生理反応に対して、行動指標はごらんのように特に変化は示さないのであるが、心理指標は、ポジティブな因子である心地よさの得点が増加し、ネガティブな因子である怒り、不安・動揺、倦怠の得点が減少し、主観的なストレス感も同様に減少した。典型的なストレス反応は、生理的には、α波ゆらぎの白色化、交感神経系の促進と副交感神経系の抑制。心理的には、ポジティブな因子の得点の減少とネガティブな因子の得点の増加ということであるから、アンブレトンを呈示することにより、これらのストレス反応パターンを抑制していることがわかった。
本発明の多次元機能評価法をムスクTの香質の判別に適用した。
図11に、その測定結果を示す。
ムスクTの場合では、生理的には、α波周波数ゆらぎが大きく、すなわち1/fに近い、ポジティブな方向に変化し、鎮静効果を持ち、交感神経系を抑制し、副交感神経系を促進すること、心理的には、ポジティブな因子の得点を増やし、ネガティブな因子の得点を減らし、主観的なストレス感も減少するという反応プロフィールを得た。このように、ムスクTはアンブレトンと同様にストレス減少効果があることが反応プロフィールからわかった。そのほかのムスクTの特徴としては、中枢性の指標であるα波周波数ゆらぎの変化が、負荷直後から外側の方向への変化は生じたが、それがよりはっきりしたのは負荷後7〜12分であり、アンブレトンよりも遅い時間帯であった。また、行動指標にも変化が生じ、反応ストラテジーが、ゆっくり、しかし確実に反応するという方向に変化した。
本発明の多次元機能評価法をレボサンドールの香質の判別に適用した。
図12に、その測定結果を示す。
レボサンドールは心理指標のみを見ると、コントロールとほとんど差がなく、また行動指標でも差がなかった。しかしながら、鎮静効果を持つこの香りは、α波周波数ゆらぎを、1/fに近い、ポジティブな方向に変化し、交感神経反応には影響を与えないものの、副交感神経反応を促進しており、ある程度のストレス軽減作用があるといえる。
本発明が規定する気分状態改善香料を含む気分状態改善香料組成物の処方例を下記に示した。
処方例
香料組成物処方例
この香料組成物はムスク様の香質を有する香料組成物である。この香料組成物は各種香粧品に配合でき、気分状態改善作用を有する香粧品を提供することができるのであるが、とくに、溶媒に希釈させることにより気分状態改善作用を有する香水などに応用できる。
本発明が規定する気分状態改善香料を含む気分状態改善香料組成物の処方例を下記に示した。
処方例
この香料組成物はウディフローラル様の香質を有する香料組成物である。この香料組成物は各種香粧品に配合でき、気分状態改善作用を有する香粧品を提供することができるのであるが、とくに、溶媒に希釈させることにより気分状態改善作用を有する香水などとすることが有利である。
(1)上記請求項1記載の香りの多次元的機能評価方法において、自律神経系指標に属する指標が交感神経系指標に属する指標あるいは副交感神経系指標に属する指標からなることを特徴とする請求項1記載の香りの多次元的機能評価方法。
(2)上記請求項1記載の香りの多次元的機能評価方法を香料に適用し香料の気分状態改善効果を判別する方法。
(3)上記請求項1記載の香りの多次元的機能評価方法を香料に適用し香料のストレス低減***感神経活動促進効果を判別する方法。
(4)成分(A):2、2,6−トリアルキルシクロヘキサンカルボン酸エステル類および2,2,6−トリアルキルシクロヘキセンカルボン酸エステル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなることを特徴とするストレス低減***感神経活動促進香料。
(5)前記(4)に記載のストレス低減***感神経活動促進香料を含有することを特徴とするストレス低減***感神経活動促進香料組成物。
(6)成分(A): 2,2,6−トリアルキルシクロヘキサンカルボン酸エステル類および2,2,6−トリアルキルシクロヘキセンカルボン酸エステル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる作業成績向上***感神経活動促進香料。
(7)成分(A):2、2,6−トリアルキルシクロヘキサンカルボン酸エステル類および2,2,6−トリアルキルシクロヘキセンカルボン酸エステル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなるストレス低減性のある作業成績向上***感神経活動促進香料。
(8) 上記(6)記載の香料を含有することを特徴とする作業成績向上***感神経活動促進香料組成物。
(9) 上記(7)記載の香料を含有することを特徴とするストレス低減性のある作業成績向上***感神経活動促進香料組成物。
(10) 成分(A)の化合物が2,2,6−トリメチルシクロヘキサンカルボン酸エチル、2,2,6−トリメチル−4,6−シクロヘキサジエンカルボン酸エチル、2,2,6−トリメチル−4−シクロヘキセンカルボン酸メチル、α−シクロゲラン酸メチル、β−シクロゲラン酸メチル、γ−シクロゲラン酸メチル、α−シクロゲラン酸エチル、β−シクロゲラン酸エチル、γ−シクロゲラン酸エチル、および2,2−ジメチル−6−エチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチルである前記(4)記載のストレス低減***感神経活動促進香料。
(12)成分(C):大環状ムスク化合物および成分(B):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる副交感神経系活動促進香料。
(13)成分(C):大環状ムスク化合物および成分(B):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなるストレス低減香料。
(14)成分(C):大環状ムスク化合物および成分(B):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる鎮静香料。
(15)成分(C):大環状ムスク化合物および成分(B):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなるストレス低減性副交感神経系活動促進香料。
(16)成分(C):大環状ムスク化合物および成分(B):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなるストレス低減性鎮静香料。
(17)成分(C):大環状ムスク化合物および成分(B):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる副交感神経系活動促進性鎮静香料。
(18)成分(C):大環状ムスク化合物および成分(B):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなるストレス低減性のある副交感神経系活動促進性鎮静香料。
(20)成分(C)に属する化合物が3−メチルシクロペンタデカノン−1、3−メチル−4−シクロペンタデセン−1−オン、9−シクロペンタデカン−1−オン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン、シクロヘキサデカノン、シクロペンタデカノリド、シクロペンタデセン−11or12−オリド、シクロペンタデセン−7−オリド、シクロヘキサデカノリド、エチレンブラシレート、エチレンドデカジオエート、12−オキサヘキサデカノリド、11−オキサヘキサデカノリド、10−オキサヘキサデカノリドである上記(11)〜(18)記載の香料。
(21)成分(B)に属する化合物が3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ペンタン−2−オール、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、(E)−(R)−2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ブタン−1−オール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール、3,3−ジメチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール、2−メチル−4−メチレン−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ブタノール、[1−メチル−2−(1,2,2−トリメチルビシクロ[3.1.0]ヘキサ−3−イルメチル)シクロプロピル]メタノールである上記(11)〜(18)記載の香料。
(22)上記(11)〜(18)記載の香料を含む香料組成物。
Claims (5)
- 成分(A):2,2,6−トリアルキルシクロヘキサンカルボン酸エステル類および2,2,6−トリアルキルシクロヘキセンカルボン酸エステル類から選ばれる少なくとも1種の化合物からなることを特徴とする中枢神経系指標に属する指標が正の値を取り、自律神経系指標に属する指標の中で交感神経系指標に属する指標が活性化を示す交感神経活動促進剤。
- 成分(A)の化合物が2,2,6−トリメチルシクロヘキサンカルボン酸エチル、2,2,6−トリメチル−4,6−シクロヘキサジエンカルボン酸エチル、2,2,6−トリメチル−4−
シクロヘキセンカルボン酸メチル、α−シクロゲラン酸メチル、β−シクロゲラン酸メチル、γ−シクロゲラン酸メチル、α−シクロゲラン酸エチル、β−シクロゲラン酸エチル、γ−シクロゲラン酸エチル、および2,2−ジメチル−6−エチル−5−シクロヘキセンカルボン酸エチルである請求項1記載の交感神経活動促進剤。 - 成分(B):大環状ムスク化合物および成分(C):カンフォレニル型サンダル類から選ばれる1種あるいは2
種以上の化合物からなり、気分状態改善のために用いることを特徴とする中枢神経系指標に属する指標が正の値を取り、自律神経系指標に属する指標の中で副交感神経系指標に属する指標が活性化を示し、心理系指標に属する指標が不快な心理状態の抑制化を示す副交感神経活動促進剤。 - 成分(B)に属する化合物が3−メチルシクロペンタデカノン−1,3−メチル−4−シクロペンタデセン−1−オン、9−シクロペンタデカン−1−オン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン、シクロヘキサデカノン、シクロペンタデカノリド、シクロペンタデセン−11又は12−オリド、シクロペンタデセン−7−オリド、シクロヘキサデカノリド、エチレンブラシレート、エチレンドデカジオエート、12−オキサヘキサデカノリド、11−オキサヘキサデカノリド、10−オキサヘキサデカノリドであり、気分状態改善のために用いる請求項3記載の副交感神経活動促進剤。
- 成分(C)に属する化合物が3-メチル-5-(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ペンタン−2−オール、2-エチル-4-(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、(E)−(R)−2-エチル-4-(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、2-メチル-4-(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、2-メチル-4-(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ブタン−1−オール、3-メチル-5-(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール、3,3-ジメチル-5-(2,2,3−トリメチル−3’−シクロペンテン−1−イル)−4− ペンテン−2−オール、2-メチル-4-メチレン-4-(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ブタノール、[1-メチル-2-(1,2,2 −トリメチルビシクロ[3.1.0]ヘキサ−3−イルメチル)シクロプロピル]メタノールであり、気分状態改善のために用いる請求項3記載の副交感神経活動促進剤。
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