以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、カラーレーザプリンタ用の一実施形態の定着装置の断面構成を示している。
この定着装置は、概略、定着ローラ1と、加圧ローラ2と、磁束発生部3と、高周波電源回路としての高周波インバータ4と、制御部としての制御回路5と、切換スイッチ7とを備えている。6は温度センサ、8は分離爪、90はシートとしての用紙である。
定着ローラ1と加圧ローラ2は、それぞれ図1の紙面に対して垂直に延びる円筒状の部材であり、図1において上下に互いに平行に配置され、それぞれ両端が不図示の軸受部材に回転自在に支持されている。加圧ローラ2は、バネなどを用いた不図示の加圧機構によって定着ローラ1へ向かって付勢されている。これにより、定着ローラ1の下部と加圧ローラ2の上部とが所定の加圧力(後述)で圧接されて、ニップ部(定着ニップ部)を形成している。加圧ローラ2は、不図示の駆動機構により図中に矢印で示す時計回り方向に所定の周速度で回転駆動される。定着ローラ1はニップ部での加圧ローラ2との摩擦力によって加圧ローラ2の回転に従動回転する。なお、定着ローラ1を回転駆動させて加圧ローラ2を従動回転させてもよい。つまり、駆動と従動の関係は、逆であってもかまわない。
図2に示すように、定着ローラ1は、中心側から外周面1a側へ向かって順に設けられた、支持層としての芯金11と、断熱層12と、発熱層13と、弾性層14と、離型層15との5層構成になっている。定着ローラ1の硬度は、例えばASKER−C硬度で30度〜90度である。
支持層としての芯金11は、この例では外径26mmで、厚さ4mmのアルミニウムからなっている。芯金11の材料は、強度が確保できれば、例えば鉄、PPS(ポリフェニレンサルファイド)のような耐熱性のモールドのパイプであっても良い。ただし、芯金11が発熱するのを防ぐために、電磁誘導加熱の影響が少ない非磁性材料を用いるのが望ましい。
断熱層12は、主に、発熱層13を断熱状態にするために設けられている。後述するように発熱層13の熱容量を小さくした上、発熱層13をこの断熱層12で断熱することによって、外周面1a側にある弾性層14や離型層15を迅速に加熱することができる。この断熱層12の材料としては、耐熱性・弾性を有するゴム材や樹脂材のスポンジ体(断熱構造体)が用いられる。これにより、断熱層12は、断熱の役割だけでなく、発熱層13のたわみを許容してニップ幅を増やし、定着ローラ1の硬度を小さくして排紙性・用紙分離性能を向上させる役目を果たす。例えば、断熱層12がシリコンスポンジ材からなる場合は、厚さが2mm〜10mm、望ましくは3mm〜7mm、硬度がアスカーゴム硬度計で20度〜60度、望ましくは30度〜50度に設定される。なお、断熱層12は、ゴム材及びスポンジ体の2層構成としてもよい。
発熱層13は、磁束発生部3からの磁束による電磁誘導によって発熱するために設けられている。この例では、発熱層13は、厚さ40μmの無端状のニッケル電鋳ベルト層からなっている。発熱層13の厚さは10μm〜100μmであるのが望ましく、20μm〜50μmであるのがより望ましい。発熱層13の厚さを100μm以下、より望ましくは50μm以下としている理由は、発熱層13の熱容量を小さくして昇温速度を高めるためである。発熱層13の材料としては、例えば磁性ステンレスのような磁性材料(磁性金属)といった、比較的透磁率μが高く、適当な抵抗率ρを持つ物を用いてもよい。さらに非磁性材料であっても、金属などの導電性のある材料は、薄膜にすることなどにより、発熱層13の材料として使用可能である。なお、発熱層13の構成は、電磁誘導によって発熱する粒子を樹脂に分散させたものとしても良い。この構成により、分離性を良くすることが可能となる。
弾性層14は、厚み方向の弾力性によって、用紙と定着ローラ表面との密着性(カラー画像に対応するために重要である。)を高めるために設けられている。この例では、弾性層14は、耐熱性・弾性を有するゴム材や樹脂材であり、具体的には、定着温度での使用に耐えられるシリコンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性エラストマからなっている。弾性層14に、熱伝導性、補強等を目的として各種充填剤を混入してもかまわない。充填剤として用いられる熱伝導性粒子としては、ダイヤモンド、銀、銅、アルミニウム、大理石、ガラス等があるが、実用的にはシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、酸化ベリリウムが挙げられる。
弾性層14の厚みは、例えば厚さ10μm〜800μmが好ましく、100μm〜300μmがより好ましい。弾性層14の厚さが10μm未満であると、目的である厚み方向の弾力性を得ることが難しくなる。一方、800μmを超える厚さになると、発熱層で発生した熱が定着フィルム外周面に達し難くなり、熱効率が悪化する傾向が生ずる。
弾性層14がシリコンゴムからなる場合、その硬度はJIS硬度で1度〜80度、望ましくは5度〜30度であることが好ましい。このJIS硬度範囲であれば、弾性層の強度の低下、密着性の不良を防止しつつ、トナーの定着性の不良を防止できる。このシリコンゴムとしては具体的には、1成分系、2成分系又は3成分系以上のシリコンゴム、LTV(Low Temperature Vulcanization)型、RTV(Room Temperature Vulcanization)型又はHTV(High Temperature Vulcanization)型のシリコンゴム、縮合型又は付加型のシリコンゴム等を使用できる。この例では、弾性層14の材料として、JIS硬度10度、厚さ200μmのシリコンゴムを用いた。
最外層の離型層15は、外周面1aの離型性を高めるために設けられている。この離型層15の材料は、定着温度での使用に耐えられる上にトナーに対する離型性を有することを要し、例えばシリコンゴム、フッ素ゴムや、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFEP(パーフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂が好ましく用いられる。離型層15の厚さは、5μm〜100μmが好ましく、10μm〜50μmがより好ましい。また、層間接着力を向上させるためにプライマ等による接着処理を行ってもよい。なお、離型層15の中に必要に応じて、導電材、耐摩耗材、良熱伝導材をフィラとして添加することもできる。
図3に示すように、加圧ローラ2は、中心側から外周面2a側へ向かって順に設けられた、厚さ3mmのアルミニウムからなる芯金21と、厚さ3mm〜10mmのシリコンスポンジゴムからなる断熱層22と、PTFEやPFA等の厚さ10μm〜50μmのフッ素系樹脂からなる離型層25との3層構成からなっている。
芯金21の材料は、強度が確保できれば、例えば鉄、PPS(ポリフェニレンサルファイド)のような耐熱性のモールドのパイプであっても良い。ただし、芯金21が発熱するのを防ぐために、電磁誘導加熱の影響が少ない非磁性材料を用いるのが望ましい。
シリコンスポンジゴムからなる断熱層22の厚さは、3mm〜10mmの範囲で使用条件に合わせて適宜変更可能である。なお、断熱層22は、シリコンゴム及びシリコンスポンジの2層構成としてもよい。
最外層の離型層25は、外周面2aの離型性を高めるために設けられている。
この加圧ローラ2は、図1に示す定着ローラ1に対して300N〜500Nの加圧力で圧接されて、ニップ部を形成している。この場合のニップ幅は約5mm〜15mmになる。都合によっては荷重を変化させてニップ幅を変えてもよい。
磁束発生部3は、図1において定着ローラ1の上部を覆うように配置された略半円筒状の断面をもつコイルボビン33と、このコイルボビン33の外周面33bに沿って層状に配置された励磁コイル31と、この励磁コイル31に重ねて層状に配置された消磁コイル34と、励磁コイル31および消磁コイル34を覆うように配置された略台形状の断面をもつ第1の磁性体コアとしての磁性体コア32と、この磁性体コア32よりも定着ローラ1の外周面1aに対して近い位置に磁性体コア32から離間して別体として設けられた第2の磁性体コアとしての磁性体コア35とを含んでいる。
コイルボビン33の図1における中央部33aは、径方向外向きに断面コの字状に変形されている。磁性体コア35は、矩形状の断面をもち、コイルボビン33の断面コの字状の中央部33aの内側に嵌合して収容されている。つまり、磁性体コア35は、励磁コイル31の輪が作る隙間に配置されている。この結果、磁性体コア35は、定着ローラ1の発熱層13と磁気的に結合する一方、磁性体コア32とも磁気的に結合するように対向している。この配置によれば、磁性体コア35を設けることによって、装置の構成が大型化することがない。例えば定着ローラ1の外周面1aと磁性体コア32との間の距離を広げる必要がない。
図4は、コイルボビン33、励磁コイル31および磁性体コア32等を、図1における上方から見たところを示している。図4に示すように、コイルボビン33、励磁コイル31および磁性体コア32は、定着ローラ1の長手方向(軸方向)Xの寸法に略対応した長さ寸法を有する長尺部材である。なお、磁性体コア35のX方向に関する構成については後述する。
コイルボビン33は、励磁コイル31、消磁コイル34および磁性体コア32,35を支持するために設けられている。このコイルボビン33は、非磁性材料からなるのが望ましく、この例では厚さ1mm〜3mmの耐熱性の樹脂(例えばポリイミド)からなる。
励磁コイル31は、高周波インバータ4から電力供給を受けて磁束を発生させるために設けられている。励磁コイル31は、導線束を長円形状に複数回巻回して形成されている。この導線束は、定着ローラ1の長手方向Xに沿って延びる往路部分31aおよび復路部分31bと、定着ローラ1の両端1c,1dのところで、往路部分31aと復路部分31bとをつなぐ湾曲部分31c,31dとを有する。なお、1本の導線束は、通電効率を高めるために素線(直径0.18mm〜0.20mm程度の銅線であってエナメルで絶縁被覆されたもの)を百数十本程度束ねて形成された直径数mm程度の公知の撚り線である。これにより、高周波インバータ4から駆動周波数10kHz〜100kHz、電力100W〜2000Wの電力を受けることができる。なお、この例では、巻き線に伝熱した場合を考え、耐熱性の樹脂で被覆したものを使用した。
磁性体コア32は、磁気回路の効率を上げるためと磁気遮蔽のために設けられている。この例では、磁性体コア32は、長手方向Xに延びる一対の縁部32P,32Pと、これらの縁部32P,32Pにまたがって一体に形成された複数の台形部32D(図1中に示した断面をもつ。)とからなっている。台形部32Dは、この例では、長手方向Xに関して両端近傍では密なピッチで配列され、長手方向Xに関して両端近傍を除く内部では粗なピッチで配列されている。この磁性体コア32の材料としては、高透磁率かつ低損失の磁性材料を用いる。パーマロイのような合金の場合は、コア内の渦電流損失が高周波で大きくなるため積層構造にしてもよい。また、樹脂材に磁性粉を分散させたものを用いると、透磁率は比較的低いが、形状を自由に設定することができる。この例では、磁性体コア32は、樹脂材にフェライト粉を分散させたものを焼結して作製されている。磁性体コア32のキュリー温度(これをTc1と呼ぶ。)は、樹脂材中のフェライト粉の濃度を調節することによって、この例では約250℃に設定されている。
図5は、定着ローラ1の長手方向Xについての、磁性体コア35、励磁コイル31および消磁コイル34の配置、特に用紙が通される領域との対応関係を、模式的に分解状態で示している。
消磁コイル34は、図5中に示すように、励磁コイル31よりも短尺ではあるが、励磁コイル31と同様に導線束を長円形状に複数回巻回して形成されている。この例では、消磁コイル34は、励磁コイル31のX方向両端に重ねて、一対配置されている。それらの消磁コイル34は、互いに同じに構成され、定着ローラ1の長手方向Xに沿って延びる往路部分34aおよび復路部分34bと、往路部分34aと復路部分34bとをつなぐ湾曲部分34c,34dとを有する。
この図5では、X方向に関して、最大サイズの用紙が矢印Zの向きに通される領域(最大サイズシート通過領域)がWMAX、それよりも小サイズの用紙が通される領域(小サイズシート通過領域)がWI、最小サイズの用紙90sが通される中央の領域(最小サイズシート通過領域)がWMINでそれぞれ示されている。定着ローラ1の外周面のうちX方向に関して両側の端部に、最小サイズの用紙90sが通されない領域(最小サイズシート非通過領域)W0が生ずる。上述の消磁コイル34は、この小サイズシート非通過領域W0に対応し、マージンをもつように、それよりも若干広い領域WDを占めるように設けられている。
磁性体コア35は、磁気回路の効率を上げるためと定着ローラ1の長手方向の温度分布(後述)を改善するために設けられている。この例では、磁性体コア35は、X方向に関して、複数に分割されて1列に並べて配置されている。図5中では、X方向に関して、これらの複数の磁性体コア35のうち、最小サイズシート非通過領域W0内で最外端に配置された磁性体コアは35E、その内側に配置された磁性体コアは35Fで表されている。また、最小サイズシート通過領域WMINに配置された磁性体コアは35Gで表されている。X方向に関して互いに隣り合う第2の磁性体コア同士の間に空間39E,39F,39Gが設けられている。
この例では、各磁性体コア35E,35F,35Gは、既述の磁性体コア32と同様に、樹脂材にフェライト粉を分散させたものを焼結して作製されている。最小サイズシート通過領域WMIN内に配置された磁性体コア35Gのキュリー温度は、磁性体コア32のキュリー温度Tc1と同様に、約250℃(これもTc1と呼ぶ。)に設定されている。一方、最小サイズシート非通過領域W0内に配置された磁性体コア35E,35Fのキュリー温度(これをTc2と呼ぶ。)は、樹脂材中のフェライト粉の濃度をより低く調節することによって、約200℃に設定されている。これらの磁性体コア35E,35Fの透磁率μiは、図7に例示するように、温度Tが約200℃(≒Tc2)を超えると急激に低下して、磁性体として働かなくなる。
この定着装置では、図1の断面図で、励磁コイル31が通電されたとき、定着ローラ表面温度がほぼ所定の目標定着温度TT(≒180℃)か又はそれ以下に維持されている限り、磁性体コア32(縁部32Pと台形部32Dを含む。)とともに、磁性体コア35(35E,35F,35Gを含む。)の透磁率が高い状態にある。したがって、励磁コイル31が発生した磁束は、磁性体コア35から定着ローラ1の発熱層13に入り、この発熱層13で互いに反対向きに分流してそれぞれ磁性体コア32の各縁部32Pへ向かい、各縁部32Pからそれぞれ台形部32Dの対応する端部32bに達し、それらの各端部32bから中央部32aへ向かい、この中央部32aで合流して磁性体コア35に戻る、という磁気回路を通る。これにより、電磁誘導によって定着ローラ1の発熱層13に渦電流が流れて、定着ローラ1の発熱層13が有効に加熱される。これに対して、最小サイズシート非通過領域W0で定着ローラ表面温度がTc2を超えると、磁性体コア35E,35Fは、もはや磁性体として働かなくなる。したがって、上述の磁性体コア35を通る磁気回路が実質的に遮断されて、定着ローラ1の発熱層13があまり加熱されなくなり、定着ローラ表面温度が低下する。
ここで、例えば最小サイズの用紙90sにトナーを定着する場合に、定着ローラ1の外周面1aのうち最小サイズシート非通過領域W0の温度が目標定着温度TT以上に過大に上昇したときは、定着ローラ1から磁性体コア35E,35Fへの輻射熱によって、その領域W0に対向して配置された磁性体コア35E,35Fについて、比較的迅速に温度上昇が生じる。その理由は、磁性体コア35E,35Fは、磁性体コア35Gと同様に、定着ローラ1の外周面1aと磁性体コア32との間、つまり磁性体コア32よりも定着ローラ1に近い位置に配置されているからである。また、磁性体コア35E,35Fは、磁性体コア35Gと同様に、磁性体コア32とは別体として配置されているので、磁性体コア32と一体に連続している場合に比して、熱容量が小さくなっているからである。そして、磁性体コア35E,35Fの温度がこのコアのキュリー温度Tc2を超えると、このコアの透磁率の低下によって、定着ローラ1上の誘導電流が減少して、最小サイズシート非通過領域W0の発熱量が減少する。したがって、この定着装置では、定着ローラ1の最小サイズシート非通過領域W0の過昇温を迅速に防止することができる。なお、定着ローラ表面温度がほぼ目標定着温度TTに戻ると、磁性体コア35E,35Fの温度がこのコアのキュリー温度Tc2を下回るので、再び本来の電磁誘導によって、定着ローラ1の発熱層が有効に加熱される。
定着ローラ1の加熱と温調制御は、図1に示す制御回路5によって行われる。温度センサ6は例えばサーミスタであり、定着ローラ1の外周面1aに当接するように配置されている。この温度センサ6の定着ローラ表面温度を表す検出信号が制御回路5に入力される。制御回路5は、温度センサ6の検出信号をもとに高周波インバータ4を制御して高周波インバータ4から励磁コイル31への電力供給を増減させる。これにより、定着ローラ表面温度が目標定着温度TTになるように自動制御される。これにより、用紙90に熱が奪われても、定着ローラ表面温度を維持することができる。目標定着温度TTは、装置の仕様や用紙の搬送速度によって可変して設定される。この例では、目標定着温度TTは約180℃であるものとする。なお、温度センサ6は、サーミスタのような接触式だけでなく、赤外線検出センサのような非接触式のものでもかまわない。
定着動作時には、加圧ローラ2が回転駆動され、これに従動して定着ローラ1も回転する。これとともに、磁束発生部3の発生した磁束による電磁誘導によって定着ローラ1の発熱層13が発熱して定着ローラ1の表面温度が目標定着温度TTになるように自動制御される。この状態で、不図示の搬送機構によって、定着ローラ1と加圧ローラ2とが作るニップ部に、未定着トナー像91が片面に形成されたシートとしての用紙90が送り込まれる。この場合、用紙90の未定着トナー像91が形成された面が定着ローラ1に接する。定着ローラ1と加圧ローラ2とが作るニップ部に送り込まれた用紙90は、ニップ部を通るときに定着ローラ1によって加熱される。これにより、未定着トナー像91が用紙90に定着される。ニップ部を通った用紙90は定着ローラ1から分離して排出されていく。万一、用紙90がニップ部通過後に定着ローラ外周面1aに張り付いてしまった場合は、定着ローラ外周面1aに当接して配置されている分離爪8がその用紙90を定着ローラ外周面1aから強制的に分離させて、ジャムを防止する。
図6は、様々な場合の定着ローラ1の長手方向(X方向)の温度分布を示している。図6中のTTは既述の目標定着温度(≒180℃)を示し、Tc1は磁性体コア32,35Gのキュリー温度を示し、また、Tc2は磁性体コア35E,35Fのキュリー温度を示している。TLは、定着性を良好に確保する観点から設定された定着性下限温度(≒170℃)を示している。TUは、耐熱性の観点から許容される耐熱性上限温度(≒250℃)を示している。この例では、TU≒Tc1に設定されている。なお、耐久性および安全の観点から、Tc1は240℃に設定されても良い。
図5において、定着ローラ1と加圧ローラ2との間のニップ部を最大サイズWMAXの用紙が通される場合は、図1中の制御回路5によって切換スイッチ7が制御されて、各消磁コイル34が「開」になる。このとき、消磁コイル34による消磁の効果は生じない。
図6中の1点鎖線81は、このように用紙サイズがWMAX、消磁コイル34が「開」の場合の定着ローラ1の長手方向(X方向)の温度分布を示している。この温度分布81では、定着ローラ表面温度は、定着ローラ1の長手方向の全域(用紙サイズWMAXの全域)にわたって、TLとTc2との間にある。
一方、図5中に示すような最小サイズWMINの用紙90sが通される場合は、制御回路5によって切換スイッチ7が制御されて、消磁コイル34が「閉」になる。このとき、消磁コイル34は励磁コイル31による磁界の変化を妨げる向きに磁界(逆磁界)を発生させて、消磁効果を発揮する。その結果、消磁コイル34が配置されている領域WD、つまり、実質的に最小サイズシート非通過領域W0で、定着ローラ1の過昇温を低減する。
図6中の実線83は、参考例として、磁性体コア35を設けない場合で、用紙サイズがWMIN、消磁コイル34が「閉」のときの定着ローラ1の長手方向(X方向)の温度分布を示している。この温度分布83では、定着ローラ表面温度は、用紙サイズWMINの範囲では、定着ローラ表面温度は、TLとTUとの間にある。したがって、定着動作は一応正常に行われる。しかし、最小サイズシート通過領域WMINのすぐ外側の領域F(図5中の最小サイズシート非通過領域W0と小サイズシート通過領域WIとがオーバラップした領域)で、定着ローラ表面温度がほぼTUに達しているため、耐久性および安全の観点から、余裕がないと言える。ここで、本実施形態のように、その領域Fに対向して磁性体コア35Fを設けておけば、温調制御の結果としてたとえ実線83のような温度分布になろうとしても、定着ローラ1からの輻射熱によって、磁性体コア35Fの温度がTc2を超える。すると、この磁性体コア35Fを通る磁気回路が実質的に遮断されて、定着ローラ1の発熱層13があまり加熱されなくなり、その領域Fで定着ローラ表面温度が低下する。したがって、定着ローラ1の過昇温を防止できる。
また、図6中の破線82は、参考例として、磁性体コア35を設けない場合で、用紙サイズがWI、消磁コイル34が「閉」のときの定着ローラ1の長手方向(X方向)の温度分布を示している。この温度分布82では、小サイズシート通過領域WI内の端部に相当する領域Fで、定着ローラ表面温度がTLを下回っている。このため、定着動作が正常に行われず、画像品質が低下する。また、小サイズシート通過領域WIのすぐ外側の領域Eで、定着ローラ表面温度がほぼTUに達しているため、耐久性および安全の観点から、余裕がないと言える。ここで、本実施形態のように、その領域F,Eに対向して磁性体コア35F,35Eを設けておけば、領域Eで定着ローラ表面温度が低下してTUに対して余裕ができる。したがって、領域Fに注目してより多くの電力を投入する制御が可能となる。したがって、定着ローラ1の過昇温を防止できるとともに、定着ローラ1の長手方向の温度分布の均一性を改善できる。
また、磁性体コア35については、互いに隣り合う磁性体コア35E,35F,35G,39G,…同士の間に空間39E,39F,39G,…が設けられている。したがって、定着ローラ1の例えば領域Eの温度が目標定着温度TT以上に過大に上昇し、その領域Eに対向して配置された磁性体コア39Eの温度がこのコアのキュリー温度Tc2を超えたとしても、そのコアに隣り合って配置された磁性体コア39Fへは、空間39Eの御蔭で、熱伝導が生じ難い。したがって、この定着装置では、磁性体コア39Eの温度が隣り合って配置された39Fに悪影響を与えることがない。この結果、定着ローラ1の長手方向の温度分布の均一性をさらに改善できる。なお、空間39E,39F,39G,…に断熱層が介挿されても良い。
しかも、上述の例では、用紙サイズWI、WMINに応じて、磁性体コア35E,35F,35G同士の間の空間39E,39Fを設けている。したがって、用紙サイズWI、WMINに応じて生じる領域E,Fの過昇温に対して、それぞれの領域E,Fに対向する磁性体コア35E,35Fが互いに独立に働く。したがって、用紙サイズWI、WMIN毎にシート非通過領域E,Fの過昇温をより適切に防止できる。
また、上述の例では、3種類のサイズのWMAX、WI、WMINの用紙が用いられるものとしたが、これに限られるものではない。より多種類のサイズの用紙が用いられても良い。その場合、それらの用紙サイズに応じて、磁性体コア35をX方向に関して分割するのが望ましい。なお、最小シートサイズWMINは、葉書サイズとすることができる。
上述の例では、目標定着温度TTは約180℃、磁性体コア32,35Gのキュリー温度Tc1は約250℃、磁性体コア35E,35Fのキュリー温度Tc2は約200℃にそれぞれ設定された(設定誤差はそれぞれ±10℃が想定されている。)。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。目標定着温度TTは、この定着装置やこの定着装置が設けられる画像形成装置の仕様(または動作モード)に応じて、高速処理仕様では約180℃、低速処理仕様では約160℃というように、可変して設定され得る。
その場合、キュリー温度Tc2は、目標定着温度TTと、この目標定着温度TTから50℃だけ高い上限制御温度までの温度範囲内に設定されれば良い。上述の例では、目標定着温度TTが約180℃であったから、キュリー温度Tc2は180℃から230℃までの範囲内に設定されれば良い。これにより、定着ローラ1の外周面1aに設けられた弾性層12,14や離型層15が過昇温によって劣化するのを防止できる。
また、発明の作用効果を奏する観点からは、キュリー温度Tc1は、この上限制御温度230℃を上回っていれば良い。現実的には、キュリー温度Tc2に対して少なくとも10℃程度のマージンをもって区別できるのが望ましい。したがって、キュリー温度Tc2の上限制御温度が230℃である場合、キュリー温度Tc1は約240℃以上であるのが望ましい。
また、図示していないが、磁性体コア35E,35F,35Gの定着ローラ1側に相当する面に、非磁性の輻射熱吸収層を設けても良い。この幅射熱吸収層としては、例えば耐熱性及び離型性を有するFEPのフッ素樹脂中に、輻射熱吸収性を有する平均粒径が0.1μm以下のカーボン粒子を分散したコート剤を用いて、20μm厚程度の黒色コート層としたものを用いることができる。そのように輻射熱吸収層を設けた場合、定着ローラ1から磁性体コア35E,35F,35Gへ輻射熱の吸収が迅速になる。したがって、例えば小サイズの用紙にトナーを定着する場合に、定着ローラ1の外周面1aのうち小サイズシート非通過領域Eの温度が目標定着温度TT以上に過大に上昇したときは、定着ローラ1から磁性体コア35Eへの輻射熱によって、その磁性体コア35Eについて、さらに迅速に温度上昇が生じる。したがって、定着部材の小サイズシート非通過領域の過昇温をさらに迅速に防止できる。
本実施形態では、定着部材として定着ローラを備えたが、これに限定するものではなく、定着部材として定着ベルトを備えても良い。定着部材の材質や構成は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明を適用可能な範囲内で適宜変更してかまわない。
また、本実施形態では、消磁コイル34を備えたが、本発明はこれに限られるものではない。消磁コイル34を省略して、小サイズシート非通過領域の過昇温を専ら第2の磁性体コアによって防止するようにしても良い。
シートとしては、用紙(紙)だけでなく、OHP(オーバヘッドプロジェクタ)用などの樹脂シートを用いることができる。
図8は、一実施形態の定着装置1520を備えた画像形成装置1501の構成を示している。
まず、画像形成装置1501の概略構成を説明する。画像形成装置1501は、その内部のほぼ中央部にベルト部材として中間転写ベルト1502を備えている。中間転写ベルト1502は、ローラ1504、1505の外周部に支持されて矢印A方向に回転駆動されるようになっている。中間転写ベルト駆動ローラ1505は図示しない駆動モータに連結され、この中間転写ベルト駆動ローラ1505の回転に伴い、ローラ1504が従動回転するようになっている。
中間転写ベルト1502の下部水平部の下には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色にそれぞれ対応する4つの作像ユニット1506Y、1506M、1506C、1506Kが中間転写ベルト1502に沿って並んで配置されている。
各作像ユニット1506Y、1506M、1506C、1506Kは、感光体ドラム1507Y、1507M、1507C、1507Kをそれぞれ有している。各感光体ドラム1507Y、1507M、1507C、1507Kの周囲には、その回転方向に沿って順に、帯電器1508と、プリントヘッド部1509と、現像器1510と、中間転写ベルト1502を挟んで各感光体ドラム1507Y、1507M、1507C、1507Kと対向する1次転写ローラ1511Y、1511M、1511C、1511Kと、クリーナ1512とがそれぞれ配置されている。
中間転写ベルト1502の中間転写ベルト駆動ローラ1505で支持された部分には、2次転写ローラ1503が圧接されており、2次転写ローラ1503と中間転写ベルト1502とのニップ部が、2次転写領域1530になっている。
2次転写領域1530後方の搬送路1541下流位置には、定着ローラ1521、加圧ローラ1522、磁束発生部1523を備えた定着装置1520が配置されている。定着ローラ1521と加圧ローラ1522との圧接部が定着ニップ部1531となっている。図8では図示を省略しているが、この定着装置1520は、図1に示した定着装置と同様に、定着ローラ1521と磁束発生部1523との間に消磁コイル34を備え、さらに、制御回路5、高周波インバータ4および切換スイッチ7を備えている。定着装置1520は、この画像形成装置の図示しない制御部から受ける用紙サイズを表す信号に応じて切換スイッチ7をオンオフさせて、消磁コイル34を開閉する。
プリンタ1の下部には、給紙カセット1517が着脱可能に配置されている。給紙カセット1517内に積載収容された用紙P(既述の最大サイズの用紙90や小サイズの用紙90sを含む。)は、給紙ローラ1518の回転によって最上部のものから1枚ずつ搬送路1540に送り出されることになる。
前記中間転写ベルト1502の最下流側の作像ユニット1506Kと2次転写領域1530との間には、レジストセンサを兼用するAIDC(画像濃度)センサ1519が設置されている。このレジストセンサ1519は、中間転写ベルト1502上に形成された各色のパターンの間隔を測定し、その間隔を予め定められた基準値と比較することにより、各色の画像の書き出し開始タイミングを調整するためのものである。
次に、以上の構成からなる画像形成装置1501の概略動作について説明する。外部装置(例えばパーソナルコンピュータ)から画像形成装置1501の画像信号処理部(図示せず)に画像信号が入力されると、画像信号処理部ではこの画像信号をイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックに色変換したデジタル画像信号を作成し、入力されたデジタル信号に基づいて、各作像ユニット1506Y、1506M、1506C、1506Kのプリントヘッド部1509を発光させて露光を行う。これにより、各感光体ドラム1507Y、1507M、1507C、1507Kの表面には、各色用の静電潜像がそれぞれ形成される。
各感光体ドラム1507Y、1507M、1507C、1507K上に形成された静電潜像は、各現像器1510によりそれぞれ現像されて各色のトナー画像となる。そして、各色のトナー画像は、各1次転写ローラ1511Y、1511M、1511C、1511Kの作用により、矢印A方向に移動する中間転写ベルト1502上に順次重ね合わせて1次転写される。
このようにして中間転写ベルト1502上に形成された重ね合わせトナー画像は、中間転写ベルト1502の移動にしたがって2次転写領域1530に達する。この2次転写領域1530において、重ね合わされた各色トナー画像は、2次転写ローラ1503の作用により、用紙Pに一括して2次転写される。
次に用紙Pに2次転写されたトナー画像は、定着ニップ部1531に達する。この定着ニップ部1531において、トナー画像は磁束発生部1523により誘導発熱する定着ローラ1521及び加圧ローラ1522の作用により用紙Pに定着される。
この定着に際して、図1に示した定着装置と同様に、定着装置1520は、定着ローラ1521の小サイズシート非通過領域の過昇温をさらに迅速に防止できる。したがって、この画像形成装置は、形成される画像の品質を高めることができ、また、耐久性および安全性に優れる。
トナー画像が定着された用紙Pは、排紙ローラ1514を介して排紙トレイ1513に排出される。
なお、画像形成装置としてはモノクロ/カラーの複写機、プリンタ、FAXやこれらの複合機など、どれでもかまわない。