本発明のインクジェットヘッドは、ノズルに連通した複数の圧力室が平面に沿って形成された流路ユニットと、前記流路ユニットの前記平面に固定され、前記圧力室の容積を変化させる圧電アクチュエータとを備えている。そして、前記圧電アクチュエータが、前記複数の圧力室に跨って延在した圧電シートと、各前記圧力室に対応して配置され、前記圧電シート上の各圧力室に対向する位置に配置された複数の個別電極と、前記複数の個別電極とともに前記圧電シートを挟む共通電極とを有している。さらに、前記圧電アクチュエータと前記圧力室との間には、前記個別電極と対向する第1領域、及び、前記個別電極と対向しない第2領域からなり、前記圧力室内のインクが前記圧電シートに浸透して個別電極に達してしまうのを防止するための壁体が配置されている。そして、前記第2領域は、前記平面と反対側の面に前記圧力室の一部となる空間が形成されていることによって、前記平面と直交する方向に関する厚さが前記第1の領域におけるよりも薄い薄肉部となっている。
本発明によると、個別電極に対向する第1の領域が圧電アクチュエータと圧力室との間に配置された壁体に設けられているために、圧電アクチュエータにおいて圧力室に面する面の個別電極に対向する領域にインクが直接触れることがない。したがって、帯電したインクの圧電アクチュエータへの接触に起因した電極間ショートなどの圧電アクチュエータの故障が生じにくくなる。また、壁体において個別電極に対向していない第2の領域には第1の領域よりも厚さが薄い薄肉部が形成されているため、かかる薄肉部が形成されていない場合に比べて、壁体による圧電アクチュエータの変形阻害が抑制される。したがって、薄肉部が形成されていない場合に比べて圧力室の容積変化量が大きくなり、ノズルからのインク吐出量を増加させることができる。
本発明において、前記流路ユニットは、前記平面とは反対側の面に前記圧力室の少なくとも一部を構成する第1凹部が形成されたキャビティプレートを含む複数のプレートを有する積層構造体であり、前記キャビティプレートの前記第1凹部と前記圧電アクチュエータとの間に位置する部分が、前記壁体となっていてよい。これによると、薄肉部を容易に形成することが可能となる。
このとき、前記圧力室が細長形状を有しており、前記薄肉部が前記第1凹部の長手方向に沿って設けられていてよい。これによると、壁体による圧電アクチュエータの変形阻害がさらに抑制されるため、ノズルからのインク吐出量をより増加させることができる。
前記薄肉部は、前記第1凹部の長手方向に沿って実質的にその全長にわたって設けられていることが好ましい。これによると、壁体による圧電アクチュエータの変形阻害がより一層抑制されるため、ノズルからのインク吐出量をさらに増加させることができる。
また、前記薄肉部は、前記第1凹部の長手方向に沿って複数設けられていてもよい。これによると、壁体が自重によって下垂しにくくなるので、圧力室の容積を設計値どおりに確保することができる。
さらに、前記流路ユニットにおいて、前記キャビティプレートに隣接したプレートの前記キャビティプレートに接する面に、前記キャビティプレートに形成された前記第1凹部とともに前記圧力室を構成する第2凹部が形成されていることが好ましい。これによると、十分なキャビティプレートの厚さを確保できないために第1凹部だけでは圧力室として十分な容積を確保できない場合であっても、キャビティプレートに隣接したプレートに第2凹部を形成することで、必要な圧力室容積を確保することができる。
この場合、前記薄肉部が、前記第1の領域から離隔していることが好ましい。これによると、圧電アクチュエータの表面において個別電極に対向した部分にインクが直接触れるのを確実に防ぐことができる。したがって、圧電アクチュエータの故障がさらに生じにくくなる。
本発明において、前記薄肉部が、前記第1凹部を挟んで、それぞれ前記圧力室の両縁部に沿って形成されていることが好ましい。これによると、壁体が圧電アクチュエータと圧力室との間にあっても、圧力室に対して圧電アクチュエータがバランス良く変形するので、効率の良いインク吐出が可能となる。
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態に係るインクジェットヘッドについて説明する。
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を図1〜5に基づいて説明する。図1は、インクジェットヘッドの分解斜視図である。図1に示すように、インクジェットヘッド1は、流路ユニット10と、流路ユニット10の表面に接着剤を介して接着されたアクチュエータユニット20とを有している。さらに、アクチュエータユニット20の上面には、ドライバIC(図示せず)との電気的接続のためのフレキシブルフラットケーブル(FPC)40が接合される。
流路ユニットの分解斜視図である図2及びその部分拡大図である図3に示すように、流路ユニット10は、下から、ノズルプレート11、ダンパプレート12、2枚のマニホールドプレート13X、13Y、ベースプレート14、キャビティプレート15の6枚の薄い金属板が、互いに重ねられた状態で接着された積層構造を有している。
ノズルプレート11には、インクを吐出するためのノズル孔35が、所定の間隔をおいて多数形成されている。このノズル孔35は、ノズルプレート11における長手方向に沿って千鳥状の2列に配列されている。
キャビティプレート15においてベースプレート14に接する面には、複数の凹部51が形成されている。凹部51の長手方向は、キャビティプレート15の長手方向に対して直交している。複数の凹部51は、キャビティプレート15の長手方向に沿って千鳥状の2列に配列されている。図1のIV−IV線断面図である図4に示すように、凹部51の底面51aとアクチュエータユニット20との間には、キャビティプレート15の一部である壁体16が配置されている。後述するように、壁体16には、キャビティプレート15をその厚み方向に貫く4つの長孔52(図6(a)及び図6(b)参照、本明細書において薄肉部の一種であるとする)が形成されている。凹部51の下方の開口がベースプレート14に塞がれ且つ長孔52の上方の開口がアクチュエータユニット20に塞がれることによって、所望容積を有する圧力室36が画定されている。複数の圧力室36は、流路ユニット10においてアクチュエータユニット20が接着される平面10aに沿って形成されている。各圧力室36は、平面視において両端がR形状に丸められたほぼ矩形形状を有している。4つの長孔52を含めた壁体16は、圧力室36と同じ平面サイズを有している。
キャビティプレート15のベースプレート14に接する面には、それぞれ対応する圧力室36と接続される溝状の絞り部36dと、この絞り部36dと接続されるインク供給孔36bとが形成されている。キャビティプレート15の幅方向中央側にある各圧力室36の端部36aは、ベースプレート14、2枚のマニホールドプレート13X、13Y、ダンパプレート12に夫々千鳥状配列で形成された貫通孔37a、37b、37c、37dを介してノズル孔35に連通している。
2枚のマニホールドプレートのうちベースプレート14に近い側のマニホールドプレート13Xには、2つのインク室半部13aが貫通状に形成されている。そして、このインク室半部13aの側壁には、前述のインク供給孔36bに接続される流路を構成する接続溝45が形成されている。一方、ノズルプレート11側のマニホールドプレート13Yには、二つのインク室半部13bが、他側のマニホールドプレート13Xに向けてのみ開放するように凹設されている。そして、図4に示すように、2枚のマニホールドプレート13X、13Yとベースプレート14の3枚のプレートが積層された状態では、インク室半部13aとインク室半部13bとが重ね合わされることによって2つの共通インク室7が形成されている。さらに、ダンパプレート12とノズルプレート11を加えることにより、貫通孔37aからノズル孔35に到る流路の列を挟んで、両側に1つずつの共通インク室7が流路ユニット10内に延在するように配置されている。
ダンパプレート12には、ダンパ溝12cが凹設されており、このダンパ溝12cはマニホールドプレート13Y側に向けてのみ開放するように形成され、その平面視での位置および平面サイズは共通インク室7と一致している。図2に示すように、キャビティプレート15には2つのインク供給孔39aが長手方向端部に形成されている。同様に、ベースプレート14にもインク供給孔39bが形成されている。これらインク供給孔39a、39bは、2つの共通インク室7に対応して設けられている。これらインク供給孔39a,39bが共通インク室7に連通することで、外部のインク供給源から流路ユニット10内にインクを供給する流路が形成される。さらに、ベースプレート14における左右両側部位には夫々インク供給孔38が列状に形成されている。このインク供給孔38は、共通インク室7と個別の圧力室36とを連通している。
そして、流路ユニット10には、共通インク室7から、接続溝45、インク供給孔38、絞り部36d、圧力室36を経て、各ノズル孔35に至る個別インク流路(チャンネル)が形成されている。なお、本実施の形態のインクジェットヘッドにおける個別インク流路の数は、Ch0〜Ch74までの75である。そして、各個別インク流路において、アクチュエータユニット20によって選択的に圧力室36内のインクに吐出エネルギーが与えられ、貫通孔37a〜37dを介してノズル孔35からインクが吐出される。
次に、アクチュエータユニット20について説明する。図4及びアクチュエータユニット20の分解斜視図である図5に示すように、アクチュエータユニット20は、6枚の圧電シート21a、22a、21b、22b、21c、22cと3枚の絶縁シート23a、23b、23cとを積層した構造を有している。圧電シート22a、22b、22cの上面には、圧力室36よりも幅が細い複数の個別電極24が設けられている。個別電極24は、平面視で幅方向に関して圧力室36内に含まれるように形成されている。各個別電極24の一端24aは、図5に示すように、アクチュエータユニット20の側面にまで達している。
圧電シート21a、21b、21cの上面には、複数の圧力室36に跨って延在した共通電極25が設けられている。共通電極25の一端25aも、個別電極24と同様に、アクチュエータユニット20の側面にまで達している。共通電極25は常に接地電位に保持されている。そして、圧電シート22a、21b、22b、21c、22cにおいて個別電極24と共通電極25とに挟まれた領域が活性部(圧力発生部)として働く。両電極24,25間に電圧が印加されることで活性部が変形して、圧力室36内のインクに圧力が印加される。最上段の絶縁シート23cの上面には、個別電極24の各々に対応する表面電極26と、共通電極25に対応する表面電極27とが、絶縁シート23cの長辺に沿って設けられている。
アクチュエータユニット20の長手方向に沿った両側壁には、共にアクチュエータユニット20の厚さ方向に延在した第1の凹み溝30及び第2の凹み溝31が形成されている。第1の凹み溝30は、各個別電極24の一端24aに対応するように各側壁に多数形成されている。第2の凹み溝31は、共通電極25の一端25aに対応するように形成され、第1の凹み溝30がなす列の両端部にそれぞれ1つずつ配置されている。第1の凹み溝30及び第2の凹み溝31内には、側面電極が形成されている。第1の凹み溝30の側面電極は、対応する個別電極24の一端24a及び表面電極26と接触することによって個別電極24及び表面電極26と電気的に接続されている。第2の凹み溝31の側面電極は、対応する共通電極25の一端25a及び表面電極27と接触することによって共通電極25及び表面電極27と電気的に接続されている。なお、アクチュエータユニット20内には、特別の用途がない捨てパターンの電極28、29が形成されている。これにより、アクチュエータユニット20の全体的な平坦度が確保されている。
図4からも明らかなように、アクチュエータユニット20は、流路ユニット10の各圧力室36とアクチュエータユニット20の各個別電極24とが対向するように、流路ユニット10の表面10aに接着されている。また、アクチュエータユニット20の上面において、FPC40と表面電極26、27とが電気的に接合されている。そして、各圧力室36に対応する表面電極26及び各個別電極24と、表面電極27及び共通電極25と、各圧電シート21a〜23cのうち個別電極24に対向する部分とによって、対応するノズル孔35からインク滴を吐出させる1つの圧電アクチュエータが構成されている。
個別電極24と共通電極25との間に電圧が印加されると、圧電シート22a、21b、22b、21c、22cのうち正電位とされた個別電極24に対向する部分に圧電作用によって積層方向の歪みが発生し、その部分が圧力室36に向かって膨らんだ凸形状となる。その結果、圧力室36の容積が減少する。そして、この初期状態から一旦個別電極24を接地電位に戻し、その後個別電極24を再度正電位としたときに、ノズル孔35からインクが吐出される。
次に、圧力室36付近における流路ユニット10の構造の詳細について、図6(a)及び図6(b)を参照して説明する。図6(a)は、インクジェットヘッド1の部分拡大平面図であって、同じ方向に並べられた6つの圧力室36が描かれている。図6(b)は、図6(a)のVIB−VIB線断面図である。上述したように、壁体16は、平面視で圧力室36と同じ平面サイズと形状を有している。したがって、壁体16は、個別電極24に対向する領域(図6(a)中で最も下に描かれた圧力室36において斜線が引かれた領域)16aと、個別電極24に対向しない領域16bとに分けられる。領域16aは、個別電極24において圧力室36に対向する部分と同じ平面サイズと形状を有している。領域16bは、平面視で圧力室36から個別電極24を除いたほぼU字状の平面形状を有している。
そして、壁体16には、その幅方向端部に沿ってそれぞれ2つ、合計4つの長孔52が形成されている。長孔52は、キャビティプレート15を、平面10aに垂直な方向、つまりその厚み方向に貫いている。長孔52は、個別電極24に対向していない。つまり、長孔52は、領域16b内に形成されている。各長孔52の長さは、壁体16の長さの1/2よりもやや短い程度である。したがって、壁体16の幅方向端部の実質的に全長にわたって長孔52が形成されていることになる。長孔52の幅は、領域16bの幅より狭く、平面視において個別電極24からわずかに離隔している。領域16bにおいて、長孔52以外の部分は、領域16aと同じ厚みを有している。すなわち、長孔52以外における壁体16の厚みは一定であって、図6(b)から明らかなように、圧力室36の深さの半分程度である。
次に、インクジェットヘッド1の製造方法について説明する。図7は、インクジェットヘッド1の製造工程図である。インクジェットヘッド1を製造するには、流路ユニット10及びアクチュエータユニット20等の部品を別々に作製し、それから各部品を組み付ける。
まず、ステップ1(S1)では、流路ユニット10を作製する。流路ユニット10を作製するには、これを構成する各プレート11、12、13X、13Y、14、15にパターニングされたフォトレジストをマスクとしたエッチング及びハーフエッチングを施して、各プレート11、12、13X、13Y、14、15に貫通孔及び/又は凹部を形成する。
ここで、図8を用いて、キャビティプレート15をエッチング加工する手順について説明する。まず、キャビティプレート15上の全面にフォトレジスト61を塗布する。その後、図8(a)に示すように、圧力室39と同じ平面サイズの貫通孔が形成されるようにフォトレジスト61をパターニングする。そして、フォトレジスト61をマスクとしてキャビティプレート15にエッチング加工を施す。これにより、図8(b)に示すように、キャビティプレート15においてフォトレジスト61から露出した領域に、その半分程度の深さを有する凹部51を形成する。
続いて、凹部51が形成されたのとは反対側の面にフォトレジスト63を塗布する。その後、図8(c)に示すように、長孔52と同じ平面サイズの貫通孔が凹部51の幅方向端部に沿ってそれぞれ2つ、合計4つ形成されるようにフォトレジスト63をパターニングする。そして、フォトレジスト63をマスクとしてキャビティプレート15にエッチング加工を施すことによって、図8(d)に示すように、凹部51に達する長孔52を形成する。このようにして、上述した4つの長孔52が形成された壁体16が形成されることになる。
図7に戻って、インク供給口39からノズル孔35に至る個別インク流路が形成されるようにプレートの位置合わせをし、6枚のプレート11、12、13X、13Y、14、15をエポキシ系の熱硬化性接着剤を介して重ね合わせる。そして、6枚のプレート11、12、13X、13Y、14、15を(熱硬化性)接着剤の硬化温度以上の温度に加熱しつつ加圧する。これによって、6枚のプレート11、12、13X、13Y、14、15が互いに固着され、図1に示すような流路ユニット10が得られる。代替的に、各プレート11、12、13X、13Y、14、15を、金属接合によって互いに固着してもよい。この場合は、接着剤が不要となる。また、ノズルプレート11の孔は、エッチングではなく、パンチング加工やレーザー加工によって形成してもよい。
他方、アクチュエータユニット20を作製するには、まず、ステップ2(S2)において、圧電セラミックスのグリーンシート上に、個別電極24、共通電極25、表面電極26、27となる導電性ペーストをスクリーン印刷する。そして、下から順に共通電極25となる導電性ペーストが印刷されたグリーンシート上に個別電極24となる導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを載置し、この組み合わせの積層体を3組積層する。この上に、絶縁シートとなる2枚のグリーンシートを載置する。さらにその上に表面電極26、27となる導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを載せて、これら9枚のグリーンシートの積層体を治具を用いて位置合わせする。
そして、ステップ3(S3)において、ステップ2で得られた積層体を公知のセラミックと同様に脱脂し、所定の温度で焼成する。これにより、図1に描かれたようなアクチュエータユニット20を作製することができる。アクチュエータユニット20は、予め焼成による収縮量を見込んで製作される。また、アクチュエータユニット20の側面に露出する個別電極24や共通電極25を表面電極26、27に接続する側面電極は、同様の印刷法で形成され、ステップ3の焼成工程前に、他の電極と同時に形成してもよいし、焼成工程後に改めて形成してもよい。
なお、ステップ1の流路ユニット作製工程と、ステップ2〜3のアクチュエータユニット20作製工程は、独立に行われるものであるため、いずれを先に行ってもよいし、並行して行ってもよい。
次に、ステップ4(S4)において、ステップ1で得られた流路ユニット10の表面10aに、熱硬化温度が80℃程度であるエポキシ系の熱硬化性接着剤を塗布する。熱硬化性接着剤としては、例えば、二液混合タイプのものが用いられる。
次に、ステップ5(S5)において、接着剤が塗布された流路ユニット10の表面10a上にアクチュエータユニット20を載置する。このとき、アクチュエータユニット20は、個別電極24と圧力室36とが対向するように流路ユニット10に対して位置決めされる。この位置決めは、予めステップ1〜ステップ3において流路ユニット10及びアクチュエータユニット20に形成された位置決めマーク(図示せず)に基づいて行われる。
次に、ステップ6(S6)において、流路ユニット10とアクチュエータユニット20との積層体を図示しない加熱・加圧装置で熱硬化性接着剤の硬化温度以上に加熱しながら加圧する。これにより、流路ユニット10とアクチュエータユニット20が接合される。
次に、ステップ7(S7)において、加熱・加圧装置から取り出された積層体を自然冷却する。こうして、流路ユニット10とアクチュエータユニット20とで構成されたヘッド本体が製造される。その後、FPC40をアクチュエータユニット20にハンダ接合する工程などを経て、インクジェットヘッド1が完成する。
以上の説明から分かるように、本実施の形態のインクジェットヘッド1では、個別電極24がキャビティプレート15に形成された壁体16に対向して設けられているために、アクチュエータユニット20において個別電極24に対向する圧力室36側の領域、つまり壁体16の領域16aに接する圧電シート21aの領域にインクが直接触れることがない。したがって、帯電したインクのアクチュエータユニット20への接触に起因した電極間ショートなどのアクチュエータユニット20の故障が生じにくくなる。また、壁体16において個別電極24に対向していない領域16bには長孔52が形成されているため、かかる長孔52が形成されていない場合に比べて、壁体16によるアクチュエータユニット20の変形阻害が抑制される。したがって、長孔52が形成されていない場合に比べて圧力室36の容積変化量が大きくなり、ノズル孔35からのインク吐出量を増加させることができる。
長孔52が壁体16の領域16bに形成されているために、アクチュエータユニット20において、長孔52から圧力室36に露出した領域20aはインクが直接触れることになる。しかしながら、領域20aが個別電極24に対向していないため、帯電したインクを引き寄せる効果は弱い。仮に、帯電したインクがアクチュエータユニット20内に浸透したとしても、電極間ショートが起こることはほとんどない。しかも、長孔52が領域16aから離隔しているので、帯電したインクのアクチュエータユニット20への接触に起因した電極間ショートがさらに生じにくくなり、結果としてインクジェットヘッド1の信頼性が向上する。
また、本実施の形態において、流路ユニット10が6枚のプレート11、12、13X、13Y、14、15を有する積層構造体であるために、キャビティプレート15に対して例えばエッチング加工を施すという工程を経ることによって、キャビティプレート15においてベースプレート14に面した面に比較的容易に凹部51を形成することが可能となっている。
さらに、本実施の形態では、圧力室36が細長形状を有しており、長孔52が凹部51の長手方向に沿って設けられている。そのため、長孔52が凹部51の長手方向に沿って設けられていない場合(例えば長孔52が凹部51の長手方向端部近傍だけに設けられている場合)と比較して、壁体16によるアクチュエータユニット20の変形阻害がさらに抑制される。したがって、それぞれの圧電アクチュエータに負担を強いることなくノズル孔35からのインク吐出量をさらに増加させることができる。特に、本実施の形態では、凹部51の長手方向に沿って2つの長孔52が設けられており、その合計長さが実質的に凹部51の全長に近いため、アクチュエータユニット20が一層変形しやすくなっている。しかも、凹部51の幅方向に対向した2つの長孔52が領域16aを挟み込んでいるために、アクチュエータユニット20がバランスよく一層変形しやすくなっている。
また、本実施の形態では、凹部51の長手方向に沿ってそれぞれ2つの長孔52が設けられており、これら2つの長孔52の間には壁体16が存在していて、領域16aを支えている。つまり、圧力室36の長手方向の全長に亘って延在する壁体16が、凹部51の片側に沿って設けられた2つの長孔52の間に設けられた桁部によってキャビティプレート15と連結されている。本実施の形態では、延在する壁体16の長手方向のほぼ中央において、この桁部が壁体16の両側を支えている。したがって、たとえキャビティプレート15が非常に薄いプレートであったとしても、壁体16が自重によって下垂することがほとんどない。そのため、流路ユニット10とアクチュエータユニット20との接着工程において壁体16がアクチュエータユニット20に接着されないという事態が起こることがほとんどなく、アクチュエータユニット20の個別電極24に対向した領域をインクから隔離することができる。
なお、本実施の形態では領域16bに長孔52を形成しているが、長孔52のような貫通孔の代わりに、領域16bの一部又は全部を、領域16aにおけるよりも厚みが薄く且つキャビティプレート15を貫通していない薄肉部としてもよく、この場合は確実に個別電極24に対向したアクチュエータユニット20の領域をインクから隔絶することができる。ただし、本実施の形態のような長孔52を形成した方が、アクチュエータユニット20の変形阻害防止効果が高い。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を、図9(a)及び図9(b)に基づいて説明する。なお、上述した第1の実施の形態と同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。本実施の形態のインクジェットヘッドは、キャビティプレートの形状についてのみ第1の実施の形態と相違している。以下、具体的に説明する。
図9(a)及び図9(b)に示すように、キャビティプレート115においてベースプレート14に接する面には、複数の凹部151が形成されている。凹部151の長手方向は、キャビティプレート115の長手方向に対して直交している。複数の凹部151は、キャビティプレート115の長手方向に沿って千鳥状の2列に配列されている。凹部151の底面151aとアクチュエータユニット20との間には、キャビティプレート115の一部である壁体116が配置されている。壁体116には、個別電極24に対向しておらず且つキャビティプレート115をその厚み方向に貫く長孔152が形成されている。長孔152は、壁体116の幅方向端部に沿ってそれぞれ1つ、合計2つ形成されている。凹部151の下方の開口がベースプレート14に塞がれ且つ長孔152の上方の開口がアクチュエータユニット20に塞がれることによって、所望容積を有する圧力室136が画定されている。
2つの長孔152を含めた壁体116は、平面視で圧力室136と同じ平面サイズと形状を有している。したがって、壁体116は、個別電極24に対向する領域(図9(a)中で最も下に描かれた圧力室136に関して斜線が引かれた領域)116aと、個別電極24に対向しない領域116bとに分けられる。領域116aは、個別電極24において圧力室136に対向する部分と同じ平面サイズと形状を有している。領域116bは、圧力室136から個別電極24を除いたほぼU字状の平面形状を有している。
長孔152は、領域116b内に形成されている。各長孔152の長さは、壁体116の長さよりもやや短い程度である。したがって、壁体116の幅方向端部の実質的に全長にわたって長孔152が形成されていることになる。長孔152の幅は、領域116bの幅より狭く、平面視において個別電極24からわずかに離隔している。領域116bにおいて、長孔152以外の部分は、領域116aと同じ厚みを有している。すなわち、長孔152以外における壁体116の厚みは一定であって、図9(b)から明らかなように、圧力室136の深さの半分程度である。
本実施の形態においても、上述した第1の実施の形態と同様の利益が得られる。さらに、キャビティプレート115に設けられた長孔152が第1の実施の形態における長孔52の約2倍の長さを有しているので、壁体116によるアクチュエータユニット20の変形阻害が大幅に抑制される。したがって、圧力室136の容積変化量が大きくなり、ノズル孔35からのインク吐出量を増加させることができる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を、図10(a)及び図10(b)に基づいて説明する。なお、第1又は第2の実施の形態と同一の部材には同一の符号を付記してその説明を省略する。本実施の形態のインクジェットヘッドは、ベースプレートの形状についてのみ第2の実施の形態と相違している。以下、具体的に説明する。
図10(a)及び図10(b)に示すように、ベースプレート114においてキャビティプレート115に接する面には、複数の凹部153が形成されている。本実施の形態では、凹部153は、平面視において2つの長孔152に挟まれた矩形領域(図10(a)中で下から2番目に描かれた圧力室146に関して斜線が引かれた矩形領域)に形成されている。凹部151の下方の開口がベースプレート14に塞がれ且つ長孔152の上方の開口がアクチュエータユニット20に塞がれることによって、所望容積を有する圧力室146が画定されている。このとき、凹部153と凹部151とが互いの全域において対向しているため、凹部153は、凹部151及び長孔152と共に圧力室146を構成している。
本実施の形態においても、上述した第2の実施の形態と同様の利益が得られる。さらに、ベースプレート114に設けられた凹部153が圧力室146の一部となっているので、圧力室146の容積が凹部153の分だけ第2の実施の形態における圧力室136よりも大きくなっている。そのため、本実施の形態は、十分なキャビティプレート115の厚さを確保できないために凹部151だけでは圧力室として十分な容積を確保できない場合に特に有効である。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態に係るインクジェットヘッドの構成を、図11と図12とを用いて説明する。なお、これまで説明してきた実施の形態と同一の部材には、同一の符号を付記してその説明を省略する。これまで説明してきた3つの実施の形態のアクチュエータユニットは、いずれも圧電縦効果を利用して変形するアクチュエータであった。これに対して、本実施の形態のインクジェットヘッドは、圧電アクチュエータの変形機構の点で異なり、厚みすべり変形を利用して圧力室の容積を変化させるものである。図11は、本発明のインクジェットヘッドの部分拡大断面図であり、図12は、その変形例の部分拡大断面図を示している。
本発明のアクチュエータユニット200は、図11に示すように、複数の圧力室に跨って形成されている点で、先に説明したアクチュエータユニット20と共通している。このアクチュエータユニット200は、5枚の圧電シート221a,223a,223b,223cおよび222aを下から順に積層した構造を有している。このうち、圧電シート223a,223bおよび223cの上面には、アクチュエータユニット200の分極処理に用いられた内部負電極層242aと内部正電極層242bとが形成されている。内部正電極層242bは、キャビティプレート215に形成された凹部251の中央部に対向するように配設されている。一方、内部負電極層242aは、互いに隣接する凹部251を隔離するとともに凹部251を画定する隔離壁215aに対向するように配設されている。同図のアクチュエータユニット200中に記されている矢印は、分極方向を示している。
これら3層の積層体を内側に挟むようにして、図11の紙面下側から共通電極25が上面に形成された圧電シート221aと、紙面上側から個別電極224が上面に形成された圧電シート222aとがそれぞれ積層されてアクチュエータユニット200が構成されている。本実施の形態では、個別電極224は凹部251の中央部を境にして両側に分割されて形成されている点が特徴である。また、圧電アクチュエータの分極方向(各圧電シートの面方向)と外部から印加されることになる電界の方向とがほぼ直交している点が、先に説明した実施の形態と異なっている。
尚、共通電極25が常に接地電位に保持されている点や個別電極224が凹部251に対向配置されている点は、他の実施の形態と共通である。この共通電極25と分割された個別電極224とに挟まれた領域が活性部として働く。そのため、本実施の形態は、1つの凹部251に対して2つの活性部を有する点が特徴である。そして、個別電極224と共通電極25との間に電圧が印加されると、活性部が厚みすべり変形をする。この変形は、2つの活性部で互いに反対方向に向いているので、アクチュエータユニット200の中央部が圧力室236に向かって膨らんだ凸形状となる。その結果、圧力室236の容積が減少する。
次に、圧力室236付近における流路ユニット100の構造を説明する。これまで説明した実施の形態と同様に、壁体216は、平面視で圧力室236と同じサイズと形状を有している。図11に示したように、個別電極224が2つに分割されているので、壁体216は、2つの個別電極224に対向する領域216aを有している。即ち、圧力室236の中央部を挟んで両側の個別電極224に対向する領域216aと、圧力室236の中央部において個別電極224に対向しない領域216bとに分けられる。
そして、壁体216には、その長手方向中央部に沿って長孔252が形成されている。この長孔252は、連続的に圧力室の端から端まで形成されていても良いし、複数の貫通孔が連なるように形成されていても良い。もちろん、先に説明した実施の形態と同様に、壁体216より厚さが薄い貫通していない薄肉部が、上述の長孔の代わりに形成されていても良い。
以上の説明から分るように、本実施の形態においても、少なくとも壁体216の領域216aがアクチュエータユニット200をインクから隔離している。そのため、帯電したインクにより、アクチュエータユニット200に電気的な特性の劣化や故障が生じることがないといった、先に説明した実施の形態と同様の効果が得られる。また、長孔252は、圧力室の中央部を長手方向に延在するように形成されている。そのため、本実施の形態のように、厚さすべり変形を利用するアクチュエータユニット200を用いる場合には、とりわけその変形を妨げるようなことがない。
次に、この第4の実施の形態の変形例を、図12を用いて説明する。尚、これまで説明してきた実施の形態と同一の部材には、同一の符号を付記してその説明を省略する。特に第4の実施の形態に対して、本変形例は、ベースプレートの形状だけが異なっている。
図12に示すように、キャビティプレート215に接する面には、別の凹部253が形成されている。本変形例では、凹部253は、平面視においてキャビティプレート215の有する凹部251と同じサイズと形状を有している。これら2つの凹部251,253の開口部が互いに対向するように、キャビティプレート215とベースプレート214とを積層することで圧力室246が画定されている。このとき、第4の実施の形態と同様に、キャビティプレート215には長孔252が形成されており、2つの凹部251,253にこの長孔252を加えて圧力室246が構成されている。この変形例の構成は、キャビティプレート215単独では十分な圧力室246の容積が確保できない場合に有効である。尚、本変形例では、2つの凹部215,253の平面形状を同じにしているが、要求される圧力室246の容積に応じて凹部253のサイズや形状を変更しても良い。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明のインクジェットヘッドは上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更を上述の実施の形態に施すことが可能である。例えば、上述した第1の実施の形態においては領域16aが個別電極24において圧力室36に対向する部分と同じサイズを有するとしているが、領域16aは個別電極24に対向する部分を有していればそのサイズはさらに小さくてよい。
また、上述した実施の形態では複数の圧電アクチュエータが1つのアクチュエータユニット内に一体に構成されているが、複数の圧電アクチュエータが圧力室ごとに別体となっていてもよい。また、流路ユニットは、積層構造体でなくてもよい。さらに、圧力室は細長形状ではなく、円形や正方形などであってもよい。
さらに、壁体に形成する長孔の位置は、個別電極に対向しない限りは任意に変更することができる。したがって、例えば第1の実施の形態において長孔52が領域16aと接していてもよい。また、長孔の数も適宜変更可能である。加えて、壁体に形成するのは必ずしも長孔のような貫通孔でなくてもよく、領域16aにおけるよりも厚みが薄ければよい。
また、第3の実施の形態において、凹部153の平面サイズ及び深さは、必要とされる圧力室容積に応じて適宜変更可能である。
いずれの実施の形態においても、流路ユニットあるいは少なくともキャビティプレートを、例えば、シリコン単結晶とし、壁体16はこのシリコン基板表面に成長させた酸化膜として形成しても良い。即ち、シリコン基板の表面に、例えば熱酸化法により数100nmの厚さの熱酸化膜を形成する。この後、裏面からエッチングにより、圧力室36となる複数の凹部を形成する。このときエッチング液の特性により熱酸化膜が残るので、ここで形成した凹部に対応して、表面から別にエッチングを施して個別電極に対向する領域を残すように貫通孔(長孔52,152に相当)を形成する。このようにして形成した壁体16は非常に薄いものなので、この表面に固定される圧電アクチュエータあるいはアクチュエータユニットの変形をほとんど阻害することがない。尚、流路ユニットの基材としてシリコン単結晶を例に挙げたが、これはシリコン母材とその表面に形成されるシリコン酸化膜とでは、孔加工に用いられるエッチング液の特性が異なっており、それぞれ個別の加工が可能なためである。従って、必ずしも流路ユニットの基材としては、シリコン単結晶に限るものではなく、表面に形成された薄い壁体16用の膜と基材とが、エッチングのような加工特性が違うものの組み合わせであればよい。この場合でも、壁体16によりアクチュエータを保護するという観点からは、基材上に形成される膜には耐インク性の高い材質のものが好適である。
また、圧力室36を有するキャビティプレートを複数のプレートの積層体として構成し、このうち、壁体16を構成するプレートを圧電アクチュエータあるいはアクチュエータユニットの圧力室側表面に形成しても良い。壁体16としては、耐インク性を有していることが好適である。例えば、この壁体16用のプレートを薄膜として、スパッタ法、蒸着法、ディップ法、メッキ法等によりアクチュエータの圧力室側表面に形成しておき、少なくとも個別電極に対向する部分を残すようにしてエッチングする。この場合も、必ずしも形成した薄膜を貫通する必要はない。この加工が施されたプレート(薄膜)に対して、圧力室が形成された別のプレートを固定することでキャビティプレートあるいは流路ユニットを形成する。このようにして形成された壁体16は、もともと薄膜として形成されたものであるので、アクチュエータの変形を阻害することはほとんどない。また、ここで用いられた圧電アクチュエータあるいはアクチュエータユニットは、このようなキャビティプレートを形成するための基材として働いている。
さらに、上述したアクチュエータユニットの変形機構は、圧電体を用いたアクチュエータであれば、特に限定するものではない。上述の圧電縦効果や厚みすべり変形を利用する構成の他に、ユニモルフ型の変形やバイモルフ型の変形をするアクチュエータにも適用可能であり、これまで説明してきた各実施の形態が有する効果と同等の効果を実現できる。いずれの形態を用いる場合でも、電極間に発生する電界強度が高くなればなるほどさらに有効である。