JP4607133B2 - 摩擦攪拌加工用ツールおよび摩擦攪拌加工品の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、チタンまたはチタン合金を摩擦攪拌加工するときに用いる摩擦攪拌加工用ツールおよびこのツールを用いるチタンまたはチタン合金からなる摩擦攪拌加工品の製造方法に関する。ここで、摩擦攪拌加工とは、摩擦攪拌接合および摩擦攪拌改質の両方の加工技術を含む。
チタンおよびチタン合金は、軽量で高い比強度、耐熱性、高耐食性、非磁性、生体適合性を有するため、非常に有用な金属材料として、例えば航空機、化学プラント、人工骨など多くの用途に用いられている。チタンおよびチタン合金の溶接は、酸素との高い親和性のために容易ではなく、この溶接には、通常、タングステンと不活性ガスを用いたTIG溶接が用いられている。しかし、TIG溶接は高度の溶接技術を必要とし、しかも接合欠陥や接合面の平坦性など加工品質の面でまだ十分ではなく、まだ改善の余地がある。
一方、ツールのプローブを被加工材に強く押し込みこれを高速回転させ、その時に発生する摩擦熱によりプローブの近傍の被加工材(金属製)を可塑化させ攪拌流動させることにより、この部分の被加工材を接合する技術、あるいは結晶粒径を小さく制御し、それにより被加工材の強度および硬度等を向上させる加工技術が開発されている。前者は摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding)と呼ばれ、後者は摩擦攪拌改質(Friction Stir Processing)と呼ばれている(特許文献1および2参照)。
上記摩擦攪拌接合によれば、ツールと被接合材との摩擦熱を利用して接合するので、最高到達温度が融点に達せず固相状態で接合されるため、アーク溶接(TIG溶接)などの溶融溶接に比べて、接合部における強度低下が小さく、熱歪み、気孔、割れなどの接合欠陥が少なく、接合面も比較的平坦である等の利点があり、主にアルミニウム合金板については、すでに鉄道車両、船舶、土木構造物、自動車などの分野で実用化されている。
アルミニウムおよびその合金のような比較的に低融点金属材料の摩擦攪拌加工には、主に硬い工具鋼が使用されているが、高融点金属材料への摩擦攪拌加工への応用も開発されつつある。例えば、鋼板の接合には、タングステン−レニウム合金のツールを用いた例、Si3N4とAl2O3の複合材料であるサイアロンをツールに用いた例、多結晶立方晶窒化ボロンを用いた例が報告されている。これ等のツール材料にあっては、ツールの磨耗、折損、ツール材料の被加工材への混入等が課題とされている。
特に、非常に有用な高融点金属材料であるチタンおよびチタン合金の摩擦攪拌加工に適するツール材料として、下記の非特許文献1には、タングステン−レニウム合金からなるツール材料が提案されている。しかしながら、タングステンもレニウムもいずれも高価な金属であるため、摩擦攪拌加工に用いるツール材料として実用化における問題となっている。
特許第2712838号公報
特開2003−64458公報
Zachary Loftus ,Jennifer Takeshita ,Dr.Anthony Reynolds, Dr. Wei Tang' An Overview of Friction Stir Welding TIMETAL 213 Beta Titanium',5th International Symposium on Friction Stir Welding ,Metz,TWI,2004.
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、チタンまたはチタン合金の摩擦攪拌加工用の安価なツールおよびこのツールを用いてチタンまたはチタン合金を安価に接合あるいは改質するチタンまたはチタン合金からなる摩擦攪拌加工品の製造方法を提供することにある。
上記の目的は、次のような特徴を有するチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツールおよび摩擦攪拌加工品の製造方法により達成することができる。
すなわち、請求項1に係る発明は、ニッケル合金からなる摩擦攪拌加工用ツールの表面を、ふっ素イオン注入により表面処理してなることを特徴とするチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツールである。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、ニッケル合金が、ニッケルをベースとし少なくともクロムおよび鉄を含む合金からなることを特徴とするチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツールである。
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、ふっ素イオン注入が、パルス周波数1〜2kHz、室温にて、注入時間150〜400分の条件で行われてなることを特徴とするチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツールである。
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載の摩擦攪拌加工用ツールにおいて、ふっ素イオン注入が、パルス周波数1〜2kHz、室温にて、注入時間300〜400分の条件で行われてなることを特徴とするチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツールである。
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦攪拌加工用ツールを用いてチタンまたはチタン合金を摩擦攪拌加工することを特徴とする摩擦攪拌加工品の製造方法である。
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
図1は本発明の摩擦攪拌加工用ツールの一例を示し、(a)はツールの先端側から見た平面図、(b)は(a)のb−b線における断面図である。図1において、摩擦攪拌加工用ツール1は、把持部2、フランジ部3、ショルダ面4aを有する突出部4およびプローブ5から構成されている。把持部2は、摩擦攪拌加工用ツール1を摩擦攪拌加工装置に取り付ける部分である。フランジ部3は、摩擦攪拌加工用ツール1のハンドリング性や強度の向上のために設けられているものであるが、必ずしも必要なものではない。
図1は本発明の摩擦攪拌加工用ツールの一例を示し、(a)はツールの先端側から見た平面図、(b)は(a)のb−b線における断面図である。図1において、摩擦攪拌加工用ツール1は、把持部2、フランジ部3、ショルダ面4aを有する突出部4およびプローブ5から構成されている。把持部2は、摩擦攪拌加工用ツール1を摩擦攪拌加工装置に取り付ける部分である。フランジ部3は、摩擦攪拌加工用ツール1のハンドリング性や強度の向上のために設けられているものであるが、必ずしも必要なものではない。
上記突出部4は、通常、円柱状であり、その先端面の中央部からプローブ5が突出するようにして設けられている。突出部4の先端面のうち、プローブ5が設けられている部分を除いた部分がショルダ面4aである。このショルダ面4aは、摩擦攪拌加工中に被加工材表面と当接する面であって、プローブ5を中心としてやや円錐状に凹んだものが使用されているが、平面であってもよく、逆にやや円錐状に突出したものも使用できる。
上記プローブ5は、円柱状でなく先細りした円錐台状であってもよい。ねじが切ってあってもよく、側面又は斜面を面取りしてあってもよい。上記突出部4の直径は12〜25mm程度、高さは9〜10mm程度が好ましく、プローブ5の直径は5〜10程度、長さは被加工材の厚みによるが、プローブ5の先端が被加工材を支える定盤と接触しない程度に、プローブ5の先端が被加工材に深く挿入されるのが好ましい。例えば、厚みが3〜6mm程度の被加工材を使用する場合は、プローブ5の長さは2.8〜5.9mm程度のものが好適に使用される。
本発明においては、摩擦攪拌加工用ツール1のうち、少なくとも上記突出部4およびプローブ5が、ニッケル合金からなり、その表面がふっ素イオン注入により表面処理されている。ここで、ふっ素イオン注入とは、全方位イオン注入装置のようなイオン注入装置を用い、ふっ素イオンを加速してツール1の表面に衝突させ、ツール1の表面部にふっ素イオンを侵入させることにより、ツール1の表面部の物性を改善することを目的とするものである。
ここで、ニッケル合金とは、ニッケルを主成分とする合金であって、高硬度かつ高耐熱性を有する。上記のニッケル合金には、ニッケルを基体とする多相金属間化合物も含まれる。ニッケル合金としては、ニッケルをベースとし少なくともクロムおよび鉄を含む合金が好ましい。ニッケルをベースとし少なくともクロムおよび鉄を含む合金としては、例えば、インコ社(International Nickel Company)のインコネル(Inconel)(商品名)が好ましい。
インコネルは、ニッケルをベースとし、鉄、 クロム、ニオブ、モリブデン、チタン、アルミニウム等の合金元素量の差異によって、インコネル600、インコネル625、インコネル718、インコネルX750など様々なものに分けられる。インコネル合金としては、特に、76Ni−16Cr−8Feの組成のものが好ましい。インコネル合金が特に適している理由は、高温で高強度を有しかつ靭性があってツール製作における適度な加工性も有しており、かつ安価であり入手が容易であるからである。
本発明におけるツールには、摩擦攪拌加工中のツールの磨耗損耗を防ぐために、ニッケル合金からなるツールの表面がふっ素イオン注入により表面処理されていることが必須である。ふっ素イオン注入により表面硬化が行われ高硬度が発現する。この高硬度の発現により、窒素イオン注入や炭素イオン注入に比べて高硬度が得られ耐減耗性が著しく向上し、長時間の摩擦攪拌加工にツールが耐えることができる。ふっ素イオン注入処理には、通常のイオン注入装置、例えば全方位イオン注入装置および条件を用いることができる。ふっ素イオン源としては、通常、四ふっ化メタンが使用されるが、これに限定されない。
特に、ふっ素イオン注入による表面処理においては、表面硬化物性に重大な影響を及ぼすイオン注入量およびイオン注入深さが重要で、表面改質が不十分であると、摩擦攪拌接合中にプローブが減耗し、摩擦攪拌領域が被加工材の底部に達せず、被加工材の裏面側にキッシングボンドと呼ばれる攪拌不良による線状の未接着部が生ずることがある。このため表面改質が重要である。
ふっ素イオン注入による表面改質においてイオン注入時間が150分を下回ると、長距離を加工する場合には表面改質が不十分になりやすい。逆に、ふっ素イオのン注入時間が400分を上回る場合は、キッシングボンドの発生は回避できるが、イオン注入装置や操作条件上の制約が出てくる。特に、イオン注入操作における副生成物が生じ、イオン注入による表面改質に不具合が生じる恐れがある。本発明の実験において使用するイオン注入用装置においても、400分を限度として装置のメンテナンスを行うことにより、正常な表面改質層を維持することが可能となっているため、400分を超える操業を行わないことにしている。
したがって、ふっ素イオン注入時間は150〜400分が好ましく、さらに好ましくは300〜400分である。しかし、上記のようなイオン注入用装置における制約が解決されれば、400分を超えるふっ素イオン注入も可能である。なお、イオン注入深さは3〜5μm程度、イオン注入量は1016〜1017ions/cm2程度が好ましいが、特に限定されない。
したがって、ふっ素イオン注入時間は150〜400分が好ましく、さらに好ましくは300〜400分である。しかし、上記のようなイオン注入用装置における制約が解決されれば、400分を超えるふっ素イオン注入も可能である。なお、イオン注入深さは3〜5μm程度、イオン注入量は1016〜1017ions/cm2程度が好ましいが、特に限定されない。
図2は、本発明の摩擦攪拌加工品の製造方法の一例を示す一部切欠斜視図である。図2において、チタンまたはチタン合金からなる2枚の板状体6a、6bの端部同士が突き合わされて定盤9の上に載置され固定される。この板状体6a、6bの突合わせ部7に、図1に示すような本発明の摩擦攪拌加工用ツール1のプローブ5を圧入し、ツール1の突出部4のショルダ面4aと板状体6a、6bの表面とを接触させ、高速回転するプローブ5およびショルダ面4aとの摩擦によって板状体6a、6bの突合わせ部7の近傍を加熱して軟化させる。
プローブ5を圧入した状態でツール1を引き続き回転させてプローブ5の近傍の板状体6a、6bの突合わせ部7の近傍を攪拌しつつ、ツール1を突合せ部7上を矢印A方向に移動させる。ツール1が移動すると板状体6a、6bの突合わせ部7を含む部分が摩擦発熱し、軟化されると共に攪拌される。そして、ツール1の突出部4が移動した後の板状体6a、6bの突合わせ部7を含む部分は接合されると共に、その部分に、ショルダ面4aの接触によるほぼ円形に近い極く浅い窪みを生じ、それらが次々に断続的にずれて重なるために、並んだ弧状の瘢痕8が残る。
上記ツール1のプローブ前進角は一般に1〜5°程度に設定される。また、ツール1の回転速度は一般に数百〜数千回転/分、接合速度は一般に数十〜数百mm/分の範囲内で、適当な条件に設定される。特に、本発明においては、ツール1の回転速度は600〜800rpm、接合速度は100〜200mm/分とするのが好ましい。
上記板状体6a、6bを構成するチタンまたはチタン合金としては、チタンを主成分とする純チタンまたは他成分(Al、V、Sn、Cr、Mo、Zr、Niなど)を含む合金をいい、例えば、α組織である工業用純チタン、α−β組織であるTi−6Al−4V合金、β組織であるTi−6Al−3Cr−3Sn−3Al合金等が挙げられるが、チタンまたはチタン合金であればよく、特に限定されない。
上記ツール1は、定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸からなる公知の摩擦攪拌接合装置に取り付けられて使用される。また、三次元曲面を有する被加工材の加工においては定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸および揺動軸(A)と旋回軸(C)のツール2軸とからなる公知の5軸枠型の摩擦攪拌接合装置に取り付けられて使用される。また、三つの関節軸と二つの回転軸を具備した公知のロボットアームの先端に搭載されたマシンヘッドに取り付けても使用される。
なお、上記例においては、チタンまたはチタン合金からなる被加工材を接合する摩擦攪拌接合(FSW)について説明したが、2枚の被接合材に替えて、これと同様な1枚のチタンまたはチタン合金からなる被加工材を用い、その表面に高速回転するツール1のプローブ5を強い力で挿入し、上記ツール10を高速回転させながら加工部に沿って他端に移動させ、その時に発生する摩擦熱により加工部を可塑化して、ツール1のショルダ面4aによる圧力を負荷しながら移動させて加工することにより、被加工材を改質する摩擦攪拌改質(FSP)にも適用できる。
本発明の摩擦攪拌加工用ツールは、ニッケル合金からなる摩擦攪拌加工用ツールの表面が、ふっ素イオン注入により表面処理されてなるもので、ツールがニッケル合金からなるので、高硬度かつ高耐熱性を有し、従来のタングステン−レニウム合金からなる摩擦攪拌加工用ツールに比べて安価である。しかも、ニッケル合金からなるツールの表面がふっ素イオン注入により表面処理されているので、表面硬化が行われ高硬度が発現して耐減耗性が向上し、長時間の摩擦攪拌加工にツールが耐えることができる。
したがって、本発明の摩擦攪拌加工用ツールを用いると、高融点金属材料であるチタンまたはチタン合金を良好に摩擦攪拌加工することができる。特に、ふっ素イオン注入が、パルス周波数1〜2kHz、室温にて、注入時間150〜400分、好ましくは300〜400分の条件で行われる場合は、表面硬化が確実に行われ高硬度が確実に発現して耐減耗性が著しく向上し、長時間の摩擦攪拌加工にツールが耐えることができる。
また、本発明の摩擦攪拌加工品の製造方法は、上記のような摩擦攪拌加工用ツールを用いてチタンまたはチタン合金を摩擦攪拌加工するものであるから、従来のタングステン−レニウム合金からなる摩擦攪拌加工用ツールを用いるものに比べて、チタンまたはチタン合金からなる摩擦攪拌加工品を安価に製造することができる。
以下、本発明の具体的な実施例を挙げる。なお、本発明はこれ等の実施例に限定されるものではない。
(摩擦攪拌加工用ツールの作製)
INCONEL625合金を、図1に示す形状に切削加工してツールを製作した。このツールの突出部4は、高さ9mm、直径24mmの円柱状とし、プローブ5は突出部4の先端面の中央部に設けられており、わずかに先細りした円錐台状で、ねじは切ってなく、側面の3箇所を面取りしてあり、長さ2.8mm、直径9.1mmである。ショルダ面4aは、プローブ5を中心としてやや円錐状に凹んだ形状とした。
INCONEL625合金を、図1に示す形状に切削加工してツールを製作した。このツールの突出部4は、高さ9mm、直径24mmの円柱状とし、プローブ5は突出部4の先端面の中央部に設けられており、わずかに先細りした円錐台状で、ねじは切ってなく、側面の3箇所を面取りしてあり、長さ2.8mm、直径9.1mmである。ショルダ面4aは、プローブ5を中心としてやや円錐状に凹んだ形状とした。
こうして製作されたツールの表面に、全方位型イオン注入装置を用いて、ガス種:四ふっ化メタン、ガス圧力:0.5Pa、RF出力0.5kW、パルス電圧:−20kVとし、パルス周波数:1kHz、ツール温度:常温、注入時間:300分の条件でふっ素イオンを注入し、摩擦攪拌加工用ツール1を作製した。
(比較例1)
実施例1において、四ふっ化メタンガスを用いる代わりにアンモニアガスを用いること以外は、実施例1と同様にしてツール表面に窒素イオンを注入して、摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
実施例1において、四ふっ化メタンガスを用いる代わりにアンモニアガスを用いること以外は、実施例1と同様にしてツール表面に窒素イオンを注入して、摩擦攪拌加工用ツールを作製した。
(比較例2)
実施例1と同じ形状のINCONEL625合金からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。この場合、ふっ素イオン注入の表面処理は行わなかった。
実施例1と同じ形状のINCONEL625合金からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。この場合、ふっ素イオン注入の表面処理は行わなかった。
(比較例3)
実施例1と同じ形状のタングステン−レニウムら合金(レニウム含量5重量%)からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。この場合、ふっ素イオン注入の表面処理は行わなかった。
実施例1と同じ形状のタングステン−レニウムら合金(レニウム含量5重量%)からなる摩擦攪拌加工用ツールを作製した。この場合、ふっ素イオン注入の表面処理は行わなかった。
(摩擦攪拌接合試験1)
実施例1および比較例1〜3で得られた摩擦攪拌加工用ツールを用いて、摩擦攪拌接合を図2に示す方法により行った。摩擦攪拌接合される板状体6a、6bとしては、長さ300mm×幅75mm×厚み3mmのJIS2級工業用純チタン板(JIS H 4600 2種)を用いた。
実施例1および比較例1〜3で得られた摩擦攪拌加工用ツールを用いて、摩擦攪拌接合を図2に示す方法により行った。摩擦攪拌接合される板状体6a、6bとしては、長さ300mm×幅75mm×厚み3mmのJIS2級工業用純チタン板(JIS H 4600 2種)を用いた。
定盤軸(X)と横行軸(Y)と昇降軸(Z)の機械3軸の摩擦攪拌接合装置(図示せず)の定盤9に、上記二枚の板状体6a、6bを、長さ300mmの辺同士を突き合わせて固定した。その後、上記の摩擦攪拌接合装置に、実施例1の摩擦攪拌加工用ツール1を取り付け、ツール1の回転数600rpm、移動速度100mm/分、負荷荷重2トン、前進角3度の条件で、アルゴンガス噴射環境下で突き合わせ7を230mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った。
その後、上記の板状体6a、6bを摩擦攪拌接合装置の定盤9から取り外し、次いで、新たに上記と同様の板状体6a、6bを上記と同様にして定盤9に取り付け、ツールの回転数800rpm、移動速度50mm/分としたこと以外は、上記と同様にして摩擦攪拌接合を行った。
次に、実施例1の摩擦攪拌加工用ツール1に代えて、比較例1、2および3で作製した摩擦攪拌加工用ツールを用いた以外は、上記と同様にしてツールの回転数600rpm、移動速度100mm/分の条件および回転数800rpm、移動速度50mm/分の条件で摩擦攪拌接合を行った。
摩擦攪拌接合により得られた板状体の突合せ部の外観写真を、図3および図4に示した。図3は、回転数600rpm、移動速度100mm/分で摩擦攪拌接合したもの、図4は、回転数800rpm、移動速度50mm/分で摩擦攪拌接合したものである。
突合わせ部の外観写真は、プローブ5が圧入された側(表面側)から見たものを Front sideとし、プローブ5が圧入された側の反対側(裏面側)から見たものをBack sideとして示した。使用した摩擦攪拌加工用ツール(Tool)は、実施例1のものをInconel(F ion injected)、比較例1のものをInconel(N+C ion injected)、比較例2のものを単にInconelとして示した。
図3を見ると、Front sideにおいては、実施例1、比較例1および比較例2のいずれのツールを用いたものにおいても、突合わせ部が接合していることが判る。しかし、Back sideにおいては、比較例2のツールを用いたもの(左端の単にInconelとして示されているもの)では、突合わせ部の接合が不十分であり、突合わせの線が明確に観察されるが、実施例1のInconel(F ion injected)のもの、比較例1のInconel(N+C ion injected)のものでは、突合わせの線が明確に観察されるようなことはなく、突合わせ部の接合が十分に進んでいることが判る。
図4を見ると、Front sideにおいては、実施例1、比較例1および比較例2のいずれのツールを用いたものにおいても、突合わせ部が接合している。しかし、Back sideにおいては、比較例2のツールを用いたもの(左端の単にInconelとして示されているもの)では、右端近傍の○囲み部分の突合わせ部の接合が不十分であり、突合せの線が明確に観察されるが、実施例1のInconel(F ion injected)のものでは、突合わせの線が観察されず、突合わせ部の接合が十分に進んでいることが判る。
なお、比較例1のInconel(N+C ion injected)のものでは、右端近傍の○囲み部分に突合わせの線が観察されるが、比較例2のツールのものよりも明確ではなく、比較例2のものよりも突合わせ部の接合が進んでいるが、実施例1に比べると突合わせ部の接合状態が劣ることが判る。
(摩擦攪拌接合試験2)
上記の摩擦攪拌接合試験1で最も良好とされた実施例1の摩擦攪拌加工用ツール1をそのまま用い、さらに上記の摩擦攪拌接合試験1で最も良好とされた接合条件、すなわちツールの回転数600rpm、移動速度100mm/分、負荷荷重2トン、前進角3度の条件で、アルゴンガス噴射環境下で突合わせ部7を230mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った。冷却後にツール1を摩擦攪拌接合装置から取り外して、板状体6a、6bを新しいものに交換して同様の操作を行い、この操作を2回繰り返して、合計690mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った。
上記の摩擦攪拌接合試験1で最も良好とされた実施例1の摩擦攪拌加工用ツール1をそのまま用い、さらに上記の摩擦攪拌接合試験1で最も良好とされた接合条件、すなわちツールの回転数600rpm、移動速度100mm/分、負荷荷重2トン、前進角3度の条件で、アルゴンガス噴射環境下で突合わせ部7を230mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った。冷却後にツール1を摩擦攪拌接合装置から取り外して、板状体6a、6bを新しいものに交換して同様の操作を行い、この操作を2回繰り返して、合計690mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った。
また、実施例1のツールに替えて比較例3のタングステン−レニウム合金からなるからなる摩擦攪拌加工用ツールツールを用い、それ以外は上記と同様にして合計690mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った。
板状体6a、6bの突合わせ部の外観は、プローブ5が圧入された表面側、プローブ5が圧入された側の反対側である裏面側のどちらの面も、摩擦攪拌による接合状態は実施例1の摩擦攪拌加工用ツールを用いたものも、比較例3のタングステン−レニウム合金からなるツールを用いたものとの間に差異は認められなかった。また、摩擦攪拌接合の終了後のツールの外観を観察すると、ツールの磨耗状態も実施例1の摩擦攪拌加工用ツールを用いたものも、比較例3のタングステン−レニウム合金からなるツールを用いたものとの間に差異は認められなかった。
ふっ素イオン注入条件の最適化を目指して、ガス種:四ふっ化メタン、ガス圧力:0.5Pa、RF出力0.5kW、パルス電圧:−20kVとし、四ふっ化メタンの注入時間、パルス周波数、ツール温度を下記の表1に示すように変更して、四つの条件1〜4で4種類の摩擦攪拌加工用ツールを作製し、前記実施例1で最も良好とされた接合条件、すなわちツールの回転数600rpm、移動速度100mm/分、負荷荷重2トン、前進角3度の条件で、アルゴンガス噴射環境下で突合わせ部7を230mmの距離にわたって1回の操作で摩擦攪拌接合を行った。得られた板状体の突合わせ部の外観写真を図5に示す。
得られた板状体の突合わせ部の引張強度試験を行った。
図6のように接合試料から番号1〜5の部分につき接合線と直交方向に長手軸方向を向けて図7に示す試料形状に切り出した。これを引張強度試験機にセットし、クロスヘッド速度3mm/分の条件で室温にて測定し、番号1〜5の部分(採取位置)の試料の平均値を表1に示した。なお、JIS2級工業用純チタン板(JIS H 4600 2種)自体の引張強度は374MPaであった。
図6のように接合試料から番号1〜5の部分につき接合線と直交方向に長手軸方向を向けて図7に示す試料形状に切り出した。これを引張強度試験機にセットし、クロスヘッド速度3mm/分の条件で室温にて測定し、番号1〜5の部分(採取位置)の試料の平均値を表1に示した。なお、JIS2級工業用純チタン板(JIS H 4600 2種)自体の引張強度は374MPaであった。
また、ツールの摩耗減量につき測定した。上記のようにツールの回転数600rpm、移動速度100mm/分、負荷荷重2トン、前進角3度の条件で、アルゴンガス噴射環境下で突合わせ部7を230mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行ったが、その際冷却後にツール1を摩擦攪拌接合装置から取り外して、摩擦攪拌接合前後のツールの重量を測定することにより、その減量を求め、摩耗量(g)として表1に示した。なお、条件1(注入時間300分)において、摩擦攪拌接合の操作を3回繰り返して、合計690mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行ったが、摩擦攪拌前後におけるツール磨耗量(ツール減量)は0.796gであった。また、条件3(注入時間150分)において、摩擦攪拌接合の操作を3回繰り返して、合計690mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った場合は、ツール磨耗量は0.995gであった。
フッ素イオン注入による表面処理は、物性に重大な影響を及ぼすイオン注入量およびイオン注入深さに着目し、条件1(標準条件)を基準として、条件2は条件1に比べてふっ素イオン注入量多くした条件、条件3は条件1に比べてふっ素イオン注入量を少なくした条件、条件4は条件1に比べてふっ素イオン注入量は少ないが、その拡散距離が広い条件(イオン注入深さが深い条件)を設定した。
図5において、F1 conditionは表1の条件1による摩擦攪拌接合写真であり、プローブ5が圧入された側(表面側)から見たものをfront、プローブ5が圧入された側の反対側(裏面側)から見たものをbackとして示した。同様にF2 conditionは表1の条件2、F3 conditionは表1の条件3、F4 conditionは表1の条件4を表している。図5から明らかなように、表側と裏側との接合外観はいずれも良好で各条件間に顕著な差異は認められない。しかし、表1から明らかなように、引張強度、伸度、ツール摩耗量の測定結果を勘案すると条件1が最も優れている。
さらに、ふっ素イオン注入条件の最適化を目指して、ガス種:四ふっ化メタン、ガス圧力:0.5Pa、RF出力0.5kW、パルス電圧:−20kVとし、またパルス周波数:1kHz、ツール温度:常温とし、四ふっ化メタンの注入時間を150分、200分、250分、300分の四つの条件で4種類の摩擦攪拌加工用ツールを作製し、前記実施例1で最も良好とされた接合条件、すなわちツールの回転数600rpm、移動速度100mm/分、負荷荷重2トン、前進角3度の条件で、アルゴンガス噴射環境下で突き合わせ7を230mmの距離にわたって摩擦攪拌接合を行った。
得られた板状体の突合わせ部の外観写真を図8〜図15に示す。ここで、図8は注入時間が150分の場合の摩擦攪拌接合後の表面側写真、図9はその裏面側写真である。図10は注入時間が200分の場合の摩擦攪拌接合後の表面側写真、図11はその裏面側写真である。図12は注入時間が250分の場合の摩擦攪拌接合後の表面側写真、図13はその裏面側写真である。図14は注入時間が300分の場合の摩擦攪拌接合後の表面側写真、図15はその裏面側写真である。
図8〜図15から明らかなように、表面側と裏面側との接合外観はいずれの場合も良好であった。裏面側の突合わせ線を観察するにおいて、その突合わせ線が明確であるかないかが問題となる。接合が良好である場合はツールから一番遠い面となる裏面でも攪拌が十分に行われるため、突合わせ線が完全には消失しないが、明瞭でなくなる。図9、11、13、15の裏面側の突合わせ線を見ると、ふっ素イオンの注入時間が長くなるにつれて、突合わせ線が消失している範囲が長くなり、突合わせ線が認められる接合操作の後半でも、その範囲は短くなり、さらに突合わせ線が不明確になる。これらの結果から、ふっ素イオンの注入時間が長いツールほど、良好な接合状態が得られるといえる。
このように、ふっ素イオンの注入時間が長いほど良好な接合状態が得られる。しかし、注入時間が400分を超える場合は、イオン注入装置や操作条件上の制約が出てくる。特に、イオン注入操作において副生成物が生じ、イオン注入による表面改質に不具合が生じる恐れがある。本イオン注入用装置においても、400分を限度として装置のメンテナンスを行うことにより、正常な表面改質層を維持することが可能となっているため、400分を超えないことが好ましい。
さらに、前記のふっ素イオン注入時間300分の条件で摩擦攪拌接合操作を行った後のツールのショルダ面4aについて、ビッカース硬さ試験機により荷重0.49Nの条件で5箇所の測定を行った。平均のビッカース硬さは790(Hv)であった。なお、ふっ素イオン注入を行わない場合は、平均のビッカース硬さは233(Hv)であった。
以上の試験結果を総合的に勘案すると、最適なふっ素イオン注入時間は150〜400分、好ましくは300〜400分と判断される。
以上の試験結果を総合的に勘案すると、最適なふっ素イオン注入時間は150〜400分、好ましくは300〜400分と判断される。
1 摩擦攪拌加工用ツール
2 把持部
3 フランジ部
4 突出部
4a ショルダ面
5 プローブ
6a チタン製板状体
6b チタン製板状体
7 突合わせ部
8 瘢痕
9 定盤
2 把持部
3 フランジ部
4 突出部
4a ショルダ面
5 プローブ
6a チタン製板状体
6b チタン製板状体
7 突合わせ部
8 瘢痕
9 定盤
Claims (5)
- ニッケル合金からなる摩擦攪拌加工用ツールの表面を、ふっ素イオン注入により表面処理してなることを特徴とするチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツール。
- ニッケル合金が、ニッケルをベースとし少なくともクロムおよび鉄を含む合金からなることを特徴とする請求項1記載のチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツール。
- ふっ素イオン注入が、パルス周波数1〜2kHz、室温にて、注入時間150〜400分の条件で行われてなることを特徴とする請求項1または2に記載のチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツール。
- ふっ素イオン注入が、パルス周波数1〜2kHz、室温にて、注入時間300〜400分の条件で行われてなることを特徴とする請求項1または2に記載のチタンまたはチタン合金用の摩擦攪拌加工用ツール。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦攪拌加工用ツールを用いてチタンまたはチタン合金を摩擦攪拌加工することを特徴とする摩擦攪拌加工品の製造方法。
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