JP4560802B2 - 靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼 - Google Patents

靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼 Download PDF

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Description

本発明は、耐食性および鏡面仕上性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼の靭性を向上させたことで、これらの特性が要求される光ディスクや光学レンズの成形用金型から、さらに高い耐食性と、時には超鏡面仕上性が要求されるガラス強化グレードのエンジニアリングプラスチック(以下、エンプラと表記)、スーパーエンプラ等の射出成形用金型、さらに加えて靭性が要求される精密コネクタ等の成形用金型や、その他には液晶製造装置のスリットコーター等の精密機械部品等に最適なステンレス鋼に関するものである。
従来、CD、DVDメディア等の光ディスク樹脂成形の分野、光学レンズ用樹脂又はガラス成形の分野、液晶導光板等の光学部品用樹脂成形の分野には、JIS鋼種のSUS420J2又はそれに類似するステンレス鋼を切削加工及び研削加工した金型が用いられていた。プラスチックの光学部品など極めて精度の要求される場合には、上記SUS420J2相当鋼にNi−Pなどのアモルファスめっきを行ったのち、ダイヤモンドバイトによる切削加工を行って成形面に仕上げる場合もあった。不純物の少ない銅合金を同様に切削加工して仕上げる場合もあった。
一方、耐食性と硬度を両立させる材料として、SKD11系やSUS440C系がある。そして、例えばCが0.08質量%(以下、%と示す)以下でSiを2.0〜5.0%、Crを6.0〜10.0%含む析出硬化型ステンレス鋼が提案されている。そして、このステンレス鋼に、さらに適量のMn,Ni,Mo,Cu,Nb,Ta,Ti,Coを添加して、高硬度の達成を目的とした改良鋼が提案されている(特許文献1)。
特開2001−107194号公報
上述したSUS420J2からなるものは、耐食性と高硬度である程度のレベルが得られる点では有利であるものの、達成される硬度はせいぜい55HRCが限界であり、使用中の成形ショットを重ねた際の耐摩耗性が不十分であるという問題があった。Ni−Pめっきや銅合金を適用したものでは、更に硬さが低く、長期安定成形に不利となる。
また、SUS420J2レベルの耐食性は、水冷を要する光ディスク成形用や、使用中に腐食性ガスを発生するようなプラスチック成形用といった金型の場合だと、長期量産する為に十分とはいえない問題もあった。更に、SUS420J2は組織中にミクロンオーダーの大きなクロム炭化物析出を伴う為、成形面には厳密な平滑鏡面が得られにくい問題点もあった。この問題は、サブナノオーダーの平均面粗さを目指す次世代高密度光ディスクを実用化する上で大きな問題となる。
一方、高硬度(58HRC以上)と耐食性を求められる用途に従来使用されているSKD11系やSUS440C系の溶製鋼、または粉末鋼においては、その耐食性はSUS420J2系より劣るため、水冷を要する光ディスク成形用や、使用中に腐食性ガスを発生するようなプラスチック成形用といった金型において、長期量産する為に耐食性は十分ではなかった。また、これらの材料は硬質の合金炭化物を含んでいるため、超鏡面仕上性となると、改良の余地がある。
そして、特許文献1に記載の改良鋼は、高硬度と高耐食性の両立という点で従来鋼より優れた材料ではあるが、その達成される最高硬さは、径20mmの丸棒という小さな鋼片を用いての、しかも固溶化処理時の冷却条件には高硬度化に有利な水冷(急冷)を採用してでさえ、その後の時効処理で58HRCの辺りが限界である。実際に使用される光ディスクや光学部品成形用の金型となれば、このような小さな鋼片では対応が難しく、しかも固溶化処理時の冷却条件も熱処理歪を抑制するための空冷等の徐冷が望ましい。特許文献1の改良鋼の場合、実際に想定される上記の実金型条件を適用すれば、それこそ達成硬さは58HRCにも満たない。
加えて、特許文献1に記載の改良鋼が達成する鏡面性は、従来鋼よりは優れてはいるものの、組織中に炭化物よりは軟らかいLaves(ラーベス)相が多く析出している。高硬度の組織を得ることは、優れた鏡面性の達成に重要な要件であることから、光ディスクや光学部品成形用の超鏡面仕上性が要求される分野において、特許文献1の改良鋼には更なる改良の余地がある。
また、上記の高硬度、耐食性、鏡面仕上性に加えて、靭性が求められる精密コネクタの成形金型やスリットコーター部品等の分野においては、従来のSUS420J2系については、靭性の点では問題ないが、硬度や耐食性の点でやはり不十分である。SUS440C系については、高硬度であるため、靭性の点でSUS420J2系より劣るが、これは問題にはならない程度である。しかし、耐食性はSUS420J2系より劣るため、やはりこの点では不十分である。そして、特許文献1に記載の改良鋼は、耐食性では優れているものの、硬さや鏡面仕上性の点では不十分であり、さらにSUS440C系よりも劣るその靱性の程度は、使用中の問題ともなり得る。
本発明の目的は、上記の課題を解決し、硬さ、耐食性、鏡面仕上性に加えて、さらに靭性にも優れることで、精密コネクタの成形金型やスリットコーター部品等の分野にも最適な、靭性に優れた耐食性、超鏡面仕上性を兼備する高硬度析出硬化型ステンレス鋼を提供することである。
本発明者は、上記の課題を検討した結果、耐食性と高硬度、そして他の金型用途には類のない極めて優れた平滑鏡面性に加えて、さらに靭性をも兼備するためには、Si量の適正化が重要であることを見出した。
すなわち本発明は、質量%で、C:0.05%以下、Si:0.6〜1.5%未満、Mn:3.0%以下、Cr:6.0〜14.0%、Ni:4.0〜10.0%、Co:20.0%以下、Cu:6.0%以下、Ti:1.0〜3.5%、Al:2.0%以下(0%を含む)を含有し、Moは1.0%以下に、Nは0.01%以下に規制され、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする靱性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼である。好ましくはSi:1.0〜1.5%未満、あるいはさらにMoは0.5%以下に規制される。1.0%以下のTa、または0.1%以下のZrを含有してもよい。更に好ましくは、硬さが58HRC以上のステンレス鋼である。
本発明によれば、耐食性、超鏡面仕上性を兼備する高硬度析出硬化型ステンレス鋼の靭性を飛躍的に改善することができることから、高硬度、耐食性、超鏡面仕上性が要求される光ディスクや光学レンズの成形用金型から、さらに高い耐食性と、時には超鏡面仕上性が要求されるガラス強化グレードのエンプラ、スーパーエンプラ等の射出成形用金型、さらに加えて靭性が要求される精密コネクタ等の成形用金型や液晶製造装置のスリットコーター等の精密機械部品等の長期安定成形の実用化にとっても、欠くことのできない技術となる。
本発明の重要な特徴は、高硬度、高耐食性、超鏡面仕上性を兼備するステンレス鋼を基にして、その成分組成を見直したことで、それらの特性を維持した上に靭性を飛躍的に改善できたところにある。
最初に、本発明の基とした、高硬度、高耐食性、超鏡面仕上性を兼備するステンレス鋼とは、そのSi、Mo等の最適な添加量を見出すことによって達成し、本出願人によって提案済みの特願2006−036573の「鏡面仕上性に優れた高硬度ステンレス鋼」である。この提案済みのステンレス鋼は、Siが1.5%以上に調整されており、実際に想定される実金型条件(大きさ、固溶化処理時の冷却速度)を適用しても60HRCの高硬度が得られるものである。そして、Laves相の析出も微細に抑制されているため、超鏡面仕上性も達成しており、耐食性も優れていることから、光ディスクや光学部品成形、高硬度と耐食性が求められるエンプラ成形等に最適な材料である。しかし、このステンレス鋼は、特許文献1に記載の改良鋼に同様、靭性について改良の余地がある。
そこで、本発明者は、上記提案済みのステンレス鋼に対し、さらに靭性をも兼備させるための手法を検討した。まず、提案済みのステンレス鋼においては、その優れた鏡面仕上性や高硬度化の達成のためには、上記のLaves相の十分な固溶を促進するための、製造工程に係る固溶化処理温度は1000℃以上を推奨し、実施例では1100℃を適用している。ここで、この固溶化処理温度が低ければ、結晶粒の微細化を促し、靱性の向上に働くところ、これは上記の通りのLaves相の固溶不足に繋がり、大きなLaves相が残ってしまうことで、鏡面仕上性と硬さの低下が懸念される。よって、本発明においては、この固溶化処理温度を下げること、例えば1100℃未満や1050℃以下の処理温度を適用してもよい一方では、懸念のされる硬さと鏡面仕上性の劣化を抑え得る手法がないかを検討した。その結果、特にSi量の範囲の再適正化を行うことが有効であることを見出したのである。
本発明の成分組成について説明する。
ステンレス鋼の高硬度化手法としては、その組織中への硬質炭化物の析出作用を採用すると、超鏡面性が得られ難いことは上述の通りである。そこで、本発明のステンレス鋼では、その組織中には炭化物よりは適度に軟らかい金属間化合物を微細に析出させ、炭化物は低減かつ微細にすることにより、耐食性はもちろんのこと、超鏡面性及び高硬度を得るものである。このためにステンレス鋼中のC量の調整は重要であり、Cを0.05%以下に管理することによって鋼組織中の硬質炭化物を低減しかつ、析出サイズをサブミクロンオーダーに抑え、超鏡面仕上性を実現することができる。好ましくは0.02%以下、更に好ましくは0.01%未満である。
Siは、本発明のステンレス鋼に強度を与える主要な元素である。そして、本発明の想定する金型用途にも適用するためには重要な、超鏡面仕上性を実現するための根幹元素である。すなわち、従来の炭化物による析出強化機構に頼らずに、Cr、Ni、Co、Tiと共にG相を形成するという析出強化機構に寄与することで、優れた鏡面仕上性を得るものである。また、マトリックスに固溶したSiは耐食性(特に耐硫酸)を高める効果もある。よって、本発明でのSiは0.6%以上、好ましくは1.0%以上である。
そして、上記の添加効果の一方では、本発明のステンレス鋼が固溶化処理温度の低下による靱性の向上作用も採用できるところ、Si量の再適正化は、この際の硬さと鏡面仕上性の劣化抑制に有効に働くのである。つまり、固溶化処理温度の低下によって懸念のされるLaves相の固溶不足は、Si量を下げることでLaves相の析出自体を抑制し、鏡面仕上性の劣化を抑制できる。そして、固溶化処理温度の低下により同時に懸念のされる硬さの低下に対しても、本来Laves相にとられていた他の強化元素を上記G相の形成に確保できることから、56HRC以上はもちろんのこと、さらには58HRC以上の十分な高硬度を維持できる。以上、本発明のステンレス鋼にとってのSiは、硬さと鏡面仕上性に加えて、靱性とのバランスを左右する元素であって、特に靱性を重視する本発明にとっては1.5%未満と規定した。
Mnは、鋼の脱酸剤として働き、0.05%以上の含有が好ましいが、多すぎると組織中のオーステナイト量が増加しすぎて、所定の硬度が得られにくくなる。よって、Mnは3.0%以下とする。好ましくは0.8%以下である。
Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保するための不可欠な成分であって、本発明の金型用途をも考慮すれば、6.0%未満では耐食性が不十分である。また、Si、Ni、Co、Tiと共にG相を形成し、析出強化に寄与する。しかし、14.0%を超えると所定の硬度、望ましくは58HRC以上の硬度が得られにくくなるため為、Crは6.0〜14.0%とした。好ましくは8.0〜13.0%である。
Niは、鋼に耐食性を付与するとともに、Crとのバランスで鋼の相変態を望ましい形態に、すなわち固溶化熱処理冷却時にオーステナイト単相から低炭素マルテンサイト単相へと変態させる作用を有する元素である。そして、Si、Cr、Co、Tiと共にG相を形成し、析出強化に寄与する。しかし、多過ぎるとオーステナイト量が増大しすぎて、所定の硬度が得られにくくなる。よって、本発明のNiは、4.0〜10.0%とする。好ましくは5.5〜8.5%である。
Coは、耐食性の改善に加えて、Si、Cr、Ni、Tiと共にG相を形成し、析出強化に寄与する重要な元素である。しかし、過多の含有は機械加工性を損なうので、20.0%以下とする。好ましくは6.0〜12.0%である。
Cuは、固溶化処理後の時効の際には、析出硬化に寄与すると共に、耐食性も向上させる。しかしながら、多くの含有は熱間加工性を損なうので、規制管理の重要な元素でもある。本発明では6.0%以下とするが、実金型に要する素材寸法に対応し得るためにも、望ましくは3.0%以下である。0.3〜2.0%が好ましい。
Tiは、固溶化および時効処理による硬さ調質の際の、時効硬化に寄与する主要な元素の一つである。即ち、Si、Cr、Ni、Coと共にG相を形成し、析出強化に寄与する重要な元素である。従って、1.0%以上の含有とする。しかし、多く含有すると靭性を低下させ、更に、数十ミクロンオーダーの大きなLaves相が多くなり、それ自体が鏡面仕上性を劣化させると共に、Tiや他の強化元素もLaves相にとられるため、過剰に添加しても効果はない。さらに、過剰のTiは炭化物や窒化物等を形成し、鏡面仕上性に悪影響を及ぼす。よって、本発明では1.0〜3.5%とする。望ましくは1.5〜3.0%である。
Alは、鋼の脱酸剤として働く元素である。すなわち、本発明が採用する強化機構は硬質炭化物の導入に頼るものではなく、逆に炭化物は鏡面仕上性に悪影響を及ぼすことから低減する必要がある為、Cは0.05%以下、望ましくは0.01%未満にまで規制する。従って、Cによる脱酸が行えないため、Alによる脱酸は有効である。しかし、多くのAl含有は靭性を低下させるので、本発明のAlは2.0%以下とする。望ましくは0.5%以下である。
なお、Alは、一方では、AlやAl/Mg複合酸化物の形成により鋼としての鏡面仕上性を劣化させることが懸念されるので、例えば脱酸後には、溶湯からは極力除去することが望ましい。または、真空誘導炉溶解や消耗電極式再溶解法を積極的に導入することで、Al脱酸自体を省略することもできる。
Moは、耐食性を向上させると同時に、固溶化および時効処理による硬さ調質の際の時効硬化に寄与するものとして、従来添加のされてきた元素である。しかし、Moを添加するに伴い、数十ミクロンオーダーの大きなLaves相が多くなり、これは鏡面仕上性を劣化させる。そして、Moに加え、他の強化元素もLaves相にとられることから、これは高硬度化に悪影響を及ぼすこととなる。よって、本発明では、Moは1.0%以下に規制することこそが重要であって、望ましくは0.5%以下、さらに望ましくは0.4%未満に規制する。
Nは、Ti等と窒化物、炭窒化物を形成し、鏡面仕上性に悪影響を及ぼすことから、0.01%以下に規制する必要がある。望ましくは0.005%以下、さらに望ましくは0.003%以下に規制する。
本発明の成分組成において特に重要となるのが、含有するSiは低領域で管理すると共に、Moは規制するという、SiとMoの複合管理である。これらを前提として0.6〜1.5%未満という最適量のSi量領域に調整することにより、さらにLaves相の析出を抑えることができ、硬さ、耐食性、超鏡面仕上性を維持しながら、靭性を向上させることができる。
また、本発明の上記ステンレス鋼は、必要に応じて、Taを含んでもよい。
Ta、ステンレス鋼の時効硬さを上昇させる効果があるが、やはり過多の含有は鏡面仕上性に悪影響を生じる。よって、添加あるいは含有するとしても1.0%以下が望ましい。更に望ましくは0.5%以下である。なお、上記の効果を得るにあたっては、0.1%以上の含有が望ましい。
あるいはさらに、本発明のステンレス鋼は、必要に応じて、Zrを含んでもよい。Zrは、鏡面に仕上げた時にピンホールの原因となるAlやAl/Mg複合酸化物をZrOに置換することによってピンホールを発生しないようにする効果があるが、過多の含有の場合、数十ミクロンオーダーの大きなLaves相やZr系介在物が多くなり、やはり鏡面仕上性が劣化する。よって、添加あるいは含有するとしても0.1%以下が望ましい。更に望ましくは0.08%以下であるが、上記の効果を得るにあたっては、0.01%以上の含有が望ましい。
また、Zrと同様の効果を有するY、La、Ceのいずれか、あるいは複数を添加してもよい。
更に上述したように、本発明のステンレス鋼は、その使用環境に応じては、当然に58HRC未満の硬さで使用してもよいが、その硬さが58HRC以上のものを採用することが望ましく、そしてこれを達成しているところにも重要な特徴がある。58HRC以上の硬度は鏡面磨きの粗研磨時にキズをつけ難くし、鏡面仕上げを容易にすると同時に耐摩耗性をも改善できるものである。そして、このような高硬度を達成するためにも上記のステンレス鋼の成分組成は重要な要素である。よって、本発明のステンレス鋼をプラスチックやガラス部品等の、極めて高い表面精度が要求される製品の成形用金型に適用すれば、該硬さに調質し、切削加工又は研削・研磨加工やラッピング加工等の機械加工を施した成形面は、優れた超鏡面仕上性と成形時の耐摩耗性を有する。
表1に示す化学成分の、残部Fe及び不可避的不純物からなる試料No.1〜5について、真空誘導炉溶解によって得た鋼塊を熱間加工した後、固溶化処理、時効処理により58HRC以上を狙って調質し、耐食性、鏡面仕上性、及び靭性を評価した。ただし、固溶化処理温度は表2の通りであり、冷却条件は実金型条件を想定した半冷70分を適用した。半冷とは、固溶化処理温度から(固溶化処理温度+室温)の半分の温度まで冷却するのに要する時間のことである。なお、試料No.2、3は本出願人による特願2006−036573を満たす参考鋼であり、試料No.5は従来鋼;SUS440C相当粉末鋼(59.9HRC)である。
耐食性は、硬さを調整した各試料(径10mm、長さ20mm)を50℃、1質量%の酸(塩酸、硝酸)200mlに24時間浸漬し、その前後の重量減少分を腐食減量とする腐食減量測定により評価した。
鏡面仕上性は、硬さを調整した各試料について、光ディスク用金型の成形面加工に適用されている鏡面研磨を想定した条件(アルミナ艶出し仕上げ)での鏡面加工を施し、加工後面の鏡面度を評価した。鏡面度の評価は、良好な鏡面度を呈しているSUS440C相当粉末鋼の鏡面度(顕微鏡拡大写真[×900倍]を図1に示す)を基準「良」とすることで、それに優るものを「優」、それに劣るものを「可」とした。
靭性は、硬さを調整した各試料について、10mmRノッチ試験片を用いてシャルピー衝撃試験を行い、室温でのシャルピー衝撃値により評価した。なお、試験片は、熱間加工後の鋼材の長手方向に試験片の長手方向がくるように採取し(すなわち、L方向から採取し)、そして、衝撃値は、1つの試料につき3回の衝撃試験を行ったうちの、その最大値を評価した。また、スパンが50mmの中央一点荷重の抗折試験を行い(試験片はL方向から採取)、たわみ量により評価した。以上の結果を表2に示す。
本発明鋼である試料No.1は、本分野において、硬さ、耐食性、鏡面仕上性はもちろん良好であり、靭性についても試料No.2、3の衝撃値を上回っている。試料No.1の鏡面加工面を示す顕微鏡写真を図2に示しておく。試料No.4は、耐食性はそこそこ良好であるが、硬さ、鏡面仕上性が不十分である。そして、試料No.1〜4のシャルピー試験を行った後の破面を観察すると、試料No.2、3、4の脆性破面に比べ、試料No.1の破面は若干延性をもつ破面が確認された。試料No.5のSUS440C相当粉末鋼は、硬さ、鏡面仕上性は良好であるが、耐食性が不十分である。
表3に示す化学成分の、残部Fe及び不可避的不純物からなる試料No.6〜11について、真空誘導炉溶解によって得た鋼塊を熱間加工した後、固溶化処理、時効処理により58HRC以上を狙って調質し、実施例1と同様に、耐食性、鏡面仕上性、及び靭性を評価した。ただし、固溶化処理温度は表4の通りであり、冷却条件は実金型条件を想定した半冷70分を適用した。試料No.9〜11は本出願人による特願2006−036573を満たす参考鋼である。評価結果を表4に示す。
本発明鋼である試料No.6〜8は、本分野において、硬さ、耐食性、鏡面仕上性が良好であり、靭性についても良好である。
高硬度でかつ、優れた耐食性、鏡面仕上性と、更には靱性を有する本発明のステンレス鋼は、光ディスクや光学レンズの成形用金型、ガラス繊維等の強化剤を含有するPPS樹脂など、所謂スーパーエンプラの成形用金型、さらに靭性が要求される精密コネクタの成形用金型等の他に、刃物や錠剤パンチ、精密機械部品等にも適用できる。
SUS440C相当粉末鋼の鏡面加工面を示す顕微鏡写真である。 本発明鋼の鏡面加工面の一例を示す顕微鏡写真である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.05%以下、Si:0.6〜1.5%未満、Mn:3.0%以下、Cr:6.0〜14.0%、Ni:4.0〜10.0%、Co:20.0%以下、Cu:6.0%以下、Ti:1.0〜3.5%、Al:2.0%以下(0%を含む)を含有し、Moは1.0%以下に、Nは0.01%以下に規制され、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
  2. 質量%で、Si:1.0〜1.5%未満であることを特徴とする請求項1に記載の靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
  3. 質量%で、Moを0.5%以下に規制したことを特徴とする請求項1または2に記載の靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
  4. 質量%で、Ta:1.0%以下であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
  5. 質量%で、Zr:0.1%以下であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
  6. 硬さが58HRC以上であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の靭性に優れた高硬度析出硬化型ステンレス鋼。
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