JP4555794B2 - 疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物およびそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
金属部品や金属製構造物の疲労き裂発生防止の従来技術として、古くから、疲労き裂の発生する応力集中部に熱処理を施し残留応力を除去する方法や、グラインダーなどの装置を用いた切削処理により溶接トウ部の形状を滑らかにし応力集中を低下させる方法(例えば、特許文献1参照。)、また、ピーニング処理により溶接トウ部を叩くことにより塑性加工を加え、溶接残留応力の低減とトウ部の形状を改善する方法(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)が広く用いられ、疲労き裂の発生特性を改善させている。
そこで、本発明では、金属部品や金属製構造物の表面であって、金属製リブの長さ方向端部と交わる応力集中部付近を簡易な方法で圧縮応力状態にすることで、該応力集中部からの疲労き裂の発生と進展を抑制し、疲労き裂の発生や進展に対する抵抗を大きくすることのできる、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属製構造物およびそれらの製造方法を提供することを課題とする。
(1) 厚みbの金属製の主板または主管1から、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属製リブ2が突き出ており、該リブの長さ方向の端部にリブの厚み方向に圧痕形状の圧縮予ひずみ部を形成した金属部品または金属製構造物であって、該圧縮予ひずみ部は、板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満であり、リブ面上に占める面積pが0.67t2以上であり、リブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さいものであり、さらに、該圧縮予ひずみにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力が働いていることを特徴とする、リブ端部から主板または主管への疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
(2) 前記リブ2が溶接により前記主板または主管1に接合されており、リブおよび溶接部5の降伏強度が主板または主管1の降伏強度の95%以上であり、リブの引張強度が主板または主管の引張強度より大きく、リブの溶接部5がリブ端部から2h以上の距離に渡ってのど厚が0.5t以上であることを特徴とする、上記(1)に記載の疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
(3) 厚みbの金属製の主板または主管1の表面に、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属性リブ2を形成した後、リブの板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を、そのリブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、そのリブ面上に占める面積pが0.67t2以上であるような圧痕形状で、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さい位置に形成することにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力を付与することを特徴とする、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物の製造方法。
具体的には、請求項1に記載の発明は、厚みbの金属製の主板または主管1から、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属製リブ2が突き出ており、該リブの長さ方向の端部にリブ2の厚み方向に圧痕形状の圧縮予ひずみ部3を形成した金属部品または金属製構造物であって、該圧縮予ひずみ部3は、板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満であり、リブ面上に占める面積pが0.67t2以上であり、リブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、その重心位置17と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブ2の厚みtより小さいものであり、さらに、該圧縮予ひずみにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力が働いていることを特徴とするものである。
また、該リブの長さ方向の端部にリブの厚み方向に0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を形成させるのは、該リブと金属主板または主管1の接する部位であって、該リブの長さ方向の端部に圧縮の残留応力を発生させるためであり、0.5%より小さい圧縮ひずみでは十分な残留応力を発生させることは出来ず、25%より大きなひずみでは効果が頭打ちとなる上に板厚の減少や部材の巨視的な変形が顕著となり部品や構造物としての形状精度が損なわれるためである。
また、リブ2の厚みtを1mm以上としたのは、tが1mmより小さい場合には予ひずみ量の管理が困難であるためである。リブの厚みtが1mmより小さい場合でもリブの厚みt以外の本発明の特定事項を精度よく適用できれば本発明と同様の効力を発揮できる。
また、リブの長さ方向の寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下の領域に圧縮予ひずみを与えるのは、kが0.5tより小さい場合、疲労き裂の発生が懸念される応力集中部に圧縮残留応力が十分に発生しないためであり、kが3(t・b)0.5超では主板の変形が顕著になることや疲労き裂の発生が懸念される応力集中部の圧縮残留応力が頭打ちもしくは減少するからである。
また、圧縮ひずみ部3の重心位置17と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下、およびリブの端部から圧痕までの距離eがリブの厚みtより小さくする理由は、圧縮ひずみ部がリブの長さ方向の端部から離れると疲労き裂の発生が懸念される応力集中部4の圧縮残留応力が低下し、本発明の効果である疲労き裂発生抵抗が低下してしまうからである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の疲労き裂発生・進展抑止特性が優れた金属部品または金属製構造物であって、前記リブが溶接により前記主板または主管1に接合されており、リブおよび溶接部5の降伏強度が主板または主管の降伏強度の95%以上であり、リブの引張強度が主板または主管の引張強度より大きく、リブの溶接部5がリブ端部から2h以上の距離に渡って、のど厚cが0.5t以上であることを特徴とする。リブの溶接部5がリブ端部から2h以上の距離に渡って、のど厚cが0.5t以上とするのは、リブに付与する圧縮予ひずみと該リブとリブを溶接により取り付けた主板または主管との間に生じる溶接残留応力によって溶接部を破壊することなしに、該リブに付与する圧縮予ひずみにより生じた応力を、該溶接部を介してリブ板2に接する主板または主管1に伝達させるために十分なのど厚が必要であるからである。また、リブおよび溶接部5の降伏強度を主板または主管1の降伏強度の95%以上とし、リブの引張強度を主板または主管の引張強度より大きくするのは、圧縮予ひずみにより生じた応力を主板または主管1に十分伝達させるためであり、リブと溶接部の強度は高いほど本発明の効果は高くなる。
請求項3に記載の本発明は、厚みbの金属製の主板または主管1表面に、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属性リブ2を形成した後、リブの板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を、そのリブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向の寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、そのリブ面上に占める面積pが0.67t2以上であるような圧痕形状で、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さい位置に形成することにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力を付与することを特徴とする、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物の製造方法とするものである。なお、圧縮予ひずみを金属製リブ形成後に与える作用効果は、該リブと該主板または主管の間にせん断応力を生じさせ、該リブの長さ方向端部であって、該主板または主管と交差する部分4に圧縮残留応力を生じさせるものである。
前記構造モデルは、例として、主板とリブ板共に降伏応力330MPaであり、引張強度が490MPaである鋼材で構成されているものと仮定し、図4の矢印方向に引張荷重が作用することを想定してモデル化した。構造モデルは、表1に各部の寸法と併せて示したように記号AからYまでの25種類であり、これらすべてについて有限要素解析を行った。構造モデルの主板の厚みbは8〜16mm、リブ板の厚みtは8〜24mmとした。また、圧縮予ひずみ部の形状は、リブ板2の長さ方向の寸法kを10〜80mm、リブ板2の高さ方向の寸法dを8〜24mmの矩形の面を持ち、主板1と圧縮予ひずみ部3までの距離a−d/2を8〜16mm、リブの長さ方向端部からの距離eを5〜10mmとした。予ひずみ部となる面に変位制御で圧縮および除荷によって、リブ板2に厚み方向の残留ひずみとして約2.5%の塑性歪を与えた。
次に、有限要素法解析により求めた、前記構造モデルで前記予ひずみ付与後に、構造モデルDの矢印方向に降伏応力の半分(165MPa)の引張負荷を与えた場合についての引張方向応力分布を図7に、また、予ひずみを与えずに構造モデルDと同様に矢印方向に降伏応力の半分の引張負荷を与えたモデルD’の場合についての引張方向応力分布を図6に示す。図6、図7の等高線につけた数字はリブの材軸方向の引張応力をMPaの単位で示したものである。構造モデルDの部位4の応力は、構造モデルD’の部位4の応力に対して著しく低くなっている。
本発明を適用した構造モデルの端部に引張負荷を与えた場合の応力集中部4に生じる応力は、予ひずみを与えて除荷した時点での圧縮残留応力が大きいほど疲労き裂発生に対する抵抗が大きいと考えられる。該圧縮残留応力は、特に、リブ板の厚みtや高さhや圧縮予ひずみ部の位置や大きさ、また、溶接によりリブ板が取り付けられた場合には溶接部の形状の影響を受けるため、それぞれの因子の影響について有限要素解析を用いて検討した。該有限要素解析の結果を用いて作成した、本発明の構造モデルの応力集中部に生じる圧縮残留応力を記載した表1に基づいて、請求項1に記載の本発明について説明する。
モデルK、X、Y、の結果から、リブ板の背hは高い方が応力集中部4に生じる圧縮残留応力が大きい。これは、圧縮予ひずみを受けた部分の周りの弾性領域が大きい方が応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きくなることを表しており、圧縮予ひずみを受けた部分の周りの弾性領域が十分確保できるようh≧2dとした。
モデルKとOの比較、モデルB、C、Dの比較の結果、また、モデルH、I、Jの比較の結果から、圧縮予ひずみ部3の寸法dは大きい方が応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きく、圧縮応力が顕著に表れるが、dが大きくなりhに近づくと効果が頭打ちになるため、dは0.5t以上0.5h以下とした。
モデルO、Nの比較の結果などから、リブ2の端部からの圧縮予ひずみ部3までの距離eは小さい方が応力集中部4に生じる圧縮残留応力が大きく、e<tとした。
モデルA、Dの比較の結果などから、主板1から圧縮予ひずみ部3までの距離a−d/2は小さい方が応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きく、a<3tとした。
モデルU、V、Wの比較の結果から、両面にリブ板を付けて本発明で行う圧縮予ひずみを与えた場合、片面リブ板の場合よりも、応力集中部に生じる圧縮残留応力が大きく、片側リブよりは両側リブの方が効果が高い。
ポンチの断面形状については矩形以外にも円形の他、種々の形状が適用可能であり、効果には大きな差は出ないと考えられるため、自由にデザインできるが、ポンチの寿命を延ばし、圧縮荷重をできるだけ低くするためには外に凸の中実断面が合理的である。
ポンチの大きさについては鋼材の内部にまで十分に塑性歪を与えることが重要であるためポンチの寸法はリブ板厚tと比例させる必要がある。また、所定の圧縮ひずみをリブ板に付与するためには圧縮面積に比例して大きな圧縮荷重が必要となり、負荷が困難となることがあるため注意が必要である。圧縮予ひずみ付与面積pは板厚tに対して0.67t2以上と定めたが、これより大きくなりすぎると、予ひずみを付与するために必要な荷重が面積に比例して大きくなり実施する設備が大きくなるため困難となる場合があることや、予ひずみによる残留応力で主板の平面性が失われる可能性があることに注意する必要がある。適切な圧縮予ひずみ付与装置を準備し、各寸法は本発明の効果の期待できる範囲となるよう設定するのが望ましい。
また、本発明では圧縮予ひずみ部をリブ取り付け後に設けなければ、主板表面であって、リブ板と接する部分のリブ板の長手方向端部4に圧縮予ひずみによる圧縮応力が発生せず、疲労き裂発生阻止の効果は得られない。そこで、本発明を適用しているかどうかについて疑わしい場合については、磁歪法やX線を用いた方法等によって圧縮予ひずみ部付近の残留応力分布を確認することで、容易に本発明を適用していることが確認できる。
また、本発明は既存の構造物に対して適用することも可能であり、既存構造物の疲労き裂発生防止方法としても有効である。
実験の結果、試験片F0は1×106回程度の繰り返し負荷周期で所定の疲労き裂が生じた。それに対し、本発明の試験体においては、試験片F1は5×106回、試験片F5は7×106回で所定のき裂が見られたものの、試験片F2,F3,F4では1.5×107回でも疲労き裂が発生しなかった。このことから、疲労き裂の発生に対しては5倍程度以上の性能が得られるものと考えられる。
本発明を適用した鋼管ポールモデルとリブ板溶接ままの通常の鋼管ポールモデルを作製し、両振りの繰り返し曲げ試験を行い、疲労き裂の発生特性を比較した。
圧縮予ひずみ部14の寸法は図1に示した各部の寸法で示すと、aが6mm、dが12mm、eが2mm、kが12mm、hが25mmである。
載荷条件は基部の応力振幅が160MPaとなるよう両振り試験を行った。
実験の結果、通常の鋼管ポールモデルでは7×105回で応力集中部16から実施例1で用いた疲労き裂評価基準である疲労き裂長さ10mmに達したものの、本発明を適用したモデルでは疲労き裂が確認できなかった。本発明を適用したモデルではさらに1×107回まで繰り返し載荷を行ったところで、疲労き裂が10mmに達し、本発明の有効であることが確認できた。
2 リブ板
3 圧縮予ひずみ部
4 応力集中部
5 溶接部
6 構造モデル中央断面
7 ポンチ
8 鋼板
9 リブ板
10 溶接部
11 溶接トウ部
12 ベースプレート
13 鋼管ポール
14 応力集中部
15 リブ板
16 圧縮予ひずみ部
17 圧縮予ひずみ部の重心
Claims (3)
- 厚みbの金属製の主板または主管1から、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属製リブ2が突き出ており、該リブの長さ方向の端部にリブの厚み方向に圧痕形状の圧縮予ひずみ部を形成した金属部品または金属製構造物であって、該圧縮予ひずみ部3は、板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満であり、リブ面上に占める面積pが0.67t2以上であり、リブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さいものであり、さらに、該圧縮予ひずみにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力が働いていることを特徴とする、リブ端部から主板または主管への疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
- 前記リブ2が溶接により前記主板または主管1に接合されており、リブおよび溶接部5の降伏強度が主板または主管1の降伏強度の95%以上であり、リブの引張強度が主板または主管の引張強度より大きく、リブの溶接部5がリブ端部から2h以上の距離に渡ってのど厚が0.5t以上であることを特徴とする、請求項1に記載の疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物。
- 厚みbの金属製の主板または主管1の表面に、厚みtが1mm以上、高さhが3t以上で、長さlの板状の金属性リブ2を形成した後、リブの板厚方向圧縮ひずみが0.5%以上25%未満の圧縮予ひずみ部3を、そのリブ長さ方向寸法kが0.5t以上3(t・b)0.5以下であり、リブ高さ方向寸法dが0.5t以上0.5h以下であり、そのリブ面上に占める面積pが0.67t2以上であるような圧痕形状で、その重心位置と前記主板または主管との距離aが0.5h以下かつ3t以下であり、その端部からリブ長さ方向端部までの距離eがリブの厚みtより小さい位置に形成することにより、前記リブの長さ方向端部であって、前記主板または主管と交差する部分4に、圧縮残留応力を付与することを特徴とする、疲労き裂の発生・進展抑止特性に優れた金属部品または金属製構造物の製造方法。
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