JP4508498B2 - 多層配線基板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種AV機器や家電機器・通信機器・コンピュータやその周辺機器等の電子機器に使用される絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関し、特に液晶ポリマーを一部に用いた絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体素子等の能動部品や容量素子・抵抗素子等の受動部品を多数搭載して所定の電子回路を構成して成る混成集積回路に用いられる多層配線基板は、通常、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムにドリルによって上下に貫通孔を形成し、この貫通孔内部および絶縁層表面に複数の配線導体を形成した配線基板を、多数積層することによって形成されている。
【0003】
一般に、現在の電子機器は、移動体通信機器に代表されるように小型・薄型・軽量・高性能・高機能・高品質・高信頼性が要求されており、このような電子機器に搭載される混成集積回路等の電子部品も小型・高密度化が要求されるようになってきている。そして、このような高密度化の要求に応えるために、電子部品を構成する多層配線基板も、配線導体の微細化や絶縁層の薄層化・貫通孔の微細化が必要となってきている。このため、近年、貫通孔を微細化するために、ドリル加工より微細加工が可能なレーザ加工が用いられるようになってきた。
【0004】
しかしながら、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る絶縁フィルムは、ガラスクロスをレーザにより穿設加工することが困難なために貫通孔の微細化には限界があり、また、ガラスクロスの厚みが不均一のために均一な孔径の貫通孔を形成することが困難であるという問題点を有していた。
【0005】
このような問題点を解決するために、アラミド樹脂繊維で製作した不織布にエポキシ樹脂を含浸させた絶縁フィルムや、ポリイミドフィルムにエポキシ系接着剤を塗布した絶縁フィルムを絶縁層に用いた多層配線基板が提案されている。
【0006】
しかしながら、アラミド不織布やポリイミドフィルムを用いた絶縁フィルムは吸湿性が高く、吸湿した状態で半田リフローを行なうと半田リフローの熱により吸湿した水分が気化してガスが発生し、絶縁フィルム間で剥離してしまう等の問題点を有していた。
【0007】
このような問題点を解決するために、多層配線基板の絶縁層の材料として液晶ポリマーを用いることが検討されている。液晶ポリマーから成る層は、剛直な分子で構成されているとともに分子同士が規則的に並んだ構成をしており分子間力が強いことから、高耐熱性・高弾性率・高寸法安定性・低吸湿性を示し、ガラスクロスのような強化材を用いる必要がなく、また、微細加工性にも優れるという特徴を有している。さらに、高周波領域においても、低誘電率・低誘電正接であり高周波特性に優れるという特徴を有している。
【0008】
このような液晶ポリマーの特徴を活かし、特開平8-97565号公報には、回路層が第1の液晶ポリマーを含み、この回路層間に第1の液晶ポリマーの融点よりも低い融点を有する第2の液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して成る多層プリント回路基板が提案されており、また、特開平8-293579号公報には、表面に回路パターンが形成された液晶ポリマーフィルムを間にプリプレグを介して積層して成る基板の片面にベアチップを複数個実装して成るマルチチップモジュールが提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平8-97565号公報に提案された多層プリント回路基板は、回路層同士を間に液晶ポリマーを含む接着剤層を挿入して熱圧着により接着する際、液晶ポリマー分子が剛直であるとともにある程度分子が規則正しく配向して分子が密に並んでいるために分子が動き難く、回路層の液晶ポリマーと接着剤層の液晶ポリマーは表面のごく一部の分子だけしか絡み合うことができず密着性が悪くなり、高温バイアス試験において層間で剥離して絶縁不良が発生してしまうという問題点を有していた。また、回路層の導体箔と液晶ポリマーを熱融着により接着する際、液晶ポリマー分子が動き難いために導体箔表面の微細な凹部に入ることができず、その結果、十分なアンカー効果を発揮することができず、導体箔と液晶ポリマーとの密着性が悪くなって、高温高湿下において両者間で剥離して導体箔が断線してしまうという問題点も有していた。
【0010】
また、特開平8-293579号公報に提案されたマルチチップモジュールは、低吸湿性であるとともに低透湿性である液晶ポリマーフィルムでプリプレグを挟むことによりマルチチップモジュール内部への水分の浸透を防止して耐湿性を向上することができるものの、回路パターンに接する液晶ポリマーフィルムおよびプリプレグは、その誘電率が異なる材料であることから、100MHz以上の高周波信号を伝送する場合に、インピーダンスマッチングを行うことが非常に困難であるとともに、回路パターンの上下面において高周波信号の伝播遅延時間が異なるために信号に歪を生じて伝送損失が大きくなってしまうという問題点を有していた。
【0011】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、高密度な配線を有するとともに、絶縁信頼性・導通信頼性・高周波伝送特性に優れた絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を提供することに有る。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の多層配線基板は、液晶ポリマー層と、該液晶ポリマー層の上下に配置された有機材料から成る一対の被覆層と、該一対の被覆層の少なくとも一方の被覆層の表面に、該表面と平坦面を構成するように埋設された金属箔から成る配線導体と、を有する複数の絶縁フィルムを積層することにより形成された多層配線基板であって、前記絶縁フィルムを挟んで上下に位置する前記配線導体間を前記絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続し、前記被覆層は、エポキシ樹脂およびこれよりも低弾性率の有機物から成り、前記液晶ポリマー層は、層方向における熱膨張係数が−20〜20ppm/℃であるとともに、引張り弾性率が2GPa以上であり、前記被覆層は、層方向の引張り弾性率が0.2〜1.5GPaであり、前記液晶ポリマー層は、強化材を含まないことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、被覆層が低弾性率の有機物を5〜60体積%含有することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、低弾性率の有機物が20〜80体積%のスチレン系有機物を含有することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の絶縁フィルムは、上記構成において、被覆層の厚みの合計が絶縁フィルムの厚みの10〜70%であることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、本発明の多層配線基板は、上下面の少なくとも一方の面に金属箔から成る配線導体が配設された上記の絶縁フィルムを複数積層して成るとともに、この絶縁フィルムを挟んで上下に位置する配線導体間を絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続したことを特徴とするものである。
【0017】
本発明の絶縁フィルムによれば、液晶ポリマー層の層方向における熱膨張係数を−20〜20×10-6/℃、引張り弾性率を2GPa以上とし、被覆層の層方向の引張り弾性率を0.2〜1.5GPaとしたことから、絶縁フィルムが温度変化により熱膨張・熱収縮する際に、層方向の引張り弾性率が0.2〜1.5GPaと低弾性率である被覆層が、熱膨張係数が小さく高弾性率の液晶ポリマー層に拘束され、熱膨張・熱収縮の小さなものとなり、その結果、急激な温度変化をともなう温度サイクル試験においても被覆層にクラックが発生することのない絶縁フィルムとすることができる。
【0018】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、被覆層がエポキシ樹脂よりも低弾性率の有機物を5〜60体積%含有することから、被覆層の弾性率を容易に0.2〜1.5GPaの範囲にすることができる。
【0019】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、低弾性率の有機物が20〜80体積%のスチレン系有機物を含有することから、このスチレン系有機物が低誘電率・低誘電正接であり被覆層の誘電率および誘電正接を小さくすることができ、その結果、100MHz以上の高周波においても伝送特性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0020】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、被覆層の厚みの合計を絶縁層の厚みの10〜70%としたことから、配線導体との密着性が良好で高耐熱性・低吸湿性・高寸法安定性の絶縁フィルムとすることができる。
【0021】
さらに、本発明の多層配線基板によれば、多層配線基板を上記の絶縁フィルムを用いて形成したことから、絶縁信頼性・導通信頼性・高周波伝送特性に優れた多層配線基板とすることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
次に本発明の絶縁フィルムおよびこれを用いた多層配線基板を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の絶縁フィルムの実施の形態の一例を示す断面図であり、また、図2は、図1の絶縁フィルムを用いて形成した多層配線基板に半導体素子等の電子部品を搭載して成る混成集積回路の実施の形態の一例を示す断面図である。さらに、図3は、図2に示す多層配線基板の配線導体の幅方向の要部拡大断面図である。これらの図において1は液晶ポリマー層、2は被覆層で、主にこれらで本発明の絶縁フィルム3が構成されている。また、4は配線導体、5は貫通導体で、主に絶縁フィルム3と配線導体4と貫通導体5とで本発明の多層配線基板6が構成されている。なお、本例の多層配線基板6では、絶縁フィルム3を4層積層して成るものを示している。
【0024】
絶縁フィルム3は、液晶ポリマー層1と、その上下面に被着形成された被覆層2とから構成されており、これを用いて多層配線基板6を製作した場合、配線導体4や多層配線基板6に搭載される電子部品7の支持体としての機能を有する。
【0025】
なお、ここで液晶ポリマーとは、溶融状態あるいは溶液状態で液晶性を示すポリマーあるいは光学的に複屈折する性質を有するポリマーを指し、一般に溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマー、あるいは、熱変形温度で分類される1型・2型・3型すべての液晶ポリマーを含むものである。
【0026】
本発明の絶縁フィルム3においては、液晶ポリマー層1を、温度サイクル信頼性・半田耐熱性・加工性の観点からは、層方向における熱膨張係数が−20〜20×10-6/℃であるとともに、引張り弾性率が2GPa以上、融点が200〜400℃であるものとすることが好ましい。液晶ポリマー層1は、熱膨張係数が−20×10-6/℃未満であると、液晶ポリマー層1と被覆層2との熱膨張係数の差が大きくなって被覆層2にクラックを生じ易くなる傾向があり、20×10-6/℃を超えると、絶縁フィルム3と配線導体4との熱膨張係数の差が大きくなって、配線導体4付近で被覆層2にクラックを生じ易くなる傾向がある。また、引張り弾性率が2GPa未満であると、絶縁フィルム3の曲げ強度が低下して絶縁フィルム3を多層化した際に反りを生じやすくなる傾向がある。したがって、液晶ポリマー層1は、層方向における熱膨張率が−20〜20×10-6/℃であるとともに、引張り弾性率が2GPa以上であることが好ましく、特に電子部品7を実装した時の接続信頼性の観点からは熱膨張率が−10〜10×10-6/℃、融点が250〜350℃であることが好ましい。
【0027】
なお、液晶ポリマー層1は、層としての物性を損なわない範囲内で、熱安定性を改善するための酸化防止剤や耐光性を改善するための紫外線吸収剤等の光安定剤、難燃性を改善するためのハロゲン系もしくはリン酸系の難燃性剤、アンチモン系化合物やホウ酸亜鉛・メタホウ酸バリウム・酸化ジルコニウム等の難燃助剤、潤滑性を改善するための高級脂肪酸や高級脂肪酸エステル・高級脂肪酸金属塩・フルオロカーボン系界面活性剤等の滑剤、熱膨張係数を調整するため、および/または機械的強度を向上するための酸化アルミニウムや酸化珪素・酸化チタン・酸化バリウム・酸化ストロンチウム・酸化ジルコニウム・酸化カルシウム・ゼオライト・窒化珪素・窒化アルミニウム・炭化珪素・チタン酸カリウム・チタン酸バリウム・チタン酸ストロンチウム・チタン酸カルシウム・ホウ酸アルミニウム・スズ酸バリウム・ジルコン酸バリウム・ジルコン酸ストロンチウム等の充填材を含有してもよい。
【0028】
また、上記の充填材等の粒子形状は、略球状・針状・フレーク状等があり、充填性の観点からは略球状が好ましい。さらに、粒子径は、通常0.1〜15μm程度であり、液晶ポリマー層1の厚みよりも小さい。
【0029】
さらに、液晶ポリマー層1は、被覆層2との密着性を高めるために、その表面をバフ研磨・ブラスト研磨・ブラシ研磨・プラズマ処理・コロナ処理・紫外線処理・薬品処理等の方法を用いて中心線表面粗さRaが0.05〜5μmの値となるように粗化しておくことが好ましい。中心線表面粗さRaは、半田リフローの際に液晶ポリマー層1と被覆層2との剥離を防止するという観点からは0.05μm以上であることが好ましく、表面に被覆層2を形成する際に空気のかみ込みを防止するという観点からは5μm以下であることが好ましい。
【0030】
次に、被覆層2は、後述する配線導体4を被着形成する際の接着剤の機能を有するとともに、絶縁フィルム3を用いて多層配線基板6を構成する際に、絶縁フィルム3同士を積層する際の接着剤の役目を果たす。このような被覆層2は、エポキシ樹脂およびこれよりも低弾性率の有機物から成り、層方向の引っ張り弾性率が0.2〜1.5GPaであることが好ましい。また、このことが重要である。
【0031】
本発明の絶縁フィルム3によれば、液晶ポリマー層1の上下面にエポキシ樹脂およびこれよりも低弾性率の有機物とから成る被覆層2を形成したことから、エポキシ樹脂分子が液晶ポリマー分子ほど剛直でなく、また、規則正しい配向性も示さず比較的分子が動きやすく、その結果、絶縁フィルム3を多層化した場合においても、絶縁フィルム3同士の密着性が良好となり、高温バイアス試験において絶縁フィルム3間で剥離して絶縁不良が発生してしまうということはない。また、絶縁フィルム3表面に配線導体4を配設した場合においても、エポキシ樹脂分子が配線導体4表面の微細な凹部に入り込み十分なアンカー効果を発揮することができ、絶縁フィルム3と配線導体4との密着性が良好となり、その結果、高温高湿下で両者間で剥離して配線導体4が断線してしまうということもない。さらに、表面に配線導体4を配設した絶縁フィルム3を複数積層して多層配線基板6を製作した場合においても、配線導体4の上下面が同一材料から成る被覆層2と接することから、100MHz以上の高周波信号を伝送する場合、インピーダンスマッチングを行なうことが容易であるとともに、高周波信号の伝播遅延時間が配線導体4の上下面で同じであるために信号に歪を生じて伝送損失が大きくなってしまうということもない。また、液晶ポリマー層1の層方向における熱膨張係数を−20〜20×10-6/℃、引張り弾性率を2GPa以上とし、被覆層2の層方向の引張り弾性率を0.2〜1.5GPaとしたことから、絶縁フィルム3が温度変化により熱膨張・熱収縮する際に、層方向の引張り弾性率が0.2〜1.5GPaと低弾性率である被覆層2が熱膨張係数が小さく高弾性率の液晶ポリマー層1に拘束され、被覆層2の熱膨張・熱収縮を小さなものとすることができ、その結果、急激な温度変化をともなう温度サイクル試験においても被覆層2にクラックが生じることが無い。
【0032】
このようなエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂・グリシジルエステル型エポキシ樹脂等やその誘導体あるいはこれらの混合物が用いられ、さらにアミン系化合物やイミダゾール系化合物・酸無水物系化合物等の硬化剤や硬化促進剤を添加混合してもよい。
【0033】
なお、被覆層2の引張り弾性率が0.2GPa未満であると絶縁フィルム3を多層化した場合に剛性が小さくなり、反りが発生してしまう傾向にある。また、1.5GPaを越えると、高温下で液晶ポリマー層1が被覆層2を拘束することが困難となる傾向があり、その結果、液晶ポリマー層1を引き伸ばして絶縁フィルム3の熱膨張を大きなものとしてしまい、電子部品7との接続部で断線を生じてしまう傾向にある。したがって、被覆層2は引張り弾性率を0.2〜1.5GPa、好適には0.7〜1.2GPaとすることが好ましい。
【0034】
また、被覆層2は、エポキシ樹脂よりも低弾性率の有機物を5〜60体積%含有することが好ましい。
【0035】
本発明の絶縁フィルム3によれば、被覆層2がエポキシ樹脂よりも低弾性率の有機物を5〜60体積%含有していることから、被覆層2の弾性率を容易に0.2〜1.5GPaの範囲にすることができる。なお、エポキシ樹脂よりも低弾性率の有機物の含有率が5体積%未満であると、被覆層2の引張り弾性率を低くする効果が現れなくなる傾向にあり、また、60体積%を超えると被覆層2の引張り弾性率が低くなりすぎて絶縁フィルム3を多層化して多層配線基板6を製作した場合に、多層配線基板6が柔らかくなって反ってしまい、その結果、配線導体4が断線してしまう傾向にある。したがって、被覆層2のエポキシ樹脂よりも低弾性率の有機物の含有率を5〜60体積%、最適には20〜40体積%とすることが好ましい。
【0036】
このようなエポキシ樹脂よりも低弾性率の有機物としては、弾性率が1GPa以下の樹脂やゴム状弾性体が用いられ、例えば、天然ゴムやポリブタジエン・ポリイソプレン・ポリイソブチレン・ネオプレン・ポリスルフィドゴム・チオコールゴム・アクリルゴム・ウレタンゴム・シリコーンゴム・エビクロロヒドリンゴム・スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBR)・水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEB・SEBC)・スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)・水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)・スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIR)・水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP)・スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)・水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)・エチレンプロピレンゴム(EPR)・エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)・ブタジエン−アクリロニトリル−スチレン−コアシェルゴム(ABS)・メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン−コアシェルゴム(MBS)・メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−スチレン−コアシェルゴム(MAS)・オクチルアクリレート−ブタジエン−スチレン−コアシェルゴム(MABS)・アルキルアクリレート−ブタジエン−アクリロニトリル−スチレンコアシェルゴム(AABS)・ブタジエン−スチレン−コアシェルゴム(SBR)およびメチルメタクリレート−ブチルアクリレートシロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプの粒子状弾性体、またはこれらを変性したゴム等が用いられる。
【0037】
なお、これらの低弾性率の有機物は無水マレイン酸やエポキシ等の極性基を有する変性剤により変性を行ってもよい。さらに、これらの低弾性率の有機物は1種のみを単独で用いても良く、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
また、本発明の絶縁フィルム3においては、低弾性率の有機物が20〜80体積%のスチレン系有機物を含有することが好ましい。本発明の絶縁フィルム3によれば、低弾性率の有機物が20〜80体積%のスチレン系有機物を含有することから、このスチレン系有機物が低誘電率・低誘電正接であり被覆層2の誘電率および誘電正接を小さくすることができ、その結果、100MHz以上の高周波においても伝送特性に優れた絶縁フィルム3とすることができる。
【0039】
このようなスチレン系有機物を含有する低弾性率の有機物としては、分子構造中にモノマー単位としてスチレンを有する有機物であり、特に、SBRやSEB・SEBC・SBS・SEBS・SIR・SEP・SISおよびSEPS、またはこれらを変性した低弾性率の有機物が用いられる。
【0040】
なお、スチレン系有機物の含有量が20体積%未満であると、低弾性率の有機物の誘電率・誘電正接が大きなものとなって100MHz以上の高周波領域における伝送特性が低下してしまう傾向があり、80体積%を超えると低弾性率の有機物の弾性率が大きくなるために被覆層2の引張り弾性率を所望の範囲とすることが困難となる傾向がある。したがって、スチレン系有機物の含有量は20〜80体積%が好ましい。
【0041】
さらに、絶縁フィルム3を積層して加圧する際に、被覆層2の流動性を抑制し、後述する貫通導体5の位置ずれや被覆層2の厚みばらつきを防止するという観点からは、被覆層2は充填材として10体積%以上の無機絶縁粉末を含有することが好ましい。また、液晶ポリマー層1との接着界面および配線導体4との接着界面での半田リフロー時の剥離を防止するという観点からは、充填材の含有量を70体積%以下とすることが好ましい。したがって、被覆層2に、10〜70体積%の充填材を含有させておくことが好ましい。
【0042】
なお、絶縁フィルム3の厚みは絶縁信頼性を確保するという観点からは10〜200μmであることが好ましく、また、被覆層2の厚みの合計は、配線導体4との接着性を良好にするという観点からは絶縁フィルム3の厚みの10%以上とすることが好ましい。さらに、高耐熱性・低吸湿性・高寸法安定性を確保するという観点からは、70%以下とすることが好ましい。したがって、被覆層2の厚みの合計は、絶縁フィルム3の厚みの10〜70%とすることが好ましい。
【0043】
このような絶縁フィルム3は、次の方法により製作される。
【0044】
まず、周知のインフレーション法でフィルムの引取方向と幅方向の延伸倍率を調整することにより、層方向における熱膨張率が−20〜20×10-6/℃であるとともに、引張り弾性率が2GPa以上の液晶ポリマー層1が形成される。そして、この上下表面に、例えば粒径が0.1〜15μmの酸化珪素等の無機絶縁粉末にエポキシ樹脂あるいはシアネート樹脂とこれより低弾性率の有機物・溶剤・可塑剤・分散剤等を添加して得たペーストを、従来周知のドクタブレード法等のシート成型法を採用して被覆層2を形成した後、あるいは上記のペースト中に液晶ポリマー層1を浸漬し垂直に引き上げることによって液晶ポリマー層1の表面に被覆層2を形成した後、これを60〜100℃の温度で5分〜3時間加熱・乾燥することにより製作される。
【0045】
次に、本発明の多層配線基板6は、上下面の少なくとも一方の面に金属箔から成る配線導体4が配設された絶縁フィルム3を複数積層して成るとともに、この絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4間を絶縁フィルム3に形成された貫通導体5を介して電気的に接続することにより形成されている。
【0046】
配線導体4は、その厚みが2〜30μmで銅・金等の良導電性の金属箔から成り、多層配線基板6に搭載される電子部品7を外部電気回路(図示せず)に電気的に接続する機能を有する。
【0047】
このような配線導体4は、絶縁フィルム3を複数積層する際、配線導体4の周囲にボイドが発生するのを防止するという観点から、被覆層2に少なくとも配線導体4の表面と被覆層2の表面とが平坦となるように埋設されていることが好ましい。また、配線導体4を被覆層2に埋設する際に、被覆層2の乾燥状態での気孔率を3〜40体積%としておくと、配線導体4周囲の被覆層2の樹脂盛り上がりを生じさせず平坦化することができるとともに配線導体4と被覆層2の間に挟まれる空気の排出を容易にして気泡の巻き込みを防止することができる。なお、乾燥状態での気孔率が40体積%を超えると、複数積層した絶縁フィルム3を加圧・加熱硬化した後に被覆層2内に気孔が残存し、この気孔が空気中の水分を吸着して絶縁性が低下してしまうおそれがあるので、被覆層2の乾燥状態での気孔率を3〜40体積%の範囲としておくことが好ましい。
【0048】
このような被覆層2の乾燥状態での気孔率は、被覆層2を液晶ポリマー層1の表面上に塗布し乾燥する際に、乾燥温度や昇温速度等の乾燥条件を適宜調整することにより所望の値とすることができる。
【0049】
さらに、絶縁フィルム3に配設された配線導体4の幅方向の断面形状を、絶縁フィルム3側の底辺の長さが対向する底辺の長さよりも短い台形状とするとともに、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95〜150°とすることが好ましい。絶縁フィルム3に配設された配線導体4の幅方向の断面形状を、絶縁フィルム3側の底辺の長さが対向する底辺の長さよりも短い台形状とするとともに、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95〜150°とすることにより、配線導体4を被覆層2に埋設する際に、配線導体4を被覆層2に容易に埋設して配線導体4を埋設した後の被覆層2表面をほぼ平坦にすることができ、積層の際に空気をかみ込んで絶縁性を低下させることのない多層配線基板6とすることができる。なお、気泡をかみ込むことなく埋設するという観点からは、絶縁フィルム3側の底辺と側辺との成す角度を95°以上とすることが好ましく、配線導体2を微細化するという観点からは150°以下とすることが好ましい。
【0050】
また、絶縁フィルム3の層間において、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1との間に位置する被覆層2の厚みx(μm)が、上下の液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μm(ただし、8μm≦T≦70μm、1μm≦t≦32μm)であることが好ましい。
【0051】
液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1間の被覆層2の厚みx(μm)を3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μmとすることにより、配線導体4の長さの短い底辺と液晶ポリマー層1間の距離および配線導体4の長さの長い底辺と隣接する液晶ポリマー層1間の距離の差をt(μm)未満と小さくすることができ、被覆層2の厚みが大きく異なることから生じる多層配線基板6の反りを防止することができる。したがって、配線導体4の台形状の上底側表面と液晶ポリマー層1の間に位置する、被覆層2の厚みx(μm)を、液晶ポリマー層1間の距離をT(μm)、配線導体4の厚みをt(μm)としたときに、3μm≦0.5T−t≦x≦0.5T≦35μmの範囲とすることが好ましい。
【0052】
このような配線導体4は、絶縁フィルム3となる前駆体シートに、公知のフォトレジストを用いたサブトラクティブ法によりパターン形成した、例えば銅から成る金属箔を転写法等により被着形成することにより形成される。先ず、支持体と成るフィルム上に銅から成る金属箔を接着剤を介して接着した金属箔転写用フィルムを用意し、次に、フィルム上の金属箔を公知のフォトレジストを用いたサブトラクティブ法を使用してパターン状にエッチングする。この時、パターンの表面側の側面は、フィルム側の側面に較べてエッチング液に接する時間が長いためにエッチングされやすく、パターンの幅方向の断面形状を台形状とすることができる。なお、台形の形状は、エッチング液の濃度やエッチング時間を調整することにより短い底辺と側辺とのなす角度を95〜150°の台形状とすることができる。そして、この金属箔転写用フィルムを絶縁フィルム3と成る前駆体シートに積層し、温度が100〜200℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で10分〜1時間ホットプレスした後、支持体と成るフィルムを剥離除去して金属箔を絶縁フィルム3と成る前駆体シート表面に転写させることにより、台形状の上底側が被覆層2に埋設された配線導体4を形成することができる。
【0053】
なお、配線導体4の長さの短い底辺と対向する液晶ポリマー層1間の被覆層2の厚みx(μm)は、金属箔転写時のホットプレスの圧力を調整することにより所望の範囲とすることができる。また、配線導体4は被覆層2との密着性を高めるためにその表面にバフ研磨・ブラスト研磨・ブラシ研磨・薬品処理等の処理で表面を粗化しておくことが好ましい。
【0054】
また、絶縁フィルム3には、直径が20〜150μm程度の貫通導体5が形成されている。貫通導体5は、絶縁フィルム3を挟んで上下に位置する配線導体4を電気的に接続する機能を有し、絶縁フィルム3にレーザにより穿設加工を施すことにより貫通孔を形成した後、この貫通孔に銅・銀・金・半田等から成る導電性ペーストを従来周知のスクリーン印刷法により埋め込むことにより形成される。
【0055】
本発明の多層配線基板6によれば、絶縁フィルム3を液晶ポリマー層1の上下面にエポキシ樹脂から成る被覆層2を有したものとしたことから、液晶ポリマー層1が高耐熱性・高弾性率・高寸法安定性・低吸湿性であり、ガラスクロスのような強化材を用いなくとも絶縁フィルム3を構成することが可能となり、その結果、レーザによる穿設加工が容易となり微細で均一な貫通孔を形成できる。
【0056】
このような多層配線基板6は、上述したような方法で製作した絶縁フィルム3と成る前駆体シートの所望の位置に貫通導体5を形成した後、パターン形成した例えば銅の金属箔を、温度が100〜200℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で10分〜1時間ホットプレスして転写し、これらを積層して最終的に温度が150〜300℃で圧力が0.5〜10MPaの条件で30分〜24時間ホットプレスして完全硬化させることにより製作される。
【0057】
かくして本発明の多層配線基板6によれば、上記構成の多層配線基板6の上面に形成した配線導体4の一部から成る接続パッド8に半田等の導体バンプ9を介して半導体素子等の電子部品7を電気的に接続するとともに、多層配線基板6の下面に形成した配線導体4の一部から成る接続パッド8に半田等の導体バンプ9を形成することにより配線密度が高く絶縁性に優れた混成集積回路とすることができる。
【0058】
なお、本発明の多層配線基板6は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能であり、例えば、上述の実施例では4層の絶縁フィルム3を積層することによって多層配線基板6を製作したが、2層や3層、あるいは5層以上の絶縁フィルム3を積層して多層配線基板6を製作してもよい。また、本発明の多層配線基板6の上下表面に、1層や2層、あるいは3層以上の有機樹脂を主成分とする絶縁層から成るビルドアップ層やソルダーレジスト層10・アンダーフィル材11を形成してもよい。
【0059】
【発明の効果】
本発明の絶縁フィルムによれば、液晶ポリマー層の層方向における熱膨張係数を−20〜20×10-6/℃、引張り弾性率を2GPa以上とし、被覆層の層方向の引張り弾性率を0.2〜1.5GPaとしたことから、絶縁フィルムが温度変化により熱膨張・熱収縮する際に、層方向の引張り弾性率が0.2〜1.5GPaと低弾性率である被覆層が、熱膨張係数が小さく高弾性率の液晶ポリマー層に拘束され、熱膨張・熱収縮の小さなものとなり、その結果、急激な温度変化をともなう温度サイクル試験においても被覆層にクラックが発生することのない絶縁フィルムとすることができる。
【0060】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、被覆層がエポキシ樹脂よりも低弾性率の有機物を5〜60体積%含有することから、被覆層の弾性率を容易に0.2〜1.5GPaの範囲にすることができる。
【0061】
さらに、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、低弾性率の有機物が20〜80体積%のスチレン系有機物を含有することから、このスチレン系有機物が低誘電率・低誘電正接であり被覆層の誘電率および誘電正接を小さくすることができ、その結果、100MHz以上の高周波においても伝送特性に優れた絶縁フィルムとすることができる。
【0062】
また、本発明の絶縁フィルムによれば、上記構成において、被覆層の厚みの合計を絶縁層の厚みの10〜70%としたことから、配線導体との密着性が良好で高耐熱性・低吸湿性・高寸法安定性の絶縁フィルムとすることができる。
【0063】
さらに、本発明の多層配線基板によれば、多層配線基板を上記の絶縁フィルムを用いて形成したことから、絶縁信頼性・導通信頼性・高周波伝送特性に優れた多層配線基板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の絶縁フィルムの実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の多層配線基板に半導体素子を搭載して成る混成集積回路の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図3】図2に示す多層配線基板の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
1・・・・・液晶ポリマー層
2・・・・・被覆層
3・・・・・絶縁フィルム
4・・・・・配線導体
5・・・・・貫通導体
6・・・・・多層配線基板
Claims (5)
- 液晶ポリマー層と、該液晶ポリマー層の上下に配置された有機材料から成る一対の被覆層と、該一対の被覆層の少なくとも一方の被覆層の表面に、該表面と平坦面を構成するように埋設された金属箔から成る配線導体と、を有する複数の絶縁フィルムを積層することにより形成された多層配線基板であって、
前記絶縁フィルムを挟んで上下に位置する前記配線導体間を前記絶縁フィルムに形成された貫通導体を介して電気的に接続し、
前記被覆層は、エポキシ樹脂およびこれよりも低弾性率の有機物から成り、
前記液晶ポリマー層は、層方向における熱膨張係数が−20〜20ppm/℃であるとともに、引張り弾性率が2GPa以上であり、
前記被覆層は、層方向の引張り弾性率が0.2〜1.5GPaであり、
前記液晶ポリマー層は、強化材を含まないことを特徴とする多層配線基板。 - 前記貫通導体は、隣接する前記絶縁層それぞれに形成されるとともに上下方向に互いに重なる第1貫通導体及び第2貫通導体を有し、
前記配線導体は、前記第1貫通導体と前記第2貫通導体との間に介され、幅方向への長さが第1及び第2貫通導体よりも大きく、隣接する前記被覆層の上下面に当接する第1配線導体を有することを特徴とする請求項1記載の多層配線基板。 - 前記被覆層は、前記低弾性率の有機物を5〜60体積%含有することを特徴とする請求項1記載の多層配線基板。
- 前記低弾性率の有機物は、20〜80体積%のスチレン系有機物を含有することを特徴とする請求項1記載の多層配線基板。
- 請求項1に記載の多層配線基板と、
前記多層配線基板に搭載された半導体素子と、
を備えたことを特徴とする混成集積回路。
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