JP4506380B2 - 高強度鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、引張強度(TS)が440MPa以上の高強度鋼板であって、さらに自動車用鋼板等の使途に有用な、高ランクフォード値(平均r値≧1.2)を有し、しかも、r値の面内異方性(Δr)の絶対値が小さい高強度鋼板の有利な製造方法を提案しようとするものである。
近年、地球環境保全の観点から、COの排出量を規制するため、自動車の燃費改善が要求されている。加えて、衝突時に乗員の安全を確保するため、自動車車体の衝突特性を中心にした安全性向上も要求されている。このように、自動車車体の軽量化と強化の双方が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満たすには、剛性に問題とならない範囲で部品素材を高強度化し、板厚を減ずることによる軽量化が効果的であると言われており、最近では高強度(高張力ともいう。)鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。
軽量化効果は、使用する鋼板が高強度であるほど大きくなるため、自動車業界では、例えば内板および外板用のパネル用材料として引張強度(TS)440MPa以上の鋼板を使用する動向にある。
一方、鋼板を素材とする自動車部品の多くは、プレス加工によって成形されるため、自動車用鋼板は優れたプレス成形性を有していることが必要とされる。しかしながら、高強度鋼板は、通常の軟鋼板に比べて成形性、特に深絞り性が大きく劣化するため、自動車の軽量化を進める上での課題として、TS≧440MPa、より好ましくはTS≧500MPa、さらに好ましくはTS≧590MPaで、しかも良好な深絞り成形性を兼ね備える鋼板の要求が高まっており、深絞り性の評価指標であるランクフォード値(以下「r値」という。)で、平均r値≧1.2の高強度鋼板が要求されている。また、r値の面内異方性の絶対値が小さくなる、例えば0.3以下になると、平均r値レベルが同じでも実プレスにおける成形性がより良好となること判ってきたため、r値の面内異方性が小さいことも要求されている。
高r値を有しながら高強度化する手段としては、極低炭素鋼板中に固溶する炭素や窒素を固着する量のTiとNbを添加し、IF(Interstitial atom free)化した鋼をベースとして、これにSi、Mn、Pなどの固溶強化元素を添加する手法があり、例えば特許文献1に開示されている方法がある。
特開昭56-139654号公報
特許文献1は、C:0.002〜0.015%、Nb:C%×3〜C%×8+0.020%、Si:1.2%以下、Mn:0.04〜0.8%、P:0.03〜0.10%の組成を有する、引張強度35〜45kg/mm級(340〜440MPa級)の非時効性を有する成形性の優れた高張力冷延鋼板に関する技術である。
しかしながら、このような極低炭素鋼を素材として固溶強化元素を添加する技術では、引張強さ(引張強さともいう。)が440MPa以上あるいはさらに500MPa以上や590MPa以上といった高強度の鋼板を製造しようとすると、合金元素添加量が多くなり、表面外観上の問題や、めっき性の劣化、2次加工脆性の顕在化などの問題が生じてくることがわかってきた。また、多量に固溶強化成分を添加すると、r値が劣化するので、高強度化を図るほどr値の水準は低下してしまう問題があった。
さらに、C量を上記引用文献1に具体的に開示されているような0.010%未満という極低炭素域まで低減するためには製鋼工程で真空脱ガスを行なわなければならず、すなわち、これは製造過程でCOを多量に発生することになり、地球環境保全の観点からも好ましい技術とは言い難い。
鋼板の高強度化の方法として、前述のような固溶強化法以外に組織強化法がある。例えば、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相からなる複合組織鋼板であるDP(Dual-Phase)鋼板がある。DP鋼板は、一般的に延性については概ね良好であり、優れた強度−延性バランス(TS×El)を有し、そして降伏比が低いという特徴、すなわち、引張強度の割に降伏応力が低く、プレス成形時の形状凍結性に優れるという特徴があるが、r値が低く深絞り性に劣る。これは、マルテンサイト形成に必須である固溶Cが、高r値化に有効な{111}再結晶集合組織の形成を阻害するからと言われている。
このような複合組織鋼板のr値を改善する試みとして、例えば、特許文献2あるいは特許文献3の技術がある。
特許文献2には、冷間圧延後、再結晶温度〜Ac変態点の温度で箱焼鈍を行い、その後、複合組織とするため700〜800℃に加熱した後、焼入焼戻しを行なう方法が開示されている。しかしながら、この方法では、連続焼鈍時に焼入焼戻しを行なうため、製造コストが問題となる。また、箱焼鈍は、連続焼鈍に比べて処理時間や効率の面で劣る。
特公昭55-10650号公報 特開昭55-100934号公報
特許文献3の技術は、高r値を得るために冷間圧延後、まず箱焼鈍を行い、この時の温度をフェライト(α)−オーステナイト(γ)の2相域とし、その後、連続焼鈍を行うものである。この技術では、箱焼鈍の均熱時にα相からγ相にMnを濃化させる。このMn濃化相は、その後の連続焼鈍時に優先的にγ相となり、ガスジェット程度の冷却速度でも混合組織が得られるものである。しかしながら、この方法では、Mn濃化のため比較的高温で長時間の箱焼鈍が必要であり、そのため、鋼板間の密着の多発、テンパーカラーの発生および炉体インナーカバーの寿命低下など製造工程上多くの問題がある。
また、特許文献4には、C:0.003〜0.03%、Si:0.2〜1%、Mn:0.3〜1.5%、Ti:0.02〜0.2%(ただし、(有効Ti)/(C+N)の原子濃度比を0.4〜0.8)含有する鋼を、熱間圧延し、冷間圧延した後、所定温度に加熱後急冷する連続焼鈍を施すことを特徴とする深絞り性及び形状凍結性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法が開示されており、具体的には、質量%で、0.012%C−0.32%Si−0.53%Mn−0.03%P−0.051%Tiの組成の鋼を冷間圧延後α−γの2相域である870℃に加熱後、100℃/sの平均冷却速度で冷却することにより、r値=1.61、TS=482MPaの複合組織型冷延鋼板が製造可能である旨が示されている。しかし、100℃/sという高い冷却速度を得るには水焼入設備が必要となる他、水焼入した鋼板は表面処理性の問題が顕在化するため、製造設備上および材質上の問題がある。
特公平1-35900号公報
さらに、特許文献5には、C含有量との関係でV含有量の適正化を図ることで複合組織鋼板のr値を改善する技術が開示されている。これは、再結晶焼鈍前には鋼中のCをV系炭化物として析出させて固溶C量を極力低減させて高r値を図り、引き続きα−γの2相域で加熱することにより、V系炭化物を溶解させてγ中にCを濃化させてその後の冷却過程でマルテンサイト相を生成させるものである。しかしながら、Vの添加は、高価であるためコストの上昇を招くこと、さらに熱延板中に析出したVCは、冷間圧延時の変形抵抗を高くするため、実施例に開示されているような圧下率70%での冷間圧延は、ロールへの負荷を大きくしてトラブル発生の危険性を増大させるとともに、生産性の低下が懸念されるなどの製造上の問題がある。また、微細析出物の影響で再結晶挙動が変化し、r値の面内異方性が大きくなるという問題も懸念される。
特開2002-226941号公報
また、深絞り性に優れた高強度鋼板およびその製造方法の技術として、特許文献6の技術がある。この技術は、所定のC量を含有し、平均r値が1.3以上、かつ組織中にベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトのうち1種類以上を合計で3%以上有する高強度鋼板を得るものであり、その製造方法は、冷間圧延の圧下率を30〜95%とし、次いでAlとNのクラスターや析出物を形成することによって集合組織を発達させてr値を高めるための焼鈍と、引き続き組織中にベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトのうち1種類以上を合計で3%以上有するようにするための熱処理を行うことを特徴とするものである。この方法では、冷間圧延後、良好なr値を得るための焼鈍と、組織を作り込むための熱処理をそれぞれ必要としており、また、焼鈍工程では、その保持時間が1時間以上という長時間保持を必要としており、工程的(時間的)に生産性が悪いという問題がある。さらに、得られる組織の第2相分率が比較的高いため、優れた強度延性バランスを安定的に確保することは難しい。
特開2003-64444号公報
深絞り性に優れる(軟)鋼板を高強度化するにあたり、従来検討されてきた固溶強化による高強度化の方法には、多量の或いは過剰な合金成分の添加が必要であり、これは、コスト的にも工程的にも、またr値の向上そのものにも課題を抱えるものであった。
また、組織強化を利用した方法では、2回焼鈍(加熱)法や高速冷却設備を必要とするため、製造工程上の問題があり、さらに、VCを活用した方法も開示されているが、高価なVの添加はコストの上昇を招く他、VCの析出は圧延時の変形抵抗を高くするため、これもまた安定した製造を困難にするものであった。
この発明は、このような従来技術の問題点を有利に解決した、平均r値が大きく、かつr値の面内異方性が小さい深絞り性が良好な高強度鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
この発明は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を進めたところ、C含有量範囲を0.010〜0.050mass%とし、このC含有量に応じたNb量を添加し、さらに冷間圧延を行った後、連続焼鈍する際に、含有成分量に応じた最適な範囲で焼鈍を行うことで、高r値でかつr値の面内異方性を小さくできることを見出した。
すなわち、焼鈍温度の下限は、再結晶を行わせるため再結晶温度を変化させるNb量に応じて、T1=800+625Nbとする必要がある。
また、焼鈍温度の上限には変態温度の制約が必要であり、焼鈍中の二相組織を制御しなければならない。このため、焼鈍温度の上限は変態点を変化させるMn量などに合わせた温度に適正化する必要があることを見出した。この場合、加熱時のγ分率の変化は複雑であること、変態点を正確に測定することは困難であることから、成分を変化させた鋼で焼鈍温度を変化させて平均r値およびr値の面内異方性を評価して、平均r値≧1.2、r値の面内異方性の絶対値≦0.3を達成できる焼鈍温度の上限を、含有する成分の関数として求めた。
そして、このように焼鈍温度の下限および上限を定めて含有成分量に応じた最適な範囲で焼鈍を行うことで高r値でかつr値の面内異方性を小さくできることを見出した。
すなわち、この発明の要旨は以下の通りである。
(I)質量%で、
C:0.010〜0.050%
Si:1.0%以下
Mn:1.0〜3.0%
P:0.005〜0.1%
S:0.01%以下
Al:0.005〜0.5%
N:0.01%以下および
Nb:0.01〜0.12%
を含有し、かつ、Nb含有量とC含有量が、
(Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7
(式中のNb,Cは各々の元素の含有量(質量%))
なる関係を満たし、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延にて仕上圧延出側温度:800℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:400〜720℃で巻取り、熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗後冷間圧延を施し、冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に焼鈍温度を下記(1)式および(2)式に示すT1℃以上T2℃以下として焼鈍し、次いで焼鈍温度から500℃までの温度域での平均冷却速度:5℃/s以上として冷却する冷延板焼鈍工程とを有することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。

T1(℃)=800+625Nb ・・・・(1)
T2(℃)=950−45(Mn−Si−5P) ・・・・(2)
ここで、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。
(II)鋼スラブが、上記組成に加えて、さらにMo:0.02質量%以上、Cr:0.05質量%以上、Cu:0.05質量%以上およびNi:0.05質量%以上の中から選択される1種または2種以上を合計で0.5質量%以下含有するとともに、前記焼鈍温度の上限を、前記(2)式に代えて下記(3)式に示すT2℃として焼鈍することを特徴とする上記(I)に記載の高強度鋼板の製造方法。

T2(℃)=950−45(Mn−Si−5P−0.8Mo+Cu+Ni) ・・・・(3)
ここで、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。
(III)鋼スラブが、上記組成に加えて、さらにTi:0.1質量%以下を含有し、かつ、鋼中のTi、SおよびNの含有量が、
(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2.0(式中のTi、S、Nは各々の元素の含有量(質量%))
なる関係を満足することを特徴とする上記(I)または(II)に記載の高強度鋼板の製造方法。
(IV)上記冷延板焼鈍工程の後の鋼板表面にめっき層を形成するめっき処理工程をさらに有することを特徴とする上記(I)〜(III)のいずれか1項に記載の高強度鋼板の製造方法。
この発明は、C含有量が0.010〜0.050質量%の範囲において、従来の極低炭素IF鋼のように深絞り性に悪影響を及ぼす固溶Cの低減を徹底せずに、マルテンサイト形成に必要な程度の固溶Cを残存させた状態下にもかかわらず、{111}再結晶集合組織を発達させて平均r値≧1.2を確保して良好な深絞り性を有するとともに、鋼組織をフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相とを有する複合組織とすることで、TS440MPa以上、より好ましくはTS500MPa以上の高強度化を達成したものである。さらに、この発明では、r値の面内異方性が小さくできるため、特に優れたプレス成形性が確保できる。
この理由については、必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
高r値化、すなわち{111}再結晶集合組織を発達させるためには、従来軟鋼板においては、冷間圧延および再結晶前の固溶Cを極力低減することや熱延板組織を微細化することなどが有効な手段とされてきた。一方、前述のようなDP鋼板では、マルテンサイト形成に必要な固溶Cを必要とするため、母相の再結晶集合組織が発達せずr値が低かった。しかしながら、本発明では、母相であるフェライト相の{111}再結晶集合組織発達と、マルテンサイト相の形成の双方を可能にする絶妙の好成分範囲が存在することを新たに見出した。すなわち、従来のDP鋼板(低炭素鋼レベル)よりもC量を低減しつつ、極低炭素鋼よりはC量が多いという、0.010〜0.050質量%のC含有量とし、加えて、このC含有量に合わせて適切なNb添加を行なうことで、{111}再結晶集合組織発達と、マルテンサイト相の形成の双方を同時に達成できることを新たに見出した。
従来から知られているように、Nbは再結晶遅延効果があるため、熱間圧延時の仕上温度を適切に制御することで熱延板組織を微細化することが可能であり、さらに鋼中においてNbは高い炭化物形成能を有している。
本発明では、特に、熱延仕上温度を変態点直上の適正な範囲にして熱延板組織を微細化する以外に、熱間圧延後のコイル巻取温度も適正に設定することで、熱延板中にNbCを析出させ、冷間圧延前および再結晶前の固溶Cの低減を図っている。
ここで、Nb含有量とC含有量が、(Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7を満たすように設定することで、敢えてNbCとして析出しないCを存在させている。
従来このようなCの存在が{111}再結晶集合組織の発達を阻害するとされてきたが、本発明では、全C含有量をNbCとして析出固定せず、マルテンサイト相の形成に必要な固溶Cが存在しながらも高r値化を達成できる。
この理由は定かではないが、固溶Cの存在による{111}再結晶集合組織形成に対する負の要因よりも、熱延板組織の微細化に加え、マトリックス中に微細なNbCを析出させることで冷間圧延時に粒界近傍に歪を蓄積させ粒界からの{111}再結晶粒の発生を促進するという正の要因の方が大きいためと考えられる。特にマトリックス中にNbCを析出させることの効果は、従来の極低炭素鋼程度のC含有量では有効ではなく、本発明のC含有量の適正範囲(0.010〜0.050質量%)において初めてその効果を発揮するものと推測され、このC含有量の適正範囲を見出したことが本発明の技術思想の基盤となっている。
そして、NbC以外のC、その存在形態はおそらくセメンタイト系炭化物或いは固溶Cであると推測されるが、これらNbCとして固定されなかったCの存在により、焼鈍工程における冷却時にマルテンサイト相を形成可能とし高強度化にも成功したのである。
この発明の製造方法によれば、従来技術に対し、製鋼工程においては極低炭素鋼とするための脱ガス工程が不要であること、また固溶強化を利用するための過剰な合金元素の添加も不要でありコスト的にも有利である。さらに、合金コストおよび圧延荷重を高めるVのような特別な元素の添加も必要ない。
以下に本発明を詳細に説明する。
なお、元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
まず、本発明に用いる鋼スラブの成分組成を限定した理由について説明する。
C:0.010〜0.050%
Cは、後述のNbとともに本発明における重要な元素である。Cは、高強度化に有効であり、フェライト相を主相としマルテンサイト相を含む第2相を有する複合組織の形成を促進するので、本発明では複合組織形成の観点からCを0.010%以上含有する必要があり、好ましくは0.015%以上とする。一方、0.050%を超えるCの含有は良好なr値が得られなくなることから、C含有量の上限を0.050%とし、好ましくは0.030%以下とする。
Si: 1.0%以下
Siは、フェライト変態を促進させ、未変態オーステナイト中のC含有量を上昇させてフェライト相とマルテンサイト相の複合組織を形成させやすくする他、固溶強化の効果があるが、Siを1.0%を超えて含有すると、熱間圧延時に赤スケールと称される表面欠陥が発生するため、鋼板とした時の表面外観を悪くする。また、溶融亜鉛めっきを施す場合には、めっきの濡れ性を悪くしてめっきむらの発生を招き、めっき品質が劣化するので、Si含有量は1.0%以下とする必要があり、好ましくは0.7%以下とする。なお、Si含有量の下限値は、上記効果を得るため、0.01%とすることが好ましく、より好ましくは0.05%とする。
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、高強度化に有効であるとともに、マルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を低くする作用があり、焼鈍後の冷却時にマルテンサイト相の形成を促すため、要求される強度レベルおよび焼鈍後の冷却速度に応じて含有するのが好ましく、また、Mnは、Sによる熱間割れを防止するのに有効な元素でもある。このような観点から、Mnは1.0%以上含有する必要があり、好ましくは1.2%以上とする。一方、3.0%を超える過度のMnを含有することは、r値および溶接性を劣化させるので、Mn含有量の上限は3.0%とする。
P:0.005〜0.1%
Pは、固溶強化の効果がある元素である。しかしながら、P含有量が0.005%未満では、その効果が現れないだけでなく、製鋼工程において脱りんコストの上昇を招く。したがって、Pは0.005%以上含有するものとし、好ましくは0.01%以上含有する。一方、0.1%を超える過剰なPの含有は、Pが粒界に偏析し、耐二次加工脆性および溶接性を劣化させる。また、溶融亜鉛めっき鋼板とする際には、溶融亜鉛めっき後の合金化処理時に、めっき層と鋼板の界面における鋼板からめっき層へのFeの拡散を抑制し、合金化処理性を劣化させる。そのため、高温での合金化処理が必要となり、得られるめっき層は、パウダリング、チッピング等のめっき剥離が生じやすいものとなる。従って、P含有量の上限は0.1%とした。
S:0.01%以下
Sは、不純物であり、熱間割れの原因になる他、鋼中で介在物として存在し鋼板の諸特性を劣化させるので、できるだけ低減する必要がある。具体的には、S含有量は、0.01%までは許容できるため、0.01%以下とする。
Al:0.005〜0.5%
Alは、鋼の脱酸元素として有用である他、不純物として含有している固溶Nを固定して耐常温時効性を向上させる作用があり、かかる作用を発揮させるためには、Al含有量は0.005%以上とする必要がある。一方、0.5%を超えるAlの含有は、高合金コストを招き、さらに表面欠陥を誘発するので、Al含有量の上限を0.5%とする。より好ましくは0.1%以下である。
N:0.01%以下
Nは、耐常温時効性を劣化させる元素であり、できるだけ低減することが好ましい元素である。N含有量が0.01%を超えると、Nによる耐常温時効性の劣化を防止するために、多量のAlやTi添加が必要となることから、N含有量の上限を0.01%とする。
Nb:0.01〜0.12%、かつ(Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7
Nbは、本発明において最も重要な元素であり、熱延板組織の微細化および熱延板中にNbCとしてCを析出固定させる作用を有し、高r値化に寄与する元素である。このような観点からNbは0.01%以上含有する必要があり、好ましくは0.03%以上含有させる。一方、0.12%を超える過剰のNb含有は、面内異方性の制御が困難になり、r値の面内異方性が大きくなる傾向になるため、Nb含有量の上限を0.12%とする。
また、Nb含有の効果を奏するには、特にNb含有量(質量%)とC含有量(質量%)を、(Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7の関係式を満足させる範囲とすることが必要である。なお、ここで式中の元素記号(Nb、C)は、各々の元素の含有量(質量%)を示している。また、(Nb/93)/(C/12)はNbとCの原子濃度比を表している。(Nb/93)/(C/12)が0.2未満では、固溶Cの存在量が多く、高r値化に有効な{111}再結晶集合組織の形成を阻害することになる。また、(Nb/93)/(C/12)が0.7を超えると、マルテンサイト相を形成するのに必要なC量を鋼中に存在させることを妨げるので、最終的にマルテンサイト相を含む第2相を有する組織が得られない。したがって、Nb含有量を0.01〜0.12%とし、さらにNb含有量とC含有量を、(Nb /93)/(C/12)=0.2〜0.7を満足する範囲とする。なお、より好ましくは(Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.5を満足する範囲とする。
以上が本発明の高強度鋼板の基本組成である。
なお、本発明では、上記した組成に加えてさらに下記に示すMo、Cr、CuおよびNiの中から選択される1種または2種以上、および/またはTiを、必要に応じて添加してもよい。
Mo:0.02%以上、Cr:0.05%以上、Cu:0.05%以上およびNi:0.05%以上の中から選択される1種または2種以上を合計で0.5質量%以下
Mo、Cr、CuおよびNiは、Mnと同様、マルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を遅くする作用をもち、焼鈍後の冷却時にマルテンサイト相の形成を促す元素であり、強度レベル向上に効果がある。Mo、Cr、CuおよびNiは、鋼中に不可避的不純物としてMo:0.02%未満、Cr:0.05%未満、Cu:0.05%未満およびNi:0.05%未満の範囲で含有する場合があるが、上記効果を得るためには、Moは0.02%以上、Cr:0.05%以上、Cu:0.05%以上およびNi:0.05%以上の中から選択される1種または2種以上を合計で0.5質量%以下含有させることが好ましい。しかしながら、これらの成分の1種または2種以上の元素の合計で0.5%を超える過剰な添加は、その効果が飽和するだけでなく、高価な成分によるコストの上昇を招くことから、Mo、Cr、CuおよびNiの1種または2種以上の元素の合計含有量の上限は0.5%とすることが好ましい。なお、Mo、Cr、CuおよびNiの含有量の下限値は、より好適には、それぞれ0.05%、0.1%、0.1%および0.1%とし、Mo、Cr、CuおよびNiの各含有量の上限値は、いずれも0.5%とすることが好ましい。
Ti:0.1%以下、かつ鋼中のTiとSとNの含有量が(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2.0
Tiは、Alと同等或いはAl以上に固溶Nの析出固定に効果がある元素であり、この効果を得るためには0.005%以上含有することが好ましい。しかしながら、0.1%を超える過剰の添加は、コストの上昇を招くばかりか、TiCの形成によりマルテンサイト相の形成に必要な固溶Cを鋼中に残すことを妨げる。したがって、Ti含有量は、0.1%以下とすることが好ましい。
また、Tiは鋼中でSおよびNと優先的に結合し、次いでCと結合する。鋼中での介在物の形成等によるTiの歩留まり低下を考慮すると、(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}が2.0を超えるTi添加量では、S,Nを固定するというTi添加の効果は飽和し、かえってTiCの形成を促進して鋼中に固溶Cを残すことを妨げるという弊害が大きくなる。したがって、Ti含有量は鋼中で優先的に結合するSおよびNの含有量との関係で、(Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2.0を満足することが好ましい。なお、ここで該関係式中のTi、S、Nは各々の元素の含有量(質量%)である。
また、本発明では、上記した成分以外の残部は実質的に鉄および不可避的不純物の組成とすることが好ましい。不可避的不純物としては、例えば、前述したように、Mo:0.02%未満、Cr:0.05%未満、Cu:0.05%未満およびNi:0.05%未満の他、Ti:0.005%未満等が挙げられる。
なお、通常の鋼組成範囲内であれば、B、Ca、REM等を含有しても何ら問題はない。例えば、Bは、鋼の焼入性を向上する作用をもつ元素であり、必要に応じて含有できる。しかし、その含有量が0.003%を超えるとその効果が飽和するため、0.003%以下とすることが好ましい。
また、CaおよびREMは、硫化物系介在物の形態を制御する作用をもち、これにより鋼板の諸特性の劣化を防止する。このような効果は、CaおよびREMのうちから選ばれた1種または2種の含有量が合計で0.01%を超えると飽和する傾向があるので、これ以下とすることが好ましい。
なお、その他の不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。
本発明方法によって製造した高強度鋼板は、上記成分組成および鋼組織を満足するとともに、平均r値が1.2以上を満足するものである。
ここで、「平均r値」とは、JIS Z 2254で求められる平均塑性ひずみ比を意味し、以下の式から算出される値である。
平均r値=(r0+2r45+r90)/4
なお、r0、r45およびr90は、試験片を板面の圧延方向に対し、それぞれ0°、45°および90°方向に採取し測定した塑性ひずみ比である。
また、本発明の方法によって製造した高強度鋼板は、上記成分、鋼ミクロ組織および特性を満足すると共に、集合組織として、鋼板1/4板厚位置におけるX線回折により求めた、板面に平行な(222)面、(200)面、(110)面および(310)面の各積分強度比P(222)、P(200)、P(110)、P(310)が、P(222)/{P(200)+P(110)+P(310)}≧1.5を満足することが好ましく、より好ましくはP(222)/{P(200)+P(110)+P(310)}≧2.0とする。
図1は、作製した種々の本発明鋼板と比較鋼板について、r値とP(222)/{P(200)+P(110)+P(310)}の値を算出し、これら算出した値に基づいてプロットしたときのものである。
従来、板面が{111}面に平行な集合組織をもつ場合はr値が高いが、{110}面や{100}面に平行な集合組織ではr値が低いことが知られている.
本発明鋼板におけるr値と集合組織の相関について鋭意研究を進めたところ、詳細はまだ明らかではないが、{310}面は少ないながらも{100}、{110}面同様、r値を低下させる集合組織であり、これを低減することが高r値化に寄与することを見出した。これは、詳細は明らかではないが、Nb添加により熱延時の未再結晶γ域での圧下率が高いことや、前述した微細なNbCの析出、およびNbCとして析出固定されないCの存在などが、{310}面低減に寄与していると考えられる。
なお、{111}集合組織とは、鋼板面垂直方向に結晶の<111>方向が向いていることを言う。結晶学およびBraggの反射条件から、体心立方構造であるα−Feの場合、{111}面の回折としては、(111)面では起こらず、(222)面で起こる為、X線回析積分強度比としては(222)面の値(P(222))を用いた。(222)面は、鋼板板面垂直方向には[222]方向が向いているので、実質<111>方向と同じ方向である。よって(222)面の強度比が高いことは、{111}集合組織が発達していることに対応する。{100}面に対しても同様の理由から、(200)面の値(P(200))を用いた。
ここで、X線回折積分強度比とは、無方向性標準試料(不規則試料)のX線回折積分強度を基準としたときの相対的な強度である。X線回折は、角度分散型、エネルギー分散型のいずれでもよく、X線源は特性X線でも白色X線でもよい。測定面は、α−Feの主要回折面である(110)から(420)までの7面から10面を測定することが望ましい。また、鋼板1/4板厚位置とは、具体的には、鋼板表面から測定して、鋼板の板厚の1/8〜3/8の範囲を指し、X線回折は、この範囲の任意の面で行えばよい。
本発明では、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブに熱間圧延を施し熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗後冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に焼鈍を施す冷延板焼鈍工程とを順次経ることにより高強度鋼板を製造できる。
本発明では、まず、鋼スラブを熱間圧延にて仕上圧延出側温度:800℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:400〜720℃で巻取り、熱延板とする(熱間圧延工程)。
本発明の製造方法で使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが望ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼スラブを製造した後、いったん室温まで冷却し、その後、再度加熱する従来法に加え、冷却せず温片のままで加熱炉に装入し、熱間圧延する直送圧延、或いはわずかの保熱を行なった後に直ちに熱間圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
ここで、スラブ加熱温度は、析出物を粗大化させることにより、{111}再結晶集合組織を発達させて深絞り性を改善するため、低い方が望ましい。しかし、加熱温度が1000℃未満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大するので、スラブ加熱温度は1000℃以上にすることが好ましい。なお、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温度の上限は1300℃とすることが好適である。
上記条件で加熱された鋼スラブに粗圧延および仕上圧延を行う熱間圧延を施す。ここで、鋼スラブは粗圧延によりシートバーとされる。なお、粗圧延の条件は特に規定する必要はなく、常法に従って行なえばよい。また、スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを防止するといった観点からは、シートバーを加熱する、所謂シートバーヒーターを活用することが好ましい。
次いで、シートバーを仕上圧延して熱延板とする。このとき、仕上圧延出側温度(FT)は800℃以上とする。これは、冷間圧延および焼鈍後に優れた深絞り性が得られる熱延板組織を得るためである。FTが800℃未満では、組織が加工組織を有し、冷延焼鈍後に{111}集合組織が発達しないだけでなく、熱間圧延時の圧延負荷が高くなる。従って、仕上圧延出側温度(FT)は、800℃以上とする。なお、FTが980℃を超えると、組織が粗大化し、これもまた冷延焼鈍後の{111}再結晶集合組織の形成および発達を妨げ、高r値を得る上で不利となるため、FTの上限は980℃とすることが好ましい。
また、熱間圧延時の圧延荷重を低減するため、仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行なうことは、鋼板形状の均一化や材質の均質化の観点から有効である。潤滑圧延の際の摩擦係数は、0.10〜0.25の範囲とするのが好ましい。さらに、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすることも好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
コイル巻取温度(CT)は、400〜720℃の範囲とする。この温度範囲が熱延板中にNbCを析出させるのに適正な温度範囲である。CTが720℃を超えると、結晶粒が粗大化し、冷延焼鈍後の高r値化を妨げることになる。また、CTが400℃未満になると、NbCの析出が起こりにくくなり、高r値化に不利となる。なお、コイル巻取温度(CT)は、好ましくは550〜680℃とする。
上記の熱間圧延工程を施すことにより平均結晶粒径が8μm以下である熱延鋼板とすることができる。すなわち、本発明の高強度鋼板は、上記した範囲内の組成を有し、平均結晶粒径が8μm以下である熱延板を素材とし、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に再結晶と複合組織化を達成する冷延板焼鈍工程とを順次経ることにより製造できる。
従来軟鋼板においては、熱延板の結晶粒径を微細化するほど、r値を高める効果があることが知られている。
図2(a)、(b)および図3(a)、(b)は、ナイタール腐食させた熱延鋼板の光学顕微鏡写真である。ナイタール液は3%硝酸アルコール溶液(3%HNO3−C2H50H)であり、10〜15s腐食した。
ここで、図2(a)は、0.033%CでNb無添加であり、熱延板の平均結晶粒径:8.9μm、冷延焼鈍して得られた鋼板の平均r値:0.9、図2(b)は、0.035%C−0.015%Nb{(Nb/93)/(C/12)}=0.06}であり、熱延板の平均結晶粒径:5.9μm、冷延焼鈍して得られた鋼板の平均r値:1.0、図3(a)は、0.035%C−0.083%Nb{(Nb/93)/(C/12)}=0.31}であり、熱延板の平均結晶粒径:5.6μm、冷延焼鈍して得られた鋼板の平均r値:1.3、図3(b)は、0.035%C−0.072%Nb{(Nb/93)/(C/12)}=0.27}であり、熱延板の平均結晶粒径:2.8μm、冷延焼鈍して得られた鋼板の平均r値:1.5であり、図3(a)および(b)が本発明範囲の成分組成の熱延鋼板である。
図2(a)は、成分的に本発明鋼を外れるNb無添加鋼で、熱延板の平均結晶粒径が8μm以上となっており、r値も低い。図2(b)は、Nb添加により熱延板組織が微細化されているものの、(Nb/93)/(C/12)の値が本発明の範囲から外れているため、効果が発揮されず、r値が低い。図3(a)および(b)は、(Nb/93)/(C/12)の値が本発明の範囲にあり、熱延板組織が微細化し、高r値化している。
熱延板組織は、Nb添加により、粒界としてはナイタール液により通常通り深く腐食される線(1)とともに、腐食が浅い線(2)も存在するようになる。
本発明では、粒径を測定する際、上記の線(1)と線(2)を粒界として結晶粒径を測定した。
結晶粒径は一般に傾角が15°以上を、所謂、大傾角粒界、傾角15°未満を、所謂小傾角粒界と呼ぶことが多い。上記腐食が浅い線(2)をEBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)解析したところ、この腐食が浅い線(2)は、傾角が15°未満のいわゆる小傾角粒界であることがわかった。本発明においては、熱延板中にこの傾角15°未満の、所謂、小傾角粒界、すなわち上記の線(2)が多数存在することが特徴的であり、この上記線(1)および線(2)の双方を粒界として粒径を測定した結果、その平均結晶粒径が8μm超えでは、本発明の目的とする高強度鋼板の高r値化への効果が現れず、平均結晶粒径を8μm以下に微細化することで、平均r値1.2以上という高r値化に効果が現れることが判った。したがって熱延板の平均結晶粒径は8μm以下とする。
なお、本発明鋼の組織をEBSP解析したところ、上記の線(1)と線(2)を粒界として結晶粒径を測定するということは、5°以上の傾角をもつ結晶粒境界を粒界と見なして粒径測定することに相当することを確認した。
また、このことから、詳細は定かではないが、本発明における粒界からの深絞り成形性に好ましい再結晶核発生の促進には、5°以上の傾角が有効であることが推測される。
なお、結晶粒径の測定方法としては、圧延方向に平行な板厚断面(L断面)について光学顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、JIS G 0552或いはASTMに準じた切断法により試料面上での結晶粒の平均の切片長さl(μm)を求め、(ASTM)公称粒径dn=1.13×lとして平均結晶粒径を求めればよく、この他EBSP 等の装置を用いて求めてもよい。
なお、本発明では上記平均粒径の切片長さは、圧延方向に平行な板厚断面について、光学顕微鏡で微視組織を撮像し、JISG0552に準じた切断法により求めた。すなわち、撮像した微視組織写真を用い、JISG0552に準じて圧延方向およびこれに垂直方向に対してそれぞれ一定長さの線分で切断されるフェライト結晶粒の数を測定し、線分の長さをその線分で切断されるフェライト結晶粒の数で除した値をそれぞれの方向の切片長さとして求め、これらの平均(相加平均)値をここでの結晶粒の平均の切片長さl(μm)とした。
また、上記のように、成分組成および熱間圧延条件を調整することにより、熱延板段階でC含有量全体の15%以上をNbCとして析出固定することができ、すなわち、NbCとして析出固定されるC量が鋼中の全C量に占める割合を15%以上とすることができ、高r値化に有利となる。
NbCとして析出固定されるC量が鋼中の全C量に占める割合(以下、単に「析出固定されるC量の割合」という。)とは、熱延板を化学分析(抽出分析)して得られる析出Nb量から次式にて算出される値である。
[C]fix=100×12×([Nb]/93)/[C]total
ここで、鋼中にTiを含有しない場合、NbはNbNを形成するため、
[Nb]=[Nb]−(93[N]/14)、[Nb]>0
一方、鋼中にTiを含有する場合、Nは優先的にTiNを形成するので
[Nb]=[Nb]−(93[N]/14)
なお、式中、
[N]=[N]−(14[Ti]/48)、[N]>0
[Ti]=[Ti]−(48[S]/32)、[Ti]>0
[C]fixは析出固定されるC量の割合(%)、
[C]totalは、鋼中の全C含有量(質量%)、
[Nb]、[N]、[Ti]、[S]は、それぞれ析出Nb、析出N、析出Ti、析出S量(質量%)である。
冷間圧延および再結晶前の段階で固溶Cを低減することは、高r値化のために有効であり、NbCとして析出固定されるC量が全体のC含有量が15%以上、より好ましくは20%以上でその効果が現れ、本発明の製造方法とすることにより、これを達成できる。
次いで、該熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする(冷間圧延工程)。ここで熱延板はスケールを除去するために冷間圧延前に酸洗を行なうことが好ましい。酸洗条件としては通常の条件にて行なえばよい。冷間圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができればよく、特に限定されないが、冷間圧延時の圧下率は少なくとも40%以上とすることが好ましく、より望ましくは50%以上とする。高r値化には高冷延圧下率が一般に有効であり、圧下率が40%未満では、{111}再結晶集合組織が発達せず、優れた深絞り性を得ることが困難となる。一方、この発明では冷間圧下率を90%までの範囲で高くするほどr値が上昇するが、90%を超えるとその効果が飽和するばかりでなく、冷間圧延時のロールへの負荷も高まるため、上限を90%とすることが好ましい。
次に、上記冷延板に焼鈍温度を下記に示すT1℃以上T2℃以下として焼鈍し、次いで焼鈍温度から500℃までの温度域での平均冷却速度:5℃/s以上として冷却する(冷延板焼鈍工程)。

T1(℃)=800+625Nb
T2(℃)=950−45(Mn−Si−5P)
ここで、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。
但し、鋼スラブに、Mo、Cr、Cu、Niの1種以上を添加し、すなわち、Mo:0.02質量%以上、Cr:0.05質量%以上、Cu:0.05質量%以上およびNi:0.05質量%以上の中から選択される1種または2種以上を含有させた場合には、前記焼鈍温度の上限を、前記(2)式に代えて下記(3)式に示すT2℃とする。

T2(℃)=950−45(Mn−Si−5P−0.8Mo+Cu+Ni) ・・・・(3)
ここで、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。
上記冷延板焼鈍工程は、本発明で必要とする冷却速度を確保するため連続焼鈍ライン(CAL)あるいは連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)で行なうことが好ましい。
焼鈍温度がT1(℃)未満では、第2相のマルテンサイト相が十分形成できるほど炭化物の溶解が起こらず、結果として充分な強度伸びバランスが得られない。また、Nbを添加しているため、焼鈍温度がT1(℃)未満では、再結晶しても圧延方向に伸びた結晶粒であり、r値の面内異方性および伸びを劣化させる。よって、焼鈍温度をT1(℃)以上とすることにより、炭化物を十分溶解できるとともに、結晶粒をr値の面内異方性および伸びに好ましい形状とすることができる。
一方、焼鈍温度がT2(℃)を超える高温では、結晶粒が粗大化し、{111}再結晶集合組織が発達しにくく深絞り性が劣化する傾向にあるとともに、また、原因は不明であるが、r値の面内異方性が悪くなる。さらに、第2相のマルテンサイト相が過剰となり、強度伸びバランス特性が著しく劣化する。なお、T2(℃)は、先に述べたように、平衡変態点だけでなく、成分を変化させた鋼で連続焼鈍を模した熱処理で種々の実験を行い、平均r値およびr値の面内異方性を調査した結果をもとに、平均r値≧1.2、かつr値の面内異方性の絶対値を0.3以下とできる焼鈍温度の上限を成分の関数として表したものである。
上記焼鈍後の冷却速度は、マルテンサイト相の形成の観点から、焼鈍温度から500℃までの温度域の平均冷却速度を5℃/s以上として冷却する必要がある。該温度域の平均冷却速度が5℃/s未満だとマルテンサイト相が形成されにくくフェライト単相組織となり組織強化が不足することになる。
本発明で製造する鋼板は、マルテンサイト相を含む第2相を形成することが好ましく、500℃までの平均冷却速度が臨界冷却速度以上であることが必要であり、これを達成するためには焼鈍温度から500℃までの温度域の平均冷却速度を5℃/s以上とすることで満足される。500℃未満での冷却については、特に限定しないが、引き続き、望ましくは300℃まで5℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましく、過時効処理を施す場合は、過時効処理温度までを平均冷却速度が5℃/s以上になるようにすることが好ましい。
なお、上記冷却速度は、マルテンサイト相形成の観点から、上限は特に規定する必要はなく、ロール冷却やガスジェット冷却の他、水焼入設備等を用いて冷却してもよい。
また、上記冷延板焼鈍工程の後に電気めっき処理、あるいは溶融めっき処理などの表面処理を施し、鋼板表面にめっき層を形成しても良い。
例えば、めっき処理として、自動車用鋼板に多く用いられる溶融亜鉛めっき処理を行う際には、上記冷延板焼鈍工程を連続溶融めっきラインにて行い、焼鈍後の冷却に引き続いて溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、表面に溶融亜鉛めっき層を形成すればよく、この場合、溶融亜鉛めっき溶から出た後、300℃までの平均冷却速度が5℃/s以上になるように冷却することが好ましい。また、焼鈍後の冷却に引き続いて溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、表面に溶融亜鉛めっき層を形成した後、さらに合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造してもよい。この場合、合金化処理した後の冷却において、300℃までの平均冷却速度が5℃/s以上になるように冷却することが好ましい。
なお、上記溶融亜鉛めっき浴から出た後、あるいは合金化処理後の冷却についても、マルテンサイト相形成の観点から、冷却速度の上限は特に規定する必要はなく、ロール冷却やガスジェット冷却の他、水焼入設備等を用いて冷却してもよい。
また、上記焼鈍後の冷却までを焼鈍ラインで行い、一旦室温まで冷却した後、別途溶融亜鉛めっきラインにて溶融亜鉛めっきを施し、或いはさらに合金化処理を行っても良い。
ここで、めっき層は、純亜鉛および亜鉛系合金めっきに限らず、純AlおよびAl系合金めっきなど、従来、鋼板表面に施されている各種めっき層とすることも勿論可能である。
また、上記のように製造した鋼板には、形状矯正、表面粗度等の調整の目的で調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。調質圧延或いはレベラー加工の伸び率は合計で0.2〜15%の範囲内であることが好ましい。0.2%未満では、形状矯正、粗度調整の所期の目的が達成できないおそれがあり、一方、15%を超えると、顕著な延性低下をもたらす傾向があるため好ましくない。なお、調質圧延とレベラー加工では、加工形式が相違するが、その効果は、両者で大きな差がないことを確認している。調質圧延、レベラー加工はめっき処理後でも有効である。
上述した本発明の製造方法によって製造した高強度鋼板は、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有し、平均r値が1.2以上と高r値であるとともに、r値の面内異方性の絶対値が0.3以下と小さい。
ここで、「平均r値」とは、JIS Z 2254で求められる平均塑性ひずみ比を意味し、以下の式から算出される値である。
平均r値=(r0+2r45+r90)/4
なお、r0、r45およびr90は、試験片を板面の圧延方向に対し、それぞれ0°、45°および90°方向に採取し測定した塑性ひずみ比である。
また、r値の面内異方性とは、同じくJIS Z 2254で求められる面内異方性を意味し、以下の式から算出される値である。
面内異方性Δr=(r0−2r45+r90)/2
以下に、本発明の製造方法によって得られる高強度鋼板の鋼組織について説明する。
(1)面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有すること
本発明の製造方法によって得られる高強度鋼板は、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有する複合組織鋼板とすることが好ましい。ここで、50%以上の面積率を占めるフェライト相の{111}再結晶集合組織を発達させたものであり、平均r値≧1.2を達成している。
かかる高強度鋼板は、良好な深絞り性を有し、引張強さ≧440MPaの鋼板とするために、面積率で50%以上のフェライト相と、面積率で1%以上のマルテンサイト相を含む鋼組織を有する。フェライト相が少なくなり、面積率で50%未満となると、良好な深絞り性を確保することが困難となり、プレス成形性が低下する傾向がある。なお、フェライト相は、面積率で70%以上とすることが好ましく、また、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は面積率で99%以下とするのが好ましい。
なお、ここで「フェライト相」とは、ポリゴナルフェライト相のほか、オーステナイト相から変態した転位密度の高いベイニチックフェライト相を含む。
また、本発明では、マルテンサイト相が存在することが必要であり、マルテンサイト相を面積率で1%以上含有する。マルテンサイト相が1%未満では、良好な強度延性バランスを得ることが難しい。さらに、マルテンサイト相は、3%以上とすることが好ましい。なお、マルテンサイト相は、γ値を良好とする上で30%以下とすることが好ましい。
加えて、上記したフェライト相、マルテンサイト相の他に、パーライト相、ベイナイト相あるいは残留オーステナイト(γ)相などを含んだ組織としてもよい。さらに、上記したフェライト相とマルテンサイト相の効果を十分得るためには、フェライト相の面積率とマルテンサイト相の面積率の合計を80%以上とすることが好ましい。なお、フェライト相およびマルテンサイト相は、走査型電子顕微鏡での観察により同定すればよく、面積率は走査型電子顕微鏡により微視組織を撮像して求めればよい。
(2)平均r値が1.2以上でかつΔrの絶対値が0.3以下であること
本発明の高強度鋼板は、上記鋼スラブと同様の成分組成および鋼組織と、平均r値≧1.2を満足するとともに、r値の面内異方性Δrの絶対値を0.3以下を満足するものである。本発明では、上記成分組成に調整し、鋼組織として、フェライト相とマルテンサイト相を含む鋼組織となるように製造するもので、初めて平均r値が1.2以上でかつΔrの絶対値が0.3以下を達成することができた。
本発明の製造方法で得られた高強度鋼板は、冷延鋼板をはじめ、電気めっきあるいは溶融亜鉛めっきなどの表面処理を施してめっき層を有する鋼板、いわゆるめっき鋼板をも含むものである。ここで、「めっき」とは、純亜鉛の他、亜鉛を主成分として合金元素を添加した亜鉛系合金めっき、あるいは純Alの他、Alを主成分として合金元素を添加したAl系合金めっきなど、従来鋼板表面に施されているめっき層も含む。
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これら鋼スラブを1250℃に加熱し粗圧延してシートバーとし、次いで、表2に示す条件の仕上圧延を施す熱間圧延工程により熱延板とした。これらの熱延板を酸洗後に圧下率65%の冷間圧延を施す冷間圧延工程により冷延板とした。引き続き、これら冷延板に、連続焼鈍ライン(CAL)にて、表2に示す条件で連続焼鈍を行ない、冷延鋼板(冷延焼鈍板ともいう)とした。また、一部の冷延板については、連続焼鈍ラインに代えて連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて、表2に示す条件で連続焼鈍を行なった。なお、連続溶融亜鉛めっきラインにて冷延板焼鈍工程を施した鋼板については、その後引き続きインラインで溶融亜鉛めっき(めっき浴温:480℃)を施した。さらに、得られた冷延焼鈍板あるいは溶融亜鉛めっき鋼板に伸び率0.5%の調質圧延を施した。
上記熱間圧延後の熱延板について、NbCとして析出固定されるC量の割合を、また、最終的に得られた冷延焼鈍板の、微視組織、引張特性およびr値について調査した結果を表2に示す。
調査方法は下記の通りである。
(i)熱延板中のNbCとして析出固定されるC量の割合
前述のように抽出分析により析出Nb、析出Ti、析出N、析出S量を定量し、下記式で求めた。
[C]fix=100×12×([Nb]/93)/[C]total
ここで、鋼中にTiを含有しない場合、
[Nb]=[Nb]−(93[N]/14)、[Nb]>0
Tiを含有する場合、
[Nb]=[Nb]−(93[N]/14)
なお、式中、
[N]=[N]−(14[Ti]/48)、[N]>0
[Ti]=[Ti]−(48[S]/32)、[Ti]>0
[C]fixは析出固定されるC量の割合(%)、
[C]totalは、鋼中の全C含有量(質量%)、
[Nb]、[N]、[Ti]、[S]はそれぞれ析出Nb、析出N、析出Ti、析出S量(質量%)である。
なお、抽出分析の方法は、10%マレイン酸系電解液を用いて電解抽出した残渣をアルカリ融解し、融成物を酸溶解した後、ICP発光分光法で定量した。
(ii)熱延板の結晶粒径
ナイタール腐食した圧延方向に平行な板厚断面(L断面)を光学顕微鏡で撮像し、JIS G 0552に準じた切断法により、前述のように平均結晶粒の切片長さl(μm)を求め、(ASTM)公称粒径dn=1.13×lとして表記した。粒界としては、先述したように、ナイタール液により腐食し、通常通り深く腐食される線および腐食が浅い線の双方を粒界としてカウントした。また、このようにして測定した平均結晶粒径の値は、傾角5°以上の結晶粒境界を結晶粒界とみなして測定した値に相当することをEBSP解析により確認した。ここでナイタール液は、3%硝酸アルコール溶液(3%HNO3−C2H5OH)を用い、10〜15秒間腐食した。
(iii)冷延焼鈍板の微視組織
各冷延焼鈍板から試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面(L断面)について、走査型電子顕微鏡を用いて1000〜3000倍で微視組織を撮像し、相の種類を観察するとともに、各相の面積を解析し、フェライト相の面積率とマルテンサイト相の面積率を求めた。
(iv)引張特性
得られた各冷延焼鈍板から圧延方向に対して90°方向(C方向)にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強度(TS)および伸び(El)を求めた。
(v)平均r値
得られた各冷延焼鈍板の圧延方向(L方向)、圧延方向に対し45°方向(D方向)、圧延方向に対し90°方向(C方向)からJIS5号引張試験片を採取した。これらの試験片に10%の単軸引張歪を付与した時の各試験片の幅歪と板厚歪を測定し、これらの測定値を用い、JIS Z 2254の規定に準拠して平均r値(平均塑性歪比)を算出し、これをr値とした。また、JIS Z 2254の規定に準拠してr値の面内異方性(Δr)を算出した。
(vi)集合組織
得られた各冷延焼鈍板の鋼板1/4板厚位置にて、白色X線を用いたエネルギー分散型X線回折を行った。測定面は、α-Feの主要回折面である(110)面、(200)面、(211)面、(220)面、(310)面、(222)面、(321)面、(400)面、(411)面、(420)面の計10面について測定し、無方向性標準試料との相対強度比で各面のX線回折積分強度比を求め、求めた(222)面、(200)面、(110)面および(310)面のX線回折積分強度比P(222)、P(200)、P(110)およびP(310)を下記式の右辺各項に代入し、左辺項Aを算出した。
A=P(222)/{P(200)+P(110)+P(310)
表2に示す調査結果より明らかなように、本発明例では、いずれもTS440MPa以上であり、かつ、平均r値が1.2以上と高いr値を有し、しかも、面内異方性の絶対値が0.3以下、すなわち、Δr=−0.3〜+0.3の範囲にあり、小さい値となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる条件で製造した比較例では、強度が不足しているか、r値が1.2未満と低下しているか、あるいはΔrの絶対値が0.3よりも大きい。
本発明によれば、TS440MPa以上でありかつ平均r値が1.2以上と高いr値を有し、しかも、Δrの絶対値が0.3以下と小さい高強度鋼板を安価にかつ安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。例えば、本発明の高強度鋼板を自動車部品に適用した場合、これまでプレス成形が困難であった部位も高強度化が可能となり、自動車車体の衝突安全性や軽量化に十分寄与できるという効果がある。また、自動車部品に限らず、家電部品やパイプ用素材としても適用可能である。
本発明の方法で作製した種々の本発明鋼板と、比較鋼板について、平均r値とP(222)/{P(200)+P(110)+P(310)}の値を算出し、これら算出した値に基づいてプロットした図である。 (a)および(b)は、熱延板をナイタール液に浸漬して表面を腐食させたときの光学顕微鏡写真であって、いずれも(Nb/93)/(C/12)の値が本発明の適正範囲を満たさない例である。 (a)および(b)は、熱延板をナイタール液に浸漬して表面を腐食させたときの光学顕微鏡写真であって、いずれも(Nb/93)/(C/12)の値が本発明の適正範囲を満たす例である。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.010〜0.050%
    Si:1.0%以下
    Mn:1.0〜3.0%
    P:0.005〜0.1%
    S:0.01%以下
    Al:0.005〜0.5%
    N:0.01%以下および
    Nb:0.01〜0.12%
    を含有し、かつ、Nb含有量とC含有量が、
    (Nb/93)/(C/12)=0.2〜0.7
    (式中のNb,Cは各々の元素の含有量(質量%))
    なる関係を満たし、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延にて仕上圧延出側温度:800℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:400〜720℃で巻取り、熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗後冷間圧延を施し、冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に焼鈍温度を下記(1)式および(2)式に示すT1℃以上T2℃以下として焼鈍し、次いで焼鈍温度から500℃までの温度域での平均冷却速度:5℃/s以上として冷却する冷延板焼鈍工程とを有することを特徴とする高強度鋼板の製造方法。

    T1(℃)=800+625Nb ・・・・(1)
    T2(℃)=950−45(Mn−Si−5P) ・・・・(2)
    ここで、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 鋼スラブが、上記組成に加えて、さらにMo:0.02質量%以上、Cr:0.05質量%以上、Cu:0.05質量%以上およびNi:0.05質量%以上の中から選択される1種または2種以上を合計で0.5質量%以下含有するとともに、前記焼鈍温度の上限を、前記(2)式に代えて下記(3)式に示すT2℃として焼鈍することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法。

    T2(℃)=950−45(Mn−Si−5P−0.8Mo+Cu+Ni) ・・・・(3)
    ここで、式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。
  3. 鋼スラブが、上記組成に加えて、さらにTi:0.1質量%以下を含有し、かつ、鋼中のTi、SおよびNの含有量が、
    (Ti/48)/{(S/32)+(N/14)}≦2.0(式中のTi、S、Nは各々の元素の含有量(質量%))
    なる関係を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度鋼板の製造方法。
  4. 上記冷延板焼鈍工程の後の鋼板表面にめっき層を形成するめっき処理工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度鋼板の製造方法。
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