以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)
本発明に係るインサート品成形方法を用いたインサート品成形装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
先ず本実施形態のインサート品成形装置を用いて製造される電磁装置について説明する。図15は成形樹脂で樹脂封止されるインサート品1を示し、このインサート品1は、丸棒状のフェライトコア2と、このフェライトコア2の円周面に平角線3を1層エッジワイズ巻きにして形成された2次巻線N2と、2次巻線N2が巻回されたフェライトコア2を保持するコアホルダ4とで構成され、コアホルダ4には平角線3(2次巻線N2)の両端3a,3bに電気的且つ機械的に接続される端子5a,5bが圧入或いは同時成形によって固定されている。そして、このインサート品1を絶縁のために封止樹脂6で樹脂封止することによって成形品(高圧回路ブロック7)が形成される。
なお、本実施形態ではインサート品1として巻線構造体を例に説明を行ったが、インサート品1を巻線構造体に限定する趣旨のものではなく、成形後に封止樹脂6に埋め込まれる電気部品であればどのようなものでも良い。また封止樹脂6に電気部品を埋め込む場合でも、外部との電気的接続を行う端子5a,5bや機能上問題無い部分を部分的に露出させても良いことは言うまでもない。図15に示したインサート品1では絶縁性能を確保するためにフェライトコア2の高圧側の端部は封止樹脂6で完全に封止する必要があるが、低圧側の端面は封止樹脂6から露出させても機能上問題はない。
次に、インサート品1を樹脂封止して上記電磁装置を製造するインサート品成形装置について図1を参照して説明する。インサート品1は2つの金型20,30を用いてインサート成形されるのであり、両金型20,30はそれぞれそれぞれ、従来周知の成形機70の型締部(詳述せず)が備える上型プラテン71及び下型プラテン72に取り付けられている。一方の金型20は上型型板21とランナ板22と上型取付板23とを主要な構成として備え、他方の金型30は下型型板31と下型受板32と下型取付板33とを主要な構成として備えている。そして、両金型20,30は図示しない温度調整手段(流体循環やヒータなど)で温度調整されている。
上型型板21および下型型板31の合わせ面にはそれぞれキャビティ40a,40bが形成されており、この2つのキャビティ40a,40bから、インサート品1を内部に保持して、このインサート品1を溶融樹脂6で樹脂封止して成形品(高圧回路ブロック7)を形成するためのキャビティ部40が形成される。そして、上型型板21のキャビティ40aの右端にゲート26が形成してある。
ところで、図2は図15で説明したインサート品1を模式的に示した断面図であり、端子5a,5bを省略して図示してあり、以下の成形方法の説明では図2に示した概略構造を用いて説明を行う。なお、図2は図15と上下を逆にして図示してあり、この状態でキャビティ部40内に保持されている。また、図2中の9はコアホルダ4に保持された高圧ヨークを示し、高圧ヨーク9にはフェライトコア2の端面を露出させるための貫通孔9aが貫設されている。
上型型板21および下型型板31の合わせ面には、キャビティ40a,40bの左側に、それぞれキャビティ40a,40bに連通する収納凹部41a,42aが形成されている。また上型型板21および下型型板31の合わせ面には、キャビティ40a,40bの右側に、それぞれ半円形に窪んだ摺動凹溝41b,42bを介してキャビティ40a,40bに連通する収納凹部41c,42cが形成されている。
一方の保持部材51は、収納凹部41a,42a内にスライド移動自在に配置され、インサート品1の一端部に当接することによって、インサート品1を支持する。また収納凹部41a,42a内にはスライドコア52がスライド移動自在に配置されており、スライドコア52と保持部材51との間にはコイルばねのような弾性体53(弾性付勢手段)が介装されている。而して金型20,30を合わせた際に、スライドコア52が上型型板21に押されてインサート品1側にスライド移動すると、スライドコア52をインサート品1側に付勢する力が弾性体53を介して保持部材51に加えられ、保持部材51がインサート品1側へスライド移動する。
また、もう一方の保持部材60は図3に示すように丸棒状であって、摺動凹溝41b,42bが合わさってできる丸孔内に摺動自在に配置されている。保持部材60の軸方向中間部から一端側(キャビティ部40側)は上側の半円部をカットして、断面半円形に形成してあり、この先端側の半円部をDカット部62と言う。また保持部材60の軸方向の他端側には大径の頭部61が形成されている。この保持部材60はジョイントブロック63を介してエアシリンダ64のロッドに連結されており、エアシリンダ64によって左右方向に駆動される。ジョイントブロック63は前後2つの半割体からなり、2つの半割体で保持部材60の頭部61を挟むことによって、保持部材60がジョイントブロック63に連結されている。なお、保持部材60は角棒形状でも良いし、保持部材60を油圧シリンダやモータで駆動しても良い。
ここで、成形機70の射出部(図示せず)で溶融された溶融樹脂は、成形機ノズル73から、上型取付板23及びランナ板22に貫設されたスプルー24と、上型型板21に形成されたランナ25およびゲート26を通って、キャビティ部40に導入される。なお、本実施形態では射出成形の場合を示したが、トランスファー成形機などの成形方法にも適用できる。また、本実施形態は竪型の成形機の場合を示したが、横型の場合でも適用できるのは言うまでもない。
以下にこのインサート品成形装置を用いてインサート品1を溶融樹脂で樹脂封止するインサート品成形方法について図4〜図8を参照して説明する。尚、図4〜図8では説明を簡素化するため上型プラテン71、下型プラテン72、成形機ノズル73、及びエアシリンダ64を省略して図示してある。
先ず図4に示すように金型20が上側に持ち上がっている状態で、金型30のキャビティ40bにインサート品1を配置する。このとき、仮保持部材43,44は上昇しており、その先端がインサート品1の巻線3および高圧ヨーク9に接触するとともに、下型型板31に設けたコア保持部31aがフェライトコア2の低圧側端部に接触することで、インサート品1を仮保持する。なお仮保持部材43は軸部43aの下端に頭部43bが設けられたピンからなり、2枚のリターンプレート45a,45bの間に頭部43bを挟み込むことで、リターンプレート45a,45bに支持されている。リターンプレート45a,45bは下型受板32に設けた凹所32a内に上下動自在に配置され、ばね46,46によって上側に付勢されており、これによって仮保持部材43は上側に移動している。また仮保持部材44も軸部の下端に頭部44aが設けられたピンからなり、下型型板31に設けた凹所内に頭部44aを納めた状態で上下動自在に配置されており、ばね47のばね力によって上側に付勢されている。また、保持部材60はエアシリンダ64によってキャビティ40bから後退した位置に移動している。
次に図5に示すようにエアシリンダ64のロッド65が前進すると、保持部材60が前進し、保持部材60の先端部が、フェライトコア2の高圧側端部に設けた係合凹部2aと係合する。
その後、成形機の型開閉装置(図示せず)によって上型型板21を下降させ、図6に示すように上型型板21と下型型板31とを閉じると、スライドコア52の傾斜面52aが上型型板21に設けた当接部21bに当たって、スライドコア52がキャビティ部40側へ前進する。この時、弾性体53を介してスライドコア52の押力が保持部材51に加わり、保持部材51がキャビティ部40側へ前進し、保持部材51の支持突起51aがフェライトコア2の低圧側端部に設けた係合凹部2bと係合する。尚、係合凹部2a,2bは円錐状に形成されているが、係合凹部2bの角錐状でも良いし、また半球状に形成しても良い。
この時、一対の保持部材51,60がインサート品1(フェライトコア2)を介して突き合わせられた状態となり、保持部材51,60の間にインサート品1が挟持されることで、インサート品1が左右方向において位置決めされる。ここで、保持部材51とスライドコア52との間には弾性体53が介装されており、保持部材51は弾性体53によりインサート品1側へ弾性付勢されているので、インサート品1(フェライトコア2)の長手方向寸法が多少ばらついたとしても、弾性体53が伸縮することによって長手方向寸法のばらつきを吸収できる。したがって、保持部材51,60間にインサート品1が保持された際に、インサート品1に圧縮力が加わったり、インサート品1と保持部材51,60との間に隙間ができて、位置ずれが発生するのを防止できる。
また、この時同時に上型型板21および下型型板31にそれぞれ設けたコア保持部21a,31aが上下両側からフェライトコア2の周面を挟むように保持するので、フェライトコア2(すなわちインサート品1)の低圧側の端部が精度良く保持される。なお保持部材51の前進、後退は保持部材60と同様にエアシリンダなどのアクチュエータを用いて行っても良い。
図6に示すように上型型板21と下型型板31とが閉じ、下型型板31に組み込まれた近接スイッチSWが型閉じを検知すると、成形機の型開閉装置によって再び型閉じが開始され、図7に示すように上型型板21にランナ板22が接触して、型閉じが完了する。この時、保持部材51は上型型板21と下型型板31との間に挟持されており、型閉じが完了して金型20,30に型締め力が加わると、両型板21,31によって保持部材51が強固に拘束され、保持部材51の位置が固定されるので、インサート品1が両保持部材51,60間に保持された状態で固定される。また、この時同時にランナ板22に取り付けられた上型リターンピン27が、仮保持部材43と同様にリターンプレート45a,45bに挟まれるように取り付けられた下型リターンピン34を押し下げるため、リターンプレート45a,45bがばね46のばね力に抗して下降し、これに応じて仮保持部材43も下降してキャビティ部40から後退するため、仮保持部材43による仮保持が終了するが、この時点では保持部材51,60間にインサート品1が強固に保持されているので、インサート品1の位置がずれることはない。
型締めが終わり、成形機の型締め力によって型締めが完了すると、図8に示すように成形機ノズル73から溶融した樹脂材料(溶融樹脂6)がスプルー24、ランナ25、ゲート26を通してキャビティ部40内に充填される。この時、キャビティ部40内の樹脂圧力よりも、仮保持部材44を上側に付勢するばね46のばね力を小さく設定してあるので、樹脂圧力によって仮保持部材44が下降し、キャビティ部40から後退するため、仮保持部材44による仮保持が終了する。このように仮保持部材44は樹脂圧力によって後退するため、別途の駆動源を必要とすることなく、また保持部材51が保持する前に仮保持しておくことでインサート品1の位置決め精度を向上させることができる。
そして、キャビティ部40への溶融樹脂6の充填完了前あるいは充填完了後であって、溶融樹脂6がインサート品1の周囲の少なくとも一部を外包する所定のタイミングを検知して、制御部がエアシリンダ64を駆動して、ロッド65を後退させると、保持部材60がキャビティ部40から後退する。ここで、保持部材60がキャビティ部40から後退したとしても、インサート品1の周囲を溶融樹脂6が外包しているので、溶融樹脂6の樹脂圧力により、インサート品1の位置ずれが発生することはない。
その後、成形機のタイマー設定によって、キャビティ部40内に充填された溶融樹脂6が充分に固化あるいは硬化する時間が経過すると、成形機の型開閉装置によって金型20が上昇させられ、2つの金型20,30が開く。この時、上型型板21の当接部21bによって保持部材51が前方に押圧されなくなるので、図示しない後退用のばねによって保持部材51が後退し、フェライトコア2の端面から離れる。そして、保持部材51の後退が完了すると、成形機の突き出し装置(図示せず)が駆動され、金型30内のエジェクタピン(図示せず)によって成型品(高圧回路ブロック7)を下型型板31から突き出し、取り出すことができる。
以上説明したように本実施形態のインサート品成形方法では、複数(本実施形態では2つ)の金型20,30を合わせて形成されるキャビティ部40内で、一対の保持部材51,60の間にインサート品1を配置し、一対の保持部材51,60の内、少なくとも一方の保持部材51を両保持部材51,60の配列方向において進退自在とし、進退自在に配置された保持部材51を弾性体53によってインサート品1側へ弾性付勢することによって、両保持部材51,60の間にインサート品を保持させる工程と、両保持部材51,60の間にインサート品1を保持した状態で進退自在に配置された保持部材51を両型板21,31で強固に挟んで、保持部材51の位置を固定する工程と、保持部材51,60の位置を固定した状態でキャビティ部40内に溶融樹脂6を充填する工程とを有しており、インサート品1の外形寸法に多少ばらつきがあったしても、弾性体53が伸縮することで外形寸法のばらつきを吸収でき、インサート品1に圧縮力が加えられたり、インサート品1と保持部材51,60との間に隙間ができてインサート品1の位置ずれが発生するのを防止できる。しかも、保持部材51によりインサート品1を保持させた状態で、進退自在に配置された保持部材51を拘束して、位置を固定した後に、キャビティ部40内に溶融樹脂6を充填しているので、成形時の樹脂圧力を受けて保持部材51が後退することはなく、インサート品1をキャビティ部40内の規定の位置に確実に保持することができるから、良好な成形品を得ることができる。
ここに、上述のインサート品1は巻線構造体であり、本実施形態のインサート品成形方法を用いて巻線構造体を樹脂封止することで、巻線構造体の位置ずれを低減することができる。したがって、この巻線構造体を樹脂封止した場合に封止樹脂の肉厚が極端に薄くなる部分ができないため、所望の絶縁破壊強度を得ることができ、絶縁性を高めた電磁装置を提供することができる。
なお、本実施形態では一対の保持部材51,60を両方共に進退自在に配置しているが、弾性体53により弾性付勢された一方の保持部材51だけをスライド移動自在としても良い。また、本実施形態では金型の開閉方向に対して直角方向に保持部材51,60がスライド移動する構造(サイドコア構造)となっているが、金型の開閉方向と保持部材51,60の移動方向とを同じ方向にしても良い。
(実施形態2)
本発明に係るインサート品成形方法を用いたインサート品成形装置の他の形態を図面に基づいて説明する。尚、インサート品1および該インサート品1をインサート成形して製造される電磁装置は、実施形態1で説明した図15に示すインサート品1および電磁装置と同様であるので、その説明は省略する。
次に、インサート品1を樹脂封止して図15に示す電磁装置を製造するインサート品成形装置について図9を参照して説明する。インサート品1は2つの金型20,30を用いてインサート成形されるのであり、両金型20,30はそれぞれそれぞれ、従来周知の成形機70の型締部(詳述せず)が備える上型プラテン71及び下型プラテン72に取り付けられている。一方の金型20は上型型板21とランナ板22と上型取付板23とを主要な構成として備え、他方の金型30は下型型板31と下型受板32と下型取付板33とを主要な構成として備えている。そして、両金型20,30は図示しない温度調整手段(流体循環やヒータなど)で温度調整されている。
上型型板21および下型型板31の合わせ面にはそれぞれキャビティ40a,40bが形成されており、この2つのキャビティ40a,40bから、インサート品1を内部に保持して、このインサート品1を溶融樹脂6で樹脂封止して成形品(高圧回路ブロック7)を形成するためのキャビティ部40が形成される。
上型型板21および下型型板31の合わせ面には、キャビティ40a,40bの左側に、それぞれキャビティ40a,40bに連通する収納凹部41a,42aが形成されている。また上型型板21および下型型板31の合わせ面には、キャビティ40a,40bの右側に、それぞれ半円形に窪んだ摺動凹溝41b,42bを介してキャビティ40a,40bに連通する収納凹部41c,42cが形成されている。
収納凹部41a,42a内には保持部材51がスライド移動自在に配置されており、この保持部材51は、インサート品1の一端部に当接することによって、インサート品1を支持する。また収納凹部41a,42a内にはスライドコア52がスライド移動自在に配置されており、スライドコア52は、金型を合わせた際に上型型板21から押力を受け、保持部材51をインサート品1側に押圧駆動する。
もう一方の保持部材60は略丸棒状であって、摺動凹溝41b,42bが合わさってできる丸孔内に摺動自在に配置されている。保持部材60の軸方向中間部から一端側(キャビティ部40側)は上側の半円部をカットして、断面半円形に形成してあり、この先端側の半円部をDカット部62と言う。また保持部材60の軸方向の他端側には大径の頭部61が形成されている。この保持部材60はジョイントブロック63を介してエアシリンダ64のロッドに連結されており、エアシリンダ64によって左右方向に駆動される。ジョイントブロック63は前後2つの半割体からなり、2つの半割体を合わせてできる凹所63a内に保持部材60の頭部61を納めた状態で左右方向に移動自在に取り付けられ、凹所63a内に配置したコイルばねのような弾性体(弾性付勢手段)66で頭部61をインサート品1側に押圧することによって、保持部材60がインサート品1側に弾性付勢されている。なお、保持部材60は角棒形状でも良いし、保持部材60を油圧シリンダやモータで駆動しても良い。
ここで、保持部材60の摺動部位であってDカット部62と摺動凹溝41b,42bとでできる空間にゲート26の出口が臨ませてあり、ゲート26を通ってきた溶融樹脂をキャビティ部40に導入するための流路となっている。すなわち、成形機70の射出部(図示せず)で溶融された溶融樹脂は、成形機ノズル73から、上型取付板23及びランナ板22に貫設されたスプルー24と、上型型板21に形成されたランナ25およびゲート26を通り、さらに保持部材60のDカット部62と摺動凹溝41b,42bとでできる空間を通って、キャビティ部40に導入される。なお、本実施形態では射出成形の場合を示したが、トランスファー成形機などの成形方法にも適用できる。また、本実施形態は竪型の成形機の場合を示したが、横型の場合でも適用できるのは言うまでもない。
以下にこのインサート品成形装置を用いてインサート品1を溶融樹脂で樹脂封止するインサート品成形方法について図10〜図14を参照して説明する。尚、図10〜図14では説明を簡素化するため上型プラテン71、下型プラテン72、成形機ノズル73、及びエアシリンダ64を省略して図示してある。
先ず図10に示すように金型20が上側に持ち上がっている状態で、金型30のキャビティ40bにインサート品1を配置する。このとき、仮保持部材43,44は上昇しており、その先端がインサート品1の巻線3および高圧ヨーク9に接触するとともに、下型型板31に設けたコア保持部31aがフェライトコア2の低圧側端部に接触することで、インサート品1を仮保持する。なお仮保持部材43は軸部43aの下端に頭部43bが設けられたピンからなり、2枚のリターンプレート45a,45bの間に頭部43bを挟み込むことで、リターンプレート45a,45bに支持されている。リターンプレート45a,45bは下型受板32に設けた凹所32a内に上下動自在に配置され、ばね46,46によって上側に付勢されており、これによって仮保持部材43は上側に移動している。また仮保持部材44も軸部の下端に頭部44aが設けられたピンからなり、下型型板31に設けた凹所内に頭部44aを納めた状態で上下動自在に配置されており、ばね47のばね力によって上側に付勢されている。また、保持部材60はエアシリンダ64によってキャビティ40bから後退した位置に移動している。
次に、成形機の型開閉装置(図示せず)によって上型型板21を下降させ、図11に示すように上型型板21と下型型板31とを閉じると、スライドコア52の傾斜面52aが上型型板21に設けた当接部21bに当たって、スライドコア52がキャビティ部40側へ前進する。この時、スライドコア52の押力が保持部材51に加わり、保持部材51がキャビティ部40側へ前進し、保持部材51の支持突起51aがフェライトコア2の低圧側端部に設けた係合凹部2bと係合する。また、この時同時に、上型型板21および下型型板31にそれぞれ設けたコア保持部21a,31aが上下両側からフェライトコア2の周面を挟むように保持するので、フェライトコア2(すなわちインサート品1)の低圧側の端部が保持される。なおスライドコア50および保持部材51の前進、後退は保持部材60と同様にエアシリンダなどのアクチュエータを用いて行っても良い。
下型型板31に組み込まれた近接スイッチSWが型閉じを検知すると、近接スイッチSWの検出信号に応じて図示しない制御部がエアシリンダ64を駆動してロッド65を前進させるので、図12に示すようにロッド65にジョイントブロック63を介して連結された保持部材60がキャビティ部40内に前進して、フェライトコア2の高圧側端部に設けた係合凹部2aと係合する。
この時、一対の保持部材51,60がインサート品1(フェライトコア2)を介して突き合わせられた状態となり、保持部材51,60の間にインサート品1が挟持されることで、インサート品1が左右方向において位置決めされる。ここで、保持部材60は金型20,30に対して左右方向に進退自在に取り付けられ、弾性体66によってインサート品1側に弾性付勢されているので、インサート品1の長手方向寸法が多少ばらついたとしても、弾性体66が伸縮することによって長手方向寸法のばらつきを吸収できる。したがって、保持部材51,60間にインサート品1が保持された際に、インサート品1に圧縮力が加わったり、インサート品1と保持部材51,60との間に隙間ができて、位置ずれが発生するのを防止できる。
エアシリンダ64のロッド65が前進し、ロッド65の先端がフェライトコア2の高圧側端と当接するのを従来周知の検出手段を用いて検知すると、成形機の型開閉装置によって再び型閉じが開始され、図13に示すように上型型板21にランナ板22が接触して、型閉じが完了する。なお、型閉じが完了すると、ランナ板22に取り付けられた上型リターンピン27が、仮保持部材43と同様にリターンプレート45a,45bに挟まれるように取り付けられた下型リターンピン34を押し下げるため、リターンプレート45a,45bがばね46のばね力に抗して下降し、これに応じて仮保持部材43も下降してキャビティ部40から後退するため、仮保持部材43による仮保持が終了するが、この時点では保持部材51,60間にインサート品1が強固に保持されているので、インサート品1の位置がずれることはない。
型締めが終わり、成形機の型締め力によって型締めが完了すると、図14に示すように成形機ノズル73から溶融した樹脂材料(溶融樹脂6)がスプルー24、ランナ25、ゲート26、および保持部材60のDカット部62と摺動凹溝41b,42bとでできる空間を通ってキャビティ部40内に充填される。
ここで、ゲート26の出口は、一方の保持部材60のDカット部62と摺動凹溝41b,42bとでできる空間に臨ませており、このゲート26を通してキャビティ部40内に溶融樹脂を充填しているので、樹脂充填時にインサート品1を他方の保持部材51に押し付けるような方向の力が保持部材51に加わるため、一方の保持部材60を弾性付勢する弾性体66が樹脂の充填圧力によって撓められることがない。したがって、樹脂の充填圧力によって保持部材60が動くことはなく、インサート品1と保持部材60との間に隙間ができて、インサート品1の位置ずれが発生するのを防止でき、安定した品質の成形品を成形することができる。
また、キャビティ部40内の樹脂圧力よりも、仮保持部材44を上側に付勢するばね46のばね力を小さく設定してあるので、樹脂圧力によって仮保持部材44が下降し、キャビティ部40から後退するため、仮保持部材44による仮保持が終了する。このように仮保持部材44は樹脂圧力によって後退するため、別途の駆動源を必要とすることなく、また保持部材51が保持する前に仮保持しておくことでインサート品1の位置決め精度を向上させることができる。
そして、キャビティ部40への溶融樹脂6の充填完了前あるいは充填完了後であって、溶融樹脂6がインサート品1の周囲の少なくとも一部を外包する所定のタイミングを検知して、制御部がエアシリンダ64を駆動して、ロッド65を後退させると、保持部材60がキャビティ部40から後退する。ここで、保持部材60がキャビティ部40から後退したとしても、インサート品1の周囲を溶融樹脂6が外包しているので、溶融樹脂6の樹脂圧力により、インサート品1の位置ずれが発生することはない。
その後、成形機のタイマー設定によって、キャビティ部40内に充填された溶融樹脂6が充分に固化あるいは硬化する時間が経過すると、成形機の型開閉装置によって金型20が上昇させられ、2つの金型20,30が開く。この時、上型型板21の当接部21bによって保持部材51が前方に押圧されなくなるので、図示しない後退用のばねによって保持部材51が後退し、フェライトコア2の端面から離れる。そして、保持部材51の後退が完了すると、成形機の突き出し装置(図示せず)が駆動され、金型30内のエジェクタピン(図示せず)によって成型品(高圧回路ブロック7)を下型型板31から突き出し、取り出すことができる。
以上説明したように本実施形態のインサート品成形方法では、複数(本実施形態では2つ)の金型20,30を合わせて形成されるキャビティ部40内で、一対の保持部材51,60の間にインサート品1を配置し、一対の保持部材51,60の内、少なくとも一方の保持部材51を両保持部材51,60の配列方向において進退自在とし、進退自在に配置された保持部材51を弾性体53によってインサート品1側へ弾性付勢することによって、両保持部材51,60の間にインサート品を保持させる工程と、両保持部材51,60の間にインサート品1を保持した状態で、金型20において進退自在に配置された保持部材60が摺動する部位(摺動凹溝41b)の一部に設けたゲート26からキャビティ部40内に溶融樹脂6を充填する工程とを有しており、インサート品1の外形寸法に多少ばらつきがあったしても、弾性体66が伸縮することで外形寸法のばらつきを吸収でき、インサート品1に圧縮力が加えられたり、インサート品1と保持部材51,60との間に隙間ができてインサート品1の位置ずれが発生するのを防止できる。しかも、保持部材51,60間にインサート品1を保持させた状態で、保持部材60が摺動する部位(摺動凹溝41b)の一部に設けたゲート26からキャビティ部40内に溶融樹脂6を充填しているので、成形時の樹脂圧力を受けて弾性体66が撓められることがなく、したがって保持部材60が樹脂圧力を受けて動くことがないので、インサート品1をキャビティ部40内の規定の位置に確実に保持することができ、良好な成形品を得ることができる。
ここに、上述のインサート品1は巻線構造体であり、本実施形態のインサート品成形方法を用いて巻線構造体を樹脂封止することで、巻線構造体の位置ずれを低減することができる。したがって、この巻線構造体を樹脂封止した場合に封止樹脂の肉厚が極端に薄くなる部分ができないため、所望の絶縁破壊強度を得ることができ、絶縁性を高めた電磁装置を提供することができる。
なお、本実施形態では一対の保持部材51,60を両方共に進退自在に配置しているが、弾性体66により弾性付勢された一方の保持部材60だけをスライド移動自在としても良い。また、本実施形態では金型の開閉方向に対して直角方向に保持部材51,60がスライド移動する構造(サイドコア構造)となっているが、金型の開閉方向と保持部材51,60の移動方向とを同じ方向にしても良い。
なお、上述の実施形態1、2で使用される溶融樹脂6は熱可塑性の溶融温度が低いポリプロピレン、ポリエチレン、溶融温度の高いポリフタルアミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリエステル、シンジオタクチックポリスチレン、また熱硬化性のフェノール、エポキシ、不飽和ポリエステルなどの種々の樹脂材料を用いることができる。
ところで、実施形態1、2で説明したインサート品成形方法を用いてインサート成形された成形品(高圧回路ブロック7)は、メタルハライドランプのような放電灯を始動するために放電灯に高圧パルスを印加する放電灯始動装置Aに用いられるものである。この放電灯始動装置Aは、図17に示すように、2次巻線N2の一端が放電灯Laの一方の電極に接続されるパルストランスPTと、パルストランスPTの1次巻線N1に直列に接続された放電ギャップSGと、1次巻線N1および放電ギャップSGからなる直列回路の両端間に接続されたパルス発生用のコンデンサC1などを備えている。そして、インバータINVによりコンデンサC1が充電され、コンデンサC1の両端電圧が所定の電圧に達すると、放電ギャップSGが放電してパルストランスPTの1次巻線N1に電流が流れる。このときパルストランスPTの2次巻線N2に高圧パルスが発生し、この高圧パルスが放電灯Laに印加されて、放電灯Laを始動させるとともに、インバータINVからの電力供給を受けて放電灯Laが点灯するのである。
図16は放電灯始動装置Aの各製造工程を示しており、同図(a)に示すようにプリント配線板或いはリードフレームからなる基板11にコンデンサC1、放電ギャップSG、およびインバータINVとの接続コネクタCNを実装して低圧回路ブロック12を構成するとともに、高圧回路ブロック7の低圧側端部の外周面(すなわちフェライトコア2の低圧側端部を覆う封止樹脂の表面)に巻線8を巻回して1次巻線N1を形成し、さらに高圧回路ブロック7に一体に設けたソケット口13に放電灯Laの中心電極および外周電極にそれぞれ電気的に接続させるための内側電極14および外側電極15を保持させる。そして、同図(b)に示すように低圧回路ブロック12の基板11に高圧回路ブロック7を実装した後、絶縁性を確保するために合成樹脂成型品よりなる上面カバー16および下面カバー17を装着して、両カバー16,17で囲まれる空間内にシリコンなどの絶縁樹脂を一部或いは全体に充填し、さらにノイズ抑制のために上下両側から上面シールドカバー18および下面シールドカバー19を被せて、放電灯始動装置Aの組立を完了する(同図(c)参照)。
放電灯始動装置Aはこのように構成されており、上述した絶縁性能の高い成形品(高圧回路ブロック7)を用いることで、放電灯Laの始動時に高電圧が印加されたとしても、絶縁破壊が発生せず、不点灯が発生することはないので、安定した点灯状態を得ることができる。なお上面カバー16および上面シールドカバー18にはソケット口13を露出させる丸孔状の開口窓16a,18aが形成されており、この開口窓16a,18aを通して放電灯Laの口金を装着できるようになっている。
この放電灯始動装置Aは、メタルハライドランプのようなHIDランプからなる放電灯Laを始動するために放電灯Laに高圧パルスを印加するものであり、この放電灯始動装置Aを用いた放電灯点灯装置Bのブロック図を図17に示す。この放電灯点灯装置Bは、直流電源Eの直流電圧を矩形波電圧に変換して放電灯始動装置Aに装着された放電灯Laに供給するインバータINVと、放電灯始動装置Aが備える高圧パルス発生部(充電コンデンサC1、放電ギャップSG、パルストランスPTからなる)とで構成される。放電灯点灯装置Bは、品質のばらつきが少なく信頼性の高い上記の放電灯始動装置Aを用いるので、信頼性が高く品質が安定した放電灯点灯装置を実現できる。
また図18は上記の放電灯点灯装置Bを用いた車両用前照灯器具Cの一実施形態を示し、この前照灯器具Cは、車体に固定される灯体ハウジング101の内部に上記の放電灯始動装置Aと反射板102を収納したものであり、灯体ハウジング101の前面に設けた開口部にはレンズ103が取り付けられている。また灯体ハウジング101の後部には放電灯Laを交換するための開口部104が設けられており、この開口部104にはキャップ105が開閉自在に被着されている。また灯体ハウジング101の下側部には直流電源Eから電源供給を受けて動作するインバータINVが取着されており、このインバータINVからの電線106が放電灯始動装置AのコネクタCNに接続されている。なお図中の107は直流電源Eからの給電線を接続する接続コネクタである。この前照灯器具Cは上述の放電灯点灯装置Bを用いて構成されており、この前照灯器具Cを車両のヘッドランプに用いれば、品質のばらつきが少なく、信頼性の高いヘッドランプを実現できる。なお照明器具を前照灯器具Cに限定する趣旨のものではなく、上述の放電灯点灯装置Bを用いて、例えばプロジェクタの光源に用いる照明器具を構成しても良い。
また図19は上述の車両用前照灯器具Cを用いた車両Dの一実施形態を示し、車体110の前面の左右両側には車両用前照灯器具Cが1台ずつ取り付けられている。この車両Dは上述の車両用前照灯器具Cを用いたものであり、品質のばらつきが少なく、信頼性の高い前照灯器具Cを用いることで、夜間走行などで安全性が高く品質の安定した車両を実現することができる。