JP4477759B2 - 高強度圧延pc鋼棒およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンクリートポールやコンクリートパイル等に用いるPC(プレストレスコンクリート)鋼棒とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンクリートポール及びコンクリートパイルには、剛性および曲げ強さの向上や、ひび割れ防止のためにコンクリートに圧縮力を与え、コンクリートポール及びコンクリートパイルそのものの強度を高めたPCポール及びPCパイルがある。そして、これらは、以下のようにして製造されている。
【0003】
まず、円周上に並列に配したPC鋼材に軟鋼線を螺旋状に巻き付け(以下「螺旋筋」と称す。)、次いで、PC鋼材と螺旋筋の交点を固定して、円筒状の籠片型補強体(以下「補強体」と称す。)を製造する。次に、該補強体を型枠に導入して、補強体を構成するPC鋼材の両端を固定し、引張強さの70%前後の応力で緊張する。次いで、型枠内にコンクリートを注入し、コンクリートが固化した後に、PC鋼材から緊張応力を解除する。この解除により、コンクリートに圧縮力が付与されることになり、PCポールまたはPCパイルが製造される。
【0004】
このようなコンクリート構造物に使用するPC鋼材としては、JISG3137に規定されるPC鋼棒と、JISG3536に規定されるPC鋼線を、代表的なものとして挙げることができる。
PC鋼棒は、熱間圧延後空冷した鋼棒を、焼入れ焼戻しして製造される。この焼入れ焼戻しにより、JISG3137(D種)で規定する1420 MPa以上のTS(引張強度)を確保することができる。
【0005】
例えば、特開平3−151445公報には、スポット溶接性とリラクゼーション特性を改善するため、Siを低減し、Moを添加したPC鋼棒に、焼入れ焼戻しを施して、TS:1420 MPa以上の高強度PC鋼棒を製造することが開示されている。
このように、PC鋼棒には、通常、焼入れ焼戻しが施されるが、この焼入れ焼戻しにより、PC鋼棒の組織は、焼戻しマルテンサイト組織となるので、所要の一様伸びや、耐遅れ破壊特性を確保することが難しい。例えば、「鉄と鋼vol.81(1995).P1625」に示されているように、1400 MPa以上の焼戻しマルテンサイト組織を有するPC鋼棒では、耐遅れ破壊特性が劣化する。
【0006】
一方、焼戻しマルテンサイト以外の組織を有するPC鋼棒として、熱間圧延材を冷間加工し、次いで、ブルーイング処理を施した圧延PC鋼棒が提供されている。この圧延PC鋼棒に関し、「プレストレストコンクリートvol.13(1971)p.52」には、鋳片を熱間圧延した線材にストレッチングとブルーイング処理を施すことにより、TS:1200 MPa以下のPC鋼棒を製造し得ることが開示されている。
【0007】
圧延PC鋼棒においては、一様伸びが高いなど優れた点がある一方、YS(降伏強度)が1100 MPa以下であり、高強度化が充分になされていないのが実情である。このため、より高強度で耐遅れ破壊特性の優れたPC鋼棒が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、引張強度(TS)が1400 MPa以上を有する高強度で、かつ、高延性の高強度圧延PC鋼棒と、該PC鋼棒を、熱間圧延に続くパティンティングの後に通常採用する伸線工程を経ずに、ブルーイング、ヒートストレッチ等の時効処理により、低コストで製造する製造方法を提供することを課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために共析鋼または過共析鋼の組織と成分について検討した。たとえば0.8%Cの鋼ではTSを適正な強度にするためには、恒温変態を施し80%以上のパーライト組織が必要である。しかし、TSが1400MPa以上であってもYSを1200MPa以上にすることは困難である。このためにヒートストレッチングを施しYSを向上させることを見いだした。 この材料の遅れ破壊は破断時間としては良好ではあるが、表層部から割れ感受性が高いため表層部の遅れ破壊を向上させることがより効果的である。そのため、ショットブラストにより圧縮残留応力を付与することによりさらに耐遅れ破壊特性が向上することを見いだした。
【0010】
本発明は、上記知見に基づき、上記課題を解決するものであって、その要旨は、以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.8〜1.3%、Si:0.10〜2.5%、Mn:0.25〜2.0%、および、Al:0.05%以下、を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼であって、450〜550℃の温度で恒温変態を施してパーライト面積率が80%以上94%以下で、更に、表面にショットブラストが施された鋼からなり、YS(0.2%耐力)が1200MPa以上、TSが1400MPa以上で、且つ、伸びが4.5%以上であることを特徴とする高強度圧延PC鋼棒。
【0011】
(2)前記鋼が、更に、質量%で、
Ti:0.005〜0.05%、
Ca:0.0005〜0.005%、
REM:0.0005〜0.005%、
V:0.002〜0.5%、及び、
Nb:0.005〜0.1%
の1種以上を含有することを特徴とする上記(1)記載の高強度圧延PC鋼棒。
【0012】
(3)前記鋼が、更に、質量%で、
B:0.0005〜0.01%、
Cr:0.05〜2.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、及び、
Mo:0.05〜0.50%
の1種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の高強度圧延PC鋼棒。
【0013】
(4)前記鋼の表層に、圧縮残留応力が蓄積されていることを特徴とする上記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒。
(5)上記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱後、熱間圧延して線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、次いで、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、または、(4)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
【0014】
(6)上記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱後、熱間圧延して線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、200〜500℃の温度及び0.5〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、または、(4)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
【0015】
(7)上記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱後、冷却し、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、次いで、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、または、(4)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
【0016】
(8)上記(1)、(2)、または、(3)記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱後、冷却し、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、200〜500℃の温度及び0.5〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、または、(4)記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の高強度圧延PC鋼の鋼(本発明の鋼)に係る化学成分について説明する。
Cは、TSやYSを確保するために重要で、かつ、経済的な元素であるが、PC鋼棒として必要なTS1400 MPa以上、及び、YS1200MPa 以上を、それぞれ得るためには、少なくとも、0.8%以上必要であり、0.8%未満では必要な強度が得られない。望ましくは、0.85%以上必要である。
【0018】
一方、Cが1.3%を超えると、粒界に、網状セメンタイトまたは粗大セメンタイトが析出して、延性の低下が顕著になる。このため、C添加量は、0.8〜1.3%とする。
Siは、フエライト(パーライト中のフエライト地)に固溶し、顕著な固溶強化作用により、YSを向上させる元素である。この向上効果を得るためには、少なくとも、0.10%以上の添加量が必要である。一方、Siの添加量が2.5%を超えると、強度が高くなりすぎて延性が低下する。このため、Si添加量の上限を2.5%とする。
【0019】
Mnは、焼入れ性を高めて強度を上昇させるとともに、鋼棒の横断面における組織を均一にするのに有効な元素である。これらの効果を得るためには、少なくとも、0.25%以上の添加量が必要である。一方、Mnを過剰に添加すると、中心偏析部に、延性を低下せしめるミクロマルテンサイトが生成し易くなる。ミクロマルテンサイトの生成を抑制するには、恒温変態処理時間を長くすする必要があるが、これは実用的でない。このため、Mn添加量の上限を2.0%とし、Mn添加量は、0.25〜2.0%とする。
【0020】
Pは、粒界に偏析し、粒界脆化を起こし易くする元素であるので、0.03%以下に低減する必要がある。本発明の鋼において、Pは不純物元素であり、極力低減することが望ましい。
Sも、Pと同様に、粒界に偏析し粒界脆化を起こし易くする元素であるので、0.03%以下に低減する必要がある。本発明の鋼において、Sは、Pと同様に不純物元素であり、極力低減することが望ましい。
【0021】
Alは、徹細なAl 2 O 3 あるいはAlN析出物のピニング効果により、熱処理時のγ粒径を微細化するために添加する元素である。しかし、0.05%を超えて添加すると、粗大なAl 2 O 3 が発生し、延性が低下する。このため、Al添加量の上限を0.05%とする。
次に、本発明の鋼が含有する選択元素について説明する。主に、γ粒径を微細化し、延性を向上させるために、Ti、Ca、REM、Nb、及び、Vのうちの1種あるいは2種以上を添加する。また、主に、圧延PC鋼棒の強度を向上させるために、B、Cr、Cu、Ni、Moのうちの1種あるいは2種以上を添加する。
【0022】
Tiは、TiO2等の酸化物あるいはTiN、TiC等のTi析出物のピンニング効果により、熱処理時のγ粒径を微細化するために添加する元素である。この効果を得るためには、0.005%以上の添加が必要である。しかし、0.05%を超えて添加すると、粗大なTiNが多量に析出して、延性を劣化させる。このため、Ti添加量の上限を0.05%とする。
【0023】
Caは、CaS(O)の生成により、熱処理時のγ粒径を微細化するのに有効な元素である。0.0005%未満では効果がないので、0.0005%を、Ca添加量の下限とする。しかし、0.005%を超えて添加すると、清浄度が低下するとともに、Ca介在物が粗大化し、延性が低下するので、上限を0.005%とする。
【0024】
REMも、Caと同様に、熱処理時のγ粒径を微細化するのに有効な元素である。0.0005%未満では効果がないので、0.0005%を、REM添加量の下限とする。しかし、0.005%を超えて添加すると、清浄度が低下するとともに、REMを含む介在物が粗大化し、延性が低下するので、上限を0.005%とする。
【0025】
Vは、炭窒化物を析出させγ粒を徹細化し、強度、延性を向上させる元素である。また、Vは、鋼中に侵入した水素のトラップサイトとなり、遅れ破壊特性を改善する元素でもある。これらの効果を得るには、0.002%以上の添加が必要である。しかし、多量の添加では効果が飽和し、経済的に不利になるので、上限を0.5%とする。
【0026】
Nbは、Nb析出物のピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、圧延PC鋼棒の延性を向上させる元素である。このため、0.005%以上の添加が必要である。しかし、多量に添加しても効果が飽和し、経済的に不利となるので、0.1%を上限とする。このため、Nb添加量は、0.005〜0.1%とする。
【0027】
Bは、焼入性を向上させて、圧延PC鋼棒の強度を高める元素である。また、Bは、優先的に粒界に偏析し、P、S、Mn等の粒界偏析を抑制する粒界清浄効果を介して、遅れ破壊の劣化を抑える元素でもある。このため、B添加量の下限を0.0005%とする。しかし、0.01%を超えて添加すると、Fe23Bが析出し、耐遅れ破壊特性が劣化する。このため、B添加量は、0.0005〜0.01%とする。
【0028】
Crは、固溶強化により、また、焼入れ性を向上させパーライトのラメラー間隔を小さくして、強度を上昇させる元素である。0.05%未満ではこの効果が不十分である。しかし、2.0%を超えて添加すると、強度が高くなり過ぎ、延性が低下する。このため、上限を2.0%とする。
Cuは、焼入れ性を向上させるために添加する元素である。また、Cuは、安定な腐食生成物を生成して、水素の侵入を抑制し、遅れ破壊を改善する元素でもある。この効果を得るには、0.05%以上の添加量が必要である。しかし、1.0%を超えて添加すると、圧延時に熱間割れが起き易くなるので、上限を1.0%とする。
【0029】
Niは、Cuと同様に、焼入れ性の向上させるために添加する元素である。また、Niは、安定な腐食生成物を生成して、水素の侵入を抑制し、遅れ破壊を改善する元素でもある。さらに、Niは、Cu脆化を抑制する効果も奏する元素である。耐遅れ破壊特性を向上するには、0.05%以上の添加量が必要である。しかし、1.0%を超えて添加しても、その効果は飽和し、経済的に不利になるので、上限を1.0%とする。
【0030】
Moは、リラクセーション特性を向上させるために有効な元素である。鋼の強度を上昇させるためには、少なくとも、0.05%以上の添加量が必要である。しかし、0.50%を超えて添加すると、フエライトの生成が抑制されるので、上限を0.50%とする。そのため、Mo添加量は、0.10〜0.50%とする。
【0031】
以上、鋼の化学成分について説明した。圧延PC鋼棒において、YSを1200 MPa以上確保するためには、熱間圧延後、調整冷却した線材において、TSを、少なくとも、1400MPa 以上にする必要があり、これを考慮して、C量や、他の強化元素の組合わせ及び添加量を決定し、鋼の化学成分を構成する必要がある。
【0032】
次に、本発明の高強度圧延PC鋼棒を製造する製造方法(本発明の製造方法)について説明する。
本発明の製造方法の特徴は、伸線等の強加工をしない状態のパーライト組織で、YSを1200MPa 以上とした点にある。即ち、本発明の鋼におけるパーライト組織は高延性を有するものである。
【0033】
前述したように、TSが1400MPa 以上確保できた過共析鋼のDLP線材であっても、C量を1.0%以上に高めた場合を除いて,そのままでは、YSを1200MPa 以上とすることは難しい。実際の過共析鋼にDLPを施したままの線材において、TSが1400MPa 以上の場合、伸びは7%程度と低く、さらに、ストレッチング+ブルーイング処理を施すと、時効硬化により、延性が低下する恐れがある。
【0034】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく、伸線加工を施さずに、ストレッチング後ブルーイング処理、もしくは、ヒートストレッチ処理を施した後のYSの上昇と、破断伸びの低下について検討した。そして、TSが1400MPa 以上を有するパーライト組織の鋼に、ストレッチング+ブルーイング処理、もしくは、ヒートストレッチ処理を施すことにより、YSを約100MPa 以上高め、伸びの低下を約2%以下に抑えることがきることを見い出した。
【0035】
以上のことから、C量が0.8%以上の鋼においても、YS:1200MPa以上、TS:1400MPa以上、かつ、伸び4.5%以上を確保することが容易に可能になった。
次に、詳細に組織、及び、製造条件について説明する。
本発明の鋼の特徴は、パーライト主体組織で、TSが1400MPa以上となることである。このためには、前述した化学成分を満足するとともに、パーライト組織が80%以上存在することが必要である。ただし、パーライト組織の上限を、実施例で得たパーライト分率94%(表2中、本発明鋼T1、参照)に基づいて、94%とした。本発明の製造方法においては、鋼材の熱間圧延後、もしくは、線材の再加熱後、450〜550℃の温度で恒温変態を行う。
【0036】
パーライト組織が80%未満であると、所望の強度(TS)が得られない。
恒温変態において、保持温度が450℃未満であると、多量のベイナイトが生成し、パーライト80%以上の組織を確保することができず、所望のTSが得られない。一方、保持温度が650℃を超えると、ラメラー間隔が粗になり、パーライト組織の強度が低下するが、実施例で用いた恒温変態温度550℃(表2中、発明鋼T3等、参照)に基づいて、保持温度の上限を550℃とする。それ故、恒温変態における保持温度は、450〜550℃とする。
【0037】
本発明の製造方法の特徴は、450〜650℃の温度での恒温変態後、線材の表面にショットブラストを施す点である。
ショットブラストにより、線材の表層に、圧縮残留応力が蓄積されることになるが、この応力が存在することにより、本発明の鋼の耐遅れ破壊特性が、格段に向上する。本発明の製造方法において、ショットブラストを施す態様は、どのような態様のものでもよい。
【0038】
YSを上昇させるために、線材を、ストレッチングで塑性域まで引張り、次いで、ブルーイング処理を施し、この時付与した加工歪みを除去する。
前述したように、YS:1200MPa 以上で、破断伸び4.5%以上を確保できるストレッチング及びブルーイングに係る条件は、1〜4%の歪みを付与した後、200〜500℃の温度で5〜600秒の時間、保定することである。
【0039】
ストレッチングが1%未満では、YSの上昇が図れない。一方、ストレッチングが4%を超えると、破断伸び4.5%以上を確保できない。
また、熱処理温度が、200℃未満では、Cの拡散が不十分で、転位が固着されないので、時効によるYSの上昇を図ることができない。一方、熱処理温度が500℃を超えると、炭化物が粗大化して延性が低下する。このため、ブルーイング処理の熱処理温度は、200〜500℃とする。
【0040】
上記の適正な熱処理温度範囲であっても、処理時間が適切でないと、所望のYSと伸びの確保が困難となる。処理時間が5秒未満では、Cの拡散が不十分で、時効によりYSの上昇を図ることができない。一方、600秒を超えて処理しても、時効の効果は飽和するので、処理時間の上限は600秒とする。
本発明の製造方法においては、ストレッチング+ブルーイング処理に替えて、ヒートストレッチング処理を用いることができる。このヒートストレッチング処理は、線材に、0.5〜6%の引張り歪みを与えて200〜500℃の温度に加熱して行う処理である。
【0041】
与える引張り歪みが0.5%未満では、YSの上昇が図れない。一方、引張り歪みが6%を超えると、破断伸び4.5%以上を確保できない。
また、熱処理温度が、200℃未満では、Cの拡散が不十分で、転位が固着されないので、時効によりYSの上昇を図ることができない。一方、熱処理温度が500℃を超えると、炭化物が粗大化して延性が低下する。このため、ヒートストレッチング処理の熱処理温度は、200〜500℃とする。
【0042】
本発明の製造方法は、以上の条件の下で、高強度圧延PC鋼棒において、YS:1200MPa 以上、TS:1400MPa 以上、かつ、伸び4.5%以上を確保することができるものである。そして、更に、本発明の製造方法では、従来必要とされていた伸線工程を省略し、加熱(オーステナイト化)→熱間圧延→恒温変態→冷却→インデント加工→ストレッチング+ブルーイング処理、または、加熱(オーステナイト化)→熱間圧延→恒温変態→冷却→インデント加工→ヒートストレッチング処理のいずれかの各工程を経て、コンクリートとの密着性が格段に優れた高強度圧延PC鋼棒を、低コストで製造することが可能となった。
【0043】
【実施例】
以下本発明の実施例について説明する。表1の化学成分の化学成分の鋳片を加熱後熱間圧延し、DLPを実施した。その後該線材をストレッチイングした後にブルーイング処理した。製造条件および材質特性を表2に示す。引張り試験での伸びは突き合わせ法により測定した。パーライトの面積率は光学顕微鏡観察によって決定した。本発明鋼の鋼T1〜T12ではTSが1400MPa以上、YSが1200MPa以上およびE1が4.5%以上を満足した。
【0044】
PC鋼棒に要求される材質特性としてリラクゼーションがあげられる。鋼T2において180℃の高温リラクゼーションで評価し、1420MPa×0.7の荷重で20%以下であった。
鋼H1〜H3は適切な鋼成分ではないので、機械的性質が確保できなかった。鋼H1はC量が少なく所定の強度が得られない。鋼H2はC量が多く延性が低下した。鋼H3はSi添加量が多く延性が低下した例である。鋼H4〜H8では適正な製造条件となっておらず材質特性が得られない。鋼H4は恒温変態温度が低く80%以上のパーライト分率に満たないため強度が低下した。また、鋼H5では恒温変態温度が高いため強度が低下した例である。鋼H6では予歪みの量が少なくYSの所定の強度が得られない。鋼H7ではブルーイング温度が低くCの拡散が不十分であるためYSの所定の強度が得られない例である。鋼H8はブルーイング温度が高く時効硬化により延性が低下した。鋼H9はショットブラスト加工をしていないため耐遅れ破壊特性に対して一部に低地が発生した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、高延性で高強度の圧延PC鋼棒を、低コストで製造し、提供することができる。したがって、本発明は、工業的に非常に有用なものである。
Claims (8)
- 質量%で、C:0.8〜1.3%、Si:0.10〜2.5%、Mn:0.25〜2.0%、および、Al:0.05%以下、を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼であって、450〜550℃の温度で恒温変態を施してパーライト面積率が80%以上94%以下で、更に、表面にショットブラストが施された鋼からなり、YS(0.2%耐力)が1200MPa以上、TSが1400MPa以上で、且つ、伸びが4.5%以上であることを特徴とする高強度圧延PC鋼棒。
- 前記鋼が、更に、質量%で、Ti:0.005〜0.05%、Ca:0.0005〜0.005%、REM:0.0005〜0.005%、V:0.002〜0.5%、及び、Nb:0.005〜0.1%の1種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の高強度圧延PC鋼棒。
- 前記鋼が、更に、質量%で、B:0.0005〜0.01%、Cr:0.05〜2.0%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、及び、Mo:0.05〜0.50%の1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の高強度圧延PC鋼棒。
- 前記鋼の表層に、圧縮残留応力が蓄積されていることを特徴とする請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒。
- 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱後、熱間圧延して線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、次いで、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、3、または、4記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
- 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する鋼片を、オーステナイト領域まで加熱後、熱間圧延して線材とし、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、200〜500℃の温度及び0.5〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、3、または、4記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
- 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱後、冷却し、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、1〜4%の歪みを付与し、次いで、200〜500℃の温度で5〜600秒の保定時間でブルーイング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、3、または、4記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
- 請求項1、2、または、3記載の高強度圧延PC鋼棒に係る化学成分を有する線材を、オーステナイト領域まで再加熱後、冷却し、次いで、450〜550℃の温度で恒温変態を施し、その後、線材にショットブラストを施し、更に、200〜500℃の温度及び0.5〜6%の引張り歪みでヒートストレッチング処理を施すことを特徴とする請求項1、2、3、または、4記載の高強度圧延PC鋼棒の製造方法。
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