1.第1の実施形態
図1は第1の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置1の構成を示す。このアダプティブアレイアンテナ受信装置1は、QPSK、16QAM、および64QAM等のシングルキャリア変調が施された信号を受信するものである。受信する信号は図15のような構成を有し、パイロット信号とデータ信号は、さらに、シングルキャリア変調のシンボルが時系列に配列されたものとなっている。
ここで、シンボルとは変調信号を複素ベクトルで表した場合、複素ベクトルが複素平面上でとりうる位置をいう。この位置は変調方式において予め定められており、ディジタル信号の値が対応づけられている。また、変調信号が複数の成分、例えば同相成分(in−phase component:I)、および直交成分(Quadrature component:Q)の2成分に分解された上で処理が施される場合には、同相成分を横軸、直交成分を縦軸としたシンボル座標平面上において変調信号の各成分によって定まる位置をいう。例えば、64QAM変調方式では図2のように同相成分、直交成分のそれぞれにおいて8種類の値をとることができ、合計64種類、すなわち6ビットの情報を表現することができる。この位置は、変調信号を複素ベクトルで表した場合の当該複素ベクトルの複素平面上での位置と一致する。
図1のそれぞれのアンテナ50で受信された信号は、受信部10によって増幅されベースバンド信号に変換される。このベースバンド信号は、同相成分をIチャネル信号、直交成分をQチャネル信号とした2チャネル信号から構成される。受信部10から出力された信号は、アダプティブ処理部40が出力するウェイト係数に基づいて、ウェイト係数乗算部11において振幅と位相の調整を受ける。これは、先述の信号の振幅と位相を調整することの意義から、Iチャネル信号とQチャネル信号の振幅関係の調整を受けることと等価である。ウェイト係数乗算部11において振幅と位相の調整を受けた信号は合成部12によって合成される。合成部12はその合成された信号を合成受信信号として出力する。
合成部12から出力された合成受信信号からは、信号抽出部13によってパイロット信号とデータ信号が抽出される。一方、参照パイロット信号成生部からは、予め記憶されたパターンに基づいた参照パイロット信号が出力されており、減算部31において参照パイロット信号からパイロット信号を減算した信号である誤差信号が算出される。減算部31において算出された誤差信号は、アダプティブ処理部40に入力される。
また、信号抽出部13によって抽出されたデータ信号は、硬判定部20に入力され硬判定が行われる。硬判定とは、変調方式によって定義されていない位置にシンボルが存在する場合において、すなわち、シンボルが真値からずれた値を有する場合において、現シンボルの位置に基づいてそのシンボルが本来あるべき位置を判定する処理をいう。その判定は、1つの区画が、変調方式によって定義されているシンボルの位置を1つ含むようシンボル座標平面を区切り、1区画内に存在するシンボルは、その1区画内のいかなる位置に存在する場合であっても、1区画内で1つ定義されているシンボル位置に存在するものとみなすものである。例えば、図2のシンボルAは、区画(3,−5)内の64QAM変調方式では定義されていない位置に存在する。そこで、硬判定においては区画(3,−5)内に位置するシンボルAは、座標点(3,−5)に位置するものとみなして、シンボルの値を校正して出力する。以下の説明では、硬判定が行われた後のデータ信号を硬判定データ信号とする。なお、シンボルが真値から大きくずれて、そのシンボルが本来あるべき位置を含む区画の外に出たときは、そのシンボルが本来あるべき位置の判定を行うことが不可能となり、硬判定誤りを生ずることとなる。
減算部21においては、信号抽出部13によって抽出されたデータ信号を硬判定データ信号から減算した信号であるデータ誤差信号が算出され、アダプティブ処理部40に入力される。
一方、各受信部10から出力される信号は、ウェイト係数乗算部11に入力される他、別途、傍系信号としてアダプティブ処理部40に入力されている。
アダプティブ処理部40は、パイロット信号が受信されている間は、現時点のウェイト係数、誤差信号、および傍系信号に基づいて、LMSアルゴリズム、RLSアルゴリズム等の誤差信号を零に収束させるアルゴリズムを実行し、ウェイト係数を更新してウェイト係数乗算部11に入力する。また、データ信号が受信されている間は、現時点のウェイト係数、データ誤差信号、および傍系信号に基づいて、LMSアルゴリズム、RLSアルゴリズム等の誤差信号を零に収束させるアルゴリズムを実行し、ウェイト係数を更新してウェイト係数乗算部11に入力する。このアルゴリズムは、図15に示す信号の1シンボルを1ステップとして行われる。すなわち、アダプティブアレイアンテナ受信装置1が受信する信号において適用されているシングル変調方式のシンボル周波数に従って、ウェイト係数が更新されるわけである。
パイロット信号のパターンは、複数の無線通信局で同一のものが用いられているため、先述のように周波数分離が十分になされていない環境下では、パイロット信号のパターンの差異を小さくするようにアダプティブアレイアンテナ受信装置1のアンテナ指向性を制御しても、必ずしも所望波が到来する方向にアンテナ指向性を形成することができるとは限らない。一方、複数の無線通信局が送信するデータ信号はそれぞれ異なるため、干渉波は受信信号から抽出されるデータ信号が呈するシンボルを本来あるべき状態からずらしめるよう作用するはずである。したがって、干渉波によるシンボルのずれを小さくするようにアンテナ指向性を制御すれば、所望波が到来する方向にアンテナ指向性を形成することができるといえる。本実施形態においては、受信信号から抽出されたデータ信号が呈するシンボルの本来あるべき状態からのずれを反映したデータ誤差信号を算出し、これらを小さくするようアンテナ指向性を制御することで、所望波が到来する方向にアンテナ指向性を形成することを可能にしたものである。
2.第2の実施形態
一般に、ディジタルテレビ放送システムにおいてはOFDM変調方式が用いられている。上位局から中継局に送信されるOFDM変調信号は複数のサブキャリアから構成され、所定の数のサブキャリアを隔ててパイロット信号を変調したサブキャリアが挿入されている。そのためOFDM変調信号は、他の変調方式の信号に比して占有帯域幅が広い。ここで説明する第2の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置3は、このようなOFDM変調信号を受信するのに適した、図16に示すパイロット信号加算合計型のアダプティブアレイアンテナ受信装置102に本発明を適用するものである。次の(1)では、まず、本発明を適用しない場合のパイロット信号加算合計型のアダプティブアレイアンテナ受信装置102の構成および動作等について説明し、(2)において当該アダプティブアレイアンテナ受信装置102に本発明を適用した実施形態について説明することとする。なお、出願人は、特願2004−229412号において、パイロット信号加算合計型のアダプティブアレイアンテナ受信装置についての基本技術を提案している。
(1)パイロット信号加算合計型のアダプティブアレイアンテナ受信装置
図16に示すパイロット信号加算合計型のアダプティブアレイアンテナ受信装置102の動作について説明する前に、パイロット信号加算合計型のアダプティブアレイアンテナ受信装置102が受信するOFDM変調信号が如何にして生成されるものであるかについて説明する。
図17は、ディジタルテレビ放送システムの上位局における送信装置の一般的な構成を示したものである。送信ディジタルデータには、変調が施される前にパイロット信号挿入器60によってパイロット信号が挿入される。パイロット信号は単位サブキャリアデータ信号中にシンボルの既知のパターンを配列したものであり、システムで予め定められたサブキャリアデータ信号数を隔てて挿入される。地上波ディジタルテレビ放送システムにおけるパイロット信号に関する規格については、例えば、社団法人電波産業界発行の標準規格書ARIB STD−B31に記載されている。ここで、サブキャリアデータ信号とは、ディジタル信号あるいはディジタル信号を変調した信号を、そのディジタル信号の複数ディジット長で区切ったものをいい、単位サブキャリアデータ信号はその複数ディジットのディジタル信号と同等の情報を有する。パイロット信号が挿入された送信ディジタルデータは、変調部70に入力される。変調部70は、入力された信号に1次変調としてQPSK、16QAM、および64QAM等のシングルキャリア変調を施し、さらに2次変調としてOFDM変調を施す。一般に、2次変調としてOFDM変調が施される前の信号は周波数領域OFDM変調信号と、2次変調としてOFDM変調が施された後の信号は時間領域OFDM変調信号と称され、以下、この定義の下でこれらの語を用いる。
変調部70に入力された信号は、シングルキャリア変調器72においてシングルキャリア変調が施された後、シリアル/パラレル変換器74によってパラレルデータ信号に変換される。ここで生成されるパラレルデータはNサブキャリアデータをパラレルに配列したものであり、Nサブキャリアデータをベクトル成分とするN次元ベクトルで表される。時間領域OFDM変調信号は、サブキャリアデータの有効シンボル長を時間換算でTとしたとき、1/Tの周波数間隔でサブキャリアを配列するものであり、その複素包絡線振幅はサブキャリアデータを時系列で配列した信号の逆FFTで与えられる。したがって、時間間隔Tごとにシングルキャリア変調された送信信号を区切り、区切られた系列に逆FFTを施せば時間領域OFDM変調信号を生成することができる。ここでは、N次元ベクトルを成すパラレルデータにN点の逆FFTを施しパラレル/シリアル変換することで時間領域OFDM変調信号を得ている。なお、シリアル/パラレル変換器74および逆FFT演算器76は、シングルキャリア変調信号が同相成分、および直交成分の2成分から構成されることから、同相成分、直交成分それぞれに対してシリアル/パラレル変換および逆FFT演算処理を行う。また、パラレル/シリアル変換器78は、N個のシングルキャリア変調信号を合成して出力する。
図18は、送信装置2で生成された時間領域OFDM変調信号にFFTを施した周波数領域OFDM変調信号を重ねて示したものである。この例では周波数領域OFDM変調信号はN個のサブキャリアから構成され、rサブキャリアごと、すなわちrサブキャリアデータごとにパイロット信号が挿入されている。ここに、rは自然数である。ここで、N個のサブキャリアに含まれるサブキャリアデータから構成されるサブキャリアデータ群をOFDMシンボルと称する。また、単位OFDMシンボルはN個のサブキャリアデータから構成される。
上位局における送信装置2は、このようにして生成された時間領域OFDM変調信号を送信部80において無線周波数帯に周波数変換し、電力増幅を行ってアンテナ50から送信する。
次に、図16に示すアダプティブアレイアンテナ受信装置102が、送信装置2から送信された時間領域OFDM変調信号を受信する際の動作について説明する。複数のアンテナ50から受信された信号は、それぞれの受信部10において増幅され、適当な中間周波数への変換処理、A/D変換処理を受けた後ベースバンド信号に変換される。このベースバンド信号は直交検波によって得られるものであり、同相成分、および直交成分の2成分に対応する2系統の信号から構成される。これら2系統の信号はシングルキャリア復調が施された後に1系統の信号となるため、実際に受信部10の出力からアダプティブアレイアンテナ受信装置102の出力までの信号は、同相成分と直交成分の2成分については2系統の信号、すなわちIチャネル信号およびQチャネル信号で表されることとなるが、図16では説明の便宜上1系統で表現している。
受信部10が出力したベースバンド信号は、FFT演算部14に入力される。FFT演算部14によってFFTが施されて出力される周波数領域OFDM変調信号は、ウェイト係数乗算部11において振幅および位相の変化を受けた後、合成部12によって合成され、アダプティブアレイ受信装置の出力信号となる。なお、ウェイト係数乗算部11における振幅および位相の変化は、アダプティブ処理部40が出力するウェイト係数W(w1,w2,・・・,wL)によって決定される。ここにLはアレイアンテナの素子数であり、複素数wi(i=1,2,・・・,L)の絶対値は振幅の変化率を、複素角は位相の回転量を意味する。
ここで、信号を複素信号表現とした場合には、複素信号に複素数wiを乗ずることによってウェイト係数に従った振幅および位相の変化を与えることができる。また、信号が、同相成分をIチャネル信号、直交成分をQチャネル信号とした2チャネル信号から構成される場合には、I・Re(wi)−Q・Im(wi)を新たなIチャネル信号とし、I・Im(wi)+Q・Re(wi)を新たなQチャネル信号とする演算が、複素信号に複素数wiを乗ずる演算に相当する。これは、上述のベースバンド信号を構成する2つのチャネル信号の振幅関係を調整する、としたことの具体的表現に他ならない。
時間領域OFDM変調信号は、送信されたサブキャリアデータ系列Z(z1,z2,・・・)をなすサブキャリアデータzi(i=1,2,・・・)の有効シンボル長を時間換算でTとしたとき、1/Tの周波数間隔でサブキャリアを配列するものであり、その複素包絡線振幅は送信ディジタルデータの逆FFTで与えられる。したがって、時間間隔Tごとに1次変調された送信信号を区切り、区切られた系列に逆FFTを施すことで時間領域OFDM変調信号が生成される。本実施形態においては、先述の通り、N次元ベクトルを成すパラレルデータにN点の逆FFTを施すことで時間領域OFDM変調信号が得られているものとしている。また、サブキャリアデータ系列Zはシングルキャリア変調信号で表されるものとしている。シングルキャリア変調信号は、システム仕様で定められたシングルキャリアシンボル周期ごとにシングルキャリアシンボルが現れるよう2系統の信号からなるベースバンド信号を以て単位シンボルを表すものであり、上述の1つのサブキャリアデータziには少なくとも1つのシンボルが配列されている。
合成部12が出力した周波数領域OFDM変調信号、すなわちアダプティブアレイアンテナ受信装置102の出力信号からは、サブキャリアデータごとにシングルキャリア復調を施すことで受信ディジタルデータが得られる。
また、合成部12が出力した周波数領域OFDM変調信号はパイロット信号抽出部90に入力され、そこで抽出されたパイロット信号は加算合計部22bに入力される。ここで加算合計部22bに入力されるパイロット信号は、単位OFDMシンボル中に含まれるパイロット信号が割り当てられた複数のサブキャリアデータをベクトル成分として有するベクトルで表現されるものである。以下、このベクトルをパイロット信号ベクトルと称する。以下、ベクトルというときは、単位OFDMシンボルから抽出された複数のサブキャリアデータをベクトル成分として有するベクトルを意味するものとする。
加算合計部22bにおいてはパイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルが加算合計され、パイロット信号加算合計値としてアダプティブ処理部40に入力される。ここで、パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計するとは、パイロット信号ベクトルのベクトル成分をシンボルの配列とみなし、配列されているシンボルをベクトル加算合計することを意味する。すなわち、パイロット信号ベクトルのベクトル成分は、単位OFDMシンボル中に含まれるサブキャリアデータと対応付けられており、1つのサブキャリアデータには、先述のように少なくとも1つのシンボルが配列されていることから、パイロット信号ベクトルのベクトル成分はシンボルの配列とみなすことができ、配列されているシンボルのベクトル加算合計が定義されるのである。
ここで、パイロット信号抽出部90の動作について、時間領域OFDM変調信号のデータ構成を参照しつつ説明する。図18は、送信装置2で生成された時間領域OFDM変調信号にFFTを施した周波数領域OFDM変調信号を重ねて示したものであるが、これは受信された時間領域OFDM変調信号にFFTを施した周波数領域OFDM変調信号を重ねて示したものと捉えることも可能である。パイロット信号抽出部90は単位OFDMシンボルにおいてrサブキャリアデータごとに現れるパイロット信号を含むサブキャリアからパイロット信号を抽出し、これらをベクトル成分とするパイロット信号ベクトルを生成する。ここで、N=5617、r=12とすれば、単位OFDMシンボル中には468個のパイロット信号が含まれるので、パイロット信号ベクトルは468個のパイロット信号を成分とするものとなる。
パイロット信号がいくつのサブキャリアデータごとに現れるかを表すrの値は、システム設計において予め定められている。したがって、パイロット信号抽出部90はパイロット信号が現れるタイミングをrの値に基づいて検知して、rサブキャリアデータごとにパイロット信号を抽出すればよい。
また、参照パイロット信号生成部30から出力される参照パイロット信号ベクトルは、加算合計部22aに入力され、参照パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルの加算合計値である参照パイロット信号加算合計値が算出される。
減算部31においては、参照パイロット信号加算合計値からパイロット信号加算合計値を減ずることによりパイロット誤差dが算出される。
一方、各受信部10が出力したベースバンド信号はFFTが施されてウェイト係数乗算部11に入力される他、別系統でパイロット信号抽出部91にも入力される。パイロット信号抽出部91はアレイアンテナの素子数と同じ数だけ設けられており、1組のウェイト係数Wの要素それぞれについて傍系パイロット信号ベクトルを抽出する。
パイロット信号抽出部91が出力した傍系パイロット信号は、傍系パイロット信号ベクトルとして加算合計部41に入力され、1組のウェイト係数Wの要素それぞれについて傍系パイロット信号加算合計値が算出される。
アダプティブ処理部40は、パイロット誤差dと、1組のウェイト係数Wの要素それぞれについて算出された傍系パイロット信号加算合計値とに基づいてウェイト係数を算出し、ウェイト係数乗算部に入力する。
アダプティブ処理部40が、パイロット誤差dおよび傍系パイロット信号加算合計値に基づいてウェイト係数を算出する処理は、LMSアルゴリズム、RLSアルゴリズム、SMIアルゴリズム等、周知のアルゴリズムによって行うことができる。これらのアルゴリズムは、単位OFDMシンボルを1ステップとする漸化式で表され、アルゴリズムの1ステップごとにウェイト係数Wが更新されていくものである。
このように、パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した値に基づいてウェイト係数を算出するのは、時間領域OFDM変調信号の占有周波数帯域幅が広いことによって次のような問題が生ずるためである。
アダプティブアレイアンテナ受信装置102で受信される電磁波には、上位局のアンテナからアダプティブアレイアンテナ受信装置102へ直接到来するもののほか、山岳や建造物において反射して到来するものがある。これらの到来波は位相が揃っていないため、受信地点によっては振幅を強め合ったり弱め合ったりする。このような現象をマルチパス干渉という。図19はマルチパス干渉を受けた受信信号の様子と復調後の受信信号データを、受信信号の周波数と対応させて重ねて示したものである。この図からわかるように、受信帯域内にマルチパス干渉による減衰点がある場合、減衰点の周波数とパイロット信号を含むサブキャリアの周波数が一致してしまうと、正確なパイロット信号を得ることができないため、このパイロット信号のみによって計算されたウェイト係数には大きな誤差が生じてしまう。
パイロット信号を用いて適応等化器などを動作させる場合には、各サブキャリアの周波数における伝搬特性を適応等化器の処理特性に忠実に反映させる必要がある。しかしながら、アダプティブアレイアンテナ受信装置の指向性を決定する場合にあっては、アダプティブアレイアンテナの指向性を時間領域OFDM変調信号の占有周波数帯域内で周波数に応じて大きく変化させる必要がある状況は稀であり、むしろマルチパス干渉が特定のサブキャリアに及ぼす影響は、時間領域OFDM変調信号の占有周波数帯域内での指向性決定に対して非支配的である方が好ましい。
したがって、特開2003−174427号公報に開示されているような、パイロット信号が含まれる複数のサブキャリアに対して算出した複数のウェイト係数を補間することで、占有周波数帯域内のウェイト係数を算出する構成では、マルチパス干渉がパイロット信号を含むサブキャリアに及ぼす影響が指向性決定に支配的となるため好ましいとはいえない。
パイロット信号加算型のアダプティブアレイアンテナ受信装置102は、このような問題に対処するものである。すなわち、受信した時間領域OFDM変調信号の占有周波数帯域内にマルチパス干渉による減衰点があり、減衰点の周波数とパイロット信号を含むサブキャリアの周波数が一致したとしても、ウェイト係数は単位OFDMシンボルに含まれるすべてのパイロット信号の寄与によって算出されるため、当該減衰点による影響は低減され、マルチパス干渉に対して十分な耐性を実現することができるのである。
(2)本発明を適用したパイロット信号加算合計型のアダプティブアレイアンテナ受信装置(本発明の第2の実施形態)
図3に第2の実施形態のアダプティブアレイアンテナ受信装置3の構成を示す。図16に示すアダプティブアレイアンテナ受信装置102と同一の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図16のアダプティブアレイアンテナ受信装置102と同様、各アンテナ50で受信された信号は、受信部10、FFT演算部14、およびウェイト係数乗算部11を経て合成部12に入力され、合成部12からは合成受信信号が出力される。
合成部12から出力された合成受信信号からは、信号抽出部13によってパイロット信号とデータ信号が抽出される。合成受信信号から抽出されたパイロット信号は、パイロット信号ベクトルとして加算合計部22bに入力される。ここに、パイロット信号ベクトルのベクトルの語は、先に説明したように、単位OFDMシンボルから抽出された複数のサブキャリアデータをベクトル成分として有するベクトルを意味し、以下、同様の定義でベクトルの語を用いる。加算合計部22bはパイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した結果であるパイロット信号加算合計値を算出して出力する。
また、参照パイロット信号生成部30から出力される参照パイロット信号は、参照パイロット信号ベクトルとして加算合計部22aに入力され、加算合計部22aは参照パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した結果である参照パイロット信号加算合計値を算出して出力する。
減算部31においては、参照パイロット信号加算合計値からパイロット信号加算合計値が減算され、パイロット誤差dが算出される。
一方、信号抽出部13から抽出されたデータ信号は、硬判定部20に入力され硬判定が行われる。硬判定部20から出力される硬判定データ信号は、硬判定データ信号ベクトルとして加算合計部22cに入力される。
加算合計部22cは硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した結果である硬判定データ信号加算合計値を算出して出力する。また、同様にして、信号抽出部13から抽出されたデータ信号は、データ信号ベクトルとして加算合計部22dに入力される。加算合計部22dはデータ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した結果であるデータ信号加算合計値を算出して出力する。
減算部21においては硬判定データ信号加算合計値からデータ信号加算合計値が減算され、さらに加算部23においてはその減算結果にパイロット誤差dが加算されて、パイロット・硬判定誤差eが算出される。
図16に示すアダプティブアレイアンテナ受信装置102と同様、各受信部10が出力したベースバンド信号はFFTが施されてウェイト係数乗算部11に入力される他、別系統で加算合計部41に入力されている。加算合計部41においては、入力された信号に含まれるパイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボル、および入力された信号に含まれるデータ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計し、傍系信号加算合計値として出力する。
なお、傍系信号加算合計値を算出する構成部は、アレイアンテナの素子数と同じ数だけ設けられており、1組のウェイト係数Wの要素それぞれについて傍系信号加算合計値が算出される。
アダプティブ処理部40は、パイロット・硬判定誤差eと、1組のウェイト係数の要素それぞれについて算出された傍系信号加算合計値に基づいてウェイト係数を算出し、算出されたウェイト係数を出力する。
パイロット・硬判定誤差eは、受信信号から得られたパイロット信号のパターンと、自ら生成したパイロット信号のパターンの差異のみならず、受信信号から抽出されたシンボルの本来あるべき状態からのずれを、単位OFDMシンボルごとに反映したものである。先述のように、パイロット信号のパターンは複数の無線通信局で同一のものが用いられているため、パイロット信号のパターンの差異を小さくするようにアダプティブアレイアンテナ受信装置3のアンテナ指向性を制御しても、必ずしも所望波が到来する方向にアンテナ指向性が形成されるとは限らない。一方、複数の無線通信局が送信するデータ信号は互いに異なるため、干渉波は受信信号から抽出されるシンボルを本来あるべき状態からずらしめるよう作用するはずである。そこで、シンボルの状態が本来あるべき状態からのずれを小さくするようにアンテナ指向性を制御すれば、所望波が到来する方向にアンテナ指向性を形成することができ、本実施形態はこの原理を適用している。さらに、パイロット・硬判定誤差eは、単位OFDMシンボルごとにパイロット信号とデータ信号のそれぞれからベクトルを抽出し、抽出されたベクトルのベクトル成分をなすシンボルの加算合計値に基づいて算出される誤差であるため、マルチパス干渉に対する耐性を高めることができる。
3.第3の実施形態
第2の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置3では、パイロット・硬判定誤差eを算出するため、OFDMシンボルに含まれるデータ信号が呈する全てのシンボルについて硬判定を行い、硬判定が行われたすべてのシンボルに基づいて硬判定データ信号加算合計値を算出する。また、これまでの説明では硬判定が誤りを生ずることなく行われることを前提としてきた。しかしながら、希望波対干渉波比あるいは希望波対雑音比が小さくなると、硬判定誤りを生ずる確率が高くなり、硬判定データ信号加算合計値が真値から大きくずれてしまい、アンテナ指向性を確実に制御することが不可能となる。
また、先述の例では、単位OFDMシンボルは5617個のサブキャリアデータから構成され、そのうちの468個にパイロット信号が、5149個にデータ信号が割り当てられている。この例からもわかるように、データ信号はパイロット信号の10倍もの情報を有し、データ信号が呈するすべてのシンボルの値を反映させてパイロット・硬判定誤差eを算出することは冗長度を増大せしめ、高速処理の観点から不利であるといえる。
そこで、データ信号が呈するシンボルうち硬判定誤りが生じている確率が低いシンボルのみを、パイロット・硬判定誤差eの算出に寄与させることとしたものが図4に示す第3の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置4である。アダプティブアレイアンテナ受信装置4では、硬判定部20の後段に四隅検出部24を設け、四隅検出部24の制御によって動作する間引き部25,44を加算合計部22,41に前置した点が、第2の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置3と異なる。以下の説明においては、第2の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置3と同一の構成部については同一の符号を付し、説明を省略する。
本実施形態では、硬判定データ信号が呈するシンボルのうち、シンボル座標平面上において四隅に配置されるシンボルは、硬判定誤り確率が低いという性質を利用している。以下、シンボル座標平面上において四隅に配置されているシンボルを四隅シンボルとする。図5の64QAM変調方式の例では、座標点(7,7)、(−7,7)、(−7,−7)、(7,−7)に位置するシンボルが四隅シンボルということになる。例えば、希望波と干渉波が同時に受信されている結果、データ信号が呈するシンボルが真値から半径√2の円内に一様な頻度で生ずる場合について考える。このとき、硬判定によりシンボルが図5の座標点(3,1)に存在するものであると判定されたとしても、これが座標点(1,1)、(3,−1)、(5,1)、(3,3)のうちいずれかに存在するものであると判定すべきであったところの誤りである蓋然性がある。すなわち、データ信号が呈するシンボルが真値から半径√2の円内に一様な頻度で生ずるものとすれば、硬判定誤り確率は4/5=0.8である。ただし、実際には円の中心に近い程、シンボル発生頻度が高くなるため、硬判定の誤り確率はこれより低い値となる。一方、同一条件下、硬判定によりシンボルが図5の座標点(7,7)に存在すると判定されたとしても、これが座標点(5,7)、(7,5)のうちいずれかに存在するものであると判定すべきであったところの誤りである蓋然性があり、硬判定誤り確率は2/3=0.67である。この例からもわかるように、シンボル座標平面上において四隅に配置されるシンボルは、それ以外の位置に配置されるものに比して硬判定誤り確率が低く、四隅シンボルのみをパイロット・硬判定誤差eの算出に寄与させることは、干渉波、雑音の存在下でアンテナ指向性を最適に決定するという観点から得策であるといえる。
間引き部25aは、硬判定部20から入力された硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計する際に、そして、間引き部25bは、信号抽出部13から入力されたデータ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計する際に、四隅シンボルのみを加算するように動作するものである。
四隅検出部24は、硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルが、四隅シンボルであることを検出し間引き部25を制御する。すなわち、四隅検出部24は、四隅検出部24に四隅シンボルが入力されたときのみ、加算合計部22c、22dへシンボルを入力するよう間引き部25a、25bを制御するのである。これによって、硬判定データ信号加算合計値およびデータ信号加算合計値は四隅シンボルのみの加算によって算出されることになる。
第2の実施形態と同様、各受信部10が出力したベースバンド信号はFFTが施されてウェイト係数乗算部11に入力される他、別系統で信号抽出部43に入力される。信号抽出部43から抽出されたパイロット信号は、パイロット信号ベクトルとして加算合計部41に入力される。また、信号抽出部43から抽出されたデータ信号は、データ信号ベクトルとして間引き部44へ入力される。間引き部44は四隅検出部24の制御によって、四隅シンボルのみを加算合計部41に入力する。加算合計部41は、パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルと、データ信号ベクトルのベクトル成分の一部をなす四隅シンボルの加算合計値を算出し、傍系信号加算合計値としてアダプティブ処理部40に入力する。
なお、傍系信号加算合計値を算出する構成部は、アレイアンテナの素子数と同じ数だけ設けられており、1組のウェイト係数の要素それぞれについて傍系信号加算合計値が算出される。
アダプティブ処理部40が、パイロット・硬判定誤差eと傍系信号加算合計値に基づいてウェイト係数を算出し、算出されたウェイト係数を出力する動作については図3のアダプティブアレイアンテナ受信装置3と同様である。
4.第4の実施形態
上述の第3の実施形態では、受信部10の出力にFFT演算部14を設け周波数領域OFDM変調信号に対してウェイト係数乗算を施す構成としていた。しかしながら、ウェイト係数乗算は必ずしも周波数領域OFDM変調信号に対して施す必要はなく、時間領域OFDM変調信号に対して施すものとしてもよい。そこで、時間領域OFDM変調信号に対してウェイト係数乗算を施す構成としたものが、図6に示す第4の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置5である。FFT演算部14は信号抽出部13,43の直前に設けられ、パイロット信号およびデータ信号を抽出する直前において、時間領域OFDM変調信号が周波数領域OFDM変調信号に変換される。アダプティブアレイアンテナ受信装置5の出力信号は、合成部12の後段に設けられるFFT演算部14の入力部あるいは出力部から取り出せばよい。ただし、FFT演算部14の入力部から取り出す場合、出力信号は時間領域OFDM変調信号となり、FFT演算部14の出力部から取り出す場合、出力信号は周波数領域OFDM変調信号となる。
5.第5の実施形態
本発明の第3の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置4では、パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボル、あるいはデータ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計することによってパイロット・硬判定誤差eと傍系信号加算合計値を算出している。このようなシンボルが、シンボル座標平面上に均一かつ同一頻度で現れるものとすると、パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボル、あるいはデータ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルの加算合計値は零に近い値となる。例えば、データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルのうち四隅シンボルのみを加算合計する場合について考えると、図7に示されるように、この加算合計はベクトル合成演算であるため零に近い値となる。
これによって、第3の実施形態においては、参照パイロット信号加算合計値、四隅シンボルのみによって算出されたデータ信号加算合計値、および四隅シンボルのみによって算出された硬判定データ信号加算合計値の値が著しく小さくなってしまう。これらの値にアダプティブアレイアンテナ受信装置4で受信された干渉信号や雑音が重畳されると、これらの値の有効桁が干渉信号や雑音に埋もれてしまい、アダプティブアルゴリズムの実行に支障をきたし、アンテナ指向性を制御することが不可能となる。
そこで、本実施形態においては、パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボル、あるいはデータ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを、シンボル座標平面の原点を通る直線上に回転移動し、その後加算合計することによってパイロット・硬判定誤差eと傍系信号加算合計値を算出することとした。回転移動先の直線は、シンボル座標平面の原点を通る直線であれば任意のものでよいが、座標軸をこれに選ぶことによって計算処理が簡便になる。
図8(a)はBPSK変調されたパイロット信号が呈するシンボルの回転移動の例を示しており、同相成分軸(I軸)の正値側にシンボルを回転移動させる様子を示している。これを複素平面とみなせば、この回転演算は、複素信号表現のパイロット信号にe−jθpを乗ずることを意味する。ここに、θpはパイロット信号が呈するシンボルのI軸に対する偏角であり、図8(a)の点P0ではθp=0、点P1ではθp=πである。また、図8(b)は64QAM変調されたデータ信号が呈する四隅シンボルの回転移動の例を示しており、同相成分軸(I軸)の正値側にシンボルを回転移動させる様子を示している。これを複素平面とみなせば、この回転演算は、複素信号表現のデータ信号にe−jθdを乗ずることを意味する。ここに、θdはデータ信号が呈するシンボルのI軸に対する偏角であり、図8(b)の、点D0、点D1、点D2、点D3のそれぞれについて、θp=π/4、3π/4、−π/4、−3π/4となる。
図9に本実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置6の構成を示す。加算合計部22,41に回転演算子を乗ずるための乗算部27,46を前置し、当該乗算部27,46に入力される回転演算子を生成する回転演算子生成部26,45を設けた点が、第3の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置4と異なる。以下の説明においては、第3の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置4と同一の構成部については同一の符号を付し、説明を省略する。
回転演算子生成部26aは、参照パイロット信号生成部30から出力される参照パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルから、シンボル座標平面上での偏角θpを算出し、回転演算子e−jθpを算出して乗算部27aおよび乗算部27bに入力する。
参照パイロット信号生成部30から出力された参照パイロット信号は、乗算部27aにおいて回転演算子e−jθpによる回転演算が施され、回転後参照パイロット信号ベクトルとして加算合計部22aに入力される。加算合計部22aは回転後参照パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算し、その加算合計値である回転後参照パイロット信号加算合計値を算出して出力する。
図4のアダプティブアレイアンテナ受信装置4と同様、各アンテナ50で受信された信号は、受信部10、FFT演算部14、およびウェイト係数乗算部11を経て合成部12に入力され、合成部12からは合成受信信号が出力される。合成部12から出力された合成受信信号からは、信号抽出部13によってパイロット信号が抽出される。合成受信信号から抽出されたパイロット信号は、乗算部27bにおいて回転演算子e−jθpによる回転演算が施され、回転後パイロット信号ベクトルとして加算合計部22bに入力される。加算合計部22bは回転後パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した結果である回転後パイロット信号加算合計値を算出して出力する。
減算部31においては、回転後参照パイロット信号加算合計値から回転後パイロット信号加算合計値が減算され、パイロット誤差dが算出される。
また、合成部12から出力された合成受信信号からは、信号抽出部13によってパイロット信号の他、データ信号が抽出され、硬判定部20に入力される。硬判定部20は、硬判定の結果を硬判定データ信号ベクトルとして出力する。
回転演算子生成部26bは、硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルのシンボル座標平面上での偏角θdを算出し、回転演算子e−jθdを算出して乗算部27cおよび乗算部27dに入力する。
また、硬判定部20から出力された硬判定データ信号ベクトルは間引き部25aに入力され、間引き部25aによって、硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分の一部をなす四隅シンボルのみが乗算部27cに入力される。間引き部25aは、第2の実施形態において説明したように、硬判定データ信号ベクトルに対して四隅検出を行う四隅検出部24の制御によって動作する。乗算部27cに入力された硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分の一部をなす四隅シンボルは、回転演算子e−jθdによる回転演算が施され、回転後硬判定データ信号ベクトルとして加算合計部22cに入力される。加算合計部22cは回転後硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した結果である回転後硬判定データ信号加算合計値を算出する。
他方、信号抽出部13によって抽出されたデータ信号は、データ信号ベクトルとして硬判定部20に入力される他、硬判定がなされずに別系統で間引き部25bに入力される。間引き部25bは、データ信号ベクトルをなすシンボルのうち四隅シンボルのみを乗算部27dに入力する。乗算部27dに入力されたデータ信号ベクトルのベクトル成分の一部をなす四隅シンボルは、回転演算子e−jθdによる回転演算が施され、回転後データ信号ベクトルとして加算合計部22dに入力される。加算合計部22dは回転後データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルを加算合計した結果である回転後データ信号加算合計値を算出する。
減算部21においては、回転後硬判定データ信号加算合計値から回転後データ信号加算合計値が減算され、さらに加算部23においてその減算結果にパイロット誤差dが加算されて、パイロット・硬判定誤差eが算出される。
第2の実施形態と同様、各受信部10が出力したベースバンド信号はFFTが施されてウェイト係数乗算部11に入力される他、別系統で信号抽出部43に入力される。信号抽出部43から抽出されたパイロット信号ベクトルは乗算部46aにおいて回転演算子e−jθpによる回転演算が施され、回転後傍系パイロット信号ベクトルとして加算合計部41に入力される。
また、信号抽出部43から抽出されたデータ信号は、データ信号ベクトルとして間引き部44に入力される。間引き部44は、データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルのうち四隅シンボルのみを乗算部46bに入力する。乗算部46bに入力されたデータ信号ベクトルのベクトル成分の一部をなす四隅シンボルは、回転演算子e−jθdによる回転演算が施され、回転後傍系データ信号ベクトルとして加算合計部41に入力される。
なお、回転演算に際して回転演算子生成部45aは、参照パイロット信号生成部30から出力される参照パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルから、シンボル座標平面上での偏角θpを算出し、回転演算子e−jθpを算出して乗算部46aに入力している。同様に、回転演算子生成部45bは、硬判定データ信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルから、シンボル座標平面上での偏角θdを算出し、回転演算子e−jθdを算出して乗算部46bに入力している。
加算合計部41においては、回転後傍系パイロット信号ベクトルのベクトル成分をなすシンボルと、回転後傍系データ信号ベクトル成分をなすシンボルの加算合計値が算出され、回転後傍系信号加算合計値としてアダプティブ処理部40に入力される。
なお、回転後傍系信号加算合計値を算出する構成部は、アレイアンテナの素子数と同じ数だけ設けられており、1組のウェイト係数Wの要素それぞれについて回転後傍系信号加算合計値が算出される。
アダプティブ処理部40が、パイロット・硬判定誤差eと回転後傍系信号加算合計値に基づいてウェイト係数を算出し、算出されたウェイト係数を出力する動作については図4のアダプティブアレイアンテナ受信装置4と同様である。
6.第6の実施形態
上述の第5の実施形態では、受信部10の出力にFFT演算部14を設け周波数領域OFDM変調信号に対してウェイト係数乗算を施す構成としていた。しかしながら、ウェイト係数乗算は必ずしも周波数領域OFDM変調信号に対して施す必要はなく、時間領域OFDM変調信号に対して施すものとしてもよい。そこで、時間領域OFDM変調信号に対してウェイト係数乗算を施す構成としたものが、図10に示す第6の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置7である。FFT演算部14は信号抽出部13,43の直前に設けられ、パイロット信号およびデータ信号を抽出する直前において、時間領域OFDM変調信号が周波数領域OFDM変調信号に変換される。アダプティブアレイアンテナ受信装置7の出力信号は、合成部12の後段に設けられるFFT演算部14の入力部あるいは出力部から取り出せばよい。ただし、FFT演算部14の入力部から取り出す場合、出力信号は時間領域OFDM変調信号となり、FFT演算部14の出力部から取り出す場合、出力信号は周波数領域OFDM変調信号となる。
7.第7の実施形態
本発明の第5の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置6では、回転後傍系信号加算合計値を算出する構成部に、信号抽出部43、回転演算子生成部45、乗算部46、間引き部44、加算合計部41が含まれ、構成が複雑であり演算量が膨大なものとなっている。また、当該構成部は、アンテナ素子数と同じ数だけ設けられるため、当該構成部を簡単な構成とすることは、装置全体の構成簡便化への寄与が大きいといえる。
そこで、図11に示す本実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置8では、回転後傍系信号加算合計値を算出するための、信号抽出部43、間引き部44を特に設けない構成とした。以下、図9のアダプティブアレイアンテナ受信装置6と同一の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。 各受信部10が出力したベースバンド信号はFFTが施されてウェイト係数乗算部11に入力される他、回転後傍系信号加算合計値を算出するため、別系統で受信信号ベクトルXとして乗算部46に入力される。この乗算部46で掛け合わされる演算量は、演算子配置ベクトルHであり、演算子配置部28によって算出される。
図12(a)は、演算子配置部28が算出する演算子配置ベクトルHを示す。図12に示されているkは周波数領域OFDM変調信号のサブキャリアデータの数である。単位OFDMシンボルのサブキャリアに対応して、回転演算子生成部26aが算出した回転演算子e−jθpおよび回転演算子生成部26bが算出した回転演算子e−jθdが配置されている。また、四隅シンボル以外のシンボルについては、演算を作用させる必要がないため零が配置される。
演算子配置ベクトルHは乗算部46に入力され、回転後傍系信号加算合計値を算出するため、別系統で乗算部46に入力された受信信号ベクトルXに掛け合わされる。図12(b)は受信信号ベクトルXの構成を示す。配置演算子ベクトルHは、四隅シンボル以外のシンボルについては零が配置されており、この零の配置は第5の実施形態における間引き部44と同様に作用する。また、θi=ψiの関係があるため、受信信号ベクトルXのベクトル成分をなすシンボルは、同相成分軸に回転移動される。図12(c)はこのように回転移動された結果である受信信号ベクトルYの構成を示す。乗算部46において回転演算子ベクトルHが掛け合わされて出力された受信信号ベクトルYは、加算合計部41に入力され、そのベクトル成分をなすシンボルが加算合計されて、回転後傍系信号加算合計値としてアダプティブ処理部40に入力される。
なお、回転後傍系信号加算合計値を算出する構成部は、アレイアンテナの素子数と同じ数だけ設けられており、1組のウェイト係数Wの要素それぞれについて回転後傍系信号加算合計値が算出される。
アダプティブ処理部40が、パイロット・硬判定誤差eと回転後傍系信号加算合計値に基づいてウェイト係数を算出し、算出されたウェイト係数を出力する動作については図9のアダプティブアレイアンテナ受信装置6と同様である。
また、ここでは、シンボルを同相成分軸上に回転移動させる実施形態となっているが、原点を通る任意の直線上に回転移動させる構成も可能であることはいうまでもない。
8.第8の実施形態
上述の第7の実施形態では、受信部10の出力にFFT演算部14を設け周波数領域OFDM変調信号に対してウェイト係数乗算を施す構成としていた。しかしながら、ウェイト係数乗算は必ずしも周波数領域OFDM変調信号に対して施す必要はなく、時間領域OFDM変調信号に対して施すものとしてもよい。そこで、時間領域OFDM変調信号に対してウェイト係数乗算を施す構成としたものが、図13に示す第8の実施形態に係るアダプティブアレイアンテナ受信装置9である。FFT演算部14は信号抽出部13,乗算部46の直前に設けられ、パイロット信号およびデータ信号を抽出する直前において、時間領域OFDM変調信号が周波数領域OFDM変調信号に変換される。アダプティブアレイアンテナ受信装置9の出力信号は、合成部12の後段に設けられるFFT演算部14の入力部あるいは出力部から取り出せばよい。ただし、FFT演算部14の入力部から取り出す場合、出力信号は時間領域OFDM変調信号となり、FFT演算部14の出力部から取り出す場合、出力信号は周波数領域OFDM変調信号となる。
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明はこれらの実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において様々な実施形態が可能であることはいうまでもない。
1,3,4,5,6,7,8,9,101,102 アダプティブアレイアンテナ受信装置、2 送信装置、10 受信部、11 ウェイト係数乗算部、12 合成部、13,43 信号抽出部、14 FFT演算部、20 硬判定部、21,31 減算部、22a〜22d,41 加算合計部、23 加算部、24 四隅検出部、25a,25b,44 間引き部、26a〜26d,45a,45b 回転演算子生成部、27a〜27d,46,46a,46b 乗算部、28 演算子配置部、30 参照パイロット信号生成部、40 アダプティブ処理部、50 アンテナ、60 パイロット信号挿入器、70 変調部、72 シングルキャリア変調器、74 シリアル/パラレル変換器、76 逆FFT演算器、78 パラレル/シリアル変換器、80 送信部、90,91 パイロット信号抽出部。