JP4426064B2 - 脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、膵臓のインビトロ形成方法、より詳しくは、脊椎動物の胞胚の予定外胚葉域をアクチビンとレチノイン酸で時間差をつけて処理し、その後培養することを特徴とする膵臓のインビトロ形成方法や、インビトロで誘導した膵臓や、インビトロで誘導した膵臓を利用した膵臓に起因する疾病の診断・治療に有用な物質のスクリーニング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
すべての多細胞動物の発生は受精にはじまり、細胞***(卵割)と細胞分化を経て、多くの組織とバランスのとれた体制をもつ個体として完成されるが、このような分化のプロセスはきわめて複雑であり、誘導現象と呼ばれる重要な細胞間の相互作用が多段階にわたって行われていると考えられ、そして、もっとも重要なのは「形作りを支配する分子」の解明といわれており、またこのような研究の材料として、主に両生類胚がよく用いられるが、体づくりの基本的な法則はすべての脊椎動物に共通であり、相同な遺伝子は異なった生物種においてもきわめて類似した機能をもつことが知られている。
【0003】
従来より、両生類の胚は実験発生学においてきわめて重要な材料とされ、多くの研究がなされてきている。その理由は、体外で受精と発生をおこない、卵が大きいために胚手術が可能で、経時的変化を容易に観察できることにある。両生類の原腸胚の原口上唇部は特殊な領域であり、他の胚の腹側にこれを移植すると頭部もしくは胴尾部を含む二次胚が誘導され、このことから、原口上唇部は胚の体制を決定し形態形成の中心として働く領域として形成体(organizer)と名付けられており、形成体は原腸陥入の間に予定外胚葉へと働きかけて中枢神経を誘導し、それ自身は背側の中胚葉及び前方内胚葉に分化することはよく知られている。
【0004】
一方、膵臓はほとんどの脊椎動物、すなわち哺乳類、鳥類、は虫類、両生類に共通した組織形態と発生様式を示す内分泌、および外分泌器官であり、発生過程においては、内胚葉から背側原基と腹側原基が生じ、これらが融合して膵臓が形成されることが知られている(Development 121, 1569-1580, 1995)。
【0005】
胚発生の過程では内胚葉の近傍には中胚葉が存在し、膵臓の分化には内胚葉に対する間充織からの作用が必要であるとされてきた(Dev. Biol. 4, 242-255, 1962)。また最近の研究から、ニワトリの膵臓形成には脊索の関与が必要であり、背索が近傍の内胚葉におけるShhの発現を抑制することによって膵臓が分化するが、脊索の作用によって膵臓へ分化するのは膵臓予定域の内胚葉であり、膵臓予定域以外の内胚葉では脊索が共存しても膵臓には分化しないことが報告されている(Development 124, 4243-4252, 1997、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 13036-13041, 1998、Genes and Dev. 12, 1705-1713, 1998)。
【0006】
また、遺伝子レベルでの研究では、マウスの膵臓原基で発現するipf−1やpdx−1として知られているホメオボックス遺伝子が膵臓の形成過程に必須であり、ipf−1のジーンターゲッティング実験から、この遺伝子をもたないマウス胚は膵臓を欠損することが報告されている(Nature 371, 606-609, 1994)。しかし、この遺伝子を欠損しても膵臓の原基は形成され、グルカゴン陽性細胞の存在も確認されている(Development 122, 983-995, 1996)。また、アフリカツメガエルの胞胚の植物極細胞はPDX−1のホモログで膵臓特異的転写因子であるXlHbox8と小腸上皮のマーカーであるIFABPのどちらも発現するが、内胚葉でのTGF−β系のシグナルを阻害すると,XlHbox8の発現が阻害されることが知られている(Development 122, 1007-1015, 1996)。
【0007】
他方、レチノイン酸は前後軸に沿った胚のパターンニングに対する調節因子であること(Nature 340, 140-144, 1989、Development 112, 945-958, 1991、Dev. Biol. 192, 1-16, 1997、Zool. Sci. 15, 879-886, 1998)や、このレチノイン酸がツメガエル胚における前方神経組織を後方化させ、中胚葉の発達において影響を及ぼすこと(Genes Dev. 5, 175-187, 1991、Develop. Growth. Differ. 35, 123-128, 1993)が知られている。また、ツメガエルアニマルキャップ細胞(animal cap cell)にアクチビンの投与量を変化させて処理することにより脊索、筋肉、間充織及び体腔上皮のようなほとんどの中胚葉組織を誘導することができること(Roux's Arch. Dev. Biol. 198, 330-335, 1990、Nature 347, 391-394, 1990、Roux's Arch. Dev. Biol. 200, 230-233, 1991)や、アクチビンと共処理するレチノイン酸の投与量を変化させることにより、アニマルキャップ細胞から分化する脊索、筋肉及び前腎のような中胚葉組織を側後方化させること(Develop. Growth. Differ. 35, 123-128, 1993)が報告されている。
【0008】
内胚葉性器官に対するレチノイン酸の作用については、発生段階22〜32のツメガエル胚をレチノイン酸で処理すると、腸、肝臓、胃などの消化器官の形態が異常になることが、Dixonらにより報告されているが、レチノイン酸で処理した発生段階22〜32のツメガエル胚の膵臓は正常に形成され、内胚葉特異的マーカーであるXlHbox8の発現にも影響がみられないことも報告されている(Dev. Genes Evol. 208, 318-326, 1998)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来、特定の臓器をインビトロで特異的に誘導させることは非常に困難とされ、また、膵臓は生体内で重要な役割を果たす内分泌及び外分泌器官であるが、その複雑な分化・形成機構はいまだ明らかになっていない。本発明者らは、ツメガエル初期原腸胚の原口上唇部細胞をレチノイン酸で処理することにより、高率に膵臓を形成できることを報告(Moriya, N. et al.; Develop. Growth. Differ. 42, 175-185, 2000)しているが、この系によると高率で膵臓を形成させることができるものの、膵臓分化のメカニズムを解明するには未だ複雑な実験系である本来自律分化能を有する原口上唇部の細胞を用いている。本発明の課題は、膵臓の分化・形成機構に関しての知見を得ることができる、発生工学あるいは臓器工学上有用なインビトロ誘導膵臓や、インビトロで誘導した膵臓が実際に生体内でも機能できるかどうかを評価することができる移植用膵臓や、より高等な動物の膵疾患の診断・治療への道を拓くインビトロ誘導膵臓を、人工的に膵臓予定域以外の原腸胚から高率に誘導しうる方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本来、インビトロで培養すると不整表皮を形成し、膵臓を形成しない後期胞胚の未分化細胞の予定外胚葉域を、アフリカツメガエルの後期胞胚から切り出しアクチビンで処理し、3〜5時間後にレチノイン酸で処理した後、BSAを含むスタインバーグ溶液中でこれらの外植体を静置培養することにより、その発生運命を膵臓へと変化させ、形態的かつ機能的な膵臓をインビトロで高率に形成しうることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、インビトロにおいて、脊椎動物の胞胚又は原腸胚の予定外胚葉片をアクチビンで処理し、3〜15時間後にレチノイン酸で処理し、その後培養することを特徴とする脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法(請求項1)や、アクチビンによる処理が、50〜150ng/mlの濃度のアクチビンでの0.5〜2時間の静置培養処理であることを特徴とする請求項1記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法(請求項2)や、レチノイン酸による処理が、10-5M以上の濃度のレチノイン酸での0.5〜2時間の静置培養処理であることを特徴とする請求項1又は2記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法(請求項3)や、その後の培養が、生理食塩中での静置培養処理であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法(請求項4)や、脊椎動物が、両生類に属する動物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法(請求項5)や、両生類に属する動物が、アフリカツメガエルであることを特徴とする請求項5記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法(請求項6)に関する。
【0012】
また本発明は、請求項1〜8のいずれか記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法により得られることを特徴とするインビトロで誘導した膵臓(請求項9)や、請求項9記載のインビトロで誘導した膵臓を用いることを特徴とする膵臓の機能低下又は機能異常を治癒しうる物質のスクリーニング方法(請求項10)や、請求項9記載のインビトロで誘導した膵臓を用いることを特徴とする膵臓の機能低下又は機能異常を検出しうる物質のスクリーニング方法(請求項11)に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法としては、インビトロにおいて、脊椎動物の胞胚の未分化細胞である予定外胚葉片をアクチビンとレチノイン酸とにより処理し、その後培養して、インビトロで膵臓を分化・誘導しうる方法であれば特に制限されるものではなく、また、本発明の膵臓のインビトロ形成方法における膵臓としては、インビトロ誘導膵臓臓器の他、膵臓特異的な分子マーカー遺伝子、例えばインスリン遺伝子、IPF1やPDX1等のホメオボックス遺伝子、PDX1のホモログで膵臓特異的転写因子であるXIHbox8遺伝子等の発現能を有する外植体や、生体膵臓と類似の細胞形態を有する外植体や、生体膵臓と類似の分泌腺様構造を有する外植体も便宜上含まれる。
【0014】
上記脊椎動物としては、膵臓を有する哺乳類、鳥類、は虫類、両生類に属する脊椎動物であれば特に制限されるものではないが、膵臓の分化・形成機構に関しての発生工学あるいは臓器工学上有用な知見を得るレベルにおいては、その取り扱いが比較的簡単で、かつ現在までの発生工学あるいは臓器工学上の知見が豊富な両生類に属する動物、特にアフリカツメガエルを好ましい脊椎動物として例示することができる。脊椎動物であるツメガエルの未分化細胞を用いてインビトロで膵臓が誘導できたことは、ヒトも含めた哺乳動物の未分化細胞であるES細胞を用いると、インビトロで膵臓を誘導できることを示している。
【0015】
また、上記胚胞としては、中〜後期胚胞を用いることが好ましく、かかる中〜後期胚胞としては、アフリカツメガエルにおける発生段階8〜10の中〜後期胞胚を具体的に挙げることができる。このアフリカツメガエルにおける発生段階は、文献(Nieuwkoop, P. D., Faber, J., 1956. Nomal Table of Xenopus laevis. North-Holland Pub. Co. Amsterdam.)記載の定めた基準によって判断することができる。
【0016】
上記アクチビンとレチノイン酸とによる処理方法としては、インビトロにおいて、脊椎動物の胚胞の未分化細胞である予定外胚葉をアクチビンとレチノイン酸とを用いて処理し、その後培養することにより膵臓を分化・誘導しうる処理方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、アクチビンとレチノイン酸との同時処理、アクチビン処理後引き続いてのレチノイン酸処理でもよいが、アクチビンで処理し、所定時間後、好ましくは3〜15時間後、特に好ましくは3〜5時間後にレチノイン酸で処理する方法を挙げることができ、アクチビン処理後3〜15時間、特に3〜5時間のタイムラグ後にレチノイン酸で処理することにより膵臓への誘導率をより高めることができる。タイムラグ期間中、アクチビン処理後の予定外胚葉片は生理食塩水、好ましくはBSA(牛胎児血清)を含む生理食塩水中で静置培養することが望ましい。
【0017】
アクチビンによる処理としては、50〜150ng/ml、好ましくは80〜120ng/mlの濃度のアクチビンでの0.5〜2時間の静置培養処理を具体的に例示することができる。また、レチノイン酸による処理方法としては、10-5M以上、好ましくは10-4M〜10-3Mの濃度のレチノイン酸での0.5〜2時間の静置培養処理を具体的に例示することができる。レチノイン酸は水溶性ではないので、エタノールやジメチルスルホキシド(DMSO)等に一旦溶解させた後、生理食塩水で希釈して用いることが好ましい。そして、本発明においては、アクチビンとレチノイン酸とによる処理後に培養することが必要である。かかる処理後の培養としては、生理食塩水、好ましくはBSA(牛胎児血清)を含む生理食塩水中での5〜20時間、好ましくは8〜12時間の静置培養を具体的に挙げることができる。
【0018】
本発明のインビトロで誘導した膵臓は、上記の膵臓のインビトロ形成方法により得られるものであれば特に制限されるものではなく、前記のように、インビトロ誘導膵臓臓器の他、膵臓特異的な分子マーカー遺伝子の発現能を有する外植体や、生体膵臓と類似の細胞形態を有する外植体や、生体膵臓と類似の分泌腺様構造を有する外植体も含まれる。また、本発明のスクリーニング方法は、かかるインビトロで誘導した膵臓を用いた診断や治療等に有用な物質、例えば膵臓の機能低下又は機能異常を治癒しうる物質や膵臓の機能低下又は機能異常を検出しうる物質等をスクリーニングする方法であれば特に制限されることはなく、例えば、本発明により得られるインビトロ誘導膵臓の膵細胞に被検物質をインジェクションし、インスリン等のマーカー分子の発現能を対照と比較することにより、膵臓の機能を亢進又は抑制する物質をスクリーニングすることができる。
【0019】
【実施例】
以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1(アフリカツメガエル後期胞胚の予定外胚葉部分の準備)
成体アフリカツメガエル(Xenopus laevis)のオスとメスの背側リンパ嚢に各600IUのhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン;Gestron;デンカ製薬、日本)を注射し、これらアフリカツメガエルを交配させて受精卵を得た。これら後期胞胚[発生段階9]を、4.5%のシステイン塩酸塩(pH7.8)を含んだスタインバーグ溶液(SS:58.00mMのNaCl、0.67mMのKCl、0.34mMのCa(NO3)2、0.83mMのMgSO4、3.00mMのHEPES及び100mg/lのカナマイシン硫酸塩;pH7.4)で脱ゼリーし、スタインバーグ氏液中で卵膜をピンセットで除去した。得られたアフリカツメガエル後期胞胚の予定外胚葉部分をタングステン針により0.4mm角のサイズに切り出した。
【0020】
実施例2(予定外胚葉片のアクチビン/レチノイン酸同時1時間処理により分化する組織)
ヒトリコンビナントアクチビンA(味の素社製)を100ng/mlになるように、0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)含有スタインバーグ溶液に溶解し、アクチビン溶液を調製した。オールトランス(all-trans)レチノイン酸粉末(CAT#R2625,シグマ社製)は予め10-2Mになるようにエタノールに溶解し、予定外胚葉片を処理する際にこのエタノール溶液を、表1に示される各濃度になるように上記アクチビン溶液に希釈してアクチビン/レチノイン酸混合液をそれぞれ調製し、以下の実験に用いた。
【0021】
実施例1の切り出した予定外胚葉片を、上記調製したアクチビン/レチノイン酸混合液中で1時間静置して処理し、0.1%のBSA含有スタインバーグ溶液で2回洗浄した後、同液中で20℃で10日間培養した(図1の一時的処理参照)。これら培養した外植体をブアン(Bouin)氏液で固定した後、エタノール−キシレンシリーズにて脱水処理し、これらの外植体をパラフィン包埋し、6μm厚に薄切りし、これらの小片をヘマトキシリン−エオシン染色し、分化した組織を光学顕微鏡にて観察・検定した。また、無処理の予定外胚葉片についても同様に光学顕微鏡で観察・検定した。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
上記の結果から、無処理の予定外胚葉片は培養開始4日後の時点で不整形表皮を形成することがわかった(図2A:参考写真1参照)。また、予定外胚葉片をアクチビン(100ng/ml)のみで処理した場合には、脊索や筋肉、咽頭上皮等の背側中胚葉及び前方内胚葉組織が分化し、背側中胚葉によって二次的に誘導されたと推測される神経組織も一部認められた(表1、図2B:参考写真1参照)。アクチビン/レチノイン酸混合液による処理では、レチノイン酸濃度の上昇にしたがって、まず脊索形成率が低下し、次いで筋肉形成率が低下することがわかった(表1)。一方、前腎管の形成率は上昇し、レチノイン酸濃度10-5〜10-4Mのとき最大となっていた(60%以上)。また、レチノイン酸濃度が高くなるにつれて腸上皮の分化が多少促進されていた(10-4Mのとき23%)。膵臓形成に関しては、レチノイン酸が高濃度のときに分化が認められたが、その割合は16%(10-4M)と低かった。このようにアクチビンにレチノイン酸が添加された場合、レチノイン酸濃度の影響を受けて中胚葉性組織の分化パターンは大きく変化するが、内胚葉性組織の分化パターンに関してはほとんど変化がみられなかった。なお、図2B中のnotは脊索を、neuは神経組織をそれぞれ意味し、スケールバーは100μmを表す。
【0024】
参考例1(予定外胚葉片のアクチビン/レチノイン酸同時継続処理により分化する組織)
実施例2の結果から、レチノイン酸処理の影響が中胚葉組織の分化パターンに現れたことから、レチノイン酸は、中胚葉が各中胚葉組織(例えば、脊索、筋肉、前腎管など)へと運命が決定される時期に作用したと考えられる。一方、正常発生においては、各内胚葉組織の形成は各中胚葉組織の形成より遅れておこることが報告されている(Nieuwkoop, P. D. and Faber, J.; (1956) Normal table of Xenopus laevis (Daudin). (Amsterdam: North-Holland Publishing Company)。このため、各内胚葉組織への分化決定は各中胚葉組織への決定よりも時期的に遅くおこると推測できる。しかし、インビトロではその時期を厳密には特定できない。そこで、処理時間及びタイミングの影響を除くために、以下のようにアクチビン/レチノイン酸混合液で継続処理をおこなった。実施例1の切り出した予定外胚葉片を、上記調製したアクチビン/レチノイン酸混合液中で20℃で10日間培養した(図1の継続処理参照)。これら培養した外植体を実施例2の方法と同様に染色し、分化した組織を光学顕微鏡にて観察・検定した。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
表2の結果から、継続的にアクチビン/レチノイン酸混合液で処理した場合においても、1時間処理と同様にレチノイン酸濃度が上昇するにつれて脊索、筋肉の形成率が低下し、前腎管形成率が上昇していた(表2)。レチノイン酸濃度10-5Mにおいて咽頭上皮の形成が低率で認められたが(20%)、膵臓が分化することはなかった。また、10-4Mのレチノイン酸が含まれる処理ではどの外植体も培養期間中に死亡することがわかった。一方で、本発明者らにより、初期原腸胚の原口上唇部を切り出したのち、1〜3時間レチノイン酸で処理した場合には、細胞の予定運命が変更され、膵臓が形成されることを報告している(Moriya, N. et al.; Develop. Growth. Differ. 42, 175-185, 2000)。この場合、レチノイン酸処理開始の時点では、原口上唇部は既に背側中胚葉/前方内胚葉となるように方向付けされた状態にある。しかし、予定外胚葉片を上記の様に処理した場合、高濃度アクチビンの作用(背側中胚葉/前方内胚葉への誘導)と、レチノイン酸の作用とを同時に受けることになる。このときには、予定外胚葉細胞は背側中胚葉/前方中胚葉になり得ず、側方中胚葉が誘導されてしまうと推測される(Moriya, N. et al.; Develop. Growth. Differ. 35, 123-128, 1993)。また、レチノイン酸の膵臓誘導作用は、すでに背側中胚葉/前方内胚葉へと方向付けされている細胞に対してのみ有効である可能性が考えられる。
【0027】
実施例3(予定外胚葉片のアクチビンとレチノイン酸の時間差処理により分化する組織)
アクチビンの作用により背側中胚葉/前方内胚葉への分化が決定された後、初めてレチノイン酸の作用を受けられるように、アクチビン処理とレチノイン酸処理の間にタイムラグを設けた。実施例1の切り出した予定外胚葉片を、100ng/mlのアクチビン溶液中に1時間静置した後、0.1%のBSA含有スタインバーグ溶液で2回洗浄し、0.1%のBSA含有スタインバーグ溶液中に表3に示す各タイムラグ時間だけ静置した。タイムラグ経過後、予定外胚葉片を10-4Mのレチノイン酸溶液中で1時間静置し、0.1%のBSA含有スタインバーグ溶液で2回洗浄した後、0.1%のBSA含有スタインバーグ溶液中で20℃で10日間培養した(図1のタイムラグ処理参照)。これら培養した外植体を実施例2の方法と同様に染色し、分化した組織を光学顕微鏡にて観察・検定した。結果を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
上記の結果から、アクチビン(100ng/ml)とレチノイン酸(10-4M)の同時処理あるいはタイムラグ0時間の処理(アクチビン処理後すぐにレチノイン酸処理)の場合には、前腎管が高率に分化していた(表3、図2C:参考写真1参照)。タイムラグが3〜5時間の場合、前腎管形成率は低く、膵臓形成率は最も高く80%以上であることがわかった(表3、図2D:参考写真1参照)。タイムラグ15時間以上では脊索や咽頭上皮が分化することがわかった(表3、図2E:参考写真1参照)。しかし、タイムラグが3時間未満あるいは15時間以上の場合の膵臓形成率は低かった(表3)。光学顕微鏡による観察では、タイムラグが3〜5時間のときにみられた膵臓は複数の細胞が集合して分泌腺(腺房)様構造を示し、これらの細胞群の中には中央に腺腔様の空洞が明確に認められるものがあった。また、これらの膵臓は、核が腺房の基底側に位置し、腺房の中央付近がエオシンで強く染まり、ブドウ状の細胞集合体を形成することから正常胚の膵臓に類似していることがわかった(図2D)。
【0030】
これらのことから、タイムラグを設けることにより膵臓に分化するようになったことは、アクチビンにより予定外胚葉細胞が背側中胚葉/前方内胚葉へと方向付けされてから、レチノイン酸の膵臓誘導作用を有効に受けられる準備が整うまでに3〜5時間を要することを示唆する。この期間以前ではレチノイン酸の作用は、おこりつつある中胚葉性組織の決定に影響し、この時期間以降では内胚葉性組織の決定も終了してしまうと推測できる。したがって、タイムラグ1〜3時間の処理では前腎管が誘導され、3〜5時間では膵臓が誘導され、5時間以降ではレチノイン酸処理しない場合と同様に脊索や咽頭上皮が形成されたと考えられる。なお、図2C、図2D、図2E中のnotは脊索を、neuは神経組織を、proは前腎管を、panは膵臓を、intは腸上皮を、phaは咽頭上皮をそれぞれ意味し、スケールバーは100μmを表す。
【0031】
また、光学顕微鏡において、上記外植体中に分化した膵臓は肥厚した腸上皮によって囲まれていることがわかった。正常胚において内胚葉性上皮は口から肛門までつながっており、その形態は連続的に変化する。また、咽頭と腸はどちらも内胚葉性上皮であるが、咽頭上皮は細胞高が低く立方体状の細胞が並んだ形態を示すのに対し、腸上皮は細胞高が高く、縦長の細胞が並んで上皮を形成していることが知られている(Chalmers, A. D. and Slack, J. M. W.; Dev. Dyn. 212, 509-521, 1998)。そこで、上皮の肥厚の度合いを基準にして、細胞の「縦/横」の比が3以下のものを「咽頭上皮」とし、3以上のものを「腸上皮」としてカウントした。また、アクチビン処理とレチノイン酸処理の間に5時間のタイムラグを設けた場合、レチノイン酸はアクチビン処理により誘導される咽頭上皮の形成を抑制して、膵臓や腸を誘導していることがわかった。なお、正常胚及び成体では、咽頭は胚の前方に位置し、膵臓と十二指腸はそれより後方に互いに接近して存在し、膵臓は十二指腸につながって消化酵素を分泌していることが知られている。
【0032】
これまでの報告により、ツメガエル初期胚をレチノイン酸処理すると頭部欠損胚となること(Durston, A. J. et al.; Nature 340, 140-144, 1989)や、レチノイン酸は前方分子マーカーを抑制し、後方マーカーを誘導すること(Ruizi Altaba, A. and Jessell, T.; Development 112, 945-958, 1991、Ruizi Altaba, A. and Jessell, T.; Genes. Dev. 5, 175-187, 1991、Lopez, S. L. and Carrasco, A. E.; Mech. Dev. 36, 153-164, 1992、Kolm, P. J. et al.; Dev. Biol. 192, 1-6, 1997)や、レチノイン酸及びその受容体が胚の後方部分に局在すること(Ellinger-Ziegelbauer, H. and Dreyer, C.; Genes. Dev. 5, 94-104, 1991、Chen, Y. et al.; Dev. Biol. 161, 70-76, 1994)が知られている。これらのことから、高濃度アクチビンにより誘導された前方内胚葉(このままでは咽頭に分化する)をレチノイン酸が後方化し、膵臓と腸上皮が形成されたと推測できる。なお、表中で高濃度レチノイン酸処理の場合にも咽頭上皮の形成率が高いのは、外植体中に少しの咽頭上皮がある場合にもカウントしているためであり、実際の組織観察においては膵臓と共存して分化しているのは腸上皮が圧倒的に多かった(図2D)。
【0033】
また、ツメガエル胚の内胚葉に対するレチノイン酸の影響を調べた報告がある(Zeynali, B. and Dixon, K. E.; Dev. Genes. Evol. 208, 318-326, 1998)。ツメガエル胚をレチノイン酸で処理し、その後の消化管の形成を調査したところ、消化管の形態に異常が認められたが、膵臓形成は正常であった。ここでレチノイン酸が膵臓形成に影響を与えなかった理由は、処理する時期が発生段階22〜32と遅かったこと、胚全体に対する影響をみていることが考えられる。本発明者らは、胞胚〜原腸胚の時期に胚全体のレチノイン酸処理を実施した。これらの胚は頭部欠損胚となったが、内胚葉性器官に特異的な欠損や肥大はみられず、体内で膵臓が特異的に誘導されることはなかった。ただし、各内胚葉性器官の位置関係は異常で、前後軸方向に凝集して形成されていた。このことからも、レチノイン酸は膵臓を特異的に誘導する作用を有するのではなく、内胚葉性細胞に対する後方化作用によって膵臓分化を誘導したと考えられる。
【0034】
次に実施例1の切り出した予定外胚葉片を、タイムラグを5時間として上記と同様に処理し、20℃で10日間培養した外植体を緩衝液I(3%のパラホルムアルデヒド、2.5%のグルタルアルデヒド、0.1Mのカコジル酸塩;pH7.4)で1日間前固定した。この固定した外植体を、緩衝液Iで洗浄し、続いて緩衝液II(1%のOsO4、0.1Mのカコジル酸塩;pH7.4)で2時間固定し、緩衝液IIで洗浄した後、エタノール−アセトンシリーズで脱水処理し、エポキシ樹脂に包埋した。この包埋した外植体を超薄切片に切断し、酢酸ウラニルとクエン酸鉛により二重染色し、透過型電子顕微鏡(JEM−200CX;JOEL社製)で観察した(図3:参考写真2参照)。この結果、外植体中にはいくつかの細胞が集合した外分泌腺様構造が確認できた。これらの細胞群の中央には、腺腔と思われる空洞があり(図3A)、空洞の反対側すなわち、腺房細胞の基底側に核、空洞側の細胞内部には電子密度の高い分泌顆粒(直径0.2〜1.0μm)が数多く存在しており、これらの構造は正常胚の膵臓の外分泌腺及び外分泌顆粒に酷似していることがわかった(Lozano, M. T. et al1.; Gen. Comp. Endocrinol. 114, 191-205, 1999)。また、これ以外に2種類の異なる分泌顆粒を含包する細胞が確認できた。一つは、電子密度の高い分泌顆粒(直径0.1〜0.3μm)を含む細胞で、これは膵臓ランゲルハンス島のグルカゴン産生細胞(Leone, F. et al.; L. Embryol. Exp. Morph. 36, 711-724, 1976、Lozano, M. T. et al1.; Gen. Comp. Endocrinol. 114, 191-205, 1999)に類似するものであり(図3B)、もう一つは分泌顆粒(直径0.2〜1.0μm)内に電子密度の高い核を持つものでインスリン産生細胞(Leone, F. et al.; L. Embryol. Exp. Morph. 36, 711-724, 1976、Lozano, M. T. et al1.; Gen. Comp. Endocrinol. 114, 191-205, 1999)に類似するものであることがわかった(図3C)。なお、図3A、図3B、図3C中のスケールバーはそれぞれ、5、1、1μmを表し、luは腺腔を意味し、図3A中の矢印は外分泌顆粒を、図3B中の矢印はグルカゴン産生細胞様の分泌顆粒を、図3C中の矢印はインスリン産生細胞様の分泌顆粒をそれぞれ示している。
【0035】
実施例5(膵臓特異的遺伝子の発現)
次に実施例1の切り出した予定外胚葉片を、タイムラグを5時間として実施例4と同様に処理し、20℃で3日間培養した後、膵臓特異的遺伝子であるインスリン(Henry, G. L. et al.; Development 122, 1007-1015, 1996)とXlHbox8(Lemaire, P. et al.; Development 125, 2371-2380, 1998)の発現を文献(Yokota, C. et al.; J. Biochem. 123, 339-346, 1998)記載の方法により調べてみた。培養した外植体からmRNAを抽出し、逆転写酵素(GIBCO BRL社製)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNA(2μg/μl)1μlに対して、PCR反応を行い、膵臓に特異的な遺伝子であるインスリンとXlHbox8(PDX1のホモロジー)の発現パターンを調べてみた。なお、ローディングコントロールとしてEF−1α(延長因子1α)を用いた。PCR反応における各遺伝子のプライマーの組合せとしては、インスリン[insulin−F:5′−ATGGCTCTATGGATGCAGTG−3′(配列番号1)、insulin−R:5′−AGAGAACATGTGCTGTGGCA−3′(配列番号2)]、XlHbox8[XlHbox8−F:5′−CCTACAGCAACCCCTTGGTA−3′(配列番号3)、XlHbox8−R:5′−GGGCTCTTGTGTAGGCTGTC−3′(配列番号4)]、EF−1α[EF−1α−F:5′−TTGCCACACTGCTCACATTGCTTGC−3′(配列番号5)、EF−1α−R:5′−ATCCTGCTGCCTTCTTTTCCACTGC−3′(配列番号6)]、をそれぞれ用いた。
【0036】
上記cDNA(20ng/μl)5μlに、DDWを76μl、10×Ex bufferを10μl、2.5mMのdNTPs mixを8μl、5U/μlのExTaqを0.5μl、100μMの上記各プライマーを0.5μl加え、全量100μlでPCR反応を行った。サーマルサイクルのプログラムは、最初のみ94℃で4分間変性させ、その後94℃で30秒間熱変性させ、58℃で1分間伸張させ、72℃で1分間アニーリングするというサイクルを23〜30回繰り返し、最後に72℃で9分間アニーリングを行った。その後、PCR増幅産物をアガロースゲル(1.5%)電気泳動法により分離した後、サザンハイブリダイゼーションにより検出した(図4)。なお、ネガティブコントロールとしてEF−1αを逆転写因子を除いた条件でRT−PCRをおこなったものを用いた。
【0037】
上記図4の結果から、無処理の外植体とレチノイン酸単独処理の外植体にはこれらの遺伝子発現はみられず(図4のレーン1,3)、アクチビン単独処理ではこれらの発現は若干誘導されるにすぎなかった(図4のレーン2)。しかし、アクチビンとレチノイン酸で同時に処理された外植体はこれらの遺伝子を発現し(図4のレーン4)、アクチビンとレチノイン酸が時間差5時間で処理されたものはさらに強く発現していることがわかった(図4のレーン5)。また、アクチビンとレチノイン酸が時間差25時間で処理されたものは、これらの発現が時間差5時間の場合より低下していた(図4のレーン6)。以上のことから、アクチビン単独処理で膵臓を特異的に分化させる可能性は低く、アクチビンとレチノイン酸で処理することにより膵臓は高率で形成されることがわかった。
【0038】
実施例6(アクチビンとレチノイン酸処理した外植体の免疫組織化学)
次に実施例1の切り出した予定外胚葉片を、タイムラグを5時間として実施例4と同様に処理し、20℃で10日間培養した後、外植体を緩衝液III[0.1Mの3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS:モプス)、2mMのEGTA、1mMのMgSO4、3.7%のホルムアルデヒド]で固定し、生理食塩水(PBS)で洗浄した後、2%のスキムミルクを含む1%のBSA含有PBSでブロッキングした。このブロッキングした外植体を、抗インスリン(モルモットIgG)抗体(抗体希釈倍率=1:1000;CAT#A0564;Dako Corporation又は抗体希釈倍率=1:1000;CAT#4010−01;Linco Research Inc.)、あるいは抗グルカゴン(マウスIgG)抗体(抗体希釈倍率=1:2000;CAT#G−2654;シグマ社製)液中で1晩静置したのち、PBSで洗浄した。
【0039】
上記1次抗体と反応させた外植体及びコントロールとしての1次抗体と反応させていない外植体をそれぞれ、アルカリホスファターゼで標識した抗モルモットIgG抗体(抗体希釈倍率=1:500;CAT#61−4622;Zymed Laboratories Inc.)又はアルカリホスファターゼで標識した抗マウスIgG抗体(抗体希釈倍率=1:500;CAT#AQ160A;Chemicon International Inc.)を用いて反応させ、PBSで洗浄した。これらの2次抗体で反応させた外植体をそれぞれ、ニトロ安息香酸(NIB)と5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)とを基質としたアルカリホスファターゼ緩衝液[100mMのTris−HCl、5mMのMgCl2、100mMのNaCl、0.1%のTween−20(界面活性剤);pH9.5]中で青色に発色させ、ブアン氏液で再固定した後、エタノール−キシレンシリーズにて脱水処理し、これらの外植体をパラフィン包埋し、10μm厚に薄切りし、透過型電子顕微鏡(JEM−200CX;JOEL社製)で観察した(図5:参考写真3参照)。
【0040】
上記図5の結果から、二次抗体(アルカリホスファターゼで標識した抗モルモットIgG抗体又はアルカリホスファターゼで標識した抗マウスIgG抗体)のみのコントロールでは、どちらを用いても外植体中において染色される部分はなかった(図5A、D)。しかし、1次抗体が抗インスリン抗体の場合では、外植体中に数カ所染色される部分を確認することができた(図5B、C)。また、1次抗体が抗グルカゴン抗体の場合でも同様に染色される部分が認められた(図5E、F)。これらのことから、タイムラグを5時間としてアクチビンとレチノイン酸で処理することにより、外植体においてインスリンやグルカゴンが合成することや外植体中に内分泌腺が分化することがわかった。これらのことから、試験官内で形成された膵臓は、形態的のみではなく機能的にも正常の膵臓に類似の性質を有するものであると考えられる。
【0041】
【発明の効果】
本発明によると、膵臓の分化・形成機構に関しての知見を得ることができる、発生工学あるいは臓器工学上有用なインビトロ誘導膵臓や、インビトロで誘導した膵臓が実際に生体内でも機能できるかどうかを評価することができる移植用膵臓や、より高等な動物の膵疾患の診断・治療への道を拓くインビトロ誘導膵臓を、人工的に膵臓予定域以外の胚葉域から高率に誘導することができる。この方法を用いて、膵臓形成に関わる遺伝子の探索も可能であり、得られた膵臓形成のさまざまな遺伝子の解析も可能で、これら遺伝子を用いることで遺伝子治療や遺伝子診断への道が拓かれる。また、インスリン欠乏症で産まれてくる新生児や遺伝病に対して、これらの試験官内で形成された臓器(膵臓)を移植することにより、治療への道が拓かれる可能性がある。さらに、成人になって糖尿病などの成人病に対してインスリンをはじめとする膵臓の働きは極めて重要であり、そのような糖尿病やその他膵臓の機能変化によってもたらされる病気の治療への道が拓かれる可能性がある。
【0042】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】アフリカツメガエル胚の予定外胚葉片のアクチビンとレチノイン酸による処理方法を示す図である。
【図2】各種処理により外植体中に分化する組織の光学顕微鏡観察像を示す図である。
【図3】アクチビンとレチノイン酸で処理した外植体の電子顕微鏡観察像を示す図である。
【図4】膵臓特異的遺伝子の発現パターンを示す図である。
【図5】アクチビンとレチノイン酸で処理した外植体の免疫組織化学を示す図である。
Claims (6)
- インビトロにおいて、脊椎動物の胞胚又は原腸胚の予定外胚葉片をアクチビンで処理し、3〜15時間後にレチノイン酸で処理し、その後培養することを特徴とする脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法。
- アクチビンによる処理が、50〜150ng/mlの濃度のアクチビンでの0.5〜2時間の静置培養処理であることを特徴とする請求項1記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法。
- レチノイン酸による処理が、10-5M以上の濃度のレチノイン酸での0.5〜2時間の静置培養処理であることを特徴とする請求項1又は2記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法。
- その後の培養が、生理食塩中での静置培養処理であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法。
- 脊椎動物が、両生類に属する動物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法。
- 両生類に属する動物が、アフリカツメガエルであることを特徴とする請求項5記載の脊椎動物の膵臓のインビトロ形成方法。
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