JP4419605B2 - 2重巻きパイプ用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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また、特許文献2の鋼板は、その素材として極低炭素鋼を使用するため、いわゆる脱ガス設備が必要となり、また、仕上圧延終了温度が1000〜850℃と高いため熱間圧延が難しく、均一な材質を得にくいという問題がある。
C:0.02〜0.08mass%
Cは、鋼板の強度を高める元素であり、低減することにより軟質化し、変形応力の低減、形状凍結性の改善を通して造管時の成形性の向上を図ることができる。しかし、0.02mass%未満になると自己ろう付け工程における結晶粒の粗大化が顕著になり、必要とする強度および靭性の確保が困難となるほか、いわゆるオレンジピール現象に似た肌荒れを発生する可能性が増大する。一方、0.08mass%を超えると、ろう付けの冷却工程で多くの低温変態相が生成するため、パイプが硬質化して、成形性が低下する。また、溶接性も低下する傾向にある。したがって、Cは0.02〜0.08mass%の範囲とする。なお、より安定した材質と優れた延性を必要とする場合は、0.025〜0.06mass%の範囲とするのが好ましい。
Mnは、Sに起因する熱間割れを防止するのに有効な元素であり、含有するS量に応じて添加する必要がある。また、Mnは、結晶粒の微細化効果、特に、高温における結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する。これらの効果を発現するためには、0.15mass%以上の含有が必要である。しかし、過度に含有すると、耐食性を劣化したり、鋼板を硬質化して冷間圧延性が悪くなるので、その上限を0.50mass%とする。なお、より良好な耐蝕性と成形性が必要な場合には、0.40mass%以下とするのが好ましい。
Alは、鋼の脱酸に必要な元素であり、鋼の清浄度を向上させるためには0.01mass%以上の含有量が望ましい。しかし、含有量が多過ぎると、表面性状の劣化を招くので、その上限を0.10mass%とする。なお、材質の安定性という観点からは0.02〜0.06mass%の範囲で含有するのが望ましい。
B:0.0005〜0.0020mass%、Ti:0.002〜0.020mass%
B,Tiは、造管後の組織を微細化して強度を確保すると共に、Nを迅速に固定して自己ろう付け後の時効劣化を抑制する効果を有するため、造管性の改善に寄与する元素である。このような効果は、B:0.0005mass%以上、Ti:0.002mass%以上の含有量で発揮される。しかし、B:0.0020mass%超え、Ti:0.020mass%超え含有すると、熱間加工性が劣化して、熱延鋼板の耳割れ等の不具合を発生するので好ましくない。よって、B,Tiは、B:0.0005〜0.0020mass%および/またはTi:0.002〜0.020mass%の範囲で含有することができる。より好ましくは、B:0.0005〜0.0015mass%および/またはTi:0.005〜0.015mass%の範囲である。
Cu,Niは、2重巻きパイプに特有なCuの電気めっき工程およびそれを造管した後の自己ろう付け工程において、めっきの密着性を向上させ、濡れ性を改善する効果があるので、鋼管の信頼性を増すためには含有することが好ましい元素である。この効果を得るためには、Cu:0.05mass%以上、Ni:0.05mass%以上を含有することが好ましい。しかし、添加量がそれぞれ0.5mass%を超える場合には、鋼板の変形抵抗が増加し、冷間圧延性の低下を招く。また、冷間圧延性の観点から、Cu,Niの合計量は0.7mass%以下とすることが好ましい。よって、Cu,Niを含有する場合には、Cu:0.5mass%以下、Ni:0.5mass%以下のうちの1種または2種を含有することが好ましく、Cu,Niの合計量は0.7mass%以下とすることがさらに好ましい。
ただし、不可避的不純物として含有されるSi,P,S,Nは下記の範囲に制限することが好ましい。
Si:0.05mass%以下
Siは、多量に含有すると、めっきの密着性の低下や耐食性の低下を引き起こすほか、固溶強化により鋼を硬質化して成形時の変形抵抗の増加を招くので、0.05mass%以下とするのが好ましい。特に優れた耐食性が必要な場合には、0.02mass%以下に制限するのがより好ましい。
Pは、鋼を硬質化させるほか、フランジ加工性(パイプ成形後の拡管加工性)や形状凍結性、耐食性を悪化させる有害な元素であるため、極力低減し0.02mass%以下とするのが好ましい。これらの特性が特に重要視される場合には、0.01mass%以下とするのがより好ましい。
Sは、鋼中に硫化物系介在物として存在し、鋼板の延性を減少し、耐食性の劣化をもたらす元素であるので、その上限を0.02mass%とするのが好ましい。特に良好な加工性が要求される用途においては、0.01mass%以下とすることが望ましい。
Nは、含有量が増加すると、素材鋼板中の固溶Nが増加して、耐時効性を悪化させる可能性がある。このような悪影響を回避するためには、Nは0.0050mass%以下とすることが好ましい。なお、材質の安定性、製品歩留まりの向上の観点からは、0.0030mass%以下とするのがより好ましい。
本発明の鋼板は、基本的にフェライト組織からなり、フェライトの他は、Feの炭化物等が含まれる。そのフェライト組織の平均結晶粒径は、10〜30μmであることが必要である。平均結晶粒径が10μm未満では、鋼が硬質化し、造管時の形状凍結性が悪化し製品不良の発生や金型や工具等の磨耗の増加を招く。一方、平均結晶粒径が30μmを超えると、軟質化し過ぎて造管性が不安定となるほか、造管−熱処理後の組織を均一微細に保つことが困難となり、パイプとして必要な強度および靭性が得られなくなる。したがって、素材鋼板でのフェライト組織の平均結晶粒径は10〜30μmの範囲に規制する必要がある。
本発明の鋼板は、上記好適な成分組成に調整した鋼を転炉、電気炉等で溶製し、鋳造して鋼スラブとし、この鋼スラブを熱間圧延し、酸洗し、冷間圧延し、その後、連続焼鈍して製造することが好ましい。鋼スラブの製造方法としては、造塊−分塊法あるいは連続鋳造法のいずれでもよいが、スラブ品質、特に成分のマクロ偏析を防止するためには連続鋳造法で製造するのが好ましい。また、鋼スラブを熱間圧延するに際しては、いったん室温まで冷却してから加熱炉で再加熱するのが一般的であり、この時のスラブ加熱温度(SRT)は、後述する熱間圧延仕上終了温度を確保するためには1000〜1250℃とすることが好ましい。なお、仕上圧延終了温度が確保できるならば、上記再加熱法に代えて、室温まで冷却することなく加熱炉に装入する温片装入や鋳造スラブをそのまま圧延する直接圧延などの省エネルギープロセスを採用してもよい。
熱間圧延の仕上圧延終了温度は、770〜840℃の範囲であることが必要である。仕上圧延終了温度が840℃を上回ると、冷延、焼鈍後の鋼板組織が過度に微細化して造管性が低下する。一方、770℃を下回るとスケールに起因する表面の庇の発生が顕在化することに加えて、母板となる熱延コイルの幅方向の微視組織の均一性が低下し、素材鋼板の形状不良を招くため、造管性の低下を引き起こす。したがって、仕上圧延終了温度は770〜840℃の範囲とする。好ましくは、780〜830℃の範囲である。
熱間圧延された鋼板は、必要に応じて水冷等により強制冷却し、コイルに巻き取る。この時の巻取温度は、650〜750℃の範囲とする必要がある。巻取温度が750℃を超えると、結晶組織が粗大化し、これが冷延、焼鈍後にも継承されて、冷延鋼板の材質の不均一を招き、造管性の低下を招く。また、コイルの内巻部、中央部、外巻部ならびにコイルの幅端部と幅中央部の熱履歴の差が大きいために、コイルの長手方向、幅方向の材質のばらつきが大きくなり、これも造管性には好ましくない。一方、巻取温度が650℃未満となると、冷延焼鈍後の組織がフェライト粒径で10μmを下回り、過度に細粒となって硬質化するため好ましくない。即ち、前述のように熱間圧延終了温度を調整すると共に巻取温度を650〜750℃の範囲に制御することで、熱延鋼板を比較的粗大でかつ均一な組織とすることができ、ひいては、冷延・焼鈍後においても軟質で均一な鋼板を得ることができる。
熱延したコイルは、その後、常法に従い、酸洗、冷間圧延する。この冷間圧延における圧下率は、冷延焼鈍後に均一な組織を得るため70〜90%の範囲とすることが好ましい。
本発明においては、冷間圧延した鋼板は、生産効率の向上、材質の均一化を目的として連続焼鈍法を採用する。この時の焼鈍温度は、650〜800℃で行う必要がある。焼鈍温度が650℃を下回ると、組織の大半が未再結晶組織となり、実質的に造管することが不可能となるからである。再結晶組織とし十分な軟質化を図るためには、焼鈍温度は650℃以上とする必要がある。しかし、極低炭素鋼の加工用冷延鋼板で行われているように、800℃を超える高温で焼鈍した場合には、鋼組織の粗大化、不均一化が進むために、造管−熱処理後の組織の均一化、微細化が達成できなくなる。よって、連続焼鈍における焼鈍温度は650〜800℃の範囲とする。材質の安定性の点からは700〜800℃の範囲が好ましい。なお、焼鈍温度での保持時間(均熱時間)は、10〜120秒の範囲であることが好ましい。10秒未満では、再結晶が不十分となり、安定した再結晶組織を得られない場合がある。一方、120秒を超えると、生産性を阻害する。また、焼鈍後の冷却は、冷却速度30〜150℃/secで行い、その後、350〜450℃の温度範囲で20〜120秒程度の過時効処理を行ってもよい。
連続焼鈍を行った鋼板は、表面粗度の調整、形状矯正、機械的特性改善(降伏点伸びの抑制)のほか、必要に応じて板厚低減を目的としたスキンパス圧延を行ってもよい。スキンパスの圧下率(伸び率)は、2%以下であることが好ましいが、1%程度でも上記効果を十分に得ることができる。なお、このスキンパス圧延は、必要ない場合は省いてもよい。
上述した工程により製造された本発明の鋼板は、その後、Cu等の自己ろう付け作用を有する金属を電気めっきしてから、スリットしてフープとし、2重巻きパイプに造管し、ろう付け処理を施し、製品とする。上記ろう付け性を向上するために、連続焼鈍ラインの出側あるいは別ラインにおいて、NiめっきやZnめっき等を行い、その後、Cu等の自己ろう付け作用を有する金属の電気めっきを行ってもよい。ろう付け後のパイプは、Cu等の金属により表面が被覆されているため、基本的にはさらなる表面処理は不要であるが、上記金属めっきの作用を補うような、Znめっきやターンめっき、化学的あるいは電気化学的処理、塗装などを造管後、必要に応じて行ってもよい。
(1) 平均結晶粒径;2重巻きパイプの素材に用いた鋼板から試験片を採取し、圧延方向と平行な方向の断面組織を、光学顕微鏡を用いて100倍で観察し、フェライト組織の平均結晶粒径を、JIS G 0552に規定された切断法に準拠して求めた。なお、フェライトの平均結晶粒径を求めるに際しては、板厚方向と圧延方法の各々の方向に線分を引き、これらの線分と交差する結晶粒数から求められる平均粒径を各々dT,dLとした時に、これらdLとdTの平均をフェライト組織の平均粒径とした。
(2) 引張特性;上記鋼板の圧延方向からJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241 に準拠して引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強度(TS)および伸び(El)を測定した。
(1) 製品歩留り;非定常部その他の素材要因以外の不良部を除いた製品歩留まり(=製品重量/素材重量×100(%))で評価した。
(2) 加工治具の寿命(工具寿命指数);従来の箱焼鈍材における引抜加工用治具の磨耗による取換え頻度(=取換え回数/素材重量(回/t))に対する、本発明の鋼板を用いたときの取換え頻度の比で評価した。
(3) 引張特性;ろう付け後のパイプを長さ300mmに切り出し、引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強度(TS)、伸び(El)を測定した。なお、引張試験における標点距離は、50mmとした。
(4) 異常粗大粒の有無;ろう付け後のパイプの横断面組織を5%ナイタール液で腐食した後、光学顕微鏡を用いて100倍で観察し、異常粗大粒の発生有無を調査した。ここで、異常粗大粒とは、最長径が50μmを超える大きさの粗大粒を意味し、横断面を4箇所測定し、そのうちの1箇所でも異常粗大粒が認められた場合には、異常粗大粒有りと評価した。
(5)曲げ性;ろう付け後のパイプを180°曲げし、割れの発生有無、表面の肌荒れを目視観察し、いずれも無い物を良と評価した。
(6)銅浸透深さ;異常粗大粒の有無を調査した試料について、XMA(X線マイクロアナリシス)分析装置を用いて、ろう付け部のCu特性X線像を、前述した4箇所について撮影し、Cuの侵入深さ(μm)を測定した。
Claims (6)
- C:0.02〜0.08mass%、Mn:0.15〜0.50mass%、Al:0.10mass%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト組織の平均結晶粒径が10〜30μmでかつ板厚方向の平均粒径(dT)と圧延方向の平均粒径(dL)の比(dL/dT)が1.4以下の等軸粒であることを特徴とする2重巻きパイプ用鋼板。
- 上記成分組成に加えてさらに、B:0.0005〜0.0020mass%、Ti:0.002〜0.020mass%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の2重巻きパイプ用鋼板。
- 上記成分組成に加えてさらに、Cu:0.5mass%以下、Ni:0.5mass%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の2重巻きパイプ用鋼板。
- C:0.02〜0.08mass%、Mn:0.15〜0.50mass%、Al:0.10mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、仕上圧延終了温度:770〜840℃で熱間圧延し、巻取温度:650〜750℃で巻き取り、次いで冷間圧延し、焼鈍温度:650〜800℃で連続焼鈍することを特徴とする2重巻きパイプ用鋼板の製造方法。
- 上記成分組成に加えてさらに、B:0.0005〜0.0020mass%、Ti:0.002〜0.020mass%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項4に記載の2重巻きパイプ用鋼板の製造方法。
- 上記成分組成に加えてさらに、Cu:0.5mass%以下、Ni:0.5mass%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項4または5に記載の2重巻きパイプ用鋼板の製造方法。
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