現在、屋根の棟部や壁際の防水施工には、大きく分けて二種類の材料と工法が存在しており、その夫々で課題が存在している。第一類型は、湿式施工である(特許文献1)。しかし、湿式施工における内在的制約として、使用されている屋根土は、施工に作業者の技能と施工時間を要すると共に、重量物であるため、木造建築物の耐震性を弱める原因となっていた。また、良質の粘土が長年の採掘によって掘り尽くされてきており、原材料の手配が困難になりつつある。
第二類型は、乾式施工であり、上記の特許文献2〜5で、各々の提案がされているが、各乾式施工は完璧なものではなく、其々固有の課題を有している。まず、特許文献2で開示されているスポンジを用いた面戸材に関しては、スポンジ部分が鳥によって突かれるという鳥害があることに加え、屋根材の凹凸に隙間なく施工することが困難という課題もあった。
次に、特許文献4で開示されている防水シートでは、長手方向へのプリーツ加工による延伸と、切込みを入れたことで横手方向への延伸を可能にした防水シートは、様々な棟の高さの差異に対応できるように横手(幅)方向に広いシートとなっている。そこで、欧州のキリスト教文化圏のように住宅の屋根形状や色彩が地域の建築規制によって統一されている場合や、日本のプレハブ住宅のように画一化された量産型住宅には適している。しかし、日本の在来型建築物は注文主の個性が出現しやすい類型であり、また地域の特性に応じた建築物類型が存在すると共に、建築物においては敷地形状と建築基準法や都市計画法による建築規制があり、現実に建築される木造建築物は多様な個性を有しているのが実情である。そこで、屋根形状も区々となり、設置時に作業者が現場の棟包の内側に納まるよう、防水シートの折り曲げ作業が必要であった。また、強風を伴う雨が切込みによる開口部を介して、直接繊維部分に当たる可能性があるため、切込み部から建築物の屋根の内側に浸水の蓋然性が存在していた。
続いて、特許文献5で開示されている防水シートでは、耐水性を備えた可撓性シートを長手方向に対し、直角方向に屈折積層し、壁と瓦との防水材に使用するものである。しかし、屋根の棟や壁際への防水シートの設置を検討する場合、上述したように、様々な意匠の屋根材や屋根勾配があるため、高さの調整ができることが望ましい。また、屋根の棟や壁際は一般的に作業者が手で屋根材の凹凸に沿わせて施工するが、木槌などで軽く叩いて防水シートを整形することが好ましい場合もあるところ、防水シートの材質が厚く硬いと、折り返し重合部の間隔も大きくせざるを得ず、作業者が隙間無く防水シートを延伸する作業は容易ではない。
さらに、防水シートのアルミ箔は、屋根のように直射日光が照射される過酷な環境のもとで、数十年にわたりその防水性能を維持することが望ましいが、数十年というスパンではアルミ箔は湿気等に対して腐食してしまい、再度の施工に耐えることが出来ないという課題がある。従来の日本においては、住宅の量的充足が叫ばれ、その寿命に関しては木造住宅の固定資産税の評価上の耐用年数である23年程度確保されれば足りるとする見解もあったが、近年の資源価格の高騰などから百年住宅の必要性も認識されつつあり、防水シートにおいても寿命が長いほうが良いことは言うまでもない。
さらに、乾式施工に共通する課題として、次の課題があった。
(1)いずれもブチルテープやアクリルテープなどの粘着剤を瓦等の屋根材に接着させる工法を採用するのが一般的であるため、経年後の屋根材からの剥離が生じる。
(2)金属性の棟木支持材を使用しているため、積雪時や強風時には、棟木支持材に負荷が掛かって曲がり、棟包と乾式材料が負荷の掛かった方向に倒れてしまうことがある。
本発明は上述した課題を解決するもので、第一の発明は、多層防水シートを用いて、防水シートの設置が屋根表面の凸凹形状のような現場設置形状に適合するように、容易に施工できる屋根用防水シートを提供することを目的とする。第二の発明は、当該屋根用防水シートを用いて、屋根の棟部への防水シートの設置が現場設置形状に適合するように、容易に施工できる棟用防水シートを提供することを目的とする。第三の発明は、建造物の棟部に棟用防水シートを用いて施工する場合に用いて好適な、棟用防水シートの設置方法を提供することを目的とする。第四の発明は、建造物の棟部に用いて好適な、棟用防水シートを用いた棟施工ユニットを提供することを目的とする。
上記課題を解決する本発明に用いられる多層防水シートは、例えば図1に示すように、耐引き裂き性と熱収縮性を有するエラストマーシート1を、粘着剤2を用いてアルミ箔3の表面側に貼り合わせ、該アルミ箔3の裏面側に、樹脂系塗料4をコーティングしたものであって、次の構成としたものである。第1の構成では、当該多層防水シートを長手方向と横手方向の二方向で折畳み加工する場合に、前記アルミ箔に屈折に伴う応力を緩和するように、前記樹脂系塗料のコーティングがなされる。第2の構成では、前記エラストマーシートの耐引き裂き性は、当該多層防水シートを長手方向と横手方向の二方向で折畳み加工する場合に生ずる突端で、前記アルミ箔に破れが生じた場合に、当該破れる領域の拡大を防止できるように構成した。
本発明に用いられる多層防水シートによれば、エラストマーシート1が可塑性を有すると共に耐久性を有しているので、屋根用の防水シートとしての用途に適する。アルミ箔3は、エラストマーシート1を貼り合せて積層させることで、保形性・断熱性・防火性を多層防水シートに付与すると共に、エラストマーシート1が熱収縮性である場合の、熱収縮防止ができる。粘着剤2は、エラストマーシート1とアルミ箔3との二層間の接着をするもので、併せて折り曲げ加工の際に生じる当該二層間に起こる応力を緩和して、折り曲げ加工を容易にする。樹脂系塗料4をコーティングしているので、耐久性や耐食性を向上させるという通常の目的を達成すると共に、仮に多層防水シート5の被覆対象となる屋根形状や壁際形状が突端のような曲率の大きな形状であるため、多層防水シート5を極端に変形させて被覆する必要がある場合でも、アルミ箔3が破れてしまうことを防止でき、防水性が高まる。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、更に、エラストマーシートは、クロロスルフォン化ポリエチレンまたはEPDMであることを特徴とする。このように構成された多層防水シートによれば、クロロスルフォン化ポリエチレンまたはEPDMは、耐久性を有しているので、エラストマーシートの耐久性を高め、屋根用の防水シートとしての用途に適する。特に、クロロスルフォン化ポリエチレンは、優れた着色性を有するため、屋根材の色に自在に対応ができる。さらに、クロロスルフォン化ポリエチレンは、耐熱性、耐焔性、耐寒性、耐屈曲性、耐塩性等々に優れているため、寒冷地や熱帯地、防火地域、強風地、塩害地でも地域を問わず使用が可能で、屋根用の防水シートとしての用途に適する。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、更に、クロロスルフォン化ポリエチレンシートには、未架橋であることを特徴とする。このように構成された多層防水シートによれば、クロロスルフォン化ポリエチレンシート1は架橋工程を必要としないため、安価に提供できるだけでなく、常温環境で自然架橋するため、屋根用防水シートとして使用できる。未架橋クロロスルフォン化ポリエチレンは、自然界で自然架橋するクロロスルフォン化ポリエチレンであるため、本発明の多層防水シート5のアルミ箔の表面側に貼り合わせているので、当該多層防水シートを被覆対象となる屋根形状や壁際形状に適合させて、多層防水シートを変形させても、その後の自然架橋の過程でその変形された状態で固化するため、保形性が維持できる。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、更に、クロロスルフォン化ポリエチレンシートは、ゴムの架橋を促進する薬剤を含まないことを特徴とする。ゴムの架橋を促進する薬剤を含まないので、当該多層防水シートを被覆対象となる屋根形状や壁際形状に適合させて、多層防水シートを変形させても、その後の長期間に渡る自然架橋の過程でその変形された状態で固化するため、保形性が維持できる。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、更に、クロロスルフォン化ポリエチレンシートは、厚さが0.15mm〜0.45mmであることを特徴とする。クロロスルフォン化ポリエチレンシートが薄い場合には、多層防水シートの製造に汎用のラミネート加工装置等を用いることができ、製造コストが安価になる。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、更に、粘着剤2は、アクリル系粘着剤を含有し、塗布量として、25〜75[g/m2]であることを特徴とする。このように構成された多層防水シートによれば、粘着剤2としてアクリル系粘着剤を使用しているので、熱による軟化の程度がブチルゴムやポリイソブチレンと比較して小さく、また粘性が適度に存在して、併せて折り曲げ加工の際に生じるエラストマーシート1とアルミ箔3の二層間に起こる応力を緩和して多層防水シートの折り曲げ加工を容易にする。更に、粘着剤2としてアクリル系粘着剤を使用すると、ブチル等のゴム系粘着剤の粘性と比較して粘性が小さく、汎用のラミネート加工装置が使用でき、製造装置選択の範囲が広くなる。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、更に、アルミ箔3は、厚みが30μm〜120μmであることを特徴とする。アルミ箔3の厚みは、貼り合せられるエラストマーシート1の厚さと熱収縮力、作業者が多層防水シートを屋根材の凹凸に対応できるように変形する場合の作業性、並びに多層防水シートを製造するために用いる織り機の能力により定まる。そして、これら三要件を充足するアルミ箔3の厚さとしては、30μm〜120μmが好ましい。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、更に、樹脂系塗料4としては、エポキシ樹脂系、アミノ樹脂系、メラミン樹脂系の少なくとも一類型の樹脂系を含有し、かつ当該樹脂系塗料の塗布厚が0.5μm〜5μmであることを特徴とする。このように構成された多層防水シート5によれば、エポキシ樹脂系、アミノ樹脂系、メラミン樹脂系の少なくとも一類型の樹脂系を含有した樹脂系塗料4をコーティングしているので、耐久性や耐食性を向上させるという通常の目的を達成すると共に、当該多層防水シートを被覆対象となる屋根形状や壁際形状に適合させて、多層防水シート5を極端に変形させても、アルミ箔3が破れてしまうことを防止でき、防水性が高まる。
好ましくは、本発明に用いられる多層防水シートにおいて、アルミ箔3の厚さは、エラストマーシート1の熱収縮性による多層防水シート5の変形を防止して、多層防水シート5の形状を維持できるように定め、粘着剤2の厚さは、多層防水シート5を折り曲げた際にエラストマーシート1とアルミ箔3との間に生じる応力が緩和されるように定め、樹脂系塗料4の厚さは、多層防水シート5を突端を有する形状に折り曲げた際にもアルミ箔3が破れることを防止できるように定めたことを特徴とする。
本発明に用いられる多層防水シートは、例えば図1に示すように、被覆対象となる屋根形状に適合する被覆状態での形状を、常温環境において保形する施工時保形手段と、前記被覆状態での形状を、常温環境において自然架橋により形状を記憶する長期保形手段とを備えるものである。典型的には、施工時保形手段としては、アルミ箔が用いられる。長期保形手段としては、未架橋クロロスルフォン化ポリエチレンを用いるとよい。未架橋クロロスルフォン化ポリエチレンは、自然界で自然架橋するクロロスルフォン化ポリエチレンであるため、本発明の多層防水シート5のアルミ箔の表面側に貼り合わせているので、当該多層防水シートを被覆対象となる屋根形状や壁際形状に適合させて、多層防水シートを変形させても、その後の自然架橋の過程でその変形された状態で固化するため、保形性が維持できる。ここで、常温環境とは特段の加熱や冷却を施工時に行わないことをいい、春秋のような人にとって快適な環境に加えて、冬季や夏季のような自然状態で出現する環境も含まれる。自然架橋とは、太陽光と大気による自然環境の下の温度と水分により架橋が進行する状態をいう。ここで、架橋とは主に高分子化学においてポリマー同士を連結し、物理的、化学的性質を変化させる反応のことで、架橋反応の一種には加硫がある。ここで加硫とは、ゴム系の原材料を加工する際に、弾性や強度を確保するために、硫黄などを加える工程のことである。
上記課題を解決する第一の発明の屋根用防水シートは、例えば図2(b)に示すように、多層防水シート5の長手方向の途中に該長手方向と直交する横手方向にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態とすると共に、長手方向折返し重合せ部Lを所定の間隔を隔てて設けたことを特徴とする。そして、例えば当該二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10を、例えば図3に示すように構成することで、長手方向に加えて横手方向にも延伸性を有する棟用防水シート20を形成するための部材として利用できる。
本発明の屋根用防水シートによれば、当該二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10としているので、横手方向折返し重合せ部Tを延伸することで、屋根材の凹凸に対応し、長手方向折返し重合せ部Lを延伸することで、棟木の高さの差異への対応だけでなく、水返しの役目も果たす。また、長手方向折返し重合せ部Lを延伸させることで、棟木の高さの差異への対応できるだけでなく、水返しの役目も果たすと共に、所定の間隔を隔てて長手方向折返し重合せ部Lを設けることで、延伸させることがなく余剰となる長手方向折返し重合せ部Lの範囲が少なくなり、屋根用防水シート10の利用効率が高まる。また、作業者にとっても、横手方向への薄手のエラストマーシート1の弾性とアルミ箔3の保形性を有するシートのため、手に馴染みやすいため、施工不良が起き難く、施工時間の短縮につながる。
好ましくは、本発明の屋根用防水シートにおいて、更に、横手方向折返し重合せ部Tを所定の間隔を隔てて設けたことを特徴とする。このように構成された屋根用防水シート10によれば、屋根材の凹凸に沿うように、横手方向折返し重合せ部Tを延伸させることで、隙間なく屋根材に接着できると共に、所定の間隔を隔てて横手方向折返し重合せ部Tを設けることで、延伸させることがなく余剰となる横手方向折返し重合せ部Tの範囲が少なくなり、屋根用防水シート10の利用効率が高まる。
好ましくは、本発明の屋根用防水シートにおいて、更に、樹脂系塗料の表面の少なくとも一部に、長手方向にわたって剥離紙が付いた粘着テープ25を装着したことを特徴とする。このように構成された屋根用防水シート10によれば、粘着テープ25の剥離紙26を装着することで、ロール状に丸めることができる。また、屋根用防水シート10を棟木31にステープル等で仮止め後、剥離紙26を剥がしながら屋根用防水シートの長手方向の裾部を棟木31に対して押し下げることができ、施工の省力化ができる。
好ましくは、本発明の屋根用防水シートにおいて、更に、施工前の製品形状としてロール状に巻いたことを特徴とする。このように構成された屋根用防水シート10によれば、ロール状に巻いたことで、屋根用防水シート10の物流や屋根の上での持ち運びが容易となる。
上記課題を解決する第二の発明の第一類型発明である棟用防水シートは、例えば図3に示すように、多層防水シート5の長手方向の途中に該長手方向と直交する横手方向にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10を用いると共に、長手方向の延伸性が125%〜175%であり、横手方向の延伸長さが40mm〜200mmであることを特徴とする。
このように構成された棟用防水シート20によれば、例えば図3・図5に示すように、長手方向への延伸について、屋根の棟木31の長さを100%とすると、瓦などの代表的な屋根材35の凹凸を考慮した表面長さは145%であるため、これ以上の延伸率を確保すれば施工できるのだが、凹凸の少ない屋根材35は、125%でもよい。これにより、無駄な材料コストを抑えることができる。また、横方向への延伸について、一般的な施工では、棟木31の高さが屋根の棟頂から、20mm〜80mmの間であり、これを大幅に上回る延伸は必要がないため、無駄な材料コストを抑えることができる。
上記課題を解決する第二の発明の第二類型発明である棟用防水シートは、例えば図3に示すように、多層防水シート5の長手方向の途中に該長手方向と直交する横手方向にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10を用いると共に、横手方向に延伸する前の横手方向の長さが、130mm〜260mmであることを特徴とする。このように構成された棟用防水シート20によれば、一般的に、棟包36の横手寸法は180〜240mmであるが、本発明の棟用防水シート20は、例えば図5(b)に示すように、棟木31に対し、両裾部を下方へ押し下げることで、裾部が同棟包16の内側の墨打ち位置か、その位置の内側に納まる。
上記課題を解決する第二の発明の第三類型発明である棟用防水シートは、例えば図3に示すように、多層防水シート5の長手方向の途中に該長手方向と直交する横手方向にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10を用いると共に、エラストマーシートの表面の少なくとも一部に、長手方向にわたって釘穴シール性を有するシートを装着したことを特徴とする。このように構成された棟用防水シート20によれば、棟木31の上側面に対応する屋根用防水シートのエラストマーシート1の表面に、釘穴シール性を有するシート27を装着することで、屋根用防水シート20を棟木31の上にステープル、釘、ビスなどで仮止めした穴からの漏水の問題を解決することができる。
上記課題を解決する第二の発明の第四類型発明である棟用防水シートは、例えば図5(a)、(b)に示すように、多層防水シート5の長手方向の途中に該長手方向と直交する横手方向にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10を用いると共に、長手方向折返し重合せ部Lは、各建築物によって相違する棟木31の高さに対して、長手方向折返し重合せ部Lの展開状態を調整することで対処できるように構成されるとよい。
また、上記課題を解決する第二の発明の第五類型発明である棟用防水シートは、例えば図5(c)に示すように、多層防水シート5の長手方向の途中に該長手方向と直交する横手方向にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10を用いると共に、長手方向折返し重合せ部Lは、水返しとして機能するように、長手方向折返し重合せ部Lの展開状態を調整できるように構成されるとよい。
上記課題を解決する第二の発明の第六類型発明である棟用防水シートは、例えば図4に示すように、多層防水シート5の長手方向の途中に該長手方向と直交する横手方向にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10を用いると共に、屋根用防水シート10に通気性手段28,29を備えたことを特徴とする。このように構成された棟用防水シート20によれば、通気性手段を設けることで、通気性を備え、風を伴う雨であっても、雨水が撥ね返される。さらに好ましくは、通気性手段に撥水作用を附帯させると、通気性手段に水分が付着しても、通気性手段から内側への雨水侵入を防止できる。
好ましくは、本第六類型発明の棟用防水シートにおいて、通気性手段は通気孔29を長手方向に向けて複数設け、通気孔29を覆う通気撥水繊維28をエラストマーシート1の表面に装着してなるように構成するとよい。このように構成された棟用防水シート20によれば、エラストマーシート1の表面に通気撥水繊維28と通気孔29を設けることで、通気性を備え、風を伴う雨であっても、雨水が撥ね返され、さらに通気撥水繊維28に水分が付着しても、撥水作用により、通気孔29から内側への雨水の侵入を防止できる。さらに好ましくは、水返し機能を営む長手方向折返し重合せ部Lの棟設置方向の上側に位置する部位に、通気撥水繊維28と通気孔29を設けると、水返し機能により雨水が撥ね返されると共に、水返し機能の上部の通気撥水繊維28に水分が付着しても、撥水作用により、通気孔29から内側への雨水の侵入を防止できる。
さらに、好ましくは、本第六類型発明の棟用防水シートにおいて、更に、以下の構成要素を選択的に設けるのがよい。
(a) 例えば図5に示すように、棟用防水シート20の長手方向の中央部が棟木31の上側面に長手方向に固定され、棟用防水シート20の長手方向の両裾部が棟包36の両裾を垂直に下ろした線の内側に納まるように、棟際1段目の屋根材35に粘着テープ25で接着され、棟包36が屋根用防水シートを覆う状態で施工されるように構成されること。
(b) 棟用防水シート20は、長手方向の延伸性が125%〜175%であり、横手方向の延伸長さが40mm〜200mmであること。
(c) 棟用防水シート20は、横手方向に延伸する前の横手方向の長さが、130mm〜260mmであること。
(d) 棟用防水シート20のエラストマーシートの表面の少なくとも一部に、長手方向にわたって釘穴シール性を有するシートを装着したこと。
(e) 長手方向折返し重合せ部Lは、各建築物によって相違する棟木31の高さに対して、長手方向折返し重合せ部Lの展開状態を調整することで対処できるように構成されること。
(f) 長手方向折返し重合せ部Lは、水返しとして機能するように、長手方向折返し重合せ部Lの展開状態を調整できるように構成されること。
上記課題を解決する第二の発明の第七類型発明である棟用防水シートは、例えば図5に示すように、棟用防水シート20の長手方向の両裾部を、棟木31に対して屋根材35に下ろした場所が、棟包36の両裾を垂直に下ろした線又はその内側に納まるように、構成されたことを特徴とする。このように構成された棟用防水シート20によれば、一般的に、棟包36の横手寸法は180〜240mmであるが、本発明の棟用防水シート20は、例えば図5(b)に示すように、棟木31に対し、両裾部を下方へ押し下げることで、裾部が同棟包16の内側の墨打ち位置に相当する線か、その線の内側に納まる。
上記課題を解決する第三の発明の第一類型発明である棟用防水シートの設置方法は、例えば図5〜図7に示すように、請求項12乃至請求項19の何れか1項に記載の棟用防水シート20の長手方向の中央部を、棟木31の上側面に屋根の棟方向と並行に設置する工程と(ステップ100)、棟用防水シート20を棟木31にステープル等で仮止めする工程と(ステップ102)、棟用防水シート20の長手方向の裾部を棟木31に対して押し下げる工程と(ステップ104)、棟用防水シート20の裾部24が屋根材35に届かない場合に、長手方向折返し重合せ部Lを横手方向に延伸させて、裾部24が屋根材35に届く状態にする工程と(ステップ106)、屋根材35の山部352に対しては、棟用防水シート20の裾部24を長手方向に接着する工程と(ステップ108)、屋根材35の谷部354に対しては、当該谷部形状に沿うように、棟用防水シート20を長手方向に延伸させて接着する工程と(ステップ110)、とを有することを特徴とする。
ここで、棟用防水シート20として請求項10に記載の接着テープ25を用いている場合に、棟用防水シート20を屋根材35の山部352や谷部354と接着するために、粘着テープ25に設けられた剥離紙26を剥がすタイミングは、ステップ102とステップ104との間、ステップ104と同時、ステップ104とステップ106との間、ステップ106とステップ108との間、ステップ108とステップ1010との間、の何れでもよい。
上記課題を解決する第四の発明である棟用防水シートを用いた棟施工ユニットは、例えば図5に示すように、請求項12乃至請求項19の何れか1項に記載の棟用防水シート20を用いると共に、棟用防水シート20で被覆される棟木31の支持に樹脂製棟支持材32を用いたことを特徴とする。このように構成された棟用防水シートを用いた棟施工ユニットによれば、棟木31の支持に樹脂製棟支持材32を用いているので、堅牢性を確保して、長期間使用しても倒れることが防止できる。そこで、従来のように防錆加工された金属製の棟支持材について生じていた課題、即ち、剛性に乏しく、風や積雪などで揺れたり曲がってしまう課題が解決される。
本発明に用いられる多層防水シートによれば、耐引き裂き性と熱収縮性を有するエラストマーシートを、粘着剤を用いてアルミ箔の表面側に貼り合わせ、該アルミ箔の裏面側に、樹脂系塗料をコーティングので、エラストマーシート・アルミ箔・粘着剤・樹脂系塗料の四層構造により、折り曲げ加工性と耐久性も併せ持つ。従って、本発明の多層防水シートを屋根用防水シートとして使用する場合の効果として、様々な意匠の屋根材や屋根勾配が類型的に存在する建築物において、屋根の棟や壁際への防水シートの設置が現場設置形状に適合するように、容易に施工できる屋根用防水シートに用いて好適である。
本発明の請求項2に記載の屋根用防水シートによれば、エラストマーシートとして、耐候性を有するクロロスルフォン化ポリエチレンを使用しているので、耐久性を求められる建築資材でも、エラストマーシート自身の厚さを例えば0.15mm〜0.45mmの範囲とすることができる。このエラストマーシート自身の厚さは、現場での施工作業性を阻害しない程度の薄さとなっている。
請求項3に記載の屋根用防水シートによれば、自然架橋により形状を記憶するので、製品成形時はアルミ箔の保形性により形状を保持し、製品成形後、常温環境においてエラストマーシートの自然架橋に伴い、形状を記憶することになる。このような屋根用防水シートが形状記憶特性を有することは、様々な意匠の屋根材や屋根勾配が類型的に存在する建築物において、屋根の棟や壁際への防水シートの設置が現場設置形状に適合するように、容易に施工できる屋根用防水シートに用いて好適である。
請求項5に記載の屋根用防水シートによれば、多層防水シートを製造する場合の効果として、クロロスルフォン化ポリエチレンシート自身の厚さを0.15mm〜0.45mmの厚さに構成するため、エラストマーシートとアルミ箔の貼り合わせ工程における巻き巣の問題を発生することがなり、製造効率が高くなる。そこで、第一の発明の屋根用防水シートの製造において、横手方向折返し重合せ部Tや長手方向折返し重合せ部Lを連続して成形する場合に、加工機械による連続加工が可能になり、量産性が高まるという効果がある。
第一の発明の屋根用防水シート並びに第二の発明の棟用防水シートによれば、以下の効果がある。
(a) 屋根用防水シートと棟用防水シートは、軽量であり作業者の熟練度や技術に依らずに使用できる。
(b) 第一の発明の屋根用防水シートに、請求項2記載のクロロスルフォン化ポリエチレンシートを用いると、棟用防水シートの表面が耐摩耗性や耐引き裂き性に優れるクロロスルフォン化ポリエチレンシートで覆われているため、屋根用防水シートや棟用防水シートに対する鳥害の恐れがない。
(c) 屋根用防水シートと棟用防水シートには、請求項1記載の長手方向折返し重合せ部Lを設けてあるため、棟用防水シートを棟等の屋根に設置する場合にも、幅手方向又は高さ方向にも延伸ができる。また、棟用防水シートに特有の効果として、長手方向折返し重合せ部Lによって棟用防水シートが予め折り畳まれているため、棟包内に納めるための折り畳み作業が不要になると共に、長手方向折返し重合せ部Lは水返し効果を有すため、請求項17記載のように通気部を設けている類型の棟用防水シートであっても漏水問題が生じない。
(d) 本発明に用いる屋根用防水シートの総厚は、例えば0.4mm〜0.5mmのように柔軟性が確保できる程度の厚さとなると共に、横手方向折返し重合せ部Tの間隔が狭いため、屋根材の様々な凹凸形状に対して、作業者の現場での設置作業において、屋根用防水シートの手加工で形状を変形させることで自在に対応できる。
(e) 屋根用防水シートと棟用防水シートに、請求項3に記載のクロロスルフォン化ポリエチレンシート1を使用すると、従来の粘着テープの接着力とアルミ箔の保形性との協働関係に起因する、経年変化による屋根材からの剥離を抑えることができる。
以下、図面によって本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明に用いられる多層防水シートを説明する。
図1は、本発明に係る多層防水シートを説明する構成図である。図において、多層防水シート5は、エラストマーシート1、粘着剤2、アルミ箔3、樹脂系塗料4の四層構造になっている。ここで、エラストマーシート1に用いられるエラストマーには、熱可塑性エラストマー、架橋ゴム、未架橋ゴムが含まれる。エラストマーは、JISK6418に用語の定義があり、弾性ポリマー(Elastic Polymer)の一種である。分子間を共有結合で結合し、三次元網目構造(Network Structure)を形成する高分子は、ガラス転移温度Tg以上ではゴム弾性という性質を示す。ゴムの弾性は、本来規則構造を持たない分子の配列が、外部からの力により規則性になり、これが元の不規則な配列に戻ろうとするときの力によるもので、熱力学的には応力によるエントロピーの低下(ギブス自由エネルギーの増加)が元に戻ろうとする力による弾性であるから、エントロピー弾性とも呼ばれる。
そして、多層防水シート5におけるエラストマーシート1には、自然架橋のクロロスルフォン化ポリエチレンを用いることが好ましい。特に、自然架橋タイプを用いることで、架橋工程を省くことができ、成形後、常温状態で形状を記憶するシートとなる。クロロスルフォン化ポリエチレンシート1は、0.15mm〜0.45mm、特に好ましくは、0.3mm、という薄手の状態であることが好ましい。ここで、クロロスルフォン化ポリエチレンとは、クロロスルホン化ポリエチレンを主成分とする配合物で、クロロスルホン化ポリエチレン以外に、タルク、炭カル、シリカ、カーボンなどの無機物、芳香族プロセスオイル、塩素化パラフィンなどの可塑剤、ポリエチレンワックスなどの加工助剤を必要に応じて添加することができる。
また、自然環境下での架橋状態を調整するために、酸化マグネシウム、リサージ、硫黄、エポキシなど、クロロスルホン化ポリエチレンの架橋に使用される一般的な架橋剤、もしくは架橋助剤を必要に応じて添加することもできる。さらに、ゴム成分として、主成分のクロロスルホン化ポリエチレン以外のゴム成分として、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、二トリルゴム、ウレタンゴムなどを必要に応じて添加することができる。また、ゴム成分以外にも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、アクリロ二トリルスチレンブタジエン共重合体、アクリル、エチレン酢酸ビニル(EVA)などの樹脂成分、さらには、ナイロン、ポリエステルなどを主成分とする繊維を必要に応じて添加することもできる。
粘着剤2は、エラストマーシート1とアルミ箔3の二層間の接着に用いられる。粘着剤2により、二層間に起こる折り返した部位の応力を緩和でき、より折り曲げ加工性に富むシートが得られる。粘着剤2には、特にアクリル系粘着剤2が好ましい。これに対して、ブチルゴムやポリイソブチレンなどでは、加熱時に軟化してしまうため、エラストマーシート1が熱収縮した場合に、アルミ箔上3に固着しておくことができなくなるという不都合を生じる。
また、エラストマーシート1とアルミ箔3を積層させる工程についても、アクリル粘着剤2は、ブチルゴムやポリイソブチレンなどのゴム系粘着剤と比較すると、粘性が低いためラミネート加工装置が使用でき、加工速度も10[km/h]以上で貼り合わせ加工ができ、加工コストを低減できる。
アルミ箔3は、作業者が手加工により成形するため、軟質アルミニウムであり、厚みが30μm〜90μm(好ましくは40μm)程度が好ましい。アルミ箔3の厚みは、貼り合せられるエラストマーシート1の厚さと熱収縮力、作業者が多層防水シートを屋根材の凹凸に対応できるように変形する場合の作業性、並びに多層防水シートを製造するために用いる織り機の能力により定まる。そして、アルミ箔3の厚みの下限側は、次の三要件により定まる。
(i)エラストマーシート1とアルミ箔3の貼り合わせ工程における巻き巣の発生頻度
(ii)アルミ箔3がエラストマーシート1を積層固定する力に対し、列理方向への熱収縮力が大きくなり、エラストマーシート1がアルミ箔3から剥離してしまうこと、
(iii)アルミ箔3が形状を保持する力に対し、列理方向への熱収縮力が大きくなり、アルミ箔3が表面側に丸まってしまうこと。
他方、アルミ箔の厚さの上限は、作業者が多層防水シートを手加工で屋根材の凹凸に対応できるように変形できる程度の低剛性が必要である。さらに、エラストマーシート1とアルミ箔3の厚さは、多層防水シートを製造するために用いる織り機で織ることができる剛性である必要がある。これら三要件を充足するアルミ箔3の厚さとしては、30μm〜120μmが好ましい(表1、表2、表3参照)。
樹脂系塗料4は、耐引裂性を考慮し、エポキシ樹脂系塗料の塗布厚を0.5μm〜5μm、好ましくは1μm〜4μm、特に好ましくは3μm程度を焼付け加工するのがよい。樹脂系塗料4は、耐久性や耐食性を向上させることを目的としてコーティングされるが、更にアルミ箔3の裏面への加工ついて、耐引裂性を考慮して定められる。耐引裂性の点は、図2(b)を参照する関係で、該当箇所で詳細に説明する。
ここで、エラストマーシート1としてクロロスルフォン化ポリエチレンシートを用いた場合の、多層防水シート5の物性について説明する。まず、クロロスルフォン化ポリエチレンシートでは、熱可塑性を有する未架橋ゴムであるため、約70℃以上の温度が加わると、シートの列理方向に大きく収縮が発生してしまう(表1参照)。このため、保形成を有するアルミ箔3に積層固定することが必要となる。
この際、より折り曲げ加工を容易にするため、粘着剤2がクロロスルフォン化ポリエチレンシート1とアルミ箔3との二層間の接着に用いられる。なお、粘着剤2は特にアクリル系粘着剤2が好ましい。これはブチルゴムやポリイソブチレンなどでは、クロロスルフォン化ポリエチレンと同様、熱により軟化してしまい、アルミ箔3上にクロロスルフォン化ポリエチレンシート1を固着させておくことができない場合があるだけでなく(表1参照)、ブチル等のゴム系粘着剤では粘性が高すぎて、二層の貼り合わせ工程に用いるラミネート加工装置が使用できず、貼り合わせコストが高くなる場合があるためである。
なお、クロロスルフォン化ポリエチレンシート1を厚くすると、貼り合わせ工程における巻き巣が起こりやすくなるだけでなく、アルミ箔3がクロロスルフォン化ポリエチレンシート1を積層固定する力(β)に対し、列理方向への熱収縮力(α)が大きくなり、クロロスルフォン化ポリエチレンシート1がアルミ箔3から剥離してしまうことや(表2参照)、アルミ箔3が形状を保持する力(γ)に対し、列理方向への熱収縮力(α)が大きくなり、アルミ箔3が表面側に丸まってしまう(表3参照)ため、注意が必要である。
クロロスルフォン化ポリエチレンシート1とアルミ箔3の厚さ決定は、熱収縮性の条件を満たし、且つ織り機で織ることができ、且つ作業者が手加工で屋根材の凹凸に対応できるアルミ箔3でなければならない。これらの熱収縮性に対する剛性、施工現場での作業性、製造効率の三要件を満たすアルミ箔3の厚さとしては、30μm〜120μmが好ましい。
続いて、第一の発明である屋根用防水シートを説明する。図2は屋根用防水シートの構成図で、図2(a)は屋根用防水シートについて図2(b)のA−A方向の断面図、図2(b)は屋根用防水シートの構成斜視図である。
図において、屋根用防水シート10は、多層防水シート5を例えば図2(b)に示すように、この多層防水シート5の長手方向(Length
direction)の途中に該長手方向と直交する横手方向(Transverse direction)にわたって横手方向折返し重合せ部Tを形成し、該長手方向にわたって長手方向折返し重合せ部Lを形成した二方向折り重ね状態としている。
図2(a)、(b)に示すように、横手方向折返し重合せ部Tの間隔Lpは、屋根形状の凸凹形状の複雑さに対応するため、適宜に定める。また、横手方向折返し重合せ部Tが存在するため、屋根用防水シート10は、上段屋根用防水シート部101、上段折曲げ部102、折返し屋根用防水シート部103、下段折曲げ部104、下段屋根用防水シート部105、連結屋根用防水シート部106を有している。そして、折返し屋根用防水シート部103を展開すると、上段屋根用防水シート部101と下段屋根用防水シート部105との間隔が、折返し屋根用防水シート部103の長手方向長さL103の二倍の範囲で調整できる。長手方向折返し重合せ部Lの間隔Lpに適合するように、長手側折返し屋根用防水シート部103の長手方向長さL103と長手側連結屋根用防水シート部106の長手方向長さL106が定められる。
また、図2(b)に示すように、長手方向折返し重合せ部Lが存在するため、屋根用防水シート10は、長手延伸側上段屋根用防水シート部121、長手延伸側上段折曲げ部122、長手延伸側折返し屋根用防水シート部123、長手延伸側下段折曲げ部124、長手延伸側下段屋根用防水シート部125を有している。そして、長手延伸側折返し屋根用防水シート部123を展開すると、長手延伸側上段屋根用防水シート部121と長手延伸側下段屋根用防水シート部125との間隔が、長手延伸側折返し屋根用防水シート部123の横手方向長さT123の二倍の範囲で調整できる。
横手方向折返し重合せ部Tは、屋根材の凹凸に馴染ませるように貼り付けるため、横手方向折返し重合せ部Tを連続して設け、横手方向折返し重合せ部T同士の間隔Lpと延伸率Exptは、主に被覆対象となる屋根材の凹凸に応じた適宜の価とすることが好ましい。ここで、横手方向折返し重合せ部Tの延伸率Exptは、例えば次式で定義することができる。
Expt=(Lp+2L103)/Lp (1)
長手方向折返し重合せ部Lは、主に被覆対象となる屋根材の段差のような凸凹形状に適合するように長手方向に延伸させるため、長手延伸側折返し屋根用防水シート部123を適宜の長さ確保することが好ましい。ここで、長手方向折返し重合せ部Lの延伸率Explは、例えば屋根用防水シート10の横手方向の長さTallを用いて次式で定義することができる。
Expl=(Tall+2T123)/Tall (2)
本発明の屋根用防水シートによれば、当該二方向折り重ね状態の多層防水シートを用いているので、横手方向折返し重合せ部Tを延伸することで、屋根材の凹凸に対応できると共に、長手方向折返し重合せ部Lを延伸することで、屋根材の段差への対応だけでなく、屋根材の段差による隙間に対して水返しの役目も果たす。また、作業者にとっても、横手方向への薄手のエラストマーシート1の弾性とアルミ箔3の保形性を有するシートのため、手に馴染みやすいため、施工不良が起き難く、施工時間の短縮につながる。
なお、本実施の形態においては、アルミ箔3の裏面への加工として樹脂系塗料4をコーティングする際に、特段の配慮をしている。即ち、図2(b)に示すように、多層防水シート5を長手方向と横手方向の二方向で折畳み加工する場合、アルミ箔3に屈折に伴う応力が掛かり、長手方向折返し重合せ部Lと横手方向折返し重合せ部Tの接点でアルミ箔3が破れやすくなる。そこで、樹脂系塗料4の塗布により当該接点での応力を緩和して、アルミ箔3を破れにくくして、製品の歩留まり率を向上させている。アルミ箔3の当該接点での応力を緩和するため、塗布厚が0.5μm〜5μmであることが望ましい。
また仮に、図2(b)に示すような、長手方向折返し重合せ部Lと横手方向折返し重合せ部Tとの接点を起点として、仮にアルミ箔3に破れが生じた場合であっても、耐引き裂性に優れるクロロスルフォン化ポリエチレンシート1によって破れる領域の拡大を防止でき、破断の急速な拡大を防止できる。
続いて、第二の発明である棟用防水シートを説明する。図3は、棟用防水シートの一実施の形態を説明する構成図で、(a)は上面から見た平面図、(b)は図3(a)のb−b方向から見た横手方向断面図、(c)は下面から見た底面図、(d)は図3(a)d−d方向から見た側面図である。二方向折り重ね状態の屋根用防水シート10に用いる多層防水シート5には、横手方向折返し重合せ部Tと長手方向折返し重合せ部Lとを形成した二方向折り重ね状態のものを用いているので、棟用防水シート20は長手方向だけでなく横手方向にも延伸性を有する。
図において、棟用防水シート20は、屋根用防水シート10を棟部用に適宜の形状にして用いると共に、粘着テープ25、剥離紙26、釘穴シール性シート部27を有している。図3(a)に示すように、棟用防水シート20は、釘穴シール性シート部27を介して左右対称の形状を有している。棟用防水シート20には、長手方向折返し重合せ部Lが釘穴シール性シート部27に沿って左右に夫々二箇所設けられている。長手方向折返し重合せ部Lが存在するため、棟用防水シート20は、上段棟用防水シート部201、上段折曲げ部202、折返し棟用防水シート部203、下段折曲げ部204、下段棟用防水シート部205を左右対称に有している。また、図3(c)に示すように、折り目部206は、棟用防水シート20の下面に現れており、釘穴シール性シート部27と上段棟用防水シート部201との位置合わせ部位である。典型的な棟用防水シート20の形状は、横手方向に関しては、釘穴シール性シート部27の長さT27と、折返し棟用防水シート部203を折り重ねた状態での上段棟用防水シート部201と下段棟用防水シート部205との両端の間隔Tr,Tlを用いて、(Tr+T27+Tl)となっている。他方、棟用防水シート20の長手方向の長さLallは、棟の長さや棟用防水シート20の全体重量と作業性の観点から、適宜に定める。
粘着テープ25は、ブチルまたはEPDMが好ましい。壁際用簡便施工装置の長手方向の裾部Mに幅10mm〜50mm(好ましくは30mm)装着することが好ましい。釘穴シール性シート部27には、例えばポリプロピレンの不織布またはルーフィングと同質材を用いる。このように構成すると、上段棟用防水シート部201を構成する未架橋クロロスルフォン化ポリエチレンと、これを被覆する釘穴シール性シート部27によって、未架橋クロロスルフォン化ポリエチレンの可塑性が保持され、釘穴シール性を保持できる。
横手方向折返し重合せ部Tは、屋根材の凹凸に馴染ませるように貼り付けるため、折返し重合せ部Tを連続して設け、折返し重合せ部T同士の間隔Lpは6mm〜18mmであり、延伸率Exptが140%〜160%であることが好ましい。長手方向折返し重合せ部Lは、主に屋根材の谷部に沿うように長手方向に延伸させるため、折返し棟用防水シート部203の横手方向の長さT203を20mm〜40mm確保することが好ましい。
本発明の棟用防水シートによれば、屋根用防水シート10を棟部用に適宜の形状に裁断しているので、横手方向折返し重合せ部Tを延伸することで、屋根材の凹凸に対応できると共に、長手方向折返し重合せ部Lを延伸することで、屋根材の段差への対応だけでなく、水返しの役目も果たす。また、作業者にとっても、横手方向への薄手のエラストマーシート1の弾性とアルミ箔3の保形性を有するシートのため、手に馴染みやすいため、平坦な屋根瓦の葺かれている領域と比較して、棟瓦部のように屋根傾斜の異なる領域の境界において類型的に生じやすい施工不良の発生が防止でき、施工時間の短縮につながる。
図4は、棟用防水シートの他の実施の形態を説明する構成図で、(a)は上面から見た平面図、(b)は図4(a)のb−b方向から見た横手方向断面図、(c)は下面から見た底面図、(d)は図4(a)d−d方向から見た側面図である。図において、棟用防水シート20は、屋根用防水シート10を棟部用に適宜の形状に裁断すると共に、粘着テープ25、剥離紙26、釘穴シール性シート部27、通気撥水繊維部28、通気孔部29を有している。
通気撥水繊維部28は、例えば不織布に撥水処理をしたもので、上段棟用防水シート部201の上側に、上段棟用防水シート部201の両側に位置する上段折曲げ部202まで被覆する状態で設けられている。通気孔部29は、上段棟用防水シート部201の両側に位置する折り目部206と上段折曲げ部202との間に、長手方向に連続して設ける。通気孔部29の形状は、通気撥水繊維部28で被覆された状態で通気性が確保できるように定めるのがよい。ここでは、上段棟用防水シート部201の両側に位置する折り目部206の間隔T206と、折返し棟用防水シート部203を折り重ねた状態での上段棟用防水シート部201と下段棟用防水シート部205との両端の間隔Tr,Tlを用いて、(Tr+T206+Tl)となっている。図4(c)に示すように、通気孔部29は長手方向に二列又は三列形成してある。
図5は、棟用防水シートの施工状態を説明する要部拡大断面図で、(a)は屋根の棟部近傍における棟用防水シートの納まり状態を説明する要部断面図、(b)は棟用防水シートの棟部近傍における作業態様を説明する要部断面図、(c)は棟用防水シートの効用を説明する要部断面図である。図5(b)に示すように、棟用防水シートの裾部を棟木の上辺を軸にして下ろすことで、棟包の内側に納まることを示した図である。図5(c)に示すように、棟用防水シートが雨水を遮断して、空気を通している状態を説明している。
図5(a)において、施工対象となる建造物の屋根の棟部30には、棟木31、棟木支持材32、ルーフィング33、桟木34、屋根材35、棟包36、ビス37、木ズリ38、野地板39が用いられている。ここで、棟木31は、屋根の最上部に、桁行(けたゆき)方向に取り付ける横木をいう。棟木支持材32は、例えば発泡ポリスチレンのような樹脂製が好ましく、棟木31を支持する棟木接触部321と、棟木31とルーフィング33までの間隙に設けられて支持する縦支持部322と、棟を境として両側に傾斜しているルーフィング33と接触する逆Y字形接触部323とを有している。ルーフィング33は、防水作用のあるシート状の部材で、屋根材35が瓦の場合にはアスファルト系シートが用いられる。
桟木34は、屋根の瓦35をとめるときに使用する部材で、風通しをよくするため材に直交して間に挟む小角材である。屋根材35には、典型的には瓦やスレートを用いるが、瓦のような厚型の屋根材を用いるとよい。棟包36は、棟木31を被覆して防水を確実にするもので、耐久性の高い金属板や屋根材と同質素材が用いられる。ビス37は、棟包36を棟木31に固定するのに用いるもので、金属製の剛性が高く耐久性の高い材料が用いられる。木ズリ38は、桟木34の下に垂直に設置する幅20mm程度のテープ状のもので、桟木34に雨水が溜まらず、流れ落ちる。野地板39は、屋根瓦などを固定する屋根面の下地合板をいい、垂木の上に合板を張り、その上にルーフィング33を施工してある。
このように構成された施工対象となる建造物の屋根の棟部近傍における、棟用防水シート20の設置手順を次に説明する。図6は、棟用防水シートの設置方法を説明する流れ図、図7は棟の長手方向に棟用防水シートを敷設する場合を説明する斜視図である。まず、図5(b)(i)に示すように、棟用防水シート20の長手方向の中央部を、棟木31の上側面に屋根の棟方向と並行に設置する(ステップ100)。次に、棟用防水シート20を棟木31にステープル等で仮止めする(ステップ102)。ステープル等を打つのは、釘穴シール性シート部27とするのがよい。次に、棟用防水シート20の長手方向の裾部を棟木31に対して押し下げると共に、粘着テープ25の剥離紙26を剥がす(ステップ104)。ここで、ステップ104の棟用防水シート20の長手方向の裾部を棟木31に対して押し下げと、粘着テープ25の剥離紙26を剥がすこととは、時間的に前者と後者を同時並行的に行ってよく、また後者の剥離を先に行ってから前者の押し下げを行っても良い。棟用防水シート20の長手方向の裾部を棟木31に対して押し下げる際に、粘着テープ25の剥離紙26を剥がしながら押し下げることで、同時並行的に作業でき、施工の手順を簡略化できる。
なお、棟用防水シート20が接着テープ25を有している場合に、棟用防水シート20を屋根材35の山部352や谷部354と接着するために、粘着テープ25に設けられた剥離紙26を剥がすタイミングは、ステップ102とステップ104との間やステップ104と同時に限られるものではなく、後で述べるようなステップ104とステップ106との間、ステップ106とステップ108との間、ステップ108とステップ1010との間、の何れでもよい。
次に、図5(b)(ii)・(iii)に示すように、棟用防水シート20の裾部24が屋根材35に届かない場合に、長手方向折返し重合せ部Lを横手方向に延伸させて、裾部24が屋根材35に届く状態にする(ステップ106)。この場合、長手方向折返し重合せ部Lを横手方向に延伸させる程度としては、裾部24を棟包36の内側の墨打ち位置に納まる程度にするのがよい。続いて、屋根材35の山部352に対しては、棟用防水シート20を長手方向に接着する(ステップ108)。他方、屋根材35の谷部354に対しては、当該谷部形状に沿うように、棟用防水シート20を長手方向に延伸させて接着する(ステップ110)。棟用防水シート20と屋根材35の山部352や谷部354との接着には、粘着テープ25を用いるのがよい。屋根材35として日本瓦のように一枚の瓦に山部352と谷部354が存在するものを用いると、隣接する瓦相互の設置において山部352と谷部354の端部を旨く位置合わせすることで、雨水に対する耐性の高い、強固に一体構造の屋根が構成できる(ステップ112)。このとき、図7に示すように、棟用防水シート20は、屋根材35の山部352や谷部354の形状に適合させると共に、棟木31の形状に適合させる必要がある。そこで、棟用防水シート20の横手方向折返し重合せ部Tに関しては、棟木31のように平坦な場合では重ね合せた状態で装着し、屋根材35の山部352や谷部354のように凸凹形状の場合は重ね合せた状態から展開状態にして、装着する。
図6に示す棟用防水シートの設置手順によれば、図5(b)に示すように、棟用防水シート20の長手方向の裾部を棟木31に対して押し下げた位置が、棟包36からはみ出ることはない。これにより、棟包内の墨打ちをした所定位置に納まり、裾部が所定位置に届かない場合は、長手方向折返し重合せ部Lを横手方向に伸ばして屋根材35に接着でき、従来の棟用防水シート20に長手方向折返し重合せ部Lが存在しない場合において、棟用防水シート20がはみ出た場合にも棟用防水シート20の折り曲げ作業をする必要がなくなる。
長手方向折返し重合せ部Lは、折返し棟用防水シート部203を折り重ねた状態から横手方向に伸ばすことによって、棟木31の高さが各種の建築物によって相違する場合にも、単一の棟用防水シート20で対処できる範囲が広がる。また、長手方向折返し重合せ部Lは、建造物の屋根内部への浸水を防止する止面戸と同様の機能を発揮する水返し部としても使用できると共に、さらに粘着テープ25の装着幅を広げることにも使用できる。
図6(ステップ100)のように、棟用防水シート20の長手方向の中央部を、棟木31の上側面に長手方向に固定することで、作業者は両手を用いて、図5(a)に図示するように、棟用防水シート20の両裾部を屋根材35に隙間なく貼り付けることができる。また、棟包36部の外側に棟用防水シート20の裾部が出ることがなく、意匠性も良好である。
本発明の棟用防水シートの設置方法によれば、多層防水シートが折り曲げ加工性と耐久性も併せ持つので、棟用防水シート20を施工後、時間と共にエラストマーシート1が常温で形状記憶するため、裾部の下面に装着されている粘着テープ25の接着力とアルミ箔3の形保性に加え、エラストマーシート1も形状を記憶しているため、屋根材35への接着に大きく貢献する。例えば、仮に経年後に粘着テープ25の粘着力の低下があった場合でも、アルミ箔3の保形性だけでなく、多層防水シート5の効果によって、屋根材35から剥離する危険性が減るので、これに伴い漏水の危険性も減るため、結果的に建造物の高耐久化に寄与するものである。
また、本発明の棟用防水シートを用いた棟施工ユニットによれば、次のような特徴がある。即ち、棟木支持材32は、従来のように防錆加工された金属製の場合には剛性に乏しく、風や積雪などで揺れたり曲がってしまう課題があった。しかし、棟木支持材として、棟木接触部321、縦支持部322、逆Y字形接触部323を有する樹脂製棟支持材32を用いることで、堅牢性を確保して、長期間使用しても倒れることが防止できる。
以上、添付図面を参照して、この発明の実施形態を説明したが、この発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。例えば、上記実施例においては、屋根用防水シートの用途として棟用防水シートを例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、雨水が建築物に侵入しやすい箇所における雨止めシール材として利用できる。