JP4352877B2 - γ−グルタミルシステインの製造法 - Google Patents

γ−グルタミルシステインの製造法 Download PDF

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Description

本発明は、γ−グルタミルシステインを生産する酵母菌株とその培養方法、及び同菌株の菌体を利用した飲食品に関するものである。γ−グルタミルシステインを含む素材及びそれから製造されるシステインを含む素材は、食品分野で有用である。
システインは、食品の風味改善などを目的に用いられている。システインの製法については蛋白分解法や半合成法などが知られているが、現在主に用いられている方法は蛋白分解法と半合成法である。システインを食品の風味改善に用いることを目的として、システイン含量の高い天然食品素材が求められているが、そのような天然食品素材は従来ほとんど知られていなかった。一方、γ−グルタミルシステインを含む酵母エキスを加熱または酵素処理すれば、システインを高含有する食品素材を得ることが可能であると報告されている(特許文献1)。
γ−グルタミルシステインは、γ−グルタミルシステイン合成酵素の働きによりシステインとグルタミン酸を基質にして合成される。また、グルタチオンはグルタチオン合成酵素の働きによりγ−グルタミルシステインとグリシンを基質にして合成される。グルタチオン合成酵素遺伝子を破壊した酵母は、γ−グルタミルシステインを蓄積することが報告されている(非特許文献1)。
これまでに、γ−グルタミルシステインを高含有する酵母は、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3などで報告されている。しかしこれらの報告には、グルタチオン合成酵素遺伝子を破壊または弱化させた酵母を用いてγ−グルタミルシステインを高蓄積させるための培養条件に関する記載はない。
ところで、γ−グルタミルシステインの代謝産物であるグルタチオンを酵母に高蓄積させる培養方法に関する技術が開示されている(特許文献2等)。この報告には、酵母の培養途中にグルタチオンの構成アミノ酸であるシステインを添加するとグルタチオン蓄積量が上昇すると記載されている。その為、グルタチオン合成酵素遺伝子を破壊または弱化させた酵母の培養途中にシステインを添加して培養すればγ−グルタミルシステインを高蓄積できると考えられる。しかしながら、γ−グルタミルシステインを含む素材はシステインを含む素材を製造する目的で有用であるため、システイン含有素材を得る目的でγ−グルタミルシステインを含有する酵母の培養途中にシステインを添加することは、コスト的見地からは非実用的な方法である。
さらに、大竹らは、グルタチオン合成酵素遺伝子が破壊された酵母YL1株の培養途中に3mMのシステインを添加した時の酵母菌体中のγ−グルタミルシステイン含有量を報告している(非特許文献1)。この報告では、YL1株にシステインを添加して培養した場合のγ−グルタミルシステイン蓄積量は0.533%であり、システインを添加しないで培養した場合のγ−グルタミルシステイン含有量0.518%であったと記載されている。この結果からも、グルタチオン合成酵素遺伝子を破壊または弱化させた酵母の培養途中にシステインを添加して培養することは非実用的な方法であると考えられる。
また、酵母におけるMET25遺伝子の発現量を増大させると菌体内グルタチオン含有量が上昇することが報告されている。さらに、MET25遺伝子の発現量を増大させる方法については変異型MET4遺伝子(非特許文献4、特許文献3)、変異型MET30遺伝子(非特許文献5)を利用する方法等が報告されている。
MET25遺伝子の発現については、次のように考えられている(非特許文献6、非特許文献7)。MET4産物は、MET25遺伝子に発現に正の因子として働く。通常は、MET4産物は、MET30産物及び他の数種のタンパク質とともにSCFMET30複合体を形成し、ユビキチン化を受け、26Sプロテアソームによるタンパク分解系によりMET30産物とともに分解されるため、MET25遺伝子の発現は抑制されている。一方、SCFMET30複合体の機能が低下すると、MET4産物及びMET30産物は分解を受けず、MET25遺伝子が発現する。
上記の知見から、γ−グルタミルシステインを高含有する酵母においても、MET25遺伝子の発現量を増大させることにより、γ−グルタミルシステイン含有量が増大することが予測される。
また、清酒酵母における研究から、清酒酵母をパントテン酸カルシウム欠乏状態で培養すると、その対数増殖期に硫化水素を蓄積するとの報告がある。この報告では、システインからの硫化水素の発生に着目しており、この現象はパントテン酸欠乏状態でより促進されると記載されている。
国際公開第00/30474号パンフレット(WO 00/30474) 特開昭48-92579号公報 特開平10-33161号公報 Otake et al., Agri. Biol. Chem., 54 (12), 3145-3150, 1990 クリスら、Molecular Biology of the Cell., 8, 1699-1707, 1997 Inoue et al., Biochimica et Biophysica Acta, 1395 (1998) 315-320) 大村ら FEBS Letters 387(1996) 179-183 DOMINIQUEら、MOLECULAR AND CELLUAR BIOLOGY, Dec 1995 p6526-6534 Patton et al.,Genes Dev.12: 692-705, 1998 Rouillon et al., EMBO Journal 19: 282-294, 2000
本発明は、上記の技術背景の下に、γ−グルタミルシステイン生産に適した酵母及びそれを用いたγ−グルタミルシステインの製造方法、並びに、同酵母菌株を利用したγ−グルタミルシステイン含有飲食品を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、酵母のγ−グルタミルシステインの蓄積量が培養中に一定である必要はなく、集菌直前に必要量のγ−グルタミルシステインを含有していればよいと考えた。そして、γ−グルタミルシステイン産生能を有し、かつパントテン酸を要求する酵母を、その酵母が必要とするパントテン酸を必要最小限度添加して培養し、十分量の菌体含量を得た後、パントテン酸を欠乏した状態で培養す
ることにより、γ−グルタミルシステインの蓄積量が上昇することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)γ−グルタミルシステイン生産能を有し、パントテン酸要求性を有し、かつ、パントテン酸量が制限された培地で培養したとき、乾燥酵母菌体当たりのγ−グルタミルシステイン含有量が経時的に上昇する酵母。
(2)細胞内のグルタチオン合成酵素活性が低下又は消失するように改変された(1)に記載の酵母。
(3)MET25遺伝子の発現が脱抑制されるように改変された(1)又は(2)に記載の酵母。
(4)コードされる蛋白質の569位のセリンがセリン以外の他のアミノ酸に置換する変異を有する変異型MET30遺伝子を保持することにより、MET25遺伝子の発現が脱抑制された(3)に記載の酵母。
(5)前記他のアミノ酸がフェニルアラニンである(4)に記載の酵母。
(6)サッカロマイセス属に属する(1)〜(5)のいずれかに記載の酵母。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の酵母を、十分な量のパントテン酸を含む培地で培養して同酵母を増殖させる工程と、パントテン酸量が制限された培地で培養し、菌体内のγ−グルタミルシステイン含有量を上昇させる工程を含む、γ−グルタミルシステインを蓄積した酵母の製造方法。
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載の酵母を好適な条件で培養して得られる培養物、もしくはγ−グルタミルシステインを含む前記培養物の分画物、又は熱処理によってシステインが生成したこれらの培養物もしくは分画物を含む飲食品。
(9)飲食品がアルコール飲料、パン食品、又は発酵食品調味料である(8)記載の飲食品。
(10)(1)〜(6)のいずれかに記載の酵母を好適な条件で培養して得られる培養物を用いて製造された酵母エキス。
(11)(1)〜(6)のいずれかに記載の酵母を好適な条件で培養して得られる培養物もしくはその分画物、又は加熱処理した前記培養物又は分画物を、飲食品原料に混合し、飲食品に加工することを特徴とする、γ−グルタミルシステイン又はシステイン含有飲食品の製造法。
(12)コードされる蛋白質の569位のセリンがフェニルアラニンに置換された変異を有する変異型MET30遺伝子を保持することにより、MET25遺伝子の発現が脱抑制された酵母。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明の酵母
本発明の酵母は、γ−グルタミルシステイン生産能を有し、かつ、パントテン酸要求性を有する酵母である。本発明の酵母は、好ましくは、パントテン酸量が制限された培地で培養したとき、乾燥酵母菌体当たりのγ−グルタミルシステイン含有量が経時的に上昇する。
本発明において、「γ−グルタミルシステイン生産能を有する」とは、酵母野生株よりも多量のγ−グルタミルシステインを菌体内に蓄積することをいい、好ましくは、酵母を十分な量のパントテン酸を含む培地で培養した後、パントテン酸量が制限された培地で培養したとき、乾燥酵母菌体当たり1%以上のγ−グルタミルシステインを蓄積することをいう。より好ましくは、さらに、乾燥酵母菌体当たりのグルタチオン蓄積量が0.1%以下であることをいう。
乾燥酵母菌体当たりのγ−グルタミルシステイン又はグルタチオンの蓄積量は、例えば、105℃で4時間加熱した後の菌体重量に対するγ−グルタミルシステイン又はグルタチオンの含有量(%)をいう。
γ−グルタミルシステイン生産能を有する酵母としては、例えば、細胞内のグルタチオン合成酵素活性が低下又は消失した酵母、もしくは、γ−グルタミルシステイン合成酵素活性が増強されるように改変された酵母、又は、細胞内のグルタチオン合成酵素活性が低下又は消失し、かつ、γ−グルタミルシステイン合成酵素活性が増強されるように改変された酵母が挙げられる。
細胞内のグルタチオン合成酵素活性が低下又は消失した酵母は、例えば、グルタチオン合成酵素をコードする遺伝子(GSH2)の部分配列を欠失し、正常に機能する酵素を産生しないように改変した遺伝子、又は酵素活性が低下するような変異を有する遺伝子(以下、単に「変異型GSH2遺伝子」という)を含むDNAを用いた遺伝子置換により創製することができる。また、細胞内のグルタチオン合成酵素活性が低下又は消失した酵母は、実施例に記載したのと同様に、野生型酵母を、通常の変異処理、例えばUV照射、あるいはN−メチル−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホネート(EMS)、亜硝酸、アクリジン等の変異剤による処理によって、取得することもできる。得られた変異株が目的の変異を有していることは、例えばPCR法等により確認することができる。
前記のようなグルタチオン合成酵素活性が低下するような変異としては、例えば、370位のアルギニン残基を終止コドンに変更する変異が挙げられる。
また、グルタチオン合成酵素活性が低下する他の変異としては以下の変異が挙げられる(国際公開03/046155号パンフレット参照)。
(1)47位のスレオニン残基をイソロイシン残基に置換する変異。
(2)387位のグリシン残基をアスパラギン酸残基に置換する変異。
(3)54位のプロリン残基がロイシン残基に置換する変異。
上記変異は、単独でも、任意の組合せでもよいが、(1)と(3)の組合せ、及び(2)と(3)の組合せが好ましい。
グルタチオン合成酵素遺伝子への目的の変異の導入は、合成オリゴヌクレオチドを用いた部位特異的変異法によって行うことができる。
前記遺伝子置換は、以下のようにして行うことができる。変異型GSH2遺伝子を含む組換えDNAで酵母を形質転換し、変異型GSH2遺伝子と染色体上のGSH2遺伝子との間で組換えを起こさせる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。また、前記組換えDNAは、制限酵素で切断する等により直鎖状にし、さらに、酵母で機能する複製制御領域を除いておくと、染色体に組換えDNAが組み込まれた株を効率よく取得することができる。
酵母の形質転換は、プロトプラスト法、KU法、KUR法、エレクトロポレーション法等、通常酵母の形質転換に用いられる方法を採用することができる。
上記のようにして染色体に組換えDNAが組み込まれた株は、変異型GSH2遺伝子と染色体上にもともと存在するGSH2遺伝子との組換えを起こし、野生型GSH2遺伝子と変異型GSH2遺伝子との融合遺伝子2個が組換えDNAの他の部分(ベクター部分及びマーカー遺伝子)を挟んだ状態で染色体に挿入されている。
融合遺伝子2個のうち、変異型GSH2遺伝子のみを残すために、2個のGSH2遺伝子の組換
えにより1コピーのGSH2遺伝子を、ベクター部分(マーカー遺伝子を含む)とともに染色体DNAから脱落させる。その際、野生型GSH2遺伝子が染色体DNA上に残され、変異型GSH2遺伝子が切り出される場合と、反対に変異型GSH2遺伝子が染色体DNA上に残され、野生型GSH2遺伝子が切り出される場合がある。いずれの場合もマーカー遺伝子が脱落するので、2回目の組換えが生じたことは、マーカー遺伝子に対応する表現形質によって確認することができる。また、目的とする遺伝子置換株は、PCRによりGSH2遺伝子を増幅し、その構造を調べることによって、選択することができる。
尚、遺伝子置換に用いる変異型GSH2遺伝子は、グルタチオン合成酵素タンパク質全長をコードするものであってもよいが、欠失部位を含む限り、タンパク質の一部をコードする遺伝子断片であってもよい。
サッカロマイセス・セレビシエのグルタチオン合成酵素遺伝子(GSH2)は塩基配列が報告されており(Inoue et al., Biochim. Biophys. Acta, 1395 (1998) 315-320、GenBank
accession Y13804、配列番号1)、同塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRにより、サッカロマイセス・セレビシエ染色体DNAから取得することができる。また、導入する遺伝子は、サッカロマイセス属以外の微生物に由来する遺伝子を用いることができる。
本発明に用いる変異型GSH2遺伝子は、前記47位、387位、54位の変異以外に、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1又は数箇所の位置における1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を含むアミノ酸配列を有するGSH2産物をコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には例えば、前記「数個」は、2〜10個、好ましくは、2〜6個、より好ましくは2〜3個である。あるいは、変異型GSH2遺伝子は、GSH2産物のアミノ酸配列全体に対し、30〜40%以上、好ましくは55〜65%以上の相同性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
また、上記のような塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等には、GSH2遺伝子を保持する微生物の個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)も含まれる。
尚、GSH2遺伝子を破壊する場合は、遺伝子置換に用いる変異型GSH2遺伝子は必ずしも全長を含む必要はなく、遺伝子破壊を起こすのに必要な長さを有していればよい。また、GSH2遺伝子の取得に用いる微生物は、同遺伝子が、遺伝子破壊株の創製に用いる微生物の相同遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していれば特に制限されない。
前記サッカロマイセス・セレビシエのGSH2遺伝子と相同組換えを起こし得るDNAとしては具体的には、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAと、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。より具体的には、配列番号1に示す塩基配列を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが挙げられる。ストリンジェントな条件としては、60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で洗浄が行われる条件が挙げられる。
また、グルタチオン合成酵素活性が低下又は消失した酵母は、実施例に記載したのと同様に、野生型酵母を、通常の変異処理、例えばUV照射、あるいはN−メチル−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホネート(EMS)、亜硝酸、アクリジン等の変異剤による処理によって、取得することもできる。
また、酵母細胞内のγ−グルタミルシステイン合成酵素活性を増強する方法としては、同酵素遺伝子(例えば、Saccharomyces cerevisiaeのγ−グルタミルシステイン合成酵素遺伝子: GenBank Accession No. D90220)を挿入したプラスミドで酵母を形質転換し、同遺伝子の細胞内のコピー数を高めるか、染色体上のγ−グルタミルシステイン合成酵素遺伝子のプロモーターを強転写プロモーターで置換する方法(大竹康之ら、バイオサイエンスとインダストリー、第50巻第10号、第989〜994頁、1992年)が挙げられる。
細胞内のγ−グルタミルシステイン合成酵素活性及びグルタチオン合成酵素性は、それぞれ、Jacksonの方法(Jackson, R.C., Biochem. J., 111, 309 (1969))、及びGushimaらの方法(Gushima, T. et al., J. Appl. Biochem., 5, 210 (1983))によって測定することができる。
本発明の酵母は、上記のようなγ−グルタミルシステイン生産能を有し、かつ、パントテン酸要求性を有する。本発明において「パントテン酸要求性」とは、酵母の非改変株、例えば野生株が増殖できるのに必要なパントテン酸の濃度よりも高い濃度のパントテン酸を増殖に必要とすることをいう。
パントテン酸要求性を有する酵母変異株は、変異処理を行った酵母を、パントテン酸を含む培地及び含まない培地にレプリカし、パントテン酸を含まない培地でコロニーを形成せず、パントテン酸を含む培地でコロニーを形成する株を選択することによって、取得することができる。また、変異処理を行った酵母をパントテン酸を含まず、かつ、増殖する細胞に選択的に作用する抗生物質、例えばナイスタチンを添加した培地で培養することによって、パントテン酸要求性株を濃縮することができる。
上記パントテン酸を含まない培地としては、具体的には下記の組成を有する培地が挙げられる。また、パントテン酸を含む培地としては、前記培地にパントテン酸塩を、0.1〜10mg/L、例えば0.4mg/L添加した培地が挙げられる。パントテン酸塩としては、パントテン酸カルシウムが挙げられる。また、固体培地の場合は、適当量の寒天を含む。
Figure 0004352877
上記のような性質を有する本発明の酵母は、十分な量のパントテン酸を含む培地で増殖することができ、かつ、パントテン酸量が制限された培地で培養したとき、乾燥酵母菌体当たりのγ−グルタミルシステイン含有量が経時的に上昇する。「十分な量のパントテン酸」とは、対数増殖期にある酵母が増殖することができるような量を意味する。この量は、通常は、0.1mg/L以上、好ましくは0.4mg/L以上である。また、パントテン酸量の上限は特に制限されないが、通常は、10mg/L以上であると過剰である。従って、パントテン酸量は通常、0.1〜10mg/Lである。
一方、「パントテン酸量が制限された」とは、十分な量のパントテン酸を含むときに対数増殖期にある酵母であっても、増殖できないか、増殖速度が低下するような量に培地中のパントテン酸量が制限されたことを意味する。この量は、通常は、0.1mg/L以下、好ましくは0.01mg/L以下である。尚、パントテン酸量が0mg/Lでもかまわない。
本発明において、「γ−グルタミルシステイン含有量が経時的に上昇する」とは、本発明の酵母を十分な量のパントテン酸を含む培地で増殖させた後、パントテン酸量が制限された培地に移して培養したとき、培地交換時での乾燥酵母菌体当たりのγ−グルタミルシステイン含有量に対し、培地交換後のγ−グルタミルシステイン含有量の最大値が好ましくは1.5倍以上、より好ましくは1.8倍以上、特に好ましくは2倍以上になることをいう。
本発明の酵母は、MET25遺伝子の発現が脱抑制されるように改変されていてもよい。MET25遺伝子の発現が脱抑制されたとは、DOMINIQUEらの報告(MOLLECULAR AND CELLUAR BIOLOGY Dec, 1995, p6526-6534)に記載された条件において、MET25遺伝子の発現量がメチオニンにより抑制されないことを意味する。
MET25遺伝子の発現を脱抑制させる方法として具体的には、例えば、コードされる蛋白質の569位のセリンがセリン以外の他のアミノ酸に置換する変異を有する変異型MET30
遺伝子を酵母に保持させる方法が挙げられる。前記他のアミノ酸としてはフェニルアラニンが挙げられる。このような性質を有する酵母は、後記実施例に示すように酵母を変異処理することによって取得することができるが、必要な変異が特定されたので、同変異を有する酵母は遺伝子工学的手法によって容易、かつ、確実に取得することができる。例えば、MET25遺伝子の発現が脱抑制された酵母は、上記変異を有する変異型MET30遺伝子を用いた遺伝子置換により創製することができる。遺伝子置換は、上記のGSH2遺伝子と同様にして行うことができる。また、変異型MET30遺伝子を保持する酵母は、同遺伝子を挿入したプラスミドで酵母を形質転換し、同遺伝子の細胞内のコピー数を高めることによっても創製することができる。さらに、変異型MET30遺伝子を保持する酵母は、実施例に記載したのと同様に、野生型酵母を、通常の変異処理、例えばUV照射、あるいはN−メチル−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホネート(EMS)、亜硝酸、アクリジン等の変異剤による処理によって、取得することもできる。得られた変異株が目的の変異を有していることは、例えばPCR法等により確認することができる。なお、上記の、コードされる蛋白質の569位のセリンがフェニルアラニンに置換する変異を有する変異型MET30遺伝子を保持する酵母は、グルタチオンの生産にも使用することができる。
本発明において、MET30遺伝子とは、MET4産物及び他の数種のタンパク質とともにSCFMET30複合体を形成し、MET25遺伝子の発現に関与するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、配列番号3に示す塩基配列を有するサッカロマイセス・セレビシエ由来のMET30遺伝子、及びそのホモログが挙げられる。前記ホモログとしては、例えば配列番号3に記載の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが挙げられる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
「569位のセリン」とは、配列番号4に示すMET30産物のアミノ酸配列において、569位に位置するセリン残基を意味する。また、アミノ酸配列におけるあるアミノ酸残基の位置は、その位置よりも上流側における配列中のアミノ酸残基の挿入、欠失等によって変化し得る。本発明において、「569位のセリン」とは、このように、アミノ酸配列中の絶対的位置が変わった場合であっても、配列番号4に示すアミノ酸配列における569位のセリン残基に相当するアミノ酸残基を含む。
本発明に用いる変異型MET30遺伝子は、配列番号4に示すアミノ酸配列において、569位のセリンがセリン以外の他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする保存的バリアント(conservative variant)、すなわち569位以外の1又は数箇所の位置における1又は数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を含むアミノ酸配列を有するMET30産物をコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には例えば、前記「数個」は、2〜10個、好ましくは、2〜6個、より好ましくは2〜3個である。あるいは、変異型MET30遺伝子は、MET30産物のアミノ酸配列全体に対し、30から40%以上、好ましくは55〜65%以上の相同性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。
また、上記のような塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等には、MET30遺伝子を保持する微生物の個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)も含まれる。
本発明の酵母としては、γ−グルタミルシステインを生産することができるものであれば特に制限されないが、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエ等のサッカロマイセス属、キャンディダ・ユティリス等のキャンディダ属、シゾサッカロマイセス・ポンベ等のシゾサッカロマイセス属等に属する酵母が挙げられる。また、本発明の酵母菌株は、1倍体でもよいが、2倍性またはそれ以上の倍数性を有することが、生育が良好である点で好ましい。
2倍性またはそれ以上の倍数性を有する酵母は、それらを変異処理しγ−グルタミルシステインを産生する株を選択すること、或いはγ−グルタミルシステイン産生株の育種に用いた1倍体酵母と、野生型酵母の1倍体を接合させ、得られた2倍体酵母を胞子形成させることにより、グルタチオン合成酵素活性が弱化し、γ−グルタミルシステインを産生する株を選択し、相異なる接合型を有するγ−グルタミルシステイン産生1倍体酵母2株を接合させることによって、取得することができる。同様にして、3倍性又はそれ以上の倍数性を有する酵母を取得することができる。
上記のような酵母の育種、改変に関する操作は、「化学と生物 実験ライン31 酵母の実験技術」初版 廣川書店;「バイオマニュアルシリーズ10 酵母による遺伝子実験法」初版、羊土社、「METHODS in YEAST GENETICS 2000 Edition」Cold Spring Harbor Laboratory Press等に記載されている。
<2>本発明の酵母の利用
本発明の酵母を、十分な量のパントテン酸を含む培地で培養して同酵母を増殖させた後、パントテン酸量が制限された培地で培養し、菌体内のγ−グルタミルシステイン含有量を上昇させることにより、γ−グルタミルシステインが蓄積した酵母を製造することができる。
好ましくは、前記パントテン酸の「十分な量」は、予め一定量の酵母菌体を得るのに必要なパントテン酸要求量を実験的に測定し、目的の量の菌体を得るために必要なパントテン酸量を算出することによって、決定することができる。
酵母を増殖させる工程では、パントテン酸は初発培地に全量添加してもよいし、分割添加してもよい。使用する培地及び培養条件は、パントテン酸量を制御できるものであれば特に制限されず、通常の酵母エキスの製造等に用いられる培地及び条件を採用することができる。
本発明の酵母の好ましい態様として、低下したグルタチオン合成酵素活性を有する酵母は、グルタチオンを含まない培地でも良好に生育することができるので、通常、工業的に用いられる培地を用いることができる。尚、必要に応じて、用いる酵母の形質にしたがって必要な栄養素を培地に添加する。
十分な量の酵母菌体が得られたら、パントテン酸量が制限された培地で培養する。パントテン酸の量を制限する方法としては、十分な量のパントテン酸を含む培地で酵母を培養した培養液又は酵母菌体を、制限された量のパントテン酸を含むか、又はパントテン酸を含まない培地に移す方法が挙げられる。また、培地交換によらずに、パントテン酸の分割添加を停止することによっても、パントテン酸量を制限することができる。パントテン酸量を制限する時期は、対数増殖期に行うことが好ましい。例えば、パン酵母では、対数増殖期又は定常期まで培養した培養液を、2%となるように栄養培地に接種し、30℃で8〜16時間、振とう培養すれば、対数増殖期の菌体が得られる。
パントテン酸量が制限された培地で培養する間に、酵母菌体内のγ−グルタミルシステインの蓄積量は経時的に上昇する。目的とする蓄積量に達したら、培養を終了する。通常は、好適な条件下では、培養時間は10〜30時間、好ましくは15〜27時間である。
上記のようにして得られる培養物又はその分画物は、γ−グルタミルシステインを含有する。培養物は、酵母菌体を含む培養液であってもよいし、それから採取された酵母菌体、菌体破砕物、又は菌体抽出物(酵母エキス)であってもよい。菌体破砕物又は酵母エキスから、γ−グルタミルシステインを含む画分を得てもよい。
上記γ−グルタミルシステインを含む培養物又はその分画物を加熱することにより、γ−グルタミルシステインからシステインを遊離させることができる。
酵母エキス等の調製は、通常の酵母エキスの調製と同様にして行えばよい。酵母エキスは、酵母菌体を熱水抽出したものを処理したものでもよいし、酵母菌体を消化したものを処理したものでもよい。
上記γ−グルタミルシステイン又はシステインを含む培養物又はその分画物は、飲食品の製造に用いることができる。飲食品としては、アルコール飲料、パン食品、又は発酵食品調味料が挙げられる。熱処理によるγ−グルタミルシステインからシステインの生成は、飲食品の製造中、又は製造の後に行われてもよい。
上記飲食品は、γ−グルタミルシステイン又はシステインを含む培養物又はその分画物を、飲食品原料に混合し、飲食品に加工することによって製造される。本発明の飲食品は、前記培養物又は分画物を使用すること以外は、通常の飲食品と同様の原料を用い、同様の方法によって製造することができる。このような原料としては、例えばアルコール飲料では、米、大麦、コーンスターチ等、パン食品では小麦粉、砂糖、食塩、バター、発酵用酵母菌等が、発酵食品調味料では大豆、小麦等が挙げられる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
[実施例1]
<1>グルタチオン合成酵素活性が低下した酵母の取得
食品用途に用いられる市販の2倍体のサッカロマイセス・セレビシエを常法にしたがい胞子形成させた。形成した胞子からランダムスポア法により1倍体酵母YN0001株(MATα)を取得した。YN0001株をEMSにより変異処理し、グルタチオン含有量が低下した変異株YN0002株(MATα)を取得した。4分子解析により、YN0002株のGSH2遺伝子が変異していることを確認した。具体的には、コードされるタンパク質の387番目のグリシン残基がアスパラギン酸残基に置換されていた。また、グルタチオン含有量が低下した変異株YN0003株(MATa)も取得した。
尚、前記変異処理は、死滅率が90%になるような条件で行なった。YN0001株を50mlのYPD培地で30℃で1日間振とう培養し、酵母菌体を集菌した。酵母菌体を0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)で3回洗浄した。酵母菌体を0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)9.2ml、40% D-グルコース0.5ml、EMS 0.3ml(ナカライテスク社Code155-19)を含む溶液に懸濁し、30℃で90分間振とう培養した。この懸濁液に、10%チオ硫酸ナトリウム(フィルター滅菌)を10ml加え、10分間室温に放置して変異剤を中和した。酵母菌体を集菌し、0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)で洗浄した。
前記YN0001株とYN0002株を各々YPD培地に植菌し、30℃で振とう培養した。培養産物をSD培地に2%植菌し、30℃で振とう培養した。対数増殖期における菌体内グルタチオン含有
量を測定した。その結果、YN0001株のグルタチオン含有量は0.52%であった。一方、YN0002株のグルタチオン含有量は0.006%以下であった。
<2>MET30遺伝子変異株の取得
前記1倍体酵母YN0001株(MATα)を、前記と同様にしてEMSにて変異処理し、MET25遺伝子の発現がメチオニンによって抑制されない変異株AJ14819株(MATα)を取得した。本菌株は、プライベートナンバーAJ14819が付与され、2002年9月 11 日付けで独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、受託番号FERM P-19007が付与されている。さらに、同菌株は平成15年10月1日にブダペスト条約に基く国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-08502が付与されている。なお、MET25遺伝子の発現がメチオニンによって抑制されるか否かは、セレンを含む培地での生育の有無によって判別することもできる(DOMINIQUEら、MOLLECULAR AND CELLUAR BIOLOGY Dec, 1995, p6526-6534)。
具体的には、以下のようにして変異株の選択を行った。変異処理を行なった酵母をYPD寒天培地にスプレッドした。スプレッドは寒天培地に生育してくる酵母が100株前後になるように行なった。YPD培地に生育してきた酵母をセレンを含む培地とセレンを含まない培地(前記DOMINIQUEらに記載の寒天培地)にレプリカした。セレンを含む培地では生育しないが、セレンを含まない培地で生育する酵母菌株を選択した。
選択した酵母のMET25遺伝子発現量が上昇している事を以下のようにして確認した。選択した酵母菌株及びYN0001株をSD培地で培養し、その対数増殖期に集菌した。菌体内に含まれるRNAを回収し、RNA中に含まれるMET25遺伝子の転写産物の量を内部標準としてACT1遺伝子を用いて定量した。定量は、定量PCRであるPCR5700(Applied Biosystems社)を用い、TaqMan One-Step RT-PCRキット(Applied Biosystems社)を用いて行なった。TaqMan
Probe(Applied Biosystems社)に、ACT1-986T(配列番号5)及びMET25-1077T(配列番号6)を用い、ACT1及びMET25遺伝子の増幅用にACT1-963F(配列番号7)とACT1-1039R(配列番号8)、及びMET251056F(配列番号9)とMET25-1134R(配列番号10)を用いた(以上、Applied Biosystems社)。このようにして、MET25遺伝子の発現量がYN0001株よりも2倍以上に上昇した酵母AJ14819株を取得した。
このようにして取得したAJ14819株の変異遺伝子を4分子解析により特定し、その遺伝子の配列を調べたところ、MET30遺伝子がコードするタンパク質の569位のセリン残基がフェニルアラニン残基に変異していた。このようにしてMET25遺伝子の発現がメチオニンによって抑制されない酵母AJ14819株を取得した。
<3>パントテン酸カルシウム要求性を有する酵母の取得
前記1倍体酵母YN0001株(MATα)を、前記と同様にしてEMSにて変異処理した。変異処理した酵母からパントテン酸カルシウム要求性酵母を取得するために、パントテン酸カルシウムを含まず、かつ、ナイスタチン(10μg/ml)を添加した培地で前記酵母を30℃で2時間培養し、培養液をYPD寒天培地にスプレッドした。生育してきた変異酵母をパントテン酸カルシウムを含まない寒天培地とパントテン酸カルシウムを含む寒天培地(各々前記表1に示す組成を有する)にレプリカし、前者の寒天培地では生育できないが、後者の寒天培地では生育できる酵母を選択した。このようにして、パントテン酸カルシウムを要求する酵母Pa0001株(MATa)を取得した。
<4>変異型GSH2遺伝子及び変異型MET30遺伝子を有し、かつ、パントテン酸カルシウム要求性を有する酵母(GMP株;Diploid gsh2 met30 pa-)の取得
常法に従い、AJ14819株とPa0001株を接合させ、2倍体を取得した。取得した2倍体を胞子形成させ、ランダムスポア法により、変異型MET30遺伝子を有し、パントテン酸カル
シウム要求性を示す1倍体酵母MP株(MATa)を取得した。次に、YN0002株とMP株を接合させ2倍体を取得した。取得した2倍体を胞子形成させ、ランダムスポア法により、変異型GSH2遺伝子、変異型MET30遺伝子を有し、パントテン酸カルシウム要求性を示す1倍体酵母GMP-1(MATα)、GMP-2(MATa)株を取得した。GMP-1株とGMP-2株を接合させ、2倍体酵母GMP株を取得した。
<5>GMP株を用いたγ−グルタミルシステインの製造
GMP株をYPD培地(試験管4ml)に植菌し、30℃で1日振とう培養した。培養液をパントテン酸カルシウム0.4mg/dlを含む培地に植菌し、30℃で振とう培養した。対数増殖期に培地を採取し、菌体濃度(乾燥酵母重量)が60mg/dlになるように、パントテン酸カルシウムを含まない培地、及び0.4mg/Lのパントテン酸カルシウムを含む培地(前記表1)に、それぞれ添加し、培養を行った。乾燥酵母菌体あたりのγ−グルタミルシステイン含有量を経時的に測定した。結果を図1に示す。パントテン酸カルシウム濃度が低い培地で培養した場合は、高濃度で含む培地で培養した場合に比べて、γ−グルタミルシステイン含有量が経時的に増加した。
以上の結果より、GMP株のγ−グルタミルシステイン含有量が、パントテン酸カルシウムの不足により上昇することが示された。
[比較例1] 変異型GSH2遺伝子及び変異型MET30遺伝子を有する酵母の取得
常法に従い、前記MET30遺伝子変異株AJ14819株と、市販の酵母から得た1倍体酵母Pa0001株を接合させ、2倍体を取得した。この2倍体を胞子形成させ、ランダムスポア法により、変異型MET30遺伝子を有する、1倍体酵母M株(MATa)を取得した。次に、このM株と、前記GSH2遺伝子変異株YN0002株を接合させ2倍体を取得した。この2倍体を胞子形成させ、ランダムスポア法により、変異型GSH2遺伝子及び変異型MET30遺伝子を有する1倍体酵母GM-1株(MATα)、GM-2株(MATa)を取得した。GM-1株とGM-2株を接合させ、2倍体酵母GM株を取得した。
[実施例2] GMP株及びGM株によるγ−グルタミルシステインの製造
GM株及びGMP株を各々YPD培地に植菌し、30℃で振とう培養した。培養液をパントテン酸カルシウム0.4mg/dlを含む培地に植菌し、30℃で振とう培養した。対数増殖期に集菌し、菌体濃度(乾燥酵母重量)が60mg/dlになるように、パントテン酸カルシウムを含まない培地に植菌した。30℃で振とう培養し、乾燥酵母菌体当たりのγ−グルタミルシステイン含有量を経時的に測定した。結果を図2に示す。
その結果、GMP株では、パントテン酸カルウシウムを欠乏させた状態で培養を継続するに従い、乾燥酵母菌体あたりのγ−グルタミルシスイテン含有量が上昇することが示された。
[実施例3]
次に、GMP株のグルタチオン合成酵素活性を更に低下させた場合の影響を検討した。
<6>グルタチオン合成酵素遺伝子破壊カセットの作成
まず、グルタチオン合成酵素遺伝子破壊カセットを以下のようにして作成した。
Kpn Iで切断したpAUR123ベクター(宝酒造 code3602)を鋳型として、GSH2-AUR1-C-F(配列番号11)とGSH2-AUR1-C-R(配列番号12)をプライマーに用いてPCRを行った。PCR産物はAUR1-C遺伝子の両端にGSH2遺伝子のORFのN末端側配列及びGSH2遺伝子のORFのC末端側配列を含むため、同産物を用いて、グルタチオン合成酵素遺伝子を破壊することが可能である。PCRの条件は以下の通りである。
Kpn Iで切断したpAUR123 1μl
10×PCR Buffer 5μl
dNTP 4μl
10pmol/μl GSH2-AUR1-C-Fプライマー 1μl
10pmol/μl GSH2-AUR1-C-Rプライマー 1μl
KOD Dash DNA polymerase 0.5μl
MilliQ 37.5μl
Total 50μl

94℃2min ×1cycle→94℃40sec、54℃40sec、74℃1min ×30cycles →4℃ ∞
(KOD Dash はTOYOBO 製 codeLDP-101)
<7>AJ14861株の取得
上記のようにして作製したグルタチオン合成酵素遺伝子破壊カセットを用いて、以下のようにしてGMP株のグルタチオン合成酵素遺伝子の破壊を試みた。即ち、GMP株をYPD培地で培養し、その対数増殖期に集菌した。1Mソルビトール溶液で2回洗浄した菌体を、以下の組成の溶液に懸濁し、5℃で1時間放置した。
組成: 0.1 M LiCl
10 mM DTT
10 mM Tris-HCl(pH7.5)
1 mM EDTA
その後、1Mソルビトール溶液で2回洗浄した。このようにして調整した菌体に上述のようにして作製したPCR産物を混合し、エレクトロポレーションを行った。(「バイオマニュアルシリーズ10 酵母による遺伝子実験法」初版、羊土社)その後、混合物をYPD培地に植菌し、30℃で16時間振とう培養した。培養産物を、選択マーカーであるオーレオバシジンA(宝酒造 code9000)を0.2μg/ml含有するYPD寒天培地にスプレッドし3日間30℃で培養した。(GMP株のオーレオバシジンAに対する最小生育阻止濃度は0.05μg/ml)生育してきたコロニーを0.2μg/mlのオーレオバシジンAを含有するYPD寒天培地に塗布し、オーレオバシジンAに対する耐性能が獲得されているコロニーを選抜した。このようにして、AJ14861株を取得した。なお、本株は、プライベートナンバーAJ14861が付与され、2003年11月19日付けで、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、ブダペスト条約に基いて国際寄託されており、受託番号FERM BP-08553が付与されている。
<8>AJ14861株を用いたγ−グルタミルシステインの製造
AJ14861株をYPD培地(試験管4ml)に植菌し、30℃で1日振とう培養した。培養液をパントテン酸カルシウム0.4mg/dlを含む培地に植菌し、30℃で振とう培養した。対数増殖期に培地を採取し、菌体濃度(乾燥酵母重量)が60mg/dlになるように、パントテン酸カルシウムを含まない培地、及び0.4mg/Lのパントテン酸カルシウムを含む培地(前記表1)に、それぞれ添加し、培養を行った。乾燥酵母菌体あたりのγ−グルタミルシステイン含有量を経時的に測定した。結果を図3に示す。パントテン酸カルシウム濃度が低い培地で培養した場合は、高濃度で含む培地で培養した場合に比べて、γ−グルタミルシステイン含有量が経時的に増加した。
以上の結果より、AJ14861株のγ−グルタミルシステイン含有量が、パントテン酸カルシウムの不足により上昇することが示された。
本発明により、グルタチオン合成酵素活性が低下又は消失し、MET25遺伝子の発現が脱抑制され、パントテン酸要求性を示す酵母が提供される。本発明の酵母を、好適な条件で培養することにより、γ−グルタミルシステインを高含有する酵母培養液が提供される。本発明の酵母及び酵母培養液は、γ−グルタミルシステイン含有飲食品又はシステイン含有飲食品の製造に利用することができる。
本発明の酵母(GMP株)を、パントテン酸カルシウム(PaCa)を添加又は添加しない培地で培養したときの、菌体内γ−グルタミルシステイン含有量の経時的変化を示す図。 GM株及びGMP株のγ−グルタミルシステイン含有量の比較を示す図。 本発明の酵母(AJ14861株)を、パントテン酸カルシウムを添加又は添加しない培地で培養したときの、菌体内γ−グルタミルシステイン含有量の経時的変化を示す図。

Claims (8)

  1. γ−グルタミルシステイン生産能を有し、パントテン酸要求性を有し、かつ、パントテン酸量が制限された培地で培養したとき、乾燥酵母菌体当たりのγ−グルタミルシステイン含有量が経時的に上昇する酵母であって、細胞内のグルタチオン合成酵素活性が、グルタチオン合成酵素をコードする遺伝子の破壊または変異により、低下又は消失するように改変され、MET25遺伝子の発現が脱抑制されるように改変された酵母
  2. コードされる蛋白質の569位のセリンがフェニルアラニンに置換する変異を有する変異型MET30遺伝子を保持することにより、MET25遺伝子の発現が脱抑制された請求項に記載の酵母。
  3. サッカロマイセス属に属する請求項1または2に記載の酵母。
  4. 請求項1〜のいずれか一項に記載の酵母を、十分な量のパントテン酸を含む培地で培養して同酵母を増殖させる工程と、パントテン酸量が制限された培地で培養し、菌体内のγ−グルタミルシステイン含有量を上昇させる工程を含む、γ−グルタミルシステインを蓄積した酵母の製造方法。
  5. 請求項1〜のいずれか一項に記載の酵母を好適な条件で培養して得られる培養物、もしくはγ−グルタミルシステインを含む前記培養物の分画物、又は熱処理によってシステインが生成したこれらの培養物もしくは分画物を含む飲食品。
  6. 飲食品がアルコール飲料、パン食品、又は発酵食品調味料である請求項記載の飲食品。
  7. 請求項1〜のいずれか一項に記載の酵母を好適な条件で培養して得られる培養物を用いて製造された酵母エキス。
  8. 請求項1〜のいずれか一項に記載の酵母を好適な条件で培養して得られる培養物もしくはその分画物、又は加熱処理した前記培養物又は分画物を、飲食品原料に混合し、飲食品に加工することを特徴とする、γ−グルタミルシステイン又はシステイン含有飲食品の製造法。
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