以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る制御装置について説明する。図2に示すように、この制御装置1は、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、内燃機関(以下「エンジン」という)3の運転状態に応じて、バルブリフト制御、カム位相制御および圧縮比制御などの制御処理を実行する。
図1および図3に示すように、エンジン3は、4組の気筒3aおよびピストン3b(1組のみ図示)を有する直列4気筒DOHC型ガソリンエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。エンジン3は、気筒3aごとに設けられ、吸気ポートおよび排気ポートをそれぞれ開閉する吸気弁4および排気弁7と、吸気弁4駆動用の吸気カムシャフト5および吸気カム6と、吸気弁4を開閉駆動する可変式吸気動弁機構40と、排気弁7駆動用の排気カムシャフト8および排気カム9と、排気弁7を開閉駆動する排気動弁機構30と、圧縮比を変更する可変圧縮比機構80と、燃料噴射弁10と、点火プラグ11(図2参照)などを備えている。
吸気弁4は、そのステム4aがガイド4bに摺動自在に嵌合しており、このガイド4bは、シリンダヘッド3cに固定されている。さらに、吸気弁4は、図4に示すように、上下のスプリングシート4c,4dと、これらの間に設けられたバルブスプリング4eとを備えており、このバルブスプリング4eにより、閉弁方向に付勢されている。
また、吸気カムシャフト5および排気カムシャフト8はそれぞれ、図示しないホルダを介して、シリンダヘッド3cに回動自在に取り付けられている。この吸気カムシャフト5の一端部上には、吸気スプロケット5aが同軸に配置され、回転自在に設けられている(図8参照)。この吸気スプロケット5aは、タイミングベルト5bを介してクランクシャフト3dに連結され、後述する可変カム位相機構70を介して吸気カムシャフト5に連結されている(図8参照)。以上の構成により、吸気カムシャフト5は、クランクシャフト3dが2回転するごとに1回転する。また、吸気カム6は、吸気カムシャフト5上にこれと一体に回転するように気筒3aごとに設けられている。
さらに、可変式吸気動弁機構40は、吸気カムシャフト5の回転に伴って、各気筒3aの吸気弁4を開閉駆動するとともに、吸気弁4のリフトおよびバルブタイミングを無段階に変更するものであり、その詳細については、後述する。なお、本実施形態では、「吸気弁4のリフト(以下「バルブリフト」という)」は、吸気弁4の最大揚程を表すものとする。
一方、排気弁7は、そのステム7aがガイド7bに摺動自在に嵌合しており、このガイド7bは、シリンダヘッド3cに固定されている。さらに、排気弁7は、上下のスプリングシート7c,7dと、これらの間に設けられたバルブスプリング7eとを備えており、このバルブスプリング7eにより、閉弁方向に付勢されている。
また、排気カムシャフト8は、これと一体の排気スプロケット(図示せず)を備え、この排気スプロケットおよびタイミングベルト5bを介してクランクシャフト3dに連結されており、それにより、クランクシャフト3dが2回転するごとに1回転する。さらに、排気カム9は、排気カムシャフト8上にこれと一体に回転するように気筒3aごとに設けられている。
さらに、排気動弁機構30は、ロッカアーム31を備えており、このロッカアーム31が排気カム9の回転に伴って回動することにより、バルブスプリング7eの付勢力に抗しながら、排気弁7を開閉駆動する。
一方、燃料噴射弁10は、気筒3aごとに設けられ、燃料を燃焼室内に直接噴射するように、傾斜した状態でシリンダヘッド3cに取り付けられている。すなわち、エンジン3は直噴エンジンとして構成されている。また、燃料噴射弁10は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2により、開弁時間および開弁タイミングが制御され、それにより、燃料噴射制御が実行される。
また、点火プラグ11も、気筒3aごとに設けられ、シリンダヘッド3cに取り付けられている。点火プラグ11は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2により、点火時期に応じたタイミングで燃焼室内の混合気を燃焼させるように、放電状態が制御され、それにより、点火時期制御が実行される。
一方、エンジン3には、クランク角センサ20および水温センサ21が設けられている。このクランク角センサ20は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、クランクシャフト3dの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。なお、本実施形態では、クランク角センサ20は、位置検出手段に相当する。
CRK信号は、所定クランク角(例えば10゜)ごとに1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、各気筒3aのピストン3bが吸気行程のTDC位置よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、所定クランク角ごとに1パルスが出力される。
また、水温センサ21は、例えばサーミスタなどで構成されており、エンジン水温TWを表す検出信号をECU2に出力する。このエンジン水温TWは、エンジン3のシリンダブロック3h内を循環する冷却水の温度を表すものである。
さらに、エンジン3の吸気管12では、スロットル弁機構が省略されているとともに、その吸気通路12aが大口径に形成されており、それにより、流動抵抗が通常のエンジンよりも小さくなるように設定されている。この吸気管12には、エアフローセンサ22が設けられている。このエアフローセンサ22は、熱線式エアフローメータで構成されており、吸気通路12a内を流れる空気の流量Ginを表す検出信号をECU2に出力する。
次に、前述した可変式吸気動弁機構40について説明する。この可変式吸気動弁機構40は、図4に示すように、吸気カムシャフト5、吸気カム6、可変バルブリフト機構50および可変カム位相機構70などで構成されている。本実施形態では、可変バルブリフト機構50および可変カム位相機構70が可動機構に相当する。
この可変バルブリフト機構50は、吸気カムシャフト5の回転に伴って吸気弁4を開閉駆動するとともに、バルブリフトLiftinを所定の最大値Liftin_Hと所定の最小値Liftin_Lとの間で無段階に変更するものであり、気筒3aごとに設けられた四節リンク式のロッカアーム機構51と、これらのロッカアーム機構51を同時に駆動するリフトアクチュエータ60(図5参照)などを備えている。
各ロッカアーム機構51は、ロッカアーム52および上下のリンク53,54などで構成されている。この上リンク53の一端部は、上ピン55を介して、ロッカアーム52の上端部に回動自在に取り付けられており、他端部は、ロッカアームシャフト56に回動自在に取り付けられている。このロッカアームシャフト56は、図示しないホルダを介して、シリンダヘッド3cに取り付けられている。
また、ロッカアーム52の上ピン55上には、ローラ57が回動自在に設けられている。このローラ57は、吸気カム6のカム面に当接しており、吸気カム6が回転する際、そのカム面に案内されながら吸気カム6上を転動する。これにより、ロッカアーム52は上下方向に駆動されるとともに、上リンク53が、ロッカアームシャフト56を中心として回動する。
さらに、ロッカアーム52の吸気弁4側の端部には、アジャストボルト52aが取り付けられている。このアジャストボルト52aは、吸気カム6の回転に伴ってロッカアーム52が上下方向に移動すると、バルブスプリング4eの付勢力に抗しながら、ステム4aを上下方向に駆動し、吸気弁4を開閉する。
また、下リンク54の一端部は、下ピン58を介して、ロッカアーム52の下端部に回動自在に取り付けられており、下リンク54の他端部には、連結軸59が回動自在に取り付けられている。下リンク54は、この連結軸59を介して、リフトアクチュエータ60の後述する短アーム65に連結されている。
一方、リフトアクチュエータ60は、ECU2により駆動されるものであり、図5に示すように、モータ61、ナット62、リンク63、長アーム64および短アーム65などを備えている。このモータ61は、ECU2に接続され、エンジン3のヘッドカバー3gの外側に配置されている。モータ61の回転軸は、雄ねじが形成されたねじ軸61aになっており、このねじ軸61aに、ナット62が螺合している。このナット62は、リンク63を介して、長アーム64に連結されている。このリンク63の一端部は、ピン63aを介して、ナット62に回動自在に取り付けられ、他端部は、ピン63bを介して、長アーム64の一端部に回動自在に取り付けられている。
また、長アーム64の他端部は、回動軸66を介して短アーム65の一端部に取り付けられている。この回動軸66は、断面円形に形成され、エンジン3のヘッドカバー3gを貫通しているとともに、これに回動自在に支持されている。この回動軸66の回動に伴い、長アーム64および短アーム65はこれと一体に回動する。
さらに、短アーム65の他端部には、前述した連結軸59が回動自在に取り付けられており、これにより、短アーム65は、連結軸59を介して、下リンク54に連結されている。また、短アーム65の付近には、最小リフトストッパ67aおよび最大リフトストッパ67bが互いに間隔を存して設けられており、これらの2つのストッパ67a,67bにより、短アーム65は、その回動範囲が後述するように規制される。なお、本実施形態では、短アーム65が可動部に相当し、最小リフトストッパ67aおよび最大リフトストッパ67bが規制部に相当する。
次に、以上のように構成された可変バルブリフト機構50の動作について説明する。この可変バルブリフト機構50では、ECU2からの後述するリフト制御入力Uliftinがリフトアクチュエータ60に入力されると、ねじ軸61aが回転し、それに伴うナット62の移動により、長アーム64および短アーム65が回動軸66を中心として回動するとともに、この短アーム65の回動に伴って、ロッカアーム機構51の下リンク54が、下ピン58を中心として回動する。すなわち、リフトアクチュエータ60により、下リンク54が駆動される。
図5(a)に示すように、短アーム65が図中の反時計回りに回動すると、短アーム65は、最大リフトストッパ67bに当接し、これに係止される。それにより、下リンク54も、図4に実線で示す最大リフト位置に係止される。一方、図5(b)に示すように、短アーム65が図中の時計回りに回動すると、短アーム65は、最小リフトストッパ67aに当接し、これに係止される。それにより、下リンク54も、図4に2点鎖線で示す最小リフト位置に係止される。
以上のように、短アーム65の回動範囲は、2つのストッパ67a,67bにより、図5(a)に示す最大リフト位置と図5(b)に示す最小リフト位置との間に規制され、それにより、下リンク54の回動範囲も、図4に実線で示す最大リフト位置と、図4に2点鎖線で示す最小リフト位置との間に規制される。
下リンク54が最大リフト位置にある場合、ロッカアームシャフト56、上下のピン55,58および連結軸59によって構成される四節リンクでは、上ピン55および下ピン58の中心間の距離が、ロッカアームシャフト56および連結軸59の中心間の距離よりも長くなるように構成されており、それにより、図6(a)に示すように、吸気カム6が回転すると、これとローラ57との当接点の移動量よりも、アジャストボルト52aの移動量の方が大きくなる。
一方、下リンク54が最小リフト位置にある場合、上記四節リンクでは、上ピン55および下ピン58の中心間の距離が、ロッカアームシャフト56および連結軸59の中心間の距離よりも短くなるように構成されており、それにより、図6(b)に示すように、吸気カム6が回転すると、これとローラ57との当接点の移動量よりも、アジャストボルト52aの移動量の方が小さくなる。
以上の理由により、吸気弁4は、下リンク54が最大リフト位置にあるときには、最小リフト位置にあるときよりも大きなバルブリフトLiftinで開弁する。具体的には、吸気カム6の回転中、吸気弁4は、下リンク54が最大リフト位置にあるときには、図7の実線で示すバルブリフト曲線に従って開弁し、バルブリフトLiftinは、その最大値Liftin_Hを示す。一方、下リンク54が最小リフト位置にあるときには、図7の2点鎖線で示すバルブリフト曲線に従って開弁し、バルブリフトLiftinは、その最小値Liftin_Lを示す。
以上のように、この可変バルブリフト機構50では、アクチュエータ60を介して、下リンク54を最大リフト位置と最小リフト位置との間で回動させることにより、バルブリフトLiftinを、最大値Liftin_Hと最小値Liftin_Lとの間で無段階に変更することができる。本実施形態では、最大値Liftin_Hおよび最小値Liftin_Lが制御範囲の限界値に相当する。
なお、この可変バルブリフト機構50には、図示しないロック機構が設けられており、このロック機構により、リフト制御入力Uliftinが後述する故障時用値Uliftin_fsに設定されているときや、断線などによりECU2からのリフト制御入力Uliftinがリフトアクチュエータ60に入力されないときには、可変バルブリフト機構50の動作がロックされる。すなわち、可変バルブリフト機構50によるバルブリフトLiftinの変更が禁止され、バルブリフトLiftinが最小値Liftin_Lに保持される。なお、この最小値Liftin_Lは、カム位相Cainが後述する最遅角値Cain_Lに保持されかつ圧縮比Crが最低値Cr_Lに保持されている場合において、吸入空気量として所定の故障時用値が確保されるような値に設定されており、この所定の故障時用値は、停車中はアイドル運転やエンジン始動を適切に行うことができると同時に、走行中は低速走行状態を維持できるような吸入空気量の値に設定されている。
また、エンジン3には、回動角センサ23が設けられており(図2参照)、この回動角センサ23は、短アーム65の回動角θliftを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。この短アーム65の回動角θliftは、短アーム65が最大リフト位置と最小リフト位置との間のどの位置にあるかを表すものであり、ECU2は、この回動角θliftに基づき、バルブリフトLiftinを算出する。本実施形態では、回動角センサ23が位置検出手段に相当する。
次に、前述した可変カム位相機構70について説明する。この可変カム位相機構70は、以下に述べるように、カム位相Cainを電磁力により無段階に変更する電磁式のものであり、図8〜図10に示すように、遊星歯車装置71および電磁ブレーキ72などを備えている。
この遊星歯車装置71は、吸気カムシャフト5およびスプロケット5aの間で回転を伝達するものであり、リングギヤ71a、3つのプラネタリピニオンギヤ71b、サンギヤ71cおよびプラネタリキャリア71dを備えている。このリングギヤ71aは、電磁ブレーキ72の後述するアウタケーシング73に連結されており、これと同軸かつ一体に回転する。また、サンギヤ71cは、吸気カムシャフト5の先端部に同軸かつ一体に回転するように取り付けられている。
一方、プラネタリキャリア71dは、ほぼ三角形に形成され、それらの3つの角部にシャフト71eがそれぞれ突設されている。プラネタリキャリア71dは、これらのシャフト71eを介してスプロケット5aに連結されており、それにより、スプロケット5aと同軸かつ一体に回転するように構成されている。
また、各プラネタリピニオンギヤ71bは、プラネタリキャリア71dの各シャフト71eに回転自在に支持され、サンギヤ71cとリングギヤ71aの間に配置され、これらと常に噛み合っている。
さらに、前述した電磁ブレーキ72は、ECU2により駆動されるものであり、アウタケーシング73、コア74、電磁石75およびリターンスプリング76を備えている。アウタケーシング73は、中空に形成され、その内部にコア74が相対的に回動自在に設けられている。コア74は、断面円形の基部74aと、これから放射状に延びる2つのアーム74b,74bを備えている。コア74は、その基部74aがプラネタリキャリア71dに取り付けられており、それにより、プラネタリキャリア71dと同軸かつ一体に回転する。
一方、アウタケーシング73の内周面には、一対の最遅角ストッパ73aおよび最進角ストッパ73bを1組として、計2組のストッパ73a,73bが互いに間隔を存して設けられている。コア74の各アーム74bは、一対のストッパ73a,73b間に配置されており、それにより、コア74は、アーム74bが最遅角ストッパ73aに当接し、係止される最遅角位置(図10に実線で示す位置)と、最進角ストッパ73bに当接し、係止される最進角位置(図10に2点鎖線で示す位置)との間で、アウタケーシング73に対して相対的に回動可能に構成されている。本実施形態では、アーム74bが可動部に相当し、最遅角および最進角ストッパ73a,73bが規制部に相当する。
また、リターンスプリング76は、圧縮された状態で、最進角ストッパ73bの一つと、これと対向するアーム74bとの間に掛け渡されており、このリターンスプリング76の付勢力Fsprにより、アーム74bは最遅角ストッパ73a側に付勢されている。
一方、電磁石75は、リターンスプリング76と反対側の最進角ストッパ73bに取り付けられており、この最進角ストッパ73bの、アーム74bと対向する側の端部に面一の状態で設けられている。この電磁石75は、ECU2に電気的に接続されており、ECU2からの位相制御入力Ucain(電圧信号)により励磁されると、その電磁力Fsolにより、対向するアーム74bを、リターンスプリング76の付勢力Fsprに抗しながら吸引し、最進角ストッパ73b側に回動させる。
以上のように構成された可変カム位相機構70の動作について説明する。この可変カム位相機構70では、電磁ブレーキ72の電磁石75が励磁されていないときには、コア74は、リターンスプリング76の付勢力Fsprにより、そのアーム74bが最遅角ストッパ73aに当接する最遅角位置に保持され、それにより、カム位相Cainは、最遅角値Cain_L(図11参照)に保持される。
その状態で、エンジン運転中のクランクシャフト3dの回転に伴って、スプロケット5aが図10の矢印Y1方向に回転すると、プラネタリキャリア71dおよびリングギヤ71aが一体に回転することにより、プラネタリピニオンギヤ71bが回転せず、サンギヤ71cがプラネタリキャリア71dおよびリングギヤ71aと一体に回転する。すなわち、スプロケット5aと吸気カムシャフト5が一体に矢印Y1方向に回転する。
また、コア74が最遅角位置に保持されている状態で、電磁石75がECU2からの位相制御入力Ucainにより励磁されると、電磁石75の電磁力Fsolにより、コア74のアーム74bが、リターンスプリング76の付勢力Fsprに抗しながら、最進角ストッパ73b側すなわち最進角位置側に吸引され、電磁力Fsolと付勢力Fsprとが互いに釣り合う位置まで回動する。言い換えれば、アウタケーシング73が、コア74に対して相対的に矢印Y1と逆方向に回動する。
これにより、リングギヤ71aがプラネタリキャリア71dに対して相対的に図9の矢印Y2方向に回動し、それに伴い、プラネタリピニオンギヤ71bが図9の矢印Y3方向に回動することで、サンギヤ71cが図9の矢印Y4方向に回動する。その結果、吸気カムシャフト5が、スプロケット5aに対して相対的にスプロケットの回転方向(すなわち図9の矢印Y2と逆方向)に回動することになり、カム位相Cainが進角される。
この場合、アウタケーシング73の回動がリングギヤ71a、プラネタリピニオンギヤ71bおよびサンギヤ71cを介して、吸気カムシャフト5に伝達されるので、遊星歯車装置70の増速作用により、吸気カムシャフト5は、スプロケット5aに対してアウタケーシング73の回動角度が増幅された角度分、回動することになる。すなわち、吸気カム5のカム位相Cainの進角量は、アウタケーシング73の回動角度を増幅した値になるように設定されている。これは、電磁石75の電磁力Fsolが作用可能な距離には限界があるので、それを補償し、カム位相Cainをより広範囲で変化させるためである。
以上のように、可変カム位相機構70では、電磁力Fsolがカム位相Cainを進角させる方向に作用し、リターンスプリング76の付勢力Fsprがカム位相Cainを遅角させる方向に作用するとともに、電磁力Fsolが変化しない場合、カム位相Cainは、電磁力Fsolと付勢力Fsprとが互いに釣り合う値に保持される。また、コア74の回動範囲は、2つのストッパ73a,73bにより、図10に実線で示す最遅角位置と図10に2点鎖線で示す最進角位置との間の範囲に規制され、それにより、カム位相Cainの制御範囲も、最遅角値Cain_Lと最進角値Cain_Hとの間の範囲に規制される。本実施形態では、最遅角値Cain_Lおよび最進角値Cain_Hが制御範囲の限界値に相当する。
次に、以上のように構成された可変カム位相機構70の動作特性を説明する。図11に示すように、可変カム位相機構70においては、カム位相Cainは、電磁石75への位相制御入力Ucainが所定値Ucain1よりも小さい範囲では、最遅角値Cain_Lに保持され、所定値Ucain2よりも大きい範囲では、最進角値Cain_Hに保持される。また、Ucain1≦Ucain≦Ucain2の範囲では、最遅角値Cain_L(例えばカム角0゜)と最進角値Cain_H(例えばカム角55゜)の間で連続的に変化し、それにより、吸気弁4のバルブタイミングは、図12に実線で示す最遅角タイミングと、図12に2点鎖線で示す最進角タイミングとの間で、無段階に変更される。なお、図示しないが、この可変カム位相機構70は、位相制御入力Ucainが増大する方向のときのカム位相Cainの値と、位相制御入力Ucainが減少する方向のときのカム位相Cainの値とが互いに若干異なる、いわゆるヒシテリシス特性を有している。
また、この可変カム位相機構70では、位相制御入力Ucainが後述する故障時用値Ucain_fsに設定されているとき、および断線などにより位相制御入力Ucainが電磁石75に入力されないときには、カム位相Cainが最遅角値Cain_Lに保持される。この最遅角値Cain_Lは、前述したように、バルブリフトLiftinが最小値Liftin_Lに保持され、かつ圧縮比Crが最低値Cr_Lに保持されている場合において、吸入空気量として所定の故障時用値を確保できるような値に設定されている。
以上のように、本実施形態の可変式吸気動弁機構40では、可変バルブリフト機構50により、バルブリフトLiftinが、前述した最大値Liftin_Hと最小値Liftin_Lとの間で無段階に変更されるとともに、可変カム位相機構70により、カム位相Cainが、前述した最遅角値Cain_Lと最進角値Cain_Hとの間で無段階に変更される。
一方、吸気カムシャフト5の可変カム位相機構70と反対側の端部には、カム角センサ24(図2参照)が設けられている。このカム角センサ24は、例えばマグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、吸気カムシャフト5の回転に伴い、パルス信号であるCAM信号を所定のカム角(例えば1゜)ごとにECU2に出力する。ECU2は、このCAM信号および前述したCRK信号に基づき、カム位相Cainを算出する。本実施形態では、カム角センサ24が位置検出手段に相当する。
次に、図13を参照しながら、前述した可変圧縮比機構80について説明する。この可変圧縮比機構80は、ピストン3bの上死点位置すなわちピストン3bのストロークを変更することにより、圧縮比Crを所定の最高値Cr_Hと所定の最低値Cr_Lとの間で無段階に変更するものであり、各気筒3aのピストン3bとクランクシャフト3dの間に連結された複合リンク機構81と、この複合リンク機構81に連結された圧縮比アクチュエータ85などで構成されている。本実施形態では、可変圧縮比機構80が可動機構に相当する。
複合リンク機構81は、上リンク82、下リンク83および制御リンク84などで構成されている。上リンク82は、いわゆるコンロッドに相当するものであり、その上端部がピストンピン3fを介してピストン3bに回動自在に連結され、下端部がピン83aを介して、下リンク83の一端部に回動自在に連結されている。
下リンク83は、三角形状のものであり、上リンク82との連結端部以外の2つの端部はそれぞれ、クランクピン83bを介してクランクシャフト3dに、制御ピン83cを介して制御リンク84の一端部に回動自在に連結されている。以上の構成により、ピストン3bの往復運動が、複合リンク機構81を介してクランクシャフト3dに伝達され、クランクシャフト3dの回転運動に変換される。
また、圧縮比アクチュエータ85は、ECU2に接続されたモータと減速機構(いずれも図示せず)を組み合わせたものであり、ECU2により後述するように駆動される。圧縮比アクチュエータ85は、ケーシング85a、アーム85bおよび制御軸85cなどを備えており、このケーシング85a内には、モータおよび減速機構が内蔵されている。アーム85bの一端部は、減速機構の回転軸85dの先端部に固定されており、それにより、アーム85bは、モータの回転に伴い、回転軸85dを中心として回動する。
このアーム85bの他端部には、制御軸85cが回動自在に連結されている。制御軸85cは、クランクシャフト3dと同様に、図中の奥行き方向に延びており、この制御軸85cには、制御リンク84の他端部が連結されている。
さらに、アーム85bの付近には、最低圧縮比ストッパ86aおよび最高圧縮比ストッパ86bが互いに間隔を存して設けられており、これらの2つのストッパ86a,86bにより、アーム85bは、その回動範囲が規制される。すなわち、アーム85bは、ECU2からの後述する圧縮比制御入力Ucrによって、モータが正逆回転方向に駆動されると、最低圧縮比ストッパ86aに当接し、係止される最低圧縮比位置(図13(a)に示す位置)と、最高圧縮比ストッパ86bに当接し、係止される最高圧縮比位置(図13(b)に示す位置)との間の範囲内で回動する。本実施形態では、アーム85bが可動部に相当し、最低圧縮比および最高圧縮比ストッパ86a,86bが規制部に相当する。
以上の構成により、この可変圧縮比機構80では、アーム85bが最低圧縮比ストッパ86a側にある状態で、圧縮比アクチュエータ85の回転軸85dが、図中の反時計回りに回転すると、それに伴ってアーム85bが図中の反時計回りに回動する。それにより、制御リンク84全体が押し下げられるのに伴い、下リンク83がクランクピン83bを中心として図中の時計回りに回動するとともに、上リンク82がピストンピン3fを中心として図中の反時計回りに回動する。その結果、ピストンピン3f、上ピン83aおよびクランクピン83bが、最低圧縮比位置のときよりも直線状に近づくことで、ピストン3bが上死点に到達したときのピストンピン3fとクランクピン83bを結ぶ直線距離が長くなり(すなわちピストン3bのストロークが長くなり)、燃焼室の容積が小さくなることによって、圧縮比Crが高くなる。
一方、上記とは逆に、アーム85bが最高圧縮比ストッパ86b側にある状態で、アクチュエータ85の回転軸85dが、図中の時計回りに回転すると、それに伴ってアーム85bが図中の時計回りに回動することで、制御リンク84全体が押し上げられる。これにより、上記とは全く逆の動作により、下リンク83が、反時計回りに回動するとともに、上リンク82が時計回りに回動する。その結果、ピストン3bが上死点に到達したときのピストンピン3fとクランクピン83bを結ぶ直線距離が短くなり(すなわちピストン3bのストロークが短くなり)、燃焼室の容積が大きくなることによって、圧縮比Crが低くなる。以上のように、この可変圧縮比機構80では、アーム85bが最低圧縮比ストッパ86aと最高圧縮比ストッパ86bとの間で回動することにより、圧縮比Crが前述した最低値Cr_Lと最高値Cr_Hとの間で無段階に変更される。本実施形態では、最低値Cr_Lおよび最高値Cr_Hが制御範囲の限界値に相当する。
なお、この可変圧縮比機構80には、図示しないロック機構が設けられており、このロック機構により、圧縮比制御入力Ucrが後述する故障時用値Ucr_fsに設定されているとき、および断線などにより圧縮比制御入力Ucrが圧縮比アクチュエータ85に入力されないときには、可変圧縮比機構80の動作がロックされる。すなわち、可変圧縮比機構80による圧縮比Crの変更が禁止され、圧縮比Crが最低値Cr_Lに保持される。この最低値Cr_Lは、前述したように、バルブリフトLiftinが最小値Liftin_Lに保持され、かつカム位相Cainが最遅角値Cain_Lに保持されている場合において、吸入空気量として所定の故障時用値を確保できるような値に設定されている。
また、圧縮比アクチュエータ85のケーシング85a内には、制御角センサ25が設けられており(図2参照)、この制御角センサ25は、回転軸85dすなわちアーム85bの回動角θcrを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この制御角センサ25の検出信号に基づき、圧縮比Crを算出する。本実施形態では、制御角センサ25が位置検出手段に相当する。
さらに、図2に示すように、ECU2には、アクセル開度センサ26およびイグニッション・スイッチ(以下「IG・SW」という)27が接続されている。このアクセル開度センサ26は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号をECU2に出力する。また、IG・SW27は、イグニッションキー(図示せず)操作によりON/OFFされるとともに、そのON/OFF状態を表す信号をECU2に出力する。
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ20〜26の検出信号およびIG・SW27の出力信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、各種の制御を実行する。具体的には、ECU2は、後述するように、可変バルブリフト機構50および可変カム位相機構70を介して、バルブリフトLiftinおよびカム位相Cainをそれぞれ制御するとともに、可変圧縮比機構80を介して、圧縮比Crを制御する。
なお、本実施形態では、ECU2が、制御量算出手段、目標制御量設定手段、制御入力算出手段、外乱抑制パラメータ設定手段、判定手段および補正値算出手段に相当する。
次に、本実施形態の制御装置1について説明する。この制御装置1は、バルブリフト制御を実行するバルブリフトコントローラ100(図14参照)と、カム位相制御を実行するカム位相コントローラ110(図16参照)と、圧縮比制御を実行する圧縮比コントローラ120(図18参照)とを備えており、これらはいずれも、具体的には、ECU2により構成されている。
まず、バルブリフトコントローラ100について説明する。このバルブリフトコントローラ100は、可変バルブリフト機構50を制御するためのリフト制御入力Uliftinを算出するものであり、図14に示すように、切換関数設定パラメータ算出部101および2自由度スライディングモードコントローラ(以下「2自由度SLDコントローラ」という)102を備えている。
この切換関数設定パラメータ算出部101では、バルブリフトLiftinに応じて、図15に示すテーブルを検索することにより、切換関数設定パラメータPOLE_lfが算出される。同図15において、POLE_lf1は、値0に近い負の所定値(例えば値−0.2)に設定され、POLE_lf2は、値−1に近い負の所定値(例えば値−0.99)に設定されている。
また、同図において、Liftin_LL,Liftin_ML,Liftin_VPL,Liftin_VPH,Liftin_MH,LiftinHHは、下式(1),(2)が成立するように設定されたバルブリフトLiftinの所定値である。Liftin_LL,Liftin_HHはそれぞれ、所定の最小ホールド値および所定の最大ホールド値であり、前述したリフトアクチュエータ60の短アーム65を最小リフトストッパ67aおよび最大リフトストッパ67bに当接した状態に保持するために用いられる。また、Liftin_VPL,Liftin_VPHは、所定のしきい値であり、下式(2)のDliftin_vpoleは、正の所定値である。
このテーブルでは、切換関数設定パラメータPOLE_lfは、Liftin≦Liftin_ML,Liftin_MH≦Liftinの範囲では、所定値POLE_lf2に設定され、Liftin_VPL≦Liftin≦Liftin_VPHの範囲では、所定値POLE_lf1に設定されている。また、Liftin_ML<Liftin<Liftin_VPLの範囲では、切換関数設定パラメータPOLE_lfは、バルブリフトLiftinが大きいほど、より大きい値に設定され、Liftin_VPH<Liftin<Liftin_MHの範囲では、バルブリフトLiftinが大きいほど、より小さい値に設定されている。切換関数設定パラメータPOLE_lfが以上のように設定されている理由については後述する。
本実施形態では、バルブリフトコントローラ100が制御入力算出手段に相当し、切換関数設定パラメータ算出部101が外乱抑制パラメータ設定手段に相当し、切換関数設定パラメータPOLE_lfが外乱抑制パラメータおよび応答指定パラメータに相当する。さらに、最小および最大ホールド値Liftin_LL,Liftin_HHが、制御範囲外の所定値に相当し、しきい値Liftin_VPL,Liftin_VPHが限界値付近の所定値に相当する。
一方、2自由度SLDコントローラ102では、リフト制御入力Uliftinが、バルブリフトLiftinおよび目標バルブリフトLiftin_cmdに基づき、以下の式(3)〜(10)に示す目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出される。すなわち、リフト制御入力Uliftinは、バルブリフトLiftinを目標バルブリフトLiftin_cmdに追従・収束させるための値として算出される。以下の式(3)〜(10)において、記号(k)付きの各離散データは、後述する所定の制御周期ΔTでサンプリング(または算出)されたデータであることを示しており、記号kは各離散データのサンプリングサイクルの順番を表している。例えば、記号kは今回のサンプリングタイミングでサンプリングされた値であることを、記号k−1は前回のサンプリングタイミングでサンプリングされた値であることをそれぞれ示している。この点は、以下の離散データにおいても同様である。なお、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)を適宜省略する。
Liftin_cmd_f(k)=−POLE_f_lf・Liftin_cmd_f(k-1)
+(1+POLE_f_lf)・Liftin_cmd(k) ……(3)
Uliftin(k)=Ueq_lf(k)+Urch_lf(k)+Uadp_lf(k)+Unl_lf(k) ……(4)
σ_lf(k)=E_lf(k)+POLE_lf・E_lf(k-1) ……(9)
E_lf(k)=Liftin(k)−Liftin_cmd_f(k) ……(10)
この制御アルゴリズムでは、まず、式(3)に示す目標値フィルタアルゴリズムすなわち一次遅れフィルタアルゴリズムにより、目標バルブリフトのフィルタ値Liftin_cmd_fが算出される。同式(3)において、POLE_f_lfは、目標値フィルタ設定パラメータであり、−1<POLE_f_lf<0の関係が成立する値に設定される。
次いで、式(4)〜(10)に示すスライディングモード制御アルゴリズムにより、リフト制御入力Uliftinが算出される。すなわち、式(4)に示すように、リフト制御入力Uliftinは、等価制御入力Ueq_lf、到達則入力Urch_lf、適応則入力Uadp_lfおよび非線形入力Unl_lfの総和として算出される。
等価制御入力Ueq_lfは、式(5)により算出される。同式(5)において、a1_lf,a2_lf,b1_lf,b2_lfは、後述する式(11)のプラントモデルのモデルパラメータを示しており、所定値に設定されている。
また、到達則入力Urch_lfは、式(6)により算出される。同式(6)において、Krch_lfは、所定の到達則ゲインを表しており、σ_lfは、式(9)のように定義される切換関数である。同式(9)のE_lfは、式(10)により算出される追従誤差(偏差)である。
さらに、適応則入力Uadp_lfは、式(7)により算出される。同式(7)において、Kadp_lfは、所定の適応則ゲインを表している。また、非線形入力Unl_lfは、式(8)により算出される。同式(8)において、Knl_lfは、所定の非線形ゲインを表しているとともに、sgn(σ_lf)は、符号関数を表しており、その値は、σ_lf≧0のときにはsgn(σ_lf)=1となり、σ_lf<0のときにはsgn(σ_lf)=−1となる(なお、σ_lf=0のときに、sgn(σ_lf)=0と設定してもよい)。
以上の式(3)〜(10)は以下のように導出される。すなわち、プラントを、リフト制御入力Uliftinを入力とし、バルブリフトLiftinを制御量とする系として定義するとともに、離散時間系モデルとしてモデル化すると、下式(11)が得られる。この式(11)のモデルに基づき、バルブリフトLiftinが目標バルブリフトLiftin_cmdに追従・収束するように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御理論を適用すると、前述した式(3)〜(10)が導出される。
Liftin(k+1)=a1_lf・Liftin(k)+a2_lf・Liftin(k-1)
+b1_lf・Uliftin(k)+b2_lf・Uliftin(k-1) ……(11)
以上の2自由度SLDコントローラ100の制御アルゴリズムでは、切換関数設定パラメータPOLE_lfを−1<POLE_lf<0の範囲内で変更することにより、追従誤差E_lfの値0への収束速度および収束挙動を変更することができるとともに、外乱抑制能力を変更することができる。この点を図16を参照しながら具体的に説明する。同図は、ステップ状の外乱が可変バルブリフト機構50に入力される場合において、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値を3つの所定値POLE_ref1〜POLE_ref3に変化させた場合の追従誤差E_lfの変化を示している。また、所定値POLE_ref1は、値0に近い負値(例えば−0.2)に、POLE_ref2は、値0と値−1の中間の値(例えば−0.5)に、POLE_ref3は、値−1に近い負値(例えば−0.99)にそれぞれ設定されている。
同図を参照すると明らかなように、切換関数設定パラメータPOLE_lfが値0に近いほど、追従誤差E_lfが値0に収束するのに要する時間が短くなるとともに、追従誤差E_lfの最大値がより小さくなり、外乱抑制能力が高くなる。言い換えれば、切換関数設定パラメータPOLE_lfが値−1に近いほど、追従誤差E_lfが値0に収束するのに要する時間が長くなるとともに、追従誤差E_lfの最大値がより大きくなり(すなわち、バルブリフトLiftinの目標バルブリフトLiftin_cmdに対する乖離度合いが大きくなり)、外乱抑制能力が小さくなる。また、リフト制御入力Uliftinによる可変バルブリフト機構50の制御中、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値を変更した場合でも、スライディングモード制御アルゴリズムの特性により、可変バルブリフト機構50における短アーム65の回動速度は、低下することなく、変更前の値に保たれる。
以上の制御アルゴリズムの特性を利用し、可変バルブリフト機構50において、短アーム65が最小および最大リフトストッパ67a,67bに当接する際の衝撃力を低減するために、本実施形態では、切換関数設定パラメータPOLE_lfは、前述した図15に示すテーブルのように設定されている。すなわち、バルブリフトLiftinが、減少側に制御されている場合において、最小値Liftin_L付近のしきい値Liftin_VPLを下回ったときには、バルブリフトLiftinが小さいほど、切換関数設定パラメータPOLE_lfが、より所定値POLE_lf2に近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_lfが追従誤差E_lfの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるように設定される。その結果、リフトアクチュエータ60における短アーム65が、切換関数設定パラメータPOLE_lfの設定変更前の回動速度を保ちながら、追従誤差E_lfの増減に対する短アーム65の駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態(すなわち追従誤差E_lfの増大に対する短アーム65の駆動力の増大度合いがより小さい状態)で、最小リフトストッパ67a側に駆動され、それにより、短アーム65が最小リフトストッパ67aに当接する際の衝撃力を低減することができる。
一方、バルブリフトLiftinが、増大側に制御されている場合において、最大値Liftin_H付近のしきい値Liftin_VPHを上回ったときにも、上記と同様に、切換関数設定パラメータPOLE_lfが、バルブリフトLiftinが大きいほど、より所定値POLE_lf2に近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_lfが、追従誤差E_lfの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるような値に設定される。その結果、リフトアクチュエータ60における短アーム65が、切換関数設定パラメータPOLE_lfの設定変更前の回動速度を保ちながら、追従誤差E_lfの増減に対する短アーム65の駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、最大リフトストッパ67b側に駆動され、それにより、短アーム65が最大リフトストッパ67bに当接する際の衝撃力を低減することができる。
また、Liftin_VPL≦Liftin≦Liftin_VPHの範囲では、切換関数設定パラメータPOLE_lfが値0に近い所定値POLE_lf1に設定され、それにより、バルブリフトLiftinの目標バルブリフトLiftin_cmdへの追従性、良好な収束挙動および外乱抑制能力をいずれも高いレベルで確保することができる。
本実施形態では、バルブリフトLiftinが制御量に、目標バルブリフトLiftin_cmdが目標制御量に、リフト制御入力Uliftinが制御入力にそれぞれ相当する。
なお、図15のテーブルにおいて、しきい値Liftin_VPL,Liftin_VPHを、Liftin_VPL−Liftin_L)≠(Liftin_H−Liftin_VPH)となるような値に設定してもよい。また、切換関数設定パラメータPOLE_lfの算出において、バルブリフトLiftinに代えて、目標バルブリフトLiftin_cmdに応じて、図15のテーブルを検索するように構成してもよい。
次に、カム位相コントローラ110について説明する。このカム位相コントローラ110は、可変カム位相機構70を制御するための位相制御入力Ucainを算出するものであり、図17に示すように、切換関数設定パラメータ算出部111および2自由度SLDコントローラ112を備えている。
この切換関数設定パラメータ算出部111では、カム位相Cainに応じて、図18に示すテーブルを検索することにより、切換関数設定パラメータPOLE_caが算出される。同図において、POLE_ca1は、値0に近い負の所定値(例えば値−0.2)に設定され、POLE_ca2は、値−1に近い負の所定値(例えば値−0.99)に設定されている。
また、Cain_LL,Cain_ML,Cain_VPL,Cain_VPH,Cain_MH,Cain_HHは、下式(12),(13)が成立するように設定されたカム位相Cainの所定値である。Cain_LL,Cain_HHはそれぞれ、所定の最遅角ホールド値および最進角ホールド値であり、前述した電磁ブレーキ72のアーム74bを最遅角ストッパ73aおよび最進角ストッパ73bに当接した状態に保持するために用いられる。また、Cain_VPL,Cain_VPHは、所定のしきい値であり、下式(13)のDcain_vpoleは、正の所定値である。
このテーブルでは、切換関数設定パラメータPOLE_caは、Cain≦Cain_ML,Cain_MH≦Cainの範囲では、所定値POLE_ca2に設定され、Cain_VPL≦Cain≦Cain_VPHの範囲では、所定値POLE_ca1に設定されている。また、Cain_ML<Cain<Cain_VPLの範囲では、切換関数設定パラメータPOLE_caは、カム位相Cainが大きいほど、より大きい値に設定され、Cain_VPH<Cain<Cain_MHの範囲では、カム位相Cainが大きいほど、より小さい値に設定されている。
図18のテーブルにおいて、以上のように切換関数設定パラメータPOLE_caが設定されている理由は、前述した図15のテーブルにおける切換関数設定パラメータPOLE_lfの設定理由と同じであり、その詳細については後述する。
本実施形態では、カム位相コントローラ110が制御入力算出手段に相当し、切換関数設定パラメータ算出部111が外乱抑制パラメータ設定手段に相当し、切換関数設定パラメータPOLE_caが外乱抑制パラメータおよび応答指定パラメータに相当する。さらに、最遅角および最進角ホールド値Cain_LL,Cain_HHが、制御範囲外の所定値に相当し、しきい値Cain_VPL,Cain_VPHが限界値付近の所定値に相当する。
一方、2自由度SLDコントローラ112では、位相制御入力Ucainが、カム位相Cainおよび目標カム位相Cain_cmdに基づき、以下の式(14)〜(21)に示す目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出される。すなわち、位相制御入力Ucainは、カム位相Cainを目標カム位相Cain_cmdに追従・収束させるための値として算出される。
Cain_cmd_f(k)=−POLE_f_ca・Cain_cmd_f(k-1)
+(1+POLE_f_ca)・Cain_cmd(k) ……(14)
Ucain(k)=Ueq_ca(k)+Urch_ca(k)+Uadp_ca(k)+Unl_ca(k) ……(15)
σ_ca(k)=E_ca(k)+POLE_ca・E_ca(k-1) ……(20)
E_ca(k)=Cain(k)−Cain_cmd_f(k) ……(21)
この制御アルゴリズムでは、まず、式(14)に示す目標値フィルタアルゴリズムすなわち一次遅れフィルタアルゴリズムにより、目標カム位相のフィルタ値Cain_cmd_fが算出される。同式(14)において、POLE_f_caは、目標値フィルタ設定パラメータであり、−1<POLE_f_ca<0の関係が成立する値に設定される。
次いで、式(15)〜(21)に示すスライディングモード制御アルゴリズムにより、位相制御入力Ucainが算出される。すなわち、式(15)に示すように、位相制御入力Ucainは、等価制御入力Ueq_ca、到達則入力Urch_ca、適応則入力Uadp_caおよび非線形入力Unl_caの総和として算出される。
この等価制御入力Ueq_caは、式(16)により算出される。同式(16)において、a1_ca,a2_ca,b1_ca,b2_caは、後述する式(22)のプラントモデルのモデルパラメータを示しており、所定値に設定されている。
また、到達則入力Urch_caは、式(17)により算出される。同式(17)において、Krch_caは、所定の到達則ゲインを表しており、σ_caは、式(20)のように定義される切換関数である。同式(20)のE_caは、式(21)により算出される追従誤差(偏差)である。
さらに、適応則入力Uadp_caは、式(18)により算出される。同式(18)において、Kadp_caは、所定の適応則ゲインを表している。また、非線形入力Unl_caは、式(19)により算出される。同式(19)において、Knl_caは、所定の非線形ゲインを表しているとともに、sgn(σ_ca)は、符号関数を表しており、その値は、σ_ca≧0のときにはsgn(σ_ca)=1となり、σ_ca<0のときにはsgn(σ_ca)=−1となる(なお、σ_ca=0のときに、sgn(σ_ca)=0と設定してもよい)。
以上の式(14)〜(21)は、前述した式(3)〜(10)の導出手法と同様の手法により導出される。すなわち、プラントを、位相制御入力Ucainを入力とし、カム位相Cainを制御量とする系として定義するとともに、離散時間系モデルとしてモデル化すると、下式(22)が得られる。この式(22)のモデルに基づき、カム位相Cainが目標カム位相Cain_cmdに収束するように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御理論を適用すると、前述した式(14)〜(21)が導出される。
Cain(k+1)=a1_ca・Cain(k)+a2_ca・Cain(k-1)
+b1_ca・Ucain(k)+b2_ca・Ucain(k-1) ……(22)
以上の2自由度SLDコントローラ112の制御アルゴリズムでは、前述したように、切換関数設定パラメータPOLE_caを−1<POLE_ca<0の範囲内で変更することで、外乱抑制能力を変更することができる。したがって、前述した図18のテーブルでは、電磁ブレーキ72のアーム74bが最遅角および最進角ストッパ73a,73bに当接する際の衝撃力を低減するために、切換関数設定パラメータPOLE_caが前述したように設定されている。すなわち、カム位相Cainを最遅角値Cain_L側に制御している場合において、最遅角値Cain_L付近のしきい値Cain_VPLよりも遅角側の値になったときには、カム位相Cainが遅角側の値であるほど、切換関数設定パラメータPOLE_caが、より所定値POLE_ca2に近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_caが、追従誤差E_caの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるような値に設定される。それにより、電磁ブレーキ72のアーム74bが、切換関数設定パラメータPOLE_caの設定変更前の回動速度を保ちながら、追従誤差E_caの増減に対するアーム74bの駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、最遅角ストッパ73a側に駆動され、その結果、アーム74bが最遅角ストッパ73aに当接する際の衝撃力を低減することができる。
一方、上記とは逆に、カム位相Cainを進角側に制御している場合において、最進角値Cain_H付近のしきい値Cain_VPHよりも進角側の値になったときにも、切換関数設定パラメータPOLE_caが、より所定値POLE_ca2に近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_caが、追従誤差E_caの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるような値に設定される。それにより、電磁ブレーキ72のアーム74bが、切換関数設定パラメータPOLE_caの設定変更前の回動速度を保ちながら、追従誤差E_caの増減に対するアーム74bの駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、最進角ストッパ73b側に駆動され、その結果、アーム74bが最進角ストッパ73bに当接する際の衝撃力を低減することができる。
また、Cain_VPL≦Cain≦Cain_VPHの範囲では、切換関数設定パラメータPOLE_caが値0に近い所定値POLE_ca1に設定されることにより、カム位相Cainの目標カム位相Cain_cmdへの追従性、良好な収束挙動および外乱抑制能力をいずれも高いレベルで確保することができる。
本実施形態では、カム位相Cainが制御量に、目標カム位相Cain_cmdが目標制御量に、位相制御入力Ucainが制御入力にそれぞれ相当する。
なお、図18のテーブルにおいて、しきい値Cain_VPL,Cain_VPHを、Cain_VPL−Cain_L≠Cain_H−Cain_VPHとなるような値に設定してもよい。また、切換関数設定パラメータPOLE_caの算出において、カム位相Cainに代えて、目標カム位相Cain_cmdに応じて、図18のテーブルを検索するように構成してもよい。
次に、圧縮比コントローラ120について説明する。この圧縮比コントローラ120は、可変圧縮比機構80を制御するための圧縮比制御入力Ucrを算出するものであり、図19に示すように、切換関数設定パラメータ算出部121および2自由度SLDコントローラ122を備えている。
この切換関数設定パラメータ算出部121では、圧縮比Crに応じて、図20に示すテーブルを検索することにより、切換関数設定パラメータPOLE_cr)が算出される。同図において、POLE_cr1は、値0に近い負の所定値(例えば値−0.2)に設定され、POLE_cr2は、値−1に近い負の所定値(例えば値−0.99)に設定されている。
また、Cr_LL,Cr_ML,Cr_VPL,Cr_VPH,Cr_MH,Cr_HHは、下式(23),(24)が成立するように設定された圧縮比Crの所定値である。Cr_LL,Cr_HHはそれぞれ、所定の最低ホールド値および最高ホールド値であり、前述した圧縮比アクチュエータ85のアーム85bを最低圧縮比ストッパ86aおよび最高圧縮比ストッパ86bに当接した状態に保持するために用いられる。また、Cr_VPL,Cr_VPHは、所定のしきい値であり、下式(24)のDcr_vpoleは、正の所定値である。
このテーブルでは、切換関数設定パラメータPOLE_crは、Cr≦Cr_ML,Cr_MH≦Crの範囲では、所定値POLE_cr2に設定され、Cr_VPL≦Cr≦Cr_VPHの範囲では、所定値POLE_cr1に設定されている。また、Cr_ML<Cr<Cr_VPLの範囲では、切換関数設定パラメータPOLE_crは、圧縮比Crが高いほど、より大きい値に設定され、Cr_VPH<Cr<Cr_MHの範囲では、圧縮比Crが高いほど、より小さい値に設定されている。
図20のテーブルにおいて、以上のように切換関数設定パラメータPOLE_crが設定されている理由は、前述した図15のテーブルにおける切換関数設定パラメータPOLE_lfの設定理由と同じであり、その詳細については後述する。
本実施形態では、圧縮比コントローラ120が制御入力算出手段に相当し、切換関数設定パラメータ算出部121が外乱抑制パラメータ設定手段に相当し、切換関数設定パラメータPOLE_crが外乱抑制パラメータおよび応答指定パラメータに相当する。さらに、最低および最高ールド値Cr_LL,Cr_HHが、制御範囲外の所定値に相当し、しきい値Cr_VPL,Cr_VPHが限界値付近の所定値に相当する。
一方、2自由度SLDコントローラ122では、圧縮比制御入力Ucrが、圧縮比Crおよび目標圧縮比Cr_cmdに基づき、以下の式(25)〜(32)に示す目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出される。すなわち、圧縮比制御入力Ucrは、圧縮比Crを目標圧縮比Cr_cmdに追従・収束させるための値として算出される。
Cr_cmd_f(k)=−POLE_f_cr・Cr_cmd_f(k-1)
+(1+POLE_f_cr)・Cr_cmd(k) ……(25)
Ucr(k)=Ueq_cr(k)+Urch_cr(k)+Uadp_cr(k)+Unl_cr(k) ……(26)
σ_cr(k)=E_cr(k)+POLE_cr・E_cr(k-1) ……(31)
E_cr(k)=Cr(k)−Cr_cmd_f(k) ……(32)
この制御アルゴリズムでは、まず、式(25)に示す目標値フィルタアルゴリズムすなわち一次遅れフィルタアルゴリズムにより、目標圧縮比のフィルタ値Cr_cmd_fが算出される。同式(25)において、POLE_f_crは、目標値フィルタ設定パラメータであり、−1<POLE_f_cr<0の関係が成立する値に設定される。
次いで、式(26)〜(32)に示すスライディングモード制御アルゴリズムにより、圧縮比制御入力Ucrが算出される。すなわち、式(26)に示すように、圧縮比制御入力Ucrは、等価制御入力Ueq_cr、到達則入力Urch_cr、適応則入力Uadp_crおよび非線形入力Unl_crの総和として算出される。
この等価制御入力Ueq_crは、式(27)により算出される。同式(27)において、a1_cr,a2_cr,b1_cr,b2_crは、後述する式(33)のプラントモデルのモデルパラメータを示しており、所定値に設定されている。
また、到達則入力Urch_crは、式(28)により算出される。同式(28)において、Krch_crは、所定の到達則ゲインを表しており、σ_crは、式(31)のように定義される切換関数である。同式(31)のE_crは、式(32)により算出される追従誤差(偏差)である。
さらに、適応則入力Uadp_crは、式(29)により算出される。同式(29)において、Kadp_crは、所定の適応則ゲインを表している。また、非線形入力Unl_crは、式(30)により算出される。同式(30)において、Knl_crは、所定の非線形ゲインを表しているとともに、sgn(σ_cr)は、符号関数を表しており、その値は、σ_cr≧0のときにはsgn(σ_cr)=1となり、σ_cr<0のときにはsgn(σ_cr)=−1となる(なお、σ_cr=0のときに、sgn(σ_cr)=0と設定してもよい)。
以上の式(25)〜(32)は、前述した式(3)〜(10)の導出手法と同様の手法により導出される。すなわち、プラントを、圧縮比制御入力Ucrを入力とし、圧縮比Crを制御量とする系として定義するとともに、離散時間系モデルとしてモデル化すると、下式(33)が得られる。この式(33)のモデルに基づき、圧縮比Crが目標圧縮比Cr_cmdに収束するように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御理論を適用すると、前述した式(25)〜(32)が導出される。
Cr(k+1)=a1_cr・Cr(k)+a2_cr・Cr(k-1)
+b1_cr・Ucr(k)+b2_cr・Ucr(k-1) ……(33)
以上の2自由度SLDコントローラ122の制御アルゴリズムでは、前述したように、切換関数設定パラメータPOLE_crを−1<POLE_cr<0の範囲内で変更することにより、外乱抑制能力を変更することができる。したがって、本実施形態では、可変圧縮比機構80において、圧縮比アクチュエータ85のアーム85bが最低圧縮比ストッパ86aおよび最高圧縮比ストッパ86bに当接する際の衝撃力を低減するために、切換関数設定パラメータPOLE_crが、前述した図20のテーブルのように設定されている。すなわち、圧縮比Crが、最低値Cr_L側に制御されている場合において、最低値Cr_L付近のしきい値Cr_VPLよりも最低値Cr_L側の値になったときには、切換関数設定パラメータPOLE_crが、圧縮比Crが最低値Cr_L側の値であるほど、より所定値POLE_cr2に近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_crが、追従誤差E_crの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるような値に設定される。それにより、アーム85bが、切換関数設定パラメータPOLE_crの設定変更前の回動速度を保持しながら、追従誤差E_crの増減に対するアーム85bの駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、最低圧縮比ストッパ86a側に駆動されることになり、その結果、アーム85bが最低圧縮比ストッパ86aに当接する際の衝撃力を低減することができる。
一方、これとは逆に、圧縮比Crが、最高値Cr_H側に制御されている場合において、最高値Cr_H付近のしきい値Cr_VPHよりも最高値Cr_H側の値になったときには、切換関数設定パラメータPOLE_crが、圧縮比Crが最高値Cr_H側の値であるほど、より所定値POLE_cr2に近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_crが、追従誤差E_crの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるような値に設定される。それにより、圧縮比アクチュエータ85のアーム85bが、切換関数設定パラメータPOLE_crの設定変更前の回動速度を保持しながら、追従誤差E_crの増減に対するアーム85bの駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、最高圧縮比ストッパ86b側に駆動されることになり、その結果、アーム85bが最高圧縮比ストッパ86bに当接する際の衝撃力を低減することができる。
また、Cr_VPL≦Cr≦Cr_VPHの範囲では、切換関数設定パラメータPOLE_crを値0に近い所定値POLE_cr1に設定することにより、圧縮比Crの目標圧縮比Cr_cmdへの追従性、良好な収束挙動および外乱抑制能力をいずれも高いレベルで確保することができる。
本実施形態では、圧縮比Crが制御量に、目標圧縮比Cr_cmdが目標制御量に、圧縮比制御入力Ucrが制御入力にそれぞれ相当する。
なお、図20のテーブルにおいて、しきい値Cr_VPL,Cr_VPHを、Cr_VPL−Cr_L≠Cr_H−Cr_VPHとなるような値に設定してもよい。また、切換関数設定パラメータPOLE_caの算出において、圧縮比Crに代えて、目標圧縮比Cr_cmdに応じて、図20のテーブルを検索するように構成してもよい。
以下、図21を参照しながら、ECU2により実行される可変機構制御処理について説明する。なお、以下の説明では、可変バルブリフト機構50、可変カム位相機構70および可変圧縮比機構80をまとめて「3つの可変機構」という。本処理は、3つの可変機構を制御するための3つの制御入力Uliftin,Ucain,Ucrを算出するものであり、所定の制御周期ΔT(例えば5msec)で実行される。
この処理では、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、回動角センサ23の検出信号に基づき、バルブリフトの検出値Liftin_adを算出する。
次いで、ステップ2に進み、リフト故障フラグF_LIFTNGが「1」であるか否かを判別する。このリフト故障フラグF_LIFTNGは、IG・SW27がOFF状態からONされたときに「0」に設定され、後述する条件が成立したときに「1」に設定される。
ステップ2の判別結果がNOのとき、例えばIG・SW27がONされた直後のときには、ステップ3に進み、初期化終了フラグF_ini_doneが「1」であるか否かを判別する。この初期化終了フラグF_ini_doneは、IG・SW27がOFF状態からONされたときに「0」に設定され、後述するように、リフト補正値Comp_Liftinが算出されたときに「1」に設定される。
ステップ3の判別結果がNOのとき、例えばIG・SW27がONされた直後のときには、ステップ4に進み、ステップ1で算出した検出値Liftin_adをバルブリフトLiftinとして設定する。
次に、ステップ5に進み、可変バルブリフト機構50の初期化処理を実行する。この処理は、回動角センサ23の較正を行うとともに、可変バルブリフト機構50の故障判定を行うものであり、具体的には、図22に示すように実行される。まず、ステップ10で、初期化タイマの計時値Tm_iniに応じて、図23に示すテーブルを検索することにより、目標バルブリフトLiftin_cmdを算出する。この初期化タイマは、初期化処理の実行時間、すなわちIG・SW27がOFF状態からONされた以降の時間を計時するものであり、アップカウント式のタイマで構成されている。
同図23において、Tm1は所定値を、Liftin_inistは所定の初期値を、Liftin_iniokは所定のしきい値をそれぞれ表しており、これらの値は、Liftin_L<Liftin_iniok<Liftin_inistの関係が成立するような値に設定されている。このしきい値Liftin_iniokは、後述するように、短アーム65が氷結などの理由により最小リフトストッパ67a側に回動不能となっているか否かを判別するのに用いられる値であり、そのため、バルブリフトの最小値Liftin_Lよりも若干、大きい値に設定されている。
このテーブルでは、目標バルブリフトLiftin_cmdは、Tm_ini<Tm1の範囲では、計時値Tm_iniが大きいほど、より小さい値に設定され、Tm1≦Tm_iniの範囲では、前述した最小ホールド値Liftin_LLに設定されている。これは、IG・SW27がOFF状態からONされた以降、短アーム65を、時間の経過に伴って最小リフトストッパ67a側に回動させ、最終的にこれに確実に当接させるためである。
ステップ10に続くステップ11では、バルブリフトLiftinに応じて、前述した図15のテーブルを検索することにより、切換関数設定パラメータPOLE_lfを算出する。
次いで、ステップ12で、前述した式(3)〜(10)のアルゴリズムにより、リフト制御入力Uliftinを算出する。その後、ステップ13に進み、バルブリフトの今回値Liftinと前回値LiftinZ(=Liftin(k−1))との偏差を、リフト変化量Dliftinとして設定する。
次に、ステップ14で、Dliftin<Dliftin_stpおよびLiftin<Liftin_iniokがいずれも成立しているか否かを判別する。これらの2つの条件は、具体的には、短アーム65が最小リフトストッパ67aに当接した状態に保持されているか否かを判別するためのものであり、Dliftin_stpは、バルブリフトLiftinが変化していないことを判別するための所定のしきい値である。
このステップ14の判別結果がNOのとき、すなわちバルブリフトLiftinがしきい値Liftin_iniokに達していないか、またはバルブリフトLiftinが変化しているときには、ステップ17に進み、初期化タイマの計時値Tm_iniが所定の故障判定値TM_INI_NGよりも大きいか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
一方、ステップ14の判別結果がYESのとき、すなわちバルブリフトLiftinがしきい値Liftin_iniokよりも小さくなりかつ変化していないことで、短アーム65が最小リフトストッパ67aに当接している状態にあるときには、ステップ15に進み、リフト補正値Comp_Liftinを、バルブリフトの検出値から最小値を減算した値(Liftin_ad−Liftin_L)に設定する。このリフト補正値Comp_Liftinは、後述するように、バルブリフトの検出値Liftin_adを補正するために用いられる。すなわち、回動角センサ23の較正に用いられる。
次いで、ステップ16に進み、初期化処理が終了したことを表すために、初期化終了フラグF_ini_doneを「1」に設定した後、本処理を終了する。
一方、ステップ17の判別結果がYESのときには、時間が十分に経過したにもかかわらず、バルブリフトLiftinが、しきい値Liftin_iniokに達していないかまたはその変化度合いが大きいことで、可変バルブリフト機構50が故障状態にあるとして、ステップ18に進み、それを表すためにリフト故障フラグF_LIFTNGを「1」に設定した後、本処理を終了する。
図22に戻り、ステップ5の初期化処理を以上のように実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ3の判別結果がYESのとき、すなわち、前述したステップ5の初期化処理で、リフト補正値Comp_Liftinを算出済みであるときには、ステップ6に進み、バルブリフトLiftinを、バルブリフトの検出値からリフト補正値を減算した値(Liftin_ad−Comp_Liftin)に設定する。すなわち、バルブリフトLiftinが、検出値Liftin_adをリフト補正値Comp_Liftinで補正することにより算出され、このように回動角センサ23の較正が行われる。以上のようにステップ6でバルブリフトLiftinを算出した後、ステップ7に進む。一方、ステップ2の判別結果がYESのときにも、ステップ7に進む。
ステップ2または6に続くステップ7では、故障判定処理を実行する。この故障判定処理では、以下に述べるように、3つの可変機構の少なくとも1つが故障しているか否かが判定されるとともに、少なくとも1つが故障していると判定されたときには、それを表すために、可変機構故障フラグF_VDNGが「1」に設定され、それ以外のときには、可変機構故障フラグF_VDNGが「0」に設定される。
より具体的には、可変バルブリフト機構50の故障判定は、前述したリフト故障フラグF_LIFTNGの値に応じて実行される。また、可変カム位相機構70の故障判定は、以下のように実行される。すなわち、カム位相Cainと目標カム位相Cain_cmdとの偏差の絶対値が所定のしきい値を超える状態が所定時間以上、継続したとき、または位相制御入力Ucainの絶対値が所定のしきい値を超える状態が、所定時間以上、継続したときには、可変カム位相機構70が故障していると判定され、それ以外のときには、可変カム位相機構70が正常であると判定される。
さらに、可変圧縮比機構80の故障判定は、以下のように実行される。すなわち、圧縮比Crと目標圧縮比Cr_cmdとの偏差の絶対値が所定のしきい値を超える状態が所定時間以上、継続したとき、または圧縮比制御入力Ucrの絶対値が所定のしきい値を超える状態が、所定時間以上、継続したときには、可変圧縮比機構80が故障していると判定され、それ以外のときには、可変圧縮比機構80が正常であると判定される。
ステップ7に続くステップ8で、以下に述べるように制御入力算出処理を実行した後、本処理を終了する。
次に、図24を参照しながら、上記制御入力算出処理について説明する。この処理では、まず、ステップ20で、可変機構故障フラグF_VDNGが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、3つの可変機構がいずれも正常であるときには、ステップ21に進み、エンジン始動フラグF_ENGSTARTが「1」であるか否かを判別する。
このエンジン始動フラグF_ENGSTARTは、図示しない判定処理において、エンジン回転数NEおよびIG・SW27の出力信号に応じて、エンジン始動制御中すなわちクランキング中であるか否かを判定することにより設定されるものであり、具体的には、エンジン始動制御中であるときには「1」に、それ以外のときには「0」にそれぞれ設定される。
ステップ21の判別結果がYESで、エンジン始動制御中であるときには、ステップ22に進み、目標バルブリフトLiftin_cmdを、エンジン水温TWに応じて、図25に示すテーブルを検索することにより算出する。
このテーブルでは、目標バルブリフトLiftin_cmdは、エンジン水温TWが所定値TWREF1より高い範囲では、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されているとともに、TW≦TWREF1の範囲では、所定値Liftinrefに設定されている。これは、エンジン水温TWが低い場合、可変バルブリフト機構50のフリクションが増大するので、それを補償するためである。
なお、ステップ22における目標バルブリフトLiftin_cmdの算出では、テーブル検索値が最小値Liftin_Lになったときには、目標バルブリフトLiftin_cmdが最小値Liftin_Lよりも小さい最小ホールド値Liftin_LLに設定されるとともに、テーブル検索値が最大値Liftin_Hになったときには、目標バルブリフトLiftin_cmdが、最大値Liftin_Hよりも大きい最大ホールド値Liftin_HHに設定される。これは、前述したように、短アーム65を最小および最大リフトストッパ67a,67bに確実に当接させるためであり、後述するステップ33,36のマップ検索においても、同じ理由により上記と同様の手法で、目標バルブリフトLiftin_cmdが算出される。
次いで、ステップ23で、目標カム位相Cain_cmdを、エンジン水温TWに応じて、図26に示すテーブルを検索することにより算出する。
このテーブルでは、目標カム位相Cain_cmdは、エンジン水温TWが所定値TWREF2より高い範囲では、エンジン水温TWが低いほど、より遅角側の値に設定されているとともに、TW≦TWREF2の範囲では、所定値Cainrefに設定されている。これは、エンジン水温TWが低い場合、カム位相Cainをエンジン水温TWが高い場合よりも遅角側に制御し、バルブオーバーラップを小さくすることで、吸気流速を上昇させ、燃焼の安定化を図るためである。
なお、ステップ23における目標カム位相Cain_cmdの算出では、テーブル検索値が最遅角値Cain_Lになったときには、目標カム位相Cain_cmdが最遅角値Cain_Lよりも遅角側の最遅角ホールド値Cain_LLに設定されるとともに、テーブル検索値が最進角値Cain_Hになったときには、目標カム位相Cain_cmdが、最進角値Cain_Hよりも進角側の最進角ホールド値Cain_HHに設定される。これは、電磁ブレーキ72のアーム74bを最遅角および最進角ストッパ73a,73bに確実に当接させるためであり、後述するステップ34,37のマップ検索においても、同じ理由により上記と同様の手法で、目標カム位相Cain_cmdが算出される。
次に、ステップ24で、目標圧縮比Cr_cmdを所定の始動時用値Cr_cmd_crkに設定する。この始動時用値Cr_cmd_crkは、クランキング中のエンジン回転数NEを上昇させ、未燃HCの発生を抑制できるような低圧縮比側の値に設定されている。
次いで、ステップ25に進み、前述したように、切換関数設定パラメータPOLE_lfを、バルブリフトLiftinに応じて、図15に示すテーブルを検索することにより算出する。その後、ステップ26で、前述した式(3)〜(10)の目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、リフト制御入力Uliftinを算出する。
次に、ステップ27に進み、前述したように、切換関数設定パラメータPOLE_caを、カム位相Cainに応じて、図18に示すテーブルを検索することにより算出する。その後、ステップ28で、前述した式(14)〜(21)の目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、位相制御入力Ucainを算出する。
次いで、ステップ29に進み、前述したように、切換関数設定パラメータPOLE_crを、圧縮比Crに応じて、図20に示すテーブルを検索することにより算出する。その後、ステップ30で、前述した式(25)〜(32)の目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、圧縮比制御入力Ucrを算出する。以上のステップ30で、圧縮比制御入力Ucrを算出した後、本処理を終了する。
一方、ステップ21の判別結果がNOで、エンジン始動制御中でないときには、ステップ31に進み、アクセル開度APが所定値APREFより小さいか否かを判別する。この判別結果がYESで、アクセルペダルが踏まれていないときには、ステップ32に進み、触媒暖機タイマの計時値Tcatが所定値Tcatlmtより小さいか否かを判別する。この触媒暖機タイマは、触媒暖機制御処理の実行時間を計時するものであり、アップカウント式のタイマで構成されている。
この判別結果がYESで、Tcat<Tcatlmtのときには、触媒暖機制御を実行すべきであるとして、ステップ33に進み、目標バルブリフトLiftin_cmdを、触媒暖機タイマの計時値Tcatおよびエンジン水温TWに応じて、図27に示すマップを検索することにより算出する。同図において、TW1〜TW3は、TW1<TW2<TW3の関係が成立するエンジン水温TWの所定値を示しており、この点は以下の説明においても同様である。
このマップでは、目標バルブリフトLiftin_cmdは、エンジン水温TWが低いほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン水温TWが低いほど、触媒の活性化に要する時間が長くなるので、排気ガスボリュームを大きくすることで、触媒の活性化に要する時間を短縮するためである。これに加えて、このマップでは、目標バルブリフトLiftin_cmdは、触媒暖機タイマの計時値Tcatが小さい領域では、計時値Tcatが大きいほど、より大きな値に設定され、計時値Tcatが大きい領域では、計時値Tcatが大きいほど、より小さな値に設定されている。これは、触媒暖機制御の実行時間が経過するのに伴い、エンジン3の暖機が進むことで、フリクションが低下した場合において、吸入空気量を低減しないと、エンジン回転数NEを目標値に維持するために点火時期が過剰にリタード制御された状態となり、燃焼状態が不安定になってしまうので、それを回避するためである。
次いで、ステップ34で、目標カム位相Cain_cmdを、触媒暖機タイマの計時値Tcatおよびエンジン水温TWに応じて、図28に示すマップを検索することにより算出する。
このマップでは、目標カム位相Cain_cmdは、エンジン水温TWが低いほど、より進角側の値に設定されている。これは、エンジン水温TWが低いほど、上述したように触媒の活性化に要する時間が長くなるので、ポンピングロスを減少させ、吸入空気量を増大させることで、触媒の活性化に要する時間を短縮するためである。これに加えて、このマップでは、目標カム位相Cain_cmdは、触媒暖機タイマの計時値Tcatが小さい領域では、計時値Tcatが大きいほど、より遅角側の値に設定され、計時値Tcatが大きい領域では、計時値Tcatが大きいほど、より進角側の値に設定されている。これは、図27の説明で述べたのと同じ理由による。
次に、ステップ35で、目標圧縮比Cr_cmdを所定の暖機制御用値Cr_cmd_astに設定する。この暖機制御用値Cr_cmd_astは、触媒の活性化に要する時間を短縮するために、熱効率を低下させ、排ガス温度を高めることができるような低圧縮比側の値に設定されている。
ステップ35に続いて、前述したように、ステップ25〜30を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ31または32の判別結果がNOのとき、すなわちアクセルペダルが踏まれているとき、またはTcat≧Tcatlmtであるときには、ステップ36に進み、目標バルブリフトLiftin_cmdを、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図29に示すマップを検索することにより算出する。同図において、AP1〜AP3は、AP1<AP2<AP3の関係が成立するアクセル開度APの所定値を示しており、この点は以下の説明においても同様である。
このマップでは、目標バルブリフトLiftin_cmdは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、エンジン3に対する要求出力が大きいことで、より大きな吸入空気量が要求されることによる。
次いで、ステップ37で、目標カム位相Cain_cmdを、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図30に示すマップを検索することにより算出する。このマップでは、目標カム位相Cain_cmdは、アクセル開度APが小さくかつ中回転域にあるときには、それ以外のときよりも進角側の値に設定されている。これは、そのような運転状態では、内部EGR量を増大し、ポンピングロスを減少させる必要があるためである。
次に、ステップ38で、目標圧縮比Cr_cmdを、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じて、図31に示すマップを検索することにより算出する。このマップでは、目標圧縮比Cr_cmdは、エンジン回転数NEが高いほど、またはアクセル開度APが大きいほど、より小さな値に設定されている。これは、高負荷域になるほど、すなわちノッキングが発生しやすくなるほど、低圧縮比化することで、点火時期が過剰にリタード制御された状態となるのを回避し、燃焼効率の低下を回避するためである。
なお、ステップ38における目標圧縮比Cr_cmdの算出では、マップ検索値が最低値Cr_Lになったときには、目標圧縮比Cr_cmdが最低値Cr_Lよりも最低ホールド値Cr_LLに設定されるとともに、マップ検索値が最高値Cr_Hになったときには、目標圧縮比Cr_cmdが、最高値Cr_Hよりも高い最高ホールド値Cr_HHに設定される。これは、アーム85bを最低圧縮比および最高圧縮比ストッパ86a,86bに確実に当接させるためである。
ステップ38に続いて、前述したように、ステップ25〜30を実行した後、本処理を終了する。
一方、ステップ20の判別結果がYESで、3つの可変機構の少なくとも1つが故障しているときには、ステップ39に進み、リフト制御入力Uliftinを所定の故障時用値Uliftin_fsに、位相制御入力Ucainを所定の故障時用値Ucain_fsに、圧縮比制御入力Ucrを所定の故障時用値Ucr_fsにそれぞれ設定した後、本処理を終了する。これにより、前述したように、バルブリフトLiftinが最小値Liftin_Lに、カム位相Cainが最遅角値Cain_Lに、圧縮比Crが最低値Cr_Lにそれぞれ保持され、それにより、停車中はアイドル運転やエンジン始動を適切に実行できると同時に、走行中は低速走行状態を維持することができる。
次に、以上のように構成された本実施形態の制御装置1による制御結果について説明する。図32は、前述した可変バルブリフト機構50の初期化処理を実行した際の制御結果例を示している。同図に示すように、IG・SW27がOFF状態からONされた以降(時刻t0以降)、目標バルブリフトLiftin_cmdが、時間の経過に伴って最小ホールド値Liftin_LL側に変化し、最終的に最小ホールド値Liftin_LLになると、バルブリフトLiftinすなわち検出値Liftin_adがしきい値Liftin_iniokを横切り、しきい値Liftin_VPLを下回った時点(時刻t1)以降、切換関数設定パラメータPOLE_lfが所定値POLE_lf1から所定値POLE_lf2側に変化し、最終的に所定値POLE_lf2に設定される。
このように、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値が値−1に近い所定値POLE_lf2側の値に設定されることで、外乱抑制能力が低下し、追従誤差E_lfの増大を許容する状態となるので、短アーム65の最小リフトストッパ67a側への回動速度を、所定値POLE_lf1のときの値を保ったままで、リフト制御入力Uliftinによる短アーム65の駆動力が低減され、短アーム65が最小リフトストッパ67aに当接する際の衝撃力が低減される。これに加えて、目標バルブリフトLiftin_cmdが最小ホールド値Liftin_LLに設定されることにより、短アーム65が最小リフトストッパ67aに確実に当接した状態に保持され、それにより、補正値Comp_Liftinが適切に算出される。その結果、バルブリフトLiftinが、可変バルブリフト機構50の経年変化などの影響を受けることのない、実際のバルブリフトの値を示すものとして算出される。すなわち、回動角センサ23の較正が適切に行われる。
また、図33は、可変バルブリフト機構50を介して、バルブリフトLiftinを最小値Liftin_Lと最大値Liftin_Hとの間で制御した場合の制御結果例を示している。同図に示すように、目標バルブリフトLiftin_cmdのテーブル検索値またはマップ検索値が最大値Liftin_Hになると(時刻t10)、目標バルブリフトLiftin_cmdが最大ホールド値Liftin_HHに設定される。そして、バルブリフトLiftinが所定のしきい値Liftin_VPHを横切った時点(時刻t11)で、切換関数設定パラメータPOLE_lfが所定値POLE_lf1から値−1に近い所定値POLE_lf2側に変化するように設定される。これにより、短アーム65の最大リフトストッパ67b側への回動速度を、切換関数設定パラメータPOLE_lfの変化前の値を保持したままで、リフト制御入力Uliftinによる短アーム65の駆動力が低減され、短アーム65が最大リフトストッパ67bに当接する際の衝撃力が低減される。
また、目標バルブリフトLiftin_cmdのテーブル検索値またはマップ検索値が最大値Liftin_Hを下回ると(時刻t12)、目標バルブリフトLiftin_cmdがその検索値に設定される。そして、バルブリフトLiftinが所定のしきい値Liftin_VPHを横切った時点(時刻t13)で、切換関数設定パラメータPOLE_lfが所定値POLE_lf2から値0に近い所定値POLE_lf1値側に変化するように設定される。これにより、短アーム65の最小リフトストッパ67a側への駆動力が増大する。その後、目標バルブリフトLiftin_cmdのテーブルまたはマップ検索値が最小値Liftin_Lになると(時刻t14)、目標バルブリフトLiftin_cmdが最小ホールド値Liftin_LLに設定される。そして、バルブリフトLiftinが所定のしきい値Liftin_VPLを横切った時点(時刻t15)で、切換関数設定パラメータPOLE_lfが切換関数設定パラメータPOLE_lfが所定値POLE_lf1から値−1に近い所定値POLE_lf2側に変化するように設定される。それにより、短アーム65が最小リフトストッパ67aに当接する際の衝撃力が低減される。
以上のように、本実施形態の制御装置1によれば、可変バルブリフト機構50を制御するためのリフト制御入力Uliftinが、バルブリフトLiftinが目標バルブリフトLiftin_cmdに追従・収束するように、式(3)〜(10)の目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出される。この制御アルゴリズムは、スライディングモード制御アルゴリズムを含んでいるので、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値を−1<POLE_lf<0の範囲内で変更するだけで、制御系の安定性を損なうことなく、外乱抑制能力を迅速に変更することができる。より具体的には、切換関数設定パラメータPOLE_lfが値−1に近い値に設定されるほど、外乱抑制能力がより小さくなるように、リフト制御入力Uliftinが算出される。この場合、前述したように、切換関数設定パラメータPOLE_lfは、Liftin<Liftin_VPL,Liftin_VPH<Liftinの範囲にあるときには、それ以外の範囲にあるときよりも値−1側の値に設定され、特に、Liftin≦Liftin_ML,Liftin_MH≦Liftinの範囲では、値−1に近い所定値POLE_lf2に設定される。
したがって、アクチュエータ60の短アーム65が最小リフトストッパ67a側または最大リフトストッパ67b側に駆動される際、バルブリフトLiftinがしきい値Liftin_VPLまたはしきい値Liftin_VPHに達したとき、すなわち短アーム65が最小リフトストッパ67aまたは最大リフトストッパ67b付近の位置に達したときには、アクチュエータ60の短アーム65が、追従誤差E_lfの増減に対する短アーム65の駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、最小リフトストッパ67aまたは最大リフトストッパ67b側に駆動される。その結果、最小リフトストッパ67aまたは最大リフトストッパ67bに当接する際の衝撃力を低減することができ、それにより、短アーム65、最小リフトストッパ67aおよび最大リフトストッパ67bの変形などを回避できるとともに、可変バルブリフト機構50の寿命を延ばすことができる。これに加えて、制御アルゴリズムの特性により、短アーム65の回動速度を低下させることなく、衝撃力を低減できるので、駆動時間が長くなるのを回避できる。以上のように、衝撃力の低減および駆動時間の短縮を両立させることができる。これに加えて、短アーム65、最小リフトストッパ67aおよび最大リフトストッパ67bに緩衝材を設けるなどの構造上の設計変更を行う必要がないので、製造コストを削減できるとともに、設計の自由度を向上させることができる。
また、前述したように、リフト制御入力Uliftinが目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出されるので、目標値フィルタアルゴリズムにより、バルブリフトLiftinの目標バルブリフトLiftin_cmdへの追従速度を適切に設定することができるとともに、スライディングモード制御アルゴリズムにより、バルブリフトLiftinの目標バルブリフトのフィルタ値Liftin_cmd_fへの追従挙動、すなわちバルブリフトLiftinの目標バルブリフトLiftin_cmdへの追従挙動を適切に設定することができる。それにより、バルブリフトLiftinを、オーバーシュートの発生を回避しながら、目標バルブリフトLiftin_cmdに精度良く追従させることができる。その結果、短アーム65が最小リフトストッパ67a側または最大リフトストッパ67b側に駆動された場合、短アーム65が最小リフトストッパ67a側または最大リフトストッパ67bに当接する際の衝撃力をより確実に低減することができる。
また、一般に、可変バルブリフト機構50などの可動機構では、短アーム65を最小リフトストッパ67aまたは最大リフトストッパ67まで駆動する際、目標バルブリフトLiftin_cmdを最小値Liftin_Lまたは最大値Liftin_Hに設定すると、可変バルブリフト機構50の個体間の動作特性のばらつきおよび経年変化などに起因して、短アーム65が最大リフトストッパ67bまたは最大リフトストッパ67bまで到達しない可能性がある。これに対して、この制御装置1によれば、目標バルブリフトLiftin_cmdのテーブル検索値またはマップ検索値が最大値Liftin_Hになったときには、目標バルブリフトLiftin_cmdが最大値Liftin_Hよりも大きい所定の最大ホールド値Liftin_HHに設定されるので、短アーム65を、最大リフトストッパ67bまで確実に駆動し、当接させることができる。これと同様に、目標バルブリフトLiftin_cmdのテーブル検索値またはマップ検索値が最小値Liftin_Lになったときには、目標バルブリフトLiftin_cmdが最小値Liftin_Lよりも小さい所定の最小ホールド値Liftin_LLに設定されるので、短アーム65を、最小リフトストッパ67aまで確実に駆動し、当接させることができる。
それにより、前述した初期化処理において、短アーム65を最小リフトストッパ67aに当接した状態を意図的に作り出し、リフト補正値Comp_Liftinを適切に算出することができるとともに、このリフト補正値Comp_Liftinで検出値Liftin_adを補正したバルブリフトLiftinを用いながら、バルブリフト制御を実行することができる。すなわち、可変バルブリフト機構50の経年変化などに起因する検出値Liftin_adと実際の値Liftin_Lとのずれを反映させながら、バルブリフトLiftinを補正でき、回動角センサ23の較正を適切に行うことができる。それにより、制御精度を向上させることができる。
また、位相制御入力Ucainも、上記リフト制御入力Uliftinの場合と同様の制御アルゴリズム[式(14)〜(21)]で算出されるとともに、切換関数設定パラメータPOLE_caも、切換関数設定パラメータPOLE_lfと同様に設定されるので、前述した作用効果を得ることができる。すなわち、電磁ブレーキ72のアーム74bを2つのストッパ73a,73b側に駆動する場合、ストッパ73a,73bに当接する際の衝撃力の低減および駆動時間の短縮を両立させることができる。
さらに、圧縮比制御入力Ucrも、上記リフト制御入力Uliftinの場合と同様の制御アルゴリズム[式(25)〜(32)]で算出されるとともに、切換関数設定パラメータPOLE_crも、切換関数設定パラメータPOLE_lfと同様に設定されるので、前述した作用効果を得ることができる。すなわち、圧縮比アクチュエータ85のアーム85bが2つのストッパ86a,86bに当接する際の衝撃力の低減および駆動時間の短縮を両立させることができる。
なお、第1実施形態は、本発明の制御装置1を、可動部を2つの規制部に当接させる可動機構に適用した例であるが、本発明の制御装置1はこれに限らず、可動部を1つまたは3つ以上の規制部に当接させる可動機構に適用可能である。例えば、可動機構として、最大リフトストッパ67bのみを備えた可変バルブリフト機構50を用いてもよい。さらに、可変バルブリフト機構50において、出没可能なストッパを、短アーム65の回動範囲における、最大リフトストッパ67bと最小リフトストッパ67aとの間の位置に設け、必要に応じて、短アーム65をこのストッパに当接させるように構成してもよい。
また、第1実施形態は、図15のテーブルを検索することにより、短アーム65が最小リフトストッパ67a付近または最大リフトストッパ67付近まで駆動された際、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値を所定値POLE_lf1から所定値POLE_lf2に変更するように構成した例であるが、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値を変更する手法はこれに限らず、短アーム65が最小リフトストッパ67a付近または最大リフトストッパ67付近まで駆動された際、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値が所定値POLE_lf1から所定値POLE_lf2に変更される手法であればよい。例えば、図15のテーブルにおける横軸を、回動角センサ23により検出された短アーム65の回動角θliftの所定値に置き換えたテーブルを用い、回動角θliftの検出値に応じて、そのテーブルを検索することにより、切換関数設定パラメータPOLE_lfの値を算出するとともに、回動角θliftが、短アーム65が最小リフトストッパ67a付近または最大リフトストッパ67付近まで駆動されたことを表す値のときには、切換関数設定パラメータPOLE_lfを、所定値POLE_lf1から所定値POLE_lf2に変更するように構成してもよい。
さらに、第1実施形態は、制御量が目標制御量に追従するように、可動機構を制御するための制御入力を算出する所定の制御アルゴリズムとして、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、所定の制御アルゴリズムはこれに限らず、制御量が目標制御量に追従するように制御入力を算出できるものであればよい。例えば、PID制御アルゴリズムなどの一般的なフィードバック制御アルゴリズムを用いてもよい。
また、第1実施形態は、応答指定型制御アルゴリズムとして、スライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、応答指定型制御アルゴリズムはこれに限らず、バックステッピング制御アルゴリズムなどの、制御量の目標制御量への応答速度を指定できる制御アルゴリズムであればよい。
さらに、第1実施形態は、2自由度制御アルゴリズムとして、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、2自由度制御アルゴリズムはこれに限らないことは言うまでもない。例えば、2自由度制御アルゴリズムとして、1次遅れフィルタアルゴリズムなどの目標値フィルタアルゴリズムに、PID制御アルゴリズムなどのフィードバック制御アルゴリズムを組み合わせたものを用いてもよい。
また、第1実施形態は、3つの制御入力Uliftin,Ucain,Ucrをそれぞれ3つの可変機構にそのまま入力した例であるが、各制御入力を他の電気回路およびコントローラなどにより処理した値を各可変機構に入力するように構成してもよい。例えば、位相制御入力UcainをΔΣ変調アルゴリズムに基づく制御アルゴリズムにより変調し、その変調した値を可変カム位相機構70に入力するようにしてもよい。
さらに、第1実施形態は、可変バルブリフト機構50の初期化処理をIG・SW27がOFF状態からONされたときに実行した例であるが、初期化処理の実行タイミングはこれに限らないことは言うまでもない。例えば、初期化処理を、エンジン3の停止後や、フューエルカット運転中、アイドル運転中に実行するようにしてもよい。さらに、可変カム位相機構70および可変圧縮比機構80の初期化処理を、図22の可変バルブリフト機構50の初期化処理と同様の手法により実行してもよい。
次に、図34〜36を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る制御装置1Aについて説明する。本実施形態の制御装置1Aは、内燃機関の吸気管12に設けられたスロットル弁機構90を制御するものである。なお、以下の説明では、第1実施形態と同じ構成に関しては、同じ符号を付すとともに、その説明は省略する。
図34に示すように、スロットル弁機構90は、電子制御式のものであり、吸気管12の途中に設けられたスロットル弁91と、これを開閉駆動するTHアクチュエータ92と、スロットル弁91の回動を規制する全開ストッパ93などを備えている。本実施形態では、スロットル弁機構90が可動機構に相当し、スロットル弁91が可動部に相当し、吸気管12および全開ストッパ93が規制部に相当する。
スロットル弁91は、吸気管12に回動自在に取り付けられた回動軸91aと、これと一体に回動する弁体91bなどで構成されており、弁体91bが吸気管12の内壁に当接する全閉位置(図34に実線で示す位置)と、弁体91bが全開ストッパ93に当接する全開位置(図34に2点鎖線で示す位置)との間で回動自在に設けられている。スロットル弁91が全閉位置にあるときには、スロットル弁91により吸気通路12aが全閉状態に保持されるとともに、全開位置にあるときには、吸気通路12a内を流れる空気の流量Ginがその最大値を示すようになっている。スロットル弁91の回動軸91aには、断面扇形のギヤ91cが固定されている。
また、THアクチュエータ92は、ECU2に接続されたモータ92aと、その回転軸の一端部に固定されたギヤ92bなどを備えており、このギヤ92bは、上記ギヤ91cと常に噛み合うように設けられている。THアクチュエータ92は、ECU2からの開度制御入力Uthで駆動されることにより、スロットル弁91を全閉位置と全開位置との間で回動させ、それにより、吸気通路12a内を流れる空気の流量Ginを変化させる。
また、スロットル弁91の回動軸91aには、スロットル弁91を開弁方向および閉弁方向にそれぞれ付勢する2つのばね(いずれも図示せず)が取り付けられており、これら2つのばねの付勢力により、スロットル弁91は、開度制御入力UthがTHアクチュエータ92に入力されていないとき、または開度制御入力Uthが後述する故障時用値Uth_fsに設定されているときには、所定の初期開度に保持される。この初期開度は、全閉位置に近くかつエンジン3の始動に必要な吸入空気量を確保できる値(例えば6゜)に設定されている。
さらに、THアクチュエータ92には、例えばポテンショメータなどで構成されたスロットル弁開度センサ28が設けられている。このスロットル弁開度センサ28は、スロットル弁91の回動軸91aの回動角度θthを表す検出信号をECU2に出力する。この回動軸91aの回動角θthは、スロットル弁91が全閉位置と全開位置との間のどの位置にあるかを表すものであり、ECU2は、この回動角θthに基づき、スロットル弁開度THを算出する。本実施形態では、スロットル弁開度センサ28が位置検出手段に相当する。
以上のスロットル弁機構90では、THアクチュエータ92により、スロットル弁91が全閉位置と全開位置との間で駆動され、それにより、スロットル弁開度THが所定の全閉値TH_Lと所定の全開値TH_Hとの間で変化する。本実施形態では、全閉値TH_Lおよび全開値TH_Hが制御範囲の限界値に相当する。
次に、本実施形態の制御装置1Aについて説明する。この制御装置1Aは、図35に示すように、スロットル弁開度コントローラ130を備えており、このスロットル弁開度コントローラ130は、スロットル弁機構を制御するための開度制御入力Uthを算出するものである。同図に示すように、スロットル弁開度コントローラ130は、切換関数設定パラメータ算出部131および2自由度SLDコントローラ132を備えており、これらは、具体的にはECU2により構成されている。
この切換関数設定パラメータ算出部131では、スロットル弁開度THに応じて、図36に示すテーブルを検索することにより、切換関数設定パラメータPOLE_thが算出される。同図において、POLE_th1は、値0に近い負の所定値(例えば値−0.2)に設定され、POLE_th2は、値−1に近い負の所定値(例えば値−0.99)に設定されている。
また、TH_LL,TH_ML,TH_VPL,TH_VPH,TH_MH,TH_HHは、下式(34),(35)が成立するように設定されたスロットル弁開度THの所定値である。TH_LL,TH_HHはそれぞれ、所定の全閉ホールド値(制御範囲外の所定値)および全開ホールド値(制御範囲外の所定値)であり、スロットル弁91を全閉位置および全開位置(すなわち吸気管12の内壁および全開ストッパ93に当接した状態)に保持するために用いられる。また、TH_VPL,TH_VPHは、所定のしきい値(限界値付近の所定値)であり、下式(35)のDth_vpoleは、正の所定値である。
このテーブルでは、切換関数設定パラメータPOLE_thは、TH≦TH_ML,TH_MH≦THの範囲では、所定値POLE_th2に設定され、TH_VPL≦TH≦TH_VPHの範囲では、所定値POLE_th1に設定されている。また、TH_ML<TH<TH_VPLの範囲では、切換関数設定パラメータPOLE_thは、スロットル弁開度THが大きいほど、より大きい値に設定され、TH_VPH<TH<TH_MHの範囲では、スロットル弁開度THが大きいほど、より小さい値に設定されている。
図36のテーブルにおいて、以上のように切換関数設定パラメータPOLE_thが設定されている理由は、前述した図15のテーブルにおける切換関数設定パラメータPOLE_lfの設定理由と同じであり、その詳細については後述する。
本実施形態では、スロットル弁開度コントローラ130が制御入力算出手段に相当し、切換関数設定パラメータ算出部131が外乱抑制パラメータ設定手段に相当し、切換関数設定パラメータPOLE_thが外乱抑制パラメータおよび応答指定パラメータに相当する。さらに、全閉および全開ールド値TH_LL,TH_HHが、制御範囲外の所定値に相当し、しきい値TH_VPL,TH_VPHが限界値付近の所定値に相当する。
一方、2自由度SLDコントローラ132では、開度制御入力Uthが、スロットル弁開度THおよび目標スロットル弁開度TH_cmdに基づき、以下の式(36)〜(43)に示す目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより算出される。すなわち、開度制御入力Uthは、スロットル弁開度THを目標スロットル弁開度TH_cmdに追従・収束させるための値として算出される。
TH_cmd_f(k)=−POLE_f_th・TH_cmd_f(k-1)
+(1+POLE_f_th)・TH_cmd(k) ……(36)
Uth(k)=Ueq_th(k)+Urch_th(k)+Uadp_th(k)+Unl_th(k) ……(37)
σ_th(k)=E_th(k)+POLE_th・E_th(k-1) ……(42)
E_th(k)=TH(k)−TH_cmd_f(k) ……(43)
この制御アルゴリズムでは、まず、式(36)に示す目標値フィルタアルゴリズムすなわち一次遅れフィルタアルゴリズムにより、目標スロットル弁開度のフィルタ値TH_cmd_fが算出される。同式(36)において、POLE_f_thは、目標値フィルタ設定パラメータであり、−1<POLE_f_th<0の関係が成立する値に設定される。
次いで、式(37)〜(43)に示すスライディングモード制御アルゴリズムにより、開度制御入力Uthが算出される。すなわち、式(37)に示すように、開度制御入力Uthは、等価制御入力Ueq_th、到達則入力Urch_th、適応則入力Uadp_thおよび非線形入力Unl_thの総和として算出される。
この等価制御入力Ueq_thは、式(38)により算出される。同式(38)において、a1_th,a2_th,b1_th,b2_thは、後述する式(44)のプラントモデルのモデルパラメータを示しており、所定値に設定されている。
また、到達則入力Urch_thは、式(39)により算出される。同式(39)において、Krch_thは、所定の到達則ゲインを表しており、σ_thは、式(42)のように定義される切換関数である。同式(42)のE_thは、式(43)により算出される追従誤差(偏差)である。
さらに、適応則入力Uadp_thは、式(40)により算出される。同式(40)において、Kadp_thは、所定の適応則ゲインを表している。また、非線形入力Unl_thは、式(41)により算出される。同式(41)において、Knl_thは、所定の非線形ゲインを表しているとともに、sgn(σ_th)は、符号関数を表しており、その値は、σ_th≧0のときにはsgn(σ_th)=1となり、σ_th<0のときにはsgn(σ_th)=−1となる(なお、σ_th=0のときに、sgn(σ_th)=0と設定してもよい)。
以上の式(36)〜(43)は、前述した手法と同様の手法により導出される。すなわち、プラントを、開度制御入力Uthを入力とし、スロットル弁開度THを制御量とする系として定義するとともに、離散時間系モデルとしてモデル化すると、下式(44)が得られる。この式(44)のモデルに基づき、スロットル弁開度THが目標スロットル弁開度TH_cmdに収束するように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御理論を適用すると、前述した式(36)〜(43)が導出される。
TH(k+1)=a1_th・TH(k)+a2_th・TH(k-1)
+b1_th・Uth(k)+b2_th・Uth(k-1) ……(44)
以上の2自由度SLDコントローラ132の制御アルゴリズムでは、前述したように、切換関数設定パラメータPOLE_thを−1<POLE_th<0の範囲内で変更することにより、外乱抑制能力を変更することができる。したがって、前述した図36のテーブルでは、スロットル弁91が吸気管12の内壁および全開ストッパ93に当接する際の衝撃力を低減するために、切換関数設定パラメータPOLE_caが前述したように設定されている。すなわち、スロットル弁開度THが、全閉値TH_L側に制御されている場合において、全閉値TH_L付近のしきい値TH_VPLよりも全閉値TH_L側の値になったときには、スロットル弁開度THが全閉値TH_L側の値であるほど、切換関数設定パラメータPOLE_thが所定値POLE_th2により近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_thが、追従誤差E_thの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるような値に設定される。それにより、スロットル弁91が、切換関数設定パラメータPOLE_thの設定変更前の回動速度を保ちながら、追従誤差E_thの増減に対するスロットル弁91の駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、吸気管12の内壁側に駆動されることになり、その結果、スロットル弁91が吸気管12の内壁に当接する際の衝撃力を低減することができる。
一方、スロットル弁開度THが、全開値TH_H側に制御されている場合において、全開値TH_H付近のしきい値TH_VPHよりも全開値TH_H側の値になったときにも、上記と同様に、スロットル弁開度THが全開値TH_H側の値であるほど、切換関数設定パラメータPOLE_thが所定値POLE_th2により近い値に設定される。すなわち、切換関数設定パラメータPOLE_thが、追従誤差E_thの増大化を許容し、外乱抑制能力がより小さくなるような値に設定される。それにより、スロットル弁91が、切換関数設定パラメータPOLE_thの設定変更前の回動速度を保ちながら、追従誤差E_thの増減に対するスロットル弁91の駆動力の増減感度が設定変更前よりも低い状態で、全開位置ストッパ93側に駆動されることになり、その結果、スロットル弁91が全開位置ストッパ93に当接する際の衝撃力を低減することができる。
また、TH_VPL≦TH≦TH_VPHの範囲では、切換関数設定パラメータPOLEが値0に近い所定値POLE_th1に設定されることにより、スロットル弁開度THの目標スロットル弁開度TH_cmdへの追従性、良好な収束挙動および外乱抑制能力をいずれも高いレベルで確保することができる。
本実施形態では、スロットル弁開度THが制御量に、目標スロットル弁開度TH_cmdが目標制御量に、開度制御入力Uthが制御入力にそれぞれ相当する。
なお、図36のテーブルにおいて、しきい値TH_VPL,TH_VPHを、TH_VPL−TH_L≠TH_H−TH_VPHとなるような値に設定してもよい。また、切換関数設定パラメータPOLE_thの算出において、スロットル弁開度THに代えて、目標スロットル弁開度TH_cmdに応じて、図36のテーブルを検索するように構成してもよい。
また、スロットル弁機構90の制御処理に関しては、その具体的な内容は図示しないが、前述した図21〜25の制御処理と同様に実行される。特に、スロットル弁機構90の初期化処理は、図22の可変バルブリフト機構50の初期化処理と同様の手法により実行される。
以上のような第2実施形態の制御装置1Aによれば、第1実施形態の制御装置1と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、スロットル弁91を全閉位置側または全開位置側に駆動する場合において、吸気管12の内壁および全開ストッパ93に当接する際の衝撃力の低減と、駆動時間の短縮とを両立させることができる。