JP4349662B2 - 可溶性組換えαvβ3付着受容体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リガンド結合活性が損なわれていない、新規の精製組換えαvβ3付着受容体(adhesion receptor)、およびバキュロウイルス−昆虫細胞発現系を使用した組換え技術により可溶性の非膜結合型付着受容体を、優れた収率で生産することのできる方法に関する。このように作製された可溶性受容体は、天然のαvβ3付着受容体を阻害することができる新しい治療薬のスクリーニングにも容易に適用できるものである。さらに、本発明は宿主細胞の表面膜に結合している受容体を界面活性剤を使用して溶解させることにより、完全鎖長の組換えαvβ3付着受容体を優れた収量で生産できる方法に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
インテグリン(integrin)は、付着受容体のスーパファミリーであり、これは、細胞外に固体状の環境を有する細胞の、細胞外マトリックス(ECM)への付着、及び他の細胞への付着の両方を制御しているものである。付着あるいは癒着は、細胞にとって基本的に重要なものであり、固定と移動のためのきっかけを、あるいは成長と分化のためのシグナルを与えるものである。インテグリンは、細胞付着、血餅形成のための移動、炎症、胚形成、癌の増殖と転移のような多くの正常または病理的事象に直接に関与しており、根本的な治療手段におけるターゲットとなるものである。
【0003】
インテグリンは、非共有結合のα及びβサブユニットから成り、必須のヘテロ二量体膜通過タンパク質である。インテグリンは、β1、β2、β3、αv鎖の4つの、部分的に重複したインテグリン・サブファミリーに分類され、ある特定の細胞は各サブファミリーとは別の種類のインテグリンを発現する。最近の10年間において、研究者から、インテグリンは細胞付着に関与している主要の受容体であり、治療手段における好適なターゲットとしてなり得ることが示されてきた。インテグリンに関する報告としては、例えばE.Ruoulahti(J.Clin. Invest. 1991, 87)やR.O.Hynes(Cell, 1992, 69)がある。
【0004】
αv系列のインテグリンは主要なサブファミリーであると見られているもので、従来から指摘されてきた機能と最近に見いだされた新しい機能を有する。例えば、メラノーマ細胞株では、腫瘍発生と転移とに関連したαv系インテグリンの発現の増加(Felding-Habermann et al. 1992,J.Clin. Invest. 89, 2018, Marshall et al. 1991, Int. J. Cancer49, 924)によって、癌細胞の転移過程にαv系のインテグリンが関与していることが示唆された。癌細胞の付着、拡大、特に、最も典型的な上皮悪性腫瘍である結腸直腸癌についてインテグリンの関与が議論されている。
【0005】
αv系インテグリンは、RGD(NH2-アルギニンーグリシンーアスパラギン酸−COOH)トリペプチド配列を有するリガンドを結合部位として特異的に認識するとされている。αv系受容体インテグリンであるαvβ1、αvβ3、αvβ5はビトロネクチン(vitronectin)の相当部位を特異的に認識し、αvβ1、αvβ3、αvβ5、αvβ6はフィブロネクチン(fibronectin)の相当部位を認識し、αvβ3はフォンビルブラント因子(von Willebrand factor)、フィブリノーゲン(fibrinogen)及びオステオポンチン(osteopontin)の相当部位を認識する(Busk et al. 1992, J.Biol. Chem. 267, 5790; Smith and Cheresh 1990, J. Biol. Chem. 265, 2168)。これらの抗インテグリン抗体、例えばαvβ3インテグリンに対する抗体をブロックする機能については知られている(Cheresh and Spiro 1987, J. Biol. Chem. 262, 17703; Chuntharapai et al. 1993, Exp. Cell Res. 205, 345; EP95119233)。
【0006】
種々のペプチドおよび抗体によるリガンドとインテグリンとの間の相互作用の阻害という点に基づいて、癌の増殖・転移、ウイルス感染、骨粗しょう症、血管形成などの多様なプロセスの中での、ビトロネクチン受容体としてのαvβ3インテグリンの重要な役割が注目されるに至っている(Felding-Habermann and Cheresh 1993, Curr. Opin. Cell Biol. 5, 864; Brooks et al, 1994, Cell 79, 1157; Brooks et al. 1994, Science 264, 569)。αvβ3インテグリンの治療手段における強力なターゲットとしての浮上は、精製αvβ3を必要とするプロセスであるαvβ3アンタゴニストの検索をリードすることとなった。多くの必須の膜タンパク質に共通するように、インテグリンも非イオン性界面活性剤の存在下のみにおいて活性のある可溶性分子として得られるものであり、そのため、薬剤のスクリーニングのためのαvβ3のヒト胎盤からの精製は、厄介で、コストがかかり、健康に対する考えられ得るリスクを有するものとなっている(Mitjans et al.1995, J. Cell Sci. 108,2825)。組換え型のインテグリンについては、すでにCHO細胞(O'Toole et al., 1990, Cell Regul. 1, 883)や胎児腎臓293細胞(King et al., 1990, J. Bone Mine Res. 9, 381)のような真核生物系での発現が行われているが、DNA組換え技術によって生化学的に満足できる量の生産は未だなされていない。末端欠失型の可溶性αvβ3インテグリンの生物学的活性に関する報告はないし、組換え技術による完全鎖長を有するαvβ3受容体の生化学的に重要な量での生産も行われていない。
【0007】
従って、比較的容易で安全な方法により、精製されており、かつ生化学的に使える量での生産が可能な可溶性組換えαvβ3受容体が提供されることが望まれている。更に、そのようなプロセスは、完全鎖長のαvβ3受容体の生産にも有益であり得る。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、バキュロウイルス−昆虫細胞発現系を使用した、生物学的に十分な機能を有する可溶性αvβ3の最初の高レベル発現及び精製について記載するものである。哺乳動物細胞におけるのと同様に処理された組換えタンパク質(付着受容体)の高収量を達成するために、バキュロウイルスのポリヘドリン遺伝子が強力なウイルスプロモータとして使用され、αvβ3タンパク質の過剰発現が達成された。この可溶性タンパク分子は、天然の胎盤におけるもの及び完全長の組換え受容体におけるリガンドとの結合活性及び特異性を維持しており、そして、界面活性剤を用いずに精製することができるために、結合性の人工物の混入の可能性を除去でき、構造解析における高度な解析結果とスクリーニングにおける高生産性に適した分子を製造することができる。
【0009】
本発明の目的は、リガンド結合活性が損なわれていない、本質的に精製された可溶性のαvβ3付着受容体を提供することにある。ヒト由来の対応する受容体は本発明における好適な態様の一つである。
【0010】
本発明の受容体は、αv鎖とβ3鎖を有し、それぞれの鎖のC末端において、膜通過ドメインを含む部分、または該膜通過ドメイン(transmembrane domain)を含む部分と細胞質ドメイン(cytoplasmaticdomain)の全てを含む部分の分だけ鎖長が短くなっている構造を採り得る。成熟したヒトのαv及びβ3タンパク質鎖におけるアミノ酸配列およびDNA配列については、膜通過ドメインおよび細胞質ドメインのものとともにすでに知られている。
【0011】
本発明において特に好ましい対象は、対応する成熟タンパク質鎖におけるN末端から数えて、約957個のアミノ酸を有する末端欠失型(truncated:基準となるものの末端部分を削除して短縮化したもの)αv鎖と、約692個の末端欠失型のβ3鎖を有する可溶性ヒト組換え受容体を利用できるようにすることである。この好ましい形の可溶性受容体では、成熟タンパク質鎖における実質的に全ての膜通過ドメインとともに細胞質ドメインの全てが除去されている。しかしながら、以下に示すとおり、膜通過ドメインの部分を含む可溶性受容体も本発明に含まれる。また、本発明は、ヒトαvβ3付着受容体に限定されない。本発明における方法によれば、ヒト由来でないαvβ3受容体を問題なく生産することもできる。更に、ヒトのものに相当する受容体を、以下に示す本発明の方法によって生産することができる。
【0012】
本発明にかかる方法によってリガンド結合活性が損なわれていない、高純度に精製された可溶性組換えヒトαvβ3付着受容体を収率よく生産することができ、この方法は、
(i)C末端から数えて少なくとも52個のアミノ酸を含む部分の分だけ鎖長が短くなった前記受容体のαv鎖をコードする第一のcDNAと、C末端から数えて少なくとも61個のアミノ酸からなる部分の分だけ鎖長が短くなった前記受容体のβ3鎖をコードする第二のcDNAを、バキュロウイルス発現系のバキュロウイルス転送ベクターに組み込んでサブクローニングを行い、
(ii)上記の第一及び/または第二DNAを含むベクターを、前記発現系のバキュロウイルスのゲノムDNAに移入させて組換えバキュロウイルスを形成し、
(iii)該組換えバキュロウイルスの完全な状態を昆虫細胞に感染させ、
(iv)感染した昆虫細胞を培養基で培養して、末端欠失型のヘテロ二量体αvβ3受容体を該培養基中に発現させ、
(v)前記発現した受容体を、ヒトαvβ3受容体またはその個々の成分鎖に特異的に結合する抗体を使用した抗体アフィニティクロマトグラフィにより、培地から分離し、精製することを特徴とする。
【0013】
本発明の他の態様として、完全鎖長の組換えαvβ3受容体、特に、ヒト由来のものの生産のための類似の方法が開示されている。この方法は以下の工程によって特徴付けられる。
【0014】
(i)前記受容体の完全なαv鎖をコードする第一のcDNAと、前記受容体の完全なβ3鎖をコードする第二のcDNAを、バキュロウイルス発現系のバキュロウイルスベクターに組み込み、サブクローニングをする。
【0015】
(ii)上記第1及び/または第2のDNAを含むベクターを、前記バキュロウイルス発現系のバキュロウイルスのゲノムDNAに移入させ、組換えバキュロウイルスを得る。
【0016】
(iii)前記の完成された組換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させる。
【0017】
(iv)感染した昆虫細胞を培養基で培養し、発現した細胞膜結合型の受容体を界面活性剤で溶解させる。
【0018】
(V)上記で溶解した受容体をヒトαvβ3受容体またはその成分鎖に特異的である抗体を使用した抗体アフィニティクロマトグラフィにより細胞を除いた培地から精製する。
【0019】
本発明のαvβ3受容体は、天然の受容体を阻害することのできる治療用化合物を発見するために有用である。従って、本発明は、このような薬剤化合物の発見のためにこの可溶性受容体を適用する方法をも含む。前述したように、本発明にかかる受容体を利用して開発が期待できる薬剤化合物としては、1個以上のRGDユニットを含む全ての、線状または環状ペプチドまたはαvβ3付着受容体に対してRGDペプチドと同様な生物学的活性を示す非ペプチド類似体がある(下記参照)。
【0020】
本発明には、先に記載した、更に以下に記載するαvβ3受容体を使用した、治療用化合物、特にαvβ3受容体を阻害できるRGDペプチドまたはその非ペプチド類似体の天然のαvβ3受容体を阻害できる能力に基づいたスクリーニングの方法も含まれる。
【0021】
本発明においては、以下の略語が用いられている。
【0022】
αvβ3 インテグリン
17E6 mAb(モノクローナル抗体)
AP3 mAb
LM609 mAb
P4C19 mAb
P1F6 mAb
αv(FL) 完全鎖長のαv鎖
αv(SL) 短鎖(末端欠失型αv鎖)のαv
β3(FL) 完全鎖長のβ3鎖
β3(SL) 短鎖(末端欠失型β3鎖)のβ3
BacPAK バキュロウイルス発現系
SF9(Sf9)、ハイ・ファイヴ(High・Five) 昆虫細胞
M.O.I. 感染多重度
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられる微生物、細胞株、プラスミド、ファージミド、プロモータ、耐性マーカ、複製オリジン、その他のベクターフラグメントは、市販されているか、一般的に入手可能なものである。上記のうちで市場から直接入手できないものについても定法による調製可能であるか、または別の一般的に入手可能な材料で代用可能である。本発明では、わずかに改変または変更させた配列を有するDNA配列およびアミノ酸配列、あるいは化学的方法や物理的方法により意図的または無作為に得られた変異体や変種も用いられる。一般的にここに記載された特性及び機能を示すこれらの全ての変異体や変種が含まれる。
【0024】
本発明による技術と方法に関しての本質的な内容がこの明細書に詳しく説明されている。詳しく説明されてないその他の技術は、当業者には知られている標準の方法であるか、参考文献に詳しく説明されているか、原特許申請書、標準文献 (Sambrook et al., 1989: 「分子クローニング, 実験マニュアル」, Cold Spring Harbor: Cold Spring Harbar Laboratory Press; Harlow and Lane 1988:「抗体ー実験マニュアル」, Cold Spring Harbor, Cold Spring Harbor Laboratory Press) に記載されている。
【0025】
インテグリンαvとインテグリンβ3のcDNAについても知られており[Fitzgerald et al., 1987, J. Biol. chem. 262, 3936(β3); Suzuki et al., 1987, J. Biol. Chem. 262, 14080 (αv)]、入手も可能で、例えば、ヌクレオチド合成器により作製することもできる。
【0026】
本発明による成熟完全鎖長のヒトαvタンパク質鎖は、1018個のアミノ酸を有するが、そのうち膜通過ドメインには約29個のアミノ酸が、細胞質ドメインには約32個のアミノ酸がある。従って、細胞質ドメイン及び膜通過ドメインを含む領域は合計約61個のアミノ酸から構成される。この領域は、この鎖のC末端に位置する。従って、本発明において好ましい末端欠失型αv鎖は、およそ957個のアミノ酸から構成される。
【0027】
本発明による成熟完全鎖長のヒトβ3タンパク質鎖は、762個のアミノ酸を有するが、そのうち膜通過ドメインには、αv鎖の場合と同様に、約29個のアミノ酸があり、細胞質ドメインには約41個のアミノ酸がある。従って、細胞質ドメイン及び膜通過ドメインの領域は合計約70個のアミノ酸で構成されている。これら膜通過ドメイン及び細胞質ドメインの領域はC末端側に位置している。従って、本発明において好ましい末端欠失型β3鎖は、およそ692個のアミノ酸から構成される。
【0028】
本発明においては、受容体鎖の全鎖長から細胞質ドメインと膜通過ドメインの全てが除かれていることが好ましい。しかし、細胞質ドメイン全部と膜通過ドメインのアミノ酸鎖の1部分だけを取り除いたものでもかまわない。αv鎖またはβ3鎖が末端欠失型は、膜通過ドメイン由来の、1〜10個のアミノ酸、特に、1〜5個のアミノ酸が付いていることが好ましい。この末端欠失型αvβ3受容体はその後の状況においてグリコシル化される。グリコシル化の程度は、その由来(起源)と使用した宿主により違ってくる。
【0029】
本発明で使用したバキュロウイルス発現系は、よく知られたもので一般に入手可能である。好ましいバキュロウイルス発現系としては、クロンテックラボラトリ社(Clontech Laboraratories, Inc.;ケンブリッジバイオサイエンス、UKから入手可能)のBacPAK(商品名)であるが、その他のものでも使用可能である。
【0030】
本発明によれば、昆虫細胞を組換えバキュロウイルスDNAで感染させる。原理的にはすべての昆虫細胞システムを使えるが、ウイルスシステムに対する高感染性と、良好かつ安定した発現を保証するものが好ましい。昆虫細胞としては、市販されているSF9細胞、特に、ハイ・ファイヴ(High・Five)細胞が好ましい。本発明によれば、サブクローニングの段階ではSF9細胞を使用し、最終の発現段階ではHigh・Five細胞を使用することが好ましい(実施例参照)。
【0031】
SF9細胞(例えば、Invitrogen Corporationから販売されている)は昆虫細胞用の品質を有する10%胎児ウシ血清(FBS, Life Technologies, Inc.)を追加したTC100内で保存し、High・Five細胞(例えば、Invitrogen Corporation から販売されているBTI−TN−5B1−4)は16.5mMのL−グルタミン(Life Technologies, Inc.)、ペニシリン(50IU/ml)及びストレプトマイシン(50μg/ml)で補足したエクスプレスファイブ培地(Express Five medium、Life Technologies, Inc.)内で保存する。
【0032】
バキュロウイルス−昆虫細胞発現系を使用して、ヒト組換えαvβ3受容体の生産を下記の要領で実施した。バキュロウイルス発現システムは、Kidd and Emery(1993, Appl. Biochem. Biotechonol. 42, 137; O'Reilly et al.,1992:「バキュロウイルス発現ベクター実験マニュアル」、Oxford University Press, Inc. New York)の提案した方法と同様に使用した。
【0033】
PCRにより、膜通過ドメイン及び細胞外部分との境界(図1)をコードしている部位で末端を切り取ったαvとβ3鎖cDNAを作製した。末端欠失型のαv鎖とβ3鎖[αv(SL)とβ3(SL)]cDNAおよび完全鎖長のαv鎖とβ3鎖[αv(FL)β3(FL)]cDNAを、バキュロウイルス転送ベクターpBacPAK9にサブクローニングした。本発明では、各受容体鎖のcDNAを、安定性に関する問題を避けるために、別々のベクターにそれぞれクローニングすることもできる。しかし、各鎖の等モル状態を維持するために単一のベクターを使用することが好ましい。実験では、驚いたことに、両方の受容体鎖のDNA配列を持つベクターが大きいものであったにもかかわらず安定であった。
【0034】
削除される末端領域がそれぞれ、987個のαv鎖アミノ酸[957個の成熟タンパク質+30個のシグナルペプチド]及び718個のβ3鎖アミノ酸[692個の成熟タンパク質+26個のシグナルペプチド]をコードする完全な膜通過ドメインと細胞質ドメインを含む場合には、この末端欠失型αvとβ3鎖のcDNAには通常シグナル配列が含まれる。完全長の、または末端欠失型のαvもしくはβ3鎖を発現させるための組換えバキュロウイルスは、線状化にしたバキュロスウイルスBacPAK6をゲノムDNAに同時移入により形成し、その後、SF9細胞またはHigh・Five細胞中でのプラーク精製及び増幅によって濃度を高めた(O'Reilly et al., 1992: 「バキュロウイルス発現ベクター:実験マニュアル」, Oxford University, Inc. New York)。移入したプラスミドが正確に移入されているかどうかを、組換えウイルスゲノムDNAのPCRまたはサザンブロット手順により確認した。
【0035】
完全鎖長のαv鎖を発現するSF9細胞とHigh・Five細胞を代謝標識して検出した結果から、約110kDaと150kDaの2通りの組換えタンパク質が存在することが判明した(図2A、3列目)。同様に、完全鎖長のβ3鎖を発現するSF9細胞を代謝標識して検出した結果でも、約90kDaと125kDaの2本のバンドが見られた(図2A、4列目)。疑似感染させた場合(1列)と、組換えDNAが組み込まれていないウイルスで感染をさせた場合(列2)との比較から、ウイルスのライフサイクルの非常に遅い段階における宿主細胞ゲノムの抑制度が示された。個々の完全鎖長か、または、末端欠失型のαvもしくはβ3をそれぞれ発現する細胞をツニカマイシンで処理すると(図2B、1、3、5、7列)、移動速度の遅いバンドの発生が阻害されており、これは、150/110kDaバンド(図2B、2、4列)と125/90kDaバンド(図2B、6、8列)の部位が、組換えタンパク質のグルコシル化された部分とグリコシル化されない部位とにそれぞれ対応していることを示している。この結果は、N−グリコシル化のような翻訳後修飾がなされるバキュロウイルス系における組換えタンパク質の割合が、ウイルスのライフサイクルの遅い段階では減少するという2、3の報告(Jarvis and Finn 1995, Virology 212, 500)を確認するものである。αvタンパク質とβ3タンパク質がグリコシル化されている場合とグリコシル化されていない場合でのサイズにおける比較的大きな差異は、タンパク質がかなりの量でグリコシル化され、しかも、αvタンパク質の場合には13のNーグルコシル化部位があること、β3タンパク質には10のNーグルコシル化部位があることに関係がある。
【0036】
インテグリンは細胞外マトリックスと細胞骨格との間の構造付着機能により細胞形態を決定し、調節する(Schwartz et al., 1995, Ann. Rev. Cell Dev. Biol. 11, 549; Montgomery et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 8856)。バキュロウイルス感染の後期の段階では、SF9細胞/High・Five細胞細胞は、αvまたはβ3のいずれかだけを発現する組換えバキュロウイルスを感染させた時も、組換え体を含まないウイルスを感染させた時と同じように、細胞形態は通常円形になりその結合も緩やかである(図3A)。しかし、αv(FL)+β3(FL)、または、αv(SL)+β3(FL)を共発現するウイルスを感染した昆虫細胞では、その細胞同士が強固に結合され、さらに大きく広がった細胞形態が見られる(図3B及び図3C)。αv(FL)+β3(SL)、または、αv(SL)+β3(SL)を発現するウイルスを同時感染させた細胞では、その形態には変化は見られない。これらの結果は、α鎖の細胞質ドメインが、β鎖の細胞質ドメインの細胞骨格への親和性に対しての負の調節に関与しているという説(Filardo and Cheresh 1994, J. Biol. Chem. 269, 4641;Akiyama et al., 1994, J. Biol. Chem. 269, 15961; LaFlamme et al.,1994, J. Cell Biol. 126, 1287)を裏付けるものである。αvβ3受容体は、ペプチド配列Arg−Gly−Asp(RGD)を有する多数のリガンドと結合する。このことに対応して、ビトロネクチンをコートしたプレート上でのαv及びβ3ウイルス感染SF9細胞の細胞形態の変化は、RGDペプチドを作用させる試験において阻害された。(表1)。
【0037】
【表1】
アスパラギン酸の代わりにグルタミン酸、またはグリシンの代わりにβ−アラニンで置換した対照ペプチド、すなわちcyc(RGEfV)およびcyc(RβADfV)を使用した場合にも細胞形態に影響はなかった。
【0038】
SF9細胞よりもバキュロウイルスの発現分泌タンパク質を多く産生すると言われている(Davis et al., 1993, In Vitro Cell Dev. Bio. Anim. 29A, 388)High・Five細胞に、完全鎖長のαvとβ3、末端欠失型のαvとβ3の両方を発現する組換えバキュロウイルスを種々に組み合わせたものを感染させた。細胞抽出物または細胞で調節した培地を用いたmAb LM609とαvβ3との複合体の免疫沈降実験(図4)の結果から、組換えαvβ3ヘテロ二量体が、そのαv鎖とβ3鎖の一つまたは両方が完全鎖長を有する時には細胞表面に存在することが分かっている(図4、1〜3列)。さらに重要なことは、末端欠失型のαvと末端欠失型のβ3の同時発現の場合には、可溶性のヘテロ二量体が分泌されることである(図4、9列)。無血清環境で可溶性のαvβ3の産生によって、その後の後続する処理が大きく簡便化され、抗αvβ3化合物を探索するための大規模なスクリーニング手順の構築にある程度の柔軟性を導入できることが示された。
【0039】
本発明にかかる、新規な末端欠失型のαvβ3受容体およびその完全鎖長の変異体は、組換え技術による発現工程の後、抗体アフィニティクロマトグラフィーで精製される。本発明で使用した発現系は、上記の受容体の高産生に極めて効果的なものであり、異タンパク質の産生が少なく、単一の精製手順で、通常十分に高度に精製された製品を得ることができる。抗体アフィニティクロマトグラフィーはよく知られた技術である。ここでは、ある抗原エピトープに対して特異性を有する抗体が、適当に活性化された支持体マトリックス、例えば、修飾されたアガロースやセファロースに酵素的にあるいは化学的に結合している。本発明によれば、使用される好適な抗体はαvβ3受容体、または単一のαv鎖またはβ3鎖に対して高い特異性を有していることが必要である。アフィニティクロマトグラフィーに使える抗体は沢山知られており、それらのいくつかは誰にでも利用できるパブリックドメインの抗体であるのでその入手に問題はない。AP3(抗−β3)、LM609(抗−αvβ3)、P4C10(抗−β1)、P1F6(抗−αvβ5)、17E6(抗−αv)については詳細な特性解析がなされている(Mitjans et al., 1995, J.Cell Sci. 108, 2825)。モノクローナル抗体である17E6は、272−17E6と呼ばれるハイブリドーマ細胞から産生される抗体のことである。このハイブリドーマ細胞は、ドイツ・微生物寄託機関(Braunschweig, FRG)(寄託番号DMS・ACC2160)に寄託された。このモノクローナル抗体17E6は、ヨーロッパ特許出願(0719859)での特許の対象でもある。抗−β3抗体AP3は、寄託機関ATCCに寄託されている(寄託番号:HB−242)。抗体17E6と抗体AP3は、容易に入手できるので、特に本発明では適している。LM609(Cheresh and Spiro 1987, J. Biol. Chem. 262, 17703)は、α鎖とβ鎖の両方に対しての抗体として作用するので特に興味があるものである。
【0040】
上記の抗体を支持体に担持させた後、感染後溶菌させた昆虫細胞の清浄な無細胞培地(本発明にかかる末端欠失型、または、溶解された完全鎖長の組換え受容体を含む)を、上記の支持体の入ったカラムに入れ、数回このカラム内を循環させて、発現した受容体を固定抗体に結合させる。その後、精製したαvβ3受容体をイオン性緩衝液でカラムから洗い出して、そのままリガンド結合やその他の実験にすぐに使用できる。
【0041】
ヒトのビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリノーゲンは、ヒト血漿から精製できる(Yatohgo et al., 1988, Cell Struct, Funct. 13, 281; Ruoslahti et al., 1982, Methods Enzymol 82, Pt A, 803; Ruoslahti 1988, Ann. Rev. Biochem. 57, 375; Kazal et al., 1963, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 113, 989)。組換えヒトαvβ3の精製及び特性の解析は、詳細には下記の方法で行うことができる。17E6、AP3またはLM609抗体を使用したアフィニティ・クロマトグラフィーを実施する。ヒト胎盤由来のαvβ3を、例えば、スミス&チェレッシュ(Smith and Cheresh)(1988, J.Biol. Chem. 263, 18726)の方法を採用して抗体アフィニティ・クロマトグラフィーで精製する。
【0042】
完全鎖長の組換えαvβ3は、αv(FL)とβ3(FL)を同時に感染させたHigh・Five細胞昆虫細胞の抽出物を非イオン系界面活性剤に溶解させることにより精製できる。可溶性の末端欠失型のαvβ3は、αv(SL)とβ3(SL)を同時に感染させたHigh・Five細胞からは、界面活性剤を使用せずに精製できる。ELISA(固相酵素免疫検定法)においては、同じ抗体(LM609、17E6、AP3)によって、末端欠失型の可溶性の組換えαvβ3と、完全鎖長の可溶性組換えαvβ3の両方が認識され、ELISAによるタイター値で判定した場合に、溶解された胎盤由来のαvβ3と同程度の親和性を示すことが判明した。しかし、抗−β1(P4C10)抗体または抗−αvβ5特異(P1F6)抗体は、どちらも認識せず、これは、エピトープの保存と、αvβ3に他のインテグリンが低濃度で混入していることを示す(図5)。
【0043】
精製した胎盤由来αvβ3は、非還元条件下で、SDS−PAGE(SDS−ポリアクリルアミド電気泳動)を行うと、解離をして、160kDaのα鎖と95kDaのβ鎖の2本のバンドが現れる(図6、2列目)。精製した完全鎖長の組換えαvβ3では、約140kDaのαv鎖と、90kDaのβ3鎖に解離したバンドが現れる(図6、3列目)。組換えαvβ3が低分子量となるのには、バキュロウイルスを感染させた昆虫細胞により発現された組換えタンパク質の不完全なグリコシル化または変性したゴリコシル化が原因している可能性がある。精製した可溶性の組換えαvβ3では、約120kDaの末端欠失型αv鎖と、80kDaの末端欠失型β3鎖への解離を示すバンドが現れる。この分子量の低下は、バキュロウイルスを感染させた昆虫細胞において発現した組換えタンパク質の不完全な、あるいは通常と異るグルコシル化のためであると考えられる。精製された組換えαvβ3は、約120kDaの末端欠失型のαv鎖と、約80kDaの末端欠失型のβ3鎖に分離する。
【0044】
αv鎖は、通常、翻訳後開裂が起こり、密度の重鎖と軽鎖に分かれてからこれらの間にジスルフィド架橋結合が起こる(図1)(Hynes 1992, Cell 69, 11)。それ故、還元条件下では、胎盤由来のαvβ3のうちのα鎖は、さらに解離して140kDaの重鎖と25kDaの軽鎖となり(図6、6列目)、β鎖は110kDaに相当する位置まで移動する。α鎖の軽鎖の中には膜通過を遮断する部位があり、完全鎖長のα鎖も、末端欠失型の組換えα鎖も、還元条件下では、140kDaの位置までの移動を起すはずであった。しかし、完全鎖長αv鎖と、可溶性αv鎖では、還元条件下でも非還元条件下でも同じ分子量を示し(7、8列目)、これは、αv鎖には翻訳後に部分的な開裂しか起こらなかったことを示している。7、8列目の約120kDaでの弱いバンドは重αv鎖であると考えられる。胎盤由来のαvβ3と組換えαvβ3との間での相違は、バキュロウイルス感染の非常に遅い時期における不完全なタンパク質分解プロセスに原因がある(O'Reilly et al., 1992, 「バキュロウイルス発現ベクター:実験マニュアル」, Oxford University Press. Inc. New York)。表2は、SDS−PAGEの分析結果である。
【0045】
【表2】
本発明の方法によれば、短鎖の組換えαvβ3受容体と完全鎖長の組換えαvβ3受容体の両方が作製可能である。本発明により作製された受容体が、なかでも末端欠失型が、例えばヒト胎盤から分離して比較例として用いた天然の受容体のリガンド結合特異性を有することを示すために、結合特異性分析を行った。この分析のために、αvβ3受容体の拮抗阻害剤として知られるリガンドを使用した。前述したように、RGDアミノ酸配列(アルギニン、グリシン、アスパラギン)を含む線状化ペプチドまたは環状ペプチドが優れた拮抗阻害剤である。この目的のための適当なペプチドとしては、例えば、次のものがある。GRGDSPK、エチスタチン(Echistatin)、環状−RGDfV、環状−RGDfNMeV、環状−RβADfV、KTADC(Trt)PRNPHKGPAT、GRGESPK、環状−KGDfV、環状−RGEfV。これらの他に、RGDペプチドと類似した作用をし、αvβ3受容体との結合能のある非ペプチド系化合物も使用できる。このようなRGDペプチド及び非ペプチド類似体はすでによく知られた物質であり(ヨーロッパ特許出願番号96113972,ヨーロッパ特許公開0578083,0632053,0478363,0710657,0741133、PCT公開WO94/12181)、公知の標準的な方法で合成することも可能である。これらのリガンドを、従来技術で知られている方法により、標識分子または原子で修飾して使用する。ビオチン化リガンドを使用することが好ましい。
【0046】
末端欠失型の組換えαvβ3受容体あるいはその完全鎖長誘導体を、例えば、マイクロタイタープレート上に吸着させて固定化し、上記の標識リガンドを反応させる。本発明によるαvβ3受容体は上記のリガンドと強く結合するが、非RGDペプチドとは結合せず、ヒト胎盤由来の生体αvβ3受容体と極めて類似した性質を示す。このことは、本発明にかかる方法により入手できる受容体が、特異的なリガンド結合能という点で、本来の機能を有していることを示している。
【0047】
詳細には、末端欠失型の組換えαvβ3受容体の生物活性の測定は下記の方法で実施され得る。
【0048】
組換えαvβ3受容体と胎盤由来のαvβ3受容体の両方について、末端欠失型のものと完全鎖長のものを固定化して、それらに対するビオチン化リガンドの結合能を測定する。αvβ3受容体に結合することが知られている3種類の、RGD配列を有するリガンド(ビトロネクチン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン)を使用した。これらのリガンドは、その濃度に応じて、完全鎖長の受容体と可溶性受容体のそれぞれの調製物と結合し、結合における重複した濃度依存性と飽和濃度は胎盤由来のαvβ3受容体の場合と同様である(図7)。組換えαvβ3受容体との特異的相互反応の試験にビトロネクチンを使用する。ビオチン化したビトロネクチンと上記のペプチドまたは非ペプチド類似体の濃度を増加させながら固定化受容体に同時にインキュベートして反応させた。上記で述べたペプチド化合物は、ビトロネクチンが胎盤由来のαvβ3受容体、完全鎖長のαvβ3受容体および可溶性組換えαvβ3受容体のいずれにも結合することを阻害し(図8、9)、β−アラニン−グリシンの対照ペプチドの約4〜5倍の阻害効果を示す。各受容体の環状−RGDfVに対するIC50は、ナノモル(1−5nM)範囲の低い濃度であった。ここで使用した同じ方法を使えば、すでに知られているαvβ3受容体に特異的なリガンドから、αvβ3受容体阻害剤になりうる可能性のある物質を薬剤化合物をとしてスクリーニングすることが可能となる。
【0049】
本発明は、バキュロウイルス昆虫細胞発現系が、培地中あるいは細胞表面上に分泌される可溶性の受容体としての完全な機能性を有するヒト組換えαvβ3インテグリンを多量に発現させるために使用できることを示している。αvβ3に対する特異的複合抗体(LM609、17E6、AP3)での沈降及び精製によって示されるように、この受容体の二重(SL)末端欠失型が複合体の形で分泌される。最適の条件下であれば、1リットルの培養基(上清)当たり1〜10mg、好ましくは2〜5mgの収量(可溶性であるとともに完全鎖長の受容体)を得ることができる。可溶性αvβ3の生化学的に有用な量での定常的な生産ができることで、αvβ3を使用した薬剤化合物のスクリーニングにおける高生産性及びこの重要な受容体の構造解析ができるようになる。なお、胎盤組織から分離される天然の受容体の収量は組織1kg当たり約1〜2mgである。
【0050】
本発明における方法で得られた組換え完全長の、及び末端欠失型のαvβ3タンパク質のそれぞれの純度は、SDS−PAGEとELISAによる検定において、95〜99%、好ましくは97〜99%である。可溶性の組換え受容体では、完全鎖長の組換え受容体に較べて阻害剤に対する感度が約4分の1である。末端欠失型の可溶性受容体のもうひとつの長所は、界面活性剤を使用せずに精製できることである。通常必要とされる非イオン系界面活性剤は極めて高価である(例えば、オクチル−β−Dグリコーピラノシド10gで500ドル)。胎盤組織から3〜4mgの受容体を溶解させるのに必要な界面活性剤は約25gである。
【0051】
一方が完全鎖長で他方が末端欠失型のα鎖とβ鎖[αv(FL)×β3(SL)またはαv(SL)×β3(FL)]を有する組換えウイルスを共感染させた細胞は、ヘテロ二量体の受容体を細胞表面に発現する。しかし、α鎖とβ鎖が両方とも完全長であるか、あるいは、β鎖が完全長でα鎖が末端欠失型を含む細胞では、それがビトロネクチンに結合する時に形状変化が起こる。この付着と拡張という細胞形態の変化がαvβ3の特異的性質を示すことは、RGD配列を含むペプチドの添加がリガンドと天然受容体との相互作用を特異的にブロックする一方で、RGE配列またはRAD配列を含むペプチドの両方はこれらの相互作用をブッロクしない点によって示される。完全鎖長のα鎖と末端欠失型のβ鎖を有する細胞では拡張は見られない。
【0052】
ELISAの検定結果によれば、β3に特異的な抗体AP3(Newman et al., 1985, Blood 65, 227)と、αvに特異的である抗体17E6(Mitjans et al., 1995, J. Cell Science. 108, 2825)と、複合体に特異的である抗体LM609(Cheresh and Spiro 1987, J. Biol. Chem. 262, 1770323)は、完全鎖長の受容体と末端欠失型の受容体の両方を特異的に認識する。このことは、組換えインテグリンが胎盤由来のαvβ3と同じエピトープをもっていることを示している。
【0053】
非還元条件下でのSDS−PAGEの結果において、αv−鎖およびβ3−鎖に典型的なバンドが現れている。完全鎖長の組換えα鎖の分子量は胎盤由来の完全鎖長のα鎖に較べて小さい(160kDaに対して約140kDa)が、これは、昆虫細胞におけるグリコシル化の度合いの減少か、またはグルコシル化の内容の違いが起こっているためと考えられる。
【0054】
完全鎖長及び可溶性の組換えαvβ3受容体は共に、リガンドであるビトロネクチン、フィブリノーゲン、フィブロネクチンに特異的に結合し、ビトロネクチンの結合は、RGDを有するペプチドにより特異的に阻害され、その場合の濃度依存性は胎盤由来の受容体と同じである。
【0055】
このように、完全鎖長、および、末端欠失型のヒトαvβ3受容体に対するリガンドの結合特異性や胎盤由来のものと同定度の飽和濃度が判明したことにより、労力を使わずに、ヒトの胎盤を使用することによるリスクもなしに、バキュロウイルス昆虫細胞発現系を使用して機能的な組換えαvβ3受容体を大規模生産することが可能となる。さらに、本発明で使用したバキュロウイルス発現系を使用すれば、修飾受容体やキメラ受容体も発現させることも可能で、これらは、リガンドの結合とそれに続くシグナル伝達機構の分子レベルでの研究に有用なものとなる。
【0056】
【実施例】
実施例1:組換え転送ベクターの構築
αvpcDNA-1Neo(Felding-Habermann 1992, J. Clin. Invest., 89, 2018)から、αvcDNAをEcoRI断片として切り出し、転送プラスミドpBacPAK8(Clontech社)に組み込んでクローニングを行った。ここで作製された組換え体をαv(FL)(pBac8)と名づけた。β3pcDNA−1Neoからインテグリンβ3cDNAをXbaI断片として切り出し、転送プラスミドpBacPAK9(Clontech社)に組み込んでクローニングした。膜貫通部分を欠失した末端欠失型のαvcDNAとβ3cDNAをPfu熱安定DNAポリメラーゼ(Stratragene社)を使用したポリメラーゼ鎖反応(PCR)により構築した。
【0057】
成熟αv(シグナル配列を含む)の1〜987番のアミノ酸をコードしている末端欠失型αvcDNAを下記に示すオリゴヌクレチド・プライマーを用いて作製した。
【0058】
5’−GAC CAG CAT TTA CAG TGA−3’(前進プライマ、配列番号:1)と、
5’−CA CAG GTC TAG [ACT] ATG GCT GAATGC CCC AGG−3’[逆方向プライマ(配列番号:2)であり、987番のアミノ酸をコードする配列に続いて翻訳終始コドン(ACT)を含み、この後にXbaI制限酵素切断部位(下線部)がある。]。
【0059】
PCR生成物を制限酵素Sa1IとXbaIで消化して、その断片をSa1I/XbaIで切断されたαvpcDNA−1Neoに組み込みクローニングした。末端欠失型のαvcDNAをpBacPAC9のEcoRI/XbaI切断部位に組み込んでサブクローニングをして、産生したクローンをαv(SL)(pBac9)と名づけた。成熟β3(シグナル配列を含む)の1〜718番のアミノ酸をコードしている末端欠失型β3cDNAを下記に示すオリゴヌクレチド・プライマーを用いて作製した。
【0060】
5’−GCG CGC AAG CTT GCC GCC ACC [ATG] CGA GCG CGG CCG−3’[前進プライマー(配列番号:3)であり、翻訳開始コドン(AGT)とHindIII制限酵素(下線部)を含む]と、
5’−GAT CGA TCT AGA [CTA] GGT CAG GGC CCT TGG GAC ACT−3’[逆方向プライマ(配列番号:4)であり、718番のアミノ酸をコードする配列に続いて翻訳終始コドン(CTA)を含み、この後にXbaI制限酵素切断部位(下線部)がある。]。
【0061】
PCR生成物を制限酵素HindIIIとXbaIで切断して、その断片をHindIII/XbaIで切断されたpSK+(Stratagene社)に組み込んでクローニングをした。産生したクローン[(β3(SL)(pSK+)]をHindIIIで切断して、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメント(ベーリンガーマンハイム社)で補充して末端平滑化を行った。平滑末端を有する線状化プラスミドをXbaIで消化して、その断片をpBacPAK9のSmaI/XbaI切断部位に組み込んでサブクローニングをした。産生したクローンをβ3(SL)(pBac9)と名づけた。αv(SL)(pBac9)とβ3(SL)(pBac9)の両方のPCR増幅部位のDNA塩基配列を確認して、その構築物のすべてについて、正確なサイズのタンパク質が発現されているかについて、TNT−結合網状赤血球溶解液システム(Coupled Reticulocyte Lysate System;Promega社)を使用して、バクテリオファージT7プロモータでのin vitro転写と翻訳により試験した。
実施例2:組換えバキュロウイルスの作製
バキュロウイルスゲノムDNAであるBacPAK6(Clontech)を高タイターのストックから入手して(Page and Murphy 1990: Methods in Molecular Biology, Humana Press, Clifton, New Jersey, USA)、制限酵素Bsu36I(Kitts and Possee 1993, Biotechniques 14, 810)で線状化した。完全鎖長及び末端欠失型のαvとβ3インテグリンを発現する組換えバキュロウイルスクローンを、クローンテック社(Clontech)のBacPAK製品プロトコールに従って作製した。負の対照として使用するために、pBacPAK9を転送プラスミドとして使用して、組換えDNAを含まないクローンを調製した。
【0062】
正確に組換えられたウイルスクローンが産生されていることをPCRで増幅させて確認し、そのウイルスをSF9細胞に感染させた(O'Reilly at al., 1992, バキュロウイルス発現ベクター;実験マニュアル, Oxford University Press Inc, New York)。
実施例3:SF9細胞に発現されたタンパク質の代謝パルス標識。
【0063】
文献記載の方法で、SF9細胞の代謝パルス標識検出を実施した(Summer and Smith 1987:「バキュロウイルスと昆虫細胞の取扱いマニュアル」、Texas Agricultural Experiment Station Bulletin B-1555)。指定に応じて、代謝パルス標識を行う前と行っている間の16時間にわたって、濃度10μg/mlのツニカマイシン(シグマ)を反応させた。細胞は100μlの緩衝液[1% Nonidet(商標) P-40, 1 mM CaCl2, 150 mM NaCl, 0.4 mM Pefabloc(商標)(Boehringer Mannheim社), 10μg/ml Leupeptin及びE64(sigma), 10 mM Tris/HCl; pH7.4; Nonidet P-40は界面活性剤であり、Pefabloc(商標)は、プロテアーゼ阻害剤である)] 中で溶菌させた。菌溶解液をエッペンドルフマイクロヒュージにより1400×g、4℃で10分間遠心分離した後、還元条件下で、8%SDS−ポリアクリルアミドゲルでの電気泳動で分離した。その後、固定化させ、乾燥してオートラジオグラフィを実施した (Sambrook et al., 1989:「分子クローニング:実験マニュアル」、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York)。
実施例4:昆虫細胞でのタンパク質の発現
組換えタンパク質が、High・Five細胞により、単分子層または懸濁液の状態で発現された。αvを発現する組換えバキュロウイルスと、β3を発現する組換えバキュロウイルスの両方を、培地を最小の量にして、静かに撹拌しながら同時感染させた。この時の、それぞれの感染多重度(M.O.I)は5〜20(1個の細胞に対して5〜20のウイルスDNAを感染させる)であった。2時間後に、細胞だけを新鮮なExpress・Five培地に移して27℃で、48〜64時間インキュベートした。膜に結合している組換えインテグリンを分離するために、遠心分離(1000×g,10分)を行い、細胞を収集し細胞ペレットとして使用した。可溶性組換えインテグリンを分離するために、細胞を除去した上清を使用した。
実施例5:免疫沈降法
Affigel(商標)ビーズ(BIO−RAD)(Mitjans et al., 1995, J. Cell Sci.108, 2825)に結合したαvβ3複合体の細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体LM609を使用して、表面ビオチン化細胞の抽出液と細胞で調整した培地(cell conditioned medium)での免疫沈降検出法を実施した。SDS−PAGEとHybond-PVDF膜(Towbin et al., 1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76, 4350)上でのウエスタンブロット法を実施した後、メーカよりの指示書に従ってECLウエスタンブロット検出試薬(Amersham社)を用いた強化化学ルミネセンス法を行ってビトチン化タンパク質の検出を行った。
実施例6:細胞の形態変化の検討
SF9細胞(1×106菌/ウエル)を6枚のウエル・プレート上にそのままか、あるいは、精製ヒト血漿ビトロネクチン(PBS中濃度5μg/ml;2時間)をコーティングしたプレート上に固定し、非特異的部位をブロックした(PBS中濃度3%BSA(w/v)を使用)。その後、種々の組み合わせでウイルスを感染させた。感染をさせた後48時間、細胞形態に変化がないか観察した。指定に応じて、培地に10μM環状ペプチドをαvインテグリン−リガンド相互作用 [環状(RGDfV)、環状(RβADfV)または環状(RGEfV)(ここで小文字はD−アミノ酸)]の競争的阻害剤として添加した。
実施例7:組換えインテグリンの精製
完全鎖長のαvβ3を発現するHigh・Five細胞を収集して、PBSで洗浄して、氷冷した細胞溶解用緩衝液(100mM n−オクチル−β−D−グルコシド、1mMCaCl2、2mM Pefabloc(商標)、pH7.4、PBS中)を用いて、4℃で1時間溶解させた。この細胞溶解液を遠心分離(10、000×g、45分、4℃)して、その上澄みを、細胞溶解用緩衝液で事前平衡化させてある、17E6抗体使用のアフィニティクロマトグラフィ・カラムの中を4℃で1昼夜再循環させた。洗浄後(ベッド容量20ml、2×10cmカラム、50mM n−オクチル−β−D−グルコシド、2mM Pefabloc、2mM CaCl2、pH7.4、PBS溶液)、結合タンパク質を溶出させ(50mM OG、2mM Pefabloc、2mM CaCl2、50mM 酢酸ナトリウム、pH3.1)、その溶出液を280nmでモニターをして、分画を直ちに中和した(1:50容量3M トリス/HCl、pH8.8)。ピーク分画をプールして透析(10mM OG、1mM CaCl2、pH7.4、PBS溶液)して濃縮し、その後、SDS−PAGEで分析した。その一部(タンパク質濃度約1mg/ml)を−80℃で保存した。BCAタンパク質分析法(Pierce)により、BSA標準液に対するタンパク質濃度を測定した。感染したHigh・Five細胞の培養上清(無細胞培地)を、17E6抗体使用のアフィニティクロマトグラフィ・カラムの中を再循環させることにより、可溶性末端欠失型組換えαvβ3の精製を行った。洗浄、溶出、測定については、緩衝液に界面活性剤を含まない点を除いて、完全鎖長のαvβ3で説明した通りである。精製受容体のELISA検出には、ヤギ−抗マウスIgG(H+L)HRP接合体(BIO−RAD)と3, 3’,5,5’−テトラメチルベンジジン−ジヒドロクロリド(シグマ)を基質として使用した。
実施例8:
可溶性で膜貫通部分を完全長で有するαvβ3受容体の精製は、LM609抗体使用のアフィニティクロマトグラフィ・カラムを使用して行われた。
実施例9:抗体アフィニティクロマトグラフィ・カラムの作製
支持マトリックス(Affigel(商標)、BIORAD)を500ml冷却PBSにて洗浄した。精製抗体を、循環回転状態で、支持マトリックス(5mg/mlゲル)と一緒に約12時間インキュベートした。上澄みを取り除いて、その後、マトリックス上で引き続き活性を示しているものを0.1Mエタノールアミンで遮断した。支持マトリックスを0.01Mトリス/HCl、pH8.0、0.01M酢酸ナトリウム、pH4.5で交互に洗浄してから直接使用した。
実施例10:インテグリンリガンド結合、競争的アッセイ;リガンドと抗体のビオチン化
タンパク質のPBS溶液を5倍濃縮の結合用緩衝液(500mM NaCl、500mM NaHCO3)で1mg/mlのタンパク質濃度に希釈した。 作製したばかりのN−ハイドロキシスクシンイミドビオチン(シグマ)[1 mg/ml DMSO溶液]を、0.1mg/mlのタンパク質溶液に添加して、20℃で2時間インキュベートした。透析(PBS、0.025%NaN3)後、タンパク質濃度を測定した。ビオチン化したタンパク質を4℃で保存した。
【0064】
リガンド結合分析:インテグリンをコーティング緩衝液(150mM NaCl、1mM CaCl2、1mM MgCl2、10μM MnCl2、20mMトリス/HCL;pH7.4)で、濃度が1μg/mlになるように希釈して、その100μlを96ウエルマイクロタイタープレートに1昼夜4℃で吸着させた。プレートを一度に結合緩衝液(コート用緩衝液に0.1%(w/v)BSAを含む)で洗浄して、ブロッキング用緩衝液(3%(w/v)BSAを含むコート用緩衝液)で37℃で2時間ブロックした。結合用緩衝液で洗浄した後、連続的に希釈ビオチン化リガンドを添加した。これを、インキュベート(3時間、37℃)をした後、結合していないリガンドを結合緩衝液で洗い流し、結合したビオチンを抗ビオチン−アルカリフォスファターゼ接合抗体とインキュベートしてこれを検出して、さらに、p−ニトロフェニル リン酸(BIO−RAD)基質を使用して結合抗体を定量した。
実施例11:インテグリンリガンド結合、競争的アッセイ
競争的アッセイ:インテグリンを前述の方法で固定化した。連続的に希釈した環状ペプチドをビオチン化ビトロネクチン(1μg/ml)と並行して添加した。37℃で3時間インキュベートした後、上記と同じように、結合リガンドを検出した。3重アッセイを数回繰り返した。
【0065】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】二量体のαvβ3受容体を図式化したものであり、末端欠失のためのαv鎖の切断部位とβ3鎖の切断部位が示されている。αv鎖は、通常、翻訳後開裂が起こり、重鎖(αvhc)と軽鎖(αvlc)に分かれ、その後、ジスルフィド(S−S)架橋により結合される。EC:細胞外、PM:細胞膜、IC:細胞内、IAC:インテグリンと結合している細胞質骨格、Lig:リガンド。
【図2】(A)疑似感染させたSF9細胞(1列目)と組換え体を含まないウイルスを感染させたSF9細胞(2列目)、αv(FL)を含むウイルスを感染させたSf9細胞(3列目)またはβ3(FL)を含むウイルスを感染させたSF9細胞(4列)を、35S標識アミノ酸を使用して2時間の代謝標識を行い、感染後40時間で結果を見たものである。細胞抽出物は、還元条件下、SDS−PAGEにより分離された。右側に標準標識タンパク質の分子量をkDAとして表示している。(B)αv(FL)(1、2列目)、αv(SL)(3、4列目)、β3(FL)(5、6列目)、β3(SL)(7、8列目)を感染させたSF9細胞を、10μMツニカマイシンのDMSO溶液で処理するか(1、3、5、7列)、あるいは、DMSOだけで処理した場合(2、4、6、8列)の結果を示している。感染細胞を上記と同じように代謝パルス標識した。標準標識タンパク質を右に示している。
【図3】同時感染をさせた後の細胞形態の変化を示したものである。組換えタンパク質を含まないウイルス(A)、αv(FL)+β3(FL)を含むウイルス(B)、αv(SL)+β3(SL)を含むウイルス(C)をそれぞれ感染させたSF9を感染後48時間目に位相差顕微鏡で見たものである。
【図4】細胞表面と可溶性αvβ3との免疫沈降法分析の結果である。αv(FL)+β3(FL)を含むウイルス(1、6列)、αv(FL)+β3(SL)を含むウイルス(2、7列)、αv(SL)+β3(FL)を含むウイルス(3、8列)、αv(SL)+β3(SL)を含むウイルス(4、9列)または組換えタンパク質を含まないウイルス(5、10列)を同時感染させたHigh・Five細胞から調製した細胞抽出物(1〜5列)と細胞で調整した培地(cell conditioned medium)(6〜10列)を使用した。αvβ3複合体をモノクローナル抗体LM609を使用して免疫沈降させ、非還元条件下でSDS−PAGEで分離して、PVDF膜に移し、ストレプトアジビン−HRP接合体で標識検出した結果である。
【図5】精製受容体の分析結果である。各種のモノクローナル抗体を使用して、精製完全鎖長の、および末端欠失型のαvβ3のエピトープと純度が分析された。受容体濃度を増加させながら固定化させて、抗体LM609(抗−αvβ3抗体)、17E6(抗−αv抗体)、AP3(抗−β3抗体)、P4C10(抗−β1抗体)、P1F6(抗−αvβ5抗体)を反応させて分析した。縦軸は、450nmでの吸光度。横軸:コートされた受容体濃度(μg/ml)。(○)胎盤由来αvβ3、(■)αv(FL)+β3(FL)、(◆)αv(SL)+β3(SL)。
【図6】精製受容体の分析を示す。SDS−PAGEによる精製受容体の分析である。1、5列:HMW、2、6列:胎盤由来αvβ3、3、7列:αv(FL)×β3(FL)、4、8列:αv(SL)×β3(SL)。1、3、5、7列:非還元条件下。2、4、6、8:還元条件下。
【図7】精製組換えαvβ3の活性試験結果である。固定化受容体へのリガンド結合を示す。ビオチン化ビトロネクチン、フィブリノーゲン、フィブロネクチンを固定化した受容体に結合させた。結合したリガンドを抗−ビオチン抗体で検出した。縦軸:吸光度(405nm)で示したリガンド結合。横軸:ビトロネクチン、フィブリノーゲン、フィブロネクチンの濃度(μg/ml)。(○)胎盤由来αvβ3、(■)αv(FL)+β3(FL)、(◆)αvΔ(SL)+β3Δ(SL)。
【図8】異なる受容体とビトロネクチンの結合に対するRGDペプチドの作用を示すものである。図に示した数種のペプチドの濃度を上げながら、ビオチン化ビトロネクチンをインキュベートした。縦軸:ビトロネクチンの結合率(%)、横軸:ペプチド濃度。(●)胎盤由来αvβ3、(■)末端欠失型組換えαvβ3(第1調製)、(▲)末端欠失型組換えαvβ3(第2調製)。
【図9】異なる受容体とビトロネクチンの結合に対するRGDペプチドの作用を示すものである。図に示した数種のペプチドの濃度を上げながら、ビオチン化ビトロネクチンをインキュベートした。縦軸:ビトロネクチンの結合率(%)、横軸:ペプチド濃度。(●)胎盤由来αvβ3、(■)末端欠失型組換えαvβ3(第1調製)、(▲)末端欠失型組換えαvβ3(第2調製)。
Claims (13)
- 可溶性組換えC末端欠失αvβ3付着受容体であって、
32個のアミノ酸からなる細胞質ドメイン、29個のアミノ酸からなる膜通過ドメイン及び957個のアミノ酸からなる成熟タンパク質からなる天然のヒトαv鎖のC末端から52個までから61個までのいずれかのアミノ酸までが欠失してなるC末端欠失のαv鎖と、
41個のアミノ酸からなる細胞質ドメイン、29個のアミノ酸からなる膜通過ドメイン及び692個のアミノ酸からなる成熟タンパク質からなる天然のヒトβ3鎖のC末端から61個までから70個までのいずれかのアミノ酸までが欠失してなるC末端欠失のβ3鎖と、
からなる
ことを特徴とする可溶性組換えC末端欠失αvβ3付着受容体。 - 前記C末端欠失αv鎖および前記C末端欠失β3鎖のN末端側にそれぞれシグナルを更に有する請求項1に記載の可溶性組換えC末端欠失αvβ3付着受容体。
- 非還元条件下でのSDS−PAGAにより測定した場合に、C末端欠失のαv鎖の分子量が120kDa(±12kDa)であり、C末端欠失のβ3鎖の分子量が約80kDa(±8kDa)である請求項2に記載の可溶性組換えC末端欠失α v β 3 付着受容体。
- リガンド結合活性が損なわれていない、高純度に精製された可溶性組換えC末端欠失αvβ3付着受容体を高収率で調製する方法であって、
(i)32個のアミノ酸からなる細胞質ドメイン、29個のアミノ酸からなる膜通過ドメイン及び957個のアミノ酸からなる成熟タンパク質からなる天然のヒトαv鎖のC末端から52個までから61個までのいずれかのアミノ酸までが欠失してなるC末端欠失のαv鎖をコードする第1のDNAと、41個のアミノ酸からなる細胞質ドメイン、29個のアミノ酸からなる膜通過ドメイン及び692個のアミノ酸からなる成熟タンパク質からなる天然のヒトβ3鎖のC末端から61個までから70個までのいずれかのアミノ酸までが欠失してなるC末端欠失のβ3鎖をコードする第2のDNAを、バキュロウイルス発現系のバキュロウイルス転送用ベクターに組み込んで、サブクローニングを行う工程と、
(ii)前記第1及び/または第2のDNAを含むベクターを、前記発現系のバキュロウイルスのゲノムDNAに移入させる工程と、
(iii)前記完全な組換えバキュロウイルスで昆虫細胞を感染させる工程と、
(iv)前記感染昆虫細胞を培地で培養して、ヘテロ二量体のC末端欠失型αvβ3 付着受容体を該培地中に発現させる工程と、
(v)発現したC末端欠失型αvβ3 付着受容体を、ヒトαvβ3付着受容体またはその個別の構成鎖に特異的に結合する抗体を使った抗体アフィニティクロマトグラフィにより培地から精製する工程と、
を有することを特徴とする可溶性組換えC末端欠失αvβ3付着受容体の調製方法。 - 前記第1、第2のcDNAを同じバキュロウイルスベクターに組み込んでサブクローニングする請求項4に記載の調製方法。
- バキュロウイルス発現系がBacPAKシステムである請求項4または5に記載の調製方法。
- 感染用の昆虫細胞が、ハイ ファイヴ(High・Five)(BTI−TN−5B1−4)細胞である請求項4〜6のいずれかに記載の調製方法。
- 抗体アフィニティクロマトグラフィに使用される特異的抗体が、登録番号が272−17E6(DSM ACC2160)であるハイブリドーマ細胞株で産生されたmAb 17E6である請求項4〜7のいずれかに記載の調製方法。
- C末端欠失型αv鎖をコードする第1のcDNAが、オリゴヌクレチドである、5’−GAC CAG CAT TTA CAG TGA−3’(配列番号:1)と、5’−CA CAG GTC TAG ACT ATG GCT GAA TGC CCC AGG−3’(配列番号:2)をプライマーとして使用したPCRにより作成され、
C末端欠失型β3鎖をコードする第2のcDNAが、オリゴヌクレチドである、5’−GCG CGC AAG CTT GCC GCC ACC ATG CGA GCG CGG CCG−3’(配列番号:3)と、5’−GAT CGA TCT AGA CTA GGT CAG GGC CCT TGG GAC ACT−3’(配列番号:4)をプライマーとして使用してPCRにより作成された
ものである請求項4〜8のいずれかに記載の調製方法。 - αvβ3 付着受容体を阻害する治療薬の発見のための、請求項1〜3のいずれかに記載の可溶性組換えC末端欠失αvβ3 付着受容体の使用法。
- 治療薬化合物がRGDペプチドまたは非ペプチド性の類似物質である請求項10に記載の使用法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の可溶性組換えC末端欠失αvβ3 付着受容体及び該可溶性組換えC末端欠失αvβ3 付着受容体を阻害する可能性のある治療用化合物を使用して、治療用化合物の天然のαvβ3 付着受容体を阻害する能力のある治療用化合物をスクリーニングする方法。
- 治療用化合物としてのRGDペプチドまたは非ペプチド性類似体を、検出標識により検出が可能なように修飾し、固定化された精製可溶性組換えC末端欠失αvβ3 付着受容体と反応させ、さらに、該受容体に結合したリガンドの量が測定される請求項12に記載の方法。
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