JP4341861B2 - 熱疲労特性および高温酸化性に優れたFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電熱器やストーブ等の高温機器の高温に曝される部位で使用される熱疲労特性および耐高温変形性に優れたFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼は、非常に優れた耐高温酸化性を有しており、電熱器の発熱体やストーブの燃焼筒等、高温に曝される部位の材料に使用されている。Fe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼が優れた耐高温酸化性を示すのは、高温下で材料表面に主にAl酸化物からなる強固で緻密な酸化皮膜を形成し、これが酸化に対して保護層の役割をするからである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
近年、燃焼の高効率化、低公害化、あるいは、熱容量の増大に伴い、燃焼機器の高温部位の温度が上昇する傾向にある。また、部品によっては複雑な形状が要求される高温部位では、耐高温酸化性に優れた従来のFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼でも、要求特性を十分満たすものとは言えなくなってきた。
【0004】
すなわち、材料の使用温度が高くなるにつれて、高温酸化の問題だけでなく、「材料の変形」の問題が顕在化してくる。つまり、高温に曝されたのち、常温に戻され、再び高温に曝されるといった、加熱・冷却のサイクルが繰り返されるうちに材料は次第に変形し、常温における初期の形状が維持できなくなる。このような変形は、高温では一般に材料強度が低下するうえに、酸化皮膜の成長によって材料表面に不均一な応力が生じるために起こるものと考えられる。
【0005】
さらに、部品の形状が複雑であり、なおかつその一部が局所的に加熱される部材では、部品の加熱・冷却の繰り返しによって、加熱部周辺の比較的温度の低い部分においても熱疲労破壊をおこしてしまうことがある。これは、部品が局所的に加熱されることにより、構造によっては、温度の低い部分にもひずみが集中するためと考えられる。このような材料の変形が大きくなると、外観上の見栄えを劣化させるだけではなく、機能上のトラブルを誘発させることにもなる。
【0006】
「材料の変形の問題」に対しては、材料強度が低下し、酸化特性が重視される温度域(フェライト系ステンレス鋼では、概略700℃以上であり、以下高温域と称す)においては、高温強度を改善する元素の添加が有効であると考えられる。したがって、「高温域」での「材料の変形の問題」に対しては、耐高温酸化性に有害とならない合金元素を適量添加すれば良いことになる。しかしながら、単に合金元素の添加を行うだけでは、、加熱部周辺の比較的温度の低い領域(700℃未満であり、以下中温域と称す)での「材料の変形の問題」は解消されていない。これは、中温域の高温強度を顕著に改善するためには合金元素の微量添加では不十分なこと、合金元素を多量に添加すると、Fe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の耐高温酸化性および靭性を損なうことなどの理由による。
【0007】
本発明は、従来のFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の中温域および高温域の両方の高温強度を改善し、繰り返し加熱・冷却環境に曝される部位で使用されても「材料の変形の問題」を起こしにくく、かつ、耐高温酸化性にも優れたFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の製造性を提供するものである。
【0008】
【問題を解決するための手段】
本発明は以下のような知見に基づいて達成されたものである。
▲1▼Fe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼において、Nbを合金元素として特定量含有させると「高温域」での材料の変形が抑制される。
▲2▼材料に特定量の加工ひずみを付与すると、「中温域」での材料の変形が抑制される。
▲3▼材料の加工性を大きく損なわず「中温域」および「高温域」での材料の変形が抑制できる。
【0009】
すなわち、上記目的は、重量%で、
C:0.03%以下、
Si:0.5%未満、
Mn:0.5%以下、
P:0.04%以下、
S:0.003%以下、
Cr:15〜20%、
N:0.03%以下、
Al:3〜5%、
Nb:0.1〜0.3%以下、
Ti:0.1〜0.3%以下、
および希土類元素の1種もしくは2種以上を合計で0.01〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼において、冷間圧延および焼鈍を施した鋼帯に、圧延率0.3%以上1.0%以下に相当する加工ひずみを付与することを特徴とする熱疲労特性および耐高温酸化性に優れたFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の製造方法によって構成される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を特定する事項について説明する。
【0011】
本発明において、Nbは欠くことのできない添加元素である。適量のNbは、鋼中のCやNと結合して鋼の靭性を改善し、また、鋼の高温強度を向上させる作用を呈することは周知のとおりである。本発明においてもNbのこのような作用は有益である。しかし、本発明では、それらの作用は副次的なものであり、むしろ別の観点からNbの含有を必要とする。すなわち、NbにはFe−Cr−Al系鋼の高温での材料の変形を防止する働きがあることが明らかになり、本発明ではその作用を利用する。この高温での変形を防止する作用が現れる理由は、Nbは酸化皮膜の生成過程において、鋼素地に対して垂直方向の酸化物成長を促すこと、換言すれば鋼素地に対して水平方向への酸化物成長を抑制することにより、鋼素地と酸化皮膜の界面で生じる応力が緩和されるためであると推測される。また、Nbを添加すると高温強度が向上し、酸化皮膜の成長過程での材料の変形が抑えられることも一因であると考えられる。このようなNb添加の効果を得るためには、0.1%を越えて含有させる必要がある。しかし、多量のNbは却って耐高温酸化性や靭性を劣化させるが、後述のようにSi,MnおよびNの含有量を低減することによって、本発明では0.3%までのNbの含有を許容することができる。
【0012】
また、Ti添加鋼においてNbを添加すると、材料表面でのTi酸化物の生成が抑えられるので、Ti添加鋼で問題となる酸化皮膜の***が少なくなり、その結果、発生するひずみが抑制され、Ti無添加鋼の場合とほぼ同様に材料の変形を防止することが可能になる。
【0013】
Siは、高Al含有フェライト系ステンレス鋼においては、酸化皮膜中にSi酸化物を生成させ、緻密なAl酸化物層の形成を阻害する要因になる。このため、耐高温酸化性を劣化させる方向に作用する。また、Siは、フェライト系ステンレス鋼の靭性を劣化させる元素でもある。本発明では、熱疲労を防止する観点からNbの比較的多量の含有を必要とし、それによって生じる耐高温酸化性や靭性への悪影響を何らかの方法で解消しなくてはならない。種々検討の結果、これらの特性を劣化させるSiの含有量を後述のMn,Nとともに低減することで、Nbによる耐高温酸化性・靭性への悪影響が電熱器やストーブ等の耐熱用途で使用するうえで十分回避できることが明らかになった。そのために、Si含有量は0.5%未満に規制する必要がある。
【0014】
Mnは、高Al含有フェライト系ステンレス鋼の酸化皮膜中にMn酸化物を生成させて、緻密なAl酸化物層の形成を阻害し、Siと同様、耐高温酸化特性を劣化させる方向に作用する。Nbによる耐高温酸化性への悪影響を回避するためには、Siおよび後述のNの低減とともに、Mn含有量を0.5%以下に低減しなくてはならない。
【0015】
Nは、鋼中のAlと結合してAlNを形成してAlを消費し、このAlNが高温使用時における異常酸化の起点になり、耐高温酸化性に悪影響を及ぼすことになる。Nbによる耐高温酸化性への悪影響を回避するためには、SiおよびMnの低減とともに、N含有量を0.03%以下に低減する必要がある。
【0016】
Cは、含有量が多くなると高温使用時の異常酸化を起こしやすくする。また、多量のC含有は高Al含有フェライト系ステンレス鋼のスラブやホットコイルの靭性を劣化させ、製造性の低下を招く。このため、C含有量は0.03%以下に抑えることが望ましい。
【0017】
Pは、耐高温酸化性および熱延板の靭性に悪影響を及ぼすので、その含有量を0.04%以下に抑えるのがよい。
【0018】
Sは、耐食性劣化等の原因になるため、できるだけ低減することが望ましい。本発明の耐熱用途では0.01%以下に制限する必要があるが、希土類元素を含有する場合には特に注意を要する。すなわち、Sは鋼中の希土類元素と結合して非金属介在物を生成し、耐高温酸化性に有効な希土類元素の実質的有効量を低下させる。しかも、その非金属介在物は鋼板の表面性状を劣化させる原因になる。したがって、S含有量は0.03%以下に制限する必要がある。
【0019】
Crは、耐高温酸化性を向上させる元素として基本的かつ重要な元素であり、良好な耐高温酸化性を得るためには15%以上の添加が必要である。しかし、過剰の添加はスラブやホットコイルの靭性を劣化させる。したがって、Cr含有量は15〜20%に制限する必要がある。
【0020】
AlはCrと同様、耐高温酸化性を得るのに極めて重要な元素である。優れた耐高温酸化性は、鋼板表面に形成される緻密なAl酸化物層によって得られ、この層を形成させるには少なくとも2%以上のAl含有が必要であり、できれば3%以上の含有が望ましい。しかし、Alを過剰に含有させるとスラブやホットコイルの靭性が劣化するので、上限を5%に制限する必要がある。
【0021】
Tiは、熱延板の靱性を向上させる。また、材料表面に形成された酸化皮膜の密着性を高めるのに非常に有効である。これらの作用を本発明で対象とする耐熱用途において十分発揮させるためには0.1%を超えるTi添加が望ましい。しかし、Tiを過剰に添加すると、酸化皮膜最表層部にTi酸化物が濃化し、酸化皮膜が***してひずみが発生して高温での鋼の変形の原因となる。本発明では、このようなTiの弊害は、前述のようにNb添加によって解消されるのであるが、そのNbの効果は、Ti含有量が0.3%以下の範囲で発現される。
【0022】
La,Ce,Y等の希土類元素は、鋼板表面に形成されるAl酸化皮膜を安定化させ、また、鋼素地と酸化皮膜との密着性を改善することにより、鋼板の耐高温酸化性を向上させる。このような効果は、希土類元素の1種または2種以上を合計で0.01%以上含有させることによって有効に現れる。しかし、過剰に含有させると、熱間加工性や靭性が劣化するだけでなく、異常酸化の起点になる介在物が生成し易くなり、却って耐高温酸化性が低下することにもなる。このため、希土類元素の含有量は合計で0.2%以下に抑えることが望ましい。本発明においては、希土類元素の種類を特に区別する必要はなく、合計量が規定範囲にあればよい。したがって、希土類元素の原料としてはミッシュメタルが利用できる。
【0023】
本発明において、加工ひずみ量は、中温域での高温強度の改善に必要不可欠な要素である。素材に加工ひずみを付与することで、常温〜700℃未満の中温域での耐力を向上させることができる。しかし、過剰の加工ひずみの導入は、材料本来の伸びすなわち加工性を低下させることになる。したがって、加工性を損なわずに、中温強度を保つ必要がある。そこで、適正な加工ひずみ量を明確にするために、圧延率を種々変化させた鋼を用い、中温域での高温強度と加工性(室温での延性)を調査した。
【0024】
図1は、Fe-18Cr-4Al-0.15Ti-0.15Nb鋼の冷延焼鈍板を用い、種々の圧延率で冷間圧延を行った後の500℃の0.2%耐力と、室温の伸びを示している。なお、板の製造方法および試験方法は、後述する実施例と同様である。図1の結果から、圧延率の増加にともない、500℃の0.2%耐力は上昇し、室温の伸びは低下する傾向にある。しかもその傾向は、前者は圧延率が0.3%以上から、また後者は圧延率が1.0%を超えるとそれぞれ顕著になる。したがって、圧延率が0.3%〜1.0%の範囲の加工ひずみを付与すると、中温域(500℃)での高温強度を改善し、なおかつ室温の延性(伸び)を損なわないことがわかる。
【0025】
以上の検討結果から、焼鈍後の加工ひずみは、圧延率に換算して0.3%〜0.8%とした。なお、ここでの加工ひずみは、圧延率で記載しているが、加工方法が制約されるわけでなく、圧延、引張り、曲げおよびこれらの複合などのいずれによって付与してもよい。
【0026】
【実施例】
表1に示す鋼を真空溶解し、鍛造、切削、熱間圧延を施した後、焼鈍および冷間圧延を繰り返して、研磨仕上げをした後、調質圧延を施し、板厚1mmの板材を製造した。なお、希土類添加は、ミッシュメタルで行った。得られた板材から、JISG0567に準拠して高温引張り試験片を作製し、室温、500℃および700℃にて、0.2%耐力までの引張り速度0.3%/min、破断までの速度を3mm/minの条件で高温引張り試験を実施した。
【0027】
また、板の両面が、Ra≦0.4μmかつRz≦2.0μmとなるよう平滑にしたのち、25×35mmの高温酸化試験片を作製した。ここで、RaとはJIS B 0601に規定される中心線平均粗さ、Rzとは各試験片のJIS B 0601に規定される10点平均粗さを意味する。酸化試験は、炉内加熱1000℃×30分、炉外放冷10分を1サイクルして、加熱・冷却の繰り返しを1000サイクル実施した。酸化試験後に、酸化増量および変形量の測定を行った。なお、次のようにして求めた。すなわち、試験片を定盤の上に置き、最大高さを求めて、最大高さ−板厚(1mm)の値を平坦度とし、「酸化試験前の平坦度」−「酸化試験後の平坦度」の値を変形量(mm)とした。
これらの結果を表2にあわせて示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
化学組成が本発明で規定した範囲にある鋼(表1の発明鋼)において、加工ひずみ量が規定範囲内になるように付与したもの(表2の発明例)は、いずれも室温での加工性、中温域および高温域での高温強度および高温酸化特性が良好である。
【0031】
これに対し、例No.13、15、17に見られるように圧延率が小さい場合には中温域での高温強度が、例No.14、16、18に見られるように圧延率が大きい場合には室温での加工性が劣っている。とくに、例No.13〜16のように発明鋼であっても、圧延率が本発明で規定する範囲を外れると目標とする中温強度や加工性が得られないことから、加工ひずみの付与は非常に重要であることが分かる。一方、例No.17、18は、Nbの含有量が本発明規定範囲を外れて大きいものであるため、高温域(700℃)での強度は良好であるものの、高温酸化特性に劣っている。さらに、例19〜23に示すように、圧延率は本発明に規定する範囲であっても、Nb含有量が規定範囲から外れるため、高温域での強度および高温酸化特性に劣っている。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼は、優れた耐酸化性を有し、なおかつ、広い温度範囲での加熱・冷却の繰り返しによる材料の熱疲労特性にも優れるものである。したがって、本発明方法を使用すれば、耐熱機器の耐久性が向上し、さらに製品の外観上の見栄えも長期にわたって初期の優れた状態が維持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板の500℃の0.2%耐力および室温伸びに及ぼす圧延率の影響。
Claims (3)
- 重量%で、C:0.03%以下、Si:0.5%未満、Mn:0.5%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Cr:15〜20%、N:0.03%以下、Al:3〜5%、Nb:0.1%超え0.3%以下、Ti:0.1%超え0.3%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼において、冷間圧延および焼鈍を施した鋼帯に圧延率0.3%以上1.0%以下に相当する加工ひずみを付与することを特徴とする熱疲労特性および耐高温酸化性に優れたFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- 重量%で、C:0.03%以下、Si:0.5%未満、Mn:0.5%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Cr:15〜20%、N:0.03%以下、Al:3〜5%、Nb:0.1%超え0.3%以下、Ti:0.1%超え0.3%以下を含有し、希土類元素を1種又は2種以上合計で0.01〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼において、冷間圧延および焼鈍を施した鋼帯に圧延率0.3%以上1.0%以下に相当する加工ひずみを付与することを特徴とする熱疲労特性および耐高温酸化性に優れたFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
- 請求項1または2に記載のFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼を、冷間圧延および焼鈍を施した鋼帯に圧延率0.3%以上1.0%以下で調質圧延して加工ひずみを付与することを特徴とする熱疲労特性および耐高温酸化性に優れたFe−Cr−Alフェライト系ステンレス鋼の製造方法。
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