JP4333124B2 - 振動波モータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気機械変換素子を用いて振動子に振動波を発生させ、この振動波により、相対運動部材を摩擦駆動させる振動波モータに関し、特に、摩擦接触面を改良した振動波モータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の振動波モータは、振動子と相対運動部材とは摩擦接触されており、振動子に発生した振動波、例えば、超音波振動は、相対運動部材に伝達され、相対運動部材が摩擦駆動される。従って、振動子は、与えられた超音波振動を効率よく相対運動部材に伝える必要がある。このため、振動子は、高弾性材料、例えば、鉄系やステンレス系の金属材料が用いられている。
また、従来の振動波モータ用の摺動材は、樹脂製の場合には、温度依存性が著しく、真空中又は電子ビーム照射下でガスが放出される。一方、金属製の場合には摩耗粉の生成が激しく、駆動が安定しなかった。
【0003】
このため、従来の振動子と相対運動部材との摩擦接触面は、様々な材料を使用する試みがなされており、一例として、一方の面にアルマイト層を設け、他方の面にNi層を設けたものが用いられている。
【0004】
ここで、アルマイトとは、アルミニウムを陽極酸化して耐食性酸化皮膜をつけたものである。この酸化皮膜は、その処理により異なるが、Al2O3を主とするものである。
【0005】
上述したアルマイト層とNi層の摩擦接触面は、潤滑油等を用いない。従って、この摩擦接触面は、非流体力学的な潤滑、いわゆる境界潤滑が主となる。このため、酸化皮膜は、潤滑油的な役割を果たすこととなり、超音波振動の伝達効率、すなわち振動波モータの機能に大きな影響を与える。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述した従来の振動波モータは、長時間にわたって摩擦駆動されると、摩擦接触面の酸化皮膜が劣化し、振動子,相対運動部材の接触面が磨耗するようになる。これにより、振動波モータは、接触面に磨耗粉が発生し、駆動性能が不安定になり、最終的には、駆動できなくなる可能性がある。
【0007】
従来のアルマイト層とNi層とを摩擦接触面とする振動波モータは、摩擦接触面の摩耗が激しく、駆動状態が不安定であり、連続耐久試験での寿命が約13時間程度と短かった。
そこで、従来以上に摩擦接触面を安定させることにより、駆動状態を安定させ、振動波モータの寿命を延ばすことが要請されている。
【0008】
本発明の目的は、摩擦接触面の磨耗を少なくし、駆動性能を安定化し、長寿命化を図ることができる振動波モータを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、電気機械変換素子の励振により、弾性体に振動を発生する振動子と、前記振動子に加圧接触され、前記振動により、その振動子との間で相対運動を行う相対運動部材とを備える振動波モータにおいて、前記振動子と前記相対運動部材の少なくとも一方の摩擦接触面は、多孔質酸化皮膜層であり、前記多孔質酸化皮膜層は、その皮膜の一部が除去されて、表面の空孔率が1〜3%となっていることを特徴とする振動波モータである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の振動波モータにおいて、前記多孔質酸化皮膜層は、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に陽極酸化処理を施して形成した層であることを特徴とする振動波モータである。
請求項3の発明は、請求項2に記載の振動波モータにおいて、前記陽極酸化処理により、前記アルミニウム又はアルミニウム合金表面の外側に浸透する成長被膜と、前記アルミニウム又は前記アルミニウム合金表面の内側に浸透する浸透被膜とを形成し、前記多孔質酸化被膜層は、前記成長被膜を除去されていることを特徴とする振動波モータである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の振動波モータにおいて、前記多孔質酸化皮膜層の除去量は、皮膜表面より膜厚の10%以上50%以下であることを特徴とする振動波モータである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面などを参照しながら、本発明の実施の形態をあげて、さらに詳しく説明する。
なお、以降の実施形態の説明は、振動波モータとして超音波の振動域を利用する超音波モータを例にとって行う。
【0013】
図1は、本発明による振動波モータの一実施形態の外観構成を示す斜視図である。
この振動波モータ10は、圧電体11と、弾性体12と、移動体13等とから構成されている。
圧電体11は、電気機械変換素子の1つであって駆動信号の供給により励振されるものであり、フェルト等の振動吸収材15を介して、カメラのレンズ鏡筒等の支持体16に固定されている。
弾性体12は、導電性を有する接着剤等により圧電体11と接着され、圧電体11の励振により進行性振動波を発生させるものである。弾性体12は、金属材料、例えば、黄銅や、ステンレス材料,インバー材料等の鉄合金から形成される。
移動体13は、弾性体12に圧接され、進行性振動波により摩擦駆動されるものである。
フレキシブルプリント基板14は、圧電体11に駆動信号を供給するためのものであり、圧電体11の所定の電極部と電気的に接続されている。
【0014】
図2は、弾性体(ステンレス材料)12と移動体13との摩擦接触面を詳細に示す断面図である。
移動体13は、弾性体12との接触面上には、多孔質酸化皮膜層である硬質アルマイト層17が設けられている。従って、ステンレス材料からなる弾性体12は、実際には、硬質アルマイト皮膜層17と接触している。
【0015】
次に、本実施形態の振動波モータをさらに詳細に説明する。
弾性体12は、ステンレス(SUS304)から形成した。そして、弾性体12の底面に圧電体11をエポキシ系接着剤で接着した。
一方、移動体13は、Al合金(A6063)から形成した。そして、硬質アルマイト皮膜層17は、陽極酸化処理を移動体13の表面に施すことにより形成した。硬質アルマイト皮膜層17を陽極酸化処理によって生成すれば、コストを高くせずに生成することができる。
【0016】
アルミニウムの陽極酸化は、一般に、硫酸やシュウ酸といった二塩基酸の中で行われるのが普通であるが、これらの酸の中では、電解によって生成した酸化物がある厚さになってくると、電解液の溶解作用によって、小さな孔が無数に生じ、この孔の中を電解質のイオンが自由に通ることができて、酸化物の生成に寄与している。
孔が無数に生じた部分は、多孔質層と呼ぶが、その孔は、表皮層へいくほど溶液に長くさらされているため(酸化膜は、内側から生成され、外へ外へと押し出されていくから)、外広がりとなり、孔径は大きくなる。
【0017】
図3は、本実施形態の振動波モータに使用されるアルマイト皮膜層を説明する断面図である。
アルマイト皮膜層17は、図3に示すように、その孔径により3層(基層171,中間層172,表皮層173)に分類することができる。そして、表皮層173,中間層172,基層171の各層が占める割合の比率は、膜厚に依らず、ほぼ一定である。
また、中間層172と基層171とは、はっきりとした境界線はないが、基層171は無孔層と考えられる。
【0018】
表皮層173は、全厚の約10%であり、前述した理由で孔径は、皮膜表面ほど大きい。最表皮層は、最初に成長して次第に溶解するため、粗く、低密度で、不純物層が存在している。よって、表皮層173は、脆く硬度が低い。
そこで、本実施形態のアルマイト皮膜層17は、アルマイト皮膜を、錠盤とダイアモンド砥石を用いてラップし、表皮層173を含む部分、つまり、皮膜膜厚の約10%(C−C線で示した部分)を平面状に削り取り均一な孔径の面とした。
【0019】
摩耗が発生する場合に、移動体13側の硬質アルマイト皮膜層17が削られてパウダー状の粉(大きさはサブμm程度)とフレーク状の粉(大きさは2〜10μm程度)とが発生する。
このフレーク状の粉の発生は、硬質アルマイト皮膜層17の表面附近の脱落現象に起因するものである。このフレーク状の摩耗粉は、特に、硬質アルマイト皮膜層17に存在するクラック付近から発生することが多い。いったん、脱落現象が発生すると、このフレーク状の粉は、移動体13と弾性体12との間に入り込んで、砥粒のような働きをして、脱落現象を助長する。すなわち、このフレーク状の粉は、摩擦面間を転がりながら、硬質アルマイト皮膜層17の表面を削ることになる。
このとき、硬質アルマイト皮膜層17の表面からは、多量のパウダー状の微細な粉が発生し、さらに、その表面を削るので、硬質アルマイト皮膜層17の寿命、すなわち、振動波モータとしての寿命は、著しく低下することになる。
【0020】
しかし、本実施形態の硬質アルマイト皮膜層17は、アルマイト皮膜の一部を除去することにより、皮膜の密度,硬度の高い部分によって接触するので、フレーク状の摩耗粉の発生を防ぐことができる。
また、皮膜除去を行うことにより、皮膜の平面度向上(数値は、約1/2)を図ることもでき、回転ムラの減少等性能安定化に寄与する。
【0021】
以上の構成からなる振動波モータ10を駆動させたところ、以下のような、従来の振動波モータと比較して有利な効果が得られた。
(1)弾性体12の形状が変化しない。
(2)摩擦接触面の磨耗量が極めて少なく、長時間にわたって安定した摩擦駆動ができる。
(3)弾性体12と移動体13との加圧によって生じる駆動トルクが大きい。
(4)摩擦駆動時に発生する騒音が少ない。
(5)長時間の駆動により経時劣化が少なく安定した駆動が得られる。
【0022】
また、連続で摩擦駆動させる耐久試験を実施したところ、本実施形態の振動波モータ10の寿命は、120時間であった。これは、従来の振動波モータの寿命(13時間)の約9.2倍である。
【0023】
尚、硬質アルマイト皮膜層17については、本発明では皮膜の一部を除去したが、比較例として、通常用いられている封孔処理を行った硬質アルマイト皮膜層を有する移動体を用意し、本実施形態の移動体と比較例の移動体を、他の部分が全く同一の振動波モータに組み込み、駆動電圧,駆動周波数,負荷トルクを一定にして、連続駆動を行った。
【0024】
その結果、皮膜を除去した方が皮膜摩耗量,性能変化率(入力電流値,回転数の変化率)が共に少なく良好であった。
【0025】
図4(a)〜(c)は、本発明による振動波モータの実施例の連続駆動時間−皮膜摩耗厚の関係を、比較例と共に示した図である。
硬質アルマイト皮膜層17の除去率が0%(比較例1),5%(実施例1),10%(実施例2),50%(実施例3),60%(比較例2)の移動体を作成し、その他の部分は全く同一の振動波モータを用いて連続駆動実験を行った。
【0026】
図4(a),(b)に示すように、皮膜の劣化により、連続駆動時間20時間では、皮膜摩耗量がそれぞれ、5μm(比較例1),3μm(実施例1),2μm(実施例2),3μm(実施例3),7μm(比較例2)であり、連続駆動時間40時間では、皮膜摩耗量がそれぞれ、6μm(比較例1),3μm(実施例1),2μm(実施例2),3μm(実施例3),11μm(比較例2)であった。
また、実施例1,2,3では、40時間たっても皮膜摩耗量が5μmに達しなかったが、比較例1,2では、20時間で皮膜摩耗量が5μmに達してしまった。
また、皮膜除去後の表面における空孔率は図4(c)に示す通りであった。
【0027】
一方、性能の安定性について、実施例1,2,3と、比較例1,2を比べると、次の通り、本実施例の方がモータの性能の安定性に優れていた。但し、駆動時間10分間における変化率である。
【0028】
図5は、本実施形態の振動波モータに使用されるアルマイト皮膜層の浸透皮膜を説明する断面図である。
本実施形態の硬質アルマイト皮膜層17は、化成された酸化皮膜170が60μm生成されているが、外部に浸透する成長皮膜170Aは、膜厚の約50%、すなわち30μmであり、内部に浸透する浸透皮膜170Bも、膜厚の50%、すなわち30μmである。
このため、比較例2のように、皮膜除去量が、膜厚の50%越えると、中間層172による摩擦駆動となり、浸透皮膜170Bであるために、図4の通り耐摩耗性が落ちることとなる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で、以下のような種々の変形が可能である。
(1)本実施形態では、移動体13側に硬質アルマイト皮膜層17を形成したが、これとは逆に、弾性体12をアルミニウム又はアルミニウム合金によって製作し、弾性体12側に硬質アルマイト皮膜層17を形成してもよい。
【0030】
(2)本実施形態では、アルミニウム合金にA6063材、陽極酸化皮膜に硫酸アルマイトを用いたが、他のアルミニウム合金(A6061,A5056,A5052,A2024,A7075,ADC12,AC8A等)又はアルミニウムであってもよい。また、蓚酸系,混酸系のアルマイトであってもよい。
(3)本実施形態では、多孔質酸化皮膜として、アルミニウムの陽極酸化皮膜を用いたが、その他の元素の多孔質酸化皮膜でもよい。例えば、MgOとMgAl2との複合皮膜等が挙げられる。
(4)本実施形態では、弾性体として、ステンレスを用いたが、その他の材料(及び表面処理)を用いてもよい。例えば、各種鉄鋼材料(S15C、S55C、SCr445、SNCM630等)、銅系材料(黄銅、リン青銅、ベリリウム銅、アルミニウム青銅)、アルミニウム合金(A6061、A5056)等を用いてもよい。
【0031】
(5)本実施形態では、回転型の振動波モータ10に適用したが、リニア駆動型の振動波アクチュエータにも適用することができる。
(6)本実施形態では、進行性振動波によって移動体13を駆動する振動波モータ10を示したが、ねじり振動体の振動によって移動体を駆動する振動波モータにも適用することができる。
(7)また、本発明は、超音波領域を用いない電気機械変換アクチュエータにも適用することができる。
また、本実施形態では、移動体のアルマイト皮膜層の表面を除去することにより、表面の空孔率を1〜3%とすることにより安定的に長時間駆動可能な超音波モータを得ることが出来た。本実施形態では、アルマイト層の表面を除去することにより空孔率を1〜3%としたが、これに限られることなく、多孔質酸化皮膜で出来た摩擦接触面の空孔率を1〜3%とすれば、同様の効果を得ることができる。つまり、電気機械変換素子の励振により、弾性体に振動を発生する振動子と、前記振動子に加圧接触され、前記振動により、その振動子との間で相対運動を行う相対運動部材とを備える振動波モータにおいて、前記振動子と前記相対運動部材の少なくとも一方の摩擦接触面は、多孔質酸化皮膜層であり、前記多孔質酸化皮膜層は、表面の空孔率が1〜3%とすればよい。また、前記表面は平面であることが好ましく、均一な空孔率となっていることが更に好ましい。
【0032】
【発明の効果】
以上詳しく説明したように、本発明によれば、振動子と相対運動部材との摩擦接触面を含む部分の少なくとも一方に形成される多孔質酸化皮膜の一部を除去したので、摩擦接触面の磨耗を少なくし、長時間にわたり安定した駆動を実現することができ、振動波モータの寿命を延ばすことができる。また、皮膜が脱落してしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による振動波モータの一実施形態の外観構成を示す斜視図である。
【図2】弾性体12と移動体13との摩擦接触面を詳細に示す断面図である。
【図3】本実施形態の振動波モータに使用されるアルマイト皮膜層を説明する断面図である。
【図4】本発明による振動波モータの実施例の連続駆動時間−皮膜摩耗厚の関係を、比較例と共に示した図である。
【図5】本実施形態の振動波モータに使用されるアルマイト皮膜層の浸透皮膜を説明する断面図である。
【符号の説明】
10 振動波モータ
11 圧電体
12 弾性体
13 移動体
14 フレキシブルプリント基板
15 振動吸収材
16 支持体
17 硬質アルマイト皮膜層(多孔質酸化皮膜層)
Claims (4)
- 電気機械変換素子の励振により、弾性体に振動を発生する振動子と、
前記振動子に加圧接触され、前記振動により、その振動子との間で相対運動を行う相対運動部材と、
を備える振動波モータにおいて、
前記振動子と前記相対運動部材の少なくとも一方の摩擦接触面は、多孔質酸化皮膜層であり、
前記多孔質酸化皮膜層は、その皮膜の一部が除去されて、表面の空孔率が1〜3%となっていること
を特徴とする振動波モータ。 - 請求項1に記載の振動波モータにおいて、
前記多孔質酸化皮膜層は、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に陽極酸化処理を施して形成した層であること
を特徴とする振動波モータ。 - 請求項2に記載の振動波モータにおいて、
前記陽極酸化処理により、前記アルミニウム又はアルミニウム合金表面の外側に浸透する成長被膜と、前記アルミニウム又は前記アルミニウム合金表面の内側に浸透する浸透被膜とを形成し、
前記多孔質酸化被膜層は、前記成長被膜を除去されていること
を特徴とする振動波モータ。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の振動波モータにおいて、
前記多孔質酸化皮膜層の除去量は、皮膜表面より膜厚の10%以上50%以下であること
を特徴とする振動波モータ。
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