JP4318418B2 - セメント組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用されるセメント組成物に関する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0002】
【従来の技術とその課題】
近年、コンクリートの耐久性問題が大きくクローズアップされることにより、コンクリートの水/セメント比が耐久性に大きな影響をおよぼすことから、単位水量の低減を目的として、高性能減水剤や高性能AE減水剤の使用頻度が急激に増し、指針も出されている。
しかしながら、単位水量を低減すればするほど、コンシステンシーの経時変化が大きく、流動性が低下しやすいという課題があり、この課題に関して抜本的な対策はないのが現状である。
【0003】
また、最近では、都市型廃棄物を原料として製造される、いわゆるエコセメントが脚光を浴びており、環境負荷の低減やゴミ減容システムの確立の観点からも大きな期待が寄せられている(特開平07-165446号公報、特開平10-279332号公報、及び特開平11-199301号公報)。
しかしながら、このエコセメントは普通ポルトランドセメントと比較して、カルシウムアルミネート系化合物である3CaO・Al2O3や11CaO・7Al2O3・CaCl2を多量に含んでいることから、流動性の低下が顕著であるという課題を有していた。
【0004】
流動性は、施工欠陥の発生と深く関連するため極めて重要な性能であり、生コンプラントから横持ちして、施工現場まで搬送し、さらに一定時間流動性を維持することが必要となる。
しかしながら、現場で何らかのトラブルや交通渋滞に巻き込まれた場合には、所定の時間を大きく上回る経過時間となり、コンクリートの流動性が所定の規格外となってしまう場合も多い。
このような場合には、高性能AE減水剤等を追加添加して再び流動化させる、いわゆる再流動化処理を行う以外に方法がない。
しかしながら、この再流動化処理は熟練の技術者しか行えないというのが実状である。
このように、今日では、都市ゴミ焼却灰を原料として製造される、流動性の低下が大きな廃棄物利用型セメントを用いても、流動性の保持性能に優れるコンクリートの開発が強く求められている。
【0005】
一方、セメント系材料には微量ではあるが含有されているクロムが、環境問題の観点から、人体に悪影響をおよぼす六価クロムとして大きな関心が寄せられている。
特に、都市ゴミ焼却灰を原料として製造される廃棄物利用型セメントでは、その成分管理が厳しく行われている。
しかしながら、原料から由来するクロム量を完全に把握することは極めて困難であり、成分管理だけで六価クロム対策が完璧であるとは言い切れない。
したがって、さらなる六価クロム対策を併せて実施しておくことが好ましいと考えられる。
【0006】
六価クロムは還元剤や吸着剤等によってその溶出量を低減する方法が提案されている。
しかしながら、これらの素材は、セメントコンクリート分野へ利用するには、あまりにも高価なものであり、ほとんど利用されていないのが実状である。
【0007】
本発明者は鋭意努力を重ねた結果、都市ゴミ焼却灰を原料として製造される廃棄物利用型セメントを使用しても、流動性の低下が少なく、しかも六価クロムの還元能力も有するセメント組成物が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、都市ゴミ焼却灰を原料として製造される廃棄物利用型セメントと、非硫酸態イオウとして存在するイオウを0.5%以上含有し、ガラス化率が30%以下、ブレーン比表面積2,000〜8,000cm 2 /gの高炉徐冷スラグ粉末とを含有してなるセメント組成物100部中、前記高炉徐冷スラグ粉末が5〜50部であるセメント組成物である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明でいう都市型廃棄物を原料として製造される、廃棄物利用型セメント(以下、エコセメントという)とは、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥を主原料として製造されるセメントを総称するものであり、特に限定されるものではない。
エコセメントには、大別して、普通型エコセメントと速硬型エコセメントがある。
普通型エコセメントは塩素含有量が極めて少なく、アルミネート系化合物の主体は3CaO・Al2O3であり、速硬型エコセメントは塩素含有量が高く、アルミネート系化合物の主体は11CaO・Al2O3・CaCl2である点で相違している。
【0011】
本発明で使用する高炉徐冷スラグ粉末(以下、徐冷スラグ粉という)は徐冷されて結晶化した高炉スラグの粉末である。
徐冷スラグ粉の成分は高炉水砕スラグと同様の組成を有しており、具体的には、SiO2、CaO、Al2O3、及びMgOなどを主要な化学成分とし、その他の成分として、TiO2、MnO、Na2O、S、P2O5、及びFe2O3などが挙げられる。
また、化合物としては、ゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2とアケルマナイト2CaO・MgO・2SiO2の混晶である、いわゆるメリライトを主成分とし、その他、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiO2、ランキナイト3CaO・2SiO2、及びワラストナイトCaO・SiO2などのカルシウムシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiO2やモンチセライトCaO・MgO・SiO2などのカルシウムマグネシウムシリケート、アノーサイトCaO・Al2O3・2SiO2、リューサイト(K2O、Na2O)・Al2O3・SiO2、スピネルMgO・Al2O3、マグネタイトFe3O4、並びに、硫化カルシウムCaSや硫化鉄FeSなどの硫化物等を含む場合がある。
これら硫化物は徐冷スラグを粉砕することにより粒子表面に露出し、水と接した際にチオ硫酸イオンや亜硫酸イオンとして溶出し、6価クロム還元性能を発揮する。
【0012】
本発明では、徐冷スラグ粉のうち、例えば、硫化物、多硫化物、イオウ、チオ硫酸、及び亜硫酸等のように非硫酸態イオウとして存在するイオウ(以下、単に非硫酸態イオウという)を0.5%以上含有してなるものを粉末化した徐冷スラグ粉を用いる。非硫酸態イオウが0.5%未満では、本発明の効果、即ち、流動性の保持性能や六価クロムの還元性能が充分に得られない場合がある。非硫酸態イオウは、0.5%以上が好ましく、0.7%以上がより好ましく、0.9%以上が最も好ましい。
非硫酸態イオウ量は、全イオウ量、単体イオウ量、硫化物態イオウ量、チオ硫酸態イオウ量、及び硫酸態イオウ量(三酸化イオウ)を、山口と小野の方法により定量することによって、また、硫酸態イオウ量(三酸化イオウ)と硫化物態イオウ量については、JIS R 5202に定められた方法により定量することによっても求められる(「高炉スラグ中硫黄の状態分析」、山口直治、小野昭紘、製鉄研究、第301号、pp.37-40、1980参照)。
【0013】
本発明で使用する徐冷スラグ粉のガラス化率は30%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。ガラス化率が30%を超えると流動性の保持性能や六価クロムの還元性能が充分に得られない場合がある。
ガラス化率が高い場合、ほぼ同量の非硫酸態イオウを含有していても、結晶質である徐冷スラグに比しガラス化率の高いスラグ粉はチオ硫酸イオンなどの溶出が少なく、6価クロムの還元性能は小さい。
本発明でいうガラス化率(X)は、X(%)=(1−S/S0)×100として求められる。ここで、Sは粉末X線回折法により求められる徐冷スラグ粉中の主要な結晶性化合物であるメリライト(ゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2とアケルマナイト2CaO・MgO・2SiO2の混晶)のメインピークの面積であり、S0は徐冷スラグ粉を1,000℃で3時間加熱し、その後、5℃/分の冷却速度で冷却したもののメリライトのメインピークの面積を表す。
【0014】
徐冷スラグ粉の粉末度は特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積(以下、ブレーン値という)で、2,000〜8,000cm2/g以上が好ましく、4,000〜8,000cm2/gがより好ましく、5,000〜8,000cm2/gが最も好ましい。ブレーン値が2,000cm2/g未満では、本発明の効果、即ち、流動性の保持性能や六価クロムの還元性能が充分に得られない場合があり、8,000cm2/gを超えるように粉砕するには、粉砕動力が大きくなり不経済であり、また、徐冷スラグ粉が風化しやすくなり、品質の経時的な劣化が大きくなる場合がある。
この粉末度によって、チオ硫酸イオンや亜硫酸イオンなどの溶出量をコントロールすることが可能であり、粉末度を高めることにより初期の6価クロム還元性能が高まり、逆に粉末度を低くすることで長期にわたる6価クロム還元性能を与えることが可能となる。
【0015】
徐冷スラグ粉の使用量は特に限定されるものではないが、通常、エコセメントと徐冷スラグ粉からなるセメント組成物100部中、5〜50部が好ましく、10〜30部がより好ましい。5部未満では本発明の効果が充分に得られない場合があり、50部を超えて使用すると強度発現性が悪くなる場合がある。
【0016】
本発明では、本発明のセメント組成物の他に、従来のセメントを併用することも可能である。
セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、並びに、石灰石粉末等を混合したフィラーセメントなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。
【0017】
本発明のセメント組成物の粉末度は、使用する目的や用途に依存するため特に限定されるものではないが、通常、ブレーン値で2,000〜8,000cm2/gが好ましく、3,000〜5,000cm2/gがより好ましい。2,000cm2/g未満では強度発現性が充分でなかったり、本発明の効果、即ち、流動性の保持性能や六価クロム低減効果が充分に得られない場合があり、8,000cm2/gを超えると作業性が悪くなる場合がある。
【0018】
本発明では、セメント組成物、砂や砂利等の骨材の他に、高炉水砕スラグ粉末、石灰石粉末、フライアッシュ、及びシリカフュームなどの混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0019】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどの使用が可能である。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実験例に基づいてさらに説明する。
【0021】
実験例1
エコセメントと各種徐冷スラグ粉(スラグ)を表1に示すように配合してセメント組成物を調製した。
次いで、単位セメント組成物量350kg/m3、単位水量175kg/m3、s/a=46%、及び空気量4.5±1.5%のコンクリートを調製し、スランプの経時変化の測定を行った。
また、セメント組成物の六価クロム低減能力を評価した。結果を表1に併記する。
なお、コンクリートのスランプ値が18±1.5cmとなるように高性能AE減水剤を使用した。
【0022】
<使用材料>
セメントイ:普通型エコセメント、市販品、C3S含有量45.3%、C2S含有量16.0%、C3A含有量14.9%、及びC4AF含有量11.9%
セメントロ:速硬型エコセメント、市販品、C3S含有量48.4%、C2S含有量8.5%、C11A7・CaCl2含有量16.2%、及びC4AF含有量6.7%
スラグa :徐冷スラグ粉、ブレーン値2,000cm2/g、ガラス化率5%、比重3.00、非硫酸態イオウ0.9%
スラグb :徐冷スラグ粉、ブレーン値4,000cm2/g、ガラス化率5%、比重3.00、非硫酸態イオウ0.9%
スラグc :徐冷スラグ粉、ブレーン値5,000cm2/g、ガラス化率5%、比重3.00、非硫酸態イオウ0.9%
スラグd :徐冷スラグ粉、ブレーン値6,000cm2/g、ガラス化率5%、比重3.00、非硫酸態イオウ0.9%
スラグe :徐冷スラグ粉、ブレーン値8,000cm2/g、ガラス化率5%、比重3.00、非硫酸態イオウ0.9%
スラグf :徐冷スラグ粉、スラグdを水に浸漬してエイジングし、非硫酸態イオウを0.7%にしたもの、ブレーン値6,000cm2/g、ガラス化率5%、比重3.00
スラグg :徐冷スラグ粉、スラグdを水に浸漬してエイジングし、非硫酸態イオウを0.5%にしたもの、ブレーン値6,000cm2/g、ガラス化率5%、比重3.00
スラグh :徐冷スラグ粉、ブレーン値6,000cm2/g、ガラス化率10%、比重2.97、非硫酸態イオウ0.7%
スラグi :徐冷スラグ粉、ブレーン値6,000cm2/g、ガラス化率30%、比重2.94、非硫酸態イオウ0.5%
スラグj :高炉水砕スラグ粉、ブレーン値6,000cm2/g、ガラス化率95%、比重2.90、非硫酸態イオウ0.1%
細骨材 :新潟県姫川産砂、比重2.62
粗骨材 :新潟県姫川産、砕石、比重2.64
高性能AE減水剤:ポリカルボン酸系、市販品
水 :水道水
【0023】
<測定方法>
スランプロス:JIS A 1101に準じてスランプ値を測定し、練り上がりのスランプ値から60分経過後のスランプ値を差し引いて、スランプロス値とした。
六価クロム残存濃度:セメント組成物の六価クロム低減能力を確認するために、六価クロム標準溶液を希釈して、六価クロム濃度が50mg/lの溶液を調製し、この六価クロム溶液50ccに各セメント組成物10gを入れて攪拌し、7日後に固液分離して液相中の残存六価クロム濃度を測定することによって評価した。ただし、六価クロムの残存濃度は、JIS K 0102に準じ、ICP発光分光分析法により測定した。
【0024】
【表1】
【0025】
【発明の効果】
本発明のセメント組成物は六価クロムの低減能力を有し、アルミネート系化合物の含有量が多い廃棄物利用型セメントを主体としているにも関わらず、これを用いたコンクリートのスランプロスを小さくすることができる。
また、高炉徐冷スラグの有効利用や都市型廃棄物の減容にもなるなどの効果を奏する。
Claims (1)
- 都市ゴミ焼却灰を原料として製造される廃棄物利用型セメントと、非硫酸態イオウとして存在するイオウを0.5%以上含有し、ガラス化率が30%以下、ブレーン比表面積2,000〜8,000cm 2 /gの高炉徐冷スラグ粉末とを含有してなるセメント組成物100部中、前記高炉徐冷スラグ粉末が5〜50部であるセメント組成物。
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