JP4296334B2 - 制動力配分制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、後輪の制動力を前輪の制動力に対し所定の関係となるように調整する制動力配分制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の従来技術として、例えば特開平6−144176号公報に示される装置が知られている。この装置は、前輪の車輪速度と後輪の車輪速度の速度差が設定値を超えたときに制動力配分制御の開始を許容するものである。また、このものにおいては、悪路走行中に前輪と後輪の車輪速度差が大となり無用の制動力配分制御が行なわれるのを回避するため、走行路面が悪路と判定された場合には、上記設定値が通常の路面状態の場合よりも大きな値に設定される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記した装置では、車両前後方向への荷重移動による後輪荷重の変動を考慮して制動力配分制御の開始条件(上記設定値)が設定されていないため、以下の問題点が生ずる。
【0004】
車両の制動中に例えば前輪が段差等の路面外乱を乗り越えるときには、一瞬前輪が浮き上がるため、車両の前方から後方に一時的に荷重が移動し、後輪の荷重が増大する。その後、前輪が路面に接地すると、車両の後方から前方に荷重が移動し、後輪の荷重が減少する。このように車両前後方向への荷重移動に起因して後輪荷重が変動した場合には、上記装置では制動力配分制御の開始が遅れ、結果、後輪のスリップが大きくなり、誤ってアンチスキッド制御(即ち制動力の減少)が開始される恐れがある。このため、後輪の制動力が変動して後輪荷重の変動を助長し、車両のピッチングが増大するする恐れがある。
【0005】
故に、本発明は、車両の制動中に車両前後方向への荷重移動に起因して後輪荷重が変動した場合に、後輪に対するアンチスキッド制御の誤作動を回避することを、その技術的課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するため、請求項1の発明の制動力配分制御装置は、車両の前輪及び後輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前記前輪と後輪の車輪速度を比較し、その比較結果に応じて後輪の制動力を前輪の制動力に対し所定の関係となるように調整し前後制動力配分制御を実行する制動制御手段とを備えた制動力配分制御装置において、車両の制動中に車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出する荷重移動検出手段と、前記荷重移動検出手段が車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した場合には、前記前後制動力配分制御を通常の場合に比べ開始し易くする制御開始変更手段とを備えたものである。
【0007】
請求項1の発明によれば、車両の制動中に車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した場合、前後制動力配分制御を通常の場合に比べ開始し易くするので、車両の制動中に車両前後方向への荷重移動に起因して後輪荷重が変動した場合に、早期に制動力配分制御を開始でき、後輪の制動力の上昇を抑制でき、結果、後輪に対するアンチスキッド制御の誤作動を回避できる。従って、後輪の制動力の減少に起因する制動力の変動を防止でき、車両のピッチングを低減できる。
【0008】
ここで、荷重移動検出手段を、請求項5に示すように、前輪の車輪速度の変動に基づき前輪が段差路面を通過したことを判定することにより、車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出するように構成すると、好ましい。この構成によれば、荷重センサ等のセンサを新設することなく、車両前方から後方への荷重移動を検出できるため、装置が安価になる。また、荷重移動検出手段は、前輪及び後輪にそれぞれ荷重センサを装着し、これらの荷重センサの出力結果に基づき車両前方から後方への荷重移動を検出するものであっても良い。更に、荷重移動検出手段は、車両の制動中に車両前方から後方へ一時的に荷重が移動した後、後方から前方に荷重が移動したことを検出しても良い。
【0009】
また、制御開始変更手段を、請求項2に示すように、前記荷重移動検出手段が車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した場合に、前記前後制動力配分制御の開始基準を制御が開始し易い値に変更するように構成すると、好ましい。上記開始基準は、後輪速度の開始基準速度や前後輪の車輪速度差の開始基準速度差を含み、開始基準速度を用いた場合にはそれを通常の場合に比べ高い値に変更し、開始基準速度差を用いた場合にはそれを通常の場合に比べ小さい値に変更すれば良い。
【0010】
この開始基準に代えて、後輪の車輪速度や前後輪の車輪速度差を変更しても良い。具体的には、後輪速度を変更する場合にはそれを通常の場合に比べ低い値に変更し、前後輪の車輪速度差を変更する場合には通常の場合に比べ大きい値に変更すると良い。
【0011】
請求項1の発明において、請求項3の発明に示すように、前記制動制御手段を、前記前輪と後輪の車輪速度の比較結果に応じて後輪の制動力をパルス的に増加又は保持又は減少するように構成し、前記荷重移動検出手段が車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した場合には、通常の場合に比べ、前記制動制御手段による後輪の制動力の減少をさせ難くする減少抑制手段を更に備えると、好ましい。
【0012】
この構成によれば、車両の制動中に車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した後、車両の後方から前方に荷重が移動した場合にも、後輪制動力の減少を抑制でき、車両のピッチングの増大を防止できると共に、後輪制動力を確保できる。
【0013】
ここで、上記減少抑制手段を、請求項4に示すように、後輪の制動力の減少を開始するための減少基準値を、通常の場合に比べ後輪の制動力が減少し難くなるように変更すると、好ましい。この減少基準値は、後輪速度の基準速度や前後輪の車輪速度差の基準速度差を含み、基準速度を用いた場合にはそれを通常の場合に比べ低い値に変更し、基準速度差を用いた場合にはそれを通常の場合に比べ大きい値に変更すれば良い。また、減少基準値の変更に代えて、後輪の制動力の減少を所定時間禁止するように構成しても良い。
【0014】
請求項1の発明において、請求項6の発明に示すように、液圧を発生する液圧発生装置と、各車輪に装着され制動力を付与するホイールシリンダと、各ホイールシリンダ及び前記液圧発生装置間を接続する液圧路と、前記液圧路に配設され各ホイールシリンダのブレーキ液圧を調整する液圧制御弁とを更に備え、前記制動制御手段を、後輪用の前記液圧制御弁を制御し、後輪のホイールシリンダのブレーキ液圧を前輪のホイールシリンダのブレーキ液圧に対し所定の関係となるように調整するように構成すると、好ましい。
【0015】
上記技術的課題を解決するため、請求項7の発明の制動力配分制御装置は、車両の前輪及び後輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前輪の車輪速度に基づき制御開始基準速度を設定する開始基準速度設定手段と、前記後輪の車輪速度が前記制御開始基準速度を下回ったときに、前後制動力配分制御を開始し、後輪の制動力の上昇を抑制する制御手段と、車両の制動中に前輪が路面外乱を通過したか否かを判定する路面外乱通過判定手段と、前記路面外乱通過判定手段が前輪が路面外乱を通過したと判定した場合に、前記制御開始基準速度を通常の場合に比べ高い値に変更する開始基準速度変更手段とを備えたものである。
【0016】
ここで、路面外乱とは、高低差のある段差、突起、悪路のみならず鉄製マンホールの蓋、走行路を横切るスレート製の蓋等、路面と車輪との間の摩擦係数が急激に変化する部分を意味する。
【0017】
請求項7の発明によれば、車両の制動中に前輪が路面外乱を通過したと判定した場合に、制御開始基準速度を通常の場合に比べ高い値に変更するので、車両の制動中に前輪が路面外乱を通過した際に、車両前方から後方に荷重が移動した後、後方から前方に荷重が移動した場合に、早期に制動力配分制御を開始でき、後輪の制動力の上昇を抑制できる。その結果、アンチスキッド制御の誤作動を回避でき、ピッチングの増大を防止できる。
【0018】
請求項7の発明において、請求項8の発明に示すように、前記前輪の車輪速度に基づき、前記後輪の制動力を減少させるための減少基準速度を設定する減少基準速度設定手段を備え、前記制動制御手段を、前記後輪の車輪速度が前記減少基準速度を下回ったときに後輪の制動力を減少するように構成し、前記路面外乱通過判定手段が前輪が路面外乱を通過したと判定した場合に、通常の場合に比べ前記減少基準速度を低い値に変更する減少基準速度変更手段を更に備えると、好ましい。
【0019】
この構成によれば、車両の制動中に路面外乱に起因して車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した後、路面外乱に起因して車両の後方から前方に荷重が移動しても、後輪制動力の減少を抑制でき、ピッチングの増大を防止できると共に後輪制動力を確保できる。特に、前輪が段差路面を通過した後に後輪が段差路面を通過する場合に効果は大きい。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係るブレーキ液圧制御装置の全体構成図である。
【0022】
同図に示すように、車両前方右側の車輪FR、前方左側の車輪FL、後方右側の車輪RR、後方左側の車輪RLには、夫々ホイールシリンダ21、22、23、24が装着されている。車輪FR及びRL用のホイールシリンダ21、24は、第1の液圧配管P1を介してタンデムマスタシリンダ11の一方の圧力室(図示せず)に接続され、車輪FL及びRR用のホイールシリンダ22、25は、第1の液圧配管P1とは液密的に分離された第2の液圧配管P2を介してマスタシリンダ11の他方の圧力室(図示せず)に接続され、所謂X配管(ダイアゴナル配管)を構成している。前輪FR及びFLは駆動輪であり、後輪RL、RRは従動輪であるが、本発明における駆動方式をこれに限定するものではない。
【0023】
マスタシリンダ11は、バキュームブースタ12を介してブレーキペダル14に連結され、マスタリザーバ13に接続されている。ブレーキペダル14の操作に応じてバキュームブースタ12を介してマスタシリンダ11が倍力駆動され、マスタリザーバ13内のブレーキ液が昇圧されて第1及び第2の液圧配管P1、P2にマスタシリンダ液圧が出力される。
【0024】
第1の液圧配管P1には、2つの常開型の2ポート2位置の電磁開閉弁33a及び34a、2つの常閉型の2ポート2位置の電磁開閉弁33b及び34b、補助リザーバ32a、液圧ポンプ31aなどが配設されている。開閉弁33a、34aは、夫々ホイールシリンダ21、24及びマスタシリンダ11間に配設され、開閉弁33b、34bは、夫々ホイールシリンダ21、24及び補助リザーバ32a間に配設されている。補助リザーバ32aは、マスタリザーバ13とは独立して設けられ、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、所定の容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。液圧ポンプ31aは、その吸入側が補助リザーバ32aに接続され、その吐出側が開閉弁33a、34a及びマスタシリンダ11間に接続されている。この液圧ポンプ31aは、電動モータ37によって駆動され、補助リザーバ32a内のブレーキ液を吸入し、開閉弁33a、34a及びマスタシリンダ11間に吐出する。
【0025】
一方、第2の液圧配管P2にも同様に、2つの常開型の2ポート2位置の電磁開閉弁35a及び36a、2つの常閉型の2ポート2位置の電磁開閉弁35b及び36b、補助リザーバ32b、液圧ポンプ31bなどが配設されている。開閉弁35a、36aは、夫々ホイールシリンダ22、23及びマスタシリンダ11間に配設され、開閉弁35b、36bは、夫々ホイールシリンダ22、23及び補助リザーバ32b間に配設されている。補助リザーバ32bも、マスタリザーバ13とは独立して設けられ、所定の容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。液圧ポンプ31bは、その吸入側が補助リザーバ32bに接続され、その吐出側が開閉弁35a、36a及びマスタシリンダ11間に接続されている。この液圧ポンプ31bも、電動モータ37によって駆動される。
【0026】
上述の開閉弁33a〜36a,33b〜36bは、各ホイールシリンダ21〜24のブレーキ液圧を個別に減圧、保持及び増圧するもので、液圧制御弁として機能する。
【0027】
車輪FR,FL,RR,RLには、夫々車輪速度センサ41〜44が配設され、これらが電子制御装置40に接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置40に入力されるように構成されている。
【0028】
電子制御装置40は、バスを介して相互に接続されたCPU47b、ROM47c、RAM47d、入力インターフェイス回路47f及び出力インタフェイス回路47g等から成るマイクロコンピュータ47を備えている。上記車輪速度センサ41〜44の出力信号は、増幅回路48a〜48dを介して夫々入力インターフェイス回路47fからCPU47bに入力されるように構成されている。また、出力インタフェイス回路47gからは駆動回路49a〜49iを介して電動モータ47及び開閉弁(液圧制御弁)33a〜36a,33b〜36bに夫々制御信号が出力されるように構成されている。
【0029】
マイクロコンピュータ47においては、ROM47cは図3乃至図6に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、CPU47bは図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、RAM47dは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。
【0030】
上記電動モータM、開閉弁(液圧制御弁)33a〜36a,33b〜36bは、前述の電子制御装置40によって駆動制御され、前後制動力配分制御が行われる。前後制動力配分制御は、ブレーキペダル操作時に前輪速度と後輪速度の差に応じて後輪の制動力を前輪の制動力に対し所定の関係に調整するもので、後輪の制動力の上昇を抑制することにより後輪の早期ロックを防止するものである。なお、電子制御装置40を、ブレーキペダル操作時に、車輪のロックを防止するように各車輪に付与する制動力を制御するアンチスキッド制御も実行するように構成しても良い。
【0031】
上記のように構成された本実施形態においては、イグニッションスイッチ(図示せず)が開成されると、図3乃至図6のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始する。
【0032】
図3はそのメインルーチンを示すもので、先ずステップ101にてマイクロコンピュータMCPが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102において、車輪速度センサ41〜44の検出信号に基づき、各車輪の車輪速度Vw**(**=前方右側車輪FR、前方左側車輪FL、後方右側車輪RR、後方左側車輪RL)が演算される。次いで、ステップ103にて、各車輪の車輪速度Vw**が微分されて各車輪の車輪加速度DVw**が演算される。ステップ104において、ステップ103で演算された前輪の車輪加速度DVwF*に基づき前輪が段差路面を通過したか否かが判定される(後述)。そして、ステップ105にて、制動力配分制御基準速度が設定される(後述)。
【0033】
次に、ステップ106において、制動力配分制御中か否かが判定され、制御中でなければ、ステップ107に進み、制動力配分制御の開始条件が成立しているか否かが判定される(後述)。開始条件が成立していれば、ステップ108に進み、前輪の車輪速度VwF*および後輪の車輪速度VwR*等に基づき、図7に示すマップに従い制御液圧モードがパルス減圧モード、保持モード及びパルス増圧モードの内の何れかに設定される。
【0034】
具体的には、後輪の車輪速度VwR*が保持基準速度でもある制御開始基準速度VES及び減圧開始基準速度VERと比較されると共に、後輪の車輪加速度DVwR*が第1基準加速度GS1及び第2基準加速度GS2(但、GS1,GS2:定数、GS2<GS1<0)と比較され、これらの比較結果に応じて液圧モードが設定される。ここで、制御開始基準速度VESは減圧開始基準速度VERよりも高い値に設定されている。例えば、後輪の車輪速度VwR*が減圧開始基準速度VERよりも高く制御開始基準速度VESよりも低い場合には、液圧モードが保持モードとされる。また、後輪の車輪速度VwR*が減圧開始基準速度VERよりも低い場合には、液圧モードがパルス減圧モードとされる。なお、上記制御開始基準速度VES及び減圧開始基準速度VERの設定方法については後述する。
【0035】
液圧モードが設定された後、ステップ109に進み、液圧モードがパルス減圧モードか否かが判定され、そうであればステップ110に進み、対応する後輪の液圧制御弁に対しパルス減圧信号が出力され、結果、後輪の制動力がパルス的に(緩やかに)減少する。ステップ109において、パルス減圧モードでないと判定されると、ステップ111に進み、液圧モードがパルス増圧モードか否か判定され、そうであればステップ112に進み、対応する後輪の液圧制御弁に対しパルス増圧信号が出力され、結果、後輪の制動力がパルス的に(緩やかに)増加する。更に、ステップ111において、パルス増圧モードでないと判定されると、ステップ113に進み、対応する後輪の液圧制御弁に対し保持信号が出力され、結果、後輪の制動力が保持される。なお、制動力配分制御の開始条件が成立すると、ポンプ31a,31bを駆動するモータ37に対し駆動信号が出力され、モータ37が起動する。
【0036】
一方、ステップ106において、制動力配分制御中であると判定されると、ステップ114に進み、制御終了条件が成立したか否かが判定される。この終了条件としては、後述するステップで演算される車体加速度DVsoが所定値(例えば−0.25G)を上回ること等である。終了条件を充足していれば、ステップ115に進み、対応する後輪の液圧制御弁に対し急増圧信号が出力され、制動力配分制御が終了され、通常ブレーキに移行する。
【0037】
なお、ステップ104〜115の制動力配分制御演算処理は、後輪RR、RLに対し個々に実行される。
【0038】
ステップ105でNOと判定された場合並びに、ステップ110、112、113及び115の処理後は、ステップ116に進む。ステップ116では、四輪全ての演算処理が完了したか否かが判定され、完了していればステップ117に進み、完了していなければ再びステップ102に戻る。ステップ117では、各車輪の車輪速度に基づき車両の重心位置における推定車体速度Vsoが演算される。そして、ステップ118にて、車両の重心位置における前後方向の車体加速度DVsoが重心位置での車体速度Vsoを微分することにより演算される。尚、前後加速度センサを設け、その検出信号を用いることとしても良い。
【0039】
次に、図4を参照して、図3のステップ106に示す開始条件判定の具体的内容を説明する。
【0040】
まず、ステップ201において、推定車体速度Vsoが所定速度Kvと比較され、所定速度Kv以上であれば、ステップ202に進み、車体加速度DVsoの変化量、即ち微分値dDVsoが所定値K1(>0)と比較される。車体加速度の変化量dDVsoの絶対値が所定値K1よりも小さければ(つまり、車体減速度の変化量がK1よりも小さければ)、ステップ203に進み、後述する所定減速度KDが第1の所定加速度KD1(<0)にセットされる。一方、車体加速度DVsoの変化量dDVsoの絶対値が所定値K1よりも大きければ(つまり、車体減速度の変化量がK1よりも大きければ)、急ブレーキ(ブレーキペダルの早踏込み)の傾向大と判断し、ステップ204に進み、所定減速度KDが第1の所定減速度KD1よりも大きな第2の所定加速度KD2(<0)にセットされる。
【0041】
ステップ203及び204の後、ステップ205に進み、図3のステップ103で演算された全車輪の車輪加速度DVw**が、ステップ203又は204でセットされた所定加速度KDと比較される。全車輪の車輪加速度DVw**が何れも所定加速度KDよりも小さければ、即ち、全車輪の車輪減速度が何れも所定減速度よりも大きければ、ステップ206に進む。後方右側車輪RR用の演算過程であれば、ステップ207にて後方右側車輪RRの車輪速度VwRRが後方右側車輪用の開始基準速度VESR(後述)と比較される。そして、後方右側車輪RRの車輪速度VwRRが後方右側車輪用の開始基準速度VESRよりも低ければ、ステップ208に進み、開始条件が成立して制動力配分制御の開始が許可され、高ければ開始条件不成立となり、図3のメインルーチンに戻る。一方、ステップ206において、後方左側車輪RL用の演算過程であれば、ステップ209にて後方左側車輪RLの車輪速度VwRLが後方左側車輪用の開始基準速度VESL(後述)と比較される。そして、後方左側車輪RLの車輪速度VwRLが後方左側車輪用の開始基準速度VESLよりも低ければ、ステップ208に進み開始条件が成立し、高ければ開始条件不成立となる。
【0042】
また、ステップ201において、推定車体速度Vsoが所定速度Kv未満のとき、並びに、4つの車輪加速度DVw**の内何れか1つでも所定加速度KDより大きいとき(即ち4つの車輪の車輪基準減速度の内何れか1つでも所定減速度より小さいとき)には、開始条件不成立となる。
【0043】
図5を参照して、図3のステップ104の前輪段差通過判定の具体的内容を説明する。
【0044】
先ずステップ301において、前輪の車輪加速度DVwFが負の第1所定加速度Gk1を下回ったか否か、即ち前輪の車輪減速度が所定値を越えたか否かが判定される。そうであれば、ステップ302にて急減フラグがオンされた後、ステップ303に進み、そうでなければそのままステップ303に進む。ここで、急減フラグは、前輪の車輪速度VwFの急激な落ち込みを示す。ステップ303では、急減フラグがオンか否かが判定され、オンであればステップ304に進み、タイマーTがインクリメントされる。次いで、ステップ305に進み、タイマーTが所定時間Tk未満か否かが判定され、そうであればステップ306に進み、前輪の車輪加速度DVwFが正の第2所定加速度Gk2を上回ったか否かが判定される。即ち、前輪加速度DVwFが負の第1所定加速度Gk1以下に低下した後、前輪速度が回復し前輪加速度DVwFが正の第2所定加速度Gk2を上回ったか否かが判定される。そうであれば、ステップ307に進み、前輪段差通過フラグがオンとされ、正の第2所定加速度Gk2を上回っていなければ、図3のメインルーチンに戻る。
【0045】
一方、ステップ305において、タイマーTが所定時間Tkを越えると、ステップ308に進みタイマーTがリセットされた後、ステップ309に進み急減フラグがオフとされると共に、ステップ310に進み前輪通過段差フラグがオフとされる。なお、ステップ303において、急減フラグがオフと判定された場合も、ステップ308〜310に進み、タイマーTがリセットされ、急減フラグがオフされ、前輪通過段差フラグがオフされる。
【0046】
このように、前輪加速度DVwFが負の第1所定加速度Gk1以下に低下した後、前輪速度が回復し前輪加速度DVwFが正の第2所定加速度Gk2を上回ったときに、前輪段差通過フラグがオンされ、前輪が段差を通過したと判定される。そして、前輪段差通過フラグのオン状態が所定時間Tk以上継続すると、前輪段差通過フラグがリセットされる。なお、図5に示す段差通過判定は、前輪FR,FL毎に個別に実行される。
【0047】
次に、図6を参照して、図3のステップ105に示す制御基準速度設定の具体的内容について説明する。
【0048】
先ずステップ401において、図7の液圧モードマップに示す各後輪RR,RL用の制御開始基準速度VES*が、対応する後輪と車両の左右方向同一側の前輪の車輪速度VwF*に基づき設定される。即ち、後方右側車輪用の制御開始基準速度VESRは、VESR=VwFR−ΔVES(VwFRは前方右側車輪FRの車輪速度、ΔVESは車体速度に基づいて定められた所定速度)として演算されると共に、後方左側車輪用の制御開始基準速度VESLは、VESL=VwFL−ΔVES(VwFLは前方左側車輪FLの車輪基準速度)として演算される。
【0049】
次いで、ステップ402に進み、図7の液圧モードマップに示す各後輪RR,RL用の減圧開始基準速度VER*が、対応する後輪と車両の左右方向同一側の前輪の車輪速度VwF*に基づき設定される。即ち、後方右側車輪用の減圧開始基準速度VERRは、VERR=VwFR−ΔVERとして演算されると共に、後方左側車輪用の制御開始基準速度VERLは、VERL=VwFL−ΔVERとして演算される。ここで、ΔVERは、車体速度に基づいて定められた所定速度で、ΔVESよりも大きい値に設定されている。
【0050】
次に、ステップ403に進み、前輪の少なくとも何れか1つの段差通過フラグがオンされているか否かが判定され、段差通過フラグがオンされていれば、ステップ404に進み、制御開始基準速度用および減圧開始基準速度用の補正値ΔVESA,ΔVERAが設定される。即ち、補正値ΔVESA,ΔVERAは、図8に示すように、車体加速度DVsoの関数として設定される。具体的には、制御開始基準速度用の補正値ΔVESAは、車体加速度DVsoが0以下で且つ負の所定加速度G1以上の区間は、車体加速度DVsoが減少(即ち車体減速度が増加)するに伴い0から正の所定速度V1までリニアに増加するように設定され、車体加速度DVsoが所定加速度G1以下のときには、所定速度V1に設定されている。また、減圧開始基準速度用の補正値ΔVERAは、車体加速度DVsoが0以下で且つ所定加速度G1以上の区間は、車体加速度DVsoが減少(即ち車体減速度が増加)するに伴い負の所定速度V2から負の所定速度V3まで(ただし、|V3|>|V2|>|V1|)リニアに減少するように設定され、車体加速度DVsoが負の所定加速度G1以下のときには、所定速度V3に設定されている。なお、車体加速度DVsoが正のとき(車両の加速中)には各補正値ΔVESA,ΔVERAは0とされる。
【0051】
最後に、ステップ405において、各後輪用の制御開始基準速度VES*がVES*=VES*+ΔVESAとして補正されると共に、各後輪用の減圧開始基準速度VER*がVER*=VER*+ΔVERAとして補正される。
【0052】
一方、ステップ403において前輪の何れも段差通過フラグがオフであれば、ステップ406に進み、各補正値ΔVESA,ΔVERAが0に設定された後、ステップ405に進む。つまり、前輪の何れも段差通過フラグがオフであれば、各基準速度VES*,VER*の補正は行なわれない。
【0053】
このように、少なくとも何れかの前輪が段差を通過したと判定された場合には、制御開始基準速度VES*が通常の場合よりも高い値に変更されると共に、減圧開始基準速度VER*が通常の場合よりも低い値に変更される。前輪が段差を乗り上げたときには前輪が浮き上がるため車両前方から後方に荷重が移動し、その後前輪が路面に接地すると車両後方から前方に荷重が移動する。上記実施形態では、このような状況下において、早期に制動力配分制御が開始されて後輪の制動力の上昇が抑制されると共に、減圧出力が実行され難くなる。従って、後輪に対する不要な減圧(即ちアンチスキッド制御の誤作動及び制動力配分制御の減圧)を防止でき、後輪制動力の変動に起因する車両のピッチングの増大を防止できる。
【0054】
また、段差通過フラグがオンからオフに切り換わった場合には、制御開始基準速度VES*および減圧開始基準速度VER*の補正値は0とされる。
【0055】
図9は、前輪段差通過後の制動力配分制御を示すタイミングチャートである。最上段は車体速度Vsoの変化を、第2段は前輪(代表輪)の車輪速度VwFの変化を、第3段は後輪(代表輪)の車輪速度VwR及び各基準速度VES,VERの変化を、第4段は前輪段差通過フラグの状態を、第5段は前輪のホイールシリンダ液圧の変化を、第6段は後輪のホイールシリンダ液圧の変化を、最終段は後輪荷重の変化をそれぞれ示す。なお、実線は本実施形態を、点線は従来技術をそれぞれ示す。
【0056】
先ず前輪が段差を乗り上げ前輪が浮き上がると、車両前方から後方に荷重が移動し、t0において前輪に対しアンチスキッド制御が開始され、前輪のホイールシリンダ液圧が減圧される。前輪が接地し始めると、前輪の車輪速度VwFが回復し、t1において前輪段差通過フラグがオンとされる。これに応答して、制御開始基準速度VESが正の補正値ΔVESだけ高い値に変更されると共に、減圧開始基準速度VERが補正値ΔVERの絶対値|ΔVER|だけ低い値に変更される。
【0057】
また、前輪が接地すると、後輪荷重が減少し車両後方から前方に荷重が移動していく。すると、後輪の車輪速度VwRが急激に落ち込み、t2において後輪の車輪速度VwRが補正された制御開始基準速度VESを下回る。その結果、後輪に対し即座に制動力配分制御が開始され、後輪のホイールシリンダ液圧が保持又はパルス増圧される。このように、早期に制動力配分制御が開始されるため、後輪の車輪速度の落ち込み量が低減され、後輪に対するアンチスキッド制御の誤作動及び/又は制動力配分制御の減圧を低減できる。これにより、後輪のホイールシリンダの液圧変動に起因する後輪の荷重変動、ひいては車両のピッチングが極力抑えられる。
【0058】
本実施形態では、図示するように、減圧開始基準速度VERが低い値に補正されているため、前輪が接地した後後輪が段差を乗り上げても、後輪の車輪速度VwRが減圧開始基準速度VERを下回らず、結果、後輪のホイールシリンダ液圧の減圧が抑制される。これに対し、減圧開始基準速度VERを補正しないと、t24において後輪の車輪速度VwRが減圧開始基準速度を下回るため、後輪のホイールシリンダ液圧が減圧される。この後輪のホイールシリンダの液圧変動により、後輪の荷重変動が助長され、車両のピッチングが増大する。
【0059】
最後に、前輪段差通過フラグがオフとされると(t3)、制御開始基準速度VES及び減圧開始基準速度VERの補正が解除される。
【0060】
以下、制御開始基準速度VES及び減圧開始基準速度VERを補正しない場合(従来技術)について説明する。
【0061】
前輪が段差を乗り上げた後路面に接地し、車両後方から前方に急激に荷重が移動すると、t21において後輪の車輪速度VwRが制御開始基準速度を下回り、本実施形態(t2)よりも遅いタイミングで、制動力配分制御が開始される。そのため、本実施形態に比べ、後輪の車輪速度VwRの落ち込み量が大きくなり、t22において後輪の車輪速度VwRが減圧開始基準速度を下回り、結果、制動力配分制御により後輪のホイールシリンダ液圧が減圧される。その後、t23において後輪の車輪速度VwRがアンチスキッド制御の開始基準速度を下回ると、アンチスキッド制御が開始される。このように、従来技術では、後輪のホイールシリンダ液圧の変動が大きいため、点線で示す如く、後輪の荷重変動が助長され、ピッチングが増大する恐れがある。
【0062】
その後、後輪が段差を通過すると、t25において後輪の車輪速度VwRがアンチスキッド制御の減圧開始基準速度を下回り、後輪のホイールシリンダ液圧が減圧される。このため、車両の前後方向への荷重移動量が大きくなり、後輪の荷重変動が更に助長されて大きくなる。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、車両の制動中に車両前後方向への荷重移動により後輪荷重が変動した場合に、後輪に対するアンチスキッド制御の誤作動を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るブレーキ液圧制御装置の全体構成図である。
【図2】図1の電子制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態における制動力配分制御の全体の流れを示すフローチャートである。
【図4】制動力配分制御の開始条件判定の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図3の前輪段差通過判定の詳細を示すフローチャートでる。
【図6】図3の制御基準速度設定の詳細を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態における制御液圧モードを示すマップである。
【図8】本実施形態に係る制御基準速度の補正値と車体加速度との関係を示すグラフである。
【図9】本実施形態に係る前輪段差通過後の制動力配分制御を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
FR,FL,RR,RL 車輪
21,22,23,24 ホイールシリンダ
14 ブレーキペダル
11 タンデムマスタシリンダ(液圧発生装置)
33a〜36a 電磁開閉弁(液圧制御弁)
33b〜36b 電磁開閉弁(液圧制御弁)
41〜44 車輪速度センサ(車輪速度検出手段)
40 電子制御装置
Claims (8)
- 車両の前輪及び後輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前記前輪と後輪の車輪速度を比較し、その比較結果に応じて後輪の制動力を前輪の制動力に対し所定の関係となるように調整し前後制動力配分制御を実行する制動制御手段とを備えた制動力配分制御装置において、
車両の制動中に車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出する荷重移動検出手段と、
前記荷重移動検出手段が車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した場合には、前記前後制動力配分制御を通常の場合に比べ開始し易くする制御開始変更手段とを備えることを特徴とする制動力配分制御装置。 - 請求項1において、
前記制御開始変更手段は、前記荷重移動検出手段が車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した場合に、前記前後制動力配分制御の開始基準を制御が開始し易くなるように変更するように構成されていることを特徴とする制動力配分制御装置。 - 請求項1において、
前記制動制御手段は、前記前輪と後輪の車輪速度の比較結果に応じて後輪の制動力をパルス的に増加又は保持又は減少するように構成され、
前記荷重移動検出手段が車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出した場合には、通常の場合に比べ、前記制動制御手段による後輪の制動力の減少をさせ難くする減少抑制手段を更に備えることを特徴とする制動力配分制御装置。 - 請求項3において、
前記前輪の車輪速度に基づき、前記後輪の制動力の減少を開始するための減少基準値を設定する減少基準値設定手段を備え、
前記減少抑制手段は、前記減少基準値設定手段が設定した減少基準値を後輪の制動力を減少し難くするように変更することを特徴とする制動力配分制御装置。 - 請求項1において、
前記荷重移動検出手段は、前輪の車輪速度の変動に基づき前輪が段差路面を通過したことを判定することにより、車両の前方から後方に荷重が移動したことを検出することを特徴とする制動力配分制御装置。 - 請求項1において、
液圧を発生する液圧発生装置と、各車輪に装着され制動力を付与するホイールシリンダと、各ホイールシリンダ及び前記液圧発生装置間を接続する液圧路と、前記液圧路に配設され各ホイールシリンダのブレーキ液圧を調整する液圧制御弁とを更に備え、前記制動制御手段は、後輪用の前記液圧制御弁を制御し、後輪のホイールシリンダのブレーキ液圧を前輪のホイールシリンダのブレーキ液圧に対し所定の関係となるように調整するように構成されている制動力配分制御装置。 - 車両の前輪及び後輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、
前輪の車輪速度に基づき制御開始基準速度を設定する開始基準速度設定手段と、
前記後輪の車輪速度が前記制御開始基準速度を下回ったときに、前後制動力配分制御を開始し、後輪の制動力の上昇を抑制する制御手段と、
車両の制動中に前輪が路面外乱を通過したか否かを判定する路面外乱通過判定手段と、
前記路面外乱通過判定手段が前輪が路面外乱を通過したと判定した場合に、前記制御開始基準速度を通常の場合に比べ高い値に変更する開始基準速度変更手段とを備える制動力配分制御装置。 - 請求項7において、
前記前輪の車輪速度に基づき、前記後輪の制動力を減少させるための減少基準速度を設定する減少基準速度設定手段を備え、前記制御手段は、前記後輪の車輪速度が前記減少基準速度を下回ったときに後輪の制動力を減少するように構成され、
前記路面外乱通過判定手段が前輪が路面外乱を通過したと判定した場合に、通常の場合に比べ前記減少基準速度を低い値に変更する減少基準速度変更手段を更に備えたことを特徴とする制動力配分制御装置。
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