JP4289931B2 - 化学強化ガラスの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化学強化ガラス、特にタッチパネル等に使用される電子材料分野、自動車用および建築用などの分野に有用な化学強化ガラス及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
省資源・省エネルギーの観点あるいは社会的なニーズの変化から、強化ガラスの薄板化や強化度アップが進んでいる。一般的に用いられている風冷強化法では、3mm以下、特に2mm以下の板厚をもったガラスの生産が難しいことから、2mm以下のガラスでは、化学強化法が多く用いられている。また、化学強化ガラスは一般的に風冷法による強化ガラスよりも高い強度を得ることができるというメリットもある。
【0003】
化学強化ガラスの製造方法としては、種々の方法が考えられている。例えば、小さなイオン半径の原子を大きなイオン半径の原子に置き換える方法、ガラスの粘性流動を利用して大きなイオン半径の原子を小さなイオン半径の原子に置き換える方法、熱膨張率の差を利用する方法、結晶を晶出させる方法、上述の方法を組み合わせる方法など、多くの方法がある。
【0004】
一般に、ソーダ・ライム系ガラスでは小さなイオン半径の原子を大きなイオン半径の原子に置き換える方法が数多く用いられ、その中でも、多くの化学強化ガラスは化学強化処理槽中に浸漬する、いわゆる浸漬法で製造されている。すなわち、ガラスを高温の化学強化処理液、例えば硝酸カリウム溶液中に浸積し、ガラス中のナトリウムイオンを硝酸カリウム中のカリウムイオンと置換することにより、表層に圧縮応力層を形成する。また、ガラス中にリチウムを含む場合の化学強化処理液としては、硝酸ナトリウム、または硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合塩が多用される。
【0005】
化学強化ガラスが市場に多く受け入れられている理由として、前述した薄板ガラスでの強化性や高強度化に加え、強化ガラスでも切断可能であることがあげられる。風冷強化ガラスでは、切断しようとしてクラックを導入すると、粉々割れてしまうので、切断はできない。
【0006】
公知技術をみれば、例えば、切断したガラスを化学強化として使用することが(例えば、特許文献1参照)が、切断条件の重要な因子である表面応力の測定技術(例えば、特許文献2参照)が開示されている。また、ハードディスクドライブの化学強化に関する工程
1)予備加熱槽での予備加熱(0.5〜2時間程度かけて380〜500℃に昇温)
2)硝酸カリウム又は硝酸ナトリウムの溶融塩溶液での化学強化処理(0.5〜6時間程度)
3)送風冷却槽での冷却(5〜25m3/分の冷却風で面内温度差が5℃以内で溶融塩溶液の融点以下たる室温まで強制冷却)
が詳細に述べられている例(例えば、特許文献3参照)もある。さらには、2つの処理槽を使って着色と化学強化の両方を行う方法が開示(例えば、特許文献4参照)されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2002-160932号公報
【特許文献2】
特公昭59-37451号公報
【特許文献3】
特開2000-344550号公報
【特許文献4】
特開昭46-1329号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
化学強化ガラスは切断可能とされている。しかし、切断可能といっても、この切断は非常に難しい技術であり、生産時の歩留低下の主因となっているし、製品となった後も切断不良による破壊の問題などが発生している。
【0009】
例えば、タッチパネル等に使用される化学強化した薄板ガラスにおいて、大板の化学強化ガラスから複数枚採りを行うことにより生産性アップを試みている。しかし、ホイールチップ方式の切断機でスクライブするとき、分断時にスクライブ線に沿って分割されず、スクライブ線から外れて分割されるという問題が数多く生じている。このため、複数採りのメリットが当初の予定とは異なった結果となっている場合が多い。また、スクライブされた化学強化ガラスを使ったパネルが、市場に出した後に想定荷重よりも小さな値でも破壊するという問題も発生している。
【0010】
このように、現実的には、化学強化ガラスの切断については、技術的に確立されているとは言えない状況にある。
【0011】
すなわち、特開2002-160932号公報の中で切断したガラスを化学強化として使用することが述べられているが、化学強化ガラスの切断方法を述べているわけではない。また、特公昭59-37451号公報の手法は表面応力の測定技術については知ることはできても、ガラスの切断につながる技術については示されていない。さらに、特開2000-344550号公報で示された化学強化方法は、直径60〜100mmのハードディスクドライブを化学強化する場合であり、切断性などについては述べられていない。また、特開昭46-1329号公報は銀を使った着色と化学強化を2つの浴槽を使って行う方法であり、化学強化ガラスの切断性は述べられていない。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、イオン交換することによりガラス表層に圧縮応力層を形成させた化学強化ガラスにおいて、イオン交換のための第1段の浸漬処理後に、第1段の浸漬液温度よりも20℃以上50℃以下の高い温度かつ10分間以上60分間以下の第2の浸漬処理する化学強化ガラスの製造方法である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、イオン交換することによりガラス表層に圧縮応力層を形成させた化学強化ガラスにおいて、イオン交換のための第1段の浸漬処理後に、第1段の浸漬液温度よりも20℃以上50℃以下の高い温度かつ10分間以上60分間以下の第2の浸漬処理する化学強化ガラスの製造方法である。第2の浸漬液温度を第1の浸漬液温度よりも20℃以上50℃以下の高い温度としたのは、20℃未満であると得られる化学強化ガラスの切断性が下がり、50℃を越える温度では得られる化学強化ガラスの強度が下がるからである。さらに、イオン交換液の劣化にもつながるという問題も発生してくる。
【0017】
また、第2の浸漬処理の時間を10分間以上60分間以下としたのは、10分未満では得られる化学強化ガラスの切断性は下がり、60分以上では得られる化学強化ガラスの強度が下がるからである。
【0018】
また、第1段の浸漬処理温度を450℃以上510℃以下とする必要がある。450℃未満では得られる化学強化ガラスの切断性を改善しにくく、製造に時間を要すため生産性が極めて悪くなるためである。510℃を越えると得られる化学強化ガラスの強度が小さくなるという問題が発生する。
【0019】
さらに、上記の方法で製造された化学強化ガラスである。この化学強化ガラスは、従来の化学強化ガラスの強度とほぼ同等の強さを持ちながら、一方では良好な切断性も同時に示す特徴がある。
【0020】
さらにまた、化学強化ガラスの表面硬度が560〜590kgf/cm2にある化学強化ガラスである。従来の方法で製造されたソーダ石灰系化学強化ガラスの表面硬度は、590〜610kgf/cm2にあるといわれている。しかし、本発明による化学強化ガラスは、その表面硬度が560〜590kgf/cm2にある。
590kgf/cm2を越えると、従来の化学強化ガラスと同様であり、切断性は悪く、ときには切断できない場合もある。また、切断できたとしても、希望する切断線からはずれることがあり、また表面にガラス粉が多発する傾向にある。一方、その表面硬度が560kgf/cm2よりも小さな化学強化ガラスは、強度が小さい傾向にある。なお、硬度測定は市販の微小硬度計で良いが、その負荷量を小さな値、例えば50g以下とする必要がある。一般的なソーダ石灰系ガラスの硬度測定に用いられる200〜1000gの負荷は、その判断を誤る必要があるので、注意が必要である。
【0021】
さらにまた、歪点が470℃以上530℃以下のソーダ石灰ガラスをイオン交換処理された上記の化学強化ガラスである。歪点が470℃よりも低いソーダ石灰ガラスは化学的耐久性や硬度が低いので、化学強化ガラスとしての実用性が大きく下がる。一方、歪点が530℃よりも高いソーダ石灰ガラスはガラスの切断性が下がり、化学強化性も下がる。また、ソーダ石灰ガラス以外のガラスは、生産性が悪いため高価なので、切断性と強度があっても実用性は小さい。
【0022】
本発明の化学強化ガラスが従来の化学強化ガラスとほぼ同等の強度があり、かつ切断性もあるという特徴をもつ。これは、従来の化学強化ガラスと異なり、Fickの法則のみには依存しない応力パターンになっているためである。
【0023】
【実施例】
以下、実施例に基づき、述べる。
(実施例1)
厚さ0.7mmのソーダ石灰系フロートガラスを460℃の硝酸カリウム溶融塩に10時間浸漬して第1の化学強化(イオン交換)処理を行った後、510℃の浸漬液温度で60分間第2のイオン交換処理を行った。その直後、500℃に設定した冷却槽に化学強化ガラスを移動し、さらにその中で60分間保持した。その後は、通常に行われている冷却速度(約10℃/min)で冷却し、所定の化学強化ガラス製品を得た。なお、この化学強化ガラス製品の表面硬度は、565kgf/cm2であった。
【0024】
この化学強化ガラスを市販の超硬製ホイールチップを用い、一般の切断作業に準ずるスクライブ(負荷重量:2kg)および分断テストを行ったところ、問題なく切断することができた。
所定の化学強化ガラスを得た。
【0025】
(実施例2)
厚さ0.55mmのソーダ石灰系フロートガラスを470℃の硝酸カリウム溶融塩に4時間浸漬して第1の化学強化(イオン交換)処理を行った後、510℃の浸漬液温度で20分間第2のイオン交換処理を行った。その直後、500℃に設定した冷却槽に化学強化ガラスを移動し、さらにその中で20分間保持した。その後は、通常に行われている冷却速度(約10℃/min)で冷却し、所定の化学強化ガラス製品を得た。なお、この化学強化ガラス製品の表面硬度は、580kgf/cm2であった。
【0026】
この化学強化ガラスを市販の超硬製ホイールチップを用い、一般の切断作業に準ずるスクライブ(負荷重量:2kg)および分断テストを行ったところ、問題なく切断することができた。
【0027】
(実施例3)
厚さ1.1mmのソーダ石灰系フロートガラスを505℃の硝酸カリウム溶融塩に1時間浸漬して第1の化学強化(イオン交換)処理を行った後、525℃の浸漬液温度で10分間第2のイオン交換処理を行った。その直後、500℃に設定した冷却槽に化学強化ガラスを移動し、さらにその中で3分間保持した。その後は、通常に行われている冷却速度(約10℃/min)で冷却し、所定の化学強化ガラス製品を得た。なお、この化学強化ガラス製品の表面硬度は、585kgf/cm2であった。
【0028】
この化学強化ガラスを市販の超硬製ホイールチップを用い、一般の切断作業に準ずるスクライブ(負荷重量:2kg)および分断テストを行ったところ、少しガラス上ですべるような感触があったが、最終的には問題なく切断することができた。
【0029】
(比較例1)
厚さ0.7mmのソーダ石灰系フロートガラスを460℃の硝酸カリウム溶融塩に10時間浸漬して化学強化(イオン交換)処理を行なった後、すぐに冷却工程に入れて化学強化ガラスを製造した。
【0030】
この化学強化ガラスを市販の超硬製ホイールチップを用いてスクライブし、分断するテストを行ったところ、スリップが顕著であった。そこで、切断圧を強くして検討したところ、スクライブ線から線状の多くのガラス粉が発生し、化学強化ガラス製品として使用することはできなかった。また、スクライブ線に沿って分断できない場合もあった。
【0031】
(比較例2)
厚さ0.55mmのソーダ石灰系フロートガラスを470℃の硝酸カリウム溶融塩に4時間浸漬して化学強化(イオン交換)処理を行った後、すぐに冷却工程に入れて化学強化ガラス
を製造した。
【0032】
この化学強化ガラスを市販の超硬製ホイールチップを用いてスクライブし、分断するテストを行ったところ、スリップが顕著であった。そこで、切断圧を強くして検討したところ、この化学強化ガラスは破壊してしまった。
【0033】
(比較例3)
厚さ1.1mmのアルミノホウ酸系ガラスを460℃の硝酸カリウム溶融塩に10時間浸漬して化学強化(イオン交換)処理を行なった後、すぐに冷却工程に入れて化学強化ガラスを製造した。
【0034】
この化学強化ガラスを市販の超硬製ホイールチップを用いてスクライブし、分断するテストを行ったところ、スリップが顕著であった。そこで、切断圧を強くして検討したが、この化学強化ガラスをスクライブ線に沿って切断することはできなかった。
【0035】
以上の結果から示されるように、本発明の工程をイオン交換工程後に付加することにより、切断しやすい化学強化ガラスを得ることができた。
【0036】
【発明の効果】
これまで、困難とされてきた化学強化ガラスの切断が安定してできるようになった。
Claims (2)
- イオン交換することによりガラス表層に圧縮応力層を形成させる化学強化ガラスの製造方法において、イオン交換のための浸漬処理後にその浸漬液温度よりも20℃以上50℃以下の高い温度で10分間以上60分間以下の第2の浸漬処理することを特徴とする化学強化ガラスの製造方法。
- 第1段の浸漬液温度を450℃以上510℃以下とすることを特徴する請求項1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
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