JP4289859B2 - 電子写真感光体、それを有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電子写真感光体、該電子写真感光体を備えた電子写真装置並びにファクシミリに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子写真感光体で用いる光導電材料としてはセレン、酸化亜鉛及びカドミウム等を主成分とする感光層を有する無機感光体が広く用いられてきた。これ等はある程度の感光体としての基礎特性は備えているが、成膜が困難である、可塑性が悪い、製造コストが高い等の問題がある。更に無機光導電材料は一般的に毒性が強く、製造上並びに取り扱い上にも大きな制約があった。
【0003】
一方、有機光導電材料を主成分とする感光体は、無機感光体の上記欠点を補う等多くの利点を有し、近年注目を集めており、これまで数多くの提案がされ、かつ、実用化されてきている。このような有機感光体としては、電荷発生機能と電荷輸送機能とをそれぞれ別々の物質に分担させた機能分離型電子写真感光体が、感度や耐久性の面で改善をもたらせた。このような機能分離型感光体は、電荷発生物質と電荷輸送物質の材料選択の範囲が広く、任意の特性を有する電子写真感光体を比較的容易に作成できるという利点を有している。
【0004】
しかし、これ等機能分離型の感光体は、その殆どが電荷発生層上に電荷輸送層をこの順に積層する型の感光体であり、この構成の感光体の殆どは、負帯電プロセスで用いられる。このような構成を採る理由は、高速電子写真プロセスにおいても十分な電荷移動度を持つ有機材料が、これまで殆どの場合、正孔輸送の性質のみを有する正孔輸送材料に限られ、また、静電的特性の疲労現象を極力抑え、かつ、プロセスに供された状態で感光体の機械的強度を十分保持させるには、電荷発生と電荷移動との機能を層ごとに分けた機能分離型構成とし、正孔輸送性の有機材料を有する電荷輸送層を表面に配した積層構造の感光体がもっとも合理的とされていたためである。しかしながら、このような機能分離型の電子写真感光体は新たな問題を生じさせているのが現状である。
【0005】
その問題の一つとして負帯電で使用される有機感光体を用いた電子写真装置では、帯電に伴うオゾンの発生量が多く、このために環境を汚染したり、感光体が酸化されて劣化したりする恐れがあり、これを防ぐために、オゾンを発生させないシステムや、装置内のオゾンを回収するシステム等を必要とし、プロセスやシステムが複雑化するという欠点がある。
【0006】
そこで、帯電時オゾン発生量が少ない正帯電用感光体の研究・開発が近年活発に行われて来た。例えば、一つの層中に電荷発生材料と正孔輸送材料を結着樹脂中に分散し形成した単層構成の感光体や、一つの層中に電荷発生材料、正孔輸送材料及び電子輸送材料を結着樹脂中に分散し形成した単層感光体が近年数多く提案されつつある。(例えば、特許文献1乃至特許文献11参照。)
【0007】
しかしながら、前記の正帯電用感光体は、帯電時の電気的衝撃により絶縁破壊が起き、白ポチや黒ポチ等の画像欠陥が生じ易く、かつ、分散層が表面層を形成している為、機械的耐磨耗性に乏しい等の欠点が有る。尚、これを防止する為、感光体上に保護層を設けることが考えられるが、この場合には繰り返し像形成の過程で残留電位が増大して地かぶりが発生し、かつ、電子写真性能が劣化し易い問題が起きる。
【0008】
そこで、近年になって、トリアリールアミン等の正孔輸送物質が有するキャリア移動能には及ばないながらも、ある程度のキャリア移動能を有する電子輸送物質が開発され、このような電子輸送物質を用いた正帯電型の積層構成の電子写真感光体が提案されている。(例えば、特許文献12乃至特許文献21参照。)
【0009】
しかしながら、上記積層型感光体でも、電子輸送材料のキヤリヤ移動が十分ではなく感度が悪かったり、それに起因した繰り返し使用時での残留電位の変動が大きかったりとの問題を生じている。それを補う為に、電子輸送材料の量を多くしようとすると結着樹脂との相溶性が悪く析出してしまったり、また量を増やせたとしても今度は耐久性(表面層の磨耗や傷発生)が著しく低下したりしてしまう。この様に電子輸送材料を用いた積層型電子写真感光体は感度、電位特性または耐久性等のいずれかの問題を少なからず抱えておりいまだ実用化されていないのが現状である。
【0010】
更に、上記問題を解決すべく電子輸送化合物をポリマー化して使用する方法も近年提案されてきている。(例えば、特許文献22乃至特許文献24参照。)
【0011】
しかしながら、前記構成の感光体でも、機械的強度がいまだ十分ではなかったり、繰り返し使用時での電位変動が大きかったり、また感度が悪かったりと、少なからず大きな問題を抱えており、近年の高速化/高画質化の要求に応えられる電子写真感光体が得られていないのが現状であり、改善の必要がある。
【0012】
【特許文献1】
特開昭61−48861号公報
【特許文献2】
特開平2−37354号公報
【特許文献3】
特開平3−290666号公報
【特許文献4】
特開平4−338760号公報
【特許文献5】
特開平5−992号公報
【特許文献6】
特開平6−123984号公報
【特許文献7】
特開平6−123985号公報
【特許文献8】
特開平6−130688号公報
【特許文献9】
特開平6−27693号公報
【特許文献10】
特開平8−334910号公報
【特許文献11】
特開平11−65141号公報
【特許文献12】
特開昭60−69657号公報
【特許文献13】
特開昭61−233750号公報
【特許文献14】
特開平3−256050号公報
【特許文献15】
特開平4−285670号公報
【特許文献16】
特開平4−327555号公報
【特許文献17】
特開平6−43673号公報
【特許文献18】
特開平6−26612号公報
【特許文献19】
特開平6−273952号公報
【特許文献20】
特開平8−248653号公報
【特許文献21】
特開平10−10760号公報
【特許文献22】
特開平8−134019号公報
【特許文献23】
特開平9−194535号公報
【特許文献24】
特開平11−119458号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来技術における上記問題点を解決する為に成されたものである。すなわち第一に、高い電子輸送能を有し、機械的/化学的に極めて安定な高耐久な電子輸送膜を形成し、耐磨耗性および耐傷性を向上させ、かつ耐析出性が良好な正帯電で使用可能な電子写真感光体を提供することにある。
【0014】
第二に、繰り返し使用時における電位変動が極めて小さく、繰り返し使用時にも安定した性能を発揮することができる正帯電で使用可能な電子写真感光体を提供することにある。
【0015】
第三に、感光体の表面摩耗性及び耐傷性が向上し、長寿命で高画質な正帯電で使用可能な電子写真感光体、及び該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において該感光層が、下記一般式(1)で示され、且つ、参照電極SCE(飽和カルメロ電極)に対する還元電位(電子親和力Eaに対応)の値が−0.2Vから−1.2Vである同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する電子輸送性化合物を電子線により重合あるいは架橋し硬化したものを含むことを特徴とする電子写真感光体が前述の課題を解決するものであることを見いだした。
【0017】
【化7】
【0018】
[(式中、Aは電子輸送性基を示し;P 1 及びP 2 は、下記式(7)で示されるアクリロイルオキシ基又は(8)で示されるメタクリロイルオキシ基
【0019】
【化8】
【0020】
のいずれかの連鎖重合性官能基を示し;P 1 とP 2 は同一でも異なってもよく;Zは置換基を有してもよい有機基を示し;a、b及びdは0又は1以上の整数を示し、a+b×dは2以上の整数を示し;また、aが2以上の場合P 1 は同一でも異なってもよく、dが2以上の場合P 2 は同一でも異なってもよく、またbが2以上の場合、Z及びP 2 は同一でも異なってもよい。)
また、上記AのP 1 及びZとの結合部位を水素原子に置き換えた電子輸性化合物が、下記一般式(A−2)、(A−7)又は(A−11)
【0021】
【化9】
【0022】
(式中、R 1 、R 2 は水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、エステル基、シアノ基、ニトロ基、アミド基、スルホン基、スルホンアミド基、ヒドロキシ基、アルデヒド基またはハロゲン原子を示し、m≧0、n≧0であり、m≧2のときR 1 は互いに異なっていてもよく、n≧2のときR 2 は互いに異なってもよく、R 3 ,R 4 は置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基またはエステル基を示し、
Q 1 ,Q 2 は、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、C(CN) 2 、CR 5 CN、CY 2 (Yはハロゲン原子)、C(COOR 6 ) 2 、CR 7 COOR 8 、NR 9 またはNCNのいずれかを表し、{但し、R 5 、R 6 、R 7 、R 8 、R 9 はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、または置換基を有してもよいアリール基のいずれかを示す。}、また上記式中の
【0023】
【化10】
【0024】
は置換基を有してもよいアリール環を示す。)
のいずれかで示される。]。
【0025】
また本発明によれば、上記電子写真感光体有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置が提供される。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の詳細を説明する。
【0027】
まず、本発明における連鎖重合性官能基について説明する。本発明における連鎖重合とは、高分子物の生成反応を大きく連鎖重合と逐次重合に分けた場合の前者の重合反応形態を示し、詳しくは例えば技報堂出版 三羽忠広著の「基礎 合成樹脂の化学(新版)」1995年7月25日(1版8刷)P.24に説明されているように、その形態が主にラジカルあるいはイオンをなどの中間体を経由して反応が進行する不飽和重合、開環重合そして異性化重合などのことをいう。前記式(1)における連鎖重合性官能基Pとは、前述の反応形態が可能な官能基を意味するが、ここではその大半を占め応用範囲の広い不飽和重合あるいは開環重合性官能基の具体例を示す。
【0028】
不飽和重合とは、ラジカル、イオンなどによって不飽和基、例えばC=C、C≡C、C=O、C=N、C≡Nなどが重合する反応であるが、主にはC=Cによる場合が大部分である。不飽和重合性官能基の具体例を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
開環重合とは、炭素環、オクソ環、窒素ヘテロ環などのひずみを有した不安定な環状構造が触媒の作用で活性化され、開環すると同時に重合を繰り返し鎖状高分子物を生成する反応であるが、この場合基本的にはイオンが活性種として作用するものが大部分である。該開環重合性官能基の具体例を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表1及び表2中、Rは置換基を有しても良いメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基、置換基を有しても良いベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基及びチエニル基等のアラルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、ナフチル基及びアンスリル基等のアリール基又は水素原子を示す。
【0033】
上記で説明したような連鎖重合性官能基の中でも、本発明に係わる連鎖重合性官能基は、下記式(7)のアクリロイルオキシ基および下記式(8)のメタクリロイルオキシ基から選択された基である。
【0034】
【化11】
【0035】
本発明で「連鎖重合性官能基を有する電子輸送性化合物」とは、上記で説明した連鎖重合性基が上記で説明した電子輸送性化合物に官能基として少なくとも2つ以上化学結合している化合物を示す。この場合それらの連鎖重合性官能基はすべて同一でも異なったものであってもよい。
【0036】
それらの連鎖重合性官能基を少なくとも2つ有する電子輸送性化合物としては下記の一般式(1)である。
【0037】
【化12】
【0038】
式中、Aは電子輸送性基を示し;P1及びP2は、下記式(7)又は(8)
【0039】
【化13】
【0040】
のいずれかの連鎖重合性官能基を示し;P1とP2は同一でも異なってもよく;Zは置換基を有してもよい有機基を示し;a、b及びdは0以上の整数を示し、a+b×dは2以上の整数を示し;また、aが2以上の場合P1は同一でも異なってもよく、dが2以上の場合はP2は同一でも異なってもよく、またbが2以上の場合、Z及びP2は同一でも異なってもよい。
【0041】
尚ここで、「aが2以上の場合P1は同一でも異なってもよく」とは、それぞれ異なるn種類の連鎖重合性官能基をP11,P12,P13,P14,P15・・・・P1nと示した場合、例えばa=3のとき電子輸送性化合物Aに直接結合する重合性官能基P1は3つとも同じものでも、2つ同じで1つは違うもの(例えば、P11とP11とP12とか)でも良いということを意味するものである(「dが2以上の場合P2は同一でも異なってもよく」というのも、「bが2以上の場合、Zは同一でも異なってもよい」というのもこれと同様な事を意味するものである)。
【0042】
上記一般式(1)連鎖重合性官能基を2つ以上有する電子輸送化合物は、還元電位(電子親和力Eaに対応)の値が参照電極SCE(飽和カルメロ電極)に対して−0.2(V)から−1.2(V)であるものが好ましく、特に好ましくは−0.2(V)から−0.8(V)であるものが好ましい。
【0043】
それは、還元電位が−1.2(V)を越えると電荷発生材料からの電荷(電子)の注入が起こりにくくなり残留電位の上昇、感度悪化及び繰り返し使用時の電位変動が大きくなる等の問題が生じ、また−0.2(V)未満では帯電能低下等の問題が生じ易くなる為である。
【0044】
尚、ここで述べている還元電位は、以下の方法によって測定される。
【0045】
(還元電位の測定法)
飽和カロメル電極を参照電極とし、電解液に0.1N(n−C4H9)4N+ClO4 −ジクロロメタン溶液を用い、ポテンシャルスイーパによって作用電極(白金)に印加する電位をスイープし得られた電流―電位曲線がピークを示したときの電位を酸化電位とした。詳しくは、サンプルを0.1N(n−C4H9)4N+ClO4 −ジクロロメタン溶液に1mmol%程度の濃度になるように溶解する。そしてこのサンプル溶液に作用電極によって電圧を加え、電圧を0(V)から−1.5(V)に直線的に変化させ(この電流―電位曲線において電流値がピークを示したピークトップの位置の電位をE1)更に、−1.5(V)から0(V)に直線的に変化させた時の電流変化を測定し(この電流―電位曲線において電流値がピークを示したピークトップの位置の電位をE2)電流−電位曲線を得る。この得られたE1+E2/2をここでの還元電位とした。尚、ピークが複数ある場合には、0(V)に最も近い第1還元ピークをそれぞれE1及びE2とした。
【0046】
上記一般式(1)のAのP1及びZとの結合部位を水素原子に置き換えた電子輸送化合物として、下記一般式(A−2)、(A−7)又は(A−11)が挙げられる。
【0047】
【化14】
【0048】
式中、R1,R2は水素原子、置換基を有してもよいメチル基、エチル基。プロピル基及びブチル基等の炭素数10以下のアルキル基、置換基を有してもよいベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基及びチエニル基等のアラルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、チオフェニル基、フリル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾキノリル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、ベンゾフリル基、及びベンゾチオフェニル基等のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基、アシル基、エステル基、シアノ基、ニトロ基、アミド基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、ヒドロキシ基、アルデヒド基またはハロゲン原子を示し、m≧0、n≧0であり、ただし、m≧2のときR1は互いに異なっていてもよく、n≧2のときR2は互いに異なってもよい。
【0049】
R3,R4は置換基を有してもよいメチル基、エチル基。プロピル基及びブチル基等の炭素数10以下のアルキル基、置換基を有してもよいベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基及びチエニル基等のアラルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、チオフェニル基、フリル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾキノリル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、ベンゾフリル基、及びベンゾチオフェニル基等のアリール基またはエステル基を示す。
【0050】
Q1,Q2は、それぞれ独立に酸素原子,硫黄原子,C(CN)2,CR5CN,CY2(Yはフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子),C(COOR6)2,CR7COOR8,NR9またはNCNのいずれかを表す。
【0051】
但し、R5,R6,R7,R8,R9はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいメチル基、エチル基。プロピル基及びブチル基等の炭素数10以下のアルキル基、置換基を有してもよいベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基及びチエニル基等のアラルキル基又は置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、チオフェニル基、フリル基、ピリジル基、キノリル基、ベンゾキノリル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、ベンゾフリル基、及びベンゾチオフェニル基等のアリール基を示す。
【0052】
【化15】
【0053】
は置換基を有してもよいベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、チオフェン環、フラン環、ピリジン環等のアリール基を示す。
【0054】
また、上記一般式(1)中のZは、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、CR10=CR11(R10及びR11はアルキル基、アリール基または水素原子を示し、R10及びR11は同一でも異なっても良い)、C=O、S=O、SO2、酸素原子又は硫黄原子より一つあるいは任意に組み合わされた有機基を示す。その中でも下記一般式(2)で示されるものが好ましく、下記一般式(3)で示されるものが特に好ましい。
【0055】
【化16】
【0056】
上記一般式(2)中、X1〜X3は置換基を有してもよいメチレン基、エチレン基及びプロピレン基等の炭素数20以下のアルキレン基、(CR12=CR13)m2、C=O、S=O、SO2、酸素原子又は硫黄原子を示し、Ar1及びAr2は置換基を有してもよい2価のアリーレン基(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、チオフェン、フラン、ピリジン、キノリン、ベンゾキノリン、カルバゾール、フェノチアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン等より2個の水素原子を取り除いた基)を示す。R12及びR13は置換基を有してもよいメチル基、エチル基プロピル基及びブチル基等のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基及びチオフェニル基等のアリール基または水素原子を示し、R12及びR13は同一でも異なっても良い。m2は1から5の整数、p〜tは0から10の整数を示す(但しp〜tは同時に0であることはない)。
【0057】
上記一般式(3)中、X4及びX5は(CH2)m3、(CH=CR14)m4、C=O、又は酸素原子を示し、Ar3は置換基を有してもよい2価のアリーレン基(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、チオフェン、フラン、ピリジン、キノリン、ベンゾキノリン、カルバゾール、フェノチアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン等より2個の水素原子を取り除いた基)を示す。R14は置換基を有してもよいメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基、置換基を有しても良いフェニル基、ナフチル基及びチオフェニル基等のアリール基又は水素原子を示す。m3は1から10の整数、m4は1から5の整数、u〜wは0から10の整数を示す(特に0から5の整数の時が特に好ましい。但しu〜wは同時に0であることはない)。
【0058】
尚、上述の一般式(1)〜(13)及び(A−2)、(A−7)、(A−11)のR1〜R22、Ar1〜Ar3、X1〜X5、Z及びQがそれぞれ有してもよい置換基としてはフッ素、塩素、臭素及びヨウ素等のハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、水酸基、メチル基、エチル基。プロピル基及びブチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基及びプロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基及びチエニル基等のアラルキル基、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基及びピレニル基等のアリール基等が挙げられる。
【0059】
また更に、上記連鎖重合性官能基を有する電子輸送性化合物は電子輸送能として1×10−7(cm2/v.sec)以上のドリフト移動度を有しているものが好ましい(但し、印加電界:5×104v/cm)。1×10−7(cm2/v.sec)未満では電子写真感光体として露光後現像までに電子が十分に移動できないため見かけ上感度が低減し、残留電位も高くなってしまう問題が発生する場合がある。
【0060】
以下に、本発明に係る連鎖重合性官能基を有する電子輸送性化合物の代表例を挙げる。
【0061】
【表3】
【0062】
本発明においては、前記同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する電子輸送性化合物を重合・硬化させることで、その感光層中において、電子輸送能を有する化合物は少なくとも二つ以上の架橋点をもって3次元架橋構造の中に共有結合を介して取り込まれる。前記電子輸送性化合物はそれのみを重合・架橋させる、あるいは他の連鎖重合性基を有する化合物と混合させることのいずれもが可能であり、その種類/比率はすべて任意である。ここでいう他の連鎖重合性基を有する化合物とは、連鎖重合性基を有する単量体あるいはオリゴマー/ポリマーのいずれもが含まれる。電子輸送性化合物の官能基とその他の連鎖重合性化合物の官能基が同一の基あるいは互いに重合可能な基である場合には、両者は共有結合を介した共重合3次元架橋構造をとることが可能である。両者の官能基が互いに重合しない官能基である場合には、感光層は少なくとも二つ以上の3次元硬化物の混合物あるいは主成分の3次元硬化物中に他の連鎖重合性化合物単量体あるいはその硬化物を含んだものとして構成されるが、その配合比率/製膜方法をうまくコントロールすることで、IPN(Inter Penetrating Network)すなわち相互進入網目構造を形成することも可能である。
【0063】
また前記電子輸送性化合物と連鎖重合性基を有しない単量体あるいはオリゴマー/ポリマーや連鎖重合性以外の重合性基を有する単量体あるいはオリゴマー/ポリマーなどから感光層を形成してもよい。
【0064】
さらに場合によっては3次元架橋構造に化学結合的に組み込まれないすなわち連鎖重合性官能基を有しない電子輸送性化合物を含有することも可能である。
【0065】
また、その他の各種添加剤、テフロン(登録商標)その他の潤滑剤などを含有してもよい。
【0066】
本発明の感光体の構成は、導電性支持体上に感光層として電荷発生物質を含有する電荷発生層および電荷輸送物質を含有する電荷輸送層をこの順に積層した構成あるいは逆に積層した構成、また電荷発生物質と電荷輸送物質を同一層中に分散した単層からなる構成のいずれの構成をとることも可能である。前者の積層型においては電荷輸送層が二層以上の構成、また後者の単層型においては電荷発生物質と電荷輸送物質を同一に含有する感光層上にさらに電荷輸送層を構成してもよく、さらには電荷発生層あるいは電荷輸送層上に保護層の形成も可能である。これらいずれの場合においても、先の連鎖重合性基を有する電子輸送性化合物および/あるいは前電子輸送性化合物を重合・硬化したものを感光層が含有していればよい。ただし、電子写真感光体としての特性、特に残留電位などの電気的特性および耐久性の点より、電荷発生層/電荷輸送層をこの順に積層した機能分離型の感光体構成が好ましく、本発明の利点も電荷輸送能を低下させることなく表面層の高耐久化が可能になった点にある。
【0067】
次に本発明による電子写真感光体の製造方法を具体的に示す。
【0068】
電子写真感光体の支持体としては導電性を有するものであればよく、例えばアルミニウム、銅、クロム、ニッケル、亜鉛およびステンレスなどの金属や合金をドラムまたはシート状に成形したもの、アルミニウムおよび銅などの金属箔をプラスチックフィルムにラミネートしたもの、アルミニウム、酸化インジウムおよび酸化錫などをプラスチックフィルムに蒸着したもの、導電性物質を単独または結着樹脂とともに塗布して導電層を設けた金属、またプラスチックフィルムおよび紙などが挙げられる。
【0069】
本発明においては導電性支持体の上にはバリアー機能と接着機能をもつ下引き層を設けることができる。
【0070】
下引き層は感光層の接着性改良、塗工性改良、支持体の保護、支持体上の欠陥の被覆、支持体からの電荷注入性改良、また感光層の電気的破壊に対する保護などのために形成される。下引き層の材料としてはポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルイミダゾール、ポリエチレンオキシド、エチルセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、カゼイン、ポリアミド、N−メトキシメチル化6ナイロン、共重合ナイロン、にかわおよびゼラチンなどがしられている。これらはそれぞれに適した溶剤に溶解されて支持体上に塗布される。その際の膜厚としては0.1〜2μmが好ましい。
【0071】
本発明の感光体が機能分離型の感光体である場合には電荷発生層および電荷輸送層を積層する。電荷発生層に用いる電荷発生物質としては、セレン−テルル、ピリリウム、チアピリリウム系染料、また各種の中心金属および結晶系、具体的には例えばα、β、γ、εおよびX型などの結晶型を有するフタロシアニン化合物、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、ジスアゾ顔料、モノアゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、非対称キノシアニン顔料、キノシアニンおよびアモルファスシリコンなどが挙げられる。
【0072】
機能分離型感光体の場合、電荷発生層は前記電荷発生物質を0.3〜4倍量の結着樹脂および溶剤とともにホモジナイザー、超音波分散、ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、アトライターおよびロールミルなどの方法で良く分散し、分散液を塗布し、乾燥されて形成されるか、または前記電荷発生物質の蒸着膜など、単独組成の膜として形成される。その膜厚は5μm以下であることが好ましく、特に0.1〜2μmの範囲であることが好ましい。
【0073】
結着樹脂を用いる場合の例は、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、などのビニル化合物の重合体および共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0074】
本発明における前記連鎖重合性官能基を有する電子輸送性化合物は、前述した電荷発生層上に電荷輸送層として、もしくは電荷発生層上に電荷輸送物質と結着樹脂からなる電荷輸送層を形成した後に電子輸送能力を有する表面保護層として用いることができる。いずれの場合も前記表面層の形成方法は、前記正孔輸送性化合物を含有する溶液を塗布後、重合/硬化反応をさせるのが一般的であるが、前もって該正孔輸送性化合物を含む溶液を反応させて硬化物を得た後に再度溶剤中に分散あるいは溶解させたものなどを用いて、表面層を形成することも可能である。これらの溶液を塗布する方法は、例えば浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法およびスピンコーティング法などが知られているが、効率性/生産性の点からは浸漬コーティング法が好ましい。
【0075】
また蒸着、プラズマその他の公知の製膜方法が適宜選択できる。
【0076】
本発明において連鎖重合性基を有する電子輸送性化合物は電子線により重合・硬化させるものである。電子線による重合の最大の利点は重合開始剤を必要としない点であり、これにより非常に高純度な三次元感光層マトリックスの作製が可能となり、良好な電子写真特性が確保される点である。また、短時間でかつ効率的な重合反応であるがゆえに生産性も高く、さらには電子線の透過性の良さから、厚膜時や添加剤などの遮蔽物質が膜中に存在する際の硬化阻害の影響が非常に小さいことなどが挙げられる。ただし、連鎖重合性基の種類や中心骨格の種類によっては重合反応が進行しにくい場合があり、その際には影響のない範囲内での重合開始剤の添加は可能である。電子線照射をする場合、加速器としてはスキャニング型、エレクトロカーテン型、ブロードビーム型、パルス型およびラミナー型などいずれの形式も使用することが出来る。電子線を照射する場合に、本発明の感光体においては電気特性および耐久性能を発現させる上で照射条件が非常に重要である。本発明において、加速電圧は250kV以下が好ましく、最適には150kV以下である。また照射線量は好ましくは1Mradから100Mradの範囲、より好ましくは3Mradから50Mradの範囲である。加速電圧が上記を越えると感光体特性に対する電子線照射のダメージが増加する傾向にある。また、照射線量が上記範囲よりも少ない場合には硬化が不十分となりやすく、線量が多い場合には感光体特性の劣化がおこりやすいので注意が必要である。
【0077】
前記連鎖重合性基を有する電子輸送性化合物を電荷輸送層として用いた場合の前記電子輸送性化合物の量は、重合硬化後の電荷輸送層膜の全重量に対して、前記式(1)で示される連鎖重合性官能基を有する電子輸送性基Aの水素付加物が分子量換算で20%以上、好ましくは40%以上含有されていることが望ましい。それ以下であると電荷輸送能が低下し、感度低下および残留電位の上昇などの問題点が生ずる。この場合の電荷輸送層としての膜厚は1〜50μmであることが好ましく、特には3〜30μmであることが好ましい。
【0078】
前記電子輸送性化合物を電荷発生層/電荷輸送層上に表面保護層として用いた場合、その下層に当たる電荷輸送層は適当な電子輸送化合物、例えばベンゾキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、インデノン誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、イミド誘導体、ジイミド誘導体、4−オキソチオピラン−1,1−ジオキシド誘導体、フルオレノン誘導体などの低分子化合物などを適当な結着樹脂(前述の電荷発生層用樹脂の中から選択できる)とともに溶剤に分散/溶解した溶液を前述の公知の方法によって塗布、乾燥して形成することができる。この場合の電荷輸送物質と結着樹脂の比率は、両者の全重量を100とした場合に電荷輸送物質の重量30〜100が望ましく、好ましくは50〜100の範囲で適宜選択される。電荷輸送物質の量がそれ以下であると、電荷輸送能が低下し、感度低下および残留電位の上昇などの問題点が生ずる。電荷輸送層の膜厚は、上層の表面保護層と合わせた総膜厚が1〜50μmとなるように決定され、好ましくは5〜30μmの範囲で調整される。
【0079】
本発明においては上述のいずれの場合においても、前記連鎖重合性基を有する電子輸送性化合物の硬化物を含有する感光層に、前記電子輸送化合物を含有することが可能である。
【0080】
単層型感光層の場合は、前記電子輸送性化合物を含む溶液中に同時に電荷発生物質が含まれることになり、この溶液を適当な下引き層あるいは中間層を設けても良い導電性支持体上に塗布後重合/硬化させて形成される場合と、導電性支持体上に設けられた電荷発生物質および電荷輸送物質から構成される単層型感光層上に前記電子輸送性化合物を含有する溶液を塗布後、重合/硬化させる場合のいずれもが可能である。
【0081】
本発明における感光層には、各種添加剤を添加することができる。該添加剤とは酸化防止剤および紫外線吸収剤などの劣化防止剤や、テトラフルオロエチレン樹脂粒子およびフッ化カーボンなどの潤剤などである。
【0082】
図1に本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成を示す。図において、1はドラム上の本発明の電子写真感光体であり、軸2を中止に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。感光体1は、回転過程において、一次帯電手段3によりその周面に正または負の所定電位の均一帯電を受け、次いでスリット露光やレーザービーム走査露光などの像露光手段(不図示)からの画像露光光4を受ける。こうして感光体1の周面に静電潜像が順次形成されていく。形成された静電潜像は、次いで現像手段5によりトナー現像され、現像されたトナー現像像は、不図示の給紙部から感光体1と転写手段6との間に感光体1の回転と同期取り出されて給紙された転写材7に、転写手段6により順次転写されていく。像転写を受けた転写材7は、感光体面から分離されて像定着手段8へ導入されて像定着をうけることにより複写物(コピー)として装置外へプリントアウトされる。像転写後の感光体1の表面は、クリーニング手段9によって転写残りトナーの除去を受けて清浄面化され、さらに前露光手段(不図示)からの前露光光10により助電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、一次帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。本発明においては、上述の電子写真感光体1、一次帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段9などの構成要素のうち、複数のものをプロセスカートリッジとして一体に結合して構成しこのプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱可能に構成してもよい。例えば、一次帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段9の少なくとも一つを感光体1とともに一体に支持してカートリッジ化して、装置本体のレール12などの案内手段を用いて装置本体に着脱可能なプロセスカートリッジ11とすることができる。また、画像露光光4は、電子写真装置が複写機やプリンターである場合には、原稿からの反射光や透過光、あるいはセンサーで原稿を読みとり、信号化し、この信号に従って行われるレーザービームの走査、LEDアレイの駆動および液晶シャッターアレイの駆動などにより照射される光である。
【0083】
本発明の電子写真感光体は電子写真複写機に利用するのみならず、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター、液晶プリンターおよびレーザー製版などの電子写真応用分野にも広く用いることができる。
【0084】
【実施例】
(実施例1)
まず導電層用の塗料を以下の手順で調整した。10%の酸化アンチモンを含有する酸化スズで被覆した導電性酸化チタン粉体50部(質量部、以下同様)、フェノール樹脂25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部およびシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3000)0.002部を、φ1mmガラスビーズ入りサンドミル装置で2時間分散して調整した。この塗料を30φのアルミニウムシリンダー上に浸漬塗布方法で塗布し、140℃で30分乾燥して、膜厚20μmの導電層を形成した。
【0085】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン5部をメタノール95部中に溶解し、中間層用塗料を調整した。この塗料を前記の導電層上に浸漬コーティング法によって塗布し、100℃で20分間乾燥して、0.6μmの中間層を形成した。
【0086】
次にCuKαのX線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°及び28.2°に強いピークを有する結晶型を持つヒドロキシガリウムフタロシアニン化合物4部とポリビニルブチラール樹脂(ブチラール化度65モル%、数平均分子量35000)2部をシクロヘキサノン80部に添加し、ガラスビーズとともにサンドミルで4時間分散し、これに80部の酢酸エチルを加え希釈し、これを中間層上に乾燥後の膜厚が0.2μmになるように浸漬コーティング法で塗布し電荷発生層を形成した。
【0087】
次いで、表3の化合物例No.19の電子輸送性化合物60部をモノクロロベンゼン30部およびジクロロメタン30部の混合溶媒中に溶解し、電荷輸送層用塗料を調整した、この塗料を前記の電荷発生層上にコーティングし、50℃で10分間乾燥させた後に、加速電圧150kV、照射線量10Mradの条件で電子線を照射し樹脂を硬化し、膜厚15μmの電荷輸送層を形成し、電子写真感光体を得た。
【0088】
作製した電子写真感光体について、経時析出性、電子写真特性、耐久性を評価した。経時析出性については、複写起用のウレタンゴム製のクリーニングブレードを感光体表面に圧接し、75℃で保存し析出性に対する加速試験を行った。評価は14日後に感光体表面を顕微鏡により観察し析出の有無を判定した。析出のない場合はさらに30日後まで試験を継続した。電子写真特性および耐久性は、この感光体をキヤノン(株)製GP55を正帯電用に改造した機械に装着して評価した。初期の感光体特性[暗部電位Vd、光減衰感度(暗部電位+700V設定で+200Vに光減衰させるために必要な光量)および残留電位Vsl(光減衰感度光量の10倍の光量を照射したときの電位)]を測定し、さらに15000枚の通紙耐久試験を行い、目視による画像欠陥の発生有無を観察、感光体の削れ量および耐久後の前記感光体特性を測定し、各々の変化値△Vd、△Vl(初期にVlが+200Vとなる光量と同量の光量を耐久後に照射したときのVlの変化量)および△Vslを求めた。
【0089】
結果を表4に示すが、本発明の感光体では析出は発生せず、また感光体特性が良好であり、耐久での削れ量が少なく、かつ耐久においても感光体特性にはほとんど変化がみられないというように、非常に安定した良好な特性を示している。
【0090】
(実施例2〜4)
実施例1における電子輸送性化合物No.19を表4に示した化合物に変えた以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し評価した。その結果を表4に示す。
【0091】
(実施例5)
実施例1において電子輸送性化合物No.19の量を48部とし、さらに下記式を有するアクリレートモノマーを12部
【0092】
【化17】
【0093】
添加した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し評価した。その結果を表4に示す。
【0094】
(実施例6〜9)
実施例1において電子線の照射条件を表4に示したように変えた以外は実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。削れ量、耐久画像は良好であったが、照射線量を上げることで初期の電子写真特性において、若干の感度ダウンや残留電位の上昇が見られた。その結果を表4に示す。
【0095】
(実施例10)
実施例1と同様に導電層、中間層および電荷発生層を形成した後、下記構造式のナフタレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体化合物をそれぞれ4部
【0096】
【化18】
【0097】
及びポリカーボネート樹脂(Z型;重量平均分子量:50000)10部をモノクロロベンゼン50部およびジクロロメタン20部の混合溶媒中に溶解して調整した電荷輸送層用塗料を用いて、前記電荷発生層上に電荷輸送層を形成した。このときの電荷輸送層の膜厚は15μmであった。次いで、表3の電子輸送性化合物例No.19 60部をモノクロロベンゼン50部およびジクロロメタン30部の混合溶媒中に溶解し、表面保護層用塗料を調整した。この塗料をスプレーコーティング法により先の電荷輸送層上に塗布し、50℃で10分間乾燥させた後に、加速電圧150kV、照射線量10Mradの条件で電子線を照射し樹脂を硬化し、膜厚5μmの表面保護層を形成し、電子写真感光体を得た。この感光体を実施例1と同様に評価した。その結果を表4に示す。
【0098】
(実施例11)
実施例1と同様に導電層および中間層を形成した後、β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶を3部、正孔輸送材料として下記構造式(A)の化合物40部、電子輸送材料として下記構造式(B)の化合物40部、
【0099】
【化19】
【0100】
ポリカーボネート樹脂(Z型;重量平均分子量:50000)100部およびテトラヒドロフラン700部をボールミルで混合分散した単層型感光体の塗料を塗布し、乾燥後の膜厚が13μmの感光層を形成した。次いで、表3の電子輸送性化合物No.32 60部をモノクロロベンゼン50部およびジクロロメタン30部の混合溶媒中に溶解し、表面保護層用塗料を調整した。この塗料をスプレーコーティング法により先の電荷輸送層上に塗布し、50℃で10分間乾燥させた後に、加速電圧150kV、照射線量10Mradの条件で電子線を照射し樹脂を硬化し、膜厚5μmの表面保護層を形成し、電子写真感光体を得た。この感光体を実施例1と同様に評価した。その結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
(比較例1)
実施例1において導電層、中間層及び電荷発生層を形成した後、下記構造式の電子輸送性化合物15部およびポリメチルメタクリレート樹脂(数平均分子量:約40000)15部をモノクロロベンゼン50部およびジクロロメタン20部の混合溶媒中に溶解して調整した電荷輸送層用塗料を用いて、前記電荷発生層上に電荷輸送層を形成した。このときの電荷輸送層の膜厚は15μmであった。
【0102】
【化20】
【0103】
この電子写真感光体を実施例1と同様に評価した結果、14日後に析出が見られた。一方初期の電子写真特性は良好であったが、耐久での表面層の削れ量が多く、かぶり、傷などの画像欠陥が発生している。さらに8000枚以降は削れにより電荷輸送層の膜厚がうすくなり、帯電不良が発生し、画像形成が不可能となった。その結果を表5に示す。
【0104】
(比較例2)
比較例1においてポリメチルメタクリレート樹脂のかわりにポリカーボネート樹脂(Z型;重量平均分子量:50000)を用いた以外は、比較例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。析出試験では14日後に析が観察された。またポリメチルメタクリレート樹脂の場合に比べて耐久性は若干向上したものの十分ではなく、12000枚より帯電不良が発生し、画像形成が不可能となった。その結果を表5に示す。
【0105】
(比較例3)
比較例2の電子輸送性化合物10部、ポリカーボネート樹脂15部とした以外は比較例2と同様に電子写真感光体を作製し、評価した結果、比較例2に比べて耐久性は向上したものの、電荷輸送物質間の距離が広がったことによって電荷輸送能が低下し、感度低下および残留電位の上昇が見られた。その結果を表5に示す。
【0106】
(比較例4)
実施例1と同様に導電層、中間層を形成した後、下記構造式の正孔輸送性化合物20部
【0107】
【化21】
【0108】
およびポリカーボネート樹脂(Z型;重量平均分子量:50000)10部をモノクロロベンゼン50部およびジクロロメタン20部の混合溶媒中に溶解して調整した電荷輸送層用塗料を用いて、前記中間層上に電荷輸送層を形成した。このときの電荷輸送層の膜厚は10μmであった。次いで実施例1で用いた電荷発生用塗料を用い乾燥後の膜厚が2.0μmになるように浸漬コーティング法で塗布し電荷発生層を形成し、電子写真感光体を得た。この感光体を実施例1と同様に評価した。初期より帯電不良およびカブリが発生し500枚より画像形成評価に値しないような画になった。その結果を表5に示す。
【0109】
(比較例5)
保護層を形成しなかった以外は、実施例10と同様にして感光体を作成し評価した。析出試験では30日後に析が観察された。耐久性に関しては十分ではなく、13000枚より帯電不良が発生し、画像形成が不可能となった。その結果を表5に示す。
【0110】
(比較例6)
保護層を形成しなかった以外は、実施例11と同様にして感光体を作成し評価した。耐久性に関しては十分ではなく、800枚より帯電不良及びカブリが発生し、5000枚より帯電不良で画像形成が不可能となった。その結果を表5に示す。
【0111】
(比較例7)
実施例10と同様に導電層、中間層、電荷発生層および電荷輸送層を形成した後、下記構造式のアクリルモノマー50部
【0112】
【化22】
【0113】
をテトラヒドロフラン50部に溶解し表面保護層用塗料を調整した。この塗料をスプレーコーティング法により先の電荷輸送層上に塗布し、50℃で10分間乾燥させた後に、加速電圧150kV、照射線量30Mradの条件で電子線を照射し樹脂を硬化し、膜厚5μmの表面保護層を形成し、電子写真感光体を得た。この感光体を実施例1と同様に評価した。初期より残留電位が高く画出しおよび電位変動等の評価は出来なかった。その結果を表5に示す。
【0114】
(比較例8)
特開平09−194535に開示されているのと同様な方法で合成し、下記の電子輸送性ポリマーを(重量平均分子量:10000、還元電位:−0.93V)得た。
【0115】
【化23】
【0116】
実施例1において導電層、中間層及び電荷発生層を形成した後、上記電子輸送性ポリマー10部をモノクロロベンゼン40部およびジクロロメタン10部の混合溶媒中に溶解して調整した電荷輸送層用塗料を用いて、浸漬塗布により電荷輸送層を形成した。このときの電荷輸送層の膜厚は15μmであった。この電子写真感光体を実施例1と同様に評価した。初期の電位特性及び耐久の電位特性は十分ではなくかつ耐久画像も7000枚より傷及びカブリが発生した。その結果を表5に示す。
【0117】
(比較例9)
特開平11−119458に開示されている下記化合物0.4部と
【0118】
【化24】
【0119】
シリコンハードコート材料(X−40−2239;信越化学社製)0.5部およびn−ブチルエーテル3部とを混合した保護層用塗料を調整した。比較例4と同様に導電層、中間層および電荷発生層を形成した後、この保護層用塗料を電荷発生層上にスプレーコーティング法により塗布し、100℃で10分間乾燥表面保護層を作成した。この電子写真感光体を実施例1と同様に評価した。削れ性はかなり良好なものの、初期の電位特性及び耐久の電位特性は十分ではなくかつ耐久画像も1000枚よりカブリが発生した。その結果を表5に示す。
【0120】
【表5】
【0121】
(実施例12)
アルマイト処理されたアルミニウムシリンダー上に、β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶を3部、正孔輸送材料として実施例11の化合物(A)50部、表3の電子輸送化合物例No.20 50部、ポリカーボネート樹脂(Z型;重量平均分子量:40000)30部およびテトラヒドロフラン700部をボールミルで混合分散した単層型感光体の塗料を浸漬塗布し、50℃で10分間乾燥させた後に、加速電圧150kV、照射線量10Mradの条件で電子線を照射し樹脂を硬化し、膜厚15μmの単層型電子写真感光体を得た。この感光体をレーザービームプリンター(Laser Jet4000:ヒューレットパッカード製)の改造機のシリンダーに貼り付けて、初期暗部電位(Vd)が−700(V)になるように帯電設定をし、これに波長780(nm)のレーザー光を照射して−700(V)の電位を−200(V)まで下げるのに必要な光量(EΔ500)を測定し感度とした。さらに、20(μJ/cm2)の光量を照射した場合の電位を残留電位(Vr)として初期特性を測定した。その結果は、EΔ500;0.42(μJ/cm2)、Vr;90(v)であった。
【0122】
更に、連続2000枚の通紙耐久を行っても画像欠陥のない良好な画像が得られ、2000枚終了時でのドラムの削れ量は0.4μmであった。
【0123】
(実施例13)
実施例12において化合物(A)の替わりに下記構造式の化合物
【0124】
【化25】
【0125】
を用いた以外は実施例12と同様に感光体を作成し同様な評価をした。その結果は、EΔ500;0.38(μJ/cm2)、Vr;75(v)、2000枚終了時でのドラムの削れ量は0.15μmであった。
【0126】
(比較例10)
アルマイト処理されたアルミニウムシリンダー上に、β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶を3部、正孔輸送材料として実施例11の化合物(A)50部、下記電子輸送化合物
【0127】
【化26】
【0128】
50部、ポリカーボネート樹脂(Z型;重量平均分子量:40000)100部およびテトラヒドロフラン 700部をボールミルで混合分散した単層型感光体の塗料を浸漬塗布し膜厚15μmの単層型電子写真感光体を得た。この感光体を実施例12と同様な評価を行った。その結果は、EΔ500;0.55(μJ/cm2)、Vr;110(v)、2000枚終了時でのドラムの削れ量は2.9μmであった。
【0129】
【発明の効果】
本発明の電子写真感光体は耐析出性、耐磨耗性および耐傷性に優れた効果を有する。さらに、感度、残留電位などの電子写真特性も非常に良好であり、また繰り返し使用時にも安定した性能を発揮することができる。
【0130】
また、該電子写真感光体の効果は、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置においても当然に発揮され、長期間高画質が維持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の例を示す図である。
【符号の説明】
1 電子写真感光体
2 軸
3 一次帯電手段
4 画像露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 像定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 レール
Claims (8)
- 導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光層の最表面層が、下記一般式(1)で示され、且つ、参照電極SCE(飽和カルメロ電極)に対する還元電位(電子親和力Eaに対応)の値が−0.2Vから−1.2Vである同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する電子輸送性化合物を電子線により重合したものを含有する事を特徴とする電子写真感光体;
また、上記AのP 1 及びZとの結合部位を水素原子に置き換えた電子輸性化合物が、下記一般式(A−2)、(A−7)又は(A−11)
Q 1 ,Q 2 は、それぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、C(CN) 2 、CR 5 CN、CY 2 (Yはハロゲン原子)、C(COOR 6 ) 2 、CR 7 COOR 8 、NR 9 またはNCNのいずれかを表し、{但し、R 5 、R 6 、R 7 、R 8 、R 9 はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、または置換基を有してもよいアリール基のいずれかを示す。}、また上記式中の
のいずれかで示される。]。 - 前記一般式(1)のZが、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアリーレン基、CR10=CR11(R10及びR11は置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基又は水素原子を示し、R10及びR11は同一でも異なってもよい。)、C=O、S=O、SO2、酸素原子又は硫黄原子より一つあるいは任意に組み合わされた有機基を示す請求項1に記載の電子写真感光体。
- 前記一般式(1)のZが、下記一般式(2)
で示される請求項1又は2のいずれかに記載の電子写真感光体。 - 前記一般式(1)のZが、下記一般式(3)
で示される請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体。 - 電子線の加速電圧が250kV以下である請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体。
- 電子線の線量が1〜100Mradである請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真感光体。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段及びクリーニング手段からなる群より選ばれた少なくとも一つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真感光体、帯電手段、像露光手段、現像手段及び転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。
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