JP4288760B2 - トロイダル型無段変速機のパワーローラ軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば自動車等の変速機構に用いるトロイダル型無段変速機に係り、特にパワーローラ軸受の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の変速機構に用いられるトロイダル型無段変速機は、入力ディスクと出力ディスクとの間に傾動可能に設けるパワーローラを介して、入力ディスクの回転を出力ディスクに伝達する。入力ディスクは押圧機構によって出力ディスクに向かって加圧されている。パワーローラは前記入力ディスクと出力ディスクとに接触するトラクション部を有し、パワーローラ軸受によってトラニオンに回転自在に支持されている。このパワーローラは、入力ディスクと出力ディスクとの間において、トラニオン軸を中心として傾動自在であり、パワーローラの傾き角度を変化させることにより、入力ディスクの回転を所望の変速比で出力ディスクに伝達するようにしている。
【0003】
前記パワーローラ軸受は、パワーローラ側に設ける内輪と、この内輪に離間対向して設ける外輪と、これら内輪と外輪のそれぞれの軌道溝間に転動自在に設ける複数個の転動球体などを備えている。これらの転動球体は、パワーローラから内輪に作用するスラスト荷重を外輪に伝達するとともに、前記軌道溝に沿って転動することにより、内輪と外輪とが相対回転する際の抵抗を軽減するようにしている。
【0004】
このようなパワーローラ軸受の構成は、内輪を有するパワーローラを除けば外観上はスラスト玉軸受とほとんど変わらない。従来よりスラスト玉軸受は、スラスト力(アキシャル荷重)が作用する回転軸を支持するために使用されてきた。そこで、既存のスラスト玉軸受用に設計された軸受部品をパワーローラ軸受に流用することが研究された。
【0005】
しかし、トロイダル形無段変速機用のパワーローラ軸受は、従来の一般的なスラスト玉軸受とは内輪の担う機能が全く異なり、それに起因して、内輪自体に作用する荷重分布や、内輪と外輪との間に介在する転動体と内輪および外輪の接触挙動等が一般のスラスト玉軸受とは大きく相違するため、その相違点を配慮した改良が必要不可欠となる。
【0006】
例えば、一般のスラスト玉軸受の内輪は軸の支持部材として機能するが、パワーローラ軸受の内輪と一体に回転するパワーローラは、入力ディスクから出力ディスクに回転を伝達する動力伝達部材として機能し、ギヤ式の多段変速機における変速ギヤに相当する。そしてこのようなパワーローラは、入力ディスクや出力ディスクから強い押圧力を受けた状態で高速回転するため発熱が大きく、このパワーローラの発熱が内輪や転動体を加熱することになる。そのため、内輪と外輪との間に供給する潤滑油としては、動力伝達を考慮して開発された高粘度のトラクション油を用いることが必須となる。
【0007】
また、パワーローラの入力ディスクや出力ディスクと接触するトラクション部は、パワーローラの外周上で互いに180度離れた位置となり、入力ディスクや出力ディスクからの強い押圧力はこれらの対向位置(トラクション部)にラジアル荷重として集中的に作用する。従って、入力ディスクや出力ディスクに接触するトラクション部には、きわめて高い接触面圧が発生する。
【0008】
例えば、一般の軸受は接触面圧が2〜3Gpa以下で使用されるのに対し、車両用のトロイダル形無段変速機に使用されるパワーローラ軸受の場合は、通常の減速比の時でも接触面圧が2.5〜3.5Gpaとなり、最大減速時においては接触面圧が4Gpaにも達する場合がある。
【0009】
さらに、入力ディスクや出力ディスクからの強い押圧力は、パワーローラのトラクション部にラジアル荷重として集中的に作用することにより、パワーローラや内輪に半径方向の圧縮変形を生じさせる。この圧縮変形によって内輪に反りが生じるため、パワーローラから内輪に作用するスラスト荷重を、内輪と外輪との間に介在する全ての転動体に均等に分担させることがほとんど不可能になる。すなわち前記スラスト荷重は、互いに180度離れた位置に存在する一部の転動体に集中的に作用し、その結果、転動体の軌道溝に対する接触面圧にばらつきが生じ、一部の転動体はきわめて高い接触圧で軌道溝を転動することになる。
【0010】
従って、入力ディスクや出力ディスクに接触するトラクション部や、転動体が接触する内輪と外輪の各軌道溝は、高い接触面圧が局部的に作用することに対する寿命低下を防止するために、その材質や、表面の硬度、表面粗さ等に関して格別な配慮が不可欠となる。
【0011】
このような背景から、本願出願人は、接触面圧の局部的な作用に対する耐久性を向上させて軸受寿命を向上させるために、転動体を中炭素鋼や高炭素鋼で形成するとともに、浸炭窒化処理や焼入れおよび焼戻し処理により、転動体の表面の硬度、強度を調製する技術を提案した(特開平7−208568号公報参照)。さらに本願出願人は、入力ディスクおよび出力ディスクと、パワーローラや内輪などに関し、浸炭処理を施した後に研削仕上げ処理を施したり、あるいは、浸炭窒化処理を施した後に研削仕上げ処理を施して、これらの部材の表面の硬度や有効硬化層深さを、局部的な接触面圧の作用に耐える適正値(2mm以上で4mm以下)に調製する技術を提案した。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前述した内輪と外輪との間に供給する潤滑油として専用のトラクション油を採用したり、材質の選択や表面処理によるパワーローラおよび内輪と転動体の硬度や有効硬化層深さ、表面粗さの適正化などを実施しても、それだけでは十分ではない。すなわちパワーローラ軸受は、動力伝達が本来の目的であるから、軸受内での動トルク損失をできる限り低減して、トルクの伝達効率を向上させることが重要になるが、前述した改良だけでは、例えば、内輪と外輪の各軌道溝や転動体の寸法設定によっては、軸受内での動トルク損失の増大が発生して、トルク伝達効率の低下という問題が発生する場合があった。また、前述したパワーローラや内輪の表面硬度あるいは有効硬化層深さの調製を行っても、時には、軌道溝の縁や転動体の早期破損、あるいは軌道溝と転動体との接触面の傷つき等によって、軸受寿命の低下という問題が発生する場合があった。
【0013】
前述したように、スラスト玉軸受をパワーローラ軸受として用いると、パワーローラにはトラクション力というラジアル力が加わることにより、パワーローラの軌道溝に沿う方向に面圧やPV値(P:最大面圧,V:スピン滑り速度)の分布が生じる。しかしスラスト玉軸受はもともとラジアル力を負荷するように設計されていないため、パワーローラの軌道溝内に局所的に面圧の高い部分やPV値の高い部分が発生する。通常、スラスト玉軸受は5000rpm程度で使われるのに対し、パワーローラ軸受は最大増速の変速比(車両の高速走行時)においては10000rpm以上の回転数になることがある。すなわち、高速回転時にはPV値の上昇の影響が大きい。
【0014】
PV値が高いと発熱が大きく、局所的な油膜切れによる軌道溝の損傷や、トラクション油の劣化などを引き起こす恐れがある。そして発熱が著しく大きいと、合成油であるトラクション油の分子構造を分解してしまうため、トラクション係数の劣化をまねき、グロススリップに対する安全率も低下する。また、潤滑性においても所定の油膜を確保することが難しくなるため、トラクション部やパワーローラ軸受の早期剥離をまねく原因となる。
【0015】
また、パワーローラ軸受の外輪のバックアップ部が均一にならないことがある(トラニオンが変形する)ため、軸受の周方向に負荷が大きい箇所と小さい箇所が存在する。このように負荷が不均一になると、滑りの挙動も複雑となり、パワーローラ内輪が一周する間に滑り速度が変化するようになる。この内輪は入力ディスクあるいは出力ディスクとトラクションドライブするため、その接触点に生じた熱がパワーローラ軸受に伝達してくるため、いっそう発熱しやすい。また、局所的に面圧が高くなれば、当然寿命も低下することになる。
【0016】
従って本発明の目的は、軌道溝内における最大面圧とPV値の過剰な上昇を抑制し、耐久性の向上を図ることができるとともに、トラクション油が所定の機能を発揮できるようなトロイダル型無段変速機のパワーローラ軸受を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
前述したパワーローラ軸受に特有の諸問題を解決するために、本発明者は、パワーローラ軸受を構成する部品にかかわる様々な設計データに関して、動トルク損失の増減や軸受寿命との相関等について鋭意研究し、転動体の接触角が最大面圧PおよびPV値に重大な影響を及ぼすことをつき止め、接触角を適正に保つことによりパワーローラ軸受の寿命を飛躍的に延ばすことができることを見出だした。すなわち、スラスト力とラジアル力が同時に加わるパワーローラにおいて、最適な接触角を設定することにより、局所的に発生する面圧やPV値の上昇、いわば発熱を抑えて、軸受寿命やトラクションドライブの性能の低下を防ぐようにした。
【0018】
接触角によるPV値と面圧の最大値の関係を求めたところ、スラスト荷重のみが加わる軸受の場合には、図4に示す結果が得られた。すなわちスラスト荷重のみの場合には、軌道溝内にPV値と面圧の最大値の分布が生じないため、PV値(PVmax )はほぼ変化無く、接触角による面圧(Pmax )の変化が見られるだけである。
【0019】
一方、スラスト荷重とラジアル荷重が加わる軸受の場合には、図5に示す結果が得られた。すなわちスラスト荷重とラジアル荷重を負荷した場合には、軌道溝内にPV値と面圧の最大値の分布が生じるため、PV値の局所的な最大値は接触角が90度(スラスト軸受に相当)に近付くほど大きくなる傾向を示す。そして面圧の最大値(Pmax )は、接触角85度付近に極大値を、65度付近に極小値をもつ傾向を示す。
【0020】
図5より、接触角を50度から80度の範囲に設定することにより、局所的なPV値の上昇を抑え、なおかつ、面圧の最大値(Pmax )をスラスト軸受の場合(θ=90°)よりも小さくすることができ、耐久性が高くなる。より好ましくは、接触角を60度から70度に設定すれば、さらにこの効果が顕著となり、より一層、耐久性を高くすることができるようになる。これら図4と図5は、入力トルク340Nm、変速比0.5で運転した時の値であるが、これ以外の条件で運転した場合も、図4および図5と同様の傾向が認められた。
【0021】
従って前記目的を果たすための本発明のパワーローラ軸受は、パワーローラ側に設けられかつ軌道溝を有する内輪と、内輪に離間対向して設けられかつ内輪の軌道溝と対応した位置に軌道溝を有する外輪と、これら内輪と外輪の各軌道溝間に収容される転動体を有し、前述の最大面圧とPV値を低く抑えるという観点から、前記転動体の前記各軌道溝に対する接触角を50度から80度の範囲としたことを特徴とする。さらに好ましくは、前記接触角を60度から70度の範囲に設定する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すハーフトロイダル型無段変速機は、エンジン等を含む駆動源と一体に回転する入力軸1を有している。この入力軸1に、入力ディスク2と出力ディスク3とが、入力軸1の軸線方向に互いに離間して設けられている。入力ディスク2の背面にカム板4が有る。カム板4は入力軸1にスプライン係合し、入力軸1と一体に回転する。カム板4と入力ディスク2との間にカムローラ5が設けられている。
【0023】
入力ディスク2は、カムローラ5を含むローディングカム式の押圧機構6によって、出力ディスク3に向かって加圧される。出力ディスク3は入力軸1に回転自在に支持されている。例えばギヤ等の被回転体7は、出力ディスク3と一体に回転することができる。
【0024】
入力ディスク2と出力ディスク3との間に、トラニオン8が設けられている。トラニオン8はトラニオン軸9を中心として図1中に矢印Qで示す方向に傾動することができる。トラニオン8に変位軸10が設けられている。変位軸10にパワーローラ11が変位軸10の軸線Oまわりに回転自在に支持されている。パワーローラ11は、入力ディスク2と出力ディスク3とに転接するトラクション部11aを有している。このパワーローラ11は、入力ディスク2と出力ディスク3との間において、両者の変速比に応じて、トラニオン軸9を中心として前記Q方向に傾きを変えることができる。
【0025】
パワーローラ11はパワーローラ軸受20によって前記軸線Oを中心として回転自在に支持されている。このパワーローラ軸受20は、パワーローラ11に加わるスラスト荷重とラジアル荷重を支承し、かつ、パワーローラ11が軸線Oまわりに滑らかに回転することができるようにパワーローラ11を支持する機能を担っている。このパワーローラ軸受20は、パワーローラ11の一部に形成した内輪21と、トラニオン8側に設けられかつ前記内輪21と離間対向する外輪22と、これら内輪21と外輪22との間に介在する例えば鋼球等の複数個の転動球体23を備えている。
【0026】
図2に示すように、内輪21と外輪22には互いに対応した位置にそれぞれ軌道溝31,32が形成されている。軌道溝31,32間に前記転動球体23が収容されている。これらの転動球体23は、内輪21と外輪22との間に設けた円環状の保持器33によって保持されている。なお、図示例の内輪21はパワーローラ11の一部に形成したが、内輪21をパワーローラ11とは別体に形成してもよい。
【0027】
入力ディスク2の回転は、パワーローラ11の回転運動を介して出力ディスク3に伝達される。すなわち、入力ディスク2と出力ディスク3およびパワーローラ11は、合成油である高粘度のトラクション油を用いてトラクションドライブを行なうようになっている。トラクション油は内輪21と外輪22との間などに供給され、潤滑油としても機能する。
【0028】
軌道溝31,32に対する転動球体23の接触角θ(図2に示す)は、前述した理由により、60度から80度の範囲に設定されている。すなわち、パワーローラ軸受20のようにスラスト荷重とラジアル荷重が負荷される場合、軌道溝31,32内に面圧の最大値Pmax とPV値との分布が生じるため、図5に示されるようにPV値の局所的な最大値は接触角が90度(すなわちスラスト軸受)に近付くほど大きくなる傾向を示す。そして面圧の最大値は、接触角85度付近に極大値を、65度付近に極小値をもつ傾向を示す。
【0029】
ここで、接触角θを50度から80度の範囲に設定することにより、局所的なPV値の上昇を抑え、なおかつ、面圧の最大値Pmax をスラスト軸受の場合(θ=90°)よりも小さくすることができ、耐久性が高くなる。好ましくは、接触角θを60度から70度に設定すれば、PVmax が十分低い領域においてPmax も極小値付近(330kgf/mm2 以下)で使用することができるため、より一層、耐久性を高くすることができるようになる。
【0030】
この明細書でいう接触角θは、各転動球体23の中心を結ぶ線分L1と、内輪21および外輪22に対する転動球体23の接点C1,C2を結ぶ線分L2とのなす角度である。前記実施形態では、内輪21の接点C1に対して外輪22の接点C2の方が軸線O寄りとなっている。図3に示す参考例では、内輪21の接点C1の方が外輪22の接点C2よりも軸線O寄りのパワーローラ軸受20において、接触角θが前記実施形態と同様の範囲に設定されている。
【0031】
なお、この発明を実施するに当たって、入力ディスクおよび出力ディスクやパワーローラ、内輪および外輪、そして転動体の寸法や具体的形状など、この発明を構成する各要素を適宜に変形して実施できることは言うまでもない。また前記実施形態においては、シングルキャビティ式のハーフトロイダル型無段変速機について説明したが、この発明は、ダブルキャビティ式のハーフトロイダル無段変速機などにおいても同様に適用することができる。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、トロイダル型無段変速機の実使用状態、すなわち、パワーローラにスラスト荷重だけでなく、ラジアル荷重も加わった状態でトラクションドライブがなされるものにおいて、過大な面圧やPV値の局所的な上昇を抑えることができ、これにより、発熱を抑え、トラクション油が所定の機能を発揮することができ、なおかつ耐久寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態を示すハーフトロイダル型無段変速機の断面図。
【図2】 図1中のII−II線に沿うパワーローラ軸受部の断面図。
【図3】 参考例を示すパワーローラ軸受部の断面図。
【図4】 軸受にスラスト荷重のみが負荷されたときの接触角と最大面圧PおよびPV値との関係を示す図。
【図5】 軸受にスラスト荷重とラジアル荷重が負荷されたときの接触角と最大面圧PおよびPV値との関係を示す図。
【符号の説明】
2…入力ディスク
3…出力ディスク
8…トラニオン
11…パワーローラ
20…パワーローラ軸受
21…内輪
22…外輪
23…転動球体(転動体)
31,32…軌道溝
Claims (2)
- 入力ディスクと出力ディスクとの間に傾動可能に設けるパワーローラを有しかつトラクション油を用いてトラクションドライブを行うトロイダル型無段変速機の、前記パワーローラを回転自在に支持するパワーローラ軸受であって、
前記パワーローラ側に設けられかつ軌道溝を有する内輪と、
前記内輪に離間対向して設けられかつ前記内輪の軌道溝と対応した位置に軌道溝を有する外輪と、
前記内輪と外輪の各軌道溝間に収容される転動体を有し、
前記内輪と前記転動体との接点に対して、前記外輪と前記転動体との接点の方が該軸受の軸線寄りに位置し、かつ、
前記転動体の前記各軌道溝に対する接触角を50度から80度の範囲としたことを特徴とするトロイダル型無段変速機のパワーローラ軸受。 - 前記接触角を60度から70度の範囲としたことを特徴とする請求項1記載のトロイダル型無段変速機のパワーローラ軸受。
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