JP4276462B2 - 修飾ペプチドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、及び前記製造方法に好適に用いられる修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
オーファンレセプターの一つである成長ホルモン分泌促進因子レセプター(GHS−R)に対する内因性成長ホルモン分泌促進因子(GHS)が1999年ラット胃から精製単離され、グレリンと命名された(Kojimaら、Nature, 402巻, p.656-660、1999年)。本ペプチドは、セリン残基の水酸基が脂肪酸でアシル化された特徴的な構造を有することで知られる。さらにラット以外の脊椎動物、例えばヒト、マウス、ブタ、ニワトリ、ウナギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、カエル、ニジマス又はイヌからも3位のセリン残基又はスレオニン残基が脂肪酸修飾部位を有するグレリンが単離、あるいはcDNAから推定された(表1)。例えばヒトグレリンはアミノ酸28個からなり、3位のセリン側鎖が脂肪酸(n−オクタン酸)でアシル化されている。この新規ペプチドは強力な成長ホルモン分泌促進活性を有し、3位セリン又はスレオニンの脂肪酸修飾はその活性発現に必須であることが分かっている(Kojimaら、Nature, 402巻, p.656-660、1999年)。また、胃から分泌されたグレリンは、血中ホルモンとして成長ホルモン分泌の調節に機能することが解明され、グレリンの生理的役割と医薬品への適用に関して興味がもたれている。
【0003】
【表1】
オクタノイル基(C8)以外にも、ブタノイル基 (C4)、ヘキサノイル基(C6)、デカノイル基(C10)、ドデカノイル基(C12)修飾体が存在する。また、不飽和脂肪酸による修飾体も存在する。
【0004】
グレリンやコレシストキニンのように、ペプチド又は蛋白質の中には、アミノ酸配列中のある特異的なアミノ酸残基がアシル化やスルホン化、糖付加又はリン酸化等の修飾を受けることにより、その生理学的役割を発現するものがある。これらの修飾は生体内における精緻な酵素系により施されると考えられており、修飾を有するペプチド又は蛋白質を、高品質かつ効率的に大量に製造する一般的な方法はこれまで報告されていない。たとえば、グレリンは長鎖脂肪酸により特定のアミノ酸側鎖が修飾を受けることで成長ホルモン分泌促進作用を示すことから、脂肪酸修飾は必須の構造的要素であるが、生体がどのような酵素系を駆使して、脂肪酸を特定のアミノ酸側鎖の水酸基上にエステル結合させるのか、あるいは脂肪酸が伸長していくのか現時点では明らかにされていない。特にグレリンは、アミノ酸側鎖の水酸基が脂肪酸で修飾された構造を有することが初めて明らかにされた生理活性ペプチドであるために、本ペプチドが摂食障害治療薬、成長ホルモン分泌促進薬等の医薬品として期待される有用なペプチド性ホルモンであるにもかかわらず、特定の水酸基含有アミノ酸側鎖に脂肪酸修飾を有するペプチドの製造は一般化されていない、即ち、大量に製造するのに有利な工業的製造方法が確立されていないのが現状である。
【0005】
現在、インスリン、成長ホルモン、カルシトニン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、LH−RH誘導体、副腎皮質刺激ホルモン誘導体など種々のペプチド又は蛋白質製剤が医薬品として使用されている。これらのペプチド又は蛋白質の製造方法としては、化学合成法、酵素法、遺伝子組換法による製造方法が知られている。いずれの方法を選ぶかは適宜選択されるが、一般的に残基数が少ない場合には化学合成法が、残基数が多い場合は酵素法もしくは遺伝子組換法が選択される。
【0006】
例えば、化学合成法は最も確実にグレリン等の修飾をもつ生理活性ペプチド又は蛋白質を製造できる方法である。修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法として、化学合成法による製造方法はすでに数多く報告されている。グレリンの例では、Bednarekら(J. Med. Chem., 43巻、p.4370-4376, 2000年)、Matsumotoら(Biochem. Biophys. Res. Commun., 284巻、p.655-659、2001年)により報告されている。また、国際公開番号:WO 01/07475に、グレリン及びグレリン誘導体であるペプチド又はその塩の製造方法として、化学合成法による方法が記載されている。しかし、化学合成法による製造方法においては、一定の品質(純度)を保って合成できるペプチドの鎖長に通常制限がある。液相化学合成法は高純度のペプチドを合成することが可能であるが、長鎖ペプチドの合成には、溶解度、長い製造工程、反応処理に要する特別の技術等の点で一般的でない。即ち、効率的に大量に製造することは、液相化学合成法を用いる製造方法では難しい。一方、樹脂上でペプチド鎖を延長する固相化学合成は、工程が単純化されており、大量生産にはより有利であるが、本法も一定品質の目的物を得るにはおのずと構築可能な鎖長に制限がある。加えて、試薬を過剰に用いるために、特に長鎖ペプチドの製造において経済性で劣るという問題もある。
【0007】
また、酵素法のようにペプチド断片を酵素的に結合させていく方法は、アミノ酸側鎖の保護を最小に出来る点で優れているが、本法においては、通常加水分解の逆反応を用いるために、原理的に条件の設定が難しく実用的ではない。
一方、遺伝子組換法による生理活性ペプチド又は蛋白質の製造は、大量生産に適した有用な製造方法である。しかしながら、生産性の高い大腸菌等の原核生物を用いる方法は、原核生物が翻訳後修飾の系をもたないため、修飾部位をもつペプチドの直接的な製造は難しい。酵母や各種卵細胞のような真核細胞を用いる遺伝子組換法においては、糖修飾、アシル化、スルホン化、リン酸化等の修飾は可能であるが、例えば脂肪酸に関して、一定長の脂肪酸のみを導入することは難しい。単離されたグレリンのなかには、オクタン酸(C8)だけではなく、ブタン酸(C4)、デカン酸(C10)、あるいはこれらの不飽和脂肪酸を有するものが発見されていることからも、特定鎖長の脂肪酸の導入を制御することの困難さは明らかである。加えて、真核細胞による生産性は一般的に低いことからも、修飾の系を有する酵母や各種卵細胞の生産系はグレリン等の修飾を受けたペプチド又は蛋白質の大量生産という観点からは、多くの改良の余地がある。
【0008】
以上述べてきたように、修飾ペプチド又は蛋白質を合成する方法として化学合成法があり、すでに種々の報告がなされているが、大量に製造するためには、収率、コストの点において改良の余地がある。大腸菌等の原核細胞を用いた遺伝子組換法で直接的に翻訳修飾を受けたペプチド又は蛋白質を製造するのは難しい。また、酵母等の真核細胞を用いた遺伝子組換法による製造も、単一性又は生産性の点で問題があり、これを克服するために改良の余地がある。加水分解反応の逆反応を使う酵素法は、各々の縮合条件の設定が困難であり、大量生産に有利な方法であるとはいえない。
このように、従来知られている、化学合成法、酵素法、遺伝子組換法を単独で適用して、糖修飾、アシル化、スルホン化、リン酸化等の修飾を有するペプチド又は蛋白質を、品質と量的な要素を満足させ、かつ効率よく製造することについては、更なる改良の余地があった。
【0009】
そこで、上記方法の長所を生かし、欠点を補う方法の一つに、化学合成法と遺伝子組換法を組み合わせた半合成法が挙げられる。本製造方法の重要な点は、縮合に適した形態のペプチド断片を効率よく製造することである。修飾されたアミノ酸残基を有するペプチド断片(以下、修飾成分ともいう。)及び修飾されたアミノ酸残基を有さないペプチド断片(以下、非修飾成分ともいう。)は、N末端側又はC末端側の何れであっても良く、また、修飾成分が複数であっても良い。適宜、目的とするペプチド又は蛋白質に合わせて、製造方法を設計することができる。一例として、修飾成分がN末端側に存在し、当該ペプチド断片(修飾成分)と縮合される他方のペプチド断片が非修飾成分である場合について詳細に言及する。
近年注目されている、Native chemical ligation法(Dawsonら、Science, 266巻、p.776-779、1994年)は、Ligation部位にCys残基が残る欠点があったが、最近、本方法を改良したチオエステル法が提案された。例えば、Kawakamiらにより、チオエステルを用いた方法でリン酸化ペプチドの合成が報告されている(Tetrahedron Letter, 41巻, p.2625-2628、2000年)。
【0010】
前記チオエステル法の具体例を以下に示す。リン酸化されたp21Max蛋白質の合成例において(Kawakamiら、Tetrahedron Lett., 39巻、p.7901-7904, 1998年)、固相化学合成法でリン酸修飾部位を含むペプチド断片(修飾成分)(13 mer)をチオエステルとして製造する。一方、非修飾成分のN末端に一アミノ酸残基を付加させた配列を有するペプチド断片を大腸菌で製造し、このものに2価銅又はニッケルイオン存在下で、グリオキシル酸を作用させ、N末端に付加したアミノ酸残基をαケトアシル基に変換したのち、側鎖アミノ基をBoc基で保護する。次に、フェニレンジアミンでαケトアシル基を除去することで、N末端アミノ酸残基のアミノ基のみが遊離したペプチド断片(非修飾成分)を調製している。最後にこれらの両断片を銀塩、過剰のHOOBt等の活性エステル化剤を加え縮合している。
【0011】
上記方法においても、まだ下記のような課題が残る。ペプチド断片(修飾成分)の製造において、そのチオエステルの安定性上の課題があり、収率は11%と記載されている。また、ペプチド断片(非修飾成分)の製造において、αケトアシル基を用いる本方法はN末端アミノ基を遊離させる化学的方法として選択性が高いが、αケトアシル基が不安定であること、及び本基の脱離にフェニレンジアミン等の変異原性物質を使用する点で、医薬品用の生理活性ペプチド又は蛋白質の製造の場合、安全性の課題が残る。また、両断片の縮合反応において、銀塩、過剰のHOOBt等の活性エステル化剤を使用しており、ラセミ化、毒性、コストの点でも課題がある。
【0012】
化学合成法と遺伝子組換法を組み合わせた半合成法は、国際公開番号:WO 01/07475にも、グレリン及びグレリン誘導体であるペプチド又はその塩の製造方法として記載されている。より具体的には、化学合成法により調製したラットグレリン(1-5)と遺伝子組換法により調製したラットグレリン(6-28)を縮合してラットグレリン(1-28)を調製する方法が記載されている。しかし、かかる方法においてもまた下記のような課題を有することから、効率のよい工業的製造に有利な製造方法とするには、多くの改良の余地がある。即ち、TFAによりペプチド鎖を樹脂から離脱させてラットグレリン(1-5)を得る際に、同時にBoc基、t-Bu基が除去されるため、再度Boc基をN末端に導入する必要があること、また、Ser側鎖が無保護になるために、ラットグレリン(6-28)との縮合に、強い活性化剤を使用できない等の点において、生産性を向上させる余地がある。また、保護ラットグレリン(1-5)及び保護ラットグレリン(6-28)を縮合する過程において、アシルペプチド断片部のC末端アミノ酸がラセミ化しうるため、これを抑制するために改良の余地があった。なお、グレリン(m−n)は、グレリンのN末端からm番目〜n番目のアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。以下も同様である。
【0013】
また、保護ペプチド断片(非修飾成分)を調製する際にもいくつかの課題がある。国際公開番号:WO 01/07475に記載された保護ラットグレリン(6-28)の製法は、基本的には2段階酵素処理法(国際公開番号WO99/38984)を採用しており、そのプロセッシング酵素として組換えV8プロテアーゼ誘導体(rV8D5)(特開平9-47291)とKex2プロテアーゼ(特開平10−229884)の2種類の酵素を使用している。しかしながら保護ラットグレリン(6-28)を含む融合たんぱく質を発現するプラスミド(pG97s rGR)は大腸菌β-ガラクトシダーゼ誘導体とヒト副甲状腺ホルモン(1-34)との融合蛋白質を高発現するプラスミド (特開平9−296000)を元に構築したものなので、保護ペプチド断片(非修飾成分)を調製する際には、そのアミノ酸配列に適したリンカー配列を選択する必要が生じる場合がある。
さらに、保護ラットグレリン(6-28)は水溶液中で保護基が離脱するという現象があり、精製における回収率は10%と非常に低くグレリンを大量に安定供給するという側面においてなお課題を有する。
以上、化学合成法と遺伝子組換法の組み合わせによっても、効率がよく、かつ得られた製品を医薬品として使用できるような安全性の高い、修飾された生理活性ペプチド又は蛋白質の製造方法の実現には更なる課題がある。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、修飾をうけたペプチド又は蛋白質の簡便で効率のよい工業的製造方法を提供することを目的とするものである。具体的には、本発明は、修飾部位を含むペプチド断片(修飾成分)を化学合成法により製造し、修飾部位を含まないペプチド断片(非修飾成分)を遺伝子組換法により製造し、両者を縮合することで効率よく高品質の修飾をうけた生理活性ペプチド又は蛋白質を製造する方法を提供することを目的とするものである。前述したように、これらの各ペプチド断片(修飾成分及び非修飾成分)は、N末端側断片又はC末端側断片の何れであっても良く、また、修飾成分が複数であっても良い。適宜、目的とするペプチド又は蛋白質に合わせて、製造方法を設計することができる。また、本発明は、縮合反応に適した、保護されているペプチド断片(修飾成分)を修飾部位の構造に影響を与えない温和な条件で製造する方法、及び保護されているペプチド断片(非修飾成分)との縮合に適した保護されているペプチド断片(修飾成分)の製造方法を提供することを目的とするものである。さらに、本発明は、得られた製品を医薬品として使用できるような安全性の高い、修飾された生理活性ペプチド又は蛋白質の製造方法を提供することを目的とするものである。特に本発明は、グレリン及びグレリン誘導体の簡便で効率のよい工業的製造方法を提供することを目的とするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、グレリンを素材に、グレリン又はその誘導体の中のアシル基により修飾されたアミノ酸を含むペプチド断片(修飾成分)の合成方法の改良を行い、ペプチド断片(修飾成分)の製造工程を大幅に簡略化かつ効率化しうる方法を確立した。即ち、2−クロロトリチル樹脂等の弱酸性離脱樹脂上でペプチド断片(修飾成分)のペプチド主鎖配列を構築し、引き続き、残基選択的修飾を施した後、酢酸等の弱酸処理により固相樹脂上から保護修飾ペプチドを切り出すことができることを見出した。従来の技術として、トリフルオロ酢酸等で樹脂から切り出せるWang樹脂等の樹脂上で修飾基を導入した後、樹脂からの切り出しとともに保護基も脱離させる方法が知られていた。しかし、本法においては、切り出したペプチド断片(修飾成分)は、引き続き、もう一方のペプチド断片(非修飾成分)との縮合反応に供するため、樹脂からの切り出しとともに保護基も脱離されてしまう従来技術による方法は、再び保護基を導入しなければならないため、簡便で効率的な製造という観点からは好ましくない。そこで、本発明者らは、ペプチド断片(修飾成分)の樹脂からの切り出しには、アミノ酸側鎖の保護基を脱離させにくい弱酸(希釈された強酸を含む)を用い、一方で、ペプチドが樹脂から離脱せずに、樹脂上で特定のアミノ酸側鎖の保護基を脱離させて残基選択的修飾を施す方法として、フッ化四級アンモニウムを用いる方法が有効であることを鋭意検討の結果、見出した。従来、フッ化四級アンモニウムのなかでも、テトラブチルアンモニウムフロオリド(TBAF)は固相樹脂からペプチドを離脱させる試薬として用いられていた(J.Chem.Soc., Chem.Commun., p.414-415,1988年、Tetrahedron Letters, 34巻, p.7599-7602,1993年)が、本発明者らは弱酸性離脱樹脂上に構築したペプチドはTBAF処理によって樹脂から離脱しないことを見出した。この結果、TBAFを用いれば、ペプチドが樹脂から離脱することなく、そのゆえに、樹脂上で特定のアミノ酸側鎖の保護基を脱離させて残基選択的修飾を施すことができ、ついで、アミノ酸側鎖の保護基を脱離させにくい弱酸(希釈された強酸を含む)を用いペプチド断片(修飾成分)を樹脂から切り出すことにより、次工程のペプチド断片(非修飾成分)との縮合反応の際に、事前にペプチド断片(修飾成分)を保護する工程が必要なくなり、修飾をうけた生理活性ペプチド又は蛋白質の製造工程を大幅に簡略化かつ効率化することができた。
【0016】
さらに本発明者らは、グレリンの保護ペプチド断片(非修飾成分)の調製方法を改良し、保護グレリン(8−28)断片を2段階酵素処理法で大量に調製するために最適なリンカー配列を見出した。さらに本発明者らは、保護基が離脱しないpH条件で精製することで保護ペプチド断片(非修飾成分)の製造工程を大幅に簡略化かつ効率化しうる方法を確立した。すなわち、保護ペプチドの調製時に保護基が離脱する現象は水溶液のpH及び温度に依存しており、水溶液のpHを4−8とすることにより保護基の離脱が阻止でき、収率よく保護ペプチド(非修飾成分)を調製できることを見出した。
【0017】
また、各ペプチド断片の縮合方法を改良し、アミノ酸の活性化時、及び縮合時のラセミ化を抑制し、グレリン又はグレリン誘導体をより高品質かつ高収率で得ることができる製造方法を見出した。特に、弱酸性離脱樹脂を用いたグレリンの製造方法は、副反応により生じるジケトピペラジンの形成を抑制することができるという利点がある。即ち、C末端アミノ酸残基が7位のプロリンであるので、ジペプチド(-Ser-Pro-)に3個目のアミノ酸(Leu)を縮合する時に、ジケトピペラジンを巻いて樹脂から離脱する副反応を最小限に抑えることができる。
この知見に基づき、さらに、アルキル基はいうまでもなく、アシル基、リン酸基又は硫酸基を、グリコシド結合、ジスルフィド結合、エーテル結合、チオエーテル結合又はアミド結合等を介してアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖に結合した種々の修飾構造を有する生理活性ペプチド又は蛋白質の製造にも容易に適用できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
即ち、本発明は、
(1) 弱酸性離脱樹脂を用いることを特徴とする、式1;−A(R)−(式中、Aはアミノ酸又は非アミノ酸を示し、RはAの側鎖に結合している置換基を示す、)で表わされる修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片の製造方法、
(2) (a)弱酸性離脱樹脂上に、側鎖が保護されているアミノ酸又は/及び非アミノ酸の所望の配列を有するペプチド断片を作製し、(b)前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂上から脱離させることなく、置換基Rにより修飾をうけるアミノ酸又は非アミノ酸Aの側鎖の保護基を脱保護し、(c)前記脱保護した側鎖を置換基Rで修飾し、(d)弱酸性離脱樹脂からペプチド断片を切り出すことを特徴とする前記(1)に記載のペプチド断片の製造方法、
(3) アミノ酸又は非アミノ酸Aの側鎖の保護基が、シリル系保護基であり、前記保護基の脱保護にフッ化四級アンモニウムを用いることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のペプチド断片の製造方法、
(4) シリル系保護基が、t−ブチルジメチルシリル(TBDMS)、t−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、トリイソブチルシリル(TIBS)、t−ヘキシルジメチルシリル(ThxDMS)又はトリフェニルシリル(TPS)であり、フッ化四級アンモニウムがテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)、テトラエチルアンモニウムフルオリド(TEF)又はアンモニウムフルオリドであることを特徴とする前記(3)に記載のペプチド断片の製造方法、
に関する。
【0019】
また、本発明は、
(5) Aがセリン、スレオニン、システイン、ホモシステイン、リジン、オルニチン、グルタミン酸、2−アミノアジピン酸、ジアミノ酢酸、2−アミノマロン酸、アスパラギン酸、チロシン又はアスパラギンであり、Rがエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、O−グリコシド結合又はN−グリコシド結合等を介してAの側鎖に結合していることを特徴とする前記(1)〜(4)に記載のペプチド断片の製造方法、
(6) Aがセリン又はスレオニンであり、Rがエステル結合を介してAの側鎖に結合していることを特徴とする前記(5)に記載のペプチド断片の製造方法、
(7) ペプチド断片が、グレリンもしくはその誘導体、又は前記グレリンもしくはその誘導体の中の修飾をうけたアミノ酸を含む部分であることを特徴とする前記(6)に記載のペプチド断片の製造方法、
に関する。
【0020】
また、本発明は、
(8) (a)式1;−A(R)−(式中、Aはアミノ酸又は非アミノ酸を示し、RはAの側鎖に結合している置換基を示す、)で表わされる修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片を、弱酸性離脱樹脂を用いて製造し、前記(a)のペプチド断片とは別個に、(b)修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を製造し、前記(a)及び(b)で製造されたペプチド断片を縮合することを特徴とする修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(9) 修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片を、前記(2)〜(4)に記載の方法で製造することを特徴とする前記(8)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(10) Aがセリン、スレオニン、システイン、ホモシステイン、リジン、オルニチン、グルタミン酸、2−アミノアジピン酸、ジアミノ酢酸、2−アミノマロン酸、アスパラギン酸、チロシン又はアスパラギンであり、Rがエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、O−グリコシド結合又はN−グリコシド結合によりAの側鎖に結合していることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(11) Aがセリン又はスレオニンであり、Rがエステル結合を介してAの側鎖に結合していることを特徴とする前記(10)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(12) 修飾ペプチド又は蛋白質が、グレリン又はその誘導体であることを特徴とする前記(11)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
に関する。
【0021】
また、本発明は、
(13) ペプチド断片の縮合が、縮合剤を用いて行われることを特徴とする前記(8)〜(12)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(14) 縮合剤が、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル) −1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、ジフェニルホスホロシアニデート(DEPC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)であることを特徴とする前記(13)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(15) 縮合剤が、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)であり、前記縮合剤を用いるペプチド断片の縮合が、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)又は3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−ベンゾトリアジン(HOOBt)の存在下、行われることを特徴とする前記(13)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
に関する。
【0022】
より具体的に、本発明は、修飾をうけたペプチド又は蛋白質を断片縮合により製造する過程において、(a)修飾基を含むペプチド断片を製造するとき、2−クロロトリチル樹脂等の弱酸性離脱樹脂を用いて合成することを特徴とする、修飾をうけた生理活性ペプチド又は蛋白質の製造方法、(b)酸で脱離しやすいアシル基、硫酸基等を含むペプチド断片を合成する際、2−クロロトリチル樹脂等の弱酸性離脱樹脂を用いて製造することを特徴とする、修飾を有する生理活性ペプチド又は蛋白質、特にグレリン又はグレリン誘導体の製造方法、(c)修飾を含むペプチド断片(修飾成分)と修飾を含まないペプチド断片(非修飾成分)との縮合を行うとき、活性化させるN末端側断片のC末端残基にプロリンを介することにより、構成アミノ酸のラセミ化を抑制したことを特徴とするグレリン又はグレリン誘導体の製造方法、(d)グレリン又はグレリン誘導体の製造に顕著に良好であった縮合剤に関する。
【0023】
更に、本発明は、
(1) アミノ酸又は/及び非アミノ酸からなる所望の配列を有し、そのうち少なくとも1のアミノ酸又は非アミノ酸が式1;−A(R)−(式中、Aはアミノ酸又は非アミノ酸を示し、RはAの側鎖に結合している修飾のために導入された置換基を示す。)で表わされる修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸であり、かつアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片作製に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性置換基が保護基により保護されているペプチド断片を弱酸性離脱樹脂上で作製し、ついで、弱酸性条件で前記ペプチド断片における保護基を脱離させることなく前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱することを特徴とする、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片の製造方法、
(2) (a)アミノ酸又は/及び非アミノ酸からなる所望の配列を有し、かつアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片作製に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性置換基が保護基により保護されているペプチド断片を弱酸性離脱樹脂上で作製し、(b)前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂上から離脱させることなく、置換基Rにより修飾をうけるアミノ酸又は非アミノ酸Aの側鎖における反応性官能基に保護基が導入されている場合は、当該保護基を脱保護し、(c)前記脱保護した側鎖を置換基Rで修飾し、(d)弱酸性条件で前記ペプチド断片における保護基を脱離させることなく前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱させることを特徴とする前記(1)に記載のペプチド断片の製造方法、
(3) (a)弱酸性離脱樹脂上で、アミノ酸又は/及び非アミノ酸の所望の配列を有し、かつアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖の、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の反応性置換基が保護基により保護されているペプチド断片を作製し、ついで、(b)弱酸性条件で前記ペプチド断片における保護基を脱離させることなく前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱させ、(c)離脱させたペプチド断片の少なくとも1のアミノ酸又は非アミノ酸Aの側鎖における反応性置換基の保護基を脱保護し、(d)前記脱保護した側鎖を置換基Rで修飾することを特徴とする式1;−A(R)−(式中、Aはアミノ酸又は非アミノ酸を示し、RはAの側鎖に結合している置換基を示す。)で表わされる修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片の製造方法、
に関する。
【0024】
また、本発明は、
(4) 置換基Rにより修飾を受けるアミノ酸又は非アミノ酸Aの側鎖における反応性置換基の保護基が、シリル系保護基であり、前記保護基の脱保護にフッ化四級アンモニウムを用いることからなる前記(2)又は(3)に記載のペプチド断片の製造方法、
(5) シリル系保護基が、t−ブチルジメチルシリル(TBDMS)、t−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、トリイソブチルシリル(TIBS)、t−ヘキシルジメチルシリル(ThxDMS)又はトリフェニルシリル(TPS)であり、フッ化四級アンモニウムがテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)、テトラエチルアンモニウムフルオリド(TEF)又はアンモニウムフルオリドである前記(4)に記載のペプチド断片の製造方法、
(6) Aがセリン、スレオニン、システイン、ホモシステイン、リジン、オルニチン、グルタミン酸、2−アミノアジピン酸、ジアミノ酢酸、2−アミノマロン酸、アスパラギン酸、チロシン又はアスパラギンであり、Rがエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、O−グリコシド結合又はN−グリコシド結合を介してAの側鎖の反応性官能基に結合していることからなる前記(1)〜(5)に記載のペプチド断片の製造方法、
(7) Aがセリン又はスレオニンであり、Rがエステル結合を介してAの側鎖の水酸基に結合していることからなる前記(6)に記載のペプチド断片の製造方法、
(8) ペプチド断片が、グレリンもしくはその誘導体、又は前記グレリンもしくはその誘導体の中の修飾をうけたアミノ酸を含むペプチド断片である前記(7)に記載のペプチド断片の製造方法、
に関する。
【0025】
また、本発明は、
(9) (a)前記(1)〜(8)に記載の方法によって修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片を製造し、前記(a)のペプチド断片とは別個に、(b)修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まず、かつ、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基およびカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基が保護されているペプチド断片を製造し、前記(a)及び(b)で製造されたペプチド断片を縮合することを特徴とする修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(10) ペプチド断片の縮合が、縮合剤を用いて行われることからなる前記(9)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(11) 縮合剤が、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル) −1,1,3,3−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、ジフェニルホスホロシアニデート(DEPC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)である前記(10)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(12) 縮合剤が、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)であり、前記縮合剤を用いるペプチド断片(a)と(b)の縮合が、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)又は3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−ベンゾトリアジン(HOOBt)の存在下で行われることからなる前記(10)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
に関する。
【0026】
また、本発明は、
(13) 修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を、酵素法又は/及び遺伝子組換法により製造することからなる前記(9)〜(12)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(14) 修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を、下記方法;
工程(1);前記ペプチド断片のアミノ酸配列を有するペプチド(以下、本項において目的ペプチドという。)をコードする塩基配列又は目的ペプチドに所望によりリンカー配列を介して保護ペプチドが付加されている融合蛋白質をコードする塩基配列のいずれかを有する発現ベクターにより形質転換された細胞を培養して、当該培養物から目的ペプチド又は前記融合蛋白質を採取する工程;
工程(2);工程(1)において融合蛋白質を採取した場合、得られた融合蛋白質から、保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドとを切断分離し、所望により目的ペプチドをさらに精製する工程;
工程(3);工程(1)又は(2)で得られた目的ペプチドの側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性置換基を保護基により保護する工程;
を含む方法により製造することからなる前記(13)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(15) 工程(2)における保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドとの切断分離が、OmpTプロテアーゼ又はその誘導体及びKex2プロテアーゼ又はその誘導体を用いて2段階で行われることからなる前記(14)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(16) リンカー配列が、配列番号27に記載の配列である前記(14)又は(15)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(17) ペプチド断片が、グレリンもしくはその誘導体の中の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ基を含まないペプチド断片であることを特徴とする前記(13)〜(16)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(18) 修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を、pH4〜8の溶液中で精製及び保存することを特徴とする前記(13)〜(17)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
(19) 保護基がBoc基である前記(13)〜(18)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
に関する。
【0027】
また、本発明は、
(20) 工程(1);所望のアミノ酸配列を有するペプチド(以下、本項において目的ペプチドという。)をコードする塩基配列又は目的ペプチドに所望によりリンカー配列を介して保護ペプチドが付加されている融合蛋白質をコードする塩基配列のいずれかを有する発現ベクターにより形質転換された細胞を培養して、当該培養物から目的ペプチド又は前記融合蛋白質を採取する工程;
工程(2);工程(1)において融合蛋白質を採取した場合、得られた融合蛋白質から、保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドとを切断分離し、所望によりさらに精製する工程;
工程(3);工程(1)又は(2)で得られた目的ペプチドの側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性置換基を保護基により保護する工程;
工程(4);工程(3)で得られた保護されている目的ペプチドを、pH4〜8の溶液中で精製及び保存する工程;
を含む方法により製造することを特徴とする修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を製造する方法、
(21) 保護基がBoc基である前記(20)に記載の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を製造する方法、
(22) 工程(2)における保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドとの切断分離が、OmpTプロテアーゼ又はその誘導体及びKex2プロテアーゼ又はその誘導体を用いて2段階で行われることからなる前記(20)または(21)に記載の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を製造する方法、
(23) リンカー配列が、配列番号27に記載の配列である前記(20)〜(22)に記載の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を製造する方法、
(24) ペプチド断片が、グレリンもしくはその誘導体の中の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ基を含まないペプチド断片であることを特徴とする前記(20)〜(23)に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法、
に関する。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明を説明するに際し、下記用語を以下のように定義する。
「アミノ酸」とは、同一分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する化合物であり、例えば、L−アミノ酸、D−アミノ酸、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、合成アミノ酸等あらゆるアミノ酸を含む。
「天然アミノ酸」とは、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸をいう。
「非天然アミノ酸」とは、α−アミノ酸におけるα炭素が天然アミノ酸又はそれに対応するD−アミノ酸に存在しない任意の置換基で修飾されている化合物をいう。即ち、α−アミノ酸を下記式;
【化1】
で表したとき、R’、R”で示される置換基として、天然アミノ酸又はそれに対応するD−アミノ酸に存在しない任意の置換基又は水素原子(但し、R’及びR”がともに水素原子である場合を除く。)を有する化合物が挙げられる。
「非アミノ酸」とは、C、H、O、N及びSからなる群から選ばれる1種以上の原子からなるアミノ酸の類似体であって、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸に含まれない化合物をいう。なかでも、分子鎖長がペプチド相当長又はジペプチド相当長の化合物が好ましい。例えば、NH2-CH(CH2OH)-CH3、CH3-CH(R11)-COOH、CH3-CH(R11)- CH3(何れも分子鎖長がペプチド相当長)、又はNH2-(CH2)3CH(CH2OH)-COOH、NH2-(CH2)4-COOH、NH2-C(CH3)2-(CH2)3-COOH、 NH2-CH(CH3)-(CH2)2-CH(CH3)-COOH、NH2-(CH2)3CH(CH2OH)- CH3、NH2-(CH2)3CH(R11)- CH3(何れも分子鎖長がジペプチド相当長)等が本発明でいう「非アミノ酸」に含まれる。ここで、R11は、天然アミノ酸の側鎖を表す。ペプチドにおける「非アミノ酸残基」としては、例えば、-NH-CH(CH2OH)-CH2-、-CH2-CH(R11)-CO-、-CH2-CH(R11)-CH2-(何れも分子鎖長がペプチド相当長)、又は-NH-(CH2)3CH(CH2OH)-CO-、-NH-(CH2)4-CO-、-NH-C(CH3)2-(CH2)3-CO-、-NH-CH(CH3)-(CH2)2-CH(CH3)-CO-、-NH-(CH2)3CH(CH2OH)-CH2-、-NH-(CH2)3CH(R11)-CH2-(何れも分子鎖長がジペプチド相当長)等が挙げられ、隣接するアミノ酸との結合はペプチド結合でない場合がありえる。
【0029】
「ペプチド」又は「ペプチド断片」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合で連なった化合物のことをいう。ここで、非アミノ酸を含む場合は、当該非アミノ酸と隣接するアミノ酸との結合はペプチド結合ではない場合があるが、この場合の化合物もペプチド又はペプチド断片と総称する。
「保護されているペプチド断片」とは、ペプチド断片のアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖の、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片作製に際して又はペプチド断片の縮合反応に際して、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性置換基が保護基によって保護されているペプチドの断片をいう。以下、本明細書においては、「保護ペプチド断片」と略称する。
【0030】
「修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸」は、式1;−A(R)−(式中、Aはアミノ酸又は非アミノ酸を示し、RはAの側鎖に結合している修飾のために導入された置換基を示す。)で表わされる。
上記置換基Rは、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基又はカルボキシル基から水素原子を除去して形成される基に結合している場合もあるし、アミノ酸又は非アミノ酸のα炭素に直接結合している場合もある。置換基Rは、アミノ酸又は非アミノ酸の修飾された側鎖であってもよい。
上記置換基Rとしては、特に限定されない。例えば、Rとしては、式2;−(CH2)n−P−Q(式中、nは1〜10の整数を示し、Pは、−CO−、−SO2−、−CO−O−、−O−CO−、−O−、−CO−S−、−S−CO−、−CS−S−、−S−CS−、−S−、−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−NH−CO−、−CS−NH−CS−、−S−S−、−CS−NH−又は−NH−CS−を示し、Qは、水素原子、又はC1−35、好ましくはC1−20のアルキル基、C6−20のアリール基もしくはC7−16のアラルキル基を示す。)で表わされる基、式3;−P−Q(式中、P及びQは前記と同意義。)で表わされる基、又は式4;−Q(式中、Qは前記と同意義。)で表わされる基等が挙げられる。なかでも、上記Rとしては、アミノ酸又は非アミノ酸のα炭素に直接結合している場合、炭素数1以上のアルキル基を介して又は介さずに、エステル、エーテル、チオエステル、チオエーテル、アミド又はカルバミドからなる群から選ばれる結合により、C1−35、好ましくはC1−20のアルキル基、C6−20のアリール基又はC7−16のアラルキル基が結合している基が好ましい。置換基Rがアミノ酸又は非アミノ酸のα炭素に直接結合している場合、置換基Rは天然アミノ酸においてα炭素に結合している置換基を含まない。置換基Rがアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における反応性置換基に結合している場合、当該置換基Rは式4;−Q(式中、Qは前記と同意義。)で表わされる基であることが好ましい。
【0031】
ここで、上記「アルキル基」とは、環状、直鎖又は分枝鎖アルキル基を表し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、3,3−ジメチルブチル基、ヘプチル基、1−プロピルブチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基又はペンタデシル基等が挙げられ、これらは部分的に不飽和炭素結合を含んでいてもよく、炭素数は1乃至35、より好ましくは1乃至20、さらに好ましくは1乃至10である。
上記「アリール基」とは、例として、フェニル基、1−もしくは2−ナフチル基、ビフェニル基、1−,2−もしくは9−アントリル基、1−,2−,3−,4−もしくは9−フェナントリル基、アセナフチル基、アントラセニル基、アズレニル基等が挙げられる。炭素数は6乃至20、より好ましくは6乃至15である。
上記「アラルキル基」としては、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、o−ニトロベンジル基、p−ニトロベンジル基、ベンズヒドリル基、トリチル基等が挙げられる。炭素数は、好ましくは7乃至16である。
さらに、これらアルキル基、アリール基及びアラルキル基は、当技術分野で通常用いられる置換基を化学的に許容される位置及び個数で有していてもよい。
【0032】
「修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸」としては、アミノ酸又は非アミノ酸Aがセリン、スレオニン、システイン、ホモシステイン、リジン、オルニチン、グルタミン酸、2−アミノアジピン酸、ジアミノ酢酸、2−アミノマロン酸、アスパラギン酸、チロシン又はアスパラギンであり、置換基Rが式5;−(CH2)n−P1−Q1(式中、nは前記と同意義。P1は、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、O−グリコシド結合又はN−グリコシド結合を表し、Q1は、前記Qと同意義。)で示される基である場合が好ましい。
具体的には、例えば、アミノ酸Aがセリン、スレオニン、チロシン又はオキシプロリンである場合、そのアミノ酸は側鎖に水酸基を有するから、「修飾をうけたアミノ酸」としては、側鎖の水酸基がエーテル化又はエステル化されているセリン、スレオニン、チロシン又はオキシプロリンが挙げられる。アミノ酸Aがシステインである場合は、そのアミノ酸は側鎖にメルカプト基を有するから、「修飾をうけたアミノ酸」としては、側鎖のメルカプト基がチオエーテル化、チオエステル化又はジスルフィド化されているシステインが挙げられる。アミノ酸Aがリジン、アルギニン又は2,3−ジアミノプロピオン酸である場合は、側鎖にアミノ基を有するから、「修飾をうけたアミノ酸」としては、側鎖のアミノ基がアミド化、チオアミド化、カルバミド化、チオカルバミド化又はアルキル化されているリジン、アルギニン又は2,3−ジアミノプロピオン酸が挙げられる。アミノ酸Aがヒスチジン、トリプトファン、プロリン又はオキシプロリンである場合は、側鎖にアミノ基を有するから、「修飾をうけたアミノ酸」としては、側鎖のアミノ基がアミド化、チオアミド化、イミノエーテル化、イミノチオエーテル化、アルキル化されているヒスチジン、トリプトファン、プロリン又はオキシプロリンが挙げられる。
なかでも、「修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸」としては、側鎖の水酸基がエステル化されているセリン又はスレオニンが好ましい。
【0033】
さらに、上記置換基Rとしては、アミノ酸又は非アミノ酸Aの側鎖に−OH、−SH、−NH−又は−NH2を含む場合、これらをアシル化して形成される基がより好適な例として挙げられる。そのためのアシル基としては、例えば有機カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸化合物から水酸基を除去して形成される基が挙げられる。前記有機カルボン酸としてはより具体的には、脂肪酸が挙げられ、その炭素数は好ましくは2〜35、より好ましくは6〜18、最も好ましくは8〜16である。そのような脂肪酸としては、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、酪酸、カプロン酸、ウンデシル酸、パルミチン酸、デカン酸、ノナデカン酸、ベヘン酸、モンタン酸もしくはラクセン酸等の飽和脂肪酸、例えばアクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸もしくはアアテアロール酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。不飽和脂肪酸はモノエンであってもよいし、ポリエンであってもよい。なかでも、オクタン酸(好ましくは、カプリル酸)、デカン酸(好ましくは、カプリン酸)、ドデカン酸(好ましくは、ラウリル酸)等が好適な例として挙げられる。前記有機スルホン酸又は有機リン酸化合物についても、その炭素数は2〜35のものが好ましい。
【0034】
「修飾ペプチド又は蛋白質」とは、ペプチド又は蛋白質中に、上述の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を、1以上含むペプチド又は蛋白質をいう。
「グレリン」とは、内因性成長ホルモン分泌促進因子(GHS)のことであり、細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる活性及び成長ホルモンの分泌を誘導する活性を有する。なかでも、ヒト、ラット、マウス、ブタ、ニワトリ、ウナギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、カエル、ニジマス又はイヌ由来のグレリンが好ましい。より具体的には、「グレリン」としては、配列番号1〜21のいずれかに記載のアミノ酸配列を有し、3位セリン又はスレオニンの側鎖水酸基の水素原子が、n−オクタノイル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、デカノイル基又はドデカノイル基のいずれかで置換されている蛋白質、又は配列番号1〜21のいずれに記載のアミノ酸配列において、N末端の1番目から4番目までのアミノ酸配列以外の部分で、1〜10個、好ましくは1〜数個程度のアミノ酸が置換、付加又は欠失しているアミノ酸配列を有し、3位セリン又はスレオニンの側鎖水酸基の水素原子が、n−オクタノイル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、デカノイル基又はドデカノイル基のいずれかで置換されており、かつ細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有する蛋白質が挙げられる。
【0035】
「グレリン誘導体」としては、細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有し、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含むことを特徴とするペプチド又はその薬学的に許容される塩が挙げられる。なかでも、配列番号1に記載のアミノ酸配列においてアミノ末端から4番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から5番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から6番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から7番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から8番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から9番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から10番目までのアミノ酸配列を少なくとも有するペプチド又はその薬学的に許容される塩が好ましい。さらに、配列番号1〜21に記載のアミノ酸配列において、アミノ末端から4番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から5番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から6番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から7番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から8番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から9番目までのアミノ酸配列、好ましくはアミノ末端から10番目までのアミノ酸配列以外の部分で、少なくともひとつのアミノ酸、好ましくは1〜10個程度のアミノ酸、より好ましくは1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学的に許容される塩が好ましい。なかでも、上記態様の全てのペプチド又はその薬学的に許容される塩においては、アミノ末端から2番目又は3番目のアミノ酸、より好ましくはアミノ末端から3番目のアミノ酸が、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸であることが特に好ましい。
【0036】
また、配列番号1〜21に記載のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列の少なくともひとつのアミノ酸、好ましくは1〜10個程度のアミノ酸、より好ましくは1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列において、アミノ末端から4番目までのアミノ酸配列が、式6;A−B−C−D−(式中Aはアミノ酸、非アミノ酸、又はないことを示し、Bはアミノ酸、非アミノ酸、又はないことを示す。ただし、A+Bの分子鎖長がジペプチド相当長ある。C又はDは同一であっても異なっていてもよく、(a)修飾されたアミノ酸、(b)疎水性側鎖を有するアミノ酸、又は(c)塩基性側鎖を有するアミノ酸を示す。)で表されるペプチド断片に置き換えられているペプチド又はその薬学的に許容される塩も好ましい態様として挙げられる。前記「疎水性側鎖を有するアミノ酸」としては、ロイシン、バリン、ノルロイシン、ホモロイシン、ホモイソロイシン、ナフチルアラニン類、トリプトファン、フェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン等、あるいは、これらのN−メチルアミノ酸又はD−体などが挙げられる。前記「塩基性側鎖を有するアミノ酸」としては、リジン、アルギニン又はヒスチジン又はこれらのD−体などが挙げられる。中でも、前記式6中、Cが、上記修飾をうけたアミノ酸であり、Dが疎水性側鎖を有するアミノ酸であることがより好ましい。
【0037】
前記式6;A−B−C−D−で表されるペプチド断片の代わりに、次式7;A1−B1−C1−D1−(式中、A1はアミノ酸又は非アミノ酸、好ましくは天然アミノ酸又はそのD−体を示す。B1又はC1は、少なくとも一方が修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸であり、B1又はC1のうち一方のみが修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸である場合、他方は修飾をうけていないアミノ酸又は非アミノ酸、好ましくは天然アミノ酸又はそのD−体である。また、A1+B1の分子鎖長がジペプチド相当長ある。D1は、疎水性側鎖を有するアミノ酸又は塩基性側鎖を有するアミノ酸を示す。)で表されるペプチド断片を用いてもよい。
また、前記式6;A−B−C−D−で表されるペプチド断片の代わりに、次式8;B2−C2−D2−(式中、B2は、ジペプチド相当長の分子鎖長を有する非アミノ酸であり、C2は修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸であり、D2は、疎水性側鎖を有するアミノ酸又は塩基性側鎖を有するアミノ酸を示す。)で表されるペプチド断片を用いてもよい。
【0038】
さらに、「グレリン誘導体」としては、上述のような態様のペプチド又はその薬学的に許容される塩のアミノ末端やカルボキシル末端に修飾が施されていてもよい。具体的には、上述のような態様のペプチド又はその薬学的に許容される塩のカルボキシル末端に、更に塩基性アミノ酸が結合していることが好ましい。また、上述のような態様のペプチド又はその薬学的に許容される塩のアミノ末端が炭素数1以上の飽和あるいは不飽和アルキル基又はアシル基により修飾され及び/又はカルボキシル末端のカルボキシル基のOHがOZ又はNR2R3(Zは薬学的に許容し得る陽イオン又は低級の分枝鎖又は非分枝鎖アルキル基、R2及びR3は、水素原子及び低級(C1−6)の分枝鎖又は直鎖アルキル基からなる群から選択される互いに同一又は異なる基を示す)に変換されていることが好ましい。さらには、これらの修飾が組み合わされていてもよい。
【0039】
本発明にかかる修飾ペプチド又は蛋白質を製造する方法は、(a)修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護ペプチド断片を、弱酸性離脱樹脂を用いて製造し、また(b)修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護ペプチド断片を、前記(a)の保護ペプチド断片とは別個に製造し、前記(a)及び(b)で製造された保護ペプチド断片を縮合するという3工程からなることを特徴とする。
以下に、修飾ペプチド又は蛋白質の製造における各工程についてより具体的に述べる。
【0040】
本発明の製造方法によって得られる修飾ペプチド又は蛋白質、又はそれらの断片はペプチド性のものであるので、自体公知のペプチド合成法によって合成することができる。ここで、修飾ペプチドもしくは蛋白質、又はそれらの断片とは、これらの反応性官能基が保護基で保護された化合物も含む。ペプチドの合成方法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。即ち、粗修飾ペプチドもしくは蛋白質、又はそれらの断片を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離方法としては、例えば、以下の文献1〜3に記載された方法が挙げられる。
1. 泉屋信夫他「ペプチド合成の基礎と実験」丸善株式会社発行(1985年)
2. 矢島治明及び榊原俊平「生化学実験講座1、蛋白質の化学IV」日本生化学会編、東京化学同人発行(1977年)
3. 矢島治明監修「続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成」廣川書店発行
【0041】
修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護ペプチド断片を製造する工程は、弱酸性離脱樹脂上でペプチド鎖を延長する固相化学合成を用いることを特徴とする。より具体的には、弱酸性離脱樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖における、ペプチド断片作製に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基を適当に保護したアミノ酸又は非アミノ酸を、目的とするペプチド断片の配列通りに、自体公知の各種縮合方法に従い、弱酸性離脱樹脂上で縮合させ、作製された保護ペプチド断片を保護基を脱離させることなく弱酸性離脱樹脂から離脱させることにより、目的とする保護ペプチド断片を得ることができる。
【0042】
上記弱酸性離脱樹脂とは、ペプチド合成に用いられる樹脂であって、樹脂上に作製されたペプチド断片を弱酸性条件で樹脂から離脱させることができる樹脂をいう。例えば、弱酸性離脱樹脂としては、酢酸、トリフルオロ酢酸もしくはギ酸などのカルボン酸類、およびトリフルオロエタノールもしくはヘキサフルオロイソプロパノールなどのフッ素化アルコール類からなる群からなる1以上の化合物を含む溶液中で、樹脂上に作製されたペプチド断片を樹脂から離脱させることができる樹脂が好ましい。より具体的には、弱酸性離脱樹脂としては、例えば、2−クロロトリチル樹脂、トリチル樹脂、4−メチルトリチル樹脂、4−メトキシトリチル樹脂、Rink Amide Barlos樹脂等のトリチル系樹脂や、Sieber Amide樹脂等を挙げることができる。
【0043】
α−アミノ基と側鎖における反応性官能基(以下単に、側鎖官能基という。)の保護基としては、特に限定されない。例えば、 α−アミノ基の保護基としては、t−ブトキシカルボニル(Boc)、トリクロロエチルオキシカルボニル、t−アミルオキシカルボニル、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、メチルスルホニルエトキシカルボニル、トリクロロエトキシカルボニル、2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニルもしくはピリジン−4−メトキシカルボニル等の置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基;シクロペプチルオキシカルボニルもしくはシクロヘキシルオキシカルボニル等の置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル(Z)、p−メトキシベンジルオキシカルボニル(pMZ)、p−クロロベンジルオキシカルボニル(Cl−Z)、p−ブロモベンジルオキシカルボニル(Br−Z)、p−ニトロベンジルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、2−フェニルイソプロピルオキシカルボニル、p−メチルフェニルイソプロピルオキシカルボニル、p−ビフェニルイソプロピルオキシカルボニル、3,5−ジメトキシ−α,α−ジメチルベンジルオキシカルボニル等の置換基を有していてもよいアラルキルオキシカルボニル基;ベンジル(Bzl)、ベンズヒドリル、トリチル等の置換基を有していてもよいアラルキル基;トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル(Ts)、o−ニトロフェニルスルフェニル、2,4−ジニトロフェニルスルフェニル、3−ニトロ−2−ピリジルスルフェニル等の置換基を有していてもよいアシル基;ジチアスクシノイル、2−ニトロフェニルチオ、ジフェニルホスフィニル、ジフェニルホスフィノチオイル、ジメチルホスフィノチオイル等が挙げられる。
【0044】
セリン等の水酸基は、例えば、アセチル基等の低級(C1−6)アルカノイル基、ベンゾイル基等のアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭酸から誘導される基等で保護できる。
アルギニンのグアニジノ基は、例えば、ニトロ基、Z基、Ts基、p−メトキシベンゼンスルホニル基(Mbs)、4−メトキシ−2,6−ジメチルベンゼンスルホニル基(Mds)、4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル基(Mtr)、メシチレン−2−スルホニル基(Mts)、2,3,4,5,6−ペンタメチルベンゼンスルホニル基(Pme)、2,4,6−トリメトキシベンゼンスルホニル基(Mtb)、2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル基(Pmc)、2,2,4,6,7−ペンタメチル−ジヒドロベンゾフラン−5−スルホニル基(Pbf)等で保護できる。
また、システインのメルカプト基は、例えば、トリチル基、アセトアミドメチル(Acm)基、tert−ブチル基、ベンジル基、p−メチルベンジル基、p−メトキシベンジル基、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル基、ブチルチオ基等で保護できる。
ヒスチジンのイミダゾリル基の保護基としては、例えば、Boc基、トリチル(Trt)基、Ts基、4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル基、2,4−ジニトロフェノール(DNP)基、ベンジルオキシメチル(Bom)基、t−ブトキシメチル(Bum)基、Fmoc基等が用いられる。
また、トリプトファンのインドリル基は、例えば、ホルミル基、Z基、2,4−ジクロロベンジルオキシカルボニル基、トリクロロエチルオキシカルボニル基、4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル基、2,4,6−トリメトキシベンゼンスルホニル基等で保護できる。
【0045】
固相合成法による縮合反応は、上述の弱酸性離脱樹脂にアミノ酸を1個ずつ順次縮合させる逐次延長法、2個以上のアミノ酸で構成されたペプチド断片を縮合させる断片縮合法やこれらの方法を組み合わせた方法の何れの方法で行ってもよい。前記2個以上のアミノ酸で構成されたペプチド断片は、各アミノ酸から慣用の液相法、固相法等により製造することができる。
【0046】
まず、上記のようなα−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸又は非アミノ酸(以下、特に断りのない限り、保護アミノ酸と略称する。)を活性化し、弱酸性離脱樹脂に活性化された保護アミノ酸を縮合する。その際、保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、ペプチド縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の酸アミド類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;トリフルオロエタノール、フェノール等のアルコール類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ピリジン,ジオキサン,テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトニトリル,プロピオニトリル等のニトリル類;酢酸メチル,酢酸エチル等のエステル類又はこれらの適宜の混合物等が用いられる。反応温度はペプチド結合形成反応の反応温度と同一であってよく、通常約−20℃〜50℃程度の範囲から適宜選択される。活性化された保護アミノ酸は通常1〜4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行うことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行うことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸又はアセチルイミダゾールを用いて未反応保護アミノ酸をアセチル化することによって、後の反応に影響を与えないようにすることができる。
【0047】
ついで、弱酸性離脱樹脂に縮合された保護アミノ酸に、所望の配列どおりに、保護アミノ酸を縮合させていく。各保護アミノ酸の縮合反応は、慣用の方法、例えば、C端活性化法、カップリング試薬を用いるカップリング法等により行うことができる。C端活性化法には、活性エステル法、対称酸無水物法等が含まれる。前記活性エステル法で用いる活性エステルとしては、例えば、シアノメチルエステル等のアルキルエステル;チオフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、p−メタンスルホニルフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、2,4−ジニトロフェニルエステル、2,4,6−トリクロロフェニルエステル、ペンタクロロフェニルエステル等のフェニルエステル;1−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、N−ヒドロキシフタル酸イミドエステル、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HONB)等のジカルボン酸イミドエステル;8−ヒドロキノリンエステル、N−ヒドロキシピペリジンエステル、2−ヒドロキシピリジンエステル等のヒドロキシルアミン誘導体等が挙げられる。
【0048】
上記カップリング試薬を用いるカップリング法としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、水溶性カルボジイミド(WSC)等を用いるカルボジイミド法;DCC−アディティブ法;カルボニルジイミダゾール(CDI)法;ウッドワード(Woodward)反応剤(N−エチル−5−フェニルイソオキサゾリウム−3’−スルホン酸塩)もしくはN−エチル−2’−ヒドロキシベンズイソオキサゾリウムトリフルオロホウ酸塩等のイソオキサゾリウム塩、1−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキシキノリン(EEDQ)、1−エトキシカルボニル−2−イソブトキシ−1,2−ジヒドロキシキノリン(IIDQ)、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)−フォスホニウムヘキサフルオロフォスフェート(BOP)、O−ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチル−ウロニウム−ヘキサフルオロフォスフェート(HBTU)、O−ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチル−ウロニウム−テトラフルオロボレート(TBTU)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)を用いる方法等が例示される。
【0049】
上記カルボジイミド法で用いられる水溶性カルボジイミド(WSC)には、例えば、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)、N−シクロヘキシル−N’−モルホリノエチルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N’−(N,N−ジエチルアミノ)シクロヘキシルカルボジイミド等が含まれる。水溶性カルボジイミドは、塩酸塩等の塩であってもよい。
また、上記DCC−アディティブ法には、例えば、DCC−HOSu法、DCC−HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)法、DCC−HONB法、DCC−2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステル法、WSC−HOSu法、WSC−HOBt法等が含まれる。
【0050】
好ましい縮合反応には、カルボジイミド法、活性エステル法、DCC−アディティブ法が含まれる。さらに好ましい縮合反応には、ラセミ化を抑制する方法、例えば、活性エステル法、DCC−アディティブ法(例えば、DCC−HOBt法、DCC−HOSu法、WSC−HOSu法、WSC−HOBt法等)等が含まれる。
【0051】
目的とする保護ペプチド断片には、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む。ペプチド鎖に修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を挿入する方法としては、下記2通りの方法が挙げられる。
第一の方法としては、所望のアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖を特異的に予め修飾しておき、かかるアミノ酸又は非アミノ酸(以下、残基特異的に修飾されたアミノ酸又は非アミノ酸という。)を、ペプチド鎖の伸長段階で導入するという方法が挙げられる。より具体的には、残基特異的に修飾されたアミノ酸又は非アミノ酸(これらのαアミノ基に保護基を付した化合物を含む)は、自体公知の合成方法によって合成することができる。例えば、エステル化反応、アミド化反応、エーテル化反応、アシル化反応、アルキル化反応などが挙げられ、これらは当業者に周知の方法により行われ得る。さらに、これを前述した縮合反応のいずれかによりペプチド鎖に導入することができる。この場合、その弱酸性離脱樹脂からの保護ペプチド断片の脱離は後述する条件から適宜選択されるが、好ましくは目的とする残基特異的に修飾されたアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖の置換基Rを脱離させない条件から適宜選択されることが好ましい。
【0052】
第二の方法としては、アミノ酸又は/及び非アミノ酸からなる所望の配列を有するペプチド断片を上記方法により作製し、その後、所望のアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖を特異的に修飾する(以下、残基特異的修飾という。)という方法が挙げられる。前記の残基特異的修飾の方法は特に限定されず、公知の方法を用いてよい。例えば、エステル化反応、アミド化反応、エーテル化反応、アシル化反応、アルキル化反応などが挙げられ、これらは当業者に周知の方法により行われ得る。さらに、リン酸化修飾する方法としては、Tetrahedron Letter, 41巻, p.4457-4461,2000年、Biopolymers, 60巻, p.3-31, 2001年等が挙げられる。また、糖修飾する方法としてはInt. J. Peptide Protein Res., 42巻, p.165-170, 1993年、Science, 291巻, p.2344-2350, 2001年、Science, 291巻, p.2357-2364, 2001年等が挙げられる。
【0053】
かかる方法は、下記2通りの場合に分けられる。即ち、残基特異的修飾を施すアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖の官能基が保護基により保護されている場合、かかる保護基の脱保護の際に同時に保護ペプチド断片が樹脂から離脱してしまう場合と、かかる保護基の脱保護の際には保護ペプチド断片は樹脂から離脱しない場合とに大別される。前者の場合、C末端のカルボキシル基を保護基により保護した後、自体公知の合成方法により残基特異的修飾を施し、その後、C末端のカルボキシル基を後述する方法から適宜選択して脱保護することにより目的のペプチド断片を得ることができる。また、後者の場合、樹脂上で自体公知の合成法により残基特異的修飾を施すことができ、その後、目的のペプチド断片を、後述する方法から適宜選択して樹脂から離脱すればよい。
【0054】
本発明においては、アミノ酸又は/及び非アミノ酸からなる所望の配列を有するペプチド断片を上記方法により作製し、その後、残基特異的修飾を施すアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖の反応性官能基が保護基により保護されている場合は、その保護基を脱保護し、樹脂上で自体公知の合成法により残基特異的修飾を施し、ついで、後述する弱酸性離脱樹脂からの保護ペプチド断片の離脱、及び所望により各保護基の脱保護を行うという方法が最も好ましい。
上記方法において、残基特異的修飾を施すアミノ酸又は非アミノ酸の保護基としては、かかる保護基を脱保護する際に保護ペプチド断片が樹脂から離脱しないものであれば特に限定されないが、好ましくはt−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等のシリル基等が挙げられる。このような保護基を脱保護する際は、保護ペプチド断片が樹脂から離脱されず、かつ、残基特異的修飾を施すアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖官能基の保護基を特異的に脱保護することができる試薬を用いる。かかる試薬は、弱酸性離脱樹脂及び前記保護基の種類に応じて適宜選択されるが、前記保護基がシリル基である場合は、フッ化四級アンモニウムを用いることが好ましく、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)を用いることがより好ましい。
【0055】
上記のように保護基を選択すると、ペプチド伸長の縮合のためN末端アミノ基を脱保護する際に、各保護アミノ酸の側鎖官能基の保護基及び弱酸性離脱樹脂から保護ペプチド断片が脱離せず、また、得られたペプチド−樹脂結合体から弱酸性離脱樹脂を脱離する際に、各アミノ酸残基の側鎖官能基の保護基が脱離しない。しかも、このことに起因して、副反応物の生成を抑制することができる。そのため、側鎖官能基が保護基により保護されたペプチド断片を、高い純度で収率よくしかも簡易に得ることができる。このペプチド断片は、側鎖官能基が保護されているので、新たに保護基を導入する必要がなく、次工程において、液相法により目的とする修飾ペプチド又は蛋白質を製造する際の原料として、好適に使用することができる。
【0056】
最後に、作製された保護ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱させる。このとき、保護ペプチド断片における保護基、即ち、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖官能基の保護基が脱保護されない弱酸性条件で行う。弱酸性条件とは、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸もしくはギ酸などのカルボン酸類、および/またはトリフルオロエタノールもしくはヘキサフルオロイソプロパノールなどのフッ素化アルコール類を含む溶液中に、弱酸性離脱樹脂を懸濁させた条件が挙げられる。具体的には、上記溶液中で、所望時間、好ましくは5分〜4時間程度、より好ましくは10分〜2時間程度攪拌することにより、作製された保護ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱させることができる。より具体的には、例えば、Barlosらの方法(Tetrahedron Lett, Vol.30, p.3947,1989)等に記載されている公知の方法、例えば、0.5%トリフルオロ酢酸/ジクロロメタン、あるいは酢酸/トリフルオロエタノール/ジクロロメタン=1/2/7、あるいは酢酸/トリフルオロエタノール/ジクロロメタン=2/2/6等の溶媒に懸濁させる方法に従えばよい。
【0057】
本発明においては、ペプチド鎖に修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を挿入することなく、保護ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱させ、ついで所望のアミノ酸残基に残基特異的修飾を施すことによっても、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含むペプチド断片を製造することができる。残基特異的修飾の方法は、上記と同一である。
【0058】
以上述べてきた製造方法は、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護ペプチド断片であれば、特に制限なく適用されうる。中でも、下記式9で表わされる修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護ペプチド断片又はその塩の作製に、上記方法を用いるのが好ましい。
即ち、式9;(R1)n−Gly−Ser(X1)−A(R)−Phe−Leu−Ser(X2)−Pro−OR2
(式中、−A(R)−は、上記修飾を受けたアミノ酸又は非アミノ化合物である。なかでも、Aは、セリン、スレオニン、システイン、ホモシステイン、リジン、オルニチン、グルタミン酸、2−アミノアジピン酸、ジアミノ酢酸、2−アミノマロン酸、アスパラギン酸、チロシン、アスパラギンが好ましく、Rは、アシル基、糖、リン酸基、硫酸基、アルキル基、アラルキル基、アロイル基等の修飾基が好ましく、RがAの側鎖の反応性置換基にエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、O−グリコシド結合又はN−グリコシド結合を介して結合していることが好ましい。
R1は、t−ブトキシカルボニル(Boc)、トリクロロエチルオキシカルボニル、t−アミルオキシカルボニル、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、メチルスルホニルエトキシカルボニル、トリクロロエトキシカルボニル、2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニルもしくはピリジン−4−メトキシカルボニル等の置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基;シクロペプチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル等の置換基を有していてもよいシクロアルキルオキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル(Z)、p−メトキシベンジルオキシカルボニル(pMZ)、p−クロロベンジルオキシカルボニル(Cl−Z)、p−ブロモベンジルオキシカルボニル(Br−Z)、p−ニトロベンジルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、2−フェニルイソプロピルオキシカルボニル、p−メチルフェニルイソプロピルオキシカルボニル、p−ビフェニルイソプロピルオキシカルボニル、3,5−ジメトキシ−α,α−ジメチルベンジルオキシカルボニル等の置換基を有していてもよいアラルキルオキシカルボニル基;ベンジル(Bzl)、ベンズヒドリル、トリチル等の置換基を有していてもよいアラルキル基;トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル(Ts)、o−ニトロフェニルスルフェニル、2,4−ジニトロフェニルスルフェニル、3−ニトロ−2−ピリジルスルフェニル等の置換基を有していてもよいアシル基;ジチアスクシノイル、2−ニトロフェニルチオ、ジフェニルホスフィニル、ジフェニルホスフィノチオイル、ジメチルホスフィノチオイルを示し、
nは、1もしくは2であり、
X1及びX2は、セリン側鎖の水酸基の保護基を示し、アセチル基等の低級(C1−6 )アルカノイル基;ベンゾイル基等のアロイル基;ベンジルオキシカルボニル基もしくはエトキシカルボニル基等の炭酸から誘導される基を示すか、又は、側鎖に上述の置換記Rをエーテル結合を介して結合させるというエーテル化に適する基として、例えば、t−ブチル基、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、トリチル基、t−ブチルジメチルシリル基等のシリル基を示し、
R2は、保護基又は保護基が無いことを示し、保護基がある場合は、アルキルエステル基(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、t−ブチルエステル、シクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル、シクロヘプチルエステル、シクロオクチルエステル、2−アダマンチルエステル等の直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル基)、アラルキルエステル基(例えば、ベンジルエステル、4−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル基)、フェナシルエステル基、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド基、t−ブトキシカルボニルヒドラジド基、トリチルヒドラジド基を示す。)
で表されるペプチド又はその塩等である。
【0059】
式9中、R1はBoc基、Z基、pMZ基又はFmoc基が好ましく、X1及びX2で表される保護基としては、好ましくはt−ブチル基又は34ベンジル基、さらに好ましくはt−ブチル基が挙げられる。R2は、水素あるいはチオエステル基が好ましい。
【0060】
さらに、以上述べてきた製造方法は、グレリン、好ましくはヒト、ラット、マウス、ブタ、ニワトリ、ウナギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、カエル、ニジマスもしくはイヌのグレリン、又はグレリン誘導体を製造する際に好適に用いられる。また、前記グレリン又はグレリン誘導体の中の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含む部分を製造する際にも好適に用いられる。前記各生物のグレリンの構造は、表1に記載している。
より具体的には、(a)配列番号1〜21のいずれかに記載のアミノ酸配列において、少なくともN末端の1番目から4番目のアミノ酸配列を有し、好ましくは当該アミノ酸配列においてN末端の1番目から5番目のアミノ酸配列からなるか、又は当該アミノ酸配列においてN末端の1番目から7番目のアミノ酸配列からなり、(b)N末端から3番目のセリン又はスレオニンの側鎖の水酸基が、アシル化、好ましくは飽和又は不飽和の炭素数2〜35、好ましくは6〜18のアルキル基によりアシル化されており、(c)アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片作製に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基、好ましくは水酸基及びアミノ基が保護基により保護されているペプチド断片の製造に、以上述べてきた製造方法は有用である。
【0061】
本発明においては、修飾を受けたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護ペプチド断片を、前記修飾を受けたアミノ酸又は非アミノ酸を含む保護ペプチド断片とは別個に製造する。
本発明におけるペプチド又は蛋白質の、アシル化、糖化、リン酸化等の修飾を受けたアミノ酸もしくは非アミノ酸を含まないペプチド断片は、自体公知の遺伝子組換法もしくは酵素法により製造することができる。例えば、前記ペプチド断片のアミノ酸配列を有するペプチド(以下、目的ペプチドという。)をコードする塩基配列を有する発現ベクターにより形質転換された細胞を培養して、当該培養物から目的ペプチドを採取する工程、及び前記工程で得られた目的ペプチドの側鎖官能基のうち、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する官能基を保護基により保護する工程を含む方法により製造することができる。発現ベクターの作製方法は、当技術分野における常法に従って行うことができる。発現ベクター作製の際には、目的ペプチドの高発現に必要なその他の要素、例えばプロモーター、ターミネーター、スプライス部位等についても従来の方法において既に知られているものを適宜用いることができる。前記発現ベクターにより形質転換される宿主細胞も特に限定されるものではなく、従来の方法において既に用いられている原核細胞又は真核細胞、例えは大腸菌等の微生物細胞、酵母又は動物細胞等から、目的ペプチドをコードする塩基配列が好適に発現できるものを適宜選択して用いることができる。目的ペプチドの側鎖官能基の保護も、上述と同一の方法で行えばよい。
【0062】
修飾を受けたアミノ酸もしくは非アミノ酸を含まないペプチド断片は、
工程(1);(a)目的ペプチドに所望によりリンカー配列を介して保護ペプチドが付加されている融合蛋白質をコードする塩基配列を有する発現ベクターにより形質転換された細胞を培養して、当該培養物から前記融合蛋白質を採取する工程;
工程(2);工程(1)において得られた融合蛋白質から、保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドと切断分離し、所望によりさらに精製する工程;
工程(3);(2)で得られた目的ペプチドの側鎖官能基のうち、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する官能基を保護基により保護する工程;
を含む方法により製造することもできる。
【0063】
保護ペプチドは、目的ペプチドが宿主細胞内で酵素により分解されるのを抑制する目的で用いられるものであり、当該目的を達成できるものであれば特に限定されないが、大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼに係るアミノ酸配列を有するフラグメントを用いることができる。当該酵素に係るアミノ酸配列は当業者にとって公知であり、β−ガラクトシダーゼ由来のペプチドフラグメントは広く当業者により融合蛋白法における保護ペプチドとして用いられている。
リンカー配列は、工程(2)において保護ペプチドと目的ペプチドとの切断分離に適した酵素がない等、保護ペプチドと目的ペプチドとの切断分離がうまくいかない場合、保護ペプチドと目的ペプチドとの間に挿入される配列である。従って、工程(2)においてリンカー配列と目的ペプチドとの切断分離がうまくいくように、その配列を適宜選択することができる。
【0064】
保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドと切断分離は、酵素的又は/及び化学的な方法で行うことができる。
酵素的及び化学的な切断方法としてはMethods in ENZYMOLOGY,185巻,Gene Expression Technology(David V.Goeddel編集、出版社ACADEMIC PRESS,INC)に記載されている方法も用いることができる。
化学的切断方法としては、メチオニンのC末端側をブロムシアンで切断する方法(D.V.Goeddel et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.76,p106-110,1979)、-Asp-Pro-配列の間を蟻酸で切断する方法(Biochem.Biophys.Res.Commun.,Vol.40,p1173,1970)、-Asn-Gly-配列の間をヒドロキシルアミンで切断する方法及びトリプシンのC末端側をBNPS-スカトール又はN-クロロスクシンイミドで切断する方法等が挙げられる。例えば、目的ペプチドに係るアミノ酸配列中にメチオニンが含まれない場合は目的ペプチドに隣接する切断部位領域の末端にメチオニンを導入し、ブロムシアン処理により化学的に切断部位領域での切断を行うことができる。
また、酵素的切断方法としては、切断処理に用いる酵素が基質として特異的に認識することができる切断部位領域を設定すれば良く、それらの例としては、アルギニン−アルギニン、リジン−リジン、アルギニン−リジンおよびリジン−アルギニンの塩基性アミノ酸対の中央のペプチド結合、またはアルギニン−メチオニン、アルギニン−アラニンもしくはアルギニン−バリンのアミノ酸対の中央のペプチド結合を大腸菌OmpTプロテアーゼ(Sugimura, K. and Nishihara, T. J. Bacteriol. 170: 5625-5632, 1988)で、X-Gly又はPro-X-Gly-Pro配列の-X-Gly-配列の間をコラゲナーゼ(Collagenase)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.81,p4692-4696,1984)で、-Asp-Asp-Asp-Lys-配列(配列番号:22)のLysのC末端側をエンテロキナーゼ(Enterokinase)で、-Ile-Glu-Gly-Arg-配列(配列番号:23)のArgのC末端側を血液凝固因子Xa(blood coagulation Factor Xa)(特開昭61-135591)で、-Gly-Pro-Arg-配列のArgのC末端側をトロンビン(Thrombin)(特開昭62-135500)で、-Arg-のC末端側をトリプシン(Trypsin)又はクロストリパイン(Clostripain)で、Arg又はLysのC末端側をエンドプロテアーゼ(endoprotease)Arg-C(Nature,Vol.285,p456-461,1980)で、Lys-Arg、Arg-Arg又はPro-Arg配列のC末端側をサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Kex2プロテアーゼ及びその誘導体(Biochem.Biophys.Res.Commun.,Vol.144,p807-814,1987、特開平1-199578、特開平10-229884)で、LysのC末端側をリシル エンドペプチダーゼ(lysl endopeptidase)又はエンドペプチダーゼ(endopeptidase)Lys-C(特開昭61-275222)で、Asp又はGluのC末端側をスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)V8プロテアーゼ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.69,p3506-3509,1972)で、-Phe-Arg-配列のC末端側をカリクレイン(Kallikrein)(特開昭62-248489)で、-Pro-Phe-His-Leu-Leu-Val-Tyr-配列(配列番号:24)のLeu-Leuの間をレニン(renin)で(特開昭60-262595)、-Glu-Gly-Arg-配列のC末端側をウロキナーゼ(Urokinase)(特開平2-100685)で、Val-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys配列(配列番号:25)のC末端側をエンテロペプチダーゼ(entero-peptidase)(Biotechnology,Vol.6,p1204-1210,1988)で、poly-GlyのC末端側をリソスタフィン(lysostaphin)(特開平1-160496)で、Lys-Arg,Arg-Arg又はPro-Arg等のC末端側をクリベロミセス・ラクチス(Kluverromyces lactls)(特開平1-124390)で切断する方法等が挙けられる。
【0065】
本方法における発現ベクター、宿主細胞及び目的ペプチドの側鎖官能基の保護については、上記方法と同様である。
さらに、遺伝子組換法もしくは酵素法を用いた修飾を受けたアミノ酸もしくは非アミノ酸を含まないペプチド断片の製造方法は、国際公開番号:WO99/38984に記載されている方法を用いることもできる。
【0066】
修飾を受けたアミノ酸もしくは非アミノ酸を含まないペプチド断片が、グレリン及びグレリン誘導体の修飾を受けたアミノ酸もしくは非アミノ酸を含まないペプチド断片(以下、グレリン断片(非修飾成分)という。)である場合、国際公開番号:WO 01/07475に、遺伝子組換法及び酵素法による製造方法が記載されている。
【0067】
さらに、国際公開番号:WO 00/52193に記載されているGlucagon like peptide-1の生産で使用している保護たんぱく質及びリンカー配列を適応させて、OmpTプロテアーゼ又はその誘導体、ならびにKex2プロテアーゼ又はその誘導体による2段階酵素法を用いてもグレリン断片(非修飾成分)を製造することができる。この方法では宿主である大腸菌の内在性OmpTプロテアーゼを活用することが可能なため、酵素を別途調製する必要がない。前記OmpTプロテアーゼまたはKex2プロテアーゼの誘導体としては、OmpTプロテアーゼまたはKex2プロテアーゼと同一の活性を有するものであれば特に限定されない。OmpTプロテアーゼ誘導体としては大腸菌のOmpPプロテアーゼ、サルモレラのpgtEプロテアーゼに代表されるOmptinファミリーに属する酵素やOmpTプロテアーゼの活性部位を含む部分ペプチドなどが挙げられ、Kex2プロテアーゼ誘導体としては、特開平10-229884に記載の誘導体およびFurin、PC1/3に代表されるKex2ファミリーに属する酵素などが挙げられる。
本方法では、実施例13に示すように、国際公開番号:WO 00/52193に記載されているリンカー配列EPHHHHPGGRQMHGYDADVRLYRRHHGSGSPSRHPR(配列番号26)の代わりに、当該配列における35番目プロリン残基をアルギニン残基に置換した配列EPHHHHPGGRQMHGYDADVRLYRRHHGSGSPSRHRR(配列番号27)をリンカー配列として用いることにより、OmpTプロテアーゼ及びKex2プロテアーゼを使用した2段階酵素処理法で、グレリン断片(非修飾成分)、なかでもグレリン(8−28)断片、特にヒトグレリン(8−28)断片を効率よく得ることができる。新たに見出された配列番号27に記載のリンカー配列内にはOmpTプロテアーゼの切断認識部位以外にも別箇に切断認識部位が生じるにもかかわらず、目的の部位でのみ正常に切断が起きている(実施例3参照)。
【0068】
さらに、保護ペプチド断片(非修飾成分)を精製・保存する際に、精製又は保存に用いる溶液のpHを4−8に調整することにより保護基の離脱を防ぐことができる。そして、保護基の脱離を抑制することにより、高回収率で高純度の修飾ペプチド又は蛋白質を調製することができる。前記精製又は保存に用いる溶液としては、水溶液が好ましい。具体的には、水、好ましくは限外ろ過水、酢酸ナトリウム溶液などが挙げられる。水溶液中での保護ヒトグレリン(8−28)断片の安定性を調べた実施例15から明らかなように、Boc基により保護されたペプチド断片は水溶液状態によってその安定性が異なり、特にpH2以下の水溶液状態においては明らかな本保護基の離脱が認められたことから、保護基としてBoc基を用いた場合は、特に精製・保存時の溶液のpHを4−8の間に設定することが好ましい。
【0069】
ついで、本発明においては、以上のようにして得られた(a)修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護ペプチド断片と、(b)修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護ペプチド断片とを、縮合し、所望により、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖官能基の保護基を脱保護する。
【0070】
上記縮合反応は、液相法により行われることが好ましい。また、上記(a)及び(b)のペプチド断片を液相法により縮合する反応において、前記ペプチド断片の各アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖官能基は、通常、保護基で保護されている。前記保護基としては、各官能基の保護基として上記に例示した保護基が挙げられる。好ましい保護基としては、前記(a)及び(b)の保護ペプチド断片の保護基を、同様の脱離条件下で脱離することができる保護基が挙げられる。なお、この場合には、弱酸性離脱樹脂がすでに脱離しているため弱酸性離脱樹脂の脱離条件を考慮する必要はなく、また、この場合の側鎖官能基の保護基としては、N末端アミノ基の脱離条件で脱離する保護基がより好ましい。
【0071】
前記(a)及び(b)の保護ペプチド断片を液相法により縮合する反応において、縮合に用いる試薬や条件等は上述のアミノ酸縮合反応において記載したものから適宜選択される。好ましくは、ペプチド又は蛋白質のラセミ化異性体等の不純物をより副生しにくい方法から選択される。特に、縮合に用いる試薬(縮合剤)としては、例えば、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、ジフェニルホスホロシアニデート(DEPC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等が好適な例として挙げられる。中でも、縮合剤が、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)であり、前記縮合剤を用いるペプチド断片の縮合が、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)又は3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−ベンゾトリアジン(HOOBt)の存在下、行われることがより好ましい。
【0072】
縮合した反応生成物において、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖の保護基は適宜脱保護することができる。この場合における脱保護の試薬や条件等は、好ましくは、ペプチド又は蛋白質のラセミ化異性体等の不純物をより副生しにくい方法から選択される。
各保護基の脱離条件は、例えば、前記「ペプチド合成の基礎と実験」等に記載されている公知の方法に従えばよい。保護基の脱離方法には、強酸、弱酸、塩基、還元試薬(接触還元、金属、チオール等)、酸化試薬、親核試薬、親電子試薬、イオン、電子、光、溶媒、酵素等をそれぞれ利用する方法があり、前記保護基の選択には、これらの脱離方法の脱離条件を考慮して行うことができる。
【0073】
保護基の除去方法(脱保護反応)としては、例えば、トリフルオロ酢酸、酢酸、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、あるいはこれらの混合液等(好ましくはトリフルオロ酢酸、酢酸等)による酸処理;ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジン等による塩基処理;Pd−炭素等の触媒の存在下での水素気流中での接触還元;酢酸中亜鉛末処理(Zn/AcOH);又は、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)処理等も用いられる。上記の脱保護反応は一般に約40℃以下の温度で行なわれるが、好ましくは約25℃以下で行うことにより、保護ペプチド断片のラセミ化異性体の副生を効果的に抑制することができる。上記の脱保護反応の反応時間は通常約0.5〜約5時間である。
【0074】
上記酸処理においては、例えば、水、トリイソプロピルシラン(TIPS)、フェノール、アニソール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4−ブタンジチオール、1,2−エタンジチオール等(好ましくはフェノール等)のようなカチオン捕捉剤を添加することが好ましい。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4−ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2−エタンジチオール、1,4−ブタンジオール等の存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニア等によるアルカリ処理によっても除去される。
【0075】
本発明により得られた反応生成物は、例えば、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、電気泳動法等の慣用の分離精製手段により、単離精製できる。また、精製する生成物は、最終目的とする修飾されたペプチド又は蛋白質に限らず、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護ペプチド断片、もしくは修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護ペプチド断片、又はこれらの製造工程における中間体として得られた生成物を、上述の分離精製手段により適宜精製することができることは言うまでも無い。
【0076】
以上のようにして、修飾ペプチド又は蛋白質を製造することができる。本発明にかかる上記製造方法は、修飾ペプチド又は蛋白質であれば、特に制限なく適用されうる。中でも、グレリン、好ましくはヒト、ラット、マウス、ブタ、ニワトリ、ウナギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、カエル、ニジマス、もしくはイヌのグレリン、又はグレリン誘導体を製造する際に好適に用いられる。なお、前記各生物のグレリンの構造は、表1に記載している。本発明により得られるグレリン又はグレリン誘導体は、従来の技術により得られるグレリン又はグレリン誘導体に比べ、不純物(特にグレリン又はグレリン誘導体のラセミ化異性体)の量が大幅に少ない極めて高品質のグレリン又はグレリン誘導体である。その結果、より簡便な精製方法により十分な精製を効果的に行うことができ、作業時間を短縮し、高収率でグレリン又はグレリン誘導体を製造することができる。この点からも従来技術に比べ、本発明の製造方法はグレリン又はグレリン誘導体の工業的製造方法として極めて有利な方法である。
【0077】
上記「高品質のグレリン又はグレリン誘導体」としてより具体的には、例えば、総類縁物質の含量が約1%以下(好ましくは約0.9%以下、より好ましくは約0.8%以下、更に好ましくは約0.7%以下)である精製グレリン又はグレリン誘導体又はその塩等が挙げられる。ここで、総類縁物質とは、高速液体クロマトグラフィー等により検出される、全ての不純物の合計を意味し、不純物としては、グレリン又はグレリン誘導体のラセミ化異性体、高極性類縁物質、その他の不純物が挙げられる。
【0078】
本発明にかかる修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法の特に好ましい態様は、以下の通りである。すなわち、
工程1;(a)配列番号1〜21のいずれかに記載のアミノ酸配列において、少なくともN末端の1番目から4番目のアミノ酸配列を有し、好ましくは当該アミノ酸配列においてN末端の1番目から5番目のアミノ酸配列からなるか、又は当該アミノ酸配列においてN末端の1番目から7番目のアミノ酸配列からなり、(b)N末端から3番目のセリン又はスレオニンの側鎖の水酸基が、アシル化、好ましくは飽和又は不飽和の炭素数2〜35、好ましくは6〜18のアルキル基によりアシル化されており、(c)アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片作製及び下記工程(4)におけるペプチド断片の縮合反応に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基、好ましくは水酸基及びアミノ基が保護基により保護されているペプチド断片を、弱酸性離脱樹脂上で製造する工程、
工程(2);弱酸性条件で前記ペプチド断片における保護基を脱離させることなく前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱させる工程、
工程(3);配列番号1〜21のいずれかに記載のアミノ酸配列において、工程(1)及び(2)で作製されたペプチド断片が有するアミノ酸配列以外のアミノ酸配列、好ましくは当該アミノ酸配列においてN末端の6番目から28番目のアミノ酸配列からなるか、又は当該アミノ酸配列においてN末端の8番目から28番目のアミノ酸配列からなり、かつ、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片作製及び下記工程(4)におけるペプチド断片の縮合反応に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基、好ましくは水酸基及びアミノ基が保護基により保護されているペプチド断片を製造する工程、
工程(4);前記工程(2)で製造されたペプチド断片と工程(3)で製造されたペプチド断片を縮合し、ついで、所望により反応性官能基の保護基を脱保護する工程
を含む修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法である。
【0079】
本発明にかかる方法により得られる修飾ペプチド又は蛋白質は、反応条件により、遊離のペプチド又はその塩の形態で得られる。遊離のペプチドとその塩は、慣用の方法により相互に変換可能である。遊離のペプチドを、薬理的に許容できる塩とする場合には、例えば、次記例示の無機酸、有機酸等と反応させればよい。上記のペプチド又は蛋白質の塩としては、薬理学的に許容される塩が好ましく、このような塩としては、該ペプチド又は蛋白質がアミノ基等の塩基性基を有する場合、無機酸(無機の遊離酸とも称する)(例、炭酸、重炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等)、有機酸(有機の遊離酸とも称する)(例、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等)等との塩があげられる。該ペプチド又は蛋白質がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、無機塩基(無機の遊離塩基とも称する)(例、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等)や有機塩基(有機の遊離塩基とも称する)(例、トリエチルアミン等の有機アミン類、アルギニン等の塩基性アミノ酸類等)等との塩があげられる。また、該ペプチド又は蛋白質は金属錯体化合物(例、銅錯体、亜鉛錯体等)を形成していてもよい。
【0080】
本発明にかかる方法で製造される修飾ペプチド又は蛋白質は、種々の用途に利用することができる。例えば、上記の精製グレリン又はグレリン誘導体は、低毒性であり、哺乳動物(例、ヒト、サル、イヌ、ラット、マウス)に対して、摂食障害治療薬、成長ホルモン分泌促進薬、心疾患治療薬、胃機能性疾患治療剤、腸管粘膜保護剤もしくは経静脈栄養時の小腸粘膜障害予防剤、骨粗鬆症治療剤、慢性疾患による悪液質の減少剤、肺機能不全治療剤等の医薬品として、投与することができる。また、上記の精製グレリン又はグレリン誘導体は、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、徐放性製剤等として経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤、徐放性製剤等の注射剤;溶液、懸濁液剤等の経鼻投与製剤;噴霧剤もしくは吸入剤等の経肺投与製剤;座剤の形で非経口的に投与できる。上記の精製グレリン又はグレリン誘導体を生理学的に認められる公知の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等とともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって上記製剤を製造することができる。
【0081】
【実施例】
本発明を以下の実施例で更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例において用いた試験法と機器は、特に記載しない限り以下に記載のものを使用した。
〔主な略号〕
HBTU;2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3,−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェイト(2-(1H-benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3,-tetramethyluronium hexafluorophosphate),
DCC;ジシクロヘキシルカルボジイミド(dicyclohexylcarbodiimide),
HOBt;1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-hydroxybezotriazole),
HOOBt; 3−ヒドロキシ−3,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン(3-hydroxy-3,4-dihydro-4-oxo-1,2,3-benzotriazine),
TFA;トリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid),
TIPS;トリイソプロピルシラン(triisopropylsilane),
DIPEA;ジイソプロピルエチルアミン(diisopropylethylamine),
TBAF;テトラブチルアンモニウムフルオリド(tetrabutylammonium fluoride),
TFE;トリフルオロエタノール(trifluoroethanol),
Fmoc;フルオレニルメトキシカルボニル(fluorenylmethoxycarbonyl),
Boc;t−ブチルオキシカルボニル(t-butyloxycarbonyl),
tBu;t−ブチル(t-butyl),
TBDMS;t−ブチル ジメチルシリル(t-butyl dimethylsilyl),
Trt;トリチル(trityl),
Pac;フェナシル(phenacyl),
DMF;N,N−ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide),
DCM;ジクロロメタン(dichloromethane),
NMP;N−メチルピロリドン(N-methylpyrrolidone),
Et2O;ジエチルエーテル(diethylether),
DMAP;4−ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine),
EDC ;1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド( 1-ehtyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)
【0082】
〔合成に使用した保護アミノ酸と樹脂〕
Boc-Gly, Fmoc-Ser(TBDMS), Fmoc-Ser(tBu), Fmoc-Phe, Fmoc-Leu, Fmoc-Ser, Fmoc-Pro(以上、渡辺化学工業社製又はアプライドバイオシステム社製), プロリル-2-クロロトリチル樹脂(ノババイオケム社製)。
【0083】
〔使用機器〕
(a)ペプチド自動合成機
アプライドバイオシステム社製:433A合成機
(b)分析用HPLCシステム
機器:島津LC-10Aシステム
カラム:YMC-Pack PROTEIN-RP又はYMC-Pack ODS AP-302又はYMC-Pack PROTEIN-C8 (全て4.6 mmφ×150 mm)
カラム温度:40 ℃
溶出液:0.1%トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル濃度を最高100%まで直線的に変化させた。
流速:1 mL/分
検出:UV (210 nm又は214nm)
注入量:10〜50μL
【0084】
(c)分取用クロマトシステム
機器1:AKTA explorer 10S(アマシャムファルマシア社製クロマトシステム)カラム SP-sepharose big beads (XK26/30)(アマシャムファルマシア社製樹脂)
内径26mm x長さ300mm
YMC-ODS 120 s50 (HR26/15) (YMC社製樹脂)
内径26mm x長さ15mm
Vydac C4 (HR10/30) (Vydac社)
内径10mm x長さ300mm
Source 30RPC (HR10/30) 23 mL (アマシャムファルマシア社製樹脂)
内径10mm x長さ30mm
流速、溶出液等の条件は別途実施例に記載した。
機器2:Applied Biosystem BioCAD perfusion Chromatography workstation
カラム SP-Toyopearl 550-c(内径16mm x 280mm TOSOH社製)
YMC-ODS AM(粒径20μm、内径21.5mm x 300mm、YMC社製)
逆相クロマトカラムODS-80Ts
(内径21.5mm x 300mmカラム(108 mL) 粒径20um, TOSOH社製)
流速、溶出液等の条件は別途実施例に示した。
(d)分取用HPLCシステム
機器:Waters 600 Multisolvent Delivery System
カラム:YMC-Pack ODS-A (5 μm, 20 mm x 250 mm)又はYMC-Pack PROTEIN-RP (5μm, C4, 20 mm x 250mm)
溶出液:0.1%トリフルオロ酢酸中、適宜アセトニトリル濃度を最高100%まで直線的に変化させた。
流速:10 mL/分
検出:210 nm及び260 nm
注入:10〜2000μL、2000μL以上はポンプにより注入
【0085】
(e)質量分析機
機器1:フィニガンMAT TSQ700
イオン源:ESI
検出イオンモード:positive
スプレー電圧:4.5kV
キャピラリー温度:250℃
移動相:0.2%酢酸・メタノール混液(1:1)
流速:0.2 mL/分
スキャン範囲:m/z 300〜1,500
機器2:API3000(宝酒造)
検出イオンモード: positive mode
スキャンタイプ: Q1scan
流速: 0.3 mL/分
1 count/0.1msec during 5min chase
Molecular range 500〜3000 Mass
(f)アミノ酸配列分析
機器:パーキンエルマー社製 アプライドバイオシステム 477A型シークエンサー
(g)アミノ酸組成分析
機器:日立製作所製 L-8500型アミノ酸分析機計
試料:封管中、0.1%フェノールを含む6M塩酸で110℃、24時間加水分解した。
【0086】
〔 [Lys16,19,20,24(Boc)] ヒト由来グレリン(8-28)の製造スケールと概要 〕
以下、実施例2から実施例8は最終精製品として0.6 g程度の[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)(hGhrelinはヒト由来グレリンを示す。以下も同様である。)とを得ることを目的とした培養及び精製結果である。大腸菌に実施例1に示す発現ベクターを形質転換し、同実施例に示すアミノ酸配列を持つ融合蛋白質を発現させた。培養は2 L培養槽を用いた高密度培養で行い、封入体を回収した。回収した封入体の半量を用いて精製を開始した。OmpT反応[0.9 Lスケール]、陽イオン交換SP-sepharose big beads[160 mLスケール]、Boc化反応[0.5 Lスケール]、逆相カラムYMC ODS-120 s50 [80 mLスケール]、Kex2反応 [0.3 Lスケール]はそれぞれ一回ずつ行い、最終精製の逆相カラムVydac C4[ 25 mLスケール]は2回実施した。最終精製工程のみ直線濃度勾配による溶出で分画分析を実施した。また、脱溶媒にはエバポレーターを、濾過にはガラス繊維濾紙(ワットマン社)を用いた減圧濾過を実施した。
【0087】
実施例1 hGhrelin(8-28)誘導体発現ベクターp117 8-28oRRの構築
hGhrelinのcDNA遺伝子配列(Kojimaら、Nature, 402巻, p. 656-660、1999年)に基づき、全合成オリゴDNA (ファルマシアバイオテック社)を用いてアニーリング法によりhGhrelin(8-28)のDNA断片を得た。アニーリングに用いた全合成オリゴDNAならびにアミノ酸配列を図1Aに示す。
このDNA断片を大腸菌β-ガラクトシダーゼ誘導体とヒトGlucagon like peptide-1との融合蛋白質遺伝子を導入したプラスミドpGP117ompPR(国際公開番号:WO 00/ 52193)に挿入するため、pGP117ompPRを制限酵素SalI及びSacIIで処理し、ヒトGlucagon like peptide-1遺伝子を欠失させたDNA断片を寒天ゲル電気泳動により調製した。さらにアルカリホスファターゼ処理後、先にSacII処理、T4 DNAキナーゼ処理を施したhGhrelin(8-28)誘導体遺伝子断片とT4 DNAリガーゼにより連結させた。連結したプラスミドを大腸菌DH5α株に形質転換し、プラスミドp117 8-28oPRを得た。当該プラスミドはhGhrelin(8-28)のアミノ酸配列とβガラクトシダーゼの部分断片117アミノ酸残基をEPHHHHPGGRQMHGYDADVRLYRRHHGSGSPSRHPR(配列番号26)というアミノ酸配列を有するリンカー配列で繋いだ融合蛋白質を発現する。
【0088】
さらに、このプラスミドp117 8-28oPRを鋳型とし、酵素としてKOD plusポリメラーゼ(東洋紡)、プライマーには以下の2種のプライマー
ORI-RR: GGTTCCGGATCCCCTTCTCGACATCGCCGGGAACAC(配列番号28)
SAL*R : ATAAGTCGACTTATCGTGGCTGCAG(配列番号29)
を用いPCRを行い増幅断片を電気泳動ゲルから切り出した。さらに、これを制限酵素SalI、BamHIで処理した。先にp117 8-28oPRを同じく制限酵素SalI、BamHI処理し精製したものとこの断片とをT4 DNAリガーゼで連結させ、連結したプラスミドを大腸菌DH5α株に形質転換し、プラスミドp117 8-28oRRを得た。当該プラスミドはhGhrelin(8-28)のアミノ酸配列とβ−ガラクトシダーゼの部分断片117アミノ酸残基をEPHHHHPGGRQMHGYDADVRLYRRHHGSGSPSRHRR(配列番号27)というアミノ酸配列を有するリンカー配列で繋いだ融合蛋白質を発現する。発現する融合蛋白質を以下図1Bに示す。
【0089】
実施例2 大腸菌での組換えhGhrelin(8-28)融合蛋白質の発現と封入体回収
実施例1で作成したプラスミドp117 8-28oRRを大腸菌W3110株に形質転換した大腸菌を用いて3L培養槽にて2Lの培養を実施した。なおこの発現プラスミドはpBR322由来のプラスミドでlac promoterで発現誘導される。また薬剤耐性遺伝子としてテトラサイクリン耐性遺伝子を保持する。前培養はLB brothにて32℃で14時間振とう培養した。本培養には以下の組成の培地を使用した。培地組成は4g/L酵母エキス、4g/L K2HPO4、4g/L KH2PO4、2.7 g/L Na2HPO4、0.2g/L NH4Cl、1.2g/L(NH4)2SO4、2g/L MgSO4・7H2O、40 mg/L CaCl2、40 mg/L FeSO4・7H2O、10 mg/L MnSO4・nH2O、10 mg/L AlCl3・6H2O、4 mg/L CoCl2・6H2O、2 mg/L ZnSO4・7H2O、2 mg/L Na2MoO4・2H2O、1 mg/L CuCl2・2H2O、0.5 mg/L H3BO4である。炭素源としてはグルコースを最初培地中に1 %添加して、37℃で培養を開始した。グルコースが枯渇した後、グリセロールを添加して培養を行った。その後培養液を加圧式菌体破砕機(マントンゴーリン)にて菌体を破砕し、さらに遠心機にて約80 gの封入体を回収した。さらに、この封入体を脱イオン水2 Lで再懸濁したのち、遠心分離機で回収することで封入体を洗浄した。最終的にOD660値が530である封入体懸濁液200 mLを得た。
以下の実施例はこの封入体懸濁液の半分の量である100 mLを用いて行った。
【0090】
実施例3 hGhrelin(8-28)融合蛋白質の内在性OmpTプロテアーゼによるプロセッシング
実施例2で得られた封入体懸濁液をOD660の値が100.0になるように下記の反応条件に示す添加物と脱イオン水で希釈し、以下の反応条件でOmpT反応を実施した。
反応条件:
4M尿素、20mM Tris-HCl pH 7.4、50mM NaCl、反応容量:800 mL、反応温度32℃、反応時間40分
封入体を100OD660/ mLになるように8M尿素400 mLで溶解希釈し、Tris-HCl、NaClを上記の濃度になるように添加し、脱イオン水で800 mLになるようにメスアップする。さらにpHを7.4に調整して反応を開始させた。反応開始0分、20分、40分でサンプリングしHPLCにて分析を行い切断率が80%を超えた40分で反応を停止させた。反応停止は5N NaOHによりpH11まで上昇させて行った。反応停止後、低速遠心により残渣を除去し、上清を得た。
[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)濃度: 2.23 mg/ mL
溶液量: 800 mL
ペプチド含量: 1.7 g
HPLC測定結果、及び質量分析の結果、正常にプロセシングが起きており、[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)が遊離していることが示された。フィニガンMAT社の質量分析計(TSQ-700)で行ったESI-MSでの測定値は4078(理論値;4077)であった。
【0091】
実施例4 [RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)の精製(陽イオン交換による精製)
実施例3で得られたOmpTプロテアーゼ反応液上清を陽イオンクロマトグラフィーにより精製を行った。
方法:
使用カラム:SP-sepharose big beads (XK26/30)(160 mL)
(アマシャムファルマシア社製樹脂)内径 26mm x 長さ 300mm
平衡化、洗浄液: 1.5 M 尿素, 50 mM NaHCO3 pH11
溶出液: 1.5 M尿素,0.5 M NaCl, 50 mM NaHCO3 pH11
初期化、再生液: 0.4M NaOH
流速: 10 mL/min (2.5cm/min)
操作:
初期化、平衡化: 0.4M NaOH2カラムボリューム → 脱イオン水2カラムボリューム → 平衡化液:100% 3カラムボリューム
サンプル負荷: サンプルを負荷し、平衡化、洗浄液でUVが下がってくるまで洗浄する(約4カラムボリューム程度)
溶出: 溶出液100%のステップワイズで実施した。
結果:溶出液で得られたペプチドの純度は90%で、工程回収率は91.6%であった。
[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)濃度:4.75 mg/mL
溶液量: 300 mL
ペプチド含量: 1.43 g
【0092】
実施例5 [RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)のBoc化
精製した[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)にBoc基の付加反応を行い、N末端のαアミノ基及び配列中に含まれるLys残基の側鎖のアミノ基をBoc基により保護する。
方法:陽イオンクロマト溶出液300 mL全量をガラスビーカーに移し、50% アセトニトリルになるように等量(300 mL)のアセトニトリルを加えた。さらに攪拌しながら、1Mの(Boc)2Oを[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)内に存在するαアミノ基とリジン残基側鎖のεアミノ基数(計5箇所)の5倍モル量にあたる8.8 mL(終濃度20mM,25当量)加えた。さらにpHが9を下らないように5N NaOHで調整し、スターラーで攪拌しながら室温で60分間反応させた。
反応効率の測定はHPLC分析及び分子量の測定によりモニターした。
反応終了後ただちにエバポレーターにより脱溶媒を実施した。脱溶媒後、酢酸にてpHを5.5にあわせて沈殿をガラス繊維濾紙(ワットマン社)にて減圧濾過を行った。この工程により[Nα-Boc, Lys16,19,20,24 (Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)を1740 mg含む溶液、580 mLを得た。
工程回収率: 116% (工程回収率が100%より大きいのは、Boc基付加によりHPLCでの吸光度が上昇し、見かけの回収率が増加したためであると考えられる。)質量分析はフィニガンMAT社の質量分析計(TSQ-700)を使用した。行ったESI-MSでの測定値は4578(理論値;4577)であった。
Boc化前(測定分子量=4077、理論上分子量=4077)に比べ反応後では分子量が500多くなったもの(測定分子量=4578、理論上分子量=4577)が主に見られた。このピークはhGhrelin(8-28)配列内のリジン残基側鎖に存在する4個所のεアミノ基、及びN末端のαアミノ基がBoc化された[Nα-Boc, Lys16,19,20,24(Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)であると推定された。
【0093】
実施例6 [Nα-Boc, Lys(Boc)16,19,20,24]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)の逆相カラムによる精製
実施例5にて得られた[Nα-Boc, Lys16,19,20,24(Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)を逆相カラムにて精製した。
方法:
使用カラム:YMC-ODS 120 s50 (HR26/15) 80 mL (YMC社製樹脂) 内径26mm x長さ15mm
平衡化、洗浄液: 10% アセトニトリル, 30 mM酢酸ナトリウムpH 5.5
溶出液:50% アセトニトリル, 30 mM酢酸ナトリウムpH 5.5
再生液:80% アセトニトリル
流速:7 mL/分 (2cm/分)
平衡化液で3カラムボリューム平衡化の後、サンプルを負荷し、平衡化液にて3カラムボリューム(UVが下がるまで)カラムを洗浄する。溶出は溶出液100%のステップワイズ溶出で行った。溶出後再生液でカラムを洗浄した。
溶出液は1770 mgの[Nα-Boc, Lys16,19,20,24(Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)を含む150 mLの溶液で得られた。これに限外濾過水を75 mL添加することで1.5倍希釈し、エバポレーターにて溶液中に含まれるアセトニトリルを留去した。
工程回収率: 98%
【0094】
実施例7 Kex2プロテアーゼによる[Lys16,19,20,24(Boc)]-hGhrelin(8-28)の製造
実施例6で得られたペプチド溶液を以下に示す条件に調製してKex2反応を実施した。すなわち、ODS溶出液を限外濾過水で8 mg/ mLに希釈後、1M Tris-HCl pH8.3を50 mMになるように添加した。さらに0.25M CaCl2を5 mMになるように添加し、30℃ 10min プレインキュベート後、Kex2プロテアーゼ(特開平10−229884)溶液(1x107 unit/mL)を2.5x104unitとなるように加えて、スターラーで攪拌しながら、30℃の恒温槽で120分間反応させた。反応後、酢酸を用いてpH 5.5に調整し反応を停止させた。HPLC、質量分析及びアミノ酸分析から、切断前後で原料である[Nα-Boc, Lys16,19,20,24(Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)は消失し、 [Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)が出現増加していることがわかり、正常にプロセシングされていることが分かった。
【0095】
実施例8 [Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)体の精製
実施例7で得られた[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28) を含む反応後溶液を逆相カラムにて以下の条件で精製した。
方法:
使用逆相カラムVydac C4 (HR10/30) 23 mLカラム(Vydac社) 内径10mm x長さ300mm
条件:
平衡化、洗浄液10%アセトニトリル, 0.1% TFA pH 3
溶出液: 50% アセトニトリル, 0.1% TFA pH 3
流速:2 mL/分 (線流速3cm/分)
3カラムボリューム平衡化液を流した後、Kex2反応後溶液を2回に分けて負荷(20 mg/mL樹脂)し、溶出液10%で2カラムボリューム洗浄した後、溶出液10%〜80%の直線濃度勾配を8カラムボリュームで終了するプログラムで溶出させ、続いて溶出液100% で2カラムボリューム洗浄し、この間の溶出液を6 mLずつフラクション分取した。フラクションはHPLC分析し、リンカー [Nα-Boc]-[RHHGSGSPSRHRR]及び、未切断体[Nα-Boc, Lys16,19,20,24(Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]- hGhrelin(8-28)を含まないフラクションをプールした。
結果:
収率:84.4% 純度97.5%
[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)濃度:5.62 mg/ mL
溶液量: 120 mL
ペプチド含量: 600 mg
溶出した溶液をエバポレーターにて脱溶媒を行った後、凍結乾燥を実施し、OmpTプロテアーゼ誘導体によるプロセッシングで得られた1700 mgの前駆体(実施例3)より、[Lys16,19,20,24 (Boc)]hGhrelin(8-28)を600 mg得た(図2)。
【0096】
実施例9 [Lys16,19,20,24 (Boc)] hGhrelin(8-28)体の精製回収率、純度表
以下に実施例3から実施例8で示した[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)の製造収率一覧表を表2に示す。
【表2】
【0097】
実施例10
(10−1)N末端側断片([Nα-Boc, Ser2, 6(tBu)]hGhrelin(1-7))の合成
(方法1)
プロリル-2-クロロトリチル樹脂(ノババイオケム社製、1.39 g、1.0 mmol)をガラスフィルター付き反応容器に入れ、順次HBTUによるFmoc-アミノ酸の導入とピペリジンによる脱Fmocを繰り返し、N末端残基にBoc-Glyを導入して、Boc-Gly-Ser(tBu)-Ser(TBDMS)-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-2-クロロトリチル樹脂を構築した。得られた保護ペプチド樹脂を0.1 M TBAF/DMF溶液(50 mL)で30分間処理した。ペプチド樹脂を濾取し、DMF(30 mL)で数回洗浄した後、イソプロピルアルコール、次いでDCM(30 mL)で洗浄した。次に、得られた脱TBDMSペプチド樹脂をNMP (5 mL)に膨潤させ、DMAP(374 mg, 3.1 mmol)存在下、オクタン酸(588 mg, 4.1 mmol)、EDC・HCl(848 mg, 4.4 mmol)を加え16時間反応させた。樹脂を濾取し、NMP、イソプロピルアルコール、DCMで順次洗浄し、減圧下乾燥して、3位セリン側鎖がオクタノイル化された保護ペプチド樹脂を得た。このものに、0.5% TFA/DCM溶液30 mLを加え、室温で30分間攪拌し、保護ペプチドを樹脂から離脱させた。樹脂を濾去し、濾液を濃縮後、残査に水を加え沈殿とした。沈殿を濾取した後、さらにヘキサン中で攪拌して洗浄し、再度濾取した。これを終夜、減圧して乾燥し、目的物742 mg(収率72%)を得た。HPLCによりこのものの純度を調べたところ、94%であった。
【0098】
(10−2)N末端側断片([Nα-Boc, Ser2, 6(tBu)]hGhrelin(1-7) )の合成
(方法2)
プロリル-2-クロロトリチル樹脂(ノババイオケム社製、1.95 g、1.0 mmol)をガラスフィルター付き反応容器に入れ、順次HBTUによるFmoc-アミノ酸の導入とピペリジンによる脱Fmocを繰り返し、Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-2-クロロトリチル樹脂を構築した。次にHOOBt/DCCによりFmoc-Ser-OHを導入し、次いで脱FmocとHOOBt/DCCによる縮合を繰り返し、N末端残基にBoc-Glyを導入して、Boc-Gly-Ser(tBu)-Ser-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-2-クロロトリチル樹脂を構築した。得られたペプチド樹脂をNMP (5 mL)に膨潤させ、DMAP(374 mg, 3.1 mmol)存在下、オクタン酸(579 mg, 4.0 mmol)、EDC・HCl(847 mg, 4.4 mmol)を加え16時間反応させた。樹脂を濾取し、NMP、イソプロピルアルコール、DCMで順次洗浄し、減圧下乾燥して、3位セリン側鎖がオクタノイル化された保護ペプチド樹脂を得た。このものに、0.5% TFA/DCM溶液30 mLを加え、室温で30分間攪拌し、保護ペプチドを樹脂から離脱させた。樹脂を濾去し、濾液を濃縮後、残査に水を加え沈殿とした。沈殿を濾取した後、さらにヘキサン中で攪拌して洗浄し、再度濾取した。これを終夜、減圧して乾燥し、目的物715 mg(収率69%)を得た。HPLCによりこのものの純度を調べたところ、74%であった。
【0099】
実施例11 断片縮合と脱保護
それぞれ実施例10−1と実施例8で得られた[Nα-Boc, Ser(tBu)2,6]hGhrelin(1-7)及び[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)を、あらかじめアミノ酸分析計を用い定量したのち、縮合反応に供した。[Nα-Boc, Ser(tBu)2,6]hGhrelin(1-7)、HBTU、DIPEAそれぞれ0.19 mmolをDMF 1 mLに溶解し、30分間室温で撹拌した。その後、[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)を0.16 mmol及びDIPEA 0.48 mmolをDMF 1.5 mLに溶解し、撹拌下、前述の活性化N末端側断片溶液を滴下した。1時間後、反応溶媒を減圧留去し、残査にEt2Oを加え析出させ、洗浄後、乾燥した。得られた粉末にTFA 6 mLを加え、30分間室温でゆるやかに撹拌した。TFAを減圧留去し、残査にEt2Oを加え析出させ、洗浄、乾燥を経て、白色粉末状の粗ペプチド0.70 gを得た。このものを分析用HPLCで分析した結果、チャート上の目的物純度は80%であり、また全化学合成品と保持時間が一致した。さらに半合成品及び全化学合成品をコインジェクションしたところクロマト上ピークが一致した。縮合前後のHPLCチャートを図3に示す。
【0100】
実施例12 hGhrelinの精製
実施例11で得られた白色粉末状の粗ペプチド0.70 gを5%酢酸で7 mg/mLに溶解し、以下の条件で精製を実施した。
方法、条件;
使用カラム:Source 30RPC (HR10/30) 23 mL カラム
(アマシャムファルマシア社製樹脂) 内径10mm x長さ30mm
平衡化、洗浄液: 10% アセトニトリル, 50mM酢酸
溶出液:60% アセトニトリル, 50mM酢酸
再生液 :80% アセトニトリル
流速:2.5 mL/分(2cm/分)
平衡化液で3カラムボリューム平衡化の後、hGhrelin溶解液を2分し、半量ずつを負荷し、平衡化液にて3カラムボリューム(UVが下がるまで)カラムを洗浄する。溶出は溶出液0%から100%までの直線濃度勾配を6カラムボリュームで終了するプログラムで溶出させた。溶出液は5 mLずつフラクション分画し、適時HPLCで分析し、hGhrelinを含むフラクションをプールした。プールはエバポレーターで脱溶媒した後、凍結乾燥を実施した。結果、純度98%のhGhrelinを512 mg(回収率73%)得た。精製hGhrelinのHPLCでの分析結果を図4に示す。
【0101】
以下の実施例13から15までは、上記の実施例1から12までに示した条件の最適化に関するものである。したがって、本発明が下記条件に限定されないことは言うまでもない。
実施例13 融合蛋白質の配列の違いによるKex2の切断効率の違い
Kex2の切断効率はその基質の認識配列により大きく異なる。その切断効率はin vivoでKex2切断配列KR(10)>>RR(5)>>TR(1.2) >PR(1.0) [()内はPRを1とした際の切断効率]の順で切れにくくなる(Proc. Natl. Acad. Sci 95 p10384-10389
1998)ことが報告されている。
以下図5に実施例1で作成したp117s 8-28oPR 、p117 8-28 oRRとさらに、p117 8-28oPRを鋳型にしてPCRで作成したプラスミドp117 8-28oKRが発現する蛋白質を示す。
これら3種類の蛋白質を発現するプラスミドを保持する大腸菌W3110を用いてそれぞれ培養を実施し、実施例2から6に示した方法の約10分の1のスケールで精製を行い、それぞれ[Nα-Boc, Lys16,19,20,24(Boc)]-[RHHGSGSPSRHPR]-hGhrelin(8-28)(以下PR-hGhrelin(8-28))、[Nα-Boc, Lys16,19,20,24 (Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)(以下RR-hGhrelin(8-28))、[Nα-Boc, Lys16,19,20,24(Boc)]-[RHHGSGSPSRHKR]-hGhrelin(8-28) (以下KR-hGhrelin(8-28))の3種類のペプチドを調製した。
調製したペプチドについて、実施例7で示した方法を用いてKex2プロテアーゼ処理を実施した。反応開始60分のHPLCの分析プロファイルを図6に示す。
図6に示すように切断率の順番ではRR-hGhrelin(8-28)>PR-hGhrelin(8-28)>KR-hGhrelin(8-28)でRR-hGhrelin(8-28)が一番切断率が高かった。またKR-hGhrelin(8-28)についてはBoc基がKRのリジン残基を保護してしまい、リジンの電荷を消失させることになるため、切断がまったく起きなかった。またPR-hGhrelin(8-28)は切断効率が低く、hGhrelin(8-28)内で切断が生じた。このhGhrelin(8-28)内での分解はhGhrelinのアミノ酸番号15のアルギニンと16のリジンの間で切断が生じていた。
【0102】
実施例14 大腸菌の培養に適した融合蛋白質の構築
培養に適した融合蛋白質を得るため、実施例13図5で示した融合蛋白質以外にも以下図7に示すような融合蛋白質を発現するプラスミドを作成した。図7に示すいずれの融合蛋白質ともp117 8-28oPRを鋳型にしてそれぞれ異なるプライマーからPCRで作成した。p117 8-28oRRに対して、蛋白質の等電点の低下を目的として変異体を構築した。
作成した融合蛋白質プラスミドをそれぞれ大腸菌W3110株に形質転換した大腸菌を用いて3L培養槽にて2Lの培養を実施した。前培養はLB brothにて32℃で14時間振とう培養した。本培養の培地組成は実施例2で示したものと同一である。炭素源としてはグルコースを最初培地中に1%添加して、32℃で培養を開始した。グルコースの枯渇後、グリセロールを添加して培養を行った。またグルコースの枯渇時に培養温度を37℃に上昇させ、培養後は加圧式菌体破砕機(マントンゴーリン)にて菌体を破砕した。培養の成果については最終濁度と菌体破砕時の濁度で判断した。菌体の濁度及び、菌体破砕前後の濁度の比が高いものほど封入体の生産性が高い菌と判断した。結果を図8のグラフA,Bに示す。
グラフA,Bから分かるように最終濁度、菌体破砕後の濁度比率から、構築した融合蛋白質の中で117 8-28oRR融合蛋白質がもっとも高い生産性を示した。実施例13、14の結果から実施例2では当該蛋白質を発現するプラスミドp117 8-28oRRが培養にも適していると考えられた。
【0103】
実施例15 [Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)の安定性
実施例6、7、8において、[Nα-Boc, Lys16,19,20,24 (Boc)]-[RHHGSGSPSRHRR]-hGhrelin(8-28)及び[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)において1〜10%程度Boc基が脱離するという現象が認められた。[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)は付加したBoc基が一箇所でも脱離すると、その後の縮合工程で大幅な縮合率低下につながるため、Boc基の脱離を防ぐ目的で[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)の安定性を調べた。
分解に影響を及すパラメータとしては保存中のpHと保存温度が考えられた。そこで以下のような条件での安定性をHPLCにより分析し、評価した。
方法:新たに精製した[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)を30mM 酢酸ナトリウム溶液に溶解し、pH2,3,4はTFAをもちいて、pH6,7,8は5N NaOHを用いてpHを調整し、さらに、4℃、20℃、37℃、42℃の恒温槽で1週間放置した。放置開始後、0時間、2時間、6時間、9時間、24時間、48時間、96時間、168時間でサンプリングを行い、HPLCにて分析を実施した。解析方法としてはHPLCでの分析結果の総ピーク面積に対する[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)のピーク面積の割合(%)を経時的に評価することで行った。
結果:以下図9及び10に保存温度毎にまとめたグラフを4種類示す。pHが低いほど(pH3以下)、温度が高いほど、分解物が増加することがわかった。またpH4以上であれば、42℃でも安定であることがわかった。よってpHをコントロールすることが、この分解物生成の抑制に重要であることが判明した。
【0104】
実施例16 hGhrelin (1-28)の製造(方法2)
(1) hGhrelin (8-28)誘導体発現ベクターp117-8-28okの構築
実施例1と同一の方法で、プラスミドp117-8-28okを得た。実施例1で作成したプラスミドp117 8-28oPRとプラスミドp117-8-28okの相違は、前者のリンカー配列がEPHHHHPGGRQMHGYDADVRLYRRHHGSGSPSRHPR(配列番号26)であるのに対し、後者のリンカー配列はRRHHGSGSPSRHPR(配列番号35)である点のみである。
(2) 大腸菌での組換えhGhrelin(8-28)融合蛋白質の発現
hGhrelin(8-28)融合蛋白質発現プラスミドp117-8-28okを大腸菌W3110株に形質転換し、形質転換株を得た。この株をグルコース及びグリセロールを炭素源とする20 Lの培地で培養を行い、最終OD660値が54の培養液を得た。
(3) hGhrelin(8-28)融合蛋白質の内在性OmpTプロテアーゼによるプロセッシング
前記(2)で得られた培養液より菌体(約680 g)をTE(10mM Tris-HCl, 1mM EDTA pH8.0)バッファー20 Lに懸濁後、高圧ホモジナイザーを用いて菌体の破砕処理を2回行った。その後、遠心分離で封入体を回収し、脱イオン水で再度懸濁し、遠心分離することで封入体を洗浄した。次に遠心分離により得られた封入体ペレット(湿重量約170 g)を少量の脱イオン水で懸濁し、OD660値が826の封入体濃縮液550 mLを得た。550 mLの封入体濃縮液より50 mLを採取後、OD660の値が50.0になるように脱イオン水で希釈し、Tris-HCl (pH8.2) 、EDTA(pH8.0)をそれぞれ終濃度50mM、1mMになるように加え、尿素(終濃度4.0M)により封入体を溶解させた。尿素により封入体を溶解することで、内在性のOmpTプロテアーゼにより融合蛋白質のリンカー配列RRHHGSGSPSRHPR(配列番号35)のArg-Arg間を切断させた。即ち、反応溶液を30℃で5分保温後、30℃で15分OmpTプロテアーゼ処理を行った。その後3%AcOHを添加して反応を停止させた。本処理により、RHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)を1.3 g得た。ESI-MS 4019 (理論値;4018) hGhrelin(8-28)融合蛋白質の内在性OmpTプロテアーゼによるプロセッシング工程の高速液体クロマトグラフィーによる解析の結果、RHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)が遊離していることが示された。
【0105】
(4) RHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)の精製(陽イオン交換による精製)
前記(3)で得られたOmpTプロテアーゼ反応液(900 mL)を、平衡化液(1.5M Urea,20mM NaCl, 10mM Tris-HCl pH8.3)にて平衡化させた陽イオン交換カラムSP-Toyopearl 550-c(bed volume 55 mL、16mmID x 280mm TOSOH社製)に4回に分けて負荷した。各回、平衡化液で十分カラムを洗浄後、平衡化液75%、溶出液(1.5M Urea,1.5M NaCl, 10mM Tris-HCl pH8.3)25%から溶出液100%の濃度勾配を1.5カラムボリュームで完了するプログラムで溶出を行った。5 mL毎にサンプリングを行い、各分画を高速液体クロマトグラフィーで分析し、大腸菌β-ガラクトシダーゼ誘導体の含まないピークを分取した。4回分の合計収量は約950 mgであった。
上記精製溶出液(660 mL)を2等分し、2%アセトニトリル、0.1%TFAで平衡化したYMC-ODS AM(粒径20μm、YMC社製)21.5mmID x 300mmカラムに2回負荷した。平衡化液で十分洗った後、溶出液 [ 50%アセトニトリル、0.095%TFA ]で溶出を行った。溶出ピークを分取後、溶出液中に含まれるアセトニトリルはロータリーエバポレーターにて除去し、RHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)を720 mg含む溶液220 mLを得た。(3)、(4)で用いた高速液体クロマトグラフィーの条件を以下に示す。
カラム;YMC ODS AP-302、検出器;Hitachi高速液体クロマトグラフィーシステム(D7000)、流速;1 mL/min、溶出;バッファーA [ 1.0%アセトニトリル、0.1%TFA] 100%からバッファーB [ 50.0% アセトニトリル、0.1% TFA ] 100%の20分間直線濃度勾配。
【0106】
(5) RHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)のt-ブトキシカルボニル(Boc)化
前記(4)で得られた試料220 mL(RHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)を720 mg含む)をガラス三角フラスコに移し、等量のアセトニトリル(220 mL)を加えた。これに1Mの二炭酸ジ-t-ブチルをRHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)内に存在するαアミノ基とLysεアミノ基数(計5箇所)の5倍モル量にあたる4.4 mL(終濃度10mM,25当量)加えた。さらにトリエチルアミンにてpH9に調整し、スターラーで攪拌しながら室温で60分反応させた。反応の停止は酢酸を終濃度0.5%になるように添加し、pHを中性付近にした後、速やかにロータリーエバポレーターによりアセトニトリルを除去し、Boc-RHHGSGSPSRHPR-[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)を530 mg含む溶液、300 mLを得た。ESI-MS; 4519 (理論値;4518)。
Boc化前後のRHHGSGSPSRHPR-hGhrelin(8-28)の溶出プロファイル、及びマススペクトロメトリー測定結から、Boc-RHHGSGSPSRHPR-[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)の生成を確認した。本反応のモニターには以下のクロマトシステムを使用した。カラム;YMC-C8、検出器;Hitachi高速液体クロマトグラフィーシステム(D7000)、流速;1 mL/min、溶出;バッファーA [ 1.0%アセトニトリル、0.1%TFA] 100%からバッファーB [ 60.0% アセトニトリル、0.095% TFA ] 100%の20分間の直線濃度勾配。
【0107】
(6)Kex2プロテアーゼによる[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)の製造
前記(5)で得られたBoc-RHHGSGSPSRHPR-[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)を逆相カラムにて精製した。2%アセトニトリル、0.1%TFA、10mM酢酸ナトリウム、pH4.5で平衡化したYMC-ODS AM(粒径20μm、TOSOH社製)21.5mmID x 300mmカラムに上記Boc誘導体(約500 mg)を負荷した。平衡化液で十分洗った後、溶出液 [ 70%アセトニトリル、0.095%TFA、10mM酢酸ナトリウム、pH4.5 ]で溶出した。Boc-RHHGSGSPSRHPR-[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)(420 mg)を含む溶出ピークを分取後、アセトニトリルをエバポレーターにて除去した。本溶液に250mM塩化カルシウム溶液、1M Tris-HCl pH8.2をそれぞれ終濃度5mM、50mMになるように添加した。30℃、5分間保温後、Kex2プロテアーゼ(特開平10−229884)溶液(1x107 unit/mL)を3x104 unit/mLになるように添加し、30℃、45分間反応した。
本工程の高速液体クロマトグラフィーによる解析の結果、linker配列RHHGSGSPSRHPRと[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)とが切断されていることが示された。
【0108】
(7) [Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)体の精製
前記(6)で得られた[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28) (320 mg)を含む反応後溶液(300 mL)を酢酸でpH3.5に調整後、10%アセトニトリル、0.095%TFAで平衡化した逆相クロマトカラムODS-80Ts(21.5mmID x 300mmカラム(108 mL) 粒径20um, TOSOH社製)に負荷した。平衡化液で2カラムボリューム洗浄後、バッファーA [10%アセトニトリル、0.095%TFA] 70%、バッファーB [65%アセトニトリル、0.1%TFA]30%からバッファーB 100%の濃度勾配を5カラムボリュームにて完了するプログラムを行い、[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)体を溶出させた。フラクション(5 mLずつ)を分取し、高速液体クロマトグラフィー(条件は(6)と同様である)にて分析を行った。 [Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)の溶出画分を集め。濃縮後、凍結乾燥し、136 mgの[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)体を得た。OmpTプロテアーゼ誘導体によるプロセッシングで得られた1300 mgの前駆体(前記(3))より136 mgの[Lys16,19,20,24(Boc)] hGhrelin(8-28)体最終標品を得た。
【0109】
(8−1)N末側断片([Nα-Boc, Ser2, 6(tBu)] Ghrelin(1-7)の合成 (方法1)
プロリル-2-クロロトリチル樹脂(ノババイオケム社製、548 mg、0.25 mmol)上に、ペプチド自動合成機を用いて、順次HBTUによるFmoc-アミノ酸の導入とピペリジンによる脱Fmocを繰り返し、N末端残基にBoc-Glyを導入して、Boc-Gly-Ser(tBu)-Ser(TBDMS)-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-2-クロロトリチル樹脂を構築した。得られた保護ペプチド樹脂 (757 mg )を0.1 M TBAF/DMF溶液(5 mL)で1時間処理した。ペプチド樹脂をろ取し、DMF(10 mL)で数回洗浄した後、イソプロピルアルコール、ついで塩化メチレン(10 mL)で洗浄した。次に、得られた脱TBDMSペプチド樹脂をDMF (10 mL)に膨潤させ、DMAP(31 mg, 0.25 mmol)存在下、オクタン酸(144.2 mg, 1.0 mmol)、EDC・HCl(211 mg, 1.1 mmol)を加え16時間反応させた。樹脂をろ取し、DMF、イソプロピルアルコール、塩化メチレンで順次洗浄し、減圧下乾燥して、3位セリン側鎖がオクタノイル化された保護ペプチド樹脂を得た。このものに、酢酸 2 mL / TFE 2 mL / 塩化メチレン 6 mLの混合溶液を加え、室温で1時間攪拌し、保護ペプチドを樹脂から離脱させた。樹脂をろ去し、ろ液を濃縮後、残査にエーテルを加え沈殿とした。沈殿をろ取、乾燥し、粗ペプチド248 mg(収率96%)を得た。本品を酢酸水及びアセトニトリルの混液約2 mLに溶解し、YMC-Pack ODS-A(20 mm x 250mmに添加し、0.1% トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル40%から80%までの60分間直線グラジエント(流速:10 mL/min)で溶出させた。目的画分を分取後、凍結乾燥し、210 mgの目的物を得た。
【0110】
(8−2)N末側断片([Nα-Boc, Ser2, 6(tBu)] Ghrelin(1-7)の合成 (方法2)
プロリル-2-クロロトリチル樹脂(ノバビオケム社製、466 mg、0.25 mmol)上に、ペプチド自動合成機を用いて、順次HBTUによるFmoc-アミノ酸の導入とピペリジンによる脱Fmocを繰り返し、N末端残基にBoc-Glyを導入して、Boc-Gly-Ser(tBu)-Ser(Trt)-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-2-クロロトリチル樹脂を構築した。この樹脂を1% TFA, 5% TIPS / ジクロロメタンで30 min処理することにより、Trt基の除去及び樹脂からの切断を同時に行った。樹脂をろ去した後、ジクロロメタンを減圧留去して濃縮し、これにEt2Oを加えて析出させ乾燥したところ、白色沈殿としてBoc-Gly-Ser(tBu)-Ser-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-OHを165 mg得た。次に、臭化フェナシル(Phenacyl Bromide、40 mg、1.1当量)、トリエチルアミン(20 mg、1.1当量)を加え、DMF 約3 mL中で2 hr反応させた。反応後、反応溶液を約5倍量の酢酸エチル中に入れ、水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥させ、これをろ去した後濃縮し、Et2Oで析出させ乾燥したところ、白色沈殿としてBoc-Gly-Ser(tBu)-Ser-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-OPacを得た。次に、オクタン酸(18.2 mg、1.1当量)、EDC・HCl(26.4 mg、 1.2当量)、DMAP(1.4 mg、0.1当量)を加え、DMF約2 mL中で終夜反応させた。、反応溶液を約5倍量の酢酸エチル中に入れ、水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加え乾燥させ、これをろ去した後濃縮、Et2Oで析出させ乾燥し、白色沈殿としてBoc-Gly-Ser(tBu)-Ser(Octanoyl)-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-OPacを144 mg得た。次に、酢酸 1.5 mL、亜鉛末(Zinc Powder、163 mg、20当量)を加え1 hr反応させた後、ろ過し、冷水を加え析出させ、Et2Oで洗浄し乾燥した。白色沈殿としてBoc-Gly-Ser(tBu)-Ser(Octanoyl)-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-OHを65 mg得た。本品を酢酸水及びアセトニトリルの混液約2 mLに溶解し、YMC-Pack ODS-A(20 mm x 250mmに添加し、0.1% トリフルオロ酢酸中、アセトニトリル40%から80%までの60分間直線グラジエント(流速:10 mL/min)で溶出させた。目的画分を分取後、凍結乾燥して目的物50 mgを得た。
【0111】
(9) 断片縮合と脱保護
それぞれ前記(8−1)と前記(7)で得られた [Nα-Boc, Ser(tBu)2, 6]-Ghrelin(1-7)及び[Lys16, 19, 20, 24(Boc)] hGhrelin(8-28)を、あらかじめアミノ酸分析計を用い定量したのち、縮合反応に供した。[Nα-Boc, Ser(tBu)2, 6]-Ghrelin(1-7)を19.3 μmol、HBTU 20.3 μmol及びDIPEA 20.3 μmolをDMF 500μLに溶解し、1時間室温で撹拌した。その後、[Lys16, 19, 20, 24(Boc)] hGhrelin(8-28)を18.4 μmol及びDIPEA 55.2 μmolをDMF 1 mLに溶解し、撹拌下、前述の活性化N末側断片溶液を滴下した。3時間後、反応溶媒を減圧留去し、残査にEt2Oを加え析出させ、洗浄後、乾燥した。えられた粉末にTFA 3 mLを加え、30 min室温でゆるやかに撹拌した。TFAを減圧留去し、残査にEt2Oを加え析出させ、洗浄、乾燥を経て、白色粉末状の粗ペプチド77 mgを得た。このものを分析用HPLCで分析した結果、チャート上の目的物純度は83%であり、また化学合成品と保持時間が一致した。さらに半合成品及び全合成品をコインジェクションしたところクロマト上ピークが一致した。
【0112】
(10) hGhrelin(1-28)体の精製
前記(9)で得られた白色粉末状の粗hGhrelin 67 mgを1%酢酸で1 mg/mLに溶解し、0.1 M酢酸で平衡化した逆相クロマトカラムTSK-ODS-80Ts 108 mL (ID21.5 mm x 300 mm) に負荷した。平衡化液で2カラムボリューム洗浄後、バッファーA [0.1M酢酸] 100%からバッファーB [40%アセトニトリル、0.1M酢酸]100%の濃度勾配を5カラムボリュームにて完了するプログラムを行い、hGhrelin(1-28)体を溶出させた。高純度の画分を集め、凍結乾燥してhGhrelin(1-28) 34.4 mgを得た。
ESI-MS 3371 (理論値 3370.86)、6N塩酸化水分解後のアミノ酸組成比 Ala ; 1.01 (1), Arg ; 2.97 (3), Glx ; 5.95 (6), Gly ; 1.02 (1), His ; 1.00 (1), Leu ; 2 (2), Lys ; 4.01 (4), Phe ; 1.00 (1), Pro ; 4.01 (4), Ser ; 3.60 (4), Val ; 1.00 (1) (括弧内は理論値)、Ca mobilization活性 1.3 nM(ref.1.5 nM)
【0113】
実施例17 Boc-Gly-Ser(tBu)-Ser(TBDMS)-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-OHの脱TBDMS条件とオクタノイル化条件の最適化
実施例16(8−1)の方法に従って、3位セリンTBDMS基の除去反応及びオクタノイル化反応の最適条件について検討した。プロリル-2-クロロトリチル樹脂上に、ペプチド自動合成機(アプライドバイオシステムジャパン(株)製、433A)を用いて、順次HBTUによるFmoc-アミノ酸の導入とピペリジンによる脱Fmocを繰り返し、N末端残基はBoc-Glyを導入することにより、Boc-Gly-Ser(tBu)-Ser(TBDMS)-Phe-Leu-Ser(tBu)-Pro-2クロロトリチル樹脂を構築した。次に、樹脂を0.05 mmol(約150 mg)ずつに分け、表3及び表4に示す条件でオクタノイル化を行った。樹脂の洗浄、樹脂からのペプチド切断等の条件は、実施例16(8−1)と同様に行った。
その結果、TBDMS基の除去反応は0.1 M TBAF溶液を用いて30分間から1時間反応させることが好ましく、またオクタノイル化反応はオクタン酸4当量、EDC 4.4当量、DMAP 1当量を用いて8〜16時間反応させることが好ましいことが明らかになった。
【表3】
a ; TBDMS基の除去率は、TBAF処理したペプチド樹脂をオクタノイル化したのち、脱保護して得られるオクタノイル体とTBDMS未除去を示すデスオクタノイル体との比で求めた。オクタノイル化は、オクタン酸4当量、EDC 4.4当量、DMAP 1当量を用い、24時間反応。
b ; プロリル-2-クロロトリチル樹脂の置換率を基準に算出。
c ; 目的物純度及び比率は、分析用HPLCにより算出。
d ; N.D.検出されず。
【表4】
a ; 全てのサンプルは0.1 M TBAFで1時間処理して、TBDMS基を除去した。
b ; プロリル−2−クロロトリチル樹脂の置換率を基準に算出。
c ; 目的物純度及び比率は、分析用HPLCにより算出。
d ; N.D. 検出されず。
【0114】
実施例18 断片縮合条件の検討
[Nα-Boc, Ser(tBu)2,6]hGhrelin(1-7)と[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)を用い、種々の縮合試薬の反応効率を検討したところ、HBTUがもっとも良い結果を与えたが、EDC/HOBt、EDC/HOSu、DPPAでも反応が進行することが明らかになった。
【表5】
【0115】
【発明の効果】
本発明の製造方法により、非常に高品質の修飾ペプチド又は蛋白質を高収量で得ることができる。
【0116】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1Aは、hGhrelin(8-28)の全合成オリゴDNAならびにアミノ酸配列を表している。図1Bは、p117 8-28oRRにより発現されるhGhrelin(8-28)融合蛋白質のアミノ酸配列を示している。
【図2】図2は、精製した[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)のHPLC分析結果を示している。ピーク ア)は、[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)のピークを示す。
【図3】図3は、断片の縮合反応を示している。ピークAは[Nα-Boc, Ser2,6(tBu)]hGhrelin(1-7)のピークを、ピークBは[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)のピークを、ピークCは[Nα-Boc, Ser2,6(tBu), Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelinのピークを、ピークDはhGhrelinのピークを示す。
【図4】図4は、精製したhGhrelinのHPLC測定結果を示している。
【図5】図5は、Kex2プロテアーゼの切断認識部位が異なる融合蛋白質のアミノ酸配列を示している。
【図6】図6は、図5で作成した各融合蛋白質のKex2切断効率をHPLCで分析した結果を示している。図6Aは、PR-hGhrelin(8-28)のKex2酵素反応後のHPLC分析結果を示す。図6Bは、RR-hGhrelin(8-28)のKex2酵素反応後のHPLC分析結果を示す。図6Cは、KR-hGhrelin(8-28)のKex2酵素反応後のHPLC分析結果を示す。ピーク ア)は、リンカー配列を含む[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)のピークを示す。ピーク イ)は、[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)のピークを示す。ピーク ウ)は、[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(16-28)のピークを示す。
【図7】図7は、培養に最適な融合蛋白質を決定するために作成した各hGhrelin(8-28)融合蛋白質のアミノ酸配列を示している。
【図8】図8Aは、融合蛋白質の違いによる培養結果の差を示し、図8Bは、各融合蛋白質での培養液の菌体破砕前の濁度に対する菌体破砕後の濁度(融合蛋白質による相違)を示している。
【図9】図9は、[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)の安定性評価結果を示している。
【図10】図10は、[Lys16,19,20,24(Boc)]hGhrelin(8-28)の安定性評価結果を示している。
Claims (19)
- アミノ酸又は/及び非アミノ酸からなる所望の配列を有し、そのうち少なくとも1のアミノ酸又は非アミノ酸が式1;−A(R)−(式中、Aはアミノ酸又は非アミノ酸を示し、RはAの側鎖に結合している修飾のために導入された置換基を示す。)で表わされる修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸であり、かつ、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片の作製に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基が保護基により保護されているペプチド断片の製造方法であって、前記非アミノ酸は、分子鎖長がペプチド相当長である NH 2 -CH(CH 2 OH)-CH 3 、分子鎖長がペプチド相当長である CH 3 -CH(R 11 )-COOH 、分子鎖長がペプチド相当長である CH 3 -CH(R 11 )- CH 3 、分子鎖長がジペプチド相当長である NH 2 -(CH 2 ) 3 CH(CH 2 OH)-COOH 、分子鎖長がジペプチド相当長である NH 2 -(CH 2 ) 4 -COOH 、分子鎖長がジペプチド相当長である NH 2 -C(CH 3 ) 2 -(CH 2 ) 3 -COOH 、分子鎖長がジペプチド相当長である NH 2 -CH(CH 3 )-(CH 2 ) 2 -CH(CH 3 )-COOH 、分子鎖長がジペプチド相当長である NH 2 -(CH 2 ) 3 CH(CH 2 OH)- CH 3 、および分子鎖長がジペプチド相当長である NH 2 -(CH 2 ) 3 CH(R 11 )- CH 3 からなる群より選ばれるものであり( R 11 は天然アミノ酸の側鎖を表す。)、
(a)アミノ酸又は/及び非アミノ酸からなる所望の配列を有し、かつアミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、ペプチド断片作製に際して望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基が保護基により保護されているペプチド断片を弱酸性離脱樹脂上で作製し、(b)前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂上から離脱させることなく、置換基Rにより修飾をうけるアミノ酸又は非アミノ酸Aの側鎖における反応性官能基に導入されている、t−ブチルジメチルシリル( TBDMS )、t−ブチルジフェニルシリル( TBDPS )、トリイソプロピルシリル( TIPS )、トリイソブチルシリル( TIBS )、t−ヘキシルジメチルシリル( ThxDMS )、及びトリフェニルシリル( TPS )からなる群より選ばれるシリル系保護基を、テトラブチルアンモニウムフルオリド( TBAF )、テトラエチルアンモニウムフルオリド( TEF )、及びアンモニウムフルオリドからなる群より選ばれるフッ化四級アンモニウムで脱保護し、(c)前記脱保護した側鎖を置換基Rで修飾し、(d)弱酸性条件で前記ペプチド断片における保護基を脱離させることなく前記ペプチド断片を弱酸性離脱樹脂から離脱させることを特徴とする、修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片の製造方法。 - 弱酸性離脱樹脂が、トリチル系樹脂、及び Sieber Amide 樹脂からなる群より選ばれる樹脂である請求項1に記載のペプチド断片の製造方法。
- Aがセリン、スレオニン、システイン、ホモシステイン、リジン、オルニチン、グルタミン酸、2−アミノアジピン酸、ジアミノ酢酸、2−アミノマロン酸、アスパラギン酸、チロシン又はアスパラギンであり、Rがエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、アミド結合、O−グリコシド結合又はN−グリコシド結合を介してAの側鎖の反応性置換基に結合していることからなる請求項1又は2に記載のペプチド断片の製造方法。
- Aがセリン又はスレオニンであり、Rがエステル結合を介してAの側鎖の水酸基に結合していることからなる請求項3に記載のペプチド断片の製造方法。
- ペプチド断片が、
(1)グレリン、
(2) 配列番号1に記載のアミノ酸配列において、アミノ末端から4〜10番目までのアミ ノ酸配列を少なくとも有するペプチド若しくはその塩、及び配列番号1〜21に記載のアミノ酸配列において、アミノ末端から4〜10番目までのアミノ酸配列以外の部分で、1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその薬学的に許容される塩からなる群より選ばれるグレリン誘導体、又は
(3)前記グレリンもしくは前記グレリン誘導体の中の修飾をうけたアミノ酸を含むペプチド断片
である請求項4に記載のペプチド断片の製造方法。 - 弱酸性離脱樹脂が2−クロロトリチル樹脂であり、シリル系保護基がt−ブチルジメチルシリル( TBDMS )であり、フッ化四級アンモニウムがテトラブチルアンモニウムフルオリド( TBAF )である請求項1〜5のいずれかに記載のペプチド断片の製造方法。
- 工程(c)において、脱保護した側鎖をオクタノイル基で修飾し、該オクタノイル化反応をオクタン酸4当量、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド( EDC )4.4当量、4−ジメチルアミノピリジン (DMAP) 1当量を用いて8〜16時間反応させることにより行う請求項6に記載のペプチド断片の製造方法。
- (a)請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を1以上含む保護されているペプチド断片を製造し、前記(a)のペプチド断片とは別個に、(b)修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まず、かつ、アミノ酸又は非アミノ酸の側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基が保護されているペプチド断片を製造し、前記(a)及び(b)で製造されたペプチド断片を縮合することを特徴とする修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- ペプチド断片の縮合が、縮合剤を用いて行われることからなる請求項8に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- 縮合剤が、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、2−(1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル) −1,1,3,3−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、ジフェニルホスホロシアニデート(DEPC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)である請求項9に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- 縮合剤が、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)であり、前記縮合剤を用いるペプチド断片(a)と(b)の縮合が、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)又は3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−ベンゾトリアジン(HOOBt)の存在下で行われることからなる請求項9に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- 前記(a)で製造されたペプチド断片と前記(b)で製造されたペプチド断片との縮合を、縮合剤として2− ( 1−ヒドロベンゾトリアゾール−1−イル ) −1,1,3,3−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート( HBTU )を用いて行うか、又は縮合剤として1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド( EDC )を用い、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール (HOBt) の存在下で行う請求項9に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- 修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を、酵素法又は/及び遺伝子組換法により製造することからなる請求項8〜12のいずれかに記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- 修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を、下記方法;
工程(1);前記ペプチド断片のアミノ酸配列を有するペプチド(以下、本項において目的ペプチドという。)をコードする塩基配列、又は目的ペプチドに所望によりリンカー配列を介して保護ペプチドが付加されている融合蛋白質をコードする塩基配列のいずれかを有する発現ベクターにより形質転換された細胞を培養して、当該培養物から目的ペプチド又は前記融合蛋白質を採取する工程;
工程(2);工程(1)において融合蛋白質を採取した場合、得られた融合蛋白質から、保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドとを切断分離し、所望により目的ペプチドをさらに精製する工程;
工程(3);工程(1)又は(2)で得られた目的ペプチドの側鎖における、水酸基、アミノ基、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる1種以上の、望ましくない副反応を惹起する可能性を有する反応性官能基を保護基により保護する工程;
を含む方法により製造することからなる請求項13に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。 - 工程(2)における保護ペプチド及び所望によりリンカー配列と目的ペプチドとの切断分離が、OmpTプロテアーゼ、又はOmptinファミリー酵素、及びOmpTプロテアーゼの活性部位を含む部分ペプチドからなる群より選ばれるOmpTプロテアーゼ誘導体、及びKex2プロテアーゼ、又はKex2ファミリー酵素から選ばれる誘導体を用いて2段階で行われることからなる請求項14に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- リンカー配列が、配列番号27に記載の配列である請求項14又は15に記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- ペプチド断片が、グレリンもしくは前記グレリン誘導体の中の修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ基を含まないペプチド断片であることを特徴とする請求項12〜16のいずれかに記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- 修飾をうけたアミノ酸又は非アミノ酸を含まない保護されているペプチド断片を、pH4〜8の溶液中で精製及び保存することを特徴とする請求項12〜17のいずれかに記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
- 保護基がBoc基である請求項12〜18のいずれかに記載の修飾ペプチド又は蛋白質の製造方法。
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