JP4273658B2 - 水分散体の製造方法およびその水分散体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重合安定性、保存安定性、成膜性の良好な水分散体の製造方法およびその水分散体に関し、さらに詳しくは、紙、フィルム、金属、ガラス、木材、皮革などの各種基材に使用することのできるコーティング用、インキ用水分散体であり、ロールコート適性に優れ、光沢、耐水性、耐溶剤性、ブロッキング性、密着性の良好な塗膜を形成する水分散体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ラジカル重合可能な不飽和単量体を重合してなる水分散体の重合方法として、乳化重合法は多岐にわたり利用されている。一般的な乳化重合法としては、水媒体中で界面活性剤を使用し、そのミセル中でラジカル重合を行う方法がある。この方法で作られた水分散体は分子量が高く、コーティング用樹脂として使用した場合には優れた物性をもつ塗膜が得られる。反面、高分子量であるため成膜性が悪く光沢のよい塗膜を得るのが難しい。また得られた水分散体の粘性はチキソ性が強く、スプレーコートには適しているがロールコートには適していない。
【0003】
一方、上記に示した乳化重合法に対して、水溶性の樹脂を高分子乳化剤として使用する乳化重合法が知られている。この方法で作られた水分散体は、水溶性樹脂が比較的多く存在するために成膜性がよく、ある程度の高光沢な塗膜が得られる。また、粘性もニュートニアンに近くロールコートに適しているという特徴がある。この方法に用いられる高分子乳化剤としては、さまざまな水溶性樹脂が利用されており、これを用いたラジカル重合による製造方法としては溶液重合、塊状重合、乳化重合などによる方法が知られている。
【0004】
このうち、溶液重合による方法は脱溶剤の必要性があり効率性、経済性がよくない。塊状重合による方法は得られた固形樹脂を水に溶解する工程が必要であり効率性に問題がある。
【0005】
一方、乳化重合による方法は、連続して次の重合を行うことができるため最も効率のよい方法である。例えば、特公平6−81765号公報には、親水性の1次重合体を乳化重合で作成して、次に疎水性の2次重合体を乳化重合する方法が示されている。
【0006】
しかし、水溶性の樹脂を高分子乳化剤として使用する乳化重合法は酸価の高い水溶性樹脂を比較的多く使用しているため耐水性が悪いという欠点を持っている。また、紙コーティングなどの光沢を必要として、かつ塗装面同士が接触する可能性がある用途に使用する場合、耐水性が悪いとブロッキング性が悪くなる傾向にある。この問題を解決するために樹脂のTgを高くし塗膜の軟化を抑えたり、樹脂の酸価を下げて耐水性を上げる検討がなされている。樹脂のTgを高くすると成膜性が低下し、光沢に悪影響をおよぼす。樹脂の酸価を下げると乳化重合時の安定性に問題が生じ凝集物が多量に発生する。さらに酸価を下げる代わりに親水性の単量体を使用する試みもされているが、樹脂全体の親水性を大きく下げていることにはなっておらず、かつ乳化重合での安定性もそれほど改善されていないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、乳化重合により作成した高分子乳化剤を使用して乳化重合を行う水分散体の製造方法で、重合時に凝集物の発生しない安定な水分散体の製造方法を提供するとともに、光沢やブロッキング性に優れた水分散体を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、5〜25重量%のカルボキシル基含有不飽和単量体と1〜10重量%のカルボニル基含有不飽和単量体とを含むラジカル重合可能な不飽和単量体(X)を乳化重合して1次重合体(a)とする第1の工程;前記1次重合体(a)を塩基性物質で中和して1次重合体(a')とする第2の工程;および、不飽和単量体(Y)全体に対して0.1〜10重量%のラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する不飽和単量体を含むラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)を、前記1次重合体(a')の存在下で乳化重合して2次重合体(b)とする第3の工程を含む3つの工程から水分散体(c)を合成し、さらに、水分散体(c)に含まれるカルボニル基に対してモル当量比で0.5〜1.5である分子中に2個以上のヒドラジド基を含有するヒドラジド化合物を添加してなる水分散体(d)の製造方法であって、
前記カルボニル基含有不飽和単量体が、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシブチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレートおよびアセトアセトキシブチルメタクリレートからなる群より選択される一種以上の単量体であることを特徴とする水分散体(d)の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、第3の工程において、ラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)が、1〜10重量%のカルボニル基含有不飽和単量体を含むことを特徴とする上記製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、第3の工程において、第1の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(X)に由来する部分と、第3の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)に由来する部分との重量比が9:1〜3:7であることを特徴とする上記製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、上記製造方法で製造してなる水分散体に関する。
【0012】
【発明の実施形態】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0013】
本発明では、水分散体(c)を製造するために2回(第1の工程および第3の工程)の乳化重合を行う。第1の工程は1次重合体(a)を重合する工程であり、5〜25重量%のカルボキシル基含有不飽和単量体と1〜10重量%のカルボニル基含有不飽和単量体とを含むラジカル重合可能な不飽和単量体(X)を乳化重合する。
【0014】
第1の工程においては、ラジカル重合可能な不飽和単量体(X)は、カルボキシル基含有不飽和単量体、カルボニル基含有不飽和単量体、および、その他のラジカル重合可能な不飽和単量体からなる。
【0015】
本発明に使用するカルボキシル基含有不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などの重合性不飽和カルボン酸およびそれらの無水物などから1種または2種以上を選択することができる。
【0016】
カルボキシル基含有不飽和単量体は、第1の工程で使用するラジカル重合可能な不飽和単量体(X)中の5〜25重量%であることが望ましい。カルボキシル基含有不飽和単量体が5重量%より少ないと、重合安定性が悪く凝集物が多量に発生して生産効率に悪影響を及ぼす。一方、25重量%より多いと、コーティング剤に使用した場合、塗膜の耐水性が悪くなる。
【0017】
本発明に使用するカルボニル基含有不飽和単量体としては、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシブチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシブチルメタクリレートなどから1種または2種以上を選択することができる。
【0018】
カルボニル基含有不飽和単量体は、第1の工程においては、第1の工程で使用するラジカル重合可能な不飽和単量体(X)中の1〜10重量%であることが望ましい。カルボニル基含有不飽和単量体は分子中に2個以上のヒドラジド基を有する化合物を架橋剤として用いることにより常温で架橋反応を起こすことが知られている。このことにより、酸価が高く耐水性の悪い1次重合体(a’)を後架橋し、最終的にブロッキング性を大きく向上させることができた。しかしながら、カルボニル基含有不飽和単量体を1重量%より少なく使用すると、架橋性が十分でなく、ブロッキング性に対する効果がみられない。一方、10重量%より多く使用すると、水分散体(d)の保存安定性が悪くなり、ゲル化する傾向にある。
【0019】
本発明に使用するその他のラジカル重合可能な不飽和単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシルなどのアクリル酸アルキルエステル類;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸アルキルエステル類;
アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ基含有モノマー;
N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタアクリルアミドなどのN−置換アクリル、メタクリル系モノマー;
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;並びに
アクリロニトリルなどから1種または2種以上を選択することができる。
【0020】
水分散体(c)製造の第2の工程としては、前記1次重合体(a)を塩基性物質で中和して1次重合体(a’)とする。この操作により1次重合体(a)は高分子乳化剤としての機能を十分発揮できるようになる。
【0021】
中和する際の塩基性物質としては、アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン等のアルキルアミン類;2−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルコールアミン類;モルホリン等の塩基で中和することができる。
【0022】
本発明では、中和とは、カルボキシル基含有単量体のカルボキシル基と、塩基性物質の塩基とを反応させることを意味し、必ずしも、中和後のpHが7付近である必要はない。従って、中和の程度は特に制限はなく、1次重合体(a’)が高分子乳化剤として機能する範囲で行うことができる。
【0023】
水分散体(c)製造の第3の工程では、不飽和単量体(Y)全体に対して0.1〜10重量%のラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する不飽和単量体を含むラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)を、前記1次重合体(a’)の存在下で乳化重合して2次重合体(b)を作成する。
【0024】
本発明に使用するラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する不飽和単量体としては、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレンジアクリレート、ポリエチレンジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオ−ルジアクリレート、1,6−ヘキサンジオ−ルジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス{4−(アクリロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル}プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールトテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールトペンタメタクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレートなどから1種または2種以上を選択することができる。
【0025】
第3の工程で用いるラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する不飽和単量体は、第3の工程で使用するラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)中の0.1〜10重量%であることが望ましい。ラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する単量体を0.1重量%より少なく使用すると、コーティング剤に使用した場合、特にブロッキング性の効果が現れてこない。一方、10重量%より多く使用すると、重合時の安定性に問題が生じ、凝集物の発生やゲル化が起こりやすくなる。もし重合できたとしてもコーティング剤に使用した場合、粒子が硬く成膜性に問題が起こる。
【0026】
さらに水分散体(c)製造の第3の工程では、ラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する不飽和単量体以外のラジカル重合可能な不飽和単量体としてカルボニル基含有不飽和単量体を使用することも特徴としている。カルボニル基含有不飽和単量体は第1の工程で説明した単量体の中から1種または2種以上から選択することができる。
【0027】
第3の工程で用いるカルボニル基含有不飽和単量体は、第3の工程で使用するラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)中の1〜10重量%であることが望ましい。カルボニル基含有単量体を1重量%より少なく使用すると、コーティング剤に使用した場合、特にブロッキング性の効果が現れてこない。一方、10重量%より多く使用すると、重合時の安定性に問題が生じ、凝集物の発生が起こりやすくなる。
【0028】
ラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する不飽和単量体以外のラジカル重合可能な不飽和単量体としては、前記カルボニル基含有不飽和単量体の他、第1の工程で説明した、カルボキシル基含有不飽和単量体およびその他のラジカル重合可能な不飽和単量体の中から1種または2種以上から選択することができる。第1の工程で用いるラジカル重合可能な不飽和単量体(X)と、第3の工程で用いるラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)とは、同じであっても異なっていてもよい。カルボキシル基含有不飽和単量体は、第3の工程では、必ずしも必要ではない。
【0029】
さらに、水分散体(c)の製造後、水分散体(c)に架橋剤として分子中に2個以上のヒドラジド基を含有するヒドラジド化合物を配合して水分散体(d)を作成する。添加方法としては、水溶性ヒドラジド化合物のものはそのまま、あるいは水で希釈して添加する。油溶性ヒドラジド化合物のものは溶剤に希釈して徐々に添加するか、あるいは界面活性剤で乳化して添加するのが好ましい。
【0030】
分子中に2個以上のヒドラジド基を含有するヒドラジド化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどの脂肪族ジヒドラジドの他、炭酸ポリヒドラジド、脂肪族、脂環族、芳香族ビスセミカルバジド、芳香族ジカルボン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸のポリヒドラジド、芳香族炭化水素のジヒドラジド、ヒドラジン−ピリジン誘導体およびマレイン酸ジヒドラジドなどの不飽和ジカルボン酸のジヒドラジドなどがあげられる。
【0031】
分子中に2個以上のヒドラジド基を含有するヒドラジド化合物は、水分散体(c)に含まれるカルボニル基1モル当量に対して0.5〜1.5モル当量になるような比率で配合するのが好ましい。ヒドラジド基が0.5モル当量より少ないと、十分な架橋が行われず、期待される塗膜物性が得られない。一方、1.5モル当量より多いと、架橋しないヒドラジド化合物が塗膜に残ることになり物性にプラスになることはなく、さらに経済的にも好ましくない。
【0032】
本発明では、第3の工程において、第1の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(X)に由来する部分と、第3の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)に由来する部分の重量比が9:1〜3:7であることが好ましい。重量比において、9:1より第1の工程の不飽和単量体(X)に由来する部分の量が多くなると得られる水分散体(c)の中の低分子量の親水性の樹脂が増えることとなり、コーティング剤に使用した際の塗膜物性、特に耐水性や強度などに悪影響がでる。また3:7より第1の工程の不飽和単量体(X)に由来する部分の量が少なくなると2次分散体(b)を分散させる能力が及ばず、乳化重合時の重合安定性が悪くなる。
【0033】
1次重合体(a)および2次重合体(b)の乳化重合時に使用する開始剤としては、アンモニウムパーオキサイド、ソディウムパーオキサイド等の無機系過酸化物重合開始剤や水溶性アゾ系開始剤を使用する。場合によればベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性の開始剤を併用することもできる。これら開始剤は単独で使用することもできるが、ロンガリット等の還元剤との併用によるレドックス型で使用してもよい。
【0034】
また乳化重合中に、硫酸第二銅、塩化第二銅等の銅イオンや、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等の鉄イオンなどの遷移金属イオンを重合系に10-7〜10-5モル/リットルの範囲で添加することができる。
【0035】
また分子量調整のために連鎖移動剤として、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、ステアリルメルカプタン等のメルカプタン類、α−メチルスチレンダイマーなどを使用することができる。連鎖移動剤は、特に1次重合体(a)の乳化重合での使用が重要であり、1次重合体の分子量によりその高分子乳化剤としての性能も左右される。1次重合体(a)の重量平均分子量については5000〜50000が適当であり、この調整には連鎖移動剤を用いるのが最も有効である。さらに水分散体(c)の分子量を調整するために2次重合体(b)の乳化重合時にも使用することができる。
【0036】
本発明においては、第1の工程で界面活性剤を用いるが、場合によっては使用しなくても良い。しかし、安定な乳化重合を行い、目的とする高分子乳化剤を得るには界面活性剤を使用する方が好ましい。界面活性剤を使用する場合、塗膜物性を考えるとラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤を使用する方が好ましい。
【0037】
本発明に使用する界面活性剤は、分子中にラジカル重合性の不飽和基を1個以上有するものでは、例えばスルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば花王株式会社製ラテムルS−120,S−180P,S−180A,三洋化成株式会社製エレミノールJS−2等)やアルキルフェノールエーテル系(市販品としては、例えば第一工業製薬株式会社製アクアロンHS−10,RN−20等)がある。
【0038】
乳化重合に際しては、これらの1種または2種以上を混合して用いる。またラジカル重合性の不飽和基を1個以上有する界面活性剤の使用量が少なく乳化が不充分である場合は、必要に応じて反応性のない界面活性剤を併用することも、単独で使用することも可能である。しかし、前述したように塗膜の耐水性等の悪影響が考えられるため極力さけた方が好ましい。反応性のない界面活性剤としては、通常の乳化重合に使用されるアニオン系、ノニオン系の界面活性剤を使用することができる。
【0039】
さらに緩衝剤として酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が、また保護コロイドとしてのポリビニルアルコール、水溶性セルロース誘導体等が使用できる。
【0040】
本発明で製造された水分散体は、各種コーティング剤に使用することができる。このコーティング剤は保存安定性、成膜性の良好であり、ロールコート適性に優れ、光沢、耐水性、耐溶剤性、ブロッキング性、密着性の良好な塗膜を形成する。コーティング剤の具体例としては紙、フィルム、金属、ガラス、木材、皮革などの各種基材に使用することのできる塗料やインキが挙げられる。またこれらのコーティング剤には顔料、染料等の着色剤やフィラー、微粉末シリカ等のチキソ性調整剤、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性または水分散性ポリウレタン樹脂、乳化剤、消泡剤、レベリング剤、滑り剤、粘着性付与剤、防腐剤、防黴剤、造膜助剤としての有機溶剤などを必要に応じて配合してもよい。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、例中「部」、「%」はそれぞれ「重量部」、「重量%」を示す。
(実施例1)
温度計、滴下ロート、還流冷却管を備え窒素ガスで置換した反応容器に、表1に示す反応釜量のイオン交換水を仕込んだ。表1の第1工程滴下分はあらかじめ混合してプレエマルジョンとしておいた。内温を80℃に昇温した後、滴下を開始した。内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンを約45g/10分の割合で滴下し、さらにその温度で1時間反応した。次に第2工程の表1に示す25%アンモニア水を添加して10分間撹拌を続けた。次に第3工程としてまず表1に示す重合開始剤を添加し、同時に表1に示すモノマーを約25g/10分の割合で滴下し、さらに2時間反応させた。冷却後、表1に示すアジピン酸ジヒドラジドをイオン交換水と同時に添加して30分間撹拌した。固形分41.2%、粘度570mPa・s、pH8.3、粒子径83nmの水分散体を得た。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例2〜10)
表2に示す組成を実施例1と同様の方法で重合して、それぞれの水分散体を得た。
【0044】
【表2】
【0045】
(比較例1〜9)
表3に示す組成を実施例1と同様の方法で重合して、それぞれの水分散体を得た。
【0046】
【表3】
【0047】
次に得られた実施例1〜10および比較例1〜9の水分散体の物性を評価した。評価試験方法は下記に示した方法で行った。各試験で得られた試料の物性結果を表4に示した。
【0048】
水分散体の評価
(1)重合安定性:反応終了後の反応容器への樹脂の付着量および、濾布で濾過後の凝集物の量を目視で評価した。なお、評価基準は次のとおりである。
【0049】
◎:良好である。
【0050】
○:実用上問題のないレベルである。
【0051】
△:若干問題のあるレベルである。
【0052】
×:不良である。
【0053】
(2)保存安定性:密閉したガラス容器に水分散体をいれて40℃で1カ月保存し、粘度の変化率を測定した。さらに、ガラス容器の底の凝集物について目視で評価した。なお、評価基準は次のとおりである。
【0054】
◎:粘度変化率 ≦±10%、凝集物は認められない。
【0055】
○:粘度変化率 ≦±10%、凝集物がわずかに認められる。
【0056】
△:粘度変化率 ±10%〜±30%、もしくは凝集物が一部認められる。
【0057】
×:粘度変化率 ≧±30%、もしくはかなりの沈降が認められる。
【0058】
(3)耐水性:得られた水分散体(c)100部にブチルセロソルブ5部を添加し試験用の分散体溶液とした。顔料濃度14%、樹脂/顔料の固形分比=1/1の水性フレキソインキを#4バーコーターでコート紙に塗工し80℃のオーブンで1分間乾燥した。この上に、試験用の分散溶液を#6バーコーターで塗工し、120℃のオーブンで3分間乾燥させ評価試料とした。試料を学振型テスターにセットして、水で濡らしたカナキン3号布で500g×100回表面を往復させ、表面状態を目視で観察した。なお、評価基準は次のとおりである。
【0059】
◎:100回のラビングでも塗膜に全く変化がない。
【0060】
○:100回のラビングで塗膜にわずかな変化が見られる。
【0061】
△:100回のラビングで塗膜にかなりの変化が見られる。
【0062】
×:100回のラビングを行わないうちに塗膜がなくなってしまう。
【0063】
(4)光沢:上記で作成した評価試料を用いて、60度の鏡面反射率をグロスメーターで測定した。
【0064】
(5)ブロッキング性:上記で作成した評価試料を用いて、塗膜面同士を重ね、温度40℃、湿度80%、荷重500g/cm2で24時間放置してブロッキングの発生を目視で評価した。なお、評価基準は次のとおりである。
【0065】
◎:抵抗なく剥離でき、塗膜に全く変化がない。
【0066】
○:剥離の際、わずかながら抵抗があるものの、塗膜には変化がないもの。
【0067】
△:剥離の際、抵抗があり、塗膜にもブロッキングの痕が観察されるもの。
【0068】
×:塗膜のほとんどがブロッキングしており、塗膜の一部またはほとんどが反対の面 に移行しているもの。
【0069】
【表4】
【0070】
比較例1〜4は、第1の工程において、それぞれ、カルボキシル基含有不飽和単量体4重量%、同30重量%、カルボニル基含有単量体0.5重量%、同15重量%を用いた例であるが、比較例1,2,4では重合安定性および保存安定性に劣り、比較例3ではブロッキング性に問題があった。
【0071】
また、比較例5〜7は、第3の工程において、それぞれ、ラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する単量体0.05重量%、同12重量%、カルボニル基含有単量体12重量%を用いた例であるが、比較例5ではブロッキング性に問題があり、比較例6,7では重合安定性や保存安定性に問題があった。
【0072】
これに対して、本発明の水分散体である実施例1〜10は、いずれも、重合安定性、保存安定性、耐水性、光沢値、ブロッキング性のすべてを満足するものであった。
【0073】
【発明の効果】
本発明によれば重合安定性、保存安定性、成膜性の良好な水分散体を製造することができ、その水分散体を紙、フィルム、金属、ガラス、木材、皮革などの各種基材に使用することのできるコーティング用、インキ用塗装剤に用いると、ロールコート適性に優れ、光沢、耐水性、耐溶剤性、ブロッキング性、密着性の良好な塗膜を形成することができる。
Claims (4)
- 5〜25重量%のカルボキシル基含有不飽和単量体と1〜10重量%のカルボニル基含有不飽和単量体とを含むラジカル重合可能な不飽和単量体(X)を乳化重合して1次重合体(a)とする第1の工程;前記1次重合体(a)を塩基性物質で中和して1次重合体(a')とする第2の工程;および、不飽和単量体(Y)全体に対して0.1〜10重量%のラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する不飽和単量体を含むラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)を、前記1次重合体(a')の存在下で乳化重合して2次重合体(b)とする第3の工程を含む3つの工程から水分散体(c)を合成し、さらに、水分散体(c)に含まれるカルボニル基に対してモル当量比で0.5〜1.5である分子中に2個以上のヒドラジド基を含有するヒドラジド化合物を添加してなる水分散体(d)の製造方法であって、
前記カルボニル基含有不飽和単量体が、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシブチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレートおよびアセトアセトキシブチルメタクリレートからなる群より選択される一種以上の単量体であることを特徴とする水分散体(d)の製造方法。 - 第3の工程において、ラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)が、1〜10重量%のカルボニル基含有不飽和単量体を含むことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 第3の工程において、第1の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(X)に由来する部分と、第3の工程のラジカル重合可能な不飽和単量体(Y)に由来する部分との重量比が9:1〜3:7であることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
- 請求項1〜3いずれか記載の製造方法で製造してなる水分散体。
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