JP4267500B2 - しごき成形性に優れたインナーワックスを含有する塗装金属帯 - Google Patents

Description

本発明は、しごき成形用途に適用されるあらかじめ塗装された金属帯に関するものである。

従来、低コスト量産が容易なことから、絞り加工やしごき加工が飲料容器分野を中心に幅広く適用されている。また、自動車部品や電気部品の分野においても部品の生産性向上のため、しごき加工成形が徐々に適用されつつある。これらのしごき加工を行なう方法としては、一般に加工性確保の観点からニッケルメッキや錫メッキ等の表面処理を施した鋼板やアルミ板をその表面に潤滑剤を付与しつつ加工を行う方法が一般的である。外面錆防止と内面耐食性確保のためには、しごき成形後に塗装被覆する必要があるため、成形後に缶単位で潤滑剤をアルカリ等の洗剤で水洗除去、化成処理、塗装する低生産性の工程を経由せねばならないという問題があった。

かかる缶工程の低生産性工程を省略し、生産性を改善する技術として、特開平１０−４６１０１号公報（特許文献１）に開示されたような表面にラミネートを施す方法や、加工前に予め缶外面相当面に樹脂系塗料で塗装する方法が提唱されてきた。樹脂系塗料で塗布するに際しては、その後の加工時の加工性を確保するため、塗料中に潤滑剤としてインナーワックスを添加する場合がある。絞り加工やしごき加工は一般に多段加工であるが、このような場合、インナーワックスの成形性が安定せず、加工過程で潤滑効果が十分発揮できない場合があった。

また、インナーワックスの塗膜内分布を塗装焼付温度制御や塗装加熱勾配制御により均一に分布させる方法が、しごき加工性を向上させる手段として提唱された例はあるが、この場合、ワックス分布の定量的な管理手法がなく、特に、板断面方向へのワックス分布の均一性について定量管理基準がないため、複数段での加工の安定性を制御管理出来ないという問題点があった。

特開平１０−４６１０１号公報

本発明は、上記の従来技術の欠点を改善し、樹脂系塗料に添加されたインナーワックスの分布を絞り加工やしごき加工の潤滑効果を十分に発揮させるように制御する技術を提供するものである。

本発明者らは、上記の課題を解決するために、しごき加工を行うに際して、インナーワックスの塗装膜内の分布をＴＥＭ顕微鏡で精緻に確認し、その観察に基づき、最適なインナーワックス分布の詳細を制御することによりしごき加工性を飛躍的に改善できることを知見した。すなわち、本発明者らは、板表面方向のワックス分布を複数のしごき加工における各しごき加工工程において、定量的に把握し、下記の条件に制御することにより、均一な安定したしごき加工を実現出来ることを知見したのである。

その発明の要旨とするところは、
（１）３０％以上のしごき加工を行う多段しごき成型用インナーワックスを乾燥重量比で２％以上３０％未満含有する塗装金属帯であって、塗膜の焼き付け加熱速度を１０〜２０℃／秒とし、総肉厚減少率１０％以上のしごき成形をされるに際し、ワックス粒子のうち３％以上が、ａ段目の成形前の塗膜の最表層から（１００−Ｙａ）×Ｚ／１００までの深さに存在することを特徴とするしごき成形性に優れたインナーワックスを含有する塗装金属帯。
ただし、Ｙａ％：ａ段目の成形での肉厚減少率、Ｚ（μｍ）：ａ段目の成形前の塗膜の厚み、ワックス粒子の％：塗膜の断面方向からＴＥＭ解析顕微鏡で２０００倍の倍率で観察した場合の面積％
（２）インナーワックスがオレフィン系の樹脂の１種または２種以上を含むことを特徴とする前記（１）に記載のしごき成形性に優れたインナーワックスを含有する塗装金属帯。

以上述べたように、本発明によると、樹脂系塗料に添加されたインナーワックスの絞り加工やしごき加工時における潤滑効果を十分に発揮させることができ、その工業的意義は極めて大きい。

以下、本発明について、しごき加工の場合を例として説明する。まず、本発明の金属帯について説明する。図１は、本発明に係わる金属帯の表面断面構造を示す図である。図１に示すように母材Ａとなる金属帯の少なくともしごき加工を受ける面側塗膜Ｂ中にインナーワックスＣを含んでおり、塗膜内のインナーワックス分布を以下の状態とする。すなわち、総肉厚減少率１０％以上のしごき成形を行なうにあたり、しごき成形工程のａ段目での肉厚減少率Ｙａ％、ａ段目の成形前の塗膜の厚み比をＺとするとき、（１００−Ｙａ）×Ｚ／１００までの深さに存在するワックスの断面積が、しごき断面をＴＥＭ解析顕微鏡で２０００倍の倍率にて観察して得られた任意の部位のワックス分布の５点平均値で測定した値において、３％以上に制御されている。

インナーワックスがしごき加工性を改善する効果があることは知られていたが、その塗装膜内の分布をしごき加工性確保のために、どのように具体的に最適化すればよいかは知られていなかった。発明者らは、塗装膜内のインナーワックス分布を正確に定量的に把握する方法として、あらかじめオスミウム酸処理により塗装膜内のワックスを検視可能な状態に加工してＴＥＭ顕微鏡を用い、インナーワックスの塗装膜断面及び表面における面積当たりの存在比でインナーワックスの塗装膜内分布を測定する手法を開発することによりこの問題を解決した。

発明者らは、この手法を駆使し、塗装金属帯の複数しごき加工性と各しごき断面での表面のインナーワックス残留性を詳細に調査し、上記のような一定の関係を確保するようなインナーワックス分布を実現することで、しごき成形性を飛躍的に高めることができることを知見した。ここで、インナーワックス分布を制御する方法については、特に規定するものではないが、塗料の粘性と固形分比率、インナーワックスの成分、初期粒径、膜厚、及び塗装焼付け温度加熱パターン等と組み合わせを制御することにより、上記のインナーワックス分布を実現することが出来る。ここで、（１００−Ｙａ）×Ｚ／１００までの深さに存在するワックス比率が３％未満の場合は、ワックスの各しごき過程での供給が不十分となり、しごき成形時の外観ムラやしごき時の部品の断裂が発生しやすくなるので好ましくない。

この詳細なメカニズムは明らかではないが、塗膜がしごき加工を受けると、塗膜が伸び、また一部が破壊されるため、塗膜内部に存在するインナーワックスが塗膜表面に接するようになる。このインナーワックスがより多く塗膜表面に接する、つまり金型に接するように分布していると、しごき加工性が向上すると考えられる。あるしごき加工を受ける前に、塗膜表面付近から、ある深さまでのインナーワックスの面積比率が、一定量以上であるときに、前述のような機構でワックスが金型に接し、これによって塗膜面の潤滑性が確保されることでしごき加工性が向上する。本発明は、この深さとワックス面積比との関係を規定することによって、しごき加工を向上させようとするものである。

ここで金属帯については本発明では特に規定するものではないが、一般にしごき加工性を確保するよう材質や金属内清浄性を確保した金属帯が望ましい。例えば、０．１ｍｍから０．８ｍｍの範囲のしごき絞り加工用鋼板や０．１ｍｍから０．８ｍｍのしごき加工用アルミ板が代表例として挙げられる。
また、塗装前の表面処理についても特に規定するものではないが、塗料密着性を確保するためには、クロムメッキ処理、燐酸処理、有機燐酸処理等の化成処理を施すことが望ましい。また、塗装樹脂については、しごき加工性に優れた樹脂であれば特に規定するものではないが、例えば、ビニルオルガノゾル、ポリエステル樹脂が成形性に優れており望ましい。

また、本発明に係わる金属帯上の塗膜中に含まれるインナーワックスは少なくとも１種以上のオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。オレフィン系樹脂は他の樹脂に比べ、潤滑性に優れているからである。この時、ワックスの含有率は、３０％以上のしごき加工を行なう場合、乾燥塗膜重量比で２％以上３０％未満含有することが望ましい。２％未満であれば、しごき加工時の潤滑効果が不十分になり３０％以上となると余剰ワックスがしごき加工後に表層に残留しやすくなり、表面接着性や外観不良を誘発するので好ましくない。塗膜の膜厚も特に限定されず、ワックスの面積比が本請求項の範囲に入っていれば良い。

オスミウム酸による染色の方法とＴＥＭによるワックス分布の観察方法は下記の通りである。
（１）染色の方法
（ａ）塗装金属帯を針状に切り出し、観察する皮膜面にＰｔ−Ｐｄを蒸着する。
（ｂ）４％オスミウム酸水溶液に１４日間浸漬して染色する。
（ｃ）試料をビームカプセルに固定し、埋め込み樹脂で包埋する。
（ｄ）ミクロトームで厚み５０ｎｍの切片を切り出す。
（ｅ）切り出した切片をＣｕメッシュに掬い取り、カーボンを蒸着して電子顕微鏡観察用試料とする。

（２）観察方法
（ａ）使用した電子顕微鏡２００ｋＶ透過型電子顕微鏡 Ｈ−８００（日立製作所製） （ｂ）測定条件 加速電圧２００ｋＶ
なお、しごき加工性評価法：７０％円筒しごき多段成形後、しごき外面と成形缶割れ有無を目視で評価した。その評価は以下の通りである。
外観 ◎：良好
△：一部外観ムラ発生
×：外観ムラ発生
割れ ○：発生なし
×：発生

表１に実施例を示す。表１に示すように、Ｎｏ．１〜３、Ｎｏ．６〜８は本発明例であり、Ｎｏ．４〜５、Ｎｏ．９〜１０は比較例である。比較例Ｎｏ．４〜５およびＮｏ．９〜１０のいずれも（１００−Ｙａ）×Ｚ／１００までの深さに存在するワックス比率が３％未満の場合であるため、ワックスの各しごき過程での供給が不十分となり、しごき成形時の外観ムラやしごき時の部品の割れが発生した。これに対し、本発明例であるＮｏ．１〜３およびＮｏ．６〜８のいずれもその特性に優れていることが分かる。

本発明に係わる金属帯の表面断面構造を示す図である。

符号の説明

Ａ 母材
Ｂ しごき加工を受ける面側塗膜
Ｃ インナーワックス


特許出願人 新日本製鐡株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊 他１

Claims (2)

1. ３０％以上のしごき加工を行う多段しごき成型用インナーワックスを乾燥重量比で２％以上３０％未満含有する塗装金属帯であって、塗膜の焼き付け加熱速度を１０〜２０℃／秒とし、総肉厚減少率１０％以上のしごき成形をされるに際し、ワックス粒子のうち３％以上が、ａ段目の成形前の塗膜の最表層から（１００−Ｙａ）×Ｚ／１００までの深さに存在することを特徴とするしごき成形性に優れたインナーワックスを含有する塗装金属帯。
   ただし、Ｙａ％：ａ段目の成形での肉厚減少率、Ｚ（μｍ）：ａ段目の成形前の塗膜の厚み、ワックス粒子の％：塗膜の断面方向からＴＥＭ解析顕微鏡で２０００倍の倍率で観察した場合の面積％
2. インナーワックスがオレフィン系の樹脂の１種または２種以上を含むことを特徴とする請求項１に記載のしごき成形性に優れたインナーワックスを含有する塗装金属帯。

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