JP4248086B2 - 有機性廃水処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、下水処理場、屎尿処理場などの下水処理プロセス、または食品工場、化学工場などから排出される有機性廃水を処理する方法において、低コスト、高収率でリン成分を分離、回収できるリンの処理方法及び当該処理方法を採用した有機性廃水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
如上の有機性廃水を処理するための方法として、有機性廃水の生物学的消化により生じた、微生物菌体を主体とする微生物バイオマス及び未処理の残存汚泥からなる余剰汚泥を含んだ処理汚泥を沈殿槽などで固液分離し、上澄として得られる処理水を適宜廃棄処理する一方、余剰汚泥を海洋投棄または陸地埋立などによって処理する方法が広く採用されてきた。
【0003】
しかしながら、処理すべき有機性廃水によっては、このような処理により発生する処理水及び余剰汚泥中に高含量でリン成分(すなわち、正リン酸(オルトリン酸)、ポリリン酸、リン酸塩、リン酸エステル、リンタンパク質、グリセロリン酸、リン脂質等)が多量に含まれることがある。これらを廃棄することは環境汚染の直接的な原因として問題視され、特に、かかるリン成分を多量に含む処理水を湖沼などに排出すると水の富栄養化に伴う植物プランクトンの著しい増殖を招くために好ましくない。
【0004】
従って、沈殿装置からの処理水に下記のような凝集剤を添加してリン成分を低減した後に処理水が排出されるというような手段が採られる場合もあったが、大量の処理水にこのような凝集操作を施すには、大規模の処理装置を付加せざるをえず、処理コスト、所要時間、必要人員等の増加を招き、不利益をもたらす要因となってしまう。また、凝集の効率も低く、リン成分の除去が不充分に終わることもある。そして余剰汚泥中のリン成分は除去する術のないまま投棄せざるをえない現状にある。
【0005】
ところで、従来より知られている、廃水中に含まれるリンの除去プロセスとしては、▲1▼凝集剤添加法、▲2▼晶析脱リン法、▲3▼嫌気−好気活性汚泥法などが挙げられる(下水道施設計画・設計指針と解説(後編)1994年版、(社)日本下水道協会発行、第131〜136頁参照)。
【0006】
▲1▼の凝集剤添加法は、アルミニウムイオン、鉄イオンなどの三価金属陽イオンが正リン酸イオンと反応して難水溶性のリン酸塩を生成することを利用し、硫酸アルミニウム等の凝集剤を廃水に混和して、難溶性のリン酸塩から形成されるフロック(生物由来のフロックも含む)が沈殿分離されるものである。この方法では5〜20%程度の余剰汚泥の増加が認められており、リン成分を多量に含む余剰汚泥の大量廃棄は、環境保全が叫ばれている昨今、好ましいとはいい難い。
【0007】
▲2▼の晶析による方法とは、正リン酸イオンとカルシウムイオンとの反応による難溶性のヒドロキシアパタイトの生成に基づくものであり、余剰汚泥の増加を伴わない点では好ましいのであるが、アパタイト晶析のために必要な条件を厳密にコントロールする必要があるので(例えば、前処理による炭酸イオン等晶析妨害物質の除去、pH調整、温度調整等)、適用が限定され、またコスト増大を招く原因を含んでいるので、やはり廃水処理における手段として好ましい方法とはいえない。
【0008】
▲3▼の嫌気−好気活性汚泥法は、嫌気状態でエネルギー獲得のためにポリリン酸を正リン酸として放出した微生物が、好気状態で正リン酸を過剰摂取・代謝後ポリリン酸として蓄積することを利用した方法であり、廃水を嫌気槽、好気槽及び沈殿池における反復処理に付して、余剰汚泥にリン成分を内包させ、処理水中のリン成分を除去するものである。この方法で処理水から有効にリン成分を除去できるが、余剰汚泥はリン成分に富み、さらにその他種々の有機成分や重金属成分などが含まれているのでその廃棄に問題を生じる。そして、リン成分は例えば肥料やリン化合物製造等への有効利用の可能性が考えれられるにも関わらず、かような雑多な成分と混合した汚泥状態にあっては無駄に破棄するほかない。
【0009】
そこで、生物学的処理により発生した汚泥からリンを回収し、有効利用する目的で、汚泥を嫌気的に処理することにより汚泥中のリン成分を溶出させ、その溶出したリン成分を凝集剤を添加して回収する方法(特開平9−267099号公報参照)が開発されており、さらに最近になって、オゾン処理法(特開平9−94596号公報参照)、アルカリ添加法(特開平8−39096号公報参照)、機械的粉砕による方法(特開平11−57791号公報参照)などにより汚泥中のリンを回収する方法が提案されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、オゾン処理法では薬品や廃棄物に起因した問題は少ないが、設備費及びランニングコストが非常に高いので、経済的な面から実用に供しうるとはいえない。そしてアルカリ添加法によればアルカリ廃液が発生し、これの処理のためにさらなる経費を必要とすることになる。また、汚泥を嫌気的処理工程に曝すことにより微生物体内からリン成分を放出させる工程を含む方法によれば、比較的低コストでリンを回収、再利用することが可能になったものの、長期の処理時間を要するうえ、リンの回収率が50%程度と低く、またリン酸として回収されるために凝集剤の添加量が多くなるものであった。そして機械的粉砕による方法にあっては金属羽根を高速回転したり、あるいはビーズを高速回転させるなど、特殊な装置が必要であってそのメインテナンスにもかなりのコストや時間を要することになる。
【0011】
ところで、近年、湖沼、閉鎖性海域などのCODの環境基準の達成率は、それぞれ40%、65%と低くなっており、この原因はアオコやプランクトンなどの内部発生物質にあると考えられている。このため、富栄養化の原因となるチッ素、リンの総量排出規制について環境庁は平成11年2月に中央審議会へ諮問し、平成12年3月にはこれらの規制に係る答申が行なわれる予定となっており、有機性廃水に含まれるリン成分を効率よく再利用可能に回収し、環境に対しても悪影響を及ぼすことなく低コストにて実施し得る処理方法が希求され続けているところである。
【0012】
さらにリン成分の需要に着目してみると、現在我が国では年間90万トン以上(100億円以上に相当)のリン鉱石が諸外国より輸入されている。しかしながら、その原産地では永年の消費によって高品位のリン鉱石の採取が徐々に困難になってきており、今後安定的に日本に供給されうるか否かは明らかでない。また、アジア、欧米諸国等から年間約3000トン(4億円以上に相当)のポリリン酸塩が日本に輸入されている現状にあり、この輸入量は年々増大傾向にある。これはポリリン酸が、ATPの生産や、発ガン性を有するアスベストの代替物として期待されている鉱物繊維の製造の原料となりうる他、トリポリリン酸は合成洗剤、洗浄剤、金属イオン封鎖剤、食品添加剤の原料として、また、製紙、染色、写真技術などに用いる試薬原料などにおいて利用されるためであると考えられる。
【0013】
従って、このような国内での高い需要に応えるべく、リン鉱石の主要成分であるリン酸塩(リン酸カルシウム)を極めて高純度に含有する状態や、ポリリン酸塩として高純度な状態で、有機性廃水由来のリン成分を回収すれば、廃棄することによって環境汚染の原因となっていた如上のリン成分が極めて有効に活用できることとなり、種々の産業界に対して多大な貢献がもたらされるはずである。
【0014】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであって、その目的は、有機廃水処理方法において効率よく短時間でリン成分を分離回収でき、固体として沈澱させる際の薬剤必要量を低減することができるという効果が達成され、リン成分の再利用に利する処理方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本願第一発明は、有機性廃水を処理する方法において、(1)廃水が好気的処理に付される曝気処理工程、(2)曝気処理後の廃水が一次処理水と汚泥とに分離される固液分離工程、(3)分離された汚泥が濃縮される濃縮工程、(4)濃縮された汚泥よりリン成分を液相に放出させるために60〜90℃で10〜120分間加熱処理を行うリン放出工程、及び(5)放出されたリン成分を含有する二次処理水と、リン成分が除去された二次汚泥とに分離する固液分離工程を含むことを特徴とする有機性廃水の処理方法である。この方法によって、曝気処理工程(1)において廃水中の微生物内にリン成分が蓄積され、この処理水は次の固液分離工程(2)によって一次処理水と、リン成分が濃縮された汚泥とに分離され、さらに濃縮された(3)後、短時間加熱という、特段の設備も試薬も必要としないリン放出工程(4)でこの濃縮汚泥からリン成分を液相に放出させて固液分離することで小容量のリン成分高含有処理水(二次処理水)とリン成分が除去された二次汚泥とに分離することが可能となる。ここで放出されるリン成分は、主にポリリン酸の形態となっているので、従来の方法に比較して、凝集、沈殿させるために必要な金属塩などの凝集剤の必要量が格段に低くなる。そして濃縮工程(3)で汚泥を低容量とすることによって、続くリン放出工程(4)に必要とされる槽の減容化が可能となる。そうすれば当該工程での加熱に要するエネルギーの低減、その後の処理槽の減容化にもつながり、設備・維持費を大幅に削減することができる。
【0016】
本願第二発明は、本願第一発明における前記濃縮工程(3)が浮上濃縮法によって行なわれることを特徴とする。浮上濃縮は、汚泥に空気の気泡を付加することで汚泥の見かけ比重を低減させて汚泥が浮上することを利用するものである。例えば沈澱濃縮では濃縮率に限界があり、汚泥濃度2%程度にまでしか濃縮しえないこと、さらに汚泥の滞留時間によっては微生物が嫌気状態に曝されて前記の曝気処理工程(1)で体内蓄積されていたリン成分が再度放出し、返流水中にリンが含まれることになり、水処理系のリン除去率が低下してしまう可能性がある。従って、実質的に汚泥を好気的状態に保つことができ、リン成分の再放出を防ぎつつ4%汚泥濃度以上の十分な濃縮が実現され、上述の汚泥濃縮に伴う利点を達成することが可能である浮上濃縮法が本発明において好適に採用される。
【0017】
本願第三発明は、前記濃縮工程(3)によって得られる汚泥と、リン放出工程(4)の後の処理液との熱交換が行なわれ、しかして処理工程における熱の回収効率が良好となりヒートロスが少ない方法を提供する。さらにこのように熱交換を実施すれば、リン放出後に得られた処理液が冷却された後に固液分離工程(5)に付されることになるため、この際の固液分離手段の選択肢が広がるという利点も生じる。
【0018】
本願第四発明は、前記固液分離工程(5)の後に、当該工程にて生じた二次処理水に対し、放出されたリン成分を凝集剤の添加によって前記液相から沈殿させるリン凝集工程(6)をさらに含むものである。この方法によって成分を沈殿させたものを回収すれば、非常に濃縮された固形成分としてリン成分が得られるので、肥料やリン化合物製造のために利用しやすく、運搬取扱上も有利である。
【0019】
本願第五発明の処理方法は、前記リン凝集工程(6)が、pH8.0〜10.5の塩基性の条件下に実施されるものである。このような条件において、リン成分はリン酸成分及びポリリン酸成分ともに、固体として容易に分離可能な形状へと効率的に凝集する。
【0020】
本願第六発明の処理方法は、前記曝気処理工程(1)の前に、嫌気的処理工程(7)をさらに含む。この嫌気処理によって、微生物へのリン成分の過剰摂取に先駆けて嫌気的汚泥分解と液相へのリン成分の放出が行われるので、曝気処理におけるリン成分の過剰摂取がさらに効率よく行われることになる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の有機性廃水を処理する方法において、汚泥が60〜90℃で10〜120分間、好ましくは70〜80℃で20〜60分間加熱処理され、係る加熱処理によって汚泥中のリン成分が液相に放出される。このような条件で加熱すると、後述の実施例に明らかなように、リン成分を主にポリリン酸として放出させることが可能となる。すると、従来の方法に従いオルトリン酸やその他のリン酸誘導体等としてリン成分が放出された場合に比較して、液相から沈澱としてリン成分を回収するために必要な金属塩などの凝集剤の必要量が格段に低減する。これは、リンの原子数に対する、凝集剤が結合可能なフリーのリン酸残基数が、ポリリン酸では少ないことによるものである。また、ポリリン酸の金属塩の方が、リン酸の金属塩よりも大きな顆粒状の沈澱塊を形成するので、その後の回収処理において、例えば沈澱分離や遠心分離での所要時間を短縮し、容量を減容化し、遠心分離の回転数を抑えることなどが可能となるので好都合である。上記処理温度が60℃より低いとポリリン酸としてのリン成分の放出が困難であり、90℃を越えるとポリリン酸の放出後速やかにリン酸へと分解されてしまうので回収のための凝集剤必要量が高まる上、加熱のコストも高沸するので好ましくない。
【0022】
係るリン放出のための処理を行った後、処理後の汚泥を、沈殿、濾過(膜分離を含む)、遠心等の通常の手段で固液分離し、放出されたリン成分を含む液相に、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等の凝集剤を添加して、リン成分を沈殿させるとよい。如上の方法によるリン放出処理液から沈殿を生じさせるためには、従来法における同様の工程での凝集剤必要量の半分以下を添加すれば十分であるので、コストの低減だけでなく、金属含有化合物の産生量を抑制でき、環境保全の観点からも好ましいと云える。沈殿後、得られた固形成分を定法によって回収し、必要に応じて精製処理を施し、肥料やリン化合物、その他種々の薬剤製造のための原料に供することができる。
【0023】
以下に、本発明の有機性廃水の処理方法における実施の形態を図1及び2の概略フローに基づいて説明する。
【0024】
すなわち、図1に示す方法では、原廃水Aを先ず嫌気処理槽7に付し、嫌気的消化せしめると共に、微生物体内にポリリン酸の顆粒として貯留されているリン成分を放出させる。この際リン成分は概ね、加水分解されて正リン酸として液相へと放出されることになる。次いで、この処理液をエアポンプの曝気手段12を備えた曝気処理槽1に付し、ここで好気的な微生物による有機物の分解及び微生物によるリン成分の摂取(体内貯留)を行う。嫌気処理で放出されたリン成分が、この工程において微生物体内に濃縮されるのである。その後、曝気処理液を固液分離手段2に付し、リン成分が濃縮された汚泥と、一次処理水aとに分ける。この固液分離手段2としては、従来より知られている沈殿、膜分離を含めた濾過等が適宜に採用可能である。この汚泥の一部は、適宜嫌気処理槽7に返送して、以下の工程に付される汚泥量を調節すると共に嫌気及び好気処理での有機物の分解及び微生物によるリン成分の摂取を十分に行うようにしてもよい。
【0025】
次に、固液分離手段2から得られた汚泥は、さらに濃縮して高濃度とするための濃縮手段3に付される。濃縮手段3によって高濃度の汚泥を得ると、続くリン放出以降の工程に要する装置の減容化やエネルギーの低減を図ることができる。この濃縮手段3には、沈殿、膜分離を含めた濾過、遠心、浮上濃縮等が利用可能である。実質的に汚泥を好気的状態に保つことができ、リン成分の再放出を防ぎつつ4%汚泥濃度以上の十分な濃縮が実現されるので、濃縮手段3として浮上濃縮を採用することが好ましい。浮上濃縮を実施する場合の好ましい条件は、汚泥容量の約4倍量の循環水を用いた循環系において、係る循環水に対して約2〜3%の空気を溶解させるというものである。濃縮手段3によって一次汚泥xを得ると共に、リン成分を多含しない分離水は前記一次処理水aと共に放流することができる。
【0026】
こうして得られた一次汚泥xを熱交換器11に通して加熱した後、汚泥に含まれる微生物からリン成分を液相に放出させるために、次なるリン放出槽4において、ヒーター、スチーム発生装置などの加熱手段10を用いて60〜90℃で10〜120分間、好ましくは70〜80℃で20〜60分間の加熱処理を行うことによって、リン成分を主にポリリン酸として微生物より放出させる。ポリリン酸としてリン成分が放出されると、液相から沈澱としてリン成分を回収するためのリン凝集槽6での処理のために必要な金属塩などの凝集剤Bの必要量が、上述したように嫌気処理、オゾン処理、アルカリ処理などにてリン酸として放出された場合に比較して格段に低減する。ポリリン酸の金属塩が大きな顆粒状の沈澱塊を形成するので、その後の回収処理、例えば沈澱分離や遠心分離での所要時間や容量、回転数などを低減させることができるので好都合である。
【0027】
このリン放出槽4における処理の終了後、固液分離手段5によって比較的小容量のリン成分高含有処理水(二次処理水)bと二次汚泥zとに分離する。この固液分離手段としては、例えば、遠心分離、脱水機による分離などが好適である。この二次処理水bは、従来の廃水処理法にて生じる、リン成分を含む処理水よりも格段にその容量が低減されているので、以下のようなリン成分回収を目的としたリン凝集工程のための設備が、非常に小規模なもので充分になる。
【0028】
リン凝集工程では、晶析脱リンなどの従来知られた方法も利用可能であるが、一般に、前記二次処理水bをリン凝集槽6に導入し、上記のような凝集剤Bを攪拌下に添加して、リン成分を固形成分として凝集させる。ここで、二次処理水bに含まれるリン成分は主としてポリリン酸として得られているので、少量の凝集剤Bを用いても回収の容易な顆粒状の固形成分に凝集させることが可能となる。凝集剤Bを添加し、攪拌、沈殿後に、以下の工程に従ってリン成分を回収する。凝集剤Bの添加量は、二次処理水bに含まれる全リン成分及びポリリン酸の量から遊離リン酸残基数を割り出して、これに足るモル数の量だけ用いることが最も好ましい。なお、前記リン凝集槽6での凝集反応に際して固形成分としてのリン成分の回収率を良好にするため、二次処理水bは例えば、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性物質を適量添加することでpH8以上、好ましくは8.0〜10.5、より好ましくは9〜10の塩基性に調整されているとよい。
【0029】
次いで固液分離手段8によって、リン成分を実質的に含まない三次処理水cと固形リン成分yを得る。この固形のリン成分yは、汚泥から分離されており、原廃水に含まれていたその他の成分もほとんど含んでおらず、そして減容化されており、肥料や、合成洗剤、洗浄剤、金属イオン封鎖剤、食品添加剤の原料として、また、製紙、染色、写真技術などに用いる試薬原料、リン化合物製造のための原料などに利用しやすいものとなっている。しかしながら、さらなるリン回収手段9により、実質的に乾燥固体としてリン成分pを回収して、流通、運搬が最も容易な形態とすることが好ましい。このリン回収手段9には例えば、凍結乾燥、脱水・乾燥などの方法が挙げられる。
【0030】
特に好ましい実施態様を示す図2では、前記の濃縮手段3より得られた一次汚泥xとリン放出槽4から得られる処理液との熱交換が、熱交換器11にて行なわれる。そうすれば熱の回収効率が良好となり、ヒートロスが少ないという点で好都合である。さらに、このように熱交換を実施すれば、リン放出後に得られた処理液が冷却された後に固液分離手段5に供されることになるため、固液分離手段5の耐熱性があまり要求されないことになり、繁用されている遠心分離器、膜分離器、ベルトプレス、フィルタープレス等の脱水機等を広く利用できる。特にベルトプレス型の脱水機の採用が企図される場合、高温による濾布のシュリンク等の不都合を回避でき、膜の寿命も延長されうる。
【0031】
さらに、前記リン凝集槽6における処理工程の実施前または実施後のいずれかにイオン交換クロマトグラフィー等を利用して、リン成分をリン酸イオンとポリリン酸イオンに、またはリン酸塩とポリリン酸塩とに、すなわち、リン酸成分とポリリン酸成分とに分離することで、それぞれ異なる用途に利用されると考えられる双方の成分の供給形態としてもよい。
【0032】
以上例示した本発明において、曝気処理槽1、固液分離手段8、嫌気処理槽7のそれぞれの構造ならびにこれらを結ぶ経路は特に限定されるものではなく、本質的に、従来より利用されているものを用いることができる。本発明の装置のため、曝気処理槽1にはエアポンプ、ブロアなどの曝気手段12から送られる空気を曝気処理槽1内に行き渡らせることができる散気装置13を、そして嫌気処理槽7においては好ましくは攪拌手段などを具備するものであればよい。またこれらの工程における各々の条件等も、従来知られている好気的処理方法、固液分離方法等に従って行うとよい(特開平9−10791号明細書等を参照されたい)。
【0033】
概略説明すると、曝気処理槽1における処理は、常温下にて実施される。そして、固液分離手段2としては、例えば、沈殿、膜分離を含む濾過等の手段が選択される。これらのうち、設備及び維持費が安価ですみ、且つ操作にも殆ど手間を必要としないことから沈殿が好ましい。また固液分離手段8としては、例えば、沈殿、濾過(膜分離を含む)または遠心等の手段を選択することができる。これらのうち、特別に高価な装置や手間を必要としないことから、沈殿または濾過が好ましく、処理液の性状により分離が容易であれば、沈殿槽における沈殿が最も好ましい。そして嫌気処理槽7における処理温度は特に限定されず、好ましくは常温下に行えばよい。ここで、嫌気処理槽7に攪拌手段を備えて、微生物の周囲に放出されたリン成分が滞留してリン放出が阻止されないようにすることが好ましい。
【0034】
最終的にリン成分pとして回収されるリン成分は、濃縮されているだけでなくかなり純化されているので上述のように肥料、種々のリン化合物、薬剤の製造等における原料のリン鉱石として再利用されるために好適である。
【0035】
【実施例】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はもとより、これら実施例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0036】
[実施例1]
実験室内回分式嫌気好気活性汚泥プロセスにて、1L容量の三角フラスコ中に、下水処理場由来の活性汚泥500mlを入れ、次いで以下の表1に示す組成を有する、リン成分を含有した有機性廃水500mlを投入した。
【0037】
【表1】
【0038】
この原廃水1Lに対して、嫌気処理を20℃、pH7にて滞留時間2時間にわたって行い、続いて20℃、曝気量20vvm(エアレーションポンプを使用)、pH7にて滞留時間5時間にわたり好気処理を実施した。この処理の間、液体をスターラーで攪拌し続け、液量は1Lに維持するようにした。
【0039】
好気処理終了後に、汚泥を1mlずつエッペンドルフチューブ25本に分取し、それぞれ5本ずつを50℃、60℃、70℃、80℃及び90℃に設定した恒温槽に静置した。20分毎に1チューブずつサンプリングし、各試料を8,000×gにて5分間遠心分離してから、上清に含まれる全リン量、ポリリン酸量及びリン酸量を以下の方法に従って定量した。
全リン量:過硫酸アンモニウム存在下に熱水分解(121℃、30分間)した後、下記方法によりリン酸として定量
ポリリン酸量:1N塩酸の存在下に加熱分解(100℃、7分間)した後、下記方法によりリン酸として定量
リン酸量:JISK0102によるモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法に基づくリン酸イオン量測定
次いで、これらの上清中のリン成分が凝集沈殿によって分離できるか否かを調べるため、塩化カルシウム(CaCl2)を最終濃度が50mMとなるように添加し、8,000×gにて5分間遠心分離することによって得られる沈殿物の全リン量を上記全リン定量法により測定した。
【0040】
こうして得られた結果を図3に示す。図3において、(a)は50℃、(b)は60℃、(c)は70℃、(d)は80℃、(e)は90℃での加熱処理による各定量値の経時変化を示し、(f)には、上記加熱処理前の活性汚泥中のリン組成(▲1▼:リン酸、▲2▼:ポリリン酸及び▲3▼:その他リン酸化合物量)を示す。
【0041】
図3より、活性汚泥試料の加熱処理を50℃で行った場合、汚泥から放出されるリン成分の量はすべて少なく、しかもポリリン酸よりもリン酸として放出される量が多いことが判る(図3(a))。この温度では、汚泥中のポリリン酸顆粒は殆ど遊離して来ないようであった。処理温度70℃では(図3(c))、加熱開始後1時間で活性汚泥中に存在していたポリリン酸量(図3(f)、▲2▼)の約90%が遊離、放出されていた。そしてこの時点では、ポリリン酸の約20%に該当する量が、リン酸にまで分解されている。加熱開始2時間後に塩化カルシウムを添加して遠心分離を行うと、遊離していた全リン量のほとんどが、沈殿物として回収できた。処理温度を90℃とすると(図3(e))、ポリリン酸の放出は急速に進行し、この条件下では約10分で終了してしまう。この時点でリン酸に分解していた量は約10%であった。ポリリン酸の放出が終了すると、このポリリン酸は急速にリン酸へと分解され、加熱開始2時間後には遊離したポリリン酸の約60%がリン酸になっていた。この時点で塩化カルシウムによる凝集沈殿を行っても、回収できるリン成分の量は放出された量の約20%程度に過ぎなかった。従って、本発明の方法を90℃の温度で実施する場合には、放出されたポリリン酸を速やかに凝集沈殿に付すことが好ましいことが示される。
【0042】
[実施例2]
実施例1で採取した試料について、可視光下及びDAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)蛍光染色後紫外線照射下で鏡検し、ポリリン酸顆粒の存在を調べた。加熱処理前の活性汚泥試料(a)、70℃、60分間処理後の上清試料(b)及びこの上清からの塩化カルシウム沈殿物(c)を検体とした。ポリリン酸顆粒は、DAPI蛍光染色して紫外線(UV)を照射することにより、特異的に黄色の発光を呈するので、容易に同定しうるものである。その結果を図4に示す。加熱処理前の活性汚泥試料(図4、(a))をDAPI染色後紫外線照射すると、黄色のポリリン酸顆粒が認められた。尚、加熱前の上清について同様の観察を行っても、ポリリン酸顆粒は全く認められなかった。70℃、60分間処理後の上清試料(図4、(b))と、この上清からの塩化カルシウム沈殿物(図4、(c))についても黄色のポリリン酸顆粒が認められた。従って、実施例1の定量法によるポリリン酸が、ポリリン酸顆粒として存在していることが確認できた。
【0043】
[実施例3]
リン成分を凝集させて固形成分として回収する際の至適pHを調べるために、実施例1と同様の方法によって調製した活性汚泥(全リン酸量:2.76ミリモル)を90℃にて15分間または120分間処理して、リン成分を液相に放出させた。この上清を図5に示す種々のpH(7付近、7.5、8.0、8.5または9.0)にトリス緩衝液を用いて調整し、次いで塩化カルシウムを最終濃度50mMとなるように添加、攪拌した。沈降物として回収された全リン酸量を定量した結果を図5に示す。この結果から、リン凝集槽6においてリン成分を固形成分として回収するにあたり、そのpHを8以上の塩基性、好ましくは8.0〜10.5に調整しておくと優れた効率でリン成分の回収が成し遂げられることが明らかになった。
【0044】
【発明の効果】
本発明によって、有機性廃水中に含まれるリン成分を、短時間で小容量液体または固体状態に分離回収でき、リンの再利用を容易にすることができるという効果が奏される。この際、リン成分がポリリン酸として濃縮されているので、必要とされる凝集剤の量は、従来知られている方法よりも極めて少量で十分である。
【0045】
本発明の方法は、特に試薬や高価な設備を要さずリン成分の回収率も高いので、低コストの処理を可能にするという点で有利なものである。
【0046】
また、本発明により、ヒートロスが少なく経済性の高い汚泥処理方法においてリン成分を回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機性廃水の処理方法の一実施態様の概略構成図である。
【図2】本発明の有機性廃水の処理方法の特に好ましい一実施態様の概略構成図である。
【図3】活性汚泥を50〜90℃の範囲の温度で処理した場合の、種々のリン成分の放出の経時的変化を示すグラフである。
【図4】(a)活性汚泥、(b)70℃、60分間処理後の上清及び(c)塩化カルシウムによる沈殿成分を可視光と、DAPIでポリリン酸を蛍光染色して観察した結果の顕微鏡写真(1000倍拡大)を示す図である。
【図5】種々のpHでの凝集剤添加によるリン回収の効率を示すグラフである。
【符号の説明】
1…曝気処理槽
2,5,8…固液分離手段
3…濃縮手段
4…リン放出槽
6…リン凝集槽
7…嫌気処理槽
9…リン回収手段
10…加熱手段
11…熱交換器
12…曝気手段
13…散気手段
A…原廃水
B…凝集剤
a…一次処理水
b…二次処理水
c…三次処理水
x…一次汚泥
y…固形リン成分
z…二次汚泥
p…リン成分
Claims (6)
- 有機性廃水を処理する方法において、以下の工程すなわち、
(1)廃水が好気的処理に付される曝気処理工程、
(2)曝気処理後の廃水が一次処理水と汚泥とに分離される固液分離工程、
(3)分離された汚泥が濃縮される濃縮工程、
(4)濃縮された汚泥よりリン成分を液相に放出させるために60〜90℃で10〜120分間加熱処理を行うリン放出工程、及び
(5)放出されたリン成分を含有する二次処理水と、リン成分が除去された二次汚泥とに分離する固液分離工程を含むことを特徴とする有機性廃水の処理方法。 - 前記濃縮工程(3)が浮上濃縮法によって実施される請求項1記載の処理方法。
- 前記汚泥と、リン放出工程(4)後の処理液との熱交換が行なわれる請求項1または2に記載の処理方法。
- 前記固液分離工程(5)の後に、該工程にて生じた二次処理水に対し、放出されたリン成分を凝集剤の添加によって前記液相から沈殿させるリン凝集工程(6)をさらに含む請求項1乃至3の何れかに記載の処理方法。
- 前記リン凝集工程(6)が、pH8.0〜10.5の塩基性条件下に実施される請求項4記載の処理方法。
- 前記曝気処理工程(1)の前に、嫌気処理工程(7)をさらに含む請求項1乃至5の何れかに記載の処理方法。
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