JP4222023B2 - 寝装資材用織編物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性に優れ、且つ柔軟性に優れた寝装資材用織編物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、自然環境の中で分解する繊維素材の開発が切望されている。例えば、従来の汎用プラスチックは石油資源を主原料としていることから、自然環境の中では分解せず、そして石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
【0003】
このため近年では脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
【0004】
また、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。そのため、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用のプラスチックに注目が集まっている。
【0005】
これまで、バイオマス利用の生分解性プラスチックは、力学特性や耐熱性が低いとともに、製造コストが高いといった課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。一方、近年では力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0006】
ポリ乳酸は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。そのため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0007】
ポリ乳酸繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として、ポリ乳酸の弱酸性で穏やかな抗菌性を活かした肌に優しい素材としても注目されており、衣料用途、カーテン、カーペット等のインテリア用途への応用も期待されている。
【0008】
しかしながら、ポリ乳酸繊維は表面摩擦係数が高いとともに、耐摩耗性が低いため、擦過により容易に削れるという欠点がある。そのため、ポリ乳酸繊維を寝装資材に用いた場合には、長時間使用により繊維表面が削れて風合いが低下したり、表面の乱反射により白ぼけと呼ばれる色欠点が顕在化する。酷いときには寝装具から染料がパジャマ等に移行するという問題も生じる。そのため、いまだ寝装資材用途への展開が進んでいない。
【0009】
これらの問題を引き起こす原因は、ポリ乳酸ポリマーの基質によるものであり、ポリ乳酸繊維では必然的に起こる問題であると考えられる。
【0010】
ところで、樹脂製品やフィルム、シート等の分野では、その製造工程において、チップや溶融ポリマーのアンチブロキング性、或いは金型やローラーからの成形体の剥離性を向上させるためにポリマーに滑剤を添加する場合がある。しかしながら、繊維の分野においては、滑剤の耐熱性や昇華による繊維表面へのブリードアウトにより繊維物性低下や染色斑による品質低下が発生するため、これまでこのような添加剤を用いることは避けられる傾向にあった。
【0011】
滑剤を添加したポリ乳酸成形体については、例えば、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール及び脂肪族カルボン酸からなる化合物を結晶核剤として用い、透明性の高い成形体を得る方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、該方法はポリ乳酸繊維に関する具体的な記載はないばかりか、耐摩耗性の向上については全く示唆されていない。また、滑剤を添加したポリ乳酸繊維については、一般式RCONH2(ただしRはアルキル基)で表される脂肪酸モノアミドを添加し、撥水性を与えることで加水分解速度を抑制することが開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、ポリ乳酸繊維の耐摩耗性の向上については全く示唆されていない。また、念のため脂肪酸モノアミドを添加したポリ乳酸繊維について追試を行ったが、ポリ乳酸繊維の耐摩耗性を向上させることはできなかった(比較例2参照)。これは、脂肪酸モノアミドが、アミド基の反応性が高いために溶融時にポリ乳酸と反応してしまい、滑剤として寄与する脂肪酸モノアミドの割合が少なくなることが原因であると推定される。また、脂肪酸モノアミドがポリ乳酸と反応すると、ポリ乳酸の分子鎖が切断され、分子量が低下するため、繊維物性が低下するという問題もある。
【0012】
寝装資材への展開を進めるためには、このような問題点を解決することが要望されている。
【0013】
【特許文献1】
特開平9−278991号公報(第2〜3頁)
【0014】
【特許文献2】
特開平8−183898号公報(第2〜3頁)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐摩耗性に優れ、柔軟かつ肌に優しいポリ乳酸繊維からなる寝装資材用織編物を提供することを課題とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、「脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5重量%含有し、単繊維繊度が0.1〜2.4dtexであるポリ乳酸からなるマルチフィラメントを用いており、かつ色調の指標であるb * 値が−1〜5であることを特徴とする寝装資材用織編物」により達成される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の寝装資材用織編物について詳細に説明する。
【0018】
本発明でいうポリ乳酸とは、−(O-CHCH3-CO)n−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、それらが低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。
【0019】
ただし、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができるためより好ましい。
【0020】
また、ポリ乳酸中にはラクチド等の残存モノマーが存在するが、これら低分子量残留物は、仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、繊維の加水分解性を促進し、耐久性を低下させるため、これらの低分子量残留物は好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。
【0021】
また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、及びヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸、ジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリ乳酸繊維中の乳酸モノマー比率は50重量%以上とすることが必要である。乳酸モノマーは好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上である。また、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体をブレンドしたり、両成分を複合(芯鞘型、バイメタル型)してもよい。さらに改質剤として粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。また、ポリ乳酸重合体の分子量は、重量平均分子量で5万〜35万であると、力学特性と成形性のバランスがよく好ましく、10万〜25万であると、より好ましい。
【0022】
本発明のポリ乳酸の製造方法は、特に限定されない。具体的には、特開平6−65360号に開示されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒及び触媒の存在下、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また、特開平7−173266号に開示されている少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法である。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に開示されている方法がある。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。
【0023】
本発明では、滑剤として脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5重量%含有する。
【0024】
ポリ乳酸からなるマルチフィラメントは、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドのような汎用の合成繊維と比較して、耐摩耗性が極めて悪い。これは、ポリ乳酸の分子鎖間相互作用が小さく、容易に分子鎖同士が剥がされるためであると考えられる。また、この傾向は高温になるほど顕著になる。そのため、製糸工程や製編織工程において高速で糸を走行させると、容易に繊維が削れて毛羽や断糸が発生したり、酷い場合には融着が生じる。また、衣類等の製品になってからも繰り返し使用や強い摩擦力が加わると、摩耗により表面が荒れて色調異常を来たしたり、風合いの悪化により酷い場合には肌荒れの原因にもなる。このような問題に対し、滑剤の添加により繊維の表面摩擦係数が下がるため、過度の温度上昇を抑制したり、破壊に至るまでの応力が加わらない様にすることが可能となる。
【0025】
本発明で用いられるポリ乳酸からなるマルチフィラメントに好ましく用いられる滑剤としては、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドが挙げられる。
【0026】
本発明で用いられる脂肪酸ビスアミドとしては、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドおよびヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0027】
また、本発明で用いられるアルキル置換型の脂肪酸モノアミドとしては、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミドおよびN−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミドおよびN−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
【0028】
本発明では、脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いるが、これらの化合物は、一般の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低いために、溶融成形時においてポリ乳酸との反応が起こり難く、さらに高分子量のものが多いために耐熱性が高く、溶融成形で昇華しにくいため滑剤としての機能を損なうことなく、優れた滑り性を発揮する。特に、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いため、より好ましく用いることができ、エチレンビスステアリン酸アミドであることが、さらに好ましい態様である。
【0029】
本発明では、2種以上の脂肪酸ビスアミドとアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを用いてもよく、また脂肪酸ビスアミドとアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを併用してもよい。
【0030】
例えば、脂肪酸ビスアミドでは日本油脂(株)社製のエチレンビスステアリン酸アミド商品名“アルフロー”Hシリーズや、日本化成(株)社製のm-キシリレンビスステアリン酸アミド商品名“スリパックスPXS”、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドとして日本化成(株)社製のN-ステアリルステアリン酸アミド商品名“ニッカアマイドS”等が挙げられる。
【0031】
脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの含有量は、上記特性を発揮するために繊維重量に対して0.1〜5重量%とすることが必要である。滑り性を発現させるには、含有量は0.1重量%以上にすることが必要である。また、含有量が多すぎると繊維の機械的物性が低下したり、黄味を帯びて染色したときに色調が悪くなるので含有量は5重量%以下であることが必要であり、該脂肪酸アミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの含有量は、より好ましくは0.2〜4重量%、さらに好ましくは0.3〜3重量%である。
【0032】
本発明の目的である柔軟性と耐摩耗性を両立させるためには、マルチフィラメントを構成する単繊維の繊度は0.1〜2.4dtexであることが必要である。単繊維繊度を0.1〜2.4dtexにすることによって、目的とする柔軟性と耐摩耗性、さらには良好な発色性を付与することができる。単繊維繊度が0.1dtex未満になると、柔軟性は向上するものの、耐摩耗性が低下する傾向にある。本発明においては、滑剤による摩擦低減効果により耐摩耗性は向上しているものの、単繊維繊度が0.1dtex未満ではその効果は小さいものとなってしまい、また、同時に発色性も低下する。逆に、単繊維繊度が2.4dtexを超えると、耐摩耗性と発色性は向上するものの、柔軟性の低下を招く。単繊維繊度の好ましい範囲は0.2〜1.2dtexであり、より好ましい範囲は0.3〜0.8dtexである。また、マルチフィラメントの総繊度は、実用耐久性を保持しつつ、織編物としての柔軟性を付与するために、30〜120dtexが好ましく、40〜90dtexがより好ましい。
【0033】
また、マルチフィラメントを構成する単繊維の断面形状は、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、中空断面、偏平断面、W断面およびX型断面その他の異形断面のいずれであってもよい。
【0034】
本発明のマルチフィラメントは、織編物の風合いをより柔軟にし、織編物のパッカリングを抑えるために嵩高加工が施されていることが好ましい。例えば、仮撚加工や流体処理加工(タスラン)を行うことが好ましく、より好ましくはタスラン加工である。それによって、織物表面に無数のループやコイルを形成させられるため、柔軟性、ドレープ性が向上するとともに、スパンライクな表面感が得られる。
【0035】
また、寝装資材用途として好ましい織り組織と編み組織の態様は、特に限定されるものではないが、平織、綾織、朱子織、あるいはこれらを組み合わせた組織や変化織や、トリコット、タオル地、ベロア、フラノ等の編み地や起毛地がある。ただし、布団側地として用いる場合には、綿抜けを防止することが必要であることから、平織組織が最適である。また、そのときの経糸のカバーファクター(WCF)と、緯糸のカバーファクター(FCF)は、下記式を満足することが好ましい。
【0036】
0.60≦FCF/WCF≦0.80
例えば、本発明の寝装資材用織物を布団側地として用いるには、前記したように綿抜け防止が必須の特性となるため、適度に高密度製織し、さらに織物工程で経糸を収縮させ、緯密度を向上させる方法が好ましく採用される。平織組織は織組織の中でも特に織り糸(緯糸)の曲がりが大きく、織物内に隙間を作りにくい。さらに織り密度の比FCF/WCFを0.60〜0.80の範囲にすることで、効果的に綿抜けを防止することができる。逆に、この範囲を外れると綿抜けや、風合いの粗硬化を招く傾向を示す。
【0037】
例えば、FCF/WCFが0.60より小さいと、織物の高密度化が難しくなり、綿抜けを防止するために経糸のカバーファクターを非常に高くする必要がある。その場合、緯引裂強力が低下して、実用レベルには達しない場合がある。同様に、FCF/WCFが0.80を超えると高密度化が困難になり、無理に高密度化を図ると風合いが粗硬化することがある。
【0038】
また、染色前の織編物の色調は、後工程の染色段階でのカラーバリエーションを多くし、彩度の高い色彩を可能にするために、色調の1指標(黄味)であるb*値が−1〜5であることが必要であり、−1〜3であることが好ましい。なお、従来技術である脂肪酸モノアミドを含有したポリ乳酸繊維を用いると、b*値が高く、黄味が強い傾向になる。これは、脂肪酸モノアミドの熱劣化に加えて、脂肪酸モノアミドが溶融成形時にポリ乳酸ポリマーのカルボニル基と反応し、ジアセトアミド基が形成されるためと考えられる。これに対して、本発明で用いられる脂肪酸ビスアミドや、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドは、耐熱性に優れているとともに、アミド基の反応性が低いため、繊維が着色しにくいのである。
【0039】
本発明の寝装資材用織編物は、例えば、織物であれば経糸または緯糸のいずれかがポリ乳酸からなるマルチフィラメントであれば、他の繊維を含んでいてもよい。例えば、ポリ乳酸からなるマルチフィラメントを、天然繊維、再生繊維、半合成繊維あるいは合成繊維と引き揃え、撚糸、混繊したものであってもよい。他の繊維としては、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等)、ポリアクリロニトリルおよびポリ塩化ビニルなどの合成繊維などを適用することができる。
【0040】
また、必要に応じて制電性付与剤や吸湿性付与剤を付与することができる。また、製織する際に、糸の集束性、曲げ剛性、風合い等のために、ポリ乳酸からなるマルチフィラメントに適宜追撚等がなされていてもよいし、集束性のために糊付け等がなされていてもよい。
【0041】
本発明の寝装資材用織編物は、寝装資材に用いる織編物であり、寝装資材としては、掛布団や敷布団、肌掛け布団、こたつ布団、座布団、ベビー布団、毛布等の布団類や枕、クッション等の側地やカバー、マットレスやベッドパッド、病院用、医療用、ホテル用、ベビー用のシーツ等、さらには寝袋、揺りかごおよびベビーカー等のカバー等が挙げられる。これら布団等に充填される内容物として、綿、ウール、絹、ポリエステル、アクリル、発泡ウレタン、ビーズ、パイプおよび蕎麦殻等が好適に用いられる。
【0042】
本発明の寝装資材用織編物は、これらの素材として用いることで十分な実用耐久性と良好な柔軟性、発色性を示し、さらにはポリ乳酸による弱酸性効果と抗菌効果により優れた快適性が得られるのである。
【0043】
【実施例】
以下、本発明の寝装資材用編織物について実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例における物性等の測定と評価方法には、以下の方法を用いた。
【0044】
A.重量平均分子量
ウォーターズ(Waters)社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー2690を用い、ポリスチレンを標準として測定した。
【0045】
B.強度および伸度
試料をオリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON) UCT−100でJISL1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に示される定速伸長条件で測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0046】
C.糸斑U%
糸長手方向の太さ斑U%(Normal)は、(株)ツェルベガーウースター社製ウースター テスター モニター C(USTER TESTER MONITOR C)で測定した。条件は、糸速度200m/分で1分間供給し、ノーマル(Normal)モードで平均偏差率(U%)を測定した。
【0047】
D.沸騰水収縮率
JIS L 1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて測定した。 未延伸糸パッケージから検尺機でカセを採取し、90×10-3cN/dtexの実長測定荷重を架けてカセ長L1を測定し、引き続いて実長測定荷重をはずし、沸騰水中に15分間投入した後取り出し、風乾し、再び実長測定荷重を架けてカセ長L2を測定し、次式により沸騰水収縮率を算出した。
【0048】
沸騰水収縮率(%)=[(L1−L2)/L1]×100
E.CR
捲縮糸をかせ取りし、荷重フリーの状態で沸騰水中15分間処理した後、24時間風乾した。このサンプルに90×10-3cN/dtex相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L0を測定した。次に、水中で90×10-3cN/dtex相当の荷重を除き1.8×10-3cN/dtex相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
【0049】
CR(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
F.色調(b*値)
精練上がりの織編物を、下地の白色板が無視できる程度まで積層し、ミノルタ社製「スペクトロフォトメーターCM−3700d」を用いてb*値を測定した。このとき、光源としてはD65(色温度6504K)を用い、10°視野で測定を行った。
【0050】
G.経糸および緯糸のカバーファクター
既述のとおり、経糸のカバーファクター(WCF)と緯糸のカバーファクター(FCF)は、次式により算出した。
WCF=WN×(WT)1/2
FCF=FN×(FT)1/2
なお、WNは経糸の製品織密度(2.54cmあたりの経糸本数)を示し、WTは経糸の製織前の総繊度(デシテックス(dtex))を示し、FNは緯糸の製品織密度(2.54cmあたりの緯糸本数)を示し、FTは緯糸の製織前の総繊度(デシテックス(dtex))を示す。
【0051】
H.耐摩耗性(乾摩擦堅牢度)
JIS L0849に基づき、染色した織物サンプルを綿布で100回往復摩擦し、綿布への色移り度合いをグレースケールを用いて5段階で判定した。
【0052】
I.風合い特性
試料を基準試料との一対比較による官能試験を実施し、4段階評価した。そしてそれらを総合評価して「極めて優れている」は「◎」、「優れている」は「○」、「普通」は「△」、「劣っている」は「×」とした。
【0053】
[製造例1](ポリ乳酸の製造)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在下にチッソ雰囲気下180℃で180分間重合を行い光学純度98.5%のポリ乳酸P1を得た。得られたポリ乳酸の重量平均分子量は17.2万であった。また、残留しているラクチド量は0.12重量%であった。
【0054】
[製造例2](EBAを5重量%含有したポリ乳酸の製造)
製造例1で得られたポリ乳酸P1と(株)日本油脂社製エチレンビスステアリン酸アミド(以下、EBAと称する)商品名“アルフロー”H−50Sを乾燥した後、P1:EBA=95:5(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度210℃で混練してEBAを5重量%含有したポリ乳酸P2を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.15重量%であった。
【0055】
[製造例3](EBAを6重量%含有したポリ乳酸の製造)
P1:EBA=94:6(重量比)に変更したこと以外は、製造例2と同様にして、EBAを6重量%含有したポリ乳酸P3を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.14重量%であった。
【0056】
[製造例4](SSを5重量%含有したポリ乳酸の製造)
製造例1で得られたポリ乳酸P1と(株)日本化成社製N−ステアリルステアリン酸アミド(アルキル置換型モノアミド。以下、SSと称する)商品名“ニッカアマイドS”を乾燥した後、P1:SS=95:5(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度210℃で混練してSSを5重量%含有したポリ乳酸P4を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.15重量%であった。
【0057】
[製造例5](SAを5重量%含有したポリ乳酸の製造)
製造例1で得られたポリ乳酸P1と(株)日本油脂社製ステアリン酸アミド(モノアミド。以下、SAと称する)商品名“アルフロー”S−10を乾燥した後、P1:SA=95:5(重量比)となるように2軸混練押出機に供給し、シリンダー温度210℃で混練してSAを5重量%含有したポリ乳酸P5を得た。得られたポリ乳酸の残留ラクチド量は0.17重量%であった。
【0058】
(実施例1)
重量比でポリ乳酸P1:ポリ乳酸P2=4:1となるようにチップをブレンド(EBA1重量%)した後、真空乾燥機にて100℃で約10時間乾燥した。取り出したチップの水分率は約60ppmであった。このチップをホッパー1に仕込み、エクストルーダー2で215℃で溶融した後、225℃に加熱されたスピンブロック3に内蔵された紡糸パック4に溶融ポリマーを導き、孔径0.2mm、孔深度0.5mm、孔数72孔の口金5から紡出した(図1参照)。このとき、口金下10cmの位置に吸引装置7を設置し、吸引速度25m/分にて昇華するモノマー、オリゴマーを取り除いた。紡出した糸条はチムニー6により20℃、風速25m/分で冷却固化させた後、口金下1.2mに設置された給油装置8により給油した。紡糸油剤には平滑剤としてポリエーテルを78重量%、エーテルエステルを12重量%、その他添加剤(制電剤、抗酸化剤、防錆剤)を10重量%の比率で調整し、さらにこの油剤を濃度15重量%になるように水エマルジョンとして調整し、繊維に対して6重量%付着した(純油分として0.9重量%付着)。 次に、作動圧空圧0.1MPaにて交絡ノズル9により交絡を付与し、周速度4400m/分の第1ゴデットロール10にて引き取り、続いて第2ゴデットロール11を介して巻取装置12で巻き取り、60dtex、72フィラメントの未延伸糸(チーズ状パッケージ13)を得た。紡糸時の糸切れと毛羽の発生はなく、紡糸性は良好であった。
【0059】
さらにフリクション仮撚加工機を用い、加工速度500m/分、ディスク回転数4500rpm(直径58mmウレタンディスク使用)、熱板温度130℃(熱板長1.8m)、延伸倍率1.25倍で仮撚を行い、50dtex、72フィラメント(単繊維繊度0.7dtex)の仮撚糸を得た。仮撚時の糸切れと毛羽の発生はなく、仮撚性は良好であった。
【0060】
得られた仮撚糸の物性測定を行ったところ、強度2.2cN/dtex、伸度19%、U%(Normal)0.88%、沸騰水収縮率12%、CR20%であり、均一性、力学的特性および捲縮特性ともに優れていた。さらに、この仮撚糸を追油した後、経糸及び緯糸に使用して平織物(織り密度:経130本/2.54cm、緯95本/2.54cm)を作製した。なお、経糸には、300ターン/mのS撚りを施した糸を用いた。さらに、この織物に下記条件にて染色加工を施し、織物製品を得た。
【0061】
<布帛加工条件>
・精練:ソーダ灰(1g/l)、界面活性剤(0.5g/l)、98℃×20分
・中間セット:140℃×3分
・染色:ダイアニックス ネイビー ブルー ERFS 200
(Dianix Navy Blue ERFS 200) (2%owf)
pH調整剤(0.2g/l)、110℃×40分
・ソーピング:界面活性剤(0.2g/l)、60℃×20分
・仕上げセット:140℃×3分
得られた織物の精練上がりのb*値は2.6であり、良好な色調を示した。また、仕上げセット上がりの製品の織り密度は、それぞれ経138本/2.54cm、緯98本/2.54cm、WCF976、FCF693であり、FCF/WCFは0.71であった。この織物の摩擦堅牢度を測定したところ4級であり、良好な耐摩耗性を有していた。また、風合い評価を行ったところ、柔軟性、ふくらみ感、発色性のすべての面で優れた風合いを示した。さらにこの染色織物を布団側地に用いて布団を作成し、3ヶ月間の実用耐久テストを行ったところ、毛羽立ちが無く柔軟な風合いを維持するとともに、白化、テカリもなく、優れた製品耐久性を示した。
【0062】
(実施例2、実施例3)
ポリ乳酸P1とポリ乳酸P2のブレンド比率を次のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で織物製品を得た。P1:P2=19:1とした実施例2で得られた織物は、紡糸性、仮撚性および製織性ともに良好であった。また、摩擦堅牢度は3級で、実施例1よりも劣るものの、実用上は問題のないレベルであった。また、ポリ乳酸P2のみを供給した実施例3で得られた織物は、紡糸性、仮撚性および製織性ともに良好であった。得られた織物製品の摩擦堅牢度は4級と優れていた。
【0063】
(比較例1)
ポリ乳酸P1を用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で織物製品を得た。比較例1で得られた織物は、摩擦堅牢度試験により織物表面が削れて色移りが酷く、1級と極めて悪いものであったが、風合い特性は優れており、摩擦耐久性が要求されない用途であれば使用できるものであった。
【0064】
(比較例2)
EBAを6重量%含有したポリ乳酸P3をそのまま用いた比較例2で得られた織物は、摩擦堅牢度は優れているものの、精練上がりでの色調b*値が5.3と黄味を帯びており、染色上がり後の彩度も低下していた。また、織物製品に染め斑がみられ、実用上問題のあるレベルであった。
【0065】
(実施例4)
ポリ乳酸P2の代わりにポリ乳酸P4を用い、重量比でP1:P4=4:1となるようにチップをブレンド(SS1重量%)したこと以外は、実施例1と同じ条件で織物製品を得た。実施例4は紡糸性も良好で、口金直下での発煙もほとんどなく、問題ないレベルであった。また、仮撚性、製織性ともに良好であった。また、得られた織物製品の摩擦堅牢度は3級であり、実施例1よりは劣るものの、実用上問題のないレベルであった。
【0066】
(比較例3)
ポリ乳酸P2の代わりに、脂肪酸モノアミドを添加したポリ乳酸P5を用い、重量比でP1:P5=4:1となるようにチップをブレンド(SA1重量%)したこと以外は、実施例1と同じ条件で織物製品を得た。比較例3は、紡糸の際に口金直下で発煙が酷く、作業環境が極度に悪化した。また、仮撚においても熱板汚れが酷く、工程安定性が劣るものであった。さらに、比較例3で得られた織物は、摩擦堅牢度が2級で実用レベルに達しておらず、染色斑があるため品位が劣るものであった。
【0067】
(実施例5、実施例6)
仮撚加工後の繊度構成が50dtex、24フィラメント(単繊維繊度2.1dtex)となるように、孔径0.30mm、孔数24孔の口金を用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で織物製品を得た。実施例5は紡糸性、仮撚性および製織性ともに良好であった。また、得られた織物製品は、摩擦堅牢度が4級と耐摩耗性に優れており、発色性は実施例1よりも優れていた。
【0068】
また、仮撚加工後の繊度構成が50dtex、192フィラメント(単繊維繊度0.26dtex)となるように、孔径0.15mm、孔数192孔の口金を用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸を行った。実施例6は紡糸、仮撚時に糸切れや毛羽が発生し、製織時の停台回数がやや多かった。また、得られた織物製品は、実施例1で得られた織物よりもさらに柔軟性に優れていた。
【0069】
(比較例4、比較例5)
仮撚加工後の繊度構成が50dtex、18フィラメント(単繊維繊度2.8dtex)となるように、孔径0.30mm、孔数18孔の口金を用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で織物製品を得た。比較例4で得られた織物製品は、耐摩耗性及び発色性は優れているものの、柔軟性に劣るものであった。また、仮撚加工後の繊度構成が50dtex、600フィラメント(単繊維繊度0.08dtex)となるように、孔径0.12mm、孔数200孔の口金を用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸を行った(未延伸糸を3本合糸・仮撚加工して50dtex、600フィラメントとする)。比較例5は紡糸時の糸切れが多発したため、安定して未延伸糸を得ることができなかった。
【0070】
(実施例7、実施例8)
織り密度を次のとおり変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で織物製品を得た。染色、仕上げセット後の織り密度を経150本/2.54cm、緯86本/2.54cm(WCF:1061、FCF:608)とした実施例7で得られた織物は、摩擦堅牢度は4級で、風合いも実施例1同様に優れたものであった。また、織り密度を経128本/2.54cm、緯108本/2.54cm(WCF:905、FCF:764)とした実施例8で得られた織物は、緯密度を高めたために製織時の停台回数が約2倍に増えた。また、得られた織物製品は実施例1で得られた織物と同様、優れた摩擦堅牢度を示した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
(表中、「U%」とは「U% Normal値」、「WCF」とは「経糸のカバーファクター」、「FCF]とは「緯糸のカバーファクター」、「WCF/FCF」とは「経糸のカバーファクター/緯糸のカバーファクター」である。)
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、耐摩耗性に優れ、柔軟かつ肌に優しいポリ乳酸繊維からなる寝装資材用織編物が得られる。本発明の耐摩耗性に優れた寝装資材用織編物を用いることにより、実用耐久性に優れ、かつ柔軟で肌に優しい寝装資材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明で好ましく用いられる紡糸装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:エクストルーダー
3:紡糸ブロック
4:紡糸パック
5:紡糸口金
6:吸引装置
7:冷却チムニー
8:給油装置
9:交絡ノズル
10:第1ゴデットロール
11:第2ゴデットロール
12:巻取装置
13:チーズ状パッケージ
Claims (4)
- 脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5重量%含有し、単繊維繊度が0.1〜2.4dtexであるポリ乳酸からなるマルチフィラメントを用いており、かつ色調の指標であるb * 値が−1〜5であることを特徴とする寝装資材用織編物。
- 経糸および/または緯糸がポリ乳酸からなるマルチフィラメントであり、織り組織が平織組織であることを特徴とする請求項1記載の寝装資材用織物。
- 経糸のカバーファクター(WCF)と緯糸のカバーファクター(FCF)が、下記式を満足することを特徴とする請求項1または2記載の寝装資材用織物。0.60≦FCF/WCF≦0.80
- 請求項1〜3のいずれかに記載の寝装資材用織編物を用いてなる寝装資材。
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