JP4221133B2 - マンガン合金鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はマンガン合金鋼に係り、特に、機器内部の部品の素材として好適な合金鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、OA関連機器、モータ、自動車、建築機材等の部品構成材料として、メッキ処理、浸炭窒化処理などを前提とした鋼材若しくは各種ステンレス鋼材が使用されている。これらの鋼材は、用途によって耐蝕性、耐磨耗性,及び高強度を実現するための表面処理、又はそれらに関連する表面加工処理が施されていた。
【0003】
また、上記鋼材を用いた部品は切削により目的形状に加工されることが多いが、その切削加工面は粗面化することから、面粗度の要求に応じて、さらに研削加工やバニシング加工等の表面加工が必要とされており、熱処理や上記の浸炭・窒化などの表面処理を施した場合にも歪みや面粗度の劣化が発生するため、これらを矯正するためにも、再度、部品に対して表面加工をすることが必要であった。さらに、これらの表面処理、表面加工処理を施す際には、取扱い時の疵防止に細心の注意が必要とされる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような部品の素材となる鋼材、或いは、表面処理においては、ステンレス鋼のように高価な材料には価格的に問題があり、メッキ処理には環境的に問題を生ずる可能性があり、浸炭焼入れ、窒化処理等の熱処理には歪みが発生することによる形状精度の不良を生ずる可能性があるなどの問題点がある。さらに、軸材やネジ等の量産時に使用される自動旋盤の加工領域においては低周速、低送り、高肉厚で切削面の面粗度を一定水準以下に維持することが困難である。例えば、SUS303が被削材である場合、切削面が初期的にはRy3μm前後と良好であるが、被削材がNiを8%と多く含有しているため、ガイドブッシュを有するスイス型自動旋盤ではガイドブッシュのかじり現象が常に問題となり、面粗度の劣化は避けられない。
【0005】
従来にあっても、上記のような問題点を解決するいくつかの材料が提案されている。例えば、特開昭55−94464号公報には、C:0.5wt%以下、Si:2.0wt%以下、Mn:7〜40wt%、Ca:0.0005〜0.0200%を含有し、酸化物組成を規定した、被削性の良好な低炭素高マンガン鋼が提案されている。また、特開昭55−76042号公報には、C:2.0%以下、Si:2.0%以下、Mn:7〜40%、Ca:0.0005〜0.0200%を含有し、酸化物組成を規定した、被削性の良好な高炭素高マンガン鋼が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの材料は、耐蝕性や耐磨耗性などの点で十分でなく、また、切削性に関してもCaを添加させて介在物組成を制御することで被削性を改善させることを目的とした技術であるため、浸炭・窒化等の熱処理やメッキ処理などの表面処理を省略することができないという問題点がある。
【0007】
そこで本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、熱処理やメッキ処理等の表面処理を不要とすることができる耐蝕性を備えているとともに、耐磨耗性や加工表面の面粗度に優れた特性を有する新規の鋼材を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
通常、マンガン合金鋼においては、鋼材中にMnSの粒隗が析出する場合がある。このMnSの粒隗が鋼材中に分散して存在していると、切削抵抗を低減する効果がある。特に、切削性を大きく改善するにはMnSのアスペクト比(長さ/幅)を小さくする必要がある。しかし、加工表面にMnSが残存していると、その部分から腐食が進行するため、アスペクト比が小さくても、MnSの粒隗の粒径が大きいと、耐蝕性が低下したり、他部材に対する摩擦抵抗が大きくなって耐磨耗性が悪化したりする。ここで、MnSの粒隗を小さくする方法としては鋼材中の酸素濃度或いは酸化物量を制御する方法が知られているが、組成比率や元素種の組み合わせによって必ずしも酸素量を制御することが容易でない場合が多い。一般に組成範囲のマンガン合金鋼においては、MnSの粒隗の形成過程や鋼材に対する圧延その他の塑性加工などに起因して、鋼材中のMnSの粒隗が細長形状になる場合が多い。したがって、上記マンガン合金鋼の特性は、MnSの細長形状にも影響されるものと考えることができる。本発明らは、種々の検討及び実験を繰り返した結果、単なるMnSの粒径や数量ではなく、MnSの細長形状の形状分布に着目し、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明のマンガン合金鋼は、C:0.05〜0.50wt%、Si:0.5wt%以下、Mn:6.0〜25wt%、P:0.05wt%以下、S:0.35wt%以下、Cu:0〜3.0wt%、Ni:0〜5.0wt%、Cr:10.0〜20.0wt%、Mo:0〜3.0wt%、N:0.04〜0.30wt%、Al:0.10wt%以下を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、内部に、幅が3μm以下で、平均アスペクト比が4以上11.2以下の細長形状の非金属介在物MnSが微細分散されていることを特徴とする。
【0010】
上記組成の合金において、平均幅が3μm以下で、平均アスペクト比(長さ/幅)が4以上の細長形状のMnSが微細分散されていることによって、加工表面の面粗度がきわめて良好で、耐磨耗性も良好な鋼材を提供できる。一般にMnSの粒隗が小さく、アスペクト比が小さければ上述のように良好な特性が得られるが、製造条件や組成によっては必ずしもMnSの粒隗を微細化することができない場合もある。しかし、本発明者らは、MnSの粒隗が細長形状である場合、それらの平均幅が所定寸法以下で、平均アスペクト比が所定数値以上であれば、MnSの粒径(球形であるとした場合の換算径)を必ずしも微細化しなくても、耐食性を確保した上で、加工表面の面粗度が著しく改善され、表面の摩擦係数も低く、耐磨耗性の良好な鋼材が得られることを見出したものである。
【0011】
上記各発明においては、上記細長形状のMnSは、面粗度や耐磨耗性が要求される表面に対してほぼ平行な姿勢で微細分散されていることが、加工表面の面粗度や耐磨耗性を向上させるという観点から見て好ましい。これは、特に、本発明の鋼材を用いた軸材、ネジ材、その他の種々の部品を製造する上で重要である。
【0012】
また、本発明者らは、種々検討した結果、上記組成範囲のマンガン合金鋼において、内部に分散形成される微細なMnSの粒隗のうち、幅3μm以下、長さ40μm以下の範囲内のものが90%以上を占める組織であれば、十分な耐蝕性及び耐磨耗性を有し、しかも、加工表面の面粗度が良好であることを見出した。すなわち、上記の組成範囲を有するマンガン合金鋼においては、内部に存在するMnSの粒隗の90%以上について、幅(長手方向と直交する方向の幅)と、長さ(長手方向の長さ)とがそれぞれの所定寸法以下になる場合、十分な切削性を確保した上で、耐蝕性、耐磨耗性の低下を抑制し、しかも、加工表面の面粗度を良好にすることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係るマンガン合金鋼の実施形態について詳細に説明する。最初に、本発明の前提となるマンガン合金鋼の組成について説明する。
【0014】
C(炭素):Cはオーステナイト組織を安定化する元素であり、0.05wt以上含有させる。しかし、0.50wt%を越えて含有させると、オーステナイトの結晶粒界に炭化物が析出し、冷間加工性や耐蝕性が低下する。したがって上限を0.50wt%とした。加工後の硬さを調整するために好ましくは0.10〜0.30wt%である。
【0015】
Si(珪素):Siは精錬工程での脱酸剤として溶鋼中に添加されるが、過剰の添加は脱酸生成物である非金属介在物を増加させ、鋼材の清浄性を劣化させる。さらにSiはフェライト生成元素であるため、多量に含有させるとオーステナイト組織が不安定になる。したがって上限を0.5wt%とした。
【0016】
Mn(マンガン):Mnはオーステナイト組織を安定化させる安価な元素であり、オーステナイト組織を安定化するNiの含有量を減少させることができる。Niの代替としては、Mnを6wt%以上含有させる。しかし、25wt%を越えて含有させると熱間加工性が著しく低下し、熱間圧延時に割れが発生する可能性が増大するので好ましくない。従って上限を25wt%とした。これらの特性において、好ましくは6〜15wt%であり、さらに8〜13wt%であることがより望ましい。
【0017】
P(リン):Pは有害元素であって意図的に添加せず、できるだけ少ないほうがよい。Pは偏析を起こしやすく、熱間加工性を悪化させるため、0.05wt%以下とした。
【0018】
S(硫黄):Sは意図的に添加しなくてもよい。添加すれば切削性が改善される作用があるため、被削性を求める場合には0.05wt%以上の添加が望ましい。しかし、0.35wt%を越えて含有させると、熱間加工性や耐食性が劣化する。したがって、上限を0.35wt%とした。
【0019】
Cu(銅):Cuは添加しなくてもよい。添加すれば冷間加工時にオーステナイト組織を安定化させる作用がある。しかし、3wt%を越えて含有させると熱間加工性が著しく低下する。したがって3wt%以下とした。
【0020】
Ni(ニッケル):Niは所望添加元素であって、オーステナイト組織を安定にし、耐蝕性を改善するのに有効な元素であるが、Niは高価であるため5wt%を越えて含有させるとコストの上昇を招き好ましくなく、また、環境への影響からも極力添加量を減少させることが好ましい。したがって、オーステナイト組織の安定性とコスト面に配慮してNiの含有量を5.0wt%以下とした。
【0021】
Cr(クロム):Crはフェライト生成元素であるが、耐蝕性を付与するために必須な元素である。耐蝕性を付与させるためには10wt%以上を含有させる必要があるが、20wt%を越えるとオーステナイト組織の安定性が損なわれる。したがってCr量を10〜20wt%とした。好ましくは13〜17wt%である。
【0022】
Mo(モリブデン):Moは添加しなくてもよい。添加すれば冷間加工時に加工誘起マルテンサイトの生成を抑制するため、冷間加工性の向上に有効です。しかし、Moはフェライト生成元素であるため、過剰に添加するとオーステナイト組織が不安定になる。したがって3wt%以下とした。
【0023】
N(窒素):Nは応力腐食割れを改善する効果もあり、そのためには0.04wt%以上含有させる必要がある。これにより、耐食性改善等を目的としたNi等の高価な元素の多量添加を回避することもできる。また、Nは窒化物を生成し、この窒化物により加工硬化が得られ耐磨耗性が改善される。一方、Nが0.30wt%を越えるような鋼材を溶解することは困難であり、このような高N鋼は鋼隗中にブローホールによる欠陥を発生する恐れがあり好ましくない。したがって0.04〜0.30wt%とした。
【0024】
Al(アルミニウム):Alは強力な脱酸剤であり、精錬工程時に溶鋼中に添加される。しかし添加量が0.10wt%を越えると非金属介在物である酸化物が増大し、鋼の清浄性を劣化させる。したがって0.10wt%以下とした。
【0025】
MnSの形状寸法:MnSは鋼材中に分散形成されるが、主に溶鋼中の酸素濃度によってその粒径が変化する。例えば、一般に酸素濃度が低くなるとMnSの粒径は小さくなり、そのアスペクト比も小さくなる。MnSの粒隗の存在は切削抵抗を低下させ、切削性を向上させるが、MnSの粒径が大きくなると加工表面の面粗度が悪化するとともに耐磨耗性が低下する。また、加工表面に大きなMnSが存在すると、その部分から腐食が進行するために耐食性が低下する。
【0026】
MnSの形状寸法は、具体的には幅(短軸の長さ)が3μm以下で、長さ(長軸の長さ)が40μm以下のものが全体の90%以上を占めていることが好ましい。MnSの粒隗が上記寸法範囲内の形状寸法を備えていれば加工性や耐食性を大きく悪化させることなく、しかも、加工表面の面粗度を良好にし、摩擦係数が低く、耐磨耗性の良好な鋼材を構成できる。また、上記寸法範囲内の粒隗が90%以上であれば、鋼材の均質性が保たれ、加工性、耐食性、耐磨耗性に支障が生じない。
【0027】
また、MnSの形状寸法としては、平均の幅が3μm以下で、平均のアスペクト比が4以上11.2以下の細長形状であることが好ましい。このような細長形状のMnSが微細分散していると、実質的な粒径(例えばMnSの粒隗の体積と同じ体積を有する球体の直径)がそれほど小さくなくても、上記の諸特性に優れた鋼材を実現することが可能である。
【0028】
これらのマンガン合金鋼は、鋼材一般として利用でき、例えば板材、管材、棒材、線材などとして用いることができる。それらの用途としては、軸材、ネジ材などのような機能部品や、梁、フレーム、支持板などの構造部品が考えられる。これらの場合、各部品においては、面粗度や耐磨耗性が要求される部品表面に対して、細長形状のMnSがほぼ平行になるように構成することが好ましい。
【0029】
次に、本発明の鋼材を用いて、軸部材及びネジ部材を製造する場合について、その成形加工法及び熱処理方法について説明する。ここで、「軸部材」としては、OA機器端末のシリアルプリンタに使用されるキャリッジシャフト、活字輪選択型プリンタに使用されている活字輪軸、モータシャフト等が例示され、また、「ネジ部材」としては、セルフドリリングネジ、タッピングネジ、建築用ボルト等が例示される。
【0030】
一般的に、これらの部材は素材からのスケール除去工程を経て潤滑剤が塗布され、冷間圧延、引き抜き及び鍛造(熱間、冷間)で中間製品に成形加工された後、そのままの状態、或いは、切削若しくは鍛造工程による更なる成形加工を経て使用されるか、又は、軟化若しくは硬化の熱処理(通常は軟化の熱処理)が行われる。本発明の鋼材についても、上記工程及び処理が実施される。
【0031】
一般的なOA機器に使用されているシャフト及び自動車用シャフトの場合、従来は、最終的に浸炭処理、窒化処理、又は、メッキ処理を行っていたが、このような製品において本発明の鋼材を用いると、最終的なこれらの表面処理を省略することができる。
【0032】
このように、本発明の鋼材においては、既存設備がある場合、特に国内では上記表面処理が省略できることから、作業費、エネルギー費、物流費等が不要となる。また、設備投資を新たに行う場合など、特に海外においては、上記表面処理を省略することができることから、表面処理のための設備が不要で初期投資が低減できる。
【0033】
しかも、近年、地球温暖化防止、化学物質規制の世論が高まる中、省資源省エネルギーおよび環境汚染の最小化を図るために、本発明が浸炭処理、窒化処理、又はメッキ処理を省略することができることは、今日、きわめて大きな意義を有する。
【0034】
【実施例1】
必要な各元素を配合し、試験溶解した後に熱間圧延を行うことにより、複数種類の直径を有する丸棒及び線材に加工し、熱間圧延を施した後、空冷して、表1に示す各組成を有する鋼材を作成した。線材は、それぞれ冷間加工性、耐磨耗性、及び、切削肌評価試験用の供試材とした。
【0035】
冷間加工性は溶体化条件及び伸線加工によって評価した。また、耐食性、切削性及び耐磨耗性は、後述するものと同じ要領で試験をして評価した。さらに、鋼材の縦断面を鏡面研摩し、光学顕微鏡で倍率400倍で観察し、5箇所の視野において大きなMnS介在物を6個ずつ、合計30個について形状の測定を行い、その平均値を求めた。上記各試験の結果を表1乃至表3にまとめて示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1において、鋼材1〜8までが実施例であり、鋼材9〜15までが比較例であり、組成分析値と、MnSの平均形状(平均幅及び平均アスペクト比)とを示し、切削性、耐食性、及び、加工表面の面粗度、並びに総合評価についてまとめた。切削性の評価は、切削表面の仕上り状態で判断した。すなわち、材料を旋削加工後、仕上り表面に全くむしれ疵が認められなかったものを「○」、若干のむしれ疵は認められるが、手直しによって実用上問題がないと判断されるものを「△」、むしれ疵が著しく、実用に耐えないと判断されるものを「×」として評価し、「×」以外を合格とした。
【0038】
表1に示すように、各実施例の鋼材1〜8では、組成分析値が本発明のマンガン合金鋼の上記組成範囲に該当しており、また、MnSの平均幅はいずれも3μm以下の条件、平均アスペクト比はいずれも4以上の条件を満たしている。そして、切削性、耐食性及び面粗度はいずれも良好であり、いずれも総合的に実用に耐え得る素材と判定された。一方、比較例においては、組成分析値が上記組成範囲から外れているか、或いは、MnS形状の平均幅又は平均アスペクト比が上記条件に該当しない。そして、比較例は、切削性、耐食性、面粗度のいずれか一つが不良であるか、或いは、圧延時に割れが発生したかのいずれかであり、総合的に見て実用的なものではなかった。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
また、表2及び表3には、実施例のうちの鋼材5について引き抜きし、旋削試験、表面面粗度、及び、穴ぐり性の試験を行った結果を示す。ここで、比較対象として、旋削試験及び表面面粗度では現在使用されているSUS416及びSUS303を、穴あけ性では量産時に最低必要な穴あけ性を有する標準的なS45C及びSUS304を用いた。切削条件は、工具(バイト)としてマクロアロイAF1(商標)を用い、回転数を2650rpm、周速度を50m/minとし、送り量を25μm/REとした。表3に示す穴あけ性の評価のための加工条件は、工具として2.6mm径のドリルを用い、ドリル回転数を500rpmとし、自動送り量を70μm/RE、送り深さを10mmとした。また、表3に示す溶体化処理Aは1100℃×水冷、同Bは1150℃×水冷、同Cは1200℃×水冷、同Dは引き抜き後、1050℃×水冷の条件で行った。
【0042】
表2に示すように、鋼材5に由来する素材は、通常の耐食性素材SUS416、SUS303と比べて切削性が遜色なく良好であり、しかも加工表面の面粗度が大幅に小さいとともにそのばらつきがきわめて少なく、特に優れた切削特性を有している。また、表3に示すように、穴あけ加工においても、鋼材5に由来する素材では、比較材S45C、SUS304と比べてほぼ遜色がないか、或いは却って優れており、加工性において全く問題がないことが判る。
【0043】
次に、供試材を旋盤にて旋削後、#500のペーパーによって仕上げ研摩した試験片を気温45℃、湿度90%の雰囲気中に360時間保持し、JIS鉄鋼材料の錆判定基準のレーティングで9以上を「○」とし、この基準を満たさないものは「×」とした。具体的には、鋼材5の6.5mm径の線材を表面研削した後、SUS416及びSUS303と比較した。この結果を表4に示す。表4に示すように、実施例の鋼材は耐食性が良好であり、比較材よりも優れていることがわかる。
【0044】
【表4】
【0045】
次に、鋼材5の線材を引き抜き加工したもの、同一サイズのSUM24L材に軟窒化処理したもの、SUS416、及びSUS303の各シャフトをプリンタに装着して、同一条件で過酷な繰り返し摺動試験を行い、シャフトの磨耗量を測定した。結果を表5に示す。過酷な摺動試験でも、現行品と同等若しくは優れた耐磨耗性を有することが判明した。
【0046】
【表5】
【0047】
次に、鋼材5について、MnS介在物を光学顕微鏡にて観察し、その幅(長手方向と直交する方向の幅)及び長さ(長手方向の長さ)の分布を調べた。具体的には、鋼材の表面、中心部及びそれらの中間深さの部位について、それぞれ倍率400倍で8視野ずつ、視野中に観察される介在物を全数測定する方法で実施した。これらの結果を表6乃至表8に示す。これらの各表に示すように、鋼材5においては、いずれの部分においても、MnS介在物のうち90%以上が、幅3μm以下で、且つ、長さ40μm以下の細長形状を備えていた。また、多くの介在物がアスペクト比(長さ/幅)5〜15の範囲内に集中していた。
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
【表8】
【0051】
一方、SUMについても、上記と全く同様の方法で介在物の形状寸法の分布を調べた。その結果を表9乃至表11に示す。各表に示すように、SUMにおいては、特に幅において3μmを越えるMnS介在物が鋼材内部に多く分布しており、また、アスペクト比が上記実施例よりも大幅にばらついていることが判る。
【0052】
【表9】
【0053】
【表10】
【0054】
【表11】
【0055】
最後に、上記鋼材5のシャフト(面粗度2.7μm)、SUS303のシャフト(面粗度3.3μm)、SUMのシャフト表面にNiメッキを施したもの(面粗度1.7μm)、及びSUMのシャフト表面に窒化処理を施したもの(面粗度2.4μm)に、50〜500gの荷重をかけた状態で、コピー用紙(コクヨ社製、PPC用紙)に対する摩擦係数をそれぞれ5回ずつ測定した。その結果(平均幅)を表12及び図1に示す。このように、本実施例では、他の従来素材よりも格段に摩擦係数が低い事がわかる。特に、実施例は、面粗度が実施例よりも小さいSUMの表面処理品よりもさらに摩擦係数が低くなっている。したがって、これらの結果は、素材の表面粗さではなく、素材の耐磨耗性自体によって摩擦係数が決定されていることを示していると考えられる。この結果、本実施例では、用紙の搬送時や用紙に対する印刷(印字)時において、接触する鋼材自体の磨耗が少なくなるとともに紙粉の発生を抑制することができるという利点を備えていることが理解できる。
【0056】
【表12】
【0057】
尚、本発明は、上述の例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、耐食性や切削性が良好で、さらに耐磨耗性が高く、しかも高精度で小さな面粗度を備えた加工表面を得ることができるマンガン合金鋼を実現することができ、この材料を用いることにより、OA関連機器、モータ、自動車、建築等の部品構成材料のメッキ処理、浸炭・窒化処理などの表面処理を省略して代替使用することが可能になる。特に、従来のマンガン鋼とは異なり、多くの優れた特性を同時に備え、そのときのニーズに合わせて任意に適用できる汎用性に富んだ鋼材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る鋼材と比較品の摩擦係数を示すグラフである。
Claims (2)
- C:0.05〜0.50wt%、Si:0.5wt%以下、Mn:6.0〜25wt%、P:0.05wt%以下、S:0.35wt%以下、Cu:0〜3.0wt%、Ni:0〜5.0wt%、Cr:10.0〜20.0wt%、Mo:0〜3.0wt%、N:0.04〜0.30wt%、Al:0.10wt%以下を含有し、
残部がFe及び不可避不純物からなり、
内部に、平均幅が3μm以下で、平均アスペクト比が4以上11.2以下の細長形状の非金属介在物MnSが微細分散されていることを特徴とするマンガン合金鋼。 - 内部に微細分散されている前記非金属介在物MnSのうち、幅が3μm以下で、長さが40μm以下の形状のものが90%以上を占めることを特徴とする請求項1に記載のマンガン合金鋼。
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