JP4206306B2 - 難燃性ポリエステル繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非ハロゲン系有機リン化合物を後加工により繊維に固着させた、難燃性、耐熱性、耐加水分解性、洗濯耐久性に優れた難燃性ポリエステル繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維は、その優れた力学特性、易加工性から衣類、インテリア、詰め綿、不織布、産業用資材など、様々な分野で使用されている。例えば、ポリエステル繊維製品は、ホテル、病院、映画館などにおけるインテリア材料として使用されている。しかしながら、ポリエステル繊維製品は易燃性であり、前記用途においては、マッチやタバコなどを出火源とする火災の被害を最小限に抑えるため、消防法により厳しい規制が設けられている。近年、防災意識の高まりの中で、安全性が高く快適な生活環境をつくる上で、難燃性を備えたポリエステル繊維製品の開発が望まれている。
【0003】
ポリエステル繊維用難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を代表とするハロゲン系化合物が主に使用されている。しかしながら、最近では難燃加工された製品が燃焼するときに発生するハロゲン化水素などの環境負荷物質が懸念されており、ハロゲン系化合物は使用されない傾向にある。したがって、ポリエステル繊維用難燃剤としては、リン化合物の研究が盛んに行われるようになった。
【0004】
特開平1−201580号公報(特許文献1)には、親水性の有機リン化合物の水溶液で繊維構造物を浸漬処理し、かつその処理前後に低温プラズマ処理を施すことにより、繊維構造物に難燃性を付与する方法が開示されている。
しかしながら、この水溶性の有機リン化合物を用いる方法では、親油性(疎水性)の染料を用いて繊維構造物を染色しようとする場合、難燃性の付与と染色とを同時に行うことができず、2段階処理が必要になる。また、前記公報に記載の方法は、さらに付加的な低温プラズマ処理を必要とし、工業的に不利である。
【0005】
そこで、親油性の有機リン化合物を用いてポリエステル繊維を難燃化する研究が行われるようになった。例えば、特開平8−41781号公報(特許文献2)、特開2000−328445号公報(特許文献3)および特開2001−254268号公報(特許文献4)には、芳香族骨格のみからなる縮合系リン化合物を使用してポリエステル繊維を難燃化する技術が開示されている。
【0006】
例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)およびクレジルジフェニルホスフェート(CDP)などのモノマー系有機リン化合物、ならびに縮合系芳香族リン化合物(例えば、大八化学工業株式会社製、製品名:CR−733S、PX−200)が見出されている。
【0007】
しかしながら、これらのリン化合物は芳香族骨格を有し、染料との相溶性が高すぎるため、難燃性付与と染色を行った場合には、染料が抜け落ち易く、堅牢度に劣る。したがって、濃い色の染色を施すポリエステル繊維には、付与された難燃性と染色とを長期にわたって維持できないという問題がある。また、洗濯耐久性も悪く、初期の難燃性や染色を維持できないという問題もある。
【0008】
特開昭55−110175号公報(特許文献5)には、次式で表される化合物(A)をポリエステル樹脂と混練して押出成形機にてストランドとし、そのストランドを紡糸して、難燃性ポリエステル繊維を得る技術が開示されている。
【0009】
【化2】
【0010】
(式中、R1〜R5は、同一または異なって、水素原子、C1-4アルキル基またはフェニル基を示す)
しかしながら、難燃剤を含有するポリエステル繊維原料を紡糸することは、技術的に困難であり、現在では、ポリエステル繊維に難燃剤を固着させて難燃性を付与する、いわゆる後加工と呼ばれる方法が主流になっている。
難燃剤を含有するポリエステル繊維原料を紡糸した繊維は、後加工の繊維と比較して、リン含有率が高くなるという傾向はあるが、難燃性はリンの分布状態にも関係することから、得られた繊維は、リン含有率が高くても難燃性は必ずしも優れているとはいえない。
【0011】
そこで、化合物(A)を用いて、後加工でポリエステル繊維を難燃化処理する方法が考えられるが、化合物(A)は、架橋基の部分に側鎖を有し(R4およびR5が水素原子である場合を除く)、構造上立体障害が大きいため、ポリエステル繊維に吸尽され難く、十分な難燃性を付与することができない。また、化合物(A)において、置換基R1、R2、R4およびR5がメチル基であり、R3が水素である化合物を使用した場合には、化合物自体の耐熱性が悪く、後加工における高温の受熱により繊維の着色や劣化が起こるという問題がある。この問題は、通常の酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、硫黄系化合物およびアミン化合物など)を併用しても解決できない。
【0012】
特開平6−321974号公報(特許文献6)には、次式で表される化合物(B)を含有する難燃性樹脂組成物が開示されている。そして、難燃化の対象樹脂である熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の1つとして、ポリエステルが具体的に例示されている。
しかしながら、前記公報には樹脂、難燃剤などを混練・成形して得られる難燃性の成形品が記載されているだけで、繊維状樹脂の難燃化については記載されていない。
【0013】
【化3】
【0014】
[式中、R1およびR2は、同一または異なって、C1-8アルキル基または置換されていてもよいC6-12アリール基を示し、Aは結合手、アルキレン基または−(OCH2CH2)n−基(nは1〜5の整数)を示す。]
【0015】
【特許文献1】
特開平1−201580号公報
【特許文献2】
特開平8−41781号公報
【特許文献3】
特開2000−328445号公報
【特許文献4】
特開2001−254268号公報
【特許文献5】
特開昭55−110175号公報
【特許文献6】
特開平6−321974号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
難燃剤としてリン含有率の高いリン化合物を用いてポリエステル繊維を難燃化処理しても、リン化合物が繊維の奥深くまで入らず、繊維表面に付着している状態であれば、リン化合物は繊維から脱着し易く、難燃性の持続は期待できない。例えば、ポリエステル繊維を衣類などに用いた場合には、洗濯により繊維からリン化合物が容易に脱着する。
他方、難燃剤としてリン含有率の低いリン化合物を用いてポリエステル繊維を難燃化処理しても、繊維へのリン化合物の浸透性および繊維とリン化合物との物理的密着力が大きければ、難燃性の持続は期待できる。
【0017】
したがって、ポリエステル繊維の難燃化においては、繊維に十分な難燃性を付与し、かつ難燃剤の使用量を減量するという観点から、リン含有率が高く、かつ繊維から容易に脱着し難いリン化合物が望まれている。
【0018】
本発明は、水、熱に対する安定性を有し、かつ洗濯耐久性を維持した難燃性ポリエステル繊維を提供することを課題とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、難燃剤として、ハロゲンを含有しない特定のリン化合物を後加工によりポリエステル繊維に固着させることにより、水、熱に対する安定性を有し、かつ洗濯耐久性を維持した難燃性ポリエステル繊維、すなわち耐加水分解性、耐熱性に優れ、かつ洗濯耐久性のような繊維としての諸物性を維持した難燃性ポリエステル繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
かくして、本発明によれば、難燃剤として、式(I):
【0021】
【化4】
【0022】
(式中、R1およびR2は、同一または異なって、C1-8アルキル基を示し、Aは結合手またはC1-4の直鎖状アルキレン基を示す)
で表されるリン化合物を後加工により繊維に固着させた難燃性ポリエステル繊維が提供される。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の難燃性ポリエステル繊維は、式(I)で表される、ハロゲンを含まない有機リン化合物(以下、「リン化合物(I)」と略称する)を後加工により繊維に固着させたものである。
式(I)における置換基R1およびR2の「C1-8アルキル基」としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルのような直鎖状のアルキル基、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、neo-ペンチル、イソヘキシル、イソヘプチル、2-エチルヘキシル、イソオクチルのような分岐鎖状のアルキル基が挙げられ、これらの中でも、メチル基およびエチル基が特に好ましい。
【0024】
式(I)における架橋基Aは、結合手または−(CH2)n−(nは1〜4の整数)であり、これらの中でも、結合手およびエチレン基が特に好ましい。
したがって、式(I)において、R1およびR2が同一または異なって、メチル基またはエチル基であり、かつAが結合手またはエチレン基であるのが好ましい。
【0025】
リン化合物(I)は、式(II):
【0026】
【化5】
【0027】
(式中、R1およびR2は式(I)の定義と同じであり、Xはハロゲン原子を示す)
で表わされる化合物(以下、「化合物(II)」と略称する)に、式(III):
HO(CH2)mOH (III)
(式中、mは2〜6の整数を示す)
で表わされる化合物(以下、「化合物(III)」と略称する)をハロゲン化水素捕捉剤および触媒の存在下、有機溶剤中で反応させることにより得られる。
【0028】
上記の反応で使用されるハロゲン化水素捕捉剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジンなどが挙げられる。また、触媒としては、例えば、塩化マグネシウム、塩化アルミニウムなどのルイス酸系触媒、および4-(ジメチルアミノ)ピリジンなどのアミン系触媒が挙げられる。
【0029】
ハロゲン化水素捕捉剤の使用量は、化合物(III)1モルに対して2〜2.5モルが好ましく、2.05〜2.2モルがより好ましい。また、触媒の使用量は、化合物(II)1モルに対して0.05〜5モルが好ましく、0.1〜3モルがより好ましい。
【0030】
上記の反応で使用される有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、ジクロロエタン、ジオキサンおよびアセトニトリルなどの不活性有機溶剤が好ましい。
反応温度は25〜80℃、好ましくは30〜70℃であり、反応時間は約2〜10時間、好ましくは約5〜7時間である。反応生成物は、公知の手段、例えば溶媒抽出、液性変換、塩析、晶出、再結晶などによって単離精製することができる。
【0031】
上記の反応においてリン化合物(I)の原料となる化合物(II)は、オキシハロゲン化リンとネオペンチルグリコールなどのジオール系化合物との反応によって得られる。
また、上記の反応においてリン化合物(I)の原料となる化合物(III)は、m=2のときはエチレングリコール、m=3のときは1,3-プロパンジオール、m=4のときは1,4-ブタンジオール、m=5のときは1,5-ペンタンジオール、m=6のときは1,6-ヘキサンジオールである。
【0032】
上記の反応において、化合物(II)および(III)の種類および使用量を適宜選択することにより、所望のリン含有率および分子量を有するリン化合物(I)が得られる。このようにして得られたリン化合物(I)は、その1種もしくは2種以上を混合してポリエステル繊維用の難燃剤として用いることができる。
【0033】
上記の反応により得られるリン化合物(I)は、式(I)の定義に含まれる化合物であれば特に限定されないが、中でも次式の化合物が特に好ましい。
【0034】
【化6】
【0035】
【化7】
【0036】
ポリエステル繊維としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。その材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられ、これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0037】
ポリエステル繊維の断面形状としては、任意の形状を採用することができ、丸形、異形のいずれであってもよいが、丸形が特に好ましい。
ポリエステル繊維の太さは特に限定されず、リン化合物(I)は、任意の太さのポリエステル繊維に適用できる。例えば、0.001〜3000D(デニール:長さ9000mあたりのグラム数)、好ましくは0.01〜200Dのポリエステル繊維が挙げられる。
ポリエステル繊維の使用形態は特に限定されない。例えば、織物、編物、不織布、紐、ロープ、糸、トウ、トップ、カセ、編織物などが挙げられる。
【0038】
また、リン化合物(I)は、ポリエステル繊維と他の繊維との混合物にも適用できる。混合物としては、ポリエステル繊維と、例えば、天然、再生、半合成、合成の他の繊維との混紡、交織織物などが挙げられる。
ポリエステル繊維の用途も特に限定されず、例えば、被服用、工業用、漁網などが挙げられる
【0039】
本発明の難燃性ポリエステル繊維における、リン化合物(I)の固着量は、難燃性ポリエステル繊維の0.1〜30重量%が好ましく、0.3〜10重量%がより好ましく、0.5〜5重量%がさらに好ましい。
リン化合物(I)剤の固着量が0.1重量%未満であると、ポリエステル繊維に十分な難燃性を付与することが困難となるので好ましくない。一方、リン化合物(I)の固着量が30重量%を超えると、リン化合物(I)の増加分に応じた難燃性の増大効果が得られ難くなるばかりでなく、繊維表面にブリードアウトを生じやすくなり、逆に繊維表面に生じた難燃剤成分が繊維を容易に燃焼させる要因を引き起こすおそれがあるので好ましくない。
【0040】
本発明の難燃性ポリエステル繊維は、ポリエステル繊維にリン化合物(I)を後加工により固着させることにより得られる。例えば、リン化合物(I)に必要に応じて溶媒などを加えて液状材料(以下、「難燃処理剤」と略称する)とし、これにポリエステル繊維を接触させ、必要に応じて乾燥工程などにより溶媒などを除去することにより、難燃性ポリエステル繊維が得られる。
【0041】
難燃処理剤は、通常、リン化合物(I)を水に乳化もしくは分散させるか、またはリン化合物(I)を有機溶剤中に分散もしくは溶解させることにより調製できる。
リン化合物(I)を水に分散させる方法としては、公知の方法、例えばリン化合物(I)、界面活性剤および有機溶剤、必要に応じて分散安定化剤を配合して攪拌し、徐々に温水を加えて乳化分散させる方法が挙げられる。
【0042】
界面活性剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤などが挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸セッケンなどのカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルポリアルキレングリコールエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化脂肪酸、硫酸化オレフィンなどの硫酸エステル塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸などのホルマリン縮合物、α−オレフィンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、イゲポンT型(オレイン酸クロリドとN−メチルタウリンとの反応によって得られる化合物)、スルホコハク酸ジエステル塩などのスルホン酸塩;高級アルコールリン酸エステル塩などのリン酸エステル塩などが挙げられる。
【0043】
非イオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、油脂のアルキレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物などのポリアルキレングリコール型;グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミドなどの多価アルコール型などが挙げられる。
【0044】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アルキルナフタレンなどの芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジオキサン、エチルセロソルブなどのエーテル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;メチレンクロライド、クロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0045】
分散安定化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ザンタンガム、デンプン糊などが挙げられる。
分散安定化剤の配合量は、難燃処理剤100重量部に対して、0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部である。
分散安定化剤の配合量が少ないと、リン化合物(I)の凝集や沈降が生じるおそれがあるので好ましくない。一方、分散安定化剤の配合量が多すぎると、分散液の粘性が増大し、その結果、リン化合物(I)がポリエステル繊維の奥深くまで入り込むことが困難になり、ポリエステル繊維に難燃性を付与し難くなるので好ましくない。
【0046】
難燃処理剤が水性の乳化液または分散液である場合には、乳化型または分散型の難燃処理剤の製造に用いられている公知の装置、例えば、ホモジナイザー、コロイドミル、ボールミル、サンドグラインダーなどの乳化機や分散機を用いて難燃処理剤を調製することができる。
【0047】
ポリエステル繊維において、難燃性以外にも耐光堅牢度などが要求される場合には、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤や公知の繊維用処理剤を、難燃性を損なわない程度に難燃処理剤と併用してもよい。
このような繊維用処理剤としては、紫外線吸収剤以外に、帯電防止剤、撥水撥油剤、防汚剤、硬仕上剤、風合調整剤、柔軟剤、抗菌剤、吸水剤、スリップ防止剤などが挙げられる。
これらの繊維用処理剤は、上記の難燃性処理剤に配合して、難燃性と共にその機能を付与してもよく、また予めポリエステル繊維に付着あるいは吸着させておいてもよい。
【0048】
ポリエステル繊維は、染色して用いられることが多く、本発明の難燃性ポリエステル繊維は、染料を含んでいてもよい。本発明においては、予め染色したポリエステル繊維をリン化合物(I)で難燃化してもよく、また染色されていないポリエステル繊維に、リン化合物(I)と染料とを同時あるいは別々に用いて、難燃化と染色を施してもよい。
【0049】
上記の難燃処理剤を用いたポリエステル繊維の難燃処理方法について説明する。
本発明においては、任意の方法でポリエステル繊維に難燃性を付与することができるが、ポリエステル繊維が形成された後に難燃性を付与するのが好ましい。
具体的には、ポリエステル繊維に難燃処理剤を接触させる工程(接触工程)、得られたポリエステル繊維を加熱する方法(熱処理工程)などが挙げられ、より具体的には、以下の方法1〜3が特に好ましい。
【0050】
方法1
方法1は、難燃処理剤に接触させたポリエステル繊維を、温度100〜220℃に加熱する方法であり、スプレー処理−ドライ−キュア方式、パッド−ドライ−スチーム方式、パッド−スチーム方式、パッド−ドライ−キュア方式などの乾熱または湿熱法が適用できる。
【0051】
具体的には、まず、難燃処理剤またはその希釈液でポリエステル繊維をスプレー処理またはパッド処理し(接触工程)、乾燥させる。その後、常圧において温度100〜220℃、好ましくは160〜190℃で、数十秒から数分程度、熱処理する(熱処理工程)。
このときの処理温度が低すぎると、ポリエステル繊維の分子中の非結晶領域が難燃処理剤中に存在するリン化合物(I)の分子を受け入れ得る程に弛緩または膨張し難くなり、その結果、ポリエステル繊維に十分な難燃性を付与することが困難となるので好ましくない。一方、処理温度が高すぎると、リン化合物(I)のポリエステル繊維への固着をより強固にすることができるが、加熱条件によって差異があるものの、ポリエステル繊維自体の繊維強度が低下したり熱変性が生じるおそれがあるので好ましくない。
【0052】
上記の好適な温度範囲で熱処理することにより、難燃処理剤中に存在するリン化合物(I)が、常圧においてもポリエステル繊維の分子中の非結晶領域に安定に、かつより多く固着する。したがって、方法1によれば、ポリエステル繊維に対して十分な難燃性および洗濯耐久性を与えることができる。
【0053】
方法2
方法2は、難燃処理剤またはその希釈液にポリエステル繊維を浸漬させながら、高温常圧下もしくは高温加圧下(例えば、90〜150℃、常圧〜0.4MPa)で熱処理する方法である。すなわち、接触工程と熱処理工程とを同時に実施する方法である。
【0054】
具体的には、液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機などのパッケージ染色機を用いて難燃処理剤にポリエステル繊維を浸漬した状態で、温度90〜150℃、常圧〜0.4MPaの高温常圧下もしくは高温加圧下、好ましくは温度110〜140℃、0.05〜0.3MPaの高温加圧下で、数分〜数十分間浸漬熱処理する。
このときの処理温度が低すぎると、ポリエステル繊維の分子中の非結晶領域が難燃処理剤中に存在するリン化合物(I)の分子を受け入れ得る程に弛緩または膨張し難くなり、その結果、ポリエステル繊維に十分な難燃性を付与することが困難となるので好ましくない。一方、処理温度が高すぎと、加熱条件によって差異があるものの、ポリエステル繊維自体の繊維強度が低下したり熱変性が生じるおそれがあるので好ましくない。
【0055】
上記の好適な温度範囲で熱処理工程を行うことにより、方法1と同様、難燃処理剤中に存在するリン化合物(I)が、ポリエステル繊維の分子中の非結晶領域に安定に、かつより多く固着する。したがって、方法2によれば、ポリエステル繊維に対して十分な難燃性および洗濯耐久性を付与することができる。なお、難燃処理剤またはその希釈液にポリエステル繊維を浸漬する前に、予め難燃処理剤またはその希釈液を上記の好適な温度範囲に加熱しておいてもよい。
【0056】
方法3
方法3は、さらにキャリヤーを配合した難燃処理剤またはその希釈液にポリエステル繊維を浸漬し、次いで例えば、温度80〜130℃、常圧〜0.2MPaの高温常圧下もしくは高温加圧下で、数分〜数十分間熱処理する方法である。ここで、キャリヤーとは、ポリエステル繊維を膨潤させて、リン化合物(I)がポリエステル繊維の分子配列中に良好に固着することを促進する物質を意味する。
【0057】
キャリヤーとしては、キャリヤー染色で使用されている公知のキャリヤーを使用することができる。例えば、クロルベンゼン系、芳香族エステル系、メチルナフタレン系、ジフェニル系、安息香酸系、オルソフェニルフェノール系などの化合物が挙げられる。これらの化合物は単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0058】
キャリヤーの配合量は、加工されるポリエステル繊維の重量に対して、0.1〜10%o.w.f.(on the weight of fiber)、好ましくは1.0〜5.0%o.w.f.である。
キャリヤーの配合量が少ないと、ポリエステル繊維へのリン化合物(I)の固着が十分に促進されないおそれがあり、その結果、ポリエステル繊維に難燃性を付与し難くなるので好ましくない。一方、キャリアーの配合量が多すぎると、キャリヤーが難燃処理剤またはその希釈液中に乳化または分散され難くなるので好ましくない。
【0059】
キャリヤーを難燃処理剤またはその希釈液中に良好に乳化または分散させるために、界面活性剤として、ヒマシ油硫酸化油、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレン(POE)ヒマシ油エーテル、POEアルキルフェニルエーテルなどを適宜添加してもよい。
【0060】
方法3では、難燃処理剤中に乳化または分散されたキャリヤーがポリエステル繊維に吸着することにより、ポリエステル繊維の分子配列中へのリン化合物(I)の固着が促進される。その結果、より穏やかな条件、例えば、温度80〜130℃、常圧〜0.2MPaの条件で熱処理を行っても、難燃化を発揮し得るに十分な量のリン化合物(I)をポリエステル繊維の内部に安定に固着させることができる。
【0061】
また、上記のように熱処理時の条件が穏やかであるため、熱処理工程におけるポリエステル繊維に対する熱的な影響(熱負荷、熱履歴など)が軽減される。よって、熱処理工程におけるポリエステル繊維の強度低下や熱変性を十分に防止することができる。さらに、この方法では、方法2と同様にして、接触工程と熱処理工程とを同時に実施してもよく、さらにキャリヤーを配合した難燃処理剤またはその希釈液にポリエステル繊維を浸漬する前に、予め難燃処理剤またはその希釈液を上記の好適な温度範囲に加熱しておいてもよい。
【0062】
上記の処理により、難燃処理剤中に存在するリン化合物(I)をポリエステル繊維に固着させる時期は、ポリエステル繊維を染色する前、染色と同時、染色した後のいずれであってもよく、工程数および作業工数を低減して作業効率を高める観点からは、染色と同時が特に好ましい。
【0063】
また、上記の方法において、熱処理後に、公知の方法によってポリエステル繊維のソーピング処理を行い、ポリエステル繊維に強固に固着せず、表面に緩やかに(ルースに)付着しているリン化合物(I)を除去するのが好ましい。
このソーピング処理に用いられる洗浄剤としては、通常の陰イオン系、非イオン系、両性系の界面活性剤およびこれらが配合された洗剤を用いることができる。
【0064】
なお、ポリエステル繊維に高度の洗濯耐久性が必要とされない場合には、難燃処理剤中に存在するリン化合物(I)がポリエステル繊維の表面に強固に固着される必要はなく、リン化合物(I)が繊維の表面に緩く付着するだけでもよい。この場合には、熱処理工程を実質的に省略できる。また、リン化合物(I)は、ポリエステル繊維の表面にリン化合物(I)が緩く付着しているだけの状態でもポリエステル繊維に難燃性を付与することができる。
【0065】
【実施例】
本発明を以下の合成例、実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0066】
合成例1(リン化合物1の合成)
攪拌器、温度計、滴下装置、塩酸回収装置および還流管を備えた1リットルの四つ口フラスコに、ネオペンチルグリコール104.0g(1モル)およびトルエン100gを充填した。この混合溶液を攪拌しながら50℃に加熱し、オキシ塩化リン153.5g(1モル)を1時間かけて追加し、同温度(50℃)で4時間撹拌して脱塩酸反応を行い、反応を完結させた。反応液にトルエン150gを加え、さらに20℃でエチレングリコール31.0g(0.5モル)とトルエン200gを加えた。この混合溶液を攪拌しながら50℃に加熱し、トリエチルアミン111.1g(1.1モル、塩化水素に対して10モル%過剰)と4−ジメチルアミノピリジン0.5g(0.004モル)の混合液を約2時間かけて滴下した。その後、混合溶液を80℃まで昇温し、同温度(80℃)で5時間保持し、反応を完結させた。目的化合物およびアミンの塩酸塩が析出するために、濾過により溶媒を除去し、次にメタノールでアミンの塩酸塩を除去し、100℃で減圧乾燥した。白色の粉末状結晶が得られ、その収量は155g、収率は87%であった。また、得られた結晶は次式の化学構造を有し(これを「リン化合物1」とする)、融点は164〜166℃であった。
【0067】
【化8】
【0068】
合成例2(リン化合物2の合成)
エチレングリコール31.0gの代わりに、1,4−ブタンジオール45.0g(0.5モル)を用いること以外は、合成例1と同様にして、白色の粉末状結晶を得た。その収量は164g、収率は85%であった。また、得られた結晶は次式の化学構造を有し(これを「リン化合物2」とする)、融点は127℃であった。
【0069】
【化9】
【0070】
実施例および比較例において用いたポリエステル繊維の配合成分を下記する。
【0071】
【化10】
【0072】
【0073】
【化11】
【0074】
【0075】
【化12】
【0076】
(b)ポリエステル繊維
ポリエチレンテレフタレート100%のポリエステル繊維織物(目付250g/m2)
【0077】
実施例1〜2および比較例1〜2
ポリエステル繊維織物を難燃処理するための難燃処理剤を調製した。
(1)難燃処理剤1の調製
リン化合物1の40gと、界面活性剤としてトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド15モル付加物5gとを混合し、温水55gを攪拌しながら、得られた混合物を加えた。その後、分散安定化剤としてカルボキシメチルセルロース0.2gをさらに添加し、白色分散液状の難燃処理剤1を得た。
【0078】
(2)難燃処理剤2の調製
リン化合物2の40gと、界面活性剤としてトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド20モル付加物5gとを混合し、温水55gを攪拌しながら、得られた混合物を加えた。その後、分散安定化剤としてサンタンガム0.2gをさらに添加し、白色分散液状の難燃処理剤2を得た。
【0079】
(3)難燃処理剤3の調製
リン化合物3の50gと、界面活性剤としてトリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド20モル付加物5gおよびサルフェート塩2gを混合し、温水43gを攪拌しながら、得られた混合物を加え、白色分散液状の難燃処理剤3を得た。
【0080】
(4)難燃処理剤4の調製
リン化合物2の代わりに、リン化合物4を用いること以外は、難燃処理剤2の調製と同様にして、白色分散液状の難燃処理剤4を得た。
【0081】
(5)難燃処理剤5の調製
リン化合物2の代わりに、リン化合物5を用いたこと以外は、難燃処理剤2の調製と同様にして、白色分散液状の難燃処理剤5を得た。
【0082】
ポリエステル繊維に対する難燃処理剤の適合性を以下の方法で評価した。
(1)耐加水分解性試験
リン化合物1〜2(実施例1〜2)およびリン化合物3〜4(比較例1〜2)を約5gずつ秤量した。それらのリン化合物をそれぞれ蓋のないガラス製の円筒容器(直径30mm×高さ80mm)に加え、飽和水蒸気圧雰囲気(130℃×1時間)に曝し、各リン化合物の酸性成分として酸価を測定した。得られた試験後の酸価、試験前に予め測定しておいた酸価および理論全酸価から、次式により酸価増加率を求めた。得られた結果を表1に示す。
酸価増加率(%)=((試験後酸価−試験前酸価)/理論全酸価)×100
【0083】
(2)乳化安定性試験
調製した難燃処理剤1〜2(実施例1〜2)および難燃処理剤3〜4(比較例1〜2)を、60℃で2週間保持し、保持後の各難燃処理剤の乳化安定性を目視で評価した。乳化安定性は、乳化性に応じて○、△、×で判定した。得られた結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1において、酸価増加率が大きいことは、飽和水蒸気によりリン化合物が加水分解を受けやすいことを意味する。
耐加水分解性試験の結果から、本発明の難燃性ポリエステル繊維に使用される実施例1〜2のリン化合物(リン化合物1〜2)は、比較例1〜2のリン化合物(リン化合物3〜4)と比較して、加水分解を受け難いことがわかる。さらに、実施例2のリン化合物(リン化合物2)は、比較例2のリン化合物(リン化合物4)と比較して、加水分解を受け難いことがわかる。このことから、P−O−R−O−Pにおける架橋基Rが枝分かれを有さない直鎖構造のリン化合物の方が、耐加水分解性に有利であることがわかる。
【0086】
また、乳化安定性試験の結果から、実施例1〜2(リン化合物1〜2)は、比較例1〜2のリン化合物(リン化合物3〜4)と比較すると、乳化安定性に優れていることがわかる。
これらの結果から、リン化合物3〜4のようなタイプのリン化合物を、例えば、水系の乳化分散液状態の難燃処理剤として使用すると、加水分解によって生じた酸性成分が難燃処理剤の乳化安定性を悪化させ、繊維の難燃処理時に熱を加えて加工を施した場合に染色ムラやオイルスポットなどの不良を生じることが当然に予想される。
【0087】
実施例3〜4および比較例3〜5
調製した難燃処理剤1〜2(実施例3〜4)および難燃処理剤3〜5(比較例3〜5)を用いてポリエステル繊維織物を難燃処理した。
分散染料(カヤロン・ポリエスター・ブルー;日本化薬株式会社製)2%o.w.f.の染浴中に、難燃処理剤を濃度7.5%になるように添加した。得られた浴中にポリエステル繊維織物を浴比1:20で、ミニカラー試験機(テクサム技研社製)を使用して130℃で60分間処理し、還元洗浄、水洗、乾燥(100℃×5分間)した。その後、熱処理(170℃×1分間)した。
【0088】
難燃処理したポリエステル繊維織物を下記の方法で評価した。
(1)吸尽性試験
難燃処理したポリエステル繊維織物、JIS L 1042に規定される洗濯を5回行ったもの、およびJIS L 1018に規定されるドライクリーニング(DLC)を5回行ったものについて、各試験片の難燃剤固着量を測定し、吸尽性として評価した。すなわち、各試験片を、硫酸、硝酸および過塩素酸を加えて加熱分解し、蒸留水で希釈後、一定量の硝酸、バナジン酸アンモニウム溶液およびモリブデン酸アンモニウム溶液を加えて発色させた後、分光光度計を用いて吸光度を測定した。得られた吸光度とリン標準溶液の吸光度との比較から、試験片中のリン分(P%)を求め、このリン分が総て難燃剤に由来するものと仮定して、試験片中の難燃剤固着量を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0089】
(2)難燃性試験
難燃処理したポリエステル繊維織物、JIS L 1042に規定される洗濯を5回行ったもの、およびJIS L 1018に規定されるドライクリーニング(DLC)を5回行ったものについて、JIS L 1091に規定されるD法に準拠して防炎性能試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0090】
(3)染色性
難燃処理したポリエステル繊維織物、JIS L 1042に規定される洗濯を5回行ったもの、およびJIS L 1018に規定されるドライクリーニング(DLC)を5回行ったものについて、目視で評価した。染色性に応じて良好、やや良好、不良で判定した。得られた結果を表2に示す。
「染色性」は、染色剤(染料)がいかにうまく、想定通りの色で生地(繊維)にのるかを評価するものある。
【0091】
(4)風合い
難燃処理したポリエステル繊維織物、JIS L 1042に規定される洗濯を5回行ったもの、およびJIS L 1018に規定されるドライクリーニング(DLC)を5回行ったものについて、手触りで評価した。風合いに応じて良好、やや良好、不良で判定した。得られた結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例5〜6および比較例6〜7
調製した難燃処理剤1〜2(実施例5〜6)および難燃処理剤3〜4(比較例6〜7)を用いてポリエステル繊維織物を難燃処理した。
難燃処理剤を濃度7.5%に調整した水分散液に、濃色顔料で染色されたポリエステル繊維織物を浸漬し、マングルでピックアップが70〜80%になるように絞った後、乾燥(110℃×3分間)し、180℃×1分間処理した。その後、水洗・乾燥した。
難燃処理したポリエステル繊維織物を上記(2)〜(4)の方法および下記(5)の方法で評価した。得られた結果を表3に示す。
【0094】
(5)堅牢度
難燃処理したポリエステル繊維織物およびJIS L 1042に規定される洗濯を5回行ったものについて、目視で評価した。堅牢度に応じて良好、やや良好、不良で判定した。
「堅牢度」とは、様々な環境条件において、使用された染料がいかに残存しているかを評価するものある。
【0095】
【表3】
【0096】
表2および表3の結果から次のことがわかる。
(1)実施例3〜6のポリエステル繊維織物は、比較例3〜7のポリエステル繊維織物と比較して、洗濯前、洗濯後およびドライクリーニング後のいずれの状態においても、はるかに優れた難燃性を示し、堅牢性、風合いなどの繊維としての諸物性も良好であることがわかる。
(2)芳香環のみを有するリン化合物を難燃剤として使用したポリエステル繊維織物(比較例3、6)は、洗濯後およびドライクリーニング後に難燃性が低下している。これは、洗濯およびドライクリーニングにより難燃剤が繊維織物から抜け落ちていることを意味する。また、堅牢度も悪い。これは、洗濯およびクリーニングにより染料が繊維織物から抜け落ちていることを意味し、ひいては着色された繊維ではその製品価値を失うことを意味する。
【0097】
(3)P−O−R−O−Pにおける架橋基Rが分岐鎖構造のリン化合物を難燃剤として使用したポリエステル繊維織物(比較例4、7)は、洗濯前、洗濯後およびドライクリーニング後のいずれの状態においても、難燃性が悪い。これは、難燃処理において、難燃剤がポリエステル繊維織物に入り難い、つまり吸尽性が悪いことを意味する。
(4)親水性のリン化合物を難燃剤として使用したポリエステル繊維織物(比較例5)は、洗濯前、洗濯後およびドライクリーニング後のいずれの状態においても、難燃性試験において燃焼した。これは、ポリエステル繊維織物に難燃性が付与されていない、つまり、難燃剤が水溶性のため親油性の染料だけが繊維に入り込み、難燃剤は吸尽されていないことを意味する。このことは、吸尽性(難燃剤固着量)が0であることからも裏付けられる。
【0098】
これらの結果から、本発明のポリエステル繊維用の難燃剤、すなわちリン化合物(I)は、染色と同時に難燃性を付与する処理、および予め染色された繊維に難燃性を付与する処理のいずれにも適用できることがわかる。しかも、堅牢性、風合いなどの繊維としての諸物性を低下させることがなく、難燃剤が非ハロゲン系化合物であることから、その弊害も解消できることがわかる。
【0099】
【発明の効果】
本発明において、リン化合物(I)は、燃焼時に有害なハロゲン化ガスなどを発生するハロゲンを含有せず、洗濯耐久性のような繊維としての諸物性を維持しつつ、優れた難燃性をポリエステル繊維に付与することができる。
したがって、本発明によれば、水、熱に対する安定性を有し、かつ洗濯耐久性を維持した難燃性ポリエステル繊維を提供することができる。
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