JP4205365B2 - アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物に関し、さらに詳しくは、一般的な溶融混練によるコンパウンド化操作において樹脂成分と硬化剤成分との分散混合性を改善することにより、塗膜の外観特性(平滑性、高光沢等)、物理特性(硬度、耐擦傷性等)および化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を損なうことなく、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料との相溶性が改良されたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
粉体塗料は、溶剤排出量の極めて少ない環境対応型塗料であり、従来より、特にVOC(VolatileOrganicCompound、揮発性有機化合物)の排出規制の厳しい欧米を中心に使用が増加しており、熱硬化性粉体塗料がその大半を占めている。熱硬化性粉体塗料の典型的なものは、アクリル系およびポリエステル系の熱硬化性粉体塗料である。
【0003】
一般に「アクリル系熱硬化性粉体塗料」は、メインバインダー樹脂としてアクリル樹脂を使用するものを指し、「ポリエステル系熱硬化性粉体塗料」は、メインバインダー樹脂としてポリエステル樹脂を使用するものを指す。「アクリル系熱硬化性粉体塗料」のメイバインダー樹脂であるアクリル樹脂は、それが有する反応性基の種類により、大きく水酸基含有アクリル樹脂、酸(カルボキシル)基含有アクリル樹脂、グリシジル基含有アクリル樹脂の3つに大別される。これらの樹脂は熱硬化性粉体塗料のバインダーとして用いられる。
【0004】
本願発明の対象とする熱硬化性粉体塗料は、グリシジル基含有アクリル樹脂をメインバインダー樹脂とする「アクリル系熱硬化性粉体塗料」に属する。グリシジル基含有アクリル樹脂は、同一分子量、同一加熱温度での比較で、水酸基含有アクリル樹脂、酸基含有アクリル樹脂に対し、溶融粘度が低く、焼付け過程で得られる塗膜としては平滑性が最も優れている。さらに、このグリシジル基含有アクリル樹脂と硬化剤として多価カルボキシル化合物とを組み合わせて得られる熱硬化性粉体塗料は、強固な塗膜を形成し、アクリル樹脂本来の特長である優れた耐候性を含め、優れた外観特性(平滑性、高光沢等)、物理特性(硬度、耐擦傷性等)、化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を有する硬化塗膜を形成することができる。
【0005】
ところで、グリシジル基含有アクリル樹脂を用いたアクリル系熱硬化性粉体塗料は、たとえば、EP696622号公報に記載されているように、通常、グリシジル基含有アクリル樹脂と多価カルボキシル化合物に属する硬化剤とを、熱硬化反応が実質的に生じない雰囲気下において、溶融混練しコンパウンド化することにより製造される。
【0006】
しかしながら、この溶融混練によるコンパウンド化で製造されるアクリル系熱硬化性粉体塗料には、潜在的、致命的な欠点が2つ存在する。
第一の欠点は、グリシジル基含有アクリル樹脂が、水酸基含有アクリル樹脂、酸(カルボキシル)基含有アクリル樹脂に対し、明らかに疎水的であり、多価カルボキシル化合物のような、親水的な硬化剤との溶融混練によるコンパウンド化操作では、分子レベルまでの十分な混合が難しい点である。特に、アクリル樹脂自身が固く脆く(brittle)、塗料原料のドライ混合段階で嵩密度の小さいドライ混合粉を生じ易いという現象は、溶融混練機内の充填効率を低下させ、せん断応力が掛かり難いという問題を発生し、分散不良の問題を助長している。
【0007】
この問題に対し、たとえば、GB2326883号公報に記載の方法、すなわち(A)、(B)の両成分を、tert−ブタノール中に完全に溶解させ、その後、凍結乾燥によりtert−ブタノールを除去することによって分散の均一性を向上させる方法、さらには、US6114414号明細書、WO9534606号パンフレット、等に提案されているように、(A)、(B)の両成分の混合を促進する溶剤媒体として超臨界不活性化合物を用いて均質なコンパウンド化を行ない、その後圧力開放により、この溶剤媒体を除去する方法、等は有効な手段と思われる。
【0008】
しかしながら、これらの方法は、いずれも、製造プロセス上の大きな変更を伴なうため、現時点で、実用化に至ったものはない。
一方、これらの方法のように特殊な溶媒を使用せず、グリシジル基含有アクリル樹脂の変性により、硬化剤成分の多価カルボキシル化合物との混合性を改良する方法がある。たとえば、特公平6−104791号公報には、グリシジル基含有アクリル樹脂を、そのグリシジル基を利用して、予め亜燐酸エステル類で変性して部分的に親水化させることによって、塗膜の平滑性を改良する方法が提案されている。また、硬化形式は異なるが、参考までに挙げると、特開平2−151670号公報には、水酸基を主たる官能基として有するポリエステル樹脂と、水酸基を主たる官能基として有するアクリル樹脂とをブロックポリイソシアネートにより共硬化(Co-curing)させる熱硬化性粉体塗料の設計において、ポリエステル樹脂中の微量のカルボキシル基と、アクリル樹脂中に意図的に導入したグリシジル基とを利用し、予め、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂との反応物を調製し、この反応物を第三成分として配合することにより、塗膜硬度を改良する方法が提案されている。これらの方法は、樹脂成分と硬化剤成分とのコンパウンド化操作において、それが意図されたか否かに関わらず、均一な分散、コンパウンド化を助ける効果を期待することができ、得られる塗膜の特性が改善されているという事実から、分子レベルまでの理想的な分散状態に近づいていることが推察される。
【0009】
次に、グリシジル基含有アクリル樹脂を使用する熱硬化性粉体塗料の第2の欠点は、この塗料が、「ポリエステル系熱硬化性粉体塗料」に対し、「相溶性」(Compatibility)を持たない点である。「相溶性」は、塗料技術分野でしばしば用いられる用語であり、本発明においては、「塗料組成物が、これと異なる別種の塗料組成物にコンタミネーションした場合でも、塗膜表面上にクレーター(ゴルフボールのディンプル状の窪み)を発生させず、馴染む性質」という意味で使用する。つまり、グリシジル基含有アクリル樹脂を使用した熱硬化性粉体塗料は、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料に対してコンタミネーションした場合、塗膜表面上に多数のクレーターを生じ、平滑性を著しく損なわせる。この現象は、一般的には、ポリエステル樹脂に対して疎水的であるアクリル樹脂、特にグリシジル基含有アクリル樹脂が、低い表面張力を有するためであると解釈されている。ちなみに、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料の典型例は、カルボキシル基を主たる反応性基として有するポリエステル樹脂に対し、硬化剤として、TGIC(トリグリシジルイソシアヌレート)、または、'PrimidXL−552'(EMS社製;β−ヒドロキシアルキルアミド)を使用した粉体塗料であるが、不飽和ポリエステル樹脂、あるいは、ポリエステルアクリレートからなるポリエステル系紫外線硬化型粉体塗料に対しても、アクリル系熱硬化性粉体塗料は、相溶性を示さない。
【0010】
ところで、上記クレーターの発生を低減するために、一般的には、疎水的で低表面張力に設計された流動調整剤(flow additives、flow control agents、leveling agents)の配合が行われる。この流動調整剤は、液状の疎水性アクリルコポリマーが一般的であり、塗料組成物中に予め配合しておくことで、加熱溶融状態にある硬化性粉体塗料の塗膜中、時間とともに塗膜表層に移行(migration)する。そのため、塗膜表面に低表面張力の層が形成され、その機能の一つとして、クレーターの発生を抑制することができる。流動調整剤は、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料を含む、殆ど全ての硬化性粉体塗料において必須の構成成分となっており、通常1重量%程度の添加量で使用されている。
【0011】
しかしながら、流動調整剤が配合されたポリエステル系熱硬化性粉体塗料に対してすら、グリシジル基含有アクリル樹脂を使用した熱硬化性粉体塗料は、殆ど相溶性を示さない。本発明者らは、これらの状況に鑑み、グリシジル基含有アクリル樹脂を使用した熱硬化性粉体塗料が、全く相溶性を示さない原因が、グリシジル基含有アクリル樹脂自身が、本質的に疎水的で、低表面張力を有する設計であることだけでなく、親水的なカルボキシル系硬化剤との間で、分子レベルまでの、理想的な均質なコンパウンド化がなされていないために、塗料粒子内部でミクロ相分離を生じ、疎水部と親水部の分布を有しているためであると考えた。
【0012】
たとえば、流動調整剤の改良研究自体は、WO9730131号パンフレット等に記載されており、この特許文献には、疎水部と親水部を併有する流動調整剤を設計することにより、クレーターの発生を抑制する検討がなされている。この検討による成果も、流動調整剤が、単に、塗膜の表面張力を低下させる機能だけでなく、親水的なカルボキシル系硬化剤と疎水的なグリシジル基含有アクリル樹脂との馴染みを改良する、一種の分散助剤(DispersionPromoter)として機能したためであると推測される。
【0013】
このような状況にあって、一般的な溶融混練によるコンパウンド操作で理想的な分子レベルまでの充分な混合が可能で、塗膜の外観特性(平滑性、高光沢等)、物理特性(硬度、耐擦傷性等)および化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を損なうことなく、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料との相溶性が改良されたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物の出現が望まれている。
【0014】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、一般的な溶融混練によるコンパウンド操作で理想的な分子レベルまでの十分な混合が可能で、塗膜の外観特性(平滑性、高光沢等)、物理特性(硬度、耐擦傷性等)および化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を損なうことなく、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料との相溶性が改良されたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物を提供することを目的としている。
【0015】
【発明の概要】
本発明に係るアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物は、予めグリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと、他のエチレン性不飽和単量体とを共重合させて得られる、少なくとも1種類のグリシジルコポリマー(a)を、
炭素数1〜20のCH 3 -( CH 2 ) m - COOH(m=0〜18)の構造を有する脂肪酸類
(c1)、
炭素数2〜20の脂肪族オキシ酸類(c2)および
炭素数4〜20の直鎖状脂肪族二塩基酸もしくは該直鎖状脂肪族二塩基酸の脱水縮合物(c3)からなる群から選ばれる少なくとも1種類のカルボキシル化合物(C)で変性した変性物からなる、無変性のグリシジルコポリマー(a)を含んでいてもよいグリシジル基含有アクリル樹脂(A)と、
硬化剤成分としての多価カルボキシル化合物(B)とを含有してなり、かつ、
該グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成する全てのグリシジルコポリマー(a)が、変性前に有していたグリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基の総モル量に対して、2〜10モル%の変性率で予め変性されていることを特徴としている。
【0016】
前記カルボキシル化合物(C)として用いられる炭素数4〜20の直鎖状脂肪族二塩基酸もしくは該直鎖状脂肪族二塩基酸の脱水縮合物(c3)は、硬化剤として使用される多価カルボキシル化合物(B)とは異なる化合物であることが望ましい。
【0017】
【発明の具体的説明】
以下、本発明に係るアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物について具体的に説明する。本発明に係るアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物は、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)と、硬化剤成分である多価カルボキシル化合物(B)と含有している。
【0018】
グリシジル基含有アクリル樹脂(A)
本発明で用いられるグリシジル基含有アクリル樹脂(A)は、グリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと、他のエチレン性不飽和単量体とを共重合して得られる、少なくとも1種類のグリシジルコポリマー(a)のうち、少なくとも1種類がカルボキシル化合物(C)により変性されている。すなわち、グリシジルコポリマー(a)の変性物だけでなく、さらに任意に無変性のグリシジルコポリマー(a)を含有していてもよい。なお、この無変性のグリシジルコポリマー(a)は、変性物の調製の際に用いられる未変性グリシジルコポリマー(a)の組成と同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
【0019】
[グリシジルコポリマー(a)]
アクリル樹脂(A)を構成するグリシジルコポリマー(a)の数は、塗料製造工程の煩雑さを考慮すれば、通常、1種類または2種類が好ましいが、3種類以上であっても構わない。グリシジルコポリマー(a)中に使用されるエチレン性不飽和単量体の全体の中で、グリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートが占める重量割合は、特に制限はないが、10〜55重量%が好ましく、20〜50重量%がより好ましい。この割合が55重量%を超えると、コストが高くなり過ぎるため実用性に欠け、10重量%未満であると、好ましい塗膜の強度が得られない。
【0020】
グリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリルメタクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアモノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有ビニル類およびこれらのモノエステル化物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、等の芳香族ビニル化合物類;ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル化合物類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、ふっ化ビニル、モノクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロプレン等のハロゲン含有ビニル化合物類;その他、アクリロニトリル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、エチレン、プロピレン、炭素数4〜20のα−オレフィン、ビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0021】
また、上記単量体、あるいはその共重合体をセグメントに有し、末端にビニル基を有するマクロモノマー類も使用できる。これらの単量体は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。なお、上記のメチル(メタ)アクリレートは、メチルアクリレートおよびメチルメタクリレートを示す。グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成する全てのグリシジルコポリマー(a)に使用されるグリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと他のエチレン性不飽和単量体の総重量に対して、水酸基含有エチレン性不飽和単量体が1〜15重量%の量で共重合されていることが好ましい。
【0022】
このような水酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、具体的には、上記のヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、等の水酸基含有ビニル化合物類が好ましく、特に、(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートとラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、さらに、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。これらも、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
構造式CH2=CR−COO(CH2)−[COO−(CH2)5]]nOH
(式中のRは水素原子またはメチル基である。)で表わされるラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートについては、ユニオンカーバイド社製の「Tone monomer M−100」、Sartomer社製の「SR495」、ダイセル化学社製の「FA2」、「FA3」、「FM2」、「FM3」(いずれも商品名)、等を利用することができる。
【0024】
水酸基含有エチレン性不飽和単量体は、好ましくは1〜15重量%、より好ましくは5〜15重量%の範囲で使用され、15重量%を超える量で使用した場合、塗膜の耐酸性等が損なわれる。また、水酸基含有エチレン性不飽和単量体は、個々のグリシジルコポリマー(a)のうち全てに使用されていても構わないし、いずれかに使用されていても構わない。このようなグリシジルコポリマー(a)のGPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、1,000〜20,000、特に3,000〜10,000の範囲内であることが好ましい。また、DSC(示差走査熱量計)で測定される実測ガラス転移温度(Tg)は40〜70℃であることが好ましい。
【0025】
[グリシジルコポリマー(a)の変性物]
次に、本発明で用いられるグリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成する少なくとも1種類のグリシジルコポリマー(a)のうち、少なくとも1種類のグリシジルコポリマー(a)を、グリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基とカルボキシル基との反応により予め変性する目的で使用されるカルボキシル化合物(C)について説明する。
【0026】
カルボキシル化合物(C)は、炭素数1〜20のCH 3 -( CH 2 ) m - COOH(m=0〜18)の構造を有する脂肪酸類(c1)、炭素数2〜20の脂肪族オキシ酸類(c2)および炭素数4〜20の直鎖状脂肪族二塩基酸もしくは該直鎖状脂肪族二塩基酸の脱水縮合物(c3)の中から1種類以上選択される。炭素数1〜20のCH 3 -( CH 2 ) m - COOH(m=0〜18)の構造を有する脂肪酸類(c1)(以下、「脂肪酸類(c1)」ともいう)としては、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸等の炭素数1〜20のCH3−(CH2)m−COOH(m=0〜18)の構造を有する飽和脂肪酸などが挙げられる。中でも、カプロン酸、カプリン酸が好ましい。上記のような脂肪酸は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
炭素数2〜20の脂肪族オキシ酸類(c2)(以下、「脂肪族オキシ酸類(c2)」ともいう)は、1分子中に水酸基とカルボキシル基を有する化合物であり、具体的には、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。中でも、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、12−ヒドロキシステアリン酸が好ましい。上記のようなオキシ酸は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
炭素数4〜20の直鎖状脂肪族二塩基酸もしくは該直鎖状脂肪族二塩基酸の脱水縮合物(c3)(以下、「直鎖状脂肪族二塩基酸類(c3)」ともいう)としては、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカンニ酸、ブラシル酸、テトラデカンニ酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等の直鎖状脂肪族二塩基酸類およびその脱水縮合物類が挙げられる。中でも、特に、炭素数が奇数個のグルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ブラシル酸が好ましい。これらの直鎖状脂肪族二塩基酸類は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
これら、カルボキシル化合物(C)として選択される脂肪酸類(c1)、脂肪族オキシ酸類(c2)および直鎖状脂肪族二塩基酸類(c3)の中では、有機溶媒に不溶で、加熱下で不融のゲルポリマーを生成する危険性から、脂肪酸類(c1)および脂肪族オキシ酸類(c2)から選択することが特に好ましい。次に、上記のカルボキシル化合物(C)を用いて、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成する少なくとも1種類のグリシジルコポリマー(a)のうち、少なくとも1種類のグリシジルコポリマー(a)を、予め、グリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基とカルボキシル基との反応を用いて変性する方法について説明する。
【0030】
まず、変性されるグリシジルコポリマー(a)の数は、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成するもののうち、1種類以上であればよく、全部であっても構わない。グリシジルコポリマー(a)の製造に必須であるエチレン性不飽和単量体である、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレートの市場価格は、一般的に非常に高い。そこで、グリシジルコポリマー(a)中に、これらのメタクリル化合物により導入されるグリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基が、本発明の目的を達成する以上に、過剰に変性により消費され、熱硬化反応性基を失うことは、商業的に好ましくなく、また、当然の事ながら、塗膜強度の低下を生じる。本発明の場合、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成する全てのグリシジルコポリマー(a)が、変性前に有していたグリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基の総モル量に対して、変性により消費される割合が10モル%以下である必要がある。特に8モル%以下であることが好ましい。
【0031】
ところで、本発明の場合、それぞれのグリシジルコポリマー(a)の変性は、それが有する全分子量範囲に渡って行われてもよいが、上記のように、少ない変性率において、より効果的に、本発明の目的であるポリエステル系熱硬化性粉体塗料との相溶性の改良を達成する場合、その変性方法としては、たとえば、次の2つの方法が挙げることができる。
【0032】
(1)第一の変性方法
(Z1)グリシジルコポリマ−(a)の原料である、グリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体の種類と使用する全ての単量体の構成重量比が同一で分子量の異なる2種類のグリシジルコポリマーのうち、分子量の小さいグリシジルコポリマー(a−S)のみをカルボキシル化合物(C)で変性し、得られたコポリマー(a−S)の変性物と分子量の大きい無変性グリシジルコポリマー(a−L)とを溶融または溶解状態で一体化する方法。
【0033】
(2)第二の変性方法
(Z2)一つのグリシジルコポリマー(a)を、良溶媒と貧溶媒を利用した再沈手法により、一旦、2つの分子量画分に分離し、低分子量画分(a−S)'のみをカルボキシル化合物(C)で変性し、その後に、得られた低分子量画分(a−S)'の変性物と無変性の高分子量画分(a−L)'とを混合し、溶融または溶解状態で再度一体化する方法。
【0034】
これらの変性方法は、いずれも、個々のグリシジルコポリマー(a)の中で、低分子量側のグリシジルコポリマーのみを選択的に変性する方法である。ところで、通常、アクリル樹脂は、所望の単量体混合物とラジカル重合開始剤とを加熱することにより容易に得られ、塊状重合、溶液重合、乳化重合、あるいは、懸濁重合等、公知公用の重合手法により製造することができる。
【0035】
これに対し、前者の変性方法(Z1)では、実用的な利便性を考慮して、有機溶媒を使用した、バッチ式の溶液重合が最も適している。この重合の際に用いられる有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒が好適に用いられるが、これに制限されるものではなく、安全性と沸点、さらにカルボキシル化合物(C)の溶解性を考慮して任意に選択し得る。
【0036】
グリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体の種類と使用する全ての単量体の構成重量比が同一で分子量のみが異なる2種類のグリシジルコポリマー(a−S)、(a−L)は、たとえば、バッチ式の溶液重合により製造する場合、使用する重合開始剤や連鎖移動剤の量、重合温度、あるいは、有機溶媒とエチレン性不飽和単量体混合物(グリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと他のエチレン性不飽和単量体との混合物)との重量比率、等の簡単な調整により、異なるバッチとして容易に製造することができる。さらに、得られた異なるバッチのうち、分子量の小さい原料コポリマー(a−S)のみを変性するためには、このバッチに使用した有機溶媒に可溶なカルボキシル化合物(C)を添加し、加熱下に所定の時間、グリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基とカルボキシル基との反応を行わせればよい。
【0037】
また、変性反応の終点は、変性されるべき分子量の小さい原料コポリマー(a−S)中に存在するグリシジル基およびβ−メチルグリシジル基の総量(ep)に対し、変性剤として使用するカルボキシル化合物(C)中のカルボキシル基およびカルボン酸無水物基の総量(ac)を、当量比(ac)/(ep)として1.0以下に設定しておくことで、既知の酸価測定法により、カルボキシル基の消失時間として、容易に判断することができる。また、このように、カルボキシル化合物(C)中のカルボキシル基およびカルボン酸無水物基の総量(ac)を、変性されるべき、分子量の小さい原料コポリマー(a−S)中に存在するグリシジル基およびβ−メチルグリシジル基の総量(ep)に対し、当量比(ac)/(ep)として1.0以下に設定することは、変性操作終了後に、得られたコポリマー(a−S)の変性物と無変性コポリマー(a−L)とを、溶融、または溶解状態で一体化する工程で、有機溶媒に不溶で、加熱下で不融のゲルポリマーを生成する危険性を回避する意味でも好ましく、特に制限はないが、当量比(ac)/(ep)として0.3〜0.9の範囲、さらには、0.4〜0.7の範囲であることが好ましい。このようにして得られた分子量の小さいコポリマー(a−S)の変性物と、無変性の分子量の大きいコポリマー(a−L)は、それぞれ有機溶媒溶液として一括して減圧可能な反応機に仕込み、減圧下に攪拌・加熱しつつ溶媒を完全に留去する方法、あるいは、別個に脱溶媒操作した後、押出し混練機(エクストルーダー)、等を用いて溶融混練する方法等により、溶融、または溶解状態で一体化され、分子量の小さいコポリマー(a−S)の変性物と、無変性の分子量の大きいコポリマー(a−L)とからなるグリシジルコポリマー(a)が製造される。
【0038】
一方、低い変性率で、本発明の目的を達成するための、第二の変性方法(Z2)は、一つのグリシジルコポリマー(a)を、良溶媒、貧溶媒を利用して、再沈手法により、一旦2つの分子量画分に分離し、低分子量画分(a−S)'のみをカルボキシル化合物(C)で変性し、得られた低分子量画分(a−S)'の変性物と無変性の高分子量画分(a−L)'とを混合し、溶融、または溶解状態で再度一体化する方法である。
【0039】
ここでは、たとえば、第一の変性方法(Z1)の場合と同様に、有機溶媒を用いたバッチ式の溶液重合を行ない、さらに、減圧可能な反応機の中で、一旦、減圧下に溶媒を完全に留去されたグリシジルコポリマー(a)を使用することができる。本発明の場合、グリシジルコポリマー(a)は、ほぼ例外なくメチルエチルケトン(MEK)に完全に溶解するため、メチルエチルケトンを良溶媒として使用することができる。さらに、貧溶媒の典型例としてはシクロヘキサンを使用することができ、メチルエチルケトン溶液をシクロヘキサンに投入する再沈操作と、これら溶剤の組成比の簡単な調整により、グリシジルコポリマー(a)は、分子量の異なる2つの画分に自由に分割することができる。グリシジルコポリマー(a)の高分子量画分(a−L)'は、これらの溶媒組成比の調整により、簡単なデカンテーション、あるいは、遠心沈降により分離、分別、回収され、たとえば、そのまま、減圧可能な反応機の中で加熱、攪拌下に減圧することで、溶媒が完全に留去された、無変性の高分子量画分(a−L)'を得ることができる。
【0040】
一方、変性すべきグリシジルコポリマー(a)の低分子量画分(a−S)'は、メチルエチルケトン/シクロヘキサン混合溶媒溶液として回収される。カルボキシル化合物(C)による変性は、メチルエチルケトン/シクロヘキサン混合溶媒に可溶なカルボキシル化合物(C)を投入し、加熱することでも行なえるし、また、減圧可能な反応機の中で加熱、攪拌下に減圧することで、一旦、溶媒が完全に留去された低分子量画分(a−S)'を製造し、これを、カルボキシル化合物(C)と共に、加熱、攪拌が可能な反応機中で、溶媒存在下、あるいは無溶剤下に溶融状態で混合することにより、変性を行なうことができる。また、変性に充分な滞留時間、温度が確保できる場合、たとえば押出し混練機(エクストルーダー)等を用いて、リアクティブプロセッシングにより変性を行わせることもできる。変性の終了は、第一の変性方法(Z1)と同様に、カルボキシル化合物(C)中のカルボキシル基およびカルボン酸無水物基の総量(ac)を、変性されるべき、低分子量画分(a−S)'中に存在するグリシジル基およびβ−メチルグリシジル基の総量(ep)に対し、当量比(ac)/(ep)として1.0以下に設定しておくことで、既知の酸価測定法により、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基の消失時間として、容易に判断することができる。特に制限はないが、当量比(ac)/(ep)として0.3〜0.9、好ましくは0.4〜0.7の範囲が好ましい。このようにして得られた、無変性のままの高分子量画分(a−L)'と変性された低分子量画分(a−S)'は、第一の変性方法(Z1)に記載の方法と同様に、それぞれ有機溶媒溶液として、一括して減圧可能な反応機に仕込み、減圧下に攪拌・加熱しつつ溶媒を完全に留去する方法、あるいは、別個に脱溶媒操作した後、押出し混練機(エクストルーダー)等を用いて溶融混練する方法等により、溶融、または溶解状態で一体化でき、グリシジルコポリマー(a)が製造される。なお、全分子量範囲で変性する場合、上記の(Z1)、(Z2)のような分割操作は必要なく、上記に準じた方法により、容易に変性することができる。
【0041】
本発明で用いられるグリシジル基含有アクリル樹脂(A)は、上記のようなグリシジルコポリマー(a)の少なくとも1種類から構成されている。また、複数のグリシジルコポリマー(a)は、実用上の利便性の点から、予め、相互に一体化することにより、1ないし2種類のグリシジルコポリマー(a)としてハンドリング面の煩雑さを解消することもできる。
【0042】
多価カルボキシル化合物(B)
本発明で用いられる多価カルボキシル化合物(B)は、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)の硬化剤を構成する必須成分である。この多価カルボキシル化合物(B)は、基本的には、上記の変性剤として使用できる直鎖状脂肪族二塩基酸類(c3)をそのまま使用することができるが、変性剤としての使用が好ましい直鎖状脂肪族二塩基酸類(c3)と、硬化剤としての使用が好ましい多価カルボキシル化合物(B)とは、必ずしも一致せず、適宜選定されるべきである。
【0043】
硬化剤成分としての多価カルボキシル化合物(B)も、炭素数4〜20の脂肪族多塩基酸もしくはその脱水縮合物、またはカルボシキル基を主たる官能基として有するポリエステル樹脂から任意に選択することができる。脂肪族多塩基酸としては、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカンニ酸、ブラシル酸、テトラデカンニ酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等の直鎖状脂肪族二塩基酸類;ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸等の3官能以上の多塩基酸類、およびそれらの脱水縮合物類が挙げられる。中でも、ドデカン二酸、テトラデカンニ酸、および、これらの単独脱水縮合物類が好ましい。
【0044】
また、カルボキシル基を主たる官能基として有するポリエステル樹脂としては、1分子中に少なくとも平均1.0個のカルボキシル基を有する、酸価20〜200(mgKOH/g)、ガラス転移温度(Tg)20〜80℃、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される数平均分子量(Mn)100〜10,000のポリエステル樹脂を用いることができ、所望のポリエステル樹脂が容易に入手できる。このようなポリエステル樹脂としては、たとえば、常温で固形であり、いわゆるTGIC(トリグリシジルイソシアヌレート)硬化用ポリエステル樹脂「Albester5140」(商品名;イーストマン社製)、「PrimidXL−552」(商品名;EMS社製、β−ヒドロキシアルキルアミド)硬化用ポリエステル樹脂、「Albester5160」(商品名;イーストマン社製)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂硬化用ポリエステル樹脂「Albester2230」(商品名;イーストマン社製)等の市販品が挙げられる。
【0045】
カルボキシル化合物(B)として選択使用される各種の化合物は、単独でも使用できるし、複数を組み合わせても用いられる。ただし、カルボキシル基を主たる官能基として有するポリエステル樹脂が、本願発明で言う硬化剤の全部あるいは、殆どを占める、いわゆる「アクリル−ポリエステルハイブリッド粉体塗料」は、それが、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料に対して、十分な相溶性を与えるか否かに関わらず、本願発明の対象ではない。その理由は、本願発明が、当該分野において認識されるアクリル系熱硬化性粉体塗料の硬化塗膜が有する優れた特性を維持することを前提としているためである。
【0046】
グリシジル基含有アクリル樹脂(A)中のグリシジル基およびβ−メチルグリシジル基の総量(ep)に対する多価カルボキシル化合物(B)中のカルボキシル基およびカルボン酸無水物基の総量(ac)の比は、特に制限はないが、当量比(ac)/(ep)として0.7〜1.3の範囲内にあることが好ましく、0.8〜1.1の範囲内にあることがより好ましい。
【0047】
公知公用のコンパウンド化操作で分子レベルまでの充分な混合が行われているか否かを直接的に証明する解析手法がないのが現状であるが、本発明に係るアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物が、カルボキシル化合物(C)によるグリシジルコポリマー(a)の変性により、熱硬化反応基であるグリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基の一部を消費しているにもかかわらず、従来と同等以上の塗膜の外観特性(たとえば平滑性、光沢など)、物理特性(たとえば硬度、耐擦傷性など)、化学特性(たとえば耐酸性、耐溶剤性など)を示し、加えてポリエステル系熱硬化性粉体塗料に対し優れた相溶性を有しているという事実から、間接的に分子レベルまでの充分な混合が行われていることが証明される。
【0048】
アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物
本発明に係るアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物は、上記のグリシジル基含有アクリル樹脂(A)と硬化剤成分である多価カルボキシル化合物(B)とを、公知公用のコンパウンド技術により、コンパウンド化し、その後、冷却・固化、粉砕、分級という一般的な操作により得ることができ、配合方法、コンパウンド方法には特に制限はない。
【0049】
通常、コンパウンドには、加熱ロール機、加熱ニーダー機、押出し機(エクストルーダー)、ミキサー(バンバリー型、トランスファー型等)、カレンダー設備等の従来より公知の混練機等を適宜組み合わせて用いることができる。また、これら混練機の運転の際には、混練条件(温度、回転数、雰囲気、等)を適宜、設定すればよい。
【0050】
上記工程を経て得られた粉体塗料コンパウンド物は、必要により、さらに粉砕して、粉末状の粉体塗料組成物とすることができる。この粉砕物を得るには、従来公知の方法を採用することができる。たとえば、平均粒径が10〜90μm程度の粉砕物を得るには、ハンマーミル等を使用することができる。本発明においては、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物(粉体塗料)の粉砕粒度は、特に制限はなく、従来技術の範疇である体積平均粒子径20〜40μm程度でも構わない。
【0051】
本発明に係るアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物には、必要により、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の粉体塗料に配合可能な種々の添加剤を配合、混合してもよい。たとえば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の合成樹脂など等を適宜配合して、塗膜物性を向上させることができる。また、顔料、流動調整剤、粘性調整剤(チクソトロピー調整剤)、帯電調整剤、表面調整剤、光沢付与剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、脱ガス剤、硬化触媒等の添加剤を適宜使用してもよい。特に、クリアコート塗料として使用する場合には、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物に少量の顔料を配合し、たとえば、透明性が損なわれない範囲で着色してもよい。
【0052】
上記のようにして得られた本発明に係るアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物は、静電塗装法、流動浸漬法等の塗装方法によって、基材に付着せしめ、加熱して熱硬化させることにより、塗膜(硬化塗膜)を形成させることができる。また、基材は、アルミニウム、スチール等の金属基材でもよく、また、これらの基材は下地塗装されたものであってもよい。焼付けは、通常、約100〜180℃、より好ましくは120〜160℃の温度で、10〜60分間程度行われる。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、通常のコンパウンド化操作であっても、従来よりも均質性の改良されたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物が得られ、塗膜の外観特性(平滑性、高光沢等)、物理特性(硬度、耐擦傷性等)、化学特性(耐酸性、耐溶剤性等)を損なうことなく、特にポリエステル系熱硬化性粉体塗料との相溶性が改良されたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物を提供することができる。
【0054】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、「部」および「%」は特記していない限り重量基準である。
【0055】
〔製造例1〕
[無変性グリシジルコポリマー(a1)の製造]
攪拌機、温度計、還流冷却機および窒素導入管・排気管を備えた4口フラスコに、キシレン66.7部を仕込み、気相部の空気を窒素でパージしながら、攪拌下に、還流温度まで加熱昇温した。
【0056】
次いで、このフラスコ内に、表1の(a1)に示すように、グリシジルメタクリレート30部と、スチレン15部と、メチルメタクリレート35部と、ノルマルブチルメタクリレート20部と、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート5.0部とを溶解混合した原料液を、5時間にわたりフィードし、さらにその後100℃で5時間保持し、これらモノマーの共重合を行なった。得られた樹脂溶液からその溶剤を除去することにより、無変性のグリシジルコポリマー(a1)を得た。
【0057】
このコポリマー(a1)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が7060、DSC(示差走査熱量計)で測定される実測Tgが48℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が486(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a1)の特性値を表1に示す。
【0058】
〔製造例2〕
[無変性グリシジルコポリマー(a2)の製造]
製造例1において、表1の(a2)に示すように、グリシジルメタクリレート30部と、スチレン15部と、メチルメタクリレート45部と、分子中に水酸基を有する単量体として、ラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ユニオンカーバイド社製、商品名Tone monomer M−100)10部と、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4.0部とを用いた以外は、製造例1と同様の操作を行なって、無変性グリシジルコポリマー(a2)を得た。
【0059】
このコポリマー(a2)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が8100、DSCで測定される実測Tgが50℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が484(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a2)の特性値を表1に示す。
【0060】
〔製造例3〕
[無変性グリシジルコポリマー(a3)の製造]
製造例1において、表1の(a3)に示すように、グリシジルメタクリレート30部と、スチレン15部と、メチルメタクリレート32部と、分子中に水酸基を有する単量体として、ラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート(ダイセル化学社製、商品名FM3)8部と、2−ヒドロキシエチルメタクリレート15部と、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4.0部とを用いた以外は、製造例1と同様の操作を行なって、無変性グリシジルコポリマー(a3)を得た。
【0061】
このコポリマー(a3)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が8250、DSCで測定される実測Tgが43℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が480(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a3)の特性値を表1に示す。
【0062】
〔製造例4〕
[無変性グリシジルコポリマー(a4)の製造]
製造例1において、表1の(a4)に示すように、β−メチルグリシジルメタクリレート33部と、スチレン30部と、メチルメタクリレート30部と、ノルマルブチルアクリレート7部と、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.5部とを用いた以外は、製造例1と同様の操作を行なって、無変性グリシジルコポリマー(a4)を得た。
【0063】
このコポリマー(a4)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が10200、DSCで測定される実測Tgが55℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が482(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a4)の特性値を表1に示す。
【0064】
〔製造例5〕
[無変性グリシジルコポリマー(a5)の製造]
製造例1において、表1の(a5)に示すように、グリシジルメタクリレート45部と、スチレン15部と、メチルメタクリレート35部と、ノルマルブチルメタクリレート5部と、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート7.5部とを用いた以外は、製造例1と同様の操作を行なって、グリシジルコポリマー(a5)を得た。
【0065】
このコポリマー(a5)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が5580、DSCで測定される実測Tgが42℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が328(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a5)の特性値を表1に示す。
【0066】
〔製造例6〕
[分子量全体を変性したグリシジルコポリマー(a6)の製造]
製造例1で得られた無変性グリシジルコポリマー(a1)に対し、カルボキシル化合物(C)による分子量全体の変性を実施した。すなわち、攪拌機および温度計を備えたオートクレーブに、キシレン40部、イソプロピルアルコール40部およびグリシジルコポリマー(a1)100部を投入し、オートクレーブを密閉した後、攪拌しながら120℃まで昇温した。
【0067】
次いで、オートクレーブ内に、メタノール15部に溶解したジメチロールブタン酸1.5部を、連続的にフィードした。フィード終了後、120℃で5時間保持することにより、公知の酸価測定法により測定される酸価は、ほぼ0mgKOH/gとなり変性を完了した。なお、ここで投入されたジメチロールブタン酸の量は、(a1)中に存在するグリシジル基量に対し、5モル%に設定されている。このようにして変性された樹脂溶液から溶剤を除去することにより、全体変性されたグリシジルコポリマー(a6)を得た。
【0068】
このコポリマー(a6)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が7250、DSCで測定される実測Tgが49℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が512(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a6)の特性値を表1に示す。
【0069】
なお、原料組成比については、使用した単量体の合計重量を100重量部として換算し、全体の重量バランスとして標記した。
【0070】
〔製造例7〕
[分子量全体を変性したグリシジルコポリマー(a7)の製造]
製造例3で得られた無変性グリシジルコポリマー(a3)に対し、カルボキシル化合物(C)による分子量全体の変性を実施した。すなわち、攪拌機および温度計を備えたオートクレーブに、キシレン40部、イソプロピルアルコール40部およびグリシジルコポリマー(a3)100部を投入し、オートクレーブを密閉した後、攪拌しながら120℃まで昇温した。
【0071】
次いで、オートクレーブ内に、メタノール40部に溶解したジメチロールプロピオン酸3部を、連続的にフィードした。フィード終了後、120℃で6時間保持することにより、公知の酸価測定法により測定される酸価は、ほぼ0mgKOH/gとなり変性を完了した。なお、ここで投入されたジメチロールプロピオン酸の量は、(a3)中に存在するグリシジル基量に対し、11モル%に設定されている。このようにして変性された樹脂溶液から溶剤を除去することにより、全体変性されたグリシジルコポリマー(a7)を得た。
【0072】
このコポリマー(a7)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が8400、DSCで測定される実測Tgが44℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が553(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a7)の特性値を表1に示す。
【0073】
なお、原料組成比については、使用した単量体の合計重量を100重量部として換算し、全体の重量バランスとして標記した。
【0074】
〔製造例8〕
[部分変性法(Z1)による変性グリシジルコポリマー(a8)の製造]
製造例4で得られたグリシジルコポリマー(a4)を高分子量体(a4−L)と見なし、これに対する低分子量体(a4−S)を製造し、カルボキシル化合物(C)による部分変性を実施した。
【0075】
すなわち、攪拌機、温度計、還流冷却機および窒素導入管・排気管を備えた4口フラスコに、キシレン66.7部を仕込み、気相部の空気を窒素でパージしながら、攪拌下に、還流温度まで加熱昇温した。次いで、このフラスコ内に、製造例3と同様に、β−メチルグリシジルメタクリレート33部、スチレン30部、メチルメタクリレート30部、ノルマルブチルアクリレート7部、および重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート14部を溶解混合した原料液を、5時間にわたりフィードし、さらにその後100℃で5時間保持し、これらモノマーの共重合を行なった。
【0076】
次いで、このフラスコ中の反応液にキシレン150部を追加し、完全に均質になるまで攪拌した。得られた低分子量のグリシジルコポリマー(a4−S)のキシレン溶液が有するエポキシ当量は、1540g/eq.であった。次いで、このグリシジルコポリマー(a4−S)のキシレン溶液100部を、攪拌機、温度計および還流冷却機を備えた3口フラスコに移し、次いで、飽和脂肪酸であるカプリン酸(デカン酸)8部を投入後、還流温度まで加熱昇温した。その後、1時間保持することにより、公知の酸価測定法により測定される酸価は、ほぼ0mgKOH/gとなり変性を完了した。
【0077】
なお、ここで投入されたカプリン酸の量は、グリシジルコポリマー(a4−S)のキシレン溶液中に存在するβ−メチルグリシジル基量に対し、70モル%に設定されている。このようにして変性されたグリシジルコポリマー(a4−S)のキシレン溶液に対し、上記(a4)の無変性グリシジルコポリマー(a4−Lに相当)50部を投入し、次いで150℃で加熱しつつ、減圧によりキシレンを完全に留去した。
【0078】
上記のようにして、無変性の高分子量体(a4−L)と変性された低分子量体(a4−S)とからなる、溶融状態で完全に一体化されたグリシジルコポリマー(a8)を得た。このコポリマー(a8)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が9040、DSCで測定される実測Tgが46℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が745(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a8)の特性値を表1に示す。
【0079】
なお、原料組成比については、使用した単量体の合計重量を100重量部として換算し、全体の重量バランスとして標記した。また、グリシジルコポリマー(a8)中で使用されたβ−メチルグリシジルメタクリレートの全量のうち、カプリン酸により消費された割合は27モル%であった。
【0080】
〔製造例9〕
[部分変性法(Z1)による変性グリシジルコポリマー(a9)の製造]
製造例5で得られたグリシジルコポリマー(a5)を高分子量体(a5−L)と見なし、これに対する低分子量体(a5−S)を製造し、カルボキシル化合物(C)による部分変性を実施した。
【0081】
すなわち、攪拌機、温度計、還流冷却機および窒素導入管・排気管を備えた4口フラスコに、キシレン70部を仕込み、気相部の空気を窒素でパージしながら、攪拌下に、還流温度まで加熱昇温した。次いで、このフラスコ内に、製造例5と同様に、グリシジルメタクリレート45部、スチレン15部、メチルメタクリレート35部、ノルマルブチルメタクリレート5部および重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート15部を溶解混合した原料液を、5時間にわたりフィードし、さらにその後100℃で5時間保持し、これらモノマーの共重合を行なった。
【0082】
次いで、このフラスコ中の反応液にキシレン200部を追加し、完全に均質になるまで攪拌した。得られた低分子量のグリシジルコポリマー(a5−S)のキシレン溶液が有するエポキシ当量は、1193g/eq.であった。次いで、このグリシジルコポリマー(a5−S)のキシレン溶液100部を、攪拌機、温度計および還流冷却機を備えた3口フラスコに移し、次いで、脂肪族オキシ酸である12−ヒドロキシステアリン酸13部を投入後、還流温度まで加熱昇温した。その後、1時間保持することにより、公知の酸価測定法により測定される酸価は、ほぼ0mgKOH/gとなり変性を完了した。
【0083】
なお、ここで投入された12−ヒドロキシステアリン酸の量は、(a5−S)のキシレン溶液中に存在するグリシジル基量に対し、50モル%に設定されている。このようにして変性された(a5−S)のキシレン溶液に対し、上記(a5)の無変性グリシジルコポリマー(a5−Lに相当)120部を投入し、次いで150℃で加熱しつつ、減圧によりキシレンを完全に留去した。このようにして、無変性の高分子量体(a5―L)と変性された低分子量体(a5−S)とからなる、溶融状態で完全に一体化されたグリシジルコポリマー(a9)を得た。
【0084】
このコポリマー(a9)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が5020、DSCで測定される実測Tgが39℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が398(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a9)の特性値を表1に示す。
【0085】
なお、原料組成比については、使用した単量体の合計重量を100重量部として換算し、全体の重量バランスとして標記した。また、グリシジルコポリマー(a9)中で使用されたグリシジルメタクリレートの全量のうち、12−ヒドロキシステアリン酸により消費された割合は9モル%であった。
【0086】
〔製造例10〕
[部分変性法(Z2)による変性グリシジルコポリマー(a10)の製造]
上記グリシジルコポリマー(a5)を用い、再沈操作による分画、さらに低分子量画分(a5―S)'のカルボキシル化合物(C)による変性を実施した。すなわち、グリシジルコポリマー(a5)100部を良溶媒であるメチルエチルケトン120部に完全に溶解し、この溶液を850部のシクロヘキサン溶液中に投入し、再沈操作を実施した。遠心分離とデカンテーションにより分離・回収された、濾液中に存在する低分子量画分(a5−S)'は、さらに50℃にて、10Torr以下で真空乾燥して溶剤を完全に除去した。
【0087】
上記のようにして得られた低分子量画分(a5−S)'は、常温で粘ちょうな液体であり、収率は9重量%すなわち9部であり、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が1380、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が331(g/eq.)であった。一方、濾過残さは、収率91重量%すなわち91部に相当する高分子量画分(a5−L)'とメチルエチルケトン、シクロヘキサンとからなるケーキ93部として回収された。
【0088】
次いで、低分子量画(a5−S)'9部とアゼライン酸1部とを、攪拌機、温度計、還流冷却機および窒素導入管・排気管を備えた4口フラスコに仕込み、気相の空気を窒素でパージしつつ、150℃まで昇温し、その後30分間溶融混合した。この時点で、公知の酸価測定法により測定される酸価は、ほぼ0mgKOH/gとなり変性を完了した。その後、得られた変性物を、フラスコ外で200メッシュ金属金網を通して加圧濾過した後、再度、フラスコに戻した。
【0089】
なお、ここで使用されたアゼライン酸のカルボキシル基量は、9部の低分子量画分(a5−S)'の中に存在するグリシジル基量に対し、40モル%に設定されている。次いで、フラスコ中でこのようにして変性されたグリシジルコポリマー(a5−S)'の溶融混合物に対し、上記でケーキとして回収され、91部に相当する高分子量画分(a5−L)'を含むケーキ93部およびトルエン200部を追加投入し、攪拌下に140℃まで加熱した後、全ての溶媒を留去した。
【0090】
上記のようにして、無変性の高分子量画分(a5−L)'と変性された低分子量体(a5−S)'とからなる、溶融状態で完全に一体化されたグリシジルコポリマー(a10)を得た。このコポリマー(a10)は、GPCにより、ポリスチレンを標準として測定される重量平均分子量(Mw)が5810、DSCで測定される実測Tgが43℃、過塩素酸滴定法により分析されるエポキシ当量が343(g/eq.)であった。原料組成比および得られたグリシジルコポリマー(a10)の特性値を表1に示す。
【0091】
なお、原料組成比については、使用した単量体の合計重量を100重量部として換算し、全体の重量バランスとして標記した。また、グリシジルコポリマー(a10)中で使用されたグリシジルメタクリレートの全量のうち、アゼライン酸により消費された割合は3.5モル%であった。
【0092】
〔実施例1〕
グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成するグリシジルコポリマーとして、(a1)21部、(a4)25部、(a6)37部、硬化剤として多価カルボキシル化合物(B)のうちドデカン二酸17部(以下、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)と多価カルボキシル化合物(B)の重量合計を100部として記載する。)、さらに、添加剤として、酸化チタン[デュポン社製のタイピュアR−960(商品名)]25部、紫外線吸収剤[商品名チヌビンCGL1545、チバスペシャリティーケミカル社製]2部、ヒンダードアミン系光安定剤[商品名チヌビンCGL052、チバスペシャリティーケミカル社製]1部、ベンゾイン(脱ガス剤)0.5部、および、流動調整剤0.7部の全てを、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)に一括投入し、室温下で3分間ドライ混合し、さらに、1軸押出し混練機(コペリオン社製)により、115℃で溶融混練した。その後、固化、粉砕、分級操作を実施した。
【0093】
上記のようにして得られた塗料組成物の粒度は、(株)島津製作所製SALAD2000により測定され、体積平均粒子径として26μmであった。なお、流動調整剤は、三井化学(株)製の「レジミックスRL−4」(商品名)を使用した。ここで使用した3種類のグリシジルコポリマー(a1)、(a4)、(a6)からなるグリシジル基含有アクリル樹脂(A)の中で、カルボキシル化合物(C)により変性されているグリシジル基が占める割合は、存在する全てのグリシジル基とβ−メチルグリシジル基の総モル量に対し、2モル%に相当する。また、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体は全く使用していないので全使用単量体中の割合は0重量%となっている。また、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)中のグリシジル基およびβ−メチルグリシジル基の総合計量(ep)に対する、硬化剤ドデカンニ酸のカルボキシル基量(ac)の比は、当量比(ac)/(ep)として0.9となっている。これらの設計パラメーターと、得られたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物の特性値を表2に示す。
【0094】
〔実施例2〜4〕
実施例1において、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成するグリシジルコポリマー(a)の組み合わせ、および、当量比(ac)/(ep)を、表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作により、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物を得た。これらの設計パラメーターと、得られた熱硬化性粉体塗料組成物の特性値を表2に示す。
【0095】
〔実施例5〕
グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成するグリシジルコポリマーとして、(a5)41部、(a9)27部、硬化剤として多価カルボキシル化合物(B)のうちドデカン二酸線状ポリ酸無水物[商品名Additol VXL1381、ソルーシア社製]32部、さらに、添加剤として、紫外線吸収剤[商品名チヌビンCGL1545、チバスペシャリティーケミカル社製]2部、ヒンダードアミン系光安定剤[商品名チヌビンCGL052、チバスペシャリティーケミカル社製]1部、ベンゾイン0.5部、流動調整剤0.7部、および、硬化触媒として、テトラブチルホスフォニウムブロマイド0.2部の全てをヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)に一括投入し、室温下で3分間ドライ混合し、さらに、1軸押出し混練機(コペリオン社製)により、70℃で溶融混練した。その後、固化、粉砕、分級操作を実施した。
【0096】
上記のようにして得られた塗料組成物の粒度は、(株)島津製作所製SALAD2000により測定され、体積平均粒子径として23μmであった。なお、流動調整剤は、三井化学(株)製の'レジミックスRL−4'(商品名)を使用した。ここで使用した3種類のグリシジルコポリマー(a5)、(a9)、からなるグリシジル基含有アクリル樹脂(A)の中で、カルボキシル化合物(C)により変性されているグリシジル基が占める割合は、存在する全てのグリシジル基の総モル量に対し、4モル%に相当する。また、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体は全く使用していないので全使用単量体中の割合は0重量%となっている。また、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)中のグリシジル基の総合計量(ep)に対する、ドデカン二酸線状ポリ酸無水物中のカルボキシル基とカルボン酸無水物基の合計量(ac)の比は、当量比(ac)/(ep)として1.0となっている。これらの設計パラメーターと、得られた熱硬化性粉体塗料組成物の特性値を表2に示す。
【0097】
〔実施例6〕
実施例5において、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成するグリシジルコポリマー(a)の組み合わせ、および、当量比(ac)/(ep)を、表2に示すように変更した以外は、実施例5と同様の操作により、アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物を得た。これらの設計パラメーターと、得られた熱硬化性粉体塗料組成物の特性値を表2に示す。
【0098】
〔実施例7〕
グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成するグリシジルコポリマーとして、(a3)42部、(a4)21部、(a8)20部、硬化剤として多価カルボキシル化合物(B)のうちテトラデカン二酸17部、さらに、添加剤として、カーボンブラック[三菱化学(株)製、商品名MA100]3部、紫外線吸収剤[商品名チヌビンCGL1545、チバスペシャリティーケミカル社製]2部、ヒンダードアミン系光安定剤[商品名チヌビンCGL052、チバスペシャリティーケミカル社製]1部、ベンゾイン0.5部、および、流動調整剤0.7部の全てをヘンシェルミキサ−(三井鉱山(株)製)に一括投入し、室温下で3分間ドライ混合し、さらに、1軸押出し混練機(コペリオン社製)により、115℃で溶融混練した。その後、固化、粉砕、分級操作を実施した。
【0099】
上記のようにして得られた塗料組成物の粒度は、(株)島津製作所製SALAD2000により測定され、体積平均粒子径として25μmであった。なお、流動調整剤は、三井化学(株)製の「レジミックスRL−4」(商品名)を使用した。ここで使用した3種類のグリシジルコポリマー(a3)、(a4)、(a8)からなるグリシジル基含有アクリル樹脂(A)の中で、カルボキシル化合物(C)により変性されているβ−メチルグリシジル基が占める割合は、存在する全てのグリシジル基およびβ−メチルグリシジル基の総モル量に対し、6モル%に相当する。また、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体は、使用された全ての単量体の合計中、12重量%となっている。また、グリシジル基含有アクリル樹脂(A)中のグリシジル基およびβ−メチルグリシジル基の総合計量(ep)に対する、テトラデカン二酸中のカルボキシル基の合計量(ac)の比は、当量比(ac)/(ep)として0.8となっている。これらの設計パラメーターと、得られた熱硬化性粉体塗料組成物の特性値を表2に示す。
【0100】
〔比較例1〜4〕
比較例1〜4の熱硬化性粉体塗料組成物の製造要領は、それぞれ、比較例1、2が実施例1に、比較例3が実施例5に、さらに比較例4が実施例7に準拠した。設計パラメーターと、得られた熱硬化性粉体塗料組成物の特性値を表2に示す。
【0101】
実施例1〜7および比較例1〜4で得られた熱硬化性粉体塗料組成物について、ポリエステル系熱硬化性粉体塗料との相溶性を下記の方法に従って評価した。
【0102】
<ポリエステル系熱硬化性粉体塗料との相溶性の評価方法>
アクリル系熱硬化性粉体塗料組成物の「相溶性」の評価は、下記に示した方法で得られた、2種類の典型的なポリエステル系熱硬化性粉体塗料の各々に対し、各例で得られた熱硬化性粉体塗料組成物を0.2重量%相当量を乾式混合し、充分にドライブレンドすることにより行なった。
【0103】
塗装は、電着塗装された0.8mm厚のリン酸亜鉛処理鋼板上に、直接、コロナ帯電で静電塗装することにより行ない、焼付け硬化後の平均膜厚が70μmとなるように塗装した後、170℃、30分間加熱することで塗膜を形成させた。なお、塗装、焼き付けは、いずれも、清浄度(FS209D)クラス10000のクリーンルーム(ホソカワミクロン社製)中で行ない、外気からの異物混入のない、清浄な環境下で実施した。得られた焼付け硬化塗膜上のクレーター数は、目視によりカウントされ、塗膜面1平方メートル当たりに存在するクレーター数として評価した。結果を表3に示す。
【0104】
<ポリエステル系熱硬化性粉体塗料の調製>
(1)ポリエステル−TGIC系粉体塗料組成物ポリエステル樹脂[商品名Albester5140、イーストマン社製、酸価35mgKOH/g]94重量部、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)6重量部、酸化チタン40重量部[デュポン社製、商品名タイピュアR−960]、「レジミックスRL−4」[商品名;三井化学(株)製]0.7重量部、ベンゾイン0.5重量部の全てをヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)に一括投入し、室温下で3分間ドライ混合し、さらに、1軸押出し混練機(コペリオン社製)により、120℃で溶融混練した。その後、固化、粉砕、分級操作を実施した。
上記のようにして得られたポリエステル系熱硬化性塗料組成物の粒度は、(株)島津製作所製SALAD2000により測定され、体積平均粒子径として27μmであった。
【0105】
(2)ポリエステル−Primid系塗料塗料組成物
ポリエステル樹脂[商品名Albester5160、イーストマン社製、酸価36mgKOH/g]94.5重量部、「PrimidXL−552」[商品名EMS社製、OH当量84g/eq.]5.5重量部、酸化チタン40重量部[デュポン社製、商品名タイピュアR−960]、「レジミックスRL−4」[商品名三井化学(株)製]0.7重量部、ベンゾイン0.5重量部の全てをヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)に一括投入し、室温下で3分間ドライ混合し、さらに、1軸押出し混練機(コペリオン社製)により、120℃で溶融混練した。その後、固化、粉砕、分級操作を実施した。
【0106】
上記のようにして得られたポリエステル系熱硬化性塗料組成物の粒度は、(株)島津製作所製SALAD2000により測定され、体積平均粒子径として25μmであった。また、得られたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物の硬化塗膜を下記の方法に従って評価した。
【0107】
すなわち、実施例および比較例でアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物のいずれも、下塗塗装された鋼板上に、コロナ帯電で静電塗装し、焼付け硬化後の平均膜厚が70μmとなるように塗装した後、160℃で30分間加熱し塗膜を硬化させて、その硬化塗膜の評価を行なった。なお、下塗り塗装された鋼板は、電着塗装された0.8mm厚のリン酸亜鉛処理鋼板上に、ポリエステル−メラミン硬化型の溶剤系黒色塗料を20μm膜厚となるよう塗装し、170℃で30分間焼付けして調製した。
【0108】
上記のようにして得られたアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物からなる硬化塗膜の評価結果を表3に示す。ここで使用した各種評価方法については、以下の通りである。
(1)光沢値BYKガードナー社製の光沢計により、60度光沢値を測定した。
(2)鉛筆硬度鉛筆引っ掻き試験(日本工業規格JISK5400の6.14に準拠)により評価した。
(3)耐酸性10容積%の硫酸を、塗膜表面に1ml滴下し、室温にて1日放置した。その後、硫酸滴を拭き取り、塗膜の外観を肉眼で観察し、下記評価基準に従って判定した。
【0109】
<評価基準>
◎:痕跡なし
○:軽微な痕跡あり
×:明確な痕跡あり
【0110】
(4)耐溶剤性キシレンを含浸させたガーゼで塗膜表面を往復50回擦った後、塗膜表面を観察して、下記評価基準で判定した。
【0111】
<評価基準>
◎:痕跡なし
○:軽微な痕跡あり
×:明確な痕跡あり
【0112】
【表1】
【表2】
【表3】
Claims (2)
- 予めグリシジルメタクリレートおよび/またはβ−メチルグリシジルメタクリレートと、他のエチレン性不飽和単量体とを共重合させて得られる、少なくとも1種類のグリシジルコポリマー(a)を、
炭素数1〜20のCH 3 -( CH 2 ) m - COOH(m=0〜18)の構造を有する脂肪酸類
(c1)、
炭素数2〜20の脂肪族オキシ酸類(c2)および
炭素数4〜20の直鎖状脂肪族二塩基酸もしくは該直鎖状脂肪族二塩基酸の脱水縮合物(c3)からなる群から選ばれる少なくとも1種類のカルボキシル化合物(C)で変性した変性物からなる、無変性のグリシジルコポリマー(a)を含んでいてもよいグリシジル基含有アクリル樹脂(A)と、
硬化剤成分としての多価カルボキシル化合物(B)とを含有してなり、かつ、
該グリシジル基含有アクリル樹脂(A)を構成する全てのグリシジルコポリマー(a)が、変性前に有していたグリシジル基および/またはβ−メチルグリシジル基の総モル量に対して、2〜10モル%の変性率で予め変性されていることを特徴とするアクリル系熱硬化性粉体塗料組成物。 - 前記カルボキシル化合物(C)として用いられる炭素数4〜20の直鎖状脂肪族二塩基酸もしくは該直鎖状脂肪族二塩基酸の脱水縮合物(c3)が、硬化剤として使用される多価カルボキシル化合物(B)とは異なる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
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