JP4184755B2 - 一方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として変圧器その他の電気機器等の鉄心として利用される方向性電磁鋼板に関するものである。特に、脱炭焼鈍の昇温速度およびその雰囲気を制御することにより優れた皮膜特性と高磁場鉄損特性を有する極めて高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板が提供される。
【0002】
【従来の技術】
多くの電気機器に磁気鉄心として用いられる方向性電磁鋼板は、通常Siを2〜7%含有し、製品の結晶組織を{110}<001>方位に高度に集積させた鋼板である。方向性電磁鋼板の製品特性は鉄損特性と励磁特性の両方で評価される。鉄損を少なくすることは、電気機器として使用する際に熱エネルギーとして奪われる損失を少なくするため、省エネルギーの点で有効である。
【0003】
一方、励磁特性を高めることは電気機器の設計磁束密度を高めることが可能となり機器の小型化に有効である。製品の結晶組織を{110}<001>方位に集積することは、励磁特性を高め鉄損低減にも有効であるため、近年多くの研究が重ねられ、様々な製造技術が開発されてきた。
【0004】
磁束密度向上のための典型的な技術の一つに、特許文献1に開示されている製造方法が挙げられる。これは、AlNとMnSをインヒビターとして機能させ、最終冷延工程における圧下率を80%を超える強圧下とする製造方法である。この方法により、{110}<001>方位に結晶粒の方位が集積し、B8 (800A/mにおける磁束密度)が1.870T以上の高磁束密度を有する方向性電磁鋼板が得られる。
【0005】
【特許文献1】
特公昭40−15644号公報
【0006】
さらに磁束密度を向上させる技術として、特許文献2では、溶鋼に100〜5000g/tのBiを添加する方法が開示され、B8 が1.95T以上の製品が得られるようになった。
【0007】
【特許文献2】
特開平6−88171号公報
【0008】
さらに、特許文献3には、素材の組成成分にBiを0.0005〜0.05%を含有させ脱炭焼鈍する前に100℃/秒以上の加熱速度で700℃以上の温度域へ急速に加熱する方法が開示され、これによりコイル全長、全幅にわたり二次再結晶を安定化させ、コイル内全ての個所において工業的に安定してB8 が1.95T以上得られるようになった。
【0009】
【特許文献3】
特開平8−188824公報
【0010】
一方、鉄損低減の方法として、特許文献4には、鋼板にレーザー処理を施す方法、さらに特許文献5には、鋼板に機械的な歪を導入する方法等、磁区を細分化する様々な方法が開示されている。一般的に方向性電磁鋼板の鉄損はJIS C2553でW17/50 (B8 1.7T、50Hzの励磁条件下でのエネルギー損失)で評価され、グレード分けされているが、近年では、トランスの小型化を図るために、励磁磁束密度を1.7T以上とする場合や1.7Tであってもトランスの鉄心の局部的には1.7T以上の磁束密度となることが明らかとなっており、高磁場(例えばW19/50 )での鉄損が少ない鋼板が求められている。
【0011】
【特許文献4】
特公昭57−2252号公報
【特許文献5】
特公昭58−2569号公報
【0012】
高磁場鉄損の優れた方向性電磁鋼板として、特許文献6に、鋼板の結晶方位を{110}<001>の理想方位に対して、平均値で5度以下のずれとし、鋼板の180℃磁区幅の平均が0.26超〜0.30mm以下、または、鋼板の磁区幅の0.4mm超の面積率を3%超〜20%以下とするものが開示されている。その製造方法として、特許文献7に脱炭焼鈍する直前に、100℃/s以上の加熱速度で800℃以上の温度に加熱処理する方法が開示されている。しかし、得られた高磁場鉄損は最も低いもので、W19/50 =1.13W/kgであり更なる高磁場低鉄損を有する方向性電磁鋼板が望まれている。
【0013】
【特許文献6】
特開2000−345306号公報
【特許文献7】
特開2000−345305号公報
【0014】
ここで一方向性電磁鋼板の表面に形成される電気的に絶縁性を有する被膜について説明する。かかる被膜は絶縁性を保持する役割のほか、鋼板に比較して熱膨張係数が小さいため鋼板に引っ張り応力を付与し鉄損低減させる役割も担っている。また、良好な絶縁被膜はトランス製造工程においても重要であり、特に巻きトランスの場合は方向性電磁鋼板に曲げ加工が加えられるため、被膜が剥離することがある。従って、被膜には優れた被膜密着性も要求される。
【0015】
特許文献8には、脱炭焼鈍仕上焼鈍後にMgOを主成分とする焼鈍分離剤の塗布量を5g/m2 以上とする方法、特許文献9にはIg−loss値を0.4〜1.5%とする方法やMgOの添加物として、特許文献10では、SnO2 ,Fe2 O3 ,Fe3 O4 ,MoO3 を0〜15重量部添加し、さらにTiO2 を1.0〜15重量部添加する方法が開示されている。
【0016】
【特許文献8】
特開平8−253819号公報
【特許文献9】
特開平10−25516号公報
【特許文献10】
特開2000−96149号公報
【0017】
しかし、鋼中にBiを含有する場合には,上述した方法により均一に一次被膜を形成させることは困難であり、さらに被膜張力を有する絶縁皮膜を塗布した場合に密着性が劣化する問題があり、工業的に安定生産するに至っていない。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
以上の従来の製造方法では、極めて鉄損が優れ、かつB8 ≧1.94Tの極めて高い磁束密度を有する方向性電磁鋼板において、高磁場特性に優れ且つ密着性が良好な一次被膜を安定して得ることが困難であった。すなわち本発明は、従来の方向性電磁鋼板にも増して高磁場特性と被膜密着性とに優れた方向性電磁鋼板を提供しようとするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するため、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 質量で、Si:2〜7%を必須成分として含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる一方向性電磁鋼板であって、最終仕上焼鈍後の地鉄にBiを含まず、最終仕上焼鈍後の地鉄と一次被膜界面のBi濃度が質量で0.08ppm 以上420ppm 以下存在することにより、W17/50 (B8:1.7T、50Hzの励磁条件下でのエネルギー損失)に対するW19/50 (B8:1.9T、50Hzの励磁条件下でのエネルギー損失)比率W19/50 /W17/50 <1.8で、かつ、20mm径の曲率曲げに際し被膜剥離の生じる割合(%)が25%未満であることを特徴とする一方向性電磁鋼板。
ここで、地鉄と一次被膜界面のBi濃度とは、二次イオン質量分析法による測定においてバルクのFeの二次イオン強度が50%となるスパッタ時間でのBi+ 二次イオン強度を濃度に換算した値をいう。
(2) 質量で、Si:2〜7%を必須成分として含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる一方向性電磁鋼板であって、地鉄と一次被膜界面のBi濃度が質量で0.1ppm 以上100ppm 未満存在することを特徴とする前記(1)記載の一方向性電磁鋼板。
【0020】
(3) 磁束密度B8 が1.94T以上の極めて高い値を有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の一方向性電磁鋼板。
(4) 磁区制御後にW19/50 /W17/50 <1.6となる極めて高磁場での劣化率の少ないことを特徴とする前記(1)乃至(3)の何れか1項に記載の一方向性電磁鋼板。
(5) 磁区制御後にW19/50 ≦1.2W/kgとなる極めて高磁場での鉄損に優れる前記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の一方向性電磁鋼板。
【0021】
【発明の実施の形態】
次に本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、高磁場鉄損に優れ、一次被膜密着性の良好な一方向性電磁鋼板を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、鋼中にBiを含有させて、一次被膜形成と{110}<001>方位を発現させる二次再結晶焼鈍中に、一次被膜と地鉄界面中のBi濃度を制御することが極めて重要であることを見出した。
【0022】
そこで、本発明者らは、超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法を種々変更した結果、鋼中にBiを含有させ一次再結晶焼鈍ないし脱炭焼鈍の昇温速度を100℃/秒以上とする場合に昇温時の雰囲気とそれに引き続く均熱条件を種々変更し、最終仕上焼鈍を施した後の製品の磁気特性及び被膜密着性の関係を調査した結果、製品に優れた両特性をもたらすグラス被膜構造は従来の一方向性電磁鋼板と異なる特徴を有していることを見出した。すなわち、地鉄と一次被膜界面に微量に存在するBiと高磁場鉄損及び二次被膜密着性には密接な関係が存在する。
【0023】
まず、Biの分析方法について説明する。地鉄と一次被膜界面に微量に存在するBiは、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により検出および定量化することが可能である。
【0024】
SIMSの測定法について以下に詳細に説明する。SIMSにより一次被膜中および地鉄と一次皮膜の界面近傍におけるBiを分析する場合、Fe,MgおよびSiなどからなる分子イオンの妨害を除去することが必要である。質量分解能が500以上となる条件で測定することによりBiと妨害イオンの質量分離が可能であり、好ましくは質量分解能を1000以上となる条件で測定する。そのため質量分解能の高い二重集束型質量分析器を有するSIMSが好適に用いられる。一次イオンビームとして16O2 + イオンビームを用いる場合はBi+ 二次イオンを検出し、Cs+ イオンビームを用いる場合はBi- あるいはCsBi+ 二次イオンを測定することにより、微量なBiを高感度に検出することが可能となる。測定する深さおよびBi濃度から、一次イオンビームの種類、エネルギー、照射面積、および電流量を決定する。
【0025】
次に、Biの定量法について以下に詳細に説明する。SIMS測定により得られるBi二次イオン強度からBiの濃度を求める方法として、Siウエハ中のBの定量法を規定したISO 14237と同様の手法を用る。標準試料は、Bi無添加材の表面を地鉄と一次被膜の界面から約10μmの厚さほど地鉄を研磨して鏡面仕上げした鋼板に、既知のエネルギーでBiを所定の照射量ほどイオン注入して作製する。また、Biの相対感度係数を算出するためのマトリックス強度は、一次被膜をスパッタリングした後の地鉄中で測定する。28Si2 分子イオンによる妨害を除去するため、16O2 + 一次イオンビームを用いて正の二次イオンを検出する場合は54Fe+ 二次イオン強度をマトリックス強度として用い、Cs+ 一次イオンビームを用いて負の二次イオンを検出する場合は54Fe- 二次イオン強度を、正の二次イオンを検出する場合は54Fe+ 二次イオン強度を用いる。
【0026】
一次被膜中と地鉄中ではBiの二次イオン化率、スパッタレートおよび相対感度係数などは異なり、また一次被膜厚さの不均一性および地鉄と一次被膜の界面が平坦でないなどの理由により、一次被膜表面から地鉄内部にわたるBiの濃度分布を厳密に求めることは極めて困難であるが、上記標準試料の地鉄内部におけるBiの相対感度係数を用いて、一次被膜から地鉄内部にわたるBi二次イオン強度分布を見かけのBi濃度分布に換算することが可能である。本発明では、上記見かけのBi濃度をBi濃度として定義する。
【0027】
図1に板厚0.23mmの方向性電磁鋼板の最終仕上焼鈍後、すなわち絶縁皮膜コーティングを施す前の鋼板、もしくは絶縁コーティングを除去した鋼板の、二次イオン質量分析法(SIMS)によるBi+ プロファイルの概念図を示す。
図1において、Feの二次イオン強度がバルクより少ない側(鋼板表層側)でBi濃度はピーク値を取る。一次被膜と地鉄は入り組んだ構造をしているため、Feのプロファイルは表層から徐々に立ちあがった後一定値をとる。
本発明では、このバルクのFeの二次イオン強度が50%となるスパッタ時間でのBi+ 二次イオン強度が検出(カウント)された場合を、一次被膜と地鉄界面にBiが存在することと定義する。さらに定量化する場合、本発明では、このバルクのFeの二次イオン強度が50%となるスパッタ時間でのBi+ 二次イオン強度から換算したBi濃度を一次被膜と地鉄界面のBi濃度と定義する。
【0028】
以上のようにして得られた地鉄と表層被膜の界面に存在するBi濃度は製造方法により変化しうる。
そこで、0.23mm厚の方向性電磁鋼板につき、この地鉄と一次被膜界面に存在するBi濃度、W17/50 、W19/50 及び被膜密着性を測定した。鉄損はレーザーによる磁区細分化処理後で評価し、被膜密着性は、20mm径の曲率曲げに際し被膜剥離の生じない割合(%)で評価した。図2に地鉄と一次被膜界面のBi濃度と鋼板のW17/50 ,W19/50 ,被膜の密着性との関係を示す。Bi濃度が0.08ppm 以上でW19/50 <1.2W/kgと良好な高磁場鉄損が得られ、420ppm 以下では一次被膜剥離が生じにくくなり、被膜密着性が改善されていることを示す。さらには、0.1ppm 〜100ppm では、特に良好な高磁場鉄損が得られ、被膜密着性も良好であることが判明した。
【0029】
図3に地鉄と一次被膜界面のBi濃度とW19/50 /W17/50 との関係を調査した結果を示す。W19/50 /W17/50 はW17/50 に対するW19/50 の劣化の程度を表す。図3より明らかなように、地鉄と一次被膜界面のBi濃度が0.08ppm 以上420ppm 以下の範囲で、劣化率が1.6より小さいことが判明した。さらには、0.1ppm 〜100ppm で特に劣化率が小さい。
【0030】
地鉄と一次被膜界面に存在するBi濃度と高磁場鉄損及びグラス被膜密着性の間に上記のような相関が存在する理由は定かではないが以下のように考えられる。
MgO塗布後に引き続き施される仕上焼鈍工程の役割は、一次被膜形成、二次再結晶発現と鋼中の不純物を除去する純化焼鈍である。
一次被膜は脱炭焼鈍において鋼板表面に形成されたSiO2 が、その後に塗布された焼鈍分離剤と最終仕上焼鈍工程において反応して得られる。一般的に焼鈍分離剤はMgOを主成分としたものが用いられ、SiO2 と反応してMg2 SiO4 となる。
【0031】
この際、一次被膜と鋼板との密着性はその界面構造によって決定されると考えられ、一次被膜と鋼板界面が入り組んだ構造となっている場合には、一次密着性は良好となる。一方で、一次被膜と地鉄の界面が入り組みすぎると、この入り組んだ界面構造によるアンカー効果のために被膜密着性は良好となるが、従来品ではこの一次被膜アンカーの深さは問題ではなかったが、超高磁束密度材である本発明の一方向性電磁鋼板では極めて重要な影響を及ぼし、特に高磁場での鉄損を劣化させる。従って、高磁場鉄損を良好とし、密着性を確保するためには、一次被膜と地鉄界面の構造を最適化する必要がある。この界面の構造に、一次被膜と地鉄の界面に存在する微量Biが重要な役割を果たす。
【0032】
Biは高磁束密度化するのに必須な元素であるが、製品の地鉄中に残存すると磁気特性を劣化させるため、二次再結晶発現後、すなわち一次被膜形成過程あるいは形成後に鋼中からガス状あるいは化合物として除去を行う。この時、Biは地鉄中から一次被膜と地鉄の界面を通過して除去されるが、一次被膜と地鉄の界面に所定以上のBiが濃化すると、Biが一次被膜と低融点化合物を形成するために一次被膜と地鉄界面の構造が平滑化して、界面での磁壁のピンニングがなくなり、高磁場鉄損が良好となると推定される。
【0033】
界面に存在するBi量をある程度確保するためには、脱Biが生じる前あるいは脱Biが生じている間でBiの拡散を抑制するために、界面を入り組まない構造にすることが重要であると考えられる。地鉄と一次被膜の界面が入り組んだ構造の場合は、拡散界面の面積が多くなるため、脱Biサイトが増えて脱Biが促進される。その結果、界面のBi濃度が低下するため界面は入り組んだ構造のままとなる。一方で、界面の面積が狭くBiが濃化しすぎると、地鉄と一次被膜界面が平滑化しすぎて、一次被膜と地鉄間のアンカー効果が消失し、被膜密着性が劣化する。さらには皮膜張力が低減するために、張力による鉄損低減効果が薄れ、磁気特性も劣化すると考えられる。
【0034】
この考えに基づき本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、脱Bi時の一次皮膜と地鉄との界面構造を変えるためには、脱炭焼鈍における初期酸化膜形成状態を制御して一次被膜と地鉄界面のBi濃度を最適化することが有効であることを見出した。
【0035】
本発明者らは、100℃/秒以上の急速に加熱したときに表層部に生じるSiO2 を主体とする初期酸化層は加熱時あるいは加熱直後の雰囲気条件と加熱直後の均熱時間に大きく依存し、引き続く脱炭焼鈍での内部酸化層構造およびMgO塗布後の仕上焼鈍での一次被膜構造に大きく影響することを見出した。さらにこの一次被膜構造が、1000℃以上の高温から始まる脱Bi挙動に影響を及ぼし、一次被膜と地鉄の界面構造を最適化することを見出した。
【0036】
本発明の製品の良好な一次被膜特性は、脱炭焼鈍の昇温速度を100℃/秒とし、かつ昇温及びそれに引き続く均熱初期の雰囲気を制御することにより得られたものである。脱炭焼鈍の昇温速度を従来に比較して、100℃/秒以上に急速に加熱したときに生じる酸化膜は、特開2000−204450号公報段落〔0035〕に記載されるように、昇温過程の雰囲気が殆どの場合、平衡論的には有害なFeO生成領域にあるにも関わらず、これらのFe系の酸化物を殆ど形成せず、SiO2 を主体とする酸化層となり、非平衡論的側面が極めて強いことが開示されている。
【0037】
本発明者らは、さらに調査を行った結果、Biを添加した場合は、急速に昇温した後で脱炭焼鈍前に適度に均熱した方が良好な一次被膜が得られることを見出した。急速に昇温した場合はSiO2 を主体とする酸化層が形成されるが、加熱直後に保持する均熱条件により、SiO2 量が変化する。このSiO2 量は表層部のSiO2 の被覆率を表していると推定され、均熱時間が長すぎたりP H2 O が高すぎるとSiO2 被覆率が多すぎ、内部酸化層が深くなりすぎる傾向にあり、脱Biが促進され内部酸化層構造が入り組みすぎた構造となり、磁束密度が低下し、高磁場鉄損を劣化させる。
【0038】
一方で、均熱時間が少ない場合や、P H2 O が低い場合は、この被覆率が少なく、通常の脱炭焼鈍で得られる内部酸化膜と大差ないものとなり、その後の仕上焼鈍中で一次被膜と地鉄界面が入り組まず、脱Biが促進されずに界面にBiが濃化して、一次被膜密着性を劣化させる。従って、均熱時間やP H2 O を制御することにより初期酸化膜であるSiO2 被覆率を適正化することが重要であることが明らかとなった。
【0039】
次に本発明の成分条件について説明する。
Siは鋼の電気抵抗を高めて鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減するのに極めて有効な元素であるが、2%未満では製品の渦電流損失を抑制できない。また、7.0%を超えた場合では、加工性が著しく劣化して常温での冷延が困難になるので好ましくない。
【0040】
次に本発明の鋼板製造に際し、一次被膜安定製造と鉄損改善の方法について説明する。
本発明の鋼板製造に際し、さらに以下の成分を含有させることができる。
Cは0.03%未満では、熱延に先立つスラブ加熱時において結晶粒が異常粒成長し、製品において線状細粒と呼ばれる二次再結晶不良を起こすので好ましくない。一方、0.15%を超えた場合では、冷延後の脱炭焼鈍において脱炭時間が長時間必要となり経済的でないばかりでなく、脱炭が不完全となりやすく、製品での磁気時効と呼ばれる磁性不良を起こすので好ましくない。
【0041】
Mnは二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれるMnS及び、またはMnSeを形成する重要な元素である。0.02%未満では、二次再結晶を生じさせるのに必要なMnS,MnSeの絶対量が不足するので好ましくない。また、0.3%を超えた場合は、スラブ加熱時の固溶が困難になるばかりでなく、熱延時の析出サイズが粗大化しやすくインヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれて好ましくない。
【0042】
S及び、またはSeは上述したMnとMnSおよび、またはMnSeを形成する重要な元素である。上記範囲を逸脱すると充分なインヒビター効果が得られないので0.001〜0.040%にするのが良い。
【0043】
酸可溶性Alは、高磁束密度一方向性電磁鋼板のための主要インヒビター構成元素であり、0.010%未満では、量的に不足してインヒビター強度が不足するので好ましくない。一方0.065%を超えるとインヒビターとして析出させるAlNが粗大化し、結果としてインヒビター強度を低下させるので好ましくない。
【0044】
Nは上述した酸可溶性AlとAlNを形成する重要な元素である。上記範囲を逸脱すると充分なインヒビター効果が得られないので、0.0030〜0.0150%にするのが好ましい。
【0045】
さらに、Snについては薄手製品の二次再結晶を安定して得る元素として有効であり、また二次再結晶粒径を小さくする作用もあるため、添加しても良い。この効果を得るためには、0.05%以上の添加が必要であり、0.50%を超えた場合にはその作用が飽和するのでコストアップの点から0.50%以下にするのがよい。
【0046】
CuについてはSn添加鋼の一次被膜形成安定化元素として有効である。0.01%未満では効果が少なく、0.40%を超えると製品の磁束密度が低下するので好ましくない。
【0047】
Sbおよび、またはMoについては薄手製品の二次再結晶を安定して得る元素として有効であるため、添加しても良い。この場合、この効果を得るためには、0.0030%以上の添加が必要であり、0.30%を超えた場合にはその作用が飽和するのでコストアップの点から0.30%以下にする。
【0048】
Biは本発明であるB8 ≧1.94Tの超高磁束密度一方向性電磁鋼板の安定製造において、そのスラブ中に必須含有の元素であり、磁束密度向上効果を有する。0.0005%未満ではその効果が充分に得られず、また0.05%を超えた場合は磁束密度向上効果が飽和するだけでなく、熱延コイルの端部に割れが発生するので好ましくない。
【0049】
成分を調整した超高磁束密度方向性電磁鋼板製造用溶鋼は、通常の方法で鋳造する。次いで通常の熱間圧延によって熱延コイルに圧延される。
【0050】
引き続いて、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数回の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数回の冷延によって製品板厚に仕上げるわけであるが、仕上げ冷延前の焼鈍では結晶組織の均質化と、AlNの析出制御を行う。
【0051】
以上最終製品厚まで圧延されたストリップに、脱炭焼鈍を施す。
最終板厚まで冷延された鋼板を脱炭焼鈍する前に、700℃以上の温度域へ100℃/s以上の加熱速度により加熱したのち700℃以上の均熱時間を1〜20秒間とし、かつこの温度域の雰囲気構成成分をH2 Oと不活性ガス、もしくはH2 OとH2 、H2 Oと不活性ガスとH2 とし、かつH2 O分圧が10-4〜6×10-1とする。
【0052】
この加熱速度については、初期酸化膜形成に重要な20〜700℃以上の最高到達温度までの平均加熱速度を示すが、特に300℃〜700℃までの加熱速度が重要であり、この部分の平均加熱速度が100℃/sより遅いと、一次被膜密着性が劣化する。最高到達温度は700℃以下ではSiO2 層が形成されないため700℃を下限とする。このような、高い昇温速度を達成するためには、加熱方法として、誘導加熱や通電加熱を採用するのがよい。
【0053】
急速昇温された直後で脱炭焼鈍前に行われる均熱において述べる。均熱温度が700℃以下の場合、適性なSiO2 が形成されないため、均熱温度は700℃以上とする。均熱時間が20秒を超える場合やH2 O分圧が6×10-1を超えると、SiO2 量が十分確保されるが、脱Biが促進されすぎ一次地被膜と地鉄の界面構造が複雑となり、高磁場鉄損が劣化する。一方で、均熱時間が1秒未満のときや、H2 O分圧が10-4未満の場合は、適性なSiO2 量が確保できないために、脱Biが促進されずに界面にBiが濃化し過ぎ、被膜密着性を劣化させる。また、この雰囲気は昇温とそれに引き続く均熱において上記範囲内であれば、変えても構わない。
【0054】
次に脱炭焼鈍を行うが、上記加熱処理を昇温に組み込んでも構わない。
上記均熱後に引き続く脱炭焼鈍の雰囲気は通常と同様である。すなわち、H2 とH2 OもしくはH2 とH2 Oと不活性ガスの混合雰囲気とし、P H2 O /P H2 を0.15から0.65の範囲とする。尚、脱炭焼鈍後の残留炭素量は、通常の場合と同様に50ppm 以下とする必要がある。AlNのみをインヒビターとして用いる場合には、脱炭焼鈍後にアンモニア含有雰囲気中で焼鈍することにより鋼板を窒化し、この段階でインヒビター形成を行ってもよい。
【0055】
脱炭焼鈍後、鋼板にMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布乾燥するが、この際MgO中にTiO2を1〜40%程度添加しても良く、好ましくは塗布量を片面あたり5g/m2 以上とする。
【0056】
さらに、一次被膜形成、二次再結晶、純化を目的として1100℃以上の最終仕上焼鈍を行う。多くの場合、最終仕上焼鈍後、一次被膜の上にさらに絶縁皮膜を施す。特に燐酸塩とコロイダルシリカを主体とするコーティング液を焼き付けることによって得られる絶縁被膜は、鋼板に対する付与張力が大きく、更なる鉄損改善に有効である。
さらに、上記一方向性電磁鋼板に、レーザー照射、プラズマ照射、歯型ロールやエッチングによる溝加工等のいわゆる磁区細分化処理を施しても構わない。
【0057】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す化学成分系を含み2.3mm厚にまで熱間圧延させて熱延板に1100℃で1分間焼鈍を施した。この後、冷間圧延により最終板厚0.22mmにまで圧延した。
さらに、得られたストリップを脱炭焼鈍する際、昇温及び均熱段階で雰囲気は表2に示す条件でそれぞれ実施した。この時の加熱速度は表2に示す条件で850℃まで昇温した後、引き続き850℃で均熱処理を行った。
この後、840℃の均一温度、湿潤水素中で脱炭焼鈍し、MgOを主成分とした焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃に20時間、水素ガス雰囲気中で高温焼鈍を行った。得られた鋼板の余剰MgOを除去し、形成されたフォルステライト被膜上にコロイダルシリカと燐酸塩を主体とする絶縁皮膜を形成し、製品とした。
【0058】
SIMS測定は、CAMECA社製imsを用いた。測定は、加速電圧8kVで照射電流110nAの16O2 + 一次イオンビームを125μm四方の領域に照射し、質量分解能が約2000となる条件で行った。
得られた諸特性を表2に示した。本発明条件を満足するコイルE〜Jは、被膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板となっている。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
(実施例2)
実施例1で被膜密着性が良好であった、F,H,Gに5mmピッチでレーザーを照射した。その結果を表3に示す。
表3で明らかなように、本発明材は磁束密度が極めて高いために、磁区細分化により、従来法では得られないような鉄損特性を得ることができた。
【0062】
【表3】
【0063】
【発明の効果】
本発明により、高磁場鉄損と被膜特性優れ、かつ磁気特性の極めて良好な方向性電磁鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】方向性電磁鋼板の二次イオン質量分析法(SIMS)におけるFeとBiのプロファイルの概念図。
【図2】地鉄−一次被膜界面のBi濃度と被膜剥離の発生しない比率とW17/50 とW19/50 との関係を示す図。
【図3】地鉄−一次被膜界面のBi濃度とW19/50 /W17/50 との関係を示す図。
Claims (5)
- 質量で、Si:2〜7%を必須成分として含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる一方向性電磁鋼板であって、最終仕上焼鈍後の地鉄にBiを含まず、最終仕上焼鈍後の地鉄と一次被膜界面のBi濃度が質量で0.08ppm 以上420ppm 以下存在することにより、W17/50 (B8 :1.7T、50Hzの励磁条件下でのエネルギー損失)に対するW19/50 (B8 :1.9T、50Hzの励磁条件下でのエネルギー損失)比率W19/50 /W17/50 <1.8で、かつ、20mm径の曲率曲げに際し被膜剥離の生じる割合(%)が25%未満であることを特徴とする一方向性電磁鋼板。
ここで、地鉄と一次被膜界面のBi濃度とは、二次イオン質量分析法による測定においてバルクのFeの二次イオン強度が50%となるスパッタ時間でのBi+ 二次イオン強度を濃度に換算した値をいう。 - 質量で、Si:2〜7%を必須成分として含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる一方向性電磁鋼板であって、地鉄と一次被膜界面のBi濃度が質量で0.1ppm 以上100ppm 未満存在することを特徴とする請求項1記載の一方向性電磁鋼板。
- 磁束密度B8 が1.94T以上の極めて高い値を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の一方向性電磁鋼板。
- 磁区制御後にW19/50 /W17/50 <1.6となる極めて高磁場での劣化率の少ないことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の一方向性電磁鋼板。
- 磁区制御後にW19/50 ≦1.2W/kgとなる極めて高磁場での鉄損に優れる請求項1乃至4の何れか1項に記載の一方向性電磁鋼板。
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