JP4153238B2 - 電気化学的酸素ポンプセルおよびそれを用いた窒素酸化物検知装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は雰囲気中の処理対象とするガス状物質を電気化学的に酸化あるいは還元する電気化学的酸素ポンプセル、およびそれを用いた窒素酸化物検知装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車の排気ガス中の特定ガス、例えばHC(炭化水素ガス)、CO、NOxなどを他ガスの存在に影響されずに測定することが大きく望まれている。このような要望に応じて、特定のガスのみに感度を有する、いわゆるガス選択性の高い検知装置が固体電解質基板を用いた電気化学センサとして活発に提案されている。本発明者においても、特開平9−274011号公報に示されるように、酸素イオン伝導体であるジルコニア固体電解質を用いた高温作動型の混成電位式NOxセンサを既に提案している。
【0003】
このNOxセンサは、ジルコニア固体電解質基板上にPt等の貴金属からなる集電体とNOx検知極を設け、この検知極の反対面あるいは同一面のジルコニア固体電解質上に参照極(あるいは対極)を設けた構造である。この検知極は勿論測定ガス中に曝されるが、参照極も同時に測定ガス中に曝すことができる。このNOxセンサにおいて、検知極と参照極との間の電位差を測定することにより、測定ガス中のNOx濃度を検知することができる。
すなわち、混成電位式センサにおいては、NOx検知極はNOxと酸素とに活性であり、参照極は酸素にのみ活性であることから、両電極間の化学ポテンシャルの差に起因した出力が得られる。逆に参照極がNOxにも活性である場合には、測定ガスから隔離してしまえば、同様なNOx感度が得られることは周知のとおりである。
【0004】
この混成電位式NOxセンサは、検知極において(1)と(2)式の2つの反応がNOガス検知時に起こることが必要である。一方、NO2ガス検知時には(3)と(4)式が同時に生じなければならない。そのため、NOガス検知とNO2ガス検知とでは、センサ出力はお互いに逆極性となる。車の排気ガス中の総NOx濃度を検知する場合にはNOとNO2が混在するため、相互干渉を起こしこのままでは総NOx濃度は検知できない。そのため、特開平9−274011号公報に示す積層型の総NOxセンサが提案されている。
【0005】
O2 + 4e- → 2O2- …………………………………… (1)
2NO + 2O2- → 2NO2 + 4e- ……………… (2)
2O2- → O2 + 4e- …………………………………… (3)
2NO2 + 4e- → 2NO + 2O2- ……………… (4)
【0006】
この積層型総NOxセンサの原理は、電気化学的酸素ポンプを用いて大気中より酸素をガス検知室に導入し、測定ガス中のHC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)などの還元性ガスを酸化し無害化し、さらにNOx中のNOを電気化学的にNO2化し、結局NOxをNO2の単ガスに変換する。この単ガス化されたNO2を混成電位に基づくNOx検知極および参照極間の電位差により総NOx濃度として検知できるものである。
【0007】
この混成電位式NOxセンサにおいて、センサ特性を大きく支配するのは雰囲気中のNOx(通常雰囲気あるいは排ガス中においては、NOとNO2の共存ガス)をNOあるいはNO2の単ガスに変換する電気化学的な酸素ポンプセルである。すなわち、先述のNOxセンサにおいて内部空間(ガス測定室)に流入してきたNOx(NOとNO2の共存ガス)をNOあるいはNO2に変換する効率が高いほどセンサ出力は高濃度域まで検知することができる。また、この変換効率が高ければ、低濃度域の検知も精度が高くなる。
今後、世界的に排ガス規制値が厳しくなっていくことは明らかであり、自動車エンジンの排ガス後処理システム等におけるNOx検知濃度域も益々低濃度側に移行していくと考えられる。これらに対応するためにも、先述のNOxセンサにおけるNOx変換能力の改善が必要となる。
【0008】
また、排ガス中のNOx濃度を検知する場合に、例えば干渉性ガスとしてのHCやCO等の還元性ガスを完全に酸化しH2OやCO2の無害ガスに変換する必要もある。この場合も、固体触媒的に酸化除去するのみならず、HCやCO等の還元性ガスに活性な酸素ポンピング電極にて電気化学的に酸化することが望ましい。
このように、特に混成電位型センサにおいては、総NOx検知の場合におけるガス変換を行う酸素ポンピングセル等の電気化学ポンプセルの性能改善あるいは性能維持が重要である。
排ガス中のNOx検知の要求は、益々低濃度検知域に移行しており、NOxセンサの出力増大とともに、低濃度検知の精度を改善が望まれており、NOxセンサの出力の安定性確保が重要な課題となっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明においては、電気化学ポンピングセルの大幅な性能改善を行い、もって本ポンピングセルが組み込まれた窒素酸化物検知装置の性能改善を行うことを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
以上のような課題に鑑み、本発明者は以下のような手段で課題を解決することを提案した。すなわち、酸素イオン伝導性のジルコニア(ZrO2)固体電解質基板と、このジルコニア固体電解質基板上に設置された少なくとも処理対象ガスおよび酸素に活性な第1の電極と、前記のジルコニア固体電解質基板上に設置された少なくとも酸素に活性な第2の電極とからなる電気化学的な酸素ポンプセルであって、少なくとも本ポンプセルの第1の電極とジルコニア基板との間に、ジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設け、前記下地層がジルコニア固体電解質の安定化剤以外の金属酸化物を含有し、少なくともカソード極となる一方の電極を酸素あるいは酸素化合物ガスの存在する雰囲気下に曝しながら、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加するための手段により所定の電圧をかけ、よって第1の電極において処理対象ガスを酸化あるいは還元する電気化学的な酸素ポンプセルをもって解決手段とするものである。
電極とジルコニア基板との間に、安定化剤以外の金属酸化物が添加されたジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設けることにより、電極と固体電解質との物理的および化学的な密着性を改善することができ、よって電極の界面抵抗を低減し酸素ポンプ性能を向上することができる。また、ガス変換に関与する電極界面の化学的安定性を改善でき、よって検知性能の安定性を向上できる。
【0011】
従来から用いられているイットリア(Y2O3)等を安定化剤とするジルコニア(ZrO2)固体電解質基板上に、安定化剤以外の金属酸化物が分散添加されたジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設置することで優れたポンピング性能が得られる。この電極下地層に添加する金属酸化物を、少なくともNOxに活性を有する金属酸化物とすることにより、より優れたポンピング性能得られる。さらに、金属酸化物がニッケル、クロム、コバルト、銅、亜鉛、マグネシウム及びマンガンのうち1種以上を含む金属酸化物又はその混合物であることが好ましい。
金属酸化物の添加量は、電極下地層の総量に対して、0.1〜50vol%とすると良く、好ましくは1〜20vol%とすると良い。また、電極下地層のジルコニア固体電解質には安定化剤が添加されている。安定化剤として、イットリア(Y2O3)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO2)、スカンジア(Sc2O3)のうち、少なくとも1種が添加された酸素イオン伝導性のジルコニア固体電解質を下地層とすることで、大きな効果が得られる。
【0012】
本発明における第1の電極を、Rh、Pt−Rh合金、Pt−Ru合金、Ir、Ir−Rh合金、Pd−Rh合金、Rh−Au合金、Ir−Au合金のうちの1種を主成分として構成することにより、窒素酸化物ガスのNOをNO2に酸化し、あるいはNO2をNOに還元するNOxガス変換用の酸素ポンプセルとして良好な性能を確保することができる。
また、NOxセンサにおける排ガス中の還元性ガス(HCやCOなど)の無害化除去は、NOx検知精度を上げるためには必須な機構であり、第1の電極を、このための、酸化除去用酸素ポンプセル(ガス処理ポンプセル)のガス処理電極とすることもできる。この場合には、第1の電極を、Pt、Pd、Ir、Au、Rhのいずれか、あるいはこれらの合金により構成することにより良好な性能を確保できる。さらに、第1の電極(NOx変換電極あるいは/およびガス処理電極)中にイットリア(Y2O3)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO2)、スカンジア(Sc2O3)のうちの1種以上が添加された酸素イオン伝導性のジルコニア固体電解質を分散させることにより、より一層の性能改善を行うことができる。
【0013】
一方、本発明の酸素ポンプセルを組み込んだ検知装置としては、さらに、次のような構成が提示される。すなわち、酸素イオン伝導性を有する第1のジルコニア固体電解質基板と、同じく酸素イオン伝導性を有する第2のジルコニア固体電解質基板を対向させ、スペーサによりこれら固体電解質基板間に所定の距離を保ちながら固定することにより形成される内部空所からなるガス測定室と、このガス測定室に被検ガス雰囲気が所定のガス拡散抵抗を持って流入するように設けられたガス導入口と、酸素に活性な参照電極ガスおよび測定室内の雰囲気に曝される第1の固体電解質基板上に固定されたNOxおよび酸素に活性なNOx検知電極とからなるNOx検知セルと、ガス測定室内の雰囲気に曝される第2の固体電解質基板上に固定された被検ガス中のNOをNO2に或いはNO2をNOに変換するためのNOxと酸素に活性な第1の電極としてのNOx変換電極と、前記第2の固体電解質基板上に酸素あるいは酸素化合物ガスが存在する雰囲気中に曝されるように固定された酸素に活性な第2の電極としてのNOx変換対極からなるNOx変換ポンプセルとからなり、少なくとも前記のNOx変換ポンプセルのNOx変換電極と第2の固体電解質基板との間に少なくともNOxに活性を有する安定化剤以外の金属酸化物が添加されたジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設けた構成であって、さらに前記のNOx検知電極と参照電極との間の電位差を測定する手段と、NOx変換ポンプセルを駆動するための電圧印加手段を具備し、NOx変換ポンプセルに所定の電圧を印加しながら、NOx検知電極と参照電極との間の電位差を検出し、もってこの電位差を被検ガス中の窒素酸化物濃度の信号とする窒素酸化物検知装置を解決手段とする。
【0014】
本発明のNOxセンサの構成においては、参照電極が少なくとも酸素に活性であればよく、酸素以外のガスに活性であっても被検ガス雰囲気から隔離され大気雰囲気中に設置されればよい。この場合には、参照電極の材料選択の自由度は大きくなる。一方、参照電極を酸素のみに活性とすることにより、検知電極が設置されているガス測定室内に設置することで、測定雰囲気中の酸素濃度変動によりセンサ素子のガス測定室内の酸素濃度が変動しても、その影響を受け難くすることができ検知精度が改善される。
【0015】
本発明のさらなるNOxセンサにおいては、ガス測定室内の第2の固体電解質基板上に、NOxおよび酸素に活性を有するNOx変換電極と、炭化水素ガスあるいは一酸化炭素ガス、および酸素に活性を有するガス処理電極とを固定し、NOx変換電極或いは/およびガス処理電極と固体電解質基板間に電極下地層を設け、ガス処理電極をアノード極として電圧を印加する手段を設けたセンサ構成が提案される。
【0016】
さらに、本発明のNOxセンサの別な方式として、次のセンサ構成が提案される。すなわち、酸素イオン伝導性を有する第1のジルコニア固体電解質基板と、同じく酸素イオン伝導性を有する第2のジルコニア固体電解質基板を対向させ、(第1)のスペーサにより前記固体電解質基板間に所定の距離を保ちながら固定することにより形成される内部空所からなるガス測定室と、このガス測定室と被検ガス雰囲気とが連通するように設けられたガス導入口と、前記ガス測定室内の雰囲気に曝される前記第1の固体電解質基板上に固定されたNOxおよび酸素に活性を有する第1の電極と、前記ガス測定室外の第1の固体電解質上に固定された少なくとも酸素に活性を有する第2の電極と、大気雰囲気に曝される参照電極を固定し、第1の電極と第2の電極間に所定の電流あるいは電圧を印加しながら、参照電極と第1の電極間の電位差あるいはこれら電極間に流れる電流値を測定し、もって被検ガス中の窒素酸化物濃度を検知する窒素酸化物検知装置である。
【0017】
さらに、イットリア添加ジルコニア等の固体電解質基板にAlを0.01〜1.0wt%添加することにより、電極焼結温度を著しく低下させ、もってより活性な電気化学ポンプセルを得ることができる。このAl添加ジルコニア固体電解質は前述の全ての構成に適用される。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の酸素ポンプセルおよび検知装置の構成図を用いて詳細な説明を行う。図1に示す本発明の酸素ポンプセルは、酸素イオン伝導性を有するイットリア等が添加されたジルコニア固体電解質基板2上に、安定化剤以外の金属酸化物が添加されたジルコニア固体電解質からなる電極下地層9を形成し、この電極下地層上に第1の電極8が積層されており、固体電解質基板2を挟んで第2の電極10が固定されている。固体電解質基板2は酸素イオン伝導性を有するジルコニアであれば良く、特に安定化剤の種類に制約されるものでない。通常、3mol%以上のイットリアを添加したジルコニアを用いるとよい。
【0019】
図1の例では第1の電極8をアノード極とし、第2の電極10をカソード極として第2の電極側から電気化学的に酸素イオンが供給される酸素ポンプセルとなっている。本例示の場合には、第2の電極が曝される雰囲気が大気雰囲気であるが、水(H2O)や二酸化炭素(CO2)等の酸素化合物ガスが存在すれば、ここに酸素ガスとして存在する必要はない。
すなわち、酸素ポンプセル(8,9,10)を構成する第2の電極(カソード極)においてH2OやCO2を電気分解し酸素イオンとして供給することが可能である。
【0020】
また、図1において電極下地層9は第1電極下にのみ形成してあるが、第2電極下にも形成することが好ましい。しかしながら、少なくとも目的のガス変換を行う作用極としての第1電極下には必ず電極下地層を形成することが本発明に必須である。
【0021】
また、図1には示されていないが、第1および第2電極に電圧を印加するためのリード導体が構成されることが好ましい。また、第1の電極上に無機質の多孔体を電極保護膜等として設置することもあり得る。さらに、イットリア添加の固体電解質基板2は、基板状が好ましい使用形態であるが、場合によってはこれを厚膜の固体電解質層として形成し、それに本発明の電極下地層および第1の電極あるいは第2の電極を積層しても構わない。
また更に、第1の電極側の雰囲気中に少なくとも酸素化合物ガスが存在すれば、第2の電極を第1の電極が固定される固体電解質基板の同一面上に設置することも可能である。
【0022】
図1に示される本発明の電気化学的な酸素ポンプセルにおいて、固体電解質基板2は、従来から酸素イオン伝導性を用いた機能材料として広く用いられているイットリア添加のジルコニアとすることが好ましい。通常、添加されるイットリア量としては3〜8mol%であるが、好ましくは5〜7mol%とすればよい。
この固体電解質基板2は、マグネシア、セリア、カルシア等を安定化剤としたジルコニア基板とすることも可能ではあるが、コスト的にはイットリアを安定化材とする方が有利である。また、化学的安定性や機械的強度特性からもイットリア添加のジルコニア基板とすることが好ましい。
【0023】
固体電解質基板2上に形成される電極下地層9のジルコニア固体電解質には、安定化剤以外の金属酸化物が分散添加される。この金属酸化物としては、少なくともNOxに活性を有する金属酸化物が性能上好ましく、ニッケル、クロム、コバルト、銅、亜鉛、マグネシウム及びマンガンのうち1種以上を含む金属酸化物又はその混合物であることがより好ましい。複合酸化物であるNiCr2O4、ZnCr2O4、MgCr2O4、CoCr2Oを添加した場合には、特に優れた効果が得られる。電極下地層を後述する印刷法で形成する場合には、これらの複合酸化物の粉末を添加してペーストを形成することもできるが、複合酸化物を構成する金属の酸化物をそれぞれ別個に添加して得られるペーストを印刷することにより、焼成過程で、その全部あるいは一部を複合酸化物とすることもできる。
【0024】
上述の電極下地層は、第1の電極が、被検ガス中のNOをNO2に或いはNO2をNOに変換するためのNOx変換電極である場合にも、HCやCOの酸化除去するためのガス処理電極である場合にも適用される。このように、電極下地層に金属酸化物、特に少なくともNOxに活性を有する金属酸化物を添加することで電極界面の活性を増大させ、さらに基板との接合性が向上し、酸素ポンピング能力を大きく改善することが可能となる。添加されて得られた金属酸化物粉の粒子径は5μm以下とすることが好ましい。更に好ましくは、3μm以下である。5μm以上では添加金属酸化物の占める三相界面が著しく減少し、電極の活性を上げることができなくなる。
これら金属酸化物粉の添加量としては、0.1〜50vol%とするとよく、好ましくは1〜20vol%とするとよい。添加量が0.1vol%より少ないと、添加した効果が顕著でなく、逆に50vol%より多いと固体電解質としての機能を損なうことになる。
【0025】
この固体電解質基板2上に形成される電極下地層9のジルコニア固体電解質としては、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)等アルカリ土類金属の酸化物、酸化イットリウム(イットリア)、酸化セリウム(セリア)、酸化ネオジウム、酸化ガドリニウム、酸化イッテルビウム、酸化スカンジウム(スカンジア)等希土類金属の酸化物、(酸化トリウム等アクチノイド系金属の酸化物)等公知の安定化剤が添加されたものが使用できる。その中でも、特にイットリア(Y2O3)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO2)、スカンジア(Sc2O3)の安定化剤のうちから一種以上が固溶添加されたジルコニア固体電解質とすることが望ましい。また、電極下地層のジルコニア固体電解質に添加される安定化剤の量は3〜30mol%とすることが望ましい。更に、好ましくは5〜15mol%とする。3mol%以下では、固体電解質のイオン伝導度が低く酸素ポンピング能力が低下し、逆に30mol%以上では固体電解質の強度が低下する。
【0026】
この電極下地層は通常のスクリーン印刷等で適切な方法にて塗布形成することができる。印刷法で形成する場合には、先述の金属酸化物粉と固体電解質粉に有機結合剤、有機溶剤、分散剤、等と混ぜ混練することで得られるペーストを用いる。このときの溶剤量や粉末粒子径等を調整することにより電極下地層9の多孔度を調整することができる。また、電極下地層9の膜厚もこのスラリーの粘度や印刷条件等を変えることで調整可能である。
【0027】
一方、電極下地層に積層される第1の電極はその処理対象ガスおよび酸素に活性であることが必要である。例えば、前述の酸素共存下でNOxを酸化あるいは還元を行うNOx変換電極の場合には、NOxと酸素に活性の大きいRh、Pt−Rh合金、Pt−Ru合金、Ir、Ir−Rh合金、Pd−Rh合金、Rh−Au合金、Ir−Au合金のうちの1種を主成分とすることが望ましい。さらに、この第1の電極を多孔質化し、かつ電極活性を上げるために、先述の固体電解質を第1の電極中に添加することが有効である。
例えば、イットリア(Y2O3)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO2)、スカンジア(Sc2O3)を安定化剤とするジルコニア固体電解質を第1の電極総量に対して5〜30wt%の比率で添加すると、電極の活性が大きく改善され、かつ安定性に優れるものが得られる。
なかでも好ましいのは、マグネシア(MgO)、セリア(CeO2)、スカンジア(Sc2O3)であり、これらを安定化剤とするジルコニア固体電解質を添加すると安定性に優れたポンプ性能が得られる。これら安定化剤の添加量は、5〜20mol%とすることが望ましい。
また、安定化剤をなにも含有しないジルコニア、あるいは化学的に安定なアルミナを添加し、第1の電極の多孔性を増すのみでも効果が得られる。この場合の添加量は5〜40vol%、好ましくは10〜30vol%とするとよい。
【0028】
本発明の電気化学ポンプセルを、特にNOxをNOあるいはNO2に変換するためのNOx変換ポンプセルとして適用した積層構造を有する窒素酸化物検知装置の構造例を図2〜図6に示す。
図2の構造では、第1のジルコニア固体電解質基板1と第2のジルコニア固体電解質基板2とがスペーサ14により所定の距離を保持して対向し、内部空間からなるガス測定室4が形成される。このガス測定室4には被検ガス雰囲気に通じるガス導入口3が具備される。
【0029】
第1の固体電解質基板1上の、ガス測定室内部にNOxと酸素に活性なNOx検知電極5が固定される。このNOx検知電極5と対になる参照電極7は、第1の固体電解質基板1上であって大気雰囲気に通じ、被検ガス雰囲気からは完全に隔離された大気基準ダクト12内に形成されている。
この場合には、参照電極7は少なくとも酸素に活性であればよい。また、理論的には、この参照電極7の設置場所は大気雰囲気下に限らず、参照電極7が一定の酸素ポテンシャルを維持できる雰囲気下であればよい。例えば所定の酸素解離平衡分圧を示す物質が存在する密閉空間内に設置することも可能である。
【0030】
NOx検知極5の材料としては、貴金属系ではRh、Ir、Au、Pt−Rh合金、Ir−Rh合金等が使用でき、酸化物系ではNiCr2O4、NiO、Cr2O3、FeCr2O4、MgCr2O4等が使用できる。また、本検知極材料は貴金属系電極材料と酸化物電極材料との混合体であっても構わない。
さらに、電極の活性を上げるために、本検知電極5中に酸素イオン伝導体物質を所定量添加することがある。この場合の酸素イオン伝導体物質としては、ジルコニア固体電解質を用いることができ、上述した公知の安定化剤のうち特に、イットリア(Y2O3)、セリア(CeO2)、マグネシア(MgO)、スカンジア(Sc2O3)を添加したジルコニア固体電解質を用いることが望ましい。ジルコニア固体電解質の添加量は電極膜総量に対して5〜25wt%とするとよい。
【0031】
図2において、第2の固体電解質基板2上には、前述の電極下地層9を有するNOx変換電極8(第1の電極)がガス測定室内にNOx検知電極と対向して固定される。NOx変換電極8(第1の電極)と対になるNOx変換対極10(第2の電極)は、第2の固体電解質基板上にあって、大気に通じる大気導入ダクト11内に設置される。
図2に示す例では、NOx変換電極8とNOx変換対極10からなるNOx変換ポンプセルにより、大気中の酸素をイオン化してガス測定室4内に供給し、NOx変換電極上でNOx中のNOをNO2化する。この場合には、NOx変換対極10をカソード極とし、NOx変換電極8をアノード極として電圧を印加する。一方、NOx中のNO2をNOにガス変換する場合には、NOx変換対極10をアノード極とし、NOx変換電極8をカソード極として電圧を印加すればよい(図示せず)。
また、図2の例では、NOx変換対極10は、大気ダクト中に設置される構造からなっているが、例えばエンジン排気ガス中のように、必ず水(H2O)や二酸化炭素(CO2)が存在する場合には、NOx変換対極10を排ガス雰囲気下に設置しても構わない。これは、NOx変換ポンプセルの電解電圧を調節することにより、H2OやCO2を電解し、酸素イオンを供給することができるからである。
【0032】
このようなセンサ構成を有するセンサにおいて、NOx変換電極8とその対極10間には、所定のポンプセル電圧を印加するための手段としての外部電源25が接続される。また、NOx検知電極5と参照電極7との間の電極電位差を測定するための手段21が接続され、この出力VNOxが被検ガス中の総NOx濃度を示す。尚、ここでいう所定の電圧とは一定の電圧を印加することに制限されない。センサ駆動制御に応じて、ポンプ電圧を変えて使用することができる。電極電位差を測定するための手段21としては、入力インピーダンスが充分大きな電位差計を用いることができる。また、本センサ素子を加熱しながら使用するため、図2の例では自己加熱ヒータ13が一体形成されている。
【0033】
図3の例では、参照電極7がガス測定室4内に設置された場合のセンサ構造を示す。この場合の参照電極7は酸素にのみ活性を有していることが必要である。この構造によりNOx検知電極5と参照電極7の酸素活性は、相互にキャンセルしあい、結果的にガス測定室4内の酸素濃度が変化しても、NOx出力に影響を受けにくい利点がある。このような構成を取り得るのは、混成電位式センサの特徴であることは明白である。
図3において、図1と図2の例と同一部品には同一符号を付し、その説明を省略する。以下の例も同様とする。
【0034】
図4の例では、参照電極7は大気基準ダクト12内に設置され、かつ酸素のみに活性を有する酸素検知電極6がガス測定室4内に併設された構造を示す。この場合には、NOx検知電極5と参照電極7との間の電位差VNOxを測定する手段21とガス測定室内の酸素分圧を検知するための酸素検知電極6と参照電極7との間の電位差VO2を測定する手段22とから、NOx濃度出力の酸素分圧依存性を演算処理手段23により補正を行う方式の構成を示す。
演算処理手段23は電子回路を用いたハードウェア、あるいはマイクロコンピュータ等を用いたソフトウェアによってなされる。
【0035】
図5には第1の電極の機能を有する別の酸素ポンプセルとしてのガス処理電極15を併設したセンサ構造を示す。排ガス中の総NOx濃度を精度よく検知するには、NOx中のNOあるいはNO2をどちらかに単ガス変換する必要があり、これにはNOx変換ポンプセルが対応する。
しかしながら、排ガス中には、炭化水素ガス(HC)や一酸化炭素ガス(CO)が同時に存在し、これらが多量に存在する場合には、NOx出力に影響を及ぼす。そのため、NOx変換電極8の前段にHCやCOを酸化除去するためのガス処理電極15を設置することが有効である。
第1の電極8と第2の電極10との間及びガス処理電極15と第2の電極10との間に外部電源25,26が接続される。
このガス処理電極15は処理目的ガス(HCやCO)と酸素に活性であることが必要である。このガス処理電極15下に本発明の電極下地層9を設置し、ガス処理(酸化)能力および性能の安定化を図ることができる。また、NOxガスの測定精度をより高めるため、ガス測定室4内の酸素濃度を制御するための補助酸素ポンプを別途設置しても構わない。
【0036】
この場合には、ガス測定室内の酸素濃度信号として、酸素検知電極6と参照電極7との間の電位差VO2を制御信号として、補助酸素ポンプの電圧駆動部にフィードバックして用いることができる。このような場合においても、ガス測定室4内に設置される補助酸素ポンプの電極下に本発明の電極下地層を形成することもできる。
【0037】
図6には第1の電極を分極した状態にてNOx検知電極として作用させた方式の総NOxセンサの構成を示す。これは、電気化学ポンプセルでもあり且つガス検知セルでもあるもので、技術思想の考え方から図6の方式も本発明の範囲に入る。
すなわち、本例示ではガス測定室4内の第1のジルコニア固体電解質基板1上に第1の電極としての検知電極5を固定し、この検知電極5下に本発明の電極下地層9を挿入する。大気基準ダクト12内には、第2の電極としての対極10と、参照電極7を設置する。対極10と検知電極5との間に、電流を印加する手段27により、所定の電流を流し検知電極5を分極した状態にて参照電極7との電位差VNOxを手段21により測定する。
この分極された第1の電極5は、電極電位が強制的に変位された状態からNOとNO2の共存ガスに対する感度を出力する。NOとNO2との共存ガスは、本発明のような狭い内部空所に存在する場合には、酸素濃度とセンサ温度により一義的に決定される。
【0038】
これは、(5)および(6)式により示されるガス平衡濃度に相当する。ここで、Kは平衡定数を示す。すなわち、排ガス中のNOx組成(NOとNO2の存在比率)が変化しても、図6のようなガス測定室内においては、ガス平衡反応によりNOとNO2の存在比率は一定となる。
したがって、このような所定の組成比をもち、かつ分極された電極においては、NOの分極曲線とNO2の分極曲線がぼぼ一致することから、総NOx濃度として検知することができる。
【0039】
NO + 1/2O2 = NO2 ……………………………… (5)
K = [NO2]/[NO]・[O2]1/2 ……………… (6)
【0040】
以上、本発明の積層構造を有するセンサ構成を述べてきたが、前述のガス測定室の数は、特に制限されるものでない。また、ガス導入口についてもガス拡散律速されるようなガス通気抵抗を設けないことが望ましいが、その形態に特に制限されるものでない。すなわち、複数の導入口を有していても、また、多孔体からなるガス導入口でも構わない。
さらに、本発明におけるセンサ加熱手段には、特に制限はなく、加熱炉中に保持されていても或いは自己加熱ヒータ−であっても構わない。
【0041】
以上述べてきたような本発明センサの製造方法は特に制限はないが、通常、生産性の高いジルコニアのグリーンシートを用いて作製することができる。ジルコニアのグリーンシートの作製には、まず原料粉としてのジルコニア粉が用意される。通常、ジルコニア粉はすでに所定量のY2O3やMgOなどが添加されたものが使用される。
【0042】
図1のセンサを作製する場合、このジルコニアグリーンシート上にまず電極下地層用のペーストをスクリーン印刷で塗布形成する。これを乾燥後、集電体材、検知極材あるいは参照極材を同様に印刷し積層形成する。参照極材料には通常Ptが用いられるが、センサ作動温度でNOxに感度を有しなければ特に材料は限定されない。スクリーン印刷完了後、約600℃で脱脂焼成したのち通常1400℃以上で焼結焼成を行う。最後に集電体端子にPtなどのリード線を溶接して測定に供される。
【0043】
図2〜図6に示すような積層型素子の作製においても、同様にグリーンシートを用いた方法が適用される。前述のように印刷がなされた各グリーンシートを積層し、加熱圧着する。この際、素子の内部空所を形成する部位には、あらかじめ消失材を充填しておく。
【0044】
以上本発明の電極あるいはそれを適用した積層型NOxセンサについて述べてきたが、さらに本発明セルを構成するジルコニア固体電解質基板についても言及する。すなわち、前述のY2O3等を添加したジルコニア固体電解質に更にAlを0.01〜1.0wt%添加することによりジルコニアグリーンシートの焼結温度を大幅に低減させ、その結果センサ検知性能を改善することができる。
Alの添加量は好ましくは0.05〜0.5wt%である。Alの添加量が多すぎると、電極材との反応が生じ感度性能を低下させ、またジルコニア固体電解質自体の強度が低下する。逆に添加量が少なすぎると本効果は少ない。すなわち、この手段により本発明ポンプセルおよび窒素酸化物センサの電極界面抵抗の低減が可能となり、電極の活性を増大させることができる。
以下に、実施例を示し更に詳細な説明を行うが、本発明はこれら実施例に限定されるものでなく、その発明の思想を同一とするものを全て含むことは言うまでもない。
【0045】
【実施例】
[参考例]
図7に示す構造からなるNOx検知セルを用い、電極下地層に添加する金属酸化物のNOxに対する活性を評価した。
図7のジルコニア固体電解質基板1用には、6mol%のイットリア(Y2O3)が添加されたジルコニア粉を原料粉として前述のように作製したグリーンシートを用いた。グリーンシートの厚みは0.25mmとした。前述の通り焼成済みの基板を用いることもできるが、その場合、基板の厚みは約0.2mmとする。グリーンシートを矩形に切断し、Ptリード導体をスクリーン印刷で形成した後、表1に示すNOx検知電極5のための各電極材料をスクリーン印刷にて形成した。
また、参照極7にはPtを使用し、同様にスクリーン印刷にて形成した。これらのセンサ素子を大気中で500℃にて脱脂を行ったのち、1400℃で焼成を行った。焼成基板を用いる場合には、脱脂工程は不要となり、1100〜1300℃で焼成を行った。焼成後の各センサ素子にはリード線を接合してサンプルとした。このように作製された酸素ポンプセルサンプルを電気炉に保持された石英管の中にセットし、酸素濃度5%下でNOxに対する活性の大小比較を行った。このときのNOxとしてはNOガス100ppmおよびNO2ガス100ppmを用いた。電気炉雰囲気の温度は600℃となるように制御した。各サンプルのNOxに対する出力は、高入力インピーダンスの電圧計21を用いて評価した。
本参考例においては、検知電極5と参照電極7は同一の雰囲気中に置かれている。PtのNOxに対する活性は別途、閉端型のジルコニア固体電解質チューブを用いて検知電極としての出力(混成電位)を調べた結果、NOおよびNO2のいずれに対しても感度を有しないことが確かめられている。この際、ジルコニアチューブの内側雰囲気を大気に、外側雰囲気を被検ガス雰囲気とした。
【0046】
得られた結果を表1にまとめて示す。Crを構成元素とする酸化物材料は高い感度特性を示すことが分かる。さらに、NiCr2O4、CoO、MgCr2O4、Cr2O3は特に高い感度特性を有することがわかる。
【0047】
【表1】
【0048】
(実施例1)
図1に示す酸素ポンプセルと図2に示す積層型のNOxセンサを準備した。図1の酸素ポンプセルのジルコニア固体電解質基板2には、6mol%のイットリア(Y2O3)が添加されたジルコニア粉を原料粉として前述のように作製されたグリーンシートを用いた。グリーンシートの厚みは250μmである。このグリーンシートを矩形に切断し、Ptリード導体をスクリーン印刷で形成した後、電極下地層9と第1の電極8とを同様に順次積層形成した。電極下地層には表2に示す各種金属酸化物あるいは複合酸化物を添加したジルコニアペーストを印刷した。
用いた金属酸化物あるいは複合酸化物は、酸化物試薬もしくはそれら試薬を目的組成で配合し所定温度で焼結させた粉末をボールミルで粉砕・乾燥させて供した。ここで、Cr2O3+20molCoOについては、Cr2O3粉末及びCoO粉末を4:1(モル比)の組成比で添加して調製したジルコニアペーストを用いたが、焼成後はCoCr2O4及びCr2O3の混合相となっていることが確認された。また、ジルコニアには、安定化剤としてセリアを12mol%添加した。第1の電極材料にはPt−Rh(3wt%)合金を使用した。
【0049】
図2に示すセンサ構造には、同様にして6mol%のイットリア(Y2O3)が添加されたジルコニアグリーンシートを固体電解質基板1,2として用いた。本実施例においては、焼成歪みを低減し、基板間の熱膨張率差からくる歪みを抑制するため、スペーサ14等の他の構成基板に全て6mol%のイットリア(Y2O3)が添加されたジルコニアグリーンシートを使用した。勿論、ヒーターとヒーター用ジルコニア基板間には絶縁層としてアルミナ印刷層を形成した。
また、ガス測定室4内の雰囲気に曝される固体電解質基板2上に、前述の電極下地層9と第1の電極としてのNOx変換電極8を積層形成した。この電極下地層は安定化剤であるセリア(CeO2)を12mol%と表2に示す各種金属酸化物あるいはそれらの複合酸化物を10vol%添加したジルコニア固体電解質である。
各サンプルの電極下地層および各電極の寸法因子は全て同一とした。
【0050】
大気ダクト11中には第2の電極として、Ptからなる変換対極10を形成した。一方、ガス測定室4内の雰囲気に曝される固体電解質基板1上に、NiCr2O4を主成分とするNOx検知電極5を印刷形成した。Ptを主成分とする参照電極7を大気基準ダクト内に印刷形成した。
印刷の完了した各グリーンシートを重ね合わせ、加熱しながら圧着接合した。
【0051】
これらのグリーンシートからなる酸素ポンプセルおよび加熱圧着されたNOxセンサ素子を大気中で約500℃にて脱脂処理したのち、約1400℃で焼成を行った。焼成後各リード線を接合してサンプルとした。
このように作製した酸素ポンプセルサンプルを電気炉内に保持した石英管の中にセットし、酸素濃度5%雰囲気下での酸素ポンピング性能を評価した。
一方、積層型のNOxセンサに組み込んだ変換ポンプセル(酸素ポンプセル)については、総NOx濃度の検知出力を比較することでNOx変換能力の相対比較を行った。被検ガスのNOxには100ppmのNOガスを用いた。さらに、積層型のNOxセンサにおいては、作動状態で5%CO、0%酸素の還元性雰囲気下にて100時間被曝させ、被曝前後のセンサ出力の変化率を調べ、酸素ポンプ用電極、特に固体電解質との界面に形成された電極下地層中の添加材の効果を相対比較し、安定性を評価した。
【0052】
尚、出力の変化率は[初期(還元被曝前)センサ出力−還元被曝後センサ出力]対[初期(還元被曝前)センサ出力]の比を意味し、マイナス(−)記号は出力低下を意味する。出力変化率の目標値は−20%以下で、好ましくは−10%以下、より好ましくは−5%以下である。
酸素ポンプセル単体、およびNOxセンサの加熱温度は600℃とした。NOxセンサの作動温度は、素子に組み込んである印刷型熱電対の温度信号を用いて制御ユニットでフィードバック制御した。尚、全ての酸素ポンプセルおよびNOxセンサの変換ポンプセルには0.5Vの電圧を印加した。
【0053】
得られた結果を表2にまとめて示す。これより、電極下地層としてNOxに活性を有する金属酸化物を添加したジルコニア層を用いた本発明の酸素ポンプセルにおいても安定化剤であるセリア以外の金属酸化物を含まない比較例と同程度のポンプ電流が流れた。さらに、本発明の酸素ポンプセルをNOx変換電極として用いた図2の構造を有する混成電位型NOxセンサでは、NOをNO2に変換して総NOx濃度として検知するセンサ出力が確認され、表2に示すように比較例と同程度のセンサ出力が得られた。また、還元雰囲気被曝前後でのセンサ出力の変化率は数%〜十数%程度まで低減され、セリアのみを添加した比較例の場合の変化率(約−30%)に比べて、特にNOxに活性を有する金属酸化物の添加効果が確認された。
【0054】
【表2】
【0055】
(実施例2)
実施例1と同様に図2の積層型NOxセンサを作製した。本実施例においては、表3に示す金属酸化物の添加量を変えて電極下地層を形成した。各サンプルの寸法因子、構成材料は実施例1と同様とした。
各金属酸化物の添加量が0.1〜50vol%の範囲において、還元被曝前後のNOxセンサ出力の変化率は20%以下であった。特に1〜20vol%の範囲でセンサ出力変化率は小さく、安定性に優れている。
【0056】
【表3】
【0057】
(実施例3)
実施例1と同様に図2の積層型NOxセンサを作製した。本実施例においては、電極下地層の固体電解質を表4の材料として、金属酸化物として、NiCr2O4を電極下地層の総量に対して10vol%添加した。
各サンプルの寸法因子、構成材料は実施例1と同様とした。
いずれの安定化材で安定化させた固体電解質においてもセンサ出力の変化率が小さく、安定性に優れている。
【0058】
【表4】
【0059】
(実施例4)
実施例1と同様に図5の構造を有する積層型NOxセンサを作製した。本実施例では本発明の電極下地層9をガス処理電極15とジルコニア固体電解質基板2との間にのみ形成した。電極下地層は12mol%セリア添加ジルコニアにNiCr2O4を10vol%添加して調製した。また、比較のために12mol%のセリアのみを添加したジルコニア固体電解質からなる電極下地層を形成したセンササンプルも作製した。本センサでは自己加熱用ヒータ13により作動温度を600℃とし、参照電極7とNOx検知電極5との間の電圧VNOxおよび参照電極7と酸素検知電極6との間の電圧VO2から電子回路23による酸素濃度補正を行ったV′NOxをセンサ出力とした。尚、図5に示すごとく、ガス処理ポンプセル(10,15)には外部電源26により0.5Vで一定の電圧を印加した。
【0060】
結果を表5に示す。NiCr2O4を添加した固体電解質においてセンサ出力の変化率が小さく、安定性に優れていることがわかり、図2の構造と同様に図5の構造においても、電極下地層に金属酸化物を添加する効果が確認された。
【0061】
【表5】
【0062】
【発明の効果】
本発明において、酸素ポンプセルのNOx変換電極あるいはガス処理電極とジルコニア固体電解質基板上との間に安定化剤以外の金属酸化物を添加したジルコニア固体電解質を電極下地層として形成することにより、ポンプ性能の安定性が向上し、この酸素ポンプを用いたセンサの出力変化率が著しく低減し、センサの信頼性が向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一例である電気化学的な酸素ポンプセルの断面構造を示す図である。
【図2】本発明の一例である窒素酸化物検知装置の断面構造を示す図である。
【図3】本発明の一例である窒素酸化物検知装置の断面構造を示す図である。
【図4】本発明の一例である窒素酸化物検知装置の断面構造を示す図である。
【図5】本発明の一例である窒素酸化物検知装置の断面構造を示す図である。
【図6】本発明の一例である窒素酸化物検知装置の断面構造を示す図である。
【図7】参考例である窒素酸化物検知装置の断面構造を示す図である。
【符号の説明】
1 第1の固体電解質基板
2 第2の固体電解質基板
3 ガス導入口
4 ガス測定室
5 NOx検知電極
6 酸素検知電極
7 参照電極
8 第1の電極
9 電極下地層(貴金属添加ジルコニア固体電解質)
10 第2の電極
11 大気導入ダクト
12 大気基準ダクト
13 ヒーター
14 スペーサ
15 ガス処理電極
21 NOx検知極と参照極間の電位差を測定する手段(電位差計)
22 酸素検知極と参照極間の電位差を測定する手段(電位差計)
23 NOx出力を補正する手段
25,26 第1の電極と第2の電極間に電圧を印加する手段(外部電源)
27 NOx検知電極と第2の電極との間に電流を印加する手段
Claims (7)
- 酸素イオン伝導性のジルコニア固体電解質基板と、当該固体電解質基板上に設置された少なくとも処理対象ガスおよび酸素に活性な第1の電極と、前記固体電解質基板上に設置された少なくとも酸素に活性な第2の電極とからなる電気化学ポンプセルであって、当該ポンプセルの少なくとも前記第1の電極と前記固体電解質基板との間に、ジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設け、前記下地層がニッケル、クロム、コバルト、銅、亜鉛、マグネシウム及びマンガンのうち1種以上を含む金属酸化物又はその混合物を含有し、少なくともカソード極となる一方の電極を酸素あるいは酸素化合物ガスの存在する雰囲気下に曝しながら前記電極間に所定の電圧を印加するための手段を有し、前記第1の電極において処理対象ガスを酸化あるいは還元することを特徴とする酸素ポンプセル。
- 酸素イオン伝導性を有する第1のジルコニア固体電解質基板と、同じく酸素イオン伝導性を有する第2のジルコニア固体電解質基板を対向させ、スペーサにより前記固体電解質基板間に所定の距離を保ちながら固定することにより形成される内部空所からなるガス測定室と、当該ガス測定室に被検ガス雰囲気が所定のガス拡散抵抗を持って流入するように設けられたガス導入口と、酸素に活性な参照電極および前記ガス測定室内の雰囲気に曝される第1の固体電解質基板上に固定されたNOxおよび酸素に活性なNOx検知電極とからなるNOx検知セルと、前記ガス測定室内の雰囲気に曝される第2の固体電解質基板上に固定された被検ガス中のNOをNO2に或いはNO2をNOに変換するためのNOxと酸素に活性な第1の電極としてのNOx変換電極と、前記第2の固体電解質基板上に酸素あるいは酸素化合物ガスが存在する雰囲気中に曝されるように固定された酸素に活性な第2の電極としてのNOx変換対極からなるNOx変換ポンプセルとからなり、少なくとも当該NOx変換ポンプセルのNOx変換電極と第2の固体電解質基板との間にニッケル、クロム、コバルト、銅、亜鉛、マグネシウム及びマンガンのうち1種以上を含む金属酸化物又はその混合物が添加されたジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設けた構成であって、さらに前記NOx検知電極と参照電極との間の電位差を測定する手段と、前記NOx変換ポンプセルを駆動するための電圧印加手段を具備し、NOx変換ポンプセルに所定の電圧を印加しながら、NOx検知電極と参照電極との間の電位差を検出し、もってこの電位差を被検ガス中の窒素酸化物濃度の信号とする窒素酸化物検知装置。
- 前記の参照電極が少なくとも酸素に活性であり、かつ大気雰囲気に連通する大気基準ダクト内に設置されていることを特徴とする請求項2に記載の窒素酸化物検知装置。
- 前記の参照電極が酸素に活性でNOxに不活性であり、かつ前記ガス測定室内に設置されていることを特徴とする請求項2に記載の窒素酸化物検知装置。
- 前記ガス測定室内の第2のジルコニア固体電解質基板上に、炭化水素ガスあるいは一酸化炭素ガス、および酸素に活性を有するガス処理電極を固定し、前記NOx変換電極或いは/およびガス処理電極と前記固体電解質基板間にニッケル、クロム、コバルト、銅、亜鉛、マグネシウム及びマンガンのうち1種以上を含む金属酸化物又はその混合物が添加されたジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設け、ガス処理電極をアノード極として電圧を印加する手段を設けたことを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の窒素酸化物検知装置。
- 酸素イオン伝導性を有する第1のジルコニア固体電解質基板と、同じく酸素イオン伝導性を有する第2のジルコニア固体電解質基板を対向させ、スペーサにより前記固体電解質基板間に所定の距離を保ちながら固定することにより形成される内部空所からなるガス測定室と、当該ガス測定室と被検ガス雰囲気とが連通するように設けられたガス導入口と、前記ガス測定室内の雰囲気に曝される前記第1の固体電解質基板上に固定されたNOxおよび酸素に活性を有する第1の電極と、前記ガス測定室外の固体電解質上に固定された少なくとも酸素に活性を有する第2の電極と、大気雰囲気に曝される参照電極を固定し、第1の電極と第2の固体電解質基板との間にニッケル、クロム、コバルト、銅、亜鉛、マグネシウム及びマンガンのうち1種以上を含む金属酸化物又はその混合物が添加されたジルコニア固体電解質からなる電極下地層を設けた構成であって、さらに第1の電極と第2の電極間に所定の電流あるいは電圧を印加しながら、参照電極と第1の電極間の電位差あるいは当該電極間に流れる電流値を測定し、もって被検ガス中の窒素酸化物濃度を検知することを特徴とする窒素酸化物検知装置。
- 前記の電極下地層がイットリア(Y2O3)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO2)、スカンジア(Sc2O3)のうち、少なくとも1種が添加された酸素イオン伝導性のジルコニア固体電解質からなることを特徴とする請求項1に記載の酸素ポンプセルあるいは請求項2乃至6の何れかに記載の窒素酸化物検知装置。
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