JP4147701B2 - 耐遅れ破壊特性および海浜耐候性に優れるボルト部品の製造方法 - Google Patents

耐遅れ破壊特性および海浜耐候性に優れるボルト部品の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、800 〜1100MPa 級のボルト部品に係り、海浜近くの厳しい腐食環境においても優れた海浜耐候性と耐遅れ破壊特性を兼備したボルト部品に関する。なお、本発明におけるボルト部品とは、ボルト、ナットおよび座金を含むものとする。また、本発明でいう海浜耐候性とは、海浜地帯における大気暴露に対する耐食性(耐候性)をいうものとする。
【0002】
【従来の技術】
従来から、飛来海塩粒子が多い海浜地帯などにおける構造部材の防食としては、防錆塗料等による塗装が一般的であった。しかし、塗料の劣化、剥離等の問題から塗り替えが必ず必要とされ、再塗装費等保守管理費が高価となるという問題があり、海浜地帯などに建設される建物、橋梁等の鋼構造物において無塗装使用が可能な鋼材が要望されていた。
【0003】
無塗装使用が可能な鋼材として、耐候性鋼がある。耐候性鋼材は、使用後数年〜10年で鋼材表面に耐食性に優れた緻密な安定さびが形成され、この安定さびがその後の鋼材の腐食の進行を防ぎ、耐候性に優れた鋼材とされている。しかし、従来の耐候性鋼材では、比較的腐食環境の穏やかな田園地帯ではこのような緻密な安定さびの形成が認められるが、飛来海塩粒子が多い海浜地帯では、安定さびの形成が見られず、腐食が進行し十分な耐候性を示さなくなる。このようなことから、耐候性鋼材の無塗装使用は田園地帯では認められても、飛来海塩粒子が多い海浜地帯では認められず、耐候性鋼材といえども塗装等の防食処理を施す必要があった。
【0004】
ところが最近、飛来塩分の多い海浜地帯等の腐食の激しい環境下においても、十分な耐候性を有し、海浜地帯でも無塗装使用が可能な鋼材の開発が指向されている。例えば、特開平11-172370 号公報には、重量%で、C:0.03〜0.15%、Cu:0.30〜1.00%、Ni:1.0 〜5.5 %を含有し、Cr:0.1 %以下に低減し、あるいはさらにTi:0.005 〜0.02%をTi/N:2.0 〜3.5 の範囲で含有する高耐候性鋼が提案されている。特開平11−172370号公報に記載された鋼ではNi、Cuの適正量添加により海岸耐候性が向上し、さらに飛来塩分量に応じてNi含有量を調整することにより経済性、溶接性ともに好ましくなるとされる。しかしながら、特開平11-172370 号公報に記載された鋼は、鋼板としての使用を前提としており、高強度を必要とし、しかも常に応力が負荷されるボルト等への使途については何ら配慮がなされていない。
【0005】
建物、橋梁等の鋼構造物や自動車、建設機械等には、鋼材として鋼板以外にボルト、ナット等が使用され、鋼板同様あるいはそれ以上の特性を具備することが要求される。とくに、ボルトは、高強度を要求されしかも常に応力の負荷があり、遅れ破壊の発生が懸念される。
高強度鋼材では、遅れ破壊がしばしば大きな問題となっており、例えば、引張強さが1300MPa を超える強度を有する高強度ボルトでは、とくに遅れ破壊の危険性が増大すると言われ、現在使用されているボルトの強度は1100MPa 級が上限である。
【0006】
大部分の鋼材の遅れ破壊は水素脆化を主因とすると言われ、とくに腐食環境下で使用される高強度鋼材では、遅れ破壊の発生の危険性が大きくなる。例えば、従来ではあまり問題とならなかった引張強さ1000Mpa 級のボルトでも腐食が激しい環境においては、遅れ破壊が発生する可能性がある。このようなことから、高強度ボルトの耐遅れ破壊性の改善が強く要望されている。
【0007】
耐遅れ破壊性を改善した鋼材の例として、例えば、特開平6-271975号公報には、重量%で、C:0.01〜0.3 %、Si:0.01〜2.5 %、Mn:0.01〜3.0 %およびAl:0.005 〜0.1 %含有し、あるいはさらに、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Bのうちの1種または2種以上を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、組織が焼入ままのマルテンサイトまたはベイナイトもしくはそれらの混合組織とした高強度鋼が提案されている。特開平6-271975号公報に記載された技術では、1〜30vol %の残留オーステナイトを含有するラス状組織とすることが耐水素脆化特性を高めるのに好ましいとしている。
【0008】
また、特開平10-219352 号公報には、重量%で、C:0.1 〜0.35%で、Si:0.1 %以下、Mn:0.35%以下と低減し、Ni:3 〜12%と高め、あるいはさらにTi:0.015 〜0.055 %とB:0.0005〜0.003 %含有する鋼材を、800 〜950 ℃で20〜80%の熱間加工後、直ちに15℃/s以上の冷却速度で急冷する耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼材の製造方法が提案されている。特開平10-219352 号公報に記載された技術では、Si、Mn、あるいはP、Sを低減し、あるいはさらにTi、Bを添加して粒界偏析を低減して粒界強度を向上させ、さらにNiを多量添加して、腐食環境下での水素侵入を抑制し、さらに残留オーステナイト量を増加し水素を有効にトラップすることにより、1400Mpa 級以上の強度がありながら耐遅れ破壊性が向上するとしている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平6-271975号公報、特開平10-219352 号公報に記載された技術では、耐候性、とくに海浜地帯等の飛来塩分の多い環境下での耐候性、すなわち海浜耐候性についての十分な検討はなされていない。特開平6-271975号公報、特開平10-219352 号公報に記載された鋼材では耐遅れ破壊性の改善は認められるが、海浜耐候性が十分とはいえず、耐遅れ破壊性と海浜耐候性の両立という問題が残されていた。
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、ボルト部品の耐候性と耐遅れ破壊性を向上させて、飛来塩分の多い海浜地帯でも十分な海浜耐候性と耐遅れ破壊特性を兼備した800 〜1100MPa 級のボルト部品を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、海浜耐候性と耐遅れ破壊性に及ぼす化学成分、組織の影響について鋭意研究した。その結果、Ni、Cr、固溶B含有量を適正範囲とすることにより、飛来塩分量の多い海浜地帯でも安定さびを形成することができ、海浜耐候性の改善が得られるという知見を得た。
【0012】
この安定さびの形成により、同時に鋼材への水素の侵入を抑制するとともに、粒界の組織強化により、耐遅れ破壊性の改善にも寄与するという知見を得た。さらに、焼入れ時の組織を、残留オーステナイトが0または1%未満(体積率)の、マルテンサイト組織とし、さらに焼戻処理を調整して均質な焼戻しマルテンサイトとすることにより、さらに侵入する水素による遅れ破壊を防止でき耐遅れ破壊性が改善されるという知見を得た。
【0013】
本発明は、上記した知見に基づいてさらに検討して完成されたものである。
すなわち、質量%で、C:0.15〜0.40%、Si:0.15〜2.0 %、Mn:0.2 〜2.0 %、P:0.02%以下、S:0.015 %以下、Al:0.01〜0.050 %、Cu:0.2 〜0.5 %、Ni:2.3 〜5.0 %、Cr:0.15%以下、Ti:0.01〜0.05%、B:0.0005〜0.0040%、N:0.0060%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼素材を熱間圧延によりボルト部品用素材としたのち、該ボルト部品用素材に成形加工を施しボルト部品とし、ついで該ボルト部品に、Ac3 点以上の温度からの焼入れ処理を施し、残留オーステナイト量が体積率で0〜1%未満含む焼入組織とし、引き続いてAc1 点以下の温度での焼戻し処理を施し、焼戻しマルテンサイト組織とすることを特徴とする耐遅れ破壊性および海浜耐候性に優れるボルト部品の製造方法であり、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.05〜1.0 %、Nb:0.01〜0.3 %、V:0.02〜0.5 %の1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明により製造されるボルト部品は、引張強さ800 〜1100MPa を有するボルト部品であり、優れた海浜耐候性と優れた耐遅れ破壊性を有する。
まず、鋼素材の化学成分の限定理由について説明する。
C:0.15〜0.40質量%(以下、単に%と記す)
Cは、強化元素として欠くことのできない元素であり、800MPa以上の引張強さを確保するためには0.15%以上の含有を必要とする。一方、0.40%を超えて含有するとMs点が低下して、かえって焼入性が低下し残留オーステナイトが増加し、強度の低下や海浜耐候性の劣化、さらには経時変化を起こすという問題が生じる。このため、Cは0.15〜0.40%に限定した。なお、好ましくは0.30%以下である。
【0015】
Si:0.15〜2.0 %
Siは、脱酸作用を有し、さらに焼もどし軟化抵抗を増す作用を有する元素である。これらの効果を発揮するためには、少なくとも0.15%の含有を必要とする。一方、2.0 %を超えて過剰に含有すると、海浜耐候性や耐遅れ破壊性を劣化させる。このため、Siは0.15〜2.0 %に限定した。なお、好ましくは、1.5 %以下である。
【0016】
Mn:0.2 〜2.0 %
Mnは、Sと結合して固溶Sを硫化物として固定して、Sによる熱間脆化を抑制する効果を有する。このような効果を得るためには、0.2 %以上の含有が必要である。また、Mnは単独には焼入れ性を向上させる元素であるが、本発明の特徴である多量のNi含有に加えて、多量のMnの含有は、Ms点を低下させ、残留オーステナイトの増加を招き、海浜耐候性の劣化や経時変化を起こすという問題を生じる。このため、Mnは0.2 〜2.0 %の範囲に限定した。なお、好ましくは、1.0 %以下である。
【0017】
P:0.02%以下
Pは、海浜耐候性を向上させる元素であり、適量の含有は海浜耐候性に有利となる。一方、Pは、海浜地帯のような強腐食環境下では遅れ破壊特性を著しく劣化させる。このため、本発明では、Pを0.02%以下に限定した。なお、好ましくは0.015 %以下である。
【0018】
S:0.015 %以下
Sは、著しく冷間鍛造性を劣化させる元素であり、また海浜耐候性および耐遅れ破壊性にも悪影響を及ぼす。このため、本発明では、これらの影響を抑制するためには、0.015 %以下に限定した。なお、好ましくは0.010 %以下である。
Al:0.010 〜0.050 %
Alは、脱酸のために0.010 %以上添加する必要があるが、0.050 %を超えるとアルミナ系介在物が増え、鍛造性を損なう。このため、Alは0.010 〜0.050 %に限定した。
【0019】
Cu:0.2 〜0.5 %
Cuは、海浜耐候性を向上させるとともに、耐遅れ破壊性をも向上させる元素である。その機構については、現在のところ詳細には不明なことが多いが、Cuが焼戻しマルテンサイト母相中に微細に整合析出することで、有効な水素トラップサイトとして機能しているものと推察される。このような効果は0.2 %以上の含有で認められるが、一方、0.5 %を超える含有はその効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できない。このため、Cuは0.2 〜0.5 %に限定した。
【0020】
Ni:2.3 〜5.0 %
Niは、海浜耐候性を顕著に向上させる最も有効な元素である。このような効果は2.3 %以上の含有で認められ、とくに2.5 %以上の含有で顕著となる。一方、5.0 %を超えての含有は、含有量に見合う顕著な向上効果が認められないため、経済的に不利となる。このため、Niは2.3 〜5.0 %の範囲に限定した。なお、Niの多量添加は、焼入時に残留オーステナイトを増加させ、耐遅れ破壊性を劣化させる可能性がある。このため、他の焼入性向上元素の含有量との関連もあるが、残留オーステナイトを形成させない範囲としてNiは3.5 %以下とするが好ましい。
【0021】
Cr:0.15%以下
Crは、飛来塩分の少ない田園地帯での耐候性向上には有効な成分であるが、飛来塩分の多い海浜地帯での耐候性、すなわち海浜耐候性に対しては、数%程度の含有で逆に腐食を促進し、悪影響を及ぼす。そのような海浜耐候性への悪影響を抑制するために、本発明ではCrを0.15%以下に制限する。なお、好ましくは0.10%以下である。
【0022】
Ti:0.01〜0.05%
Tiは、Bより強い窒化物形成元素であり、本発明ではBとともに含有され、Bの効果が抑制されないように0.01%以上含有させる。とくに、Bが鋼中NによりBNとして析出固定されその効果が抑制されないように、TiはN含有量に応じ(N%×(48/14 ))以上含有するのが好ましい。一方、0.05%を超えて含有すると、粗大な窒化物を形成しやすくなり、靭性および耐遅れ破壊性が劣化する。このため、Tiは0.01〜0.05%の範囲に限定する。
【0023】
B:0.0005〜0.0040%
Bは、本発明では重要な元素であり、鋼中に固溶して存在する場合は、粒界への脆化元素の偏析を抑制して粒界を強化し、耐遅れ破壊性を向上させる。さらにBは水素侵入の抑制にも寄与し、また、理由は明らかではないが、表面近傍で安定さび相の形成に有利に作用して海浜耐候性の向上に寄与しているものと推察される。このような効果は、0.0005%以上の含有で認められるが、一方、0.0040%を超えて過剰に含有してもその効果は飽和する。このため、Bは0.0005〜0.0040%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0010%以上である。
【0024】
N:0.0060%以下
Nは、鋼中に固溶して存在すると靭性を劣化させる。このため、本発明ではNをTi窒化物として析出固定する。Nが0.0060%を超えて含有すると析出固定に必要なTi量が増えるばかりか、粗大なTi窒化物を形成して靭性および耐遅れ破壊特性を劣化させる。このため、Nは0.0060%以下に限定した。なお、好ましくは0.0040%以下である。
【0025】
さらに、高強度化のために、本発明では、Mo:0.05〜1.0 %、Nb:0.01〜0.3 %、V:0.02〜0.5 %の1種または2種以上を含有することができる。
Moは、固溶してあるいは炭化物を形成して常温および高温での強度を上昇する効果があり、本発明では必要に応じ含有できる。このような強度を上昇させる効果は0.05%以上の含有で顕著となる。一方、1.0 %を超えて含有しても、その効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できないため経済的に不利となる。このため、Moは0.05〜1.0 %の範囲とするのが好ましい。
【0026】
Vは、炭窒化物を形成して組織の微細化と析出強化により強度を上昇する効果を有し、必要に応じ含有できる。この効果は、0.02%未満の含有では不明瞭であり、一方、0.5 %を超えて含有しても効果が飽和するうえ、連鋳時に鋳片割れ等の問題を引き起こす。このため、Vは0.02〜0.5 %の範囲とするのが好ましい。 Nbは、Vと同様に炭窒化物を形成して組織の微細化と析出強化により強度を上昇する効果を有し、必要に応じ含有できる。このような強度を上昇させる効果は0.01%未満の含有では不明瞭であり、また、0.3 %を超えて含有しても効果が飽和する。このため、Vは0.01〜0.3 %の範囲とするのが好ましい。
【0027】
上記した化学成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
まず、上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉等通常公知の溶製方法で溶製し、造塊法あるいは連続鋳造法等の通常公知の鋳造方法で凝固させ、鋼素材とするのが好ましい。なお、溶製にあたっては、取鍋精錬等の2次精錬を行ってよいのは言うまでもない。また、中心偏析の低減のために、鋳造時の鍛圧や均熱炉による保持を図ってもよい。
【0028】
ついで、これら鋼素材は、必要に応じ加熱され、板圧延、線棒圧延等の熱間圧延によりボルト部品用素材とされるのが好ましい。ボルト部品用素材とするための熱間圧延方法、熱間圧延条件についてはとくに限定されないが、熱間圧延後の冷却時に、その後のボルト部品成形のための鍛造や機械加工等に有利なように組織制御を行うのが好ましい。組織制御方法としては、制御圧延、制御冷却等が好ましく、これによりボルト部品用素材の軟質化が図れる。
【0029】
ついで、これらボルト部品用素材は、成形加工を施されて、ボルト部品とされる。成形加工は、とくに限定されないが、所望の寸法形状に応じ冷間鍛造、熱間鍛造、機械加工などから選択して用いるのが好ましい。なお、成形加工前に、工具寿命の改善を目的に、ボルト部品用素材に軟化焼鈍や球状化焼鈍を施す工程を設けてもよい。また、最終ボルト部品の製品寸法精度を得るために伸線加工などの軽加工を施してもよいことはいうまでもなく、またこれらの加工を施してもなんら本発明の効果には影響しない。
【0030】
本発明における特徴は、成形加工後のボルト部品の調質方法にある。
成形されたボルト部品は、まずオーステナイト単相領域であるAc3 変態点以上加熱し、焼入れる焼入れ処理を施される。
本発明では、焼入れ時の組織を残留オーステナイトが1%未満(0%を含む)のマルテンサイト組織とする。マルテンサイト以外の、たとえばベイナイト、パーライト等の組織を含むと、強度が低下し、所望の引張強さを得ることが困難となる。
【0031】
また、焼入れ時に残留オーステナイトが1%を超えて含有されると、残留オーステナイトが焼戻し時に分解されて形成される組織がボルト部品内に不均一を生じ、その理由は詳細には不明であるが、とくに海浜地帯等の飛来塩分量の多い環境下では耐候性(海浜耐候性)および耐遅れ破壊性を低下させる。
このため、本発明では焼入れ加熱温度をオーステナイト単相領域であるAc3 変態点以上とする必要がある。
【0032】
焼入れ加熱温度がAc3 変態点未満では、組織をほぼ完全なマルテンサイト単相組織とすることができない。このようなほぼ完全なマルテンサイト単相組織を得るためには、焼入れ温度をAc3 変態点以上、好ましくは1000℃以下の温度域とするのが好ましい。
なお、焼入組織における残留オーステナイト量は組成、焼入油温度、焼入前のオーステナイト粒径、焼入冷却速度などにより、複雑に変化するが、焼入性向上元素であるC、Mn、Ni等が多く含有されるほど、また焼入前のオーステナイト粒径が大きいほど、また焼入油温度が高いほど多い傾向となる。焼入時に残留オーステナイトが1 vol%以上含まれる場合は、サブゼロ処理などにより焼戻し処理前に残留オーステナイト量を1 vol%未満としておいてもよい。
【0033】
さらに、ボルト部品は、焼入のままでは十分な靭性が得られず、焼戻し処理を施される。焼戻し処理は、Ac1変態点以下の温度域で行うのが好ましい。焼戻し温度がAc1 変態点を超えると、オーステナイトが形成されるようになり、強度的にも不利になるばかりか、耐候性や耐遅れ破壊性が劣化する。なお、焼戻し処理は、Ac1変態点以下、 350℃以上とするのが耐遅れ破壊性の観点からより好ましい。
【0034】
【実施例】
表1に示す組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法により 300× 400mmの鋼素材とした。その後、これら鋼素材を、熱間圧延により、一旦150mm 角のビレットとし、さらに、熱間圧延(線材圧延)して22mmφの丸棒とし、ボルト部品用素材とした。また、一部の鋼素材は、熱間圧延にて6mmの熱延板とした。
【0035】
これらボルト部品用素材に適当な球状化処理を施し、冷間鍛造、転造からなる成形加工により、M22のボルトとした。
これら成形したボルトについて、表2に示す条件の焼入れ処理および焼戻し処理を施し、組織試験、引張試験、耐候性試験、耐遅れ破壊試験を実施した。なお、焼入れ処理のままでも、組織試験を実施した。組織試験、引張試験、耐候性試験、耐遅れ破壊試験の試験方法について下記に示す。
(1)組織試験
焼入れのままおよび焼入れ焼戻し後の各ボルトから試験片を採取し組織調査を行った。また、焼入れのまま試験片についてX線回折によりオーステナイト格子定数のピークを定量化することにより残留オーステナイト量を測定した。
(2)引張試験
引張試験は、ボルトよりJIS 4 号試験片を採取し、室温で引張速度:5mm/minで実施し、降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl、絞りηを求めた。
(3)耐候性試験
ボルトと同一の熱履歴(焼入れ焼戻し処理)を施した熱延板に、表面研削−ショットを施したのち、125 ×60×5mmの試験片を採取し、海水散布促進を200 日間実施し、試験後の試験片の腐食減厚を測定し、耐候性を評価した。なお、海水散布促進試験の条件はつぎのとおりである。
【0036】
設置場所:岸壁
海水散布:2回/週
腐食減厚が0.05mm未満を◎、0.05mm以上0.2 mm未満を△、0.2 mm以上を×として耐候性(海浜耐候性)を評価した。
(4)耐遅れ破壊試験
図1に示す試験片を用いて実施した。試験片は、直径6mmφで、ノッチ先端に0.05mmの丸味を付与した深さ1.5 mm、開き角度60°の環状切り欠きが設けられた試験片を使用した。試験雰囲気は0.1N-HCl水溶液中とし、付加応力は、同一形状の試験片を用い予め測定した切り欠き引張り強さ(σN )の0.8 倍とし、破断するまでの時間を求めた。
【0037】
これら試験の結果を表2に示す。
【0038】
【表1】
Figure 0004147701
【0039】
【表2】
Figure 0004147701
【0040】
表2から、本発明例は、いずれも 800MPa 以上の引張強さを有し、従来例に比べ、耐候性、および耐遅れ破壊性がともに優れている。
これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、引張強さが所望の値より低いか、耐候性、耐遅れ破壊性のいずれかあるいは両方が劣っている。
【0041】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、飛来塩分量の多い海浜地帯でも十分な海浜耐候性を有しさらに耐遅れ破壊性にも優れたボルト部品を安定して製造することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた促進遅れ破壊試験片の形状を示す説明図である。

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.15〜0.40%、 Si:0.15〜2.0 %、
    Mn:0.2 〜2.0 %、 P:0.02%以下、
    S:0.015 %以下、 Al:0.01〜0.050 %、
    Cu:0.2 〜0.5 %、 Ni:2.3 〜5.0 %、
    Cr:0.15%以下、 Ti:0.01〜0.05%、
    B:0.0005〜0.0040%、 N:0.0060%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼素材を熱間圧延によりボルト部品用素材としたのち、該ボルト部品用素材に成形加工を施しボルト部品とし、ついで該ボルト部品に、Ac3 点以上の温度からの焼入れ処理を施し、体積率で1%未満の残留オーステナイトを含む焼入組織とし、引き続いてAc1 点以下の温度での焼戻し処理を施し、焼戻しマルテンサイト組織とすることを特徴とする耐遅れ破壊特性および海浜耐候性に優れるボルト部品の製造方法。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.05〜1.0 %、Nb:0.01〜0.3 %、V:0.02〜0.5 %の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のボルト部品の製造方法。
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