JP4129760B2 - 複合仮撚糸とその製造方法および織編物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣料用途および産業資材用途に好適な杢調複合仮撚糸であって、更に詳しくは、本発明は、従来にない多色性とワイルドな流れ杢を有する複合仮撚糸とその製造方法、およびその複合仮撚糸を用いてなる織編物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カチオン染料可染性ポリエステル糸条とカチオン染料不染性のポリエステル糸条とを仮撚加工して流体処理を行なった仮撚糸では、その仮撚糸の構成比率やフィラメント数、あるいは交絡条件などによって交絡形態は変化し、それに伴って杢感も異なってくる。しかしながら、この場合はいずれも2色性しか表現できず、さらに撚糸を行なうとその杢はほとんど目立たなくなり、杢の効果が得られない。また、合撚による杢はその構造上、杢が単調であるばかりではなく、生産性を考えるとどうしてもコスト高である。
【0003】
そこで多色性を取り入れた糸条が、例えば特開平7-324237号公報で提案されている。これによれば多色効果は、カチオン染料可染性ポリエステルの異繊度混合シックアンドシン糸とカチオン染料に不染性のポリエステルを、仮撚加工、交絡加工した糸条であり、それを分散染料とカチオン染料で染色することによって異色効果を表現している。しかしながら、この方法では、微妙な色相を含めてもせいぜい3色までしか表現できず、その杢はトップ染ウール様のこなれの良い杢であるため、本発明の狙いであるワイルドな多色流れ杢を表現できない。
【0004】
また、濃淡コントラストを強調した糸条が、特開平8-35137号公報で提案されている。これによれば、カチオン染料可染性ポリエステル糸条とカチオン染料不染性ポリエステル糸条が繊維軸方向に太細部を有し、かつ、すべての糸条のその太繊度部の位相が揃っていることで、濃淡のコントラストを強調できるというものである。しかしながら、この方法では、カチオン染料可染性ポリエステル糸条とカチオン染料不染性ポリエステル糸条が、紡糸時に混繊されると、すべての糸条の各フィラメントが混ざり易いため、太線度部の位相が揃っているため、多色性を表現できない。また、その太繊度部の位相が揃っているために繊度差が部分部分で大きく、そのため仮撚加工を施すと繊度差がそのまま張力変動となり、糸速が速くなるにつれ加工性が悪く糸切れが多発しやすい。そのため、低速で加工しなければならないという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、すべての糸条に繊維軸方向に太さ斑をもたせることでそれぞれ染着差が異なることと、染料選択性を異にする熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条を使用することで従来にない多色性を取り入れることができるとともに、ソフトでかつ適度なふくらみ感を有する多色流れ杢調の複合仮撚糸と、その糸条の製造を仮撚加工一連で行なうことで、コスト的に有利な製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成せんとするものであって、本発明の複合仮撚糸は、少なくとも染料選択性の異なる2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条からなり、その熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条には交絡数50〜250個/mの交絡が付与されているとともに、すべての糸条は繊維軸方向に太さ斑を有する捲縮糸であり、かつ、それぞれの糸条間でその太部の位相がずれていることを特徴とする複合仮撚糸である。
【0007】
また、本発明の複合仮撚糸は、熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条が、繊維軸方向にシックアンドシンによる太さ斑を有し、かつそれぞれの糸条の各フィラメント間の太部の位相の大部分が一致しているとともに、その糸の構造が部分可逆的糸長差を有していること、カチオン染料可染糸条を10〜90重量%含み、捲縮率が10%以上で、かつ、糸条間の実質的な糸長差が3%以下であること、および上記のいずれかに記載の複合仮撚糸に、下記式の範囲の加撚を施してなることが好ましい。
【0008】
K ≦ 22000 / D1/2
(ここで、Kは撚糸数(t/m)、Dは複合仮撚糸の繊度(デニール)を表す。)
また、本発明の複合仮撚糸の製造方法は、少なくとも染料選択性を異にする2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフィラメント高配向未延伸糸を、それぞれ加熱装置にてガラス転移点+50℃以下の温度で別々に延伸し、ついで延伸倍率1.1倍以上で仮撚加工と交絡混繊加工を、仮撚加工一連で行なうことを特徴とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の複合仮撚糸は、少なくとも染料選択性の異なる2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条からなり、その熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条には交絡数50〜250個/mの交絡が付与されているとともに、すべての糸条は繊維軸方向に太さ斑を有する捲縮糸であり、かつ、それぞれの糸条間でその太部の位相がずれている複合仮撚糸である。
【0010】
つまり、まず杢を表現するための手段として染料選択性を異にする少なくとも2種の糸条を利用すればよい。そのために本発明では、熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条を用いる。例えば、酸性染料に可染性のナイロン繊維糸条や、分散染料に可染性のポリエステル繊維糸条などである。ポリエステルには、スルホネートイソフタル酸単位を共重合成分としたカチオン染料に可染性のポリエステルなどもこれに含まれる。本発明では、以下、熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条として、主としてカチオン染料可染性のポリエステル繊維糸条とカチオン染料に不染性で分散染料に可染性のポリエステル繊維糸条について説明するが、本発明はむろんこれに限定されるものではない。
【0011】
そして、これらの糸条は繊維軸方向に太さ斑を有する捲縮糸である。太さ斑を付与する方法はいくつかあるが、仮撚による捲縮も付与することを考慮すると、シックアンドシン加工を利用することが優れている。シックアンドシン糸のシック部は低配向であり、そのため染料を吸着しやすいので濃色に染まる。逆に、シン部は高配向であるため、染料を吸着しにくいため淡色となる。つまり、カチオン染料可染性ポリエステル繊維糸条とカチオン染料不染性ポリエステル繊維糸条のすべての糸条に太さ斑を付与することで、多色な杢感を表現することができるのである。
【0012】
シックアンドシンによる杢は、その加工条件にもよるが、比較的濃淡部が長く、流れ杢を表現し易いため本発明には好都合である。さらに、それぞれの糸条間で、その太部の位相がずれていることが必要である。太部の位相がずれているというのは、それぞれの糸条間で太部の位相が不規則に存在しており、極希に一致している部分は存在するが、大部分は太部の位相が異なるという意味である。後述するが、このような構造をとることで、ふくらみ感や、撚糸による杢への効果が期待できるのである。逆に、位相が一致しているとこれらの効果が得られないばかりか、糸条の凹凸が大きすぎるため、ソフト感に欠けるものとなり好ましくない。
【0013】
カチオン染料可染性(ポリエステル)繊維糸条の比率は10〜90%であり、さらに好ましくは20〜80%である。カチオン染料可染性繊維糸条の比率がこれより少ない場合は、カチオン染料可染性糸条が交絡混繊により隠れてしまい、多色性の効果が得られ難い。逆に、カチオン染料可染性繊維糸条の比率がこれより大きい場合は、カチオン染料不染性糸条が同様に交絡混繊によって隠れてしまうので、多色性が得られ難い。加工性の面でもカチオン染料可染性繊維糸条の比率が大きいと、毛羽が発生しやすく、また強度もその比率の増加に従って大きく低下してしまうので好ましくない。
【0014】
次に、本発明の複合仮撚糸には、ソフト感とふくらみ感をもたせるために、仮撚加工による捲縮が付与されている。その捲縮率は望ましくは10%以上必要であり、さらに好ましくは18%以上である。捲縮率がこれより少ない場合は、ソフト感およびふくらみ感の乏しいものとなってしまい好ましくない。
【0015】
また、本発明の複合仮撚糸では、糸条間の実質的な糸長差は、好ましくは3%以下である。実質的な糸長差とは、カチオン染料可染性繊維糸条とカチオン染料不染性繊維糸条とのそれぞれの繊維軸方向のトータル的な長さの差である。芯鞘構造の場合は、糸長差が大きい方がふくらみ感を出すには有利である。しかしながら、本発明の複合仮撚糸は、糸長差が実質的に3%以下であるにもかかわらず、十分なふくらみ感を有している。これは、すべての糸条が繊維軸方向に太さ斑を持っており、それによる空隙の発生と、その各糸条の太部の位相がずれているとともに、各フィラメント間ではその太部の位相が大部分一致していることが重要である。
【0016】
各糸条の太部(シック部)は不完全延伸部であり延伸部に比べ低配向であり、伸度が高く、逆に、細部(シン部)は完全延伸部であり高配向であり、その部分は比較的伸度が低い。そのため、高配向のシン部が芯糸のごとく、低配向のシック部が鞘糸のように形成する。それがカチオン染料可染性繊維糸条とカチオン染料不染性繊維糸条の両糸条で発生するため、その糸条間で部分芯鞘構造が発生し、それが各部で逆転している部分可逆的糸長差を有するランダム構造を形成するため、ふくらみ感を得られるのである。
【0017】
ここに、部分可逆的糸長差とは、それぞれの糸条でシック部とシン部が揃っている部分では、シック部側の糸条が長く、この部分で糸長差を有している。
【0018】
逆に、シック部とシン部が逆の糸条のときは、先ほどとは逆の糸条が長くなる。つまり、各部で糸長差を有し、それが部分部分で芯糸にあるいは鞘糸となるといった可逆的な糸長差を有するという意味である。
【0019】
次に、図面に基づいて本発明の複合仮撚糸を具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明の複合仮撚糸におけるシックアンドシンを説明するためのモデル図であり、図2は、糸条間でシックアンドシンの位相が揃っている糸条のモデル図である。
【0021】
図1では、カチオン染料可染性繊維糸条1がシック部3とシン部4で構成されており、またカチオン染料不染性繊維糸条2がシック部5とシン部6で構成されている。カチオン染料可染性繊維糸条1とカチオン染料不染性繊維糸条2のフィラメント間では、そのシック部3または5の位相がそれぞれ揃っており、また、カチオン染料可染性繊維糸条1とカチオン染料不染性繊維糸条2の2つの糸条間では、シック部3とシック部5の位相がずれているため、複合仮撚糸の横断面方向でみると、カチオン染料可染性繊維糸条1のシック部3とカチオン染料不染性繊維糸条2のシン部6が存在するA部と、カチオン染料可染性繊維糸条1のシン部4とカチオン染料不染性繊維糸条2のシック部5が存在するB部からなっている。
【0022】
また、図2では、図1の場合と同様に、カチオン染料可染性繊維糸条1とカチオン染料不染性繊維糸条2のフィラメント間では、そのシック部3または5の位相がそれぞれ揃っているが、カチオン染料可染性繊維糸条1とカチオン染料不染性繊維糸条2の2つの糸条間でもシック部3とシック部5の位相が揃っているため、複合仮撚糸の横断面方向でみると、カチオン染料可染性繊維糸条1のシック部3とカチオン染料不染性繊維糸条2のシック部5が存在するC部と、カチオン染料可染性繊維糸条1のシン部4とカチオン染料不染性繊維糸条2のシン部6が存在するD部からなっている。
【0023】
本発明の複合仮撚糸は、大部分のA部とB部と、一部のC部とD部が混在することによって、多色性を表現することができるのである。図2のように、太部の位相が一致した構造をとってしまうと、本発明の効果が得られないのは一目瞭然である。
【0024】
また、図3は、本発明の複合仮撚糸の部分可逆的糸長差を説明するためのモデル図である。
【0025】
仮撚によって、伸度の高いシック部が伸ばされるため、その部分では染料選択性の異なる糸条のシン部に比べて糸条が長くなる。つまり、シック部3とシン部6およびシン部4とシック部5で部分的な糸長差が発生する。これを図1で説明すると、A部では、カチオン染料可染性繊維糸条1が鞘糸となり、カチオン染料不染性繊維糸条2が芯糸となる。逆に、B部では、カチオン染料不染性繊維糸条2が鞘糸となり、カチオン染料可染性繊維糸条1が芯糸となる。このように部分部分で芯糸または鞘糸として存在することによって、部分可逆的糸長差を発生する。
【0026】
本発明の糸条には極端に大きな糸長差は必要なく、むしろ糸長差があることでふかつき感やしごきによるネップの発生、あるいは糸ずれによる杢異常となる危険性がある。
【0027】
次に、本発明の複合仮撚糸には、交絡数50〜250個/mの交絡が付与されていることが必要である。交絡がこれより少ない場合には、整経時にサイジングが必要となるためコスト高であるばかりでなく、織機で開口不良を起こしやすく、高次通過性の非常に悪い糸となる。逆に、交絡がこれより多い場合は、風合いが硬くなってしまい好ましくない。
【0028】
交絡数は、ROTHSCHILD社製のエンタングルメントテスターNPT-R2040を用いて測定した値から導く。測定方法は、測定する糸のデニール×0.1g/dの走行張力で糸を走らせて、下から針を刺して交絡点までの距離を読みとる。そのときのトリップレベル(交絡点確認値)を下記式のとおりに設定する。
【0029】
測定糸のデニール×0.1+(測定糸のデニ−ル/測定糸のフィラメント数)× 2これを30回測定し、交絡距離の半分の平均値が得られる。この距離を2倍し、1mあたりの平均交絡距離数を得るが、ここで交絡点の長さは微小であるため取り除き、平均交絡距離数をもって交絡数と定義する。以上のように本発明の複合仮撚糸は、ソフトでふくらみ感を有する多色流れ杢調複合仮撚糸であり、また、コスト的にも高次通過性にも非常に優れた糸条である。
【0030】
本発明の複合仮撚糸は、そのまま織編物に使用しても十分に多色流れ杢を表現できるが、さらに加撚を施すことによって一層流れ杢が強調できる。通常、杢糸に撚を施すと撚糸数が増加するにつれて細かくなり、杢の効果は非常に弱いものとなってしまう。しかしながら、本発明の複合仮撚糸の場合は、すべての糸条にシックアンドシンによる太さ斑を有していて、その太部の位相がずれているので撚糸をすると、混繊交絡によって糸の裏側に隠れていたシック部(濃色部)が表に出てくる。
【0031】
図4は、本発明の複合仮撚糸に、加撚を施したときのモデル図であり、(a)は、図1をさらに簡略化した無撚のモデル図であり、(b)は、400T/Mで加撚し、(c)は、800T/Mで加撚したときのモデル図である。それぞれの糸条のシック部が他方の糸条のシン部巻き付くことで外側を覆う。無撚では、シック部が糸条の裏側にあったり表側にあったりするため、流れ杢調とはなりにくいが、撚を施すことによって糸条裏側に隠れていたシック部が鞘糸となって表に出てきて巻き付くため、ワイルトな杢調が得られる。
【0032】
本発明では、さらに撚糸数を上げると、シック部が鞘糸のごとく糸の外側を図4のようにとりまくため、例えば、カチオン染料可染性ポリエステル繊維糸条のシック部はカチオン染料で染色した場合、その部分が長い濃染部となるため流れ杢をよりいっそう強調できるのである。その撚糸数は下記式の範囲で使用することが好ましい。
【0033】
K ≦ 22000 / D1/2
(ここで、Kは撚糸数(t/m)、Dは複合仮撚糸の繊度(デニール)を表す)。
【0034】
例えば、150デニールの糸条ならば約1800t/m以下の範囲であれば十分な多色流れ杢効果が得られるのである。
【0035】
しかしながら、位相が揃っていると撚糸数を上げるとこなれてしまい、その杢の効果は減少する。
【0036】
次に、本発明の複合仮撚糸の製造方法について説明する。
【0037】
本発明は、染料選択性を異にする2本以上の熱可塑性合成繊維マルチフィラメント高配向未延伸糸をそれぞれ加熱装置にてガラス転移点+50℃以下の温度で別々に延伸し、ついで延伸倍率1.1倍以上で仮撚加工と交絡混繊加工を、仮撚加工一連で行なうことを特徴とする複合仮撚糸の製造方法である。
【0038】
これまでと同じように、カチオン染料可染性のポリエステル繊維糸条とカチオン染料に不染性で分散染料に可染性のポリエステル繊維糸条について説明する。カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とカチオン染料に不染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を、それぞれ加熱装置にてガラス転移点+50℃以下の温度で、別々に延伸を行なうことである。
【0039】
ここでいうポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸とは、紡糸速度が2000〜 4500m/min、その複屈折率△nが0.015 〜 0.080の範囲のレベルのものである。本発明では、これらを別々に延伸することで、それぞれの糸質にあった延伸倍率を選択できるので、多種多様の組み合わせが可能となる。しかしながら、引き揃えて延伸してしまうと、高紡速の糸条に加工条件を合わせなければならず、紡速差がある場合は糸長差が発生し、ふかつきやしごきによるネップの発生が懸念されるなど好ましくない。
【0040】
また、延伸温度は、ガラス転移点+50℃以下で行なうことが必要で、延伸温度がこれより温度が高い場合は杢が弱められてしまうので好ましくない。また、延伸温度は、それぞれの糸条に応じて異ならせても良い。
【0041】
延伸されたそれぞれの糸条は、仮撚部で合糸されるが、合糸は仮撚部の前にローラを用いて引き揃えてから行なっても良い。延伸仮撚加工の延伸倍率は、1.1倍以上が好ましく、さらに好ましくは1.1倍以上、1.3倍以下である。延伸倍率がこれより少ない場合は糸速によっては加工が不安定となり、糸切れが多発するなど好ましくない。1.3倍を超える場合は延伸によってシック部が伸ばされ杢が弱められてしまうので好ましくない。
【0042】
仮撚装置は、ピンタイプ、あるいは3軸外接摩擦タイプやベルトニップタイプなどいずれでも良いが、高速加工が可能な3軸外接摩擦タイプやベルトニップタイプが好ましい。また、2つの糸条を収束させるために交絡を付与することが必要である。交絡混繊加工は仮撚の前あるいは後のどちらでも良いが、仮撚加工の前で交絡混繊加工を行なう場合は、その後の延伸仮撚によって交絡部がはずれやすくなるので、延伸仮撚加工の延伸倍率が低めの条件にするのが好ましい。また、交絡混繊に用いるノズルは、インターレースノズルあるいはタスランノズルのような空気乱流タイプのどちらでも良い。さらに、使用目的に応じて、熱処理ヒーターを使用しても良い。
【0043】
ここで、本発明の複合仮撚糸の製造方法を図面に基づき説明する。図5の(a)〜(c)は、それぞれ本発明の複合仮撚糸の製造方法の一例を示す工程図である。
【0044】
図5の(a)において、カチオン染料可染性高配向未延伸糸7をフィードローラ9と10の間で、熱ピン18を用いてシックアンドシンとする。同様に、カチオン染料不染性高配向未延伸糸8をフィードローラ11と12の間で、熱ピン18を用いてシックアンドシンとする。それぞれの糸条をフィードローラ13を介して合糸した後、仮撚ヒーター19、仮撚ツイスター21、デリベリローラ14の間で、延伸同時仮撚加工を行なう。そして、交絡混繊ノズル22を用いてデリベリローラ14とフィードローラ15の間で交絡混繊加工を行ない、巻き取りローラ17によって巻き取られ、加工糸チーズ23を得る。
【0045】
図5の(b)と(c)は、本発明の他の製造方法の例であり、(b)は、仮撚加工の前で交絡混繊加工を行なうものであり、また、(c)は、仮撚加工と交絡混繊加工の後に熱処理ヒーター用いたものである。(b)と(c)は、本発明では適宜採用されるものであり、いずれの方法も本発明の目的を達成しうるものである。
【0046】
【実施例】
次に、本発明の多色流れ杢糸調複合仮撚糸の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸130デニール24フィラメントと、カチオン染料に不染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸175デニール48フィラメントを、温度90℃の熱ピンにて、それぞれ1.55倍、1.45倍に延伸した後、3軸外接摩擦仮撚装置にて1.20倍に延伸同時仮撚を行ない、ついでインターレースノズルを用いて加工圧3.0kg/cm2で交絡を付与し、170デニール72フィラメントの複合仮撚糸を得た。この複合仮撚糸は、2種の糸条間で太部の位相がずれており、それによって発生する部分可逆的糸長差が15.2%、カチオン染料可染糸条の比率が41%、糸長差2.5%、捲縮率20%、交絡数120個/mであった。この複合仮撚糸に400T/Mの撚を施して、織密度120×85で織組織2/2綾織にて製織した。ついで減量加工、カチオン染料、分散染料による染色加工を行なった。得られた織物は、多色なワイルドな流れた杢感と、ソフトでふくらみ感を有する織物であった。
【0048】
[比較例1]
実施例 1の原糸の組み合わせで、まず2種の糸条を引き揃えてインターレースノズルを用いて加工圧3.0kg/cm2で交絡を付与した後、温度90℃の熱ピンで1.45倍に延伸した。その後、3軸外接摩擦仮撚装置にて1.20倍に延伸同時仮撚を行ない、175デニール60フィラメントの複合仮撚糸を得た。この複合仮撚糸は、2種の糸条間で太部の位相が揃っていたので部分可逆的糸長差の発生がなかった。また、カチオン染料可染ポリエステル繊維糸条の比率が43%、糸長差10.5%、捲縮率18%、交絡数90個/mであった。この複合仮撚糸を、実施例1と同様に撚糸、製織および染色仕上げ加工を行なった。得られた織物は、せいぜい2〜3色のこまかな杢感で、実施例1に比べコントラストの弱いものであった。風合いは、ソフト感はあるもののややふかついた感じであり、極僅かにネップ状の糸のたまっている部分が存在した。
【0049】
[実施例2]
実施例1の原糸の組み合わせに、さらにカチオン染料に不染性のポリエチレンテレフタレート高配香味延伸糸125デニール18フィラメントを、温度90℃の熱ピンにて1.50倍で延伸した後、実施例1の糸条と3本を3軸外接摩擦仮撚装置にて1.20倍に延伸同時仮撚を行ない、ついでインターレースノズルを用いて加工圧4.0kg/cm2で交絡を付与し、240デニール90フィラメントの複合仮撚糸を得た。この複合仮撚糸は、3種の糸条間で太部の位相がずれており、それによって発生する部分可逆的糸長差が13.8%、カチオン染料可染糸条の比率が29%、糸長差が2.5%、捲縮率21%、交絡数120個/mであった。この複合仮撚糸に400T/Mの撚を施して、織密度105×78で織組織2/2綾織にて製織した。ついで減量加工、カチオン染料、分散染料による染色加工を行なった。得られた織物は多色な自然な色相と流れた杢感と、適度なハリコシとソフトでふくらみ感を有する織物であった。
【0050】
[実施例3]
カチオン染料に可染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸250デニール30フィラメントと、カチオン染料に不染性のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸60デニール72フィラメントとを温度90℃の熱ピンにて、それぞれ1.50倍、1.45倍に延伸した後、引き揃えてインターレースノズルを用いて加工圧3.5kg/cm2で交絡を付与し、ついでベルトニップ仮撚装置にて1.15倍に延伸同時仮撚加工を行い、180デニール102フィラメントの複合仮撚糸を得た。この複合仮撚糸は、2種の糸条間で太部の位相がずれており、それによる部分可逆的糸長差が12.9%、カチオン染料可染糸条の比率が80%、糸長差1.0%、捲縮率18%、交絡数100個/mであった。この複合仮撚糸に撚をかけないで天竺組織で製編した。ついで減量加工、カチオン染料、分散染料による染色加工を行なった。得られた編物は、カチオン可染染料糸条の比率が高かったため、優雅な流れ調の杢と、点々とカチオン染料不染糸条が存在する従来にない多色効果が得られた。また、風合いもソフトで適度なふくらみ感とカチオン効果によるドライ感も得られ、高級感のある編物であった。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、染料選択制を異にする2種以上のそれぞれの糸条間で太部の位相がずれていることによって発生する部分可逆的糸長差を有する複合仮撚糸である。また、この複合仮撚糸を無撚りで、あるいは、K ≦ 22000 / D1/2の加撚を施してから、経糸もしくは緯糸あるいは経糸と緯糸の両方に使用することによって、従来にない多色性とワイルドな流れ杢感、ソフトで十分なふくらみ感を有する織編物を得ることができる。
【0052】
また、本発明の製造方法を用いることによって、例えば、太さ斑付与加工時にそれぞれの糸の物性に合わせて別々に延伸を行うので、多種多様な組み合わせが可能である。また、太さ斑付与加工と交絡混繊加工および延伸仮撚加工を仮撚加工一連で行うことにより非常に経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の複合仮撚糸におけるシックアンドシンを説明するためのモデル図。
【図2】 糸条間でシックアンドシンの位相が揃っている糸条のモデル図。
【図3】 本発明の複合仮撚糸の部分可逆的糸長差を説明するためののモデル図。
【図4】 本発明の複合仮撚糸に加撚を施したときのモデル図。
【図5】 (a)〜(c)は、それぞれ本発明の複合仮撚糸の製造方法の一例を示す工程図。
【符号の説明】
1 : カチオン染料可染性繊維糸条
2 : カチオン染料不染性繊維糸条
3 : シック部
4 : シン部
5 : シック部
6 : シン部
7 : カチオン染料可染性高配向未延伸糸
8 : カチオン染料不染性高配向未延伸糸
9 : フィードローラ
10 : フィードローラ
11 : フィードローラ
12 : フィードローラ
13 : フィードローラ
14 : デリベリローラ
15 : フィードローラ
16 :フィードローラ
17 : 巻き取りローラ
18:熱ピン
19:仮撚ヒーター
20 : 熱処理ヒーター
21 : 仮撚ツイスター
22:交絡混繊ノズル
23 : 加工糸チーズ
Claims (6)
- 少なくとも染料選択性の異なる2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条からなり、その熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条には交絡数50〜250個/mの交絡が付与されているとともに、すべての糸条は繊維軸方向に太さ斑を有する捲縮糸であり、かつ、それぞれの糸条間でその太部の位相がずれていることを特徴とする複合仮撚糸。
- 熱可塑性合成繊維マルチフィラメント糸条が、繊維軸方向にシックアンドシンによる太さ斑を有し、かつそれぞれの糸条の各フィラメント間の太部の位相の大部分が一致しているとともに、その糸の構造が部分可逆的糸長差を有していることを特徴とする請求項1記載の複合仮撚糸。
- カチオン染料可染糸条を10〜90重量%含み、捲縮率が10%以上で、かつ、糸条間の実質的な糸長差が3%以下であることを特徴とする請求項2記載の複合仮撚糸。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の複合仮撚糸に、下記式の範囲の加撚を施してなる複合仮撚糸撚糸。
K ≦ 22000 / D1/2(ここで、Kは撚糸数(t/m)、Dは複合仮撚糸の繊度(デニール)を表す。) - 少なくとも染料選択性を異にする2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフィラメント高配向未延伸糸を、それぞれ加熱装置にてガラス転移点+50℃以下の温度で別々に延伸し、ついで延伸倍率1.1倍以上で仮撚加工と交絡混繊加工を、仮撚加工一連で行なうことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の複合仮撚糸の製造方法。
- 請求項1〜4記載のいずれかに記載の複合仮撚糸あるいは複合仮撚糸を、経糸もしくは緯糸あるいは経糸と緯糸の両方に使用した織編物。
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