JP4096747B2 - 表面性状に優れる冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、表面性状に優れたBを含有する冷延鋼板およびその製造方法、さらに詳細には、連続焼鈍法によって製造される表面性状に優れたBを含有する冷延鋼板およびその製造方法に関する。また、本発明は、連続焼鈍設備を用いて表面性状に優れた冷延鋼板を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
冷間圧延された鋼板は、引き続き製品の機械的特性(強度,延性,加工性等)を得るために熱処理を施される。鋼板の熱処理は、連続焼鈍炉を用いて行われるものが多い。
【0003】
連続焼鈍炉で鋼板の熱処理を行う場合、鋼板は高温の焼鈍炉内でハースロールを介して通板される。その際に、ハースロール表面に酸化物等の異物が付着堆積し、いわゆるピックアップを生成する。このピックアップが通板する鋼板表面に押し込まれると、凹状の押し疵となり、鋼板品質(表面性状)に著しい悪影響を及ぼすこと、またこの押し疵は、焼鈍温度が高いほど発生しやすくなることが知られている。
【0004】
従来から、前記押し疵発生の防止対策について、様々な提案が行われている。例えば、特許文献1〜3には、連続焼鈍炉における均熱温度を低温化し、均熱中に補助的に急速加熱を行うことでピックアップに起因する押し疵の発生を防止する方法が開示されている。
【0005】
その一方で、焼鈍炉内雰囲気からの対策も検討されている。例えば、特許文献4では、焼鈍炉内雰囲気ガスの露点とピックアップ発生との関係を検討した結果、雰囲気ガスの露点を0℃以下に保持して操業することでピックアップが防止できるとしている。
【0006】
また、特許文献5では、焼鈍炉内雰囲気および鋼板温度とピックアップ発生の関係を調査し、ピックアップの発生には露点と水素濃度の影響が大きく、また鋼板温度も影響することを明らかにし、ピックアップの発生限界をこれらの関係式により規定している。
【0007】
以下に、先行技術文献情報について記載する。
【0008】
【特許文献1】
特公平5−57333号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平7−54054号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平10−152728号公報
【0011】
【特許文献4】
特開昭59−104434号公報
【0012】
【特許文献5】
特開平11−158559号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
鋼板の加工性向上等の観点から、Bを含有させた鋼板(例えばTi−Bを含有させた鋼板)を連続焼鈍で熱処理して製造する冷延鋼板がある。前記Ti−Bを含有させた冷延鋼板には、ハースロールのピックアップに起因する押し疵が発生しやすいという問題がある。
【0014】
特許文献1〜3に開示される方法では、Ti−Bを含有する冷延鋼板に対しては、ハースロールのピックアップに起因する押し疵欠陥の発生を防止する効果が不十分である。また、均熱温度を低く押さえることで、十分な加工性が得られない場合がある。鋼板の加工性を確保し、高い生産性を得るためには、焼鈍温度を高くする必要があるが、その際に通板速度を急激に減速した場合にヒートバックルや炉内破断を生じるおそれがあり、また、ピックアップに起因する押し疵が発生しやすくなる。
【0015】
特許文献4、5に開示される方法では、Ti−Bを含有させた冷延鋼板を連続焼鈍炉で熱処理する際にピックアップに起因する押し疵の発生を確実に防止できない。
【0016】
本発明は、前記問題点を考慮し、Bを含有させた冷延鋼板(例えばTi−Bを含有させた冷延鋼板)に発生するピックアップに起因する押し疵を防止し、表面性状に優れた冷延鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、連続焼鈍設備を用いて表面性状に優れた冷延鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の手段は下記の通りである。
[1]鋼中成分として、質量比で、B:1ppm以上60ppm以下、C:35ppm以下、N:35ppm以下、Si:1.5%以下、Mn:0.03〜3%、P:0.001〜0.2%、S:0.001〜0.02%およびAl:0.005〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる冷延鋼板であって、鋼板最表面のBの70%以上がBNであることを特徴とする冷延鋼板。
【0023】
[2]鋼中成分として、質量比で、B:1ppm以上60ppm以下、C:35ppm以下、N:35ppm以下、Si:1.5%以下、Mn:0.03〜3%、P:0.001〜0.2%、S:0.001〜0.02%およびAl:0.005〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる冷延鋼板を、水素ガスと窒素ガスの混合雰囲気からなる連続焼鈍炉で連続焼鈍する際に、鋼板温度が750℃以上となる位置での炉内雰囲気温度T(℃)と露点DP(℃)が下記(1)式を満たすように焼鈍炉内雰囲気を制御し、鋼板最表面のBの70%以上をBNにすることを特徴とする冷延鋼板の製造方法。
DP≦0.29T−242・・・(1)
【0029】
なお、本明細書において、連続焼鈍冷延鋼板とは、連続焼鈍炉で熱処理された冷延鋼板を指している。また、本明細書において、鋼の成分を示す%は質量%であり、ppmも質量ppmである。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について発明に至った経緯と共に説明する。
【0031】
本発明者等は、ハースロール表面のピックアップ発生状況および鋼板の押し疵発生状況を詳細に観察した。その結果、鋼板温度が750℃以上となる位置に設置されたハースロール表面にピックアップが生成され、鋼板に押し疵を発生させていることを見出した。また、ハースロール表面に生成されたピックアップ物質は三酸化二ホウ素(B2O3)と酸化マンガン(MnO)の複合酸化物であることを突き止めた。
【0032】
図1はB2O3とMnOの平衡状態図である。この図1より、前記のハースロール表面にピックアップが生成される温度750℃以上では、このB2O3とMnOの複合酸化物は固液混合状態であることがわかる。
【0033】
以上のことから、以下の機構によって、ハースロール表面にピックアップが生成されると推定される。B2O3およびMnOは、連続焼鈍炉へ通板した鋼板の添加元素として存在するMnやBが、連続焼鈍炉内に微量に含まれる酸素と反応して、鋼板表面に析出する。MnOは全ての鋼種の鋼板表面に析出しており、B2O3は鋼中に固溶Bを含有する鋼種(例えばBを添加したIF鋼など)の鋼板表面に析出している。これらの鋼板表面に析出したB2O3およびMnOは、接触したハースロール表面に付着する。その際、図1に示したように、B2O3は連続焼鈍炉内の高温下では液体であり、先にハースロール表面に付着している付着物に染み込むようにして付着する。その結果、MnとBの複合酸化物は750℃以上の温度で液体を含むこととなり、液体を介して非常に緻密なB2O3およびMnOの焼結体(ピックアップ物質)をハースロール表面に生成する。そして、一度ハースロール表面に生成した前記ピックアップ物質は、通板中の当該鋼板に押し疵を発生させるだけでなく、その後に通板される鋼板表面にも押し疵を発生させる。
【0034】
本発明者等は、MnとBの複合酸化物で構成されたピックアップ物質の生成を抑える方法を鋭意検討した結果、鋼板表面にB2O3を析出させないことで、Bを含有する鋼板の押し疵発生を防止できるだけでなく、その後に通板される鋼板についても押し疵の発生を防止できることを見出した。また、Bを含有する鋼板を焼鈍する際に鋼板表面にB2O3を表面析出させない方法を見出した。
【0035】
Bを含有する鋼板は、Bが酸化される雰囲気で焼鈍した場合には鋼板表面にB2O3を析出し、Bが窒化される雰囲気で焼鈍した場合には鋼板表面に窒化ホウ素(BN)を析出する。鋼板表面に析出したBがB2O3である場合は、鋼板温度(詳細には、鋼板とハースロール間で反応が起きる部分の温度)が750℃以上の時には液体となってハースロール表面に付着しているMnOに染み込み、緻密なピックアップを形成する。一方、鋼板表面に析出したBがBNである場合には、鋼板の焼鈍温度では安定であって化学的には何の変化も起こさず、したがってハースロール表面に緻密なピックアップ物質を形成することはない。すなわち、連続焼鈍炉の炉内雰囲気をBにとって窒化雰囲気とすることによって、鋼板表面にBNを析出させ、B2O3を表面析出させないことが可能となる。
【0036】
本発明者等は、連続焼鈍炉を用いて炉内雰囲気を種々変化させて鋼中成分としてBを含有する鋼板に連続焼鈍を施し、焼鈍後の鋼板表面を分析し、Bの存在状態を調査し、またピックアップに起因する押し疵の発生状況を調査した。
【0037】
図2は本調査に使用した連続焼鈍炉の全体構成を示し、入側から順に、予熱炉1、加熱炉2、均熱炉3、冷却炉4、過時効炉5および急速冷却炉6から構成されている。予熱炉1の入口から進入した鋼板Sは、ハースロールHにより搬送されながら各炉で所定の熱処理を施され、急速冷却炉6出口から抽出される。
【0038】
図3は、加熱炉2および均熱炉3の詳細を示す縦断面図である。加熱炉2および均熱炉3は、その内部を複数のゾーンに分けて、それぞれのゾーン単位に雰囲気温度測定用の炉温計(熱電対)11を備えており、また各炉の出口近傍には鋼板温度計10をそれぞれ備えている。さらに、各炉内にはガス測定孔7に接続した水素濃度計8および露点計9を備えている。
【0039】
炉内雰囲気は、HNXガス(水素H2と窒素N2ガスの混合流体)にて充填されており、炉内は酸化防止のために正圧(数〜20mmHg)に保持されている。この炉内雰囲気は、流量調整弁12により水素と窒素のガス量が調整され、ガス投入孔13から投入される。そして、炉内雰囲気の水素濃度と露点を、水素濃度計8および露点計9によりオンラインで測定し、その測定値に基づいて水素投入量や窒素投入量を調整したり、炉圧差をつけたり、大気放散を促したりすることで、炉内雰囲気を制御することができる。
【0040】
本調査結果から、ピックアップ生成を抑制し、鋼板表面の押し疵の発生を防止するには、Bを含有する鋼板において、鋼板最表面のBは、70%以上をBNとすることが必要であることが明らかになった。
【0041】
ここで、鋼板最表面の「最表面」とは、一般的に普及している表面分析法であるXPS(X線光電子分光法)やAES(オージェ電子分光法)で測定している表面の深さに対応しており、その厚さは数nm程度、厚めにみても10nm以下である。鋼板最表面のB濃度およびBN濃度は、XPS(X線光電子分光法)で深さ方向分析を実施して求めることができる。すなわち、焼鈍後の鋼板を洗浄した後、XPS分光に、単色化したAlkα線を用いて600μmφの領域からスペクトルを測定する。表面の組成は、測定したスペクトルのピーク面積からピーク強度を求め、元素毎に求められている相対感度因子を行う標準的な手法を用いることができる。Bのピークは、化学シフトによりピークトップの位置が変化することを利用して、B 1sのピークをBN(ピークエネルギー190.7eV)とB酸化物(B2O3、本明細書ではB−Oとも記載する。ピークエネルギー192.0eV)に波形分離を行うことで、BN、B酸化物(B2O3)の有無を確認できる。また、BNとして存在するBの強度[BN]とBの全強度[B]の比([BN]/[B])を算出し、鋼板最表面の全B量のうちBNとして存在する量の比率(BN/B比率)を求めることができる。
【0042】
図4は、連続焼鈍後のB含有冷延鋼板表面を測定したXPSのスペクトルの一例を示ず図で、図中の実線はBの全強度を示し、破線のB−Nは、そのうちBNとして存在するBの強度、破線のB−OはそのうちB酸化物として存在するBの強度を示す。図4(a)はBNおよびB2O3が混在している例(BN/B=81%)であり、(b)はB−O(B2O3)のみが存在している例である。
【0043】
図5は、均熱炉3における炉内雰囲気温度、露点と鋼板最表面のBN析出程度(B2O3析出有無)の関係を示す相関図で、●は鋼板最表面のBの70%以上がBNであること(B2O3として存在するものは30%以下であること)、▲は鋼板最表面のBのうち、BNとして存在するものが70%未満であること(B2O3として存在するものは30%超であること)を示している。図5に示されるように、均熱炉3における炉内雰囲気温度と露点により、鋼板表面へのBNの析出比率(B2O3の析出の有無)が整理できることがわかる。そして、図5に示した直線(BNの析出比率が70%になる境界線)は、
DP=0.29T−242
と表すことができる。
【0044】
以下、本発明についてさらに詳述する。
【0045】
Bを含有する鋼板を焼鈍したときに、鋼板表面にB2O3が析出すると、750℃以上ではこれが液体となってハースロール表面に付着しているMnOに染み込み、緻密なピックアップが生成されて鋼板に押し疵を発生する。しかし、鋼板表面にBNを析出することでハースロール表面に緻密なピックアップが生成されなくなり、鋼板表面に押し疵が発生しなくなる。
【0046】
ピックアップ生成を抑制し、鋼板表面の押し疵の発生を防止するには、Bを含有する鋼板において、鋼板最表面のBは、70%以上をBNとすることが必要である。BNが70%未満になると、鋼板表面におけるB2O3の生成量が多くなることで、ピックアップ生成を抑制する効果が不十分となり、鋼板表面に押し疵が発生しやすくなる。
【0047】
次に、鋼板中のB、CおよびNの各含有量を限定した理由について説明する。
B:1ppm以上
加工性を向上するためには、1ppm以上含有させる必要がある。含有量が60ppmを超えると加工性を低下するので、含有量は60ppm以下とする。
C:35ppm以下、N:35ppm以下
ピックアップに起因する押し疵は鋼板温度が750℃以上となる温度で焼鈍される鋼板に発生しやすい。このような焼鈍温度で操業を行うのは、鋼中に、C:35ppm以下、N:35ppm以下を含有する極低炭素鋼板が主体であるためである。
【0048】
本発明では、さらに、必要に応じて下記のTi及びNbの1種以上を含有してもよい。
Ti:0.01〜0.1%
C、NやSを固定するために必要に応じて0.01%以上添加される。添加量が0.1%超となると加工性が劣化するので上限は0.1%とする。
Nb:0.01〜0.1%
C、NやSを固定するために必要に応じて0.01%以上添加される。添加量が0.1%超となると加工性が劣化するので上限は0.1%とする。
【0049】
本発明における他の含有成分についての規定は特になく、通常の極低炭素鋼板の製造にあたって、脱酸剤として添加されるAlや鋼の強度向上等のために添加されるMn等の必要な元素が適宜含有され、また、通常不可避不純物として含有されるSi、P、S等も含有される。これらの元素の好ましい添加量あるいは含有量は以下の通りである。
Si:1.5%以下
Si量が1.5%超は加工性や表面処理性に問題が生じる。
Mn:0.03〜3%
Mn量が0.03%未満になると熱間脆化が発生し、また3%超は加工性に問題が生じる。
P:0.001〜0.2%
P量を0.001%未満にするには著しいコスト上昇が生じ、また0.2%超になると脆化が生じる。
S:0.001〜0.02%
S量を0.001%未満にするには、コストが上昇する。0.02%以上になると、熱間脆化が発生する。
Al:0.005〜0.2%
脱酸のためにはAlを0.005%以上添加する必要がある。Al量が0.2%超になると加工性が劣化する。
【0050】
次に、本発明に係るB含有冷延鋼板の製造方法について図2および図3を参照して説明する。
【0051】
図2は本発明に係るB含有冷延鋼板の製造に使用する連続焼鈍炉の構成例を模式的に示す縦断面図である。全体の炉構成は、入側から順に、予熱炉1、加熱炉2、均熱炉3、冷却炉4、過時効炉5および急速冷却炉6から構成されている。予熱炉1の入口から進入した鋼帯Sは、ハースロールHにより搬送されながら各炉で所定の熱処理を施され、急速冷却炉6出口から抽出される。
【0052】
図3は、加熱炉2および均熱炉3の詳細の一例を示す縦断面図である。加熱炉2および均熱炉3は、その内部を複数のゾーンに分けて、それぞれのゾーン単位に雰囲気温度測定用の炉温計(熱電対)11を備えており、また各炉の出口近傍には鋼帯温度計10をそれぞれ備えている。さらに、各炉内にはガス測定孔7に接続した水素濃度計8および露点計9を備えている。
【0053】
炉内雰囲気は、HNXガス(水素H2と窒素N2ガスの混合流体)にて充填されており、炉内は酸化防止のために正圧(数〜20mmHg)に保持されている。この炉内雰囲気は、流量調整弁12により水素と窒素のガス量が調整され、ガス投入孔13から投入される。そして、炉内雰囲気の水素濃度と露点を、水素濃度計8および露点計9によりオンラインで測定し、その測定値に基づいて水素投入量や窒素投入量を調整したり、炉圧差をつけたり、大気放散を促したりすることで、炉内雰囲気を制御することができる。
【0054】
ここで、加熱炉2および均熱炉3の炉内雰囲気温度は、均熱炉3での鋼板温度が所定の焼鈍温度となるように制御される。つまり、加熱炉2での鋼板温度は炉内雰囲気温度以下であり、また均熱炉3における鋼板温度は炉内雰囲気温度にほぼ等しいと考えられる。したがって、前述の(1)式は、均熱炉3における炉内雰囲気温度を均熱炉3における鋼板温度(焼鈍温度)へ置き換えても実質的に差し支えない。一方、前述したように、本発明者等は炉内ハースロール表面のピックアップ発生状況を詳細に観察し、鋼板温度が750℃以上となる位置に設置されたハースロール表面にピックアップが生成されることを見出した。これらを総合すると、鋼板温度が750℃以上となる位置での炉内雰囲気の露点が、鋼板表面へのB2O3の析出の有無に影響を及ぼしていることが明らかである。
【0055】
したがって、本発明では、鋼中成分としてBを含有する鋼板に連続焼鈍を施す際、少なくとも鋼板温度が750℃以上となる位置での連続焼鈍炉内雰囲気を、あらかじめ求めた鋼板表面にB2O3を極力析出させない条件に制御し、鋼板最表面のBの70%以上をBNとする。すなわち、水素と窒素とからなり、且つ少なくとも鋼板温度が750℃以上となる位置での炉内雰囲気温度T(℃)における露点DP(℃)が下記(1)式を満たす焼鈍炉内雰囲気となるように制御する。
DP≦0.29T−242・・・(1)
このような焼鈍炉内雰囲気とすることにより、少なくともハースロール表面へのピックアップ生成に悪影響を及ぼすような鋼板表面へのB2O3の析出を抑制することができる。なお、炉内雰囲気の制御は、前述の水素投入量、窒素投入量、炉圧の調整、大気放散等により行えばよい。また、これらの調整は、雰囲気制御装置14により自動制御を行ってもよいし、手動で行ってもよい。
【0056】
ここで、前記(1)式における炉内雰囲気温度Tの範囲は、前述のように均熱炉においては鋼板温度とほぼ等しいと考えられるため、少なくとも750℃以上の範囲である。しかし、炉内雰囲気温度と鋼板温度とは厳密に等しいわけではなく、また炉内の測定位置によって差異があったり変動したりするため、前記(1)式の炉内雰囲気温度Tの範囲は700℃以上と考えるのが適当であると思われる。
【0057】
また、炉内雰囲気が前記(1)式を満足しない場合には、鋼中成分としてBを含有する鋼板を連続焼鈍炉に装入せず、前述の水素投入量、窒素投入量、炉圧の調整、大気放散等により炉内雰囲気を制御し、前記(1)式に規定した炉内雰囲気環境下とした後にBを含有する鋼板を連続焼鈍炉に装入し、焼鈍作業を実施する。
【0058】
連続焼鈍設備には、本発明で規定するB含有冷延鋼板以外の鋼板も通板される。本発明においては、前記で記載した方法でB含有冷延鋼板を製造することで、ハースロールへのピックアップ生成が抑制される結果、B含有冷延鋼板以外の冷延鋼板においてもハースロールピックアップに起因する押し疵の発生が抑制され、表面性状に優れる冷延鋼板を製造できる。
【0059】
【実施例】
(実施例1)
図2および図3に示す連続焼鈍炉および加熱炉、均熱炉を用いて、鋼板の連続焼鈍を一定期間実施した。用いた材料構成は、ピックアップ発生が問題となる材料、すなわち鋼中成分としてC:0.0005〜0.0030%、N:0.0010〜0.0035%、B:0.0001〜0.0060%を含有し、焼鈍温度が750〜860℃である極低炭素鋼板を、装入本数比で約30%含むものとした。また、鋼板のサイズは、板厚0.5〜2.7mm、板幅700〜1650mmである。
【0060】
図6は、ハースロール表面に生成したピックアップによる鋼板の押し疵発生状況の経時変化を示したもので、■は上記のB含有極低炭素鋼板をライン装入する際には焼鈍炉内雰囲気が前記(1)式を満たすように炉内雰囲気制御を行った本発明例、▲は前記のような炉内雰囲気制御を行わなかった従来例である。ここで、横軸はピックアップのないハースロールを組み込んでからの操業累計日数、縦軸は鋼板表面格付の優劣(発生した押し疵の程度)を4段階で評価したものである。この図6より明らかなように、従来例は操業累計日数が10日程度を過ぎると、押し疵の程度がひどくなり表面の厳格な材料を連続焼鈍炉へ装入することはできなかった。一方、本発明例では徐々に押し疵は発生するものの、その程度は軽く、操業累計日数が1ヶ月に達しても問題無く表面の厳格な材料を製造することができた。
【0061】
(実施例2)
実施例1で製造した本発明例および従来例のB含有極低炭素冷延鋼板について、鋼板最表面のBの存在状態の調査を行った。調査に供された本発明例の鋼板は、操業累計日数1ヶ月近辺で製造されたB含有極低炭素冷延鋼板で、C:0.0005〜0.0030%、N:0.0010〜0.0035%、B:0.0001〜0.0060%およびTi:0.01〜0.1%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、焼鈍温度が780〜850℃で焼鈍され、鋼板温度が750℃以上の温度域での雰囲気温度と露点の関係が前記(1)式の関係を満足するようにして製造された極低炭素鋼板である。調査に供された従来例の鋼板は、操業累計日数15日近辺で製造されたB含有極低炭素冷延鋼板で、C:0.0005〜0.0030%、N:0.0010〜0.0035%、B:0.0001〜0.0060%およびTi:0.01〜0.1%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、焼鈍温度が780〜820℃で焼鈍され、鋼板温度が750℃以上の温度域での雰囲気温度と露点の関係が前記(1)式の関係を満足しない範囲で製造された極低炭素鋼板である。
【0062】
Bの存在状態の調査は、焼鈍後の鋼板をアセトン中で超音波洗浄した後、ドライヤーで乾燥し、X線光電子分光分析を実施の形態で説明した手法で行った。調査結果を表1に記載する。表1には、ピックアップに起因するロール疵の評価結果も記載した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示されるように、鋼板最表面におけるBNの割合BN/Bが70%以上である本発明例の鋼板は、ロール疵の発生がなく、表面性状が極めて良好な鋼板が得られている。一方、鋼板最表面におけるBNの割合BN/Bが5%以下の比較例の鋼板は、ロール疵が発生しており、表面性状に劣る。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ピックアップに起因する押し疵の発生が防止されることで、連続焼鈍によって表面性状に優れるB含有冷延鋼板を製造できる。
【0066】
また、本発明の鋼板は、均熱温度を低く抑えることなく良好な表面性状が得られるので、加工性が低下するという問題がなく、ヒートバックル発生の問題が緩和されることで操業性が良好であり、生産性低下の問題もない。
【0067】
本発明によれば、連続焼鈍設備でBを含有する冷延鋼板において、ピックアップに起因する押し疵の発生を防止できるだけでなく、Bを含有する冷延鋼板以外の冷延鋼板に対してもハースロールのピックアップに起因する押し疵の発生が防止され、表面性状に優れた冷延鋼板を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】B2O3とMnOの平衡状態図である。
【図2】本発明に係るB含有冷延鋼板の製造に用いる連続焼鈍炉の構成例を模式的に示す縦断面図である。
【図3】図2に示した連続焼鈍炉の加熱炉および均熱炉の一例を示す縦断面図である。
【図4】連続焼鈍後のB含有冷延鋼板表面を測定したXPS(X線光電子分光法)のスペクトルの一例を示ず図で、(a)はBNおよびB−O(B2O3)が混在している例、(b)はB−O(B2O3)のみが存在している例である。
【図5】炉内雰囲気温度と露点に対する鋼板表面のB2O3析出有無の相関を示す図である。
【図6】実施例におけるハースロールのピックアップによる鋼板の押し疵発生状況を示した図である。
【符号の説明】
1 予熱炉
2 加熱炉
3 均熱炉
4 冷却炉
5 過時効炉
6 急速冷却炉
7 ガス測定孔
8 水素濃度計
9 露点計
10 鋼板温度計
11 炉温計(熱電対)
12 流量調整弁
13 ガス投入孔
14 雰囲気制御装置
S 鋼板
H ハースロール
Claims (2)
- 鋼中成分として、質量比で、B:1ppm以上60ppm以下、C:35ppm以下、N:35ppm以下、Si:1.5%以下、Mn:0.03〜3%、P:0.001〜0.2%、S:0.001〜0.02%およびAl:0.005〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる冷延鋼板であって、鋼板最表面のBの70%以上がBNであることを特徴とする冷延鋼板。
- 鋼中成分として、質量比で、B:1ppm以上60ppm以下、C:35ppm以下、N:35ppm以下、Si:1.5%以下、Mn:0.03〜3%、P:0.001〜0.2%、S:0.001〜0.02%およびAl:0.005〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる冷延鋼板を、水素ガスと窒素ガスの混合雰囲気からなる連続焼鈍炉で連続焼鈍する際に、鋼板温度が750℃以上となる位置での炉内雰囲気温度T(℃)と露点DP(℃)が下記(1)式を満たすように焼鈍炉内雰囲気を制御し、鋼板最表面のBの70%以上をBNにすることを特徴とする冷延鋼板の製造方法。
DP≦0.29T−242・・・(1)
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