本発明は、ディーゼル機関用の燃料噴射ポンプの噴射時期を制御するための構成に関するものであり、より詳しくは、プランジャに形成するリードにより始動時における噴射時期を変更するための構成に関するものである。
従来より、プランジャバレル内にてプランジャを上下摺動させて燃料を圧縮し、吐出弁を介して燃料噴射ノズルへ圧送する構成の燃料噴射ポンプが知られている。この燃料噴射ポンプにおいては、図13に示すごとく、プランジャバレル80に燃料供給口となるメインポート81に加え、溢流用サブポート82(以下、「サブポート82」とする)を形成し、該サブポート82を進角用アクチュエータ85にて開閉することで噴射時期を変更する機構、即ち、低温始動進角機構(以下、「CSD」(Cold Start Device)とする)を備えた構成が公知となっている(例えば、特許文献1参照。)。該CSDは、始動時にサブポート82を閉じることで、プランジャ70による燃料の圧送の開始時期(噴射時期)を進める制御、即ち、進角制御を行い、これにより、エンジンの始動性を向上させるようにしている。また、該CSDにおいて、サブポート82を閉じるための進角用アクチュエータ85には、電磁弁やサーモエレメント等が用いられており、特許文献1においても、これらが開示されている。
また、図14に示すごとく、プランジャ70に各種リードを設けることで、燃料時期を調整することとする構成も公知となっている(例えば、特許文献2参照。)。図14に示す構成では、プランジャ70に、該プランジャ70の頂部から右斜下方向に上部リード71を設けるとともに、該上部リード71の下方に、同じく、右斜下方向に下部リード72を設けている。また、該下部リード72の傾斜角は、上部リード71の傾斜角よりも大きく構成され、プランジャ70の周方向の位置によって、上部リード71と下部リード72との間の距離が異なるようにしている。このように構成されるプランジャ70は、電子制御ガバナ等のガバナ装置により、ポンプ回転数や負荷に応じて回転されるようになっており、メインポート81に対するプランジャ70の周方向の位置が変更されることにより、燃料の圧送の開始時期(噴射時期)や、メインポート81が閉じられる期間(燃料噴射量)が変更されるようになっている。
また、図14に示す構成では、プランジャ70の頂部に、前記上部リード71と周方向に位置をずらしてサブ上部リード73が設けらており、ポンプ回転数が低い場合では、該サブ上部リード73にて前記サブポート82が閉じられた際に、燃料の圧送が開始されるようになっている。
また、図14において、81a、81b、81c、81dは、ポンプ回転数や負荷に応じて変更されることになるメインポート81の圧送開始位置を示すものであり、81aは高回転かつ低負荷域、81bは低回転かつ低負荷域、81cは高回転かつ高負荷域、81dは低回転かつ高負荷域、にそれぞれ対応するものである。同様に、82a、82b、82c、82dは、ポンプ回転数や負荷に応じて変更されることになるサブポート82の圧送開始位置を示すものであり、82aは高回転かつ低負荷域、82bは低回転かつ低負荷域、82cは高回転かつ高負荷域、82dは低回転かつ高負荷域(例えば、「低温始動時」)、にそれぞれ対応するものである。
そして、この構成において、低回転かつ高負荷域においては、プランジャ70の摺動速度が遅く、燃料がサブポート82dから溢流され易いため、上部リード71によりメインポート81dが閉じられ、さらに、サブ上部リード73によりサブポート82dが閉じられた際に燃料の圧送が開始されることになる。このため、とくに「低温始動時」においては、サブポート82dを閉じる時期を早めて始動性を向上させるべく、サブ上部リード73によりサブポート82dが閉じられるのを待つまでもなく、前記CSDによりサブポート82dを閉じるようにしている。
特開2003−106240号公報
特開2002−180929号公報
上述した従来の燃料噴射ポンプの構成においては、CSDを採用するにあたり、電磁弁やサーモエレメント等の進角用アクチュエータの搭載が必要とされる等、部品点数の増加やコスト高といった問題があった。
他方、従来のCSDにおいて、「低温始動時」ではサブポート82dを閉じる時期を早めることとしているが、サブポート82dを閉じる時期が早まる分だけ、圧縮のための有効ストロークが急激に増加するため、図15に示す増加量Qのごとく、噴射量を大幅に増加させてしまうことになる。このため、噴射量の大幅な増加によって燃焼室が冷えてしまい、かえって低温始動性が悪化したり、黒煙の発生が増加したりする問題があった。
そこで、本発明は、以上の問題に鑑み、進角用アクチュエータを備えずに、CSDと同様の噴射時期の制御を行えるとともに、「低温始動時」での噴射量の増加を抑えることとする燃料噴射ポンプの構成を提案するものである。
本発明の解決しようとする課題は以上のごとくであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
請求項1においては、プランジャ(7)の頂部に、上部リード(7a)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)の下方であって、プランジャ(7)の周面には、下部リード(7b)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)と下部リード(7b)は、プランジャバレル(8)に設けられるメインポート(21)に対向する位置に設け、該プランジャ(7)の上面から下部リード(7b)に向って縦溝(7c)を形成し、該プランジャ(7)の頂部には、前記上部リード(7a)と周方向に位置をずらして、サブ上部リード(7d)を右斜下方向に向けて設け、該プランジャ(7)の頂部には、前記サブ上部リード(7d)よりも右方に、始動リード(7f)を設け、該始動リード(7f)は、プランジャ(7)の頂部の端面、即ち、プランジャ(7)の上端面と周面の間の縁部にて形成し、該サブ上部リード(7d)と始動リード(7f)はプランジャバレル(8)に設けた溢流用サブポート(22)に対向する位置に設け、該プランジャ(7)の周面における前記上部リード(7a)の下方で、前記下部リード(7b)の右方には、始動時噴射量調整リード(7u)を右斜下方向に向けて設け、該始動時噴射量調整リード(7u)は、前記下部リード(7b)を形成する溝(7m)と連通する溝(7n)により形成し、該始動時噴射量調整リード(7u)の左上端部は、該下部リード(7b)の右下端面よりも高い位置に配置し、始動時において、前記溢流用サブポート(22)の閉鎖に対して、該始動リード(7f)を使用し、前記メインポート(21)の開放に対して、該始動時噴射量調整リード(7u)を使用するものである。
請求項2においては、プランジャ(7)の頂部に、上部リード(7a)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)の下方であって、プランジャ(7)の周面には、下部リード(7b)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)と下部リード(7b)は、プランジャバレル(8)に設けられるメインポート(21)に対向する位置に設け、該プランジャ(7)の上面から下部リード(7b)に向って縦溝(7c)を形成し、該プランジャ(7)の頂部には、前記上部リード(7a)と周方向に位置をずらして、サブ上部リード(7d)を右斜下方向に向けて設け、該プランジャ(7)の頂部には、前記サブ上部リード(7d)よりも右方に、始動リード(7f)を設け、該始動リード(7f)は、プランジャ(7)の頂部の端面、即ち、プランジャ(7)の上端面と周面の間の縁部にて形成し、該サブ上部リード(7d)と始動リード(7f)はプランジャバレル(8)に設けた溢流用サブポート(22)に対向する位置に設け、前記始動リード(7f)の下方に、始動時噴射量調整リード(7uA)を設け、該始動時噴射量調整リード(7uA)は、該始動リード(7f)の下方のプランジャ(7)の周面に右斜下方向に向けて設けた溝(7p)により形成し、該溝(7p)は、前記縦溝(3c)に連通し、始動時において、前記溢流用サブポート(22)の閉鎖に対して、該始動リード(7f)を使用し、同じく溢流用サブポート(22)の開放に対して、該始動時噴射量調整リード(7uA)を使用するものである。
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
請求項1に記載の発明では、プランジャ(7)の頂部に、上部リード(7a)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)の下方であって、プランジャ(7)の周面には、下部リード(7b)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)と下部リード(7b)は、プランジャバレル(8)に設けられるメインポート(21)に対向する位置に設け、該プランジャ(7)の上面から下部リード(7b)に向って縦溝(7c)を形成し、該プランジャ(7)の頂部には、前記上部リード(7a)と周方向に位置をずらして、サブ上部リード(7d)を右斜下方向に向けて設け、該プランジャ(7)の頂部には、前記サブ上部リード(7d)よりも右方に、始動リード(7f)を設け、該始動リード(7f)は、プランジャ(7)の頂部の端面、即ち、プランジャ(7)の上端面と周面の間の縁部にて形成し、該サブ上部リード(7d)と始動リード(7f)はプランジャバレル(8)に設けた溢流用サブポート(22)に対向する位置に設け、該プランジャ(7)の周面における前記上部リード(7a)の下方で、前記下部リード(7b)の右方には、始動時噴射量調整リード(7u)を右斜下方向に向けて設け、該始動時噴射量調整リード(7u)は、前記下部リード(7b)を形成する溝(7m)と連通する溝(7n)により形成し、該始動時噴射量調整リード(7u)の左上端部は、該下部リード(7b)の右下端面よりも高い位置に配置し、始動時において、前記溢流用サブポート(22)の閉鎖に対して、該始動リード(7f)を使用し、前記メインポート(21)の開放に対して、該始動時噴射量調整リード(7u)を使用するので、始動時においては、始動リードにて圧送の開始時期を早めて始動性の向上を図るとともに、始動時噴射量調整リードによって燃料の圧送の終了時期を早めることで、噴射量の大幅な増加を防止するものである。
また、本発明では、従来のCSDに必要とされた進角用アクチュエータを備えずに、CSDと同様の噴射時期の制御を行え、部品点数の削減や、コスト低減を図ることができる。
請求項2に記載の発明では、プランジャ(7)の頂部に、上部リード(7a)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)の下方であって、プランジャ(7)の周面には、下部リード(7b)を右斜下方向に向けて設け、該上部リード(7a)と下部リード(7b)は、プランジャバレル(8)に設けられるメインポート(21)に対向する位置に設け、該プランジャ(7)の上面から下部リード(7b)に向って縦溝(7c)を形成し、該プランジャ(7)の頂部には、前記上部リード(7a)と周方向に位置をずらして、サブ上部リード(7d)を右斜下方向に向けて設け、該プランジャ(7)の頂部には、前記サブ上部リード(7d)よりも右方に、始動リード(7f)を設け、該始動リード(7f)は、プランジャ(7)の頂部の端面、即ち、プランジャ(7)の上端面と周面の間の縁部にて形成し、該サブ上部リード(7d)と始動リード(7f)はプランジャバレル(8)に設けた溢流用サブポート(22)に対向する位置に設け、前記始動リード(7f)の下方に、始動時噴射量調整リード(7uA)を設け、該始動時噴射量調整リード(7uA)は、該始動リード(7f)の下方のプランジャ(7)の周面に右斜下方向に向けて設けた溝(7p)により形成し、該溝(7p)は、前記縦溝(3c)に連通し、始動時において、前記溢流用サブポート(22)の閉鎖に対して、該始動リード(7f)を使用し、同じく溢流用サブポート(22)の開放に対して、該始動時噴射量調整リード(7uA)を使用するので、始動時においては、始動リードにて圧送の開始時期を早めて始動性の向上を図るとともに、始動時噴射量調整リードによって燃料の圧送の終了時期を早めることで、噴射量の大幅な増加を防止するものである。
また、本発明では、従来のCSDに必要とされた進角用アクチュエータを備えずに、CSDと同様の噴射時期の制御を行え、部品点数の削減や、コスト低減を図ることができる。
さらに、本発明では、コントロールラックのストローク(動作量)を最小限に抑えることができ、燃料噴射ポンプ全体としての小型化を図ることができる。
進角用アクチュエータを備えずに、CSDと同様の噴射時期の制御を行えるとともに、「低温始動時」での噴射量の増加を抑えるという目的を、プランジャの頂部に始動リードを設け、始動時において、該始動リードによりプランジャバレルに設けたサブポートを閉じて燃料の圧送を開始する構成とするとともに、プランジャの周面に始動時噴射量調整リードを設け、始動時において、該始動時噴射量調整リードによりプランジャバレルに設けたメインポートを開いて燃料の圧送を終了する構成とすることで達成する。
次に、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は実施例1におけるプランジャの周辺の構成を示す側面一部断面図、図2は実施例1におけるプランジャの展開図である。
図3はプランジャの回転制御に関する装置のブロック図、図4はポンプ回転数と噴射時期の関係を示す図、図5はポンプ回転数と噴射量の関係を示す図である。
図6は実施例2におけるプランジャの展開図、図7はポンプ回転数とコントロールラック位置の関係を示す図、図8は始動リードとサブ上部リードのそれぞれに対する有効ストロークについて示す図である。
図9の(a)はポンプ回転数と噴射量の関係を示す図、図9の(b)はラック位置とポンプ回転数の関係を示す図、図9の(c)は噴射タイミングとポンプ回転数の関係を示す図である。
図10は機械式ガバナにサーモエレメントを適用してなる実施例について示す図、図11は同じくサーモエレメントの構成について示す正面図である。
図12の(a)は暖態始動時におけるサーモエレメントの状態を示す図、図12の(b)は低温始動時におけるサーモエレメントの状態を示す図である。
また、図13は従来のCSDの周辺の構成を示す側面一部断面図、図14は従来のリードの配置について示すプランジャの展開図、図15は従来のCSDを備える構成におけるポンプ回転数と噴射量の関係を示す図である。
尚、以下の説明において、図2における紙面左側を左側とし、同じく紙面右側を右側とする。
実施例1においては、図1及び図2に示すごとく、始動時において、プランジャバレル8に設けた溢流用サブポート22をプランジャ7の頂部に設けた始動リード7fで閉じるようにするとともに、始動時における噴射量の調整用として、前記始動リード7fに対応する専用の始動時噴射量調整リード7uを設ける構成とするものである。
以下、実施例1の構成について詳述する。図1に示すごとく、プランジャバレル8内でプランジャ7が上下摺動する構成としており、プランジャバレル8には、燃料供給口となるメインポート21と、燃料溢流用のサブポート22が形成されている。また、図2では、プランジャ7の周面を展開して示しており、プランジャバレルに設けたメインポート21、及びサブポート22につき、燃料の圧送開始位置に対応する位置を、ポンプ回転数及び負荷毎に表している。メインポート21に関して、それぞれ、21aは高回転かつ低負荷域(ハイアイドル時)、21bは低回転かつ低負荷域(ローアイドル時)、21cは高回転かつ高負荷域(定格時)、21dは低回転かつ高負荷域(始動時)、の場合における圧送開始位置を示している。同様に、サブポート22に関して、それぞれ、22aは高回転かつ低負荷域(ハイアイドル時)、22bは低回転かつ低負荷域(ローアイドル時)、22cは高回転かつ高負荷域(定格時)、22dは低回転かつ高負荷域(始動時)、の場合における圧送開始位置を示している。
また、プランジャ7は、図3に示すごとく、ガバナ装置2によるコントロールラック3の動作にて回転されるものであり、上述したごとく、回転数及び負荷に応じて、メインポート21及びサブポート22とプランジャ7の相対位置関係が変更されるようになっている。尚、本実施例1において、ガバナ装置2の構成については特に限定されるものではなく、コントローラ1により制御される電子制御式や、該コントローラ1を備えない機械式の構成が採用され得る。
また、図2において、プランジャ7の頂部には、上部リード7aが右斜下方向に設けられており、該上部リード7aの下方であって、プランジャ7の周面には、下部リード7bが右斜下方向に設けられている。これら上部リード7a・下部リード7bは、プランジャ7に溝を彫ることにより形成される。また、プランジャ7の上面から下部リード7bに向って縦溝7cが形成されている。また、上部リード7a・下部リード7bは、プランジャバレルに設けられるメインポート21に対向する位置に設けられている。また、本実施例1では、ハイアイドル時、ローアイドル時、定格時において、下部リード7bが使用される。この構成により、プランジャ7が上昇すると、上部リード7aによりメインポート21が閉じ始め、メインポート21が完全に閉じられると、燃料の圧送が開始される。さらに、プランジャ7が上昇すると、下部リード7bによりメインポート21(21a・21b・21c)が開き始め、プランジャ7の上方の燃料圧室内の高圧燃料が縦溝7cを介してメインポート21に溢流され、これにより、燃料の圧送が終了される。
また、プランジャ7の頂部には、前記上部リード7aと周方向に位置をずらして、サブ上部リード7dが右斜下方向に設けられている。該サブ上部リード7dは、プランジャ7の頂部に刻設される。また、サブ上部リード7dは、プランジャバレルに設けられるサブポート22に対向する位置に設けられている。また、本実施例1では、ローアイドル時において、該サブ上部リード7dが使用される。この構成により、ポンプ回転数が低く、負荷も低いローアイドル時では、プランジャ7の摺動速度が遅く、サブポート22bからの燃料が溢流しやすいため、プランジャ7の上昇によりサブ上部リード7dにてサブポート22bが閉じ始めた後、サブポート22bが完全に閉じられた際に燃料の圧送が開始されるようにしている。このように、サブ上部リード7dにより、ポンプ回転数が低く、負荷も低いローアイドル時には、燃料の圧送の開始時期を遅らせる、即ち、遅角制御が行われるようになっている。
また、プランジャ7の頂部には、前記サブ上部リード7dよりも右方に、始動リード7fが設けられている。該始動リード7fは、プランジャ7の頂部の端面、即ち、プランジャ7の上端面と周面の間の縁部にて形成される。また、本実施例1においては、始動時において、該始動リード7fが使用される。この構成により、ポンプ回転数が低く、負荷が高い始動時では、始動リード7fにより、サブポート22dが閉じ始めるようにしている。この始動リード7fは、前記サブ上部リード7dよりも上方に配されるものであり、始動時では、前記ローアイドル時と比較して、燃料の圧送の開始時期を早める、即ち、進角制御が行われるようになっている。
また、プランジャ7の周面における前記上部リード7aの下方であって、前記下部リード7bの右方には、始動時噴射量調整リード7uが右斜下方向に設けられている。該始動時噴射量調整リード7uは、下部リード7bを形成する溝7mと連通する溝7nにより形成される。また、該始動時噴射量調整リード7uの左上端部は、下部リード7bの右下端面よりも高い位置に配されている。また、本実施例1においては、始動時において、該始動時噴射量調整リード7uが使用される。この構成により、ポンプ回転数が低く、負荷が高い始動時では、始動時噴射量調整リード7uにより、メインポート21dが開き始めるようにしている。そして、この始動時噴射量調整リード7uの左上端部は、前記下部リード7bの右下端面よりも高い位置に配されることから、下部リード7bを右斜下方向に延長してメインポート21dを開いて燃料の圧送を終了する構成とするものと比較して、早期にメインポート21dが開き始めるようになる。このように、始動時噴射量調整リード7uにより、メインポート21dが開き始める時期、即ち、燃料の圧送の終了時期を早めることができる。
以上のように、プランジャ7の頂部に始動リード7fを設け、始動時において、該始動リード7fによりプランジャバレル8に設けたサブポート22を閉じて燃料の圧送を開始する構成とするとともに、プランジャ7の周面に始動時噴射量調整リード7uを設け、始動時において、該始動時噴射量調整リード7uによりプランジャバレル8に設けたメインポート21を開いて燃料の圧送を終了する構成とするものである。
そして、以上の構成により、図4に示すごとく、始動時においては、前記始動リード7fが使用されることにより、噴射時期を早める(進角)させることができ、始動性の向上が図られる。また、図5に示すごとく、始動時においては、前記始動時噴射量調整リード7uが使用されることにより、前記始動リード7fにて圧送の開始時期が早められつつも、始動時噴射量調整リード7uによって燃料の圧送の終了時期が早められることで、噴射量を常に一定のレベルに抑えることができ、噴射量の大幅な増加によって燃焼室を冷やしてしまうことや、黒煙の発生の増加といった不具合の発生を防止することができる。
本実施例2においては、図6に示すごとく、前記上部リード7aの下方に始動時噴射量調整リード7uを設ける代わりに、前記始動リード7fの下方に、始動時噴射量調整リード7uAを設ける構成とするものである。始動時噴射量調整リード7uAは、始動リード7fの下方のプランジャ7の周面に右斜下方向に設けられるものであり、溝7pにより形成される。該溝7pは、前記縦溝3cに連通されている。
以上のように、プランジャ7の頂部に始動リード7fを設け、始動時において、該始動リード7fによりプランジャバレル8に設けたサブポート22を閉じて燃料の圧送を開始する構成とするとともに、プランジャ7の周面に始動時噴射量調整リード7uを設け、始動時において、該始動時噴射量調整リード7uにより前記サブポート22を開いて燃料の圧送を終了する構成とするものである。
そして、以上の構成により、図4に示すごとく、始動時においては、前記始動リード7fが使用されることにより、噴射時期を早める(進角)させることができ、始動性の向上が図られる。また、始動時においては、始動時噴射量調整リード7uAによりサブポート22dが開かれると、燃料の圧送が終了されるようになり、該始動時噴射量調整リード7uAを設けることによって燃料の圧送の終了時期を早めることができる。このようにして、前記始動リード7fにて圧送の開始時期が早められつつも、始動時噴射量調整リード7uAによって燃料の圧送の終了時期が早められることで、噴射量を常に一定のレベルに抑えることができ、噴射量の大幅な増加によって燃焼室を冷やしてしまうことや、黒煙の発生の増加といった不具合の発生を防止することができる。
さらに、このように、始動時噴射量調整リード7uAを始動リード7f側に設けることにより、始動時から、他のローアイドル時、ハイアイドル時、定格時に切り換える、即ち、使用するリードを切り換える際のコントロールラック3のストローク(動作量)を最小にすることができる。これは、実施例1のように、始動時噴射量調整リード7uを上部リード7a側に設けた場合には、メインポート21dの直径分だけプランジャ7を回転させる必要があるが、本実施例2の場合では、サブポート22dの直径分だけプランジャ7を回転させることにより、前記切り換えを行うことができるためである。このように、コントロールラック3のストローク(動作量)を最小限に抑えることによれば、燃料噴射ポンプ全体としての小型化を図ることができる。
図7に示すごとく、従来では、始動時において噴射量を増量させており、ポンプ回転数がある値にまで到達すると、噴射量の増量を終了させるようにしている。そして、この噴射量の増量を終了させる回転数を始動噴射量終了回転数Mとし、該始動噴射量終了回転数Mまで到達すると、前記ガバナ装置2(図3参照)によりコントロールラック3の位置を変更させ(実線31)、図4に示すごとくの噴射時期の遅角(実線33)や、図5に示すごとくの噴射量の減少(実線32)を行うようにしている。しかし、このように、ポンプ回転数が始動噴射量終了回転数Mにまで到達した際に、コントロールラック3の位置を変更してしまうと、アクセル指示値に対応する回転数(以下、「目標回転数Nset」とする)にまで到達させるまでに時間がかかってしまうことになり、特に、低温始動時においてエンジンの立ち上がりが悪いといった問題があった。そこで、本実施例3では、上述の実施例1・2に加え、低温始動時におけるエンジンの立ち上がりを改善すべく、以下の構成とするものである。
図3に示すごとく、本実施例3においては、コントローラ1によりガバナ装置2を制御する電子制御ガバナを採用し、コントロールラック3を介してプランジャ7の回転を電子制御する構成とする。前記コントローラ1では、予め記憶したプログラムによりガバナ装置2を制御し、コントロールラック3の位置を変更、又は保持するようにしている。
また、図7は、ポンプ回転数に対するコントロールラック3の位置を示すものである。このうち、点線34は、低温始動時におけるコントロールラック3の位置を示すものであり、ポンプ回転数が目標回転数Nsetの直前の回転数Nに到達するまでの間は、ガバナ装置2により、始動時におけるコントロールラック3の位置が保持されることを示している。これにより、ポンプ回転数が目標回転数Nsetの直前の回転数Nに到達するまでの間は、前記始動リード7f及び始動時噴射量調整リード7uが使用されるようになっている。
尚、「直前」が意味するところの目標回転数Nsetと回転数Nの間の回転数差については、予めプログラムにおいて一定の値を設定するほか、始動時の気温に応じて設定されるようにしてもよい。例えば、極低温である場合に目標回転数Nsetと回転数Nの間の回転数差をより小さくする、即ち、回転数Nを目標回転数Nsetに近づけるように設定することにより、極低温である場合でもエンジンの良好な立ち上がりを確保するといったことなどである。また、「直前」まで始動時におけるコントロールラック3の位置を保持するようにしているのは、目標回転数Nsetに到達する際には、コントロールラック3が始動時の位置から常温時(ローアイドル時、ハイアイドル時、定格時)の位置に変更されているようにするためである。
このようにして、図7に示すごとく、電子制御ガバナにより、低温始動時においては、回転数Nに到達するまでの間、始動時におけるコントロールラック3の位置が保持され(点線34)、図4に示すごとく、始動後においても、噴射時期の早い状態が維持され(点線35)、エンジンの立ち上がりを良好にすることができる。また、図5に示すごとく、始動後においても、噴射量の多い状態が保持され(点線36)、これによっても、エンジンの立ち上がりを良好にすることができる。
本実施例4では、プランジャ7の頂部にサブ上部リード7d(図2、図6参照)を設け、低温始動時には、前記始動リード7fにより前記溢流用サブポートを閉じて燃料の圧送を開始する構成とするとともに、暖態始動時には、前記サブ上部リード7dにより前記溢流用サブポートを閉じて燃料の圧送を開始する構成とするものである。
これは、図8に示すごとく、プランジャ7の頂部につき、サブ上部リード7dと、始動リード7fの切換が行われる領域Dでは、サブポートが閉じるタイミング(カムリフト)が急激に変化するものであり(特性線L1参照)、これにより、有効ストロークが急激に変化することになる(特性線L2参照)。このため、領域Dでは、噴射量の急激な増減の変化が生じ、安定した燃料噴射が行えない、つまりは、噴射量の制御が不能となってしまう。たとえば、低温始動時にラック位置Qが設定され、始動リード7f(低温始動域A2)を使用しての始動が行われ、始動後にラック位置Pが設定され、サブ上部リード7d(通常制御域A3)を使用しての通常の運転が行なわれる場合には、噴射量の増加する制御不可領域A1を通過することになり(プランジャ7の領域Dが使用されるということ)、この際の噴射量の増加により、黒煙が増加するといった問題が生じることになる。ところが、暖態始動時においては、始動性が良好であるため、あえて始動リード7fを使う必要はない。つまり、暖態始動時においては、ラック位置Pにおいて始動しても問題ないといえる。そして、このようにラック位置Pにて始動することによれば、その後のラック位置の調整は、通常制御領域A3においてのみ行われるため、制御不可領域A1(プランジャ7の領域D)において噴射が行われることもない。そこで、上記のように、暖態始動時においては、始動リード7fを使用せずに、サブ上部リード7dを使用することとするものである。
本実施例4を行うための具現化する形態として以下の二つを提案する。第一は、電子制御ガバナによるものである。この場合、図3に示すガバナ装置2において、周知の電子制御ガバナを採用するものとするものであり、該電子制御ガバナにより、コントロールラック3の位置が変更される。前記電子制御ガバナは、コントローラ1により制御される。コントローラ1は、機関始動の指令が入力されると、図示せぬ温度センサの検出値にもとづいて、機関が低温状態か、あるいは暖態状態かを判断する。そして、低温状態であると判断した場合には、低温始動時であるとして、始動リード7fを使用すべく、電子制御ガバナを作動させ、コントロールラックの位置を図8におけるラック位置Qに設定する。一方、暖態状態であると判断した場合には、暖態始動時であるとして、サブ上部リード7dを使用すべく、電子制御ガバナを作動させ、コントロールラックの位置を図8におけるラック位置Pに設定する。
以上により、暖態始動時においては、サブ上部リード7dが使用されるため、始動後の始動リード7fとサブ上部リード7dの間でのリードの切換が行われず、リードの切換に伴う黒煙増加といった不具合が生じることもない。図9の(a)〜(c)はこのことを説明するものであり、(a)においては、噴射量が低温始動時と暖態始動時で異なり、低温始動時においては、点線で示されるように、回転数が上昇しリードの切替の際に噴射量の一時的な上昇が発生するが、暖態始動時においては、このようなことが発生しないことを示している。また、(b)においては、ラック位置につき、低温始動時においては始動リード7fが使用され(始動リード領域)、暖態始動時においてはサブ上部リード7dが使用される(通常リード領域)ことを示している。また、(c)においては、噴射タイミングにつき、低温始動時においては進角が行われるが、暖態始動時においては進角が行われないことを示している。
第二は、機械式ガバナ(図10参照)によるものである。上記の電子制御ガバナによる場合には、コントローラ1の制御によってラック位置の切換制御が行われるものであるが、この例では、図11、12に示すごとくのサーモエレメント30を用い、ガバナレバー41に作用してコントロールラック3の位置を変更させるものとするものである。図10乃至図12に示すごとく、ガバナレバー41は、リンク42を介してコントロールラック3と連動連結されるものである。また、サーモエレメント30は、ガバナレバー41に作用して、リンク42を介して、コントロールラック3を進退させるものである。また、このサーモエレメント30は、ガバナケース44に固定される。また、サーモエレメント30には、リンク42の進退方向と直交方向に進退するピストン31が備えられており、該ピストン31の進退動作は、アクチュエータ32によってなされる。アクチュエータ32は、暖態始動時(暖態時)においては、ピストン31を伸張させ、低温始動時(低温時)においては、ピストン31を収縮させる。このピストン31は、アクチュエータ32に近い側の大径部31aと、アクチュエータ32から遠い側の小径部31bとから構成されている。暖態始動時(暖態時)においては、大径部31aがリンク42端部の当接部42aに当接されることで、リンク42が図において右方向、即ち、噴射量減量方向に移動され(図12(a)の状態)、ラック位置P(図8参照)が設定され、これにより、サブ上部リード7dが使用される。低温始動時(低温時)においては、小径部31bがリンク42端部の当接部42aに当接されることで、リンク42が図において左方向、即ち、噴射量減量方向に移動され(図12(b)の状態)、ラック位置P(図8参照)が設定される。
以上により、機械式ガバナの構成においても、温度状態に応じたラック位置の設定を行うことができる。また、該サーモエレメント30によれば、電気的な制御も必要なく、また、既存の機械式ガバナを備える燃料噴射ポンプに後付けで搭載することも可能となる。
本実施例5では、低温始動時と暖態始動時で設定されるコントロールラックの位置、即ち、ラック位置P、ラック位置Qは、変更可能に構成されるものとするものであり、これにより、サブポートに対する始動リード7f及びサブ上部リード7dの位置関係を調整し、プランジャ7の領域D(図8参照)の使用による噴射量の制御不能といった不具合を回避することとするものである。上記実施例4に述べた構成において、本実施例5を具現化する形態として以下の二つを提案する。電子制御ガバナを用いる場合には、コントローラ1に、温度状態に対応するラック位置P、ラック位置Qをマップ化した制御情報を記憶させるとともに、該制御情報を変更可能に構成することにより、具件化される。
他方、機械式ガバナにつき、上記サーモエレメント30においては、円形断面のアクチュエータ32をガバナケース44に回転自在に挿嵌するとともに、アクチュエータ32の基台35に円弧状の長孔35aを介してボルト36により固定する構成とする。そして、アクチュエータ32の中心位置32cと、ピストン31の中心位置31cとを偏心配置する構成とする。以上により、必要に応じてボルト36を緩めて基台35を回転させることで、ピストン31の位置を、図において左右方向に移動することが可能となり、これにより、サブポートに対する始動リード7f及びサブ上部リード7dを変更することができる。
本発明は、前記プランジャバレルに溢流用サブポートを形成し、該溢流用サブポートの開閉により噴射時期を調整する構成とする燃料噴射ポンプに適用可能である。また、従来のCSDを備える燃料噴射ポンプにおいては、本発明を適用することにより、電磁弁やサーモエレメント等の進角用アクチュエータを省いた構成とすることができる。
また、暖態始動時においては、サブ上部リードが使用されるため、始動後の始動リードとサブ上部リードの間でのリードの切換が行われず、リードの切換に伴う黒煙増加といった不具合が生じることもない。また、始動後においても、噴射時期の早い状態が維持され、エンジンの立ち上がりを良好にすることができる。また、始動後においても、噴射量の多い状態が保持され、これによっても、エンジンの立ち上がりを良好にすることができる。また、機械式ガバナの構成においても、温度状態に応じたラック位置の設定を行うことができる。
また、該サーモエレメントによれば、電気的な制御も必要なく、また、既存の機械式ガバナを備える燃料噴射ポンプに後付けで搭載することも可能となる。また、サブポートに対する始動リード及びサブ上部リードの位置関係を調整し、噴射量の制御不能といった不具合を回避することができる。
実施例1におけるプランジャの周辺の構成を示す側面一部断面図である。
実施例1におけるプランジャの展開図である。
プランジャの回転制御に関する装置のブロック図である。
ポンプ回転数と噴射時期の関係を示す図である。
ポンプ回転数と噴射量の関係を示す図である。
実施例2におけるプランジャの展開図である。
ポンプ回転数とコントロールラック位置の関係を示す図である。
始動リードとサブ上部リードのそれぞれに対する有効ストロークについて示す図である。
(a)は、ポンプ回転数と噴射量の関係を示す図である。(b)はラック位置とポンプ回転数の関係を示す図である。(c)は噴射タイミングとポンプ回転数の関係を示す図である。
機械式ガバナにサーモエレメントを適用してなる実施例について示す図である。
同じくサーモエレメントの構成について示す正面図である。
(a)は暖態始動時におけるサーモエレメントの状態を示す図である。(b)は低温始動時におけるサーモエレメントの状態を示す図である。
従来のCSDの周辺の構成を示す側面一部断面図である。
従来のリードの配置について示すプランジャの展開図である。
従来のCSDを備える構成におけるポンプ回転数と噴射量の関係を示す図である。
符号の説明
7 プランジャ
7a 上部リード
7b 下部リード
7f 始動リード
7u 始動時噴射量調整リード
21 メインポート
22 サブポート