JP4072232B2 - 光受信回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光受信回路に関するもので、特に入力される信号の変化に対し、高感度かつ広ダイナミックレンジで信号処理を行うに適した振幅調整機能を有する光受信回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
基幹伝送用(伝送距離は例えば最大数100km)の光通信システムで使用される光受信回路の一般的な構成を図2に示す。図2の構成の光受信回路による光信号の識別動作の一例を、図17を参照して説明する。光信号は、1ビット(bit)の信号伝送量に対してΔt毎に"1"、"0"に相当する光のオン・オフの矩形状パターンを形成して光受信回路に備えられた受光器(アバランシェフォトダイオ−ド:APD)に入射される(即ち、図17は6ビット分の光信号を示す)。APD内部では光信号により発生した電子、正孔対がアバランシェ増倍を起こし、信号電流が増幅される。このため、微弱な光信号でも検出することができる。APDから出力された電流信号は、さらに前置増幅器で電圧信号VPREに変換される。VPREはAGC増幅器(Automatic-gain-control amplifier:自動利得制御増幅器又は利得調整増幅器とも称される)によりさらに増幅され、識別回路DECに入力される。ここで、例えば、図に破線で示すように、光信号の強度が弱い場合でも、AGC増幅器の自動利得制御機能により、AGC増幅器の出力VAGCの振幅はほぼ一定に保たれる。これにより、識別回路での識別動作がより安定に行なわれる。識別回路DECでは、クロック信号CLKに同期して、AGC増幅器の出力信号VAGCがしきい値電位VTH(DECにて設定されるため、以下VTH(DEC)と表記)よりも高ければ"1"、低ければ"0"と判定してデータを出力する。なお、クロック信号CLKはAGC増幅器の出力信号VAGCからクロック抽出回路CEXTにより作られる。
【0003】
上述のAGC増幅器の一例は、アイ・イー・イー・イー ジャーナル オブ ソリッドステート サーキッツ,第29巻第7号(1994年)815−822頁(IEEE Journal of Solid-State Circuits, vol.29,No.7(1994) pp.815-822:以下、文献1と記す)に開示されている(図15参照)。文献1のAGC増幅器の特徴は、前置増幅器PREからの電圧信号VPREを利得可変型の増幅器A1,A2と利得固定型の増幅器A3の3段で増幅するところにある。まず、増幅器A3から出力される振幅VA3の信号は、ピーク検出回路PDに入力される。ピーク検出回路PDは、これに付設されたキャパシタCPDにより振幅VA3に基づく直流電圧V3を発生する。一方、参照回路REFでは、独自にピーク電圧の公称値VN(the Nominal value of the peak voltage:以下、標準振幅電圧と呼ぶ)が発生される。このVNは、参照回路REFに接続された可変電圧源Pにより調整されるものである。利得制御回路ではV3とVNとの比較が行われ、その差、即ち標準振幅電圧値からの信号振幅のずれに応じて増幅器A1,A2の利得を制御する電圧VGC1,VGC2が設定される。文献1が開示するAGC増幅器の特徴は、増幅器A1,A2の回路構成の相違により、入力信号VPREの振幅変化に対するVAGCのばらつきを抑えた、望ましくは振幅の均一な信号を発生させるところにある。
【0004】
文献1のAGC増幅器によれば、振幅10mV及び300mVのいずれの入力信号も13Gb(ギガ・ビット)/s(秒)の速度において振幅500mVの電圧信号VAGCが出力される。これらの出力信号は、2つのアウト・プット・バッファOBから出力されて、その一方は図2の識別回路DECに、もう一方はクロック抽出回路CEXTに夫々入力される。
【0005】
なお、文献1のAGC増幅器には増幅器A1,A2,A3のオフセットを制御するためのオフセット制御回路OC(外部キャパシタCOC付)も設けられている。
【0006】
さて、AGC増幅器からの出力信号に対し、識別回路DECでは出力信号の振幅電圧の上端と下端との間の或る電位をしきい値電位VTH(DEC)としてVAGCから"1"、"0"を判別する。ところで、光ファイバ等の光伝送路から伝送される"1"又は"0"の光信号が光受信回路の前置増幅器PREで電圧信号に変換される様子を図16に示す。横軸は信号電圧値を、縦軸は所定の電圧値の信号が発生する頻度を夫々示す。"1"及び"0"の信号を光信号のオン、オフで授受すると、光電変換素子及び前置増幅器PREで発生する雑音により、例えば図16の実線のような分布を示す。この時、識別回路DECで設定されるしきい値電位は、例えば"1"の信号の平均電圧値V1と"0"の信号の平均電圧値V0との中間値なるVth(A)に設定される。
【0007】
しかし、"1"信号が"0"信号より広い電圧分布を示す場合がある。即ち、"1"信号の電圧分布は図16(a)の実線で示したものを縦軸方向に潰した形状(破線で示したもの)になる。これは、受光素子(光電変換素子)としてAPD、又はエルビウムドープ光ファイバ増幅器(EDFA)とPIN接合型受光素子(PINダイオード)とを組み合わせて使用する場合に特に顕著となる。この現象の詳細については、例えば、「光ファイバ通信技術」(日刊工業新聞社)を参照されたい。この場合、しきい値電位Vth(A)以下の電圧信号は"1"信号でも"0"と判定される。このような誤った判定がなされる確率を誤り率と呼ぶ。しきい値電位Vth(A)の場合、破線で示す"1"信号の電圧分布曲線が囲む領域の全面積に対する一点破線より低電位側に仕切られた領域の面積の比率として誤り率は定義される。
【0008】
誤り率は、1信号の電圧分布曲線(破線)と0信号の電圧分布曲線(実線)が重複する場合、0とすることはできない。但し、しきい値電位をV0側にある程度シフトさせると、誤り率を低減することはできる。例えば、1信号の電圧分布曲線と0信号の電圧分布曲線とが交わるにしきい値電位Vth(B)のを設定する。その結果、0信号が1信号と誤認される可能性は残るものの、誤り率は図16に斜線で示す領域といずれかの電圧分布曲線が囲む領域との面積比まで低減できる。しきい値電位Vth(B)下において、真の0信号の幾つか(Vth(B)より強度の大きいもの)は識別回路において1信号と判定されるものの、このような誤認が生じる割合はしきい値電位Vth(A)下に比べて可成り低減される。
【0009】
通常、信号電圧の分布は、信号の大きさ(V1−V0)よりも大きく広がっており、しきい値電位をどこに設定しても、誤り率を完全に0にすることはできない。従って、光受信回路では非常に小さい或る一定の誤り率(例えば、10-12)を許容し、その誤り率を達成できる範囲にしきい値電位を設定する。なお、この場合、非常に小さい確率で発生する伝送誤りは、誤り訂正符号等により検出され且つ訂正される。
【0010】
図3は、受光素子としてAPD、又はEDFAとPINダイオードとを組み合わせて使用する場合のある誤り率の下でのしきい値電位の設定範囲と光信号強度の関係を模式的に示したものである。上述のように、"1"信号が"0"信号より広い電圧分布を示すため、しきい値電位の設定範囲は"0"信号側に偏っている。また、光信号強度が小さくなると、しきい値電位の設定範囲は徐々に狭くなり、ついには、所望の誤り率を達成することができなくなる。この時の光信号強度(図中のPmin0)を最小受信感度と呼ぶ。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
短距離から長距離に亘る様々な距離で伝送された光信号を一つの受信器でカバーするために、基幹伝送用受信器でも受信信号強度に対する広いダイナミックレンジが要求されている。即ち、伝送距離が短い場合には、光ファイバでの信号の減衰は小さいため、強い光信号が受信器に入力される。一方、伝送距離が長い場合には、受信器に入力される光信号は非常に弱くなる。光受信器は、これら2種類の信号をともに扱わねばならない。
【0012】
ところで、図2の構成の受信器に強い光信号が入力された場合には、以下に述べる前置増幅器のスルーレート(Slew Rate)に起因する問題が発生する。図18に強い光信号が入力された場合の受信器の応答波形を示す。光信号の強度が強いと受光素子の出力電流も多くなり、前置増幅器の出力振幅も大きくなる。しかし、前置増幅器の出力振幅が大きくなり過ぎると、同図に示すように、出力信号が定常値に達する前に次の光信号入力に因る出力信号変化が起こり、出力波形が三角波となる部分が生じる。これは、前置増幅器の出力VPREの変化の速度に上限があるためで、この上限の速度(dV/dt)をスルーレートと呼ぶ。AGC増幅器のスルーレートが前置増幅器のそれよりも充分大きければ、AGC増幅器の出力信号はVPREと相似形の波形となる。
【0013】
図に示した例では、しきい値電位VTH(DEC)をどこに設定しても、第1番目(図18左端の光信号強度0)のビット及び第5番目(図18右から2番目の光信号強度1)のビットの少なくとも一方は、誤って識別される。なぜなら、上記第1番目のビットを0と識別するにはしきい値電位VTH(DEC)を上記第5番目のビットを1と認識するに高過ぎる値に設定せざるを得ず、また、当該第5番目のビットを1と識別するにはVTH(DEC)を当該第1番目のビットを0と認識するに低過ぎる値に設定せざるを得ないからである。また前置増幅器の出力VPREの振幅が大きくなるため、前置増幅器の出力段のトランジスタに掛かる電圧が増加し、高耐圧のトランジスタを使用する必要がある。一般に、高耐圧のトランジスタの動作速度は耐圧の低いものに比べて遅いため、高速な光受信器には使用できないという問題もあった。従って、図2の従来技術では、強度の強い光信号を受信することは非常に難しかった。
【0014】
一方、上記のスルーレートに起因する問題を避けることができる光受信器としては、例えば、アイ イー イー イー ジャーナル オブ ソリッドステートサーキッツ,第30巻第9号(1995年)991−997頁(IEEE Journal of Solid-State Circuits,vol.30,No.9(1995), pp.991-997:以下、文献2と記す)に記載されたものがある。図4に、文献2が開示する光受信回路の構成を示す。この回路は、ローカルエリアネットワーク(LAN)等で用いられるもので、伝送距離は最大でも数km程度と短い。このため、APDの代わりにPINフォトダイオードPINを用いている。また、AGC増幅器の代わりにリミット増幅器LAを用いている。
【0015】
AGC増幅器では利得を制御して出力信号の振幅を一定に保つのに対し、リミット増幅器(リミットアンプ)は利得を非常に大きく設定しておき、出力振幅が所望の値以上になる場合は出力をクランプして(所定の出力電圧に抑えて)振幅を制限する。即ち、しきい値電位VTH(LA)を入力信号の高電位(例えば、1に相当)と低電位(例えば、0に相当)のちょうど真中になるように、しきい値電位制御回路VCNTにより制御しておき、入力信号とVTH(LA)を比較し、VTH(LA)よりも高ければ、入力信号の振幅によらず一定の電位VLA(0)を出力する。
【0016】
この文献の例では、リミット増幅器LAの利得を約60dBに設定してあり、入力信号の振幅が数mVから1V程度の広い範囲で、一定振幅の出力信号が得られる。このような構成では、リミットアンプの利得が非常に高いので、前置増幅器の利得(出力電圧と入力電流の比:トランスインピーダンスと呼ぶ)を余り高くする必要がない。従って、強度の強い光信号が入力された場合でも、前置増幅器の出力VPREの振幅は上記の構成ほど大きくはならないので、図18のように波形が歪んで三角波になることがない。このため、スルーレートに起因する問題は発生しない。
【0017】
しかし、この構成の回路において伝送距離を延ばすため、受光素子をPINフォトダイオードからAPD、又はEDFAとPINダイオードとを組み合わせた検出器に取り替えると、受信器の最小受信感度が劣化するという問題がある。以下、この理由を図5を用いて説明する。図5は前置増幅器出力VPREにおけるリミット増幅器のしきい値電位VTH(LA)の設定範囲を示したものである。増幅作用がある受光素子を使用するため、"1"信号が"0"信号より広い電圧分布を示し、しきい値電位の設定範囲は"0"信号側に偏っている。リミット増幅器の出力(VLA)は、VPREからVTH(LA)±数mVの信号を取り出し、増幅したものとなる(2重線のグラフはこの数mVの電圧幅を示す)。VTH(LA)はVPRE(0)とVPRE(1)のちょうど真中に設定されるので、VTH(LA)は光信号強度がPmin1以下の領域ではしきい値の設定範囲からはずれてしまうことがわかる。従って、最小受信感度はPmin1となり、図2の構成よりも最小受信感度が劣化する。
【0018】
なお、ここで注意すべきことは、上述の最小受信感度の劣化は、文献2の構成では発生しないということである。これは、文献2の構成では、受光素子としてPINダイオードを使用しているためである。PINダイオードは増幅作用はないため、"1"信号は"0"信号と同じ電圧分布を示し、VTH(LA)がVPRE(0)とVPRE(1)のちょうど真中に設定されていても、上述の問題は発生しない。
【0019】
この問題を避ける方法として、リミット増幅器のしきい値電位VTH(LA)をVPREの中心ではなく、"0"レベル側に調整する方法が考えられる。しかし、調整対象とする光信号の強度は弱く(特にPmin1未満の範囲)、VPREの振幅が小さい条件下で、高精度でしきい値電位VTH(LA)を調整することが要請されるため、実現は困難を極める。また、送信器や光ファイバの特性の経年変動により、光信号の強度は変動するので、定期的にしきい値VTH(LA)の再調整を行なう必要が生じる。このように、文献2が開示するLAN用の広ダイナミックレンジ受信回路をそのまま長距離伝送用広ダイナミックレンジ受信器に適用することはできなかった。
【0020】
光受信回路の受信強度に対するダイナミックレンジを拡げる技術としては、識別回路の参照電位の設定を改良する技術が特開平5-259752号に、所謂前置増幅器の利得設定を改良する技術が特開平8-139526号、特開平7-193437号、特開平7-38342号及び特開平5-67930号に開示されているが、いずれも伝送周波数100MHzの光通信システムへの適用を意図したものであった。即ち、これらの技術は10ns(ナノ秒:10-9秒)の間隔で受信される光パルスに対する応答特性は期待できるものの、例えば10GHzの幹線用光通信システムにて100ps(ピコ秒:10-12秒)の間隔で受信される光信号には実用上応答できなかった。
【0021】
また、特開平9-246879号及び特開平5-218758号に開示される光受信回路に於ける電圧パルス幅の劣化を抑止する技術からも、上記先行技術の問題を解決する技術を見出せなかった。
【0022】
本発明の目的は、高感度かつ広ダイナミックレンジの光受信回路を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明では、光信号を受けて電気信号に変換し且つこれを出力する光受信回路において、光信号を電流信号に変換する光電変換部と、該光電変換部の出力電流信号を電圧信号に変換する前置増幅器と、該前置増幅器の出力電圧信号を受ける増幅器であって、入力信号と参照電位との差が所定の電圧よりも小さい場合は線型増幅し且つ所定の電圧よりも大きい場合はリミット増幅するリミット機能付き増幅器と、該リミット機能付き増幅器の出力信号を増幅して一定振幅の信号を出力する自動利得増幅器を含むことを特徴とする。
【0024】
上記リミット機能付き増幅器がリミット増幅を始める所定の電圧は、上記前置増幅器の最小受信感度における出力信号電圧と上記参照電位との差よりも大きく設定されることが望ましい。上記最小受信感度における前置増幅器の出力信号電圧は、上記光電変換部と上記前置増幅器とで決まり、その値は上記光受信回路に所望される誤り率に依存する。
【0025】
さらに、該光信号の所望のダイナミックレンジの範囲内で、次の式1で規定される関係を満たすように該リミット機能付き増幅器の出力信号振幅を制限することが望ましい。
【0026】
【数1】
ΔVAWL<Rs・Δt …(式1)
式1において、ΔVAWLは該リミット機能付き増幅器の出力信号振幅、Δtは1ビットの光信号が占める時間、Rsは該リミット機能付き増幅器のスルーレートを夫々示す。
【0027】
また、該光電変換部はアバランシェフォトダイオードあるいはエルビウムドープ光ファイバ増幅器とPINフォトダイオードで構成すると、最小受信感度を改善することができる。
【0028】
本発明の光受信回路は、光信号が弱い場合は、これから生じた電圧信号VPREをリミット機能付き増幅器及びその次段のAGC増幅器で線型増幅し、当該AGC回路からの出力電圧VAGCを後段の識別回路に入力する。識別回路は、これに入力された電圧信号VAGCの1と0とを識別するためのしきい値電位を当該VAGCの信号振幅(1と0との信号電圧差)に応じて設定する。従って、上記リミット機能付き増幅器及びAGC増幅器による電圧信号の線型増幅により、上記識別回路は微弱な光信号に対しても適切なしきい値電位を設定することができる。一方、光信号強度が強い場合には、リミット機能付き増幅器は出力信号VAWLの振幅を抑えることで、上記前置増幅器の出力信号の歪を防ぎ且つ誤り率の増加を抑制する。
【0029】
本発明の要旨を、ある限定された一局面で捉えれば、光電変換部(受光素子)、当該光電変換部から出力される電流信号を電圧信号に変換する第1の増幅回路(前置増幅器)、当該前置増幅部から出力される電圧信号の振幅ばらつきを低減する第2の増幅回路(利得調整増幅器又はAGC増幅器)からなる光受信回路、又はこれに第2の増幅回路から出力される電圧信号の処理(識別)を行う識別回路と組み合わせて構成した光伝送端末装置もしくは光伝送システムにおいて、第1の増幅回路と第2の増幅回路との間に次の機能を有する第3の増幅回路を設けることにある。上記第3の増幅回路に要請される第1の機能は、その出力信号振幅ΔVAWLをその(当該第3の増幅器の)スルーレートRsと1ビットの光信号が占める時間Δtで規定されるRs・Δtより小さくすることである。
【0030】
一方、第3の増幅回路に要請される第2の機能は、上記第1の増幅回路から当該第3の増幅回路に入力される電圧信号を所定の電圧振幅以下の振幅に線形増幅を行うことである。この機能は、当該第1の増幅回路から第3の増幅回路へ入力される電圧信号の振幅が特に微小な場合、この信号検出において重要である。このため、第3の増幅回路による線形増幅範囲は従来のリミット増幅器に比べ広く設定される。一般に線形増幅範囲を広くすると利得が低下するが、第3の増幅回路が後段の第2の増幅回路と組み合わせて利用されるために実用的な問題を生じない。
【0031】
以上に概要を説明した本発明の回路構成によれば、光信号強度が弱い場合には、リミット機能付き増幅器が線形増幅動作しているので、次段のAGC増幅器でさらに線形増幅を行なうことにより、識別回路のしきい値を最適点に設定することができる。また、光信号強度が強い場合には、リミット機能付き増幅器がリミット動作し、前置増幅器の出力信号振幅が歪んで、誤り率が増大するのを防止する。これにより、高感度、広ダイナミックレンジの光受信回路を実現することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳しく説明する。
【0033】
図1は本発明の基本構成を示した図である。図2の従来技術(文献1)とは、前置増幅器PREと利得調整増幅器(以下、AGC増幅器とも記す)AGCの間にリミット機能付き増幅器AWL及び参照電位発生回路VRGが挿入されている点が異なる。一方、図4の従来技術(文献2)とは、前置増幅器PREからの入力信号に基づき参照電位を発生する参照電位発生回路VRGと、参照電位が入力されるリミット機能付き増幅器AWLを組み合わせる点で一見類似するが、リミット機能付き増幅器の電圧増幅利得に大きな差があり、従来技術(文献2)が開示するリミット増幅器LAには微弱な振幅を有する入力信号を線形増幅する配慮がなされていない点が本発明のリミット機能付き増幅器AWLと大きく異なる。即ち、本発明のリミット機能付き増幅器AWLは基本的には線形増幅器であり、出力振幅が一定値を超えた場合のみリミット機能により、出力振幅をその回路構成で定められた値に略一定に保つよう働く。
【0034】
本発明の光受信回路の上述の基本構成に特徴づけられる機能について、図6を参照しながら説明する。図6は前置増幅器出力VPREに対するしきい値電位の設定範囲を示したものである。
【0035】
リミット機能付き増幅器AWLの参照電位Vrefは前置増幅器出力信号VPRE0(0)とVPRE(1)(ともに破線グラフで示す)とのちょうど中心に設定され、AWLの線形増幅範囲(太い斜め線グラフに挟まれた縦軸方向の幅)は従来のリミット増幅器よりもはるかに広い(数100mV)。このため、図6に示すように、光信号強度が最小受信感度Pmin0の場合は、線形増幅動作してVAWLを出力し、且つ図2の従来技術と同じように次段のAGC増幅器でさらに線形増幅を行なうことにより、識別回路のしきい値を最適点(光信号強度に対し決まる図6の斜線部内の電圧値VPRE)に設定することができる。一方、光信号強度が大きい場合には、リミット機能付き増幅器の出力信号振幅が過大にならないようにVAWLの出力値をリミットする(VPREの大きさに係わらず所定の値に抑える)ので、スルーレートの起因する波形歪を抑えて、受信器としてのダイナミックレンジを広くできる。
【0036】
本発明の機能的特徴を、図22を参照して文献2の従来技術と比較してみる。光信号強度は図5のPmin1とPmin0の間とする。同図(a)は文献2の従来技術の光電変換素子をAPD或いはEDFA及びPINダイオードに替えた場合における光信号、前置増幅器出力及びリミット増幅器出力を模式的に示したものである。図中の信号に重畳している雑音は、図16の信号分布に対応するものであり、光電変換部をAPDあるいはエルビウムドープ光ファイバ増幅器とPINフォトダイオードで構成するため、"1"信号に重畳する雑音のほうが"0"信号のそれより大きくなっている。
【0037】
従来技術においては、リミット増幅器のしきい値電位VTH(LA)は前置増幅器出力の"1"信号出力の平均電位と"0"信号出力の平均電位のちょうど真ん中に設定される。また、当該リミット増幅器の利得は非常に大きく設定されるので、線形増幅範囲は高々数mVしかない。即ち、図の線形増幅範囲と示された2本の太線で挟まれた部分の信号だけが線形に増幅され、その外側に位置する信号がもつ情報は無視され、一定電位が出力される。その結果、リミット増幅器出力VLAは図に示すような波形となり、"0"信号の場合には正常に識別できるが、"1"信号の場合には雑音に埋もれて識別できないことがわかる。
【0038】
一方、本発明の場合は(図22(b)参照)、参照電位は従来のVTH(LA)と同じ電位に設定されるが、線形増幅範囲が数100mVと広いため、前置増幅器出力VPREがそのまま線形増幅され、AGC増幅器出さらに線形増幅され、所望の振幅を有する信号(VAGC)となる。このため、AGC増幅器の出力は光信号波形をほぼ忠実に再現したもの、すなわち、光信号が持つ情報を取りこぼすことなく忠実に電気信号に変換したものとなる(ただし、前置増幅器、リミット機能付き増幅器、AGC増幅器で発生する若干の雑音が付加される)。従って、VAGCに対して、若干"0"信号よりにVTH(DEC)を設定すれば、正常に信号を識別することが可能になる。
【0039】
次に、図6で紹介した本発明の光受信回路の具体的な回路構成の例を図19に示す。図1に対して図19が開示する回路構成では、受光素子APD(但し、アバランシェ・フォトダイオードに限定されず)、識別回路DEC及びクロック信号抽出回路の構成は省かれている。
【0040】
但し、前置増幅器PREの回路に備えられたIIN端子には受光素子APDからの信号電流が入力され、AGC増幅器の回路に備えられたVAGC端子は識別回路DECの電圧信号入力端子及びクロック抽出回路CEXTの電圧信号入力端子に、夫々電気的に接続される。図19に示す光受信回路を構成する各回路構成は、後述の実施例の欄において前置増幅器PREは図10を、リミット機能付き増幅器AWLは図7を、参照電位発生回路VRGは図13を、利得調整増幅器AGCは図12を、夫々参照して説明される。
【0041】
本発明の光受信回路は図19に示す回路構成に限定されず、各回路の構成要素は例えば以下の実施例1乃至4で紹介する種々の態様を取り得るものである。そこで、本発明の光受信回路の構成要素たるリミット機能付き増幅器AWL、前置増幅器PRE、利得調整増幅器AGC、及び参照電位発生回路VRGの夫々の詳細について、関連図面を参照して詳しく説明する。
【0042】
<実施例1>
図7は本発明のリミット機能付き増幅器(以下、リミット増幅部AWLと略記もする)の実施例であり、バイポーラトランジスタで構成した差動増幅器を使用した例である。図7の端子INに入力される入力信号が参照電位Vrefに近いときは、線形増幅回路として動作し、その利得Aは概ね次の式2で表せる。
【0043】
【数2】
A= RC/((2VT/IA)+RE) …(式2)
式2において、RCは負荷抵抗RC0の抵抗値、REはエミッタ抵抗RE0の抵抗値、VT=q/kT、IAは差動増幅器のバイアス電流である(但し、qは電子の電荷量、kはボルツマン定数、Tは温度を夫々示す)。図7に示す差動増幅回路には、接地電位(図の上部)から定電流源IAに到る左側の回路(RC0,QA0,RE0及びCE0からなる)と右側の回路(RC1,QA1,RE1及びCE1からなる)とを対称的に構成することが要請される。実用上、左右の回路に於ける夫々の回路要素のパラメータ(抵抗値、容量等)間には最大3%の誤差が許容されるが、回路設計においては、この誤差を除去することが要請される。即ち、回路設計上、上記RCはRC1にも且つ上記REはRE1にも夫々等しく設定されるものである。また、線形増幅範囲VLRは概ね次の式3で表せられる。
【0044】
【数3】
VLR=2RE・IA …(式3)
容量CE0,CE1はピーキング容量であり、高周波での利得を上げ帯域を向上させる働きを持っている。
【0045】
図8はリミット機能付き増幅器の別の実施例であり、カスコード接続を使用した差動増幅器の例を示している。図7の実施例とはトランジスタQA0,QA1のコレクタにカスコード・トランジスタQCS0,QCS1を接続した点だけが異なる。利得及び線形増幅範囲は図7の実施例と同様に式2及び式3で表わされる。カスコードトランジスタを接続したことで、トランジスタQA0のミラー容量を低減することができ、図7の実施例よりも帯域を延ばすことができる。
【0046】
図9はリミット機能付き増幅器の別の実施例であり、負荷回路として抵抗の代わりにトランスインピーダンス回路を用いた例を示している。トランジスタQF0,QF1,抵抗RF0,RF1,RC2,RC3及び電流源IFはトランスインピーダンス回路を構成しており、トランジスタQA0,QA1のコレクタから見た入力インピーダンスを下げ、ミラー容量を低減する働きがある。これにより、図7の実施例よりも広帯域化を図ることができる。本回路の利得Aは概ね次の式4で表せる。
【0047】
【数4】
A=RF/((2VT/IA)+RE) …(式4)
式4において、RFは帰還抵抗RF0の抵抗値である。
【0048】
図9に示す差動増幅回路においても、図7のそれと同様、接地電位(図の上部)から定電流源IAに到る左右の回路を対称的に構成することが要請される。従って、RF0とRF1との抵抗値の間には実用上、最大3%の誤差が許容されるが、回路設計においては、RF0とRF1とを等しくすることが要請される。また、線形増幅範囲は式3で表わされる。
【0049】
なお、図7から図9の実施例では、差動増幅器から直接出力を取り出す例を示しているが、必要に応じてエミッタホロワ等のバッファ回路を介して出力を取り出してもよい。
【0050】
<実施例2>
図10は本発明の前置増幅器(前置増幅部PRE)の実施例を示したもので、トランスインピーダンス増幅回路を使用した例である。本回路のトランスインピーダンスZTはほぼRF2の抵抗値に等しい。その理由は、トランスインピーダンスZTを定義する次の式5に基づき、以下のように説明される。
【0051】
【数5】
ZT=(RF2・A0)/(1+A0) …(式5)
式5において、A0は図10に於けるトランジスタQP0と負荷抵抗RLからなる回路の利得を、RF2は図10に於けるRF2の抵抗値を夫々示す。図10の回路は、利得A0が非常に大きくなるように構成されるため、次の近似式6が成り立つ。
【0052】
【数6】
A0/(1+A0)=1 …(式6)
式6の関係より、上記トランスインピーダンスはRF2の抵抗値で近似できることは明らかである。
【0053】
一方、前置増幅器の帯域は入力部の容量(前置増幅器の入力容量とフォトダイオードの容量)Cinと前置増幅器の入力抵抗Zinの積で決まる極に支配される。極は、時定数τ(τ=抵抗×容量)により「−2π/τ」として定義される。そして、極が大きいほど(時定数が小さいほど)、前置増幅器は受信される光信号パルスに対し高速で応答できる。換言すれば、極が大きいほど、より短いパルス間隔(より高い周波数)で送信される光信号の受信が可能となる。入力抵抗Zinはおよそ次の式7で表わされる。
【0054】
【数7】
Zin=ZT/AE=RF2/AE …(式7)
式7において、AEはエミッタ接地増幅器のオープンループ利得を示す。上記Zinを小さく設定した高周波領域でもオープンループ利得を大きく保てるため、受信できる光信号の広帯域化を図ることができる。
【0055】
図11は前置増幅器の別の実施例を示したもので、カスコード接続を使用した場合を示している。図10の実施例とはトランジスタQP0のコレクタにカスコードトランジスタQCS2を接続した点だけが異なる。カスコードトランジスタを接続することで、トランジスタQP0のミラー容量を低減することができるので、前置増幅器の入力容量を低減できる。従って、図10の実施例よりも広帯域化が図れる。ただし、フィードバック・ループの位相余裕が減少するため、周波数特性の平坦性に注意して設計する必要がある。
【0056】
なお、図10及び図11の実施例では、エミッタホロワ1段を介して出力する例を示しているが、必要に応じてエミッタホロワの段数を増やしてもよい。
【0057】
<実施例3>
図12は本発明の光受信回路に好適なAGC増幅器の一例を示したものである。ここでは、負荷回路としてトランスインピーダンス回路を使用した場合を示しているが、負荷回路は抵抗でも構成できる。
【0058】
図12の回路に於いて、入力端子IN0には図7乃至9の出力端子VAWL0が、入力端子IN1には図7乃至9の出力端子VAWL1が夫々接続される。制御信号VCNT0,VCNT1の電位差を大きくすると、AGC増幅器の利得は増加し、電位差を小さくすると利得は減少する。本回路1段では利得が不足する場合には複数段縦続接続してもよい。また、この制御信号VCNT0,VCNT1の制御は、例えばVAGCの振幅を検知して公称電圧VNと比較して設定する上述の文献1に記載されたピーク検出回路PD、参照回路REF及び利得制御回路GCを組み合わせた技術を利用するとよい。
【0059】
なお、この実施例では、AGC増幅器から直接出力を取り出す例を示しているが、必要に応じてエミッタホロワ等のバッファ回路を介して出力を取り出してもよい。
【0060】
<実施例4>
図13は参照電位発生回路(参照電位発生部VRG)の実施例を示したものであり、低域通過フィルタで構成した例である。低域通過フィルタは抵抗RLPと容量CLPで構成する。なお、容量CLPは半導体チップの内部に設けてもよいし、外部に接続しても構わない。前置増幅器出力VPREを低域通過フィルタを通して直流成分を取り出すことで、VPREの中心電位が得られる。
【0061】
図14は参照電位発生回路の別の実施例を示したものである。本回路は前置増幅器出力VPREの高電位を検出する回路THと低電位を検出する回路BH及び抵抗RA1,RA2からなる。抵抗RA1,RA2の抵抗値は等しく設定する。前置増幅器出力が高電位になったときには、トランジスタQTHにより容量CTHがVPRE(H)−VBEの電位まで充電される(VBEはトランジスタQTHのベース・エミッタ間のバイアス電圧)。また、前置増幅器出力が低電位になったときには、ダイオードDBHにより容量CBHがVPRE(L)+VBEの電位まで放電される。これら2つの電位を抵抗RA1,RA2で分割すれば、前置増幅器出力VPREの高電位と低電位のちょうど中心の電位が得られる。
【0062】
<実施例5>
本実施例では、図19の構成に代わる光受信回路を紹介する。本実施例の光受信回路の概要は図20に示される。図1に対して図20が開示する構成では、受光素子APD(但し、アバランシェ・フォトダイオードに限定されず)、AGC増幅器、識別回路DEC、及びクロック信号抽出回路の構成は省かれている。但し、前置増幅器PREの回路に備えられたIIN端子には受光素子APDからの信号電流が入力され、リミット機能付き増幅器AWLの回路に備えられたVAWL端子はAGC増幅器の電圧信号入力端子に電気的に接続される。
【0063】
図20が示す光受信回路は、10Gb/s(ギガ・ビット/秒)で伝送される光信号により光電変換素子で発生する信号電流IINを最大2mAの振幅電流値に至る広いダイナミック・レンジで受信する機能を有するものである。この光受信回路は、広いダイナミックレンジの入力電流信号IINを高いトランス・インピーダンス利得で受信するために、前置増幅部PREからなるトランス・インピーダンス増幅段、リミット増幅部AWLからなるリミット増幅段、及びリミット増幅部AWLに参照電圧Vrefを供給する参照電位発生部VRGを備えて構成される。なお、本実施例においてリミット増幅段と記述される回路段は、上述の説明にあるリミット機能付き増幅器の機能を示す回路段を略称するものである。
【0064】
前置増幅部PREには、これにバイアス電圧を供給するバイアス電圧供給部Vbiasが接続されている。各部分には、電源電圧VCC及びVEE(但し、VEE<VCC)の端子が設けられ、トランジスタのエミッタ側には定電流源(矢印を円で囲む記号で表示)が設けられている。
【0065】
外部キャパシタCEXTを有する低域通過フィルタを含めて構成される参照電位発生部は、トランス・インピーダンス増幅段による出力振幅電圧の中間値を参照電圧Vrefとして出力する。リミット増幅部AWLにて差動増幅器を構成する一方のトランジスタT4のベースには前置増幅部の出力電圧VPREが、他方のトランジスタT5のベースには参照電圧Vrefが夫々印加される。これにより、信号電流IINに対するトランス・インピーダンス増幅段とリミット増幅段による増幅において、IIN値が小さい場合には双方の増幅段で線形増幅が行なわれて高いインピーダンス利得が得られ、またIIN値が大きい場合にはリミット増幅段がリミット増幅機能を示すことでインピーダンス利得は所望の値に抑えられる。
【0066】
即ち、図21に示すように、リミット増幅段は、この回路構成により予め定められた約400μA以下の小さいIINに対して線形増幅機能を示し、且つ400μAより大きいIINに対しては、その値に係わらず予めリミット増幅部AWLの回路構成で定められたVAWLの値(400mV)を出力する所謂リミット機能を示すように構成される。これにより、リミット増幅段においては、微弱な信号IINを取りこぼすことなくAGC増幅部(図示せず)に伝達でき、且つIINのダイナミック・レンジが数μAから2mAに亘っても出力信号波形の歪みを抑制できる。その結果、識別回路部DEC(図示せず)に於ける"1"−"0"の信号識別精度は維持され且つ向上され得るのである。
【0067】
図20に於いて、前置増幅部PREはトランジスタT1と抵抗R2を有するエミッタ接地増幅器とトランジスタT2、ダイオードD1及び抵抗R1を配列して成るシャント・フィードバック・ループ(Shunt Feedback Loop)から構成される。リミット増幅部AWLは広帯域差動増幅器と出力バッファから構成される。また、双方の増幅部の周波数応答特性を向上させるため、前置増幅部PREにはバイアス電圧供給部Vbiasが、リミット増幅部AWLにはピーキング・ネットワーク(Peaking Network)が夫々接続されている。
【0068】
前置増幅部PREに於いて、周波数応答に対するトランス・インピーダンス変動を抑えてアイ・ダイヤグラム(Eye-Diagram)の揺らぎを低減するために抵抗R2に印加されるバイアス電圧を安定化させる必要がある。前置増幅部PREを構成するエミッタ・コモン増幅器はトランジスタT1の電流変動の影響を受けやすく且つ前置増幅部の周波数応答特性を決めてしまうため、上述のバイアス電圧を安定化するためには、これがVCCの変動の影響を受けないようにする必要がある。図20に示すバイアス電圧供給部Vbiasから供給されるバイアス電圧は接地電位と回路構成素子により決まるため、VCCの変動から独立している。
【0069】
一方、リミット増幅部AWLには前置増幅部PRE以上に広い周波数帯域に応答できる特性が要請されるため、抵抗R3,R4とキャパシタCPからなるピーキング・ネットワークが接続されている。トランジスタT6,T7と抵抗R5,R6からなる負荷回路は、R5,R6を介したフィードバックにより低い入力インピーダンスを示すため、差動入力回路を構成するトランジスタ対T4,T5のミラー効果は抑制され、リミット増幅部AWLの広い周波数帯域での応答が実現できる。
【0070】
リミット増幅部AWLの出力バッファは、ノード出力の高速化とトランス・インピーダンス変動の低減のために、2段のエミッタ・フォロア(トランジスタT8−T10又はT9−T11)とダンピング抵抗(R10、R11)を備えている。前置増幅部PREの出力信号はエミッタ・フォロアのトランジスタT12により分岐され、参照電位発生部VRGに入力される。参照電位発生部VRGは、抵抗R14、及びキャパシタCLP、CEXTを有する低域通過フィルタとエミッタ・フォロアトランジスタT13とを含めて構成され、その出力電圧Vrefは前置増幅部PREの出力電圧VPREの中間値を示す。
【0071】
<実施例6>
以上の実施例では、全てバイポーラトランジスタを用いたが、これをMOSFET、MESFET等の電界効果形トランジスタに置き換えても本発明の光受信回路を実現できることは言うまでもない。
【0072】
図23は、図19に示した本発明の光受信回路のバイポーラトランジスタを全てMOS型の電界効果トランジスタに置き換えた構成を示す。
【0073】
図19においては、前置増幅部PREのトランジスタQP0,QEF、、リミット増幅部(リミット機能付き増幅器)AWLのトランジスタQA0,QA1、及びAGC増幅部AGCのトランジスタQIN(0),QIN(1),QAMP(1),QAMP(2),QAMP(3),QAMP(4),QF0並びにQF(1)の全てをNPN型のバイポーラトランジスタ(N型のコレクタ及びエミッタとP型のベースを有する)で構成したが、図23では、これら全てをNチャネル型の電界効果トランジスタに置き換えてある。
【0074】
Nチャネル型の電界効果トランジスタは、P型の半導体層中にN型のドース領域及びドレイン領域を離間して形成し、この2つの領域に挟まれた上記P型半導体層上に酸化膜(絶縁膜)を介してゲート電極を形成したものである。信号処理速度に関しては、バイポーラトランジスタが優るものの、電界効果トランジスタは各々の素子間の分離が容易にできるため、本発明の光受信回路を同一の半導体基板上に集積化する上でバイポーラトランジスタより優るものである。
【0075】
図23に示したNチャネル型の電界効果型トランジスタは、N型のソース及びドレイン間に挟まれたP型半導体層の電位を低電位側(ドレイン電位)に設定してあるが、P型半導体層の電位の設定は、この実施態様に限定されないものである。
【0076】
<実施例7>
本発明の光受信回路を応用した光通信システムの一例を、図24に示す。
【0077】
本発明による光通信システムの概念を明らかにするため、図24にTS(A),TS(B)及びTS(C)として示される電話局A,B,Cには光ファイバケーブルLINE A, LINE B, LINE Cによる電話局R(TS(R))への光信号送信機能のみを示す。また、電話局Rには、電話局A,B,Cからの光受信機能のみを示す。図24において、USERS(A), (B), (C), 又は(R)として示した電話機及びコンピュータは、夫々の電話局の回線加入者(Subscriber)を示す。
【0078】
USERS(A), (B)及び(C)からの情報をUSERS(R)に送信する例で、本発明による光通信システムを説明する。前者の各加入者からの情報は、夫々の電話局(Telephone Station)において波長1.3乃至1.6μmの光信号に置き換えられ、電話局Rに通じる光ファイバケーブルLINE A, LINE B又はLINE Cに入力される。このときの、光信号強度(Intensity of Opt. Sig.)の時間軸方向に対するスペクトルを各電話局毎に図示する。各電話局から伝送される情報は、強度Itrsの光パルスからなる1信号と光パルスのない0信号からなるディジタル情報に符号化(encode)される。
【0079】
時刻ta0からta1の間に電話局Aから送信される光信号、時刻tb0からtb1の間に電話局Bから送信される光信号、及び時刻tc0からtc1の間に電話局Cから送信される光信号は全て、電話局R又はこれに到る幹線系伝送路(Trunk Line)に設けられた合波器(Star Coupler等のOptical Coupler)CLを経て、電話局Rの光受信回路に設けられた受光素子PDに光学的に接続された光ファイバへ入る。そして、各電話局から受信した光信号は、電話局Rにおいて送信局毎に宛われた時間に応じてシリアルに伝送情報に復号化(decode)される。伝送情報を複合化する装置は、電話局に備えられた識別回路DECの後段に配置され、伝送形態に応じ、電話局R内又は加入者の端末(Terminal)に備えられる。
【0080】
図24に於いて、電話局A,B,Cと電話局Rとの距離AR,BR,CRを20km,100km,500kmに夫々設定した場合を考える。このとき、電話局Rで受信した光信号は、前置増幅器PREにより図25(a)に示す電圧信号に変換される。図25(a)の縦軸は、前置増幅器PREからの出力信号の電圧値VPREを示す。この出力信号が、電圧振幅VDETを越えると後段のAGC増幅器で信号波形の劣化が生じ、誤り率が実用上許容されるレベルを越える。電話局Rに近い電話局Aから時刻ta0からta1の間に送信された光信号は、光ファイバ伝播中に於いて殆ど損失しないため、前置増幅器PREによりVDETを越える電圧振幅Vaの強い電圧パルスVPREに変換されている。
【0081】
これに対し、本発明では、リミット機能付き増幅器AWLを前置増幅器PREとAGC増幅器との間に配置し、その回路をVPREの電圧振幅が第1の電位V1以上となるとき、出力VAWLを電圧振幅V1にリミットするように構成する(図25(b)参照)。これにより、電話局Aから送信されたディジタル情報は、AGC増幅器での信号波形の劣化を殆ど受けることなく、電圧信号VAGCとして識別回路に送られる(図25(c)参照)。
【0082】
一方、電話局Rにおける識別回路DECのしきい値電圧VTH(DEC)は、上記第1の電位とゼロ電位との間に人為的に設定される。その電圧は、例えば、第1の電位の半分に設定される。これに対し、AGC増幅器は、これに入力される電圧信号に応じて、増幅利得を自動的に調整することができる。AGC増幅器における実用上の自動利得調整は、電話局A,B,Cの各々から送信すべき情報を載せた光信号の前に伝送されるダミー光信号により生成される電圧振幅(図示せず)に基づいて行われる。しかし、AGC増幅器の自動利得調整機能は完全とはいえない。なぜなら、AGC増幅器は、これに入力される電圧パルスが所定の電位(例えば、第2の電位V2)以下の場合、その電圧振幅をVTH(DEC)以上に増幅することが不可能となる。
【0083】
電話局Rから500km離れた電話局Cより時刻tc0からtc1の間に送信された光信号は、光ファイバ伝播中に於ける損失により大きく減衰されるため、前置増幅器PREで増幅してもV2未満の電圧振幅Vcの弱い電圧パルスVPREにしか変換できない(図25(a)参照)。この問題を解決するためには、識別回路DECにおけるVTH(DEC)を入力される電圧信号に応じて変動させるように設定しなければならない。しかし、この手法では非常に短いパルス間隔で供給される電圧信号を識別する応答性に限界がある。
【0084】
これに対し、本発明では、上記リミット機能付き増幅器AWLによる線形増幅で電圧振幅Vcの電圧パルスを電圧振幅V2以上に増幅できる(図25(b)参照)。このため、増幅後の電圧振幅が上記VTH(DEC)に到らなくとも、その後段のAGC増幅器で更に増幅することにより、識別回路DECで識別するに十分な(VTH(DEC)以上の)電圧振幅を有するパルスに変換される(図25(c)参照)。
【0085】
以上のように、本発明による光通信システムは、前置増幅器PREとAGC増幅器AGCとの間にAGC増幅器を補助する線形増幅器を挿入する構成し、上記線形増幅器の動作をこれに入力される電圧信号の振幅に応じて制限する。即ち、前置増幅器からAGC増幅器に到る電圧信号の伝送過程で、少なくとも上述のVDET以上の電圧振幅を有する電圧信号を所定の電圧振幅に抑え且つこれ以外の電圧信号を選択的に増幅する。このため、特に電圧信号の伝送速度を制限する前置増幅器PREの利得調整や識別回路のしきい値電位調整を行うことなく、光信号の受信強度のダイナミックレンジを拡大することができる。
【0086】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高感度かつ広ダイナミックレンジの光受信回路及び光通信システムを提供することができる。従って、特に光ファイバにより長距離の光信号伝送を行う幹線系の光通信システムにおいて、受信される光信号の処理("1"−"0"判定)を低い誤り率で行うことができる。また、伝送距離の異なる光ファイバからの光信号に対しても信号処理の誤り率を格段に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本構成を示した図。
【図2】従来技術(文献1に開示)を示した図。
【図3】従来技術(文献1に開示)の動作を説明した図。
【図4】別の従来技術(文献2に開示)を示した図。
【図5】別の従来技術(文献2に開示)の動作を説明した図。
【図6】本発明の動作を説明した図。
【図7】本発明に使用する増幅器の例を示した図。
【図8】本発明に使用する増幅器の例を示した図。
【図9】本発明に使用する増幅器の例を示した図。
【図10】本発明に使用する前置増幅器の例を示した図。
【図11】本発明に使用する前置増幅器の例を示した図。
【図12】本発明に使用するAGC増幅器の例を示した図。
【図13】本発明に使用する参照電位発生回路の例を示した図。
【図14】本発明に使用する参照電位発生回路の例を示した図。
【図15】文献1に開示されたAGC増幅器の回路を示した図。
【図16】 "1"−"0"信号識別の誤り率を説明するための図。
【図17】光信号入力と前置増幅器及びAGC増幅器の電圧出力の対応を説明するための図。
【図18】スルーレートに起因する波形歪を説明する図。
【図19】本発明による光受信回路の望ましき一実施形態を示す図。
【図20】本発明による光受信回路の望ましき別の実施形態(実施例5)を示す図。
【図21】図20の回路における光電変換素子からの入力電流に対する出力信号振幅の関係を示した図。
【図22】従来技術(文献2に開示)と本発明の動作を比較した説明図。
【図23】本発明による光受信回路の望ましき別の実施形態(実施例6)を示す図。
【図24】本発明による光受信回路の応用した光通信システムの一実施形態を示す図。
【図25】図24の光通信システムの電話局Rに採用された光受信回路における電圧信号の波形の変化を示す図。(a)は前置増幅器から、(b)はリミット機能付き増幅器から、(c)はAGC増幅器から夫々出力された電圧波形を模式的に示す。
【符号の説明】
APD…アバランシェフォトダイオード、PRE…前置増幅器、AWL…リミット機能付き増幅器、AGC…AGC増幅器、DEC…識別回路、CEXT…クロック抽出回路、VRG…参照電位発生回路。
Claims (6)
- 光信号を電流信号に変換する光電変換部と、該光電変換部の出力電流信号を電圧信号に変換する前置増幅器と、該前置増幅器の出力電圧信号を受ける増幅器であって、入力信号と参照電位の差が所定の電圧よりも小さい場合は線形増幅し、所定の電圧よりも大きい場合はリミット増幅するリミット機能付き増幅器と、該リミット機能付き増幅器の出力電圧信号を増幅して一定振幅の信号を出力する自動利得制御増幅器を含む、光信号を受けて電気信号に変換し出力する光受信回路を有する光受信器において、
該光信号の所望のダイナミックレンジの範囲内で、
ΔVAWL<Rs・Δt
(ここで、ΔVAWLは該リミット機能付き増幅器の出力信号振幅、Δtは1ビットの光信号が占める時間、Rsは該リミット機能付き増幅器のスルーレート)を満たすように該リミット機能付き増幅器の出力信号振幅を制限することを特徴とした光受信器。 - 上記請求項1の光受信器において、該光電変換部はアバランシェフォトダイオードで構成されたことを特徴とする光受信器。
- 上記請求項1の光受信器において、該光電変換部は光ファイバ増幅器とPINフォトダイオードで構成されたことを特徴とする光受信器。
- 光信号を電流信号に変換する光電変換部と、該光電変換部の出力電流信号を電圧信号に変換する前置増幅器と、該前置増幅器の出力電圧信号を受ける増幅器であって、入力信号と参照電位の差が所定の電圧よりも小さい場合は線形増幅し、所定の電圧よりも大きい場合はリミット増幅するリミット機能付き増幅器と、該リミット機能付き増幅器の出力電圧信号を増幅して一定振幅の信号を出力する自動利得制御増幅器を含む、光信号を受けて電気信号に変換し出力する光受信回路を有する光受信器において、
該リミット機能付き増幅器がリミット増幅を始める所定の電圧は、所望の誤り率の下での該光電変換部及び該前置増幅回路で決まる最小受信感度における該前置増幅回路の出力信号と該参照電位の差よりも大きく設定されており、
該光信号の所望のダイナミックレンジの範囲内で、
ΔVAWL<Rs・Δt
(ここで、ΔVAWLは該リミット機能付き増幅器の出力信号振幅、Δtは1ビットの光信号が占める時間、Rsは該リミット機能付き増幅器のスルーレート)を満たすように該リミット機能付き増幅器の出力信号振幅を制限することを特徴とした光受信器。 - 上記請求項4の光受信器において、該光電変換部はアバランシェフォトダイオードで構成されたことを特徴とする光受信器。
- 上記請求項4の光受信器において、該光電変換部は光ファイバ増幅器とPINフォトダイオードで構成されたことを特徴とする光受信器。
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