JP4067684B2 - 固相担体を用いた分離方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固相担体を用いて検体中の物質を分離する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
固相担体を用いて物質を分離する方法は汎用性が高く、臨床検査等の分野において様々な物質を分離、精製、検出するために広く用いられている。
【0003】
従来の方法は、▲1▼所望の物質を担体に吸着させる操作、▲2▼担体を洗浄する操作(B/F分離操作)、及び▲3▼担体から物質を溶出させる操作、さらに、必要に応じて▲4▼検体から担体を除去する操作からなる。
【0004】
例えば、特開平09−019292は、磁性シリカ粒子を用いて核酸を分離する方法を開示しており、該方法では、核酸を吸着させた磁性シリカ粒子のみを磁石で集めることにより、検体中から核酸を分離する。該方法においても、磁石で粒子を回収した後、該粒子を複数回洗浄する操作(B/F分離操作)、及び粒子に吸着した核酸を粒子から溶出させる操作が必須である。
【0005】
このように、固相担体を用いて物質を分離する従来の方法では、担体に核酸を吸着させたままでは核酸を利用できないので、固相担体に吸着された物質を溶出して担体を除去する操作が必要であった。しかし、物質が固相担体の間隙中に固着されたりするために、溶出操作において物質を完全に溶出することは困難なので、溶出操作が存在すると測定感度が低下してしまう。
さらに、従来の方法では、溶出ステップの後に固相担体に吸着されやすい成分(検出用の酵素等)を添加する場合には、該成分が固相担体に吸着されることによる影響を除去するために、検体から固相担体を完全に除去する必要があった。このような場合には、溶出操作後に、検体を別の反応容器に移し替えるという操作が不可避であり、多くの消耗品を使用しなければならないという欠点が存在した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術に存在するこのような欠点を克服するためになされたものであり、溶出操作を必要とせず、従来技術に比べて操作が簡便で且つ高い測定感度を有する、固相担体を用いて物質を分離する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、
固相担体を用いて、検体中に存在する所望の物質を分離する方法であって、
(1)固相担体に所望の物質を吸着させるステップ、
(2)前記固相担体を洗浄するステップ、及び
(3)前記固相担体を溶解せしめるステップ
を具備する方法を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、固相担体を用いて、検体中に存在する所望の物質を分離する方法に関する。
【0009】
本方法は、担体に吸着した被検物質を担体から分離するために、従来の溶出操作に代えて、担体自体を溶解せしめる操作を用いることを特徴とする。
【0010】
本方法の概要は、図1のとおりである。
【0011】
まず、分離すべき成分(図中〜)を含有する検体と固相担体(○)を混合する(ステップ1)。該成分と固相担体は、特異的に結合する(ステップ2)。続く洗浄操作によって、固相担体に結合しなかった不要な成分(□)を除去する(ステップ3)。続いて、担体を溶解し(ステップ4)、必要に応じてそのまま検出操作を行う(ステップ5)。
【0012】
本発明の方法の特徴である溶解操作には、検体中で安定で、且つ適当な条件を選択して容易に溶解させ得る担体が必須である。とりわけ、被検物質が生体成分である場合は、一般に変性、失活しやすいので、生体成分に実質的に影響を与えないような比較的温和な溶解条件を用いなければならない
従来、固相担体としては、ゼラチン、アラビアゴム、シリカ粒子等が用いられてきたが、従来の担体は、検体中での安定性を増大させるために、安定な素材から構成されていたり、架橋処理等の安定化処理が施されている。このため、従来の担体は容易に溶解せず、本発明の方法に適用するには適していない。
【0013】
これに対し、本発明者は、低濃度の界面活性剤を含有する水溶液中においては、架橋されていないゼラチン担体であっても長時間安定に存在し得ること、及び該非架橋担体は、高温下(95℃、2分)又はpH10以上の溶液中で容易に溶解することを見出した。該非架橋ゼラチン担体は、本発明に用いるのに適している。
【0014】
本発明は、本発明者によって見出された上記知見に基づいてなされたものである。しかしながら、本発明の技術的思想は、あくまでも溶出操作に代えて溶解操作を用いる点に存することに留意しなければならない。すなわち、用いる担体の種類及び溶解条件は、分離すべき物質の種類に応じて、本発明を実施する者が適宜選択することができる。
【0015】
本発明の方法は、任意の検体中の任意の物質を分離するのに使用し得る。とりわけ、本発明の方法は、生体成分を分離するのに適している。
【0016】
本明細書において、「検体」とは、本発明の方法を用いて分離される物質を含有する試料を意味する。従って、「検体」には、血液、尿、唾液、消化管液、生検組織、生細胞等の生体試料が含まれ得るが、生体試料に限定されない。
【0017】
本明細書において、「生体成分」とは、動物、植物、微生物、ウイルス等の生物中に存在し得る成分であって、▲1▼組織、細胞、細胞内小器官、微生物、ウイルス等の細胞及び組織、▲2▼核酸、抗体・酵素のようなタンパク質、ペプチド、多糖類等の高分子、▲3▼単糖類、脂質、ビタミン、低分子ホルモンの低分子が含まれる。また、「生体成分」は、生物中に存在する天然物質に限られない。従って、アレルゲン、ウイルス、細菌等の侵入物質、体内に投与又は吸収された医薬品、人工物質等も本明細書にいう「生体成分」に含まれ得る。
【0018】
本発明の方法では、所望の被検物質を選択的に吸着し、且つ所望の条件下で溶解させ得る任意の固相担体を用いることができる。
【0019】
担体に被検物質を吸着させるためには、固相担体に検体を添加すればよい。通常は、固相担体を含有する溶液中に検体を添加する。
【0020】
本明細書で、「固相担体」とは、所望の物質に対する吸着能を有し、且つ該物質を吸着させるステップにおいて、安定な固相を形成しているとともに、後述するような溶解方法によって、上述した生体成分の所要の生物学的作用を損なうことなく溶解し得る物質をいう。
【0021】
物質を分離するために用いられる固相担体は、当業者に周知であって、様々な担体が市販されている。本発明に用いるのに適した担体には、ゼラチン、寒天、ポリアクリルアミドなどのゲル、ゼラチンとアラビアゴムの混合物、アガロース、デキストラン類等の多糖類がある。
【0022】
固相担体としては、ゼラチンが多用されているが、安定性を増大せしめるために、市販の担体用ゼラチンには、架橋処理等の安定化処理がなされている。従って、本発明の方法に用いる場合、架橋処理のような安定化処理を行わずに担体を調製するか、又は市販の担体中の安定化処理を除去することが好ましい。ゼラチンとアラビアゴムを主成分とする担体の調製法が、例えば特開平1-25060に開示されている。
【0023】
所望の物質を特異的に吸着し得るようにするために、担体表面の修飾を行うこともできる。修飾を行う場合には、担体形成中、好ましくは粒子形成の終了直前に、表面処理に必要な成分をゆっくり添加する。
【0024】
例えば、吸着すべき物質が核酸である場合には、SiO2、ポリエチレン−イミン(PEI)、SiO2/Na2O等を用いることができる。細胞を吸着させる場合、CAM(細胞接着分子)、レクチン等を使用し得る。
【0025】
また、吸着すべき物質の性状に応じて、帯電した物質、脂溶性物質によって表面処理してもよい。
【0026】
さらに、特定の物質のみを選択的に吸着せしめるために、抗体又は抗体断片、抗原、受容体、核酸プローブ等を担体に添加してもよい。
【0027】
本方法では、担体に所望の物質を吸着させた後に、洗浄操作を行う。該操作は、従来法の洗浄操作と同様であり、複数回反復することが望ましい。
【0028】
洗浄液の除去を容易になし得るようにするために、固相担体には磁気を持たせてもよい。これにより、磁石に担体を付着させて、洗浄液を容易に除去できる。磁気を帯びた担体を調製するには、担体の形成中に磁気を帯びた微粒子を添加すればよい。磁気粒子としては、フェリコロイド等を利用し得るが、これに限定されない。
【0029】
担体を溶解させる方法は、用いる担体及び測定すべき物質の種類に応じて決定し得る。溶解方法には、pHを変化させること、界面活性剤、有機溶媒等の化学物質の添加、担体を特異的に分解し得る酵素の添加等の化学的方法、検体の温度、浸透圧、イオン強度を変化させること、超音波処理、電磁波の照射等の物理的方法が含まれるが、これらに限定されない。但し、溶解条件は、分離した物質の使用目的に応じて、目的に必要な性質が損なわれないように選択するべきである。例えば、使用目的が臨床検査である場合、核酸については、95℃以下、好ましくは60〜80℃で溶解できる担体を用いるとよく、同様に、抗原や抗体としての蛋白については60℃以下、酵素については50℃以下で溶解できる担体を用いるとよい。
【0030】
必要であれば、本方法で分離した物質は、さらに精製してもよい。
【0031】
また、本発明の方法で物質を分離した後、同じ容器中に各種検出用試薬を添加して所定の反応条件下に置くことによって、該物質を検出する操作、又はPCR等によって増幅する操作等を行ってもよい。
【0032】
本方法によれば、最終的に担体は分解されるため、本方法の終了時には、該担体は吸着能力を喪失する。このため、本方法の操作終了後にそのまま検出操作等を行っても、検出試薬等が担体に吸着されることによる妨害が生じない。従って、本発明の分離操作の後に、さらなる操作を行う場合には、担体を除去するステップを省略し得る。ここで、担体を溶解した分離後の溶液は、そのまま、所要量を分取して別の容器等へ移して検出その他の操作を行うようにしてもよい。また、臨床検査における各種反応条件(温度、pH等)が担体を溶解させる条件に当てはまるように担体又は反応の種類を選択することにより、担体の溶解工程を検査中に行うようにして処理効率を高めることもできる。
【0033】
以下本発明の方法の実施例を詳述する。
【0034】
実施例1
本実施例では、固相担体として、ゼラチンとアラビアゴムを主体とした磁性粒子を用いることにより、試料中のRNAを抽出した。
【0035】
ゼラチン担体の作成方法は、特開平1-25060に詳述されており、基本的に、該記述に基づいて作成した。ただし、本実施例では、担体を容易に分解させるためグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドによる架橋処理、及びフォルマリンによる固定化は行わなかった。
【0036】
また、本実施例では、担体に磁性をもたせるために、粒子形成過程においてフェリコロイド(タイホー工業株式会社、W-40)を加えて磁気反応性を加えた。
【0037】
担体表面の修飾を行う場合には、粒子形成過程における0.2mol/L酢酸の添加中に、表面処理に必要な成分をゆっくり加えた。RNAを選択的に吸着するために、本実施例では、キチン、キトサン、ポリエチレン−イミン、及び種々の濃度のSiO2を添加した。
【0038】
該磁気粒子担体の対照としては、表面にシリカが結合した磁性粒子試薬(東洋紡績株式会社、MagExtractor RNA)を、添付文書に従って使用した。
【0039】
試料には、10μg/mLのヒト血清アルブミン(Sigma No.A-1653)を含有する溶液又は含有しない溶液に、1μg/mLに調整したRNA(Worthington Biochemical, cat# 3452)を懸濁したものを用いた。蒸留水に懸濁した5%(V/V)の前記磁性粒子100μLとRNA懸濁液900μLとを混合して、室温で5分間インキュベートした。
【0040】
磁性粒子を磁石で試験管の壁面に吸着させ、1mLの10mM Tris緩衝液/0.2% Tween 20によって、粒子を3回洗浄した。その後、100μLの10mM Tris緩衝液/0.2% Tween 20溶液を加え、粒子を懸濁した後、90〜95℃で1分間処理して粒子を溶解させた。このように、高温で短時間に溶解する担体を用いれば、核酸分析におけるPCR反応の昇温時に、分離した核酸を担体から外すことができる点で好ましい。溶解前の粒子と溶解後の粒子の写真をそれぞれ図2及び図3に示す。
【0041】
図から明らかなように、溶解前前には球状の担体が存在しているが(図2)、溶解後(図3)にはこれらが完全に消失している。担体中の磁性体は、比重が高いのでまもなく沈積するが、必要ならば、反応中及び/又は測定中に容器の底面又は側面に磁力を作用させて磁性体を集めてもよい。特に、反応のための攪拌時に磁性体を集めるのが好ましい。場合によっては、磁性体のみを容器の外へ磁石等により磁気的に除去してもよい。
【0042】
分光光度計の紫外吸収を測定することにより、溶解液中に含まれるRNA濃度の定量を行い、核酸の回収率を求めた。結果を図4に示す。
【0043】
図4から明らかなように、表面処理が施されていない粒子、及びPEI、SiO2で処理された粒子によって、60〜70%のRNAを回収することができた。該データは、担体に吸着していたRNAが、分離操作によって溶液中に溶出したことを示している。該結果は、加熱処理によって担体が分解されたことを実証するものである。
【0044】
本実施例で用いた担体のうち表面処理が施されていない粒子、及びPEI、SiO2によって表面処理された粒子は、市販のMagExtractorよりも著しく高いRNA回収率を示した。対照(MagExtractor)とは担体の種類が異なるので、断定はできないが、担体を直接分解することによってRNAの回収率が増大したことも寄与していると推測される。
【0045】
PEI及びSiO2処理によって、RNAの吸着能は増大しなかった。アルブミンの存在下では、SiO2処理、表面未処理粒子ともに回収率が減少した。これらの結果は、本実施例の担体が特異的にRNAを吸着し得なかったことを意味する。
【0046】
キチン及びキトサンは、RNA吸着能を有すると報告されていたが、本実施例においては、逆にRNAの吸着を妨げた。しかし、該事実は、担体表面の状態がRNAの吸着に大きな影響を与えることを明確に示している。
【0047】
また、本発明の方法では、検出前の液相分離操作(すなわち、検体中から担体を除去する操作)が一切不要なので、対照(MagExtractor)に比べて、操作時間が3/4程度に短縮されることが明らかとなった。
【0048】
なお、本実施例で用いた固相担体は、4℃で保存した場合、約6ヶ月経過した後でも表面形質、粒子形状ともに大きく変化しなかった。
【0049】
以上のように、本実施例により、被検物質が吸着した担体そのものを分解することによって物質の分離を行い得ることが実証された。
【0050】
【発明の効果】
本発明による固相を用いた物質の分離方法では、固相自体を分解するので、従来法で必要とされた吸着した物質を固相から溶出させる操作が不要である。従って、本発明は、従来法に比べて操作が簡便であるという効果を有する。
【0051】
また、固相自体を分解することによって、固相に吸着された物質を固相から完全に溶出することができる。このため、本発明の方法は、従来法に比べて高い測定感度を有し得る。
【0052】
本発明の分離方法では最終的に担体が分解されるので、分離後さらに検出操作を行う場合に、担体を除去する操作を省略し得る。それ故、本発明の方法は、操作が簡便である。また、担体除去操作での試料の移し替えが不要なので、用いる容器の数を減らすことができる。特に、使い捨て容器を用いる場合には、省資源化を図ることが可能である。試料の移し替えによってもたらされる物質のロスがなくなることにより、さらに感度が上昇するという効果も存する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法の概略を示す図。
【図2】分解前の担体の写真を表す図。
【図3】分解後の担体の写真を表す図。
【図4】本発明の方法を用いた実施例の結果を示す図。
Claims (5)
- 固相担体を用いて、検体中に存在する所望の物質を分離する方法であって、
(1)固相担体に所望の物質を吸着させるステップ、
(2)前記固相担体を洗浄するステップ、及び
(3)前記固相担体を溶解せしめるステップ
を具備する方法。 - 請求項1に記載の方法であって、前記固相担体が、ゼラチン、アラビアゴム、及びそれらの混合物の何れかであることを特徴とする方法。
- 請求項1又は2に記載の方法であって、固相担体を溶解せしめる手段が、pHの変化、温度の変化、電磁波の照射、及び超音波処理の中の少なくとも1つから選択されることを特徴とする方法。
- 請求項1〜3の何れか1項に記載の方法であって、前記物質が核酸であることを特徴とする方法。
- 請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、前記固相担体の表面が、前記所望の物質を特異的に吸着し得る成分によって処理されていることを特徴とする方法。
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