JP4062920B2 - ハニカム構造体成形用金型の製造方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は,薄肉のハニカム構造体を押出成形するための成形用金型に関するものである。
【0002】
【従来技術】
例えばコーディエライト等を主成分としたセラミック製のハニカム構造体は,成形用金型を用いて材料を押出成形することにより製造される。このハニカム構造体は,隔壁を格子状に設けて多数のセルを構成してなり,そのセル形状としては例えば四角形,六角形等がある。
そして,上記ハニカム構造体成形用金型としては,材料を供給するための供給穴と,供給穴に連通し材料を上記ハニカム形状に成形するためのスリット溝とを有するハニカム構造体成形用金型が用いられる。
【0003】
上記ハニカム構造体としては,近年その隔壁の薄肉化,例えば100μm以下の薄肉化が求められている。これに対応して,上記ハニカム構造体成形用金型のスリット溝の溝幅も当然に幅狭化が求められている。
【0004】
【解決しようとする課題】
しかしながら,ハニカム構造体成形用金型のスリット溝の溝幅を狭くすれば,上記供給穴から供給され材料がスリット溝を通過する際の材料流れが悪化する。そのため,成形時の成形圧力が増大し,成形性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,成形性を低下させることなく,薄肉のハニカム構造体を成形することができるハニカム構造体成形用金型及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0006】
【課題の解決手段】
少なくとも,材料を供給するための供給穴と,該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するためのスリット溝とを有するハニカム構造体成形用金型において,
上記スリット溝の底部と上記供給穴の側面とが交わって形成される角部に傾斜部が設けられており,該傾斜部においては,上記スリット溝の深さが上記供給穴に近づくにしたがって徐々に深くなっていることを特徴とするハニカム構造体成形用金型がある。
【0007】
上記ハニカム構造体成形用金型は,上記のごとく,スリット溝の深さが均一ではなく,上記角部に傾斜部を設けて,スリット溝の深さを上記供給穴に近づくに従って深くしてある。そのため,供給穴からスリット溝に抜ける材料の流れをスムーズにすることができる。
【0008】
すなわち,上記スリット溝の底部と供給穴の側面とが交差する上記角部が傾斜しているので,供給穴からスリット溝に抜ける材料が,上記傾斜部に沿って徐々に広がる。そのため,上記角部に傾斜部がない場合と比べて,材料が幅方向に広がる際の流れ方向の変化を小さくすることができる。それ故,材料が供給穴からスリット溝に侵入する際の材料流れをスムーズにすることができる。
そして,それ故,上記スリット溝の溝幅を狭幅化した場合においても,成形圧力の増大等を抑制することができ,優れた成形性を維持することができる。
【0009】
本発明は,少なくとも,材料を供給するための供給穴と,該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するためのスリット溝とを有するハニカム構造体成形用金型を製造する方法において,
金型素材の穴形成面から上記供給穴を形成した後,
該穴形成面と反対側の溝形成面の溝形成位置に対して水を噴射して水柱を形成すると共に,該水柱の中を通してレーザ光を照射し,該レーザ光の照射位置を上記溝形成位置に沿って移動させて同じ溝形成位置を複数回通過させる照射スキャンを行い,
かつ,形成される上記スリット溝の底部と上記供給穴の側面とが交わって形成される角部近傍において上記照射スキャンの回数を増やし,上記スリット溝の深さが上記供給穴に近づくにしたがって徐々に深くなる傾斜部を設けることを特徴とするハニカム構造体成形用金型の製造方法(請求項1)にある。
【0010】
本発明においては,上記のごとく,スリット溝の加工に上記水柱の中を通すレーザ光を用いる。そして,このレーザ光を上記のごとく照射スキャンさせることにより徐々に溝深さを深くする。
このようなレーザ加工方法を採用することによって,局部的に照射スキャンの回数を変更することにより,局部的に溝深さを変更することができる。
【0011】
そのため,本発明では,この照射スキャン回数の変化によって,上記スリット溝の底部と供給穴の側面とが交わって形成される角部近傍において,上記照射スキャンの回数を増やす。これにより,上記角部に傾斜部を形成し,供給穴に近づくほどスリット溝の深さを深くすることができる。
【0012】
また,本発明では,上記のごとく水柱の中を上記レーザ光を通して照射する。これにより,レーザ光が上記水柱の径内に収まった状態で進行し,溝幅を上記水柱の径内に精度よく制御することができる。それ故,上記ハニカム構造体成形用金型に要求される精度に十分対応できる高精度のスリット溝加工を行うことができる。
【0013】
このように,本発明では,上記レーザ加工方法を積極的に採用することにより,従来の研削方法或いは放電加工方法では極めて困難であった局部的な溝深さの変更を実現した。そして,特に上記角部に傾斜部を形成するように溝深さを変化することにより,上記のごとく材料流れのスムーズなハニカム構造体成形用金型を得ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
上記ハニカム構造体成形用金型における上記角部の傾斜部は,例えば,いわゆる面取りを行った場合のような非常に微細な傾斜でもよいし,比較的長いテーパ状のものでもよい。さらに,上記傾斜部分が直線であっても,曲線状であってもよい。
また,上記スリット溝の配置は,四角形格子状,あるいは六角形格子状等,様々な配置をとることができる。
【0015】
また,スリット溝の溝幅としては,例えば20〜150μmという狭い幅寸法を採用することができる。この場合にも,上記のごとく成形材料のスムーズな流れを確保することができる。また,上記スリット溝の溝深さは,溝幅の10倍以上に設定することもできる。この場合にも,上記角部の傾斜が有効に作用し,成形材料の流れの悪化を抑制することができる。
【0016】
また,本発明において,上記レーザ光の照射位置の移動は,相対速度150mm/分以上で行うことが好ましい(請求項2)。これにより,レーザ光を照射して溶融した溶融部を容易に分離除去しながら少しずつ溝加工を進めることができる。一方,上記相対速度が150mm/分未満の場合には,上記溶融部の分離除去が十分に行われず,溝形成の能率が低下するという問題がある。
【0017】
また,本発明において,上記傾斜部は,上記供給穴の側面との距離が0.5mm以内の範囲において設けることが好ましい(請求項3)。この場合には,上記傾斜部の形成を比較的容易に行うことができる。
【0018】
また,上記傾斜部は,上記供給穴の側面との距離が0.3mm以上の範囲にわたって設けられており,その最終深さは0.3mm以上であることが好ましい(請求項4)。
この場合には,上記傾斜部の存在による材料流れをスムーズにする効果を十分に発揮することができる。
【0019】
【実施例】
(実施例1)
本発明の実施例につき,図1〜図3を用いて説明する。
本例のハニカム構造体成形用金型8は,図1,図2に示すごとく,少なくとも,材料を供給するための供給穴81と,該供給穴81に連通し材料をハニカム形状に成形するためのスリット溝82とを有するハニカム構造体成形用金型である。そして本例のハニカム構造体成形用金型8においては,スリット溝82の底部820と供給穴81の側面810とが交わって形成される角部に傾斜部85が設けられており,該傾斜部85においては,スリット溝82の深さが上記供給穴81に近づくにしたがって徐々に深くなっている。
【0020】
このハニカム構造体成形用金型8を製造するに当たっては,図3に示すレーザ加工装置3を用いる。このレーザ加工装置3は,レーザ光を発生させるレーザ発生部31と発生したレーザ光を所望の径に絞るレーザヘッド32と,これらの間を結びレーザ光を導く光ファイバー部33と,レーザ光1の周囲において噴射する水柱18用の高圧水をレーザヘッド32部分に供給する高圧水供給部35と,高圧水を水柱18として噴射するノズル36とを有する。
また,金型素材7を保持すると共に平面上で移動可能なベッド38を有する。このベッド38に内蔵されたベッド駆動部,高圧水供給部35,およびレーザ発生部31はこれらを操作するための操作盤39に接続されている。
【0021】
金型素材7は,同図に示すごとく,厚さ15mm,幅×長さが200×200mmの四角形の金属板であり,材質はSKD61よりなる。もちろん,これと異なるサイズ,材質の金型素材を用いることも可能である。
この金型素材7に対して,本例では,幅0.1mm,深さ2.0mmのスリット溝を形成する。また,本例では,スリット溝82の加工の前に,予めドリルにより供給穴81を設けた。
【0022】
そして,図示しない支持装置に上記金型素材7を平面方向に移動可能に保持する。そして,図3の矢印Aの方向に金型素材7を移動させながら,レーザ加工装置3から金型素材7における溝形成面の溝形成位置に対して水を噴射して水柱18を形成すると共に,該水柱18の中を通してレーザ光1を照射する。さらに,レーザ光1の照射位置を上記溝形成位置に沿って移動させて同じ溝形成位置を複数回通過させる照射スキャンを行う。
【0023】
このとき,金型素材7の移動速度は,150mm/分以上の240mm/分とした。そして,まず全ての溝形成位置を偏り無く150回通過するように照射スキャンした。これにより,上記のごとく幅0.1mm,深さ2.0mmのサイズを有する幅狭深底のスリット溝82が得られた。
【0024】
さらに本例では,形成されたスリット溝82の底部820と供給穴81の側面810とが交わって形成される角部の近傍において,供給穴81に近づくほどスキャン回数が多くなるように照射回数を増やした。これにより,図2に示すごとく,上記角部に傾斜部85が得られ,スリット溝82の深さが,供給穴81に近づくにしたがって徐々に深くなるように加工された。
【0025】
次に,本例の作用効果につき説明する。
本例のハニカム構造体成形用金型8は,上記のごとく,スリット溝82の深さが均一ではなく,角部を傾斜させて傾斜部85を形成し,スリット溝82の深さを供給穴81に近づくに従って深くしてある。そのため,供給穴81からスリット溝82に抜ける材料の流れをスムーズにすることができる。
【0026】
すなわち,上記スリット溝82の底部820と供給穴81の側面810とが交差する角部が傾斜しているので,供給穴81からスリット溝に抜ける材料が,傾斜部85に沿って徐々に広がる。そのため,角部に傾斜部85がない場合と比べて,材料が幅方向に広がる際の流れ方向の変化を小さくすることができる。それ故,材料が供給穴81からスリット溝82に侵入する際の材料流れをスムーズにすることができる。そして,それ故,上記のごとくスリット溝82の溝幅が0.1mmと狭い場合においても,成形圧力の増大等を抑制することができ,優れた成形性を維持することができる。
【0027】
また,このような優れたハニカム構造体成形用金型8のスリット溝82を加工するに当たり,上記の独特な加工方法を採用している。すなわち,水柱18の中を通すレーザ光1を用い,その照射スキャン回数を局部的に変更する。これにより,局部的に溝深さを変更することができる。
【0028】
そして本例では,この照射スキャン回数の増加を上記角部の近傍において行う。これにより,容易に上記傾斜部85を形成することができ,供給穴81に近づくほどスリット溝82の深さが深くなる形状得ることができるのである。
そして,このような有利な点は,従来より行われていた研削方法或いは放電加工方法では得ることが困難である。
【0029】
(比較例1)
比較例1は,図4に示すごとく,スリット溝82の加工方法を従来よりある放電加工方法に変更し,スリット溝82の深さを均一にしたハニカム構造体成形用金型9の例である。その他の構造は実施例1と同様である。
この比較例1のハニカム構造体成形用金型9及び上記実施例1のハニカム構造体成形用金型8を用いてハニカム構造体を押出成形した場合の材料の流れ方を図2,図4に示す。なお,上記ハニカム構造体用のセラミック材料としては,例えば,コーディエライトの原料となる複数の粉末とバインダーを混練したものがある。また原料粉末の粒径としては60μm以下のものを採用することができる。
【0030】
図4に示すごとく,従来のハニカム構造体成形用金型9の場合には,スリット溝82の深さが均一に形成されているので,供給穴81に矢印B方向に供給された成形材料の流れは,スリット溝82と交わる角部で直角の矢印D方向に変更された後,スリット溝82内での成形材料同士の衝突により矢印E方向に変更されてスリット溝82から押出成形される。
【0031】
一方,図2に示すごとく,本発明のハニカム構造体成形用金型8の場合には,上記傾斜部85を有しており,スリット溝82の深さが供給穴81に近づくにしたがって徐々に深くなっているので,供給穴81に矢印B方向に供給された成形材料の流れは,スリット溝82と交わる角部で上記傾斜部85の傾斜に沿って,矢印C方向に流れを変える。そして,最終的に矢印E方向に変更されてスリット溝82から押出成形される。
【0032】
このように,実施例1のハニカム構造体成形用金型を用いた場合には,比較例1のハニカム構造体成形用金型を用いた場合よりも材料流れの方向変化量が少ないので,変形圧力の増加を抑制することができる。そのため,スリット溝幅が狭くなっても優れた成形性を維持することができる。
【0033】
(実施例2)
本例では,図5に示すごとく,六角形格子状のスリット溝82を有するハニカム構造体成形用金型8を製造する例である。
この場合には,実施例1におけるレーザ光1の照射スキャン経路を工夫して,その軌跡が六角形格子状となるようにした。その他は実施例1と同様である。
この場合にも実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0034】
(実施例3)
本例では,実施例1と同様に,ハニカム構造体成形用金型8に傾斜部85を設け,その形状を定量的に測定した。
図6に示すごとく,本例のハニカム構造体成形用金型8は,供給穴81の直径を1mm,供給穴のピッチを2mmとすると共に,実施例1と同様にして傾斜部85を設けた。なお,スリット溝82の幅は実施例1と同様に0.1mmである。
【0035】
本例の傾斜部85は,同図に示すごとく,上記供給穴81の側面810との距離Lが0.3mm以上の範囲にわたって設けられており,その最終深さD(ダレ距離)は0.3mm以上である。
【0036】
本例では,比較のために,図7に示すごとく,上記スリット溝82の形成を研削加工に変更し,傾斜部を有していない構造のハニカム構造体成形用金型9を作製した。そして,上記本例のハニカム構造体成形用金型8(本発明品)と比較のためのハニカム構造体成形用金型9(比較品)とを用いて実際に押出成形を行い,比較した。
【0037】
比較の結果,本発明品の場合には,比較品に比べて,材料の流れがスムーズになり,優れた押出成形性が得られた。
この結果から,上記のごとく,少なくともスリット溝82の幅が0.1mmの場合には,供給穴81の側面810との距離Lが0.3mm以上の範囲にわたって設けられており,その最終深さD(ダレ距離)は0.3mm以上であるような傾斜部85を設けることによって,供給穴81からスリット溝82への材料の流れ性を向上させることができることが分かった。
【0038】
また,この結果,従来と同様の材料の流れ性でよい場合には,スリット溝82の深さを浅くしても十分に流れ性を確保することができる。そのため,例えば,上記ダレ距離Dの1/3程度の距離について,スリット溝82の深さを小さくすることができるので,加工時の能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるハニカム構造体成形用金型の,(a)平面図,(b)要部拡大図。
【図2】実施例1におけるハニカム構造体成形用金型の,図1のA−A線矢視から見た断面図。
【図3】実施例1におけるレーザ加工装置の構成を示す説明図。
【図4】比較例1におけるハニカム構造体成形用金型の断面図。
【図5】実施例2におけるハニカム構造体成形用金型の,(a)平面図,(b)要部拡大図。
【図6】実施例3におけるハニカム構造体成形用金型の傾斜部の拡大説明図。
【図7】比較例におけるハニカム構造体成形用金型の傾斜部の拡大説明図。
【符号の説明】
1...レーザ光,
3...レーザ加工装置,
7...金型素材,
8...ハニカム構造体成形用金型,
81...供給穴,
810...側面,
82...スリット溝,
820...底部,
Claims (4)
- 少なくとも,材料を供給するための供給穴と,該供給穴に連通し材料をハニカム形状に成形するためのスリット溝とを有するハニカム構造体成形用金型を製造する方法において,
金型素材の穴形成面から上記供給穴を形成した後,
該穴形成面と反対側の溝形成面の溝形成位置に対して水を噴射して水柱を形成すると共に,該水柱の中を通してレーザ光を照射し,該レーザ光の照射位置を上記溝形成位置に沿って移動させて同じ溝形成位置を複数回通過させる照射スキャンを行い,
かつ,形成される上記スリット溝の底部と上記供給穴の側面とが交わって形成される角部近傍において上記照射スキャンの回数を増やし,上記スリット溝の深さが上記供給穴に近づくにしたがって徐々に深くなる傾斜部を設けることを特徴とするハニカム構造体成形用金型の製造方法。 - 請求項1において,上記レーザ光の照射位置の移動は,相対速度150mm/分以上で行うことを特徴とするハニカム構造体成形用金型の製造方法。
- 請求項1又は2において,上記傾斜部は,上記供給穴の側面との距離が0.5mm以内の範囲において設けられていることを特徴とするハニカム構造体成形用金型の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項において,上記傾斜部は,上記供給穴の側面との距離が0.3mm以上の範囲にわたって設けられており,その最終深さは0.3mm以上であることを特徴とするハニカム構造体成形用金型の製造方法。
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