JP4059454B2 - 酒類、食品の製造方法 - Google Patents

酒類、食品の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の酵素活性が低減又は消失した酵母を用いることを特徴とする酒類、食品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に実用酵母を用いて製造される酒類、食品(清酒、ワイン、紹興酒、ビール、醤油、味噌又はパン等)に含有される有機酸の組成は、使用する微生物(酵母、麹菌、乳酸菌等)及び原材料の影響が大きくこれらに依存している。その微生物の中で酵母が有機酸生成に関し、重要な役割をしている。
清酒の場合、有機酸は乳酸、コハク酸及びリンゴ酸が大部分を占め、酵母は主にリンゴ酸及びコハク酸を代謝産物として生成することが知られている。
【0003】
酵母を用いて清酒中の有機酸を変化させた例として以下の方法が報告されている。
エチルメチルスルホン酸(EMS)、紫外線処理等の変異処理により薬剤耐性株又は感受性株を取得し清酒中の有機酸組成を変化させる方法(特開平6−121670号公報、特開平3−175975号公報、及び日本醸造協会誌、第88巻、第645〜647頁、1993年)がある。該方法にはリンゴ酸を多量に生成する清酒酵母の取得方法が報告されている。
また、2,4−ジニトロフェノール耐性突然変異株からグリセロール資化能が高い株を分離する方法(特開平6−178682号公報)がある。該方法にはコハク酸とリンゴ酸濃度が親株より低いことが報告されている。
【0004】
遺伝子レベルで酵母を改良し清酒中の有機酸組成変化を行っている例としては以下の報告がなされている。
クエン酸回路中のフマラーゼ遺伝子を破壊した結果、親株と比較して培養液中のコハク酸が減少し、フマル酸が増加したという報告〔ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering) 、第80巻、第355〜361頁、1995年〕がある。また、フマラーゼ遺伝子(FUM1)及び/又はコハク酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(SDH1)を破壊し、有機酸組成への影響を報告している例(平成9年度農芸化学会大会講演要旨集、p346、4Ya7)もある。
この他にもアコニット酸ヒドラターゼ遺伝子(ACO1)、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(HGD1)、SDH1、FUM1、イソクエン酸リアーゼ遺伝子(ICL1)、フマレートリダクターゼ遺伝子2種の遺伝子破壊を行い有機酸生成機構の解明を報告している例(平成9年度日本生物工学会大会講演要旨集、p200、560)もある。
クエン酸回路以外の酵素では、ウラシル合成酵素遺伝子(Ura3)を破壊することにより、親株と比較しコハク酸及びリンゴ酸が増加したという報告(特公平7−114689号公報)がある。
【0005】
2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体は3種類の酵素、すなわち2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、ジヒドロリポアミドスクシニルトランスフェラーゼ、リポアミドデヒドロゲナーゼにより構成されており、それぞれKGD1、KGD2、LPD1遺伝子にコードされている。このうちリポアミドデヒドロゲナーゼは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の構成酵素でもある。2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のKGD1、KGD2遺伝子の塩基配列はそれぞれ公知の配列であり、KGD1の遺伝子破壊酵母による、又は変異処理後グリセロール培地での選択による、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ欠損酵母、並びにKGD2遺伝子破壊酵母による、又は変異処理しグリセロール培地での選択による、ジヒドロリポアミドスクシニルトランスフェラーゼ欠損酵母は取得されている。
各々、下記文献に記載されている。KGD1〔モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Molecular and Cellular Biology) 、第9巻、第2695〜2705頁、1989年〕、KGD2〔モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー、第10巻、第4221〜4232頁、1990年〕。
しかしながら、上記酵母は栄養要求性をもった生化学実験に主に供されている酵母を使用しており、すべて酵素又は遺伝子の細胞内での生理的役割を解明する目的の手段として作製されたものである。酒類、食品の酸度、有機酸組成を変化させることにより酒類、食品の製造に適するように改良し嗜好に不適な有機酸含量が減少した酵母の取得並びにその酵母を用いた酒類、食品の製造は知られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
現在、前記のような方法で有機酸組成を変化させようとしているが、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素活性が低減又は消失した酵母を用いて、従来にない有機酸組成をもつ酒類、食品の製造方法を開発していくことが課題として残されている。
本発明の目的は、特定酵素の酵素活性が低減又は消失した酵母を用いて、従来にない有機酸組成の酒類、食品の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、酒類、食品を製造する方法において、遺伝子破壊法により2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素活性が低減又は消失したサッカロミセス属に属する酵母であって、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のKGD1遺伝子を破壊した二倍体の酵母Saccharomyces cerevisiae G3(FERM P−16628)を用いることを特徴とする酒類、食品の製造方法に関する。
【0008】
本発明者らは、酵母を遺伝子レベルで操作することにより、酒類、食品(清酒、ワイン、紹興酒、ビール、醤油、味噌又はパン等)の有機酸組成を変化させようとした。
2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体は、3種類の酵素、すなわち2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、ジヒドロリポアミドスクシニルトランスフェラーゼ、リポアミドデヒドロゲナーゼにより構成されており、それぞれKGD1、KGD2、LPD1遺伝子にコードされている。
本発明者らは、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素活性が低減又は消失した酵母を取得し、この株を用いて清酒小仕込み試験を行った結果、酸度が減少し有機酸組成が変化することを見出した。すなわち嗜好に不適なコハク酸含量が減少し及び酸度が減少することを見出し本発明の完成に至った。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
使用する酵母は特に限定はなく醸造、食品に用いられる実用酵母であればよく例えば清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、醤油酵母又はパン酵母等が挙げられサッカロミセス(Saccharomyces)属、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属がありサッカロミセス属が香味の点から好ましい。
本発明においては一倍体、二倍体又は二倍体以上の高次倍数体の酵母を使用することができ、例えば二倍体実用酵母から一倍体実用酵母を作製してもよい。
二倍体株からの一倍体株の取得方法は、特に限定はなく常法に従って行えばよい。例えば特開平5−317035号公報に記載されている製造方法にて取得した株、すなわち、日本醸造協会701号(以下、K701と略記する)を麹汁培地にて胞子形成させた後、アルコール処理にて胞子を分離し、色素培地にて一倍体を選別するという方法を用いて取得したα型の一倍体株α41(以下、α41と略記する)又はa型の一倍体株a10(以下、a10と略記する)を用いてもよい。
【0010】
本発明における2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素活性が低減又は消失した酵母を取得する方法としては、特に限定はなく遺伝子破壊法、変異処理法でもよい。変異処理としては酵母に公知の変異誘導法、例えば、変異誘発の物理的手段としては、紫外線照射、放射線照射等があり、化学的手段としては、エチルメチルスルホン酸、N−メチル−N′−ニトロソグアニジン等の変異剤を接触させる方法を適宜用いることにより行えばよい。2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体を特異的に破壊された株を得るには遺伝子工学的手法の遺伝子破壊法を用いるのが好ましい。目的とする有機酸の生成酵母の選択方法は、通常用いられる方法でよく、特に限定はない。
酵母での遺伝子破壊の方法は、3通りの方法、すなわち化学と生物、第31巻、第8号、第524〜530頁、1993年記載のA:破壊しようとする遺伝子の翻訳領域のN末端とC末端を欠失させた遺伝子と選択マーカー遺伝子からなるプラスミドを使用する方法、B:翻訳領域の真ん中に選択マーカー遺伝子を導入することにより目的遺伝子を破壊する方法、C:N末端とC末端の方向を逆にもつ破壊用プラスミドにより破壊する方法が存在するが、いずれの方法においても目的とする遺伝子破壊株は得られる。なお、酵母育種用の選択マーカーとしては酵母由来の選択マーカーが好適であり、該選択マーカーとしては本発明で使用したオーレオバシジンA耐性遺伝子が挙げられる。この選択マーカーはオーレオバシジンA耐性酵母形質転換システム〔宝酒造(株)製〕として市販されており、該システムを使用することにより簡便に目的酵母の形質転換を行うことができる。
【0011】
通常、清酒、ワイン、紹興酒、ビール等の実用酵母においては二倍体あるいは、二倍体以上の高次倍数体である。
【0012】
二倍体の遺伝子破壊株の取得方法としては、以下の3つの方法がある。
(1)マーカー遺伝子(本発明で用いたオーレオバシジンA耐性遺伝子等)を含む破壊用プラスミドを用いて一回の形質転換で染色体の二本両方共破壊された株を取得する方法。この方法は形質転換後、選択培地にて大きなコロニーを選択することで染色体の二本両方共破壊された株が取得可能である。
(2)異なったマーカー遺伝子を含む二種類の破壊用プラスミドを用いて一本ずつ染色体を破壊する方法。まず最初に、あるマーカー遺伝子(例えばオーレオバシジンA耐性遺伝子等)を含む破壊用プラスミドで一本の染色体を破壊後、次に別のマーカー遺伝子(例えばセルレニン耐性遺伝子、G418耐性遺伝子等)を含む破壊用プラスミドを用いて残りの染色体を破壊する方法である。
(3)一倍体(a型及びα型)の遺伝子破壊株を各々取得後、交雑を行い二倍体株にする方法。この方法は異なったマーカー遺伝子を含む二種類の破壊用プラスミドを用いてa型及びα型を各々破壊後、その破壊株を交雑し、二種類の選択培地にて順次二倍体株を取得する方法である。この場合、マーカー遺伝子を含む一種類の破壊用プラスミドを用いて各一倍体株(a型及びα型)を破壊後、交雑を行い、一種類の選択培地で二倍体株を取得することも可能である。
【0013】
本発明で破壊した2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体破壊株の効果は、KGD1遺伝子だけに限定されず、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体を構成する酵素タンパク質の遺伝子であるKGD2遺伝子を破壊しても同様の効果が得られる。
【0014】
以下にその取得方法の1例を示す。
(遺伝子破壊によるKGD1遺伝子破壊株の取得)
遺伝子破壊用プラスミド(pKGD1)(図1)は以下のように作製した。
K701の染色体DNAを精製後、これを鋳型として配列表の配列番号1、配列番号2でそれぞれ表される25残基のプライマー(5’末端リン酸化)を用いてPCRにてKGD1遺伝子部分配列〔686番目から1299番目(既述のモレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー、第9巻、第2695〜2705頁、1989年の記載による)〕614残基を増幅した。PCR増幅KGD1遺伝子部分配列を末端平滑化処理後、電気泳動にて精製した。このPCR増幅したDNA断片とSmaI消化、脱リン酸化したプラスミドpAUR101〔宝酒造(株)製〕とをリガーゼにて連結した。
得られた遺伝子破壊用プラスミド(pKGD1)の挿入遺伝子の塩基配列確認は、DNAシークエンサーにて行った。
pKGD1をAor51HIで切断直線化後、K701由来の一倍体株(a10、α41)を酢酸リチウム法にて形質転換した。0.5μg/mlオーレオバシジンA〔宝酒造(株)製〕含有YPD培地にて選択することにより一倍体のKGD1遺伝子破壊株Ga−7及びGα−11(以下、Ga−7及びGα−11と略記する)を取得した。遺伝子破壊の確認は、サザン解析及びSG培地〔非発酵性炭素源配置:0.67%イーストニトロゲンベース(アミノ酸不含)、2%グリセロール及び2%寒天〕で生育しないことにより行った。
【0015】
(交雑方法)
一倍体株をYPD液体培地(2%Glc)にて一夜、30℃にて振とう培養後、各15μlをYPD平板培地(2%Glc)上、十字に植菌し、2日間、30℃にて静置培養した。交雑個所を採取し水に懸濁後、YPD平板培地あるいはオーレオバシジンA含有YPD平板培地に植菌し2日間、30℃にて静置培養を行い、大きいコロニーを形成する株を選択した。選択した株の二倍体の確認は顕微鏡観察にて行い、KGD1遺伝子破壊の確認はサザン解析並びにSG培地に生育しないことにより行った。上記の方法により二倍体のKGD1遺伝子破壊株G3(以下、G3と略記する)を取得した。
【0016】
(サザン解析)
遺伝子破壊株の染色体DNAを精製後、HpaI、AccIII消化し、電気泳動にて分離、ナイロンメンブレンにブロッティングした。PCR増幅DNAを鋳型としてRandom Primer Labeling Kit〔宝酒造(株)製〕を用いて32P標識したプローブを作製後、ハイブリダイゼーション、洗浄、フィルムへの感光、現像を行った。
KGD1遺伝子破壊のサザン解析の結果のパターンを図2に写真で示した。横はlane(レーン)、縦は分子量の大きさを意味する。
図2に示すようにlane1のK701、lane2のa10、lane3のα41では、約1kbpのKGD1遺伝子のバンドが検出された。lane4のGa−7、lane5のGα−11、lane6のG3には、約1kbpのKGD1遺伝子のバンドが検出されず、KGD1遺伝子内にオーレオバシジンA耐性遺伝子が挿入されたことを示す約8kbpのバンドが検出された。このことからKGD1遺伝子は、機能をもたない二つの遺伝子に分断され破壊されたことが確認された。
【0017】
(SG培地での生育)
K701、a10、α41をコントロールとしてGa−7、Gα−11、G3をSG平板培地に植菌し30℃にて3日間培養した結果K701、a10、α41は生育したがGa−7、Gα−11、G3は生育しなかった。グリセロールを資化できないことは、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼの酵素活性が消失したことを裏付ける〔モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー、第9巻、第2695〜2705頁、1989年〕。
【0018】
かくして本発明者らは、a型(一倍体)のKGD1遺伝子破壊株Ga−7とα型(一倍体)のKGD1遺伝子破壊株Gα−11の交雑株G3を取得した。
【0019】
上記のように、本発明による菌株(G3)はK701由来の一倍体(a10、α41)遺伝子破壊株の交雑株であるが、その菌学的性質を以下に示す。
(菌学的性質)
1.形態学的性質
YPD培地で30℃、2日間培養した後顕微鏡で観察した。
a)形:卵円形
b)大きさ:長さ4.3〜6.1μm、幅4.1〜5.5μm
2.増殖の形態:出芽
3.生化学的観察
a)糖の発酵性
ウイッカーハムの炭素化合物同化試験用培地(ディフコ社製)をダーラム管入り試験管に分注して当該2菌株を接種し、30℃で7日間培養してその炭酸ガス発生の有無を観察した。
グルコース (+) ガラクトース (+)
スクロース (+) マルトース (+)
ラクトース (−) メリビオース (−)
ラフィノース (+)
b)糖の資化性
ウイッカーハムの炭素化合物同化試験用培地(ディフコ社製)を用いてオキザノグラフ法により、30℃、14日間後の生育を観察した。
グルコース (+) ガラクトース (+)
スクロース (+) マルトース (+)
ラクトース (−)
c)硝酸塩の同化性:(−)
硝酸塩は硝酸カリウムとし、ウイッカーハムの炭素化合物同化試験用培地(ディフコ社製)を用いてオキザノグラフ法により生育を観察した。
d)TTC染色性:赤
e)β−アラニン培地、35℃、3日間培養での生育:(−)
4.高泡の形成
清酒の小仕込を行ったところ、高泡の形成は観察されなかった。
5.オーレオバシジンAに対する耐性
オーレオバシジンA(0.5μg/ml)を含むYPD培地を用いて、30℃で2日間培養した結果、K701、a10、α41は生育しなかったが、当該菌株G3は生育した。
以上、形態学的、生化学的結果は、本発明に用いられる酵母菌株G3がサッカロミセス・セレビシエに属する酵母菌であることを示すものである。また、β−アラニン培地、35℃での生育が陰性、かつ清酒の小仕込において高泡の形成も認められないことから当該菌株G3は、K701株由来の交雑株であることを示すものである。
【0020】
かくして、本発明によりKGD1遺伝子を破壊した二倍体株が得られ、この株を用いることにより親株と比較し従来にない有機酸組成の酒類、食品例えば清酒が得られることが判明した。本発明においては、二倍体株に限定されず、一倍体、二倍体又は二倍体以上の高次倍数体の酵母を使用することができる。
【0021】
a型(一倍体)のKGD1遺伝子破壊株Ga−7、α型(一倍体)のKGD1遺伝子破壊株Gα−11、K701由来のGa−7とGα−11の交雑株G3のうちG3を代表的菌株として、 Saccharomyces cerevisiae G3と命名、表示され、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−16628として寄託してある。
【0022】
本発明の酒類とは、清酒、ワイン、紹興酒又はビール等があり、食品とは醤油、味噌又はパン等がある。
清酒、ワイン、紹興酒の製造は原料処理、仕込、糖化及び発酵、熟成、上槽及び精製工程からなる。蒸留酒の製造は原料処理、仕込、糖化及び発酵(糖化、発酵)、蒸留及び熟成工程からなる。醤油の製造は原料処理、仕込、発酵、上槽、精製工程からなる。味噌の製造は原料処理、仕込、発酵工程からなる。ここでいう原料処理は製麹工程も含む。
【0023】
本発明の酒類、食品の製造方法は、遺伝子破壊法により2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素活性が低減又は消失したサッカロミセス属に属する酵母であって、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のKGD1遺伝子を破壊した二倍体の酵母Saccharomyces cerevisiae G3(FERM P−16628)を用いることを特徴とし、製造方法は特に限定されるものではない。
【0024】
【実施例】
本発明の酒類、食品製造の実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0025】
実施例1
KGD1遺伝子を破壊した一倍体株2株(Ga−7、Gα−11)を用いて麹汁発酵試験を行った。
麹汁培地は、精米歩合75w/w%の麹米に蒸留水を加え55℃、一夜自己消化し、ブリックス度10.0に調製したのを使用した。酵母は、3ml中に6×108 個含むものを添加した。発酵は、15℃一定で行い、留後15日目で上槽した。対照株としてK701、親株a10、親株α41、pAUR101をBstPIで切断後a10を形質転換した株pa−1(以下、pa−1と略記する)及びpAUR101をBstPIで切断後α41を形質転換した株pα−1(以下、pα−1と略記する)を用いた。有機酸組成分析は、イオン排除クロマトグラフィーを利用した島津高速液体クロマトグラフの有機酸分析システムにて行った。上槽液の分析結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
Figure 0004059454
【0027】
この結果、一倍体のKGD1遺伝子破壊株Ga−7及びGα−11は各々の親株a10、α41と比較し、嗜好に適さぬコハク酸が低くなる傾向を示し、さわやかな味となり官能的にも良好な結果となった。また、オーレオバシジンA耐性遺伝子を持つプラスミドのみを導入した株pa−1及びpα−1は、各々親株a10、α41の有機酸組成とほぼ同じであり、プラスミド導入により有機酸組成には影響を与えなかった。
【0028】
実施例2
KGD1遺伝子を破壊した一倍体の2株(Ga−7、Gα−11)及び交雑により取得した二倍体株(G3)を用いて表2に示す仕込配合で清酒の製造を行った。掛米は精米歩合77w/w%のα化米〔セブンライス工業(株)製〕を使用した。麹は、精米歩合75w/w%の白米を用いて製造した。酵母は5ml中に1×109 個含むものを添加した。発酵は、15℃一定で行い、留後15日目で上槽した。対照株として二倍体株は、K701、a10とα41の交雑株である10−41−2(以下、10−41−2と略記する)、及びpα−2はpa−1の交雑株である10p−41p−15(以下、10p−41p−15と略記する)を用いた。一倍体の対照株としてa10、α41、pa−1及びpα−1を用いた。上槽液の分析結果を表3に示す。
【0029】
【表2】
Figure 0004059454
【0030】
【表3】
Figure 0004059454
【0031】
官能検査は3点法(1:良、2:普通、3:悪)で行い、パネラー10名の平均値で示した。
【0032】
この結果、KGD1遺伝子を破壊した一倍体株(Ga−7,Gα−11)は親株のa10、α41株と比較し酸度は低くなり、異なる有機酸組成を示した。すなわち、嗜好に不適なコハク酸が減少する傾向を示した。交雑により取得したKGD1遺伝子破壊の二倍体株(G3)も同様にK701、交雑の二倍体株である10−41−2、10p−41p−15と比較し酸度は低く、コハク酸は親株と比較し約半分に減少した。また、オーレオバシジンA耐性遺伝子を含んだpa−1、pα−1は親株(a10、α41)と比較し、一般分析値、有機酸組成には影響を与えなかった。官能検査の結果より2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を破壊した清酒酵母(二倍体)の上槽清酒は、二倍体の対照株として用いた3株中で最も官能的に優れたK701と比較し、すっきりし、爽快な酸味を示し良好な結果を示した。
【0033】
実施例3
通常のパンを調製するにあたり当該遺伝子破壊株G3をシクロデキストリンに充分含有させ、各々をパンのドウ当り1.0%〜2.0%添加した。また、K701も同時に調製した。常法に従い発酵させ焙焼した。得られたパンについて官能検査を行った結果、当該遺伝子破壊株で作製したパンは、K701で作製したパンに比べ、すっきりした、爽快な酸味を示し従来にない優れた味覚に改良されたことが認められた。
【0034】
【発明の効果】
本発明の酒類、食品を製造する方法において、遺伝子破壊法により2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素活性が低減又は消失したサッカロミセス属に属する酵母であって、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のKGD1遺伝子を破壊した二倍体の酵母Saccharomyces cerevisiae G3(FERM P−16628)を用いることにより、酒類の製造において酸度を減少させることが可能となった。また従来とは全く異なった有機酸組成をもつ酒類、食品を製造することが可能になった。すなわち、この酵素活性を低減又は消失させることによりさわやかな酸味を与え、嗜好に不適なコハク酸含量のみが減少した新規な酒類、食品の製造方法を提供することができる。
【0035】
【配列表】
【0036】
Figure 0004059454
【0037】
Figure 0004059454

【図面の簡単な説明】
【図1】 遺伝子破壊用プラスミド(pKGD1)の構造を示す図である。
【図2】 KGD1遺伝子破壊のサザン解析のパターンを示す写真である。

Claims (2)

  1. 酒類、食品を製造する方法において、遺伝子破壊法により2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素活性が低減又は消失したサッカロミセス属に属する酵母であって、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のKGD1遺伝子を破壊した二倍体の酵母Saccharomyces cerevisiae G3(FERM P−16628)を用いることを特徴とする酒類、食品の製造方法。
  2. 請求項1に記載の酒類、食品の製造方法において、コハク酸含量が減少した酒類、食品を製造することを特徴とする請求項1に記載の酒類、食品の製造方法。
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