JP4058267B2 - ナノ粒子の製造方法および該ナノ粒子含有分散液の調製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体や酸化物導電体に用いられる電子材料として有用なナノ粒子、特に金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子の製造方法および該ナノ粒子含有分散液の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
金属カルコゲナイドナノ粒子は、例えば、気相中に高温で蒸発させた金属の蒸気を供給し、酸素、H2Sなどの反応性ガス分子との衝突により急冷させて微粒子を形成する気相法、金属イオンを溶解した水溶液のpH、あるいはアニオンの濃度を制御して金属水酸化物あるいは金属化合物として取り出した後、乾燥または焼成を行う溶液法、その他ゾルゲル法、逆ミセル法、ホットソープ法などの液相法により合成できる。また、金属硫化物コロイドは、該当する金属酸化物コロイド分散液にH2Sガスを通じて得ることもできる。
【0003】
これらの方法の中で、液相法は比較的安価に大量に合成できる長所を有する。液相法は通常の場合、撹拌機を備えた反応容器内に金属カチオン溶液とカルコゲナイドアニオン溶液またはOH−溶液を添加して行われ、初期の添加によって核形成が起こり、その後の添加によって結晶成長が起こるので、いずれの撹拌方法を用いても、反応容器内を液が循環するために核形成と核成長が並行して起こり、ナノサイズの単分散粒子を得るのが困難である。
【0004】
特開平4−139440号や特表平6−507255号では、機械的撹拌を伴わずに混合を行うため、添加液の循環は存在しない。しかし、これらの方法では撹拌が存在しないために混合力が不十分である。機械的撹拌によらずに十分な混合力を保つために、添加液を噴流としてその運動エネルギーによって混合を行う方法が、特開平8−334848号や特開2000−338620号に開示されている。この方法では高い運動エネルギーが混合に反映され、かつ添加液の循環をなくすることができるが、噴流の実現に高圧が必要となり、その流量の安定性を欠く欠点をもっている。
【0005】
また、得られた金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子とともに副生成物である塩や分解生成物などが分散液中に溶解しており、通常それらを除去することが必要である。塩や分解生成物を除去するには、通常、限外ろ過法、電気透析法、遠心分離法などが用いられる。しかし、ナノ粒子を含有する分散液を処理する場合、前二つの方法ではろ過膜や透析膜が目詰まりしやすく実用的ではないし、後者の方法ではバッチ処理にならざるを得ず、非効率である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ナノサイズでかつサイズのそろった(単分散な)金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物粒子を連続的に合成する方法を提供する。また、このナノ粒子を結晶成長させることにより、より大サイズの単分散粒子を形成する方法を提供する。さらに本発明は、金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子とともに生成する塩や分解生成物などの溶解物を連続的に除去しうる方法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は以下の方法によって達成された。
(1)金属塩溶液(流体1)を通す第一の流路と、カルコゲナイド溶液またはアルカリ(塩基)溶液(流体2)を通す第二の流路を具備し、該二つの流体が各々実質的に薄い層をなして流れる領域の、少なくとも1箇所において、両流体の接触界面が形成され、その接触の界面を有する部分の該二つの薄い流れの厚さが、それぞれ、その接触界面の法線方向で1〜500μmであって、該二つの薄い層の接触界面において金属イオンとカルコゲナイドイオンまたは水酸化物イオンが拡散、移動して、金属イオンとカルコゲナイドイオンまたは水酸化物イオンが反応することによって、金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物のナノ粒子を連続的に生成させることを特徴とするナノ粒子の製造方法。
(2)第一の流路と第二の流路が、前記のように互いに並行交互に配置され、該流路が合計で3本以上設置されたことを特徴とする(1)項に記載のナノ粒子の製造方法。
(3)反応容器に、(1)または(2)項に記載された方法によって合成した金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子を供給して、反応容器において粒子成長を起こさせ、より大サイズの金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子を形成することを特徴とするナノ粒子の製造方法。
(4)(1)または(2)項に記載された方法によって合成した金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子をコア(核)として、その上に金属および/または金属化合物をシェル(殻)形成させることによって、コア/シェル型ナノ粒子を形成することを特徴とするナノ粒子の製造方法。
(5)(1)〜(4)項のいずれかに記載の方法を実施するに当り、さらに、多段の限外ろ過装置を設置し、ナノ粒子を生成せしめたナノ粒子分散液中に溶解している塩を連続的に除去することを特徴とする該ナノ粒子の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の金属カルコゲナイドを形成する金属としては、Ib族(Cu、Ag、Au)、IIa族(Mg、Ca、Srなど)、IIb族(Zn、Cd、Hg)、IIIa族(Sc、Y、Euなど)、ホウ素を除くIIIb族(Al、Ga、In、Tl)、IVa族(Ti、Zrなど)、炭素とケイ素を除くIVb族(Ge、Sn、Pb)、Va族(V、Nb、Taなど)、窒素とリンを除くVb族(As、Sb、Bi)、VIa族(Cr、Mo、Wなど)、VIIa族(Mn、Tc、Reなど)、VIII族(Fe、Ru、Co、Ni、Pdなど)の各元素が挙げられる。また、カルコゲンとしてはVIb(O、S、Se、Te、Po)の元素が挙げられる。水またはアルコールなどの適当な有機溶媒に溶解した金属塩溶液とカルコゲナイド溶液が用いられる。金属塩溶液とカルコゲナイド溶液はそれぞれ単独でも複数の混合物でもよい。なお、金属酸化物は前述のように金属塩溶液にアルカリ(塩基)溶液を混合することにより金属水酸化物を形成させ焼成することにより得られる。
本発明において用いられるアルカリ(塩基)溶液とは特に制限するものではないが、水またはアルコールなどの適当な有機溶媒に溶解した、アルカリ金属塩(例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ホウ酸ナトリウム)又はアルカリ土類金属塩(例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム)があげられる。
【0009】
金属塩溶液およびカルコゲナイド溶液またはアルカリ(塩基)溶液の濃度は、任意に設定できるがサイズ制御および生産性の観点から0.05モル/リットル以上5モル/リットル以下が好ましく、0.1モル/リットル以上1モル/リットル以下がさらに好ましい。また溶液の温度は5℃以上75℃以下が好ましい。
本発明において接触界面における流体1と流体2との流速は好ましくは0.05〜1000ml/分、より好ましくは0.1〜100ml/分とする。また流体1と流体2の流速は等しくても異なっていてもよい。
【0010】
本発明の金属塩溶液およびカルコゲナイド溶液またはアルカリ(塩基)溶液の少なくとも一方に、金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子表面に吸着する、吸着性化合物(分散剤)を含有することが望ましい。吸着性化合物により粒子表面を表面修飾した状態で溶媒中に分散することにより安定なナノ粒子分散液(コロイド分散液)が得られる。この場合の吸着性化合物の使用量は分散性を十分に高める程度であればよく特に制限はない。
吸着性化合物としては、−SH、−CN、−NH2 、−SO2 OH、−SOOH、−OPO(OH)2、−COOH含有化合物などが有効であり、これらのうち−SH、−NH2または−COOH含有化合物が好ましい。親水性コロイドの場合には、親水性基(例えば、−SO3Mや−COOM〔Mは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム分子等を表わす〕)を有する吸着性化合物を使用するのが好ましい。また、アニオン性界面活性剤(例えば、エアロゾルOTやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)や親水性高分子(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン等)も使用することができる。
なお、ナノ粒子の表面が吸着性化合物や親水性高分子などで表面修飾していることは、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)などの高分解能の透過型電子顕微鏡(TEM)で粒子間に一定の間隔があること、および化学分析により確認できる。
【0011】
本発明において、ナノ粒子含有分散液の分散溶媒としては、水、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;ジクロルメタン、1,2ージクロルエタン、クロロホルムなどの塩素化炭化水素;ジメチルホルムアミドなどのアミド;シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンなどの炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール;2,2,3,3−テトラフロロプロパノールなどのフッ素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類などを挙げることができる。上記溶剤は使用する化合物の分散性を考慮して単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。コロイド分散溶媒は、前記金属塩溶液またはカルコゲナイド溶液の溶媒と同じであっても異なっていてもよい。異なる場合は脱塩処理時に溶媒置換することにより実施できる。
【0012】
本発明における金属カルコゲナイド粒子又は金属水酸化物粒子形成の為の混合は、上記の従来行われてきた乱流による混合ではなく、層流(laminar flow)を利用した混合である。本発明の混合では、金属塩溶液及びカルコゲナイド溶液又はアルカリ(塩基)溶液を薄い層(lamella)に細分化させ、お互いを広い面積で接触させる事によって、均一に短時間のうちにイオンの拡散をおこさせる事により、より速く且つより均一な混合を実現するものである。拡散によるイオンの移動は濃度の時間的変化で関係づけられるFickの法則に従い、拡散係数と濃度勾配の積として次式で与えられる。
t 〜 dl2/D
ここで、Dは拡散定数、dlは薄層の厚さ、tは混合時間を表わす。
上記式から、混合時間tは薄層の厚さdlの二乗に比例する為、この層を薄くする事によって非常に効果的に混合時間を短くする事ができる。
以上の関係から必要な接触界面の長さは、薄い層流の厚み、流体の流速、流体中の反応成分の濃度、目的のナノ粒子分散液の濃度などによって決まるが、上述した各条件の範囲で好ましくは10−3mm〜103mm、より好ましくは10−2mm〜102mmの範囲である。また、両流体の接触界面は両流体界間で少なくとも1個所あればよいが、2個所以上設けてもよい。
【0013】
本発明の製造方法は、層流間で拡散混合させるため、混合器または反応容器としては、例えばIMM(Institute fur Mikrotechnik Mianz)製のマイクロリアクター(Microreactor)を用いる事により、実施する事ができる。マイクロリアクターの詳細については、“Microreactor" (W.Ehrfeld、V.Hessel、H.Loewe、 1Ed. (2000) WILEY-VCH)の第3章にその詳細が記載されている。特に制限するものではないが、例えば上記“Microreactor"64〜65頁の図3−17、3−18に記載のマイクロリアクターを本発明に使用することができる。本発明は、流体の多層薄膜化(multilamination)とそれに続く拡散混合の原理を利用する。金属塩溶液及びカルコゲナイド溶液又はアルカリ(塩基)溶液の流体は、厚みが数十ミクロンオーダーの互いに入り込んだスリットを通過する事によって、多数の薄膜流体に分けられ、スリットの出口でそれらはその進行方向の法線方向で広い面積で接触し、ただちに金属イオン及びカルコゲナイドイオン又は水酸化物イオンの拡散がはじまり、短時間のうちに拡散による混合が終了し、同時に起こったイオン反応によって金属カルコゲナイドナノ粒子又は金属水酸化物ナノ粒子が形成される。
【0014】
本発明における薄層の厚さは、その接触界面の法線方向で1μm〜500μmであり、好ましくは1μm以上100μm以下であり、より好ましくは1μm以上50μm以下である。層流を利用した本発明における混合時間は、特に制限するものではないが、好ましくは0.5秒未満であり、より好ましくは100ミリ秒未満であり、特に好ましくは50ミリ秒未満である。ここで、混合時間とは2つの層流の接触時間をいう。
【0015】
本発明に用いられるマイクロリアクターは、等価直径1mm以下の流路(チャンネル)を有する装置である。本発明でいう等価直径(equivalent diameter)は、相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径といい、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、一辺aの正三角形管ではdeq=a/31/2、路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(参照:(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株))。
【0016】
本発明の流路は、固体基板上に微細加工技術により作成される。使用される材料の例をあげれば金属、シリコン、テフロン、ガラス、セラミックスまたはプラスチックなどである。耐熱、耐圧および耐溶剤性が必要な場合、好ましい材料は金属、シリコン、テフロン、ガラスまたはセラミックスであるが、特に好ましくは金属である。金属の例を挙げれば、ニッケル、アルミ、銀、金、白金、タンタル、ステンレス、ハステロイ(Ni−Fe系合金)またはチタンであるが、好ましくは耐腐食性の高いステンレス、ハステロイもしくはチタンである。従来のバッチ式反応装置では酸性物質などを扱う時に金属(ステンレス等)表面にガラスライニングした装置が用いられるが、マイクロリアクターでも金属表面にガラスコーティングしてもよい。ガラスに限らず目的に応じて、金属の上に別の金属もしくは他の材料をコーティングしても良いし、金属以外の材料(例えばセラミック)に金属もしくはガラスなどをコーティングしても良い。
【0017】
流路を作成するための微細加工技術として代表的なものを挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU-8(商品名、Shell Chemical社製)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、ディープリー(Deep RIE)によるシリコンの高アスペクト比加工法、ホット・エンボス加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU-8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。
【0018】
本発明のマイクロリアクターを組み立てる際、よく接合技術が用いられる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。更に、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましいが、その技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au-Si共晶接合、ボイドフリー接着などがある。
【0019】
本発明に用いられる流路の等価直径は1mm以下であるが、好ましくは10〜500μmであり、特に好ましくは20〜300μmである。また流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm〜1000mmであり、特に好ましくは10mm〜500mmである。
【0020】
本発明において用いられる流路は2本のみである必要はなく、必要に応じて流路を何本も並列化し(Numbering-up)、その処理量を増大させることができる。例えば、流体1と流体2のそれぞれの流路に対し、さらに流体2の流路(第三の流路)を流体1の流路の外側にさらに設け、第一の流路と第三の流路間の所定部位に上記で規定される接触界面を設けることができる。このように反応を流路中の複数個所で行うように交互に流路を設けてもよい。
本発明における反応は、流路の中を流れながら、すなわちフローで行われ、ナノ粒子が連続的に生成される。
本発明における接触する流体の流れは並流でも向流でもよい。
【0021】
本発明のマイクロリアクターの流路は目的に応じて表面処理しても良い。特に水溶液を操作する場合、ガラスやシリコンへの試料の吸着が問題になることがあるので表面処理は重要である。マイクロサイズの流路内における流体制御では、複雑な製作プロセスを要する可動部品を組み込むことなくこれを実現することが望ましい。例えば、流路内に表面処理により親水性と疎水性の領域を作成し、その境界に働く表面張力差を利用して流体を操作することが可能になる。
【0022】
マイクロリアクターのマイクロサイズの流路中へ試薬やサンプルなどを導入して混合するために、流体制御機能が必要である。特に、微小領域における流体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質を持つため、マイクロスケールに適した制御方式を考えなければならない。流体制御方式は形態分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式があり、駆動力分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式がある。これらの方式を以下に詳しく説明する。
流体を扱う形態として、最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロリアクターの流路内は全て流体で満たされ、外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動するのが一般的である。この場合、比較的簡単なセットアップで制御システムを実現できることが一つの利点であるが、複数ステップの反応やサンプルの交換を伴うような操作は困難で、システム構成の自由度が小さいこと、また駆動媒体が溶液そのものであるため、デッドボリュームが大きいことなどが難点である。
連続流動方式とは異なる方式として、液滴(液体プラグ)方式がある。この方式では、リアクター内部やリアクターに至る流路内で、空気で仕切られた液滴を動かすものであり、個々の液滴は空気圧によって駆動される。その際、液滴と流路壁あるいは液滴同士の間の空気を必要に応じて外部に逃がすようなベント構造、及び分岐した流路内の圧力を他の部分と独立に保つためのバルブ構造などを、リアクターシステム内部に用意する必要がある。また、圧力差を制御して液滴の操作を行うために、外部に圧力源や切り替えバルブからなる圧力制御システムを構築する必要がある。このように液滴方式では、装置構成やリアクターの構造がやや複雑になるが、複数の液滴を個別に操作して、いくつかの反応を順次行うなどの多段階の操作が可能で、システム構成の自由度は大きくなる。
【0023】
マイクロリアクターの流体制御を行うための駆動方式として、流路(チャンネル)両端に高電圧をかけて電気浸透流を発生させ、これによって流体移動させる電気的駆動方法と、外部に圧力源を用意して流体に圧力をかけて移動させる圧力駆動方法が一般に広く用いられている。両者の違いは、たとえば流体の挙動として、流路断面内で流速プロファイルが電気的駆動方式の場合にはフラットな分布となるのに対して、圧力駆動方式では双曲線状に、流路中心部が速くて、壁面部が遅い分布となることが知られており、サンプルプラグなどの形状を保ったまま移動させるといった目的には、電気的駆動方式の方が適している。電気的駆動方式行う場合には、流路内が流体で満たされている必要があるため、連続流動方式の形態をとらざるを得ないが、電気的な制御によって流体の操作を行うことができるため、例えば連続的に2種類の溶液の混合比率を変化させることによって、時間的な濃度勾配をつくるといった比較的複雑な処理も実現されている。圧力駆動方式の場合には、流体の電気的な性質にかかわらず制御可能であること、発熱や電気分解などの副次的な効果を考慮しなくてよいことなどから、基質に対する影響がほとんどなく、その適用範囲は広い。その反面、外部に圧力源を用意しなければならないこと、圧力系のデッドボリュームの大小に応じて、操作の応答特性が変化することなど、複雑な処理を自動化する必要がある。
【0024】
流体制御方法として用いられる方法はその目的によって適宜選ばれるが、好ましくは連続流動方式の圧力駆動方式である。
【0025】
マイクロリアクターの温度制御は、装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御しても良いし、金属抵抗線や、ポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行ってもよい。温度のセンシングは、金属抵抗線ではヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行い、ポリシリコンについては熱電対を用いて検出を行う。また、ペルチェ素子をリアクターに接触させることによって外部から加熱、冷却を行っても良い。どの方法を用いるかは用途やリアクター本体の材料などに合わせて選択される。
【0026】
上記マイクロリアクターで合成された金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子を別の反応容器に導入し、結晶成長させることによってより大きいサイズのナノ粒子を得ることができる。この結晶成長による、より大きなサイズのナノ粒子の製造方法は、特に制限がなく、常法によることができる。この場合の反応容器としては、同様のマイクロリアクターでもよいし、特開平7−219092号、同8−171156号、同4−283741号、特公平8−22739号、米国特許第3,782,954号などに記載されているような撹拌混合も可能である。この反応容器中にはさらに金属塩溶液およびカルコゲナイド溶液またはアルカリ(塩基)溶液を添加してもよい。
【0027】
上記マイクロリアクターで合成されたまたは金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子を別の反応容器に導入し、この中に別の金属塩溶液および還元剤溶液を添加して反応させることにより、該金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子をコア(核)に、別の金属をシェル(殻)としたコア/シェル型ナノ粒子を得ることができる。この場合、シェルとなる金属はそれぞれ単独でもよいし、複合金属でもよい。また、該金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子をコア(核)にして、金属化合物(この場合の金属はコアと同じでも異なっていてもよい)をシェルにしたナノ粒子であってもよい。これらの場合の反応容器も、同様のマイクロリアクターでもよいし、上記のように撹拌混合器でもよい。このコア/シエル型ナノ粒子を製造する方法は、特に制限がなく、常法によることができる。
【0028】
本発明方法により製造されるナノ粒子分散液中のナノ粒子の濃度は、特に制限するものではなく、また、得られた液は濃縮常法により濃縮できるが、最初の製造時で濃度は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1〜20質量%である。また、ナノ粒子成長処理後は、好ましくは0.1質量%である。また、半導体や酸化物導電体用の塗布液として用いる場合は、各用途によって異なるが好ましくはナノ粒子0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。しかしこれに制限されるものではない。
混合器(例えば上記マイクロリアクター)および/または反応容器の外に、多段の限外ろ過装置を設置し、該混合器および/または反応容器中の金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子分散液中に溶解している塩などを連続的に除去することが好ましい。
多段の限外ろ過装置とは、例えばザルトリウスAG社製のVivaFlow 50(商品名)のような細いチューブ状の限外ろ過膜を複数直列および/または並列に組合わせたものであり、これに分散媒を添加しながら金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物ナノ粒子を含有するコロイド分散液を通すことにより効率的に脱塩および濃縮できる。限外ろ過膜を通すコロイド分散液の流速は、コロイド溶液の濃度、分散剤の種類などにより適宜設定できるが、限外ろ過膜1経路当たり、10ml〜1000mlが好ましく、100ml〜500mlがより好ましい。限外ろ過後のコロイド分散液の伝導度は1mS/cm以下であることが望ましい。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1.テルル化アンチモンナノ粒子の調製
本実施例では、特開平10−239787号公報の図2に開示されている混合器を用いる製造工程において、同公報の図1に開示されている撹拌混合器(混合器内体積0.5ml)を用いて調製したナノ粒子コロイドをA、本発明で規定するマイクロリアクターを用いて調製したナノ粒子コロイドをBとする。
【0030】
ナノ粒子コロイドA (比較例)
テルル1.9gに予め除酸素した水400mlを加えこの中に2.5%NaBH4水溶液50mlを添加して室温、除酸素雰囲気下で1時間攪拌した。赤紫色を経て無色透明なテルライド水溶液を得た。L-酒石酸を添加してテルライド水溶液のpHを7まで低下させ残存するNaBH4を失活させた後、除酸素水を加えて全量を500mlにした。この溶液をテルル化ナトリウム含有液と呼ぶことにする。
上記公報の図1に示した撹拌混合器に、酢酸アンチモン3.0g、L-酒石酸4.5gおよび平均分子量10000のポリビニルピロリドン5gを除酸素水500mlに溶解した水溶液(酢酸アンチモン水溶液と呼ぶことにする)と、上記テルル化ナトリウム含有液500mlを連続的に250分間送液し、得られた反応物を多段の限外ろ過装置に通すことにより、脱塩と濃縮を行い、100mlのテルル化アンチモンナノ粒子コロイド分散物(伝導度20μS/cm)を得た。混合器の攪拌回転数は2000rpmであった。なお、多段の限外ろ過装置としては、ザルトリウスAG社製のVivaFlow50を用いた。得られたナノ粒子は、平均の粒子サイズが8nmで変動係数が32%であった。
【0031】
ナノ粒子コロイドB (本発明)
混合器として、IMM(Institute fur Mikrotechnik Mianz)製のチャンネルの幅が40μm、深さが200μmのマイクロリアクター(Interdigital single mixing device)を用い、テルル化ナトリウム含有液と酢酸アンチモン水溶液を、シリンジポンプによってそれぞれ全量を連続的に250分間並流で送液した以外は、ナノ粒子コロイドAと同様に調製した。なお流れ方向の接触界面4mmである。層流による接触時間は約1ミリ秒である。テルル化ナトリウム含有液の流速は2ml/分、酢酸アンチモン水溶液の流速は2ml/分とした。なお、マイクロリアクター部分は25℃の水恒温槽に浸した。
得られたナノ粒子は、平均の粒子サイズが7nmで変動係数が14%であった。本発明によって調製したナノ粒子は、サイズ分布が狭く単分散性が大きく向上していることがわかった。
【0032】
実施例2.硫化亜鉛ナノ粒子の調製
硫化リチウム0.7gを水500mlに溶解して硫化リチウム水溶液を調液した。また、酢酸亜鉛2.7gおよびヒドロキシエチルセルロース(重合度600)5gを水500mlに溶解して酢酸亜鉛水溶液を調液した。使用したマイクロリアクターとその運転条件(流れ方向の接触界面の長さ、液の流速など)は実施例1の本発明のナノ粒子コロイドBの調製と全く同様にして、硫化亜鉛ナノ粒子を調製した。得られたナノ粒子は、平均粒子サイズが5nmで変動係数が18%であった。本発明によってサイズ分布の狭いナノ粒子が得られることがわかった。
【0033】
実施例3.水酸化インジウムナノ粒子の調製
塩化インジウム11.1gおよび平均分子量3000のポリビニルピロリドン10gを水500mlに溶解して塩化インジウム水溶液を調液した。また、水酸化リチウム1水和物6.5gを水500mlに溶解して水酸化リチウム水溶液を調液した。マイクロリアクター部分を0℃の水恒温槽に浸し、両水溶液の液温を0℃に冷却して送液した以外は、使用したマイクロリアクターとその運転条件および限外ろ過は実施例1の本発明のナノ粒子コロイドBの調製と同様にして、水酸化インジウムナノ粒子を調製した。得られたナノ粒子は、平均の粒子サイズが5nmで変動係数が16%であった。本発明によってサイズ分布の狭いナノ粒子が得られることがわかった。さらに、この水酸化インジウムナノ粒子を10質量%含有するように限外ろ過時に濃縮した分散液(伝導度28μS/cm)を調製し、ガラス基板にスピンコートした。80℃で30分乾燥した後、電気炉で450℃20分焼成した。焼成後のサンプルをX線回折測定すると酸化インジウムが生成していた。
【0034】
実施例4.硫化亜鉛ナノ粒子の結晶成長
水250mlに酢酸亜鉛5.4gを溶解し、この中に実施例2で得た硫化亜鉛ナノ粒子コロイド分散物(硫化亜鉛0.5質量%含有)50mlを添加した。また、チオアセトアミド3gおよびヒドロキシエチルセルロース(重合度600)2gを水200mlに溶解した水溶液を調液し、上記酢酸亜鉛−硫化亜鉛分散液に添加、混合した。この液を超音波分散機(20kHz、600W)で2時間反応させたところ、硫化亜鉛ナノ粒子は、平均粒子サイズ11nm、分散液中の含有量0.6質量%(変動係数21%)に成長していた。
【0035】
実施例5.硫化亜鉛(コア)/水酸化亜鉛(シェル)型ナノ粒子の合成
実施例2で得た硫化亜鉛ナノ粒子コロイド分散物50ml中に酢酸亜鉛1.8gを溶解し、液温を5℃まで下げた。攪拌しながらこの中に水酸化リチウム1水和物0.85gを水50mlに溶解した水酸化リチウム水溶液(液温5℃)を10分間で添加した。得られた反応物を実施例1と同様の限外ろ過装置に通すことにより、脱塩、濃縮を行い、硫化亜鉛が水酸化亜鉛被膜で覆われたコア/シェル型ナノ粒子(平均粒子サイズ6nm、変動係数25% 分散液中の含有量5.5質量%)を得た。
【0036】
【発明の効果】
本発明の方法により、粒子サイズ分布の狭い単分散性の優れたナノ粒子コロイドが得られる。また、多段の限外ろ過装置と組合わせることにより、ナノ粒子含有分散液の脱塩や分解物の除去を簡便に行うことができる。さらにナノ粒子コロイドの結晶成長や、粒子サイズ分布が狭いコア/シェル型ナノ粒子コロイドも合成することができ、サイズの分布が従来よりも大幅に改良された、所望のサイズの、また所望の構造のナノ粒子を製造することができる。
半導体の発光材料や酸化物導電体(例えば透明導電膜)として、金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物のナノ粒子が塗布などにより使用することが試みられているが、サイズをそろえたナノ粒子を用いるとナノ粒子添加の効果(発光波長のシャープ化、高効率化、導電性向上など)が格段に向上することが知られている。本発明方法により得られるナノ粒子とその分散液は単分散性が非常に高くその要求に適合するものである。
Claims (2)
- 金属塩溶液(流体1)を通す第一の流路と、カルコゲナイド溶液またはアルカリ(塩基)溶液(流体2)を通す第二の流路を具備し、該二つの流体が各々実質的に薄い層をなして流れる領域の、少なくとも1箇所において、両流体の接触界面が形成され、その接触の界面を有する部分の該二つの薄い流れの厚さが、それぞれ、その接触界面の法線方向で1〜500μmであって、該二つの薄い層の接触界面において金属イオンとカルコゲナイドイオンまたは水酸化物イオンが拡散、移動して、金属イオンとカルコゲナイドイオンまたは水酸化物イオンが反応することによって、金属カルコゲナイドまたは金属水酸化物のナノ粒子を連続的に生成させることを特徴とするナノ粒子の製造方法。
- 請求項1記載の方法を実施するに当り、第一の流路と第二の流路中に前記流体1と流体2を、それぞれ流し、2つの流体を接触、混合して、両者を層流間で反応させる混合器によりナノ粒子を形成し、次いでこれを反応容器に導入し、該反応容器中で該ナノ粒子の成長又は導入したナノ粒子をコアとし、金属及び/又は金属化合物のシェル形成の反応をさせることを特徴とするナノ粒子の製造方法。
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