JP4054172B2 - エンジンマウント - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンマウントに関し、特に、車両の衝突時に衝突エネルギーを吸収することができるエンジンマウントに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の自動車のエンジン支持構造は、例えば、フロントエンジン・フロントドライブ方式の自動車(以下「FF車」という。)においては、図2または図4に示すような構造が挙げられる。
【0003】
図2(a)はFF車の一例のエンジルームAの要部を示す平面図であり、図2(b)は図2(a)の縦断面図である。図2(a)、(b)に示すエンジン支持構造は、エンジンとトランスミッションとが一体に構成されたパワーユニット12が、サイドメンバ10R、10Lに対して、各々エンジンマウント1Rとパワーユニット12側に取り付けられたパワーユニット側ブラケット14、およびパワーユニット12側に取り付けられたエンジンマウント1Lと車体側に取り付けられた車体側ブラケット13、さらにサブメンバ11、11に対して防振ストッパ15を介して支持される構造となっている。
【0004】
このようにサブメンバ11、11、11,11を有するエンジン支持構造(以下「サブメンバ支持構造」という。)における衝突時の力の作用について考察すると、衝突時にパワーユニット12はまず慣性により車両前方へ移動する力を受け、次に衝突対象物に押されて車両後方へ移動する力を受ける。一方、過大な衝突荷重が車体前部に作用すると、まず前記慣性力と前記衝突荷重によってサイドメンバ10R、10Lにおけるエンジンマウントよりも前の部分が変形し、次にサイドメンバ10R、10L全体が変形することで衝突エネルギーを吸収するようになっている。
【0005】
このように衝突時のエネルギーをより効率的かつ充分に吸収するための構造設計は極めて重要であり、この概念は車体の構造部材や個々の部品にまで広く及んでいる。一般的には衝突時のエネルギーをより充分に吸収するべく、サイドメンバ10R、10Lの長さや板厚を適切化する、サイドメンバ10R、10Lの一部に前記衝突エネルギーを吸収する部材として強化プラスチックを付加する、等の方策が採られている。
【0006】
しかるにこれらの方策では、コストパフォーマンスや質量パフォーマンスが悪いため、比較的低価格かつ軽量性が要求される、いわゆる中級車や大衆車と呼ばれているジャンルに属する各種の乗用車には不向きであった。そこで、該乗用車に好適な、より低コスト、かつ、より軽量な構成で効率的に衝突エネルギーを吸収する方策が種々考案されている。
【0007】
例えば、前記サイドメンバ支持構造における衝突エネルギー吸収手段として、車体前部に衝突エネルギーを吸収する部分を車体の一部に設けることにより、自動車の車体前部に車体後方に向かう衝突荷重が加わった際にキャビンへの衝撃を吸収する方策が考えられている。
【0008】
特開平7−164894号公報において、車体前後方向に沿って長手状に延びるようにエンジンルーム内に配設されるサイドメンバにてパワーユニットを支持し、このパワーユニットが過大な衝突荷重にて移動されるのに伴い、このサイドメンバによるエンジンの支持状態が解除されるように構成するエンジン支持構造が提案されている。
【0009】
この構造で、車体前部に車体後方に向かう過大な衝突荷重が加わった場合に、パワーユニットが下方に沈み込むことにより、エンジンがブレーキブースタやカウル等にぶつかるのを回避できるとともに、エンジンルーム内のつぶれ代を多くし得て衝突エネルギーの吸収量を多くでき、しかもカウルの後退によるフロントピラーの折れの発生を防止することができる。
【0010】
また、特開平5−240283号公報において、パワーユニットを支持するエンジンマウントを車体に固定するブラケットを備えるエンジン支持構造において、前記ブラケットに、衝突時に車体に対してパワーユニットが前方へ変位し易く、かつ、後方への変位を起こり難くさせるような変位規制手段を設けた自動車のエンジン支持構造が提案されている。このエンジン支持構造により、パワーユニットの質量を有効活用して衝突時に乗員に対する衝撃を吸収することができる。
【0011】
さらに、特開平9−263141号公報において、車体の前部において前後方向に延びる左右のサイドメンバ間を連結して2本のサブメンバが前後方向に特定の間隔を設けて取り付けられ、この両サブメンバ間のサイドメンバ部分に剛性部材が取り付けられてなる自動車の前部構造において、前記剛性部材が、前面衝突時における前記両サブメンバ間のサイドメンバ部分の潰れ変形を阻害しない態様で前記サイドメンバ部分に取り付けられてなる自動車の前部構造が提案されている。
【0012】
この自動車の前部構造によって、前面衝突時における潰れスペースを前記両サブメンバ間のサイドメンバ部分に拡大し、衝突エネルギーを吸収することができる。そして、前記サイドメンバ、または、前記サブメンバの取付部には「折れビード」と呼ばれる脆弱部を形成して、前面衝突時の衝突荷重によってこの脆弱部を変形させるように構成されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようにして衝突エネルギーを吸収する構成では、エンジン支持構造が複雑化して質量が増加する、またはコストが高くなるといった問題がある。したがって、本発明の課題は、従来と同等の衝突エネルギー吸収を、より軽量かつより低コストで、しかもエンジンルームのレイアウト性に影響することなく実現できるエンジンマウントを提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は鋭意研究した結果、自動車の前面衝突時にエンジンマウントに含まれるブラケットに塑性変形または破壊を生じさせることによってサイドメンバの変形を起き易くし、さらにパワーユニットを下方に沈み込ませて、車体前方から後方に向かう衝突エネルギーを効果的に吸収できることを見い出し本発明を創作するに至った。
【0015】
前記課題を解決するために、請求項1に係るエンジンマウントは、車体およびパワーユニットのいずれか一方の側に係合する第1係合部材と、前記車体および前記パワーユニットのいずれか他方の側に係合する第2係合部材と、前記第1係合部材と第2係合部材との間に介在する弾性体と、を備えるエンジンマウントにおいて、前記第1係合部材は、前記第2係合部材を前記弾性体を介して外側から保持する本体部と、前記車体または前記パワーユニットに対し、締結部材を介して取り付けられる複数の取付部と、あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると塑性変形の起点となる第1ノッチ部と、を有し、前記第1ノッチ部が、前記第2係合部材の上方に位置する前記第1係合部材の本体部の部分に、前記第1係合部材の幅方向の一端から他端に渡って形成されて成ることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、前記あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、エンジンマウントに含まれる第1係合部材、または第2係合部材の塑性変形が容易に発生して、衝突エネルギーを効果的に吸収するエンジンマウントを具現化できる。
【0017】
また、かかる構成によれば、弾性体を介して前記第1係合部材と前記第2係合部材との間に作用する方向の所定以上の入力に対して安定してノッチ部を塑性変形させ、衝突エネルギーを効果的に吸収するエンジンマウントを具現化できる。
【0018】
さらに、かかる構成によれば、前記あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、前記ノッチ部を起点とする塑性変形をより確実に生じさせることができるエンジンマウントを具現化できる。
【0019】
請求項2に係るエンジンマウントは、請求項1において、あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると塑性変形の起点となる第2ノッチ部が、前記第2係合部材の上方に位置する前記第1係合部材の本体部の部分に加えて、前記第1係合部材の本体部で前記取付部の近傍に位置する部分に形成されて成ることを特徴とする。かかる構成によれば、前記あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が略上下方向に作用した場合、前記第1係合部材の本体部で前記取付部の近傍に位置する部分を起点とした塑性変形が、より安定して生じるエンジンマウントを具現化できる。
【0020】
請求項3に係るエンジンマウントは、請求項1において、前記ノッチ部が、前記第1係合部材の本体部で前記弾性体と相対向する側面部と反対側の側面部に形成されて成ることを特徴とする。かかる構成によれば、前記あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、前記ノッチ部を起点とする塑性変形がより容易に生じるエンジンマウントを比較的低コストで具現化できる。
【0021】
請求項4に係るエンジンマウントは、請求項1において、あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると塑性変形の起点となる第3ノッチ部が、前記第2係合部材の上方に位置する前記第1係合部材の本体部の部分に加えて、前記第1係合部材の取付部と本体部との間で少なくとも1箇所に形成されて成ることを特徴とする。かかる構成によれば、エンジンマウントの形状と衝突荷重の入力方向とにより、前記取付部と前記本体部との間に応力が集中する場合、安定してノッチ部を塑性変形させ、衝突エネルギーを効果的に吸収できるエンジンマウントを具現化できる。
【0023】
請求項5に係るエンジンマウントは、請求項1から請求項4のいずれか1項において、前記第2係合部材は、締結部材を介して前記車体および前記パワーユニットのいずれか一方に取り付けられる環状部材から構成されることを特徴とする。かかる構成によれば、前記あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、前記第2係合部材から前記第1係合部材への入力荷重の伝達効率を一層よくしたエンジンマウントを比較的低コストで具現化できる。
【0024】
請求項6に係るエンジンマウントは、請求項1から請求項5のいずれか1項において、前記ノッチ部は、切欠溝から構成されることを特徴とする。かかる構成によれば、前記あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、前記ノッチ部を起点として生じる塑性変形をより確実に生じさせるエンジンマウントを具現化できる。
【0025】
請求項7に係るエンジンマウントは、請求項1から請求項6のいずれか1項において、前記ノッチ部は、あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると破壊の起点となることを特徴とする。かかる構成によれば、前記あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、一層多くの衝突エネルギーをより確実に吸収するエンジンマウントを具現化できる。
【0026】
なお、本発明において、「前面衝突」とは、車体前部から後方に向かう衝突荷重が作用することを意味し、「衝突荷重」とは、自動車の前面衝突によって車体前部から後方に向かって作用する荷重を意味し、「衝突エネルギー」とは、自動車の前面衝突によって車両で吸収されるべきエネルギーを意味し、また「入力荷重」とは、パワーユニットの支持部に作用する荷重を意味し、さらに「塑性変形または破壊荷重」とは、パワーユニットの支持部へ作用する入力荷重のうち前記エンジンンマウントに含まれるブラケットを塑性変形または破壊させる荷重を意味し、さらにまた「ノッチ部」とは、前記エンジンマウントに含まれるブラケットに設けられた単体の切欠(断面がV字またはU字形のもの)、複数の細孔、複数の切欠(断面がV字またはU字形のもの)、連続する凹溝等の断面凹形状を有し、前記塑性変形または破壊荷重によって生じる物理的変形の起点となる部位を意味する。
【0027】
また、本発明のエンジンマウントは、パワーユニット等の支持構造について特に限定するものではなく、パワーユニットをサイドメンバ等に係合させてパワーユニット等を支持させる構造を有するものであれば適用可能である。
また、本発明に係るエンジンマウントは、エンジンルームに前方から衝突する場合であれば、フルフラップ・オフセット等の衝突範囲を問わず、また斜め前方から衝突する場合でも本発明に係るエンジンマウントは効果を発揮することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図1から図3を参照して説明する。なお、本発明はこの実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜に変形することが可能である。
図1(a)は本発明に係るエンジンマウント1の構成の一例を示す図であり、図1(b)は図1(a)に示すエンジンマウント1に含まれるノッチ部5の断面図である。また、図2(a)は本発明に係るエンジンマウント1が配設されたFF車のエンジンルームAの要部の正面図であり、図2(b)は図2(a)の縦断面図である。
【0029】
そして、図3(a)は、図2(a)、(b)に示すエンジンルームAを有するFF車がバリアに正面衝突した際に、該FF車のパワーユニットとキャビンが受ける衝撃の様子を、衝突の比較的初期の段階である衝突前半と衝突の比較的後期の段階である衝突後半に分けて模式的に示した模式図であり、図3(b)は該正面衝突によってパワーユニット12の左側支持部(エンジンマウント1L)に作用する入力荷重の経時変化の一例を3次元的に分解して示したグラフである。
なお、図2(a)、(b)、および、図3(a)、(b)に示すX、Y、Zは、各々パワーユニット12の左右、前後、上下方向を示す。
【0030】
[エンジンマウントの構成]
図1(a)に示すように、本発明に係るエンジンマウント1は、本体部2と本体部2の外周縁の一部より突出するフランジ部3とを有する第1係合部材であるブラケット9と、第2係合部材である内筒6と、弾性体であるインシュレータ7とから構成される。ブラケット9は、本体部2の内面でインシュレータ7を保持し、インシュレータ7の略中心には、図2(a)に示すサイドメンバ10Lに配設された車体側ブラケット13に図示しないボルトを介して支持固定するための内筒6が備えられている。
【0031】
また、フランジ部3には、ボルトを介して相手部品へ取り付けるための取付穴4を有する取付部8が設けられ、エンジンマウント1はこの取付穴4に挿通されるボルトによって図2(a)に示すパワーユニット12に連結される。なお、インシュレータ7の材質は所定の弾性を備えているものであれば特に限定されるものではないが、エネルギーの吸収効果とコストとの両方を満足させるために、通常、天然ゴム、スチレン―ブタジエン系ゴム、シリコーン系ゴム、またはフッ素系ゴム等の弾性体で構成することができる。
【0032】
そして、本体部2の略頭頂部に幅方向の一端から他端に渡ってノッチ部5が形成されている。このノッチ部5の断面形状は、図1(b)に示すように、断面U字形に形成されている。
【0033】
また、図2(a)、(b)に示すように、エンジンマウント1Rは、エンジンとトランスミッションとが一体に組み合わされて成るパワーユニット12の右側に配設されたサイドメンバ10R上に固定され、パワーユニット12に配設されたパワーユニット側ブラケット14を、ボルト16を介して連結されてパワーユニット12を支持している。
【0034】
[前面衝突によってパワーユニット12の支持部に作用する荷重]
つぎに、このようなパワーユニット12の支持構造とエンジンマウント1を備えるFF車の前面衝突のシミュレーションを行った結果の一例について、図3(a)、(b)を参照しながら説明する。なお、本実施の形態における前面衝突は、静的物体への前面衝突、および、動的物体への前面衝突のいずれの場合も含む。
【0035】
FF車の前面衝突のシミュレーションは、図3(a)に示すように、図2(a)、(b)に示すパワーユニット支持構造を有するFF車が所定の強度以上に形成された障害物(以下「バリア」という。)に前面衝突して前部から車体後方に向かう過大な衝突荷重が作用した場合を想定し、衝突に関するパラメータ(衝突車速等)を所定の初期値に設定してパワーユニット12の支持部に作用する荷重(以下「入力荷重」という。)の作用方向を3次元的に分解して分析することができる。その左側支持部の結果を図3(b)に示す。
【0036】
図3(b)は、前記シミュレーションとして、前面衝突に関するパラメータの初期値を所定の値に設定し、パワーユニット12の左側支持部に作用する入力荷重を縦軸にとり、経時時間を横軸にとって、入力荷重をX、Y、Z軸方向(図3(a)参照)に分けてそれぞれの経時変化の一例を示すものである。
【0037】
図3(b)に示すように、前記シミュレーションにおいてパワーユニット12の左右方向をX軸(車体前方に向かって右側方向を正)、その前後方向をY軸(車体前方に向かう方向を正)、その上下方向をZ軸(上方向を正)とし、またノッチ部5を設けていない同種のエンジンマウントに上下方向入力で破壊を生じさせる破壊荷重の大きさを100とする。そして、Y軸方向に作用する入力荷重が0となる時点を基準にとって、FF車のエンジンルームAの衝突段階を衝突前半と衝突後半とに分けることができる。
【0038】
図3(b)に示すように、FF車の前面衝突によって、パワーユニット12の支持部に対して、パワーユニットの慣性により車両前方へ向かう荷重が作用し、つぎに衝突対象物にパワーユニットが押されて車両後方へ向かう荷重が作用する。この例では、衝突後、時間t2を境界として、このような衝突前半と衝突後半とに分けることができる。
【0039】
また、図3(b)において、Z軸方向(パワーユニット12の上下方向)に作用する入力荷重の変化量に着目すると、時間t1〜t2、および時間t2〜t3にかけて、前記入力荷重が、それぞれE2〜E5、およびE5〜E1へと急激に変化していることがわかる。このようにエンジンマウントのZ軸方向で前記入力荷重が急激に変化する領域に注目し、エンジンマウント1LのZ軸方向の目標破壊荷重の設定範囲について分析を行った。
【0040】
図3(b)に示すように、パワーユニット12の左側支持部のZ軸方向に作用する荷重を表わす曲線(以下「Z曲線」という。)において、このZ曲線がピークに到達する前の段階でZ曲線の変曲点を含む領域である領域(I)の範囲内の力でエンジンマウント1に破壊が生じるように設定すれば、前面衝突したときに効率的にエンジンマウント1の破壊が生じ、パワーユニット12をより効果的に下方に沈み込ませることができると考えられる。
【0041】
すなわち、エンジンマウント1の破壊が生じる前記入力荷重は、E3〜E4であることが望ましい。したがって、ノッチ部を備えるエンジンマウント1に破壊を生じさせる入力荷重であるPnotchは、E3≦Pnotch≦E4となるように設定すればよい。
【0042】
一方、図3(b)に示す領域(II)、すなわちZ軸方向に作用する力のピーク値を含む領域内の力でエンジンマウント1が破壊するように設定した場合には、前面衝突時の挙動の微妙な違いによってエンジンマウント1の破壊が起きる場合と破壊が起きない場合とがあることが考えられる。また、エンジンマウント1の破壊を生じさせる入力荷重をE3未満に設定すると、パワーユニット12がエンジンマウント1に支持されたままの状態で衝突エネルギーを吸収することが充分可能な低速度領域で衝突した場合にも破壊が生じてしまい、比較的軽度の衝突や、急発進・急加速・悪路走行等の走行条件によっても敏感にエンジンマウント1の破壊が生じるようになり好ましくない。
【0043】
本発明は、図2に示すようなパワーユニット12の支持構造において、前記したようにFF車の前面衝突時に特定以上の衝突荷重が作用すると、パワーユニット12が効率的に切り離されて自重により下方に沈み込み、サイドメンバ10Lの変形が起き易くなるようにすることで前記衝突エネルギーを効果的に吸収することが可能な構造として、従来公知のエンジンマウントの構造を改良して適用することについて種々検討した。そのために、エンジンマウント1を所定の入力エネルギーを材料に作用させる試験機の試験台上に固定してブラケット9にエネルギーを連続的に所定の割合で増加させて入力することによってブラケット9が塑性変形または破壊されるときのエネルギーを測定する台上強度試験を行った。
【0044】
まず、ノッチ部を設けていない従来のブラケット9を、その取付部8の取付穴4にボルトを挿通して前記台上強度試験の試験台上に固定し、このノッチ部を設けていないブラケット9を破壊させる入力荷重(Pmaxとする)を測定した。
【0045】
続いて、このPmaxより小さな入力荷重(Pnotchとする)で破壊を生じるようなノッチ部5を備えるブラケット9の試験部品を各種作製した。なお、この試験部品は、前記ノッチ部の形状・寸法を適宜に変えることによって、Pnotchの水準を適宜に設けて作製した。これらの試験部品に対し、従来のブラケットと同様の前記台上強度試験を実施した。
【0046】
その結果、例えば、図1(a)に示すようにエンジンマウント1の本体部2に、図1(b)に示すように断面形状がU字形であるノッチ部5を形成することでエンジンマウント1を図3(b)に示された領域(I)の範囲内で、ばらつきなく効果的に破壊できることが判明した。
【0047】
[ノッチ部の位置]
エンジンマウント1に形成されるノッチ部5の位置は、特に限定されるものではなく、所定の破壊荷重以上の荷重が作用した場合のみに確実に破壊される部位であればよい。ノッチ部5がエンジンマウント1に形成される位置は、第1係合部材であるブラケット9および第2係合部材である内筒6の両方、またはいずれか一方とすることができる。
【0048】
このノッチ部5の位置は、エンジンマウント1が破壊される破壊荷重の大きさと関係しており、後記する第1係合部材または第2係合部材の肉厚とこのノッチ部5の位置とを適宜に設定することによって、破壊荷重の方向と大きさとを所望の値とすることができる。
【0049】
例えば、ノッチ部5の位置を、図1に示すようにエンジンマウント1の本体部2で円弧状を有する上面の略頭頂部とすれば、エンジンマウント1の塑性変形、または破壊を、入力荷重の方向が略上下方向の場合に、比較的容易に生じさせることができる。また、図5に示すように、ノッチ部5aの位置をエンジンマウント1aの取付部8と本体部2との間、あるいは図7に示すようにノッチ部5kの位置をエンジンマウント1cの取付部8とすれば、エンジンマウント1a、1cの形状と衝突荷重の方向とにより、それぞれ取付部8と本体部2との間に応力が集中する場合、あるいは取付部8に応力が集中する場合に、安定して塑性変形または破壊を生じさせることができる。
【0050】
[ノッチ部の形態]
また、エンジンマウント1に形成されるノッチ部5の形態は、特に限定されるものではなく、前記第1係合部材の幅方向の一端から他端に渡って形成されたものでもよい。例えば、後記するような前記第1係合部材の幅方向の一端から他端に渡って連続的に形成され断面がU字形またはV字形の形態であっても、あるいは図12に示すような前記第1係合部材の幅方向の一端から他端に渡って不連続に形成され断面がU字形の形態であってもいずれの形態でもよい。
【0051】
また、ノッチ部5は、溝の幅、溝の深さ、略円形部の半径等の形状にかかる構成について特に限定されるものではなく、本体部2の肉厚、所定の前面衝突条件で塑性変形または破壊を生じさせるためにあらかじめ設定される破壊荷重、およびエンジンマウント1を構成する材質の強度等によって適宜に設定することができる。
【0052】
[エンジンマウントのブラケットを構成する材料]
本発明に係るエンジンマウント1のブラケット9に用いられる材料は特に限定されるものではなく、所要の強度(引張強度、延び性)を備える金属材料でればよい。このような金属材料としては、主に生産性、軽量性の観点から、アルミニウム合金、例えば、JISで規定されているAC4CHアルミニウム合金を使用することができる。
【0053】
該AC4CHアルミニウム合金の化学組成は、Si(シリコン):6.5〜7.5質量%、Fe(鉄):0.20質量%、Cu(銅):0.20質量%、Mn(マンガン):0.10質量%、Mg(マグネシウム):0.25〜0.45質量%、Zn(亜鉛):0.10質量%、Ni(ニッケル):0.05質量%、Ti(チタン):0.20質量%、Pb(鉛):0.05質量%、Sn(錫):0.05質量%、Cr(クロム):0.05質量%、残部がAl(アルミニウム)と不可避的不純物である。すなわち主成分として銅(Cu)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)を含有し、残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とから構成されるアルミニウム合金である。
【0054】
[エンジンマウントのブラケットを作製する方法]
また、本発明に係るエンジンマウント1のブラケット9を作製する方法は、ブラケット9が前記したようなアルミニウム合金から構成される場合には、当該技術分野で従来公知の鋳造法を用いることができる。例えば、まず通常の溶製法にて溶解したアルミニウム合金を砂型を用いて高圧鋳造し、その後、所定の熱処理(溶体化、水冷)を施すことによって本発明に係るエンジンマウント1のブラケット9を作製することができる。
【0055】
また、本発明に係るエンジンマウント1のブラケット9は、前記アルミニウム合金の鋳造によって作製する他に、アルミニウム合金の押し出し成形加工や鋼のプレス成形加工、または鋼の鋳造成形によって作製することも可能である。
【0056】
[エンジンマウントのブラケットの機械的性質]
さらに、本発明に係るエンジンマウント1のブラケット9の機械的性質としては、前面衝突による入力エネルギーを効果的に吸収するために所要の機械的性質を備えるように構成することができる。例えば、引張強さ:300MPa以上、耐力:200MPa以上、伸び:1.0%以上の機械的性質を備えるようにすることができる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を、図2(a)、(b)に示すようなパワーユニット12の支持構造を例にとって説明したが、この他に、例えば図4(a)、(b)に示すようなパワーユニット12の支持構造に対しても好適である。図4(a)は、FF車の一例のエンジルームBの要部を示す平面図であり、図4(b)は図4(a)の縦断面図である。図4(a)、(b)に示すエンジン支持構造は、エンジンとトランスミッションとが一体に構成されたパワーユニット12が、サイドメンバ10R、10Lに対して、エンジンマウント1Rとパワーユニット側ブラケット14、およびパワーユニット12側に取り付けられたエンジンマウント1Lと車体側ブラケット13、さらにセンターメンバ17に対して防振ストッパ15を介して支持される構造を示すものである。
【0058】
【実施例】
以下に、本発明の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。また、この実施例では、図1、図5および図6に示すような形態のエンジンマウント1、および1a、1bの中から選別して前面衝突による試験を行い、衝突エネルギーの吸収性についてしらべた。表1にエンジンマウント1、および1a〜1fの構成を示す。
【0059】
表1において、番号1は図1に示すように、ノッチ部5を本体部2のインシュレータ7の略上方部で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と接する側面部と反対側の側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って鋳造成形により形成したエンジンマウント1である(参考:請求項1、3、5、6、7(実施例))。
番号2は図5に示すように、ノッチ部5aを本体部2と取付部8との間の部分に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って合計4箇所に鋳造成形により形成したエンジンマウント1aである。
【0060】
表1中の番号3は図6に示すように、ノッチ部5bを本体部2のインシュレータ7の略上方部で、本体部2で前記弾性体から構成されるインシュレータ7と相対向する側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って機械加工により形成したエンジンマウント1bである(参考:請求項1、5、6、7(実施例))。
表1中の番号4は図7に示すように、各々、ノッチ部5cを本体部2の取付部8の近傍部分で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と接する側面部と反対側の側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1cである。
表1中の番号5は図7に示すように、ノッチ部5dを本体部2のインシュレータ7の略上方部で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と接する側面部と反対側の側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1cである(参考:請求項1、3、5、6、7(実施例))。
また、表1中の番号6は図7に示すように、ノッチ部5kを取付部8に幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1cである。
【0061】
また、表1中の番号7は図8に示すように、ノッチ部5eを本体部2の取付部8の近傍部分で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と接する側面部と反対側の側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1dである。
表1中の番号8は図8に示すように、ノッチ部5fを本体部2のインシュレータ7の略上方部で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と接する側面部と反対側の側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1dである(参考:請求項1、3、5、6、7(実施例))。
【0062】
表1中の番号9は図9に示すように、ノッチ部5gを本体部2の取付部8の近傍部分で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と相対向する側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1eである。
表1中の番号10は図9に示すようにノッチ部5hを本体部2のインシュレータ7の略上方部で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と相対向する側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1eである(参考:請求項1、5、6、7(実施例))。
【0063】
表1中の番号11は図10に示すように、ノッチ部5iを本体部2の取付部8の近傍部分で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と相対向する側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1fである。
表1中の番号12は図10に示すように、ノッチ部5jを本体部2のインシュレータ7の略上方部で、前記弾性体から構成されるインシュレータ7と相対向する側面部に、本体部2の幅方向の一端から他端に渡って形成したエンジンマウント1fである(参考:請求項1、5、6、7(実施例))。
【0064】
これらの表1中の番号1から番号12のエンジンマウント1、および1a〜1fはいずれも、本体部2と、この本体部2の外周縁の一部より突出するフランジ部3とを備えている。また、本体部2の内面でインシュレータ7が保持され、このインシュレータ7の略中心には、エンジン(図示省略)またはサイドメンバ(図示省略)に配設されたブラケット9にボルトで支持固定するための内筒6(第2係合部材である環状部材に相当する)が形成されている。
【0065】
そして、図1、および図5〜図10に示すように、各々のフランジ部3には、相手部品への取付部8に取付穴4が設けられ、この取付穴4に挿通されるボルトにより図示しない相手部材に連結される。また、各々の本体部2の円弧状の上面等にはノッチ部5、および5a〜5kが形成され、所定の入力荷重が入力すると破壊が生じるように構成されている。これらのノッチ部のうち、ノッチ部5の拡大図を図1(b)に示す。
【0066】
表1中の番号1から番号12はいずれも、所定の破壊荷重がエンジンマウント1、および1a〜1fに作用すると各々のブラケット9がノッチ部5、および5a〜5kを起点として破壊が生じるように設定した。
【0067】
ここで、本発明の有用性を確認するために、一例として、番号1(図1参照)、番号2(図5参照)、番号3(図6参照)を取り上げ、これらに対する比較例として、図1でノッチ部を設けていない番号13を作製した。
【0068】
なお、以上の番号1から番号3、及び番号13のブラケット9は、前記化学組成から構成されるJISのAC4CHアルミニウム合金で作製した。
【0069】
つぎに、このように構成された番号1から番号3および番号13で以下に示す(1)〜(7)の手順に従って、衝突のシミュレーション、作製した各試験部品を用いた台上試験、車両による衝突実験を行った。
(1)衝突のシミュレーション結果に基づいて、所望の破壊方向と目標破壊荷重(図3(b)のZ軸方向の領域(I)に相当する。)とを決定する。
(2)ノッチ部が設けられていない前記番号13を用いて台上静的強度試験を行い、前記比較例の破壊荷重(前記領域(I)を上回るものとなる。)を測定する。
(3)前記(1)のシミュレーション結果に基づいて決定された破壊方向と、前記(2)の前記比較例の台上静的強度試験から求めた前記番号13の破壊荷重における前記領域(I)の上回り代とに基づいて前記番号1から番号3のノッチ部の形態(形状や深さ等)を適宜に水準を設けて複数の試験例を作製する。
(4)このようにノッチ部の形態(形状や深さ等)を適宜に水準を設けて作製した複数の試験例の破壊荷重を台上静的試験で測定する。
(5)このようにして求めた前記複数の試験例の破壊荷重の中から前記(1)で求めた前記目標破壊荷重と同程度のものを1種類選別する。
(6)このようにして選別された前記各試験例を車両に組み付けて、所定の衝突荷重をこの車両の前部の所定位置に作用させて衝突試験を実施する。
(7)前記衝突試験において、選別された前記試験例のエンジンマウントブラケットが破壊されてパワーユニットが下方に沈み込み、衝突エネルギーが吸収される状況を観測する。
【0070】
以上より、本発明に係るエンジンマウント1は、特定以上の入力荷重によってエッジ部5を起点として確実に破壊が生じ、パワーユニット12を下方に沈み込ませて、サイドメンバ10L、10Rが力学的に変形され易い構造を導き、効果的に衝突エネルギーを吸収させるとともに、キャビンへのエンジンの突入を防ぐ効果を付与していることが確認された。
【0071】
なお、前記番号1〜12には、つぎのような適用例が考えられる。番号1、2および3はエンジンマウントのレイアウトが略同一のもので、図2に示すパワーユニット12に含まれるトランスミッション上に配置されたエンジンマウント1Lにおいて、番号1は図1に示す内筒6の上方向への入力によってノッチ部5を起点としてブラケット9を破壊したい場合であり、番号2は図5に示す前記内筒6の軸心方向の入力によって相手側ブラケットによってノッチ部5aを起点としてブラケット9を破壊したい場合であり、番号3は番号1と同様の場合で、図6に示す内筒6と相対向する本体部2の側面部に形成されたノッチ部5bを起点としてブラケット9を破壊したい場合である。
【0072】
番号4、5、6、9および10はエンジンマウントのレイアウトが略同一であるが前記番号1〜3のエンジンマウントとはレイアウトが異なるものであり、例えば、図2あるいは図4に示すサイドメンバ10R上に配置されたエンジンマウント1R、またはセンターメンバ17上に配置された防振ストッパ15において、番号4は図7に示すブラケット9の下方向への入力によってノッチ部5cを起点としてブラケット9を破壊したい場合、番号5は前記番号4と同様の場合、または図7に示す内筒6の軸心と垂直な水平方向への入力によってノッチ部5dを起点としてブラケット9を破壊したい場合、番号6は番号4と同様の場合、あるいは図7に示す内筒6の軸心方向の入力によって5kを起点としてブラケット9を破壊したい場合である。また、番号9および10は、例えば前記エンジンマウント1R、またはエンジンマウント1L、または防振ストッパ15において、各々、番号4、5と同様の入力によって、図9に示す内筒6と相対向する本体部2の側面部に形成されたノッチ部5g、5hを起点としてブラケット9を破壊したい場合である。
【0073】
番号7、8、11および12はエンジンマウントのレイアウトが略同一であるが前記番号1〜3のエンジンマウントとはレイアウトが異なるものであり、例えば、図2あるいは図4に示すサブメンバ11上、またはセンターメンバ17上に配置された防振ストッパ15において、番号7は図8に示すブラケット9の下方向への入力、または内筒6の軸心と垂直な水平方向からの入力によってノッチ部5eを起点としてブラケット9を破壊したい場合、番号8はブラケット9の下方向への入力によってノッチ部5fを起点としてブラケット9を破壊したい場合、番号11および12は、例えば、前記防振ストッパ15において、各々、番号7、8と同様の入力によって、図10に示す内筒6と相対向する本体部2の側面部に形成されたノッチ部5i、5jを起点としてブラケット9を破壊したい場合である。
【0074】
【表1】
【0075】
以上、本発明の一実施例につき説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形または変更が可能である。例えば、この実施例で使用した図1、および図5〜図10に示すエンジンマウント1の他にも、図11に示すような形状で、本体部2と本体部2の外周縁の一部より突出するフランジ部3とを有し、ノッチ部5lを本体部2と取付部8との間の部分に、取付部8の幅方向の一端から他端に渡って形成した第1係合部材としてのブラケット9と、第2係合部材としての内筒6と、それらの間に介在する弾性体7とから構成されるエンジンマウント1gを用いることもできる。
【0076】
また、ノッチ部の形状は、図1の5、および図5〜図10の5a〜5c、5e、5g〜5kに示すように本体部2または取付部8の幅方向の一端から他端に渡って連続的かつ断面がU字形に形成されたノッチ部の他に、図7、および、図8の5d、5fに示すように、図12に示すような不連続的かつ断面がU字形に形成されたノッチ部としてもよい。さらに、ノッチ部の断面形状はU字形の他に、例えば、V字形としてもよい。
【0077】
さらにまた、この実施例ではフロントエンジン・フロントドライブ式自動車(FF車)について本発明を適用したが、フロントエンジン・リアドライブ式自動車(FR車)等にも本発明を適用することが可能である。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように構成される本発明は以下のような効果を奏する。本発明の請求項1に係る発明によれば、あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が略上下方向に作用した場合、前記第2係合部材の上方に位置するノッチ部に作用すると、エンジンマウントに含まれる部材の塑性変形がこのノッチ部を起点として発生して衝突エネルギーを効果的に吸収するエンジンマウントを提供することができる。
【0081】
請求項2に係る発明によれば、あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が略上下方向に作用した場合、前記第1係合部材の本体部で前記取付部の近傍に位置する部分を起点とした塑性変形が、より安定して生じるエンジンマウントを提供することができる。
【0082】
請求項3に係る発明によれば、あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、前記ノッチ部を起点とする塑性変形がより容易に生じるエンジンマウントを比較的低コストで提供することができる。
【0083】
請求項4に係る発明によれば、エンジンマウントの取付部と本体部との間に応力が集中する場合、安定してノッチ部を塑性変形させ、衝突エネルギーを効果的に吸収できるエンジンマウントを提供することができる。
【0085】
請求項5に係る発明によれば、あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、前記第2係合部材から前記第1係合部材への入力荷重の伝達効率を一層よくしたエンジンマウントを比較的低コストで提供することができる。
【0086】
請求項6に係る発明によれば、あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、前記ノッチ部を起点として生じる塑性変形をより確実に生じさせるエンジンマウントを提供することができる。
【0087】
請求項7に係る発明によれば、あらかじめ設定した設定荷重以上の衝突荷重が作用した場合に、一層多くの衝突エネルギーをより確実に吸収するエンジンマウントを提供することができる。
【0088】
以上の効果を有する本発明に係るエンジンマウントによれば、エンジン支持構造の設計を大幅に変更することなく、コストをより低廉に抑えて従来と同等の衝突エネルギー吸収を行うことができる。また、本発明に係るエンジンマウントは、コンパクトに構成されるため、軽量性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は、本発明に係るエンジンマウントの斜視図である。
図1(b)は、図1(a)に示すノッチ部の断面図である。
【図2】図2(a)は、本発明に係るエンジンマウントを、一例のフロントエンジン・フロントドライブ方式の自動車に適用したもののエンジンルームの要部を示す平面図である。
図2(b)は、図2(a)の縦断面図である。
【図3】図3(a)は、フロントエンジン・フロントドライブ方式の自動車で前面衝突が発生した場合のエンジンの挙動を説明するための模式図である。
図3(b)は、フロントエンジン・フロントドライブ方式の自動車で前面衝突が発生した場合にエンジンに作用する入力エネルギーを3次元的に分解し、経時変化を示したグラフである。
【図4】図4(a)は、本発明に係るエンジンマウントを、他の例のフロントエンジン・フロントドライブ方式の自動車に適用したものの車体前部の要部を示す平面図である。
図4(b)は、図4(a)の縦断面図である。
【図5】本発明に係るエンジンマウントの一例で、ノッチ部が第1係合部材の本体部と取付部との間に設けられたものの斜視図である。
【図6】本発明に係るエンジンマウントの一例で、ノッチ部が第1係合部の第2係合部に相対向する側面部と同じ側の側面部、かつ、第1係合部材の本体部で第2係合部材の略上方に設けられたものの斜視図である。
【図7】本発明に係るエンジンマウントの他の一例で、ノッチ部が第1係合部の第2係合部に相対向する側面部と反対側の側面部、かつ、第1係合部材の本体部で第2係合部材の略上方、または取付部の近傍に設けられたものと、第1係合部材の取付部に設けられたものの斜視図である。
【図8】本発明に係るエンジンマウントのその他の一例で、ノッチ部が第1係合部の第2係合部に相対向する側面部と反対側の側面部、かつ、第1係合部材の本体部で第2係合部材の略上方、または取付部の近傍に設けられたものの斜視図である。
【図9】本発明に係るエンジンマウントの他の一例で、ノッチ部が第1係合部の第2係合部に相対向する側面部と同じ側の側面部、かつ、第1係合部材の本体部で第2係合部材の略上方、または取付部の近傍に設けられたものの斜視図である。
【図10】本発明に係るエンジンマウントのその他の一例で、ノッチ部が第1係合部の第2係合部に相対向する側面部と同じ側の側面部、かつ、第1係合部材の本体部で第2係合部材の略上方、または取付部の近傍に設けられたものの斜視図である。
【図11】本発明に係るエンジンマウントの別の一例で、ノッチ部が第1係合部材の本体部と取付部との間に設けられたものの斜視図である。
【図12】図12(a)は、本発明に係るエンジンマウントに含まれる別の一例のノッチ部の正面拡大図である。
図12(b)は、図12(a)のY矢視図である。
【符号の説明】
1R 右側エンジンマウント、1L 左側エンジンマウント、2 本体部、3フランジ部、4 取付穴、5、5a、5b、5c、5d、5e、5g、5h、5i、5j、5k、5l ノッチ部、6 内筒、7 インシュレータ、8 取付部、9 ブラケット、10L サイドメンバ、10R サイドメンバ、11 サブメンバ、12 パワーユニット、13 車体側ブラケット、14 パワーユニット側ブラケット、15 防振ストッパ、16 ボルト、17 センターメンバ
Claims (7)
- 車体およびパワーユニットのいずれか一方の側に係合する第1係合部材と、
前記車体および前記パワーユニットのいずれか他方の側に係合する第2係合部材と、
前記第1係合部材と第2係合部材との間に介在する弾性体と、
を備えるエンジンマウントにおいて、
前記第1係合部材は、
前記第2係合部材を前記弾性体を介して外側から保持する本体部と、
前記車体または前記パワーユニットに対し、締結部材を介して取り付けられる複数の取付部と、
あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると塑性変形の起点となる第1ノッチ部と、を有し、
前記第1ノッチ部が、前記第2係合部材の上方に位置する前記第1係合部材の本体部の部分に、前記第1係合部材の幅方向の一端から他端に渡って形成されて成ることを特徴とするエンジンマウント。 - あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると塑性変形の起点となる第2ノッチ部が、前記第2係合部材の上方に位置する前記第1係合部材の本体部の部分に加えて、前記第1係合部材の本体部で前記取付部の近傍に位置する部分に形成されて成る請求項1に記載のエンジンマウント。
- 前記ノッチ部は、前記第1係合部材の本体部で前記弾性体と相対向する側面部と反対側の側面部に形成されて成る請求項1に記載のエンジンマウント。
- あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると塑性変形の起点となる第3ノッチ部が、前記第2係合部材の上方に位置する前記第1係合部材の本体部の部分に加えて、前記第1係合部材の取付部と本体部との間で少なくとも1箇所に形成されて成る請求項1に記載のエンジンマウント。
- 前記第2係合部材は、締結部材を介して前記車体および前記パワーユニットのいずれか一方に取り付けられる環状部材から構成される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエンジンマウント。
- 前記ノッチ部は、切欠溝から構成される請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のエンジンマウント。
- 前記ノッチ部は、あらかじめ設定した設定荷重以上の荷重が作用すると破壊の起点となる請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のエンジンマウント。
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