JP4046214B2 - 成形用樹脂組成物および電気・電子器具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
電気部品または電子部品等の固体絶縁物として用いられる成形用樹脂組成物、および、この成型用樹脂組成物を用いた電気・電子器具に関する。
【0002】
【従来の技術】
碍子、ブッシング、または、変成器等の電気器具は、自然環境に晒される屋外、または、工場など粉塵・塵埃などが多く浮遊する屋内という過酷な環境下に配設されることが多い。このような劣悪な環境下の電気器具に用いられる固体絶縁物は、優れた物理的特性、および、安定した化学的特性を備えるエポキシ樹脂を材料とするものが多い。エポキシ樹脂は、その卓越した特性のため、上記した碍子、ブッシング、および、変成器以外の各種機器の固体絶縁物としても広く使用されており、多くの実績を積みつつ今日に至っている。
【0003】
しかしながら、エポキシ樹脂を材料とする固体絶縁物が実際に屋内外の過酷な環境に晒された場合、電界、熱、紫外線、降雨などの外的ストレスを受けて時間経過に伴って特性劣化が避けられなかった。このような特性劣化の要因として特に問題とされるのは、塵埃、煤煙、水分、または、化学物質等の付着、さらにはこのような付着が経年繰り返し行われて積層した付着物の堆積である。
【0004】
これらの付着・堆積からなる汚損物質により固体絶縁物の表面の撥水性が一時的に弱まるか、または、失われるために高圧部とアース部とを結ぶ水膜が形成されて、固体絶縁物表面に電位差が生じたり、漏れ電流が流れたり、放電が生じたりする。
【0005】
このように絶縁破壊のため、高電界沿面方向での表面漏れ電流に伴って局所的なシンチレーション放電(微小発光放電)が繰り返し発生して、絶縁物表面が浸食されるエロージョンが生じたり、あるいは、絶縁物表面に溝状の炭化導電路(トラッキング)が発生する。
【0006】
これらエロージョン・トラッキングのうち、トラッキング現象を防止するため、近年においては耐トラッキング性エポキシ樹脂が開発され、徐々に適用されつつある。この耐トラッキング性エポキシ樹脂は、高分子材料の耐トラッキング性が基本的にはその分子構造によって左右される点に着目するものである。一般に材料は、その材料に含まれる炭素原子と他の炭素原子との比率により、放電時に遊離炭素として表面に堆積される材料と、二酸化炭素などの揮発性炭素化合物となって取り除かれる材料があり、後者がいわゆる耐トラッキング性が高い材料である。
【0007】
しかしながら、耐トラッキング性エポキシ樹脂を用いてトラッキングの発生を抑制しても、シンチレーション放電の繰り返し発生によって、材料表面に次第にエロージョンが発生し、この部分での保水性の増大(撥水性の悪化)に伴う漏れ電流の増大や汚染物質の集中的付着と相俟って結果的に電気絶縁性能が低下していく。したがって、耐トラッキング性に加えて耐エロージョン性も向上させる必要もある。
【0008】
そこで、耐トラッキング性エポキシ樹脂に無機充填剤を加え、無機充填剤と組成物中の有機成分との界面を化学的に結合し補強する表面改質処理を行っている。実際の工業生産では、例えば無機充填剤としてシリカフィラーを用い、このシリカフィラーに対し、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等エポキシシラン系カップリング剤による表面改質処理を行っている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述のエポキシシラン系カップリング剤による表面改質処理を施したシリカフィラーを充填した耐トラッキング性エポキシ樹脂と、無処理のシリカフィラーを充填した耐トラッキング性エポキシ樹脂とを比較した場合、上記の表面改質処理を施したシリカフィラーを充填した耐トラッキング性エポキシ樹脂は初期粘度が上昇する。
【0010】
初期粘度が大きいエポキシ樹脂は粘性挙動が悪く、例えば、転写性(金型表面の型形状に対する追従性)が悪化して、注型硬化時のヒケによる外観不良を誘発する虞があった。この外観不良が一部に発生してもその物品は不良品となり、材料費・工賃共に無駄に帰する慮を内包していた。
これに加え、初期粘度が大きいため、電気機器ではコイル素線間への樹脂含浸不足などが発生するという問題点もあった。
このように初期粘度の増大は樹脂注型作業性を悪化させるという問題点があった。
【0011】
また、樹脂温度を高くして初期粘度を小さくする手法も考えられるが、硬化反応が遅くなり、ポットライフ(初期粘度が2倍に変化するまでの時間)が長くなって硬化までに時間を要するものとなり、工程の長時間化に伴ってコスト増大要因となっていた。
このようにポットライフが無用に長時間化することを回避しつつ初期粘度を小さくすることが従来では困難であり、現状では表面改質処理を施したシリカフィラー混入量を所定量以下に抑制して初期粘度の不要な上昇を抑制せざるを得なかった。
その結果、主剤、硬化剤、硬化促進剤、充填剤(シリカフィラー)、等樹脂組成割合が変化し、即ち原材料費が安価であるシリカフィラーの使用割合減少から、反射的に高価な樹脂材料の使用割合が上昇し、相対的コスト上昇を招いていた。
【0012】
上記のような問題点に鑑み、本発明は、耐トラッキング性能を維持しつつ耐エロージョン性の大幅な向上を実現し、かつ樹脂注型作業性効率も損なわない低粘度の成形用樹脂組成物、および、この成形用樹脂組成物を固体絶縁物として用いる電気・電子器具を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、マトリックス樹脂と溶融シリカ粉末フィラーの界面性に着目してフィラー表面改質処理、処理粉末の疎水化傾向、混合樹脂の流動性、その他、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、硬化促進剤、及び必要に応じて顔料、染料、カップリング剤、等の配合比及び均質混合する方法、硬化温度と時間との硬化条件等、鋭意研究の過程で、所期の目的が達成されることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、請求項1記載の発明に係る成形用樹脂組成物は、
主剤として100重量部のグリシジルエステル型エポキシ樹脂と、
酸無水物硬化剤として80重量部のヘキサヒドロ無水フタル酸と、
有機金属化合物硬化促進剤として4重量部の有機金属錯体と、
無機充填剤として平均粒度15μm、比表面積2 . 5m 2 /gのシリカ粉末に対し、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート又はテトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートであるチタネート系カップリング剤により表面改質処理を施した330重量部の不定形溶融石英と、
を含有することを特徴とするものである。
【0015】
組成配合比は、上記のようにエポキシ樹脂を主剤として100重量部、ヘキサヒドロ無水フタル酸を硬化剤として80重量部、有機金属錯体を硬化促進剤として4重量部、チタネート系カップリング剤による表面改質処理を施した不定形溶融石英を充填剤として330重量部含有することが望ましい。
【0016】
また、上記のように主剤となる樹脂(マトリックス樹脂)は、耐トラッキング性が優れたグリシジルエステル型エポキシ樹脂が推奨される。
また、上記のように充填剤は、不定形溶融石英(平均粒度15μm、比表面積2.5m2/g)とすることが好ましい。平均粒度15μm程度ならば充填剤がマトリックス樹脂内に均一に分散させることができると共に汎用性があるためである。
さらにまた、充填剤に予め表面改質処理を施せば、マトリックス樹脂中に生じるゲル化後の硬化収縮に基づく不定形溶融石英との接着界面でのなじみ性の向上、接着界面での欠陥発生の低減、等により樹脂の粘度を抑制して安定した硬化反応を得る。
【0017】
また、上記のように、表面改質処理としては、混合調製した樹脂の粘度を上昇させない点から、上記のようなイソプロピルトリイソステアロイルチタネート又はテトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤による表面改質処理が好ましい。
【0018】
また、請求項2記載の発明に係る成形用樹脂組成物は、
請求項1記載の成形用樹脂組成物において、
前記不定形溶融石英に対し、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート又はテトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートを溶媒で希釈した溶液をスプレーしながらヘンシェル型ミキサーで撹拌反応させた後に乾燥させて、カップリング処理により表面改質処理を施して無機充填剤とすることを特徴とするものである。
【0019】
また、請求項3記載の発明に係る電気・電子器具は、
請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を用いて樹脂成形された固体絶縁部を備えることを特徴とするものである。
【0020】
また、請求項4記載の発明に係る電気・電子器具は、
請求項3記載の電気・電子器具において、
端子、導体、コイルもしくは電圧非直線抵抗体素子の何れかまたはこれらの組み合わせであるインサートを金型内に配置し、
請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を充填して固体絶縁物を形成してなることを特徴とするものである。
【0021】
また、請求項5記載の発明に係る電気・電子器具は、
請求項4記載の電気・電子器具において、
端子、コイルおよび鉄心からなるインサートを金型内に配置し、
請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を充填して固体絶縁物を形成してなる変成器であることを特徴とするものである。
【0022】
また、請求項6記載の発明に係る電気・電子器具は、
請求項4記載の電気・電子器具において、
端子および電圧非直線抵抗体素子からなるインサートを金型内に配置し、
請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を充填して固体絶縁物を形成してなる避雷器であることを特徴とするものである。
【0023】
このように請求項1または請求項2に係る発明の成形用樹脂組成物を、耐トラッキング性および耐エロージョン性が共に要求される電気・電子器具(請求項3,4)、特に変成器(請求項5)および避雷器(請求項6)等の電気・電子器具に用いて、トラッキング現象・エロージョン現象の発生を抑制する。成形用樹脂組成物は注形性を向上させて、形状の転写性等も良好であるため、複雑な形状の電気・電子器具の固体絶縁物の材料として採用することも可能である。
【0024】
【発明の実施の形態】
続いて本発明の実施形態について説明する。成形用樹脂組成物は、マトリックス樹脂としてグリシジルエステル型エポキシ樹脂(バンティコ社製CY184)を100重量部、硬化剤としてヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化社製シカジッドHH)を80重量部、硬化促進剤として有機金属錯体(バンティコ社製DY065J)を4重量部、充填剤(フィラー)として不定形溶融石英(龍森社製)330重量部を配合した。
【0025】
なお、充填剤(フィラー)は、上述の如く、平均粒度15μm、比表面積2.5m2/g、のシリカ粉末であって、シリカ粉末に対し、表面改質剤(チタネート系カップリング剤)であるイソプロピルトリイソステアロイルチタネート又はテトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートを少量の溶媒で希釈した溶液をスプレーしながらヘンシェル型ミキサーで撹拌反応させた後、乾燥してカップリング処理を施した。ここで、表面改質剤の量は、以下のように求めている。
【0026】
【数1】
【0027】
続いてこのような成型用樹脂組成物が好適である点について説明する。ここではフィラーの表面に対して各種の表面改質処理を施し、これらを比較して最も好ましい本発明の成形用樹脂組成物が知見された経緯について実験結果とともに説明するものである。
実験に際し、シンチレーション放電に対する耐エロージョン性向上の方策としてフィラー表面改質による以下の三種類の考え方を仮定した。
【0028】
▲1▼フィラー表面を疎水化することにより、マトリックス樹脂とフィラーの濡れ性を向上させ、相対的に結合力を向上させるとともに、樹脂とフィラーの界面への吸湿防止を図る。
▲2▼基本的に▲1▼の考え方に準ずるが、さらにマトリックス樹脂と改質層の分子鎖の絡み合いによる結合力の向上を図る。
▲3▼フィラー表面に反応性官能基を形成し、マトリックス樹脂とフィラーを共有結合させることにより、強力な結合力を確保する。
【0029】
以上の各々の考え方毎に選定した表面改質剤と試料ナンバーを表1にまとめた。
【0030】
【表1】
【0031】
上記の表1は、マトリックス樹脂としてグリシジルエステル型エポキシ樹脂(バンティコ社製CY184)を100重量部、硬化剤としてヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化社製シカジッドHH)を80重量部、硬化促進剤として有機金属錯体(バンティコ社製DY065J)を4重量部、充填剤(フィラー)として不定形溶融石英(龍森社製)330重量部を配合したものであるが、充填剤(フィラー)に対する表面改質処理を各種相違させた成形用樹脂組成物の表である。 なお、充填剤(フィラー)は、平均粒度15μm、比表面積2.5m2/g、のシリカ粉末に対し、上記の何れかの表面改質剤を少量の溶媒で希釈した溶液をスプレーしながらヘンシェル型ミキサーで撹拌反応させた後、乾燥してカップリング処理を施した点は共通である。
【0032】
表1で一般的には▲1▼はメチル系シラン表面改質剤、▲2▼はチタネート系表面改質剤に属し、▲3▼はエポキシ系シラン表面改質剤に属するものである。なお、▲2▼のB−1,B−3は最も好適な特性を示す本発明の成形用樹脂組成物である。
【0033】
このような各種の成形樹脂組成物を用いて以下の評価実験および評価を行った。
(1)表面改質シリカ粉末の疎水性評価実験および評価
(2)混合樹脂の流動性評価実験および評価
(3)耐エロージョン性評価実験および評価
(4)エロージョン部の形態観察
以下、これらについて順に説明する。
【0034】
(1)表面改質シリカ粉末の疎水性評価実験および評価
▲1▼実験内容
50mlビーカーにあらかじめ入れておいた水とn−ヘキサンとの二層液(水15mlおよびn−ヘキサン15ml:計30ml)に、無処理および各表面改質処理シリカ粉末0.2gを投入し、超音波振動を5秒間与えた後に、粉末の分散状態を観察した。
【0035】
▲2▼評価
以下に示す表2に各種表面処理シリカの疎水性評価結果を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
基本的に水への分散性が低く、n−ヘキサンへの分散性が高いほど疎水性が高い傾向にある。無処理粉末は水のみに分散し、表面の水酸基の影響と思われる親水性を示すのに対し、疎水化を狙ったメチル系シラン表面改質剤を用いたA系およびチタネート系表面改質剤を用いたB系試料は、水には分散せず、n−ヘキサンにのみ分散した。この結果、これらの試料は十分に疎水化されていることが確認された。
【0038】
一方、共有結合化を狙ったエポキシ系シラン表面改質剤を用いたC系試料では、水とn−ヘキサンの両方に分散する傾向を示すことより、無処理と比較すれば疎水化されているが、グリシドキシ基などの官能基の影響で、疎水化の程度はA系およびB系ほど極端なものではないことが確認された。
【0039】
(2)混合樹脂の流動性評価実験および評価
▲1▼実験内容
無処理および各種表面改質処理シリカ粉末1650gを500gのマトリックス樹脂中に投入し、電動攪拌機による撹拌を10分間行った。この間にシリカ粉末がマトリックス樹脂中によく分散され、流動性のある混合樹脂の形態を示すかを観察するとともに、良好な場合はB型粘度計を用いて混合樹脂粘度を測定した。
【0040】
▲2▼評価
次の表3に各種表面改質シリカ混合樹脂の流動性に関する評価結果を示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示されるように、フィラーの樹脂への分散性には差が見られるものの、試料間で混合樹脂の流動性に大きな差が生じ、A−1、B−1〜B−3は無処理と比較して低粘度化したが、C−1、2は高粘度化の傾向を示した。A−1およびB−1〜B−3における低粘度化の理由として、シリカ粉末とマトリックス樹脂との濡れ性向上が考えられる。
一方、高粘度化の理由として、C−1およびC−2では、表面改質層の反応性官能基(C−1の場合グリシドキシ基、C−2の場合エポキシシクロヘキシル基)とマトリックス樹脂との反応の進行によるものと考えられる。
【0043】
(3)耐エロージョン性評価実験および評価
▲1▼実験
図1にテストピースおよび電極取り付け形態の説明図を示す。図1で示すように、各種表面改質処理シリカをフィラーに用いたテストピース(厚さ6mm、幅70mm、長さ120mmの平板)を成形し、IEC60587に準拠した傾斜平板法耐トラッキング性試験を行い、絶縁破壊までの時間および絶縁破壊後のエロージョン深さを測定した。実際には、45°に傾斜させた平板の下側に電極を向き合わせて設置し、常時電圧を印加した状態で上部の電極の先端から汚損液を少量ずつ流した。試験条件の詳細が表4で示されるようになる。
【0044】
【表4】
【0045】
▲2▼評価
実際上成形が困難なC−2を除く5種類の成形体の、IEC60587傾斜平板法耐トラッキング性試験におけるフラッシオーバまでの時間、このとき最大エロージョン深さおよび単位時間当たりのエロージョン深さ(エロージョン速度)のデータをプロットしたグラフをそれぞれ図2〜図4に示す。
【0046】
これにより、メチル系シラン処理フィラーを用いた場合は、無処理と比較して逆に耐エロージョン性は低下しており、マトリックス樹脂とフィラーとの濡れ性向上による効果は、ほとんど発揮されないことが確認された。
一方、疎水化とともに改質層と樹脂との分子の絡み合いが起こると考えられるチタネート系フィラーを用いた試料、およびマトリックス樹脂との共有結合化を図ったエポキシ系シラン処理フィラーを用いた試料では、無処理と比較してエロージョン速度が小さい(図4参照)ことより、耐エロージョン性の向上が確認された。チタネートについては疎水化と分子鎖の絡み合い、エポキシシランについては大幅な結合力の向上による効果が現れたものと考えられる。
【0047】
また、エロージョン速度、エロージョン深さおよびフラッシオーバまでの時間との関係について検討すると、以下のようになる。まず、今回の試料は基本的に炭化が起こらないため、放電電流は主に試料表面の汚損液を流れると思われる。エロージョンが発生していない初期段階では汚損液は平面的に分散しているが、エロージョンの発生とともに水路がエロージョン部に集中するようになる。図3にてエロージョン深さがいずれの試料でも平均1.5mm程度であるということは、フラッシオーバとして規定した放電電流(60mA)が流れる水路が、このエロージョン深さで形成されたと思われる。これより、フラッシオーバまでの時間は、同レベルの水路が形成されるまでの時間(エロージョン速度)に対応すると考えられる。
【0048】
(4)エロージョン部の形態観察
上記試験後のテストピースについて、エロージョン部を中心にSEM(JEOL JSM820)を用いて形態観察を行った。
IEC60587耐トラッキング性試験後のテストピース外観およびエロージョン部断面観察図を図5に示す。また、エロージョン部のSEMによる形態観察像を図6に示す。
これより、エロージョンは上下電極間に発生するが、その幅および深さは部分的に変化している。またエロージョン部では炭化蓄積物は認められない。一方、エロージョン部微細構造の形態観察より、いずれの試料ともにマトリックス樹脂が消失し、フィラーリッチの状態であることが確認された。
【0049】
以上説明した上記(1)〜(4)の実験結果により得られる結論について説明する。
耐トラッキング性の優れた電気絶縁用エポキシ樹脂(グリシジルエステル型エポキシ樹脂)について、シンチレーション放電における耐エロージョン性の向上を目的として、疎水化(メチル系シラン処理)、疎水化+分子鎖の絡み合い(チタネート系処理)、および共有結合化(エポキシ系シラン処理)の三種類の考え方に基づいて、フィラー表面改質を行った。これらについてフィラー疎水化度、混合時の粘性、成形体の機械特性、および放電時の耐エロージョン性について調査した結果、以下の結論を得た。
【0050】
(1)無処理シリカフィラーが親水性であるのに対し、メチル系シラン処理およびチタネート系処理フィラーは完全な疎水性を示し、エポキシ系シラン処理フィラーも僅かに疎水性を示す。
【0051】
(2)メチル系シラン処理およびチタネート系処理フィラーは、樹脂の濡れ性向上により混合樹脂粘度が低下したが、エポキシ系シラン処理フィラーは樹脂との反応の影響で高粘度化の傾向を示す。
【0052】
(3)放電に対する成形体の耐エロージョン性は、チタネート系処理およびエポキシ系シラン処理フィラーを用いた場合、無処理と比較して向上する。チタネート系では疎水化と分子鎖の絡み合いの効果が、エポキシ系シランでは樹脂とフィラー間での共有結合の形成による効果が現れた。またフラッシオーバまでの時間は、エロージョン速度に対応する。
【0053】
(4)フラッシオーバ後のエロージョン部は、いずれの試料ともに表面はフィラーリッチとなっており、耐エロージョン性に関しては、フィラー表面の性質が大きく影響しているものと考えられる。
【0054】
(5)フィラーに対しチタネート系改質処理を行った場合は、耐エロージョン性の向上とともに混合樹脂粘度の低下による成形加工性の向上が、一方、エポキシ系シラン表面改質処理を行った場合は、耐エロージョン性の向上が、それぞれメリットとして見出され、用途によってこれらを使い分ける知見を得た。
【0055】
こうして、本発明によるチタネート処理を施した混合樹脂は、樹脂混合時の所期粘度上昇を抑制すると共に、耐エロージョン性の大幅な向上を図れることが判る。
次に、これらのエポキシ樹脂を電気・電子部品等の固体絶縁物として用いることにより、碍子、ブッシング、変成器、等各種用途に応じて使用できる。これらは、特別な注型設備や硬化条件等手当することなく、通常のエポキシ樹脂注型作業により製作できる。即ち、インサートを金型内に配置し、上述の請求項1,請求項2又は請求項3記載の発明による成形用樹脂組成物を充填し、1次硬化、2次硬化、等工程を経て製作するが、その詳細は省略する。そして、これらの碍子、ブッシング、変成器、等が、屋外或いは工場等塵埃の多い屋内等過酷な環境下に配設されても、耐エロージョン性を備え環境汚損劣化されにくく、保守・点検作業も省力化が図れる。
【0056】
【発明の効果】
本発明により、耐エロージョン性の大幅な向上と共に、混合樹脂の低粘度化をはかり樹脂注型作業性効率も損なわず、電気・電子部品等を構成する固体絶縁物として用いることができるエポキシ樹脂を得ることができる。
そして、この固体絶縁物を備えた電気・電子部品等は、過酷な環境下に配設されても、長期に亘り優れた絶縁性能を保持できる。
【0057】
総じて、本発明は、耐トラッキング性能を維持しつつ耐エロージョン性の大幅な向上を実現すると共に、充填剤の混合樹脂の低粘度化をはかり樹脂注型作業性効率も損なわず、電気・電子部品等を構成する固体絶縁物として用いることができる成形用樹脂組成物、および、この成形用樹脂組成物を固体絶縁物として用いる電気・電子器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】テストピースおよび電極取り付け形態の説明図を示す。
【図2】5種類の成形体の、IEC60587傾斜平板法耐トラッキング性試験におけるフラッシオーバまでの時間のデータをプロットしたグラフである。
【図3】5種類の成形体の、IEC60587傾斜平板法耐トラッキング性試験における最大エロージョン深さのデータをプロットしたグラフである。
【図4】5種類の成形体の、IEC60587傾斜平板法耐トラッキング性試験における単位時間当たりのエロージョン深さ(エロージョン速度)データをプロットしたグラフである。
【図5】IEC60587耐トラッキング性試験後のテストピース外観およびエロージョン部断面観察図である。
【図6】エロージョン部のSEMによる形態観察像である。
Claims (6)
- 主剤として100重量部のグリシジルエステル型エポキシ樹脂と、
酸無水物硬化剤として80重量部のヘキサヒドロ無水フタル酸と、
有機金属化合物硬化促進剤として4重量部の有機金属錯体と、
無機充填剤として平均粒度15μm、比表面積2 . 5m 2 /gのシリカ粉末に対し、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート又はテトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートであるチタネート系カップリング剤により表面改質処理を施した330重量部の不定形溶融石英と、
を含有することを特徴とする成形用樹脂組成物。 - 請求項1記載の成形用樹脂組成物において、
前記不定形溶融石英に対し、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート又はテトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートを溶媒で希釈した溶液をスプレーしながらヘンシェル型ミキサーで撹拌反応させた後に乾燥させて、カップリング処理により表面改質処理を施して無機充填剤とすることを特徴とする成形用樹脂組成物。 - 請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を用いて樹脂成形された固体絶縁部を備えることを特徴とする電気・電子器具。
- 請求項3記載の電気・電子器具において、
端子、導体、コイルもしくは電圧非直線抵抗体素子の何れかまたはこれらの組み合わせであるインサートを金型内に配置し、
請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を充填して固体絶縁物を形成してなることを特徴とする電気・電子器具。 - 請求項4記載の電気・電子器具において、
端子、コイルおよび鉄心からなるインサートを金型内に配置し、
請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を充填して固体絶縁物を形成してなる変成器であることを特徴とする電気・電子器具。 - 請求項4記載の電気・電子器具において、
端子および電圧非直線抵抗体素子からなるインサートを金型内に配置し、
請求項1または請求項2に記載の成形用樹脂組成物を充填して固体絶縁物を形成してなる避雷器であることを特徴とする電気・電子器具。
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