JP4034129B2 - 耐高温へたり特性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐高温へたり性及び耐食性に優れ、さらに高強度、高熱膨張特性を有するオーステナイト系ステンレス鋼材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼製のばね材には、SUS301、SUS304、SUS631等のハード圧延や、ハード圧延と時効処理の組み合わせによって強度を高めたオーステナイト系のばね材のほか、SUS420,SUS403等の焼き入れによって強度を高めたマルテンサイト系のばね材がある。
【0003】
一般的に、マルテンサイト系のばね材に比べ、オーステナイト系のばね材のほうが耐高温へたり性(耐高温へたり性については、後述する。)に優れている。そのため、耐高温へたり性が間題となる場合には、オーステナイト系の鋼材を用いたばね材が用いられる。しかし、SUS301等のオーステナイト系ステンレス鋼においても、耐高温へたり特性が不十分な場合がある。そのため、例えば、特開平10−330889号公報、特開平11−241145公報には、MoやW等を積極的に添加して耐高温へたり性を向上させる技術が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来技術では、MoやWはともに高価な元素であるため、これらを添加した合金は製造コストが高くなった。そのため、安価でありしかも耐高温へたり性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が要望されていた。一方、耐食性に関しても使用環境によっては錆びが発生する問題があり、より耐食性の高いオーステナイト系ステンレス鋼の要求があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、下記の成分組成を備えたことを特徴とする耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材である。
(a)C:0.17〜0.30mass%、Si:3.0mass%以下、Mn:3.0mass%以下、Ni:5.0〜12.0mass%、Cr:18.0〜30.0mass%、N:0.10超〜0.20mass%を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼材であって、
(b)前記ステンレス鋼材の金属組織中に析出した炭化物および炭窒化物の占める面積率が3%未満であり、
(c)下記式(1)で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%である。
Ni当量=24.2C+13.7N+0.35Si+0.5Mn+Ni+0.65Cr−−−(1)
【0006】
本発明の第2の態様は、前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにMoの場合には4.0mass%以下、Cuの場合には3.0mass%以下の範囲で、いずれか1種以上を含有し、かつ、下記式で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%であることを特徴とする請求項1に記載の耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材である。
Ni当量=24.2C+13.7N+0.35Si+0.5Mn+Ni+0.65Cr+0.98Mo+0.6Cu−−−(2)
【0007】
本発明の第3の態様は、前記ステンレス鋼材の金属組織のマルテンサイト量が、10%以下であることを特徴とする耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材である。
【0008】
本発明の第4の態様は、下記の工程を備えたことを特徴とする耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法である。
(a)C:0.10〜0.30mass%、Si:3.0mass%以下、Mn:3.0mass%以下、Ni:5.0〜12.0mass%、Cr:18.0〜30.0mass%、N:0.05〜0.30mass%を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記式で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%であるステンレス鋼材のスラブを用意し、圧延加工及び熱処理を施して板材を得、
(b)前記板材の温度範囲を1050〜1200℃として焼鈍し、ついで、圧下率を20〜85%として冷間圧延を行う。
【0009】
本願発明の第5の態様は、前記冷間圧延後、200〜700℃の温度範囲でさらに、熱処理を行うことを特徴とする耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法である。
【0010】
本発明の第6の態様は、前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにMoを4.0mass%以下、またはCuを3.0mass%以下の範囲でいずれか1種以上を含有し、下記式で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%であることを特徴とする耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について以下に説明する。本発明者らは、まず、オーステナイト系ステンレス鋼の合金組成と強度、高温へたり、耐食等との関係を検討した。強度及び高温へたりに関しては、高価な成分であるMo、Wを用いないこととし、Ni当量を用いて成分元素をバランスよく添加することとした。また、C、N成分等の固溶強化元素を添加して検討を行った。
【0012】
オーステナイト系ステンレス鋼材の強度を高くしたい場合、一般的には、Ni当量を低くし、冷間圧延で多量のマルテンサイト(加工誘起マルテンサイト)を生成させる。実際、SUS301、SUS304、SUS631などは準安定オーステナイトと呼ばれ、冷間圧延によって多量のマルテンサイトを生成させて強度を確保している。しかし、マルテンサイトの生成量が多くなると耐高温へたり性が劣化するため、過酷な用途には用いることができない。
【0013】
Ni当量を高くすると、マルテンサイトの生成量は少くなるか、又は生成しなくなる。ところが、高強度が得られないため、高強度ばね材には用いられなかった。そこで、耐高温へたり性を確保するために、Ni当量は高めの値とし、マルテンサイトの生成量は適量にとどめることとした。強度の低下は、固溶強化元素である、C及びNの含有量を増加させることで補うこととした。
【0014】
例えば、特開昭63−100159号公報には、C含有量を0.10〜0.25mass%として高強度、高疲労強度を有するオーステナイト系ステンレス鋼が提案されている。しかし、Ni当量が22.05〜23.28(実施例から計算して求めた値である)と低いため、耐高温へたり性が要求される分野には用いにくいものであった。
【0015】
耐食性に関しては、Cr、Mo、Nの添加が有効であることは知られている。本発明では、高価なMoは避け、強度を上げるために、Nの他にCrを添加することとした。Crを添加することにより、耐食性が高まるだけでなく、製造性にも有効となる。
【0016】
つまり、強度を上げるために添加するC、Nは強力なオーステナイト形成元素であるため、凝固の際にγ凝固しやすい。γ凝固した場合、凝固割れ防止やその後の熱間圧延工程における耳割れの原因になり、歩留まりが低下したり、そのために余計な工程が必要となるなどコストアップの要因になる。
【0017】
オーステナイト系ステンレス鋼では、凝固時の割れを防止したり、熱間圧延時の耳割れを防止するために、5%程度のδフェライトを形成させることが有効である。そのためには、δフェライト形成を助長するフェライト形成元素を添加する必要がある。例えば、Crは強力なフェライト形成元素であるため、δフェライトの形成を助長し、割れ防止に有効に作用することになる。
【0018】
本発明において、高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼は以下で説明するような成分組成を備えている。本発明の成分組成を規定した理由については以下に説明する。
【0019】
Cは、強力な固溶強化元素であり、高強度化のためには多いほど好ましく、0.10mass%以上含有することが必要である。しかし、0.30mass%を超えて含有すると、粗大な未固溶炭化物が生成して耐食性が劣化するほか、冷間圧延時に破断する危険性が高まる。そのため、0.10〜0.30mass%の範囲とする。好ましくは0.15〜0.25mass%の範囲とし、より好ましくは0.17〜0.22mass%の範囲とする。
【0020】
Siは、脱酸に必要な元素であるとともに高強度化に有効な元素である。しかし、3.0mass%を超えて含有すると著しく脆化し、冷間圧延破断の危険が高まるために3.0mass%以下とすることが望ましい。
【0021】
Mnは、Si同様脱酸に必要な元素である。しかし、3.0mass%を超えて含有すると焼鈍酸洗時に異常酸化の原因を招き、表面品質を劣化させるほか歩留まり低下につながるため3.0mass%以下とすることが望ましい。
【0022】
Niは、時期割れ防止に有効であり、製造性の観点から5.0mass%以上含有することが必要である。しかし、高価な元素であるため、上限を12.0mass%とし、5.0〜12.0mass%の範囲とすることが望ましい。好ましくは、5.0〜10.0mass%の範囲であり、より好ましくは、5.0〜8.0mass%の範囲とする。
【0023】
Crは、耐食性向上、及び凝固割れや熱間圧延での耳割れ防止にも有効なことから、18.0mass%以上含有することが必要である。しかし、30.0mass%を超えて含有するとσ相が析出し、逆に耐食性を害するほか製造性を劣化させる、例えば冷間圧延時に破断したりするので上限を30.0mass%とし、18.0〜30.0mass%の範囲とすることが望ましい。好ましくは、20.0超〜25.0mass%の範囲とする。
【0024】
Moは、耐食性や耐高温へたり性向上に有効な元素であるが、非常に高価な元素であるため、4.0mass%以下の範囲とすることが望ましい。
【0025】
Cuは、スクラップ中に含有される元素であり、かつ精錬での除去が困難な元素である。3.0mass%を超えて含有すると熱間加工性が劣化し、熱間圧延においては耳割れの原因となって歩留まりを低下させ、製造コストの上昇を招くため、3.0mass%以下の範囲とすることが望ましい。
【0026】
Nは、Cと同様に固溶強化元素であり、高強度化に欠かせないばかりでなく、耐高温へたり性及び耐食性向上にも有効である。0.05mass%以上は必要であるが、0.30mass%を超えて含有すると未固溶窒化物を形成し、逆に耐食性を劣化させるばかりでなく、冷間圧延時に破断の危険性が高まる。そのため、上限は0.30mass%とし、0.05〜0.30mass%の範囲とすることが望ましい。好ましくは、0.10超〜0.20mass%の範囲であり、より好ましくは、0.10超〜0.15mass%の範囲とする。
【0027】
Ni当量=24.2C+13.7N+0.35Si+0.5Mn+Ni+0.65Cr−−−(1)
Ni当量=24.2C+13.7N+0.35Si+0.5Mn+Ni+0.65Cr+0.98Mo+0.6Cu−−−(2)
Ni当量は上記(1)又は(2)に示される式で計算される指数であり、冷間加工に対するオーステナイトの安定度を示す指標である。
【0028】
SUS301に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は、冷間圧延などの加工を行った場合、加工誘起マルテンサイトが生成するが、その生成量はNi当量が高いほど少なくなる。このマルテンサイトの生成を抑えることができれば耐高温へたり性は向上する。そのためには、Ni当量が24.0mass%以上であることが必要である。
【0029】
しかしながら、Ni当量が30.0mass%以上となるとマルテンサイトが全く生成せず、高強度化が困難となる他、耐高温へたりに対する効果が飽和する。そのため、上限を30.0mass%とし、24.0〜30.0mass%の範囲とすることが望ましい。好ましくは、26.0〜28.0mass%の範囲とする。
【0030】
本実施の形態では、上記化学成分及びNi当量を有する合金を溶製し、鋳造する。次に、鋳造したスラブを熱間圧延し、焼鈍を行って、次に冷間圧延を行う。冷間圧延の後に、板材の温度が1050〜1200℃になるようにして、例えば短時間、連続焼鈍炉を用いて焼鈍する。つづいて、圧下率を20〜85%として、更に冷間圧延を行ってオーステナイト系ステンレス鋼材を得る。
【0031】
上記方法により得られたステンレス鋼材の組織はオーステナイトを主とし、冷間圧延により形成された加工誘起マルテンサイト、および炭化物および炭窒化物からなる。本発明では、ステンレス鋼材の金属組織中に析出した炭化物および炭窒化物の占める面積率が3%未満である。また、本発明では、ステンレス鋼材の金属組織のマルテンサイト量が10%以下である。
【0032】
本発明で炭化物および炭窒化物の占める面積率を3%未満に限定する理由は、炭化物をほぼ完全に固溶させオーステナイト組織を安定化させるためである。炭化物および炭窒化物を3%以上含有すると、オーステナイト組織の組成が変化し、冷間圧延した際に多量のマルテンサイトが形成され、耐高温へたり性が劣化する。そのため3%未満とすることが望ましい。好ましくは2%未満とし、より好ましくは1%以下とする。
【0033】
そのために、本発明では製造条件を下記にように規定する。本発明では多量のC、Nを含有させている。そのため、炭化物及び炭窒化物を固溶させるには、1050℃以上の高い温度で焼鈍する必要がある。しかし、1200℃以上で焼鈍を行うと異常酸化して表面品質を劣化させるため1050〜1200℃の温度範囲が望ましい。好ましくは、1100〜1150℃の温度範囲とする。
【0034】
また、本発明では、最終冷間圧延により強度を確保するため、圧下率は20%以上が必要である。しかし、圧下率が85%を超えると多量のマルテンサイトを生成させて耐高温へたり性を劣化させるほか、時期割れ感受性を高めて圧延破断の危険が高くなる。そのため、上限を85%とし、好ましくは40〜70%の範囲とする。なお、冷間圧延後、ばね性向上および形状を修正するため200〜700℃の範囲でテンションアニールやストレスリリースなどの時効熱処理を行ってもかまわない。
【0035】
【実施例】
本発明の実施例について、まず、図1としての表1、および図2としての表2を用いて説明する。まず、表1に示した成分組成の鋼塊10kgを溶製した。表1のNo.1〜9が本発明例である。No.10〜14は比較例であり、成分、Ni当量、又は炭化物面積率のいずれか、又はいくつかの項目が本発明に規定する範囲から外れたものである。またNo.15、16は従来鋼であり、No.15は、SUS304相当品であり、No.16は、SUS301相当品である。
【0036】
次に、造塊後の鋼塊は1250℃で30分間加熱し、引き続いて熱間鍛造を行って、断面形状について、厚みが10mm、幅が60mmの板材を作製した。次に、1120℃で30分間大気中に保持した後水冷した。
【0037】
次に、板材の表面研削を行って厚さが8mmの板材を得た。次に、冷間圧延を行って板厚を4mmとした。次に、1120℃で大気中に1分間保持する加熱処理を行った後、強制空冷した。次に、冷間圧延を行って板厚を2mmとした。次に、1120℃で大気中に30秒間保持する加熱処理を行った後、強制空冷した。
【0038】
次に、冷間圧延を行って板厚を0.8mmとした。この冷間圧延時の圧下率は60%である。板厚を0.8mmとした冷間圧延材は各種試験に供した。試験により硬さ、マルテンサイト量、高温へたり量、耐食性、熱膨張測定及び炭化物及び炭窒化物の析出の有無を確認した。その結果は、図2としての表2に示した。
【0039】
炭化物及び炭窒化物の面積率については以下の方法を用いて求めた。厚さ0.8mmまで冷間圧延した板材を、圧延方向に直角に切断して表面研磨し、次に塩酸とピクリン酸アルコールの混液を用いてエッチングした。得られた組織を電子顕微鏡により3000倍で写真撮影した。この写真を用い点算法で求める。
【0040】
具体的には、写真視野上に縦、横が5mm間隔の桝目を設け、例えば、縦に10個、計100個の桝目の格子点に触れる、又は格子点上にある炭化物の数を求める。この作業を10視野繰り返し、その平均値を面積率とする。
【0041】
すなわち、面積率は以下の式で示されるものである.
n÷(p×f)×100=炭化物面積率(%)である。n、p、fは以下に示すものである。
p:視野内の総格子点数
f:視野数
n:f個の視野における炭化物によって占められる格子点中心の数
【0042】
硬さは、JISZ2244で規定されるビッカース硬さ試験法により測定した。なお、測定位置は板表面であり、測定荷重は10kgとした。
【0043】
マルテンサイト量は、フィッシャー社製のフェライトスコープを用いて求めた。板厚が2mm以下の場合には測定値が板厚に依存する。そのため、板を3枚重ねて2.4mm厚とし、板厚の影響を無視できるようにして測定した。
【0044】
高温へたりの測定方法は以下のようである。第3図(a)に示すようなSUS310S製の治具1を用意し、厚さが0.8mm、幅が20mm、長さが100mmの平板試験片3に設けた孔にボルト5を通して治具にセットした。試験片の固定端から80mm離れた位置に高さが10mmのブロック7を設けている。試験片3をボルト5で固定することにより、強制的に曲げ応力が加えられる。次に、この状態を保持したまま、500℃に15分間保持後空冷する熱処理を行った。
【0045】
へたり量は、第3図(b)に示したように、ブロックをはずしで固定端から80mm離れた位置での高さからへたり量9を求めた。なお、熱処理を行わないものについても、試験片を治具に取りつけ、15分間保持後に取り外し、そのへたり量を測定したところ、大きなへたりは生じないことが確認できた。
【0046】
耐食性は、JISG0577で規定される孔食電位測定法により求めた。測定値が大きいほど耐食性が良好であることを意味する。
【0047】
熱膨張係数は、厚さ0.8mm、幅5mm、長さ20mmに切り出した試験片を用いて求めた。このとき、圧延方向に直角方向が5mm、圧延方向が20mmとなるように試験片を切り出し、そして、測定を安定させるために550℃に1分間保持して均熱処理し、その後空冷して室温まで冷却する時効処理を行った。測定装置は、マックサイエンス社製のMTC1000Sである。測定方向は圧延平行方向とし、基準温度は30℃、昇温速度は5℃/分として200℃まで昇温する試験を行い、30〜100℃の平均熱膨張係数を測定値とした。
【0048】
試験結果は、図2としての表2に示した。なお、比較例のNo.14では、冷間圧延時に破断したため目標(0.8mm)の板厚に調整することができなかった。
【0049】
マルテンサイト量とNi当量との関係を図4に示した。マルテンサイト量は、Ni当量が24%付近(マルテンサイト量で約10%)になるまで急激に減少し、その後なだらかに減少して、30%付近でマルテンサイトは生成しない。
【0050】
へたり量とNi当量との関係を図5に示した。へたり量は、Ni当量が24%付近になるまで急激に減少し、その後なだらかに減少した。つまり、Ni当量を24%以上とすることでへたり量を抑えることができる。
【0051】
硬さは、Ni当量及びC、N量の影響を受ける。図6には、硬さとNi当量の関係を示した。硬さはNi当量が高くなるに従い低下する。また、図6中の各データにばらつきがあるのは、各データについてのC、N含有量が異なるためである。例えば、本発明のNo.2と比較例No.13を比較すると、N量、Ni量はほぼ同じである。ところが、C量が0.18%(No.2)、0.06%(No.12)と異なることに対応して、硬さは446(No.2)、417(No.13)となり、Cを多く含有するNo.2の方が硬さの値が大きい。
【0052】
また、発明例No.2と比較例No.12と比較すると、C量、Ni当量はほぼ同じであるが、N量が0.12%(No.2)、0.04%(No.12)と異なり、硬さは446(No.2)、422(No.12)とNを多く含有するNo.2の方が硬さの値が大きい。つまり、高強度を得るにはNi当量を低くすること、C、N含有量を高くする必要があることがわかる。
【0053】
耐食性については、Crを積極的に添加したこともあり、いずれも従来鋼に比べ優れた特性を示した。また、本発明品は、従来鋼であるSUS301及びSUS304に比べ高い熱膨張特性を示した。すなわち、発明品は高強度、高耐食、高熱膨張を有し、かつ優れた耐高温へたり性を兼ね備えている。そのため、本発明品は、例えば、メタルガスケット、スチールベルト、各種板ばね、プレスプレート等の用途がある。
【0054】
【発明の効果】
以上から明らかなように、本発明によれば、耐高温へたり性に優れ、かつ高強度高耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼を提供できる。従って、それらの特性が求められる用途、例えば、メタルガスケットなどに適用できる。また、同時に高い熱膨張特性も具備することから、バイメタル等の高い熱膨張性が求められる用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1として示した表1であり、本発明品および比較品等の成分組成を示した一覧表である。
【図2】図2として示した表2であり、本発明品および比較品等の試験結果を示した一覧表である。
【図3】へたり試験方法を示した図である。
【図4】マルテンサイト量とNi当量との関係を示す図である。
【図5】へたり量とNi当量との関係を示す図である。
【図6】硬さとNi当量との関係を示す図である
【符号の説明】
1 へたり測定治具
3 試験片
5 ボルト
7 ブロック
9 へたり量(mm)
Claims (6)
- 下記の成分組成を備えたことを特徴とする耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材。
(a)C:0.17〜0.30mass%、Si:3.0mass%以下、Mn:3.0mass%以下、Ni:5.0〜12.0mass%、Cr:18.0〜30.0mass%、N:0.10超〜0.20mass%を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなるステンレス鋼材であって、
(b)前記ステンレス鋼材の金属組織中に析出した炭化物および炭窒化物の占める面積率が3%未満であり、
(c)下記式(1)で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%である。
Ni当量=24.2C+13.7N+0.35Si+0.5Mn+Ni+0.65Cr−−−(1) - 前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらに、Moの場合には4.0mass%以下、Cuの場合には3.0mass%以下の範囲で、いずれか1種以上を含有し、かつ、下記式で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%であることを特徴とする請求項1に記載の耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材。
Ni当量=24.2C+13.7N+0.35Si+0.5Mn+Ni+0.65Cr+0.98Mo+0.6Cu−−−(2) - 前記ステンレス鋼材の金属組織のマルテンサイト量が、10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材。
- 下記の工程を備えたことを特徴とする耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
(a)C:0.10〜0.30mass%、Si:3.0mass%以下、Mn:3.0mass%以下、Ni:5.0〜12.0mass%、Cr:18.0〜30.0mass%、N:0.05〜0.30mass%を含有し、かつ残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記式で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%であるステンレス鋼材のスラブを用意し、圧延加工及び熱処理を施して板材を得、
(b)前記板材の温度範囲を1050〜1200℃として焼鈍し、ついで、圧下率を20〜85%として冷間圧延を行なう。 - 前記冷間圧延後、200〜700℃の温度範囲でさらに、熱処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
- 前記ステンレス鋼材は、成分組成として、さらにMoの場合には4.0mass%以下、Cuの場合には3.0mass%以下の範囲で、いずれか1種以上を含有し、かつ、下記式で表わされるNi当量が24.0〜30.0mass%であることを特徴とする請求項4又は5に記載の耐高温へたり性及び耐食性に優れた高強度高熱膨張オーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
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